説明

上塗塗料組成物

【課題】雨水等に対する初期及び経時における耐汚染性に優れた塗膜を形成できる上塗塗料組成物を提供する。
【解決手段】(A)水酸基含有塗膜形成性樹脂と(B)アミノ樹脂架橋剤とを含有する樹脂バインダに対して、(C)オルガノシリケート及び/又はその縮合物、(D)ホウ酸系化合物、(E)吸油量が100〜280ml/100gの無処理シリカ微粒子及び(F)乾量基準含水率が20〜30ml/100gである二酸化チタン顔料を含有する上塗塗料であって、該塗料から形成される隠蔽硬化塗膜の明度V値が7以上である熱硬化型上塗塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雨水等に対する初期及び経時における耐汚染性に優れた塗膜を形成できる上塗塗料組成物、特に塗装金属板の上塗塗膜形成に適した上塗塗料組成物、該上塗塗料組成物を用いた耐雨水汚染性に優れた塗膜の形成方法、及び該上塗塗料組成物による硬化塗膜が形成された塗装金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、屋外の基材(例えば建造物、表示物、ガードフェンス、器具、機械など)には、装飾又は保護を目的として耐候性に優れた屋外用塗料が塗装されている。屋外用として使用されている塗料としてはポリウレタン樹脂系塗料、フッ素樹脂系塗料、シリコン樹脂系塗料、アクリル樹脂系塗料、ポリエステル系塗料などが例示されるが、これらの塗装物はバクロ中に砂塵、鉄粉、雨(酸性雨)、太陽光線などの影響によって塗装物表面が汚れ易くなり塗膜外観が悪くなるという欠点がある。従来、これらの汚れは、色の三属性における明度V値が7以上の塗色において特に目立ちやすいものであった。
【0003】
本出願人は、この問題点を解決するため、水酸基含有フッ素樹脂及びアミノ樹脂架橋剤を反応硬化形有機樹脂として含有する有機溶剤系塗料組成物(1)又は水酸基含有フッ素樹脂および/または水酸基含有アクリル樹脂と(ブロック化)ポリイソシアネート化合物架橋剤とを反応硬化形有機樹脂として含有する有機溶剤系塗料組成物(2)に対して、テトラアルキルシリケート及び/又はその縮合物を配合してなる塗料組成物であって、酸処理後の塗膜表面の水に対する接触角が70度以下であることを特徴とする耐汚れ性に優れた上塗り塗料組成物を提案した(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、特許文献1の上塗り塗料組成物は、屋外使用において、3ヶ月を経過すると、雨すじ汚染等、雨水等に対する耐汚染性が良好であるが、屋外使用における初期段階では、雨水等に対する耐汚染性は十分でなかった。
【0005】
これを改良するため、本出願人は、塗料組成物に、テトラアルキルシリケ−ト及び/又はその縮合物、及び酸性を示す界面活性剤あるいはホウ酸系化合物を、配合した塗料組成物を提案した(特許文献2参照)。しかしながら、特許文献2の塗料組成物によると、屋外使用2ヶ月程度で耐汚染性が良好となり、耐汚染性の発現は少し早まるが、さらなる初期段階での耐汚染性が求められていた。
【0006】
また、雨すじ汚染に対する耐汚染性、加工性、塗膜外観に優れたプレコート鋼板用塗料組成物として、(A)5〜300のヒドロキシル価、数平均分子量500〜20000のポリオール樹脂、(B)アミノ樹脂、(C)アルコキシシラン化合物、(D)硬化触媒からなる熱硬化性樹脂組成物が提案されている。(特許文献3参照)しかしながら、この熱硬化性樹脂組成物から得られる塗膜の耐薬品性、硬度、経時における長期の雨だれ汚染に対する耐汚染性、加工性には優れているが、初期段階での耐汚染性は十分ではなく、また、ロールコータによる連続塗装時の塗装作業性に問題があった。雨すじ汚染については、明度V値が7以上の塗色の塗膜において目立ちやすいものであった。
【0007】
さらに、特許文献1〜3のいずれの塗料組成物も塗料中のシリケート化合物(アルコキシシラン化合物)が加水分解しやすく、塗料組成物のポットライフが短いという問題があった。
【0008】
【特許文献1】国際公開WO94/06870号公報
【特許文献2】特開2000−309749号公報
【特許文献3】特開平10−67945号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来の技術で達成できていない、雨水等に対する初期における耐汚染性に優れた塗膜を形成でき、また、経時における耐汚染性にも優れた塗膜を形成でき、ロールコータによる連続塗装時の塗装作業性にも優れ、貯蔵安定性が良好で、ポットライフの長い上塗塗料組成物、特に塗装金属板の上塗塗膜形成に適した上塗塗料組成物を提供することを目的とするものである。また、該上塗塗料組成物を用いた耐雨水汚染性に優れた塗膜の形成方法、及び該上塗塗料組成物による硬化塗膜が形成された塗装金属板を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明者らは、従来の上記問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の水酸基価を有する水酸基含有塗膜形成性樹脂とメチル化メラミン樹脂を含有するアミノ樹脂架橋剤とを含有する樹脂バインダに、オルガノシリケート及び/又はその縮合物、ホウ酸系化合物、特定のシリカ微粒子及び含水率が特定範囲にある二酸化チタン顔料を含有し、かつ明度V値が7以上の明度範囲にある隠蔽塗膜を形成できる塗料組成物によって、雨水等に対する初期における耐汚染性に優れた塗膜を形成でき、また、経時における耐汚染性にも優れた塗膜を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち,本発明は、「1.(A)3〜200mgKOH/gの水酸基価を有する水酸基含有塗膜形成性樹脂60〜95質量部と(B)メチルエーテル化メラミン樹脂を50質量%以上含有するアミノ樹脂架橋剤5〜40質量部とを含有する樹脂バインダ100質量部に対して、(C)一般式:(R −Si−(OR4−n (式中、Rはエポキシ基もしくはメルカプト基で置換されていてもよい炭素数1〜18のアルキル基又はフェニル基であり、nは0または1である。)で表わされるオルガノシリケート及び/又はその縮合物0.1〜50質量部、(D)ホウ酸系化合物0.1〜10質量部、(E)吸油量が110〜320ml/100gのシリカ微粒子0.1〜30質量部及び(F)乾量基準含水率が18〜35ml/100gである二酸化チタン顔料を着色顔料の少なくとも一部として、50〜150質量部を含有する上塗塗料であって、該塗料から形成される隠蔽硬化塗膜のJIS Z 8721に規定される明度V値が7以上であることを特徴とする熱硬化型上塗塗料組成物。
