説明

不溶性グロビンの注射可能埋め込み剤

本発明は、ヒトまたは動物の体内に注射することができるまたは埋め込みすることができる製剤であって、生理的pHにおいて不溶性で、生体適合性で、そして無菌であるグロビンを主成分として含む製剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明の目的は、ヒトへの投与に有用であるグロビン製剤を提供することである。これら製剤は、具体的には、注射可能なペースト剤または埋め込み可能な固形材料、または埋め込み剤の形であってよい。
【0002】
コラーゲンの多数の医学的用途は、例えば、充填用のペースト剤であれ、薄膜または圧定布のような流動または固形製剤の形であれ、多様な埋め込み剤の形であれ、既に記載されてきている。実際には、動物コラーゲンだけが、一般的に用いられている。
【0003】
ヒトコラーゲンの製剤は、動物コラーゲンより好ましいと考えられ、ヒト皮膚組織由来が考えられうる。しかしながら、それは、ヒト組織試料を死体から得ることが、かなりの倫理的問題を提起するし、しかも感染症、ウイルス性疾患または類似の疾患の伝播の危険を排除するために高価な試験を必要とすることから、きわめて難しい。胎盤からのヒトコラーゲンの製剤は、高価で、複雑で、しかも組織化することが困難である。遺伝的組換えまたは細胞培養の最新の方法によるヒトコラーゲンの製剤も、きわめて高価であり、それが、この製品の商業的開発を確実に損なうと考えられる。
【0004】
グロビンは、ヘモグロビンを構成しているタンパク質であり、それ自体、ヘムと各々結合した4個のペプチド鎖(2個のα鎖および2個のβ鎖)を含有する。そのヘムは、1個の陽電荷鉄原子を含有するテトラピロール構造から成る。ヘモグロビンの赤色の原因となる、1分子につき4個のヘムが存在する。
【0005】
グロビンを製造する方法は、きわめて長期間知られてきたが、食餌用途を目的として、または注射可能医薬液剤を製造するために開発されてきた。
生理的pHにおいて完全に可溶性であるヘモグロビンとは異なり、グロビンは、同じ条件下において著しく不溶性である。生理的条件下におけるグロビンのこの不溶性の性状は、これまでのところ、その医薬用途の開発を損なってきた。この理由のために、大部分の実験は、生理的pHにおいて可溶性であるグロビン誘導体を製造することを探求してきた。具体的には、無水コハク酸を用いたスクシニル化によって、または無水酢酸を用いたアセチル化によって、またはグロビンの陰電荷を増加させ且つその等電点pHを低減させるアルカリ性pHにおけるアミド官能基の加水分解によって、生理的pHにおいて可溶性であるグロビン誘導体を製造することを探求してきた。酸グロビンの可溶性製剤をインスリンと組み合わせた注射可能製品は、開発され、特許化され、市販されてきた(Reiner (1939); Reiner et al. (1939))。それは、注射後、この複合体からのインスリンの漸次送達を可能にする(Rabinowitch et al. (1947); Berg et al. (1953))。グロビンは、この製品の活性要素でも主な要素でもない。
【0006】
本発明は、新規な材料および注射可能製剤または生体中に埋め込み可能である製剤であって、グロビンが主な活性要素であり、しかも既知の材料および製剤、例えば、コラーゲンまたは類似のものの欠点を有していない材料および製剤を提供することを考えている。
【0007】
本発明の主題は、生理的pHにおいて不溶性で、生体適合性で、無菌であり、そして好ましくは、生分解性であるグロビンのペースト状または固形の製剤、具体的には、注射可能ペースト剤、固形材料、例えば、顆粒剤または薄膜、または不溶性埋め込み剤の形の製剤である。
【0008】
本発明は、中性pHにおけるグロビンの自然の不溶性性状を、例えば、薬学的に許容しうるビヒクル、例えば、9g/lのNaClを含有し且つ6.8〜7.5の中性pHで緩衝化されたPBSタイプの生理的水溶液中のグロビンのタンパク質沈殿物の懸濁によって形成されるこの沈殿物の採取、遠心分離、によって保存することを考えている。このように形成されるペースト剤は、均一化後に微細針を用いて注射可能である。このペースト剤は、トリグリセリド類、ポリエチレングリコール、ヒアルロネート、具体的には、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸、または他の多糖類またはムコ多糖類、または酸化セルロースの溶液などの粘性物質および潤滑剤の存在下で製造することができる。このような添加剤は、最も微細な針(30g直径)へのペースト状沈殿物の通過および皮内埋め込み剤としてのその注射を容易にする。
