説明

不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法およびその触媒、ならびに該触媒を用いたアクロレインおよび/またはアクリル酸の製造方法

【課題】
プロピレン、イソブチレンまたはTBAを分子状酸素の存在下で接触気相酸化して、それぞれ対応する不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸を製造するための機械的強度に優れた触媒を効率よく安定して製造する方法を提供する。
【解決手段】
モリブデン、ビスマスおよび鉄を必須成分として含有する触媒活性成分を不活性担体に担持してなる触媒の製造方法において、担持処理工程で用いる担持処理装置に触媒活性成分および/またはその前駆体の粉粒物と不活性担体とを連続的に供給し、かつ、前記触媒活性成分および/またはその前駆体の粉粒物の供給量(容積基準)を担持処理装置容量に対して1時間あたり1〜10倍の範囲に制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法、詳しくは、プロピレン、イソブチレンまたはターシャリーブチルアルコール(以下、「TBA」と記することがある)から選ばれる少なくとも1種の化合物を原料とし、分子状酸素の存在下で接触気相酸化して対応する不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸を製造するに好適な触媒の製造方法、および得られた触媒を用いてこれら不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プロピレンを気相接触酸化してアクロレインおよび/またはアクリル酸を製造する際に用いる触媒や、イソブチレンまたはTBAを気相接触酸化してメタクロレインおよび/またはメタクリル酸を製造する際に用いる触媒の製造方法として、不活性担体に触媒活性成分を担持する数多くの提案がなされている。
【0003】
例えば、モリブデン、鉄、およびビスマスを含有してなる未焼成の触媒原料粉末を遠心流動コーティング装置に投入し、2〜10mmの平均直径の大きさに造粒せしめたのち焼成し、その比表面積が5〜20m/g、その細孔容積が0.3〜0.9cc/gの範囲内にあり、かつ、その細孔径分布において細孔径直径が1〜10μmおよび0.1〜0.9μmの範囲にそれぞれ集中した分布を有する触媒を得る方法(特許文献1)、モリブデン、ビスマス、鉄、コバルトおよびタリウムの5つの元素が特定の原子比からなる金属酸化物で、かつ金属酸化物の比表面積が10〜20m/gなる粉末を不活性担体に被覆する方法(特許文献2)、モリブデン及びビスマスを触媒活性成分として含有し、かつ平均直径が2〜200μmの範囲である無機質繊維を触媒活性物質に対し、0.5〜50重量%の範囲で担持補助材として用いる方法(特許文献3)、触媒活性成分を担体に担持させた触媒であって、該触媒の平均粒径が4〜16mm、担体の平均粒径が3〜12mm、焼成温度が500〜600℃、触媒活性成分の担体への担持量が5〜80wt%である触媒(特許文献4)、モリブデンおよびビスマスを含有する触媒活性酸化物の元素状成分の出発化合物から乾燥混合物を製造し、150〜350℃の温度で熱処理して前駆物質とし、担体を水で湿潤させた後に前記前駆物質と接触させることにより湿潤された担体の表面上に前駆物質の層を付着、乾燥させ、最終的に400〜600℃の温度でか焼して担体が環の幾何学的寸法を有する触媒を得る方法(特許文献5)などが開示されている。
【0004】
また、使用する担持処理装置として、例えば、遠心流動コーティング装置(特許文献1)、転動造粒機(特許文献4)やロッキングミキサー(特許文献5)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−200839号公報
【特許文献2】特開平2−25443号公報
【特許文献3】特開平6−381号公報
【特許文献4】特開平10−28877号公報
【特許文献5】特表2004−515337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記した従来技術によって得られた触媒はいずれも機械的強度はある程度は改善されると推測されるものの、その触媒の製造時の歩留まりや得られる触媒の粒径分布、触媒性能の安定性までは全く考慮されていない。また、担持方法として従来の方法では、一定量の不活性担体および一定量の触媒活性成分の粉粒物を担持処理装置内へ一括して仕込み、担持処理し、その都度得られた触媒を装置より取り出すといった、いわゆるバッチ式であるため、工業的規模のような数トン〜数十トンといった量を製造するためには、仕込みから取り出しといった一連の作業を幾度も繰り返す必要があり、その生産効率が低いという問題点がある。従って、より機械的強度の高い触媒を効率よく安定して製造する方法が望まれている。
