説明

両面粘着シート

【課題】水分散型アクリル系粘着剤組成物を用いてなる粘着剤層を備え、プラスチック基材に対する投錨性が改善された両面粘着シートを提供すること。
【解決手段】本発明により提供される粘着シート1は、プラスチック基材10と、その各面それぞれに設けられた粘着剤層14,15と、を備えた両面接着性の粘着シートである。粘着剤層14,15は、水系溶媒にアクリル系重合体が分散した水分散型粘着剤組成物から形成されたものである。基材10の少なくとも一方の面10Aと粘着剤層14との間には、有機溶剤に溶解したポリエステル−ポリウレタンを含有するアンカー組成物から形成されたアンカー層12が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分散型アクリル系粘着剤組成物から形成された粘着剤層をプラスチック基材上に備えた両面粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
基材を備えた両面接着性の粘着シート(両面粘着シート)は、作業性がよく接着の信頼性の高い接合手段として、家電製品から自動車、OA機器等の各種産業分野において広く利用されている。粘着成分としてはアクリル系重合体が好ましく用いられる。アクリル系粘着剤に関する技術文献として特許文献1および2が挙げられる。特許文献3は、被着体表面に予め塗布しておくことで該被着体に対する粘着シートの接着性を向上させるコーティング組成物に関する技術文献である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−023293号公報
【特許文献2】特開平7−133467号公報
【特許文献3】特開2000−109754号公報
【0004】
一方、環境への配慮や、粘着剤からの揮発性有機化合物類(Volatile Organic Compounds;VOCs)の放散量低減等の観点から、有機溶剤中に粘着成分を含む態様の粘着剤組成物(溶剤型粘着剤組成物)に代えて、粘着成分が水に分散した態様の水分散型(水性)粘着剤組成物の使用が好まれる傾向にある。したがって、水分散型の粘着剤組成物(以下「水分散型粘着剤層」ともいう。)から形成された粘着剤層を備え、かつ溶剤型の粘着剤組成物(以下「溶剤型粘着剤層」ともいう。)を用いた両面粘着シートに匹敵する、あるいはこれを上回る性能を実現し得る両面粘着シートが提供されれば有用である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、一般に、水分散型のアクリル系粘着剤組成物から形成された粘着剤層は、溶剤型粘着剤層に比べて、基材に対する投錨性(投錨力、密着性等)が弱い傾向にある。特に、プラスチック基材(典型的にはプラスチックフィルム)を用いた両面粘着シートは、紙基材等を用いた両面粘着シートに比べて投錨性が不足しやすい。このため、プラスチック基材上に水分散型粘着剤層が設けられた両面粘着シートは、該粘着シートが被着体の非平面形状部分(特に、内向きに湾曲した曲面、角部、端面等)に沿って貼り付けられた場合に、該被着体側の粘着剤層と基材とが分離する(投錨剥離する)態様で剥がれが生じてしまう場合があった。例えば、被着体の非平面形状に沿って弾性材料(ウレタンフォーム等の弾性発泡体シート、ゴムシート等)を固定する態様で上記両面粘着シートを使用する場合(すなわち、該両面粘着シートの一方の粘着面を弾性材料に、他方の粘着面を被着体の非平面形状部分に貼り付ける場合)等に、上記投錨剥離が起こりやすかった。
【0006】
プラスチック基材に対する粘着剤の投錨性を高める手法として、該基材の表面をコロナ放電処理等により改質する手法が知られている。しかし、本発明者の検討によれば、かかるコロナ放電処理等によっても十分な投錨性が実現され難い場合があった。
【0007】
本発明の目的は、水分散型アクリル系粘着剤組成物を用いてなる粘着剤層を備えながら、プラスチック基材に対する投錨性が改善された両面粘着シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、プラスチック基材と粘着剤層との間に所定の組成を有するアンカー層を介在させることにより、水分散型粘着剤層の投錨性を向上し得ることを見出して、本発明を完成した。
【0009】
ここに開示される一つの両面粘着シートは、プラスチック基材と、前記基材の各面それぞれに設けられた粘着剤層と、を備える。前記粘着剤層は、水系溶媒にアクリル系重合体が分散した水分散型粘着剤組成物から形成されたものである。前記基材の少なくとも一方の面と前記粘着剤層との間には、有機溶剤に溶解したポリエステル−ポリウレタンを含有するアンカー組成物から形成されたアンカー層が設けられている。かかる構成の両面粘着シートによると、上記アンカー層により、上記粘着剤層の基材への投錨性を大幅に改善することができる。また、水分散型粘着剤組成物から形成された粘着剤層を備えるので、水分散型粘着剤組成物から形成された粘着剤層を備える両面粘着シートに比べて環境への負荷を抑えることができる。前記アンカー層の厚さは、凡そ0.01μm以上3.00μm未満とすることが好ましい。
【0010】
ここに開示される技術の一態様では、前記アンカー組成物が、成分(A):エポキシ基、カルボキシル基、アミノ基およびアミド基から選択される一種または二種以上の官能基を一分子当たり合計2つ以上有する架橋性化合物;を含有する。かかる組成のアンカー層によると、より良好な投錨性向上効果が実現され得る。
【0011】
ここに開示される技術の他の一態様では、前記アンカー組成物が、成分(B):塩素化ポリエチレンおよび塩素化ポリプロピレンの少なくとも一方;を含有する。かかる組成のアンカー層によると、より良好な投錨性向上効果が実現され得る。
【0012】
ここに開示される技術の他の一態様では、前記アンカー組成物が、成分(C);ポリクロロプレン;を含有する。かかる組成のアンカー層によると、より良好な投錨性向上効果が実現され得る。
【0013】
好ましい一態様では、前記アンカー組成物が、上記ポリエステル−ポリウレタンに加えて、上述した成分(A)〜(C)のうち少なくとも二成分(例えば、成分(A)と(B)、成分(B)と(C)、あるいは成分(A)と(C))を含有する。かかる組成のアンカー層によると、より優れた投錨性向上効果が実現され得る。例えば、ポリエステル−ポリウレタン、成分(A)、成分(B)および成分(C)の全てを含有するアンカー組成物を好ましく採用し得る。
【0014】
ここに開示される技術は、上記基材としてプラスチックフィルムを用いた両面粘着シートに好ましく適用され得る。例えば、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリフェニレンサルファイドまたはポリイミドを主成分とするポリマー材料からなる表面を有するプラスチックフィルムを好ましく採用し得る。このようなプラスチックフィルムは、不織布等の多孔質基材に比べて、基材と粘着剤との物理的な絡み合いに基づく投錨性が発揮され難い。したがって、本発明を適用して投錨性を向上させることが特に有意義である。
【0015】
この明細書によると、また、両面粘着シートの製造方法が提供される。その製造方法は、基材としてのプラスチックフィルムを用意することを包含する。また、有機溶剤に溶解したポリエステル−ポリウレタンを含有するアンカー組成物を前記基材の少なくとも一方の面に付与して、該基材上にアンカー層(典型的には、厚さ0.01μm以上3.00μm未満のアンカー層)を形成することを包含する。また、前記アンカー層が形成された基材の各面それぞれに、水系溶媒にアクリル系重合体が分散した水分散型粘着剤組成物から形成された粘着剤層を設けることを包含する。かかる方法により製造された両面粘着シートは、上記粘着剤層の基材に対する投錨性が大幅に改善されたものとなり得る。また、水分散型粘着剤組成物を用いて粘着剤層を形成するので、環境への負荷が少なく好ましい。上記製造方法は、ここに開示されるいずれかの両面粘着シートを製造する方法として好適である。
【0016】
上記製造方法に用いるアンカー組成物としては、上述した成分(A)〜(C)のうち少なくとも一つを含有するものを好ましく採用し得る。これらのうち二成分(例えば、成分(A)と(B)、成分(B)と(C)、あるいは成分(A)と(C))を含有する組成物であってもよく、成分(A)、(B)および(C)の全てを含有する組成物であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る粘着シートの一構成例を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明に係る粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0019】