【0012】
2.水酸基含有塗膜形成性樹脂(A)が、水酸基含有ポリエステル樹脂であることを特徴とする上記項1記載の上塗塗料組成物。
【0013】
3.(C)成分が、前記一般式で表されるオルガノシリケートの縮合物であって、OR基が炭素原子数1〜6のアルコキシ基であり、かつOR基におけるメトキシ基/炭素原子数2〜6のアルコキシ基との数の比が100/0〜30/70の範囲内であることを特徴とする上記項1又は2に記載の上塗塗料組成物。
【0014】
4.さらに、樹脂バインダ100質量部に基き、有機スルホン酸系硬化触媒を有機スルホン酸量として0.1〜3.0質量部含有することを特徴とする上記項1〜3のいずれか一項に記載の上塗塗料組成物。
【0015】
5.金属板上に、少なくとも一層のプライマー塗膜を介して、上記項1〜4のいずれか一項に記載の上塗塗料組成物を塗装することを特徴とする塗膜形成方法。
【0016】
6.金属板上に、少なくとも一層のプライマー塗膜及び上記項1〜4のいずれか一項に記載の上塗塗料組成物による硬化塗膜が順次形成されてなることを特徴とする塗装金属板。」を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の上塗塗料組成物は、特定の水酸基価を有する水酸基含有塗膜形成性樹脂とアミノ樹脂架橋剤とを含有する樹脂バインダに、オルガノシリケート及び/又はその縮合物、ホウ酸系化合物、特定のシリカ微粒子及び特定の二酸化チタン顔料を含有する塗料組成物であり、この塗料は貯蔵安定性に優れており、また、この塗料によって、雨水等に対する初期における耐汚染性に優れた塗膜を形成でき、また、経時における耐汚染性にも優れた塗膜を形成できる。
【0018】
本発明者らは、初期における耐汚染性に優れた塗膜を形成できる理由は、明らかではないが、オルガノシリケート及び/又はその縮合物は低表面張力を有し表面に移行していく傾向があり、特定のシリカ微粒子とともに表面に親水化層を形成するためであると考えている。本発明組成物は、貯蔵安定性が良好であり、かつ雨水等に対する初期及び経時における耐汚染性に優れた塗膜を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の熱硬化型上塗塗料組成物は、樹脂バインダとして、下記水酸基含有塗膜形成性樹脂(A)とアミノ樹脂架橋剤(B)とを含有する。
【0020】
水酸基含有塗膜形成性樹脂(A)
水酸基含有塗膜形成性樹脂(A)は、熱硬化型塗料の基体樹脂として通常用いられる、水酸基含有塗膜形成性樹脂であって、水酸基価が3〜180mgKOH/gのものが使用でき、代表例として、水酸基含有ポリエステル樹脂、水酸基含有アクリル樹脂、水酸基含有シリコン変性ポリエステル樹脂、水酸基含有シリコン変性アクリル樹脂、水酸基含有エポキシ樹脂、水酸基含有ビニル樹脂(塩化ビニル共重合樹脂)、水酸基含有フッ素樹脂などが挙げられ、これらは単独で又は組合せて使用することができる。上記水酸基含有ポリエステル樹脂はオイルフリーポリエステル樹脂、油変性ポリエステル樹脂のいずれも包含するものである。
【0021】
これらのうち、水酸基含有ポリエステル樹脂、水酸基含有アクリル樹脂、水酸基含有シリコン変性ポリエステル樹脂、水酸基含有シリコン変性アクリル樹脂および水酸基含有フッ素樹脂が得られる塗膜の機械的強度、耐候性などの点から好ましい。なかでも、ポリエステル樹脂が特に好適である。
【0022】
上記水酸基含有ポリエステル樹脂のうち、オイルフリーポリエステル樹脂は、直接エステル化法、エステル交換法、開環重合法などの公知の方法を用いて製造することができる。直接エステル化法の具体例としては、主に多塩基酸と多価アルコールとを重縮合する方法が挙げられる。多塩基酸としては無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、アジピン酸、フマル酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸などから選ばれた1種以上の二塩基酸;無水トリメリット酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸、無水ピロメリット酸などの3価以上の多塩基酸などが用いられ、酸成分として、必要に応じて安息香酸、クロトン酸、p−tertブチル安息香酸などの一塩基酸も用いることができる。また、多価アルコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどの二価アルコールが主に用いられ、さらに必要に応じてグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの3価以上の多価アルコールを併用することもできる。これらの成分の直接エステル化反応は、酸基に対して水酸基が過剰となる配合比にて公知の方法で行なうことができる。
【0023】
また、オイルフリーポリエステル樹脂は、多塩基酸の低級アルキルエステルと多価アルコールとのエステル交換による縮重合によっても製造することができる。さらに、オイルフリーポリエステル樹脂は、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなどのラクトン類の開環重合によっても製造することができる。
【0024】
また、水酸基含有ポリエステル樹脂のうち、油変性ポリエステル樹脂は、上記オイルフリーポリエステル樹脂に油脂肪酸を反応せしめたものであって、油脂肪酸としては例えばヤシ油脂肪酸、大豆油脂肪酸、アマニ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、トール油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、キリ油脂肪酸などがあげら40 れ、ポリエステル樹脂と油脂肪酸との反応も公知の方法で行なうことができ、その油長は、通常30%以下が好ましい。
【0025】
