説明

三次元網目構造多孔体からなるスラリー分離材及びその製造方法

【課題】スラリーに含まれる粒子の分離精度が高く、さらに目詰まり起きにくい寿命の長いスラリー分離材を提供する。
【解決手段】均質な空隙を有する三次元網目構造多孔体であり、さらに骨格内に空隙より小さな孔径のメソポアを備え、大きな空隙サイズから順に積層した材料に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ、光学部品、メモリーディスク等の表面研磨に使用されている化学的機械研磨法(CMP法)等の研磨スラリーを分離・精製するための材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスでは、より一層の高集積化や微細化が要求されており、これに伴い、ウエハ表面における部分的な平坦化、中間絶縁膜を平坦化する技術が必要になっている。その平坦化技術として、科学的機械研磨法(CMP法)が主に用いられている。CMP法とは、回転研磨盤上に張られた研磨パッドに、研磨ヘッドに保持された被研磨材料を押し当てて、さらに研磨パッドの研磨面に研磨スラリーを研磨パッドと被研磨材料との間に巻き込ませることにより、被研磨材料を化学的かつ機械的に研磨する方法である。ウエハ表面の平坦度の制度を上げるには、いかに精度の高い粒径の研磨スラリーを使用して研磨するかが求められる。研磨粒子としてはヒューズドシリカやコロイダルシリカをアンモニア水溶液などに分散してスラリーを調製している。これらの研磨スラリー中に含まれる粒子のサイズは様々であるため目的の粒子径を含む研磨スラリーを得る必要があり、分離・精製する研磨スラリー分離材には、一般的にPTFEメンブレン製フィルターやポリプロピレン製等の孔サイズの異なる複数の不織布を穴の空いた棒状の筒に多層に巻き付けたデプスフィルターが工業的に利用されている。また、使用済みの研磨スラリーを再利用する装置でも同様なフィルターを用いることや重力あるいは遠心力によって連続的に排出する方法がある。
【0003】
特許文献1には、研磨に使用した後の研磨剤から、新液と同等の研磨性能を有する研磨粒子を含む研磨剤を容易に再生できる研磨剤の再生装置とその方法が開示されているが、フィルターには従来技術のフィルターを用いているためフィルター自体の性能改善には至っていない。
特許文献2には、化学的機械的平坦化法に使用させる水及びスラリー研磨剤の回収方法や装置が開示されているが、スラリーをフィルター濾過して比較的大きな粒子を除去するステップのみしか開示されていないため、厳密な粒径の精製には効果を発揮しない。
特許文献3には、濾過の段階においてスラリーを混合・撹拌することで、チャネリングや閉塞の発生を減らすことができる濾過装置を開示しているが、従来のフィルターを用いているため抜本的な解決とはならず、大掛かりな装置となるため、経済的・汎用的な問題が生じる。
【特許文献1】特開2000−308967号公報(特許第3708748号公報)
【特許文献2】特表2002−502313号公報
【特許文献3】特開2007−229708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
研磨スラリー中に含まれる研磨粒子のコロイダルシリカの粒子径は20〜30nmであるが、これらの粒子が凝集することにより凝集粒子が形成されることがあり取り除く必要がある。また、ヒューズドシリカは、製造で得られた粒子を粉砕し、200nm程度にしているため、用途によって求められる粒子径は様々である。汎用的に、研磨スラリー分離材にはPTFEメンブレン製フィルターやポリプロピレン製多層フィルターが用いられているが、フィルターの孔サイズ分布が広いため平坦化技術を躍進するにあたって精密に研磨粒子を分離・精製する分離材としては働いていない。また、孔径が広分布で不均一なため、局所的な目詰まりが不均一に起き、有効なスラリーが目詰まりするといった現象が起きることで、フィルター全体が飽和に達する前に分離能力が低下にすることによって交換しなければならないといったフィルターの寿命が問題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の請求項1に係るスラリー分離材は、三次元網目構造の空隙を有する多孔体であることを特徴とするものである。
本発明の請求項2に係るスラリー分離材は、請求項1において、研磨スラリーを分離精製するための三次元網目構造の空隙を有する多孔体による分離材であって、骨格内に空隙より小さな孔径のメソポアを備えていることを特徴とするものである。