<全体構成>
ここに開示される両面粘着シートの一構成例を図1に示す。この粘着シート1は、プラスチック基材10の第一面10Aおよび第二面10Bにそれぞれアンカー層12,13が設けられ、各アンカー層12,13の上に更に粘着剤層14,15が設けられた両面接着性の態様をなしている。粘着剤層14の表面(粘着面)14Aは、両面が剥離面(粘着剤層から剥離可能な表面)16A,16Bとなっている剥離ライナー16により保護されており、これを捲回すると粘着剤層15の表面(粘着面)15Aもまた剥離ライナー16により保護されるようになっている。
【0020】
ここに開示される両面粘着シートの他の一構成例を図2に示す。この粘着シート2では、プラスチック基材10の第一面10Aにアンカー層12が設けられ、その上に粘着剤層14が設けられている。一方、プラスチック基材10の第二面10Bにはアンカー層が設けられておらず、この第二面10B上に粘着剤層15が直接設けられている。両粘着面14A,15Aが剥離ライナー16の剥離面16A,16Bにより保護されている点は粘着シーと1と同様である。あるいは、プラスチック基材10の第一面10Aには直接(アンカー層を介することなく)粘着剤層14が設けられ、第二面10Bにはアンカー層を介して粘着剤層15が設けられた構成としてもよい。
【0021】
図1に示される粘着シート1において、アンカー層12,13の組成、厚さ、形成方法等は、同一であってもよく、異なってもよい。図1,2に示される粘着シート1,2において、粘着剤層14,15の組成、厚さ、形成方法等は、同一であってもよく、異なってもよい。また、図1,2に示される粘着シート1,2において、基材10の第一面10Aおよび第二面10Bの一方または両方は、未処理のままであってもよく、該面上にアンカー層または粘着剤層を形成する前に適切な表面改質処理が施されていてもよい。図1,2に示される粘着シート1,2の変形例として、両粘着面14A,15Aが別々の(二枚の)剥離ライナーにより保護された構成が挙げられる。この場合、各粘着面14A,15Aを保護する剥離ライナーは、粘着面に当接する側のみが剥離面となっていてもよく、両面が剥離面となっていてもよい。
【0022】
<プラスチック基材>
ここに開示される技術におけるプラスチック基材としては、該基材の少なくとも表面部分がポリマー材料により形成されたフィルム、発泡体シート、不織布、織布等であり得る。上記ポリマー材料は、例えば、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等)、ポリオレフィン(ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−プロピレン共重合体等)、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、芳香族ポリエーテルケトン(ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等)、ポリアミド(ナイロン、アラミド等)、ポリアセテート、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリ塩化ビニル、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン等)、セロハン、ビニロン、ポリビニルアルコール、アクリル系樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、各種ゴム類、等のポリマーの一種または二種以上を含む(典型的には、上記ポリマーを主成分、すなわち50質量%以上を占める成分として含む)材料であり得る。基材の全体が上記ポリマー材料により構成されていてもよい。
【0023】
好ましい一態様では、上記基材がプラスチックフィルムである。該プラスチックフィルムは、上述のようなポリマー材料の一種または二種以上を含む単層のフィルム(例えばポリエステルフィルム)であってもよく、異なる材料からなる複数の層を含む多層フィルムであってもよい。かかるプラスチックフィルムは、無延伸であってもよく、延伸(一軸延伸、二軸延伸等)されていてもよい。少なくとも表面部分がポリエステル、ポリオレフィン、ポリフェニレンサルファイドまたはポリイミドを主成分とするポリマー材料により構成された単層または多層のプラスチックフィルムを好ましく採用し得る。
【0024】
寸法安定性、経済性(コスト)、加工性、引張強度等の観点から好ましく採用し得るプラスチック基材として、ポリエステルフィルムが例示される。ポリエステルフィルムとしては、ポリエステルを主成分とするポリマー材料をフィルム状に成形してなる種々のフィルムを使用することができる。ここでポリエステルとは、多価カルボン酸と多価アルコール(典型的には、ジカルボン酸とジオール)との重縮合体をいう。好ましく使用されるポリエステルとして、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート等が例示される。なかでもPETフィルムの使用が好ましい。
【0025】
基材の厚さは特に制限されず、該基材の種類(材質、形態等)や粘着シートの用途等に応じて適宜選択し得る。例えば、厚さ1μm〜5mm(典型的には1μm〜1mm)程度の基材を採用することができる。プラスチックフィルム基材の場合には、通常、該基材の厚さを1μm〜300μm程度とすることが適当であり、好ましくは1μm〜250μm(より好ましくは1μm〜100μm、例えば5μm〜50μm)程度である。基材の厚みが小さすぎると、該基材の強度が低すぎて、両面粘着シートの取扱性が低下傾向となることがある(例えば、貼付時や再剥離時に破れや千切れが生じやすくなる等)。上記基材の厚みが大きすぎると、曲面に貼り付けられる場合に、該曲面への追従性(曲面追従性)が低下して剥がれやすくなる場合がある。
【0026】
かかる基材の表面には、アンカー層または粘着剤層を形成する前に適切な表面改質処理が施されていてもよく、あるいは未処理のままであってもよい。上記表面改質処理は、アンカー層の基材への投錨性、または粘着剤層の基材への投錨性を向上させる処理であり得る。かかる表面改質処理の好適例として、コロナ放電処理、プラズマ処理およびイトロ処理が挙げられる。ここでイトロ処理とは、燃焼化学蒸着(combustion chemical vapor deposition:CCVD)により基材表面にナノレベルの酸化ケイ素膜を形成する表面改質処理一般を指す。基材の両面(第一面および第二面の両方)にアンカー層を有する構成では、該基材の両面に同一のまたは異なる表面改質処理(該処理の種類または程度の少なくとも一方が異なることをいう。)が施されていてもよく、一方の面のみに表面改質処理が施されていてもよい。基材の一方の面のみにアンカー層を有する構成では、該基材の両面に同一のまたは異なる表面改質処理が施されていてもよく、アンカー層が形成される面のみに表面改質処理が施されていてもよく、アンカー層が形成されない面(すなわち、基材上に直接粘着剤層が形成される面)のみに表面改質処理が施されていてもよい。また、本発明の効果を大きく損なわない範囲において、上記基材の片面または両面に、印刷もしくは着色等が施されていてもよい。
【0027】
<アンカー層>
上記基材の少なくとも一方の面にはアンカー層が設けられている。このアンカー層は、少なくともポリエステル−ポリウレタンを含有する。ここでいう「ポリエステル−ポリウレタンを含有するアンカー層」の概念には、ポリエステルとポリウレタンとのブレンド物を含むアンカー層;ポリエステルポリウレタン(すなわち、エステル結合とウレタン結合とを含むポリマー、例えばポリエステルと多価イソシアネート化合物との反応等により得られるポリエステルポリウレタン)を含むアンカー層;かかるポリエステルポリウレタンに加えて、ポリエステルおよびポリウレタンの一方または両方を含むアンカー層;等が包含される。アンカー層におけるポリエステル−ポリウレタンの含有量は、例えば、該アンカー層全体の15〜85質量%であり得る。ポリエステル−ポリウレタンの含有量が多すぎると、アンカー層の強度が不足して該アンカー層自体が凝集破壊を起こしやすくなることがあり得る。また、粘着剤層との密着性が不足して、粘着シートが粘着剤層とアンカー層との間で剥がれやすくなることがあり得る。一方、ポリエステル−ポリウレタンの含有量が少なすぎると、アンカー層の弾性率が高くなりすぎること等により、粘着シートを変形させた場合に該変形にアンカー層が追従し難くなって、基材からアンカー層が剥がれやすくなることがあり得る。
