説明

不良シジミ貝判別方法およびシジミ貝選別装置

【課題】シジミ貝をぶつけた際の音を用いてシジミ貝の良不良を判別する不良シジミ貝判別方法。
【解決手段】シジミ貝をぶつけて1300Hzから1800Hzのうちから選ばれる所定の周波数帯域の音を最低限含ませて判定することにより、シジミ貝の良不良を判別することを特徴とする不良シジミ貝判別方法である。更に、900Hzから1550Hz、または、2350Hzから2750Hzのうちから選ばれる所定の周波数帯域の音も含ませて判定することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不良シジミ貝判別方法およびシジミ貝選別装置に関し、特に、シジミ貝をぶつけた際の音に基づきその良不良を判別する不良シジミ貝判別方法およびシジミ貝選別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シジミ貝は食用の二枚貝であり、特に、ヤマトシジミはシジミの中で最も美味とされ、実際に採取対象とされるのはヤマトシジミである場合がほとんどである。このヤマトシジミは汽水域に生息し、湖底や河口に生息するものを漁師が鋤簾等の道具により掻いて採取している。
【0003】
シジミ貝の生息域にも死貝は存在するが、ほとんどの場合には中身がなくなり、貝殻も大きく口を開けたり貝殻が分離したりしている。従って、このような死貝は、鋤簾の目をくぐり抜けてしまうので実際には問題となることはない。
【0004】
しかしながら、採取されたシジミ貝の中には、二枚の貝殻が閉じていて通常の活シジミと同様の外観をしておりながら実際には死んでおり、場合によっては中身がヘドロ化していたり砂で一杯に詰まっていたりするものがある(本願ではこのようなシジミを不良シジミと称することとする)。このような不良シジミは料理の風味を著しく損ねてしまい、消費者からのクレームの対象となってしまう。
【0005】
このため、従来では、漁師は、採取してきたシジミを検品し、良シジミだけを卸業者に出荷するようにしていた。検品方法としては、一粒ずつシジミ貝同士をぶつけたり、一握りのシジミ貝を両手を合わせて揺すってぶつけ合わせたりして、鈍い音がする貝があるか否かによって不良シジミを判別していた。なお、例えば、宍道湖産のシジミは出荷量が最も多く、産地としてもよく知られており、品質も高い。このため、ブランド力を傷つけないために、漁師段階だけでなく卸業者も独自に漁師と同様の検品をしている。従来ではこのようにして、漁師や卸業者が手間をかけて不良シジミを判別していた。
【0006】
【特許文献1】特開2004−016048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の方法では以下の問題点があった。
まず、検品に時間と手間がかかるという問題点があった。例えば、一日140kgのシジミの水揚げがある場合、手慣れた漁師であっても検品に3時間かかってしまう。加えて、シジミは食用貝中最も小さな部類に属し数も非常に多い。従って、漁が終わった後に更に早くても3時間かかる検品作業は重労働であるという問題点があった。
【0008】
また、不良率は季節や漁場に依存するので、不良シジミの割合が多い場合、選別に更に時間と手間がかかるという問題点があった。また、選別は手先でおこなうので、特に冬場はつらい作業とならざるを得ないという問題点もあった。
【0009】
また、選別に時間がかかってしまうとその日の納入時刻に間に合わず、翌日納入となり結果的に鮮度が落ちてしまうという問題が生じたり、ひいては、卸業者や小売業者との間の信頼関係を損ねてしまうという問題も生じる場合もあった。
【0010】
また、検品は、貝同士がぶつかる際の音を聞き分けるので、判定に個人差が生じてしまうという問題点があった。特に、複数の貝を両手の中で揺すぶる判定方法の場合には、貝の数やぶつかり方により、音がかき消されたり音の通りが悪くなったりして、個人差が大きくなる場合がある。
【0011】
なお、特開2004−016048号公報では、超音波を用いて貝の活死を判別する方法が開示されているが、発振超音波の減衰に基づいて判別するので、減衰量を正確に求めるために貝の位置調整が必要になるなど、粒が小さく数も多いシジミに適用しにくいという問題点が生じる。また、そもそも、超音波は殻部分で反射されるため貝殻の中での減衰量を測定することは、原理的に困難であるという問題点もある。
