説明

不整地運搬車両

【課題】運転手の視界の悪化を惹起することなく、作業用具の収容が整然と行なわれ、作業の段取りにおける作業性が向上すると共に、作業用具の紛失を防止することができる構成の不整地運搬車両を提供する。
【解決手段】履帯式下部走行体1上に旋回フレーム8等の車体フレームを設置し、車体フレーム上の左右いずれか片側に運転室12を搭載する。荷台9の前部の庇28の一部に開口部28cを設け、その開口部28cの下面でかつ庇28とこの庇28を上端に取付けた縦板27との間のコーナー部の空間に、作業用具を収容する上面開口の収容ボックス30を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山岳地等の不整地においても土砂等の運搬が可能となるように、下部走行体を履帯式走行体により構成し、かつ荷台、運転室、動力源部等を設けた上部旋回体を下部走行体に設置した不整地運搬車両に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の不整地運搬車両として、例えば特許文献1に記載のものが知られている。この不整地運搬車両は、履帯式下部走行体上に旋回装置を介して上部旋回体を設置し、上部旋回体の基枠である旋回フレーム上の前部の左右いずれか片側に運転室を搭載し、運転室の後部に隣接して、動力源部および熱交換部を左右方向に向くようにして直列に配置して搭載し、旋回フレームの後部に設けた荷台の前部の庇を、前記動力源部および熱交換部の上部に被せた構成を有している。このような配置とすることにより、動力源部および熱交換部等を水平に配置可能とし、また、燃料タンクの搭載スペースが容易に確保でき、さらに運転室の反対側の履帯がオペレータから目視でき、運転のための視界を良好にすることができる等の種々の利点が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4230647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
不整地運搬車両により荷物を運搬する場合、荷物の種類によってはワイヤやロープにより固定する必要があることがある。また、荷物の種類によっては、荷物の損傷を防止するため、ヤワラと称される緩衝材等の作業用具を必要としたり、作業の内容に応じてチェーン等を必要とする。さらに車両の修理等のための工具や作業者が使用する手袋等の作業用具を用意しておく必要がある。
【0005】
しかしながら、前述した従来の不整地運搬車両においては、作業用具を収容しておく箇所が特定されておらず、前記ワイヤやロープ、チェーン等は荷台内に放置して置かれることがあり、この場合、土砂等を荷台に積むごとにこれらの用具を移動させる必要がある。また、工具その他の作業用具を種々の箇所に置いておく場合もあり、作業の準備に当たり、作業用具を探す必要が生じたり、作業用具の紛失のおそれもある。
【0006】
このような問題点を解決するため、前記作業用具を収容するための収容ボックスを例えば運転室の脇に搭載することが考えられるが、こうすると、視界の悪化を惹起することになる。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑み、運転手の視界の悪化を惹起することなく、作業用具の収容が整然と行なわれ、作業の段取りにおける作業性が向上すると共に、作業用具の紛失を防止することができる構成の不整地運搬車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の不整地運搬車両は、
履帯式下部走行体上に車体フレームを設置し、前記車体フレーム上の左右いずれか片側に運転室を搭載し、前記車体フレームの前部に動力源部および熱交換部搭載し、前記車体フレームの後部に荷台を設け、前記荷台の前部に、前記運転室に対して隔離する縦板を設け、前記縦板の上端部に庇を設けた不整地運搬車両において、
前記庇の一部を開口し、その開口部の下面でかつ前記庇と前記縦板との間のコーナー部の空間に、作業用具を収容する上面開口の収容ボックスを設けたことを特徴とする。
【0009】
請求項2の不整地運搬車両は、請求項1に記載の不整地運搬車両において、
前記収容ボックスの前面および底面を板材により構成し、
前記収容ボックスの両側板を前記庇および縦板を補強する補強板により兼用し、
前記収容ボックスの背板を、前記縦板により兼用したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明は、縦板と庇との間のコーナー部に収容ボックスを設けたものであり、ワイヤ、ロープ、チェーン、ヤワラ、手袋、工具等の作業用具をこの収容ボックスに収容させておくことができる。このため、作業に当たり、作業用具をいちいち探すことなく収容ボックスから取り出すことができ、作業性が向上するとともに、作業用具の紛失が防止される。
【0011】
また、ワイヤ、ロープ、チェーン等は運搬作業終了後に荷台から降りることなく収容ボックスに収めることができ作業性が向上する。
【0012】
また、縦板と庇との間のコーナー部に収容ボックスを設けたので、収容ボックスが運転手から見た視界を悪化させることがない。
【0013】
請求項2の発明は、収容ボックスの側板および背板を庇および縦板にわたって設けた補強板および縦板によりそれぞれ兼用したので、収容ボックスの構成部材を少ない部材により構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による不整地運搬車両の一実施の形態を示す側面図である。