前記水酸基含有アクリル樹脂としては、その骨格に水酸基を有しているものが使用でき、水酸基を有する重合性不飽和モノマーおよびこのモノマーと共重合可能なその他のモノマーとを共重合させることによって得ることができる。水酸基含有不飽和モノマーとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート及びポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の、多価アルコールとアクリル酸又はメタクリル酸とのモノエステル化物;上記多価アルコールとアクリル酸又はメタクリル酸とのモノエステル化物にラクトン類を開環重合した化合物等を挙げることができる。これらは1種で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。上記ラクトン類としては、例えば、ε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−ブチロラクトン、β−プロピオンラクトンなどのラクトン類が挙げられる。本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート又はメタアクリレート」を意味するものである。
【0026】
また、上記水酸基を有する重合性不飽和モノマーと共重合せしめるその他のモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸などのカルボキシル基含有不飽和モノマー;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどのアクリル酸もしくはメタクリル酸とのアルキルエステル;スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、アクリルアミド、メタアクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルアクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレートなどが挙げられる。これらは1種で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
水酸基含有シリコン変性ポリエステル樹脂は、前記のポリエステル樹脂にシリコン中間体を反応させてなるものである。該シリコン中間体としてはシロキサン結合をもつポリシロキサンであって、ポリエステル樹脂の水酸基などと反応する水酸基またはアルコキシ基などの官能基を有し、さらにメチル基、エチル基、フェニル基などの置換基をもっているものも用いられる。これらの具体例として、例えば「SH−6188」(メトキシ基含有、分子量600)、「SH−6018」(水酸基含有、分子量1,600)(これらはいずれも東レダウコーニングシリコーン(株)製、商品名);「TSR−160」(水酸基含有、分子量1,300)、「TSR−165」(メトキシ基含有、分子量650)(これらはいずれも東芝シリコーン(株)製、商品名)、KR218(信越化学(株)製、商品名)などの市販品を挙げることができる。ポリエステル樹脂とシリコン中間体との反応(脱水反応もしくは脱アルコール反応)は、両成分の合計量に基づいて、ポリエステル樹脂95〜40質量%、シリコン中間体5〜60質量%の割合で、公知の方法によって行なうことができる。
【0028】
水酸基含有シリコン変性アクリル樹脂は前記アクリル樹脂にシリコン中間体を反応させてなるものである。該シリコン中間体としては、上記水酸基含有シリコン変性ポリエステル樹脂の製造に用いられるシリコン中間体と同様のものが用いられる。アクリル樹脂とシリコン中間体との反応は両成分の合計量に基づいて、アクリル樹脂95〜40重量%、シリコン中間体5〜60質量%の割合で、公知の方法によって行なうことができる。
【0029】
前記水酸基含有フッ素樹脂は、前記水酸基含有アクリル樹脂の製造において、その他のモノマー成分の一部として、フッ素原子を有する重合性不飽和モノマーを使用して共重合させてなる樹脂である。上記フッ素原子を有する重合性不飽和モノマーとしては、ヘキサフルオロプロペン、テトラフルオロエチレン、モノクロロトリフルオロエチレン、ジクロロジフルオロエチレン、パーフルオロシクロヘキシルエチレン、フッ化ビニリデン、モノフルオロエチレン等のフルオロオレフィン;「ビスコート8F」、「ビスコート8FM」、「ビスコート3F」、「ビスコート3FM」(いずれも大阪有機化学(株)製、側鎖にフッ素原子を有する(メタ)アクリレート類)、パーフルオロシクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのフッ素原子を有する(メタ)アクリレート類;などが挙げられる。共重合反応は、フッ素樹脂の公知の重合反応に基づいて行なうことができる。水酸基含有フッ素樹脂の市販品としては、例えば、ルミフロンシリーズ(旭硝子社製)、セフラルコートシリーズ(セントラル硝子社製)、ゼッフルシリーズ(ダイキン工業社製)、コータックス(東レ社製)などを挙げることができる。
【0030】
水酸基含有塗膜形成性樹脂(A)は、(B)成分であるアミノ樹脂架橋剤との架橋点となる水酸基を有することが必須であり、(A)成分樹脂固形分の水酸基価は、硬化性、耐水性などの面から3〜180mgKOH/gであることが好ましく、7〜100mgKOH/gであることがさらに好適である。また樹脂(A)は、得られる塗膜物性、塗装作業性などの観点から数平均分子量約2,000〜33,000であることが好ましく、2,500〜30,000であることがさらに好適であり、得られる塗膜の硬度、加工性などの観点からガラス転移温度−25〜35℃、好ましくは−20〜25℃を有することが適している。
【0031】
本明細書において、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(東ソー(株)社製、「HLC8120GPC」)で測定したクロマトグラムから標準ポリスチレンの分子量を基準にして算出した値である。カラムは、「TSKgel G−4000HXL」、「TSKgel G−3000HXL」、「TSKgel G−2500HXL」、「TSKgel G−2000HXL」(いずれも東ソー(株)社製、商品名)の4本を用い、移動相;テトラヒドロフラン、測定温度;40℃、流速;1cc/分、検出器;RIの条件で行ったものである。また、本明細書において、ガラス転移温度(Tg)は、示差熱分析(DSC)によるものである。