【0028】
上記ポリエステルまたはポリエステルポリウレタンを構成する多価カルボン酸は、一般にポリエステルの合成に使用し得るものとして知られている各種の多価カルボン酸およびその誘導体から選択される一種または二種以上であり得る。好適例として、脂肪族または脂環式の二塩基酸およびその誘導体(以下、「脂肪族または脂環式ジカルボン酸類」ということもある。)が挙げられる。具体例としては、アジピン酸、アゼライン酸、ダイマー酸(不飽和脂肪酸が二量体化した構造のジカルボン酸をいい、代表例として、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の炭素原子数18の不飽和脂肪酸が二量体化した構造を有するジカルボン酸が挙げられる。)、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、ドデセニル無水コハク酸、フマル酸、コハク酸、ドデカン二酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸等、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等が挙げられる。好ましい一例としてアジピン酸が挙げられる。
【0029】
多価カルボン酸の他の例として、芳香族二塩基酸およびその誘導体(無水物、アルキルエステル等。以下、「芳香族ジカルボン酸類」ということもある。)が挙げられる。芳香族二塩基酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボンル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,2’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸等が挙げられる。
【0030】
上記ポリエステルまたはポリエステルポリウレタンを構成する多価アルコールは、一般にポリエステルの合成に使用し得るものとして知られている各種の多価アルコールから選択される一種または二種以上であり得る。好適例として、脂肪族または脂環式のジオール類が挙げられる。具体例としては、エチレングリコ−ル、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオ−ル、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオ−ル、1,6−ヘキサンジオ−ル、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2,2,4−トリメチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−2−ブチルプロパンジオール、1,9−ノナンジオール、2−メチルオクタンジオール、1,10−デカンジオール等が挙げられる。好ましい一例として、1,6−ヘキサンジオ−ルが挙げられる。ここに開示されるアンカー層の一好適例として、アジピン酸と1,6−ヘキサンジオ−ルとの重縮合によるポリエステル構造部分を含むポリエステル−ポリウレタンを含むアンカー層が挙げられる。
【0031】
アンカー層においてウレタン結合を形成するイソシアネート基は、各種の多価イソシアネート化合物に由来するものであり得る。上記多価イソシアネート化合物は、一般にポリウレタンまたはポリエステルポリウレタンの合成に使用し得るものとして知られている各種の化合物から選択される一種または二種以上であり得る。例えば、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート;イソホロンジイソシアネート等の脂環族イソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート;等が挙げられる。より具体的には:ブチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の低級脂肪族ポリイソシアネート類;シクロペンチレンジイソシアネート、シクロへキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環族イソシアネート類;2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート類;トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート3量体付加物、トリメチロールプロパン/ヘキサメチレンジイソシアネート3量体付加物、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体等のイソシアネート付加物;等を例示することができる。一好適例として、2,4−トリレンジイソシアネートおよび2,6−トリレンジイソシアネートが挙げられる。これらを任意の割合で含む混合物(例えば、2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートとを70:30〜90:10の質量比で含む混合物)であってもよい。
【0032】
なお、アンカー層がポリエステル−ポリウレタンを含有することは、例えば、ATR(attenuated total reflection)法によるFT−IR分析(フーリエ変換赤外分光分析)において、ウレタン結合およびエステル結合に帰属されるピークが観測されることにより把握され得る。また、上記アンカー層をメタノールに浸漬して加熱処理した分解生成物について、13C−NMR、H−NMR、およびFT−IR分析の一種または二種以上(好ましい一態様では、これら三種の全部)を行うことによっても把握され得る。
【0033】
ここに開示される技術におけるアンカー層は、典型的には、上記ポリエステル−ポリウレタンが有機溶剤に溶解したアンカー組成物を用いて形成される。有機溶剤としては、ポリエステル−ポリウレタンおよび必要に応じて用いられる他の成分をよく溶解するものを適宜採用することができる。例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素;n−ヘキサン、n−オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族または脂環族炭化水素;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等の鎖状または環状ケトン;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル等のアルコール;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の鎖状または環状エーテル;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル;等を用いることができる。このような有機溶媒は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。好ましい一態様では、上記アンカー組成物に含まれる有機溶媒のうち50質量%以上(例えば60質量%以上)が芳香族炭化水素(例えばトルエン)である。かかる組成のアンカー組成物によると、より透明性に優れたアンカー層が形成され得る。また、より高い投錨性向上効果が発揮され得る。例えば、後述する投錨性評価において、より高い投錨力を示す両面粘着シートが実現され得る。
【0034】
