説明

不可逆回転伝動系のロック解除制御装置

【課題】非伝動時は出力側負荷トルクでロック状態にされる不可逆回転伝動素子のロック解除を、ロック解除に要するトルクが大きい方の回転時も高応答でロック解除可能にする。
【解決手段】クランクシャフトを負荷トルクと同方向へ回転させる逆回転時のロック解除は、大きなロック解除トルクが必要であるが、この時は、クランクシャフト回転角θを図示の指令値tθに追従させる場合につき説明すると、ロック解除開始時t1から終了時t2までの間、モータトルクとして回転位置制御用トルクTmを設定せずにロック解除トルクTLoffのみを設定し、t2に至るとき、TLoff=0により、モータトルクとして回転位置制御用トルクTmのみを設定する。この対策を施さない場合、TmおよびTLoffの相互干渉により、太い破線で示すごとく、ロック解除が遅れるが、t1〜t2の間モータトルク=Tmにすることで、ロック解除遅れに関する問題を回避し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転位置制御などに有用な不可逆回転伝動系のロック解除制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば回転位置制御を行うなどのための回転伝動系は、アクチュエータからのトルクを制御対象に伝達し、制御対象が目標の回転位置になるときアクチュエータを停止状態に保って当該目標回転位置を保つよう作用する。
【0003】
ところで制御対象によっては、これを目標回転位置に保つべくアクチュエータを停止状態に保つとき、アクチュエータに一定方向の反力(負荷トルク)を逆入力させることがある。
この場合、制御対象を目標回転位置に保つべくアクチュエータを停止状態に保つためには、アクチュエータに逆入力される一定方向の反力(負荷トルク)と同じ大きさの逆向き対抗トルクを出力するようアクチュエータを絶えず駆動制御する必要があり、アクチュエータの駆動エネルギーが多くなるという問題のほかに、制御が煩わしくなるという問題を生ずる。
【0004】
アクチュエータへ逆入力される反力(負荷トルク)に対する対策としては従来、特許文献1に記載のように、制御対象の回転位置(回転角)ごとに変動する非線形な反力(負荷トルク)を、逐一検出した制御対象の回転位置(回転角)に応じたアクチュエータトルクのフィードフォワード補償により制御することで、制御が煩わしくなるという上記の問題に対処する技術が提案されている。
【0005】
一方で、アクチュエータの駆動エネルギーが多くなるという上記問題の解決策としては、制御系を不可逆回転伝動系に構成して、つまり、アクチュエータから制御対象へトルクが伝達されない非伝動時は、制御対象の反力(負荷トルク)によりロック状態となり、この反力(負荷トルク)がアクチュエータへ伝達されるのを阻止する不可逆回転伝動素子を挿置して、アクチュエータへ逆入力される反力(負荷トルク)がアクチュエータ向かうことのないようにし、これによりアクチュエータを絶えず駆動制御する必要をなくすことが考えられる。
【0006】
ところでこの場合、アクチュエータから制御対象へトルクを伝達する制御時に、先ず不可逆回転伝動素子に対し、アクチュエータ回転方向のロック解除トルクを加えて、不可逆回転伝動素子をロック解除状態にするようアクチュエータを駆動制御する必要があり、その後に不可逆回転伝動素子を介してアクチュエータトルクを制御対象に向かわせることとなる。
この場合におけるロック解除トルクを軽減する対策として従来、特許文献2に記載のごとく、高周波振動を与えることにより、ロック状態を作り出している摩擦力を低減する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−003773号公報
【特許文献2】特開2007−002934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、アクチュエータから制御対象に至る制御系が、不可逆回転伝動素子の挿置により不可逆回転伝動系に構成されている場合、特許文献1,2の技術を用いても、以下のような問題を生ずる。
【0009】
つまり、回転位置制御に際しては上記した通り、先ず不可逆回転伝動素子に対し、アクチュエータ回転方向のロック解除トルクを加えて、不可逆回転伝動素子をロック解除状態にする必要があるが、
ロック解除が未だ完了しておらず不可逆回転伝動素子が未だロック状態である間は、特許文献1の技術を用い、アクチュエータへ逆入力される制御対象からの反力(負荷トルク)をフィードフォワード補償しようとしても、当該反力(負荷トルク)がアクチュエータまで達していないため、特許文献1で主張する通りの効果を得ることはできない。
【0010】
そればかりか、不可逆回転伝動素子が未だロック状態である間は、特許文献1の技術が逆に、ロック解除トルクとは逆方向のトルク補償を行ってしまうことがあり、フィードバック補償器の出力がたまってロック解除トルクに到達するのを待つため、応答の立ち上がりに遅れが生じたり、或いは、フィードバック補償器の出力がたまることによってロック解除後の応答悪化が生じてしまうという問題を生ずる。
【0011】
また、ロック解除トルクを軽減すべく特許文献2の技術を用いて、高周波振動を与えることにより、ロック状態を保っている摩擦力を低減しようとしても、本来の効果が得られない。
つまり、制御対象からの反力(負荷トルク)が大きいと、不可逆回転伝動素子内におけるロック機構の係合子が強力に噛み込まれており、アクチュエータを当該反力(負荷トルク)と同じ方向へ駆動させて回転位置制御を行う場合、特許文献2の技術を用いて不可逆回転伝動素子のロック機構に対し高周波振動を与えるだけではロック解除トルクを十分に小さくすることができず、不可逆回転伝動素子を迅速にロック解除することができず、大きな応答遅れが発生するという問題を生ずる。
【0012】
本発明は、制御対象からの反力(負荷トルク)の方向に対するロック解除時のアクチュエータ回転方向に応じ、不可逆回転伝動素子へのロック解除トルクの大きさを異ならせることにより、ロック解除の応答遅れが問題となる方向のアクチュエータ回転時も、ロック解除応答を所定通りのものに維持して、上記特許文献1,2の技術を用いた場合のロック解除応答に関する問題を解消し得るようにした不可逆回転伝動系のロック解除制御装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的のため本発明による不可逆回転伝動系のロック解除制御装置は、これを以下のように構成する。
先ず前提となる不可逆回転伝動系を説明するに、これは、
アクチュエータからトルクを入力される入力軸と、
該入力軸からのトルクを出力する出力軸と、
これら入力軸および出力軸間にあって、入力軸から出力軸へトルクを伝達する伝動時は該トルクがロック解除トルク以上となるよう前記アクチュエータを駆動制御することでロック解除状態となって前記トルク伝達を可能にするが、入力軸から出力軸へトルクが伝達されない非伝動時は出力軸の負荷トルクによりロック状態にされて出力軸の負荷トルクが入力軸へ伝達されるのを阻止する不可逆回転伝動素子とを具備するものである。
【0014】
本発明は、かかる不可逆回転伝動系に対し、以下のようなロック解除時入力軸回転方向判別手段およびロック解除トルク設定手段を設けた構成に特徴づけられる。
前者のロック解除時入力軸回転方向判別手段は、上記ロック解除時の入力軸回転方向が、上記出力軸負荷トルクの方向と同じであるのか、逆の方向であるのかを判別するものである。
また後者のロック解除トルク設定手段は、上記ロック解除時入力軸回転方向判別手段の判別結果に応答し、ロック解除時の入力軸回転方向が出力軸負荷トルクの方向と同じであるとき、逆方向であるときよりも上記ロック解除トルクを大きくするものである。
【発明の効果】
【0015】
かかる本発明による不可逆回転伝動系のロック解除制御装置にあっては、ロック解除時の入力軸回転方向が出力軸負荷トルクの方向と同じであるとき、逆方向であるときよりもロック解除トルクを大きくするため、以下のような作用効果が奏し得られる。