【0007】
本発明の目的は、前記従来技術の問題を解決し、プロピレン、イソブチレンまたはTBAから選ばれる少なくとも1種の化合物を原料とし、分子状酸素の存在下で接触気相酸化して対応する不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸を製造するに好適な触媒の製造方法、具体的には機械的強度に優れた触媒を効率よく安定して製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、プロピレン、イソブチレンまたはTBAから選ばれる少なくとも1種の化合物を原料とし、分子状酸素の存在下で接触気相酸化して対応する不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸を製造するためのモリブデン−ビスマス−鉄系担持触媒の製造方法において、不活性担体に触媒活性成分を担持する担持処理工程で、触媒活性成分および/またはその前駆体の粉粒物(以下、単に「触媒活性成分粉粒物」と記すことがある。)と不活性担体とを担持処理装置に連続的に供給し、その際の触媒活性成分粉粒物の供給量を特定範囲とすることで、効率よく安定して機械的強度の高い触媒を製造できることを見出した。さらに、前記担持処理工程で使用する転動造粒機などの担持処理装置に触媒活性成分粉粒物と不活性担体とを連続的に供給し、得られた担持後の触媒またはその前駆体(以下、単に「担持体」と記すことがある。)を連続的に担持処理装置から排出することによって、従来のバッチ式と比べ、触媒活性成分粉粒物と不活性担体との仕込みから担持体の取り出しといった一連の作業を大幅に軽減できることを見出し、本発明に至った。
【0009】
本発明にかかる不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒は、本発明の製造方法により製造される。
【0010】
さらに、本発明にかかる不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸の製造方法は、プロピレン、イソブチレンまたはTBAから選ばれる少なくとも1種の化合物を原料とし、分子状酸素の存在下で接触気相酸化して対応する不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸を製造するに際して、本発明の触媒を用いることで達成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、プロピレン、イソブチレンまたはTBAから選ばれる少なくとも1種の化合物を原料とし、分子状酸素の存在下で接触気相酸化して対応する不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸を製造するための機械的強度に優れた触媒を効率よく、かつ再現性よく安定して製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明にかかる触媒の製造方法および該方法で得られた触媒を用いた不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸の製造方法について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し、実施することができる。
【0013】
本発明における不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法は、モリブデン、ビスマスおよび鉄を必須成分として含有する触媒活性成分を不活性担体に担持する担持処理工程において、前記担持処理工程における担持処理装置に前記触媒活性成分粉粒物と前記不活性担体とを連続的に供給し、かつ、前記触媒活性成分粉粒物を容積基準で前記担持処理装置の容量に対して1時間あたり1〜10倍の範囲、好ましくは2〜8倍の範囲で供給することが重要である。ここで、担持処理装置容量とは、その処理容器の使用条件下における最大許容量のことであり、例えば、処理容器を一定の傾斜角度(水平面に対する処理容器中心軸の角度)をつけて用いる場合、その傾けた処理容器に入る水の容積に等しい。前記担持処理装置の処理容器としては、通常10〜70°、好ましくは20〜60°の傾斜角度で用いられる。
