説明

不要波抑圧装置

【課題】 アンテナのサイドローブだけでなく、主ビーム方向やそれに近い方向から入射するクラッタなどの不要波を十分に抑圧することができる不要波抑圧装置を得ることを目的とする。
【解決手段】 ディジタルマルチビーム形成部5により形成された受信ビームのビーム信号を複数の帯域に分割するDFB6−nと、そのDFB6−nにより分割された複数のビーム信号に所定の荷重を乗算し、荷重乗算後のビーム信号を足し合わせて不要信号のレプリカを生成する加算器14等とを設け、そのDFB6−nにより分割された複数のビーム信号の中から主ビーム方向に対応している注目帯域のビーム信号から不要信号のレプリカを減算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の素子アンテナから構成されるアレーアンテナの受信信号に含まれる不要波成分(例えば、クラッタや妨害波)を抑圧する不要波抑圧装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
目標を観測するレーダにおいては、地面、海面、雲などから不要反射エコー(クラッタ)を意図せずに受信することがある。したがって、目標を正確に検出するには、受信したクラッタを抑圧することが必要である。
クラッタの反射源は1点ではなく、レーダから見ると一般に角度広がりを持って分布している。
このため、アレーアンテナを用いて、クラッタを抑圧しようとする場合、図2に示すように、クラッタの入射方向範囲のサイドローブレベルを溝状に下げるようなアンテナパターンを持たせることが必要になる。
従来の不要波抑圧装置は、そのようなアンテナパターンを持たせるようなアダプティブアレーを備えている(例えば、非特許文献1,2参照)。
【0003】
また、他の従来例として、ある角度範囲でサイドローブレベルの低いアンテナパターンを形成することを目的とするものではないが、不要波を抑圧するために、予め、不要波の入射方向を計測しておき、その入射方向から仮想的な信号が入射されたものとして、その仮想入射波を用いて荷重計算を実施し、不要波の入射方向にアンテナパターンの零点を形成する不要波抑圧装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
即ち、不要波の到来方向のアンテナ情報を有するステアリングベクトルを用いて、理想的な共分散行列を求める演算器を設けるようにしている。
【0004】
【特許文献1】特開平10−288659号公報(段落番号[0018]から[0035]、図1)
【非特許文献1】R. J. Mailloux,「Covariance matrix augmentation to produce adaptive array pattern troughs」Electronics Letters, vol.31, No.10, pp.771-772, 11th May 1995
【非特許文献2】矢野、鷹尾、「アダプティヴアレイ技術を用いたパターン合成法」電子情報通信学会技術研究報告、アンテナ・伝播研究会A・P83−126,1983
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の不要波抑圧装置は以上のように構成されているので、クラッタや妨害波の入射方向範囲が分かれば、クラッタや妨害波を抑圧することができる。しかし、アンテナのサイドローブから入射する不要波は抑圧することができるが、主ビーム方向やそれに近い方向から入射する不要波を十分に抑圧することができないことがある課題があった。
また、荷重計算を実施して不要波を抑圧する際、仮想入射波を生成する必要があるが、その仮想入射波を生成するには、予めアレーアンテナを構成している複数の素子アンテナの素子パターンを計測する必要がある(素子パターンは、素子アンテナから後段のA/D変換器までの角度対振幅特性や角度対位相特性を示すものであり、アレーマニフォルドと呼ばれる)。あるいは、シミュレーション計算などを実施してアレーマニフォルドを求める必要がある。そのため、アレーマニフォルドの計測やシミュレーション計算などを実施しない限り、不要波を抑圧することができない課題があった。
【0006】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、サイドローブだけでなく、主ビーム方向やそれに近い方向から入射するクラッタなどの不要波を十分に抑圧することができる不要波抑圧装置を得ることを目的とする。
また、この発明は、アレーマニフォルドの計測やシミュレーション計算などを実施することなく、不要波を抑圧することができる不要波抑圧装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る不要波抑圧装置は、マルチビーム形成手段により形成された受信ビームのビーム信号を複数の帯域に分割する帯域分割手段と、その帯域分割手段により分割された複数のビーム信号に所定の荷重を乗算し、荷重乗算後のビーム信号を足し合わせて不要信号のレプリカを生成するレプリカ生成手段とを設け、その帯域分割手段により分割された複数のビーム信号の中から主ビーム方向に対応している注目帯域のビーム信号からレプリカ生成手段により生成された不要信号のレプリカを減算するようにしたものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、マルチビーム形成手段により形成された受信ビームのビーム信号を複数の帯域に分割する帯域分割手段と、その帯域分割手段により分割された複数のビーム信号に所定の荷重を乗算し、荷重乗算後のビーム信号を足し合わせて不要信号のレプリカを生成するレプリカ生成手段とを設け、その帯域分割手段により分割された複数のビーム信号の中から主ビーム方向に対応している注目帯域のビーム信号からレプリカ生成手段により生成された不要信号のレプリカを減算するように構成したので、サイドローブだけでなく、主ビーム方向やそれに近い方向から入射するクラッタなどの不要波を十分に抑圧することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1による不要波抑圧装置を示す構成図であり、図において、アレーアンテナ1はN個の素子アンテナ1−1,1−2,・・・,1−Nから構成されている。なお、素子アンテナ1−n(n=1,2,・・・,N)は、複数の素子アンテナから構成されているサブアレーであってもよい。素子アンテナ1−nの配置は任意である。
受信機2−1,2−2,・・・,2−Nは素子アンテナ1−nにより受信された高周波信号(RF信号)を増幅し、増幅後のRF信号を中間周波信号(IF信号)に周波数変換する。
【0010】
A/D変換器3−1,3−2,・・・,3−Nは受信機2−n(n=1,2,・・・,N)から出力されたアナログのIF信号をA/D変換して、ディジタルのIF信号(ディジタルIF信号)を出力する。
位相検波器4−1,4−2,・・・,4−NはA/D変換器3−n(n=1,2,・・・,N)から出力されたディジタルIF信号に対する位相検波処理を実施して、ディジタル同相・直交信号u(k’)を出力する。
ただし、k’はサンプリング間隔で正規化された時刻を表し、ディジタル同相・直交信号u(k’)は実部が同相成分、虚部が直交成分を表す複素信号である。
【0011】
ディジタルマルチビーム形成部5は位相検波器4−n(n=1,2,・・・,N)から出力されたディジタル同相・直交信号u(k’)を入力して複数の方向に受信ビームを同時に形成する処理を行い、複数の方向の受信ビームのビーム信号x(r,k)を出力する。ただし、事前に受信ビームを形成するための各素子の校正は必要である。rはレンジビン番号、kはヒット番号である。
なお、受信機2−n、A/D変換器3−n、位相検波器4−n及びディジタルマルチビーム形成部5からマルチビーム形成手段が構成されている。
【0012】
ドップラーフィルタバンクであるDFB6−1,6−2,・・・,6−Nは通過域中心周波数が相互に異なるL個の帯域通過フィルタが並列に接続されて構成されおり、ディジタルマルチビーム形成部5により形成された受信ビームのビーム信号x(r,k)をL個の帯域に分割し、L個の帯域のビーム信号yn,l(r,k)を出力する。DFB6−n(n=1,2,・・・,N)の処理から、レンジビン毎の処理になるのが一般的である。ただし、l(アルファベッドの小文字のエル)は帯域番号を示している。なお、DFB6−nは帯域分割手段を構成している。
【0013】
外部信号記録部7は予め複数の方向から互いに相関がない信号が個別にアレーアンテナ1に入射されたとき、複数の素子アンテナ1−nの受信信号を記憶する。例えば、互いに相関がない信号として、互いに周波数が異なる正弦波が個別にアレーアンテナ1に入射された場合、位相検波器4−n(n=1,2,・・・,N)から出力されたディジタル同相・直交信号u(k’)のサンプリング周波数(サンプリング間隔は一般にレンジビン間隔に対応している)を1/Dに下げて、その信号をvi,m,n(k)として記録する。ただし、iは第i番目の方向、mは第m番目の周波数を示している。なお、外部信号記録部7は信号記憶手段を構成している。
【0014】
入射方向・ドップラー周波数計測部8はDFB6−nにより分割された複数のビーム信号yn,l(r,k)から不要波の入射方向とドップラー周波数を計測する。
仮想信号生成部9は入射方向・ドップラー周波数計測部8により計測された不要波の入射方向とドップラー周波数に基づいて、外部信号記録部7に記録されている信号vi,m,n(k)を読み出して仮想的に受信したとする信号(以下、仮想信号と呼ぶ)を生成するとともに、選択部12により選択される信号(信号の数と、選択するビーム番号nと帯域番号lの組)を決定する。
荷重計算部10は仮想信号生成部9により生成された仮想信号から例えば相関行列と相互相関ベクトルを求め、その相関行列と相互相関ベクトルを用いて、仮想信号に対応した減算器15から出力される信号の電力を最小化する荷重wr,l0(1),wr,l0(2),・・・,wr,l0(S)を計算する。
なお、入射方向・ドップラー周波数計測部8、仮想信号生成部9及び荷重計算部10から荷重計算手段が構成されている。
【0015】
信号切替部11はDFB6−1により分割された複数のビーム信号y1,l(r,k)の中から主ビーム方向に対応している注目帯域のビーム信号y1,l0(r,k)を選択して減算器15に出力し、それ以外のビーム信号を選択部12に出力する。ただし、lは注目帯域(想定する目標のドップラー周波数)の帯域番号を示している。
目標のドップラー周波数は一般に不明であるから、1つのCPI(Coherent Signal Processing Interval)で、信号切替部11がL回切替を行う必要があり、それぞれの切替に対して、レンジビン毎に荷重係数器13−sの荷重を計算する必要がある。
なお、信号切替部11は信号選択手段を構成している。
【0016】
選択部12は信号切替部11及びDFB6−2〜6−Nより出力されたビーム信号yn,l(r,k)の中から、仮想信号生成部9により決定された信号を選択する。
荷重係数器13−1,13−2,・・・,13−Sは選択部12により選択されたビーム信号y(1)(r,k),y(2)(r,k),・・・,y(S)(r,k)に、荷重計算部10により計算された荷重wr,l0(1),wr,l0(2),・・・,wr,l0(S)を乗算する。
加算器14は荷重係数器13−s(s=1,2,・・・,S)により荷重wr,l0(s)が乗算されたビーム信号wr,l0(s)(s)(r,k)を足し合わせて不要信号のレプリカを生成する。
なお、選択部12、荷重係数器13−s及び加算器14からレプリカ生成手段が構成されている。