好ましい一態様では、上記アンカー組成物(ひいては、該組成物から形成されるアンカー層)が変性ポリオレフィン(変性ポリエチレン、変性ポリプロピレン等)を含有する。変性ポリオレフィンの代表例として、塩素化ポリオレフィンが挙げられる。酸でグラフト変性されたポリオレフィン鎖を含む塩素化ポリオレフィン(すなわち、酸変性タイプの塩素化ポリオレフィン)であってもよく、かかる酸変性がなされていない(未変性タイプの)塩素化ポリオレフィンであってもよい。塩素化に供するオレフィン系ポリマー(原料)は、典型的には炭素数2〜10程度のα−オレフィンを主モノマーとするオレフィン系ポリマーである。かかるα−オレフィンの単独重合体(ホモポリエチレン、ホモポリプロピレン等)であってもよく、二種以上のα−オレフィンの共重合体(エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体等)であってもよく、一種または二種以上のα−オレフィンと他のモノマーとの共重合体であってもよい。上記アンカー層は、このような変性ポリオレフィンの一種を単独で含有するものであってもよく、二種以上を適宜組み合わせて含有するものであってもよい。好ましい塩素化ポリオレフィンとして、エチレンを主モノマーとするオレフィン系ポリマーに基づく塩素化ポリエチレン、および、プロピレンを主モノマーとするオレフィン系ポリマーに基づく塩素化ポリプロピレンが挙げられる。例えば、塩素化PEおよび塩素化PPの一方または両方を含むアンカー組成物を好ましく採用し得る。アンカー層が変性ポリオレフィンを含む(典型的には、塩素化PEおよび塩素化PPの一方または両方を含む)場合、該変性ポリオレフィンの含有量は、例えば、該アンカー層全体の15〜85質量%であり得る。変性ポリオレフィンの含有量が多すぎると、アンカー層の弾性率が高くなりすぎること等により、粘着シートを変形させた場合に該変形にアンカー層が追従し難くなって、基材からアンカー層が剥がれやすくなることがあり得る。一方、変性ポリオレフィンの含有量が少なすぎると、粘着剤層との密着性が不足して、粘着シートが粘着剤層とアンカー層との間で剥がれやすくなることがあり得る。
【0035】
上記アンカー組成物(ひいては、該組成物から形成されるアンカー層)は、ポリエステル−ポリウレタンおよび変性ポリオレフィン以外のポリマー成分を含有してもよい。かかるポリマー成分としては、ゴムまたはエラストマーの性質をもつポリマーを好ましく採用することができる。例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリルゴム、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリクロロプレン(CR;クロロプレンゴムともいう。)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPM,EPDM)、ポリイソブチレン、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(NBR)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、ポリビニルアルキルエーテル(例えば、ポリビニルイソブチルエーテル)、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。これらのうち一種を単独で用いてもよく、二種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。例えば、ポリクロロプレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、および塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体から選択される一種または二種以上を含むアンカー組成物が好ましい。なかでも好ましいポリマー成分として、ポリクロロプレンが例示される。他の好ましいポリマー成分として、ポリクロロプレンと塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体との組み合わせが例示される。アンカー層がポリエステル−ポリウレタンおよび変性ポリオレフィン以外のポリマー成分を含有する場合、該ポリマー成分の含有量は、例えば、該アンカー層全体の20質量%以下(典型的には0.1〜20質量%、例えば1〜10質量%)とすることができる。
【0036】
好ましい一態様では、上記アンカー組成物が架橋性化合物を含有する。かかる架橋性化合物は、例えば、エポキシ基、カルボキシル基、イソシアネート基、水酸基、アミノ基、アミド基、およびカルボジイミド基から選択される一種または二種以上の官能基を一分子当たり合計2つ以上有する化合物であり得る。かかる架橋性化合物の具体例としては、三菱ガス化学株式会社製の商品名「TETRAD−C」、同「TETRAD−X」、三菱化学株式会社製の商品名「jER878」、同「jER1256」、同「jER152」、日本ポリウレタン工業株式会社製の商品名「コロネートL」、「同コロネートHX」、同「コロネートHL」、宇部興産社製の1,6−ヘキサンジオール、日清紡ケミカル株式会社製の商品名「カルボジライトV−01」等が挙げられる。このような架橋性化合物は、一種を単独で、あるいは二種以上を適宜組み合わせて用いることができる。なかでも、一分子中に2つ以上のエポキシ基を有する架橋性化合物の使用が好ましい。かかる架橋性化合物の一好適例として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が挙げられる。アンカー組成物が架橋性化合物を含有する場合、その含有量は、例えば、該アンカー層全体の凡そ15質量%以下とすることができる。
【0037】
ここに開示される技術におけるアンカー組成物の一好適例として、ポリエステル−ポリウレタンに加えて以下の成分:エポキシ基、カルボキシル基、アミノ基およびアミド基から選択される一種または二種以上の官能基を一分子当たり合計2つ以上有する架橋性化合物(成分(A));塩素化ポリエチレンおよび塩素化ポリプロピレンの少なくとも一方(成分(B));および、ポリクロロプレン(成分(C));少なくとも一成分(好ましくは二成分以上)を含むアンカー組成物が挙げられる。例えば、ポリエステル−ポリウレタンに加えて、成分(A)、(B)および(C)の全てを含むアンカー組成物を好ましく採用することができる。
【0038】
なお、上記アンカー組成物には、本発明の効果を顕著に損なわない限度において、界面活性剤、増粘剤、安定剤、消泡剤、着色料(顔料、染料等)等の各種添加剤等を必要に応じて含有させることができる。
【0039】
このようなアンカー組成物は、例えば、ロード・ファー・イースト・インコーポレイテッド社から入手可能な化成品、商品名「RC−1023」を利用して調製することができる。例えば、上記「RC−1023」に有機溶媒を加えて適切な固形分濃度(例えば、固形分濃度0.05〜5質量%程度)に希釈したものを、ここに開示される技術におけるアンカー組成物として好ましく採用することができる。上記希釈に使用し得る有機溶剤の好適例としては、芳香族炭化水素(例えばトルエン)、鎖状または環状ケトン(例えばメチルエチルケトン)、これらの混合溶媒、等が挙げられる。
【0040】
かかるアンカー組成物からアンカー層を形成する方法としては、該組成物を上記基材に直接付与(典型的には塗布)して乾燥させる方法を好ましく採用することができる。アンカー組成物の基材への塗布は、マイヤーバー(Meyer bar)、スプレーコーター、ファウンテンダイコーター、リップコーター、クローズドエッジダイコーター、グラビヤロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター等の、公知または慣用のアプリケータを用いて行うことができる。
【0041】
アンカー層の厚さ(乾燥後の厚さ、すなわち乾燥膜厚)は、通常は凡そ0.01μm以上3.00μm未満とすることが適当であり、凡そ0.05μm以上2.00μm未満(例えば凡そ0.10μm以上1.00μm未満)とすることが好ましい。アンカー層の厚さが小さすぎると、十分な投錨性向上効果が実現され難くなることがある。一方、アンカー層の厚さが大きすぎる場合にも、粘着剤層の基材に対する投錨性が低下することがある。これは、アンカー層の厚さが大きすぎると、両面粘着シートを変形させた場合に該変形にアンカー層が追従し難くなり(例えば、該アンカー層に亀裂が入り)、基材からアンカー層が剥がれやすくなること等によるものと考えられる。また、アンカー組成物は有機溶剤を含むため、該有機溶剤の使用量や粘着シートからのVOCs放散量を低減するという観点からも、アンカー層の厚さを過剰に大きくすることは避けることが望ましい。
なお、アンカー層の厚さは、粘着シートの断面を透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察することにより把握することができる。例えば、アンカー層を明瞭にする目的で重金属染色(例えばルテニウム酸染色)処理を行った後、樹脂包埋を行い、超薄切片法により作製した試料断面のTEM観察を行って得られる結果を、ここに開示される技術におけるアンカー層の厚さとして好ましく採用することができる。TEMとしては、日立社製の透過電子顕微鏡、型式「H−7650」等を用いることができる。
【0042】
アンカー組成物の固形分濃度(すなわち、アンカー組成物のうちアンカー層形成成分の量)は、例えば0.01〜10質量%程度とすることができ、通常は0.05〜5質量%程度とすることが適当である。この固形分濃度が高すぎると、薄く均一なアンカー層が形成され難くなることがあり得る。また、有機溶剤の使用量や粘着シートからのVOCs放散量を低減するという観点からは、アンカー組成物の固形分濃度を過剰に小さくすることは避けることが望ましい。