【0009】
この製品の独創性および利点は、それが、注射される周囲組織と完全に生体適合性であるタンパク質ペースト剤であるということにある。このタンパク質は、変更も化学修飾もされておらず、そして、それが生理的環境中にある時点から本来、不溶性である。ヒトグロビンのタンパク質ペースト剤は、ヒトの場合、皮膚の腔、しわまたは瘢痕に充填する、またはある種の組織(泌尿器または消化器の括約筋、声帯等)の体積を増加させるために用いることができる。このペースト剤は、骨または軟骨の欠損に充填するのに、およびその瘢痕形成を容易にするのに用いることができる。不溶性グロビンの粒子は、動物またはヒトの細胞培養に用いることもできる。陰電荷を有するそれら細胞は、陽電荷のグロビン粒子の表面に付着し、それら表面において増殖する。更に、その支持物質グロビンの、それを漸次消化する細胞と接触した状態での漸次分解は、これまで用いられている液状培地を補足するまたはそれに代わるものである栄養手段をそれら細胞に与えることができる。
【0010】
したがって、このグロビンペースト剤によって可能になる充填用途は、数多くあり、このタンパク質について予想外である。
相同的ヒトグロビンは、好ましく、しかも処置される患者による注射中または注射後のいずれの免疫反応も免れることを可能にする。したがって、この製品は、これまでは動物皮膚(子ウシ、ブタ等)から製造されていて、そして患者の免疫反応を免れるために多数の予防措置および条件を必要とするコラーゲンに対して、かなりの利点を示す。
【0011】
・各々の患者を、その動物コラーゲンに対するアレルギーの可能性について調べる必要性。
・アレルギー性個体を処置する不可能性。
【0012】
しかしながら、グロビンは、酸性または塩基性のpHにおいて可溶性のままであり、これら条件下において、多孔性メンブランを介して滅菌濾過することができる。20〜300mg/mlの適する濃度について、このような溶液は、タンパク質溶液のように処理することができるので、スポンジ、薄膜または顆粒剤のような製品を、乾燥、凍結乾燥、架橋および沈殿の技法を用いてまたは組み合わせて製造することを可能にする。若干の実施例を以下に展開する。
【0013】
グロビンは、動物またはヒトの血液に由来する赤血球から精製することが容易である。ヒト赤血球は、貯蔵寿命を過ぎていて、輸血センターに在庫として残っている、しかも試料採取時に全ての事前健康検査が行われた献血品から十分な量で入手可能である。不溶性の注射可能グロビンまたは他のグロビンに基づく生体材料の製剤は、したがって、未使用の血液または貯蔵寿命を過ぎた献血品を回収することおよびそれらの破壊を免れるまたは減少させることを可能にする新規な生物医学的用途を示す。
【0014】
本発明は、更に、処置される患者から得られた約5〜100mlの血液試料を用い、そしてそれを、大容量の場合と同じ方法で自己(autologous)グロビンへと変換後、同じ患者のしわの補正のためにまたは長期創傷治癒などの他の用途のために、得られたペースト剤を注射して実施することができる。患者からの試料を用いて製造されるシリンジの数は、かなりのものであってよく、その患者を数年間処置することを可能にすることができる。
【0015】
同様に、分娩後に出されるヒト胎盤は、一般的には焼却によって破壊される血液を含有するが、それも、本発明に用いることができる。
ドナーからの血液バッグは、輸血機関により、種々のウイルスおよび他の伝染性物質についての生化学的、細菌学的および血清学的検査およびスクリーニング試験によって公式に管理される。胎盤血液の場合、臍帯からまたは母親からの血液試料について同じ検査を実施後、この出発物質から血液を集め、保存し、そして抽出することが明らかに必要であると考えられる。自己血液については、実施する試験を簡単にすることができる。