【0032】
アミノ樹脂架橋剤(B)
アミノ樹脂架橋剤(B)は、上記水酸基含有塗膜形成性基体樹脂(A)と架橋反応するアミノ樹脂であり、メチルエーテル化メラミン樹脂を50質量%以上、好ましくは70質量%以上含有するものであり、残りの部分は、メチルエーテル化メラミン樹脂以外のメラミン樹脂、メラミン樹脂以外のアミノ樹脂であることができる。アミノ樹脂架橋剤(B)はメチルエーテル化メラミン樹脂のみからなっていてもよい。
【0033】
アミノ樹脂架橋剤(B)の一部を構成できるものを例示すると、例えば、メラミン、尿素、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、スピログアナミン、ジシアンジアミド等のアミノ成分とアルデヒドとの反応によって得られるメチロール化アミノ樹脂が挙げられる。アルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられる。また、このメチロール化アミノ樹脂を1種又は2種以上のアルコールによってエーテル化したものも使用でき、エーテル化に用いられるアルコールの例としてはメチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、2−エチルブタノール、2−エチルヘキサノール等の一価アルコールが挙げられる。これらのうち、なかでもメチロール化メラミン樹脂やメチロール化メラミン樹脂のメチロール基の少なくとも一部を炭素原子数1〜4の一価アルコールでエーテル化してなるメラミン樹脂が好適である。
【0034】
アミノ樹脂架橋剤(B)中に50質量%以上含有されるメチルエーテル化メラミン樹脂は、本明細書において、メチロール基のエーテル化がメチルエーテル化のみのもの、メチルエーテル化と炭素原子数2〜4のアルキルエーテル化との混合エーテル化されたメラミン樹脂の両者を包含するものとする。
【0035】
上記メチルエーテル化メラミン樹脂の市販品としては、スミマールM−100、同M−40S、同M−55(いずれも住友化学社製、商品名)、サイメル303、同325、同327、同350、同370(以上、いずれも三井サイテック社製、商品名)、ニカラックMS17、同MS15(いずれも三和ケミカル社製、商品名)、レジミン741(モンサント社製、商品名)等のエーテル化がメチルエーテル化のみのメラミン樹脂;サイメルXV805(日本サイテックインダストリイズ社製、商品名)、ニカラックMS95(三和ケミカル社製、商品名)等のメチル化とn−ブチル化との混合エーテル化メラミン樹脂;サイメル235、同202、同238、同254、同272、同1130(いずれも日本サイテックインダストリイズ社製、商品名)、スマミールM66B(住友化学社製、商品名)等のメチル化とイソブチル化との混合エーテル化メラミン樹脂などを挙げることができる。
【0036】
上記アミノ樹脂架橋剤(B)中に上記メチルエーテル化メラミン樹脂とともに混合使用できる、メチルエーテル化メラミン樹脂以外のメラミン樹脂の市販品としては、例えばユーバン20SE−60、ユーバン225(いずれも三井化学社製、商品名)、スーパーベッカミンG840、同G821(いずれも大日本インキ化学工業社製、商品名)などのブチルエーテル化メラミン樹脂などを挙げることができる。
【0037】
アミノ樹脂架橋剤(B)において、メチルエーテル化メラミン樹脂が50質量%以上であることが、得られる塗膜における初期の耐汚染性、加工性などの面から好適である。
【0038】
本発明の熱硬化型上塗塗料組成物において、上記水酸基含有塗膜形成性樹脂(A)とアミノ樹脂架橋剤(B)との配合割合は、樹脂(A)及び架橋剤(B)を含有する樹脂バインダの固形分100質量部に基き、樹脂(A)が60〜95質量部、好ましくは70〜90質量部であり、架橋剤(B)が5〜40質量部、好ましくは10〜30質量部であることが、得られる塗膜の硬化性、機械的強度、加工性、耐溶剤性、耐食性、耐候性などの点から好ましい。
【0039】
本発明の熱硬化型上塗塗料組成物は、上記水酸基含有塗膜形成性樹脂(A)とアミノ樹脂架橋剤(B)とを含有する樹脂バインダに、下記オルガノシリケート又はその部分加水分解縮合物(C)、ホウ酸系化合物(D)、シリカ微粒子(E)及び二酸化チタン顔料(F)を含有する。
【0040】
オルガノシリケート及び/又はその縮合物(C)
本発明の(C)成分として、一般式:(R −Si−(OR4−n (式中、Rはエポキシ基もしくはメルカプト基で置換されていてもよい炭素数1〜18のアルキル基又はフェニル基であり、nは0または1である。)で表わされるオルガノシリケート及び/又はその縮合物が用いられる。本発明の塗料組成物に使用される(C)成分は、塗布後に効率よく基材表面で親水化効果を発揮するために配合されるものであり、この効果の面から、上記オルガノシリケートの縮合物がより好ましい。
【0041】
上記一般式におけるRの具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、n−オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、グリシジル、メチルグリシジル、メルカプトメチル、2−メルカプトエチル、2−メルカプトプロピル、3−メルカプトプロピル、4−メルカプトブチル、フェニル、p−メルカプトフェニル基などを挙げることができる。
(C)成分のオルガノシリケートの具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトライソブトキシシランなどの4官能シラン;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリn−ブトキシシラン、メチルトリイソブトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリn−ブトキシシラン、フェニルトリイソブトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ラウリルトリメトキシシラン、ラウリルトリエトキシシラン等の3官能シランが挙げられる。上記オルガノシリケートの縮合物としては、これらの4官能もしくは3官能シランの1種又は2種以上の組み合わせでの縮合物などが挙げられる。
