説明

中空部を有する成形品の射出成形方法及び金型組立体

【課題】冷却、固化させるために長時間を必要とせず、しかも、安定した成形を可能とする、中空部を有する成形品の射出成形方法を提供する。
【解決手段】この射出成形方法は、成形品の最肉厚部を成形するキャビティの部分を挟むように配設された2つの第1の加圧流体導入部及び第2の加圧流体導入部21,22を備えてた金型組立体を用い、キャビティ内に溶融熱可塑性樹脂を射出し、キャビティ内の溶融熱可塑性樹脂に第1の加圧流体導入部を介して加圧流体を導入して中空部を形成し、加圧流体による保圧を行い、次いで、中空部内に第2の加圧流体導入部を介して加圧流体を導入し、中空部内に加圧流体を流しながら、キャビティ内の熱可塑性樹脂を冷却、固化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空部を有する成形品の射出成形方法、及び、係る射出成形方法での使用に適した金型組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
肉厚の握り部及び取付部から成り、ハンドルあるいはレバーの形状を有する取っ手形部品が、自動車、電器製品あるいは建築物の扉等に取り付けられ、これらの扉等の開閉のために使用されている。このような取っ手形部品には、全体として軽量であることが要求される。また、握り部に対しては外観が重要視され、ヒケや反りの無いことが要求される。
【0003】
溶融熱可塑性樹脂を用いて射出成形法によりこのような成形品を成形する際、ヒケや反りのない外観の美麗な成形品を得るために、キャビティ内に射出された溶融熱可塑性樹脂に加圧流体を導入して、キャビティ内の溶融熱可塑性樹脂の内部に中空部を形成し、型開きの前に中空部内の加圧流体を大気中に解放する、中空部を有する成形品の射出成形方法が広く用いられている(例えば、特開平5−118170号公報参照)。キャビティ内に射出された溶融熱可塑性樹脂に導入された加圧流体によって、溶融熱可塑性樹脂が金型のキャビティ面に押し付けられる結果、得られる成形品にヒケや反りが発生することを防止し得る。
【0004】
ところで、このような従来の中空部を有する成形品の射出成形方法にあっては、キャビティ内の熱可塑性樹脂の内部に形成された中空部はほぼ断熱状態となる。その結果、キャビティ内の熱可塑性樹脂を冷却、固化させるために長時間を要するといった問題がある。
【0005】
この問題点を解決する射出成形方法が、例えば、特開平9−85771号公報から周知である。この特許公開公報に開示された技術にあっては、複数の金型を合わせて密閉キャビティを形成し、密閉キャビティ内に1つの材料注入口から流動状の合成樹脂材を注入した後、材料注入口に近い第1噴射口から圧縮空気等の適宜圧力のガスをキャビティ内の合成樹脂材内に圧入して中空部を形成し、次いで、中空部に、材料注入口から遠い位置の第2噴射口から圧縮空気等の適宜圧力のガスを圧入する。
【0006】
あるいは又、この問題点を解決する射出成形方法が、特開2005−096329から周知である。この特許公開公報に開示された技術にあっては、(A)第1の金型部、(B)第2の金型部、(C)第1の金型部と第2の金型部とを型締めすることで形成されるキャビティ、(D)キャビティに開口した溶融樹脂射出部、並びに、(E)加圧流体源に接続された加圧流体導入部を備え、キャビティ内に射出された溶融熱可塑性樹脂の流動方向の末端に相当する第2の金型部の部分には、キャビティに連通し、キャビティから溶融熱可塑性樹脂が部分的に流入する凹部が形成されており、溶融熱可塑性樹脂が到達しない凹部の部分には、凹部に開口し、且つ、外部に連通した加圧流体排出部が設けられている金型組立体を用いる。そして、キャビティ内に溶融熱可塑性樹脂を射出し、キャビティ内を溶融熱可塑性樹脂で充填し、更には、凹部の一部を溶融熱可塑性樹脂で充填した後(但し、加圧流体排出部は溶融熱可塑性樹脂で塞がれた状態とはしない)、キャビティ内の溶融熱可塑性樹脂の内部に加圧流体導入部を介して加圧流体を導入し、キャビティ内の溶融熱可塑性樹脂の内部に中空部を形成する。ここで、凹部内においては、中空部が溶融熱可塑性樹脂を突き破るため、中空部と加圧流体排出部とが連通する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−118170号公報
【特許文献2】特開平9−85771号公報
【特許文献3】特開2005−096329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特開平9−85771号公報に開示された技術にあっては、材料注入口に近い第1噴射口から圧縮空気等の適宜圧力のガスをキャビティ内の合成樹脂材内に圧入して中空部を形成し、次いで、中空部に、材料注入口から遠い位置の第2噴射口から圧縮空気等の適宜圧力のガスを圧入する。そして、この技術にあっては、第2噴射口からのガスの圧入を開始するのは、合成樹脂材によって第2噴射口が塞がれた時点である。それ故、合成樹脂材と第2噴射口との密着が不十分となり、安定したガスの圧入ができないといった問題が生じ易い。
【0009】
また、特開2005−096329号公報に開示された技術にあっては、凹部内において中空部が溶融熱可塑性樹脂を突き破るために、凹部内に侵入させる溶融熱可塑性樹脂の量を正確に制御する必要がある。しかしながら、例えば、多数個取りの場合、射出条件が変動したとき、凹部内に侵入させる溶融熱可塑性樹脂の量を正確に制御することが困難となり、凹部内において中空部が溶融熱可塑性樹脂を突き破れなくなる虞がある。
【0010】
従って、本発明の目的は、中空部が設けられた成形品を射出成形するにあたり、キャビティ内の熱可塑性樹脂を冷却、固化させるために長時間を必要とせず、しかも、安定した成形を可能とする金型組立体、及び、係る金型組立体を使用した中空部を有する成形品の射出成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するための本発明の金型組立体は、
(A)第1の金型部、
(B)第2の金型部、
(C)第1の金型部と第2の金型部とを型締めすることで形成されるキャビティ、
(D)キャビティに開口した溶融樹脂射出部、並びに、
(E)少なくとも2つの第1の加圧流体導入部及び第2の加圧流体導入部、
を備えており、
溶融樹脂射出部からキャビティ内に溶融熱可塑性樹脂を射出し、溶融熱可塑性樹脂を射出中、又は、射出完了と同時、又は、射出完了後、キャビティ内の溶融熱可塑性樹脂に第1の加圧流体導入部及び第2の加圧流体導入部から加圧流体を導入することで、中空部を有する成形品を成形するための金型組立体である。
【0012】
そして、
キャビティ内に射出された溶融熱可塑性樹脂の流動方向に沿って、且つ、成形品の最肉厚部を成形するキャビティの部分を挟むように、流動方向上流側に第1の加圧流体導入部、流動方向下流側に第2の加圧流体導入部が配置されており、
第1の加圧流体導入部は、第1の開閉弁を介して加圧流体源に接続されており、
第2の加圧流体導入部は、第2の開閉弁を介して加圧流体源に接続されており、
第1の加圧流体導入部は、第3の開閉弁を介して加圧流体排出部に接続されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の金型組立体においては、代替的に、
第2の加圧流体導入部は、第2の開閉弁を介して加圧流体源に接続されている代わりに、第2の開閉弁を介して加圧流体循環手段に接続されており、
第1の加圧流体導入部は、第3の開閉弁を介して加圧流体排出部に接続されている代わりに、第3の開閉弁を介して加圧流体循環手段に接続されている形態とすることもできる。尚、第1の加圧流体導入部は、第1の開閉弁を介して加圧流体源に接続されている。
【0014】
上記の目的を達成するための中空部を有する成形品の射出成形方法(以下、『本発明の射出成形方法』と呼ぶ場合がある)は、
(A)第1の金型部、
(B)第2の金型部、
(C)第1の金型部と第2の金型部とを型締めすることで形成されるキャビティ、
(D)キャビティに開口した溶融樹脂射出部、並びに、
(E)少なくとも2つの第1の加圧流体導入部及び第2の加圧流体導入部、