【0012】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、不良シジミを、時間も手間もかけずに誤認率低く判別可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の不良シジミ貝判別方法は、シジミ貝をぶつけた際の音を用いてシジミ貝の良不良を判別する不良シジミ貝判別方法であって、1300Hzから1800Hzのうちから選ばれる所定の周波数帯域の音を最低限含ませて判定することにより、シジミ貝の良不良を判別することを特徴とする。
【0014】
すなわち、請求項1にかかる発明は、不良シジミ貝の判定に特徴的な音が最もよく含まれる周波数帯を用いて判別をおこなう。
【0015】
なお、本願においては、シジミ貝をぶつけた際の音とは、シジミ貝を堅い部材とまたは堅い部材へぶつけた際に当該判別対象であるシジミ貝から発生する音をいう(なお、以降においてこの音を判別音と適宜称することとする)。また、最低限とは、他の周波数帯域の音(1300Hz未満または1800Hz以上にある音)を判定に用いてもよく、少なくとも1300Hz〜1800Hzのレンジ内にある音が判定に用いられることを意味する。また、所定の周波数帯域とは、1300Hz〜1800Hzの全帯域でも良いし、例えば、1500Hz〜1600Hzという狭い帯域である場合でもよく、1300Hz〜1500Hzおよび1550Hz〜1800Hzといった分割された複数の帯域である場合も含むものとする。
【0016】
また、請求項2に記載の不良シジミ貝判別方法は、請求項1に記載の不良シジミ貝判別方法において、更に、900Hzから1550Hz、または、2350Hzから2750Hzのうちから選ばれる所定の周波数帯域の音も含ませて判定することにより、シジミ貝の良不良を判別することを特徴とする。
【0017】
すなわち、請求項2にかかる発明は、不良シジミ貝の判定に特徴的な音が次によく含まれる周波数帯域も用いて判定し誤認率をより低くすることを可能とする。なお、誤認には、良シジミを不良シジミと判定する場合と、不良シジミを良シジミと判定する二つの場合がある。本願においては、誤認率とは、不良シジミを良シジミとして判定する(すなわち、消費者にとって好ましくない結果をもたらす)場合を意味するものとする。
【0018】
また、請求項3に記載の不良シジミ貝判別方法は、請求項1または2に記載の不良シジミ貝判別方法において、7500Hz以上の周波数の音を判定に用いないことを特徴とする。
【0019】
すなわち、請求項3にかかる発明は、不良シジミ貝の判定に特徴的な音があまり含まれない周波数帯域を判定から除外して、簡便ないし迅速な判別を可能とする。
【0020】
また、請求項4に記載の不良シジミ貝判別方法は、請求項1,2または3に記載の不良シジミ貝判別方法において、判定が決定木形式に基づくものであることを特徴とする。
【0021】
すなわち、請求項4にかかる発明は、複数の周波数帯域を効率的に組み合わせて誤認率をより低くすることを可能とする。なお、決定木形式に基づいて判断するとは、多階層の場合分け順次判断する場合の他、場合分けに従って作成された表に基づいてパタン判定をおこなう態様であっても良い。
【0022】
また、請求項5に記載の不良シジミ貝判別方法は、請求項1〜4のいずれか一つに記載の不良シジミ貝判別方法において、判定の対象が殻長17mm以上または殻幅12mm以上のシジミ貝であることを特徴とする。
【0023】
すなわち、請求項5にかかる発明は、稚貝を除外して誤認率を低減させる。換言すれば、食用にならない小さなものを除外して、実質的に大きさの揃った貝により誤認率をより低減させる。
【0024】
また、請求項6に記載のシジミ貝選別装置は、シジミ貝を貯留するシジミ貝貯留部と、シジミ貝をシジミ貝貯留部から繰り出して打当部材へ向けて吐出する繰出吐出部と、シジミ貝を打ち当てる打当部材と、打当部材にぶつけられたシジミ貝の音を拾うマイク部と、マイク部により拾われた音のうち所定の周波数帯における音に基づいて、当該シジミ貝の良不良を判定する判定手段と、判定手段により判定された良シジミ貝と不良シジミ貝とを分別する分別部と、を備えたことを特徴とする。
【0025】
すなわち、請求項6にかかる発明は、不良シジミ貝の音により選別をおこなう。なお、打当部材としては、本技術の判定において特に重要視する低周波数帯の音を発生しにくい部材であることが好ましいが、バイアスとして差し引くことができるのであれば、特に限定されない。また、例えば、打当部材をシジミ貝の貝殻とし、共鳴させて効果的に音を拾うようにしてもよい。また、ぶつけるのは1粒ずつでもよいし多数粒同士であってもよい。
【0026】
