説明

乗客コンベアのオイルパン清掃制御装置、乗客コンベアのオイルパン清掃方法

【課題】オイルパイン上の清掃において、最適な作業時間による清掃を実現し、作業時間の省力化と清掃品質の向上を図ること。
【解決手段】ステップ1を予め定められた所定の速度で走行させるように制御し、清掃板31が乗降口の近傍に到達したことが検知された場合に、ステップ1の走行方向を逆転させるようにステップ1の走行を制御し、ステップ1の走行速度の検知結果に基づき、ステップ1の走行速度が予め定められた所定の速度となるようにステップ1の環状走行のトルクを指定するトルク指定値を出力し、清掃板31がオイルパン2を清掃する方向に走行している際に出力されるトルク指定値と所定のしきい値との比較結果に基づいてステップ1の走行を停止させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗客コンベアのオイルパン清掃装置、乗客コンベアのオイルパン清掃方法に関し、特に、清掃期間の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
エスカレーター等の乗客コンベアのオイルパンに堆積した埃や油は、定期的に清掃しなければ煙草等のもらい火等により発火、発煙に至ってしまうため、定期的に清掃し除去する必要がある。しかし、エスカレーターのオイルパンはステップ復路側下方に設置されているため、清掃するためにはステップを半数エスカレーターから取り外す必要があり、非常に重労働であり、時間も掛かった。
【0003】
この問題を解決するため、従来技術として環状走行するステップ内に収納され踏板表面に設けられた穴から突出可能な清掃体と、この清掃体の出し入れを規制する閉塞手段と閉塞手段を動作させるステッピングモーターと、エスカレーターの累積走行時間を積算するタイマーと、ステッピングモーターの動作回数を数えるカウンターとを有するエスカレーターのオイルパン清掃装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に開示されたオイルパン清掃装置においては、エスカレーターの累積走行時間がタイマーに設定された時間に達する毎にステッピングモーターが駆動されて閉塞手段が開き、清掃体が自重でオイルパンに接触することにより清掃が行われる。この時、ステッピング動作回数をカウンターで数え、所定回数になったところで清掃を終了させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−303414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来技術では、カウンターによる動作回数によって清掃の要否を判断しているため、清掃時に現状の埃や油の残量を把握することはできず、オイルパンの清掃が冗長になってしまうことや、不十分になってしまうことがあり得る。そのため、清掃時間が不要に長くなってしまう場合や、埃や油の取り残しにより品質を低下させてしまうことがあり得る。
【0007】
本発明は、上記不都合を鑑みてなされたもので、その目的は、オイルパイン上に残った油や埃の量を簡便な方法で把握することで、最適な作業時間による清掃を実現し、作業時間の省力化と清掃品質の向上を図ることを可能とする乗客コンベアのオイルパン清掃装置、乗客コンベアのオイルパン清掃方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一態様は、無端状に連結されて乗降口間で環状走行する複数のステップ及び前記複数のステップの下部に設けられたオイルパンによって構成される乗客コンベアにおいて、一端がオイルパンに接触して前記複数のステップと同様に走行する清掃板を設け、前記清掃板が一方向に走行する際に前記清掃板によって前記オイルパンを清掃する清掃動作を制御する乗客コンベアのオイルパン清掃制御装置であって、前記清掃板が前記乗降口の近傍に到達したことを検知する清掃板位置検知部と、前記ステップを予め定められた所定の速度で走行させると共に、前記清掃板が前記乗降口の近傍に到達したことが検知された場合に、前記ステップの走行方向を逆転させる走行制御部と、前記ステップの走行速度の検知結果に基づき、前記ステップの走行速度が予め定められた所定の速度となるように前記ステップの環状走行のトルクを指定するトルク指定値を出力するトルク制御部と、前記清掃板が前記オイルパンを清掃する方向に走行している際に出力される前