説明

中空重合体粒子を含有する水性分散液、その製造方法及び内添紙の製造方法

【課題】内添紙用に適用した場合に、白色度及び不透明度が高い内添紙を与え、分散安定性が高い中空重合体粒子を含む水性分散液とその製造方法を提供する。
【解決手段】モノエチレン性不飽和単量体97〜100質量%及び酸性基含有重合体3〜0質量%からなる単量体又は単量体混合物(c)を、中間層(B)で包囲されたコア重合体粒子(A)の存在下に、特定の界面活性剤を用いて重合又は共重合して、中間層(B)を実質的に包囲する外層(C)を形成する工程を含む、中空重合体粒子を含有する水性分散液の製造方法であり、更に水溶性カチオン性樹脂を混合する工程を実施する水性分散液の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内添紙用に適用した場合に、白色度及び不透明度が高い内添紙を与え、分散安定性が高い中空重合体粒子を含む水性分散液とその製造方法、当該水性分散液を使用する内添紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中空重合体粒子は、粒子中に密実均一に重合体が充填された重合体粒子よりも、光を散乱させ、光の透過性を低くするので、不透明度、白色度等の光学的性質に優れる有機顔料、隠蔽剤として、水系塗料、紙塗被組成物等の用途で使用されている。塩基を、少なくとも3層構造を有する重合体粒子を含有する水性分散液に添加して、中空重合体粒子を含有する水性分散液を調製し、次いで、当該中空重合体粒子表面にカチオン性を示す官能基を導入して、良好な不透明度、白色度、吸水性、インク転位性等の特性を示す中空重合体粒子を含有する水性分散液が検討された(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−279639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、中空重合体粒子を含む水性分散液を含有する填料をパルプスラリーに添加して内添紙を抄造する際、白色度及び不透明度が高い内添紙を与え、分散安定性が高い水性分散液が希求されている。しかしながら、このような特性を有する中空重合体粒子を含む水性分散液は得られていなかった。
本発明が解決しようとする課題は、内添紙用に適用した場合に、白色度及び不透明度が高い内添紙を与え、分散安定性が高い中空重合体粒子を含む水性分散液とその製造方法の提供である。更に、本発明が解決しようとする別の課題は、当該水性分散液を使用する内添紙の製造方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の発明者は、上記課題を解決するため、中空重合体粒子を含む水性分散液の製造方法を鋭意検討した結果、モノエチレン性不飽和単量体97〜100質量%及び酸性基含有重合体3〜0質量%からなる単量体又は単量体混合物を、 中間層で包囲されたコア重合体粒子の存在下に、特定の界面活性剤を用いて重合又は共重合して、中間層を実質的に包囲する外層を形成し、その後、塩基を、コア重合体粒子、中間層及び外層の少なくとも3層構造を有する重合体粒子を含有する水性分散液に添加し、当該水性分散液のpHを7以上にして中空重合体粒子を含有する水性分散液を調製し、次いで、前記水性分散液のpHを酸性にした状態で、水溶性カチオン性樹脂を混合する工程を実施する水性分散液の製造方法が、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
本発明は、(1)酸性基含有単量体20〜60質量%及びこれと共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体80〜40質量%からなる単量体混合物(a)を共重合してコア重合体粒子(A)を調製する工程、
(2)モノエチレン性不飽和単量体88〜100質量%及び酸性基含有重合体12〜0質量%からなる単量体又は単量体混合物(b)を、コア重合体粒子(A)の存在下に重合又は共重合して、 コア重合体粒子(A)を実質的に包囲する中間層(B)を形成する工程、
(3)モノエチレン性不飽和単量体97〜100質量%及び酸性基含有重合体3〜0質量%からなる単量体又は単量体混合物(c)を、中間層(B)で包囲されたコア重合体粒子(A)の存在下に、下記一般式(I)で示される界面活性剤を用いて重合又は共重合して、中間層(B)を実質的に包囲する外層(C)を形成する工程、
R−O−(CH2CH2O)n−SO3M (I)
(式中、Rは炭素数8〜20のアルキル基又はアルケニル基であり、Mはアルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンであり、nは20〜70の整数である。)
(4)塩基を、コア重合体粒子(A)、中間層(B)及び外層(C)の少なくとも3層構造を有する重合体粒子を含有する水性分散液に添加し、当該水性分散液のpHを7以上にして中空重合体粒子を含有する水性分散液を調製する工程、
(5)前記水性分散液のpHを酸性にした状態で、水溶性カチオン性樹脂を混合する工程を実施する水性分散液の製造方法を提供する。
【0007】
また、本発明は、上記水性分散液の製造方法で製造された水性分散液を提供する。
さらに、本発明は、上記水性分散液を含有する填料をパルプスラリーに添加して抄造する工程を実施する内添紙の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水性分散液は、内添紙用に適用した場合に、白色度及び不透明度が高い内添紙を与え、その分散安定性は高い。
【発明を実施するための形態】
【0009】
コア重合体粒子(A)
本発明の水性分散液の製造方法で調製されるコア重合体粒子(A)は、酸性基含有単量体及びこれと重合可能なモノエチレン性不飽和単量体からなる単量体混合物(a)を共重合して得られる。
酸性基含有単量体は、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスフィニル基等の酸基を有するエチレン性不飽和単量体であり、特定の単量体に限定されない。エチレン性不飽和酸単量体の具体例は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体、エチレン性不飽和スルホン酸単量体、エチレン性不飽和リン酸単量体等である。
エチレン性不飽和カルボン酸単量体の具体例は、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などの不飽和モノカルボン酸;フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、メタコン酸、グルタコン酸、イタコン酸、テトラヒドロフタル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ナジック酸、ブテントリカルボン酸などの不飽和多価カルボン酸;フマル酸モノブチル、マレイン酸モノエチル、イタコン酸モノメチルなどのエチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステル化物等である。