【0014】
担持処理装置に触媒活性成分粉粒物と不活性担体とを連続的に供給することで、触媒活性成分粉粒物が不活性担体に順次担持され担持体となる。担持量が増えるに従い担持体の粒径は大きくなり、また担持処理装置の処理容器との摩擦係数が小さくなるために担持処理装置内で次第に上層へ流動し、連続的に供給される新たな触媒活性成分粉粒物や不活性担体ならびに担持量が少ないものは、粒径が小さく、摩擦係数が大きいため下層へ流動する。担持処理装置の傾き、処理容器の深さ、回転数あるいはそれらの組み合わせにより所望の担持量あるいは所望の粒径となった担持体が処理容器の堰(リム)を越えて排出され、その排出された担持体を回収することで連続的に担持体を得ることができる。つまり、本発明でいう“連続的に”とは、バッチ式でないことを意味する。
【0015】
前記した1時間あたりの担持処理装置容量に対する触媒活性成分粉粒物の供給量が、1倍未満の場合、複数の担持体同士が互いに引っ付き合い一つの塊状になるなど、歩留まりが低下してしまうほか、機械的強度も低下してしまうため好ましくない。逆に10倍より多い場合、得られる担持体ひいては触媒の粒径分布が拡大したり、粉粒物が担体に担持されずに粉粒物のみで造粒された触媒(以下、「核なし」と記することがある)が発生するなど、歩留まりが低下してしまうほか、触媒の機械的強度も低下してしまうため好ましくない。
【0016】
本発明においては、触媒活性成分粉粒物と不活性担体とを連続的に供給するが、担持処理工程を開始する初期の段階では、触媒活性成分粉粒物と不活性担体との担持処理装置への供給を必ずしも同時に開始する必要はない。例えば、一部の不活性担体のみを予め担持処理装置内に仕込み、その後触媒活性成分粉粒物と残りの不活性担体との供給を開始したり、まず触媒活性成分粉粒物の供給を開始し、その後に遅れて不活性担体の供給を開始したりするなど、担持処理工程の大部分において触媒活性成分粉粒物と不活性担体とが連続的に供給されるようにすればよい。中でも、よりスムーズに担持処理を開始するには、一部の不活性担体を予め担持処理装置に仕込んだ後に触媒活性成分粉粒物と残りの不活性担体とを連続的に供給する方法が好ましい。その場合、予め担持処理装置に仕込む不活性担体の量としては、担持処理装置の容量に対して0.1〜0.9倍の容量を仕込むのが好ましい。
【0017】
また、触媒活性成分粉粒物と不活性担体とを連続的に供給するに際して、その供給量(容積基準)の比(触媒活性成分粉粒物の供給量:不活性担体の供給量)が1:0.3〜1:1.5とするのが好ましい。
触媒活性成分粉粒物と不活性担体の供給装置については、振動式フィーダーやベルト式フィーダーなど供給量を調節できうるものであれば特に限定されない。
【0018】
担持処理装置としては、本発明の方法を適用できるものであれば特に限定されないが、装置規模や取扱いの容易さから転動造粒機を用いることが好ましい。担持処理装置の容量としては、要求される生産量と担持処理装置の処理能力に合わせて設定されるものであって一概に特定できないが、工業規模では通常、数十dm〜数mの容量の担持処理装置が使用される。
【0019】
本発明で使用するモリブデン、ビスマスおよび鉄を必須成分として含有する触媒活性成分としては、下記一般式(1)で表される複合酸化物が好適に用いられる。
Mo12BiFe (1)
(ここで、Moはモリブデン、Biはビスマス、Feは鉄、Aはコバルトおよびニッケルから選ばれる少なくとも1種の元素、Bはアルカリ金属、アルカリ土類金属およびタリウムから選ばれる少なくとも1種の元素、Cはタングステン、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウムおよびチタンから選ばれる少なくとも1種の元素、Dはリン、テルル、アンチモン、スズ、セリウム、鉛、ニオブ、マンガン、砒素、ホウ素および亜鉛から選ばれる少なくとも1種の元素、Oは酸素であり、a、b、c、d、e、fおよびxはそれぞれBi、Fe、A、B、C、DおよびOの原子比を表し、0<a≦10、0<b≦20、2≦c≦20、0<d≦10、0≦e≦30、0≦f≦4であり、xはそれぞれの元素の酸化状態によって定まる数値である。)
本発明にかかる触媒の製造方法としては、前記した担持処理装置に触媒活性成分粉粒物と不活性担体とを連続的に供給するとともに、前記触媒活性成分粉粒物の供給量を容積基準で1時間あたり担持処理装置の容量に対して0.1〜1.0倍の範囲に制御することを除けば、公知の不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒の調製に一般に用いられている方法に準じて製造することができる。