記トルク指定値と前記トルク指定値に対して定められたしきい値とを比較して比較結果を出力するトルク指令比較部と、前記比較結果に基づいて前記ステップの走行を停止させる停止部とを含むことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の他の態様は、無端状に連結されて乗降口間で環状走行する複数のステップ及び前記複数のステップの下部に設けられたオイルパンによって構成される乗客コンベアにおいて、一端がオイルパンに接触して前記複数のステップと同様に走行するように清掃板を設け、前記清掃板が一方向に走行する際に前記清掃板によって前記オイルパンを清掃する清掃動作を制御する乗客コンベアのオイルパン清掃方法であって、前記ステップを予め定められた所定の速度で走行させるように前記ステップの走行を制御し、前記清掃板が前記乗降口の近傍に到達したことを検知し、前記清掃板が前記乗降口の近傍に到達したことが検知された場合に、前記ステップの走行方向を逆転させるように前記ステップの走行を制御し、前記ステップの走行速度の検知結果に基づき、前記ステップの走行速度が予め定められた所定の速度となるように前記ステップの環状走行のトルクを指定するトルク指定値を出力し、前記清掃板が前記オイルパンを清掃する方向に走行している際に出力される前記トルク指定値と前記トルク指定値に対して定められたしきい値とを比較して比較結果を出力し、前記比較結果に基づいて前記ステップの走行を停止させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、オイルパイン上に残った油や埃の量を簡便な方法で把握することで、最適な作業時間による清掃を実現し、作業時間の省力化と清掃品質の向上を図ることを可能とする乗客コンベアのオイルパン清掃装置、乗客コンベアのオイルパン清掃方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係るエスカレーターシステムの全体構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係るエスカレーターシステムの機構部の構成を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係るエスカレーターシステムの動作を示すフローチャートである。
【図4】本発明の他の実施形態に係るエスカレーターシステムの全体構成を示す図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係るエスカレーターシステムの動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明の他の実施形態に係るエスカレーターシステムの全体構成を示す図である。
【図7】本発明の他の実施形態に係るエスカレーターシステムの機構部の構成を示す図である。
【図8】本発明の他の実施形態に係るしきい値の設定を示す図である。
【図9】本発明の実施形態に係る制御部のハードウェア構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態について、図を用いて詳細に説明する。本実施形態においては、乗客コンベアの一例であるエスカレーターを実現する機械的構成及びその機械的構成を制御する制御装置とを含むエスカレーターシステムを例として説明する。尚、以下の実施形態においては、高所と低所との間で乗客を乗せるためのステップが環状走行するエスカレーターを例として説明するが、本実施形態に係る要旨は、ベルトコンベアーのような平坦な乗客コンベアであっても適用可能である。
【0013】
図1は、本実施形態に係るエスカレーターシステムの全体構成を示す図である。図1に示すように、本実施形態に係るエスカレーターシステムは、エスカレーターを実現する機械的構成である機構部A及び機構部Aを制御する制御部Bとを含む。そして、機構部Aは、ステップ1、オイルパン2、ステップチェーン3、ターミナルギャ4、減速機5、モータ6、速度検知器7、清掃板31及び下部機械室42を含む。
【0014】
ステップ1は、乗客を斜め情報または下方へ運搬するための踏板である。オイルパン2は、復路側のステップ1の鉛直下方に設けられた底部であり、エスカレーター全体の傾斜に対して高い側に上部水平部21、低い側に下部水平部22が設けられていると共に、その間が傾斜部によって連結されている。このオイルパン2に堆積する埃23の清掃が本実施形態の要旨である。