【0010】
エチレン性不飽和スルホン酸単量体の具体例は、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリルスルホン酸、(メタ)アクリル酸−2−スルホン酸エチル、2−アクリルアミド−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸等である。
エチレン性不飽和リン酸単量体の具体例は、(メタ)アクリル酸−3−クロロ−2−リン酸プロピル、(メタ)アクリル酸−2−リン酸エチル、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンリン酸等である。
上記酸性基含有単量体のアルカリ金属塩又はアンモニウム塩も用い得る。上記酸性基含有単量体1種又は2種以上の組み合わせを用いる。
【0011】
好ましい酸性基含有単量体はエチレン性不飽和カルボン酸であり、更に好ましい酸性基含有単量体はエチレン性不飽和モノカルボン酸である。特に好ましい酸性基含有単量体はメタクリル酸である。
単量体混合物(a)中の酸性基含有単量体の使用割合は20〜60質量%であり、好ましくは25〜50質量%であり、更に好ましくは30〜40質量%である。当該使用割合が20質量%より少ない場合、中空部分を重合体粒子中に形成しにくくなる。一方、当該使用割合が60質量%より多い場合、酸性基がコア重合体粒子の表面に局在し、中間層(B)を形成しにくくなる。
【0012】
酸性基含有単量体と共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体の具体例は、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ハロゲン化スチレンなどの芳香族ビニル単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのエチレン性不飽和ニトリル単量体;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどのエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)ア
クリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどのエチレン性不飽和カルボン酸アミド単量体;ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエン単量体;酢酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル単量体;塩化ビニルなどのハロゲン化ビニル単量体;塩化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン単量体;ビニルピリジン;等である。1種又は2種以上の単量体が使用される。好ましい単量体は、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体であり、更に好ましい単量体はメチル(メタ)アクリレート及びブチル(メタ)アクリレートである。
【0013】
好ましいコア重合体粒子(A)は、メチルメタクリレート35〜77質量%、ブチルアクリレート3〜15質量%及びメタクリル酸20〜50質量%からなる単量体混合物から形成される。より好ましいコア重合体粒子(A)は、メチルメタクリレート42〜71質量%、ブチルアクリレート4〜13質量%及びメタクリル酸25〜45質量%からなる単量体混合物から形成される。更に好ましいコア重合体粒子(A)は、メチルメタクリレート50〜65質量%、ブチルアクリレート5〜10質量%及びメタクリル酸30〜40質量%からなる単量体混合物から形成される。
【0014】
ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの架橋性単量体が、当該単量体混合物(a)の共重合時に使用され得る。ただし、多量の架橋性単量体が使用されると、当該コア重合体粒子内部の空隙の形成が困難になるので、その量は安定な空隙形成が維持できる範囲にとどめられる必要がある。
【0015】
単量体混合物(a)の共重合は、通常、水性媒体中で行なわれる。通常、水が水性媒体として用いられ、製造時の重合体粒子の分散安定性を損なわない範囲で、メタノール、エタノールなどの水溶性有機溶媒も併用され得る。水性媒体の使用量は、単量体混合物(a)100質量部に対して、通常、100〜1000質量部、好ましくは200〜600質量部である。水性媒体の使用量が少なすぎると、重合時の凝集物発生量が増加する傾向にあり、水性媒体の使用量が多すぎると、中空重合体粒子の生産性が劣る傾向にある。
【0016】
当該単量体混合物(a)の共重合方法は、通常、乳化重合法である。重合方式は、回分式、半連続式、連続式のいずれの方式でもよい。重合圧力、重合温度および重合時間は格別限定されず、公知の条件が採られる。
乳化重合反応に一般に使用される、例えば、界面活性剤、重合開始剤、連鎖移動剤、キレート剤、電解質、脱酸素剤などの各種添加剤が、重合用副資材として使用され得る。
【0017】
当該単量体混合物(a)の共重合時に使用される界面活性剤としては、一般に公知の界面活性剤が併用され得る。具体的には、ロジン酸カリウム、ロジン酸ナトリウム等のロジン酸塩;オレイン酸カリウム、ラウリン酸カリウム、ラウリン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム等の脂肪酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム等の脂肪族アルコールの硫酸エステル塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルアリルスルホン酸;などのアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウムなどのアルキルエーテル硫酸塩;ポリエチレングリコールのアルキルエステル、アルキルエーテル又はアルキルフェニルエーテルなどのノニオン性界面活性剤、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等の親水性合成高分子物質;ゼラチン、水溶性でんぷん等の天然親水性高分子物質;カルボキシメチルセルロース等の親水性半合成高分子物質;などの分散安定剤などが挙げられる。
これらの界面活性剤は、1種又は2種以上が使用される。