本発明の請求項3に係るスラリー分離材は、請求項1又は2において、空隙の異なる多孔体を積層することを特徴とするものである。
本発明の請求項4に係るスラリー分離材は、請求項1乃至3において、有機高分子硬化物から調製される三次元網目構造の空隙を有する多孔体であることを特徴とするものである。
本発明の請求項5に係るスラリー分離材は、請求項1乃至4において、エポキシ樹脂硬化物から調製される三次元網目構造の空隙を有する多孔体であることを特徴とするものである。
本発明の請求項6に係るスラリー分離材の製造方法は、請求項1乃至3において、相分離誘起作用を有する有機高分子を含む酸性溶液中に金属アルコキシドを投入するゲル化工程と、得られたゲルをアルカリ条件下で水熱処理するメソポア形成工程を含んで操業することを特徴とするものである。
本発明の請求項7に係るスラリー分離材の製造方法は、請求項1乃至4において、有機溶媒に相分離誘起作用を有する有機高分子を添加し、その溶液にモノマーとする低分子化合物と重合開始剤を混合し、低分子化合物を重合する工程を含んで操業することを特徴とするものである。
本発明の請求項8に係るスラリー分離材の製造方法は、請求項1乃至5において、以下に示す工程の少なくとも一つ以上を含んで操業することを特徴とする熱硬化性樹脂型有機系多孔体によるものである。
1)原料にエポキシ樹脂と硬化剤の特定の組み合わせ及びポロゲンを使用する。
2)25℃における粘度が400mPa・s以上のポリアミノアミド系硬化剤を用いる。
3)エポキシ樹脂の硬化時にポロゲンと有機高分子又は金属アルコキシドからなるゾルを添加して重合すること。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明では、調製段階において、スピノーダル相分離による共連続構造の発現により骨格と空隙が形成され、重合・架橋反応により構造が固定されて三次元網目構造が得られる、より均質な構造を有した三次元網目構造多孔体を用いて、要望する研磨スラリー中の研磨粒子の分離材として有効であることに加え、さらに均質な空隙サイズにより粒子の目詰まりによる分離材の寿命が短いことを解消する研磨スラリー分離材を提供するものである。
請求項2の発明では、調製条件により均質な空隙を有する三次元網目構造多孔体を用いること、さらに骨格内に空隙より小さな孔径のメソポアを備えていることで、従来技術では空隙以上のサイズの研磨粒子や凝集粒子、異物を排除することしか有効でなかったが、必要としない微小サイズの研磨粒子を留めることが可能となる研磨スラリー分離材を提供するものである。
請求項3の発明では、調製された三次元網目構造多孔体を大きな空隙サイズから順に積層して研磨スラリーを分離・精製することにより、不要な粒径の研磨粒子を効率的に除去すること、さらに段階的な分離により粒子の凝集によるフィルターの目詰まりを極力防止することができ、より寿命の長い三次元網目構造多孔体を提供するものである。
請求項4の発明では、原料として有機モノマーを使用し、有機高分子硬化物からなる三次元網目構造多孔体を調製することで、安価なスラリー分離材を提供するものである。
請求項5の発明では、エポキシ樹脂からなる三次元網目構造多孔体を調製することにより、調製工程が著しく容易になることに加え、請求項4よりさらに安価なスラリー分離材を提供するものである。
請求項6乃至8の発明では、スラリーを分離精製するための三次元網目構造の空隙を有する多孔体による分離材であって、骨格内に空隙より小さな孔径のメソポアを備えているスラリー分離材を容易に得ることができる製造方法を提供するものである。
本発明により得られる三次元網目構造多孔体によるスラリー分離材は、化学的機械研磨法に用いられる研磨スラリーの分離・精製のみならず、多方面の産業分野において粒子等を含んだスラリーの分離材として有効に働く用途利用が促進されるものとして期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
本発明の三次元網目構造多孔体からなるスラリー分離材は、調製段階においてスピノーダル相分離による共連続構造の発現により骨格と空隙が形成され、重合・架橋反応によって構造が固定されて三次元網目構造が得られる、より均質な構造を有した三次元網目構造多孔体を用いることにある。さらに、骨格内に空隙より小さな孔径のメソポアを備えていることにより、微小サイズの研磨粒子を留めることが可能となる。
【0008】
三次元網目構造多孔体の調製には、大きく分類すると、第一にシリカ等を主にした無機系多孔体と、有機高分子を主にした有機系多孔体に分けることができる。さらに有機高分子を主にした有機系多孔体は、第二に開始剤を用いたビニル基による重合やイオン重合により調製される開始剤重合型有機系多孔体と、第三にエポキシ樹脂と硬化剤の反応によって調製される熱硬化性樹脂型有機系多孔体に分けることができる。