【0015】
ステップチェーン3は、全てのステップ1を連結して駆動する。このステップチェーン3は、ターミナルギャ4に巻き掛けられ、減速機5によって駆動される。また、減速機5は、モータ6によって駆動される。速度検知器7は、モータ軸に取り付けられており、モータの回転を検知する。このような構成により、複数のステップ1がステップチェーン3によって無端状に連結され、乗降口間で環状走行する。
【0016】
清掃板31は、復路側のステップ1を1枚取り外したスペースに配置されることにより、ステップ1と同様に走行する。具体的には、清掃板31の一端は、ステップ1の前端を構成する補強に回転可能な状態で接続されてぶら下がることにより、他端がオイルパン2に接触する。これにより、清掃板31がオイルパン2を浚うように機能し、清掃が実行される。
【0017】
他方、制御部Bは、ステップ速度計算部9、平常運転速度指令部10、トルク指令部11、清掃運転速度指令部32、清掃運転モード切り替え部33、ステップ移動距離計算部34、ステップ枚数格納部35、清掃運転指示入力部36、トルク指令比較部37、しきい値格納部38を含み、本実施形態において清掃制御装置として機能する。
【0018】
ステップ速度計算部9は、速度検知器7の結果よりステップ1の速度を計測する。平常運転速度指令部10は、エスカレーターの平常運転時におけるステップ1の速度を示す情報(以降、平常速度情報)を出力する。平常運転速度指令部10が出力する平常速度情報は、ステップ速度計算手段9によって計算されるステップ1の速度に対応して、定められている。
【0019】
トルク指令部11は、ステップ速度計算部9によって算出されて出力されるステップ1の速度と、平常運転速度指令部10が出力する平常速度情報が示すステップ1の速度との差に基づき、モータ6が減速機5を駆動する際に必要なトルク量を算出し、その算出結果に応じた信号を出力する。即ち、トルク指令部11は、ステップ速度計算部9によって算出されたステップ1の速度に基づき、ステップ1の速度が、平常運転速度指令部10が出力する平常速度情報が示す速度になるように、フィードバック制御を行うトルク制御部として機能する。ここで、本実施形態に係るトルク指令部11は、近年増加傾向にあるインバータで制御されるエスカレーターに装備されるものである。
【0020】
ステップ移動距離計算部34は、速度検知器7の出力値からステップ1の移動距離を算出する。ステップ枚数格納部35は、ステップ1の枚数を示す情報を記憶している。図1に示すようなエスカレーターシステムに含まれるステップ1の枚数は決まっているが、エスカレーターが設置される場所に応じてステップ1の枚数は変動する。そのため、ステップ枚数格納手段35は、設置されたエスカレーター毎に、対応するステップ1の枚数を示す情報を記憶している。
【0021】
清掃運転速度指令部32は、平常運転速度指令部10と同様、ステップ1の速度を示す情報(以降、清掃速度情報とする)を出力すると共に、ステップ枚数格納手段35に格納されたステップ1の枚数に基づいて下側オイルパン水平部22から上側オイルパン水平部21までの距離(以降、片側搬送距離とする)を計算し、ステップ移動距離計算部34の計算結果が片側搬送距離に達すると、モータ6を反転駆動させるように清掃速度情報を出力する。即ち、本実施形態においては、清掃運転速度指令部32及びステップ移動距離計算部34が、清掃位置検知部として機能すると共に、清掃運転速度指令部32が、走行制御部として機能する。これにより、清掃運転モードにおいて、清掃板31が、下側オイルパン水平部22と上側オイルパン水平部21との間、即ち乗降口間を往復移動する。清掃運転モード切り換え部33は、平常運転指令部から出力される信号と、清掃運転速度指令部32から出力される信号とを切り替える。
【0022】
清掃運転指示入力部36は、清掃運転指示を清掃運転速度指令部32に入力することで、エスカレーターを清掃運転モードへ遷移させる。しきい値格納部38は、トルク指令部11が出力するトルク量の信号に対するしきい値を記憶している。しきい値格納部38が格納しているしきい値は、オイルパン2に埃が堆積していない状態において、清掃板31が装着されて清掃板31がオイルパン2に接触した状態で搬送される場合にトルク指令部11が出力するトルク量に所定の値を加えた値である。これについては後に詳述する。
【0023】