中でも、重合安定性が良好であるため、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウムなどのアルキルエーテル硫酸塩が好ましい。
界面活性剤の使用量は、当該単量体混合物(a)の全量に対して、0.1〜5質量%、好ましくは0.5〜3質量%である。この使用量が過小であると凝集物が生成し易く、逆に過大であると中空重合体粒子の空隙率が低くなる。
【0018】
当該単量体混合物(a)の共重合は、望ましくは、シードの存在下で行われる。シードの使用は、生成する重合体粒子の径の制御を容易にする。シードの組成は格別限定されない。重合反応における単量体混合物(a)の重合転化率は、通常、90質量%以上、好ましくは97質量%以上である。生成する共重合体の組成は、単量体混合物(a)の組成とほぼ同じである。
【0019】
界面活性剤の添加方法は、特に限定されない。当該界面活性剤は、反応器に一括で、分割して、又は連続的に添加される。製造時の凝集物発生量がより少なくなる点で、好ましくは、界面活性剤が反応系に連続的に添加される。単量体混合物(a)と界面活性剤は、混合して反応系に添加されても、別々に反応系に添加されてもよい。好ましくは、単量体混合物(a)と上記界面活性剤と水性媒体が混合されて得られる乳化物が、反応系に添加される。
【0020】
単量体混合物(a)は、好ましくは、少量の無機塩の存在下に共重合される。界面活性剤と無機塩が併用されると、凝集物の生成が抑制され、粒径分布が狭い中空重合体粒子を含む水性分散液が得られる。
無機塩は、特に限定されない。無機塩の具体例は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硝酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩;塩化カルシウム、硫酸バリウムなどのアルカリ土類金属塩;硫酸アルミニウム、塩化アルミニウムである。なかでも、アルカリ金属塩が好ましく、トリポリリン酸ナトリウムがより好ましい。
【0021】
無機塩の使用量は、単量体混合物(a)の全量に対して、0.01〜1質量%、好ましくは0.05〜0.5質量%である。使用量が過小であると、その効果が発現しにくく、逆に過大であると、凝集物の発生が助長される傾向にある。無機塩の添加方法は、特に限定されない。無機塩は、反応系に一括で、分割して、又は連続的に添加される。
【0022】
コア重合体粒子(A)の酸性基含有単量体単位の半径方向の分布は、特に限定されない。単量体混合物(a)の組成が逐次変化させられて重合反応系に添加されながら、共重合が行われ得る。このような重合方法によって、酸性基含有単量体単位の含有量の半径方向の分布がコア重合体粒子(A)中に生じる場合、酸性基含有単量体単位の最も少ない部分が、当該部分を形成する全単量体単位に対して酸性基含有単量体単位を10質量%以上、好ましくは15質量%以上含有する。この割合が10質量%未満では、中空重合体粒子の空隙の中に小粒子が生成し、空隙率が低くなることがある。
【0023】
コア重合体(A)の体積平均粒子径は、好ましくは100〜600nm、より好ましくは250〜500nmである。この粒子径が小さすぎると、空隙率が高くかつ粒子径が大きい中空重合体粒子の製造が困難になる傾向があり、逆に当該粒子径が大きすぎると、中間層(B)によるコア重合体粒子(A)の被覆が困難になり、コア重合体粒子(A)内の空隙の形成が困難になる傾向がある。
【0024】
中間層(B)
中間層(B)は、実質的にコア重合体粒子(A)を包囲している。モノエチレン性不飽和単量体88〜100質量%及び酸性基含有重合体12〜0質量%からなる単量体又は単量体混合物(b)が、当該コア重合体粒子(A)の存在下で共重合され、当該コア重合体粒子(A)を実質的に包囲する中間層(B)が形成される。
【0025】
単量体混合物(b)に含まれる酸性基含有単量体は、単量体混合物(a)に含まれる酸性基含有単量体と同様である。単量体混合物(b)に含まれる好ましい酸性基含有単量体はエチレン性不飽和モノカルボン酸であり、より好ましい当該酸性基含有単量体はアクリル酸及びメタクリル酸である。
単量体又は単量体混合物(b)に含まれるモノエチレン性不飽和単量体は、単量体混合物(a)に含まれるモノエチレン性不飽和単量体と同様である。
【0026】
好ましい中間層(B)は、メチルメタクリレート68〜89質量%、ブチルアクリレート10〜22質量%、メタクリル酸及び/又はアクリル酸1〜10質量%からなる単量体混合物から形成され、より好ましい中間層(B)は、メチルメタクリレート71〜85質量%、ブチルアクリレート12〜20質量%、メタクリル酸及び/又はアクリル酸3〜9質量%からなる単量体混合物から形成され、更に好ましい中間層(B)は、メチルメタクリレート74〜81質量%、ブチルアクリレート14〜18質量%、メタクリル酸及び/又はアクリル酸5〜8質量%からなる単量体混合物から形成される。
【0027】
単量体又は単量体混合物(b)の共重合は、単量体又は単量体混合物(b)の全量に対して、連鎖移動剤が、好ましくは0.1〜2質量%、より好ましくは0.1〜1.5質量%、特に好ましくは0.2〜1質量%の存在下に行なわれる。連鎖移動剤の量が過小であると、得られる中空重合体粒子の空隙率が低くなる傾向にあり、逆に連鎖移動剤の量が過大になると、重合時の凝集物発生量が増加する傾向があるだけでなく、空隙率も低くなる傾向にある。
【0028】
一般の乳化重合に使用されている公知の連鎖移動剤が使用される。連鎖移動剤の具体例は、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、t−テトラデシルメルカプタンなどのメルカプタン類;ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィドなどのキサントゲンジスルフィド類;テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィドなどのチウラムジスルフィド類;四塩化炭素、四臭化炭素
などのハロゲン化炭化水素類;ジフェニルエチレン、ペンタフェニルエタン、α−メチルスチレンダイマーなどの炭化水素類;アクロレイン、メタクロレイン、アリルアルコール、2−エチルヘキシルチオグリコレート、ターピノーレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、ジペンテンである。1種又は2種以上の連鎖移動剤が使用される。好ましい連鎖移動剤はメルカプタン類およびα−メチルスチレンダイマーであり、より好ましい連鎖移動剤はメルカプタン類であり、特に好ましい連鎖移動剤はt−ドデシルメルカプタンである。
【0029】
外層(C)
