説明

不飽和ポリエステル樹脂組成物及び複合被覆体

【課題】 スチレン等の重合性単量体の揮散が充分に抑制され、靱性、耐久性、耐候性、耐熱水性、機械的強度等の各種物性に優れ、様々な用途に好適に用いられる不飽和ポリエステル樹脂組成物及び該樹脂組成物を用いた複合被覆体を提供する。
【解決手段】 不飽和ポリエステル30〜80質量%及び重合性単量体20〜70質量%からなる不飽和ポリエステル樹脂、並びに、該不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対してシリカ0.5〜10質量部及び金属石鹸0.01〜5質量部を含有する不飽和ポリエステル樹脂組成物であって、上記重合性単量体は、アルキル置換スチレン系単量体を全単量体成分100質量%に対して50質量%以上含んでなる不飽和ポリエステル樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和ポリエステル樹脂組成物に関する。より詳しくは、被覆材、床材、化粧板、家具材、防食材、防水材、繊維強化プラスチック材料、WPC、バスタブ、人工大理石、包装品等の様々な分野で好適に用いられる不飽和ポリエステル樹脂組成物及び該樹脂組成物を用いた複合被覆体に関する。
【背景技術】
【0002】
不飽和ポリエステル樹脂は、建築分野等における建築材料の仕上げ材等として用いられ、例えば、常温で硬化する常温硬化システムに適応できるものが広く採用されている。このような不飽和ポリエステル樹脂は、常温でラジカル重合可能であり、硬化物が靱性、強度、耐久性等の性能を有することから、例えば、被覆材、床材、化粧板、家具材、防食材、防水材(防水ライニング材)、繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)材料、WPC(Wood Plastic Combination)、バスタブ(浴槽)、人工大理石、包装品等の様々な分野において広く用いられている。中でも、各種の建造物や床面等の防食、防水、保護、強度や美観の保持を目的として、塗料やゲルコート剤、ライニング材等の被覆材に特に利用されており、不飽和ポリエステル樹脂には、基材表面を保護し美観を保つ保護機能や美装機能、また、これらの機能の持続性能を向上させるために、その硬化物が耐候性、耐熱水性に優れていること等が要求される。しかしながら、従来の不飽和ポリエステル樹脂では、施工中や施工後に樹脂中のモノマー(単量体)が揮散することが多く、その性能を充分に発揮できないことがある。特に、不飽和ポリエステル樹脂をゲルコート剤に使用した場合にはスプレー塗布することが一般的であるため、モノマー揮散を充分に抑制して、樹脂が有する性能を充分に発揮できるようにすることが切実な課題となっている。
【0003】
ところで、昨今では、住宅や車両の内装用部材に使用される塗料や接着剤等の樹脂組成物中に含まれるトルエン、キシレン、スチレン等の揮発性有機物質(VOC;Volatile Organic Compounds)がシックハウス症候群の原因の1つと考えられ、室内におけるこれらVOC物質の放散を減少させることが強く求められている。法的な規制としては、例えば、厚生労働省の13物質に対するガイドラインや、国土交通省による建築基準法の改正、文部科学省の学校施設の規制等があり、これら全てにおいてスチレンの使用制限がなされている。また、PRTR(Pollutant Release and Transfer Register:化学物質排出把握管理促進)法により、有害性ある多種多様な化学物質が、どのような発生源から、どのくらい環境中に排出されたか又は廃棄物に含まれて事業所の外に運び出されたかというデータを把握し、集計し、公表する義務が事業者に課されるようになり、このPRTR法に定める物質には「スチレン」が挙げられている。したがって、スチレン放散量を充分に低減することによって現在の法規制に充分に対応することができ、しかもモノマー揮散を充分に防止して優れた物性を発揮できる樹脂組成物を得るための技術が求められている。
【0004】
従来の不飽和ポリエステル樹脂組成物に関し、脂環族系飽和酸、脂肪族系不飽和酸及びアルコールからなる不飽和ポリエステルと、重合性ビニル単量体と、顔料とからなる着色不飽和ポリエステル樹脂組成物が開示されており(例えば、特許文献1参照。)、実施例において、重合性ビニル単量体としてスチレンモノマーのみを使用した樹脂組成物が記載されている。しかしながら、この樹脂組成物では、建築基準法の改正等の法規制に充分に対応することができるようにスチレン放散量を抑制するとともに、耐候性や耐熱水性に優れた硬化物を得るための工夫の余地があった。
【特許文献1】特開平7−157645号公報(第2、4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、スチレン等の重合性単量体の揮散が充分に抑制され、靱性、耐久性、耐候性、耐熱水性、機械的強度等の各種物性に優れ、様々な用途に好適に用いられる不飽和ポリエステル樹脂組成物及び該樹脂組成物を用いた複合被覆体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、様々な用途に好適に使用可能な樹脂組成物について種々検討したところ、不飽和ポリエステル及び重合性単量体を含有する樹脂組成物を用いると、靱性、強度、耐久性等の性能を有する硬化物が得られる点で有用であることに着目し、重合性単量体としてアルキル置換スチレン系単量体を特定量用いることにより、重合性単量体飛散量を大幅に低減することが可能となることを見いだし、それに起因して、現在の様々な法規制に充分に対応できるとともに、耐熱水性(耐煮沸水性)や耐候性、強度等の各種物性により優れた硬化物が得られることを見いだした。そして、不飽和ポリエステル、上記重合性単量体、シリカ及び金属石鹸を特定量含有する樹脂組成物とすると、種々の用途に好適に用いることができ、特にゲルコート剤等の被覆剤(材)として有用なものとなることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0007】
すなわち本発明は、不飽和ポリエステル30〜80質量%及び重合性単量体20〜70質量%からなる不飽和ポリエステル樹脂、並びに、該不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対してシリカ0.5〜10質量部及び金属石鹸0.01〜5質量部を含有する不飽和ポリエステル樹脂組成物であって、上記重合性単量体は、アルキル置換スチレン系単量体を全単量体成分100質量%に対して50質量%以上含んでなる不飽和ポリエステル樹脂組成物である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物(以下、「樹脂組成物」ともいう。)は、不飽和ポリエステル、重合性単量体、シリカ及び金属石鹸を含有するものである。なお、不飽和ポリエステル及び重合性単量体を合わせて不飽和ポリエステル樹脂という。
上記樹脂組成物において、重合性単量体としては、アルキル置換スチレン系単量体を必須とするものであるが、本発明の作用効果を損なわない範囲内でその他の単量体を含むことができる。
【0009】
上記アルキル置換スチレン系単量体としては、スチレンをアルキル基で置換したものであれば特に限定されず、例えば、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、ビニルトルエン、tert−ブチルスチレン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。中でも、ビニルトルエンであることが好適である。なお、ビニルトルエンとは、o−、m−及びp−メチルスチレンの総称である。
上記アルキル置換スチレン系単量体の使用量としては、全単量体成分を100質量%とすると、50質量%以上であることが適当である。50質量%未満であると、重合性単量体の揮散を充分に抑制するという本発明の作用効果を充分に発揮することができないおそれがある。好ましくは、60質量%以上であり、より好ましくは、70質量%以上であり、特に好ましくは、80質量%以上であり、最も好ましくは、100質量%、すなわちアルキル置換スチレン系単量体のみで重合性単量体を構成することである。
