説明

三次元マトリゲル層上における胚性幹細胞から血管特異的器官形成

本発明は、成長因子低減マトリゲルTM上で培養した、胚性幹細胞(embryonic stem cells)または胚性幹細胞から形成された胚様体(embryoid bodies)の、虚血または動脈硬化に起因する疾患治療への使用方法である。

【発明の詳細な説明】
発明の技術分野
本発明は、胚性幹細胞(embryonic stem cells)または胚性幹細胞から形成された胚様体(embryoid bodies)の治療剤である。
【背景技術】
DE−A 19843234は、in vitro心疾患モデルとしての、胚性幹細胞あるいは癌細胞の分化により作られた胚様体から分化した心臓細胞を開示している。
本発明の開示
本発明は、成長因子低減マトリゲルTM上で培養した、胚性幹細胞(embryonic stem cells)または胚性幹細胞から形成された胚様体(embryoid bodies)の、虚血または動脈硬化に起因する疾患治療への使用方法である。
また、本発明は、上記胚性幹細胞または胚性幹細胞から形成された胚様体を患者に投与することからなる、血管新生による虚血性疾患または動脈硬化の治療方法である。 さらに、上記胚性幹細胞(embryonic stem cells)または胚性幹細胞から形成された胚様体(embryoid bodies)を含む虚血または動脈硬化に起因する疾患の治療剤である。 さらに、上記胚性幹細胞(embryonic stem cells)または胚性幹細胞から形成された胚様体(embryoid bodies)の虚血または動脈硬化に起因する疾患の治療剤を製造する用途である。
発明の詳細な説明
胚性幹(ES)細胞は自己再生する多能性前駆細胞であり、多彩な組織への幅広い開発可能性を有する。
これより最近、死亡率の高い疾患に対するその治療可能性に注目が集まっている。
今回我々は、ES細胞が細胞外マトリックス(ECM)層支持のもと、血管特異的分化をなすことを示した。
マウスのES細胞を胚様体(EBs)として2日間培養し、次いで10%FBS含有培地を有する成長因子を除いたマトリゲルの2層間に置いた。
血管新生惹起成長因子の刺激なしに、マトリゲル層中にて5日間培養した後、EBs周囲に血管の発生が認められ、PECAM−1あるいはDiI−アセチル化LDL等の汎内皮細胞マーカーにより確認された。
10日目に、発生した血管はより分化した、樹状に枝分かれした形態を示した。一方マトリゲル層のものとは対照的に、成長因子を除いたゼラチンあるいはフィブロネクチン層上で培養されたEBsは、EBs周囲に血管特異的分化を示さず、むしろ数種類細胞の混合集団を示した。
結論として、本モデル系は、ES細胞からの血管特異的分化をなし得るものである。
これらの知見は、初期の血管発達における特定の成長因子の役割を試験するだけではなく、虚血や動脈硬化などの心脈管系疾患における血管特異的組織再生に重要な関わりを持つ。
DE−19843234号公報は胚性幹細胞の医療用途については開示していない。
本発明は、ES細胞から誘導された胚様体が、成長因子を除いた細胞外マトリックス(ECM)成分であるマトリゲルの支持のもと、血管特異的分化をなし得ることを示した。 このシステムは、血管形成や血管新生にあたりVEGFやFGFなど特定の成長因子を必要としないのに対し、従来は、血管新生因子であるVEGFの刺激により、内皮特異的受容体FLKを発現した一部のES細胞の集団が脈管細胞になり得たことが報告されている。 本発明者らの知見は、初期の血管発達における特定の成長因子の役割を試験するだけでなく、虚血や動脈硬化などの心脈管系疾患における血管特異的組織再生に重要な関わりを持つ。
本発明においては、胚性幹細胞または胚性幹細胞から形成された胚様体が、成長因子低減マトリゲルTMの2層間で培養されることが好ましい。
また、マトリゲルTMが、ラミニン(laminin)、4型コラーゲン、エンタクチン(entactin)およびヘパラン硫酸プロテオグリカンより選ばれることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
図1のAは、1日目における胚様体を示した図である。
図1のBは、7日目における成長因子低減マトリゲル上の胚様体を示した図である。
図1のCは、胚様体が汎内皮細胞マーカーに対し陽性であったことを示した図である。
図1のDは、ゼラチン層上で培養された胚様体を示した図である。
図1のEは、フィブロネクチン層上で培養された胚様体を示した図である。
図2のAは、マトリゲル層上で培養された胚様体を示した図である。
図2のBは、マトリゲルの2層間で培養された胚様体を示した図である。
図2のCは、図2のBを高倍率拡大したものである。
【実施例】
本発明について実施例によりさらに詳しく説明するが、これらには限定されない。
試験素材および方法
細胞培養
未分化のマウス胚性幹(ES)細胞を、10%FCS、1%非必須アミノ酸、1%2−メルカプトエタノールおよび0.1%白血病阻害因子(LIF)を添加したDMEM培地中に保持した。
ES細胞をハンギング・ドロップ法(800細胞/滴)にて2日間培養し、それぞれの滴ごとに胚様体(EBs)に成長させた。
次いでそれぞれの胚様体を、LIFを除いた分化用培地中でさらに3日間培養し、成長因子低減マトリゲル(Becton Dickinson Labware社)、1%ゼラチンあるいはフィブロネクチン(Sigma社)等のそれぞれの層で被膜された培養皿上に植え付けた。
三次元培養のため、胚様体はマトリゲルの二層間に置かれた。
胚様体から発生した血管を、7日間毎日、顕微鏡で観察した。
全ての胚様体培養実験期間を通じ、VEGFやFGFなどの血管新生因子は加えなかった。