減算器15は信号切替部11から出力された主ビーム方向に対応している注目帯域のビーム信号y1,l0(r,k)から加算器14により生成された不要信号のレプリカを減算する。なお、減算器15は不要波除去手段を構成している。
【0017】
この実施の形態1では、不要波としてクラッタを想定して説明する。
従来の不要波抑圧装置は、図2に示すように、クラッタの入射方向範囲のサイドローブレベルを溝状に下げるようなアンテナパターンを有するようにしている。
これに対して、この実施の形態1の不要波抑圧装置では、図3に示すように、ドップラー周波数と空間周波数(入射方向に対応)の2次元周波数平面上において、不要波であるクラッタの2次元スペクトルが、ハッチング領域のように分布しているとき、この不要波を囲む領域(図中、破線で囲まれた領域)の振幅特性の値が、他の阻止域の振幅特性の値よりも小さい時空間周波数特性を有するようにしている。
図3において、点線で囲んでいる小さい四角の領域は時空間フィルタの通過域である。また、図3は素子アンテナ1−nの配置は等間隔リニアアレーを想定したものであるが、実際には素子アンテナ1−nの配置は任意である。
【0018】
次に動作について説明する。
ただし、素子アンテナ1−n、受信機2−n及びA/D変換器3−nの透過振幅・位相は、事前に調整されて揃えられているものとする。あるいは、ディジタルマルチビーム形成部5の入力時に補償されるものとする。
【0019】
受信機2−nは、アレーアンテナ1を構成している素子アンテナ1−nがRF信号を受信すると、そのRF信号を増幅し、増幅後のRF信号をIF信号に周波数変換する。
A/D変換器3−nは、受信機2−nからアナログのIF信号を受けると、そのアナログのIF信号をA/D変換して、ディジタルのIF信号(ディジタルIF信号)を出力する。
位相検波器4−nは、A/D変換器3−nからディジタルIF信号を受けると、そのディジタルIF信号に対する位相検波処理を実施して、ディジタル同相・直交信号u(k’)を出力する。
【0020】
この実施の形態1では、A/D変換器3−nがアナログのIF信号をディジタルIF信号に変換してから、位相検波器4−nがディジタルIF信号に対する位相検波処理を実施して、ディジタル同相・直交信号u(k’)を出力しているが、位相検波器4−nがアナログのIF信号に対する位相検波処理を実施して、アナログ同相・直交信号を出力してから、A/D変換器3−nがアナログ同相・直交信号をディジタル同相・直交信号に変換するようにしてもよい。他の実施の形態でも同様である。
【0021】
ディジタルマルチビーム形成部5は、位相検波器4−nからディジタル同相・直交信号u(k’)を受けると、複数の方向に受信ビームを同時に形成する処理を行う。
即ち、位相検波器4−nから出力されたディジタル同相・直交信号u(k’)を下記の式(1)に代入して、複数の方向の受信ビームのビーム信号x(k’)を出力する。
X(k’)=C・U(k’) (1)
U(k’)=[u(k’),u(k’),・・・,u(k’)] (2)
X(k’)=[x(k’),x(k’),・・・,x(k’)] (3)
【0022】
ただし、式(1)において、CはN×Nの行列であり、その要素は複数のビーム形成方向に対応している値(一般に複素数)である。
ここでは、ディジタルマルチビーム形成部5の出力信号の数が入力信号の数と等しいNとしているが、入力信号と出力信号の数は必ずしも一致する必要はない。
説明の便宜上、ディジタルマルチビーム形成部5の出力信号の1つであるビーム信号x(k’)は、レーダの受信ビーム(主ビーム)で受信された信号とする。式(2),(3)において、肩文字Tは行列やベクトルの転置を表している。
【0023】
ドップラーフィルタバンクであるDFB6−nは、ディジタルマルチビーム形成部5から受信ビームのビーム信号x(k’)であるビーム信号x(r,k)を受けると、そのビーム信号x(r,k)をL個の帯域に分割する。
DFB6−nの帯域分割処理から、レンジビン毎の処理となるのが一般的であるため、r(r=1,2,・・・,R;Rはレンジビン数)をレンジビン番号、k(k=1,2,…,K;Kはヒット数)をヒット番号として、ビーム信号x(k’)をx(r,k)のように表している。ヒットに関するサンプリング間隔は、パルス繰り返し周波数である。
DFB6−nにより分割されたL個の帯域のビーム信号をyn,l(r,k)と表す。lは帯域番号であり、l=1,2,・・・,Lである。
例えば、DFB6−nがFIR形ディジタルフィルタを用いて構成されている場合、その帯域番号lの係数をh(q)(q=0,1,・・・,Q−1;Qはインパルス応答長)とすると、L個の帯域のビーム信号yn,l(r,k)は下記の式(4)のようになる。
n,l(r,k)=Σh(q)x(r,k−q) (4)
ただし、Σはq=0からQ−1まで、h(q)x(r,k−q)を加算する記号である。
【0024】
ここで、荷重係数器13−sが使用する適正な荷重を計算するため、外部信号記録部7には、予め次に示すような信号が記録される。
図4は外部信号記録部7に対する信号記録を示す説明図である。
遠方界とみなされる位置から、アレーアンテナ1に向けて色々な方向から1波づつ信号を送信する。これらは方向間で相関がないように送信する。
また、送信信号のレベルは、受信時に十分な信号対電力比が得られるようにして、各送信信号の電力をほぼ等しくする。
送信する方向間隔は、形成する受信ビームの幅に依存させる(受信ビーム幅より狭いことが望ましい)。送信信号として正弦波を用いる場合、入射方向毎に周波数が異なるようにする。さらに、正弦波の周波数は、同一の入射方向に対して、パルス繰り返し周波数PRF内に一様に等間隔で分布するように、複数波を1波ずつ送信する。
【0025】
上記のようにして、1波ずつ正弦波がアレーアンテナ1に入射される毎に、ダウンサンプラ21−n(n=1,2,・・・,N)が位相検波器4−nから出力されたディジタル同相・直交信号u(k’)のサンプリング周波数(サンプリング間隔は一般にレンジビン間隔に対応している)を1/Dに下げて、その信号をvi,m,n(k)として外部信号記録部7に記録する。ただし、iは第i番目の方向、mは第m番目の周波数、nは第n番目の素子アンテナに係ることを示している。
これはサンプリング間隔がレンジビン間隔相当の信号を、パルス繰り返し周期間隔の信号に変換することに対応する。
したがって、D=(レンジビン間隔(時間))/(パルス繰り返し周期)である。なお、高いパルス繰り返し周波数を用いる場合は、このダウンサンプリングの操作を必要としないこともある。
【0026】
入射方向・ドップラー周波数計測部8は、受信した不要波に対応してDFB6−nから複数のビーム信号yn,l(r,k)を受けると、複数のビーム信号yn,l(r,k)(主ビーム方向に対応している注目帯域のビーム信号y1,l0(r,k)を除く)から不要波の入射方向とドップラー周波数を計測する。
具体的には、次のようにして、不要波の入射方向とドップラー周波数を計測する。
まず、入射方向・ドップラー周波数計測部8は、DFB6−nから出力された複数のビーム信号yn,l(r,k)の電力を計算する。ビーム信号yn,l(r,k)の電力は、一般にレンジビン番号r毎に異なる。
入射方向・ドップラー周波数計測部8は、複数のビーム信号yn,l(r,k)の電力を計算すると、例えば、複数のビーム信号yn,l(r,k)の電力と閾値を比較し、その閾値より大きい電力のビーム信号yn,l(r,k)を選択する。
あるいは、電力が大きいビーム信号yn,l(r,k)から順番に選択し、予め設定している数になるまでビーム信号yn,l(r,k)を選択する。
【0027】
ただし、入射方向・ドップラー周波数計測部8は、ビーム信号yn,l(r,k)を選択するに際して、図3のクラッタ存在領域を囲む破線内の領域のビーム信号yn,l(r,k)を選択する。
その選択したビーム信号yn,l(r,k)に対応する受信ビームの形成方向とDFB6−nの帯域は、それぞれ不要波の入射方向とドップラー周波数に対応する。
なお、この実施の形態1に限らず、不要波の入射方向とドップラー周波数の計測で用いる信号電力は、ある有限サンプルにおける振幅二乗平均である。
【0028】
このようにして、DFB6−nから出力された複数のビーム信号yn,l(r,k)の中から、いくつかのビーム信号yn,l(r,k)を選択するということは、不要波の入射方向領域とドップラー周波数領域を計測していることになる。
この実施の形態1では、このような簡単な方法で、不要波の入射方向領域を計測している。このとき、電力計算に必要なサンプル数は多くなくてもよい。図1のようなビームスペース形アダプティブアレーでは、基本的に信号選択手段が必要であり、何らかの基準で信号選択を行う。この実施の形態1では、ビームスペース形アダプティブアレーの構成を活かすことにより、不要波の入射方向領域やドップラー周波数領域の計測のために特別な付加装置を用いなくてよいという特徴がある。
【0029】
仮想信号生成部9は、入射方向・ドップラー周波数計測部8が不要波の入射方向とドップラー周波数を計測すると、その不要波の入射方向とドップラー周波数に基づいて、外部信号記録部7に記録されている信号vi,m,n(k)を読み出して仮想信号を生成するとともに、選択部12により選択される信号(信号の数と、選択するビーム番号nと帯域番号lの組)を決定する。
具体的には、次のようにして、仮想信号の生成と、その仮想信号の選択を行う。
【0030】
仮想信号生成部9は、外部信号記録部7に記録されている信号vi,m,n(k)の中から、入射方向・ドップラー周波数計測部8により計測された不要波の入射方向領域とドップラー周波数領域の信号vi,m,n(k)の読み出しを行う。
図4に示すように、外部信号記録部7に素子アンテナ毎に信号vi,m,n(k)が記録されている場合、外部信号記録部7から読み出した信号をv(p)(r,k)と表現する。
p=1,2,・・・,Pは、不要波の入射方向領域とドップラー周波数領域に対応する通算の番号であり、Pは読み出した信号の数である。
【0031】
仮想信号生成部9は、外部信号記録部7から信号v(p)(r,k)を読み出すと、その信号v(p)(r,k)を下記の式(5)に代入して、ディジタルマルチビームの形成演算を実施する。
[vB(p)(r,k),vB(p)(r,k),
・・・,vB(p)(r,k)]
=C[v(p)(r,k),v(p)(r,k),
・・・,v(p)(r,k)] (5)
仮想信号生成部9は、vB(p)(r,k)を計算すると、そのvB(p)(r,k)に対して、DFB6−nと同様のフィルタリング処理を実施する。
フィルタリング処理による出力信号は、下記の式(6)に示すような仮想信号vBFn,l(p)(r,k)になる。
vBFn,l(p)(r,k)=Σh(q)vB(p)(r,k−q) (6)
ただし、Σはq=0からQ−1まで、h(q)vB(p)(r,k−q)を加算する記号である。
【0032】
また、仮想信号生成部9は、上記のようにして、仮想信号vBFn,l(p)(r,k)を生成すると、荷重計算部10に与える仮想信号の選択を行う。それは、選択部12により選択される信号の数Sと選択されるビーム番号nと帯域番号lの組と同じであり、仮想信号生成部9は、同時に選択されるビーム番号nと帯域番号lの組を選択部12に出力する。この信号選択数Sは、外部信号記録部7から読み出した信号の数P以上とする。
具体的には、次のようにして、仮想信号を選択するが、その選択方法は次の2通りである。
【0033】
〔1〕第1の選択方法
第1の選択方法では、受信不要波に対するDFBの出力電力に基づいて、電力順に仮想信号をS個選択する。
この場合、仮想信号生成部9は、上述した式(6)のフィルタ処理については、選択するS個の出力に対応するものと、主ビーム方向に対応しているDFB6−1のうち、注目帯域番号lに対応するものだけでよい。