トルク指令比較部37は、しきい値格納部38が記憶しているしきい値とトルク指令部11の計算結果を比較してその結果を示す信号を出力する。停止部39は、トルク指令比較部37の結果に基づき、清掃運転速度指令部32に停止信号を送る。
【0024】
このような構成のエスカレーターシステムにおける清掃運転の動作について説明する。本実施形態に係るエスカレーターシステムにおいて清掃運転を実行する際、まずはオペレーターが、エスカレーターのステップ1を一つ取り外し、後続のステップ1の前端を構成する補強に清掃板31を回動可能な状態で取り付ける。更にオペレーターは、モータ6を駆動させて、図2に示すように、清掃板31が下部水平部22に接する状態とする。図2に示す状態が、エスカレーターシステムにおける清掃運転の初期状態である。
【0025】
図2に示すように清掃運転の準備が完了すると、オペレーターによる操作に基づき、清掃運転モード切り替え部33がエスカレーターシステムのモードを清掃運転モードに遷移させる(S301)。具体的には、トルク指令部11に入力されるステップ1の速度指定情報を、平常運転速度指令部10から出力される平常速度情報から、清掃運転速度指令部32aから出力される清掃速度情報に切り替える。そして、オペレーターによる操作に基づき、清掃運転指示入力部36が清掃運を開始するための信号を出力し、清掃運転速度指令部32によって清掃速度情報が出力され、清掃運転が開始される(S302)。
【0026】
清掃運転速度指令部32は、清掃運転を開始すると、清掃板31を下部水平部22から上部水平部21に向かって進む方向に移動させるように清掃速度情報を出力する(S303)。清掃運転速度指令部32は、ステップ移動距離計算部34の計算結果が片側搬送距離に達するまで同様の方向に清掃板31を移動させるように清掃速度情報を出力し続ける(S304/NO)。
【0027】
そして、ステップ移動距離計算部34の計算結果が片側搬送距離に達すると(S304/YES)、清掃運転速度指令部32は、モータ6を反転駆動させるように清掃速度情報を出力し、清掃板31を上部水平部21から下部水平部22に向かって進む方向に移動させる(S305)。
【0028】
S303の期間、即ち、清掃板31が下部水平部22から上部水平部21に向かって移動する期間においては、清掃板31がオイルパン2の傾斜面及び堆積した埃23から受ける力は、清掃板31を持ち上げる方向に働く。これにより、清掃板31の固定端とは反対側の端部は、埃23の上を通過する。
【0029】
他方、清掃板31が上部水平部21から下部水平部22に向かって移動する期間においては、清掃板31がオイルパン2の傾斜面及び堆積した埃23から受ける力は、清掃板31をオイルパン2に押し付ける方向に働く。これにより、清掃板31の固定端とは反対側の端部は、堆積した埃23に食い込み、オイルパン2に接触しながら面上をこするように移動する。これにより、堆積した埃23が清掃板31によって除去され、清掃が実行される。
【0030】
上述したように清掃が実行されている間、清掃板31は、オイルパン2をこすりながら、堆積した埃23を下部水平部22、下部機械室42に向かって押し出す。そのため、ステップ1を所定の速度で移動させるために必要なトルク量が増大する。即ち、トルク指令部11が出力するトルク量が所定のしきい値よりも大きければ(S306/NO)、未だ清掃が完了していないということを示す。
【0031】
即ち、しきい値格納部38に格納されているしきい値は、トルク指令部11が出力するトルク量が、オイルパン2に埃が堆積していない状態において、清掃板31を上部水平部21から下部水平部22の方向へ傾斜面上を移動させる際に必要なトルク量(以降、基準トルク量とする)となったことを判断するための値であり、基準トルク量よりもわずかに高い値として設定される。
【0032】
S306の処理は、トルク指令比較部37によって実行される。即ち、トルク指令比較部37は、ステップ1の搬送速度が清掃速度情報によって示される清掃運転時の速度となるようにトルク指令部11によって出力されるトルク指令値と、しきい値格納部38に格納されているしきい値とを比較している。そして、トルク指令値がしきい値よりも大きければ、トルク指令比較部37はそのまま清掃運転の状態を維持する。
【0033】