【0016】
ロック解除時の入力軸回転方向が出力軸負荷トルクの方向と同じであって、出力軸に加わる負荷トルクと同方向にロック解除する場合は、出力軸に加わっている大きな負荷トルクの影響で不可逆回転伝動素子の係合噛み込み力が大きくなっている方の係合子をロック解除方向へ押して不可逆回転伝動素子のロック解除を行うことになる。
しかし本発明においては、この場合ロック解除トルクを大きくするため、ロック解除の応答遅れが問題となる方向のアクチュエータ回転時も、上記の大きなロック解除トルクによりロック解除応答を所定通りのものに維持し得て、前記したロック解除応答に関する問題を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施例になる不可逆回転伝動系のロック解除制御装置を内蔵する駆動力配分装置1をトランスファとして具えた四輪駆動車両のパワートレーンを、車両上方から見て示す概略平面図である。
【図2】図1における駆動力配分装置の縦断側面図である。
【図3】図2に示す駆動力配分装置で用いたクランクシャフトを示す縦断正面図である。
【図4】図2に示すトランスファの動作説明図で、 (a)は、クランクシャフト回転角が基準点の0°である位置における第1ローラおよび第2ローラの離間状態を示す動作説明図、 (b)は、クランクシャフト回転角が90°である時における第1ローラおよび第2ローラの接触状態を示す動作説明図、 (c)は、クランクシャフト回転角が180°である時における第1ローラおよび第2ローラの接触状態を示す動作説明図である。
【図5】図2に示す駆動力配分装置のクランクシャフト回転角に対するクランクシャフト駆動反力トルク(負荷トルク)の変化特性を示す線図である。
【図6】図2の駆動力配分装置におけるトルクダイオードを、その出力軸側から軸線方向に見て示す端面図である。
【図7】図4に示すトルクダイオードの縦断側面図である。
【図8】図6,7に示すトルクダイオードの作用説明図で、 (a)は、駆動力配分制御用の入力トルクが存在しない状態における、トルクダイオードの不可逆回転伝動作用を説明するための説明図、 (b)は、駆動力配分制御用の入力トルクが発生した直後における状態を説明するための説明図、 (c)は、駆動力配分制御用の入力トルクが出力軸に伝達され始めた時の状態を説明するための説明図である。
【図9】図1におけるトランスファコントローラの機能別ブロック線図である。
【図10】図2における駆動力配分装置のクランクシャフト駆動反力トルクと、これに抗してトルクダイオードをロック解除するのに必要なロック解除トルクとの関係を示す線図である。
【図11】図9におけるロック解除トルク演算部がロック解除トルクの演算に際して実行する制御プログラムを示すフローチャートである。
【図12】ロック解除トルクの初回設定値でトルクダイオードのロック解除が終了しなかった場合に、図11の制御プログラムがロック解除トルクを増大させる要領を示すタイムチャートである。
【図13】図9のトランファコントローラによるクランクシャフト正回転時の動作タイムチャートである。
【図14】図9のトランファコントローラによるクランクシャフト逆回転時の動作タイムチャートである。
【図15】本発明の第2実施例になる不可逆回転伝動系のロック解除制御装置を示す、図11に対応する制御プログラムのフローチャートである。
【図16】ロック解除トルクの初回設定値でトルクダイオードのロック解除が終了しなかった場合に、図15の制御プログラムがロック解除トルクを増大させる要領を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を、図示の実施例に基づき詳細に説明する。
<第1実施例の構成>
図1は、本発明の第1実施例になる不可逆回転伝動系のロック解除制御装置を内蔵する駆動力配分装置1をトランスファとして具えた四輪駆動車両のパワートレーンを、車両上方から見て示す概略平面図で、
本実施例においては不可逆回転伝動系を後述するごとく、駆動力配分装置1の駆動力配分制御系として用いる。
【0019】
図1の四輪駆動車両は、エンジン2からの回転を変速機3による変速後、リヤプロペラシャフト4およびリヤファイナルドライブユニット5を順次経て左右後輪6L,6Rに伝達するようにした後輪駆動車をベース車両とし、
左右後輪(主駆動輪)6L,6Rへのトルクの一部を、駆動力配分装置1により、フロントプロペラシャフト7およびフロントファイナルドライブユニット8を順次経て左右前輪(従駆動輪)9L,9Rへ伝達することにより、四輪駆動走行が可能となるようにした車両である。
【0020】
駆動力配分装置1は、上記のごとく左右後輪(主駆動輪)6L,6Rへのトルクの一部を左右前輪(従駆動輪)9L,9Rへ分配して出力することにより、左右後輪(主駆動輪)6L,6Rおよび左右前輪(従駆動輪)9L,9R間の駆動力配分比を決定するもので、本実施例においては、この駆動力配分装置1を図2に示すように構成する。
【0021】
図2において、11はハウジングを示し、このハウジング11内に主軸12および副軸13を、それぞれの回転軸線O1およびO2が相互に平行になるよう配して、回転自在に横架する。
主軸12の両端をそれぞれ、ハウジング11から突出させ、図2において該主軸12の左端を変速機3(図1参照)の出力軸に結合し、右端はリヤプロペラシャフト4(図1参照)を介してリヤファイナルドライブユニット5に結合する。
【0022】
主軸12の軸線方向中程には、第1ローラ31を同心に一体成形して設け、副軸13の軸線方向中程には、第2ローラ32を同心に一体成形して設け、これら第1ローラ31および第2ローラ32を共通な軸直角面内に配置する。
【0023】
副軸13は、第1ローラ31の軸線方向両側で主軸12に対し相対回転可能に吊下したベアリングサポート23,25を介し、以下のような構成によりハウジング11に対し間接的に回転自在に支持する。
つまり、副軸13の軸線方向中程に一体成形した第2ローラ32の軸線方向両側に配置して、副軸13の両端部に中空のクランクシャフト51L,51Rを遊嵌する。
これらクランクシャフト51L,51Rの中心孔51La,51Ra(半径をRiで図示した)と、副軸13の両端部との遊嵌部に軸受52L,52Rを介在させて、副軸13をクランクシャフト51L,51Rの中心孔51La,51Ra内で、これらの中心軸線O2の周りに自由に回転し得るよう支持する。
【0024】
クランクシャフト51L,51Rには図3に明示するごとく、中心孔51La,51Ra(中心軸線O2)に対し偏心した外周部51Lb,51Rb(半径をRoで図示した)を設定し、これら偏心外周部51Lb,51Rbの中心軸線O3は中心孔51La,51Raの軸線O2(第2ロータ32の回転軸線)から、両者間の偏心分εだけオフセットしている。
クランクシャフト51L,51Rの偏心外周部51Lb,51Rbはそれぞれ図2に示すごとく、軸受53L,53Rを介して対応する側におけるベアリングサポート23,25内に回転自在に支持する。
【0025】
クランクシャフト51Lおよび副軸13をそれぞれ図2の左端においてハウジング11から突出させ、ハウジング11から突出するクランクシャフト51Lの左端は、フロントプロペラシャフト7(図1参照)およびフロントファイナルドライブユニット8を介して左右前輪9L,9Rに結合する。
【0026】
図2に示すように、クランクシャフト51L,51Rの相互に向き合う隣接端にそれぞれ、偏心外周部51Lb,51Rbと同心で、同仕様のリングギヤ51Lc,51Rcを一体に設け、これらリングギヤ51Lc,51Rcに、共通なクランクシャフト駆動ピニオン55を噛合させる。
なおこの噛合に当たっては、クランクシャフト51L,51Rを両者の偏心外周部51Lb,51Rbが円周方向において相互に整列する回転位置にした状態で、クランクシャフト駆動ピニオン55をリングギヤ51Lc,51Rcに噛合させる。