を備えており、中空部を有する成形品を成形するために、キャビティ内に射出された溶融熱可塑性樹脂の流動方向に沿って、且つ、成形品の最肉厚部を成形するキャビティの部分を挟むように、流動方向上流側に第1の加圧流体導入部、流動方向下流側に第2の加圧流体導入部が配置されている金型組立体を用いた、中空部を有する成形品の射出成形方法である。
【0015】
そして、
(a)キャビティ内に溶融樹脂射出部を介して溶融熱可塑性樹脂を射出し、
(b)溶融熱可塑性樹脂の射出中、射出完了と同時、あるいは、射出完了後、キャビティ内の溶融熱可塑性樹脂に第1の加圧流体導入部を介して加圧流体を導入して、キャビティ内の溶融熱可塑性樹脂の内部に中空部を形成し、
(c)キャビティ内の溶融熱可塑性樹脂に加圧流体による保圧を行い、次いで、
(d)溶融熱可塑性樹脂に形成された中空部内に第2の加圧流体導入部を介して加圧流体を導入し、次いで、
(e)中空部内に加圧流体を流しながらキャビティ内の熱可塑性樹脂を冷却、固化させた後、
(f)中空部内の加圧流体を排出し、第1の金型部と第2の金型部とを型開きし、成形品を取り出す、
各工程から成ることを特徴とする。
【0016】
本発明の中空部を有する成形品の射出成形方法にあっては、
第1の加圧流体導入部は、第1の開閉弁を介して加圧流体源に接続されており、
第2の加圧流体導入部は、第2の開閉弁を介して加圧流体源に接続されており、
第1の加圧流体導入部は、第3の開閉弁を介して加圧流体排出部に接続されており、
前記工程(a)においては、第1の開閉弁、第2の開閉弁及び第3の開閉弁を閉状態とし、
前記工程(b)及び工程(c)においては、第1の開閉弁を開状態とし、第2の開閉弁及び第3の開閉弁を閉状態とし、
前記工程(d)及び工程(e)においては、第1の開閉弁を閉状態とし、第2の開閉弁及び第3の開閉弁を開状態とする形態とすることができる。そして、これによって、前記工程(b)及び(c)にあっては、加圧流体源から第1の加圧流体導入部を介してキャビティ内の溶融熱可塑性樹脂に加圧流体を導入することができ、前記工程(d)及び工程(e)にあっては、溶融熱可塑性樹脂に形成された中空部内に加圧流体源から第2の加圧流体導入部を介して加圧流体を導入し、第1の加圧流体導入部を介して加圧流体を排出しながら、キャビティ内の熱可塑性樹脂を冷却、固化させることができる。そして、この場合、前記工程(d)及び工程(e)においては、更に、第2の開閉弁を開状態とした後に、第1の開閉弁を閉状態とし、第3の開閉弁を開状態とすることができる。
【0017】
あるいは又、本発明の中空部を有する成形品の射出成形方法にあっては、代替的に、
第1の加圧流体導入部は、第1の開閉弁を介して加圧流体源に接続されており、
第2の加圧流体導入部は、第2の開閉弁を介して加圧流体循環手段に接続されており、
第1の加圧流体導入部は、第3の開閉弁を介して加圧流体循環手段に接続されており、
前記工程(a)においては、第1の開閉弁、第2の開閉弁及び第3の開閉弁を閉状態とし、
前記工程(b)及び工程(c)においては、第1の開閉弁を開状態とし、第2の開閉弁及び第3の開閉弁を閉状態とし、
前記工程(d)及び工程(e)においては、第1の開閉弁を閉状態とし、第2の開閉弁及び第3の開閉弁を開状態とする形態とすることができる。そして、これによって、前記工程(b)及び(c)にあっては、加圧流体源から第1の加圧流体導入部を介してキャビティ内の溶融熱可塑性樹脂に加圧流体を導入することができ、前記工程(d)及び工程(e)にあっては、加圧流体循環手段を作動状態として、加圧流体循環手段から第2の加圧流体導入部を介して中空部へ加圧流体を流し、第1の加圧流体導入部から加圧流体循環手段へと加圧流体を戻しながら、キャビティ内の熱可塑性樹脂を冷却、固化させることができる。尚、この場合、前記工程(d)及び工程(e)においては、更に、第2の開閉弁を開状態とした後に、第1の開閉弁を閉状態とし、第3の開閉弁を開状態とすることができる。また、前記工程(f)にあっては、加圧流体循環手段を不作動状態として、中空部内の加圧流体を排出し、次いで、第1の金型部と第2の金型部とを型開きし、成形品を取り出せばよい。
【0018】
尚、これらの形態にあっては、前記工程(f)において、第1の開閉弁及び第2の開閉弁を閉状態とし、第3の開閉弁を開状態とすることで、中空部内の加圧流体を第1の加圧流体導入部から排出することができる。
【0019】
但し、前記工程(f)における中空部内からの加圧流体の排出は、このような形態に限定するものではない。具体的には、第2の開閉弁と第2の加圧流体導入部との間に、中空部内の加圧流体を排出するための第4の開閉弁を設けてもよく、これによって、中空部内の加圧流体を第2の加圧流体導入部を経由しても排出することができ、より一層短時間で中空部の加圧流体を解放することが可能となる。第4の開閉弁は、中空部内の加圧流体を排出するときに開状態とし、その他の状態においては、通常、閉状態とする。但し、これに限定するものではなく、前記工程(d)の開始直前まで第4の開閉弁を開状態としてもよく、これによって、キャビティ内における溶融熱可塑性樹脂の円滑なる流れを達成することができる。尚、「直前」という時間的長さは、成形品の大きさや使用する熱可塑性樹脂等によって変化するが、例えば、一例として、前記工程(d)の開始前、0.1秒前乃至1.0秒前を挙げることができる。更には、前記工程(e)において、第1の開閉弁及び第4の開閉弁を開状態とし、第2の開閉弁及び第3の開閉弁を閉状態とすることで、第2の加圧流体導入部を介して加圧流体を排出させてもよい。
【0020】
上記の好ましい形態を含む本発明の金型組立体、あるいは又、上記の好ましい形態を含む本発明の射出成形方法の実行に適した金型組立体(以下、これらを総称して、単に、『本発明の金型組立体等』と呼ぶ)にあっては、流動方向上流側から下流側に向かって、溶融樹脂射出部、第1の加圧流体導入部、成形品の最肉厚部を成形するキャビティの部分、第2の加圧流体導入部の順で、これらが配置されている構成とすることができる。このような配置とすることで、安定した成形品の射出成形を行うことができる。
【0021】
更には、以上に説明した好ましい構成を含む本発明の金型組立体等において、キャビティ内に射出された溶融熱可塑性樹脂の流動方向の末端には、キャビティに連通し、キャビティから溶融熱可塑性樹脂が流入するオーバーフローキャビティが設けられており、第2の加圧流体導入部は、オーバーフローキャビティに配置されている形態とすることができる。このように、オーバーフローキャビティを設けることで、より安定して成形品の射出成形を行うことができる。尚、キャビティ内に射出された溶融熱可塑性樹脂の流動方向の末端に、好ましくは、係る末端に相当する第2の金型部の部分にオーバーフローキャビティが設けられているが、このオーバーフローキャビティが設けられた部位は、溶融熱可塑性樹脂の流動方向の厳密に末端に相当する部分でなくともよい。即ち、溶融熱可塑性樹脂の流動方向の末端近傍に相当する部分であってもよい。また、キャビティとオーバーフローキャビティとの間に開閉可能な弁機構を配設してもよく、これによって、溶融熱可塑性樹脂のオーバーフローキャビティへの流入を正確に制御することができる。
【0022】
更には、以上に説明した好ましい構成を含む本発明の金型組立体等においては、溶融熱可塑性樹脂と接する第2の加圧流体導入部の部分を加熱する加熱手段(例えば、電気ヒータ)を、第2の加圧流体導入部は備えている構成とすることができる。このように加熱手段を配することで、第2の加圧流体導入部近傍における溶融熱可塑性樹脂の固化の開始を回避でき、確実に第2の加圧流体導入部から中空部に加圧流体を導入することができる。
【0023】
以上に説明した好ましい構成を含む本発明の金型組立体等にあっては、第1の加圧流体導入部及び第2の加圧流体導入部を、第1の金型部に配設してもよいし、第2の金型部に配設してもよいし、第1の金型部及び第2の金型部に配設してもよい。金型組立体への加圧流体導入部の配設例として、加圧流体導入部の先端部が、キャビティ内、あるいは金型部のキャビティ面近傍に配置されるように、加圧流体導入部を第1の金型部、あるいは、第2の金型部、あるいは、第1の金型部及び第2の金型部に配設する構成とすることができる。加圧流体導入部は、例えば、先端部に逆止弁が配設された周知のガス注入ノズルとすることができる。必要に応じて、上述したとおり、先端部を加熱するための加熱手段(例えば、電気ヒータ)を先端部に取り付けてもよい。また、場合によっては、第1の加圧流体導入部を、その先端部が溶融樹脂射出部内に配置されるように配設してもよいし、あるいは又、その先端部が射出用シリンダーの先端部(ノズル部)に配置されるように配設してもよいし、射出用シリンダーと溶融樹脂射出部とを結ぶ樹脂流路にその先端部が配置されるように配設してもよい。
