説明

主軸装置

【課題】中繰り主軸の熱変位量を、応答性良く、より正確に把握し、より高い加工精度を得ることができる主軸装置を提供する。
【解決手段】中繰り主軸16と主軸サポート17と制御装置32とを有し、主軸サポート17の後端部の軸方向(Z軸方向)の熱変位量を測定する熱変位センサ30を設け、制御装置32は、熱変位センサ30により測定された熱変位量δBを用いて、主軸先端16aの熱変位量δAを求め、その機械座標位置を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中繰り主軸を有する主軸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
加工対象のワークを加工する工作機械の1つとして、中繰り主軸を有する主軸装置を備えた横中繰り盤等の工作機械が知られている。
【0003】
ここで、図2〜図3を参照して、横中繰り盤及び中繰り主軸を有する主軸装置について説明する。
図2(a)、(b)の概略構成図に示すように、横中繰り盤10は、床面に固定されたベッド11上に水平方向(X軸方向)に移動可能にコラムベース12が設けられ、コラムベース12上にコラム13が立設されている。コラム13の1つの側面には、鉛直方向(Y軸方向)に移動可能にサドル14が支持されており、このサドル14には、水平方向(Z軸方向)に移動可能にラム15が支持されている。
【0004】
ラム15内には、水平方向(Z軸方向)に移動可能、かつ、軸芯周りに回転可能に支持された中繰り主軸16が設けられており、その先端は、工具(図示省略)が着脱可能となっている。加工を行う際には、装着した工具と共に中繰り主軸16を回転させながら、コラムベース12、サドル14、ラム15を、各々、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向に移動させて、加工対象のワークに所望の加工を行うことになる。この加工の際、中繰り主軸16は、その軸芯から切削油等を供給できる構造となっている。
【0005】
中繰り主軸16は、通常、主軸先端16aから1m以上の長さがある。そして、図3の断面図に示すように、中繰り主軸16は円筒状の主軸サポート17の内周側に挿入されており、この主軸サポート17が、軸受18、19を介して、ラム15の筐体15aの内側に支持されている。又、中繰り主軸16の外周面と主軸サポート17の内周面とは、キー結合又はスプライン結合(図示省略)で連結されている。
【0006】
又、中繰り主軸16の後端側は、軸受20を介して、ガイドブロック21の内側に支持されており、ガイドブロック21は、筐体15aの内部に設けられたガイドレール22によりZ軸方向に移動可能に支持されている。又、ガイドブロック21は、筐体15a内部に設けられたボールネジ23を回転させることによりZ軸方向に移動可能であり、ガイドブロック21の移動と共に中繰り主軸16も移動することになる。
【0007】
従って、軸受18、20、19により、中繰り主軸16は主軸サポート17と共に回転可能となっており、又、主軸サポート17、ガイドブロック21、ガイドレール22及びボールネジ23とにより、中繰り主軸16はZ軸方向に移動可能となっている。このような構造により、中繰り主軸16は、その軸芯周りに高速で回転しながら、Z軸方向に移動可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−20847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
中繰り主軸16には、例えば、以下のような発熱を原因とし、その発熱の影響により熱変位するという問題がある。
【0010】
(1)中繰り主軸16が回転した場合、中繰り主軸16及び主軸サポート17を支持する軸受18、20、19が発熱し、この熱が中繰り主軸16に伝わって、中繰り主軸16が熱変位する。
(2)切削加工の際、中繰り主軸16に装着したツールが発熱し、この熱が中繰り主軸16に伝わって、中繰り主軸16が熱変位する。
(3)中繰り主軸16の軸芯を通る切削油等は周辺温度に比べ発熱している場合があり、このような場合、この熱が中繰り主軸16に伝わって、中繰り主軸16が熱変位する。
【0011】