【0009】
第一に、本発明にかかる三次元網目構造多孔体からなるスラリー分離材として無機系多孔体による製造方法は、相分離誘起作用を有する有機高分子とを含む酸性溶液中に、アルコキシシラン等の金属アルコキシドを投入して、金属アルコキシドを加水分解させたのち、金属アルコキシドを重縮合させて三次元網目構造の骨格を有するゲルを形成するゲル化工程と、得られたゲルをアルカリ条件下で水熱処理して前記骨格中にメソポアを形成するメソポア形成工程により調製される。
【0010】
上記、酸性溶液に用いる酸としては、酢酸、硝酸、塩酸、蟻酸等を用い、加水分解を行うのに最適な濃度に調節した酸水溶液が挙げられる。上記の中で好ましくは、加水分解や重合の時間を制御する上で、酢酸のような弱酸を用いることである。
【0011】
上記、金属アルコキシドとしては、シリカアルコキシドとして、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、1,2−ビストリメトキシシリルエタン、Si原子に1〜4つのアルコキシ基が結合したシリカアルコキシド、グリシジル基等の官能基を導入したシリカアルコキシド等、チタンアルコキシドとして、チタニウムn−プロポキシド、チタニウムイソプロポキシド、チタニウムn−ブトキシド、チタニウムt−ブトキシド等、ジルコニウムアルコキシドとして、ジルコニウムプロポキシド、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムn−ブトキシド、ジルコニウムt−ブトキシド等、ハフニウムアルコキシドとして、ハフニウムプロポキシド、ハフニウムイソプロポキシド、ハフニウムn−ブトキシド、ハフニウムt−ブトキシド等が挙げられる。上記の中で好ましくは、アルコキシシランが好ましく、Si原子に1〜4つのアルコキシ基が結合したシリカアルコキシド、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、1,2−ビストリメトキシシリルエタン等である。特に好ましくは、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシランである。尚、これらが単独で用いられてもよいし、併用されても構わない。
【0012】
上記、アルカリ条件下で水熱処理して骨格中にメソポアを形成するメソポア形成工程に使用するアルカリ発生化合物としては、尿素、ヘキサメチレンテトラミン、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等の有機アミド類が挙げられる。上記の中で好ましくは、尿素である。尚、これらが単独で用いられてもよいし、併用されても構わない。また、アルカリ発生化合物は、酸性溶液中に予め添加しておいても良いし、必要に応じてゲル化後にさらに添加するようにしても構わない。さらに、下記に記載の有機高分子等を添加してテンプレートとして骨格内にメソポアを形成する方法もある。
【0013】
上記、有機高分子としては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体等が挙げられる。上記の中で好ましくは、ポリエチレンオキシド、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体である。尚、これらが単独で用いられてもよいし、併用されても構わない。有機高分子の配合割合は、得ようとする細孔径に応じて適宜調整することができる。さらに、テンプレートとして骨格内にメソポアを形成するために、溶媒を添加して有機高分子をミセル化する方法がある。その溶媒としては、特に限定されないが、たとえば、トリメチルベンゼン、メタノール、ブタノール等が挙げられる。
【0014】
重縮合時の加熱温度は60℃以下等できるだけ低い方が良い。好ましくは、30〜60℃である。すなわち、加熱温度が高すぎると、溶液が沸騰して、ボイドが発生し、良好な骨格部が形成されない恐れがある。また、骨格中に微細孔を形成する微細孔形成工程おいては、尿素を用いた場合、尿素の分解温度以上が50℃程度であるので、加熱温度は50℃〜200℃が好ましく、より好ましくは80℃〜120℃である。
【0015】
第二に、本発明にかかる三次元網目構造多孔体からなるスラリー分離材として有機系多孔体のうち、開始剤重合型有機系多孔体による製造方法は、ラジカル重合およびイオン重合等のそれぞれの重合方法として、有機溶媒に相分離誘起作用を有する有機高分子を添加し、その溶液にモノマーとする低分子化合物と重合開始剤を混合し、低分子化合物を重合する工程により調製される。