【0016】
本発明の実施は、最初に、これら血液試料または流動血液中の赤血球を、既に知られている簡単な操作によって採取することおよび精製することを必要とする。それら赤血球は、低速遠心分離によって回収される。血漿上澄みを分離し、そして9g/lのNaClを含有し且つ中性pHで緩衝化されたPBSタイプの生理的食塩液で置き換える。
【0017】
数回洗浄(3〜5回)後、このように、血漿タンパク質を赤血球懸濁液から取り出す。血球細胞膜の溶解を引き起こし且つヘモグロビンを溶液中に放出する浸透圧ショック行うために、1または2容量の蒸留水を、精製された赤血球のペレットに加え、濃縮し、精製する。高速遠心分離工程(10〜20000rpm)は、ペレット中の膜・細胞破片を除去することを可能にする。0.2ミクロンの多孔度を有するメンブランを介する上澄みの濾過から成る最終工程は、組織、細胞または膜由来の粒子および誘導体を含まない、精製された且つ無菌のヘモグロビン溶液を製造することを可能にする。
【0018】
酸性pHでのヘム−グロビン開裂は、Schulz により、1898年のような早期に、アルコールの存在下で記録された。1930年に Anson and Mirsky、そしてその後、1958年に Rossi-Fanelli et al. は、0℃において酸の存在下でアセトンを用いた。Teale (1957) は、アセトンに代わるメチルエチルケトンの使用を選択した。Autio et al. (1984) は、可溶性カルボキシメチルセルロースと一緒のヘムの吸収および沈殿によって酸性pHでグロビンを分離した。このように分離されたグロビンは、酸性またはアルカリ性pHで可溶性であるが、その水溶液のpHが、pH6〜8へと中和されるとすぐに、不溶性になる。
【0019】
中性pHでの可溶化実験は、Strumia et al. により、1951年および1952年に、アスパラギン酸およびグルタミン酸へとそれぞれ変換されるアスパラギン残基およびグルタミン残基におけるグロビンの部分脱アミドを引き起こす長時間のアルカリ性処理(Vars, 1952)を用いて行われた。他の可溶化実験は、Volckmann により、1988年に、スクシニル化によって行われた。
【0020】
生理的基剤中に不溶性の性状は、組織埋め込み後のグロビンの持続性を説明するが、それは更に、特に、注射される量がかなりである場合であって、充填用途または組織増強用途の場合に、グロビンを酵素的分解に耐性にする。
【0021】
もう一方において、大部分の他のタンパク質は、高濃度の塩類またはアルコールによって沈殿しうるにすぎないが、それは、それら沈殿物を、組織内注射に生体不適合性で且つ使用不能にするであろう。更に、このような埋め込み剤は、組織の生理的基剤との接触で、沈殿剤の拡散および沈殿物の漸次溶解によってきわめて速やかに消失するであろう。
【0022】
本発明の利点は、ウサギグロビンの製剤を用いて容易に示すことができる。このように製造される生理的な沈殿したグロビンペースト剤は、ウサギの背部または側部のいろいろな場所に皮下注射することができる。局所紅斑の不存在によって無害を示すことは容易である。皮膚下のその製品の持続性は、触診によって時間の関数として観察することができる。その製品の抗原性能の不存在は、ウサギの皮下および筋肉内免疫感作によって、フロイントアジュバントを用いてまたは用いることなく示すことができる。免疫感作後に得られる血液試料は、慣用的な対照試験を用いて、抗グロビン抗体または抗ヘモグロビン抗体の不存在を示すことを可能にする。
【0023】
本発明による製品の製造例
実施例1:ウサギグロビンの製造
5羽の麻酔したウサギから、心臓穿刺によって採血する。その血液を、それを凝固させないように、ヘパリンの存在下またはクエン酸ナトリウムの存在下で回収する。210mlの血液をこのように得、それを2500rpmで30分間遠心分離する。血漿を含有する上澄みをピペットで除去し、そしてペレットを、9g/lのNaClを含有し且つpH7.2で緩衝化された3容量のPBS緩衝液で5回洗浄する。洗浄された最終ペレットに、赤血球を溶解するために、等容量の蒸留水を撹拌しながら加える。その最終懸濁液を、細胞・膜破片を除去するために、12000rpmで遠心分離する。上澄みを、0.22ミクロンの多孔度を有する酢酸セルロースメンブランを介して濾過する。97g/lのヘモグロビンを含有する82mlを得る。
