説明

乗員検知システム

【課題】乗員検知における誤判定を少なくし、判定の安定性・継続性が改善された乗員検知システムを提供する。
【解決手段】シート座面部11の吊り込み溝33内に配置される水抜き孔13は、複数のアンテナ電極(アンテナ電極121〜123)のうち、車体接地に導通したシートフレームとの距離が長いアンテナ電極(シート前部のアンテナ電極123)の近傍における吊り込み溝33に比べて、シートフレームとの距離が短いアンテナ電極(シート後部のアンテナ電極121)の近傍における吊り込み溝に多く設けられる構成とする。すなわち、シート座面後部に行くにつれ、水抜き孔が多くなる構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員検知システム及び乗員検知方法に関し、特に、エアバッグ装置を搭載した自動車の助手席における乗員の着席状況に応じて、エアバッグ装置のエアバッグを展開可能な状態又は展開不可能な状態に設定し得る乗員検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
エアバッグ・システムは、自動車の安全装置として普及しているが、乗員の体格や乗員の取る姿勢などによって、フロント・エアバッグを展開することで、乗員を危険にさらす可能性がある。このため、例えば米国連邦車両基準「FMVSS208」においては、エアバッグ・システムが、助手席に着席している乗員の体重に基づいてフロントエアバッグの展開/非展開を制御するように、定めている。
【0003】
乗員検知を行うセンシング方式としては、乗員の体重をセンシングする重量センサ、圧電センサを利用するセンシング方式と、乗客の体格、すなわち表面積をセンシングする容量センサを利用するセンシング方式に大別される。
図6(a)は、このうち、センシング方式として、容量センサを利用するセンシング方式を用いた乗員検知システムの原理を示す図である。この方式は、シ−トに配置されたアンテナ電極に微弱電界(Electric Field:EF)を発生させ、電極と被測定物の表面に電荷を生じさせる。これにより、電極と被測定物の表面は容量結合となり、体格・着席状況で変化する容量変化を、変位電流の変化として捉えることができるものである。
【0004】
図6(a)に示すように、アンテナ電極E1に正弦波発振回路OSCからの高周波低電圧を印加することにより、アンテナ電極E1の周辺には微弱電界(EF)が生ずる結果、アンテナ電極E1の側には変位電流Iが流れる。この変位電流Iの値は、アンテナ電極E1と接地の間に形成される静電容量値により決まるため、アンテナ電極E1の近傍に存在する被測定物OBの比誘電率によって異なる値をとる。従って、シ−トに被測定物OBが乗っている場合と乗っていない場合とでは、アンテナ電極E1側に流れる電流に変化が生ずる。この現象を利用することにより、センサによって得る物理量(この場合は、変位電流)によってシ−トへの乗員の着席状況を検知することができるものである。
【0005】
また、上記法規には、図6(c)に示す成人女性の体重分布を示す正規分布において、5パーセンタイル成人女性(分布の小柄な方の分布5%)に相当する大人以上ではフロントエアバッグ展開機能を維持し、体重が6歳児(6year old child:6yo)相当の子供以下ではフロントエアバッグの展開を抑制する方法が記載されている。
すなわち、シートの乗員についても、その体格などから、多くの情報を得て、区別をつける対策をとることが望ましい。
【0006】
そこで、図6(b)に示すように、アンテナ電極を複数個、例えばシートの座面部にアンテナ電極E2を、背面部にアンテナ電極E3及びアンテナ電極E4を、設置することによって、シ−ト上の被測定物(乗員)について、より多くの物理量を得ることを可能とし、シ−トへの乗員の着席状況をより的確に検知することが行われている。
【0007】
そして、これらのセンサーから得た情報を、実際にエアバッグを展開/非展開とするための制御情報とするには、乗員の区別が重要であり、エアバッグシステムは、予め設定したしきい値と、微弱電界技術による測定結果である物理量(電流値、或いは容量測定値)と、を比較する制御回路を備え、定期的にセンサからデータを取得し、乗員についての判定を行う。
【0008】
しかし、センサからのデータが外乱の影響を受けた場合、例えば、センサを配置したシートに水を溢した場合など、上記物理量が変動してしまうことから、誤った判定をしてしまうことがある。また、同じ人が座っていても、その座り方を変えれば、物理量は変化するので、以前に大人と判定であると判定しているにも関らず、子供と判定してしまうこともある。
【0009】