即ち、仮想信号生成部9は、生成した仮想信号vBFn,l(p)(r,k)の中から、受信不要波電力の大きいビーム番号nと帯域番号lの組に対応する仮想信号vBFn,l(p)(r,k)から順番に選択する。
そして、その選択した“n”と“l”の組に対応する仮想信号毎に、p=1,2,…,Pに関して加算する。
主ビーム方向に対応しているDFB6−1の注目帯域番号の信号をp=1,2,…,Pに関して加算し、その結果をvBFS1,l0(r,k)と表し、それ以外の加算した信号をvBFS(s)(r,k)(s=1,2,…,S)と表す。肩文字sは選択した“n”と“l”の組に関して通算した番号である。
仮想信号生成部9は、注目帯域番号lの仮想信号vBFS1,l0(r,k)と、その選択した仮想信号vBFS(s)(r,k)を荷重計算部10に出力する。
【0034】
〔2〕第2の選択方法
第2の選択方法では、生成した仮想信号に対するDFBの出力電力に基づいて、電力順にビーム信号をS個選択する。
この場合、仮想信号生成部9は、上述した式(6)のフィルタ処理については、すべてのn=1,2,・・・,Nと、l=1,2,・・・,Lに対して行う。
即ち、仮想信号生成部9は、仮想信号vBFn,l(p)(r,k)を生成すると、全ての“n”と“l”に対応する仮想信号毎に、p=1,2,…,Pに関して加算する。その加算した信号をvBFSn,l(r,k)と表す。
そして、主ビーム方向に対応しているDFB6−1の注目帯域番号lの仮想信号vBFS1,l0(r,k)を除いて、電力の大きい加算した信号vBFSn,l(r,k)から順番に選択する。その選択したS個の信号をvBFS(s)(r,k)(s=1,2,…,S)とする。肩文字sは選択した“n”と“l”の組に関して通算した番号である。
仮想信号生成部9は、注目帯域番号lの仮想信号vBFS1,l0(r,k)と、その選択した仮想信号vBFS(s)(r,k)を荷重計算部10に出力する。
【0035】
荷重計算部10は、仮想信号生成部9から主ビームに対応した注目帯域番号lの仮想信号vBFS1,l0(r,k)と、選択された仮想信号vBFS(s)(r,k)を受けると、それらの仮想信号から例えば相関行列と相互相関ベクトルを求め、その相関行列と相互相関ベクトルを用いて、仮想信号に対応した減算器15から出力される信号の電力を最小化する荷重wr,l0(1),wr,l0(2),・・・,wr,l0(S)を計算する。
即ち、荷重計算部10は、図3に示すように、ドップラー周波数と空間周波数(入射方向に対応)の2次元周波数平面上において、不要波(例えば、クラッタ)の2次元スペクトルがハッチング領域のように分布しているとき、そのハッチング領域を囲む破線で囲まれた領域の振幅特性値が、他の阻止域よりも小さい周波数特性を有する時空間フィルタとなるように、荷重wr,l0(s)を計算する。
具体的には、次のようにして、荷重wr,l0(s)を計算する。
【0036】
ここでは、荷重計算部10がSMI(Sample Matrix Inversion)法を用いて、荷重wr,l0(s)を計算する方法を説明する。ただし、荷重計算方法はSMI法に限るものではなく、他の様々な方法(例えば、LMS法)などを使用してもよい。
荷重計算部10は、下記の式(7)の行列Aと、式(8)のベクトルbr,l0を構成して、式(9)で与えられる相関行列Rと、相互相関ベクトルpr,l0を求める。
(>S)は荷重計算に用いるサンプル数であり、ヒット数Kとは無関係である。相関行列R、相互相関ベクトルpr,l0及び荷重ベクトルWr,l0の関係を示す正規方程式は、下記の式(10)のようになる。
これにより、荷重ベクトルWr,l0は式(11)のようになる。荷重ベクトルWr,l0の定義は式(12)である。直接、正規方程式を解くのが好ましくない場合もある。このときは、‖Ar,l0−br,l0をなるべく小さくするような荷重ベクトルWr,l0を、例えば、行列Aの特異値分解を用いて計算すればよい。式(9)において、肩文字Hは行列やベクトルの共役転置を表している。
【0037】
【数1】

=A , pr,l0=Ar,l0 (9)
r,l0=pr,l0 (10)
r,l0=R−1r,l0 (11)
r,l0=[wr,l0(1)r,l0(2) ・・・ wr,l0(S) (12)
【0038】
信号切替部11は、受信不要波に対応してDFB6−1から主ビーム方向に対応しているビーム信号y1,l(r,k)を受けると、帯域番号がlである注目帯域のビーム信号y1,l0(r,k)を選択して減算器15に出力する。
DFB6−1から出力されたビーム信号y1,l(r,k)のうち、注目帯域以外のビーム信号y1,l(r,k)(l≠l)については、選択部12に出力する。
【0039】
選択部12は、信号切替部11から注目帯域以外のビーム信号y1,l(r,k)を受け、DFB6−2〜DFB6−Nからビーム信号yn,l(r,k)を受けると、これらのビーム信号の中から、仮想信号生成部9により決定されたS個のビーム番号nと帯域番号lの組の対応したビーム信号y(s)(r,k)を選択する。
【0040】
荷重係数器13−sは、選択部12がS個のビーム信号y(1)(r,k),y(2)(r,k),・・・,y(S)(r,k)を選択し、荷重計算部10により計算された荷重wr,l0(1),wr,l0(2),・・・,wr,l0(S)を受けると、そのビーム信号y(s)(r,k)にwr,l0(s)を乗算し、荷重乗算後のビーム信号wr,l0(s)(s)(r,k)を加算器14に出力する。
加算器14は、荷重係数器13−sから荷重乗算後のビーム信号wr,l0(s)(s)(r,k)を受けると、荷重乗算後のビーム信号wr,l0(s)(s)(r,k)を足し合わせて不要信号のレプリカを生成する。
【0041】
減算器15は、加算器14が不要信号のレプリカを生成すると、信号切替部11から出力された主ビーム方向に対応している注目帯域のビーム信号y1,l0(r,k)から不要信号のレプリカを減算することにより、主ビーム方向に対応している注目帯域のビーム信号y1,l0(r,k)に含まれている不要信号を除去する。不要信号が除去された信号zl0(r,k)は下記の式(13)のようになる。
l0(r,k)=y1,l0(r,k)
−Σwr,l0(s)(s)(r,k) (13)
ただし、Σはs=1からSまで、wr,l0(s)(s)(r,k)を加算する記号である。
なお、上述したように、目標のドップラー周波数は不明であるから、1つのCPIで、信号切替部11による選択は複数回行う必要があり、その都度、想定する目標のドップラー周波数に対応する帯域番号lは変わる。それぞれに対して、レンジビン番号r毎に荷重wr,l0(s)を計算し、式(13)の処理を行う必要がある。以上のような不要波抑圧処理の後、目標検出処理が行われるのが一般的である。
【0042】
以上で明らかなように、この実施の形態1によれば、ディジタルマルチビーム形成部5により形成された受信ビームのビーム信号を複数の帯域に分割するDFB6−nと、そのDFB6−nにより分割された複数のビーム信号に所定の荷重を乗算し、荷重乗算後のビーム信号を足し合わせて不要信号のレプリカを生成する加算器14等とを設け、そのDFB6−nにより分割された複数のビーム信号の中から主ビーム方向に対応している注目帯域のビーム信号から不要信号のレプリカを減算するように構成したので、アンテナのサイドローブだけでなく、主ビーム方向やそれに近い方向から入射するクラッタなどの不要波を十分に抑圧することができる効果を奏する。
【0043】
また、この実施の形態1によれば、複数の方向から互いに相関がない信号が個別にアレーアンテナ1に入射されたとき、複数の素子アンテナ1−nの受信信号を記憶し、その記憶された複数の素子アンテナの受信信号から減算器15による減算後の信号の電力を最小化する荷重を計算するように構成したので、アレーマニフォルドの計測やシミュレーション計算などを実施することなく、不要波を抑圧することができる効果を奏する。
即ち、外部信号記録部7に記録される信号vi,m,n(k)は、従来例と異なり、完全に内部で作り出されるものではない。実際にアレーアンテナ1で受信された信号であるから、外部信号記録部7に記録される信号vi,m,n(k)には既に素子パターンなどの影響が含まれている。したがって、従来例と異なり、予めアレーマニフォルドを計測しておく必要がない特徴がある。
【0044】
また、ビームスペース形アダプティブアレーの構成を活かして、不要波の入射方向とドップラー周波数領域を計測し、その入射方向とドップラー周波数領域に応じて、その領域の振幅特性値が小さくなるような時空間周波数特性を形成する。不要波の入射方向とドップラー周波数領域の計測のために付加的な手段を設けているわけではないので、その目的のために装置規模が大きくなることはないという特徴がある。さらに、受信不要波を直接荷重計算に使わず、DFB6−nの出力信号の電力の比較による不要波の入射方向とドップラー周波数領域の計測に使用しているだけである。したがって、荷重計算に使う仮想信号のサンプル数が受信不要波信号には依存せずに決められる特徴がある。
【0045】
実施の形態2.
上記実施の形態1では、外部信号記録部7が信号vi,m,n(k)を記録するに際して、1波ずつ正弦波がアレーアンテナ1に入射されるものについて示したが、帯域幅がパルス繰り返し周波数PRFと等しい広帯域信号、あるいは、帯域幅がパルス繰り返し周波数PRF以上に広がっている広帯域信号が1波ずつアレーアンテナ1に入射されるものであってもよい。例えば、周波数を掃引した信号でもよい。
ただし、アレーアンテナ1に入射される信号が正弦波でないため、図5に示すように、ダウンサンプラ21−nによりサンプリング周波数が下げられた広帯域信号をM個の帯域に分割するフィルタバンク22−n(n=1,2,・・・,N)に通して信号vi,m,n(k)を取得し、その信号vi,m,n(k)を外部信号記録部7に記録するようにする。
なお、フィルタバンク22−nの帯域分割数Mは、DFB−nの帯域分割数Lより多くする。信号vi,m,n(k)のiはアレーアンテナ1に対する第i番目の入射方向、nは第n番目の素子アンテナ、mは第m帯域のフィルタバンクに係ることを表している。
【0046】
また、上記実施の形態1では、ダウンサンプラ21−nによりサンプリング周波数が下げられた信号vi,m,n(k)を外部信号記録部7に記録するものについて示したが、図6に示すように、ディジタルマルチビーム形成部5と同様の処理を実施するディジタルマルチビーム形成部23をダウンサンプラ21−nの後段に接続し、ディジタルマルチビーム形成部23がダウンサンプラ21−nによりサンプリング周波数が下げられた信号vi,m,n(k)から信号vBi,m,n(k)を求めて、その信号vBi,m,n(k)を外部信号記録部7に記録するようにしてもよい。
この場合、仮想信号生成部9におけるディジタルマルチビームの形成演算(式(5)を参照)が不要になる。
ここでは、ディジタルマルチビーム形成部23をダウンサンプラ21−nの後段に接続しているものについて示したが、ディジタルマルチビーム形成部23をダウンサンプラ21−nの前段に接続するようにしてもよい。ただし、ダウンサンプラ21−nの後段に接続している場合の方が、サンプリング周波数が低いため、ディジタルマルチビーム形成部23の処理負担が低いものになる。
【0047】
また、アレーアンテナ1に入射される信号が広帯域信号である場合でも、図7に示すように、ディジタルマルチビーム形成部23をダウンサンプラ21−nの後段又は前段に接続するようにしてもよい。
この場合、仮想信号生成部9におけるディジタルマルチビームの形成演算(式(5)を参照)が不要になる。
【0048】
実施の形態3.