前述したように、中繰り主軸16及び主軸サポート17は軸受18、19、20により支持されており、中繰り主軸16の全長に渡って、少なくとも3ケ所以上の位置で支持されている。中でも、軸受20は、中繰り主軸16のZ軸方向の移動を抑制し、切削反力を支持するためのものであり、中繰り主軸16の主軸先端16aと反対側の後端側に配置されている。そのため、中繰り主軸16が熱変位するときには、後端側の軸受20を基準として、主軸先端16aがZ軸+方向に熱変位することになる。例えば、中繰り主軸16が、主軸先端16aから1m程度の長さである場合には、Z軸+方向に0.5mm程度の熱変位が生じる。このように、主軸先端16aが熱変位することにより、主軸先端16aの位置に誤差が生じるため、何らかの補正が必要となる。
【0012】
ところが、構造上、中繰り主軸16の主軸先端16aの熱変位を直接測定することは困難である。そのため、特許文献1においては、中繰り主軸及び主軸サポートを支持する軸受の温度変化量を測定し、この温度変化量から中繰り主軸の熱変位量を推定し、主軸先端の機械座標位置を補正している。しかしながら、軸受から中繰り主軸への伝熱には遅れが生じるため、主軸先端の熱変位と時間的な誤差が生じてしまう。又、主軸先端の熱変位量は、軸受の温度変化量を用いて、主軸サポートを介した伝熱に基づく伝熱式より推定されるため、実際の値との誤差が生じてしまう。
【0013】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、中繰り主軸の熱変位量を、応答性良く、より正確に把握し、より高い加工精度を得ることができる主軸装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決する第1の発明に係る主軸装置は、
先端に工具が装着可能な中繰り主軸と、
前記中繰り主軸の外周に設けられ、前記中繰り主軸を軸方向に摺動可能に支持すると共に前記中繰り主軸と共に回転する主軸サポートと、
前記中繰り主軸の主軸先端の機械座標位置を補正する制御装置とを有する主軸装置において、
前記主軸サポートの端部の軸方向の熱変位量を測定する熱変位量測定手段を設け、
前記制御装置は、前記熱変位量測定手段により測定された前記熱変位量に基づいて、前記主軸先端の機械座標位置を補正することを特徴とする。
【0015】
上記課題を解決する第2の発明に係る主軸装置は、
上記第1の発明に記載の主軸装置において、
前記主軸サポートを回転可能に支持する軸受であって、前記主軸サポートの軸方向への移動を抑制する軸受を前記主軸先端側に設けた場合、前記熱変位量測定手段を前記主軸サポートの後端側へ設け、前記主軸サポートの後端部の軸方向の熱変位量を測定することを特徴とする。
【0016】
上記課題を解決する第3の発明に係る主軸装置は、
上記第1、第2の発明に記載の主軸装置において、
前記制御装置は、前記熱変位量自体又は前記熱変位量に比例した量を減算することにより、前記主軸先端の機械座標位置を補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、中繰り主軸の熱変位量と等しい又は略等しい(少なくとも比例関係にある)主軸サポートの熱変位量を測定し、当該熱変位量を用いて、主軸先端の機械座標位置を補正するので、中繰り主軸の熱変位量を、応答性良く、より正確に把握し、より高い加工精度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る主軸装置の実施形態の一例を示す断面図である。
【図2】主軸装置を有する横中繰り盤の概略図であり、(a)はZ軸方向から見た側面図であり、(b)はX軸方向から見た側面図である。
【図3】従来の主軸装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明においては、加工時の発熱の影響により中繰り主軸の主軸先端の位置がZ軸方向に熱変位する問題に対して、中繰り主軸の熱変位量と等しい又は略等しい(少なくとも比例関係にある)主軸サポートの熱変位量を直接測定し、測定した主軸サポートの熱変位量を用いて、数値制御(NC)を行う制御装置により、主軸先端の機械座標位置を補正するようにしている。以下、本発明に係る主軸装置の実施形態について、図1を参照して説明を行う。
【0020】
(実施例1)