図7は、このような問題を模式的に示した図である。横軸は、イグニッション(IG)をオンし、電子制御装置(ECU)を稼動させてからの時間を示し、例1として、助手席に大人が座っている場合、例2として、助手席に年少者拘束システム(Child Restraint System:CRS)が搭載されている場合を示している。時刻t1において、助手席における乗員の座り方が変化し、或いは外乱(上述の水溢しなどの環境変化、車体挙動、例えば車体速度の変化)の影響により、センサデータが変化した場合、遅延時間経過後の時刻t2において、例1においては、大人を子供と、例2においては、CRSを大人とそれぞれ誤判定してしまうことを示している。このように、実際に助手席の乗員に変化がないにも関らず、誤判定してしまうので、判定の際の安定性、継続性を改善する必要があった。
【0010】
このような判定の安定性・継続性を改善する技術としては、例えば特許文献1に乗員検知システムがある。それは、助手席シートに微弱電界技術を使用した複数の測定電極を配置して、乗員の有無、体格等を検知するものである。また、検知する際、電極面が被水した場合、測定している電極以外の電極(非測定電極)を接地レベル(GNDレベル)にして、測定電極と非測定電極との間の抵抗成分を測定することで被水量を検知し、その被水量によって、判定を継続し、あるいは、判定不能の信号を発生してエアバッグを展開可能な状態または展開不可能な状態にセットする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許公報6,696,948号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記開示された技術においては、測定電極と非測定電極との間の抵抗成分を測定することで、シート上の被水量を推定しようとしている。そのため、多量の水を溢すなどすると、水の行き場がなくなってシート全面に渡って水が拡がり、測定電極と非測定電極との間の被水の程度が大きくなり、シートの着席状況を判定できないという問題があった。また、一般的に、シートフレームは車体接地(車体GND)と接続される場合が多く、測定電極とシートフレームとの間に多量の水分が存在する場合、長い時間に渡って、シートの着席状況を判定できないという問題があった。
【0013】
そこで、本発明の乗員検知システムは、シートが被水しても、乗員検知における誤判定を少なくし、判定の安定性・継続性を改善することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の乗員検知システムは、シ−トの座面部に配置された複数のアンテナ電極と、前記複数のアンテナ電極の周辺各々に微弱電界を発生させるための電界発生部と、前記複数のアンテナ電極が周辺に発生させた各々の電界に基づいて流れる電流を検出する電流検出部と、前記電流検出部から取り込まれたアンテナ電極に流れる電流に関連する信号デ−タと、予め記憶されている乗員の着席状況及び前記シートの座面部の被水状況に関連するしきい値デ−タとを、比較することにより、乗員の着席状況及び被水状況を判定する制御部と、前記シートの表皮が前記シートのパッドへ吊り込まれる吊り込み溝内に、前記表皮及び前記パッドを貫通して前記シートの裏面に達するまで延ばして配置される水抜き孔と、を備えることを特徴とする。
【0015】
前記水抜き孔は、前記複数のアンテナ電極のうち、車体接地に導通したシートフレームにより形成される平面との距離が長いアンテナ電極の近傍に存在する前記吊り込み溝に比べて、前記平面との距離が短いアンテナ電極の近傍に存在する前記吊り込み溝に多く配置されることを特徴とする。
【0016】
前記水抜き孔は、前記シートの座面を平面視した場合、前記車体接地に導通したシートフレームの内側に設けられることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の乗員検知システムは、衝突に基づいてエアバッグを展開させる機能を有するエアバッグ装置を更に備え、前記制御部は、判定結果に基づくデ−タを前記エアバッグ装置に送信し、エアバッグ装置のエアバッグを展開可能な状態又は展開不可能な状態のいずれか一方にセットすることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の乗員検知システムは、前記アンテナ電極は、絶縁性のフィルム基材に導電塗料を印刷して形成されたアンテナ電極であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の乗員検知システムは、シート表皮の吊り込み溝に、水抜き孔を設け、シート下へ水を排水することとしたので、乗員検知における誤判定を少なくし、判定の安定性・継続性が改善された乗員検知システムを提供できる。また、シートが被水した場合であっても、吊り込み孔により、シート下へ排水するので、早期に乗員検知が可能となる乗員検知システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る乗員検知システムの概念図である。