図8はこの発明の実施の形態3による不要波抑圧装置を示す構成図であり、図において、図1と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
マルチビーム形成部30は例えばバトラーマトリックスや、光制御型のビーム形成回路などを用いて構成され、素子アンテナ1−n(n=1,2,・・・,N)により受信されたRF信号を入力して、RF領域で複数の受信ビームを同時に形成する。
ただし、ここでは素子アンテ1−nの数Nと、マルチビーム形成部30の出力信号の数Nが一致しているが、素子アンテ1−nの個数とマルチビーム形成部30から出力される信号数は必ずしも一致する必要はない。
なお、受信機2−n、A/D変換器3−n、位相検波器4−n及びマルチビーム形成部30からマルチビーム形成手段が構成されている。
【0049】
次に動作について説明する。
マルチビーム形成部30は、アレーアンテナ1を構成している素子アンテナ1−nがRF信号を受信すると、そのRF信号を入力して、RF領域で複数の受信ビームを同時に形成する。
マルチビーム形成部30がRF領域でマルチビームを形成する点で、図1のディジタルマルチビーム形成部5と異なる。
【0050】
受信機2−nは、マルチビーム形成部30がRF領域でマルチビームを形成すると、複数の受信ビームのRF信号を増幅し、増幅後のRF信号をIF信号に周波数変換する。
A/D変換器3−nは、受信機2−nからアナログのIF信号を受けると、そのアナログのIF信号をA/D変換して、ディジタルのIF信号(ディジタルIF信号)を出力する。
位相検波器4−nは、A/D変換器3−nからディジタルIF信号を受けると、そのディジタルIF信号に対する位相検波処理を実施して、ディジタル同相・直交信号x(k’)を出力する。
ただし、k’はサンプリング間隔で正規化された時刻を表し、ディジタル同相・直交信号x(k’)は実部が同相成分、虚部が直交成分を表す複素信号である。
なお、位相検波器4−nからDFB6−nに出力されるディジタル同相・直交信号x(k’)は、図1のディジタルマルチビーム形成部5からDFB6−nに出力されるビーム信号x(k’)に相当する。したがって、仮想信号の生成に用いるために外部信号記録部7から読み出す信号は、図6あるいは図7のvBi,m,1(k)である。
以下、上記実施の形態1と同様であるため説明を省略する。
【0051】
この実施の形態3のように、マルチビーム形成部30がRF領域でマルチビームを形成してから、受信機2−n、A/D変換器3−n及び位相検波器4−nが受信ビームのビーム信号であるディジタル同相・直交信号x(k’)を得るようにしても、上記実施の形態1と同様に、アンテナのサイドローブだけでなく、主ビーム方向やそれに近い方向から入射するクラッタなどの不要波を十分に抑圧することができる効果を奏する。
また、この実施の形態3の場合も、複数の方向から互いに相関がない信号が個別にアレーアンテナ1に入射されたとき、複数の素子アンテナ1−nの受信信号を記憶し、その記憶された複数の素子アンテナの受信信号から減算器15による減算後の信号の電力を最小化する荷重を計算するので、アレーマニフォルドの計測やシミュレーション計算などを実施することなく、不要波を抑圧することができる効果を奏する。
【0052】
実施の形態4.
図9はこの発明の実施の形態4による不要波抑圧装置を示す構成図であり、図において、図1と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
主アンテナ31はアレーアンテナ1と独立に設けられ、主ビームのレーダ波の受信あるいは送信と受信の両方を行う。この場合、アレーアンテナ1はサイドローブキャンセラにおける補助アンテナとして動作する。
受信機2−0は主アンテナ31により受信された高周波信号(RF信号)を増幅し、増幅後のRF信号を中間周波信号(IF信号)に周波数変換する。
A/D変換器3−0は受信機2−0から出力されたアナログのIF信号をA/D変換して、ディジタルのIF信号(ディジタルIF信号)を出力する。
位相検波器4−0はA/D変換器3−0から出力されたディジタルIF信号に対する位相検波処理を実施して、ディジタル同相・直交信号u(k’)を出力する。
ただし、k’はサンプリング間隔で正規化された時刻を表し、ディジタル同相・直交信号u(k’)は実部が同相成分、虚部が直交成分を表す複素信号である。
【0053】
ドップラーフィルタバンクであるDFB6−0は通過域中心周波数が相互に異なるL個の帯域通過フィルタが並列に接続されて構成されおり、位相検波器4−0から出力されたディジタル同相・直交信号u(k’)をL個の帯域に分割し、L個の帯域のビーム信号y0,l(r,k)を出力する。DFB6−0の処理から、レンジビン毎の処理になるのが一般的である。ただし、lは帯域番号を示している。
信号切替部11aはDFB6−0により分割された複数のビーム信号y0,l(r,k)の中から注目帯域のビーム信号y0,l0(r,k)を選択して減算器15に出力する。ただし、lは注目帯域の帯域番号を示している。
目標のドップラー周波数は一般に不明であるから、1つのCPI(Coherent Signal Processing Interval)で、信号切替部11aがL回切替を行う必要があり、それぞれの切替に対して、レンジビン毎に荷重係数器13−sの荷重を計算する必要がある。
なお、受信機2−0、A/D変換器3−0、位相検波器4−0、DFB6−0及び信号切替部11aから信号選択手段が構成されている。
【0054】
外部信号記録部7aは予め複数の方向から互いに相関がない信号が個別に主アンテナ31とアレーアンテナ1に入射されたとき、主アンテナ31の受信信号と複数の素子アンテナ1−nの受信信号を記憶する。例えば、互いに相関がない信号として、互いに周波数が異なる正弦波が個別に主アンテナ31とアレーアンテナ1に入射された場合、位相検波器4−n(n=0,1,2,・・・,N)から出力されたディジタル同相・直交信号u(k’)のサンプリング周波数(サンプリング間隔は一般にレンジビン間隔に対応している)を1/Dに下げて、その信号をvi,m,n(k)として記録する。ただし、iは第i番目の方向、mは第m番目の周波数を示している。なお、外部信号記録部7aは信号記憶手段を構成している。
【0055】
入射方向・ドップラー周波数計測部8aはDFB6−n(n=1,2,・・・,N)により分割された複数のビーム信号yn,l(r,k)から不要波の入射方向とドップラー周波数を計測する。
【0056】
仮想信号生成部9aは入射方向・ドップラー周波数計測部8aにより計測された不要波の入射方向とドップラー周波数に基づいて、外部信号記録部7aに記録されている信号vi,m,n(k)を読み出して仮想信号を生成するとともに、選択部12により選択される信号(信号の数と、選択するビーム番号nと帯域番号lの組)を決定する。
荷重計算部10aは仮想信号生成部9aにより生成された仮想信号から例えば相関行列と相互相関ベクトルを求め、その相関行列と相互相関ベクトルを用いて、仮想信号に対応した減算器15から出力される信号の電力を最小化する荷重wr,l0(1),wr,l0(2),・・・,wr,l0(S)を計算する。
なお、入射方向・ドップラー周波数計測部8a、仮想信号生成部9a及び荷重計算部10aから荷重計算手段が構成されている。
【0057】
次に動作について説明する。
受信機2−n(n=1,2,・・・,N)は、アレーアンテナ1を構成している素子アンテナ1−nがRF信号を受信すると、そのRF信号を増幅し、増幅後のRF信号をIF信号に周波数変換する。
受信機2−0は、主アンテナ31がRF信号を受信すると、そのRF信号を増幅し、増幅後のRF信号をIF信号に周波数変換する。
【0058】
A/D変換器3−n(n=1,2,・・・,N)は、受信機2−n(n=1,2,・・・,N)からアナログのIF信号を受けると、そのアナログのIF信号をA/D変換して、ディジタルのIF信号(ディジタルIF信号)を出力する。
A/D変換器3−0は、受信機2−0からアナログのIF信号を受けると、そのアナログのIF信号をA/D変換して、ディジタルのIF信号(ディジタルIF信号)を出力する。
位相検波器4−n(n=1,2,・・・,N)は、A/D変換器3−n(n=1,2,・・・,N)からディジタルIF信号を受けると、そのディジタルIF信号に対する位相検波処理を実施して、ディジタル同相・直交信号u(k’)を出力する。
位相検波器4−0は、A/D変換器3−0からディジタルIF信号を受けると、そのディジタルIF信号に対する位相検波処理を実施して、ディジタル同相・直交信号u(k’)を出力する。
【0059】
この実施の形態4では、A/D変換器3−n(n=0,1,2,・・・,N)がアナログのIF信号をディジタルIF信号に変換してから、位相検波器4−n(n=0,1,2,・・・,N)がディジタルIF信号に対する位相検波処理を実施して、ディジタル同相・直交信号u(k’)を出力しているが、位相検波器4−n(n=0,1,2,・・・,N)がアナログのIF信号に対する位相検波処理を実施して、アナログ同相・直交信号を出力してから、A/D変換器3−n(n=0,1,2,・・・,N)がアナログ同相・直交信号をディジタル同相・直交信号に変換するようにしてもよい。
【0060】
ディジタルマルチビーム形成部5は、位相検波器4−n(n=1,2,・・・,N)からディジタル同相・直交信号u(k’)を受けると、上記実施の形態1と同様に、複数の方向に受信ビームを同時に形成する処理を行う。
即ち、位相検波器4−nから出力されたディジタル同相・直交信号u(k’)を上記の式(1)に代入して、複数の方向の受信ビームのビーム信号x(k’)を出力する。
【0061】
DFB6−n(n=1,2,・・・,N)は、ディジタルマルチビーム形成部5から受信ビームのビーム信号x(k’)を受けると、上記実施の形態1と同様に、そのビーム信号x(r,k)をL個の帯域に分割する。
DFB6−n(n=1,2,・・・,N)により分割されたL個の帯域のビーム信号をyn,l(r,k)と表す。lは帯域番号であり、l=1,2,・・・,Lである。
DFB6−0は、位相検波器4−0からディジタル同相・直交信号u(k’)を受けると、そのディジタル同相・直交信号u(k’)をL個の帯域に分割する。
DFB6−0により分割されたL個の帯域のビーム信号をy0,l(r,k)と表す。lは帯域番号であり、l=1,2,・・・,Lである。
【0062】
ここで、荷重係数器13−sが使用する適正な荷重を計算するため、外部信号記録部7aには、予め次に示すような信号が記録される。
図10は外部信号記録部7aに対する信号記録を示す説明図である。
遠方界とみなされる位置から、主アンテナ31とアレーアンテナ1に向けて色々な方向から1波づつ信号を送信する。これらは方向間で相関がないように送信する。
また、送信信号のレベルは、受信時に十分な信号対電力比が得られるようにして、各送信信号の電力をほぼ等しくする。
送信する方向間隔は、形成する受信ビームの幅に依存させる(受信ビーム幅より狭いことが望ましい)。送信信号として正弦波を用いる場合、入射方向毎に周波数が異なるようにする。さらに、正弦波の周波数は、同一の入射方向に対して、パルス繰り返し周波数PRF内に一様に等間隔で分布するように、複数波を1波ずつ送信する。
【0063】
上記のようにして、1波ずつ正弦波が主アンテナ31とアレーアンテナ1に入射される毎に、ダウンサンプラ21−n(n=0,1,2,・・・,N)が位相検波器4−n(n=0,1,2,・・・,N)から出力されたディジタル同相・直交信号u(k’)のサンプリング周波数(サンプリング間隔は一般にレンジビン間隔に対応している)を1/Dに下げて、その信号をvi,m,n(k)として外部信号記録部7aに記録する。ただし、iは第i番目の方向、mは第m番目の周波数、nは第n番目の素子アンテナに係ることを示している。
【0064】
入射方向・ドップラー周波数計測部8aは、DFB6−n(n=1,2,・・・,N)から複数のビーム信号yn,l(r,k)を受けると、図1の入射方向・ドップラー周波数計測部8と同様にして、複数のビーム信号yn,l(r,k)から不要波の入射方向とドップラー周波数を計測する。
ただし、入射方向・ドップラー周波数計測部8aは、図1の入射方向・ドップラー周波数計測部8と異なり、DFB6−n(n=1,2,・・・,N)から出力されたビーム信号yn,l(r,k)を取り込むが、クラッタの入射方向とドップラー周波数を計測するための電力計算時において、主アンテナ31のビーム方向とほぼ同じで、かつ、注目帯域番号lの信号の電力は計算しないようにする。これは、想定する所望信号の方向とドップラー周波数に一致するからである。
【0065】