【0010】
上記重合性単量体が含んでもよいその他の単量体としては特に限定されず、例えば、スチレン;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAアルキレンオキサイドジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート系単量体;ジビニルベンゼン、酢酸ビニル、エチレングリコールモノアリルエーテル、プロピレングリコールモノアリルエーテル等の1種又は2種以上を使用することができる。
【0011】
上記重合性単量体としては、不飽和ポリエステル樹脂を100質量%とすると、20〜70質量%とすることが適当である。20質量%未満であると、硬化物の表面性を充分に向上することができず、また、粘度が大きいために作業性に優れたものとはならないおそれがある。70質量%を超えると、硬化性を向上させることができないおそれがあり、また、残留する単量体量が増加し、これに起因して成形体からの放散量が増加し、建築基準法等の法規制に充分に対応できないおそれがある。好ましい下限は30質量%、上限は65質量%であり、より好ましい下限は40質量%、上限は60質量%である。
【0012】
本発明の樹脂組成物において、不飽和ポリエステルは、酸成分(多塩基酸成分)と、グリコール成分及び/又はエポキシ化合物成分とを縮合反応して得ることができる。なお、酸成分と、グリコール成分及び/又はエポキシ化合物成分との反応モル比としては特に限定されず、例えば、酸成分:グリコール成分及び/又はエポキシ化合物成分とした場合に、10:8〜10:12であることが好適である。
【0013】
上記酸成分としては、グリコール成分及び/又はエポキシ化合物成分に含まれる水酸基及び/又はエポキシ基と反応してエステル結合を生成することができる置換基を2つ以上有する化合物であればよく、不飽和多塩基酸を必須とし、その一部を飽和多塩基酸に置き換えて使用してもよい。
上記不飽和多塩基酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、アコニット酸、イタコン酸等のα,β―不飽和多塩基酸;ジヒドロムコン酸等のβ,γ―不飽和多塩基酸;これらの酸の無水物;これらの酸のハロゲン化物;これらの酸のアルキルエステル等の1種又は2種以上を使用することができる。
【0014】
上記飽和多塩基酸としては、例えば、マロン酸、コハク酸、メチルコハク酸、2,2−ジメチルコハク酸、2,3−ジメチルコハク酸、ヘキシルコハク酸、グルタル酸、2−メチルグルタル酸、3−メチルグルタル酸、2,2−ジメチルグルタル酸、3,3−ジメチルグルタル酸、3,3−ジエチルグルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族飽和多塩基酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の芳香族飽和多塩基酸;ヘット酸、1,2−ヘキサヒドロフタル酸、1,1−シクロブタンジカルボン酸、trans−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂環式飽和多塩基酸;これらの酸の無水物;これらの酸のハロゲン化物;これらの酸のアルキルエステル等の1種又は2種以上を使用することができる。中でも、イソフタル酸及び/又はテレフタル酸を用いることが好ましい。この場合、イソフタル酸及び/又はテレフタル酸の使用量としては、全酸成分100モル%に対して下限が30モル%であることが好適である。より好ましい下限は40モル%である。また、上限は70モル%であることが好ましい。より好ましい上限は60モル%であり、最も好ましい上限は50モル%である。イソフタル酸及び/又はテレフタル酸の使用量が全酸成分100モル%に対し30モル%未満であれば耐熱水性が充分とはならず、耐熱水性を特に必要とする用途に好適に使用できなくなるおそれがある。また、70モル%を超える場合、不飽和酸の使用量が低下し、硬化性や強度を向上することができないおそれがある。
【0015】
上記グリコール成分としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ジプロピレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2−エチル−1,4−ブタンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−ジメチロールシクロヘキサン、2,2−ジエチルプロパン−1,3−ジオール、3−メチルペンタン−1,4−ジオール、2,2−ジエチルブタン−1,3−ジオール、4,5−ノナンジオール、トリエチレングリコール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、水素化ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等の1種又は2種以上を使用することができる。中でも、ネオペンチルグリコール(NPG)、ビスフェノールA−アルキレンオキサイド付加物及び水素化ビスフェノールA(HBPA)のうち少なくとも1種を用いることが好ましい。この場合、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA−アルキレンオキサイド付加物及び水素化ビスフェノールAの使用量としては、全グリコール成分及び/又はエポキシ化合物成分100モル%に対して下限が30モル%であることが好適である。より好ましい下限は40モル%である。また、上限は80モル%であることが好ましい。より好ましい上限は70モル%である。上記使用量が全グリコール成分及び/又はエポキシ化合物成分100モル%に対し30モル%未満であれば耐熱水性が充分とはならず、耐熱水性を特に必要とする用途に好適に使用できなくなるおそれがある。また、80モル%を超える場合、引張り伸び率が充分とはならず、ゲルコート等耐クラック性を特に必要とする用途に好適に使用できなくなるおそれがある。
【0016】
上記エポキシ化合物成分としては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、スチレンオキシド、3,4−エポキシ−1−ブテン、グリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレート、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル等の1種又は2種以上を使用することができる。
【0017】
上記不飽和ポリエステルの原料の一部を、以下に示すアリル基等の不飽和結合を有する化合物に置き換えて製造してもよく、この場合には、いわゆる空気硬化型ポリエステルとすることができる。具体的には、少なくとも上述した多塩基酸成分の全量又は一部を、以下に示すアリル基等の不飽和結合を有する不飽和多塩基酸に置き換えるか、上述した通常のグリコール成分及び/若しくはエポキシ化合物成分の全量又は一部を、以下に示すアリル基等の不飽和結合を有するグリコール成分及び/又はエポキシ化合物成分に置き換えればよい。
【0018】
上記不飽和結合を有する不飽和多塩基酸成分としては、例えば、テトラヒドロ無水フタル酸、α−テルピネン−無水マレイン酸付加物、シクロペンタジエン−無水マレイン酸付加物(エンドメチレンテトラヒドロフタル酸)、ロジン、エステルガム、乾性油脂肪酸、半乾性油、脂肪酸等の1種又は2種以上を使用することができる。
上記不飽和結合を有するグリコール成分及び/又はエポキシ化合物成分としては、例えば、トリメチロールプロパンモノアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、トリメチロールエタンモノアリルエーテル、トリメチロールエタンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールモノアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、グリセリンモノアリルエーテル、グリセリンジアリルエーテル、アリルグリシジルエーテル等の1種又は2種以上を使用することができる。