オルガノシリケートの縮合物は、常法により製造することができ、市販品の、例えば、MKCシリケートMS51、MS56、MS57、MS56S、MS56SB5、MS58B15、MS58B30、ES40、EMS31、BTS(以上、いずれも三菱化学(株)製、商品名)、メチルシリケート51、エチルシリケート40、エチルシリケート40T、エチルシリケート48(以上、いずれもコルコート(株)製、商品名)、KR500、KR9218、X−41−1805、X−41−1810、X−41−1818、X−41−1053、X−41−1056(以上、いずれも信越化学工業(株)製、商品名)等を挙げることができる。また、これらのオルガノシリケートの縮合物を単体で、又は2種以上を組み合わせて部分加水分解縮合することによっても得ることができる。オルガノシリケートの縮合物は、分枝状もしくは直鎖状の縮合物であって、縮合度が2〜100、好ましくは2〜20であることが好適である。本発明の塗料組成物においては、(C)成分のオルガノシリケートやオルガノシリケートの縮合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
前記一般式で表わされるオルガノシリケート及び/又はその縮合物において、OR基が炭素原子数1〜6のアルコキシ基であり、かつOR基におけるメトキシ基/炭素原子数2〜6のアルコキシ基との数の比が100/0〜30/70の範囲内であることが、耐雨すじ汚染性、貯蔵性などの観点から好適である。本明細書において、「耐雨すじ汚染性」とは、建造物などにおいて、雨水の流れ跡が黒い筋状に着くのを防止する性能を意味する。
【0043】
(C)成分の配合量は、前記樹脂バインダ100質量部に基き、0.1〜50質量部、好ましくは0.5〜30質量部、さらに好ましくは1〜20質量部である。(C)成分量が上記範囲内にあることによって、(C)成分配合の効果が発揮され、塗膜の初期耐汚染性、経時での耐汚染性の向上効果や塗膜の機械的強度、耐久性の面からも好適である。
【0044】
ホウ酸系化合物(D)
ホウ酸系化合物(D)は、上記オルガノシリケート及び/又はその縮合物(C)の加水分解を促進させる作用を有するものである。ホウ酸系化合物としては、例えば、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリブチルなどのホウ酸トリアルキル;ホウ酸などが挙げられる。ホウ酸系化合物(D)の配合量は、前記樹脂バインダ100質量部に基き、0.1〜10質量部、好ましくは0.1〜5質量部、さらに好ましくは0.1〜2質量部である。
【0045】
シリカ微粒子(E)
シリカ微粒子(E)は、吸油量が110〜320ml/100g、好ましくは120〜250ml/100gで、かつ表面コーティングをしていない無処理シリカ微粒子である。シリカ微粒子(E)は、平均粒子径0.1〜10μm、好ましくは0.5〜8μmを有することが好適である。上記吸油量が110ml/100g未満では、耐汚染性、塗装作業性の向上効果が十分でなく、一方、吸油量が320ml/100gを超えると、得られる塗膜における光沢の安定性、耐食性が劣る傾向がある。
【0046】
上記表面コーティングをしていない無処理シリカ微粒子とは、ポリエチレンなどの有機物処理やフッ素処理などの無機物処理などの表面コーティングが施されていないシリカ微粒子を意味する。
【0047】
本発明組成物中にシリカ微粒子(E)を配合することによって、耐汚染性、塗装作業性に寄与することができる。シリカ微粉末の配合量は、前記樹脂バインダ100質量部に基き、0.1〜30質量部、好ましくは0.5〜20質量部、さらに好ましくは1〜10質量部であることが適している。
【0048】
二酸化チタン顔料(F)
二酸化チタン顔料(F)は、乾量基準含水率(無水物に対する水含有率)が好ましくは18〜35ml/100gである二酸化チタン顔料であり、塩素法、硫酸法のいずれの製法によるものであってもよい。上記乾量基準含水率が上記範囲内にあることによって、オルガノシリケート及び/又はその縮合物(C)の加水分解、縮合を抑制することができ、本発明塗料組成物における貯蔵安定性、耐雨すじ汚染性などを向上させることができる。
【0049】
二酸化チタン顔料(F)の市販品としては、例えば、タイペークCR−93、同CR−95、同CR−953、同CR−50、同CR−57(以上、石原産業社製);タイピュアR−960、同R−960VHG、同R−706、同R−700(以上、デュポン社製);チタニウムダイオキサイドJR−806、同JR−701、同JR−600A、同JR−600E(以上、テイカ社製);TITONE R−62N、同R−5N、同R−650(以上、堺化学社製)などを挙げることができる。
【0050】
二酸化チタン顔料(F)の配合量は、前記樹脂バインダ100質量部に基き、50〜150質量部、好ましくは80〜120質量部であることが、隠蔽性、加工性などの面から適している。
【0051】
本発明塗料組成物は、該塗料から形成される隠蔽硬化塗膜のJIS Z 8721(1993)に規定される明度V値が7以上であり、この明度範囲となるよう着色顔料組成などが調整される。
【0052】
本発明の組成物においては、前記した(A)、(B)、(C)、(D)、(E)および(F)成分の他に、硬化触媒、脱水剤、二酸化チタン顔料(F)以外の着色顔料、体質顔料、有機樹脂粉末、無機質骨材、顔料分散剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、消泡剤や表面調整剤などの塗料添加剤、溶剤等従来から塗料に使用されている公知の材料も使用することができる。
【0053】
上記硬化触媒は、前記樹脂バインダである水酸基含有塗膜形成性樹脂(A)とアミノ樹脂架橋剤(B)との硬化反応を促進する触媒である。硬化触媒としては、有機スルホン酸、該有機スルホン酸のアミン中和物などの酸触媒が挙げられる。
【0054】