【0027】
クランクシャフト駆動ピニオン55はピニオンシャフト56に結合し、ピニオンシャフト56の両端を軸受56a,56bによりハウジング11に回転自在に支持する。
図2の右側におけるピニオンシャフト56の右端をハウジング11に貫通してこれから突出させ、
該ピニオンシャフト56の露出端部は、不可逆回転伝動素子であるトルクダイオード61を介してローラ間押し付け力制御モータ45のモータ軸45aに駆動結合する。
【0028】
ローラ間押し付け力制御モータ45によりトルクダイオード61、ピニオン55およびリングギヤ51Lc,51Rcを介しクランクシャフト51L,51Rを回転位置制御するとき、副軸13および第2ローラ32の回転軸線O2が図3に破線で示す軌跡円αに沿って旋回する。
【0029】
図3の軌跡円αに沿った回転軸線O2(第2ローラ32)の旋回により、第2ローラ32が図4(a)〜(c)に示すごとく第1ローラ31に対し径方向へ接近し、これら第1ローラ31および第2ローラ32のローラ軸間距離L1(図2も参照)をクランクシャフト51L,51Rの回転角θの増大につれ、第1ローラ31の半径と第2ローラ32の半径との和値よりも小さくすることができる。
かかるローラ軸間距離L1の低下により、第1ローラ31に対する第2ローラ32の径方向押圧力(ローラ間伝達トルク容量)が大きくなり、ローラ軸間距離L1の低下度合いに応じてローラ間径方向押圧力(ローラ間伝達トルク容量)を任意に制御することができる。
【0030】
なお図4(a)に示すように本実施例では、第2ローラ回転軸線O2がクランクシャフト回転軸線O3の直下に位置し、第1ローラ31および第2ローラ32の軸間距離L1が最大となる下死点でのローラ軸間距離L1を、第1ローラ31の半径と第2ローラ32の半径との和値よりも大きくする。
これにより当該クランクシャフト回転角θ=0°の下死点においては、第1ローラ31および第2ローラ32が相互に径方向へ押し付けられることがなく、ローラ31,32間でトラクション伝動が行われないトラクション伝動容量=0の状態を得ることができ、
トラクション伝動容量を下死点での0と、図4(c)に示す上死点(θ=180°)で得られる最大値との間で任意に制御することができる。
【0031】
なお本実施例では、クランクシャフト51L,51Rの回転角基準点をクランクシャフト回転角θ=0°の下死点であることとして説明を展開する。
【0032】
そして、クランクシャフト回転角θに応じクランクシャフト51L,51Rには、トランスファ1の構成上、後で詳述するが、図5に示すような駆動反力トルクTcrが作用する。
【0033】
<トルクダイオード>
図2のごとくモータ軸45aとピニオンシャフト56との結合部に介在させたトルクダイオード61は、ローラ間押し付け力制御モータ45(モータ軸45a)からの回転操作力が何れ方向のものであっても、ローラ間押し付け力制御モータ45(モータ軸45a)からピニオンシャフト56への伝動を自由に行わせるが、逆にピニオンシャフト56からローラ間押し付け力制御モータ45(モータ軸45a)への逆伝動をピニオンシャフト56の両方向回転ロックにより行わせないようにする不可逆回転伝動素子の用をなすもので、図6〜8につき以下に説明するような構成とする。
【0034】
つまりトルクダイオード61は、その円筒形のケース62を図2に示すごとくハウジング11に取着して固定する。
図6,7に示すごとく、かかる固定ケース62の軸線方向一方側から入力軸63を、また軸線方向他方側から出力軸64を、相互に同軸となるよう配して固定ケース62内に進入させる。
入力軸63は軸受65により固定ケース62に対し回転自在に支持し、出力軸64は軸受66により固定ケース62に対し回転自在に支持する。
【0035】
固定ケース62内における出力軸64の進入端部を図8に明示するごとく、軸線方向に見て六角形の拡大端部64aとなす。
かかる六角形拡大端部64aの各辺を成す外周平坦面と、固定ケース62の円筒内周面との間に、一対1組の噛み込みローラ67L,67Rを、ローラ軸線が入出力軸63,64の軸線と平行になるよう配して介在させる。
【0036】
図6,8に示すごとく、これら噛み込みローラ67L,67R間にバネ68を介在させて噛み込みローラ67L,67Rを相互に離間する方向へ附勢し、
これにより噛み込みローラ67L,67Rをそれぞれ図6および図8(a)に示すごとく、六角形拡大端部64aの対応する外周平坦面と、固定ケース62の円筒内周面との間における円周方向漸減隙間に噛み込ませる。
【0037】
固定ケース62内における入力軸63の進入端部には、図6および図8(a)に示すごとく、各一対1組の噛み込みローラ67L,67Rをローラ配列方向両側から挟んでローラ保持器の用をなすよう、六角形拡大端部64aの各角部と、固定ケース62の円筒内周面との間における最小隙間に位置させて、ローラ保持爪63L,63Rを設ける。
しかして、ローラ保持爪63L,63Rと、これに隣接するローラ67L,67Rとの間には、図6(a)にαで示すごとく、常態で隙間が存在するようになす。
【0038】
固定ケース62内における入力軸63の進入端部には更に、図7および図8(a)に示すごとく、六角形拡大端部64aに向け軸線方向に突出する複数の駆動ピン63aを設け、
六角形拡大端部64aの端面には、これら各駆動ピン63aが所定の径方向隙間β(β>α)をもって遊嵌する盲孔64bを穿設する。
【0039】
上記の構成になるトルクダイオード61は、図2に示すように、ケース62をハウジング11に固着し、入力軸63をローラ間押し付け力制御モータ45のモータ軸45aに結合し、出力軸64をピニオンシャフト56に結合して、駆動力配分装置1に実用する。
【0040】
<トルクダイオードの不可逆回転伝動作用>
トルクダイオード61の作用を、図8(a),(b),(c)に基づき以下に説明する。
図8(a)は、図2のモータ45が非作動状態でモータ45から入力軸63へトルクが入力されないときの状態を示す。
この場合、入力軸63のローラ保持爪63L,63Rが、隣接するローラ67L,67Rからそれぞれ隙間αをもって離れた中立位置にあり、また入力軸63の駆動ピン53aが、出力軸64(六角形拡大端部64a)に設けた盲孔64bの中心位置にある。
【0041】
この状態で出力軸64(六角形拡大端部64a)から、図5につき前述した負荷トルクの逆入力があっても、出力軸64(六角形拡大端部64a)は以下のようにして回転を阻止される。
出力軸64(六角形拡大端部64a)からの逆入力が図8(a)において時針方向のトルクである場合は、六角形拡大端部64aのトルク方向遅れ側における角部が固定ケース62の内周面との間にローラ67Lを更に噛み込ませるよう作用して、逆入力による出力軸64(六角形拡大端部64a)の回転を阻止する。
また出力軸64(六角形拡大端部64a)からの逆入力が図8(a)において反時針方向のトルクである場合は、六角形拡大端部64aのトルク方向遅れ側における角部が固定ケース62の内周面との間にローラ67Rを更に噛み込ませるよう作用して、逆入力による出力軸64(六角形拡大端部64a)の回転を阻止する。
【0042】
よって、図2のモータ45の非作動によりこれから入力軸63へトルクが入力されない状態である間、出力軸64(六角形拡大端部64a)が上記何れ方向における負荷トルクの逆入力によっても回転されることなく現在の回転位置を保ち得て、クランクシャフト51L,51Rを現在の回転位置に保つことができ、かかる不可逆回転伝動作用によりローラ31,32間の径方向押し付け力(ローラ間伝達トルク容量)、つまり駆動力配分比を現在のままに保持することができる。
【0043】
しかして、図2に示すモータ45の作動によりこれから入力軸63へトルクが入力される場合は、このトルクをトルクダイオード61が以下のようにして六角形拡大端部64a(出力軸64)に伝達し、駆動力配分制御系へ向かわせることができる。
【0044】
モータ45から入力軸63へのトルクが、図8(b),(c)に矢印で示す方向のものである場合につき説明すると、