【0019】
上記不飽和ポリエステルの特に好適な形態としては、イソフタル酸及び/又はテレフタル酸を全酸成分100モル%に対して30モル%以上含む酸成分と、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA−アルキレンオキサイド付加物及び水素化ビスフェノールAのうち少なくとも1種を全グリコール成分及び/又はエポキシ化合物成分100モル%に対して30モル%以上含むグリコール成分及び/又はエポキシ化合物成分とを用いて得られるものである形態である。これにより、得られる樹脂組成物の硬化物において、耐熱水性を更に向上することが可能となり、例えば、防水パンやバスタブ、カウンターキッチン等の耐熱水性が特に要求される用途に好適に用いられることとなる。
【0020】
上記不飽和ポリエステルとしては、不飽和ポリエステル樹脂を100質量%とすると、30〜80質量%とすることが適当である。30質量%未満であると、耐候性や耐熱水性を向上できないおそれがあり、80質量%を超えると、粘度を充分に低減することができず、作業性を向上できないおそれがある。好ましい下限は35質量%、上限は70質量%であり、より好ましい下限は40質量%、上限は60質量%である。
【0021】
本発明の樹脂組成物において、シリカは、樹脂組成物に揺変性を付与する作用効果を有するもの(揺変剤)であり、その形状は特に限定されないが、ヒュームドシリカが好適に用いられる。なお、本発明においては、シリカに加えて、その他の揺変剤を併用することもできる。
上記シリカとしては、不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対し、0.5〜10質量部とすることが適当である。0.5質量部未満であると、揺変性を充分に付与することができず、施工時の作業を効率よく行うことができないおそれがあり、10質量部を超えると、粘度が高くなり過ぎて樹脂組成物を施工する際の作業性を向上することができないおそれがある。好ましい下限は1質量部、上限は5質量部であり、より好ましい下限は1.5質量部、上限は3質量部である。
上記樹脂組成物の揺変度としては1.1〜8.0が好適である。揺変度が1.1未満であれば縦面での樹脂だれが発生しやすく、成形品に厚みむらが起きやすい。揺変度が8.0を超えると粘度が高いため、作業がし難くなる。より好ましい揺変度は1.5〜7.0であり、更に好ましくは2.0〜6.0である。揺変度の測定方法及び計算方法はJIS K6901−1999に従う。
【0022】
上記樹脂組成物において、金属石鹸は、樹脂組成物の常温硬化を促進する効果を有するものであり、例えば、ナフテン酸コバルト、オクチル酸コバルト等のコバルト塩や、ナフテン酸マンガン、ナフテン酸カリウム、オクチル酸カリウム、ナフテン酸カルシウム、オクチル酸カルシウム等の1種又は2種以上を使用することができる。中でも、コバルト塩を必須とすることが好適である。
【0023】
上記金属石鹸としては、不飽和ポリエステル樹脂を100質量部とすると、金属成分量として、0.01〜5質量部であることが適当である。0.01質量部未満であると、樹脂の硬化速度を向上することができず、また、充分に硬化できないおそれがあり、硬化物が持つ本来の強度物性が得られないおそれがある。5質量部を超えると、樹脂の硬化が速すぎるため、作業時間が取れず、また、硬化物の色調を良好なものとすることができないおそれがある。好ましい下限は0.1質量部、上限は2質量部であり、より好ましい下限は0.3質量部、上限は1質量部である。
なお、着色を重視する用途では、コバルト塩とアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩(好ましくはカリウム塩及び/又はカルシウム塩)とを併用することが好ましい。この場合、全金属石鹸中のコバルト塩の含有割合としては、金属石鹸の総量を100質量%とすると、コバルト塩が、金属成分量として20質量%以上であることが好ましく、これにより、硬化性をより充分に高めることが可能となる。より好ましくは、30質量%以上である。
【0024】
本発明の樹脂組成物としては、必要に応じて着色剤を含むこともでき、上記樹脂組成物が更に着色剤を含有する形態は、本発明の好適な形態の1つである。着色剤としては、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、弁柄、フタロシアニンブルー等の通常用いられる顔料が挙げられ、使用量としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して、上限が30質量部であることが好ましい。より好ましい上限は20質量部である。
なお、本発明の樹脂組成物は、透明性が高いものであるため、着色剤を使用しない場合には、無着色ゲルコート剤等として好適に用いられることとなる。
【0025】
本発明の樹脂組成物としてはまた、必要に応じて、樹脂の硬化を促進させるための促進助剤を含んでいてもよい。促進助剤としては、例えば、アセチルアセトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、α−アセチル−γ−ブチロラクトン、N−ピロジニノアセトアセタミド、N,Nジメチルアセトアセタミド等のβ−ジケトン類;ジメチルアニリン、N,N−ジメチルトルイジン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジ(ヒドロキシ)−4−メチルアニリン等のアミン類等のβ−ケトエステル、β−ケトアミド類等の1種又は2種以上を使用することができる。
上記促進助剤の使用割合としては、不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して、下限が0.005質量部、上限が1質量部であることが好ましい。より好ましい下限は0.01質量部、上限は0.5質量部である。
【0026】
上記樹脂組成物としてはまた、本発明の作用効果を損なわない範囲内で空気乾燥性付与剤、充填剤、重合禁止剤、消泡剤、増粘剤、無機骨材、低収縮化剤、内部離型剤、柄剤、不活性粉体、紫外線吸収剤、低収縮剤、老化防止剤、可塑剤、難燃剤、安定剤等の添加剤(材)を含むことができる。
【0027】
上記空気乾燥性付与剤とは、樹脂が硬化する際に樹脂から形成される被膜や成形物の表面に析出し、空気との遮断層を該表面に形成することにより、空気中の酸素が樹脂のラジカル重合を阻害することを防止して樹脂の乾燥性を向上させる作用を有するものである。このような空気乾燥性付与剤としては、例えば、以下の(1)〜(3)に記載するワックス類等が挙げられる。
(1)天然ワックスとしては、例えば、キャンデリラワックス、カルナバワックス、ライスワックス、木蝋、ホホバ油等の植物系ワックス;密蝋、ラノリン、鯨蝋等の動物系ワックス;モンタンワックス、オゾケライト、セレシン等の鉱物系ワックス;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等の石油系ワックス等が挙げられる。
(2)合成ワックスとしては、例えば、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス等の合成炭化水素;モンタンワックス誘導体、パラフィンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体等の変性ワックス;動物性油脂の誘導体;カルボキシル基含有単量体とオレフィンとの共重合体;硬化ひまし油、硬化ひまし油誘導体等の水素化ワックス;ステアリン酸、ドデカン酸、ステアリン酸オクタデシル等の炭素数12以上の脂肪酸及びその誘導体;アルキルフェニールや高級アルコールに、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドが付加したアルコール類等が挙げられる。
(3)その他のものとしては、例えば、天然ワックスや合成ワックス等の配合ワックス等が挙げられる。
これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、上記ワックス類に、他の成分を含んでもよい。
【0028】