【0016】
上記、有機溶媒としては、低分子化合物および有機高分子が溶解する溶媒であれば良く、例えば、トルエン等のアルキルベンゼン、クロロベンゼンやジクロロベンゼン等のハロゲン置換ベンゼン、キシレン、トリエチルベンゼン、ジメチルホルムアミド、メタノールやエタノール等のアルコール、アセトンやテトラヒドロフラン等のケトン、ベンゼン、水等が挙げられる。
【0017】
上記、有機高分子としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレングルコール、ポリエチレンオキシド、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルメタクリレート等のビニル系ポリマー、及び、これらの共重合体等が挙げられる。尚、これらが単独で用いられてもよいし、併用されても構わない。有機高分子を重合溶液に溶解する時、均一な溶液に調製する必要がある。
【0018】
上記、低分子化合物としては、ラジカル重合やイオン重合などで重合する官能基を少なくとも一つを有している化合物であり、例えば、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、メチレンビスアクリルアミドやピペラジンジアクリルアミド等のメタクリルアミド、アクリルアミド、スチレン、スチレンにクロロメチルやアルキル、ヒドロキシル、t−ブチルオキシカルボニル、ハロゲン、ニトロ、アミノ基等で置換されたスチレン置換体、ジビニルベンゼン、ジビニルピリジン、アルキル置換メタクリレートやグリシジルメタクリレート等のメタクリレートやアクリレート、アルキレンジメタクリレートやヒドロキシアルキレンジメタクリレート等のジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアセテート、ペンタエリスリトールテトラアセテート、ビニルナフタレン、ビニルアセテート、ビニルピロリドン等が挙げられる。上記の中でも、好ましくは、分子内に官能基が二つ以上有する低分子化合物である。さらに、低分子化合物分子内に重合に用いる官能基以外の機能的な官能基、例えば、疎水性や親水性、イオン性を有している部位を導入ことにより機能性を備えることも可能である。
【0019】
上記、重合開始剤としては、低分子化合物をラジカル重合やイオン重合できるものを使用すれば良く、例えば、ベンゾイルペルオキシド等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、n−ブチルリチウム等のアルキルアルカリ化合物、カリウム−Tert−ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシド化合物、さらに、リビングラジカル重合を行うための添加剤として遷移金属錯体、可逆的連鎖移動剤、2,2,6,6−1−ピペリジニルオキシ等のニトロキシド化合物、光重合開始剤が挙げられる。尚、これらが単独で用いられてもよいし、併用されても構わない。上記の中でも、好ましくは、リビングラジカル重合を行うための添加剤とラジカル重合の開始剤を併用することである。
【0020】
重合時の加熱温度は開始剤が効率的に働く温度で重合させれば良く、溶媒の沸点以下で行うことが好ましい。好ましくは40〜130℃である。また、重合時は密閉容器中で調製することが好ましい。
【0021】
第三に、本発明にかかる三次元網目構造多孔体からなるスラリー分離材として有機系多孔体のうち、エポキシ樹脂と硬化剤の反応によって調製される熱硬化性樹脂型有機系多孔体による製造方法は、原料に用いるエポキシ樹脂と硬化剤の特定の組み合わせ及びポロゲンの使用によって形成することができる。さらに骨格内にメソポアを形成する方法としては、25℃における粘度が400mPa・s以上のポリアミノアミド系硬化剤を用いること、エポキシ樹脂の硬化時にポロゲンと有機高分子又は金属アルコキシドからなるゾルを添加して重合することにより調製することができる。
【0022】