【0043】
<粘着剤層>
ここに開示される技術において、上記粘着剤層を形成するための水分散型粘着剤組成物は、水系溶媒に分散したアクリル系重合体(水分散型アクリル系重合体)を含む。この水分散型アクリル系重合体は、アクリル系重合体が水に分散しているエマルション形態のアクリル系重合体組成物である。ここに開示される技術の典型的な態様において、上記アクリル系重合体は、粘着剤層を構成する粘着剤のベースポリマー(粘着剤の基本成分)として用いられる。例えば、該粘着剤の50質量%以上が上記アクリル系重合体であることが好ましい。かかるアクリル系重合体としては、アルキル(メタ)アクリレートを主モノマー(モノマー成分のうちの主成分、すなわちアクリル系重合体を構成するモノマーの総量のうち50質量%以上を占める成分)とするものを好ましく採用し得る。
【0044】
なお、本明細書中において「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートを包括的に指す意味である。同様に、「(メタ)アクリロイル」はアクリロイルおよびメタアクリロイルを、「(メタ)アクリル」はアクリルおよびメタクリルを、それぞれ包括的に指す意味である。
【0045】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、下記式(1)で表される化合物を好適に用いることができる。
CH=C(R)COOR (1)
ここで、上記式(1)中のRは水素原子またはメチル基である。また、Rは炭素原子数1〜14(好ましくは炭素原子数1〜10)のアルキル基である。
【0046】
かかるアルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、s−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ネオペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。特に好ましい例として、n−ブチルアクリレート(BA)および2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)が例示される。
【0047】
これらアルキル(メタ)アクリレートは、一種を単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。例えば、上記アクリル系重合体を構成するアルキル(メタ)アクリレートが、ブチルアクリレート(BA)単独であってもよく、2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)単独であってもよく、BAと2EHAとの二種であってもよい。アルキル(メタ)アクリレートとしてBAおよび2EHAを組み合わせて用いる場合、それらの使用比率は特に制限されない。例えば、BAと2EHAの合計量のうち45質量%以上100質量%未満(例えば、40質量%〜95質量%)がBAであり、残部が2EHAである組成を好ましく採用することができる。
【0048】
アクリル系重合体を構成するモノマー成分としては、アルキル(メタ)アクリレートが主成分となる範囲で、アルキル(メタ)アクリレートと共重合可能な他のモノマー(「共重合性モノマー成分」と称する場合がある。)が用いられていてもよい。アクリル系重合体を構成するモノマー成分の総量に対するアルキル(メタ)アクリレートの割合は、凡そ80質量%以上(典型的には80〜99.8質量%)とすることができ、好ましくは85質量%以上(例えば85〜99.5質量%)である。アルキル(メタ)アクリレートの割合が90質量以上(例えば90〜99質量%)であってもよい。
【0049】
上記共重合性モノマー成分は、アクリル系重合体に架橋点を導入したり、アクリル系重合体の凝集力を高めたりするために役立ち得る。かかる共重合性モノマーは、単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
より具体的には、アクリル系重合体に架橋点を導入するための共重合性モノマー成分として、各種の官能基含有モノマー成分(典型的には、熱により架橋する架橋点をアクリル系重合体に導入するための、熱架橋性官能基含有モノマー成分)を用いることができる。かかる官能基含有モノマー成分を用いることにより、被着体に対する接着力を向上させ得る。このような官能基含有モノマー成分は、アルキル(メタ)アクリレートと共重合可能であり、且つ架橋点となる官能基を提供し得るモノマー成分であればよく、特に制限されない。例えば、以下のような官能基含有モノマー成分を、単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
カルボキシル基含有モノマー:例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の、エチレン性不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等の、エチレン性不飽和ジカルボン酸およびその無水物(無水マレイン酸、無水イコタン酸等)。
水酸基含有モノマー:例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;ビニルアルコール、アリルアルコール等の、不飽和アルコール類。
【0052】
アミド基含有モノマー:例えば、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メチロールプロパン(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド。
アミノ基含有モノマー:例えば、アミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート。
【0053】
エポキシ基を有するモノマー:例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル。
シアノ基含有モノマー:例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル。
ケト基含有モノマー:例えば、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリレート、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、アリルアセトアセテート、ビニルアセトアセテート。
【0054】
窒素原子含有環を有するモノマー:例えば、N−ビニル−2−ピロリドン、N−メチルビニルピロリドン、N−ビニルピリジン、N−ビニルピペリドン、N−ビニルピリミジン、N−ビニルピペラジン、N−ビニルピラジン、N−ビニルピロール、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルオキサゾール、N−ビニルモルホリン、N−ビニルカプロラクタム、N−(メタ)アクリロイルモルホリン。
【0055】
アルコキシシリル基含有モノマー:例えば、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン。
【0056】
上記官能基含有モノマー成分は、例えば、アルキル(メタ)アクリレート100質量部に対して凡そ12質量部以下(例えば凡そ0.5〜12質量部、好ましくは凡そ1〜8質量部)の範囲で用いることが好ましい。官能基含有モノマー成分の使用量が多すぎると、凝集力が高くなりすぎて粘着特性(例えば接着力)が低下傾向となることがあり得る。
【0057】
好ましい一態様では、上記官能基含有モノマー成分として、少なくともカルボキシル基含有モノマーから選択される一種または二種以上を使用する。かかるカルボキシル基含有モノマーの使用量は、アルキル(メタ)アクリレート100質量部に対して、例えば0.5〜10質量部とすることができ、通常は1〜8質量部(例えば2〜6質量部)とすることが適当である。官能基含有モノマー成分の実質的に全部がカルボキシル基含有モノマーであってもよい。なかでも好ましいカルボキシル基含有モノマーとして、アクリル酸およびメタクリル酸が例示される。これらの一方を単独で用いてもよく、アクリル酸とメタクリル酸とを任意の割合で組み合わせて用いてもよい。
【0058】