【図2】図1に示した乗員検知システムの簡略化した回路構成を示す図である。
【図3】図1に示す乗員検知システムにおけるシート座面部を示す模式図である。
【図4】図3のA−A’断面図及びB−B’断面図である。
【図5】図3に示すシート座面部の変形例を示す模式図である。
【図6】従来技術における乗員検知装置における基本原理を説明するための図である。
【図7】従来技術における乗員検知装置における問題点を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
本発明の乗員検知システムの構成について、図1および図2を参照して説明する。
図1は、シートを含む乗員検知システムの概略構成を示す図であり、図2は、乗員検知システムの簡略化した回路構成を示す図である。
【0022】
図1において、シートは、車両床部上に取り付けられる金属製のフレーム10と、フレーム10上に固定されてシートの着席部を構成する座面部11と、座面部11の後方から上方斜め後ろに向かって配置され、背もたれをなす背面部12とを有している。乗員検知システムは、座面部に配置される複数のアンテナ電極121〜123、背面部に配置される複数のアンテナ電極124〜125、コネクタ配線19、及び乗員検知ユニット20(ECU)を備えている。
【0023】
ここで、座面部11において、アンテナ電極121〜123は、離隔し、互いに隣り合うように配置される。また、背面部12において、アンテナ電極124〜125は、離隔し、互いに隣り合うように配置される。なお、座面部11におけるアンテナ電極121〜123の配置については、本発明の特徴的部分を成すものであり、詳細については後述する。
また、コネクタ配線19は、複数のワイヤハーネス等であり、座面部11に配置されたアンテナ電極121〜123、背面部12に配置されたアンテナ電極124〜125各々と、乗員検知ユニット20とを接続している。
乗員検知ユニット20は、各アンテナ電極に対応して設けられるコネクタ配線19に流れる電流の電流値Iに基づいて、シート上の乗員着席の状況及びシートの被水状況を検出する回路であり、シートの内部等に設置される。
【0024】
乗員検知ユニット20は、図2に示すように、正弦波発振回路OSC、電流・電圧検出回路21、SW切替回路22と、判定回路23から構成される。なお、図2において、乗員検知システムを構成するアンテナ電極については、アンテナ電極122を用いて乗員検知及び被水検知する場合を代表的に示しており、他のアンテナ電極(アンテナ電極121及びアンテナ電極123)についても、同様に乗員検知及び被水検知を行うものである。
また、背面部12に配置されたアンテナ電極124〜125については省略しているが、乗員検知システムは、複数の測定電極(座面部11に配置されたアンテナ電極121〜123、背面部12に配置されたアンテナ電極124〜125)を配置して、乗員の有無、体格等を総合的に検知するシステムである。
【0025】
正弦波発振回路OSCは、アンテナ電極122の周辺に微弱電界を発生させる回路であり、例えば周波数が120KHz程度で、電圧が5V程度の正弦波を発生するように構成されている。
電流・電圧検出回路21は、正弦波発振回路OSCが発生する交流電圧の電圧値Vを検出するとともに、アンテナ電極122等がアンテナ電極周辺に発生させる電界に基づいて流れる電流の電流値Iを検出する回路であり、電圧値V及び電流値Iを判定回路23へ出力する。
【0026】
SW切替回路22は、図2に示すように、スイッチSWの接続先(ノードAまたはノードB)を切り替えることにより、乗員検知モードと被水検知モードを切り替える。ノードAに接続した場合、アンテナ電極121及びアンテナ電極123は、開放状態(OPEN)となる。そして、正弦波発振回路OSCにより交流電圧が印加されるアンテナ電極122は、シートフレーム10との間に電界(電界EF(SW A側))を形成する。なお、シートフレーム10は、不図示の車両ボディを介して接地されている。この状態を、アンテナ電極122を用いる場合のAモード(乗員検知モード:第2の測定モード)と称する。
【0027】
一方、ノードBに接続した場合、アンテナ電極121及びアンテナ電極123は、接地される。そして、正弦波発振回路OSCにより交流電圧が印加されるアンテナ電極122は、隣り合うアンテナ電極121及びアンテナ電極123との間に電界(電界EF(SW