上記、エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラキス(ヒドロキシフェニル)エタンベースなどのポリフェニルベースエポキシ樹脂、フルオレン含有エポキシ樹脂、2,2,2,−トリ−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアネートなどのトリグリシジルイソシアヌレート、トリアジン環含有エポキシ樹脂等、複素芳香環を含むエポキシ樹脂、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂肪族グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエステル型エポキシ樹脂、1,3−ビス(N,N’−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンなどが挙げられる。上記の中でも、好ましくは、分子内にグリシジル基が二つ以上有するエポキシ樹脂であり、特に好ましくは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、2,2,2,−トリ−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアネート、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1,3−ビス(N,N’−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンである。
【0023】
上記、硬化剤としては、メタフェニレンジアミンやジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−メチレン−ビス(2−クロロアニリン)、ベンジルジメチルアミン、ジメチルアミノメチルベンゼンなどの芳香族アミン、無水フタル酸や無水トリメット酸、無水ピロメット酸などの芳香族酸無水物、フェノール系化合物、フェノール系樹脂、フェノールホルムアルデヒド型ノボラックやフェノールアルキル型ノボラック等のノボラック型フェノール樹脂、イソフタル酸ジヒドラジドなどの芳香族ヒドラジド類、トリアジン環などの複素芳香環を有する芳香族アミン、1,1,1’,1’−テトラメチル−4,4’−(メチレン−ジ−パラ−フェニレン)ジセミカルバジド等の芳香族ポリアミン類及び芳香族ポリアミンヒドラジド類、エチレンジアミンやジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、1,3,6−トリスアミノメチルヘキサン、ポリメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ポリエーテルジアミンなどの脂肪族アミン類、アジピン酸ジヒドラジドやセバチン酸ジヒドラジド、トデカン二酸ジヒドラジドなどの脂肪族ヒドラジド類、イソホロンジアミンやメンタンジアミン、N−アミノエチルピペラジン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンアダクト、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンやこれらの変性品などの脂環族ポリアミン類、1,6−ヘキサメチレンビス(N,N−ジメチルセミカルバジド)などの脂肪族ポリアミンヒドラジド類、ポリアミン類とダイマー酸からなる脂肪族ポリアミドアミン類やポリアミノアミド類など、ビューレトリートリ−(ヘキサメチレン−N,N−ジメチルセミカルバジド)を主成分とするオリゴマープロピレングリコールモノメチルエーテル溶液、ビューレトリートリ−(ヘキサメチレン−N,N−ジメチルセミカルバジド)を主成分とするオリゴマーN,N−ジメチルホルムアミド溶液、スピログリコールや2−(5−エチル−5−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキサン−2−イル)−2−メチルプロパン−1−オールなどのグリコール類、その他アミンアダクト系硬化剤などが挙げられる。上記の中でも、好ましくは、25℃における粘度が400mPa・s以上のポリアミノアミド系硬化剤を用いることである。この場合は下記の有機高分子或いは金属アルコキシドを用いることなくポロゲンを存在させるだけでメソポアの空隙を持つ多孔体が作成できるが、上記のその他の硬化剤を使用したときは下記の有機高分子或いは金属アルコキシドを使用する必要がある。尚、本発明で用いるポリアミノアミド系硬化剤の粘度の上限は特に限定されないが、容易に入手可能なことなどを考慮すれば、単一円筒回転粘度計法による40℃における粘度が70,000mPa・s以下のポリアミノアミド系硬化剤を用いるのが好ましい。さらに、25℃における粘度が400mPa・s以上のポリアミノアミド系硬化剤を使用する場合であっても有機高分子や金属アルコキシドの使用を妨げるものではない。
【0024】