【0024】
そのヘモグロビンを、Tayot及びVeron(1983)によって記載の技法にしたがって、グロビンへと変換する。このヘモグロビン溶液を、1mlの濃塩酸を含有する275mlの96%エタノール中に撹拌しながら注ぎ入れる。そのpHを3に調整する。最終濃度は、酸性pHにおいて74%のエタノールおよび22g/lのヘモグロビンである。3gのCECA L4S活性炭を、激しく撹拌しながら4℃で15分間加える。
【0025】
その懸濁液を、ペレットの形で活性炭を除去するために、15000rpmで30分間遠心分離する。脱色された酸グロビンを含有する上澄みを、活性炭微粒子を除去するために、最小の多孔度(0.2ミクロン)までの一連の多孔性メンブランを介して濾過する。濾液を等容量の蒸留水で希釈し、そのpHを、NaOHの添加によって7.4に調整し、そしてグロビンがいっせいに沈殿する。15時間後、グロビン沈殿物を遠心分離によって回収後、9g/lのNaClを含有し且つpH7.4に緩衝化された3容量のPBS生理的食塩水で2回洗浄する。58.2gのグロビン沈殿物を、pH7.4で採取する。その沈殿物を、1〜0.2mmの内径を有するコネクターによって連結された5ml容量の二つのシリンジの間で、各々のシリンジのプランジャーをもう一方のシリンジ中に沈殿物を通過させるように逐次的に押すことによって逐次的に移動させることにより、均一化する。
【0026】
最後に、均一化された沈殿物を、1mlシリンジ中に分配する。沈殿したグロビンペースト剤を、24gまたは27gの直径の微細針を介してシリンジから放出することは可能である。ペースト剤中のグロビンの濃度は、30〜150mg/gの値に調整することができる。
【0027】
実施例2:ヒトグロビンの製造
クエン酸ナトリウム上に得られた200mlの貯蔵寿命を過ぎたヒト血液を、2500rpmで30分間遠心分離する。血漿を含有する上澄みをピペットで除去し、更に、白血球に相当する表面の白っぽい細胞層を吸引によって取る。赤血球のペレットを、逐次的遠心分離により、9g/lのNaClを含有し且つpH7.2で緩衝化された3容量のPBS生理的食塩水で5回洗浄する。その最終ペレットに、赤血球を溶解するために、2容量の蒸留水を加える。溶血した懸濁液を、12000rpmで30分間の遠心分離によって透明にし、0.2ミクロンの多孔度を有するメンブランを介して濾過する。52g/lのヘモグロビンを含有する210mlを得、それを4℃で保存する。
【0028】
210mlの等容量の0.1N HClを4℃で加え、その混合物全体を、40mlの1N HClを含有する4lのアセトン中に注ぎ入れる。その懸濁液を激しく撹拌し、そしてケミカルフード(chemical hood)下において周囲温度で1時間放置する。アセトン中に溶解したヘムを、多孔性クロスを介する濾過によって除去し、グロビン沈殿物を回収し、酸性アセトン中で洗浄し、空気流下で乾燥させる。
【0029】
変法では、ヘモグロビン溶液を脱色前に、酸性にするために、種々の無機酸(硫酸、リン酸等)または例えば、酢酸、シュウ酸またはクエン酸などのカルボン酸を、塩酸の代わりに用いることができる。
【0030】
この方法のもう一つの変法は、ヘモグロビンの酸溶液を、脱色する前に沈殿させることにある。沈殿は、NaClを40〜60g/lの濃度で加えることによって行うことができる。次に、酸ヘモグロビン沈殿物を、十分な容量のエタノールおよび/またはアセトン中への懸濁によって脱色する。色素は、そのエタノールおよび/またはアセトン中に溶解するが、グロビンは、沈殿した形のままであり、多孔性クロスを介する濾過によって採取することができる。全ての水性相の排除によって、この変法は、少なくとも5に等しい因子によって、エタノールおよび/またはアセトンの必要な容量を減少させることを可能にする。
【0031】