有機スルホン酸としては、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸などが挙げられ、これらは単独で、又は2種以上混合して使用できる。有機スルホン酸のアミン中和物の製造に用いるアミン化合物としては、沸点30〜250℃のものが好ましく、具体例として、モノエタノールアミンなどの第1級アミン;ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジアリルアミン、ジアミルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジイソブチルアミン、ジ−sec−ブチルアミン、N−エチル−1,2−ジメチルプロピルアミン、N−メチルヘキシルアミン、ピペリジン、2−ピペコリンなどの第2級アミン;トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリアリルアミン、N−メチルジアリルアミン、N−メチルモルホリン、N−メチルピペリジン、ピリジン、4−エチルピリジンなどの第3級アミン;N−メチルピペラジンなどの第2級および第3級アミノ基を有するアミンなどの1種又は2種以上の混合物が挙げられる。有機スルホン酸のアミン中和物における中和当量は、通常、0.5〜1.2当量の範囲が適当であり、得られる塗膜に縮み模様が発生しないことが必要である。
【0055】
硬化触媒の配合量は、反応促進効果及び得られる塗膜の加工性、耐水性などの観点から、前記樹脂バインダ100質量部に基き、酸量で(有機スルホン酸のアミン中和物の場合は、アミン化合物を除いた有機スルホン酸の量で)0.1〜3.0質量部、好ましくは0.2〜2.5質量部、さらに好ましくは0.5〜2.0質量部であることが好適である。
【0056】
前記脱水剤は、塗料中の水分を捕捉するものであり、例えば、オルト酢酸トリメチル、オルト蟻酸トリメチルなどを挙げることができる。配合する場合には、前記樹脂バインダ100質量部に基き、0.1〜20質量部の範囲内が好適である。
【0057】
前記二酸化チタン顔料(F)以外の着色顔料としては、塗料分野で使用できる各種着色顔料を挙げることができ、例えばシアニンブルー、シアニングリーン、アゾ系やキナクリドン系などの有機赤顔料などの有機着色顔料;チタンエロー、ベンガラ、カーボンブラック、各種焼成顔料などの無機着色顔料が使用できる。
【0058】
本発明の熱硬化型上塗塗料組成物は、上記(A)〜(F)成分、及び必要に応じて、上記その他の成分を均一に混合することによって製造することができる。好ましくは、顔料分を予め、樹脂(A)の一部及び/又は顔料分散剤と混合、分散して顔料ペーストを作成し、このものを残りの成分と混合することによって製造できる。本発明の塗料組成物は、一液型塗料とすることもできるが、(C)成分であるオルガノシリケート及び/又はその縮合物を他の成分と分離しておき、使用直前に混合する二液型塗料とすることもできる。
【0059】
本発明の上塗塗料組成物を塗装する方法としては、塗料組成物を必要に応じて有機溶剤などを添加することにより所望の粘度に調整した後、エアスプレー、静電エアスプレー、ロールコータ、カーテンフローコータ、浸漬塗装機、刷毛、バーコータ、アプリケータなどを用いて乾燥後の塗膜の膜厚が通常0.5〜300μm、好ましくは5〜50μmになるように塗布し、通常80〜300℃の温度で5秒〜1時間かけて硬化させる方法などが挙げられる。なお、塗装方法は、上記の方法のうち、スプレー、カーテンフローコータやロールコータによる塗装方法が好適である。
【0060】
塗膜形成方法
本発明の塗膜形成方法は、金属板上に、少なくとも一層のプライマー塗膜を介して、上記本発明の熱硬化型上塗塗料組成物を塗装する方法である。
【0061】
本発明の塗膜形成方法における被塗物である金属板としては、冷延鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、合金亜鉛メッキ鋼板(鉄−亜鉛、アルミニウ−亜鉛、ニッケル−亜鉛などの合金亜鉛メッキ鋼板)、アルミニウム板、ステンレス鋼板、銅板、銅メッキ鋼板、錫メッキ鋼板等が挙げられる。
【0062】
金属類に塗装する場合に被塗装材である金属表面が油等汚染物質で汚染されていなければそのまま塗装してもかまわないが、塗膜との間の付着性、耐食性を改善するために公知の金属表面処理を施すのが望ましい。これら公知の表面処理方法としてリン酸塩系表面処理、クロム酸塩系表面処理、ジルコニウム系表面処理などが挙げられる。
【0063】
金属板上にプライマー塗膜を形成するプライマーとしては、着色カラー鋼板塗装分野、産業用機械塗装分野、金属部品塗装分野などで用いられる公知のプライマーが適用でき、被塗装材の種類、金属表面処理の種類によって適宜選択されるが、特にエポキシ系、ポリエステル系プライマーおよびそれらの変性プライマーが好適であり、加工性が特に要求される場合はポリエステル系プライマーが好適である。プライマーは、プライマー塗膜厚が、1〜30μm、好ましくは2〜20μmとなるようにロール塗装、スプレー塗装など公知の塗装方法により塗装され、通常、雰囲気温度80〜300℃の温度で5秒〜1時間、プレコート塗装する場合には、好ましくは、素材到達最高温度が140〜250℃となる条件で15秒間〜120秒間加熱硬化される。
【0064】
プライマー塗膜は一層であってもよいし、第1のプライマー塗膜の上に第2のプライマー塗膜(中塗塗膜)が形成された二層であってもよい。プライマー塗膜を二層とする場合、第1のプライマー塗膜に防食機能を持たせ、第2のプライマー塗膜(中塗塗膜)に、加工性、耐チッピング性能を持たせるなど、二層のプライマー塗膜に異なる機能を持たせることもできる。
【0065】
本発明の塗膜形成方法においては、上記プライマー塗膜の上に本発明の熱硬化型上塗塗料組成物が塗装される。塗装方法としては、カーテン塗装、ロールコータ塗装、浸漬塗装およびスプレー塗装などを挙げることができ、通常、乾燥後の塗膜厚が5〜50μm、好ましくは8〜25μmの範囲内となるように塗装される。
【0066】
本発明の塗料組成物をプレコート塗装する場合、その塗装方法に制限はないがプレコート鋼板塗装の経済性からカーテン塗装、ロールコータ塗装が推奨される。ロールコータ塗装を適用する場合には、実用的には通常の2本ロールによるボトムフィード方式(いわゆるナチュラルリバース塗装、ナチュラル塗装)が好適に行われるが、塗面の均一性を最良のものにするため3本ロールによるトップフィードもしくはボトムフィード方式を行うこともできる。本発明組成物による上塗塗膜の硬化条件は、通常、素材到達最高温度120〜260℃で15秒〜30分間程度である。コイルコーティングなどによって塗装するプレコート塗装分野においては、通常、素材到達最高温度160〜260℃で焼付時間15〜90秒間の範囲で行なわれる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、以下、「部」および「%」はいずれも質量基準によるものである。