【0024】
本発明の金型組立体等にあっては、2つの第1の加圧流体導入部及び第2の加圧流体導入部を有しているが、具体的には、(第1の加圧流体導入部の数,第2の加圧流体導入部の数)の組合せとして、(1,1)、(1,2)、(2,2)を挙げることができる。
【0025】
加圧流体循環手段は、例えば、加圧流体バッファタンク及び循環用コンプレッサから構成することができる。即ち、例えば、加圧流体バッファタンクと循環用コンプレッサとを配管で結び、循環用コンプレッサと第2の加圧流体導入部とを第2の開閉弁を介して配管で結ぶ。また、第1の加圧流体導入部と加圧流体バッファタンクとを第3の開閉弁を介して配管で結ぶ。こうすることで、加圧流体バッファタンクからの加圧流体が、循環用コンプレッサ、第2の開閉弁、第2の加圧流体導入部、第1の加圧流体導入部、第3の開閉弁を経由して加圧流体バッファタンクに戻されるという加圧流体の循環系が形成される。尚、循環用コンプレッサと第2の開閉弁との間に冷却手段を設けてもよい。冷却手段を設けて、加圧流体と冷却媒体との間で熱交換を行い加圧流体を冷却させれば、キャビティ内の熱可塑性樹脂を一層短時間にて冷却、固化させることができる。より具体的には、例えば、ラジエータのようにフィンを多く有する配管中を加圧流体を通過させ、フィンの熱を室温の空気、水、油等を介して放熱させ、あるいは又、冷凍装置で冷却された冷却媒体で加圧流体を冷却すればよい。第3の開閉弁と加圧流体バッファタンクとを結ぶ配管に、圧力調整弁や流量調整弁を配設してもよい。このように、圧力調整弁を配設して、中空部に導入される加圧流体圧力を制御することで、成形品にヒケや反り等を生じることを確実に防止することができる。加圧流体の圧力が低すぎる場合には、成形品の肉厚部においてヒケが生じ易くなり、加圧流体の圧力が余りに高すぎる場合には、反りが生じ易くなる。最適な加圧流体の圧力は、成形品の形状や使用する材料によって適宜決定すればよい。また、流量調整弁を介して加圧流体を循環させ、中空部に導入される加圧流体の流速を制御することで、中空部内において必要とされる加圧流体保持時間(加圧流体滞留時間)を確保することができ、且つ、成形品内部での加圧流体と溶融熱可塑性樹脂との間の熱交換の状態を制御することができる。そして、これによって、成形品の形状精度の向上を図ることができる。加圧流体循環手段における加圧流体の供給能力、必要とされる加圧流体保持時間(加圧流体滞留時間)等に基づき、加圧流体の排出速度、即ち、流量調整弁における加圧流体の流量を決定すればよい。
【0026】
本発明の金型組立体等にあっては、加圧流体排出部の下流に加圧流体保存容器を備えている構成とすることもできる。そして、これによって、加圧流体源から第2の加圧流体導入部を介して中空部へ加圧流体を流し、第1の加圧流体導入部、加圧流体排出部から加圧流体を排出し、排出された加圧流体を加圧流体保存容器に保存しながら、キャビティ内の熱可塑性樹脂を冷却、固化させることができる。それ故、係る加圧流体を再利用することが可能となり、加圧流体を効率的に利用することができる。具体的には、例えば、加圧流体保存容器に保存された加圧流体は、最終的に加圧流体源に搬送して、再度、使用すればよい。
【0027】
第3の開閉弁と加圧流体保存容器との間に圧力調整弁や流量調整弁を配設してもよい。圧力調整弁を配設することで、中空部内の圧力制御を行うことができるので、成形品にヒケや反り等を生じることを確実に防止することができる。加圧流体の圧力が低すぎる場合には、成形品の肉厚部においてヒケが生じ易くなり、加圧流体の圧力が余りに高すぎる場合には、反りが生じ易くなる。最適な加圧流体の圧力は、成形品の形状や使用する材料によって適宜決定すればよい。また、流量調整弁を配設することで、中空部内において必要とされる加圧流体保持時間(加圧流体滞留時間)を確保することができ、且つ、成形品内部での加圧流体と溶融熱可塑性樹脂との間の熱交換の状態を制御することができる。これによって、成形品の形状精度の向上を図ることができる。必要とされる加圧流体保持時間(加圧流体滞留時間)等に基づき、加圧流体の排出速度、即ち、流量調整弁における加圧流体の流量を決定すればよい。
【0028】
本発明の射出成形方法を実施するにあたって、射出成形時の溶融熱可塑性樹脂の量、温度、圧力あるいは射出速度、導入すべき加圧流体の量、圧力あるいは速度、金型部の冷却時間等、種々の条件は、使用する熱可塑性樹脂の種類、金型部の形状等に依存して、適宜選択、制御する必要があり、一義的に定めることはできない。
【0029】
本発明の射出成形方法によって得られる成形品として、取っ手形成形品、長尺成形品、あるいは又、部分的に肉厚部を有する肉薄成形品を例示することができる。ここで、取っ手形成形品は、肉厚の握り部と、少なくとも1つの取付部とが一体となったものであり、握り部が成形品の最肉厚部に該当し、係る最肉厚部(握り部)には中空構造が設けられている。この成形品は、その取付部において、自動車、電器製品あるいは建築物の扉等に取り付けられる。そして、使用者が握り部を握り、扉等の開閉を行う。成形品は、通常、ハンドルあるいはレバーの形状を有する。一方、長尺成形品として、自動車の屋根の部分に取り付けるルーフレール、各種パイプ類を挙げることができ、部分的に肉厚部を有する肉薄成形品として、ボンネット等の外板、各種カバー類を挙げることができる。
【0030】
以上に説明した好ましい形態、構成を含む本発明の金型組立体、あるいは、以上に説明した好ましい形態、構成を含む本発明の射出成形方法(以下、これらを総称して、単に『本発明』と呼ぶ場合がある)にあっては、キャビティ内に射出すべき溶融熱可塑性樹脂の量は、キャビティを完全には充填しない量とすることが好ましい。オーバーフローキャビティを備えている場合、キャビティ内に射出すべき溶融熱可塑性樹脂の量は、キャビティを完全には充填しない量であってもよいし、キャビティを完全に充填するが、オーバーフローキャビティを完全には充填しない量であってもよい。金型組立体の構成を、成形品1個取りとしてもよし、多数個取りとしてもよい。キャビティ内の溶融熱可塑性樹脂に第1の加圧流体導入部を介して加圧流体を導入して、キャビティ内の溶融熱可塑性樹脂の内部に中空部を形成するが、係る中空部は、必ずしも、第2の加圧流体導入部の近傍まで延びている必要はなく、要は、第2の加圧流体導入部からの加圧流体が溶融熱可塑性樹脂を押し退けて、既に形成されている中空部と第2の加圧流体導入部とが連通状態となればよい。
【0031】
加圧流体は、常温及び常圧で気体の物質であり、使用する熱可塑性樹脂と反応や混合しないものが望ましい。具体的には、窒素ガス、空気、炭酸ガス、ヘリウムガス等が挙げられるが、安全性及び経済性を考慮すると、窒素ガスやヘリウムガスが好ましい。尚、高圧下で液化したガスも含み得る。
【0032】
第1の金型部や第2の金型部は、炭素鋼、ステンレス鋼、アルミニウム合金、銅合金等の周知の金属材料から作製することができる。
【0033】
溶融樹脂射出部(具体的には、ゲート部)の構造は、公知の如何なる形式のゲート構造とすることもでき、例えば、ダイレクトゲート構造、サイドゲート構造、ジャンプゲート構造、ピンポイントゲート構造、トンネルゲート構造、リングゲート構造、ファンゲート構造、ディスクゲート構造、フラッシュゲート構造、タブゲート構造、フィルムゲート構造を例示することができる。
【0034】
本発明での使用に適した熱可塑性樹脂として、結晶性熱可塑性樹脂や非晶性熱可塑性樹脂を挙げることができ、具体的には、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミドMXD6等のポリアミド系樹脂;ポリオキシメチレン(ポリアセタール,POM)樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂等のポリエステル系樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AS樹脂といったスチレン系樹脂;メタクリル系樹脂;ポリカーボネート樹脂;変性ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリエーテルスルホン樹脂;ポリアリレート樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリアミドイミド樹脂;ポリイミド系樹脂;ポリエーテルケトン樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;ポリエステルカーボネート樹脂;液晶ポリマーを例示することができる。