B側))を形成する。この状態をBモード(被水検知モード:第1の測定モード)と称する。このように、SW切替回路22は、乗員検知モードと被水検知モードとを切り替える。
【0028】
判定回路23は、電流・電圧検出回路21から入力される電圧値V及び電流値Iに基づいて、インピーダンスZ(V/I)を算出し、算出したインピーダンスZの逆数を算出することでアドミタンスYを算出する。算出されたアドミタンスYは、Y=Re+j×Imと一般的に表される。ここで、Re(Real Part:実数部)はコンダクタンス、Im(Imaginary part:虚数部)はサセプタンスである。なお、jは虚数単位である。
【0029】
図2の判定回路23に示すように、アドミタンスYのRe−Im特性は、コンダクタンスRe[単位1/Ω]を横軸、サセプタンスIm[1/Ω]を縦軸とした直交平面座標で表わされる。ここで、コンダクタンスReの値はR成分(抵抗成分)に関連し、R成分が大きくなると、コンダクタンスReは小さくなる。サセプタンスImの値はC成分(静電容量成分)に関連し、C成分が大きくなると、サセプタンスImは大きくなる。そして、アドミタンスYのReおよびImによって、直交平面座標(Re、Im)上の座標が決定される。
【0030】
まず、乗員検知モードにおいて、算出されるコンダクタンスReおよびサセプタンスImについて説明する。
シートが乾燥状態(被水していない状態)である場合、図2に示すアドミタンスYのRe−Im特性においては、例えば、シートが空席のとき(図中○で示す)に比べて、シートに大人が着席しているとき(図中□で示す)は、サセプタンスImが大きくなるのが分かる。これは、アンテナ電極122とシートフレーム10との間に被測定物OB(この場合、大人)が介在し、空席の場合に比べて、比誘電率が大きくなり、電流値Iが大きくなるためである。
【0031】
一方、シートが被水した場合、図2に示すアドミタンスYのRe−Im特性においては、シートが空席のとき(図中●で示す)、シートに大人が着席しているとき(図中■で示す)ともに、サセプタンスIm及びコンダクタンスReが大きくなる。これは、アンテナ電極122とアンテナ電極121またはアンテナ電極123との間に水分が介在し、大人、空席いずれの場合に比べても比誘電率が大きくなり、電流値Iが大きくなるためである。
【0032】
また、判定回路23は、算出したアドミタンスYのサセプタンスImと、予め設定され判定回路23に記憶されたしきい値とを比較し、シートの着席状況を判定する。すなわち、判定回路23には、予め、例えばシ−トに着席している乗員の着席状況(着席の有無,大人か子供かの識別)などに関するしきい値(しきい値デ−タ)が格納(記憶)されている。具体的には、図2に示すアドミタンスYのRe−Im特性において示す、算出したサセプタンスImとの比較に使用されるしきい値th2(第2のしきい値)を記憶している。ここで、しきい値th2は、大人が着席しているか、空席であるかを区別するためのしきい値とする。
しかし、上述の様にシートの被水の程度によっては、図2に示すように、アドミタンスYが増加することにより、サセプタンスImがしきい値th2を超えてしまい、本来空席と判定するものを大人と誤判定してしまう場合が生じる。
【0033】
そこで、判定回路23は、図2に示すように、被水検知モードにおいて、アドミタンスYのコンダクタンスReと、予め設定されたしきい値th1(第1のしきい値)とを比較し、コンダクタンスReがしきい値th1以上の場合(図中▲で示す)、シ−トは被水していると判定し、コンダクタンスReがしきい値th1未満の場合(図中△で示す)、シ−トは被水していないと判定する。
【0034】
このように、判定回路23は、電流・電圧検出回路21から入力される電圧値V及び電流値Iに基づいて、2つのモードにおいて、それぞれアドミタンスYを算出する。
そして、判定回路23は、被水検知モードにおいては、シートが被水しているかどうかを判定し、乗員検知モードにおいては、シートの着席状況を判定する。具体的には、被水検知モードにおいて算出したコンダクタンスReと、予め設定されたしきい値th1とを比較し、シートの被水状況を判定する。そして、被水していないと判定した場合、乗員検知モードにおいて算出したサセプタンスImとしきい値th2との比較を行い、サセプタンスImがしきい値th2以上の場合、シ−トに大人が着席していると判断し、サセプタンスImがしきい値th2未満の場合、シ−トは空席であると判断する。
【0035】