また、請求項7に記載のシジミ貝選別装置は、前記判定手段が、1300Hzから1800Hzのうちから選ばれる所定の周波数帯域の音を最低限含ませてシジミ貝の良不良を判定することを特徴とする。
【0027】
すなわち、請求項7にかかる発明は、不良シジミ貝の判定に特徴的な音が最もよく含まれる周波数帯を用いて判別をおこなう。
【0028】
また、請求項8に記載のシジミ貝選別装置は、請求項6または7に記載のシジミ貝選別装置において、前記判定手段が、更に、900Hzから1550Hz、または、2350Hzから2750Hzのうちから選ばれる所定の周波数帯域の音も含ませてシジミ貝の良不良を判定することを特徴とする。
【0029】
すなわち、請求項8にかかる発明は、不良シジミ貝の判定の特徴的な音が次によく含まれる周波数帯域も用いて判定し誤認率をより低くすることを可能とする。
【0030】
また、請求項9に記載のシジミ貝選別装置は、請求項6,7または8に記載のシジミ貝選別装置において、7500Hz以上の周波数の音を用いないことを特徴とする。
【0031】
すなわち、請求項9にかかる発明は、不良シジミ貝の判定に特徴的な音があまり含まれない周波数帯域を判定から除外して、簡便ないし迅速な判別を可能とする。なお、装置の駆動音が高音域となるように設計すれば、装置音と判別音との棲み分けが可能となり、誤認率をより低減させることが可能となる。なお、駆動音が定常的であれば、過渡的な判別音と分離可能であるため、この原理を応用しても良い。
【0032】
また、請求項10に記載のシジミ貝選別装置は、請求項6〜9のいずれか一つに記載のシジミ貝選別装置において、前記判定手段が、決定木形式に基づく判定をおこなうことを特徴とする。
【0033】
すなわち、請求項10にかかる発明は、複数の周波数帯域を効率的に組み合わせて誤認率をより低くすることを可能とする。
【0034】
また、請求項11に記載のシジミ貝選別装置は、請求項6〜10のいずれか一つに記載のシジミ貝選別装置において、判定の対象が殻長17mm以上または殻幅12mm以上のシジミ貝であることを特徴とする。
【0035】
すなわち、請求項11にかかる発明は、稚貝を除外して誤認率を低減させる。また、事実上、判別対象が所定範囲の大きさに規格化されることになるので、繰出吐出部の構成を簡略化ないし簡素化することも可能となる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、不良シジミを、時間も手間もかけずに誤認率低く判別可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明をヤマトシジミを対象として具体的に説明していく。
<判別方法の原理>
不良シジミは、堅いものに当てると総じて「カポッ」という音がする。一方、活シジミ貝は、堅いものに当てると総じて「コツン」という音がする。実際に漁師も音により良不良を判断している。そこで、本願発明者らは、まず、シジミをぶつけた際の判別音を解析することとした。
【0038】
サンプルデータ(判別音)を採取するために、活シジミ(良シジミ)と不良シジミを多数用意した。その中から、良シジミ同士を1:1でぶつけた96データを採取し、少なくとも片方が不良シジミであるシジミを1:1でぶつけた99データを採取した。また、良シジミのみからなるシジミの塊に、一粒の良シジミをぶつけた20データと、一粒の不良シジミをぶつけた38データを採取した。なお、用意したシジミは宍道湖産ヤマトシジミであり、採取サイズ、すなわち、殻幅(貝が閉じた際の厚み)が12mm以上のものである。
【0039】
判別音は、マイク(ピーアンドケー社製:型番4191)により拾い、サンプリング周波数を25.6kHzとして、サンプリング点数を、音の発生から512点(=0.02秒)としてデジタル録音した。なお、周波数分解能は、25.6kHz/512=50Hzとなる。続いて、音の大小による比較を容易にするために、得られた判別音の全出力を1に正規化した。
【0040】
次いで、正規化された信号を周波数スペクトルに変換した。図1は、活シジミ貝をぶつけたときの時系列データおよび周波数スペクトルの例である。また、図2は、不良シジミ貝をぶつけたときの時系列データおよび周波数スペクトルの例である。図から明らかなように、特に低音域に違いが生じていることが確認できる。反対に、7500Hzを超える高音域では顕著な違いがみられないことが確認できる。
【0041】
図1および図2は一例として挙げたものであるが、他の活シジミと不良シジミにも同様の傾向がみられた。従って、全253個のサンプルデータ(規格化および周波数スペクトル変換後)に基づいて、活シジミと不良シジミとの違いを決定づける周波数帯を探し出すこととした。