【0035】
更には、ポリマーアロイ材料から成る熱可塑性樹脂を用いることができる。ここで、ポリマーアロイ材料は、少なくとも2種類の熱可塑性樹脂をブレンドしたもの、又は、少なくとも2種類の熱可塑性樹脂を化学的に結合させたブロック共重合体若しくはグラフト共重合体から成る。ポリマーアロイ材料は、単独の熱可塑性樹脂のそれぞれが有する特有な性能を合わせ持つことができる高機能材料として広く使用されている。少なくとも2種類の熱可塑性樹脂をブレンドしたポリマーアロイ材料を構成する熱可塑性樹脂として、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AS樹脂といったスチレン系樹脂;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂;メタクリル樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミドMXD6等のポリアミド系樹脂;変性PPE樹脂;ポリブチレンテレフタレート樹脂やポリエチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル樹脂;ポリオキシメチレン樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリイミド樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリアリレート樹脂;ポリエーテルスルホン樹脂;ポリエーテルケトン樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;ポリエステルカーボネート樹脂を挙げることができる。2種類の熱可塑性樹脂をブレンドしたポリマーアロイ材料として、ポリカーボネート樹脂とABS樹脂とのポリマーアロイ材料を例示することができる。尚、このような樹脂の組合せを、ポリカーボネート樹脂/ABS樹脂と表記する。以下においても同様である。更に、少なくとも2種類の熱可塑性樹脂をブレンドしたポリマーアロイ材料として、ポリカーボネート樹脂/PET樹脂、ポリカーボネート樹脂/PBT樹脂、ポリカーボネート樹脂/ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂/PBT樹脂/PET樹脂、変性PPE樹脂/HIPS樹脂、変性PPE樹脂/ポリアミド系樹脂、変性PPE樹脂/PBT樹脂/PET樹脂、変性PPE樹脂/ポリアミドMXD6樹脂、ポリオキシメチレン樹脂/ポリウレタン樹脂、PBT樹脂/PET樹脂を例示することができる。
【0036】
尚、以上に説明した各種の熱可塑性樹脂に、添加剤や、充填剤、強化剤を加えることもできる。
【0037】
添加剤として、可塑剤;安定剤;酸化防止剤:紫外線吸収剤;ニッケルビス(オクチルフェニル)サルファイド等の有機ニッケル化合物、ヒンダードアミン系化合物等の紫外線安定剤;帯電防止剤;難燃剤;バイナジン、プリベントール、チアベンダゾール等の防かび剤;流動パラフィン、ポリエチレンワックス、脂肪酸アマイド等の滑剤;ADCA等の有機発泡剤;透明核剤;有機顔料、無機顔料といった各種の着色剤;架橋剤;アクリルグラフトポリマー、MBS等の耐衝撃強化剤を挙げることができる。
【0038】
可塑剤として、フタル酸ジエチル、フタル酸ジ−n−ブチル、フタル酸−2−エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ブチルベンジル、フタル酸ジシクロヘキシル等のフタル酸類;リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリクレシル、リン酸トリフェニル等のリン酸エステル類;オレイン酸ブチル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸−n−ヘキシン、アジピン酸ジ−2−エチルヘキシル等の脂肪酸塩基エステル類;ジエチレングリコールジベンゾエート等のアルコールエステル類;クエン酸アセチルトリエチル、マレイン酸ジブチル等のオキシ酸エステル類;トリメリット系可塑剤;ポリエステル系可塑剤;エポキシ系可塑剤;塩化パラフィン系可塑剤を挙げることができる。
【0039】
安定剤として、ジ−n−オクチルスズ化合物、ジ−n−ブチルスズ化合物、ジメチルスズ化合物等の有機スズ系安定剤;三塩基性硫酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、ケイ酸鉛等の鉛化合物系安定剤;カドミウム石けん、鉛石けん、亜鉛石けん等の金属石けん系安定剤;リン酸トリスノニル;リン酸トリスノニルフェニル等を挙げることができる。
【0040】
酸化防止剤として、ジブチルクレゾール、ブチルヒドロキシアニソール等のフェノール系酸化防止剤;メチレンビス(メチルブチルフェノール)、チオビス(メチルブチルフェノール)等のビスフェノール系酸化防止剤;トリス(メチルヒドロキシブチルフェニル)ブタン、トコフェノール等のポリフェノール系酸化防止剤;ジミリスチルチオジプロピオネート等の有機イオウ化合物;トリス(モノ/ジノニルフェニル)ホスファイト等の有機リン化合物を挙げることができる。
【0041】
紫外線吸収剤として、サリチル酸フェニル、サリチル酸ブチルフェニル等のサリチル酸系紫外線吸収剤;ジヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤;(ヒドロキシメチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;アクリル酸エチルヘキシルシアノジフェノニル等のシアノアクリレート系紫外線吸収剤を挙げることができる。
【0042】
帯電防止剤として、ポリ(オキシエチレン)アルキルアミン、ポリ(オキシエチレン)アルキルフェニルエーテル等の非イオン界面活性剤系帯電防止剤;アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルリン酸塩等の陰イオン界面活性剤系帯電防止剤;第4級アンモニウムクロライド等の陽イオン界面活性剤系帯電防止剤;両性系界面活性剤;電導性樹脂を挙げることができる。
【0043】
難燃剤として、テトラブロモビスフェノールA、ポリブロモビフェノール、ビス(ヒドロキシジブロモフェニル)プロパン、塩化パラフィン等のハロゲン系難燃剤;リン酸アンモニウム、リン酸トリクレジル等のリン系難燃剤;三酸化アンチモン;赤リン;酸化スズ等を挙げることができる。
【0044】
また、充填剤、強化剤として、無機系材料;ステンレス鋼繊維、高強度アモルファス金属繊維、ステンレス箔、スチール箔、銅箔等の金属系材料;高分子ポリエチレン繊維、高強力ポリアレート繊維、パラ系全芳香族ポリアミド繊維、アラミド繊維、PEEK繊維、PEI繊維、PPS繊維、フッ素樹脂繊維、フェノール樹脂繊維、ビニロン繊維、ポリアセタール繊維等の有機系材料;粉系材料を挙げることができる。
【0045】
ここで、無機系の充填剤、強化剤として、ガラス繊維、ガラス長繊維、石英ガラス繊維等のガラス系材料;PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、グラファイトウィスカ等の炭素系材料;炭化ケイ素繊維、炭化ケイ素連続繊維、炭化ケイ素ウィスカ、炭化ケイ素ウィスカシート等の炭化ケイ素系材料;ボロン繊維といったボロン系材料;Si−Ti−C−O繊維といったSi−Ti−C−O系材料;チタン酸カリウム繊維、チタン酸カリウムウィスカ、チタン酸カリウム系導電性ウィスカ等のチタン酸カリウム系材料;窒化ケイ素ウィスカ、窒化ケイ素ウィスカシート等の窒化ケイ素系材料;硫酸カルシウムウィスカといった硫酸カルシウム系材料を挙げることができる。
【0046】