【0020】
具体的には、前記一般式(1)で表される触媒活性成分の原料としては、各成分元素の酸化物、水酸化物、アンモニウム塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、有機酸塩などの塩類やそれらの水溶液、ゾルなど、あるいは、複数の元素を含む化合物などが使用できる。
【0021】
これらの原料を、例えば、水に混合して水溶液あるいは水性スラリー(以下、「出発原料混合液」と記すことがある)とする。
【0022】
次に、必要に応じて、得られた出発原料混合液を加熱や減圧など各種方法により乾燥させて触媒活性成分前駆体とする。加熱による乾燥方法としては、例えば、スプレードライヤー、ドラムドライヤー等を用いて粉末状の触媒活性成分前駆体を得ることもできるし、箱型乾燥機、トンネル型乾燥機等を用いて空気や窒素などの不活性ガスあるいはその他窒素酸化物などの気流中で加熱してブロック状またはフレーク状の触媒活性成分前駆体を得ることもできる。また、一旦、出発原料混合液を濃縮、蒸発乾固してケーキ状の固形物を得て、この固形物をさらに前記加熱処理する方法も採用できるほか、得られた前記触媒活性成分前駆体をさらに焼成して焼成物とする方法も採用できる。減圧による乾燥方法としては、例えば、真空乾燥機を用いて、ブロック状または粉末状の触媒活性成分前駆体を得ることができる。
【0023】
得られた触媒活性成分前駆体あるいは焼成物は、必要に応じて粉砕工程や分級工程を経て適当な粒度の粉粒物とする。このようにして得られた触媒活性成分粉粒物は、続く担持処理工程に送られ、そこで、不活性担体に担持され担持体を得る。なお、上記触媒活性成分粉粒物の粒度は、特に限定されないが、取り扱い易さ、担持物の均一性、歩留まりのよさなど担持性に優れる点で500μm以下が好ましい。
【0024】
不活性担体としては、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、チタニア、マグネシア、ステアタイト、コージェライト、シリカ−マグネシア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ゼオライト等が挙げられる。その形状についても特に制限はなく、球状、円柱状、リング状など公知の形状のものが使用できる。
【0025】
担持処理工程においては、その担持状態を向上させるための担持補助剤やバインダーなどを用いることができる。具体例としては、エチレングリコール、グリセリン、プロピオン酸、マレイン酸、ベンジルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコールまたはフェノール類の有機化合物や水、硝酸、硝酸アンモニウム、炭酸アンモニウムなどが挙げられる。これら担持補助剤やバインダーは、予め担持する前の不活性担体に噴霧あるいは含浸させておいてもよいし、担持処理中に装置内に噴霧あるいは吹き付けるなどして供給してもよく、両者を組み合わせてもよい。
【0026】
また、触媒に適度な細孔を形成させる目的で気孔形成剤や触媒の機械的強度を向上させる目的で無機質繊維などを添加してもよい。前記気孔形成剤としては、特に制限がなく、でんぷん、セルロース、尿素、ポリビニルアルコール、メラミンシアヌレートなどを使用することができ、前記無機質繊維としては、特に制限はなく、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維、鉱物繊維、炭素繊維などを使用することができる。その添加方法についても、触媒活性成分中に均一に分散あるいは含有されるようにし得るものであれば、出発混合液に添加したり、触媒活性成分粉粒物と無機質繊維とを粉粒状態で混合するなど、いずれの方法も用いることができる。もちろん、前記した担持補助剤やバインダーなどに分散あるいは溶解できうるものであれば、担持補助剤やバインダーなどと共に用いることも可能である。
【0027】
前記担持処理工程で得られた担持体は、続く乾燥工程および/または焼成工程に送られる。
【0028】
乾燥工程において、担持体の乾燥は、一般的に使用される箱型乾燥機、トンネル型乾燥機等を用いて空気や窒素などの不活性ガスあるいはその他窒素酸化物などの気流中で加熱すればよく、乾燥温度としては80〜300℃、好ましくは130〜250℃、乾燥時間としては好ましくは1〜20時間である。
【0029】