これらの中でも、パラフィンワックスを用いることが好ましい。
なお、樹脂組成物を常温で硬化させる場合には、上記空気乾燥性付与剤としては、JIS K2235−1991に分類される融点が40〜80℃であるものを用いることが好ましい。これにより、樹脂組成物の施工において、硬化途中の樹脂組成物から形成される被膜や成形物の表面に析出しやすくなることから、空気との遮断層が充分に形成されることとなる。
【0029】
上記空気乾燥性付与剤の使用が必要な場合、使用量は特に限定されないが、不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して、0.001質量部(10ppm)以上、1質量部以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.01質量部以上、0.3質量部以下である。
【0030】
上記充填剤としては、例えば、水酸化アルミニウム(ATH)、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、クレー、タルク、ガラスパウダー、ミルドファイバー、クリストバライト、マイカ、シリカ、川砂、珪藻土、雲母粉末、石膏、ガラス粉末等の無機充填剤;有機充填剤等が挙げられ、使用量としては特に限定されないが、不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して、20質量部以上、300質量部以下であることが好ましい。
【0031】
上記重合禁止剤は、可使時間、硬化反応の立ち上がりを調整するために用いられ、例えば、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン等のハイドロキノン類;ベンゾキノン、メチル−p−ベンゾキノン等のベンゾキノン類;t−ブチルカテコール等のカテコール類;2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、4−メトキシフェノール等のフェノール類;フェノチアジン、ナフテン酸銅等が好適である。
上記消泡剤としては、シリコン系等の他、市販の高分子系消飽剤その他添加剤を用いることができる。
上記増粘剤としては、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛等の多価金属酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の多価金属水酸化物;多官能イソシアネート等が好適である。
上記無機骨材としては、珪砂、シリカ、クレー、ベントナイト、水酸化アルミニウム、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム等の無機粉体等が好適である。不活性粉体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等の熱可塑性樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂硬化物、ゴム、木材等の粉体及び/又は粉砕物等が好適である。
【0032】
上記低収縮化剤は、成形収縮を調整するために用いることができ、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリ酢酸ビニル、架橋ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル−ポリスチレンブロックコポリマー、アクリル/スチレン等の多相構造ポリマー、架橋/非架橋等の多相構造ポリマー、SBS(ゴム)等が挙げられ、使用量としては特に限定されないが、不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して、5質量部以上、50質量部以下であることが好ましい。
上記内部離型剤としては、例えば、ステアリン酸、ラウリン酸等の脂肪酸及びステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の脂肪酸金属塩等が挙げられ、使用量としては特に限定されないが、不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して、1質量部以上、10質量部以下であることが好適である。
上記柄剤としては、例えば、酸化アルミニウム、PETフィルム、マイカ、セラミック及びそれらを着色剤、表面処理剤等でコーティングしたもの、メッキ処理したもの、熱硬化性樹脂と無機フィラーと着色剤等とを熱硬化させて粉砕したもの等が挙げられる。
【0033】
本発明の樹脂組成物としては、硬度、光沢、肉持ち感、耐溶剤性等の基本性能に優れ、極めて高度な耐候性を有し、可撓性をも有する塗膜を形成し得るものである。そのため、例えば、フィルム、シートを含むプラスチック成型品、太陽電池、ポリマー電池、家電製品、鋼製品、大型構造物、自動車、船舶、建築、建材、木工、ガードフェンス、表示物、機械、器具、産業機器、ガラス製品、各種工業製品等の下塗り、中塗り、上塗り塗装用塗料等として好適に用いることができるものであり、様々な基材に対して、上記のような基本性能を付与し、機械的衝撃から表面を保護し美観を与え、保護機能、美装機能等を持続させて寿命を延ばし、メンテナンスコストを低減させることができる。
【0034】
上記樹脂組成物により被膜(塗膜)を形成する方法としては、例えば、本発明の樹脂組成物に硬化剤を混合し、基材に塗布した後硬化させることにより被膜を成形する方法;マット状の繊維強化材を用いる場合には、本発明の樹脂組成物に硬化剤を混合し、ハンドレイアップ等により繊維強化材を含浸させて被覆材とし、硬化させることにより被膜を形成する方法等が挙げられる。
【0035】
上記硬化剤としては、通常使用されるものを用いることができ、例えば、アセチルアセトンパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド(MEKPO)、ジエチルケトンパーオキサイド、メチルプロピルケトンパーオキサイド、メチルイソブチルケトンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、エチルアセトアセテートパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、キュメンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルイソプロピルパーオキシカーボネート、1,1−ジブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサノン、t−ブチルパーオキシ−2−エチルへキサノエート、アミルパーオキシ−p−2−エチルヘキサノエート、2−エチルヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−へキシルパーオキシベンゾエート等の1種又は2種以上を使用することができる。使用量としては特に限定されないが、不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して、0.5質量部以上、5質量部以下であることが好適である。
【0036】
上記基材としては、例えば、ガラス、スレート、コンクリート、モルタル、セラミック、石材等の無機質基材;アルミニウム、鉄、亜鉛、錫、銅、チタン、ステンレス、ブリキ、トタン等からなる金属板、表面に亜鉛、銅、クロム等をメッキした金属、表面をクロム酸、リン酸等で処理した金属等の金属基材;ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)、FRP(織維強化プラスチック)、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリオレフィン、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ナイロン樹脂、等のプラスチック基材;合成皮革;ヒノキ、スギ、マツ、合板等の木材;繊維、紙等の有機素材等が挙げられる。また、これらの基材は、本発明の樹脂組成物が塗装される前に、通常用いられるプライマーや、下塗り、中塗り、メタリックベース等の上塗り等塗装用塗料が塗装されていてもよい。