【0042】
本実施の形態では、決定木学習プログラムの一つであるC4.5(J.Ross Quinlan氏開発のフリーウェア)を用い、良不良の結果と、周波数帯域の刻み幅(周波数帯幅)と、開始周波数とを初期入力し、全サンプルデータに基づいてエラー率(良シジミを不良シジミと判定する率と不良シジミを良シジミと判定する率との和)を最小にするように自動的に判定条件を決定させるようにした。また、7500Hz以上の周波数は解析しないこととした。
【0043】
例えば、周波数帯幅を250Hzとした場合には、
解析ケース1:開始周波数=0Hz
解析に用いる周波数帯の区切り
0〜250,250〜500,・・・,7250〜7500[Hz]
解析ケース2:開始周波数=50Hz
解析に用いる周波数帯の区切り
50〜300,300〜550,・・・,7050〜7300[Hz]
解析ケース3:開始周波数=100Hz
解析に用いる周波数帯の区切り
100〜350,350〜600,・・・,7100〜7350[Hz]
解析ケース4:開始周波数=150Hz
解析に用いる周波数帯の区切り
150〜400,400〜650,・・・,7150〜7400[Hz]
解析ケース5:開始周波数=200Hz
解析に用いる周波数帯の区切り
200〜450,450〜700,・・・,7200〜7450[Hz]
という5つの解析をおこなった。開始周波数をずらして解析したのは、最も特徴的な周波数帯域が開始周波数に従って分割される可能性があることを考慮したものである。
【0044】
なお、上記の例は周波数帯幅を250Hzとしたものであるが、この他、200Hz、150Hz、100Hzとしたものについても開始周波数を50Hzずつずらして検討したものも含めて解析した。
【0045】
この結果、決定木形式の判定に際しては、主位的な判定階層となる周波数帯域が周波数帯幅や開始周波数に依存せず、同じようなレンジに収まることが確認できた。図3は、周波数帯幅と開始周波数とエラー率とを、第一階層(太線)および第二階層(細線)の判定対象周波数帯域と共に示した図である。ここで、第一階層とは、エラー率を最も低くするために決定された決定木の最初の判定階層を意味し、第二階層とは、当該決定木の二番目の判定階層を意味する。
【0046】
各周波数帯幅でのエラー率5%未満となる解析ケースをみると、第一階層は、1300Hz〜1800Hzに存在することが分かる。また、第二階層は、900Hz〜1550Hz、または2350Hzから2750Hzに存在することが分かる。
【0047】
なお、図4に、周波数帯域幅100Hz、開始周波数0Hzとした場合の決定木を概念的に示した。この解析ケースは、エラー率が最も低く2.0%である。図示したように全8階層、16回の判定をおこなっていることが分かる。なお、図中、四角で囲ってある数値は判定対象となる周波数帯を表し、その下の「≧」もしくは「<」記号のつけてある数値は、当該周波数帯における判別しきい値を表す。図に表した例では、まず最初に1500Hz〜1600Hzの音の大きさが、0.001077より大きいか小さいかで次の判別条件に移行する。なお、判別音は規格化されているものとする。
【0048】
なお、エラー率と、判断階層と判断回数(決定木における枝数)と、エラー内訳との関係を図5に示した。各周波数帯幅の最小のエラー率が2%〜3%であり、かつ、良を不良と、不良を良と判定する場合はおおむね5分5分である点をふまえると、誤認率(不良シジミを良シジミと判定する割合)は、1%程度と極めて低い数値を示すことが確認できる。
【0049】
<シジミ貝選別装置>
以上のように、シジミの良不良はシジミをぶつけた音により判定可能であるため、この原理を応用したシジミ貝選別装置によりシジミ貝の選別が可能となる。
【0050】
図6は、シジミ貝選別装置の概略構成図である。シジミ貝選別装置100は、ホッパー101と、吐出ローラ102と、打当板103と、マイク104と、制御部105と、除外具106と、良品受箱107と、不良品受箱108と、を備える。
【0051】
ホッパー101は、漁で採ってきたシジミ貝を貯留する。ホッパー101の下部は、先細りに導出管111が形成されその先端に設けられた規制棒112が、導出管111の先端を塞いだり開いたりすることにより、シジミ貝を一つずつ順次吐出ローラ102に繰り出す。
【0052】
吐出ローラ102は、一対のローラからなり、シジミ貝を所定の速さで打当板103へ吐出する。ローラは、個々のシジミ貝の大きさが異なることに対応できるように、柔軟性のある素材としており、両側から包むようにしてシジミ貝を繰り出す。なお、このような部材を用いれば、シジミ貝も傷つかない。