上記、ポロゲンとしては、エポキシ樹脂及び硬化剤を溶かすことができ、且つエポキシ樹脂と硬化剤が重合した後、反応誘起相分離を生じさることが可能な溶剤をポロゲンとして用いることができ、例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブなどのセロソルブ類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどエステル類、又はポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコールなどのグリコール類などを挙げることができる。上記の中でも、好ましくは、分子量400以下のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコールが好ましい。分子量600以上のポリエチレングリコール或いはポリプロピレングリコールで室温中において蝋質(半固形)状であっても重合温度においてエポキシ樹脂や硬化剤と相溶し且つ液状であればポロゲンとして使用できる。尚、相分離をより誘起させるためにポロゲンと同等の効果をもたらす有機高分子をポロゲンに加えて添加することもできる。
【0025】
上記、有機高分子としては、重合系に均一かつ溶解することが出来れば特に分子量などは限定されないが、例えば、ポリエチレングルコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリメチルメタクリレート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、およびエチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体に代表されるこれらの共重合体等が挙げられる。上記の中で好ましくは、ポリエチレンオキシド、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体を用いることである。尚、これらが単独で用いられてもよいし、併用されても構わない。有機高分子の配合割合は、得ようとする骨格部のメソポア径に応じて適宜調節することができる。
【0026】
上記、金属アルコキシドからなるゾルとしては、シリカアルコキシドとして、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、1,2−ビストリメトキシシリルエタン、Si原子に1〜4つのアルコキシ基が結合したシリカアルコキシド、グリシジル基を導入したシリカアルコキシド等、チタンアルコキシドとして、チタニウムn−プロポキシド、チタニウムイソプロポキシド、チタニウムn−ブトキシド、チタニウムt−ブトキシド等、ジルコニウムアルコキシドとして、ジルコニウムプロポキシド、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムn−ブトキシド、ジルコニウムt−ブトキシド等、ハフニウムアルコキシドとして、ハフニウムプロポキシド、ハフニウムイソプロポキシド、ハフニウムn−ブトキシド、ハフニウムt−ブトキシド等が挙げられる。上記の中で好ましくは、Si原子に1〜4つのアルコキシ基が結合したシリカアルコキシド、グリシジル基を導入したシリカアルコキシドからなるゾルを添加することであり、特に好ましくは、グリシジル基を導入したシリカアルコキシドからなるゾルを添加することである。尚、これらが単独で用いられてもよいし、併用されても構わない。
【0027】
重合時の加熱温度は比較的低温の方が良く、好ましくは40〜150℃で調製することが望ましい。尚、エポキシ樹脂硬化物による多孔体の場合、高沸点原料により調製されることから、他の多孔体の製造方法である密閉を必ずしも必要としなく、調製工程が非常に容易となる。
【0028】
本発明の多孔体は、三次元網目構造の骨格となりえる例えばシリカアルコキシドや低分子化合物、エポキシ樹脂と硬化剤等のモノマーと非反応であり、かつそれらを溶解可能な溶媒やポロゲンに常温又は加温して溶解し、さらに適宜、有機高分子等の添加によって調製し、過熱重合し、重合物と溶媒等のポロゲンがスピノーダル相分離後、相分離が進展して共連続構造が消滅する前に、架橋反応によって構造を固定させ、次いで溶媒等のポロゲンや添加剤を除去することによって製造される。さらに、三次元網目構造の骨格となりえるモノマーには架橋性のある原料を用いることが、三次元網目構造を形成しやすいことから好ましく、特に好ましくは、容易に入手可能であることから3〜4官能のモノマーを用いることである。
【0029】
本発明の多孔体を得るには、大きな空隙(マクロ孔)を形成することを考慮しても、重合開始から構造固定まで、遅くとも1日で終了することが産業上の利用観点からも好ましい。また、相分離による曇点発生から三次元架橋による構造の固定まで、半日以内であることが好ましく、こうした条件を目安に重合温度が設定される。