なお、乗員検知モードにおいて算出したアドミタンスYのうち、コンダクタンスReを用いて、被水検知を行うことはある程度は可能であるが、被水している場所、被水の程度により、正確に被水検知を行うことは難しい。そのため、本発明の実施形態においては、アンテナ電極122(測定電極)とアンテナ電極121及びアンテナ電極123(非測定電極)との間で被水検知を行うこととしている。
【0036】
判定回路23は、上述の判定結果に基づいて、エアバッグ装置に対して、エアバッグが展開可能となる展開OK信号またはエアバッグが展開不可能となる展開NG信号を送信する。例えば、シートが被水していないと判定し、かつ、大人が着席していると判定した場合、エアバッグが展開可能となる展開OK信号を送信する。また、シートが被水していないと判定し、かつ、空席であると判定した場合、エアバッグが展開可能となる展開OK信号またはエアバッグが展開不可能となる展開NG信号のいずれかを送信する。
【0037】
一方、シートが被水していると判定した場合、着席状況が不明であることから、エアバッグが展開不可能となる展開NG信号を送信する。なお、被水していると判定した場合、併せて警告装置等に警告信号を送信し、被水によりエアバッグ装置の展開または非展開が判断できないことを乗員に了知せしめる構成をとってもよい。
【0038】
ここで、エアバッグ装置は、例えば、セ−フィングセンサ,スクイブ,電界効果形トランジスタなどの半導体スイッチング素子の直列回路よりなる運転席側のスクイブ回路と、同様にセ−フィングセンサ,スクイブ,半導体スイッチング素子よりなる助手席側のスクイブ回路と、電子式加速度センサ(衝突検出センサ)と、電子式加速度センサの出力信号に基づいて衝突の有無を判断し、半導体スイッチング素子のゲ−トに信号を供給する機能を有する制御回路とから構成されている。そして、エアバッグ装置の制御回路は、判定回路23からの送信信号(展開OK信号または展開NG信号)が入力され、展開OK信号が入力された場合、半導体スイッチング素子にゲ−ト信号が供給されるようにセットされる。一方、展開NG信号が入力される場合、半導体スイッチング素子にゲ−ト信号を供給しないようにセットされる。
【0039】
以上が、図2に示した乗員検知システムの概略構成である。次に、アンテナ電極部の構成について、図3及び図4を参照して説明する。図3は、シート座面部11に配置されるアンテナ電極部の模式上面図、すなわち、シート座面部11を上方から見た平面図である。図4(a)は、図3のA−A’線断面図であり、図4(b)は、図3のB−B’線断面図である。
【0040】
図3及び図4において、シート座面部11は、矩形枠状に形成された金属製のシートフレーム10上に、ウレタン製のクッションパッド31が重合され、クッションパッド31は、シート表皮32により包容されている。シート表皮32は、複数枚の表皮材を縫合することにより形成され、吊り込み溝33各々において、シートパッドの下部方向へ吊り込まれる。吊り込みは、シート表皮の縫合部に吊り袋(不図示)が縫着され、該吊り袋に吊りワイヤ(不図示)が挿入されて、該吊りワイヤと、クッションパッド31形成の際にクッションパッド31内に埋め込まれた不図示の吊り込み用ワイヤが、ホグリングにより固定されることで行われる。
【0041】
アンテナ電極121、アンテナ電極122及びアンテナ電極123は、図4に示すように、シート表皮32とクッションパッド31との間に介装されている。アンテナ電極121、アンテナ電極122及びアンテナ電極123は、それぞれ絶縁性のフィルム基材上に形成された電極である。
【0042】
絶縁性のフィルム基材は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド、ポリエチレンナフタレート(PEN)等の樹脂からなり、数十μm〜150μm程度の厚さに設定されている。また、アンテナ電極121、アンテナ電極122及びアンテナ電極123は、それぞれ、絶縁性のフィルム基材上に貼り付けた銅箔をエッチングする、あるいは、絶縁性のフィルム基材上に銀等からなる導電性ペーストを印刷する、などの方法によって形成される。
【0043】
なお、一枚のフィルム上に、これらの全電極を印刷等して配置し、その一枚のフィルムをシート表皮32とクッションパッド31との間に介装してもよいが、その場合、一枚のフィルムは、吊り込み溝33各々において上述のホグリング箇所を避けるように、フィルム上の所定の箇所に開口部を設ける必要がある。
【0044】
また、図3に示すように、シート座面部11上には、複数個の水抜き孔13が吊り込み溝33内に設けられている。水抜き孔13は、図4(a)に示すように、吊り込み溝33において、シート表皮32、クッションパッド31を貫通して、シート裏面にまで形成される。なお、水抜き孔13の側面から、横方向にクッションパッド31内部へ水分が浸透しないように、水抜き孔13にパイプを挿入し、水分の横方向への浸透を防ぐ構成としてもよい。また、水抜き孔13は、上記ホグリング箇所を避けるように設けられる。また、アンテナ電極が印刷等された上記フィルムが、上述したような1枚のフィルムで構成される場合、すなわち、フィルムが吊り込み溝33を跨いで存在する場合、当然この水抜き孔13を避けるように、フィルム上の所定の箇所に開口部を設ける必要がある。