【0053】
打当板103は、吐出ローラ102から吐出されたシジミがぶつかる位置に配され、シジミ貝のぶつかる音(判定音)を発生させる部材である。このような部材としては、例えば、石板を挙げることができる。なお、打当板の裏側や周囲には吸音材131を取り付けている。
【0054】
制御部105は、マイク104で拾われた判別音に基づいてそのシジミの良不良を判定する。具体的には次の処理をおこなう。まず、マイク104で拾われた判別音を所定のサンプリング周波数によりデジタルデータとしてRAMに格納する。この判別音を規格化し、次いで高速フーリエ変換する。得られた音波パタンから、良否判定パタンを用いてそのシジミの良否を判定する。
【0055】
良否判定パタンとは、先に説明した判別方法の原理から得られるパタンである。図7は、良否判定パタンの構成の一部を例示した図である。ここでは、周波数帯域幅100Hz、開始周波数0Hzとした場合のパタンを示している。決定木の枝は、図4に示したように、17に分かれているが、所定のしきい値と比較することにより迅速な判断が可能となる。
【0056】
なお、制御部105は、規制棒112の駆動タイミングや吐出ローラ102の回転数、除外具106の駆動も制御する。
【0057】
除外具106は、打当板103で跳ね返って落下したシジミのうち制御部105により不良と判定されたシジミを不良品受箱108側へ押しだし落下させる。一方、良と判定されたシジミはそのまま落下させ、良品受箱107へ落下させる。
【0058】
なお、上述した例は一例であり、種々の構成を採用できる。例えば、打当板103から適切に音を拾えるのであれば、必ずしも吐出ローラ102は必要でなく、導出管111から自由落下させる態様であっても良い。この他、図8に示したように、シジミ貝をベルトコンベヤで移動させ、途中で判別音を発生させ、不良シジミだけをエアノズルで吹き飛ばすようにしても良い。また、判別音による判定手法を用いているので、制御部105では、装置の駆動音をあらかじめ差し引くようにしてデータ処理させても良い。また、シジミの大きさをS玉、M玉、L玉、のようにあらかじめホッパー101で3サイズに分け、それぞれに判定パタンを異ならせ、精度を向上させるようにしても良い。
【0059】
なお、以上の実施の形態では、決定木に基づいた良否判定パタンを用いているが、これに限ることなく、不良シジミ貝に特徴的な音として、上述もしくは図示した周波数帯を用いるのであれば、その判断手法ないし判断形式は特に限定されない。
【実施例1】
【0060】
漁師が採取してきたシジミ貝を10kg(約2100個)用意した。一分間におおよそ1kg(1時間で60kg)判定するように装置を調整した。これは、漁師が1時間あたり50kgを判定する速度を上回る速度である。良否判定パタンとしては、図7に示したものを用いた(誤認率=エラー率2%×不良シジミを良シジミとして判定する割合3/5=1.2%)。
【0061】
計算上は、装置を用いた場合の誤認率は、2100個×0.012=25.2個である。しかしながら、装置による判別後、良シジミとして判別されたものを全数漁師により検品をしてもらったところ、不良シジミは0個であった。
【0062】
シジミには、生育途中で殻に傷が付いたり、貝殻表皮が一部剥離しかかっているようになったり、藻やゴミをくわえ込んだりしているものがある。これらは、不良シジミと似たような判別音を発生しやすい。確率的には10kg中25個のシジミが、不良にもかかわらず良と判定される可能性があるものの、上述したように、実際の検品では0判定となったのはこのような事情に基づくと考えられる。
【0063】
なお、当該漁師による別の10kgのシジミの不良割合は500gであった。すなわち、不良シジミ率は5%ということとなる。季節や漁場によって異なるが、一般的に不良率は5〜10%の範囲であるといわれる。漁師による誤認率は個人差もあるが1%程度であり、また、市場に不良シジミが若干数出回っても、ほとんどの場合、搬送時や家庭における砂抜き等の調理段階で除外され問題とならない。このような観点から、本装置では、数値的にも漁師による検品と同等の判定品質を保ち(漁師の誤認率1%、装置の誤認率1.2%)、実際にも漁師以上の検品品質(漁師の誤認率1%、装置の誤認率0%)を発揮することが確認できた。
【0064】