【0030】
調製方法としては、三次元網目構造の骨格となりえるモノマーやポロゲンとなりえる溶媒、さらに必要があれば相分離誘起剤となりえる高分子化合物等の分相剤、またさらに必要があれば骨格内のメソポアを形成するための有機化合物やゾル等、それぞれの原材料を反応容器に投入し、撹拌混合により溶解する。この時、各原材料が常温で固形の場合、粉砕した樹脂を100℃以下に加熱した溶媒等のポロゲンに投入して溶解した後、他の原材料を添加して均一な溶液を調製する方法がある。調製した反応溶液を任意の形状容器に移し、直ちに所定の重合温度に加熱し重合を行う。加熱重合後、重合が進行し、ポリマー成分が増大すると、スピノーダル相分離が起こり、共連続構造が発現するが、相分離が更に進行し、共連続構造が消滅する前にモノマーの架橋反応を進行させることにより構造が固定されて、所望の三次元網目構造が得られる。しかし、この現象を目視で確認することは不可能であるため、あらかじめ試験的に原材料の種類と量、重合温度を変化させながら電子顕微鏡等で構造確認をしながら最適組成と条件のプロファイルを決定して制御を行うことができる。
【0031】
本発明では硬化物の架橋を十分に行うために構造固定後、更にアフターキュアーを実施することが好ましい。溶媒等のポロゲンを除去した後にアフターキュアーを実施すると、収縮が発生して多孔構造に変化を生じることがあるので、溶媒等のポロゲンを除去せずに行う方が良い。また、使用した溶媒等のポロゲンが低沸点溶剤の場合は、高沸点溶剤に置換した後アフターキュアーを行うなどの方法を採ることができる。架橋が不十分な多孔体をスラリー分離材として使用すると耐圧が低く強度が低いため、十分な架橋反応を行う必要がある。
【0032】
本発明の多孔体において、空隙率は20〜95%にコントロールすることが好ましい。より好ましくは40〜95%である。40%未満ではスラリー分離材としての使用において、低空隙率のため空隙を有効に活用できないことや圧力の上昇がある。高空隙率であるほど骨格が細く空隙を有効に活用できる分離材が調製可能であるが、ゲル強度に問題が生じる。それに対しては、多官能エポキシ樹脂や多官能硬化剤を用いることで解決でき、必要に応じて多官能モノマーを適宜使用するのが好ましい。
【0033】
また、本発明の多孔体は、骨格内にさらに空隙より小さいメソポアを備えるものであり、このメソポアにより2種類の細孔を有したスラリー分離材となり、高い分離性能を有する分離材を調製することができる。空隙やメソポアの孔径はコントロール可能であるため、分離を望むスラリー内の粒子径に応じて適宜調節することができる。多孔体の空孔率や空隙径、メソポア径、さらに細孔分布等は、使用されるモノマーや溶媒等のポロゲン、相分離誘起剤、添加物の有無等の組成条件と、比率や温度、攪拌、圧力などの反応条件により変化するため、最適な条件を選択することが好ましい。調節方法は、上記に記載のように組成と条件のプロファイルにより決定する。空隙径及びメソポア径の測定は電子顕微鏡画像で確認することが最も簡略な方法であるが、細孔分布や細孔容積、平均細孔径を機械的に数値化するためには、水銀圧入法や窒素吸着法で測定することが望ましい。
【0034】
本発明の多孔体をスラリーが送液される機械に装着するためには、当該多孔体を例えば、耐圧性プラスチックやガラス繊維、炭素繊維、熱硬化ポリイミド、繊維強化プラスチック、テフロン性やポリオレフィン性等の熱収縮チューブ等によって被覆する必要がある。被覆の工程では、押出成型や射出成型、注型成型、巻付成型等の方法によって、当該多孔体と周囲の被覆材料が隙間なく密着したカラム状に形成することが好ましい。また、形成の時に、空隙の異なる多孔体を積層することにより、粒子の凝集によるフィルターの目詰まりを極力防止することができ、より寿命の長いスラリー分離材を得ることができる。さらには、当該多孔体を吸引機に装着して吸引によるスラリーフィルターとして使用する方法もある。
【0035】
本発明の多孔体は、シート状、棒状、筒状など任意の形状を容易に採ることができるため、その用途に応じて使い分けることが可能である。また、表面に官能基を付加しうるグラフト反応等で目的に応じた表面修飾を行うことが可能であるため、機能性スラリーの分離材としても有効である。さらに、本発明の三次元網目構造多孔体は無機物と有機物からより好ましい材料を選択して調製することにより、耐圧性、耐薬品性、耐熱性に優れるスラリー分離材を形成することができ、過酷な環境下でも使用可能である。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はそれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