【図2】本実施の形態の不整地運搬車両の平面図である。
【図3】本実施の形態の不整地運搬車両の正面図である。
【図4】本実施の形態の不整地運搬車両において、カバー部分を省略して示す平面図である。
【図5】本実施の形態の収容ボックスの取付け構造を示す平面図である。
【図6】本実施の形態の収容ボックスの取付け構造を示す正面図である。
【図7】本実施の形態の収容ボックスの取付け構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は本発明による不整地運搬車両の一実施の形態を示す側面図、図2、図3はそれぞれその平面図、正面図である。また、図4は上部旋回体上の機器の配置を示す平面図である。図1〜図3において、1は履帯式下部走行体であり、この下部走行体1は、トラックフレーム2と、このトラックフレーム2の前端側に設けられた左右の駆動輪3と、トラックフレーム2の後端側に設けられた左右の従動輪4と、駆動輪3と従動輪4に掛け回された履帯5とにより構成されている。そしてこの下部走行体1は、駆動輪3によって履帯5を駆動することにより、山岳地、泥地、山道等の不整地を走行可能としたものである。
【0016】
6は下部走行体1上に旋回装置7を介して旋回可能に設置した上部旋回体である。旋回装置7は、旋回モータにより歯車機構(いずれも図示せず)を介して上部旋回体6を旋回させるものである。上部旋回体6は、車体フレームとして設けた旋回フレーム8と、図4に示すように、その上に搭載された荷台9、動力源部10、熱交換部11、運転室12、作動油タンク13、燃料タンク14、エアクリーナー15等とから大略構成されている。この実施の形態の不整地運搬車両は木材運搬用のものを示しており、図1、図2において、9aは荷台9の両側に立設した木材押用のポールである。なお、土砂等を積載する用途の不整地運搬車両の場合には、荷台9の両側に側板を有するものとなる。図4において、7aは旋回装置7を構成する旋回モータ、7bは上部旋回体6から下部走行体1の走行モータ(図示せず)に作動油を供給するセンタージョイント、16はコントロールバルブである。
【0017】
運転室12は旋回フレーム8の左右いずれかの片側(本例では左側)の前部に設置されている。動力源部10はエンジン20およびこれにより駆動される油圧ポンプ21および冷却用ファン20aにより大略構成される。この動力源部10は、運転室12の後部に隣接して運転室12と荷台9との間に設置されている。この動力源部10を構成するエンジン20や油圧ポンプ21の軸は左右方向に向けてすなわち横向きに設置されている。
【0018】
熱交換部11は、エンジン20を冷却するラジエータ23と、油圧ポンプ21から吐出される作動油を冷却するオイルクーラ24等とにより大略構成されている。この熱交換部11は、動力源部10を構成するエンジン20のファン20aと左右方向に対面するように動力源部10に対して直列に設置される。図2、図3において、25は動力源部10と熱交換部11を覆うカバーである。
【0019】
図1に示すように、荷台9は、旋回フレーム8の後端部に設けた支軸17を中心として油圧シリンダ18の伸縮により上下に回動するように構成され、油圧シリンダ18を伸長させて荷台9を押し上げることにより、荷台9を傾斜させ、その中に積んだ荷物を排出できるように構成されている。
【0020】
荷台9の前部には、荷台9を運転室12から隔離するための縦板27を、その上端が運転室12の頂部よりやや低い位置になるように立ち上げて設けている。この縦板27の前面には横方向に設けた補強ビーム27aと縦方向に設けた補強ビーム27bとが溶接してある。
【0021】
28は荷物の積み込み時に塵埃やチップ等が動力源部10や熱交換部11にかかることを防止するための庇である。この庇28は、縦板27の頂部から前方に突出させて、動力源部10および熱交換部11を覆うように設けられる。この庇28の高さは、運転室12の高さより低く設定されている。庇28の下面には、横方向に向けて溶接した補強ビーム28aと、前後方向に向けて溶接した補強ビーム28bが設けられている。縦板27および庇28の両脇には補強板29a,29aを溶接し、補強板29a,29aの間にも複数枚の補強板29bを、縦板27の前面と庇28の下面とに溶接して設けている。
【0022】
30は本発明により縦板27と庇28との間のコーナー部の空間を利用して設けた作業用具の収容ボックスである。この収容ボックスにワイヤ、チェーン、手袋、ヤワラ、工具およびその他の作業用具を出し入れするため、庇28には作業用具を出し入れするための開口部28cが形成されている。この実施の形態においては、この開口部28cおよび収容ボックス30は庇28の左右2箇所に設けられている。32は開口部28cを開閉する蓋である。
【0023】
図5は収容ボックス30の取付け構造を示す平面図、図6はその正面図、図7はその断面図である。図7に示すように、収容ボックス30は、前面、下面を、略L字形に形成された板材である曲成板37により構成する。この曲成板37は、その上端を庇28に横方向に向けて溶接した補強ビーム28aに溶接し、後端を縦板27に横方向に向けて溶接した補強ビーム27aに溶接して取付けられる。この曲成板37のコーナー部37aは、補強板29gの下縁29cと同高以上に位置させて下縁29cから下方に突出しないように、この下縁29cの形状に沿った形状に形成している。