好ましい他の一態様では、上記官能基含有モノマー成分として、少なくともアルコキシシリル基含有モノマーを使用する。かかるアルコキシシリル基含有モノマーの使用量は、アルキル(メタ)アクリレート100質量部に対して、例えば0.005〜0.5質量部とすることができ、通常は0.01〜0.2質量部(例えば0.02〜0.1質量部)とすることが適当である。官能基含有モノマー成分の実質的に全部がカルボキシル基含有モノマーおよびアルコキシシリル基含有モノマーであってもよい。
【0059】
また、アクリル系ポリマーの凝集力を高めるために、上述した官能基含有モノマー以外の他の共重合成分を用いることができる。かかる共重合成分としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の、ビニルエステル系モノマー;スチレン、置換スチレン(α−メチルスチレン等)、ビニルトルエン等の、芳香族ビニル化合物;シクロアルキル(メタ)アクリレート[シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロペンチルジ(メタ)アクリレート等]、イソボルニル(メタ)アクリレート等の、非芳香族性環含有(メタ)アクリレート;アリール(メタ)アクリレート[例えばフェニル(メタ)アクリレート]、アリールオキシアルキル(メタ)アクリレート[例えばフェノキシエチル(メタ)アクリレート]、アリールアルキル(メタ)アクリレート[例えばベンジル(メタ)アクリレート]等の、芳香族性環含有(メタ)アクリレート;エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、イソブチレン等の、オレフィン系モノマー;塩化ビニル、塩化ビニリデン等の塩素含有モノマー;2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート等の、イソシアネート基含有モノマー;メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート等の、アルコキシ基含有モノマー;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等の、ビニルエーテル系モノマー;等が挙げられる。
【0060】
共重合性モノマー成分の他の例として、一分子内に複数の官能基を有するモノマーが挙げられる。かかる多官能モノマーの例として、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート、ジビニルベンゼン、ブチルジ(メタ)アクリレート、ヘキシルジ(メタ)アクリレート、等が挙げられる。
【0061】
このようなモノマーを重合させて水分散型アクリル系重合体を得る方法としては、公知または慣用の重合方法を採用することができ、エマルション重合法を好ましく用いることができる。エマルション重合を行う際のモノマー供給方法としては、モノマーの全量を一度に供給する一括仕込み方式、連続供給(滴下)方式、分割供給(滴下)方式等を適宜採用することができる。モノマーの一部または全部(典型的には全部)をあらかじめ水(典型的には、水とともに適当量の乳化剤が使用される。)と混合して乳化し、その乳化液(モノマーエマルション)を反応容器内に一括、連続あるいは分割して供給してもよい。重合温度は、使用するモノマーの種類、重合開始剤の種類等に応じて適宜選択することができ、例えば20℃〜100℃(典型的には40℃〜80℃)程度とすることができる。
【0062】
重合時に用いる重合開始剤としては、重合方法の種類に応じて、公知乃至慣用の重合開始剤から適宜選択することができる。例えば、エマルション重合法において、アゾ系重合開始剤を好ましく使用し得る。アゾ系重合開始剤の具体例としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス(N,N’−ジメチレンイソブチルアミジン)、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]ハイドレート、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等が挙げられる。
【0063】
重合開始剤の他の例としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、過酸化水素等の、過酸化物系開始剤;フェニル置換エタン等の、置換エタン系開始剤;芳香族カルボニル化合物;等が挙げられる。重合開始剤のさらに他の例として、過酸化物と還元剤との組み合わせによるレドックス系開始剤が挙げられる。かかるレドックス系開始剤の例としては、過酸化物とアスコルビン酸との組み合わせ(過酸化水素水とアスコルビン酸との組み合わせ等)、過酸化物と鉄(II)塩との組み合わせ(過酸化水素水と鉄(II)塩との組み合わせ等)、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとの組み合わせ、等が挙げられる。
【0064】
このような重合開始剤は、単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。重合開始剤の使用量は、通常の使用量であればよく、例えば、モノマー成分100質量部に対して0.005〜1質量部(典型的には0.01〜1質量部)程度の範囲から選択することができる。
【0065】
エマルション重合を行う際に使用する乳化剤は、アニオン系乳化剤およびノニオン系乳化剤のいずれであってもよい。アニオン系乳化剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等が挙げられる。ノニオン系乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等が挙げられる。このような乳化剤は、一種を単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。乳化剤の使用量は、全モノマー成分100質量部に対して、例えば0.2〜10質量部(より好ましくは0.5〜5質量部)程度とすることができる。
【0066】
また、上記エマルション重合を行う際は、該重合により生成するアクリル系重合体の分子量を調整するために、連鎖移動剤を使用してもよい。連鎖移動剤としては、例えば、n−ラウリルメルカプタン、ターシャリーラウリルメルカプタン、メルカプト酢酸、2−メルカプトエタノール、チオグリコール酸2−エチルへキシル、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール等のメルカプタン類を好ましく用いることができる。かかる連鎖移動剤は、一種を単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。連鎖移動剤の配合割合は、モノマー成分100質量部に対して、例えば、凡そ0.001〜0.5質量部程度とすることができる。
【0067】
かかるエマルション重合によると、アクリル系重合体が水に分散したエマルション形態の重合反応液が得られる。ここに開示される技術における水分散型アクリル系重合体としては、上記重合反応液または該反応液に適当な後処理を施したものを好ましく用いることができる。あるいは、エマルション重合方法以外の重合方法(例えば、溶液重合、光重合、バルク重合等)を利用してアクリル系重合体を合成し、該重合体を水に分散させて調製された水分散型アクリル系重合体を用いてもよい。
【0068】
ここに開示される技術における粘着剤組成物は、水分散型アクリル系重合体に加えて、さらに粘着付与剤を含有し得る。粘着付与剤としては、特に制限されないが、例えば、ロジン系、テルペン系、炭化水素系、エポキシ系、ポリアミド系、エラストマー系、フェノール系、ケトン系等、の各種粘着付与剤を用いることができる。このような粘着付与剤は、一種を単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。かかる粘着付与剤は、該粘着付与剤を水に分散させたエマルションの形態で好ましく使用され得る。
【0069】
上記粘着付与剤の一好適例として、安定化ロジンエステル樹脂が挙げられる。かかるロジンエステル樹脂としては、例えば、原料となるロジンに不均化や水素添加等の安定化処理および精製処理を施して安定化し、更にアルコールによりエステル化させることにより得られるロジンエステルを用いることができる。かかる安定化ロジンエステル樹脂を含む水分散型粘着付与剤の市販品としては、例えば、荒川化学株式会社製の商品名「スーパーエステルE−720」、「スーパーエステルE−730−55」、ハリマ化成株式会社性の商品名「ハリエスターSK−90D」、「ハリエスターSK−70D」、「ハリエスターSK−70E」、「ネオトール115E」等が挙げられる。