[実施例1]
エポキシ樹脂(三菱ガス化学(株)製、TETRAD−C(1,3−ビス(N,N’−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン))1gと、硬化剤(富士化成工業(株)製、245−S)1g、ポリエチレングリコール(ナカライテスク(株)製、分子量200)5.5gをスクリュー管瓶中で室温において混合し、溶液とした。上記溶液をテフロン性のチューブに移し、40℃条件で24時間重合し、多孔体を調製した。その後、100℃条件で3時間キュアを行い、室温まで冷却して取り出した。得られた三次元網目構造多孔体をアセトニトリル/水の混合溶液でポリエチレングリコールを洗浄し、乾燥した。調製された図1の多孔体の細孔サイズの確認を行った結果、平均空隙サイズは10μm、骨格内のメソポアサイズは10×30nmの筋状の構造であった。
【0038】
[実施例2]
実施例1の多孔体をポリオレフィン性熱収縮チューブで被覆し、スラリー分離カラムを作成した。カラムに図2に示す10μm以下の研磨粒子を含んだスラリーを送液し、スラリーの分離・精製を行い、得られたスラリーを粒度計(Particle Sizing Systems,Inc.,USA)により測定した結果、図3に示すように2μm以上の研磨粒子を含まない研磨スラリーを得ることができた。検討の結果、空隙サイズの1/4〜1/6程度のサイズが排除限界として効果を示していることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例1で得られた三次元網目構造多孔体を走査型電子顕微鏡により600倍に拡大した写真である。
【図2】実施例2のスラリー分離カラムによる分離精製前の粒子径分布である。
【図3】実施例2のスラリー分離カラムによる分離精製後の粒子径分布である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラリーを分離精製するための三次元網目構造の空隙を有する多孔体からなるスラリー分離材。
【請求項2】
スラリーを分離精製するための三次元網目構造の空隙を有する多孔体による分離材であって、骨格内に空隙より小さな孔径のメソポアを備えていることを特徴とする請求項1に記載のスラリー分離材。
【請求項3】
スラリーを分離精製するための三次元網目構造の空隙を有する多孔体による分離材であって、空隙の異なる多孔体を積層することを特徴とする請求項1又は2に記載のスラリー分離材。
【請求項4】
有機高分子硬化物から調製される三次元網目構造の空隙を有する多孔体であることを特徴とする請求項1乃至3に記載のスラリー分離材。
【請求項5】
エポキシ樹脂硬化物から調製される三次元網目構造の空隙を有する多孔体であることを特徴とする請求項1乃至4に記載のスラリー分離材。
【請求項6】
相分離誘起作用を有する有機高分子を含む酸性溶液中に金属アルコキシドを投入するゲル化工程と、得られたゲルをアルカリ条件下で水熱処理するメソポア形成工程を含んで操業することを特徴とする請求項1乃至3に記載のスラリー分離材の製造方法。
【請求項7】
有機溶媒に相分離誘起作用を有する有機高分子を添加し、その溶液にモノマーとする低分子化合物と重合開始剤を混合し、低分子化合物を重合する工程を含んで操業することを特徴とする請求項1乃至4に記載のスラリー分離材の製造方法。
【請求項8】
以下に示す工程の少なくとも一つ以上を含んで操業することを特徴とする熱硬化性樹脂型有機系多孔体による請求項1乃至5に記載のスラリー分離材の製造方法。
1)原料にエポキシ樹脂と硬化剤の特定の組み合わせ及びポロゲンを使用する。
2)25℃における粘度が400mPa・s以上のポリアミノアミド系硬化剤を用いる。
3)エポキシ樹脂の硬化時にポロゲンと有機高分子又は金属アルコキシドからなるゾルを添加して重合すること。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−269161(P2009−269161A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−145120(P2008−145120)
【出願日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(505191803)株式会社エマオス京都 (9)
【Fターム(参考)】