この場合、清掃運転速度指令部32は、ステップ移動距離計算部34の計算結果が片側搬送距離に達するまで同様の方向に清掃板31を移動させるように清掃速度情報を出力し続ける(S307/NO)。そして、ステップ移動距離計算部34の計算結果が片側搬送距離に達すると(S307/YES)、清掃運転速度指令部32は、モータ6を反転駆動させるように清掃速度情報を出力し、S303からの処理を繰り返す。このような制御により、清掃板31は、下部水平部22と上部水平部21との間を往復運動する。
【0034】
このような往復運動による清掃の結果、オイルパン2に堆積した埃23が除去されると、清掃板31が上部水平部21から下部水平部22に向かって移動する期間において清掃板31が埃23を押し出すことがなくなるため、必要なトルク量が低下する。
【0035】
そして、S306におけるトルク指令比較部37によるトルク指令値としきい値との比較の結果、トルク指令値がしきい値以下となる(S306/YES)ことにより、オイルパン2に堆積した埃23の除去が完了したと判断され、トルク指令部11が停止部39に対して停止信号を出力し、停止部39が清掃運転速度指令部32aに清掃運転を停止させるための信号を出力するこれにより、清掃運転が停止される(S308)。
【0036】
このようにして清掃運転が停止されると、オペレーターが下部機械室42に集められた埃23を回収する。これによりオイルパン2における埃23の清掃が完了する。オペレーターの操作に応じて清掃運転モード切り替え部33が、平常運転モードへの切り替えを行い、平常運転が再開される。
【0037】
以上説明したように、本実施形態に係るエレベーターシステムにおいては、トルク指令部11が出力するトルク量に基づいてオイルパン2に堆積した埃の除去が完了したか否かを判断する。このため、埃の取り残しを防止できると共に、清掃運転が冗長となって無駄な作業時間が発生することを防止することができる。また、本実施形態に係る清掃方法は、ステップ1を1つだけ取り外して清掃板31を取り付ければ良いため、オペレーターの作業量も少なく、容易に実行することができる。
【0038】
実施の形態2.
実施の形態1においては、ステップ枚数格納部35及びステップ移動距離計算部34の機能により、清掃板が下部水平部2、上部水平部21に夫々到達したことを判断して、清掃板31の往復移動を実現する場合を例として説明した。本実施形態においては、異なる態様により、清掃板31の往復移動を実現する態様について説明する。尚、実施の形態1と同様の符号を付す構成については同一、または相当を示すものとし、詳細な説明を省略する。また、以下の実施形態においては、高所と低所との間で乗客を乗せるためのステップが環状走行するエスカレーターを例として説明するが、本実施形態に係る要旨は、ベルトコンベアーのような平坦な乗客コンベアであっても適用可能である。
【0039】
図4は、本実施形態に係るエスカレーターシステムの全体構成を示す図である。図4に示すように、本実施形態に係るエスカレーターシステムは、実施の形態1に係るエスカレーターシステムと略同一の構成を有し、ステップ移動距離計算部34及びステップ枚数格納部35が省略された構成となっている。また、清掃板31に替えて清掃板31aが設けられており、清掃板31aは、紐31bによって前方のステップ1と接続されている。この紐31bにより、清掃板31aは回動が制限され、オイルパン2となす角度が所定の角度以下に保たれる。換言すると、紐31bは、清掃板31aが所定の位置よりも下方に下がらないようにする。
【0040】
また、本実施形態に係るエスカレーターシステムにおいては、清掃運転速度指令部32に替えて、清掃運転速度指令部32aが設けられている。清掃運転速度指令部32aは、実施の形態1に係る清掃運転速度指令部32と同様に、ステップ1の速度を示す情報である清掃速度情報を出力すると共に、トルク指令手段11の値より清掃板31aがオイルパンから離れたことを判断しモータ6を反転動作させるように清掃速度情報を出力する。これにより、清掃運転モードにおいて、清掃板31が、下部水平部22と上部水平部21との間を往復移動する。即ち、本実施形態においては、清掃運転速度指令部32aが、清掃板位置検知部として機能する。
【0041】
実施の形態1においても説明した通り、清掃板31aは、オイルパン2若しくは堆積した埃23に接触して移動する。このため、下部水平部22から上部水平部21の方向に進む場合も、上部水平部21から下部水平部22の方向に進む場合も、清掃板31がオイルパン2若しくは埃23と接触していることにより摩擦が発生し、ステップ1を所定の清掃速度で搬送するために要するトルク量が高くなる。
【0042】