また、焼成工程において、焼成温度としては350℃〜600℃、好ましくは400℃〜550℃、更に好ましくは420℃〜500℃、焼成時間としては好ましくは1〜20時間である。焼成雰囲気としては、酸化雰囲気であれば良いが、分子状酸素含有ガス雰囲気が好ましく、特に、分子状酸素含有ガス流通下に焼成工程を行うのが好ましい。分子状酸素含有ガスとしては空気が好適に用いられる。また、前記乾燥工程後に焼成を行ってもよく、前記したような予め焼成した触媒活性成分の粉粒物を担持に用いる場合は、必ずしも焼成工程は必要なく、乾燥工程のみでもよい。なお、焼成工程で用いる焼成炉としては特に制限はなく、一般的に使用される箱型焼成炉あるいはトンネル型焼成炉等を用いればよい。
【0030】
必要に応じて、前記担持処理工程後もしくは前記乾燥工程や焼成工程後に篩工程を設けても良いが、後述するリサイクルの観点から担持工程処理後に行うのが好ましい。その場合、篩い分けられた所望の担持率あるいは粒径に満たない担持体については、前記担持工程にリサイクルしても、所望の担持率あるいは粒径になるように別途担持処理しても良い。篩装置としては、特に限定はなく、例えば、網篩い、パンチングメタル、比重選別機、ローラー式選別機などを用いることができ、2つ以上の装置を組み合わせて用いても良い。
【0031】
本発明におけるプロピレン、イソブチレンまたはTBAを分子状酸素を用いて接触気相酸化して不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸を製造するのに用いられる反応器については、固定床反応器である限り特段の制限はないが、特に固定床多管式反応器が好ましい。その反応管の内径は通常15〜50mm、より好ましくは20〜40mm、さらに好ましくは22〜38mmである。
【0032】
固定床多管式反応器の各反応管には、必ずしも単一の触媒を充填する必要はなく、従来公知の複数種の触媒をそれぞれ層(以下、「反応帯」と記すことがある)をなすように充填することも可能である。例えば、特開平4−217932号公報のような異なる占有容積を有する複数の触媒を原料ガス入口側から出口側に向かって占有容積が小さくなるように充填する方法、あるいは特開平10−168003号公報のような担持率の異なる複数の触媒を原料ガス入口側から出口側に向かって担持率が高くなるように充填する方法、あるいは特開2005−320315号公報のような触媒の一部を不活性な担体などで希釈する方法、あるいはこれらを組み合わせる方法などを採用してもよい。この時、反応帯の数は、反応条件や反応器の規模により適宜決定されるが、反応帯の数が多すぎると触媒の充填作業が煩雑になるなどの問題が発生するため工業的には2〜6程度までが望ましい。
【0033】
本発明における反応条件には特に制限は無く、この種の反応に一般に用いられている条件であればいずれも実施することが可能である。例えば、原料ガスとして1〜15容量%、好ましくは4〜12容量%のプロピレン、イソブチレンまたはTBA、0.5〜25容量%、好ましくは2〜20容量%の分子状酸素、0〜30容量%、好ましくは0〜25容量%の水蒸気、残部が窒素などの不活性ガスからなる混合ガスを250〜450℃の温度範囲で0.1〜1.0MPaの圧力下、300〜5,000hr−1(標準状態)の空間速度で触媒に接触させればよい。
【0034】
反応原料ガスとしてのグレードについては特に制限はなく、例えば、原料としてプロピレンを用いる場合、ポリマーグレードやケミカルグレードのプロピレンなどを用いることができる。また、プロパンの酸化脱水素反応によって得られるプロピレン含有の混合ガスも使用可能であり、この混合ガスに必要に応じ、空気または酸素などを添加して使用することもできる。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。なお、以下では、便宜上、「質量部」を単に「部」、と記すことがある。実施例および比較例における転化率および収率は、次式によって求めた。
転化率[モル%]
=(反応した出発原料のモル数)/(供給した原料のモル数)×100
選択率[モル%]
=(生成した不飽和アルデヒドおよび生成した不飽和カルボン酸の合計モル数)/(反応した出発原料のモル数)×100
収率[モル%]
=(生成した不飽和アルデヒドおよび生成した不飽和カルボン酸の合計モル数)/(供給した出発原料のモル数)×100
[活性成分粉粒物および不活性担体の嵩比重]
100mlメスシリンダーに触媒活性成分および/またはその前駆体あるいは不活性担体を充填し、ゴム製のクッション材の上でその容量の変化がなくなるまでタッピングする。その時のメスシリンダー内に充填された触媒活性成分および/またはその前駆体あるいは不活性担体の容量と質量を測定し、嵩密度(g/ml)を求めた。
[触媒の機械的強度測定]