入力軸63の回転方向遅れ側におけるローラ保持爪63Lが隙間αだけ回転した後、図8(b)に示すように対応するローラ67Lに衝接し、このローラ67Lをバネ68に抗しローラ67Rに接近する方向へ押動して、図8(c)に示すごとく六角形拡大端部64aの対応する外周平坦面と固定ケース62の内周面との間隔が大きくなる方向へ変位させる。
【0045】
ローラ67Rは、かかる変位により固定ケース62に対する六角形拡大端部64a(出力軸64)の回転ロックを解除する。
この回転ロック解除がなされたとき、図8(c)に示すごとく入力軸63の駆動ピン63aが隙間βの回転により盲孔64bの内周面と係合し、入力軸63は駆動ピン63aと盲孔64bとの係合を介して六角形拡大端部64a(出力軸64)にトルクを伝達し、ローラ31,32間の径方向押し付け力(ローラ間伝達トルク容量)、つまり駆動力配分比を当該トルクの加減(モータ45のトルク制御)により任意に制御することができる。
【0046】
モータ45から入力軸63へのトルクが、図8(b),(c)に矢印で示すと逆方向のものである場合も、入力軸63の回転方向遅れ側におけるローラ保持爪63Rが隙間αだけ回転した後、対応するローラ67Rに衝接してこのローラ67Rを押動することで回転ロック解除を行い、
このとき入力軸63の駆動ピン63aが盲孔64bとの係合を介して六角形拡大端部64a(出力軸64)にトルクを伝達することで、ローラ31,32間の径方向押し付け力(ローラ間伝達トルク容量)、つまり駆動力配分比を当該トルクの加減により任意に制御することができる。
【0047】
<駆動力配分作用>
図1〜4につき上述したトランスファ1の駆動力配分作用を以下に説明する。
変速機3(図1参照)からトランスファ1の主軸12に達したトルクは、一方でこの主軸12からそのままリヤプロペラシャフト4およびリヤファイナルドライブユニット5(ともに図1参照)を経て左右後輪6L,6R(主駆動輪)へ伝達される。
【0048】
他方でトランスファ1は、モータ45によりピニオン55およびリングギヤ51Lc,51Rcを介しクランクシャフト51L,51Rを回転位置制御して、ローラ軸間距離L1を第1ローラ31および第2ローラ32の半径の和値よりも小さくするとき、これらローラ31,32が径方向相互押圧力に応じたローラ間伝達トルク容量を持つことから、このトルク容量に応じて、左右後輪6L,6R(主駆動輪)へのトルクの一部を、第1ローラ31から第2ローラ32を経て副軸13に向かわせ、左右前輪9L,9R(副駆動輪)をも駆動することができる。
かくして車両は、左右後輪6L,6R(主駆動輪)および左右前輪(従駆動輪)9L,9Rの全てを駆動しての四輪駆動走行が可能である。
【0049】
なお、この伝動中における第1ローラ31および第2ローラ32間の径方向押圧反力Ftは、これらに共通な回転支持板であるベアリングサポート23,25で受け止められ、ハウジング11に達することがない。
そして径方向押圧反力Ftは、クランクシャフト回転角θが0°〜90°である間は0となり、クランクシャフト回転角θが90°〜180°である間、θの増大に応じて増加し、クランクシャフト回転角θが180°になるとき最大値となる。
【0050】
かかる径方向押圧反力Ftに起因して、クランクシャフト51L,51Rには、次式によって表されるクランクシャフト駆動反力トルク(負荷トルク)Tcrが作用し、
Tcr=Ft×Ro×sinθ
このクランクシャフト駆動反力トルク(負荷トルク)Tcrは、上式から明らかなように、クランクシャフト回転角θに対し図5に示すごとき非線形な特性を呈する。
【0051】
かような四輪駆動走行中、クランクシャフト51L,51Rの回転角θが図4(b)に示すごとく基準位置の90°であって、第1ローラ31および第2ローラ32が相互に、この時のオフセット量OSに対応した径方向押圧力で押し付けられて摩擦接触している場合、
これらローラ間のオフセット量OSに対応したトラクション伝動容量で左右前輪(従駆動輪)9L,9Rへの動力伝達が行われる。
【0052】
そして、クランクシャフト51L,51Rを図4(b)の基準位置から、図4(c)に示すクランクシャフト回転角θ=180°の上死点に向け回転操作してクランクシャフト回転角θを増大させるにつれ、ローラ軸間距離L1が更に減少して第1ローラ31および第2ローラ32の相互オーバーラップ量OLが増大する結果、第1ローラ31および第2ローラ32は径方向相互押圧力を増大され、これらローラ間のトラクション伝動容量を増大させることができる。
【0053】
クランクシャフト51L,51Rが図4(c)の上死点位置に達すると、第1ローラ31および第2ローラ32は相互に、最大のオーバーラップ量OLに対応した径方向最大押圧力で径方向へ押し付けられて、これらの間のトラクション伝動容量を最大にすることができる。
なお最大のオーバーラップ量OLは、第2ローラ回転軸線O2およびクランクシャフト回転軸線O3間の偏心量εと、図4(b)につき上記したオフセット量OSとの和値である。
【0054】
以上の説明から明らかなように、クランクシャフト51L,51Rをクランクシャフト回転角θ=0°の回転位置から、クランクシャフト回転角θ=180°の回転位置まで回転操作することにより、クランクシャフト回転角θの増大につれ、ローラ間トラクション伝動容量を0から最大値まで連続変化させることができる。
また逆に、クランクシャフト51L,51Rをクランクシャフト回転角θ=180°の回転位置から、θ=0°の回転位置まで回転操作することにより、クランクシャフト回転角θの低下につれ、ローラ間トラクション伝動容量を最大値から0まで連続変化させることができ、ローラ間トラクション伝動容量をクランクシャフト51L,51Rの回転操作により自在に制御し得る。
【0055】
<トラクション伝動容量制御>
上記した四輪駆動走行中はトランスファ1が、上記のごとく左右後輪(主駆動輪)6L,6Rへのトルクの一部を左右前輪(従駆動輪)9L,9Rへ分配して出力するため、第1ローラ31および第2ローラ32間のトラクション伝動容量を、左右後輪6L,6R(主駆動輪)の駆動力と、前後輪目標駆動力配分比とから求め得る、左右前輪(従駆動輪)9L,9Rへ分配すべき目標前輪駆動力に対応させる必要がある。
【0056】
この要求にかなうトラクション伝動容量制御のために本実施例においては、図1に示すようにトランスファコントローラ111を設け、これによりモータ45の回転制御(クランクシャフト回転角θの制御)を行うものとする。
【0057】
そのためトランスファコントローラ111には、
エンジン2の出力を加減するアクセルペダル踏み込み量(アクセル開度)APOを検出するアクセル開度センサ112からの信号と、
左右後輪6L,6R(主駆動輪)の回転周速Vwrを検出する後輪速センサ113からの信号と、
車両の重心を通る鉛直軸線周りにおけるヨーレートφを検出するヨーレートセンサ114からの信号と、
トランスファコントローラ111からモータ45への電流iを検出するモータ電流センサ115からの信号とを入力するほか、
図2に示すごとくハウジング11内に設けられてクランクシャフト51L,51Rの回転角θを検出するクランクシャフト回転角センサ116からの信号を入力する。
【0058】
トランスファコントローラ111は、トラクション伝動容量制御を行うために、図9の機能別ブロック線図で示すごときものとし、
クランクシャフト回転速度演算部20と、クランクシャフト回転角指令値演算部30と、本発明の要部を成すロック解除トルク演算部40と、回転位置制御用モータ制御入力演算部50と、モータ制御入力最終決定部60とで構成する。
【0059】
クランクシャフト回転速度演算部20は、センサ116で検出したクランクシャフト回転角θを基にクランクシャフト回転速度ωを演算する。
この演算に際しては、今回検出したクランクシャフト回転角θと、1制御周期前に検出したクランクシャフト回転角との差分を、制御周期で除算してクランクシャフト回転速度ωを求める方法や、検出したクランクシャフト回転角θをハイパスフィルタに通してクランクシャフト回転速度ωを求める方法などがあり、周知のどんな方法を用いても良い。