グロビンを、水溶液中に2〜3のpHで再溶解させる。その酸性グロビン水溶液を、0.2ミクロンの多孔度を有するメンブランを介して滅菌濾過した後、7.4のpHが得られるまでNaOHを加えることによるpHの中和によって沈殿させる。中性pHで沈殿したグロビンペースト剤のシリンジは、前の実施例の場合のように製造することができる。酸性グロビン溶液を中和する操作は、ヒアルロン酸ナトリウムをアルカリ性pHで加えることによって行うことができる。この場合、ヒアルロネートで錯体形成し且つ含浸した不溶性グロビンのペースト剤が形成して、きわめて微細な針(30g直径)を介する注射可能な性状を改善する潤滑機能を与える。
【0032】
実施例3:ヒトグロビンの他の製造
実施例1の方法を、輸血センターより入手した、貯蔵寿命を過ぎた調製血球ペレットを用いて行う。生体適合性であり且つ注射によって埋め込み可能である沈殿したヒトグロビンのペースト剤を含有するシリンジを得る。
【0033】
実施例4:0.1Mまたは1M水酸化ナトリウムでのアルカリ性処理を20℃で1時間行ったヒトグロビンの製造
実施例1または2の方法を、グロビン沈殿物がpH7.4で得られるまで行った後、洗浄を行う。この沈殿物を、再度、3容量の0.1M〜1M NaOH中に20℃で撹拌しながら1時間溶解させる。
【0034】
次に、その溶液を、等容量の同モル濃度のHClの添加によって中和し、その懸濁液のpHを7〜7.4に調整する。次に、グロビン沈殿物を遠心分離によって採取後、前の実施例の場合と同様にPBS生理的食塩水中で洗浄する。沈殿したグロビンペーストは、ヒアルロン酸または他の生体適合性の粘性且つ潤滑性の製品、すなわち、トリグリセリド類、ポリエチレングリコール、酸化セルロース、キトサン等が加えられていてよく、そしてこれを、シリンジ中に分配し、皮内使用のためのきわめて微細な針を介して得られる製品の注射可能性状が再度示される。グロビンのこのアルカリ性処理は、グロビンの中性pHでの不溶性の性状を有意に修飾することなく、その製品の健康安全保証を改善することを可能にする。
【0035】
実施例5:沈殿し且つグルタルアルデヒド架橋したグロビンのペースト剤の製造
この処理は、埋め込み剤の再吸収時間を増加させることが可能である。最終グロビン沈殿物を、PBS中に2%で懸濁させる。グルタルアルデヒドを、沈殿物1g当たり1mgの濃度で撹拌しながら加える。20℃で1時間インキュベーション後、グロビン沈殿物を洗浄し、前の実施例の場合と同様にシリンジ中に入れる。
【0036】
ジアルデヒド類またはポリアルデヒド類などの他の架橋剤、具体的には、酸化デキストラン、酸化デンプンまたは酸化ヒアルロン酸のような、過ヨウ素酸で酸化された多糖類を用いることができる。
【0037】
実施例6:無菌の沈殿したグロビンペースト剤のシリンジの製造
無菌シリンジを製造するには、0.2ミクロンの多孔度を有するメンブランを介する酸性グロビン溶液の滅菌濾過を行ったらすぐに、無菌条件下で作業する必要がある。これは、100または1000クラスの無菌ゾーンの層流フード下において、または軟質ラテックス手袋によって外側から利用できる無菌室で行うことができる。沈殿、沈降による分離、または沈殿物の遠心分離の操作は、保護膜で包まれた無菌容器中で行うべきである。
【0038】
もう一つの方法は、滅菌濾過された可溶性グロビンの酸性溶液を第一シリンジ中に、そして滅菌濾過された第二のアルカリ性溶液を第二シリンジ中に分配することにある。各々のシリンジのpHは、その後のそれらの混合物が中性pHであるように調整する。無菌コネクターによるこれら二つのシリンジの連結は、一方のシリンジからもう一方への逐次的移動によって、中性pHを有する無菌均一混合物を生じることを可能にする。無菌沈殿物を、グロビンの自然沈殿によって得る。得られた懸濁液は、水性相を通過させるだけの微細針を介する押出によって濃縮することができる。濃縮されたグロビンのシリンジへのヒアルロン酸ナトリウムまたはいずれか他の粘性且つ潤滑性の物質の任意の添加は、最終グロビン中にそれを包含することを可能にする。変法において、グロビンの in vivo 再吸収を延長させるために、二つの初期シリンジが混合される時点で架橋剤を包含することも可能である。
【0039】
実施例7:沈殿したグロビンペースト剤のシリンジの最終滅菌