マトリゲルTM
マトリゲルTMは可溶性の基底膜ゲルであり、室温で純粋な再構成基底膜を形成することができる。
成長因子低減マトリゲル・マトリックスの主要成分は、ラミニン(laminin)、4型コラーゲン、エンタクチン(entactin)およびヘパラン硫酸プロテオグリカンである。
標準的なマトリゲルとは異なり、このマトリゲル・マトリックスは、TGF−βやIGFなどの成長因子をごくわずかな量を含む。
免疫組織化学
マトリゲル層上で培養された胚様体は、4℃、2%パラホルムアルデヒドにより固定され、以下の抗体により染色された。
一次抗体は、ラットの抗マウス血小板内皮細胞接着分子−1(PECAM−1)(clone MEC13.3,Pharmingen社)である。
二次抗体は、Alexsa 488が結合したヤギの抗ラットIgG(Molecular Probe社)である。
結果
図1および図2は本発明の実施例の結果を示す。図1は3ヶの異なる試験(N=8)のデータであり、マトリゲル上のEBsは血管形成を示していることを示す。図2は3ヶの異なる試験(N=8)のデータであり、EBsからの血管形成により強調されたマトリゲル3層を示す。
マトリゲル上でES細胞から誘導された胚様体は、血管形成を示した。
ES細胞から誘導された胚様体は、内胚葉性、外胚葉性そして中胚葉性由来の3つすべての、一次胚葉細胞派生物に分化し得る。
従って胚様体は分化細胞の混合集団である。
興味深いことに、成長因子低減マトリゲル上で培養した胚様体は、7日目に、胚様体辺縁に樹状形成した血管を示した(図1B)が、胚様体にこのような構造は1日目には観察されなかった(図1A)。
5日目の胚様体への免疫蛍光染色は、これらの血管様構造が汎内皮細胞マーカーPECAM−1に対し陽性であった(図1C)。
ゼラチンあるいはフィブロネクチン層上の胚様体は、全く血管形成を示さなかった。
マトリゲル層と対照的に、ゼラチン層(図1D)あるいはフィブロネクチン層(図1E)上で培養した胚様体は、7日目に、血管形成を示さなかった。
これら層上の胚様体三次元構造は形態変化を始め、培養皿上で細胞タイプ混合集団が成長した。
いくつかの細胞コロニーは、脈動する心筋細胞であることが確認された。
マトリゲルの三次元層は、胚様体からの血管形成を促進した。
本発明者らは、マトリゲルの三次元層が、胚様体からの血管形成に影響を与えるのかどうかについて検討した。
1層マトリゲル上の胚様体(図2A)とは異なり、マトリゲル2層間の胚様体は、枝分かれし、十分な内皮が発生している、より明瞭な血管構造を示した(図2BおよびC)。
図2Cは、図2Bを高倍率拡大したものである。
結論
これらの知見は、ES細胞から誘導された胚様体が、成長因子を除いた細胞外マトリックス(ECM)成分であるマトリゲルの支持のもと、血管特異的分化をなし得ることを示した。
このシステムは、血管形成や血管新生にあたりVEGFやFGFなど特定の成長因子を必要としないのに対し、従来は、血管新生因子であるVEGFの刺激により、内皮特異的受容体FLKを発現した一部のES細胞の集団が脈管細胞になり得たことが報告されている。
本発明者らの知見は、初期の血管発達における特定の成長因子の役割を試験するだけでなく、虚血や動脈硬化などの心脈管系疾患における血管特異的組織再生に重要な関わりを持つ。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
成長因子低減マトリゲルTM上で培養した、胚性幹細胞(embryonic stem cells)または胚性幹細胞から形成された胚様体(embryoid bodies)の、虚血または動脈硬化に起因する疾患治療への使用方法。
【請求項2】
胚性幹細胞または胚性幹細胞から形成された胚様体が、成長因子低減マトリゲルTMの2層間で培養された、請求項1記載の使用方法。
【請求項3】
マトリゲルTMが、ラミニン(laminin)、4型コラーゲン、エンタクチン(entactin)およびヘパラン硫酸プロテオグリカンから選ばれる請求項1または2記載の使用方法。
【請求項4】
成長因子低減マトリゲルTM上で培養した、胚性幹細胞または胚性幹細胞から形成された胚様体を患者に投与することからなる、血管新生による虚血性疾患または動脈硬化の治療方法。
【請求項5】
胚性幹細胞または胚性幹細胞から形成された胚様体が、成長因子低減マトリゲルTMの2層間で培養されたものである、請求項4記載の治療方法。
【請求項6】
マトリゲルTMが、ラミニン、4型コラーゲン、エンタクチンおよびヘパラン硫酸プロテオグリカンから選ばれる請求項4または5記載の治療方法。
【請求項7】
成長因子低減マトリゲルTM上で培養した、胚性幹細胞(embryonic stem cells)または胚性幹細胞から形成された胚様体(embryoid bodies)を含む虚血または動脈硬化に起因する疾患の治療剤。
【請求項8】
成長因子低減マトリゲルTM上で培養した、胚性幹細胞(embryonic stem cells)または胚性幹細胞から形成された胚様体(embryoid bodies)の虚血または動脈硬化に起因する疾患の治療剤を製造する用途。

【国際公開番号】WO2004/084967
【国際公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【発行日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504071(P2005−504071)
【国際出願番号】PCT/JP2004/003996
【国際出願日】平成16年3月24日(2004.3.24)
【出願人】(302070350)
【出願人】(500409323)アンジェスMG株式会社 (34)
【Fターム(参考)】