【0070】
上記粘着付与剤の他の好適例として、α−ピネン重合体、β−ピネン重合体、ジテルペン重合体等のテルペン系樹脂をフェノール変性したテルペン−フェノール系樹脂が挙げられる。好ましく使用され得るテルペン−フェノール系粘着付与剤(水性エマルションの形態であり得る。)の市販品としては、荒川化学工業株式会社製の商品名「タマノルE−100」、「タマノルE−200」、「タマノルE−200NT」等が挙げられる。
【0071】
粘着付与剤の使用量は特に制限されず、目的とする粘着性能(接着力等)に応じて適宜設定することができる。例えば、固形分基準で、アクリル系重合体100質量部に対して、粘着付与剤を凡そ5〜100質量部(より好ましくは10〜60質量部、さらに好ましくは15〜40質量部)の割合で使用することが好ましい。
【0072】
上記水分散型粘着剤組成物には、必要に応じて架橋剤を含有させることができる。架橋剤の種類は特に制限されず、公知または慣用の架橋剤(例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、メラミン系架橋剤、過酸化物系架橋剤、尿素系架橋剤、金属アルコキシド系架橋剤、金属キレート系架橋剤、金属塩系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、アミン系架橋剤等)から適宜選択して用いることができる。ここで使用する架橋剤としては、油溶性および水溶性のいずれも使用可能である。架橋剤は、単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。架橋剤の使用量は特に制限されず、例えば、アクリル系重合体100質量部に対して凡そ10質量部以下(例えば凡そ0.005〜10質量部、好ましくは凡そ0.01〜5質量部)程度の範囲から選択することができる。
【0073】
上記粘着剤組成物は、必要に応じて、pH調整等の目的で使用される酸または塩基(アンモニア水等)を含有するものであり得る。該組成物に含有され得る他の任意成分としては、粘度調整剤(増粘剤等)、レベリング剤、剥離調整剤、可塑剤、軟化剤、充填剤、着色剤(顔料、染料等)、界面活性剤、帯電防止剤、防腐剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等の、水性粘着剤組成物の分野において一般的な各種の添加剤が例示される。
【0074】
粘着剤組成物の付与(典型的には塗布)に際しては、上述したアンカー組成物の付与するためのアプリケータと同様のものを用いることができる。粘着剤層の厚み(乾燥膜厚)は特に制限されず、例えば凡そ5μm〜200μm(典型的には凡そ10μm〜100μm)程度であり得る。
【0075】
ここに開示される技術の好ましい一態様によると、後述する実施例に記載の測定または評価において、以下の性能:
(a)投錨性評価における剥離形態が界面剥離である(投錨剥離を起こさない);
(b)保持力試験において、1時間経過後も試料片が被着体に保持されている(より好ましくは、1時間経過後のズレ距離が0.4mm未満である);
(c)トルエン放散量測定において、トルエン放散量が5.0μg/g以下である(より好ましくは2.0μg/g未満である);
のうち少なくとも一つ(好ましくは二つ以上、より好ましくは全部)を満足する両面粘着シートが実現され得る。少なくとも上記特性(a)を満たし、さらに特性(b)および(c)のいずれか一方または両方を満たす両面粘着シートが好ましい。
【0076】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り質量基準である。また、以下の説明において、各特性はそれぞれ次のようにして測定または評価した。
【0077】
<アンカー層の厚さ>
両面粘着シートを幅方向(長手方向に直交する方向)に横切る直線に沿って切断し、アンカー層を明瞭にする目的で重金属染色(ここではルテニウム酸染色)処理を行った後、樹脂包埋を行い、超薄切片法により断面観察用の試料を作製した。日立社製の透過電子顕微鏡、型式「H−7650」を使用して該試料断面のTEM観察を行うことにより、アンカー層の厚さを測定した。
【0078】
<投錨性評価>
厚さ25μmのPETフィルム(東レ株式会社製、商品名「ルミラーS10」)を2枚用意した。両面粘着シートの一方の粘着面を覆う剥離ライナーを剥がし、1枚目のPETフィルムに貼り付けて裏打ちした。これを幅20mm、長さ100mmにカットしたものを試料片とした。2枚目のPETフィルムには、プライマー剤(被着体表面に予め塗布しておくことで該被着体に対する粘着シートの接着性を向上させるコーティング剤)として、ロード・ファー・イースト・インコーポレイテッド社製の商品名「RC−1017」をウェスにて塗り広げ、30分間室温で放置して乾燥させた。25℃において、上記試料片の他方の粘着面から剥離ライナーを剥がし、2枚目のPETフィルムのプライマー剤塗布面に手で貼り合わせて一晩放置した。両PETフィルムの長手方向の端部を引張試験機にセットし、25℃において、引張速度300mm/minの条件で90°方向に引き剥がし、その剥離形態を観察した。
【0079】
<保持力試験>
両面粘着シートの一方の粘着面を覆う剥離ライナーを剥がし、厚さ25μmのPETフィルムに貼り付けて裏打ちした。この裏打ちされた粘着シートを幅10mm、長さ100mmのサイズにカットして試料片を作製した。上記試料片の他方の粘着面から剥離ライナーを剥がし、該試料片を被着体としてのベークライト板に、幅10mm、長さ20mmの接着面積にて、2kgのローラを1往復させる方法で圧着した。このようにして被着体に貼り付けられた試料片を80℃の環境下に垂下して30分間放置した後、該試料片の自由端に500gの荷重を付与し、JIS Z 0237に準じて、該荷重が付与された状態で80℃の環境下に1時間放置した。1時間経過後、試料片が被着体から剥がれて落下していた場合には、その剥離形態を調べた。1時間経過後にも試料片が被着体に保持されていた場合には、当初の貼付け位置からの試料片のズレ距離(mm)を測定した。
【0080】
<トルエン放散量測定>
両面粘着シートを所定のサイズ(面積:5cm)にカットし、剥離ライナーを剥がして両粘着面を露出させたものを試料とした。この試料を20mLのバイアル瓶に入れて密栓した後、該バイアル瓶を80℃で30分間加熱し、加熱状態のガス1.0mLをヘッドスペースオートサンプラーによりガスクロマトグラフ(GC)測定装置に注入してトルエンの量を測定し、上記試料(剥離ライナーを含まない両面粘着シート)1g当たりのトルエン放散量[μg/g]を算出した。
このとき、ガスクロマトグラフ条件は以下のとおりとした。
・カラム:DB−FFAP 1.0μm(直径0.535mm×30m)
・キャリアガス:He 5.0mL/min
・カラムヘッド圧:25.4kPa(40℃)
・注入口:スプリット(スプリット比12:1、温度250℃)
・カラム温度:40℃(0min)−<+10℃/min>−90℃(0min)−<+20℃/min>−250℃(7min)[昇温速度10℃/minで40℃から90℃まで昇温させ、90℃になったら直ちに昇温速度を20℃/minに変更して250℃まで昇温させた後、250℃で7分間保持させるという意味]
・検出器:FID(温度250℃)
【0081】
<例1>
冷却管、窒素導入管、温度計および攪拌装置を備えた反応容器に、イオン交換水40部を入れ、窒素ガスを導入しながら60℃で1時間以上攪拌して窒素置換を行った。この反応容器に2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド(重合開始剤)0.1部を加え、系を60℃に保ちつつ、ここにモノマーエマルションを3時間かけて徐々に滴下して乳化重合反応を進行させた。モノマーエマルションとしては、2−エチルヘキシルアクリレート10部、ブチルアクリレート90部、アクリル酸4部、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製、商品名「KBM−503」)0.07部、n−ラウリルメルカプタン(連鎖移動剤)0.05部、およびポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム(乳化剤)2部を、イオン交換水30部に加えて乳化したものを使用した。モノマーエマルションの滴下終了後、さらに3時間60℃に保持し、次いで過酸化水素水0.2部およびアスコルビン酸0.6部を添加した。系を室温まで冷却した後、10%アンモニア水の添加によりpHを7に調整して、アクリル系重合体エマルション(水分散型アクリル系重合体)を得た。