仮想信号生成部9aは、入射方向・ドップラー周波数計測部8aが不要波の入射方向とドップラー周波数を計測すると、その不要波の入射方向とドップラー周波数に基づいて、外部信号記録部7aに記録されている信号vi,m,n(k)を読み出して仮想信号を生成するとともに、選択部12により選択される信号(信号の数と、選択するビーム番号nと帯域番号lの組)を決定する。
具体的には、次のようにして、仮想信号の生成と、その仮想信号の選択を行う。
【0066】
仮想信号生成部9aは、外部信号記録部7aに記録されている信号vi,m,n(k)の中から、入射方向・ドップラー周波数計測部8aで計測した不要波の入射方向領域とドップラー周波数領域に含まれる主アンテナ31の受信信号に係る信号v(p)(r,k)の読み出しを行う。p=1,2,・・・,Pは、不要波の入射方向領域とドップラー周波数領域に対応する通算の番号であり、Pは読み出した信号の数である。
仮想信号生成部9aは、外部信号記録部7aから主アンテナ31の受信信号に係る信号v(p)(r,k)を読み出すと、その信号v(p)(r,k)に対して、DFB6−0と同様のフィルタリング処理を実施する。
フィルタリング処理による出力信号は、下記の式(14)に示すような仮想信号vF0,l(p)(r,k)になる。
vF0,l(p)(r,k)=Σh(q)v(p)(r,k−q) (14)
ただし、Σはq=0からQ−1まで、h(q)v(p)(r,k−q)を加算する記号である。
【0067】
また、仮想信号生成部9aは、外部信号記録部7aに記録されている信号vi,m,n(k)の中から、入射方向・ドップラー周波数計測部8aで計測した不要波の入射方向領域とドップラー周波数領域に含まれるアレーアンテナ1の受信信号に係る信号v(p)(r,k)の読み出しを行う。p=1,2,・・・,Pは、不要波の入射方向領域とドップラー周波数領域に対応する通算の番号であり、Pは読み出した信号の数である。
ただし、主アンテナ31のビーム方向とほぼ同じで、かつ、注目帯域番号lの信号は、外部信号記録部7aから読み出さないようにする。
仮想信号生成部9aは、外部信号記録部7aからアレーアンテナ1の受信信号に係る信号v(p)(r,k)を読み出すと、図1の仮想信号生成部9と同様に、その信号v(p)(r,k)を上記の式(5)に代入して、ディジタルマルチビームの形成演算を実施する。
【0068】
仮想信号生成部9aは、ディジタルマルチビームの形成演算を実施して、vB(p)(r,k)を計算すると、図1の仮想信号生成部9と同様に、その信号vB(p)(r,k)に対して、DFB6−nと同様のフィルタリング処理を実施する。
フィルタリング処理による出力信号は、上記の式(6)に示すような仮想信号vBFn,l(p)(r,k)になる。
【0069】
また、仮想信号生成部9aは、上記のようにして、仮想信号vBFn,l(p)(r,k)を生成すると、図1の仮想信号生成部9と同様に、荷重計算部10aに与える仮想信号の選択を行う。それは、選択部12により選択される信号の数Sと選択されるビーム番号nと帯域番号lの組と同じであり、仮想信号生成部9aは、同時に選択されるビーム番号nと帯域番号lの組を選択部12に出力する。この信号選択数Sは、外部信号記録部7aから読み出した信号の数P以上とする。
具体的には、次のようにして、仮想信号を選択するが、その選択方法は次の2通りである。
【0070】
〔1〕第1の選択方法
第1の選択方法では、受信不要波に対するDFBの出力電力に基づいて、電力順に仮想信号をS個選択する。
この場合、仮想信号生成部9aは、上述した式(6)のフィルタ処理については、選択するS個の出力に対応するものと、主アンテナ31に対応しているDFB6−0のうち、注目帯域番号lに対応するものだけでよい。
即ち、仮想信号生成部9aは、生成した仮想信号vBFn,l(p)(r,k)の中から、受信不要波電力の大きいビーム番号nと帯域番号lの組に対応する仮想信号から順番に選択する。
そして、その選択した“n”と“l”の組に対応する仮想信号毎に、p=1,2,…,Pに関して加算する。加算した信号をvBFS(s)(r,k)(s=1,2,…,S)と表す。肩文字sは選択した“n”と“l”の組に関して通算した番号である。
仮想信号生成部9aは、主アンテナ31に対応しているDFB6−0の注目帯域番号の信号をvF0,l0(p)(r,k)に対して、p=1,2,…,Pに関して加算する。加算した信号をvFSl0(r,k)と表す。
仮想信号生成部9aは、注目帯域番号lの仮想信号vFSl0(r,k)と、選択した仮想信号vBFS(s)(r,k)を荷重計算部10aに出力する。
【0071】
〔2〕第2の選択方法
第2の選択方法では、生成した仮想信号に対するDFBの出力電力に基づいて、電力順にビーム信号をS個選択する。
この場合、仮想信号生成部9aは、上述した式(6)のフィルタ処理については、すべてのn=1,2,・・・,Nと、l=1,2,・・・,Lに対して行う。
即ち、仮想信号生成部9aは、仮想信号vBFn,l(p)(r,k)を生成すると、全ての“n”と“l”の組に対応する仮想信号毎に、p=1,2,…,Pに関して加算する。その加算した信号をvBFSn,l(r,k)と表す。
そして、主アンテナ31の主ビーム方向に対応しているDFB6−0の注目帯域番号lに近いビーム方向と帯域番号の仮想信号を除いて、電力が大きい加算した信号vBFSn,l(r,k)から順番に選択する。その選択したS個の信号をvBFS(s)(r,k)(s=1,2,…,S)とする。肩文字sは選択した“n”と“l”の組に関して通算した番号である。ただし、nは0以外である。
仮想信号生成部9aは、主アンテナ31に対応しているDFB6−0の注目帯域番号lの信号をvF0,l0(p)(r,k)に対して、p=1,2,…,Pに関して加算する。加算した信号をvFSl0(r,k)と表す。仮想信号vFSl0(r,k)とvPFS(p)(r,k)を荷重計算部10aに出力する。
【0072】
荷重計算部10aは、仮想信号生成部9aから注目帯域番号lの仮想信号vFSl0(r,k)と、選択された仮想信号vBFS(s)(r,k)を受けると、それらの仮想信号から例えば相関行列と相互相関ベクトルを求め、その相関行列と相互相関ベクトルを用いて、仮想信号に対応した減算器15から出力される信号の電力を最小化する荷重wr,l0(1),wr,l0(2),・・・,wr,l0(S)を計算する。
即ち、荷重計算部10aは、図3に示すように、ドップラー周波数と空間周波数(入射方向に対応)の2次元周波数平面上において、不要波(例えば、クラッタ)の2次元スペクトルがハッチング領域のように分布しているとき、そのハッチング領域を囲む破線で囲まれた領域の振幅特性値が、他の阻止域よりも小さい周波数特性を有する時空間フィルタとなるように、荷重wr,l0(s)を計算する。
具体的には、次のようにして、荷重wr,l0(s)を計算する。
【0073】
ここでは、荷重計算部10aがSMI(Sample Matrix Inversion)法を用いて、荷重wr,l0(s)を計算する方法を説明する。ただし、荷重計算方法はSMI法に限るものではなく、他の様々な方法(例えば、LMS法)などを使用してもよい。
荷重計算部10aは、下記の式(15)の行列Aと、式(16)のベクトルbr,l0を構成して、式(17)で与えられる相関行列Rと、相互相関ベクトルpr,l0を求める。
(>S)は荷重計算に用いるサンプル数であり、ヒット数Kとは無関係である。相関行列R、相互相関ベクトルpr,l0及び荷重ベクトルWr,l0の関係を示す正規方程式は、下記の式(18)のようになる。
これにより、荷重ベクトルWr,l0は式(19)のようになる。荷重ベクトルWr,l0の定義は式(20)である。直接、正規方程式を解くのが好ましくない場合もある。このときは、‖Ar,l0−br,l0をなるべく小さくするような荷重ベクトルWr,l0を、例えば、行列Aの特異値分解を用いて計算すればよい。式(17)において、肩文字Hは行列やベクトルの共役転置を表している。
【0074】
【数2】

=A , pr,l0=Ar,l0 (17)
r,l0=pr,l0 (18)
r,l0=R−1r,l0 (19)
r,l0=[wr,l0(1)r,l0(2) ・・・ wr,l0(S) (20)
【0075】
選択部12は、上記のようにして、受信不要波に対応してDFB6−1〜DFB6−Nからビーム信号yn,l(r,k)を受けると、これらのビーム信号の中から、仮想信号生成部9aにより決定されたS個のビーム番号nと帯域番号lの組の対応したビーム信号y(s)(r,k)を選択する。
【0076】
荷重係数器13−sは、選択部12がS個のビーム信号y(1)(r,k),y(2)(r,k),・・・,y(S)(r,k)を選択し、荷重計算部10aにより計算された荷重wr,l0(1),wr,l0(2),・・・,wr,l0(S)を受けると、上記実施の形態1と同様に、そのビーム信号y(s)(r,k)にwr,l0(s)を乗算し、荷重乗算後のビーム信号wr,l0(s)(s)(r,k)を加算器14に出力する。
加算器14は、荷重係数器13−sから荷重乗算後のビーム信号wr,l0(s)(s)(r,k)を受けると、上記実施の形態1と同様に、荷重乗算後のビーム信号wr,l0(s)(s)(r,k)を足し合わせて不要信号のレプリカzsubl0(r,k)を生成する。
subl0(r,k)=Σwr,l0(s)(s)(r,k) (21)
ただし、Σはs=1からSまで、wr,l0(s)(s)(r,k)を加算する記号である。
【0077】
信号切替部11aは、上記のようにして、受信不要波に対応してDFB6−0からビーム信号y0,l(r,k)を受けると、帯域番号がlである注目帯域のビーム信号y0,l0(r,k)を選択して減算器15に出力する。
減算器15は、加算器14が不要信号のレプリカを生成すると、上記実施の形態1と同様に、信号切替部11aから出力された主アンテナ31の主ビーム方向に対応している注目帯域のビーム信号y0,l0(r,k)から不要信号のレプリカを減算することにより、主アンテナ31の主ビーム方向に対応している注目帯域のビーム信号y0,l0(r,k)に含まれている不要信号を除去する。不要信号が除去された信号zl0(r,k)は下記の式(22)のようになる。
l0(r,k)=y0,l0(r,k)−zsubl0(r,k) (22)
なお、上述したように、目標のドップラー周波数は不明であるから、1つのCPIで、信号切替部11aによる選択は複数回行う必要があり、その都度、想定する目標のドップラー周波数に対応する帯域番号lは変わる。それぞれに対して、レンジビン番号r毎に荷重wr,l0(s)を計算し、式(22)の処理を行う必要がある。以上のような不要波抑圧処理の後、目標検出処理が行われるのが一般的である。
【0078】
以上で明らかなように、この実施の形態4によれば、ディジタルマルチビーム形成部5により形成された受信ビームのビーム信号を複数の帯域に分割するDFB6−nと、そのDFB6−nにより分割された複数のビーム信号に所定の荷重を乗算し、荷重乗算後のビーム信号を足し合わせて不要信号のレプリカを生成する加算器14等とを設け、主アンテナ31の受信信号に係る注目帯域のビーム信号から不要信号のレプリカを減算するように構成したので、主アンテナ31のサイドローブだけでなく、主アンテナ31の主ビーム方向やそれに近い方向から入射するクラッタなどの不要波を十分に抑圧することができる効果を奏する。
【0079】
また、この実施の形態4によれば、複数の方向から互いに相関がない信号が個別に主アンテナ31とアレーアンテナ1に入射されたとき、主アンテナ31と素子アンテナ1−nの受信信号を記憶し、その記憶された主アンテナ31と素子アンテナの受信信号から減算器15による減算後の信号の電力を最小化する荷重を計算するように構成したので、アレーマニフォルドの計測やシミュレーション計算などを実施することなく、不要波を抑圧することができる効果を奏する。
即ち、外部信号記録部7aに記録される信号vi,m,n(k)は、従来例と異なり、完全に内部で作り出されるものではない。実際にアレーアンテナ1で受信された信号であるから、外部信号記録部7aに記録される信号vi,m,n(k)には既に素子パターンなどの影響が含まれている。したがって、従来例と異なり、予めアレーマニフォルドを計測しておく必要がない特徴がある。
【0080】
また、ビームスペース形アダプティブアレーの構成を生かして、不要波の入射方向とドップラー周波数領域を計測し、その入射方向とドップラー周波数領域に応じて、その領域の振幅特性値が小さくなるような時空間周波数特性を形成する。不要波の入射方向とドップラー周波数領域の計測のために付加的な手段を設けているわけではないので、その目的のために装置規模が大きくなることはないという特徴がある。さらに、受信不要波を直接荷重計算に使わず、DFB6−nの出力信号の電力の比較による不要波の入射方向とドップラー周波数領域の計測に使用しているだけである。したがって、荷重計算に使う仮想信号のサンプル数が受信不要波信号には依存せずに決められる特徴がある。
【0081】
実施の形態5.