【0045】
次に、水抜き孔13と、アンテナ電極121〜123との配置構成について説明する。シート座面部11は、図3及び図4(a)に示すように、一般的にシートの構造上、シート前部に比べてシート後部の方が、シートフレーム10に近い距離にある。すなわち、図4(a)に示すように、シートフレーム10が車両床部に対して水平に置かれるので、図3において、座面部11の前部から後部にかけて配置されたアンテナ電極123、アンテナ電極122、アンテナ電極121は、この順番にシートフレーム10により形成される平面に対して垂直に下ろした線が、短くなっていく関係にある。つまり、アンテナ電極123、アンテナ電極122、アンテナ電極121は、この順番にシートフレーム10に対する距離が短くなっていく。このように、アンテナ電極121〜123には、高さ依存性があり、シートが被水した場合、アンテナ電極123が位置する座面部11の前部は、後部に比べて高く、シートにおける水が表面を流れやすく、かつ、水の浸透の少ない場所となり、水の残りにくい場所といえる。一方、アンテナ電極121が位置する座面部11の後部は、前部に比べて低く、シートにおける水の浸透の多い場所となり、水の残りやすい場所といえる。
【0046】
従って、座面部11が被水した場合、水分はシート表面を前部から後部に向かって流れるので、後部に位置するアンテナ電極121による判定の際、乗員の着席状況を誤検知する可能性が、前部に位置するアンテナ電極123による判定に比べ高くなる。また、後部において、水がいつまでも残ると長時間にわたって乗員検知における誤判定が続くこととなる。
【0047】
そこで、図3に示すように、水抜き孔13は、複数のアンテナ電極(アンテナ電極121〜123)のうち、車体接地に導通したシートフレーム10との距離が長いアンテナ電極(シート前部のアンテナ電極123)の近傍の吊り込み溝33には、少なく配置される。一方、複数のアンテナ電極のうち、車体接地に導通したシートフレームとの距離が短いアンテナ電極(シート後部のアンテナ電極121)の近傍の吊り込み溝33には、多く配置される。
【0048】
このように、水抜き孔13を配置したことで、本発明の乗員検知システムは、シート表皮の吊り込み溝に、水抜き孔を設け、シート下へ水を排水することとしたので、乗員検知における誤判定を少なくし、判定の安定性・継続性が改善された乗員検知システムを提供できる。また、シートが被水した場合であっても、吊り込み孔により、シート下へ排水するので、早期に乗員検知が可能となる乗員検知システムを提供できる。
【0049】
また、図5は、図3に示すシート座面部11の変形例を示す模式図である。図5において、座面部11aに配置されるアンテナ電極121〜123は、図3におけるアンテナ電極と同一構成であるため、同一の符号を付している、図5において、水抜き孔13aは、図3におけるよりも、よりシートフレーム10の内側に設けられている。
上述の通り、本発明の乗員検知システムは、乗員検知モードにより、各アンテナ電極とシートフレーム10との間に発生する電界に基づく電流値IによりアドミタンスYのうちのサセプタンスImを算出し、しきい値th2と比較する構成としている、そのため、水抜き孔13aを、シートフレーム10近傍の吊り込み溝33に配置すると、水を排出する際に、シートフレーム10が濡れて、抵抗成分、すなわち、アドミタンスYのうちのコンダクタンスReが大きくなり、上述の通り、アドミタンスYも空席或いは大人が着席しているかに係らず、増大してしまう。これによって、しきい値th2を用いた判定の際のマージンが少なくなり、誤判定しやすいこととなる。
そこで、水抜き孔13aを、シートフレーム10から所定の距離にある吊り込み溝33内に配置することで、乗員検知モードにおける、水分による誤検知を防ぐことが可能となる。
【0050】
このような構成により、本発明の乗員検知システムは、乗員判定において、水分による抵抗成分(アドミタンスYのうちコンダクタンスRe)によるアドミタンスYの変化を少なくして乗員検知を行い易くできるので、乗員検知における誤判定を少なくし、判定の安定性・継続性が改善された乗員検知システムを提供できる。
【0051】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の変更等も含まれる。例えばシ−トへのアンテナ電極の配置数は適宜に増減できるし、その形態も角形の他、矩形状,帯状などにも形成できる。