【0037】
上記樹脂組成物を基材に塗布する方法及び硬化方法としては、該樹脂組成物が用いられる用途により適宜設定すればよいが、塗装方法としては、例えば、浸漬塗り、刷毛塗り、ロール刷毛塗り、スプレーコート、ロールコート、スピンコート、ディップコート、スピンコート、バーコート、フローコート、静電塗装、ダイコート、フイルムラミネート、ゲルコート等による塗装法等により行うことができる。
硬化方法としては、例えば、施工直前に、硬化剤を樹脂組成物に混合し硬化させることができる。また、硬化条件において、硬化温度としては、常温で行うことが好ましい。より好ましくは、−10〜60℃であり、更に好ましくは、10〜40℃である。ゲル化時間としては、1〜180分であることが好ましい。より好ましくは、5〜60分である。なお、上記樹脂組成物から形成される塗膜の膜厚としては、用いられる用途により適宜設定すればよい。
【0038】
本発明はまた、基体上に少なくとも補強層及び仕上材層をこの順で積層してなる複合被覆体であって、上記仕上材層は、上記不飽和ポリエステル樹脂組成物により形成される複合被覆体でもある。
このように本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いることにより、現在の様々な法規制に充分に対応できるとともに、耐熱水性や耐水性等の各種物性に優れた被覆体を得ることができ、本発明の作用効果をより充分に発揮することが可能となる。
【0039】
上記複合被覆体において、基体の部位としては、建築物の屋根、庇、解放廊下、ベランダ、バルコニー、工場床等が挙げられ、その材質としては、上述したもの(基材)等が挙げられる。また、基体に対する層の密着性を良好にするために、雨水や汚れ、付着物、脆弱な表面層等を除去することが好ましく、例えば、ベランダ上部をブルーシート等で覆い雨水対策をしたり、サッシ・手摺等にビニールシート等で保護養生したり、ショットブラスト、サンドペーパー等により剥落し、研掃して表面を清潔にしたりすることが好適である。
上記複合被覆体においては、基体と補強層との間に不燃層を積層してもよく、例えば、コンクリート、レンガ、ガラス、岩石、金属、木毛セメント板、石膏ボード、ケイ酸カルシウム板等の不燃材により構成することができる。
上記不燃層としては、動きのないようにねじで基体に固定したり、接着剤、粘着剤で基体に固定したりすることにより形成することができる。なお、入隅、出隅は面取りをしておくことが好ましい。
【0040】
上記複合被覆体においてはまた、補強層を形成するにあたって、その下地となる基体又は不燃層表面との接着性をより確実にするために、必要に応じてプライマーを0.1〜1kg/m塗布することが好ましい。プライマーとしては、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂等が好適である。この場合、下地への含浸をよくするために、プライマーに溶剤や架橋性単量体を添加して粘度を下げることが好ましい。また、プライマーの硬化後、基体との追従性を向上させるために、軟質の樹脂を0.1〜2kg/m塗布してもよい。軟質の樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ウレタンアクリレート樹脂等が好適であり、その硬化物の伸び率は、30〜300%であることが好ましい。また、更に下地との密着性を向上させるために、珪砂、タルク等の充填材を配合してもよく、その使用量としては、軟質の樹脂100質量部に対して50〜300質量部とすることが好適である。
【0041】
上記補強層としては、補強繊維材(繊維状補強材)と通常使用される樹脂組成物とにより形成されるものであればよいが、補強層を構成する少なくとも一層が、不飽和ポリエステル40〜90質量%及び重合性単量体10〜60質量%からなる不飽和ポリエステル樹脂と、該不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して金属石鹸0.01〜5質量部とを含む不飽和ポリエステル樹脂組成物、並びに、補強繊維材を含有する成形材料により形成され、該不飽和ポリエステルは、ジシクロペンタジエン骨格含有率が20質量%以上であり、
該重合性単量体は、アルキル置換スチレン系単量体を全単量体成分100質量%に対して50質量%以上含んでなり、該補強繊維材は、成形材料100質量%に対して5〜60質量%である形態であることが特に好適である。このような不飽和ポリエステル樹脂組成物と補強繊維材とを含有する成形材料を用いて補強層を構成することによって、補強層においても重合性単量体の揮散が充分に抑制され、優れた耐熱水性及び耐水性を発揮できるため、上記仕上材層との相乗効果によって、より優れた物性を有し、現在の法規制に更に充分に対応可能な成形体を提供することが可能となる。
なお、以下では、上記成形材料に含まれる樹脂組成物を「樹脂組成物(B)」ともいい、上述した本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物を「樹脂組成物(A)」ともいう。
【0042】
上記樹脂組成物(B)は、不飽和ポリエステル及び重合性単量体からなる不飽和ポリエステル樹脂と、金属石鹸とを含むものである。
上記不飽和ポリエステル樹脂において、不飽和ポリエステルは、ジシクロペンタジエン骨格を有するものであるが、ジシクロペンタジエン骨格(ノルボルネン)骨格とは、下記一般式(1)又は(2);
【0043】
【化1】

【0044】
で表される骨格である。このようなジシクロペンタジエン骨格の含有率は20質量%以上であることが適当であるが、20質量%未満であると、樹脂組成物を充分に低粘度化することができず、作業性に優れたものとすることができないおそれがある。好ましくは、25質量%以上であり、より好ましくは、30質量%以上である。これにより、重合性単量体の使用割合を低減でき、重合性単量体の揮散を充分に抑制することができる。また、上限値としては、60質量%であることが好ましく、より好ましい上限は50質量%である。
ジシクロペンタジエン骨格が60質量%を超える場合、硬化性及び引張り伸び率が充分とはならないおそれがある。
【0045】
上記ジシクロペンタジエン骨格含有率(質量%)とは、下記式;
ジシクロペンタジエン骨格含有率(質量%)=(ジシクロペンタジエン骨格の質量)/(ジシクロペンタジエン骨格を有する不飽和ポリエステルの全体質量)×100
により求められる値である。
なお、「ジシクロペンタジエン骨格の質量」とは、使用したジシクロペンタジエン骨格を有する化合物のモル数に、ジシクロペンタジエン骨格の分子量(133)を乗じて得た値であり、「ジシクロペンタジエン骨格を有する不飽和ポリエステルの全体質量」とは、不飽和ポリエステルの原料のうち、エステル鎖を形成する成分(酸成分並びにグリコール成分及び/又はエポキシ化合物成分の総質量(ジシクロペンタジエン骨格を有する化合物の質量を含む)から、酸成分とグリコール成分及び/又はエポキシ化合物成分との縮合反応で脱離する成分の質量を差し引いた値である。ここで、縮合重合時にジシクロペンタジエン骨格を有する化合物を生成させた場合には、ジシクロペンタジエン骨格を有する化合物の質量は、その生成に用いた原料の質量から計算した理論量とすればよい。
【0046】
上記ジシクロペンタジエン骨格を有する不飽和ポリエステルとしては、通常の不飽和ポリエステルにおける原料の少なくとも一部を、ジシクロペンタジエン骨格を有する化合物に置き換えることによって得ることができる。例えば、上述した樹脂組成物(A)における不飽和ポリエステルの原料のうち、多塩基酸成分の一部を、ジシクロペンタジエンの不飽和多塩基酸付加物で置き換えることによって得ることができ、該不飽和多塩基酸付加物としては、上述した不飽和多塩基酸をジシクロペンタジエンに付加させてなる付加物、例えば、ジシクロペンタジエンのマレイン酸付加物等のジシクロペンタジエンの不飽和二価カルボン酸付加物を用いることができる。なお、ジシクロペンタジエンのマレイン酸付加物は、水の存在下で、ジシクロペンタジエンと無水マレイン酸との付加を行うことによって製造することができる。また、上述したグリコール成分の一部を、ジシクロペンタジエンのグリコール付加物類やヒドロキシジシクロペンタジエンで置き換えることによっても得ることができる。