上記実施の形態4では、外部信号記録部7aが信号vi,m,n(k)を記録するに際して、1波ずつ正弦波が主アンテナ31とアレーアンテナ1に入射されるものについて示したが、帯域幅がパルス繰り返し周波数PRFと等しい広帯域信号、あるいは、帯域幅がパルス繰り返し周波数PRF以上に広がっている広帯域信号が1波ずつ主アンテナ31とアレーアンテナ1に入射されるものであってもよい。例えば、周波数を掃引した信号でもよい。
ただし、主アンテナ31とアレーアンテナ1に入射される信号が正弦波でないため、図11に示すように、ダウンサンプラ21−n(n=0,1,2,・・・,N)によりサンプリング周波数が下げられた広帯域信号をM個の帯域に分割するフィルタバンク22−n(n=0,1,2,・・・,N)に通して信号vi,m,n(k)を取得し、その信号vi,m,n(k)を外部信号記録部7aに記録するようにする。
なお、フィルタバンク22−nの帯域分割数Mは、DFB−nの帯域分割数Lより多くする。信号vi,m,n(k)のiはアレーアンテナ1に対する第i番目の入射方向、nは第n番目の素子アンテナ、mは第m帯域のフィルタバンクに係ることを表している。
【0082】
また、上記実施の形態4では、ダウンサンプラ21−nによりサンプリング周波数が下げられた信号vi,m,n(k)を外部信号記録部7aに記録するものについて示したが、図12に示すように、ディジタルマルチビーム形成部5と同様の処理を実施するディジタルマルチビーム形成部23をダウンサンプラ21−nの後段に接続し、ディジタルマルチビーム形成部23がダウンサンプラ21−nによりサンプリング周波数が下げられた信号vi,m,n(k)から信号vBi,m,n(k)を求めて、その信号vBi,m,n(k)を外部信号記録部7aに記録するようにしてもよい。
この場合、仮想信号生成部9aにおけるディジタルマルチビームの形成演算(式(5)を参照)が不要になる。
ここでは、ディジタルマルチビーム形成部23をダウンサンプラ21−nの後段に接続しているものについて示したが、ディジタルマルチビーム形成部23をダウンサンプラ21−nの前段に接続するようにしてもよい。ただし、ダウンサンプラ21−nの後段に接続している場合の方が、サンプリング周波数が低いため、ディジタルマルチビーム形成部23の処理負担が低いものになる。
【0083】
また、主アンテナ31とアレーアンテナ1に入射される信号が広帯域信号である場合でも、図13に示すように、ディジタルマルチビーム形成部23をダウンサンプラ21−nの後段又は前段に接続するようにしてもよい。
この場合、仮想信号生成部9aにおけるディジタルマルチビームの形成演算(式(5)を参照)が不要になる。
【0084】
実施の形態6.
図14はこの発明の実施の形態6による不要波抑圧装置を示す構成図であり、図において、図8及び図9と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
上記実施の形態4では、ディジタルマルチビーム形成部5が位相検波器4−n(n=1,2,・・・,N)からディジタル同相・直交信号u(k’)を受けると、複数の方向に受信ビームを同時に形成処理するものについて示したが、マルチビーム形成部30が素子アンテナ1−n(n=1,2,・・・,N)により受信されたRF信号を受けると、RF領域で複数の受信ビームを同時に形成するようにしてもよい。
【0085】
具体的には、次の通りである。
マルチビーム形成部30は、アレーアンテナ1を構成している素子アンテナ1−nがRF信号を受信すると、そのRF信号を入力して、RF領域で複数の受信ビームを同時に形成する。
マルチビーム形成部30がRF領域でマルチビームを形成する点で、図9のディジタルマルチビーム形成部5と異なる。
【0086】
受信機2−nは、マルチビーム形成部30がRF領域でマルチビームを形成すると、複数の受信ビームのRF信号を増幅し、増幅後のRF信号をIF信号に周波数変換する。
A/D変換器3−nは、受信機2−nからアナログのIF信号を受けると、そのアナログのIF信号をA/D変換して、ディジタルのIF信号(ディジタルIF信号)を出力する。
位相検波器4−nは、A/D変換器3−nからディジタルIF信号を受けると、そのディジタルIF信号に対する位相検波処理を実施して、ディジタル同相・直交信号x(k’)を出力する。
なお、位相検波器4−nからDFB6−nに出力されるディジタル同相・直交信号x(k’)は、図9のディジタルマルチビーム形成部5からDFB6−nに出力されるビーム信号x(k’)に相当する。したがって、仮想信号の生成に用いるために外部信号記録部7aから読み出す信号は、図12あるいは図13のvBi,m,1(k)である。
以下、上記実施の形態5と同様であるため説明を省略する。
【0087】
この実施の形態6のように、マルチビーム形成部30がRF領域でマルチビームを形成してから、受信機2−n、A/D変換器3−n及び位相検波器4−nが受信ビームのビーム信号であるディジタル同相・直交信号x(k’)を得るようにしても、上記実施の形態5と同様に、主アンテナ31のサイドローブだけでなく、主アンテナ31の主ビーム方向やそれに近い方向から入射するクラッタなどの不要波を十分に抑圧することができる効果を奏する。
また、この実施の形態6の場合も、複数の方向から互いに相関がない信号が個別に主アンテナ31とアレーアンテナ1に入射されたとき、主アンテナ31と素子アンテナ1−nの受信信号を記憶し、その記憶された複数の受信信号から減算器15による減算後の信号の電力を最小化する荷重を計算するので、アレーマニフォルドの計測やシミュレーション計算などを実施することなく、不要波を抑圧することができる効果を奏する。
【0088】
実施の形態7.