内径25mm、長さ5000mmのステンレス製反応管を鉛直方向に設置し、該反応管の下端を厚さ1mmのステンレス製受け板で塞ぐ。約50gの触媒を該反応管の上端から反応管内に落下させた後、反応管下端のステンレス製受け板を外し、反応管から触媒を静かに抜き出す。抜き出した触媒を目開き5mmの篩で篩い、篩上に残った触媒の質量を計量した。
触媒の機械的強度[質量%]
=篩上に残った触媒の質量/反応管上端から落下させた触媒の質量×100
<実施例1>
〔触媒調製〕
蒸留水4000部にパラモリブデン酸アンモニウム1000部および硝酸カリウム2.9部および20質量%シリカゾル340部を溶解した(A液)。別に蒸留水600部に65重量%硝酸50部を添加し、硝酸ビスマス252部、硝酸コバルト879部、硝酸鉄238部および硝酸ニッケル275部を溶解した(B液)。得られたA液にB液を添加し、30分攪拌し続けた。その後、アルミナ133部を添加し、さらに1時間攪拌し続けスラリーを得た。得られたスラリーを加熱攪拌してケーキ状の固形物とし、得られた固形物を空気雰囲気下220℃で約3時間乾燥し、乾燥物を得た。得られた乾燥物を500μm以下に粉砕し、触媒活性成分前駆体の粉体を得た。
【0036】
直径1.3m、堰高さ500mm、傾斜角度55°とした転動造粒装置(最大許容量=0.059m)に平均粒径4.0mmのシリカ−アルミナ球形担体約40kgを仕込んだ。回転数15rpmで回転させつつ、結合剤として15質量%の硝酸アンモニウム水溶液を噴霧しながら触媒活性成分前駆体の粉体をベルト式フィーダーを用いて0.56m/hrの供給量で連続投入した。同時に、予め装置に仕込んだ担体と同じ担体をベルト式フィーダーを用いて0.21m/hrの供給量で連続投入した。この条件下で約8時間に渡り連続的に担持処理を行った。転動造粒装置の堰(リム)を越えて排出された担持体を比重選別機を用いて選別した後、空気雰囲気下470℃で約6時間焼成して触媒1を得た。この触媒1の担持率は約145質量%、歩留まりは92質量%、酸素を除く金属元素組成は次のとおりであった。
触媒1:Mo12Bi1.1Co6.4Fe1.25NiSi2.4Al5.50.06
なお、担持率および歩留まりは、下記式により求めた。
担持率[質量%]
=(得られた触媒の質量−用いた担体の質量)/用いた担体の質量×100
歩留まり[質量%]
=得られた担持体の質量/(用いた触媒活性成分の質量+用いた担体の質量)×100
各条件および得られた触媒1の機械的強度を表1に示す。
〔反応器〕
全長3000mm、内径25mmのステンレス製反応管およびこれを覆う熱媒体を流すためのシェルからなる反応器を鉛直方向に用意した。反応管上部より得られた触媒1を落下させて、層長が2800mmとなるように充填した。
〔酸化反応〕
触媒を充填した反応管下部より、プロピレン7.5容量%、酸素14容量%、水蒸気6容量%、残部が窒素等の不活性ガス混合からなる混合ガスを空間速度2000hr−1(標準状態)で導入し、プロピレン酸化反応を行った。その際、プロピレン転化率が約97モル%となるように熱媒体温度(反応温度)を調節した。その結果を表2に示す。
<実施例2>
実施例1において、転動造粒装置の回転数を10rpm、触媒活性成分の粉体の供給量を0.093m/hr、担体の供給量を0.026m/hrに変更した以外は、同様に調製し、触媒2を得た。この触媒2の担持率は約165質量%、歩留まりは89質量%、酸素を除く金属元素組成は触媒1と同じであった。各条件および得られた触媒2の機械的強度を表1に示す。
【0037】
得られた触媒2を実施例1と同様に反応器に充填し、同条件で酸化反応を行った。その結果を表2に示す。
<比較例1>
実施例2において、触媒活性成分の粉体の供給量を0.80m/hr、担体の供給量を0.22m/hrに変更した以外は、同様に調製し、触媒3を得た。この触媒3の担持率は約145質量%、歩留まりは69質量%、酸素を除く金属元素組成は触媒1と同じであった。各条件および得られた触媒3の機械的強度を表1に示す。触媒活性成分の粉体が担体に担持されずに粉体のみで造粒される核なしが多く発生し、歩留まりが著しく低い結果となった。また、粒径のバラツキが大きく機械的強度も低い結果であった。
【0038】
得られた触媒3を実施例1と同様に反応器に充填し、同条件で酸化反応を行った。その結果を表2に示す。機械的強度が低いことから燃焼活性が高く、低収率であった。
<実施例3>
〔触媒調製〕