外層(C)は、実質的に中間層(B)を包囲している。モノエチレン性不飽和単量体97〜100質量%及び酸性基含有重合体3〜0質量%からなる単量体又は単量体混合物(c)が、当該中間層(B)により実質的に包囲された当該コア重合体粒子(A)の存在下で重合又は共重合され、当該中間層(B)を実質的に包囲する外層(C)が形成される。
【0030】
単量体又は単量体混合物(c)に含まれる酸性基含有単量体は、単量体混合物(a)に含まれる酸性基含有単量体と同様である。単量体又は単量体混合物(c)に含まれるモノエチレン性不飽和単量体は、単量体混合物(a)に含まれるモノエチレン性不飽和単量体と同様である。好ましい当該単量体は芳香族ビニル単量体、エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体であり、より好ましい当該単量体はスチレンである。芳香族ビニル単量体以外の単量体が併用される場合、好ましくは、単量体混合物(c)に含まれる単量体の全量に対し90質量%以上の芳香族ビニル単量体が使用される。
【0031】
好ましい外層(C)は、メタクリル酸及び/又はアクリル酸0〜2.2質量%及びスチレン97.8〜100質量%からなる単量体混合物から形成され、より好ましい外層(C)は、メタクリル酸及び/又はアクリル酸0〜1.8質量%及びスチレン98.2〜100質量%からなる単量体混合物から形成され、更に好ましい外層(C)は、スチレン100質量%からなる単量体混合物から形成される。
【0032】
単量体混合物(a)、単量体又は単量体混合物(b)及び単量体又は単量体混合物(c)の質量比(質量部)は、好ましくは1〜25/2〜65/40〜85であり、より好ましくは3〜20/3〜55/44〜80であり、更に好ましくは5〜15/5〜50/48〜75の範囲である。単量体混合物(a)の割合が少なすぎると、空隙率の高い中空重合体粒子が得られ難い傾向があり、逆に単量体混合物(a)の割合が多すぎると、塩基処理の際に凝集物発生量が増大する傾向にある。
【0033】
中間層(B)及び外層(C)の形成は、通常、乳化重合により行なわれる。重合方式として、回分式、半連続式、連続式のいずれの方式も採用される。重合圧力、重合温度および重合時間は格別限定されず、公知の条件が採られる。
【0034】
コア重合体粒子(A)の形成において例示された重合用副資材が使用される。界面活性剤の種類は、外層(C)の形成時を除き、特に限定されず使用される。水性媒体が追加添加され得る。水性媒体の追加添加量は、通常、少なくとも3層構造を有する重合体粒子の固形分濃度が、10〜50質量%、好ましくは20〜40質量%となる範囲内である。
【0035】
単量体又は単量体混合物(c)を、当該中間層(B)により実質的に包囲された当該コア重合体粒子(A)の存在下で重合又は共重合する際、下記一般式(I)で示される界面活性剤を使用する。
R−O−(CH2CH2O)n−SO3M (I)
(式中、Rは炭素数8〜20のアルキル基又はアルケニル基であり、Mはアルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンであり、nは20〜70の整数である。)
上記一般式(I)で示される界面活性剤は市販されており、市販品の具体例は、花王(株)製ラムテル(登録商標)E−150である。
【0036】
上記一般式(I)で示される界面活性剤の使用量は、当該単量体混合物(c)の全量に対して、好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは0.5〜3質量%である。この使用量が過小であると凝集物が生成し易く、逆に過大であると中空重合体粒子の空隙率が低くなる。
勿論、本発明の効果を実質的に阻害しない限り、上記一般式(I)で示される界面活性剤以外の界面活性剤を併用することもできる。
【0037】
上記一般式(1)で示される界面活性剤の添加方法は、特に限定されない。当該界面活性剤は、反応器に一括で、分割して、又は連続的に添加される。製造時の凝集物発生量がより少なくなる点で、好ましくは、界面活性剤が反応系に連続的に添加される。単量体又は単量体混合物(c)と界面活性剤は、混合して反応系に添加されても、別々に反応系に添加されてもよい。好ましくは、単量体又は単量体混合物(c)と上記界面活性剤と水性媒体が混合されて得られる乳化物が、反応系に添加される。
【0038】
塩基処理
塩基が、コア重合体粒子(A)、中間層(B)及び外層(C)の少なくとも3層構造を有する重合体粒子を含有する水性分散液に添加され、当該水性分散液のpHが7以上とされ、コア重合体粒子(A)に含まれる酸性基の少なくとも一部が中和されて形成された少なくとも一つの空隙を有する中空重合体粒子が得られる。当該空隙は水性分散液を形成する水性媒体で充満されている。
【0039】
当該塩基は、揮発性塩基及び/又は不揮発性塩基である。揮発性塩基の具体例は、アンモニア、水酸化アンモニウム、モルホリン、トリメチルアミン、トリエチルアミンである。不揮発性塩基の具体例は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物;炭酸ナトリウム、重炭酸カリウムなどのアルカリ金属(重)炭酸塩;炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウムなどの(重)炭酸アンモニウム塩である。好ましい塩基は揮発性塩基又はアルカリ金属水酸化物であり、より好ましい塩基はアンモニア、水酸化ナトリウムである。
【0040】
塩基の使用量は、前記コア重合体粒子(A)の酸性基の少なくとも一部を中和して、前記水性分散液のpHを7以上とする量である。塩基処理の際の水性分散液のpHは、好ましくは7.5〜11、より好ましくは8〜10の範囲である。pHが低すぎると中空重合体粒子の空隙率が低くなる傾向があり、逆に高すぎると、次の酸処理工程で添加する酸の量が多くなり、粗大凝集物が生成し易い傾向がある。
塩基は、添加時の凝集物発生の抑制の観点から、好ましくは水溶液の状態で添加され、その濃度は、好ましくは0.5〜20質量%、より好ましくは1〜10質量%である。更に、上記観点から、塩基が添加される前又は添加されると同時に、アニオン界面活性剤及び/又は非イオン界面活性剤が添加され得る。
ここで用いる界面活性剤としては、前記一般式(I)で示される界面活性剤が好ましく挙げられる。この界面活性剤を、単量体混合物(a)、単量体又は単量体混合物(b)及び単量体又は単量体混合物(c)の全量に対して、好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは0.5〜3質量%の範囲で添加すると、塩基処理時のみならず、その後の工程においても、粗大凝集物の発生を効果的に抑制することができる。
【0041】