【0047】
上記ジシクロペンタジエン骨格を有する不飽和ポリエステルとしてはまた、酸成分とグリコール成分及び/又はエポキシ化合物成分との縮合重合時に、酸成分又はグリコール成分及び/若しくはエポキシ化合物成分と、ジシクロペンタジエンとの付加により、ジシクロペンタジエン骨格を有する化合物を生成させることによっても得られる。すなわち、通常の不飽和ポリエステルに用いられる酸成分並びにグリコール成分及び/若しくはエポキシ化合物成分と、ジシクロペンタジエンとを混合して縮合重合を行ってもよく、また、酸成分と、グリコール成分及び/又はエポキシ化合物成分とを混合して縮合重合を開始させた後、ジシクロペンタジエンを添加してもよい。
【0048】
上記ジシクロペンタジエン骨格を含む不飽和ポリエステルの合成に用いられるジシクロペンタジエン骨格を有する化合物(又はジシクロペンタジエン)以外の原料は、上述した樹脂組成物(A)における不飽和ポリエステルの場合に示したものと同一の原料(酸成分、グリコール成分、エポキシ化合物成分等)を使用することができるが、グリコール成分及び/又はエポキシ化合物成分としては、少なくともエーテルグリコールを用いることが好ましく、中でも、ジエチレングリコール(DEG)、トリエチレングリコール(TEG)、テトラエチレングリコール(TetraEG)を使用することが特に好適である。
上記エーテルグリコールとしては、全グリコール成分及び/又はエポキシ化合物成分を100モル%とすると、30モル%以上用いることが好ましく、上記樹脂組成物(B)における不飽和ポリエステルが、エーテルグリコールを全グリコール成分及び/又はエポキシ化合物成分100モル%に対して30モル%以上含むグリコール成分及び/又はエポキシ化合物成分を用いて得られるものである形態は、本発明の好適な形態の1つである。エーテルグリコールが30モル%未満であると、初期モノマー含有率を充分に低減することができず、重合性単量体の揮散をより充分に抑制することができないおそれがある。より好ましくは、40モル%以上であり、更に好ましくは、50モル%以上である。
【0049】
上記不飽和ポリエステルとしては、不飽和ポリエステル樹脂を100質量%とすると、40〜90質量%とすることが適当である。40質量%未満であると、耐候性や耐熱水性を向上できないおそれがあり、90質量%を超えると、粘度を充分に低減することができず、作業性を向上できないおそれがある。好ましい下限は50質量%、上限は85質量%であり、より好ましい下限は60質量%、上限は80質量%である。
【0050】
上記樹脂組成物において、重合性単量体としては、上述した樹脂組成物(A)におけるものと同様である。このような重合性単量体としては、不飽和ポリエステル樹脂を100質量%とすると、10〜60質量%とすることが適当である。10質量%未満であると、粘度を充分に低減することができず、作業性に優れたものとはならないおそれがある。60質量%を超えると、硬化性を向上させることができないおそれがあり、また、残留する単量体量が増加し、これに起因して成形体からの放散量が増加し、建築基準法等の法規制に充分に対応できないおそれがある。好ましい下限は15質量%、上限は50質量%であり、より好ましい下限は20質量%、上限は40質量%である。
【0051】
上記金属石鹸としては、上述した樹脂組成物(A)におけるものと同様である。このような金属石鹸としては、不飽和ポリエステル樹脂を100質量部とすると、金属成分量として、0.01〜5質量部であることが適当である。0.01質量部未満であると、樹脂の硬化速度を向上することができず、また、充分に硬化できないおそれがあり、硬化物が持つ本来の強度物性が得られないおそれがある。5質量部を超えると、樹脂の硬化が速すぎるため、作業時間が取れず、また、硬化物の色調を良好なものとすることができないおそれがある。好ましい下限は0.1質量部、上限は2質量部であり、より好ましい下限は0.3質量部、上限は1質量部である。
【0052】
上記樹脂組成物(B)としてはまた、本発明の作用効果を損なわない範囲内で促進助剤、空気乾燥性付与剤、充填剤、重合禁止剤、消泡剤、増粘剤、無機骨材、低収縮化剤、内部離型剤、柄剤、不活性粉体、紫外線吸収剤、低収縮剤、老化防止剤、可塑剤、難燃剤、安定剤等の添加剤(材)を含むことができる。
【0053】
上記成形材料において、補強繊維材としては、例えば、ガラス繊維、金属繊維、セラミック繊維や炭素繊維等の1種又は2種以上を用いることができ、また、形状としては、チョップドストランドマット、クロス(織物)、不織布、三次元織物等の1種又は2種以上のものが使用できる。このような補強繊維材としては、成形材料を100質量%とすると、5〜60質量%であることが適当である。5質量%未満であると、機械的強度に優れた硬化物を得られないおそれがあり、60質量%を超えると、作業性を向上できないおそれがある。好ましい下限は10質量%、上限は50質量%であり、より好ましい下限は20質量%、上限は40質量%である。
【0054】
上記補強層の形成方法としては、例えば、硬化剤を混合した樹脂組成物(B)を塗布した上に補強繊維材を施工し、更に硬化剤を混合した樹脂組成物(B)を塗布した後硬化させる方法;硬化剤を混合した樹脂組成物(B)をハンドレイアップ等により補強繊維材に含浸させて被覆材とし、硬化させる方法等が挙げられ、このような補強層は、0.5〜5kg/mでライニングされることが好ましい。
上記樹脂組成物(B)を塗布する方法、硬化方法及び用いる硬化剤としては、上記樹脂組成物(A)において上述したものと同様である。
【0055】
本発明の複合被覆体における仕上材層は、本発明の樹脂組成物(A)により形成されるものである。なお、仕上材層の形成前に、上記補強層硬化後、ディスクサンダー等で表面を研掃し、ガラスマット等の跡を平坦にしておくことが好ましい。
上記仕上材層としては、上記樹脂組成物(A)を0.2〜1kg/m塗布し、硬化させることによって形成することが好ましく、塗布方法及び硬化方法としては、上記樹脂組成物(A)において上述したものと同様である。また、上記仕上材層においては、砕石、砂利、小石、スラグ等の粒子(骨材)を用いて色彩的意匠を施してもよい。
上記複合被覆体としてはまた、上記仕上材層に更に表面層を積層したものであってもよい。
【発明の効果】
【0056】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、上述のような構成であるので、スチレン等の重合性単量体の揮散が充分に抑制され、靱性、耐久性、耐候性、耐熱水性、機械的強度等の各種物性に優れることから、各種の用途に好適に用いることができ、例えば、ゲルコート剤等の被覆材として特に有用なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0057】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0058】
製造例1
温度計、窒素ガス導入管、還流冷却器及び攪拌機を備えた4つ口フラスコを反応器とした。この反応器に、イソフタル酸45モル、ジエチレングリコール25モル、プロピレングリコール10モル、ネオペンチルグリコール65モルを仕込んだ。次に上記の内容物を窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら、200〜220℃の温度範囲で反応させるとともに、反応物の酸価を、JIS K6911−1995 4.3に記載の方法に準拠して随時測定した。そして酸価が10mgKOH/gとなった時点で、上記反応物に、無水マレイン酸55モルを添加混合し、200〜220℃に昇温し、8時間反応させた。これにより、不飽和ポリエステル(a)を得た。この不飽和ポリエステル(a)の酸価は15.0mgKOH/gであった。
【0059】
製造例2