蒸留水4000部にパラモリブデン酸アンモニウム1000部および硝酸カリウム3.8部および20質量%シリカゾル425部を溶解した(A液)。別に蒸留水600部に65重量%硝酸50部を添加し、硝酸ビスマス275部、硝酸コバルト550部、硝酸鉄267部および硝酸ニッケル412部を溶解した(B液)。得られたA液にB液を添加し、1時間攪拌し続けスラリーを得た。得られたスラリーを加熱攪拌してケーキ状の固形物とし、得られた固形物を空気雰囲気下200℃で約2時間乾燥した後、空気雰囲気下470℃で約6時間焼成して焼成物を得た。得られた焼成物を500μm以下に粉砕し、触媒活性成分の粉体を得た。直径1.3m、堰高さ500mm、傾斜角度60°とした転動造粒装置(最大許容量=0.045m)に平均粒径4.0mmのシリカ−アルミナ球形担体約40kgを仕込んだ。回転数15rpmで回転させつつ、結合剤として15質量%の硝酸アンモニウム水溶液を噴霧しながら触媒活性成分の粉体をベルト式フィーダーを用いて0.25m/hrの供給量で投入した。触媒活性成分の投入してから10分後に、予め装置に仕込んだ担体と同じ担体をベルト式フィーダーを用いて0.37m/hrの供給量で投入した。この条件下で約8時間に渡り連続的に担持処理を行った。転動造粒装置の堰(リム)を越えて排出された担持体を比重選別機を用いて選別した後、空気雰囲気下220℃で約3時間乾燥して触媒4を得た。この触媒4の担持率は約35質量%、歩留まりは95質量%、酸素を除く金属元素組成は次のとおりであった。
触媒4:Mo12Bi1.2CoFe1.4NiSi0.08
各条件および得られた触媒4の機械的強度を表1に示す。
【0039】
得られた触媒4を実施例1と同様に反応器に充填し、同条件で酸化反応を行った。その結果を表2に示す。
<実施例4>
実施例3において、転動造粒装置の回転数を12rpm、触媒活性成分の粉体の供給量を0.33m/hr、担体の供給量を0.25m/hrに変更した以外は、同様に調製し、触媒5を得た。この触媒5の担持率は約70質量%、歩留まりは94質量%、酸素を除く金属元素組成は触媒4と同じであった。各条件および得られた触媒5の機械的強度を表1に示す。
【0040】
得られた触媒5を実施例1と同様に反応器に充填し、同条件で酸化反応を行った。その結果を表2に示す。
<比較例2>
実施例3において、触媒活性成分の粉体の供給量を0.041m/hr、担体の供給量を0.026m/hrに変更した以外は、同様に調製し、触媒6を得た。この触媒6の担持率は約70質量%、歩留まりは66質量%、酸素を除く金属元素組成は触媒4と同じであった。各条件および得られた触媒6の機械的強度を表1に示す。複数の担持体同士が互いに引っ付き合い一つの塊状となった触媒が多く発生し歩留まりが低い結果となった。また、粒径のバラツキが大きく機械的強度も低い結果であった。
【0041】
得られた触媒6を実施例1と同様に反応器に充填し、同条件で酸化反応を行った。その結果を表2に示す。機械的強度が低いことから燃焼活性が高く、低収率であった。
<実施例5>
〔触媒調製〕
蒸留水5000部にパラモリブデン酸アンモニウム1000部および硝酸カリウム2.4部を溶解した(A液)。別に蒸留水600部に65重量%硝酸50部を添加し、硝酸ビスマス366部、硝酸コバルト783部および硝酸鉄191部を溶解した(B液)。得られたA液にB液を添加し、30分攪拌し続けた。その後、酸化タングステン164部およびアルミナ120部を添加し、さらに1時間攪拌し続けスラリーを得た。得られたスラリーを加熱攪拌してケーキ状の固形物とし、得られた固形物を空気雰囲気下160℃で約5時間乾燥し、乾燥物を得た。得られた乾燥物を500μm以下に粉砕し、触媒活性成分前駆体の粉体を得た。直径1.3m、堰高さ500mm、傾斜角度55°とした転動造粒装置に平均粒径4.0mmのシリカ−アルミナ球形担体約40kgを仕込んだ。回転数10rpmで回転させつつ、結合剤として15質量%の硝酸アンモニウム水溶液を噴霧しながら触媒活性成分前駆体の粉体をベルト式フィーダーを用いて0.17m/hrの供給量で連続投入した。同時に、予め装置に仕込んだ担体と同じ担体をベルト式フィーダーを用いて0.11m/hrの供給量で連続投入した。この条件下で約8時間に渡り連続的に担持処理を行った。転動造粒装置の堰(リム)を越えて排出された担持体を比重選別機を用いて選別した後、空気雰囲気下470℃で約6時間焼成して触媒7を得た。この触媒7の担持率は約100質量%、歩留まりは93質量%、酸素を除く金属元素組成は次のとおりであった。
触媒7:Mo12Bi1.6Co5.7Fe1.01.5Al5.00.05
各条件および得られた触媒7の機械的強度を表1に示す。
【0042】
得られた触媒7を実施例1と同様に反応器に充填し、同条件で酸化反応を行った。その結果を表2に示す。
<実施例6>