図15はこの発明の実施の形態7による不要波抑圧装置を示す構成図であり、図において、図1及び図9と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
仮想信号生成部9bは入射方向・ドップラー周波数計測部8aにより計測された不要波の入射方向とドップラー周波数に基づいて、外部信号記録部7に記録されている信号vi,m,n(k)を読み出して仮想信号を生成するとともに、選択部12により選択される信号(信号の数と、選択するビーム番号nと帯域番号lの組)を決定する。
荷重計算部10bは仮想信号生成部9bにより生成された仮想信号に対応する予め設定した所望の時空間周波数特性に対応した応答信号と加算器14により足し合わされた信号zl0(r,k)との差信号の電力を最小化する荷重wr,l0(1),wr,l0(2),・・・,wr,l0(S)を計算する。
なお、入射方向・ドップラー周波数計測部8a、仮想信号生成部9b及び荷重計算部10bから荷重計算手段が構成されている。
【0089】
次に動作について説明する。
アレーアンテナ1からDFB6−nまでの処理内容は、上記実施の形態1と同様であるため説明を省略する。
また、外部信号記録部7も、上記実施の形態1と同様に、互いに相関がない信号として、互いに周波数が異なる正弦波が個別にアレーアンテナ1に入射されたとき、位相検波器4−n(n=1,2,・・・,N)から出力されたディジタル同相・直交信号u(k’)のサンプリング周波数を1/Dに下げて、その信号をvi,m,n(k)として記録する。
【0090】
入射方向・ドップラー周波数計測部8aは、上記実施の形態4と同様に、DFB6−n(n=1,2,・・・,N)により分割された複数のビーム信号yn,l(r,k)から不要波の入射方向とドップラー周波数を計測する。
即ち、入射方向・ドップラー周波数計測部8aは、DFB6−n(n=1,2,・・・,N)の出力信号を取り込むが、クラッタの入射方向とドップラー周波数を計測するための電力計算時において、主ビーム方向とほぼ同じで、かつ、注目帯域番号lの信号の電力は計算しないようにする。
これは想定する所望信号の方向とドップラー周波数と一致するため、後で説明するように、そのような信号は必ず選択することになるからである。この実施の形態7では、想定する目標のドップラー周波数は、DFB6−nの帯域中心付近である必要はないが、便宜上、DFB6−nの帯域中心付近として説明する。
【0091】
次に、仮想信号生成部9bと荷重計算部10bの動作を説明する前に、荷重wr,l0(s)の計算原理について説明する。
この実施の形態7は、上記実施の形態1〜6と異なり、不要波の入射方向とドップラー周波数領域に対応する仮想信号に対して、不要波抑圧装置の出力信号zl0(r,k)の電力が最小となる荷重を求めるのではない。
この実施の形態7では、予め、不要波抑圧装置の所望時空間周波数特性(以下、所望特性と称する)を設定しておき、全方向・PRF内の全周波数から仮想信号を受信したと想定したときの所望特性応答信号と不要波抑圧装置の出力信号との差信号の電力がなるべく小さくなるような荷重を求める。
このとき、不要波の入射方向とドップラー周波数領域内の仮想信号の電力を他方向より大きく設定するようにする。これにより、不要波の入射方向とドップラー周波数領域に対する振幅特性値を、他の領域より下げるような時空間周波数特性を得ることが可能になる。
【0092】
図16は全方向・全周波数から仮想信号を受信したと仮定したときの所望特性応答信号と不要波抑圧装置の出力信号との差信号el0(r,k)(lは注目帯域番号、rはレンジビン番号、kはヒット番号)を求めるブロック構成図を示すものである。
入力信号v(p)(k)(p=1,2,・・・,P;Pは外部信号記録部7から読み出す信号の方向と周波数に関する数であるが、これは結局、事前に記録された信号の全入射方向・全周波数の数である。)は、外部信号記録部7に記録する方向と周波数に関して通算した番号(以下、方向・周波数番号と称する)pの素子番号1の信号であり、外部信号記録部7から読み出した信号である。この入力信号v(p)(k)は、上記実施の形態1等と異なり、正弦波に限定する。また、この素子番号1を基準素子として説明する。他の素子を基準素子としても構わない。
【0093】
α(p)は方向・周波数番号pに応じて、入力信号v(p)(k)に乗ずる0以上の実数の重み係数であり、乗算器51が重み係数α(p)を入力信号v(p)(k)に乗算する。添字rはレンジビン番号であり、不要波の時空間スペクトル分布は一般にレンジビン番号rにより異なるために付けたものである。
重み係数α(p)の値は、入射方向・ドップラー周波数計測部8aによりレンジビン毎に計測された不要波に対して入射方向とドップラー周波数領域に対しては大きく設定され、それ以外の方向とドップラー周波数に対しては小さく設定される。入射方向・ドップラー周波数計測部8aにより計算された電力に応じて値を変えてもよい。
【0094】
素子受信信号生成部52は、信号α(p)(p)(k)から、後で説明するように、それに対応する各素子受信信号v(p)(r,k)を生成する。このとき、p=1,2,…,Pに関して加算して、同時に全方向・全周波数から入射した状況を仮想的に作り出す。そのときの各素子受信信号をv(r,k)とする。
次に、ディジタルマルチビーム形成部5は、素子受信信号v(r,k)を入力して、ビーム形成演算を実施し、その仮想信号に対応したビーム信号vB(r,k)を出力する。
次に、DFB6−nは、ディジタルマルチビーム形成部5から出力された仮想信号に対応したビーム信号vB(r,k)に対するフィルタ処理を実施して(式(6)を参照)、仮想信号に対応したビーム信号vBFn,l(r,k)を出力する。
次に、選択部12は、DFB6−nから出力された仮想信号に対応したビーム信号vBFn,l(r,k)の中から、後述するように、S個の信号vBF(s)(r,k)を選択する。
次に、荷重加算部53は、選択部12により選択された信号vBF(s)(r,k)に荷重wr,l0(s)を乗算し、その乗算結果をs=1からSに亘って加算し、その加算結果を仮想信号に対する出力信号zl0(r,k)とする。
【0095】
所望信号生成部54は、信号α(p)(p)(k)の所望特性に対する応答信号である所望信号を生成する。ドップラー周波数と方向からなるベクトルをFとする。方位角のみを考える場合はFが2要素となり、方位角と仰角を考える場合はFが3要素となる。添字pを付けて、Fを方向・周波数番号pに対応する入射方向とドップラー周波数を表すものとする。所望特性をDl0(F)と表すことにする。これは一般に複素数である。
所望特性Dl0(F)の設定には自由度がある。典型例として、所望のビーム方向とドップラー周波数に対しては、ある正数に位相項を掛けた値に設定され、それ以外では微小値に位相項を掛けた値、あるいは、0に設定される。注目帯域番号lに対応する帯域をドップラー周波数に関する通過域とするが、一般にレンジビン番号rにはよらない。信号α(p)(p)(k)が正弦波であることに注意すると、同時に全方向・全周波数から入射した状況を仮想的に作り出したときの所望信号生成部54の出力信号dl0(r,k)は、下記の式(23)のように求められる。
l0(r,k)=ΣDl0(F)α(p)(p)(k) (23)
ただし、Σはp=1からPまで、Dl0(F)α(p)(p)(k)を加算する記号である。
【0096】
方向・周波数番号pの基準素子での受信信号α(p)(p)(k)から、素子番号nの受信信号v(p)(r,k)を下記の式(24)のように生成することができる。
ここで、A(p)は、基準素子に対する素子番号nの周波数特性の相違を含めたアレーマニフォルドの相違である。アレーマニフォルドは計測する必要はないが、予め、外部から信号を受信してそれを記録しているため、A(p)は計算可能となる。
これは、外部信号記録部7に記録された方向・周波数番号p、素子番号nの信号v(p)(k)(図4のvi,m,n(k)に相当する)を下記の式(25)のように振幅a(p)(k)と位相ξ(p)(k)で表したとき、下記の式(26)のように求められる。
K”は平均をとるサンプル数であり、少ないのは望ましくない。各素子受信信号v(r,k)は各方向からの信号の和であるから、下記の式(27)のようになる。荷重加算部53の出力信号zl0(r,k)は、下記の式(28)のようになる。これは、仮想信号に対する不要波抑圧装置の出力信号である。
また、式(24)において、φ(θ)は入射方向θに対応する基準素子に対する素子番号nの受信位相差である。θは方向・周波数番号pに対応する入射方向である。仮想信号を受信したときの所望特性応答信号dl0(r,k)と不要波抑圧装置の出力信号zl0(r,k)との差信号el0(r,k)は、下記の式(29)のようになり、減算器55が所望特性応答信号dl0(r,k)から出力信号zl0(r,k)を減算して差信号el0(r,k)を出力する。
【0097】
(p)(r,k)
=A(p)α(p)(p)(k)exp[−jφ(θ)] (24)
(p)(k)=a(p)(k)exp[jξ(p)(k)] (25)
【数3】

(r,k)=Σv(p)(r,k) (27)
ただし、Σはp=1からPまでの加算を表す記号である。
l0(r,k)=Σwr,l0(s)vBF(s)(r,k) (28)
ただし、Σはs=1からSまでの加算を表す記号である。
l0(r,k)=dl0(r,k)−zl0(r,k) (29)
【0098】
注目帯域番号lとレンジビン番号r毎に、差信号el0(r,k)の電力が最小になるような荷重を適用すれば、所望の方向とドップラー周波数に通過域、不要波の入射方向とドップラー周波数領域に低振幅特性値となるような時空間周波数特性が得られる。
各注目帯域番号lとレンジビン番号rに対して、Kサンプル(K>S)に対する差信号el0(r,k)の絶対値二乗平均を最小にする最小二乗法を適用すれば、下記の式(30)の行列Aと、下記の式(31)のベクトルbr,l0を構成し、下記の式(32)のように、相関行列Rおよび相互相関ベクトルpr,l0を求め、式(33)の正規方程式を例えば式(34)のように解くことで荷重wr,l0(s)を計算することができる。
式(34)における荷重ベクトルWr,l0の定義は式(35)である。なお、これらのA、br,l0、R、pr,l0、Wr,l0は、上記実施の形態1等と異なる。
【0099】
【数4】

=A , pr,l0=Ar,l0 (32)
r,l0=pr,l0 (33)
r,l0=R−1r,l0 (34)
r,l0=[wr,l0(1)r,l0(2) ・・・ wr,l0(S) (35)
【0100】
以上が荷重wr,l0(s)の計算原理である。これは、ディジタルフィルタの設計における非特許文献である『J. S. Mason and N. N. Chit,「New approach to the design of FIR digital filters,」IEE Proceedings, vol. 134, Pt. G, No. 4, pp. 167-180, Aug. 1987.』に開示されている方法の大幅な拡張ともいえる。
この実施の形態7では、低振幅特性値とする領域は、不要波に対するDFB6−nの出力信号の電力が大きい方向とドップラー周波数に基づいて決めている点に特徴がある。
【0101】
次に、仮想信号生成部9bは、入射方向・ドップラー周波数計測部8aにおける不要波の入射方向とドップラー周波数領域の計測結果に基づいて、重み係数α(p)を設定し、外部信号記録部7から各素子の信号v(p)(k)(図4のvi,m,n(k)に相当する)を読み出し、上記の式(23)〜式(27)の計算を行う。
また、仮想信号生成部9bは、式(27)の計算結果である信号v(r,k)から、ディジタルマルチビーム形成部5と同じ演算と、DFB6−nの処理と同じ演算とを実施し、図16の信号vBFn,l(r,k)を計算する。
【0102】
選択部12は、仮想信号生成部9bにより計算された信号vBFn,l(r,k)の中から、次に説明するように電力が大きい順にS個の信号vBF(s)(r,k)を選択する。
Sは入射方向・ドップラー周波数計測部8aでの選択数より大きくする。このときの選択の基準である信号電力は、vBFn,l(r,k)の電力か、不要波受信時のDFB6−nの出力信号の電力とする。また、所望方向・所望ドップラー周波数に一番近い信号は選択するようにする。
また、仮想信号生成部9bは、式(23)の計算結果である所望特性応答信号dl0(r,k)と信号vBF(s)(r,k)を荷重計算部10bに出力する。加えて、選択すべきビーム番号と帯域番号を選択部12に出力する。これは、実際の不要波受信時の選択部12での選択に使われる。
【0103】
荷重計算部10bは、式(30)〜(34)の計算を行う。式(34)の逆行列演算ではなく、特異値分解法などを用いて荷重を計算してもよい。
荷重計算部10bは、式(34)の計算結果である荷重wr,l0(s)を荷重係数器13−sに出力する。
【0104】
荷重係数器13−sは、選択部12から受信不要波に対応したS個の信号y(s)(r,k)を受け、荷重計算部10bから荷重wr,l0(s)を受けると、そのy(s)(r,k)にwr,l0(s)を乗算し、荷重乗算後の信号wr,l0(s)(s)(r,k)を加算器14に出力する。