【0060】
クランクシャフト回転角指令値演算部30は、センサ112で検出したアクセル開度APOと、センサ113で検出した後輪速Vwrと、センサ114で検出したヨーレートφとに基づき、周知の要領でクランクシャフト回転角指令値tθを求める。
一例を挙げると、
(1)前後輪目標駆動力配分比および現在の左右後輪駆動力を求め、
(2)これら前後輪目標駆動力配分比および現在の左右後輪駆動力から、左右前輪(従駆動輪)9L,9Rへ配分すべき目標前輪駆動力Tfを演算し、
(3)第1ローラ31および第2ローラ32がこの駆動力Tfを伝達するのに必要なローラ間径方向押圧力Frをマップ検索などにより求め、次いで、
(4)ローラ間径方向押圧力Frと、モータ45の制御出力動作量であるクランクシャフト回転角θとの関係を表すモータ動作特性マップを基に、上記目標前輪駆動力Tf対応のローラ間径方向押圧力Frから、目標前輪駆動力Tfを伝達可能なトラクション伝動容量となすのに必要なクランクシャフト回転角指令値tθを求める。
【0061】
ロック解除トルク演算部40は、クランクシャフト回転角θと、クランクシャフト回転速度ωと、クランクシャフト回転角指令値tθとを入力され、以下のようにして前記したトルクダイオード61のロック解除トルクTLoffを演算する。
この演算に際しては、検出した現在のクランクシャフト回転角θと、クランクシャフト回転角指令値tθとの対比によりモータ45の回転させるべき方向を判定し、予め実験などにより求めておき、必要に応じ後述のごとく学習制御した、トルクダイオード61のロック解除に必要なロック解除トルクTLoffに係わる図10に例示するようなマップを基に、モータ45の回転方向およびクランクシャフト回転角θから、ロック解除トルクTLoffを求める。
【0062】
なお図10に示すように、また前記した処から明らかなように、ロック解除トルクTLoff は、モータ45の回転方向およびクランクシャフト回転角θに応じて異なり、
クランクシャフト回転角θが増加する方向のモータ回転時(正回転時)、つまり、クランクシャフト駆動反力トルク(負荷トルク)Tcrと逆の方向へのモータ正回転時よりも、クランクシャフト回転角θが減少する方向のモータ回転時(逆回転時)、つまり、クランクシャフト駆動反力トルク(負荷トルク)Tcrと同じ方向へのモータ逆回転時の方が、ロック解除トルクTLoff は大きく設定する。
【0063】
ロック解除トルク演算部40は更に加えて、クランクシャフト回転速度ωがロック解除終了判定速度(例えば1rad/s)以上であるか否かにより、トルクダイオード61がロック解除状態にされたか否かを判定し、ロック解除終了判定時にロック解除トルクTLoffの入力を終了させる(TLoff=0にする)タイミングを決定する。
【0064】
回転位置制御用モータ制御入力演算部50は、センサ116で検出したクランクシャフト回転角θ、および演算部30で前記のように求めたクランクシャフト回転角指令値tθを入力され、クランクシャフト回転角θを所定の応答(例えば時定数0.1s)でクランクシャフト回転角指令値tθに追従させるのに必要なモータ45の目標トルク(回転位置制御用目標モータトルク)Tmを、時定数が0.1sの1次ローパスフィルタや、クランクシャフト回転角偏差(tθ−θ)に応じたPID制御や、非線形反力補償などによって求める。
【0065】
モータ制御入力最終決定部60は、演算部40からのロック解除トルクTLoff、および演算部50からの回転位置制御用目標モータトルクTmを入力され、
トルクダイオード61が解除された状態での通常制御中は、回転位置制御用目標モータトルクTmのみをモータトルク指令値とするが、
トルクダイオード61が解除される前である場合は、ロック解除方向(モータ45の回転方向)に応じ、ロック解除トルクTLoffおよび回転位置制御用目標モータトルクTmの和値をモータトルク指令値とするか、ロック解除トルクTLoffのみをモータトルク指令値とするかを決定し、
最終的に決定したモータトルク指令値を実現するのに必要なモータ駆動電流をモータ電流指令値Iとしてモータ45に供給する。
【0066】
モータ制御入力最終決定部60は上記の決定に際し、
ロック解除方向(モータ45の回転方向)がクランクシャフト51L,51Rを駆動反力トルク(負荷トルク)と逆方向へ回転させる正回転であれば、ロック解除トルクTLoffおよび回転位置制御用目標モータトルクTmの和値をモータトルク指令値とし、
ロック解除方向(モータ45の回転方向)がクランクシャフト51L,51Rを駆動反力トルク(負荷トルク)と同方向へ回転させる逆回転であれば、ロック解除トルクTLoffのみをモータトルク指令値とする。
【0067】
なおモータ45は、上記のモータ電流指令値Iに対し所定応答のモータ駆動電流iで駆動するものとする。
モータ45は、かかる電流iにより駆動されるとき、クランクシャフト51L,51Rの回転角θを所定の応答でクランクシャフト回転角指令値tθとなし、対応する力で第1ローラ31および第2ローラ32を相互に径方向に押圧接触させて、これらローラ31,32間のトラクション伝動容量を、左右前輪(従駆動輪)9L,9Rへ前記した目標前輪駆動力Tfが向かうようなトラクション伝動容量に制御することができる。
【0068】
<ロック解除トルクの演算>
図9におけるロック解除トルク演算部40がロック解除トルクTLoffを求める要領を、図11に基づき以下に詳述する。
先ずステップS1において、センサ116で検出したクランクシャフト回転角θを読み込む。
次のステップS2においては、ステップS1で読み込んだクランクシャフト回転角θを用いてクランクシャフト回転速度ωを演算する。
この演算に際しては、クランクシャフト回転角θの今回読み込み値と、1制御周期前の前回値との差分を制御周期で除算することによりクランクシャフト回転速度ωを演算する方法や、クランクシャフト回転角θにハイパスフィルタをかけてクランクシャフト回転速度ωを求める方法などがある。
【0069】
ステップS3においては、クランクシャフト回転角θがクランクシャフト回転角指令値tθと一致していなくて、クランクシャフト回転角θをクランクシャフト回転角指令値tθに向かわせるモータ45の駆動が必要か否かをチェックする。
θ=tθのためモータ45の駆動が不要であれば、トルクダイオード61のロック解除が不要であるから、ステップS5において、ロック解除トルクTLoffに0をセットする。
【0070】
ステップS3でθ≠tθ(モータ45の駆動が必要)と判定する場合、ステップS4において、クランクシャフト回転速度ωがトルクダイオード61のロック解除済を判定するための所定値(例えば1rad/s)未満(ロック解除未達)か否かをチェックする。
従ってステップS4は、本発明におけるロック解除終了判定手段に相当する。
ステップS3でモータ駆動が必要と判定しても、ステップS4でクランクシャフト回転速度ωが上記の所定値(ロック解除完了判定値)以上である(ロック解除状態)と判定した場合、トルクダイオード61がロック解除状態であって、トルクダイオード61のロック解除操作が不要であるから、この場合もステップS5において、ロック解除トルクTLoffに0をセットする。
【0071】
ステップS4でクランクシャフト回転速度ωがω<所定値(1rad/s)であると判定するロック解除未達中は、ステップS6において、当該判定が行われて1回目か否かを、つまりロック状態のトルクダイオード61をロック解除する要求があって初回(ロック解除制御開始時)か否かをチェックする。
【0072】
ロック解除制御開始時であれば、ステップS7において、クランクシャフト回転角θおよびクランクシャフト回転角指令値tθの大小比較により、クランクシャフト51L,51Rの回転方向、従ってトルクダイオード61のロック解除方向を判定する。