製造例1(比較用)
温度計、攪拌機、加熱装置及び精留塔を具備した反応装置に、イソフタル酸1079部、アジピン酸407部、ネオペンチルグリコール466部、トリメチロールプロパン802部を仕込み、160℃まで昇温し、160℃から230℃まで3時間かけて徐々に昇温し、230℃で30分間反応を続けた後、精留塔を水分離器と置換し、内容部にキシレン124部を加え水分離器にもキシレンを入れて、水とキシレンとを共沸させて縮合水を除去し酸価が10mgKOH/gになるまで反応させ、冷却し、シクロヘキサノン855部、スワゾール1500を951部、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル95部を加え、固形分55%のポリエステル樹脂溶液Bを得た。得られた樹脂は、水酸基価184mgKOH/g、数平均分子量2400、Tg点−18℃を有していた。
【0068】
実施例1〜19および比較例1〜6
後記表1に示す組成配合にて、塗料化を行ない各上塗塗料を得た。得られた各上塗塗料の隠蔽硬化塗膜の明度V値はいずれも7.8〜8.9の範囲内であった。
【0069】
厚さ0.5mmのリン酸亜鉛処理電気亜鉛メッキ鋼板上に、関西ペイント社製KPカラー8620プライマー(プレコート鋼板用ポリエステル系プライマー)を乾燥膜厚が5μmとなるよう塗装し、素材到達最高温度220℃となるよう45秒間焼付け、プライマー塗装鋼板を得た。このプライマー塗装鋼板上に上記実施例及び比較例で得た各上塗塗料をバーコータにて乾燥膜厚が約18μmとなるよう塗装し、素材到達最高温度が230℃となるよう60秒間焼付けて各上塗塗装鋼板を得た。得られた塗装鋼板について各種試験(塗装作業性の試験は別途行った)を行なった。
【0070】
その試験結果を表1に示す。なお、表1における基体樹脂、架橋剤、オルガノシリケート、オルガノシリケートの縮合物の量は固形分質量による表示であり、(注7)及び(注8)の硬化触媒(アミン中和)の量は有効成分量(スルホン酸化合物とアミン化合物との和)による表示である。なお、実施例および比較例の塗料化に際しては、チタン白顔料の分散を行ない、また、シクロヘキサノン/スワゾール1500(丸善石油(株)製、芳香族石油系高沸点溶剤)=60/40(質量比)の混合溶剤を粘度調整などのために使用した。塗装に際しては、塗料粘度をフォードカップ#4で約100秒(25℃)に調整した。
【0071】
なお、表1中における試験は下記試験方法に従って行なった。
【0072】
塗面外観:塗面(30cm×30cm)の外観を肉眼で観察し、下記基準により評価した。
◎:塗面の平滑性が良好で、ハジキ、凹み、曇りなどの塗面異常が認められない。
○:塗面にハジキ、凹み、曇りなどの塗面異常は認められないが、塗面の平滑性が少し劣る。
△:塗面にハジキ、凹み、曇りなどの塗面異常は認められないが、塗面の平滑性がかなり劣る。
×:塗面にハジキ、凹み、曇りなどの塗面異常が認められる。
【0073】
光沢:JIS K5400 7.6(1990)の鏡面光沢度(60度)に準じて塗面の光沢を測定した。
【0074】
鉛筆硬度:JIS K5400 8.4.2(1990)に規定する鉛筆引っかき試験を行ない、破れ法による評価を行なった。
【0075】
加工性:20℃の室内において、塗面を外側にして試験板を180°折曲げて、折曲げ部分にワレが発生しなくなるT数を表示した。T数とは、折曲げ部分の内側に何もはさまずに180°折曲げを行なった場合を0T、試験板と同じ厚さの板を1枚はさんで折曲げた場合、1T、2枚の場合2T、…6枚の場合6Tとした。
【0076】
屋外暴露試験:屋外曝露試験試験片(100×300×0.5mm)を軒先をモデル化した設置台に、北側に塗膜を面するように取り付け、尼崎市神崎町の関西ペイント(株)屋上にて曝露試験を行い、耐汚染性及び耐雨すじ汚染性を下記基準にて評価した。耐汚染性は曝露前後の色差(ΔE)をJIS Z8370に基づいて、スガ試験機(株)製の多光源分光測色計MSC−5Nを用いて測定した。雨垂れ汚染性は目視にて判定した。
・屋外暴露試験後の耐汚染性(ΔE)
◎:2未満、
〇:2以上でかつ3未満
△:3以上でかつ5未満、
×:5以上。
・屋外暴露試験後の耐雨すじ汚染性
◎:雨すじ跡が見られない、
〇:雨すじ跡がわずかに認められる、
△:雨すじ跡がかなり認められる、
×:雨すじ跡が濃く残る。
【0077】
耐カーボン汚染性:カーボンブラック/水=2/98(重量比)の割合の分散液1ccを塗面上に載せ、70℃の恒温室内で2時間放置後、水洗を行ない、分散液を載せた部分の塗面の変色程度を目視にて判定した。
◎:跡が認められない、
〇:跡がわずかに認められる、
△:かなり跡が残る、
×:跡が濃く残る。
【0078】
促進耐候性:サンシャインウェザオメータにて1,000時間試験を行なった。試験前の塗板に対する試験後の塗板の光沢保持率(60度グロス)を記載した。
【0079】
耐溶剤性:20℃の室内においてメチルエチルケトンを浸み込ませたガーゼにて塗面に約1kg/cmの荷重をかけて、約5cmの長さの間を往復させた。プライマー塗膜が見えるまでの往復回数を記載した。50回の往復でプライマー塗膜が見えないものは50<と表示した。
【0080】
塗料貯蔵安定性:1/4L丸缶に、粘度約100秒(フォードカップ#4、25℃)に調整した塗料250gを入れて密封し、40℃の部屋に5日間放置後、塗料状態を目視評価し、試験後における塗料粘度測定をフォードカップ#4を用いて、25℃にて行い、下記基準により評価した。
◎:塗料状態の変化が認められず、粘度変化が殆ど認められない、
○:塗料状態の変化が認められないが、粘度変化が少し認められる、
△:塗料の流動性が低下し、粘度変化が著しい、
×:ゲル化状態になり、試験後塗料の粘度測定不能。
【0081】
塗装作業性:ロールコータ塗装時の塗装作業性の試験を行った。塗装条件は、25℃における塗料の塗装粘度80秒/フォードカップ#4、ラインスピード100m/分、アプリケーションロールの周速130m/分、ピックアップロールの周速50m/分とし、ブリキ板上に乾燥塗膜厚約18μmとなるように塗装し焼付けた。得られた塗装板について、下記の基準にて評価した。