本実施例の主軸装置は中繰り主軸を有するものであり、横中繰り盤等の工作機械に適用されるものである。例えば、前述した図2の横中繰り盤10等に適用される。従って、ここでは、一例として、図2で示した横中繰り盤10を前提として説明を行うので、工作機械自体の説明は省略する。又、本実施例の主軸装置は、図3で示した従来の主軸装置と略同等の構成であるので、同等の構成要素には同じ符号を付して説明を行う。
【0021】
本実施例の主軸装置も、従来の主軸装置と同様に、ラム15の内部に、水平方向(Z軸方向)に移動可能、かつ、軸芯周りに回転可能に支持された中繰り主軸16を有する。中繰り主軸16の主軸先端16aは、工具(図示省略)が着脱可能となっており、加工を行う際には、装着した工具と共に中繰り主軸16を回転させながら、加工対象のワークに所望の加工を行うことになる。又、図示を省略しているが、加工の際に、中繰り主軸16の軸芯から切削油等を供給できる構造となっている。
【0022】
又、図1の断面図に示すように、中繰り主軸16の前端側の外周側は、円筒状の主軸サポート17の内周側に挿入されており、この主軸サポート17の外周側が、軸受18、19を介して、ラム15の筐体15aの内側に支持されている。又、中繰り主軸16の外周面と主軸サポート17の内周面とは、キー結合又はスプライン結合(図示省略)で連結されている。つまり、主軸サポート17は中繰り主軸16を支え、その内周面は中繰り主軸16がZ軸方向に移動する際の摺動部となり、又、キー結合又はスプライン結合により、中繰り主軸16及び主軸サポート17が共に回転することになる。
【0023】
又、中繰り主軸16の後端側の外周側は、軸受20を介して、ガイドブロック21の内側に支持されており、ガイドブロック21は、筐体15aの内部に設けられたガイドレール22によりZ軸方向に移動可能に支持されている。又、ガイドブロック21は、筐体15a内部に設けられたボールネジ23を、図示省略したサブモータを用いて回転させることによりZ軸方向に移動可能であり、ガイドブロック21の移動と共に中繰り主軸16も移動することになる。又、図示は省略しているが、中繰り主軸16は、変速機等を介して、メインモータと接続されており、メインモータを駆動することにより、中繰り主軸16は回転されることになる。
【0024】
従って、軸受18、20、19により、中繰り主軸16は主軸サポート17と共に回転可能となっており、又、主軸サポート17、ガイドブロック21、ガイドレール22及びボールネジ23とにより、中繰り主軸16はZ軸方向に移動可能(摺動可能)となっている。このような構造により、中繰り主軸16は、その軸芯周りに高速で回転しながら、Z軸方向に移動可能となっている。
【0025】
上述したように、中繰り主軸16及び主軸サポート17は軸受18、19、20により支持されており、中繰り主軸16の全長に渡って、少なくとも3ケ所以上の位置で支持されている。本実施例において、軸受18は、例えば、複数列のアンギュラ軸受であり、主軸サポート17のZ軸方向の移動を抑制する。一方、軸受19は、例えば、複数列の円筒コロ軸受であり、主軸サポート17のZ軸方向の移動は抑制していない。又、軸受20も、複数列のアンギュラ軸受であり、中繰り主軸16のZ軸方向の移動を抑制し、かつ、切削反力を支持している。
【0026】
従って、発熱の影響により熱変位が生じる場合、中繰り主軸16は、主軸先端16aの反対の位置(後端側)に配置された軸受20を基準として、主軸先端16aがZ軸+方向に熱変位することになる。一方、主軸サポート17は、主軸先端16a側に配置された軸受18を基準として、中繰り主軸16とは逆に、主軸サポート17の後端がZ軸−方向に熱変位することになる。主軸先端16aのZ軸+方向の熱変位量をδA、主軸サポート17の後端のZ軸−方向の熱変位量δBとすると、以下の(式1)又は(式2)に示す関係となる。
【0027】
δA≒δB ・・・(式1)
δA=k×δB ・・・(式2)
(kは1に近い比例係数)
【0028】
これは、主軸サポート17が、発熱による影響を最も受ける中繰り主軸16の範囲を支持しているため、つまり、発熱量が大きい工具や軸受18、19がある中繰り主軸16の前端側の範囲を支持しているため、主軸サポート17が中繰り主軸16と同等又は略同等の熱変位量を生じるからである。更に、主軸サポート17が、その全長に渡って、中繰り主軸16と全周で接しているため、両者間の熱伝達の遅れが小さい、つまり、中繰り主軸16と主軸サポート17との熱変位の時間的ずれが小さいと言う利点もある。従って、測定箇所としては、主軸サポート17の後端の1ケ所のみで十分である。