また、粉系の充填剤、強化剤として、マイカフレーク、マイカ粉、シラスバルーン、シリカ微粉、タルク粉、水酸化アルミニウム粉、水酸化マグネシウム粉末、マグネシウムシリケート粉末、硫酸カルシウム微粉、球状中空ガラス粉、金属化粉、高純度合成シリカ微粉、二硫化タングステン粉末、タングステンカーバイト粉、ジルコニア微粉、ジルコニア系微粉末、部分安定化ジルコニア粉末、アルミナ−ジルコニア複合粉末、複合金属粉末、鉄粉、アルミニウム粉、モリブデン金属粉、タングステン粉、窒化アルミニウム粉末、ナイロン微粒子粉、シリコーン樹脂微粉末、スピネル粉末、アモルファス合金粉末、アルミフレーク、ガラスフレークを挙げることができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明の射出成形方法にあっては、加圧流体による保圧工程を行った後、溶融熱可塑性樹脂に形成された中空部内に第2の加圧流体導入部を介して加圧流体を導入し、中空部内に加圧流体を流しながらキャビティ内の熱可塑性樹脂を冷却、固化させる。それ故、キャビティ内の熱可塑性樹脂の冷却、固化に長時間を必要としない。しかも、キャビティ内の溶融熱可塑性樹脂の内部に中空部を形成し、保圧工程を行うので、溶融熱可塑性樹脂と第2の加圧流体導入部との密着性が格段に向上し、第2の加圧流体導入から確実に中空部に加圧流体を導入することができ、安定した成形品の射出成形を行うことができるし、成形品の形状精度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1の(A)及び(B)は、それぞれ、実施例1及び実施例2の金型組立体等の概念図である。
【図2】図2は、実施例1の中空部を有する成形品の射出成形方法を説明するための金型組立体の模式的な端面図である。
【図3】図3は、図2に引き続き、実施例1の中空部を有する成形品の射出成形方法を説明するための金型組立体等の模式的な端面図である。
【図4】図4は、図3に引き続き、実施例1の中空部を有する成形品の射出成形方法を説明するための金型組立体等の模式的な端面図である。
【図5】図5は、図4に引き続き、実施例1の中空部を有する成形品の射出成形方法を説明するための金型組立体等の模式的な端面図である。
【図6】図6は、実施例2の中空部を有する成形品の射出成形方法を説明するための金型組立体の模式的な端面図である。
【図7】図7は、図6に引き続き、実施例2の中空部を有する成形品の射出成形方法を説明するための金型組立体等の模式的な端面図である。
【図8】図8は、図7に引き続き、実施例2の中空部を有する成形品の射出成形方法を説明するための金型組立体等の模式的な端面図である。
【図9】図9は、図8に引き続き、実施例2の中空部を有する成形品の射出成形方法を説明するための金型組立体等の模式的な端面図である。
【図10】図10の(A)及び(B)は、それぞれ、実施例3及びその変形例の金型組立体等の概念図である。
【図11】図11は、実施例4の金型組立体等の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、図面を参照して、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではなく、実施例における種々の数値や材料は例示である。
【実施例1】
【0050】
実施例1は、本発明の射出成形方法、及び、本発明の金型組立体に関する。図1の(A)に実施例1の金型組立体等の概念図を示し、図2に実施例1の金型組立体の模式的な端面図を示し、図3、図4及び図5に射出成形を実行している途中の金型組立体等の模式的な端面図を示す。実施例1の射出成形方法によって得られる成形品は、具体的には、取っ手形成形品である。ここで、取っ手形成形品は、肉厚の握り部と、少なくとも1つの取付部とが一体となったものであり、握り部が成形品の最肉厚部に該当し、係る最肉厚部(握り部)には中空構造が設けられている。この取っ手形成形品は、その取付部において、自動車、電器製品あるいは建築物の扉等に取り付けられる。そして、使用者が握り部を握り、扉等の開閉を行う。取っ手形成形品はハンドル形状を有する。
【0051】
実施例1の金型組立体10は、
(A)第1の金型部(固定金型部)11、
(B)第2の金型部(可動金型部)12、
(C)第1の金型部11と第2の金型部12とを型締めすることで形成されるキャビティ14、
(D)キャビティ14に開口した溶融樹脂射出部13、並びに、
(E)少なくとも2つの(実施例1にあっては、具体的には、2つの)第1の加圧流体導入部21及び第2の加圧流体導入部22、
を備えている。
【0052】
そして、実施例1の金型組立体10は、溶融樹脂射出部13からキャビティ14内に溶融熱可塑性樹脂16を射出し、溶融熱可塑性樹脂16を射出中、又は、射出完了と同時、又は、射出完了後、キャビティ14内の溶融熱可塑性樹脂16に第1の加圧流体導入部21及び第2の加圧流体導入部22から加圧流体を導入することで、中空部17を有する成形品を成形するための金型組立体である。
【0053】
ここで、実施例1の金型組立体10にあっては、キャビティ14内に射出された溶融熱可塑性樹脂16の流動方向に沿って、且つ、成形品の最肉厚部(握り部)を成形するキャビティ14の部分を挟むように、流動方向上流側に第1の加圧流体導入部21、流動方向下流側に第2の加圧流体導入部22が配置されている。具体的には、流動方向上流側から下流側に向かって、溶融樹脂射出部13、第1の加圧流体導入部21、成形品の最肉厚部(握り部)を成形するキャビティ14の部分、第2の加圧流体導入部22の順で、これらが配置されている。尚、図2あるいは後述する図6において、成形品の最肉厚部(握り部)を成形するキャビティ14の部分を参照番号14Aで示し、成形品を構成する取っ手形成形品の取付部を成形するキャビティ14の部分を参照番号14Bで示す。また、第1の加圧流体導入部21は、第1の開閉弁41を介して加圧流体源30に接続されており、第2の加圧流体導入部22は、第2の開閉弁42を介して加圧流体源30に接続されており、第1の加圧流体導入部21は、第3の開閉弁43を介して加圧流体排出部に接続されている。尚、第3の開閉弁43は三方弁としての機能を有し、第3の開閉弁43を介して加圧流体を大気中に解放することができる。
【0054】
図1の(A)に概念図を示すように、第1の加圧流体導入部21(より具体的には、加圧流体導入ノズルの後端部)は、配管31を介して加圧流体源30に接続されている。配管31の途中には減圧弁45及び第1の開閉弁41が配されている。即ち、第1の加圧流体導入部21は、第1の開閉弁41を介して加圧流体源30に接続されている。ここで、減圧弁45の設定圧力を1.6×107Paとした。また、減圧弁45と第1の開閉弁41との間の配管31の部分から配管32が分岐されており、この配管32は、第2の加圧流体導入部22(より具体的には、加圧流体導入ノズルの後端部)に接続されている。配管32の途中には第2の開閉弁42が配されている。即ち、第2の加圧流体導入部22は、第2の開閉弁42を介して加圧流体源30に接続されている。第2の開閉弁42と第2の加圧流体導入部22との間の配管32の部分から配管34が分岐されており、この配管34は、加圧流体排出部へと繋がっている。配管34の途中には、第4の開閉弁44が配されている。更には、第1の開閉弁41と第1の加圧流体導入部21との間の配管31の部分から配管33が分岐されており、この配管33は、加圧流体排出部へと繋がっている。配管32には第3の開閉弁43、背圧弁46が配されている。即ち、第1の加圧流体導入部21は、第3の開閉弁43を介して加圧流体排出部に接続されている。ここで、背圧弁46の設定圧力を1.5×107Paとした。尚、加圧流体源30における加圧流体の圧力を2.0×107Paとした。
【0055】
また、実施例1の中空部を有する成形品の射出成形方法(実施例1の射出成形方法)は、
(A)第1の金型部(固定金型部)11、
(B)第2の金型部(可動金型部)12、
(C)第1の金型部11と第2の金型部12とを型締めすることで形成されるキャビティ14、
(D)キャビティ14に開口した溶融樹脂射出部13、並びに、
(E)少なくとも2つの(実施例1にあっては、具体的には、2つの)第1の加圧流体導入部21及び第2の加圧流体導入部22、