重合体粒子内部の酸性基が、塩基の水性分散液への添加により中和されるためには、塩基が重合体粒子内部に拡散する時間が必要である。従って、望ましくは、塩基の添加後、時間をかけた攪拌が行われる。好ましい塩基処理温度は、重合体粒子が十分に軟化される温度以上であることが好ましく、70℃以上が好ましく、75〜95℃の範囲であることがより好ましい。あまりに高い塩基処理温度に設定すると、水性媒体の蒸気圧に耐える圧力容器が必要となり、過大な設備費用がかかることになる。塩基添加後の塩基処理時間は、通常、5〜180分、好ましくは10〜120分間である。
【0042】
塩基が、特開平3−26724号公報に開示されている方法に準じて、有機溶剤の存在下に添加され得る。重合体粒子は有機溶剤の使用によって軟化され、塩基の拡散が促進される。有機溶剤の具体例は、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、アルコール類、エーテル類、ケトン類、飽和カルボン酸エステル類である。有機溶剤は、前記重合体粒子100質量部に対して、通常、0.1〜1000質量部の範囲で使用される。使用された有機溶剤は、塩基処理後、蒸発させられ、除去される。
【0043】
上記有機溶剤のかわりに、重合性単量体が使用され得る。重合性単量体には酸性基を含む単量体を含んでも良く、前記重合体粒子100質量部に対して、通常、1〜20質量部、好ましくは2〜10質量部の範囲で使用される。重合性単量体は新たに添加され得る。重合性単量体が中間層(B)及び外層(C)の形成時に過剰に添加され、重合禁止剤または還元剤等の添加により重合反応が停止された状態で上記塩基処理が行われ得る。過剰の重合性単量体は、塩基処理後に重合開始剤を追加添加することにより重合される。
【0044】
酸処理
塩基処理した水性分散液を、酸で処理して水性分散液のpHを酸性に調節する。この酸処理により、中空重合体粒子の粒子径及び空隙率を大きくすることができる。酸処理の際の水性分散液のpHは、3〜6.5の範囲にあることが好ましい。
酸処理に使用される酸は、特に限定されない。当該酸の具体例は、塩酸、硫酸などの鉱酸;酢酸、マロン酸などの有機酸である。酸処理工程において、酸性基含有単量体を酸として使用できる。酸性基含有単量体を酸として使用する場合、コア重合体粒子(A)、中間層(B)および外層(C)の形成に使用した単量体合計100質量部に対して、通常0.01〜20質量部、好ましくは0.05〜10質量部、さらに好ましくは0.2〜5質量部の範囲の酸性基含有単量体を使用する。
【0045】
ここで用いる酸性基含有単量体としては、単量体混合物(a)で用いるものと同様のものが挙げられ、好ましくはエチレン性不飽和カルボン酸であり、より好ましくはエチレン性不飽和モノカルボン酸、特に好ましくはメタクリル酸である。
酸処理工程において、酸性基含有単量体と共に、これと共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体を共存させてもよい。このモノエチレン性不飽和単量体としては、単量体混合物(a)で用いるものと同様のものが挙げられ、好ましくは芳香族ビニル単量体、より好ましくはスチレンが使用できる。
酸性基含有単量体とこれと共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体を使用する場合、その組成は、酸性基含有単量体が好ましくは0.5〜10質量%、より好ましくは1〜5質量%、モノエチレン性不飽和単量体が好ましくは99.5〜90質量%、より好ましくは99〜95質量%の範囲である。酸性基含有単量体の含有割合が少なすぎると、酸処理のために酸性基含有単量体を含む単量体混合物を大量に添加する必要が生じ、その単量体混合物を重合した場合に、中空重合体粒子の空隙率が低下する傾向がある。また、酸性基含有単量体の含有割合が多すぎると、添加した酸性基含有単量体を含む単量体混合物を重合した場合に、親水性の高い重合体が生成して、水性分散液の粘度が高くなりすぎて取り扱いが困難になったり、粗大凝集物が発生し易くなったりする場合がある。
酸性基含有単量体を含む単量体混合物を添加する場合の添加量は、コア重合体粒子(A)、中間層(B)および外層(C)の形成に使用した単量体合計100質量部に対して、単量体混合物として、好ましくは20〜100質量部、より好ましくは40〜80質量部である。
【0046】
酸処理工程の処理温度、処理時間などは、塩基処理の条件とほぼ同様である。酸の添加により水性分散液の安定性が低下することがあるが、これを防ぐために、酸を添加する前又は添加と同時に、アニオン界面活性剤、非イオン界面活性剤を単独または併用して添加してもよい。
ここで用いる界面活性剤としては、前記一般式(I)で示される界面活性剤が好ましく挙げられる。この界面活性剤を、単量体混合物(a)、単量体又は単量体混合物(b)及び単量体又は単量体混合物(c)の全量に対して、好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは0.5〜3質量%の範囲で添加すると、酸処理時のみならず、その後の工程においても、粗大凝集物の発生を効果的に抑制することができる。
酸として酸性基含有単量体を用いる場合、酸性基含有単量体を含む単量体混合物を界面活性剤の存在下で、水性媒体中で乳化し、得られた乳化物を添加する方法が、粗大凝集物の発生を効果的に抑制できる点から好ましく採用できる。
【0047】
最外層(D)
酸処理を行った後、所望により、上記外層(C)が形成された重合体粒子の存在下にモノエチレン系不飽和単量体を重合し、外層(C)の外周に最外層(D)を形成できる。最外層(D)の形成に用いる好ましい単量体は、芳香族ビニル単量体、または芳香族ビニル単量体90重量%以上およびこれと共重合可能なモノエチレン系不飽和単量体10重量%以下とからなる単量体混合物である。芳香族ビニル単量体またはそれを主成分とする単量体混合物の重合によって、ガラス転移温度(Tg)の高い最外層(D)が形成され、得られる中空重合体粒子の不透明化効果が向上し、粒子同士の融着も防止される。
酸処理工程で、酸性基含有単量体を含む単量体混合物を用いた場合には、通常、該単量体混合物の重合も同時に進行するので、該単量体混合物から形成した重合体が最外層(D)を構成することになる。また、酸処理工程において、重合禁止剤などを添加して重合反応を抑制した場合には、その後にさらに重合開始剤を追加的に添加して、最外層(D)の形成を行ってもよい。
【0048】
コア重合体粒子(A)、中間層(B)および外層(C)からなる重合体粒子と最外層(D)との質量比〔(コア重合体粒子(A)+中間層(B)+外層(C))/最外層(D)〕は、通常100/20〜100/100、好ましくは100/40〜100/80である。所望ならば、少割合の架橋性単量体を最外層(D)形成用単量体混合物の一部として用い得る。最外層(D)を形成する重合方法は、他の層の場合と同様に、通常、乳化重合法であり、重合条件、重合用副資材も公知のものである。
【0049】
カチオン性樹脂の混合