【0029】
以上のことから、本実施例においては、主軸サポート17の後端のZ軸方向の熱変位量δBを測定する熱変位センサ30を設けており、筐体15aの内側であって、主軸サポート17の後端の熱変位量δBを測定できる位置に、ブラケット31を用いて取り付けている。この熱変位センサ30は、主軸サポート17の後端に接触して測定するセンサでも良いが、非接触で測定するセンサが望ましく、例えば、レーザ(光学)式変位センサ、渦電流(磁気)式変位センサ、超音波式変位センサ等が適用可能である。
【0030】
なお、主軸装置においては、通常、ラム15の筐体15a(外輪側ブラケット)を冷却する構造としているので、熱変位センサ30を取り付けている筐体15a側の熱変位量は極めて小さい。従って、ラム15本体が熱変位して、ブラケット31が動くことはなく、センサ取付部分の熱変位による誤差要因を排除している。
【0031】
そして、熱変位センサ30で測定された熱変位量δBは、NCを行う制御装置32に入力され、制御装置32は、入力された熱変位量δBを用い、上述した(式1)又は(式2)により、主軸先端16aの熱変位量δAを算出し、算出した熱変位量δAを減算することにより、主軸先端16aの機械座標位置を補正している。
【0032】
主軸サポート17の後端の熱変位量δBを測定することは、中繰り主軸16における熱変位量δAを略直接的に測定することになり、応答性良く、より正確に、中繰り主軸16の主軸先端16aの熱変位量δAを把握することとなる。このようにして把握した熱変位量δAは、実際の値との誤差が小さく、これを、NCによる主軸先端16aの熱変位補正に使うことにより、より高い加工精度が得ることができる。
【0033】
なお、本実施例においては、軸受18をアンギュラ軸受としているので、この軸受18を基準として、主軸サポート17の後端がZ軸−方向に熱変位するが、例えば、主軸サポート17の前端側の軸受18を円筒コロ軸受とし、後端側の軸受19をアンギュラ軸受とする場合には、軸受19を基準として、主軸サポート17の前端がZ軸+方向に熱変位するので、その場合には、主軸サポート17の前端の熱変位量を測定できる位置に、熱変位センサ30を取り付けるようにすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、中繰り主軸を有する主軸装置を備えた工作機械、例えば、横中繰り盤等であれば、どのようなものにも適用可能である。
【符号の説明】
【0035】
10 横中繰り盤
15 ラム
16 中繰り主軸
16a 主軸先端
17 主軸サポート
18、19、20 軸受
30 熱変位センサ
32 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に工具が装着可能な中繰り主軸と、
前記中繰り主軸の外周に設けられ、前記中繰り主軸を軸方向に摺動可能に支持すると共に前記中繰り主軸と共に回転する主軸サポートと、
前記中繰り主軸の主軸先端の機械座標位置を補正する制御装置とを有する主軸装置において、
前記主軸サポートの端部の軸方向の熱変位量を測定する熱変位量測定手段を設け、
前記制御装置は、前記熱変位量測定手段により測定された前記熱変位量に基づいて、前記主軸先端の機械座標位置を補正することを特徴とする主軸装置。
【請求項2】
請求項1に記載の主軸装置において、
前記主軸サポートを回転可能に支持する軸受であって、前記主軸サポートの軸方向への移動を抑制する軸受を前記主軸先端側に設けた場合、前記熱変位量測定手段を前記主軸サポートの後端側へ設け、前記主軸サポートの後端部の軸方向の熱変位量を測定することを特徴とする主軸装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の主軸装置において、
前記制御装置は、前記熱変位量自体又は前記熱変位量に比例した量を減算することにより、前記主軸先端の機械座標位置を補正することを特徴とする主軸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−152876(P2012−152876A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15880(P2011−15880)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】