を備えており、中空部17を有する成形品を成形するために、キャビティ14内に射出された溶融熱可塑性樹脂16の流動方向に沿って、且つ、成形品の最肉厚部(握り部)を成形するキャビティ14の部分を挟むように、流動方向上流側に第1の加圧流体導入部21、流動方向下流側に第2の加圧流体導入部22が配置されている金型組立体10を用いた、中空部を有する成形品の射出成形方法である。
【0056】
ここで、実施例1において、溶融樹脂射出部13は、より具体的には、キャビティ14に開口したサイドゲート構造を有する。また、第1の加圧流体導入部21及び第2の加圧流体導入部22は、より具体的には、加圧流体導入ノズルから構成され、加圧流体導入ノズルの先端部がキャビティ14内に配置されるように配設されている。溶融樹脂射出部13は、樹脂流路13Aを介して射出用シリンダー(図示せず)に連通している。
【0057】
以下、図2〜図5を参照して、実施例1の射出成形方法を説明するが、実施例1、あるいは、後述する実施例2〜実施例4においては、熱可塑性樹脂として、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製ポリカーボネート樹脂(商品名:ユーピロンS−3000)を使用し、射出条件を以下の表1のとおりとした。
【0058】
[表1]
溶融樹脂温度:280゜C
金型温度 : 80゜C
射出時間 :6秒
【0059】
[工程−100]
先ず、キャビティ14内に溶融樹脂射出部13を介して溶融熱可塑性樹脂16を射出した。具体的には、第1の金型部11と第2の金型部12とを型締めする(図2参照)。そして、熱可塑性樹脂を図示しない射出用シリンダー内で可塑化・溶融、計量した後、射出用シリンダーから樹脂流路13A、溶融樹脂射出部13を介してキャビティ14に溶融熱可塑性樹脂16を射出した(図3参照)。キャビティ14の容積を96cm3、キャビティ14内に射出した溶融熱可塑性樹脂16の体積を65cm3とした。ここで、第1の開閉弁41、第2の開閉弁42及び第3の開閉弁43は閉状態である。また、第4の開閉弁44は、射出開始から10秒までは開状態とされ、それ以降は閉状態とされる。
【0060】
[工程−110]
次いで、溶融熱可塑性樹脂16の射出中、射出完了と同時、あるいは、射出完了後、キャビティ14内の溶融熱可塑性樹脂16に第1の加圧流体導入部21を介して加圧流体を導入して、キャビティ14内の溶融熱可塑性樹脂16の内部に中空部17を形成した(図4参照)。具体的には、実施例1にあっては、溶融熱可塑性樹脂16の射出完了と同時に、第1の開閉弁41を開状態とした。これによって、圧力1.6×107Paの窒素ガスから成る加圧流体が、加圧流体源30から、減圧弁45、第1の開閉弁41、第1の加圧流体導入部21を介して、キャビティ14内の溶融熱可塑性樹脂16に導入され続ける。図1の(A)には、この状態における加圧流体の流れる方向を、白抜きの矢印で示す。
【0061】
[工程−120]
そして、キャビティ14内の溶融熱可塑性樹脂16の内部に形成された中空部17を介して加圧流体による保圧を行った。保圧条件を以下の表2に例示する。保圧工程においては、第1の開閉弁41を開状態、第2の開閉弁42及び第3の開閉弁43を閉状態のままとした。表2中、保圧時間とは、加圧流体の導入開始から保圧工程が完了するまでの時間である。尚、実質的に、中空部を形成する工程が完了してから保圧工程が開始される。
【0062】
[表2]
保圧時間:5秒
保圧圧力:1.6×107Pa
【0063】
[工程−130]
保圧工程の終了後、第1の加圧流体導入部21を介した加圧流体の導入を中止し、溶融熱可塑性樹脂16に形成された中空部17内に第2の加圧流体導入部22を介して加圧流体を導入し、中空部17から第1の加圧流体導入部21を介して加圧流体を排出した(図5参照)。具体的には、第1の開閉弁41を閉状態とし、第2の開閉弁42及び第3の開閉弁43を開状態とした。より具体的には、第2の開閉弁42を開状態とした後に、第1の開閉弁41を閉状態とし、第3の開閉弁43を開状態とした。これによって、図1の(A)に黒色の矢印で示す加圧流体の流れが生じる。即ち、溶融熱可塑性樹脂16に形成された中空部17内に加圧流体源30から第2の加圧流体導入部22を介して加圧流体が導入され、中空部17から第1の加圧流体導入部21、第3の開閉弁43、背圧弁46を介して加圧流体が排出される。こうして、キャビティ14内の熱可塑性樹脂を冷却、固化させた。尚、この状態を50秒、継続させた。
【0064】
[工程−140]
こうして、第1の開閉弁41を閉状態とし、第2の開閉弁42及び第3の開閉弁43を開状態とした時点から50秒が経過した後、中空部17内の加圧流体を排出した。具体的には、第1の開閉弁41及び第2の開閉弁42を閉状態とし、三方弁である第3の開閉弁43を大気への解放状態とすることで、中空部17内の加圧流体を第1の加圧流体導入部21から第3の開閉弁43を経由して排出することができる。併せて、第4の開閉弁44を開状態とすることで、中空部17内の加圧流体を第2の加圧流体導入部22から排出することができる。その後、第1の金型部11と第2の金型部12とを型開きし、成形品を取り出した。
【0065】
得られた成形品(取っ手形成形品)には、ヒケが全く認められず、その内部には所望の中空部が形成されていた。
【0066】
尚、比較のために、[工程−130]と同様の工程において、加圧流体源30からの第1の加圧流体導入部21を介した加圧流体の導入を継続した。即ち、第1の開閉弁41を開状態、第2の開閉弁42及び第3の開閉弁43を閉状態のままとした。そして、50秒が経過した後、[工程−140]と同様にして、中空部内の加圧流体を排出した。得られた成形品(取っ手形成形品)にはヒケが認められた。そこで、[工程−130]と同様の工程の時間を延ばし、ヒケの発生状態を観察したところ、90秒とすることで、漸くヒケの発生を抑制することができた。即ち、[工程−130]と同様の工程の時間が、1.8倍、長くなった。云い換えれば、中空部17の内部に加圧流体を流し続けることで、中空部17において加圧流体を流さない場合と比べて、実施例1にあっては、熱可塑性樹脂の冷却、固化に要する時間を5/9倍に短縮することができた。
【0067】
即ち、実施例1の射出成形方法にあっては、保圧工程を行った後、第1の加圧流体導入部21を介した加圧流体の導入を中止し、溶融熱可塑性樹脂16に形成された中空部17内に第2の加圧流体導入部22を介して加圧流体を導入し、中空部17から第1の加圧流体導入部21を介して加圧流体を排出する。従って、キャビティ14内の熱可塑性樹脂を冷却、固化させるとき、中空部17の内部では加圧流体が流れている状態にあるので、キャビティ14内の熱可塑性樹脂の冷却、固化時間の短縮化を図ることができる。しかも、キャビティ14内の溶融熱可塑性樹脂16の内部に中空部17を形成し、保圧工程を行うので、溶融熱可塑性樹脂が確実に第2の加圧流体導入部22まで達し、溶融熱可塑性樹脂と第2の加圧流体導入部22の密着性が格段に向上し、加圧流体を第2の加圧流体導入部22から中空部17に確実に導入することができる。その結果、安定した成形品の射出成形を行うことができるし、成形品の形状精度の向上を図ることができる。
【実施例2】
【0068】
実施例2は、実施例1の変形である。実施例2にあっては、図1の(B)に概念図を示し、図6に実施例2の金型組立体の模式的な端面図を示し、図6〜図9に射出成形を実行している途中の金型組立体の模式的な端面図を示すように、キャビティ14内に射出された溶融熱可塑性樹脂の流動方向の末端には、キャビティ14に連通し、キャビティ14から溶融熱可塑性樹脂が流入するオーバーフローキャビティ15が設けられている。そして、第2の加圧流体導入部22は、オーバーフローキャビティ15に配置されている。また、実施例2にあっては、溶融熱可塑性樹脂と接する第2の加圧流体導入部22の部分を加熱する加熱手段23(例えば、電気ヒータ)を、第2の加圧流体導入部22は備えている。
【0069】
以下、図6〜図9を参照して、実施例2の射出成形方法を説明する。
【0070】
[工程−200]
先ず、実施例1の[工程−100]と同様にして、キャビティ14内に溶融樹脂射出部13を介して溶融熱可塑性樹脂16を射出した。具体的には、第1の金型部11と第2の金型部12とを型締めする(図6参照)。そして、熱可塑性樹脂を図示しない射出用シリンダー内で可塑化・溶融、計量した後、射出用シリンダーから樹脂流路13A、溶融樹脂射出部13を介してキャビティ14に溶融熱可塑性樹脂16を射出した(図7参照)。キャビティ14の容積を96cm3、オーバーフローキャビティ15の容積を30cm3、キャビティ14内に射出した溶融熱可塑性樹脂16の体積を96cm3とした。ここで、第1の開閉弁41、第2の開閉弁42及び第3の開閉弁43は閉状態である。また、第4の開閉弁44は、射出開始から10秒までは開状態とされ、それ以降は閉状態とされる。