【0082】
上記アクリル系重合体エマルションに含まれるアクリル系重合体100部当たり、固形分基準で30部の粘着付与剤エマルション(荒川化学工業株式会社製、商品名「タマノルE−200NT」)を加えた。さらに、pH調整剤としての10%アンモニア水と、増粘剤としてのポリアクリル酸(東亞合成株式会社製、商品名「アロンB−500」)を用いて、pHを7.2、粘度を10Pa・sに調整した。なお、上記粘度は、B型粘度計を使用して、ローターNo.5、回転数20rpm、液温30℃、測定時間1分の条件で測定した。このようにして、本例に係る水分散型アクリル系粘着剤組成物を得た。
【0083】
本例に使用するアンカー組成物を用意した。すなわち、ロード・ファー・イースト・インコーポレイテッド社製の商品名「RC−1023」(固形分濃度6%)をトルエンで希釈して、固形分濃度を1%に調整した。
【0084】
基材としては、片面(第一面)にコロナ放電処理が施された厚さ12μmのPETフィルム(東レ株式会社製、商品名「ルミラーP60」)を使用した。この基材の第一面(コロナ放電処理が施された面)に上記アンカー組成物を滴下し、5番手のマイヤーバーを用いて塗り広げ、80℃で1分間乾燥させることにより、厚さ0.14μmのアンカー層を形成した。同様の操作により、上記基材の第二面にも厚さ0.14μmのアンカー層を形成した。このようにして、基材の両面にアンカー層を有する支持体を得た。
【0085】
上記粘着剤組成物を、シリコーン系剥離剤による剥離処理層を有する剥離ライナー(王子特殊紙株式会社製、商品名「75EPS(M)クリーム改」)に塗布し、100℃で2分間乾燥させて、厚さ50μmの粘着剤層を形成した。この粘着剤層付き剥離ライナーを2枚用意し、それらの粘着剤層を上記支持体の各面それぞれに貼り合せた。このようにして、基材の各面それぞれにアンカー層を介して粘着剤層が設けられた両面粘着シートを作製した。この粘着シートの両粘着面は、該粘着シートの作製に使用した剥離ライナーによってそのまま保護されている。
【0086】
<例2>
本例では、基材として、コロナ放電処理が施されていない厚さ12μmのPETフィルム(東レ株式会社製、商品名「ルミラーS10」)を使用し、その両面に例1と同様にしてアンカー層を形成して支持体を得た。この支持体の各面それぞれに例1と同様にして粘着剤層を貼り合わせることにより、両面粘着シートを作製した。
【0087】
<例3>
本例では、アンカー組成物を調製する際の希釈溶剤として、トルエンに代えてメチルエチルケトンを使用した。その他の点については例1と同様にして、両面粘着シートを作製した。
【0088】
<例4>
本例では、例2と同じ基材をそのまま(すなわち、アンカー層を設けることなく)支持体として使用した。この支持体の各面それぞれに例1と同様にして粘着剤層を貼り合わせることにより、両面粘着シートを作製した。
【0089】
<例5>
本例では、例1と同じ基材をそのまま(すなわち、アンカー層を設けることなく)支持体として使用した。この支持体の各面それぞれに例1と同様にして粘着剤層を貼り合わせることにより、両面粘着シートを作製した。
【0090】
<例6>
アンカー組成物の固形分濃度が0.1%となるように希釈溶剤(トルエン)の使用量を調節した点以外は例2と同様にして、両面粘着シートを作製した。基材の各面に形成されたアンカー層の厚さは0.01μmであった。
【0091】
<例7>
アンカー組成物の固形分濃度が2%となるように希釈溶剤(トルエン)の使用量を調節した点以外は例2と同様にして、両面粘着シートを作製した。基材の各面に形成されたアンカー層の厚さは0.69μmであった。
【0092】
例1〜7に係る両面粘着シートにつき、上述した方法により投錨性、保持力およびトルエン放散量を測定または評価した。それらの結果を表1および表2に示す。表2には、例2の結果を再度掲載している。表1および表2において、「界面剥離」とは、被着体と該被着体に貼り付けられた粘着剤層との間で剥がれる(すなわち、被着体側の粘着剤層と基材とが一緒に剥がれる)剥離形態を示し、「投錨剥離」とは、被着体に貼り付けられた粘着剤層と基材との間で剥がれる(すなわち、粘着剤層が基材から分離して被着体上に残る)剥離形態を示している。
【0093】
【表1】

【0094】
【表2】

【0095】
表1に示されるように、アンカー層を設けない例4,5では、コロナ放電処理の有無に拘わらず、投錨性評価における剥離形態が投錨剥離であった。これに対して、アンカー層を設けた例1〜3は、いずれも上記剥離形態が界面剥離であり、良好な投錨性を示した。なお、希釈溶剤としてトルエンを用いた例1,2は、MEKを用いた例3に比べて、アンカー組成物の透明性がより高く、アンカー層形成成分の溶解性に優れていた。
表2は、アンカー層の厚さが両面粘着シートの特性に及ぼす影響を示している。これらアンカー層の厚さが0.01μm以上3.00μm未満(より詳しくは、0.01μm以上1.00μm未満)の両面粘着シートは、いずれも剥離形態が界面剥離であり、良好な投錨性を示した。アンカー層の厚さが0.10μm以上1.00μm未満の範囲にある例2,7は、例6に比べて、更に高い保持力を示した。
【0096】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0097】
1,2 粘着シート
10 プラスチック基材
12,13 アンカー層
14,15 粘着剤層
16 剥離ライナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック基材と、前記基材の各面それぞれに設けられた粘着剤層と、を備えた両面粘着シートであって、
前記粘着剤層は、水系溶媒にアクリル系重合体が分散した水分散型粘着剤組成物から形成されたものであり、
前記基材の少なくとも一方の面と前記粘着剤層との間には、有機溶剤に溶解したポリエステル−ポリウレタンを含有するアンカー組成物から形成されたアンカー層が設けられている、両面粘着シート。
【請求項2】
前記アンカー層の厚さは0.01μm以上3.00μm未満である、請求項1に記載の両面粘着シート。
【請求項3】
前記アンカー組成物は、エポキシ基、カルボキシル基、アミノ基およびアミド基から選択される一種または二種以上の官能基を一分子当たり合計2つ以上有する架橋性化合物を含有する、請求項1または2に記載の両面粘着シート。
【請求項4】
前記アンカー組成物は、塩素化ポリエチレンおよび塩素化ポリプロピレンの少なくとも一方を含有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の両面粘着シート。
【請求項5】
前記アンカー組成物は、ポリクロロプレンを含有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の両面粘着シート。
【請求項6】
前記基材は、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリフェニレンサルファイドまたはポリイミドを主成分とするポリマー材料からなる表面を有するプラスチックフィルムである、請求項1から5のいずれか一項に記載の両面粘着シート。
【請求項7】
基材としてのプラスチックフィルムを用意すること;
有機溶剤に溶解したポリエステル−ポリウレタンを含有するアンカー組成物を前記基材の少なくとも一方の面に付与して、該基材上に厚さ0.01μm以上3.00μm未満のアンカー層を形成すること;および、
前記アンカー層が形成された基材の各面それぞれに、水系溶媒にアクリル系重合体が分散した水分散型粘着剤組成物から形成された粘着剤層を設けること;
を包含する、両面粘着シート製造方法。
【請求項8】
前記アンカー組成物は:
(A)エポキシ基、カルボキシル基、アミノ基およびアミド基から選択される一種または二種以上の官能基を一分子当たり合計2つ以上有する架橋性化合物;
(B)塩素化ポリエチレンおよび塩素化ポリプロピレンの少なくとも一方;および、
(C)ポリクロロプレン;
の少なくとも一つを含有する、請求項7に記載の両面粘着シート製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−188511(P2012−188511A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52073(P2011−52073)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】