温度計、窒素ガス導入管、還流冷却器及び攪拌機を備えた4つ口フラスコを反応器とした。この反応器にイソフタル酸40モル、エチレングリコール50モル、プロピレングリコール50モルを仕込んだ。次に上記の内容物を窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら、180〜220℃の温度範囲で反応させた。酸価が10mgKOH/gとなった時点で、上記反応物に、無水マレイン酸60モルを添加混合し、200〜220℃に昇温し、8時間反応させた。これにより、不飽和ポリエステル(b)を得た。この不飽和ポリエステルの酸価は15.0mgKOH/gであった。
【0060】
製造例3
製造例2と同様の反応器に無水フタル酸50モル、無水マレイン酸50モル、エチレングリコール50モル、プロビレングリコール50モルを仕込んだ。次に上記の内容物を窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら、180〜220℃の温度範囲で6時間反応させた。これにより、不飽和ポリエステル(c)を得た。この不飽和ポリエステル(c)の酸価は25.0mgKOH/gであった。
【0061】
製造例4
製造例2と同様の反応器に無水マレイン酸100モル、ジシクロペンタジエン90モル、脱イオン水90モルを仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら、130℃で3時間かけて付加反応を行い、ジシクロペンタジエンのマレイン酸付加物を得た。次にエチレングリコール5モル、ジエチレングリコール50モルを添加混合し、200℃で8時間反応させた。これにより、ジシクロペンタジエン骨格を含む不飽和ポリエステル(d)を得た。この不飽和ポリエステル(d)の酸価は15.0mgKOH/gであった。
【0062】
実施例1−1
(無着色ゲルコートの配合)
製造例1で得た不飽和ポリエステル(a)を表1に記載の混合モノマーに80℃で溶解し、モノマー含有率40%の不飽和ポリエステル樹脂を得た。この不飽和ポリエステル樹脂(不飽和ポリエステル(a)60%、重合性単量体40%)80部、及び、微粉末シリカ(日本アエロジール社製)2部をホモミキサーで混練し、よく分散させた。更に、ナフテン酸コバルト溶液(コバルト濃度:6質量%)0.5部、及び、表1に記載の混合モノマー18部を配合し、よく混練した。その結果、25℃での粘度は21.6ポイズ(1ポイズ=1×10−1Pa・s)、揺変度は5.9の無着色ゲルコートが得られた。なお、得られた無着色ゲルコートにおいて、不飽和ポリエステル、微粉末シリカ及びナフテン酸コバルトの合計量は50部であり、混合モノマーの合計量は50部であることから、ゲルコート中のモノマー含有率は50%であった。ここで、混合モノマーの合計量は、使用した不飽和ポリエステル樹脂中のモノマー(モノマー含有率40%)80部及び混合モノマー18部から計算して得られた値である(80部×0.4+18部=50部)。
得られた無着色ゲルコートについて、下記の評価試験に従って、モノマー減量率及びモノマー放散量を求めた。結果を表1に示す。
【0063】
<モノマー減量率(%);無着色ゲルコートで評価>
岩田塗装機工業社製のスプレーガン(商品名「W−77S」、圧送式)を使用し、FRP製の平板に上方50cmの距離から無着色ゲルコートを吹き付けた。塗膜厚みは湿潤状態で0.3mmtになるように調整した。スプレー吹き付け前と、吹き付け10分後のモノマー含有率とを比較し、下記式;
(モノマー減量率)=〔(スプレー前のモノマー含有率)−(スプレー後のモノマー含有率)〕/(スプレー前のモノマー含有率)
に従って、減量率(%)を求めた。ここで、モノマー含有率とは、ゲルコート100質量%に対するモノマーの質量割合(質量%)を意味する。スプレー吹き付け時の雰囲気温度は25℃であった。なお、実験の性質上、硬化剤は使用していない。
【0064】
なお、「スプレー後のモノマー含有率」は、以下のようにして求めた。
<スプレー後のモノマー含有率の測定方法>
スプレー吹き付け10分後の無着色ゲルコートを1.0g取り、アセトンを10cc加え攪拌混合した後、60℃のエアーオープン中で30分乾燥させる。その後更にアセトンを10cc加え攪拌混合し、再度60℃のエアーオーブン中で30分乾燥させる。その後105℃に温度を上げ、2時間乾燥させる。更に必要に応じて150℃で2時間乾燥させ、乾燥前後での重量比でモノマー含有率を測定した。
【0065】
<モノマー放散量(g);無着色ゲルコートで評価>
1kgの無着色ゲルコートをスプレーした際の、スプレー前後の重量差として求めた。
【0066】
実施例2−1〜6−1
表1に記載した重合性単量体(モノマー)を用いた他は、実施例1−1と同様にして、無着色ゲルコートを得た後、モノマー減量率及びモノマー放散量を求めた。結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
表1、及び、後述する表2〜7中の記載は、以下のとおりである。
SM:スチレンモノマー
VT:ビニルトルエン
HEMA:ヒドロキシエチルメタクリレート
HPMA:ヒドロキシプロピルメタクリレート
MMA:メチルメタクリレート
【0069】
比較例1−1〜6−1
表2に記載した重合性単量体(モノマー)を用いた他は、実施例1−1と同様にして、無着色ゲルコートを得た後、モノマー減量率及びモノマー放散量を求めた。結果を表2に示す。
【0070】
【表2】

【0071】
実施例1−2
(着色ゲルコートの配合)
製造例1で得た不飽和ポリエステル(a)を表3に記載の混合モノマーに80℃で溶解し、モノマー含有率40%の不飽和ポリエステル樹脂を得た。この不飽和ポリエステル樹脂(不飽和ポリエステル(a)60%、重合性単量体40%)15部、及び、チタンホワイト10部をホモミキサーで混練し、よく分散させた。更に、上記不飽和ポリエステル樹脂58部、微粉末シリカ(日本アエロジール社製)2部、ナフテン酸コバルト溶液(コバルト濃度:6質量%)0.5部、及び、表3に記載の混合モノマー15部を配合しよく混練した。その結果、25℃での粘度は23.0ポイズ、揺変度は5.2の着色ゲルコートが得られた。
得られた着色ゲルコートについて、下記の評価試験に従って耐熱水性を評価した。結果を表3に示す。
【0072】
<耐熱水性試験(片面煮沸);着色ゲルコートで評価>
(積層用樹脂の調整)
製造例1に示す不飽和ポリエステル(a)を表3に記載の混合モノマーに80℃で溶解し、モノマー含有率40%の不飽和ポリエステル樹脂を得た。この不飽和ポリエステル樹脂(不飽和ポリエステル(a)60%、重合性単量体40%)86部、微粉末シリカ(日本アエロジール社製)1部、及び、表3に記載の混合モノマー13部をホモミキサーで混練し、よく分散させた。更に、ナフテン酸コバルト溶液(コバルト濃度:6質量%)0.5部を配合し、よく混練した。その結果、25℃での粘度は4.8ポイズ、揺変度は2.0の積層用揺変性樹脂(積層用樹脂)が得られた。なお、この樹脂中のモノマー含有率は47.4%であった。
(試験方法)
岩田塗装機工業社製のスプレーガン(商品名「W−77S」、圧送式)を使用し、硬化剤MEKPO(メチルエチルケトンパーオキサイド)55%ものを1%添加した着色ゲルコートをガラス板上に吹き付けた。着色ゲルコートがゲル化後、♯450ガラスマット(日東紡社製)を上記調整で得た積層用樹脂を用い3プライ積層した。ゲル化後、60℃で1時間アフターキュアーした。キュアー後ガラス板から剥がし、ゲルコート付き積層板を得た。ゲルコート付き積層板における着色ゲルコート部の厚みは約0.3mmtであり、積層部の厚みは約3mmtであった。ゲルコート付き積層板から120mm×120mmの試験片を切り出し、これを直径90mmの丸い穴の開いた片面煮沸試験装置にゲルコート面を内側にして取り付け、耐熱水性試験を98℃±1℃の条件で行った。
連続で200時間行い、ゲルコート表面状態を目視観察した。
耐熱水性評価基準は、以下のとおりである。
◎:全く変化無し。
○:ほとんど変化無し。
△:少量の膨れが発生。
×:膨れが発生し、ガラス目が目立つ。
【0073】
実施例2−2〜6−2
表3に記載した重合性単量体(モノマー)を用いた他は、実施例1−2と同様にして、着色ゲルコートを得た後、耐熱水性を評価した。なお、耐熱性試験で用いた積層用樹脂に含まれるモノマーとしては、表3に記載したものをそれぞれ使用した。結果を表3に示す。
【0074】
【表3】

【0075】
比較例1−2〜6−2