酸処理により、前記の水性分散液のpHは酸性になっており、その状態で、中空重合体粒子を含有する水性分散液に水溶性カチオン性樹脂を混合する。
本発明で用いる水溶性カチオン性樹脂は、水溶性であって、分子内にカチオン性部分を含むものであれば特に限られるものではないが、例えば、ポリアクリルアミドのカチオン変性物あるいはアクリルアミドとカチオン性モノマーの共重合体、ポリアリルアミン、ポリアミンスルホン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン、ポリアミドエピクロルヒドリン樹脂、ポリビニルピリジニウムハライド等が挙げられる。さらに、ビニルピロリドン系モノマーと他の一般的なモノマーとの共重合体、ビニルオキサゾリドン系モノマーと他の一般的なモノマーとの共重合体、ビニルイミダゾール系モノマーと他の一般的なモノマーとの共重合体等が挙げられる。これらの水溶性カチオン性樹脂は、四級化された状態や酸により中和された状態でも使用できる。これらの水溶性カチオン性樹脂は、単独で用いても、複数を混合して用いてもよい。
水溶性カチオン性樹脂の重量平均分子量は、好ましくは5,000〜500,000、より好ましくは10,000〜300,000、特に好ましくは20,000〜200,000の範囲である。この重量平均分子量が低すぎると、内添紙の引張強度が低下する傾向にあり、逆に高すぎると、水溶性カチオン性樹脂を混合した後の水分散液の粘度が高くなり過ぎて取り扱いが困難となったり、粗大な凝集物が発生したりする場合がある。
【0050】
水溶性カチオン性樹脂の混合量は、前段階で形成されている中空重合体粒子100質量部に対して、好ましくは0.1〜50質量部、より好ましくは0.5〜30質量部、特に好ましくは1〜20質量部である。
【0051】
水溶性カチオン性樹脂の混合は、水溶性カチオン性樹脂の水溶液の状態で混合することが好ましい。このようにすると、混合の際の粗大凝集物の発生を効果的に抑制することができる。水溶液濃度は、好ましくは1〜40質量%、より好ましくは3〜30質量%の範囲である。この濃度が低すぎると、最終的に得られる水分散液の濃度が低下して、移送効率が低下する場合がある。
また、混合が均一になるように、水分散液を攪拌しながら、水溶性カチオン性樹脂の水溶液を水分散液に添加することが好ましい。
【0052】
この水溶性カチオン性樹脂の混合により、中空重合体粒子の表面に水溶性カチオン性樹脂の分子が吸着し、中空重合体粒子の表面がカチオン化され、本発明の効果を奏するものと推測される。このことは、最終的に得られた中空重合体粒子のゼータ電位を測定すると、プラスの電位を示すことからもわかる。
【0053】
コア重合体粒子(A)の形成、中間層(B)の形成、外層(C)の形成、塩基処理、酸処理、必要に応じた最外層(D)の形成及び水溶性カチオン性樹脂の混合は、同一の反応器内で段階的に行なわれてもよく、前段階の工程後、前段階の生成物が別の反応器に移送され、その反応器内で次段階の工程が行なわれてもよい。
【0054】
中空重合体粒子を含有する水性分散液の重合反応は、重合系の冷却、重合禁止剤の添加等により停止される。その後、所望により、未反応単量体が除去され、水性分散体のpH及び固形分濃度が調整され、本発明の中空重合体粒子を含む水性分散液が得られる。
【0055】
本発明の水性分散液中の中空重合体粒子の数平均粒子径は、好ましくは100nm〜1.5μm、より好ましくは300nm〜1.2μm、更に好ましくは500nm〜1μmである。当該数平均粒子径は、透過型電子顕微鏡による中空重合体粒子200個各々の最大粒子径が単純平均された値である。
【0056】
中空重合体粒子の空隙率は、好ましくは30〜65%、より好ましくは35〜60%、更に好ましくは40〜58%である。当該空隙率は、透過型電子顕微鏡による中空重合体粒子200個各々の最大粒子径と空隙の最大径の数値から計算により求められる空隙率が単純平均された値である。
【0057】
本発明の製造方法で得られた水分散液中の中空重合体粒子はその粒子表面にカチオンを有するため、低pH領域での分散安定性に優れ、中空重合体粒子を含む水性分散液に更に他のカチオン性物質を混合しても、凝集物を発生したりすることがなく、各種用途に適用できる。
例えば、印刷用塗工紙、インクジェット記録紙、感熱紙、感圧紙などの塗工紙用の塗工組成物に配合する有機顔料;感熱紙、感熱転写紙などにおける断熱層を形成するための材料;水性印刷インキ、水性インクジェット用インキなどの水性インキの隠蔽剤や顔料;内添紙の不透明度向上剤;などに用いることができる。なかでも、内添紙に用いた場合、白色度と不透明度に優れる内添紙を高い歩留率で製造することができる。
【0058】
内添紙の製造方法
本発明の中空重合体粒子を含む水性分散液を含む填料を、水に分散したパルプに添加してスラリーを得、当該スラリーを抄紙して内添紙を製造できる。
【0059】
上記パルプの具体例は、未晒しクラフトパルプ、晒しクラフトパルプなどのケミカルパルプ;メカニカルパルプ;セミケミカルパルプ;合成木材パルプ、回収古紙から得られるパルプ;非木材パルプ等である。所望により、これらのパルプと共に、ガラス繊維、ロックウール等の無機繊維;ポリエステル、ナイロン、ポリアクリロニトリルなどの合成繊維;セラミック繊維;麦藁、木綿くず等を併用できる。
【0060】
パルプ及び中空重合体粒子以外に、充填剤、紙力向上剤、歩留向上剤、その他の添加剤を内添紙に所望量含有させられる。これらの各種添加剤の添加方法は制限はされない。
【0061】
充填剤の具体例は、酸化チタン、シリカ、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、珪酸アルミニウム、珪藻土、クレー、水酸化マグネシウム、タルク等の無機充填剤;中空重合体粒子、お椀型重合体粒子、プラスチックピグメント等の有機充填剤である。
【0062】
紙力向上剤の具体例は、澱粉、酸化澱粉、カチオン化澱粉、エステル化澱粉、グアーガム、変性グアーガム、アニオン性ポリアクリルアミド、カチオン性ポリアクリルアミド、両性ポリアクリルアミド、ポリアミドエピクロルヒドリン、ポリアミドエポキシ樹脂、メラミン樹脂等である。
【0063】
歩留まり向上剤の具体例は、硫酸アルミニウム、ミョウバン、アルミン酸ナトリウム、カチオン化澱粉、カチオン性ポリアクリルアミド、両性ポリアクリルアミド等である。歩留まり向上剤の量は、特に限定されないが、通常、パルプに対して、3質量%以下、好ましくは2質量%以下である。
【0064】
内添サイズ剤の具体例は、溶液ロジンサイズ剤、強化ロジンサイズ剤、ロジンエマルションサイズ剤、アルキルケテンダイマー、アルケニル無水コハク酸等である。
【0065】
各種の添加剤の具体例は、界面活性剤、酸化防止剤、防かび剤、防腐剤、殺菌剤、pH調整剤、水溶性有機染料、水分散性着色顔料、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、尿素−ホルマリン樹脂、ワックスエマルション、難燃剤、可塑剤等である。