前の実施例のいずれか一つによって製造されるシリンジの滅菌は、5〜30キログレイの線量での照射によって行うことができる。種々のグロビン製剤は、照射によるそれらの滅菌の前後に不溶性である。どちらの場合も、中性pHで不溶性のグロビンは、いずれかの酸性水溶液でpH3への酸性化を行うならば、可溶性になる。
【0040】
実施例8:未修飾可溶性グロビンからの不溶性ゲルまたは薄膜の製造
可溶性グロビンの溶液を、水溶液中にアセトン基剤グロビン粉末を、pH3、20〜120mg/mlの濃度で溶解させることによって調製する。この溶液を、0.2μの多孔度を有するメンブランを介して滅菌濾過した後、無菌の1N NaOHを撹拌しながら加えることによって、pH5に調整する。
【0041】
酸化デンプンをpH3.5で、または別のアルデヒド、または1分子につき少なくとも5個の炭素原子を含有する架橋性ポリアルデヒドを、その混合物に、0.5%の濃度で撹拌しながら5分間加える。その無菌混合物を、1〜3mmの厚みの液体を得るために、平面上に、層流下において20〜37℃の温度で注ぐ。
【0042】
液状生成物は、酸化デンプンによって誘導されるグロビン鎖の架橋によって徐々にゲル化し、その後、薄膜を得ることが望まれる場合、空気流下で脱水する。
材料の初期濃縮による20〜200μの厚みの最終薄膜は、βまたはγ照射によって、または酸化エチレンで滅菌することができる。コラーゲン、ゼラチン、ヒアルロン酸、酸化セルロースまたは他の多糖類またはムコ多糖類、ポリエチレングリコール、グリセロール等のような周知の薄膜形成剤を加えることができる。このような添加剤は、薄膜に柔軟性および/または強度を与えることを可能にする。このような薄膜は、皮膚のまたは外科的な創傷を保護するのに、または治癒を促進するのに単独で用いることができるし、または種々のプロテーゼ(血管プロテーゼ、補強格子、多孔性マトリックス)に関連して、それらを不浸透性にする、またはそれらの生体適合性を改善する、または接着性状を抗付着性にする、または他の製品で既に用いられている既知の技法によるこれらプロテーゼの細胞定着を促進することができる。
【0043】
変法において、前の通りであるが、架橋剤を全く導入することなく、pH5において可溶性のグロビンから薄膜を生じることが可能である。乾燥した薄膜の最終架橋は、グロビン鎖間に共有結合を生じる最終照射によって行う。次に、このような薄膜は、グロビンのアミノ基と反応性の生体適合性接着剤を用いて、組織に結合させることができる。好ましくは、多糖類の過ヨウ素酸酸化によって得られるポリアルデヒド類を用いることができる。例として、酸化デキストランまたは酸化デンプンが好適である。
【0044】
実施例9:不溶性グロビン粒子の細胞培養支持物質としての生物医学的用途
前の実施例のいずれか一つによって得られる中性pHでのグロビン沈殿物の無菌ペースト剤を、例えば、細胞培養のためのDMEM培地と一緒に、約37℃の温度でインキュベートする。懸濁液を得、それに、細胞を10000〜100000個/mlの細胞密度で導入する。30分間撹拌し、そして1時間〜15時間沈降させることによって分離後、それら細胞は、グロビン粒子に付着し、そして3〜12日間でありうる培養時間にそれら表面において増殖する。細胞培地は、現在公表されている知識にしたがって、細胞タイプの機能によって選択される。
【0045】
増殖の最後に、グロビン粒子に付着した細胞懸濁液を、沈降による自然分離によって濃縮することができる。得られた細胞ペースト剤は、シリンジ中に入れ、そしてこの時点で知られている種々の治療的用途のための生体適合性細胞含有埋め込み剤として注射することができる。
【0046】
この方法による皮膚線維芽細胞の培養は、皮膚治癒用途または結合組織充填用途のための細胞含有埋め込み剤の製造を可能にする。
この方法による軟骨細胞の培養は、表在性の軟骨損傷に充填し且つそれを治癒することから成る用途のための細胞含有埋め込み剤の製造を可能にする。
【0047】
この方法による骨芽細胞の培養は、骨折または骨喪失に充填し且つそれを治癒することから成る用途のための細胞含有埋め込み剤の製造を可能にする。
同様に、具体的には胚由来の、または臍帯血または骨髄由来の、または種々の成人組織より単離される幹細胞は、これらグロビン粒子上で培養することができるし、しかも細胞含有ペースト剤の注射または埋め込み後に、所望の機能を果たすことができる。