【0024】
この実施の形態においては、収容ボックス30の背板は縦板27を兼用して構成される。また、収容ボックス30の側板の一方は縦板27および庇28の端部に溶接した補強板29aを兼用して構成され、他方は補強板29a,29aの間に溶接された補強板29bを兼用して構成されている。
【0025】
収容ボックス30の蓋32は、開口部28cの前縁部の上面に蝶番31により回動可能に取付けられる。33はこの蓋32を閉じ状態で庇28に固定しておくための係止爪である。この係止爪33は、図5、図7に示すように、蓋32に軸34を中心として回動自在に取付けられており、この係止爪33と一体にハンドル35が設けられている。36はこの係止爪33を係止するため係止受体であり、この係止受体36は、縦板27と庇28との間のコーナー部に設けた補強ビーム27cに固定してある。軸34には、図7の矢印R1方向に係止爪33を押圧するばね(図示せず)が巻装される。
【0026】
この蓋32は、ハンドル35を持って図7の矢印R1の反対方向に引き上げ、もって軸34に巻装したばねに抗してハンドル35とともに係止爪33を回動させることにより、係止爪33を係止受体36から離脱させるとともに、蓋32を閉じ状態から矢印R2で示すように上方に引き上げて開くことができ、収容ボックス30に作業用具を出し入れすることができる。また、蓋32を開いた状態から下ろすことにより、係止爪33が軸34に巻装するばねの力で自動的に係止受体36に係止される。
【0027】
この実施の形態においては、縦板27と庇28との間のコーナー部に収容ボックス30を設けたので、この収容ボックス30に、ワイヤ、チェーン、ヤワラ、手袋、工具等の作業用具を収容しておくことができる。このため、作業に当たり、作業用具をいちいち探すことなく、収容ボックス30から取り出すことができ、作業性が向上するとともに、作業用具の紛失が防止される。
【0028】
また、ワイヤやチェーン等は運搬作業終了後に荷台9から降りることなく収容ボックス30に収めることができ作業性が向上する。
【0029】
また、縦板27と庇28との間のコーナー部に収容ボックス30を設けたので、収容ボックス30が運転手から見た視界の悪化につながらない。さらに、動力源部10を運転室の後部に横置き式に配置して視界を良好とした特徴を損なうことがない。
【0030】
また、この実施の形態においては、収容ボックス30を構成する側板や背板を既存の補強板29a,29bや縦板27によって兼用したので、収容ボックス30の構成部材を少ない部材により構成することができる。
【0031】
本発明を実施する場合、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態以外に種々の変更、付加が可能である。例えば収容ボックス30は複数ものを分散配置するのではなく、1個の収容ボックスを庇28を全長にわたって設けてもよい。また、本発明は、車体フレームが旋回しない非旋回式不整地運搬車両にも適用できる。また、本発明は、動力源部10や熱交換部11の配置が前記実施の形態と異なる不整地運搬車両にも適用できる。
【符号の説明】
【0032】
1:下部走行体1、2:トラックフレーム、3:駆動輪、4:従動輪、5:履帯、6:上部旋回体、7:旋回装置、7a:旋回モータ、7b:センタージョイント、8:旋回フレーム、9:荷台、9a:ポール、10:動力源部、11:熱交換部、12:運転室、13:作動油タンク、14:燃料タンク、15:エアークリーナー、17:支軸、18:油圧シリンダ、20:エンジン、20a:冷却ファン、21:油圧ポンプ、23:ラジエータ、24:オイルクーラ、25:カバー、27:縦板、27a〜27c:補強ビーム、28:庇、28a,28b:補強ビーム、28c:開口部、29a,29b:補強板、30:収容ボックス、31:蝶番、32:蓋、33:係止爪、34:軸、35:ハンドル、36:係止受体、37:曲成板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
履帯式下部走行体上に車体フレームを設置し、前記車体フレーム上の左右いずれか片側に運転室を搭載し、前記車体フレームの前部に動力源部および熱交換部搭載し、前記車体フレームの後部に荷台を設け、前記荷台の前部に、前記運転室に対して隔離する縦板を設け、前記縦板の上端部に庇を設けた不整地運搬車両において、
前記庇の一部を開口し、その開口部の下面でかつ前記庇と前記縦板との間のコーナー部の空間に、作業用具を収容する上面開口の収容ボックスを設けたことを特徴とする不整地運搬車両。
【請求項2】
請求項1に記載の不整地運搬車両において、
前記収容ボックスの前面および底面を板材により構成し、
前記収容ボックスの両側板を前記庇および縦板を補強する補強板により兼用し、
前記収容ボックスの背板を、前記縦板により兼用したことを特徴とする不整地運搬車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−194950(P2011−194950A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61759(P2010−61759)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】