【0066】
中空重合体粒子を含有するパルプスラリーの抄紙方法は、特に限定されない。当該抄紙方法の一例を、以下に示す。パルプを、所望ならば適宜叩解した後、所定量の水に分散し、中空重合体粒子を含む水性分散液又は中空重合体粒子を含有する填料をパルプの分散液に添加して撹拌する。次いで、歩留まり向上剤等の所望成分を添加して更に撹拌した後、スラリーの濃度を調整して紙料スラリーを得る。これを抄紙機にかけて、次いで乾燥して所望の内添紙を製造できる。抄紙後、必要に応じて、カレンダー処理を行い得る。
【0067】
内添紙の坪量は、特に制限されないが、通常、20〜500g/m2の範囲で選ばれる。内添紙の厚さも、特に制限されない。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本発明が詳細に説明されるが、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、以下の実施例における「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
水性分散液、中空重合体粒子及び内添紙の物性は以下のように測定された。
【0069】
(1)水性分散液の安定性
得られた水性分散液を80メッシュのろ布を用いてろ過し、ろ布上の残渣を、水洗後、乾燥して残渣分の質量を秤量した。ろ過した水性分散液中の固形分に対する、残渣分の割合を百分率で求め、以下の基準で判定した。残渣分が少ないほど、安定性に優れている。
評価 A:残渣が0.1%未満
評価 B:残渣が0.1%以上、1%未満
評価 C:残渣が1%以上
【0070】
(2)ゼータ電位
水性分散液中の中空重合体粒子のゼータ電位を、0.01N KCl及びpH5.5の条件下で全自動界面動電現象解析装置(PenKem社製PenKem System3000)を使用して測定した。この測定条件下では、中空重合体粒子の電界による移動が検知される(高分子電解質は検出されない)。従って、プラスのゼータ電位が観測される場合、中空重合体粒子はプラスの電荷を有している。
【0071】
(3)中空重合体粒子の空隙率
中空重合体粒子200個各々の最大粒子径と空隙の最大径が、透過型電子顕微鏡(日立製作所製H−7500)により測定され、以下の式により計算される空隙率が単純に平均された値が、中空重合体粒子の空隙率とされた。

空隙率(%)=100×(空隙の最大径)/(最大粒子径)
【0072】
(4)中空重合体粒子の数平均粒子径
中空重合体粒子の数平均粒子径は、透過型電子顕微鏡による中空重合体粒子200個各々の最大粒子径が単純平均されて求められた。
【0073】
(5)中空重合体粒子の歩留率
スチレンピーク面積対中空重合体粒子質量の検量線を、スチレン含有量既知の中空重合体粒子と熱分解ガスクロマトグラフィーを用いて作成した。次に、中空重合体粒子を含有する内添紙約1gを冷凍粉砕器で紙粉化し、紙粉中の中空重合体粒子量を熱分解ガスクロマトグラフィーによって測定し、内添紙中の中空重合体粒子の含有率(質量%)を上記検量線により算出した。そして、内添紙中の中空重合体粒子の歩留率を下式により算出した。

歩留率=(内添紙中の中空重合体粒子の質量)/(パルプスラリーに添加された中空重合体粒子の質量)×100
【0074】
(6)白色度
内添紙のISO白色度(単位:%)を、JIS P8113−1976に基づいて、分光色彩白色度計(日本電色工業社製PF10)を用いて測定した。数値が大きいほど白色度が優れている。
【0075】
(7)不透明度
内添紙の不透明度(単位:%)を、JIS P8138−1976に基づいて、分光色彩白色度計(日本電色工業社製PF10)を用いて測定した。数値が大きいほど不透明度が優れている。
【0076】
(8)裂断長
内添紙の裂断長を、JIS P8113−1976に基づいて、次式で求める。
裂断長(km)=引張強さ/(試験片の幅×試験片の坪量)×1000
【0077】
実施例1
単量体混合物の調整
メタクリル酸メチル60%、アクリル酸ブチル5%及びメタクリル酸35%を混合して、コア重合体粒子(A)形成用単量体混合物(a)5部を調整した。メタクリル酸メチル78%、アクリル酸ブチル16%及びメタクリル酸6%を混合して、中間層(B)形成用単量体混合物(b)45部を調整した。スチレンからなる外層(C)形成用単量体(c)73部を調整した。スチレン97%及びメタクリル酸メチル3%を混合して、酸処理及び最外層(D)形成用の単量体混合物(d)75部を調整した。
【0078】
コア重合体粒子(A)の形成
単量体混合物(a)5部、イオン交換水4部及び乳化剤としてアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム(花王(株)製ペレックスSS−H)0.045部を、混合、攪拌して、単量体混合物(a)の乳化物を調整した。
攪拌機、還流冷却管、温度計及び分液ロートを取り付けた反応器に、イオン交換水13.25部および数平均粒子径が35nmのアクリル系重合体シードを0.2部含有するラテックス(固形分濃度:12%)を仕込み、80℃に昇温した。
次いで、3%の過硫酸カリウム水溶液0.85部を添加した後、単量体混合物(a)の乳化物を3時間に亘り、反応器に連続的に添加した。添加終了後、さらに、80℃で重合反応を2時間行った。重合転化率は98%であった。
【0079】
中間層(B)の形成
3%の過硫酸カリウム水溶液7部を、コア重合体粒子(A)を含む反応液に添加した後、80℃で攪拌した。次いで、単量体混合物(b)45部及び乳化剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(花王(株)製ラムテルE−150、C1225−O−(CH2CH2O)47−SO3Na:C817−O−(CH2CH2O)47−SO3Na=5:1(モル比))0.36部を2時間かけて反応液に連続的に添加し、更に重合反応を1時間行った。単量体混合物(b)の転化率は98%であった。
【0080】
外層(C)の形成
3%の過硫酸カリウム水溶液10部を、中間層(B)で包囲されたコア重合体粒子(A)を含む反応液に添加した後、80℃で攪拌した。次いで、単量体(c)73部及びラムテルE−150 0.584部を2時間かけて反応液に連続的に添加し、更に重合反応を1時間行った。単量体(c)の転化率は98%であった。
【0081】
塩基処理
重合反応終了直後、10%の水酸化ナトリウム水溶液15.4部及びラムテルE−150 0.6部を分液ロートから添加し、塩基処理を85℃で2時間行った。得られた水性分散液の一部を採取し、水性分散液のpHを室温で測定した。pHは9.0であった。
【0082】
酸処理及び最外層(D)の形成