加算器14は、荷重係数器13−sから荷重乗算後の信号wr,l0(s)(s)(r,k)を受けると、荷重乗算後の信号wr,l0(s)(s)(r,k)を足し合わせて不要信号が抑圧されている信号zl0(r,k)を生成する。
l0(r,k)=Σwr,l0(s)(s)(r,k) (36)
ただし、Σはs=1からSまで、wr,l0(s)(s)(r,k)を加算する記号である。
一般に目標のドップラー周波数は不明であるから、以上の処理は1CPIに関して、l=1,2,…,Lに対して行う必要がある。以上のような不要波抑圧処理の後、目標検出処理が行われるのが一般的である。
【0105】
以上で明らかなように、この実施の形態7によれば、外部信号記録部7により記憶された複数の素子アンテナの受信信号から仮想信号を生成し、その仮想信号に対応する所望の時空間周波数特性に対する応答信号と加算器14により足し合わされた信号との差信号の電力を最小化する荷重を計算するように構成したので、アンテナのサイドローブだけでなく、主ビーム方向やそれに近い方向から入射するクラッタなどの不要波を十分に抑圧することができる効果を奏する。
【0106】
また、この実施の形態7によれば、複数の方向から互いに相関がない信号が個別にアレーアンテナ1に入射されたとき、複数の素子アンテナ1−nの受信信号を記憶し、その記憶された複数の素子アンテナの受信信号から、仮想信号に対応する所望の時空間周波数特性に対する応答信号と加算器14により足し合わされた信号との差信号の電力を最小化する荷重を計算するように構成したので、アレーマニフォルドの計測やシミュレーション計算などを実施することなく、不要波を抑圧することができる効果を奏する。
即ち、外部信号記録部7に記録される信号vi,m,n(k)は、従来例と異なり、完全に内部で作り出されるものではない。実際にアレーアンテナ1で受信された信号であるから、外部信号記録部7に記録される信号vi,m,n(k)には既に素子パターンなどの影響が含まれている。したがって、従来例と異なり、予めアレーマニフォルドを計測しておく必要がない特徴がある。
【0107】
また、マルチビームとDFBによって不要波の入射方向とドップラー周波数領域を計測し、それに応じて、その領域の振幅特性値を小さくするような時空間周波数特性を形成する。不要波の入射方向とドップラー周波数領域を計測するために付加的な装置は必要とせず、装置規模が大きくなることはないという特徴がある。さらに、受信不要波を直接荷重計算に使わないので、荷重計算に使う仮想信号サンプル数は受信不要波信号には依存せずに決められる特徴がある。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】この発明の実施の形態1による不要波抑圧装置を示す構成図である。
【図2】アンテナパターンを示す説明図である。
【図3】クラッタ存在領域や、振幅特性の値を小さくする領域などを示す説明図である。
【図4】外部信号記録部に対する信号記録を示す説明図である。
【図5】外部信号記録部に対する信号記録を示す説明図である。
【図6】外部信号記録部に対する信号記録を示す説明図である。
【図7】外部信号記録部に対する信号記録を示す説明図である。
【図8】この発明の実施の形態3による不要波抑圧装置を示す構成図である。
【図9】この発明の実施の形態4による不要波抑圧装置を示す構成図である。
【図10】外部信号記録部に対する信号記録を示す説明図である。
【図11】外部信号記録部に対する信号記録を示す説明図である。
【図12】外部信号記録部に対する信号記録を示す説明図である。
【図13】外部信号記録部に対する信号記録を示す説明図である。
【図14】この発明の実施の形態6による不要波抑圧装置を示す構成図である。
【図15】この発明の実施の形態7による不要波抑圧装置を示す構成図である。
【図16】全方向・全周波数から仮想信号を受信したときの所望特性応答信号と不要波抑圧装置の出力信号との差信号を求めるブロック構成図である。
【符号の説明】
【0109】
1 アレーアンテナ、1−0,1−1,1−2,・・・,1−N 素子アンテナ、2−0 受信機(信号選択手段)、2−1,2−2,・・・,2−N 受信機(マルチビーム形成手段)、3−0 A/D変換器(信号選択手段)、3−1,3−2,・・・,3−N A/D変換器(マルチビーム形成手段)、4−0 位相検波器(信号選択手段)、4−1,4−2,・・・,4−N 位相検波器(マルチビーム形成手段)、5 ディジタルマルチビーム形成部(マルチビーム形成手段)、6−0 DFB(信号選択手段)、6−1,6−2,・・・,6−N DFB(帯域分割手段)、7 外部信号記録部(信号記憶手段)、7a 外部信号記録部(信号記憶手段)、8 入射方向・ドップラー周波数計測部(荷重計算手段)、8a 入射方向・ドップラー周波数計測部(荷重計算手段)、9 仮想信号生成部(荷重計算手段)、9a 仮想信号生成部(荷重計算手段)、9b 仮想信号生成部(荷重計算手段)、10 荷重計算部(荷重計算手段)、10a 荷重計算部(荷重計算手段)、10b 荷重計算部(荷重計算手段)、11 信号切替部(信号選択手段)、11a 信号切替部(信号選択手段)、12 選択部(レプリカ生成手段)、13−1,13−2,・・・,13−S 荷重係数器(レプリカ生成手段)、14 加算器(レプリカ生成手段)、15 減算器(不要波除去手段)、21−1,21−2,・・・,21−N ダウンサンプラ、22−1,22−2,・・・,22−N フィルタバンク、23 ディジタルマルチビーム形成部、30 マルチビーム形成部(マルチビーム形成手段)、31 主アンテナ、51 乗算器、52 素子受信信号生成部、53 荷重加算部、54 所望信号生成部、55 減算器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレーアンテナを構成する複数の素子アンテナの受信信号を入力して、複数の方向に受信ビームを同時に形成するマルチビーム形成手段と、上記マルチビーム形成手段により形成された受信ビームのビーム信号を複数の帯域に分割する帯域分割手段と、上記帯域分割手段により分割された複数のビーム信号に所定の荷重を乗算し、荷重乗算後のビーム信号を足し合わせて不要信号のレプリカを生成するレプリカ生成手段と、上記帯域分割手段により分割された複数のビーム信号の中から主ビーム方向に対応している注目帯域のビーム信号を選択する信号選択手段と、上記信号選択手段により選択されたビーム信号から上記レプリカ生成手段により生成された不要信号のレプリカを減算する不要波除去手段とを備えた不要波抑圧装置。
【請求項2】
複数の方向から互いに相関がない信号が個別にアレーアンテナに入射されたとき、複数の素子アンテナの受信信号を記憶する信号記憶手段と、上記信号記憶手段により記憶された複数の素子アンテナの受信信号から不要波除去手段による減算後のビーム信号の電力を最小化する荷重を計算し、その荷重をレプリカ生成手段に出力する荷重計算手段とを設けたことを特徴とする請求項1記載の不要波抑圧装置。
【請求項3】
信号記憶手段は、互いに相関がない信号として、互いに周波数が異なる正弦波が個別にアレーアンテナに入射されたとき、複数の素子アンテナの受信信号を記憶することを特徴とする請求項2記載の不要波抑圧装置。
【請求項4】
信号記憶手段は、互いに相関がない信号として、帯域が広がっている信号が個別にアレーアンテナに入射されたとき、複数の素子アンテナの受信信号を複数の帯域に分割し、帯域分割後の受信信号を記憶することを特徴とする請求項2記載の不要波抑圧装置。
【請求項5】
荷重計算手段は、帯域分割手段により分割された複数のビーム信号から不要波の入射方向及び周波数領域を計測し、その入射方向及び周波数領域と信号記憶手段により記憶された複数の素子アンテナの受信信号から仮想的な受信信号を生成するとともに、その仮想的な受信信号から相関行列と相互相関ベクトルを求め、その相関行列と相互相関ベクトルを用いて不要波除去手段による減算後のビーム信号の電力を最小化する荷重を計算することを特徴とする請求項2記載の不要波抑圧装置。
【請求項6】
アレーアンテナを構成する複数の素子アンテナの受信信号を入力して、複数の方向に受信ビームを同時に形成するマルチビーム形成手段と、上記マルチビーム形成手段により形成された受信ビームのビーム信号を複数の帯域に分割する帯域分割手段と、上記帯域分割手段により分割された複数のビーム信号に所定の荷重を乗算し、荷重乗算後のビーム信号を足し合わせて不要信号のレプリカを生成するレプリカ生成手段と、主アンテナの受信信号を複数の帯域に分割し、複数の受信信号の中から注目帯域の受信信号を選択する信号選択手段と、上記信号選択手段により選択された受信信号から上記レプリカ生成手段により生成された不要信号のレプリカを減算する不要波除去手段とを備えた不要波抑圧装置。
【請求項7】
複数の方向から互いに相関がない信号が個別に主アンテナとアレーアンテナに入射されたとき、その主アンテナと複数の素子アンテナの受信信号を記憶する信号記憶手段と、上記信号記憶手段により記憶された主アンテナと複数の素子アンテナの受信信号から不要波除去手段による減算後のビーム信号の電力を最小化する荷重を計算し、その荷重をレプリカ生成手段に出力する荷重計算手段とを設けたことを特徴とする請求項6記載の不要波抑圧装置。
【請求項8】
信号記憶手段は、互いに相関がない信号として、互いに周波数が異なる正弦波が個別に主アンテナとアレーアンテナに入射されたとき、その主アンテナと複数の素子アンテナの受信信号を記憶することを特徴とする請求項7記載の不要波抑圧装置。
【請求項9】
信号記憶手段は、互いに相関がない信号として、帯域が広がっている信号が個別に主アンテナとアレーアンテナに入射されたとき、その主アンテナの受信信号を記憶するとともに、複数の素子アンテナの受信信号を複数の帯域に分割して、帯域分割後の受信信号を記憶することを特徴とする請求項7記載の不要波抑圧装置。
【請求項10】
荷重計算手段は、帯域分割手段により分割された複数のビーム信号から不要波の入射方向及び周波数領域を計測し、その入射方向及び周波数領域と信号記憶手段により記憶された主アンテナ及び複数の素子アンテナの仮想的な受信信号を生成するとともに、その仮想的な受信信号から相関行列と相互相関ベクトルを求め、その相関行列と相互相関ベクトルを用いて不要波除去手段による減算後のビーム信号の電力を最小化する荷重を計算することを特徴とする請求項7記載の不要波抑圧装置。
【請求項11】
マルチビーム形成手段は、複数の素子アンテナの受信信号をディジタル同相・直交信号に変換し、そのディジタル同相・直交信号に基づいて複数の方向に受信ビームを同時に形成することを特徴とする請求項1から請求項10のうちのいずれか1項記載の不要波抑圧装置。
【請求項12】
マルチビーム形成手段は、複数の素子アンテナの受信信号に基づいて複数の方向に受信ビームを同時に形成し、その受信ビームの信号をディジタル同相・直交信号に変換し、そのディジタル同相・直交信号をビーム信号としてレプリカ生成手段に出力することを特徴とする請求項1から請求項10のうちのいずれか1項記載の不要波抑圧装置。
【請求項13】
アレーアンテナを構成する複数の素子アンテナの受信信号を入力して、複数の方向に受信ビームを同時に形成するマルチビーム形成手段と、上記マルチビーム形成手段により形成された受信ビームのビーム信号を複数の帯域に分割する帯域分割手段と、上記帯域分割手段により分割された複数のビーム信号に所定の荷重を乗算し、荷重乗算後のビーム信号を足し合わせる総和手段と、予め複数の方向から互いに相関がない信号が個別に上記アレーアンテナに入射されたとき、複数の素子アンテナの受信信号を記憶する信号記憶手段と、上記信号記憶手段により記憶された複数の素子アンテナの受信信号から仮想的な受信信号を生成し、その仮想的な受信信号に対応する所定の時空間周波数特性の応答信号と上記総和手段により足し合わされたビーム信号との差信号の電力を最小化する荷重を計算し、その荷重を上記総和手段に出力する荷重計算手段とを備えた不要波抑圧装置。
【請求項14】
信号記憶手段は、互いに相関がない信号として、互いに周波数が異なる正弦波が個別にアレーアンテナに入射されたとき、複数の素子アンテナの受信信号を記憶することを特徴とする請求項13記載の不要波抑圧装置。
【請求項15】
荷重計算手段は、仮想的な受信信号に対応する所定の時空間周波数特性の応答信号と帯域分割手段により分割された複数のビーム信号から相関行列と相互相関ベクトルを求め、その相関行列と相互相関ベクトルを用いて、その時空間周波数特性応答信号と上記総和手段により足し合わされた帯域信号との差信号の電力を最小化する荷重を計算することを特徴とする請求項13記載の不要波抑圧装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2006−201034(P2006−201034A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−13003(P2005−13003)
【出願日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】