表4に記載した重合性単量体(モノマー)を用いた他は、実施例1−2と同様にして、着色ゲルコートを得た後、耐熱水性を評価した。なお、耐熱性試験で用いた積層用樹脂に含まれるモノマーとしては、表4に記載したものをそれぞれ使用した。結果を表4に示す。
【0076】
【表4】

【0077】
比較例7−2〜8−2
製造例2で得た不飽和ポリエステル(b)を表3に記載の混合モノマーに80℃で溶解し、モノマー含有率40%の不飽和ポリエステル樹脂を得た。この不飽和ポリエステル樹脂(不飽和ポリエステル(b)60%、表5に記載の重合性単量体40%)及び表5に記載の混合モノマーを用いた他は、実施例1−2と同様にして、着色ゲルコートを得た後、耐熱水性を評価した。なお、耐熱性試験で用いた積層用樹脂に含まれるモノマーとしては、表5に記載したものをそれぞれ使用した。結果を表5に示す。
【0078】
比較例9−2〜10−2
製造例3で得た不飽和ポリエステル(c)を表3に記載の混合モノマーに80℃で溶解し、モノマー含有率40%の不飽和ポリエステル樹脂を得た。この不飽和ポリエステル樹脂(不飽和ポリエステル(c)60%、表5に記載の重合性単量体40%)及び表5に記載の単独又は混合モノマーを用いた他は、実施例1−2と同様にして、着色ゲルコートを得た後、耐熱水性を評価した。なお、耐熱性試験で用いた積層用樹脂に含まれるモノマーとしては、表5に記載したものをそれぞれ使用した。結果を表5に示す。
【0079】
【表5】

【0080】
実施例1−3
(補強層を構成する樹脂組成物の調整)
製造例1で得られた不飽和ポリエステル(a)及び表6に記載の重合性単量体を用いて、下記のようにして補強層用樹脂組成物を得た。
製造例1に示す不飽和ポリエステル(a)を表6に記載の混合モノマーに80℃で溶解し、モノマー含有率40%の不飽和ポリエステル樹脂を得た。この不飽和ポリエステル樹脂(不飽和ポリエステル(a)60%、重合性単量体40%)85部、微粉末シリカ(日本アエロジール社製)1部、及び、表6に記載の混合モノマー14部をホモミキサーで混練し、よく分散させた。更にナフテン酸コバルト(コバルト濃度:6質量%)0.5部を配合し、よく混練した。その結果、25℃での粘度は4〜5ポイズ、揺変度は約2の積層用揺変性樹脂(補強層用樹脂組成物)が得られた。この樹脂のモノマー含有率は48.0%であった。
【0081】
(複合被覆体の形成)
500mm×500mmJAS規定の厚さ9mmの普通合板の上に、上記のようにして得た補強層用樹脂組成物100部に、カヤメックM(化薬アクゾ社製)1部を添加調整したもので、ガラスマット#380(CM−385FA;旭ファイバー社製)2プライで積層した(補強層)。そして、この樹脂組成物が乾燥後、実施例1−2で得た着色ゲルコート100部に、硬化剤(カヤメックM;化薬アクゾ社製)1部を添加し、刷毛で12g塗布し(仕上材層)、常温硬化後、2日常温で養生し試験片とした。
この試験片について、小型チャンバー法により、ガスクロマトグラフ質量分析装置にて試験片からの気中放散スチレンを測定した。具体的には、JIS A1901:2003(小型チャンバー法−建築材料の揮発性有機化合物(VOC)、ホルムアルデヒド及び他のカルボニル化合物放散測定法)の(附属書2(参考)小型チャンバーの例(20L))に記載されている手順に基づき、測定温度28℃、湿度50%、換気回数0.5回/hr、試料負荷率2.2m/mで測定を実施した。結果を表6に示す。
【0082】
実施例2−3〜6−3
表6に記載した重合性単量体(モノマー)及び仕上材層用樹脂組成物を用いた他は、実施例1−3と同様にして、試験片を得、気中放散スチレンを測定した。結果を表6に示す。
【0083】
実施例7−3
(補強層を構成する樹脂組成物の調整)
製造例4で得られた不飽和ポリエステル(d)及び表6に記載の重合性単量体を用いて、下記のようにして補強層用樹脂組成物を得た。
製造例4に示す不飽和ポリエステル(d)を表6に記載の混合モノマーに80℃で溶解し、モノマー含有率20%の不飽和ポリエステル樹脂を得た。この不飽和ポリエステル樹脂(不飽和ポリエステル(d)80%、重合性単量体20%)86部、微粉末シリカ(日本アエロジール社製)1部、及び、表6に記載の混合モノマー13部をホモミキサーで混練し、よく分散させた。更にナフテン酸コバルト(コバルト濃度:6質量%)0.5部を配合し、よく混練した。その結果、25℃での粘度は4〜5ポイズ、揺変度は約2の積層用揺変性樹脂(補強層用樹脂組成物)が得られた。この樹脂のモノマー含有率は30.2%であった。
(複合被覆体の形成)
得られた樹脂組成物について、実施例1−3と同様にして試験片を得、気中放散スチレンを測定した。結果を表6に示す。
【0084】
実施例8−3〜9−3
表6に記載した重合性単量体(モノマー)及び仕上材層用樹脂組成物を用いた他は、実施例7−3と同様にして、試験片を得、気中放散スチレンを測定した。結果を表6に示す。
【0085】
【表6】

【0086】
比較例1−3〜6−3
表7に記載した重合性単量体(モノマー)及び仕上材層用樹脂組成物を用いた他は、実施例1−3と同様にして、試験片を得、気中放散スチレンを測定した。結果を表7に示す。
【0087】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和ポリエステル30〜80質量%及び重合性単量体20〜70質量%からなる不飽和ポリエステル樹脂、並びに、該不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対してシリカ0.5〜10質量部及び金属石鹸0.01〜5質量部を含有する不飽和ポリエステル樹脂組成物であって、
該重合性単量体は、アルキル置換スチレン系単量体を全単量体成分100質量%に対して50質量%以上含んでなることを特徴とする不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記不飽和ポリエステルは、イソフタル酸及び/又はテレフタル酸を全酸成分100モル%に対して30モル%以上含む酸成分と、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA−アルキレンオキサイド付加物及び水素化ビスフェノールAのうち少なくとも1種を全グリコール成分及び/又はエポキシ化合物成分100モル%に対して30モル%以上含むグリコール成分及び/又はエポキシ化合物成分とを用いて得られるものであることを特徴とする請求項1に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記不飽和ポリエステル樹脂組成物は、更に着色剤を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
基体上に少なくとも補強層及び仕上材層をこの順で積層してなる複合被覆体であって、
該仕上材層は、請求項1〜3のいずれかに記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物により形成されることを特徴とする複合被覆体。
【請求項5】
前記補強層を構成する少なくとも一層は、不飽和ポリエステル40〜90質量%及び重合性単量体10〜60質量%からなる不飽和ポリエステル樹脂と、該不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して金属石鹸0.01〜5質量部とを含む不飽和ポリエステル樹脂組成物、並びに、補強繊維材を含有する成形材料により形成され、
該不飽和ポリエステルは、ジシクロペンタジエン骨格含有率が20質量%以上であり、
該重合性単量体は、アルキル置換スチレン系単量体を全単量体成分100質量%に対して50質量%以上含んでなり、
該補強繊維材は、成形材料100質量%に対して5〜60質量%であることを特徴とする請求項4に記載の複合被覆体。

【公開番号】特開2006−117884(P2006−117884A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−309984(P2004−309984)
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【出願人】(503090980)ジャパンコンポジット株式会社 (38)
【Fターム(参考)】