【0052】
また、乗員判定は予め判定回路23に格納されているしきい値と現実のアンテナ電極に流れる電流に関連する信号デ−タとの比較の他に、乗員のシ−トへの各種着席パタ−ン,着席姿勢などに関するデ−タを予め格納しておき、これとの比較によって、乗員の着席の有無,乗員が大人であるか否かなどの判定を行うこともできる。
【0053】
また、上記実施形態の説明においては、しきい値th2を用いて大人と空席を判別する例について説明したが、勿論この例に限られるものではなく、サセプタンスImとの比較を行う際のしきい値は複数あってよい。例えば、シ−トにそれぞれ大人の乗員又は子供の乗員が着席している場合、それぞれのアンテナ電極に対向する面積の違いによってそれぞれのアンテナ電極に流れる電流のレベルが異なり、判定回路23に入力される信号データのレベルも異なる。大人の乗員の場合、子供の乗員の場合に比べて電流値Iが大きくなるので、サセプタンスImも大きくなる。
【0054】
従って、子供の場合のサセプタンスImより若干低いレベルが、乗員の着席の有無に関するしきい値th2aとして、子供の場合のサセプタンスImより若干高いレベルが、子供と大人の区別をするしきい値th2bとして、それぞれ設定される。つまり、乗員検知モードで算出されるサセプタンスImが、しきい値th2aより小さい場合、空席と判定される。また、このしきい値th2aより大きく、しきい値th2bより小さい場合、子供が着席していると判定され、しきい値th2b以上の場合、大人が着席していると判定される。
【符号の説明】
【0055】
10…フレーム、11,11a…座面部、12…背面部、13,13a…水抜き孔、121,122,123,124,E1,E2,E3,E4…アンテナ電極、19…コネクタ配線、20…乗員検知ユニット、21…電流・電圧検出回路、22…SW切替回路、23…判定回路、OSC…正弦波発振回路、th1,th2,th2a,th2b…しきい値、31…クッションパッド、32…シート表皮、33…吊り込み溝、Im…サセプタンス、Re…コンダクタンス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シ−トの座面部に配置された複数のアンテナ電極と、
前記複数のアンテナ電極の周辺各々に微弱電界を発生させるための電界発生部と、
前記複数のアンテナ電極が周辺に発生させた各々の電界に基づいて流れる電流を検出する電流検出部と、
前記電流検出部から取り込まれたアンテナ電極に流れる電流に関連する信号デ−タと、予め記憶されている乗員の着席状況及び前記シートの座面部の被水状況に関連するしきい値デ−タとを、比較することにより、乗員の着席状況及び被水状況を判定する制御部と、
前記シートの表皮が前記シートのパッドへ吊り込まれる吊り込み溝内に、前記表皮及び前記パッドを貫通して前記シートの裏面に達するまで延ばして配置される水抜き孔と、
を備えることを特徴とする乗員検知システム。
【請求項2】
前記水抜き孔は、前記複数のアンテナ電極のうち、車体接地に導通したシートフレームにより形成される平面との距離が長いアンテナ電極の近傍に存在する前記吊り込み溝に比べて、前記平面との距離が短いアンテナ電極の近傍に存在する前記吊り込み溝に多く配置されることを特徴とする請求項1記載の乗員検知システム。
【請求項3】
前記水抜き孔は、前記シートの座面を平面視した場合、前記車体接地に導通したシートフレームの内側に設けられることを特徴とする請求項2に記載の乗員検知システム。
【請求項4】
衝突に基づいてエアバッグを展開させる機能を有するエアバッグ装置を更に備え、
前記制御部は、判定結果に基づくデ−タを前記エアバッグ装置に送信し、エアバッグ装置のエアバッグを展開可能な状態又は展開不可能な状態のいずれか一方にセットすることを特徴とする請求項1から請求項3いずれか1項に記載の乗員検知システム。
【請求項5】
前記アンテナ電極は、絶縁性のフィルム基材に導電塗料を印刷して形成されたアンテナ電極であることを特徴とする請求項1から請求項4いずれか1項に記載の乗員検知システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−122833(P2011−122833A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278336(P2009−278336)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(300052246)株式会社ホンダエレシス (105)
【Fターム(参考)】