この判定に当たっては、クランクシャフト回転角θが指令値tθよりも大きいとき、クランクシャフト51L,51Rを逆回転させることになることから、クランクシャフト駆動反力トルクと同方向のロック解除要求時であると判定することができ、
また、クランクシャフト回転角θが指令値tθよりも小さいとき、クランクシャフト51L,51Rを正回転させることになることから、クランクシャフト駆動反力トルクと逆方向のロック解除要求時であると判定することができる。
従ってステップS7は、本発明におけるロック解除時入力軸回転方向判別手段に相当する。
【0073】
ステップS7でθ>tθ(クランクシャフト51L,51Rの逆回転で、クランクシャフト駆動反力トルクと同方向のロック解除が行われる)と判定する場合、
本発明におけるロック解除トルク設定手段に相当するステップS8において、前記した図10の実線で示すマップを基にクランクシャフト回転角θから逆回転ロック解除トルクを求め、これを図12のロック解除制御開始時t1におけるTLoff(1)として例示するごとく、ロック解除トルクTLoffと定める。
ステップS7でθ<tθ(クランクシャフト51L,51Rの正回転で、クランクシャフト駆動反力トルクと逆方向のロック解除が行われる)と判定する場合、
ステップS9において、前記した図10の破線で示すマップを基にクランクシャフト回転角θから正回転ロック解除トルクを求め、これをロック解除トルクTLoffと定める。
【0074】
ステップS8またはステップS9で上記のごとくに設定した初回のロック解除トルクTLoffではトルクダイオード61のロック解除が完了し得ず、次回にステップS4でトルクダイオード61のロック解除が完了したと判定し得ない場合、つまりロック解除未達状態が続く場合は、ステップS6が制御をステップS10以降へ進めて、以下のごとくにロック解除トルクTLoffを増大させる。
【0075】
先ずステップS10においては、ロック解除トルクTLoffの前回設定時から所定時間Δt(例えば100ms)が経過したか否かをチェックする。
所定時間Δtが経過するまでは、ステップS12においてロック解除トルクTLoffを前回値に保持し、所定時間Δtが経過する度にステップS11で、ロック解除トルクTLoffを前回値から所定量ΔTLoffずつ増大させる。
従ってステップS11は、本発明におけるロック解除トルク設定手段に相当する。
【0076】
ステップS10〜ステップS12によるロック解除トルクTLoffの増大形態を、クランクシャフト51L,51Rが逆回転する場合につき説明すると、ロック解除トルクTLoffは、
ロック解除制御開始時t1から所定時間Δt中、ステップS8で設定された初回値TLoff(1)に保たれ、
所定時間Δtが経過した瞬時t2にTLoff(1)から所定量ΔTLoffだけ増大され、
瞬時t2から所定時間Δtが経過する瞬時t3までの間、TLoff(1)+ΔTLoffに維持され、
瞬時t3にTLoff(1)+ΔTLoffから更に所定量ΔTLoffだけ増大される。
【0077】
以上のように設定したロック解除トルクTLoffにより、トルクダイオード61のロック解除が完了すると、これをステップS4が判定して選択するステップS13において、当該ロック解除が可能になった時のロック解除トルクTLoffにより、図10に破線または実線で示すマップを学習して更新し、次回は当該更新したデータに基づいてステップS8またはステップS9でロック解除トルクTLoffを求めることとする。
従ってステップS13は、本発明におけるロック解除トルク設定手段に相当する。
【0078】
<第1実施例の作用・効果>
上記した第1実施例の作用・効果を、図13および図14に基づき以下に詳述する。
図13は、クランクシャフト51L,51Rを駆動反力トルク(負荷トルク)と逆方向へ回転させる正回転時の動作タイムチャート(モータトルク、クランクシャフト回転角θ、およびクランクシャフト回転速度ωの時系列変化)を示す。
また図14は、クランクシャフト51L,51Rを駆動反力トルク(負荷トルク)と同方向へ回転させる逆回転時の動作タイムチャート(モータトルク、クランクシャフト回転角θ、およびクランクシャフト回転速度ωの時系列変化)を示す。
【0079】
図13に示す正回転時は、クランクシャフト回転角指令値tθが瞬時t1に破線で示すようにステップ的に変化した場合につき説明すると、
図9におけるモータ制御入力最終決定部60は、同図における回転位置制御用モータ制御入力演算部50で求めた回転位置制御用目標モータトルクTmと、同図におけるロック解除トルク演算部40(図11のステップS9)が現在のクランクシャフト回転角θから求めた正回転時ロック解除トルク(図10の破線参照)との和値をモータ45の指令値とし、モータトルクを図13の瞬時t1〜t2間におけるごとくに急上昇させる。
【0080】
これにより、トルクダイオード61がロックを解除され、その結果クランクシャフト回転速度ωが所定値以上となるロック解除終了瞬時t2に至ると、図11のステップS4が当該ロック解除の終了を判定し、ステップS5においてロック解除トルクTLoffを0にする制御を行う。
従って、図13の瞬時t2以後は、図9におけるモータ制御入力最終決定部60が回転位置制御用目標モータトルクTmのみをモータ45の指令値とするようになり、モータトルクを図13の瞬時t2以降のごとくに時系列変化させて、クランクシャフト回転角θを指令値tθに対し図13の応答で追従するよう制御することができる。
【0081】
図14に示す逆回転時は、クランクシャフト回転角指令値tθが瞬時t1に細い破線で示すようにステップ的に変化した場合につき説明すると、第1実施例の対策なしだと、以下のような問題を生ずる。
つまり第1実施例の対策を施さない場合、図14に太い破線で示すように、ロック解除トルクと回転位置制御用目標モータトルクとが干渉して、即座のロック解除が行われ得ず、フィードバック補償器の出力が溜まってロック解除トルクに到達するのを待つため、応答遅れが生じたり、フィードバック補償器の出力が溜まることによってロック解除後の応答性も悪化するという問題を生ずる。
【0082】
これに対し第1実施例によれば、クランクシャフト回転角指令値tθが瞬時t1に細い破線で示すようにステップ的に変化すると、
図9におけるモータ制御入力最終決定部60は、同図におけるロック解除トルク演算部40(図11のステップS8)が現在のクランクシャフト回転角θから求めた逆回転時ロック解除トルクTLoff(図10の実線参照)のみをモータ45の指令値とし、モータトルクを図14の瞬時t1〜t2間における実線で示すごとくに時系列変化させる。
【0083】
この逆回転時ロック解除トルクTLoffによりトルクダイオード61がロックを解除され、その結果クランクシャフト回転速度ωが所定値以上となるロック解除終了瞬時t2に至ると、図11のステップS4が当該ロック解除の終了を判定し、ステップS5においてロック解除トルクTLoffを0にする制御を行う。
従って、図14の瞬時t2以後は、図9におけるモータ制御入力最終決定部60が回転位置制御用目標モータトルクTmのみをモータ45の指令値とするようになり、モータトルクを図14の瞬時t2以降に実線で示すごとくに時系列変化させて、クランクシャフト回転角θを指令値tθに対し図14の実線により示す高応答で追従するよう制御することができる。
【0084】
以上説明した処から明らかなように本実施例においては、トルクダイオード61のロック解除時におけるクランクシャフト51L,51R(モータ45)の回転方向がクランクシャフト51L,51Rの駆動反力トルク(負荷トルク)と逆方向である正回転時におけるロック解除トルクTLoff(図10の破線)よりも、クランクシャフト51L,51R(モータ45)の回転方向がクランクシャフト51L,51Rの駆動反力トルク(負荷トルク)と同方向である逆回転時におけるロック解除トルクTLoff(図10の実線)を大きくするため、以下のような作用効果が奏し得られる。
【0085】