◎:塗面にロール目がなく、平滑性も良好、
○:塗面にロール目がわずかに認められるが、平滑性は良好、
△:塗面にロール目がかなり認められ、塗膜の平滑性が少し劣る、
×:塗面にロール目が著しく認められ、塗膜の平滑性が劣る。
【0082】
なお、表1における註は下記のとおりである。
(注1)バイロンKS−1430V:東洋紡績(株)製、ポリエステル樹脂、樹脂の数平均分子量12000、水酸基価11mgKOH/g、Tg点1℃。
(注2)バイロンKS−1520V:東洋紡績(株)製、ポリエステル樹脂、樹脂の数平均分子量6400、水酸基価約42mgKOH/g、Tg点2℃。
(注3)バイロンKS−1660V:東洋紡績(株)製、ポリエステル樹脂、樹脂の数平均分子量2700、水酸基価98mgKOH/g、Tg点12℃。
(注4)サイメル303:日本サイテックインダストリイズ(株)製、低分子量メチル化メラミン樹脂。
(注5)ニカラックMS95:三和ケミカル社製、低核体メチルエーテル、ブチルエーテルの混合エーテル化メラミン樹脂。
(注6)ユーバン20SE−60:三井化学社製、ブチルエーテル化メラミン樹脂。
(注7)PTSA中和物:p−トルエンスルホン酸のジn−ブチルアミンによる中和物。酸のアミンによる中和当量は1.0、アミン/p−トルエンスルホン酸(質量比)は約43/52。
(注8)ネイキュア5225:商品名、米国キング・インダストリーズ製、ドデシルベンゼンスルホン酸の第2級アミン中和物のイソプロパノール溶液。アミン/DDBSAの中和度は約1.1(モル比)。有効成分約33重量%で、うち、アミン/DDBSA(質量比)は約8/25。
(注9)MS58B15:三菱化学社製、商品名「MKCシリケートMS58B15」、テトラアルコキシシランの縮合物であるメチル/n−ブチル混合エステル化シリケート、メチル/ブチル数の比率は85/15。
(注10)MS58B30:三菱化学社製、商品名「MKCシリケートMS58B30」、テトラアルコキシシランの縮合物であるメチル/ブチル混合エステル化シリケート、メチル/ブチル数の比率は70/30。
(注11)MS56S:三菱化学社製、商品名「MKCシリケートMS56S」、テトラメトキシシランの縮合物であるメチルエステル化シリケート。
(注12)エチルシリケート40:商品名、コルコート社製、テトラエトキシシランの縮合物であるエチルエステル化シリケート。
(注13)X−41−1805:信越化学工業社製、商品名、メルカプトアルキル基含有トリアルコキシシランの縮合物、メルカプトアルキルの炭素数は18以下、アルコキシ基の炭素数は6以下である。
(注14)X−41−1053:信越化学工業社製、商品名、エポキシアルキル基含有トリアルコキシシランの縮合物エポキシアルキル基の炭素数は18以下、アルコキシ基の炭素数は6以下である。
(注15)タイペークCR−93:商品名、石原産業社製、チタン白、乾量基準含水率22ml/100g。
(注16)タイピュアR−960:商品名、デュポン社製、チタン白、乾量基準含水率25ml/100g。
(注17)タイペークCR−58:商品名、石原産業社製、チタン白、乾量基準含水率43ml/100g。
(注18)サイリシア450:商品名、冨士シリシア化学社製、無処理シリカ微粒子、吸油量220ml/100g。
(注19)アエロジルR−972:商品名、冨士シリシア化学社製、無処理シリカ微粒子、吸油量190ml/100g。
(注20)サイロイドC305:商品名、GRACE(グレース)GMBH社製、シリカ微粒子、吸油量310ml/100g。
(注21)サイリシア740:商品名、冨士シリシア化学社製、無処理シリカ微粒子、吸油量100ml/100g。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)3〜180mgKOH/gの水酸基価を有する水酸基含有塗膜形成性樹脂60〜95質量部と(B)メチルエーテル化メラミン樹脂を50質量%以上含有するアミノ樹脂架橋剤5〜40質量部とを含有する樹脂バインダ100質量部に対して、(C)一般式:(R −Si−(OR4−n (式中、Rはエポキシ基もしくはメルカプト基で置換されていてもよい炭素数1〜18のアルキル基又はフェニル基であり、Rは炭素数が1〜6のアルキル基であり、nは0または1である。)で表わされるオルガノシリケート及び/又はその縮合物0.1〜50質量部、(D)ホウ酸系化合物0.1〜10質量部、(E)吸油量が110〜320ml/100gの無処理シリカ微粒子0.1〜30質量部及び(F)乾量基準含水率が18〜35ml/100gである二酸化チタン顔料を着色顔料の少なくとも一部として、50〜150質量部を含有する上塗塗料であって、該塗料から形成される隠蔽硬化塗膜のJIS Z 8721(1993)に規定される明度V値が7以上であることを特徴とする熱硬化型上塗塗料組成物。
【請求項2】
水酸基含有塗膜形成性樹脂(A)が、水酸基含有ポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1記載の上塗塗料組成物。
【請求項3】
(C)成分が、前記一般式で表されるオルガノシリケートの縮合物であって、OR基が炭素原子数1〜6のアルコキシ基であり、かつOR基におけるメトキシ基/炭素原子数2〜6のアルコキシ基との数の比が100/0〜30/70の範囲内であることを特徴とする請求項1又は2に記載の上塗塗料組成物。
【請求項4】
さらに、樹脂バインダ100質量部に基き、有機スルホン酸系硬化触媒を有機スルホン酸量として0.1〜3.0質量部含有することを特徴とする請求項項1〜3のいずれか一項に記載の上塗塗料組成物。
【請求項5】
金属板上に、少なくとも一層のプライマー塗膜を介して、請求項1〜4のいずれか一項に記載の上塗塗料組成物を塗装することを特徴とする塗膜形成方法。
【請求項6】
金属板上に、少なくとも一層のプライマー塗膜及び請求項1〜4のいずれか一項に記載の上塗塗料組成物による硬化塗膜が順次形成されてなることを特徴とする塗装金属板。

【公開番号】特開2008−81719(P2008−81719A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−37944(P2007−37944)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】