【0071】
[工程−210]
次いで、実施例1の[工程−110]と同様に、溶融熱可塑性樹脂16の射出完了と同時に、キャビティ14内の溶融熱可塑性樹脂16に加圧流体源30から第1の加圧流体導入部21を介して加圧流体を導入して、キャビティ14内の溶融熱可塑性樹脂16の内部に中空部17を形成した(図8参照)。尚、図1の(B)には、加圧流体の流れる方向を白抜きの矢印で示す。そして、実施例1の[工程−120]と同様にして、キャビティ14内の溶融熱可塑性樹脂16の内部に形成された中空部17を介して加圧流体による保圧を行った。その後、実施例1の[工程−130]と同様にして、加圧流体源30からの第1の加圧流体導入部21を介した加圧流体の導入を中止し、溶融熱可塑性樹脂16に形成された中空部17内に加圧流体源30から第2の加圧流体導入部22を介して加圧流体を導入し、中空部17から第1の加圧流体導入部21を介して加圧流体を排出しながら、キャビティ14及びオーバーフローキャビティ15内の熱可塑性樹脂を冷却、固化させた(図9参照)。尚、これによって、図1の(B)に黒色の矢印で示す加圧流体の流れが生じる。その後、実施例1の[工程−140]と同様にして、中空部内の加圧流体を排出し、第1の金型部11と第2の金型部12とを型開きし、成形品を取り出した。
【0072】
得られた成形品(取っ手形成形品)には、ヒケが全く認められず、その内部には所望の中空部が形成されていた。ここで、得られた成形品のオーバーフローキャビティによって成形された部分をキャビティによって成形された部分から例えば切り離し、キャビティによって成形された部分を最終製品とすればよい。
【実施例3】
【0073】
実施例3は実施例1の変形である。図10の(A)に金型組立体等の概念図を示すように、実施例3の金型組立体にあっては、加圧流体排出部の下流に加圧流体保存容器(加圧流体保存タンク)50を備えている。尚、加圧流体保存容器50に保存された加圧流体は、最終的に加圧流体源30に搬送して、再度、使用すればよい。
【0074】
あるいは又、これらに加えて、図10の(B)の概念図に示すように、第2の開閉弁42の下流の配管32に、冷却手段51を配設する構成とすることもできる。冷却手段51を配設することによって、実施例1の[工程−130]と同様の工程において、冷却された加圧流体を中空部17内に流すことができ、一層、効果的に、キャビティ14内の熱可塑性樹脂を冷却、固化させることができる。尚、冷却手段51はラジエータ構造を有する。具体的には、フィンを多く有する配管中を加圧流体を通過させ、フィンの熱を室温の空気を介して放熱させる構造を有する。
【0075】
以上の点を除き、実施例3の金型組立体は実施例1の金型組立体と同様とすることができるので、詳細な説明は省略する。尚、実施例3の金型組立体の構成、構造を、実施例2に適用することができる。また、冷却手段51を、実施例1あるいは実施例2の金型組立体に適用することもできる。
【実施例4】
【0076】
実施例4も実施例1の変形である。図11に金型組立体等の概念図を示すように、実施例4の金型組立体にあっては、第2の加圧流体導入部22は、第2の開閉弁42を介して加圧流体源30に接続されている代わりに、第2の開閉弁42を介して加圧流体循環手段に接続されている。また、第1の加圧流体導入部21は、第3の開閉弁43、背圧弁46を介して加圧流体循環手段に接続されている。尚、第1の加圧流体導入部21は、第1の開閉弁41を介して加圧流体源30に接続されている点は、実施例1と同じである。
【0077】
加圧流体循環手段は、加圧流体バッファタンク61及び循環用コンプレッサ62から構成され、更に、冷却手段63を備えている。より具体的には、加圧流体バッファタンク61と循環用コンプレッサ62とは配管で結ばれており、循環用コンプレッサ62と第2の加圧流体導入部22とは第2の開閉弁42を介して配管32で結ばれている。また、第1の加圧流体導入部21と加圧流体バッファタンク61とは第3の開閉弁43、背圧弁46を介して配管33で結ばれている。尚、循環用コンプレッサ62と第2の開閉弁42との間に、冷却手段63が設けられている。このような構成とすることで、加圧流体バッファタンク61からの加圧流体が、循環用コンプレッサ62、冷却手段63、第2の開閉弁42、第2の加圧流体導入部22、第1の加圧流体導入部21、第3の開閉弁43、及び、背圧弁46を経由して加圧流体バッファタンク61に戻されるという加圧流体の循環系が形成される。ここで、背圧弁46が配設されているので、中空部の加圧流体の圧力を制御しながら、第2の加圧流体導入部22から第1の加圧流体導入部21へと加圧流体を流すことができる。具体的には、(第2の加圧流体導入部22に導入される加圧流体の圧力)>(背圧弁46の設定圧力)に設定し、加圧流体を第1の加圧流体導入部21から排出しながら中空部の圧力を参照して循環用コンプレッサ62の運転を制御する。
【0078】
以上の点を除き、実施例4の金型組立体は実施例1の金型組立体と同様とすることができるので、詳細な説明は省略する。尚、実施例4の金型組立体の構成、構造を、実施例2に適用することができる。
【0079】
実施例4の金型組立体を用いて、成形品を射出成形する場合、先ず、実施例1の[工程−100]〜[工程−120]を実行する。尚、これらの工程においては、加圧流体循環手段を不作動状態としたままとする。
【0080】
次いで、実施例1の[工程−130]と同様の工程において、加圧流体源30からの第1の加圧流体導入部21を介した加圧流体の導入を中止し、加圧流体循環手段を作動状態として、加圧流体循環手段から第2の加圧流体導入部22を介して中空部17へ加圧流体を流し、第1の加圧流体導入部21から加圧流体循環手段へと加圧流体を戻しながら、キャビティ14内の熱可塑性樹脂を冷却、固化させる。
【0081】
具体的には、保圧工程の完了と同時に、第1の開閉弁41を閉じ、第2の開閉弁42及び第3の開閉弁43を開く。より具体的には、第2の開閉弁42を開状態とした後に、第1の開閉弁41を閉状態とし、第3の開閉弁43を開状態とした。そして、加圧流体バッファタンク61に蓄えられていた加圧流体(具体的には、圧力1.0×107Paの窒素ガス)を循環用コンプレッサ62によって圧力1.6×107Paまで昇圧し、冷却手段63を通過させて約24゜Cとし、第2の開閉弁42を介して第2の加圧流体導入部22から中空部17へ加圧流体を流した。そして、第1の加圧流体導入部21から加圧流体を、第3の開閉弁43、背圧弁46を介して、加圧流体バッファタンク61に戻した。尚、中空部17内の加圧流体の圧力が1.5×107Paとなるように背圧弁46が調整されており、更には、循環用コンプレッサ62の運転が制御される。
【0082】
キャビティ14内の熱可塑性樹脂が冷却、固化されたならば、加圧流体循環手段を不作動状態として(具体的には、第2の開閉弁42を閉状態とし)、循環用コンプレッサ62の運転を停止し、第3の開閉弁43を大気への解放状態として、中空部17内の加圧流体を第3の開閉弁43を介して大気中に排出した。併せて、第4の開閉弁44を開状態とすることで、中空部17内の加圧流体を第2の加圧流体導入部22から排出することができる。その後、第1の金型部と第2の金型部とを型開きし、成形品を取り出す。こうして、内部に中空部が形成された熱可塑性樹脂製の成形品を成形することができる。
【0083】
以上、本発明を好ましい実施例に基づき説明したが、本発明はこれらの実施例に限定するものではない。実施例にて説明した金型組立体の構造、構成、実施例にて使用した熱可塑性樹脂、射出成形条件、成形品の形状やキャビティの寸法等は例示であり、適宜変更することができる。実施例においては、金型組立体の構成を、成形品を1個取りとしたが、多数個取りとすることもできる。実施例1においても、溶融熱可塑性樹脂と接する第2の加圧流体導入部の部分を加熱する加熱手段(例えば、電気ヒータ)を、第2の加圧流体導入部は備えていてもよい。
【符号の説明】
【0084】