【0048】
ウイルスまたはその誘導ワクチンの製造のような生物医学的用途については、細胞を、培養後にそれらのグロビン支持物質から分離することができる慣用的なトリプシン処理法を用いることができる。非分解グロビン粒子は、フラスコの底に自然に沈降するので、沈降によって細胞から分離することができる。
【0049】
ある種の変法において、それらグロビン粒子を、不溶性グロビンを含有する薄膜で置き換えることは可能である。次に、細胞培養は、現在知られているメンブランまたは薄膜上のいずれかの細胞培養の場合と同様に、これら平らな薄膜と接触している培地の連続循環によって行うことができる。この方法は、特定の医学的用途のために埋め込むことができる細胞含有薄膜を生じることも可能にする。
【0050】
実施例10:注射可能な不溶性グロビンの埋め込み剤の医学的用途
本発明による製剤、具体的には、実施例1〜7のいずれか一つによって製造される不溶性グロビンのシリンジは、次の非制限用途で用いることができる。
【0051】
−皮膚のしわおよび欠損の充填。
−泌尿器科における小児の膀胱尿管逆流、女性の緊張性失禁;耳鼻咽喉科における声帯体積補正の用途のための、結合組織または括約筋の充填。
【0052】
−経皮的動脈創傷のための止血栓。
−グロビンペースト剤を単独でまたは他の治癒用製品または増殖因子と組合せて用いた、皮膚瘢痕形成。
【0053】
−グロビンを単独でまたは他の治癒用製品、すなわち、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、BMPタイプの増殖因子と組合せて用いた、軟骨または骨の瘢痕形成。
【0054】
−埋め込み剤の定着および分解期間中の細菌発生を抑制するための、抗生物質との組合せ。
本発明の主題は、更に、ヒトまたは動物の身体を処置する方法であって、本発明による注射可能なまたは埋め込み可能な製剤の治療的有効量を、このような製剤への要求を示している患者に投与する少なくとも一つの工程を含む方法である。
【0055】
これら方法は、具体的には、上述の用途に対応した、非経口によって、外科的に注射または埋め込みによって、または経皮によって行われる投与を含む。
参考文献
【表1−1】

【表1−2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトまたは動物の体内に注射することができるまたは埋め込むことができる製剤であって、生理的pHにおいて不溶性で、生体適合性で、そして無菌であるグロビンを主成分として含む製剤。
【請求項2】
前記グロビンが、ヒト由来のグロビンである、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
前記製剤中のグロビンが、沈殿した状態である、請求項1および請求項2のどちらかに記載の製剤。
【請求項4】
均一化されたグロビンを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の生体適合性注射可能製剤。
【請求項5】
前記グロビンが、注射可能な均一化されたペースト剤の形である、請求項4に記載の製剤。
【請求項6】
前記均一化されたペーストが、皮下注射針を介して注射することができる、請求項4および請求項5のどちらかに記載の製剤。
【請求項7】
前記注射可能製剤中のグロビンの濃度が、30mg/g〜150mg/gである、請求項4〜6のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項8】
前記製剤のpHが、6〜8である、請求項4〜7のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項9】
前記グロビンが、懸濁状態にある、請求項1〜8のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項10】
前記グロビンが、薬学的に許容しうる液体ビヒクル中の、6未満または8を超えるpHで溶液状態にある、請求項1または請求項2に記載の製剤。
【請求項11】