これに対して、清掃板31が下部水平部22若しくは上部水平部21に到達して、上方に搬送されると、紐31bによって釣られた清掃板31aはいずれオイルパン2、または埃23と離れ、その分必要なトルク量が急激に低下する。本実施形態に係る清掃運転速度指令部32aは、この必要なトルク量の急降下に着目し、トルク指令部11が出力するトルク量が急降下した場合に、清掃板31aが下部水平部22、または上部水平部21に到達したことを判断する。
【0043】
図5は、本実施形態に係るエスカレーターシステムの動作を示すフローチャートである。図5に示すように、本実施形態に係るエスカレーターシステムは、全体的に実施の形態1において説明したエスカレーターシステムと同様に動作する。ここで、S504及びS507の処理において、清掃運転速度指令部32aは、実施の形態1におけるステップ移動距離計算部34の出力に応じた判断ではなく、トルク指令部11が出力するトルク量の急降下に基づいて、清掃板31aが下部水平部21、または上部水平部22に到達したことを判断する。
【0044】
このように、本実施形態に係るエスカレーターシステムによれば、ステップ枚数格納部35及びステップ移動距離計算部34を省略することができ、より簡易な構成で実現することが可能となる。
【0045】
実施の形態3.
本実施形態においては、トルク指令比較部37が参照するためにしきい値格納部38に格納されるしきい値を最適化する例について説明する。尚、実施の形態1と同様の符号を付す構成については同一、若しくは相当部を示すものとし、詳細な説明を省略する。
【0046】
図6は、本実施形態に係るエスカレーターシステムの全体構成を示す機能ブロック図である。図6に示すように、本実施形態に係るエスカレーターシステムにおいては、実施の形態1に係るトルク指令比較部37及びしきい値格納部38に替えて、トルク指令比較部37a及びしきい値格納部38aが設けられている。また、ステップ移動距離計算部34による計算結果が、トルク指令比較部37aにも入力されている。
【0047】
本実施形態に係るエスカレーターシステムの特徴は、清掃板31が搬送されて移動する際、上部水平部21と傾斜面との境目と、傾斜面と下部水平部22と境目において摩擦力等の抵抗が変化し、必要なトルク量が変化することに着目したことにある。図7(a)、(b)は、本実施形態に係る特徴の原理を示す図である。図7(a)は、清掃板31が上部水平部21と傾斜面側との境目を通過し、傾斜面側へ移動する際の状態を示す図である。この場合、清掃板31に加わる抵抗が一次的に減少することになり、必要なトルク量が急激に減少する。
【0048】
他方、図7(b)は、清掃板31が傾斜面と下部水平部22との境目を通過し、下部水平部22側へ移動する際の状態を示す図である。この場合、清掃板31に加わる抵抗が一次的に増大することになり、必要なトルク量が急激に増大する。このような場合において一律に同様のしきい値を適用すると、例えば図7(a)の状態において一次的に必要なトルク量が減少することにより、図3のS306において駆動トルクがしきい値以下であると判断され、未だ清掃が完了していないのに完了したと判断されてしまう可能性がある。
【0049】
また、図7(b)の状態において一次的に必要なトルク量が増大することにより、図3のS306において、清掃が完了しているにも関わらず完了していないと判断されてしまう可能性がある。そのような課題を解決するため、本実施形態に係るしきい値格納部38aは、図8に示すように、清掃板31の走行位置に応じたしきい値を記憶している。
【0050】
図8に示すように、下部水平部21と傾斜部との境目においては、図7(b)において説明した通り、必要なトルク量が一時的に増大するため、それに応じてしきい値も高く設定する。他方、傾斜部と上部水平部22との境目においては、図7(a)において説明した通り、必要なトルク量が一時的に減少するため、それに応じてしきい値も低く設定する。尚、図3にも示す通り、駆動トルクとしきい値との比較判断は、清掃板31がオイルパンを清掃する方向に走行している際にのみ判断されるため、図8に示すしきい値も、清掃板31がオイルパンを清掃する方向に走行している際にのみ適用されるしきい値である。
【0051】
そして、本実施形態に係るトルク指令比較部37aは、図8に示すように設定されたしきい値と、トルク指令部11から出力されるトルク量とを比較する。この際、トルク指令比較部37aは、ステップ移動距離計算部34から入力されるステップ1の移動距離に基づき、図8に示す横軸の位置を判断する。そして、判断した横軸の位置におけるしきい値の値とトルク指令部11から出力されるトルク量とを比較する。このような処理は、図3のS306において常時実行される。