以上説明したように、漁師によると10kgのうちから500gの不良シジミを分別するのに1時間の手作業が必要であったところ、本発明によれば、同等以上の分別速度により、人手を介さず誤認率を実質0とする分別作業が可能となることが確認できた。なお、2100個中、良シジミを不良シジミと判定する場合は確率的に2100個×0.02×2/5=16.8個であるが、良を不良と判定しても、消費者からのクレームは生じることはなく、また、この程度の判定ミスは、収益に影響しないレベルである。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本技術は、シジミ貝の他、アサリやハマグリにも適用可能である。また、湖底環境をシジミを介して調べる場合などにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】活シジミ貝をぶつけたときの時系列データおよび周波数スペクトルの例である。
【図2】不良シジミ貝をぶつけたときの時系列データおよび周波数スペクトルの例である。
【図3】周波数帯幅と開始周波数とエラー率とを、第一階層および第二階層の判定対象周波数帯域と共に示した図である。
【図4】周波数帯域幅100Hz、開始周波数0Hzとした場合の決定木を概念的に示した図である。
【図5】エラー率と、判断階層と判断回数と、エラー内訳との関係を示した図である。
【図6】シジミ貝選別装置の概略構成図である。
【図7】良否判定パタンの構成の一部を例示した図である。
【図8】シジミ貝選別装置の他の概略構成を示した図である。
【符号の説明】
【0067】
100 シジミ貝選別装置
101 ホッパー
102 吐出ローラ
103 打当板
104 マイク
105 制御部
106 除外具
107 良品受箱
108 不良品受箱
111 導出管
112 規制棒
131 吸音材



【特許請求の範囲】
【請求項1】
シジミ貝をぶつけた際の音を用いてシジミ貝の良不良を判別する不良シジミ貝判別方法であって、
1300Hzから1800Hzのうちから選ばれる所定の周波数帯域の音を最低限含ませて判定することにより、シジミ貝の良不良を判別することを特徴とする不良シジミ貝判別方法。
【請求項2】
更に、900Hzから1550Hz、または、2350Hzから2750Hzのうちから選ばれる所定の周波数帯域の音も含ませて判定することにより、シジミ貝の良不良を判別することを特徴とする請求項1に記載の不良シジミ貝判別方法。
【請求項3】
7500Hz以上の周波数の音を判定に用いないことを特徴とする請求項1または2に記載の不良シジミ貝判別方法。
【請求項4】
判定が決定木形式に基づくものであることを特徴とする請求項1,2または3に記載の不良シジミ貝判別方法。
【請求項5】
判定の対象が殻長17mm以上または殻幅12mm以上のシジミ貝であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の不良シジミ貝判別方法。
【請求項6】
シジミ貝を貯留するシジミ貝貯留部と、
シジミ貝をシジミ貝貯留部から繰り出して打当部材へ向けて吐出する繰出吐出部と、
シジミ貝を打ち当てる打当部材と、
打当部材にぶつけられたシジミ貝の音を拾うマイク部と、
マイク部により拾われた音のうち所定の周波数帯における音に基づいて、当該シジミ貝の良不良を判定する判定手段と、
判定手段により判定された良シジミ貝と不良シジミ貝とを分別する分別部と、
を備えたことを特徴とするシジミ貝選別装置。
【請求項7】
前記判定手段は、1300Hzから1800Hzのうちから選ばれる所定の周波数帯域の音を最低限含ませてシジミ貝の良不良を判定することを特徴とする請求項6に記載のシジミ貝選別装置。
【請求項8】
前記判定手段は、更に、900Hzから1550Hz、または、2350Hzから2750Hzのうちから選ばれる所定の周波数帯域の音も含ませてシジミ貝の良不良を判定することを特徴とする請求項6または7に記載のシジミ貝選別装置。
【請求項9】
7500Hz以上の周波数の音を用いないことを特徴とする請求項6,7または8に記載のシジミ貝選別装置。
【請求項10】
前記判定手段は、決定木形式に基づく判定をおこなうことを特徴とする請求項6〜9のいずれか一つに記載のシジミ貝選別装置。
【請求項11】
判定の対象が殻長17mm以上または殻幅12mm以上のシジミ貝であることを特徴とする請求項6〜10のいずれか一つに記載のシジミ貝選別装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−242800(P2006−242800A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−60187(P2005−60187)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】