実施例5において、転動造粒装置の回転数を15rpm、触媒活性成分前駆体の粉体の供給量を0.50m/hr、担体の供給量を0.18m/hrに変更した以外は、同様に調製し、触媒8を得た。この触媒8の担持率は約190質量%、歩留まりは92質量%、酸素を除く金属元素組成は触媒7と同じであった。各条件および得られた触媒8の機械的強度を表1に示す。
【0043】
得られた触媒8を実施例1と同様に反応器に充填し、同条件で酸化反応を行った。その結果を表2に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデン、ビスマスおよび鉄を必須成分として含有する触媒活性成分を不活性担体に担持してなる不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法であって、不活性担体に触媒活性成分および/またはその前駆体の粉粒物を担持する担持処理工程において、当該担持処理工程で使用する担持処理装置に前記触媒活性成分および/またはその前駆体の粉粒物と前記不活性担体とを連続的に供給するとともに、前記触媒活性成分および/またはその前駆体の粉粒物を前記担持処理装置容量に対して1時間あたり1〜10倍(容積基準)の範囲で供給することを特徴とする不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法。
【請求項2】
前記担持処理工程で得られた担持後の触媒またはその前駆体を連続的に担持処理装置から排出することを特徴とする請求項1に記載の不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法。
【請求項3】
前記担持処理工程において、不活性担体の少なくとも一部を予め担持処理装置に仕込んだ後に担持処理装置への触媒活性成分および/またはその前駆体の粉粒物と残りの不活性担体との供給を開始する請求項1または2に記載の不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法。
【請求項4】
前記担持処理装置内へ連続的に供給する触媒活性成分および/またはその前駆体の粉粒物と不活性担体との供給量(容積基準)の比(触媒活性成分および/またはその前駆体の粉粒物の供給量:不活性担体の供給量)が1:0.3〜1:1.5である請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記触媒活性成分が、下記一般式(1)で表されるものである請求項1から4のいずれか1項に記載の製造方法。
Mo12BiFe (1)
(ここで、Moはモリブデン、Biはビスマス、Feは鉄、Aはコバルトおよびニッケルから選ばれる少なくとも1種の元素、Bはアルカリ金属、アルカリ土類金属およびタリウムから選ばれる少なくとも1種の元素、Cはタングステン、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウムおよびチタンから選ばれる少なくとも1種の元素、Dはリン、テルル、アンチモン、スズ、セリウム、鉛、ニオブ、マンガン、砒素、ホウ素および亜鉛から選ばれる少なくとも1種の元素、Oは酸素であり、a、b、c、d、e、fおよびxはそれぞれBi、Fe、A、B、C、DおよびOの原子比を表し、0<a≦10、0<b≦20、2≦c≦20、0<d≦10、0≦e≦30、0≦f≦4であり、xはそれぞれの元素の酸化状態によって定まる数値である。)
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の方法で製造された不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒。
【請求項7】
プロピレン、イソブチレンまたはターシャリーブチルアルコールから選ばれる少なくとも1種の化合物を原料とし、分子状酸素の存在下で接触気相酸化して対応する不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸を製造するにあたり、請求項6に記載の触媒を用いることを特徴とする不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸の製造方法。

【公開番号】特開2012−45516(P2012−45516A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192137(P2010−192137)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】