【0052】
以上説明したように、本実施形態に係るエスカレーターシステムによれば、トルク指令比較部37が参照するためにしきい値格納部38に格納されるしきい値を最適化し、清掃運転の完了判断をより正確に行うことができる。
【0053】
尚、実施の形態1乃至3の図1、図4、図6において説明したような制御部Bは、ソフトウェアとハードウェアとの組み合わせによって実現される。以下、本実施形態に係る制御部Bのハードウェア構成について図9を参照して説明する。図9に示すように、本実施形態に係る制御部Bは、一般的な情報処理端末と同様の構成を有する。即ち、本実施形態に係る制御部Bは、CPU(Central Processing Unit)51、RAM(Random Access Memory)52、ROM(Read Only Memory)53、HDD(Hard Disk Drive)54及びI/F55がバス58を介して接続されている。また、I/F55にはLCD(Liquid Crystal Display)56及び操作部57が接続されている。
【0054】
CPU51は演算手段であり、制御部B全体の動作を制御する。RAM52は、情報の高速な読み書きが可能な揮発性の記憶媒体であり、CPU51が情報を処理する際の作業領域として用いられる。ROM53は、読み出し専用の不揮発性記憶媒体であり、ファームウェア等のプログラムが格納されている。
【0055】
HDD54は、情報の読み書きが可能な不揮発性の記憶媒体であり、OS(Operating System)や各種の制御プログラム、アプリケーション・プログラム等が格納されている。I/F55は、バス58と各種のハードウェアやネットワーク等を接続し制御する。LCD56は、ユーザが制御部Bの状態を確認するための視覚的ユーザインタフェースである。操作部57は、キーボードやマウス等、ユーザが制御部Bに情報を入力するためのユーザインタフェースである。
【0056】
このようなハードウェア構成において、ROM53やHDD54若しくは図示しない光学ディスク等の記録媒体に格納されたプログラムがRAM52に読み出され、それらのプログラムに従ってCPU51が演算を行うことにより、ソフトウェア制御部が構成される。このようにして構成されたソフトウェア制御部と、ハードウェアとの組み合わせによって、図1、図4、図6に示すような、本実施形態に係る制御部Bの機能を実現する機能ブロックが構成される。
【符号の説明】
【0057】
1 ステップ
2 オイルパン
3 ステップチェーン
4 ターミナルギャ
5 減速機
6 モータ
7 速度検出器
9 ステップ速度計算部
10 平常運転速度指令部
11 トルク指令手段
21 上部水平部
22 下部水平部
23 埃
31、31a 清掃板
31b 紐
32、32a 清掃運転速度指令部
33 清掃運転モード切り替え部
34 ステップ移動距離計算部
35 ステップ枚数格納部
36 清掃運転指示入力部
37、37a トルク指令比較部
38、38a しきい値格納部
39 停止部
42 下部機械室
51 CPU
52 RAM
53 ROM
54 HDD
55 I/F
56 LCD
57 操作部
58 バス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状に連結されて乗降口間で環状走行する複数のステップ及び前記複数のステップの下部に設けられたオイルパンによって構成される乗客コンベアにおいて、一端がオイルパンに接触して前記複数のステップと同様に走行する清掃板を設け、前記清掃板が一方向に走行する際に前記清掃板によって前記オイルパンを清掃する清掃動作を制御する乗客コンベアのオイルパン清掃制御装置であって、
前記清掃板が前記乗降口の近傍に到達したことを検知する清掃板位置検知部と、
前記ステップを予め定められた所定の速度で走行させると共に、前記清掃板が前記乗降口の近傍に到達したことが検知された場合に、前記ステップの走行方向を逆転させる走行制御部と、
前記ステップの走行速度の検知結果に基づき、前記ステップの走行速度が予め定められた所定の速度となるように前記ステップの環状走行のトルクを指定するトルク指定値を出力するトルク制御部と、