単量体混合物(d)75部及びラムテルE−150 0.637部を、上記水性分散液に2時間かけて連続的に添加し、更に重合反応を2時間行った。単量体混合物(d)の転化率は99%であった。得られた水性分散液を室温まで冷却した。その水性分散液のpHは6.0であった。
【0083】
水溶性カチオン性樹脂の混合
重量平均分子量が約70,000のポリエチレンイミンの30%水溶液((株)日本触媒製:エポミン P−1000)に、1%の塩酸水溶液を添加し、pHが4.5になるまで中和したものを水溶性カチオン性樹脂水溶液として用いた。
酸処理後の前記水性分散液を攪拌しながら、それに有効成分量が1部に相当する前記水溶性カチオン性樹脂水溶液を添加した。
得られた水性分散液に、0.1N塩酸を添加して、pHを3.5に調整し、中空重合体粒子を含有する水性分散液を得た。
得られた水性分散液の安定性、当該水性分散液に含まれる中空重合体粒子のゼータ電位、空隙率及び平均粒子径を測定した。
【0084】
内添紙の製造
ナイヤガラビーターで叩解された広葉樹晒しパルプとナイヤガラビーターで叩解された針葉樹晒しパルプを80:20の割合で混合し、濃度2.4%のカナディアンフリーネス(CSF) JIS P8121−1976)のパルプスラリーを調整した。上記中空重合体粒子を含む水性分散液を、パルプの絶乾質量に対して5%(固形分換算)となるように上記パルプスラリーに添加し、5分間攪拌した。その後、濃度1%の硫酸アルミニウム水溶液を、パルプの絶乾質量に対して0.5%(固形分換算)となるように上記パルプスラリーに添加し、2分間攪拌した。次いで、パルプスラリーを濃度0.02%となるように水で希釈し、2分間攪拌して紙料スラリーを得た。当該紙料スラリーを、漉き箱中のパルプスラリー濃度が0.004%となるように水を張ってある角型シート抄紙機の漉き箱に移して100メッシュの金網で漉いてウェットシートを作製した。当該ウェットシートを線圧5〜8kg/cmの絞りロールで脱水した後、95〜110℃の回転式ドラムドライヤーで1分間乾燥し、次いで、線圧35〜40kg/cmのスーパーカレンダーに通し、JIS P8121−1976に基づいて20℃、湿度65%の雰囲気で24時間調湿し、坪量65g/cm2の内添紙を作製し、当該内添紙中の中空重合体粒子の歩留率、内添紙の坪量、白色度、不透明度及び裂断長を測定した。結果を表1に示す。
【0085】
実施例2
水溶性カチオン性樹脂の添加量を5部に変更した以外は、実施例1と同様にした。
【0086】
比較例1
外層(C)及び最外層(D)の形成において、表1に示す界面活性剤の種類と使用量に変更した以外は、実施例1と同様にした。
なお、ラムテルE−118B(花王(株)製)は、以下の構造を有する界面活性剤である。
1225−O−(CH2CH2O)18−SO3Na

得られた水性分散液の安定性が極めて低く、中空重合体粒子の物性を測定できず、内添紙を製造できなかった。
【0087】
比較例2
水溶性カチオン性樹脂の添加を行わなかった以外は、実施例1と同様にした。
【0088】
【表1】

【0089】
外層(C)の形成時に、本発明で規定する界面活性剤を使用せずに製造した水性分散液の安定性は低かった(比較例1)。
水溶性カチオン性樹脂を添加しないで製造した水性分散液は、中空重合体粒子のデータ電位がマイナスを示し、当該水性分散液を使用して得た内添紙中の中空重合体粒子の歩留率は低く、当該内添紙の白色度及び不透明度は低く、当該内添紙の裂断長は短かった(比較例2)。
本発明の製造方法で製造した水性分散液に含まれる中空重合体粒子のゼータ電位はプラスであり、水性分散液の安定性も良好で、該水性分散液を使用して得た内添紙中の中空重合体粒子の歩留率は高く、当該内添紙の白色度及び不透明度は高く、当該内添紙の裂断長は長かった(実施例1、2)。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の中空重合体粒子を含む水性分散液は、紙、繊維、皮革等のコーティング;水性インキ、塗料等の用途における有機顔料、光散乱剤又は光散乱助剤、インクジェット紙の吸収性充填剤、製紙工程の内添充填剤、修正インキ又は修正リボン用の高隠蔽性顔料、マイクロカプセル材料、電子写真に用いられるトナーの中間材料、樹脂、セメント、コンクリートなどへの内添による軽量化などの空気による軽量化を利用する用途、半導体封止材料等に添加され、空気の低誘電性を利用する用途などに用いることができる。本発明の中空重合体粒子を含む水性分散液は、内添紙用填料に好適であり、白色度及び不透明度の高い内添紙の製造を可能にする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)酸性基含有単量体20〜60質量%及びこれと共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体80〜40質量%からなる単量体混合物(a)を共重合してコア重合体粒子(A)を調製する工程、
(2)モノエチレン性不飽和単量体88〜100質量%及び酸性基含有重合体12〜0質量%からなる単量体又は単量体混合物(b)を、コア重合体粒子(A)の存在下に重合又は共重合して、 コア重合体粒子(A)を実質的に包囲する中間層(B)を形成する工程、
(3)モノエチレン性不飽和単量体97〜100質量%及び酸性基含有重合体3〜0質量%からなる単量体又は単量体混合物(c)を、中間層(B)で包囲されたコア重合体粒子(A)の存在下に、下記一般式(I)で示される界面活性剤を用いて重合又は共重合して、中間層(B)を実質的に包囲する外層(C)を形成する工程、
R−O−(CH2CH2O)n−SO3M (I)
(式中、Rは炭素数8〜20のアルキル基又はアルケニル基であり、Mはアルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンであり、nは20〜70の整数である。)
(4)塩基を、コア重合体粒子(A)、中間層(B)及び外層(C)の少なくとも3層構造を有する重合体粒子を含有する水性分散液に添加し、当該水性分散液のpHを7以上にして中空重合体粒子を含有する水性分散液を調製する工程、
(5)前記水性分散液のpHを酸性にした状態で、水溶性カチオン性樹脂を混合する工程を実施する水性分散液の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された水性分散液の製造方法で製造された水性分散液。
【請求項3】
請求項2に記載された水性分散液を含有する填料をパルプスラリーに添加して抄造する工程を実施する内添紙の製造方法。

【公開番号】特開2011−46861(P2011−46861A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197904(P2009−197904)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】