ロック解除時のクランクシャフト51L,51R(モータ45)の回転方向がクランクシャフト51L,51Rの駆動反力トルク(負荷トルク)と同方向であって、クランクシャフト51L,51Rに加わる駆動反力トルク(負荷トルク)と同方向にトルクダイオード61をロック解除する場合は、
トルクダイオード61内におけるローラ67L,67Rのうち、クランクシャフト51L,51Rに加わっている大きな駆動反力トルク(負荷トルク)の影響で係合噛み込み力が大きくなっている方のローラ67Lまたは67Rをロック解除方向へ押してトルクダイオード61のロック解除を行うことになる。
【0086】
しかし第1実施例においては、この場合ロック解除トルクTLoffを上記の通り大きくするため、上記したごとくロック解除の応答遅れが問題となる方向の逆回転時でも、当該大きなロック解除トルクTLoffによりロック解除応答を所定通りのものに維持し得て、ロック解除応答に関する問題を解消することができる。
【0087】
更に第1実施例においては、逆回転時ロック解除トルクTLoffの設定に際し、図10に実線で例示するごとく予め取得しておいたロック解除に必要な大きさのトルク値をロック解除トルクTLofと定めるため、
基本的には、初回に図11のステップS8で定めた逆回転時ロック解除トルクTLoffによりトルクダイオード61のロック解除を終了させることができ、ステップS11で逆回転時ロック解除トルクTLoffを図12のごとくに増大させる必要がなく、トルクダイオード61のロック解除が速くて、その後におけるクランクシャフト51L,51Rの回転位置制御応答を高め得ると共に、トルクダイオード61のロック解除に消費される電力を節約することができる。
【0088】
第1実施例においては更に、初回に図11のステップS8で定めた逆回転時ロック解除トルクTLoffを、ステップS4がカウンターシャフト回転速度ωからトルクダイオード61のロック解除終了と判定するまで付加し続けることから、トルクダイオード61のロック解除を確実に完遂させることができる。
【0089】
なお、かかる初回に設定した逆回転時ロック解除トルクTLoffによってもトルクダイオード61のロック解除を終了させることができなかった場合は、
図11のステップS4で、このことをカウンターシャフト回転速度ωから判定し、ロック解除終了判定時まで、同図のステップS11で逆回転時ロック解除トルクTLoffを図12に示すごとく徐々に増大させるため、
外乱やロック解除トルクTLoffのバラツキで、初回に設定した逆回転時ロック解除トルクTLoffによってはトルクダイオード61のロック解除を終了させることができない状況下でも、ロック解除を保証することができて信頼性が向上する。
【0090】
更にこのような場合は、最終的にトルクダイオード61のロック解除を終了させることができた逆回転時ロック解除トルクTLoffを図11のステップS13において学習し、図10の実線で示す逆回転時ロック解除トルクTLoffのマップを更新することにより記憶しておき、次回は、この更新して記憶した逆回転時ロック解除トルクTLoffを最初に使用するため、
次回以降、同じ条件では、初回に図11のステップS8で定めた逆回転時ロック解除トルクTLoffによりトルクダイオード61のロック解除を終了させることができるようになり、トルクダイオード61のロック解除が速くて、その後におけるクランクシャフト51L,51Rの回転位置制御応答を高め得ると共に、トルクダイオード61のロック解除に消費される電力を節約することができる。
【0091】
<第2実施例>
図15は、本発明の第2実施例になる不可逆回転伝動系のロック解除制御装置を示す、ロック解除トルク演算処理に関した制御プログラムである。
本実施例は、基本的に構成を図1〜11につき前述した第1実施例と同様な構成とし、図9におけるロック解除トルク演算部40が、図11の制御プログラムに代え、図15の制御プログラムを実行してロック解除トルクTLoffを演算する点で、第1実施例と異なるのみとする。
【0092】
図15におけるステップS1〜9はそれぞれ、図11におけるステップS1〜9と同じ処理を行うもので、図15は、図11におけるステップS10〜ステップS13をステップS21〜ステップS27に置換したものに相当する。
【0093】
ステップS8またはステップS9で前記のごとくに設定した初回のロック解除トルクTLoffによってはトルクダイオード61のロック解除を終了させ得ず、この事態が次回にステップS4で判定されると、つまり初回のロック解除トルクTLoffによってはロック解除未達状態が続く場合は、ステップS6が制御をステップS21以降へ進めて、以下のごとくにロック解除トルクTLoffを増大させる。
【0094】
先ずステップS21において、ロック解除トルクTLoffの前回設定時から所定時間Δt1(TLoff≠0時:例えば100ms)または所定時間Δt2(TLoff=0時:100msよりも短い極短時間)が経過したか否かをチェックする。
1回目はTLoff≠0であるから、ステップS21は所定時間Δt1が経過したか否かをチェックし、所定時間Δt1が経過するまでは、ステップS26においてロック解除トルクTLoffを前回値に保持する。
【0095】
ステップS21で所定時間Δt1が経過したと判定するとき、ステップS22においてロック解除トルクTLoffの前回値が0か否かをチェックし、0でなければステップS23においてロック解除トルクTLoffの前回値をTLoff(OLD)に設定し、次のステップS24においてロック解除トルクTLoffを一旦0にリセットする。
【0096】
かかるロック解除トルクTLoffの0へのリセット時より、ステップS21は所定時間Δt2が経過したか否かをチェックし、所定時間Δt2が経過するまでは、ステップS26においてロック解除トルクTLoffを前回値の0に保持する。
ステップS21で所定時間Δt2が経過したと判定するとき、ステップS22においてロック解除トルクTLoffの前回値が0か否かをチェックするが、今はロック解除トルクTLoffの前回値が0であることからステップS25が実行され、ロック解除トルクTLoffを、ステップS23で記憶しておいたロック解除トルクTLoff のリセット直前値TLoff(OLD)よりも 所定量ΔTLoffだけ大きな値{TLoff(OLD)+ΔTLoff}に定める。
【0097】
かかるTLoff={TLoff(OLD)+ΔTLoff}の設定時より、ステップS21は所定時間Δt1が経過したか否かをチェックし、所定時間Δt1が経過するまでは、ステップS26においてロック解除トルクTLoffを前回値{TLoff(OLD)+ΔTLoff}に保持する。
ステップS21で所定時間Δt1が経過したと判定するとき、ステップS22〜ステップS24を通るループが選択され、ステップS23においてロック解除トルクTLoffの前回値をTLoff(OLD)に設定し、次のステップS24においてロック解除トルクTLoffを一旦0にリセットする。
【0098】
以上の制御の繰り返しによりロック解除トルクTLoffは、初回の設定値を所定時間Δt1だけ維持され、その後、所定時間Δt2だけ0にリセットされ、次いで、リセット直前値よりも所定量ΔTLoffだけ大きな値に所定時間Δt1だけ維持されるという要領で徐々に増大する。
従ってステップS21〜ステップS26は、本発明におけるロック解除トルク設定手段に相当する。
【0099】
ステップS21〜ステップS26によるロック解除トルクTLoffの増大形態を、クランクシャフト51L,51Rが逆回転する場合につき、図16を参照しつつ以下に説明する。
ロック解除トルクTLoffは図16のロック解除制御開始時t1から所定時間Δt1中、ステップS8で設定された初回値TLoff(1)に保たれる。
ロック解除制御開始時t1から所定時間Δt1が経過した瞬時t2から所定時間Δt2が経過する瞬時t3までの間、ロック解除トルクTLoff は0にリセットされる。
【0100】