前記グロビンが、ゲルの形の製剤中に存在している、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項12】
潤滑剤を更に含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項13】
前記潤滑剤が、トリグリセリド類、ポリエチレングリコール、ヒアルロネート、ヒアルロン酸、酸化セルロース、または多糖類若しくはムコ多糖類の溶液より選択される、請求項12に記載の製剤。
【請求項14】
架橋剤を含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項15】
前記架橋剤が、グルタルアルデヒド、ジアルデヒド類およびポリアルデヒド類、具体的には、酸化デキストラン、酸化デンプンまたは酸化ヒアルロン酸を含めた、過ヨウ素酸で酸化された多糖類より選択される、請求項14に記載の製剤。
【請求項16】
グロビン薄膜を含むまたはグロビン薄膜から成る、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製剤であって、該製剤が、薄膜形成剤、具体的には、コラーゲン、ゼラチン、ヒアルロン酸、酸化セルロース、ポリエチレングリコールまたはグリセロールなどを任意に含有することが可能である製剤。
【請求項17】
前記薄膜が、ゲルまたは溶液の脱水によって得られたものである、請求項16に記載の製剤。
【請求項18】
固形埋め込み剤の形で製造されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項19】
架橋されている、請求項15〜18のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項20】
架橋剤の添加によっておよび/または照射によって架橋されている、請求項19に記載の製剤。
【請求項21】
次の活性成分:治癒用製品、増殖因子、抗生物質の少なくとも一つを更に含有する、請求項1〜20のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項22】
細胞、具体的には、注射または埋め込みの前に、培養支持物質としての製剤のグロビンを用いて培養された細胞であって、具体的には、当該細胞は、皮膚線維芽細胞、軟骨細胞、骨芽細胞または幹細胞でありうる細胞を含有する、請求項1〜21のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項23】
組織充填材料を製造するための、請求項1〜22のいずれか1項に記載の製剤の使用。
【請求項24】
皮膚の腔、しわまたは瘢痕、および骨または軟骨の小腔および破損を充填するための、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
組織体積を増加させるための、請求項1〜22のいずれか1項に記載の製剤の使用。
【請求項26】
括約筋、具体的には、泌尿器または消化器の括約筋、または声帯を増強するために提供される、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
外科的または非外科的な外部または内部の創傷または瘢痕の保護および/または隔離用の薄膜および/または圧定布を製造するための、請求項16〜22のいずれか1項に記載の製剤の使用。
【請求項28】
経皮的動脈創傷用の止血栓、または皮膚瘢痕形成用のペースト剤、または軟骨または骨の瘢痕形成用の材料を形成することを意図した材料を製造するための、請求項1〜22のいずれか1項に記載の製剤の使用。

【公表番号】特表2006−528672(P2006−528672A)
【公表日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530332(P2006−530332)
【出願日】平成16年5月5日(2004.5.5)
【国際出願番号】PCT/FR2004/001082
【国際公開番号】WO2004/100934
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(505419763)
【Fターム(参考)】