10・・・金型組立体、11・・・第1の金型部(固定金型部)、12・・・第2の金型部(可動金型部)、13・・・溶融樹脂射出部、13A・・・樹脂流路、14・・・キャビティ、15・・・オーバーフローキャビティ、16・・・溶融熱可塑性樹脂、17・・・中空部、20・・・第1の加圧流体導入部、21・・・第2の加圧流体導入部、23・・・加熱手段、30・・・加圧流体源、31,32,33,34・・・配管、41・・・第1の開閉弁、42・・・第2の開閉弁、43・・・第3の開閉弁、44・・・第4の開閉弁、45・・・減圧弁、46・・・背圧弁、50・・・加圧流体保存容器(加圧流体保存タンク)、51・・・冷却手段、61・・・加圧流体バッファタンク、62・・・循環用コンプレッサ、63・・・冷却手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)第1の金型部、
(B)第2の金型部、
(C)第1の金型部と第2の金型部とを型締めすることで形成されるキャビティ、
(D)キャビティに開口した溶融樹脂射出部、並びに、
(E)少なくとも2つの第1の加圧流体導入部及び第2の加圧流体導入部、
を備えており、中空部を有する成形品を成形するために、キャビティ内に射出された溶融熱可塑性樹脂の流動方向に沿って、且つ、成形品の最肉厚部を成形するキャビティの部分を挟むように、流動方向上流側に第1の加圧流体導入部、流動方向下流側に第2の加圧流体導入部が配置されている金型組立体を用いた、中空部を有する成形品の射出成形方法であって、
(a)キャビティ内に溶融樹脂射出部を介して溶融熱可塑性樹脂を射出し、
(b)溶融熱可塑性樹脂の射出中、射出完了と同時、あるいは、射出完了後、キャビティ内の溶融熱可塑性樹脂に第1の加圧流体導入部を介して加圧流体を導入して、キャビティ内の溶融熱可塑性樹脂の内部に中空部を形成し、
(c)キャビティ内の溶融熱可塑性樹脂に加圧流体による保圧を行い、次いで、
(d)溶融熱可塑性樹脂に形成された中空部内に第2の加圧流体導入部を介して加圧流体を導入し、次いで、
(e)中空部内に加圧流体を流しながらキャビティ内の熱可塑性樹脂を冷却、固化させた後、
(f)中空部内の加圧流体を排出し、第1の金型部と第2の金型部とを型開きし、成形品を取り出す、
各工程から成ることを特徴とする、中空部を有する成形品の射出成形方法。
【請求項2】
第1の加圧流体導入部は、第1の開閉弁を介して加圧流体源に接続されており、
第2の加圧流体導入部は、第2の開閉弁を介して加圧流体源に接続されており、
第1の加圧流体導入部は、第3の開閉弁を介して加圧流体排出部に接続されており、
前記工程(a)においては、第1の開閉弁、第2の開閉弁及び第3の開閉弁を閉状態とし、
前記工程(b)及び工程(c)においては、第1の開閉弁を開状態とし、第2の開閉弁及び第3の開閉弁を閉状態とし、
前記工程(d)及び工程(e)においては、第1の開閉弁を閉状態とし、第2の開閉弁及び第3の開閉弁を開状態とすることを特徴とする請求項1に記載の中空部を有する成形品の射出成形方法。
【請求項3】
前記工程(d)及び工程(e)においては、更に、第2の開閉弁を開状態とした後に、第1の開閉弁を閉状態とし、第3の開閉弁を開状態とすることを特徴とする請求項2に記載の中空部を有する成形品の射出成形方法。
【請求項4】
第1の加圧流体導入部は、第1の開閉弁を介して加圧流体源に接続されており、
第2の加圧流体導入部は、第2の開閉弁を介して加圧流体循環手段に接続されており、
第1の加圧流体導入部は、第3の開閉弁を介して加圧流体循環手段に接続されており、
前記工程(a)においては、第1の開閉弁、第2の開閉弁及び第3の開閉弁を閉状態とし、
前記工程(b)及び工程(c)においては、第1の開閉弁を開状態とし、第2の開閉弁及び第3の開閉弁を閉状態とし、
前記工程(d)及び工程(e)においては、第1の開閉弁を閉状態とし、第2の開閉弁及び第3の開閉弁を開状態とすることを特徴とする請求項1に記載の中空部を有する成形品の射出成形方法。
【請求項5】
前記工程(d)及び工程(e)においては、更に、第2の開閉弁を開状態とした後に、第1の開閉弁を閉状態とし、第3の開閉弁を開状態とすることを特徴とする請求項4に記載の中空部を有する成形品の射出成形方法。
【請求項6】
流動方向上流側から下流側に向かって、溶融樹脂射出部、第1の加圧流体導入部、成形品の最肉厚部を成形するキャビティの部分、第2の加圧流体導入部の順で、これらが配置されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の中空部を有する成形品の射出成形方法。
【請求項7】
キャビティ内に射出された溶融熱可塑性樹脂の流動方向の末端には、キャビティに連通し、キャビティから溶融熱可塑性樹脂が流入するオーバーフローキャビティが設けられており、
第2の加圧流体導入部は、オーバーフローキャビティに配置されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の中空部を有する成形品の射出成形方法。
【請求項8】
溶融熱可塑性樹脂と接する第2の加圧流体導入部の部分を加熱する加熱手段を、第2の加圧流体導入部は備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の中空部を有する成形品の射出成形方法。
【請求項9】
(A)第1の金型部、
(B)第2の金型部、
(C)第1の金型部と第2の金型部とを型締めすることで形成されるキャビティ、
(D)キャビティに開口した溶融樹脂射出部、並びに、
(E)少なくとも2つの第1の加圧流体導入部及び第2の加圧流体導入部、
を備えており、
溶融樹脂射出部からキャビティ内に溶融熱可塑性樹脂を射出し、溶融熱可塑性樹脂を射出中、又は、射出完了と同時、又は、射出完了後、キャビティ内の溶融熱可塑性樹脂に第1の加圧流体導入部及び第2の加圧流体導入部から加圧流体を導入することで、中空部を有する成形品を成形するための金型組立体であって、
キャビティ内に射出された溶融熱可塑性樹脂の流動方向に沿って、且つ、成形品の最肉厚部を成形するキャビティの部分を挟むように、流動方向上流側に第1の加圧流体導入部、流動方向下流側に第2の加圧流体導入部が配置されており、
第1の加圧流体導入部は、第1の開閉弁を介して加圧流体源に接続されており、
第2の加圧流体導入部は、第2の開閉弁を介して加圧流体源に接続されており、
第1の加圧流体導入部は、第3の開閉弁を介して加圧流体排出部に接続されていることを特徴とする金型組立体。
【請求項10】
第2の加圧流体導入部は、第2の開閉弁を介して加圧流体源に接続されている代わりに、第2の開閉弁を介して加圧流体循環手段に接続されており、
第1の加圧流体導入部は、第3の開閉弁を介して加圧流体排出部に接続されている代わりに、第3の開閉弁を介して加圧流体循環手段に接続されていることを特徴とする請求項9に記載の金型組立体。
【請求項11】
流動方向上流側から下流側に向かって、溶融樹脂射出部、第1の加圧流体導入部、成形品の最肉厚部を成形するキャビティの部分、第2の加圧流体導入部の順で、これらが配置されていることを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の金型組立体。
【請求項12】
キャビティ内に射出された溶融熱可塑性樹脂の流動方向の末端には、キャビティに連通し、キャビティから溶融熱可塑性樹脂が流入するオーバーフローキャビティが設けられており、
第2の加圧流体導入部は、オーバーフローキャビティに配置されていることを特徴とする請求項9乃至請求項11のいずれか1項に記載の金型組立体。
【請求項13】
溶融熱可塑性樹脂と接する第2の加圧流体導入部の部分を加熱する加熱手段を、第2の加圧流体導入部は備えていることを特徴とする請求項9乃至請求項12のいずれか1項に記載の金型組立体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2010−274515(P2010−274515A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128997(P2009−128997)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【出願人】(000155067)株式会社ホンダロック (164)
【Fターム(参考)】