瞬時t3から所定時間Δt1が経過する瞬時t4までの間、ロック解除トルクTLoff は、リセット瞬時t2の直前値よりも 所定量ΔTLoffだけ大きな値に設定される。
瞬時t4から所定時間Δt2が経過する瞬時t5までの間、ロック解除トルクTLoff は0にリセットされる。
瞬時t5から所定時間Δt1が経過する瞬時t6までの間、ロック解除トルクTLoff は、リセット瞬時t4の直前値よりも 所定量ΔTLoffだけ大きな値に設定される。
【0101】
以上のように設定したロック解除トルクTLoffにより、トルクダイオード61のロック解除が完了すると、これをステップS4が判定して選択するステップS27において、当該ロック解除が可能になった時のロック解除トルクTLoff(OLD)により、図10に破線または実線で示すマップを学習して更新し、次回は当該更新したデータに基づいてステップS8またはステップS9でロック解除トルクTLoffを求めることとする。
従ってステップS27は、本発明におけるロック解除トルク設定手段に相当する。
【0102】
<第2実施例の作用・効果>
上記した第2実施例においては、図15のステップS21〜ステップS27以外、つまり、初回のロック解除トルクTLoff(1)でトルクダイオード61のロック解除が完了しなかった場合におけるロック解除トルクTLoffの増大を、図12の要領に代えて、図16の要領で行う以外、第1実施例と同様に構成したため、第1実施例の前記した作用効果を同様に奏し得る。
【0103】
そして第2実施例のように、ロック解除トルクTLoffを、図16のように増大させることにより、つまり、前回設定したロック解除トルクTLoff(OLD)を所定時間Δt1加え続けてもロック解除が終了しない場合、ロック解除トルクTLoffを、一旦0にした後、一層大きなロック解除トルク{TLoff(OLD)+ΔTLoff}を再設定することでロック解除トルクTLoffの増大を行わせる場合、
ロック解除トルクTLoffを加えていない状態から、更に大きなロック解除トルク{TLoff(OLD)+ΔTLoff}を加えることとなり、トルクダイオード61に速度分の運動エネルギーがロック解除エネルギーとして付加され、同じ量のロック解除トルクでも一層確実にトルクダイオード61のロック解除を完遂させることができる。
【0104】
<その他の実施例>
なお上記各実施例では、不可逆回転伝動系が駆動力配分制御装置1のクランクシャフト回転位置制御系である場合について説明したが、本発明の上記した着想は、それ以外の不可逆回転伝動系にも用いることができるのは言うまでもない。
【0105】
また上記各実施例では、不可逆回転伝動素子として図2,6〜8に示すようなトルクダイオード61を用いる場合について説明したが、不可逆回転伝動素子はこれに限られるものでないこと勿論である。
【符号の説明】
【0106】
1 駆動力配分装置
2 エンジン
3 変速機
4 リヤプロペラシャフト
5 リヤファイナルドライブユニット
6L,6R 左右後輪(主駆動輪)
7 フロントプロペラシャフト
8 フロントファイナルドライブユニット
9L,9R 左右前輪(従駆動輪)
11 ハウジング
12 主軸
13 副軸
20 クランクシャフト回転速度演算部
23,25 ベアリングサポート
30 クランクシャフト回転角指令値演算部
31 第1ローラ
32 第2ローラ
40 ロック解除トルク演算部
45 ローラ間押し付け力制御モータ
50 回転位置制御用モータ制御入力演算部
51L,51R クランクシャフト
51La,51Ra 中心孔
51Lb,51Rb 偏心外周部
51Lc,51Rc リングギヤ
55L,55R クランクシャフト駆動ピニオン
56 ピニオンシャフト
60 モータ制御入力最終決定部
61 トルクダイオード(不可逆回転伝動素子)
62 固定ケース
63 入力軸
63a 駆動ピン
63L,63R ローラ保持爪
64 出力軸
64a 六角形拡大端部
64b 盲孔
65,66 軸受
67L,67R 噛み込みローラ
68 バネ
111 トランスファコントローラ
112 アクセル開度センサ
113 後輪速センサ
114 ヨーレートセンサ
115 モータ電流センサ
116 クランクシャフト回転角センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータからトルクを入力される入力軸と、
該入力軸からのトルクを出力する出力軸と、
これら入力軸および出力軸間にあって、入力軸から出力軸へトルクを伝達する伝動時は該トルクがロック解除トルク以上となるよう前記アクチュエータを駆動制御することでロック解除状態となって前記トルク伝達を可能にするが、入力軸から出力軸へトルクが伝達されない非伝動時は出力軸の負荷トルクによりロック状態にされて出力軸の負荷トルクが入力軸へ伝達されるのを阻止する不可逆回転伝動素子とを具えた不可逆回転伝動系において、
前記ロック解除時の入力軸回転方向が、前記出力軸負荷トルクの方向と同じであるのか、逆の方向であるのかを判別するロック解除時入力軸回転方向判別手段と、
該手段の判別結果に応答し、ロック解除時の入力軸回転方向が出力軸負荷トルクの方向と同じであるとき、逆方向であるときよりも前記ロック解除トルクを大きくするロック解除トルク設定手段とを具備して成ることを特徴とする不可逆回転伝動系のロック解除制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された不可逆回転伝動系のロック解除制御装置において、
前記ロック解除トルク設定手段は、予め取得しておいたロック解除に必要な大きさのトルク値をロック解除トルクとするものであることを特徴とする不可逆回転伝動系のロック解除制御装置。
【請求項3】
前記ロック解除状態になったのをロック解除終了判定手段により判定したとき、前記アクチュエータによるロック解除トルク制御を終了する、請求項1または2に記載された不可逆回転伝動系のロック解除制御装置において、
前記ロック解除終了判定手段は、前記出力軸の回転速度が設定速度を超えたときロック解除状態になったと判定するものであり、
該ロック解除終了判定時まで入力軸に、前記ロック解除トルクを付加し続けるよう構成したことを特徴とする不可逆回転伝動系のロック解除制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載された不可逆回転伝動系のロック解除制御装置において、
前記ロック解除トルク設定手段は、設定したロック解除トルクを所定時間加え続けてもロック解除が終了しない場合、該ロック解除トルクを徐々に増大させるものであることを特徴とする不可逆回転伝動系のロック解除制御装置。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の不可逆回転伝動系のロック解除制御装置において、
前記ロック解除設定手段は、設定したロック解除トルクを所定時間加え続けてもロック解除が終了しない場合、該ロック解除トルクを、一旦0にした後、一層大きなロック解除トルクを再設定するものであることを特徴とする不可逆回転伝動系のロック解除制御装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の不可逆回転伝動系のロック解除制御装置において、
前記ロック解除設定手段は、設定したロック解除トルクを所定時間加え続けてもロック解除が終了しなかった場合、最終的にロック解除を終了させることができたロック解除トルクを記憶しておき、次回は、この記憶したロック解除トルクを最初に使用するものであることを特徴とする不可逆回転伝動系のロック解除制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−229764(P2012−229764A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99076(P2011−99076)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】