前記清掃板が前記オイルパンを清掃する方向に走行している際に出力される前記トルク指定値と前記トルク指定値に対して定められたしきい値とを比較して比較結果を出力するトルク指令比較部と、
前記比較結果に基づいて前記ステップの走行を停止させる停止部とを含むことを特徴とする乗客コンベアのオイルパン清掃制御装置。
【請求項2】
前記清掃板位置検知部は、前記ステップの走行速度の検知結果に基づいて前記清掃板の移動距離を算出すると共に、前記複数のステップの数に基づいて前記清掃板が前記乗降口の近傍に到達したことを検知することを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベアのオイルパン清掃制御装置。
【請求項3】
前記清掃板位置検知部は、前記トルク指定値に基づいて前記清掃板が前記乗降口の近傍に到達したことを検知することを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベアのオイルパン清掃制御装置。
【請求項4】
前記清掃板位置検知部は、前記トルク指定値が所定期間以内に所定値以上低下した場合に前記清掃板が前記乗降口の近傍に到達したことを検知することを特徴とする請求項3に記載の乗客コンベアのオイルパン清掃制御装置。
【請求項5】
前記ステップの走行速度の検知結果に基づいて前記清掃板の走行位置を算出する清掃板位置算出部を含み、
前記トルク指定値に対して定められたしきい値は、前記清掃板の走行位置に応じて定められており、
前記トルク指令比較部は、前記清掃板が前記オイルパンを清掃する方向に走行している際に出力される前記トルク指定値と前記清掃板の走行位置に応じて定められた前記しきい値とを比較して比較結果を出力することを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の乗客コンベアのオイルパン清掃制御装置。
【請求項6】
前記乗客コンベアは、高所と低所との間で前記ステップが環状走行するエスカレーターであり、
前記オイルパンは前記高所における底部である上部水平部と、前記低所における底部である下部水平部と、前記上部水平部と下部水平部との間の底部である傾斜部とを含み、
前記清掃板は、前記上部水平部から前記下部水平部に向かって進む際に前記オイルパンを清掃し、
前記清掃板の走行位置に応じ、前記トルク指定値に対して定められたしきい値は、前記上部水平部と前記傾斜部との間において基準値よりも低くなり、前記傾斜部と前記下部水平部との間において基準値よりも高くなるように定められていることを特徴とする請求項5に記載の乗客コンベアのオイルパン清掃制御装置。
【請求項7】
無端状に連結されて乗降口間で環状走行する複数のステップ及び前記複数のステップの下部に設けられたオイルパンによって構成される乗客コンベアにおいて、一端がオイルパンに接触して前記複数のステップと同様に走行するように清掃板を設け、前記清掃板が一方向に走行する際に前記清掃板によって前記オイルパンを清掃する清掃動作を制御する乗客コンベアのオイルパン清掃方法であって、
前記ステップを予め定められた所定の速度で走行させるように前記ステップの走行を制御し、
前記清掃板が前記乗降口の近傍に到達したことを検知し、
前記清掃板が前記乗降口の近傍に到達したことが検知された場合に、前記ステップの走行方向を逆転させるように前記ステップの走行を制御し、
前記ステップの走行速度の検知結果に基づき、前記ステップの走行速度が予め定められた所定の速度となるように前記ステップの環状走行のトルクを指定するトルク指定値を出力し、
前記清掃板が前記オイルパンを清掃する方向に走行している際に出力される前記トルク指定値と前記トルク指定値に対して定められたしきい値とを比較して比較結果を出力し、
前記比較結果に基づいて前記ステップの走行を停止させることを特徴とする乗客コンベアのオイルパン清掃方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−153472(P2012−153472A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13105(P2011−13105)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000232955)株式会社日立ビルシステム (895)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】