説明

乗客コンベアの過負荷防止装置

【課題】徒に乗客コンベアの利用を抑制することなく、乗客コンベアに過負荷がかかることを防止することができる乗客コンベアの過負荷防止装置を提供する。
【解決手段】乗客コンベア又は前記乗客コンベア近傍に設けられた警報発生装置と、乗客コンベアを駆動するモータに流れる電流を検出し、モータに流れる電流に基づいて、モータの負荷を検出する検出装置と、検出装置が検出したモータの負荷とモータの負荷の増加率とに基づいて、モータの将来の予測負荷を算出し、将来の予測負荷に基づいて、警報発生装置に警報を発生させるか否かを判定する警報制御装置と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、乗客コンベアの過負荷防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の乗客コンベアの過負荷防止装置は、検出したモータ電流値が予め設定された電流閾値を超えると、これから乗客コンベアに乗り込もうとする利用者に警報を発する。これにより、乗客コンベアの過負荷による駆動装置の故障等を防止する。このため、乗客コンベアの急停止が防止され、利用者が転倒することを未然に防ぐことができる。さらに、警報を発したにも関わらず、モータ電流値が増大する場合は、乗客コンベアをゆっくり停止したり、インバータを利用して、乗客コンベアの速度を落とすことも提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−124787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載のものは、予め設定された電流閾値が許容限界に近い場合、警告を発したときに既に装置が異常となり、乗客コンベアが急停止して、本来の目的を達成できないという問題があった。また、これを避けるために電流閾値を下げると、装置に余裕のある負荷状態でも、度々、警告を発することにより、乗客コンベアの利用を抑制し、乗客コンベアの輸送効率を低下させるという問題があった。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、徒に乗客コンベアの利用を抑制することなく、乗客コンベアに過負荷がかかることを防止することができる乗客コンベアの過負荷防止装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る乗客コンベアの過負荷防止装置は、乗客コンベア又は前記乗客コンベア近傍に設けられた警報発生装置と、前記乗客コンベアを駆動するモータに流れる電流を検出し、前記モータに流れる電流に基づいて、前記モータの負荷を検出する検出装置と、前記検出装置が検出した前記モータの負荷と前記モータの負荷の増加率とに基づいて、前記モータの将来の予測負荷を算出し、前記将来の予測負荷に基づいて、前記警報発生装置に警報を発生させるか否かを判定する警報制御装置と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、徒に乗客コンベアの利用を抑制することなく、乗客コンベアに過負荷がかかることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の実施の形態1における乗客コンベアの過負荷防止装置の全体構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1における乗客コンベアの過負荷防止装置が利用される乗客コンベアの側面図である。
【図3】この発明の実施の形態1における乗客コンベアの過負荷防止装置の過負荷予測方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
この発明を実施するための形態について添付の図面に従って説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0010】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1における乗客コンベアの過負荷防止装置の全体構成図である。
図1において、1は乗客コンベア用駆動機のモータである。このモータ1は、乗客コンベアを駆動する機能を備える。このモータ1の駆動力により、ステップ(図示せず)が、乗客コンベアの長手方向に循環移動する。これにより、利用者は、上部及び下部乗降口(図示せず)の一方からステップの上に乗り込むことで、乗客コンベアの長手方向に移動し、上部及び下部乗降口の他方に到着することができる。
【0011】
2は警報発生装置である。この警報発生装置2は、乗客コンベア又は乗客コンベア近傍に設けられる。この警報発生装置2は、音声や表示等により、乗客コンベアの利用者に警報を発生する機能を備える。具体的には、警報発生装置2は、音声や表示により、乗客コンベアに乗り込もうとする利用者に警告したり、乗客コンベアの利用を差し控える案内を行う機能を備える。3は計時装置である。この計時装置3は、乗客コンベアの制御盤等に設けられる。この計時装置3は、予め設定された検出間隔をあけて、トリガ信号を出力する機能を備える。
【0012】
4は負荷検出装置である。この負荷検出装置4は、乗客コンベアの制御盤等に設けられる。この負荷検出装置4は、計時装置3が出力するトリガ信号の各々に応答して、モータ1の負荷を検出する機能を備える。具体的には、負荷検出装置4は、モータ1に流れる電流を検出する。ここで、モータ1の負荷は、モータ1の入力電圧と同相の電流に比例する。即ち、負荷検出装置4は、モータ1に流れる電流に基づいて、モータ1の負荷を検出する機能を備える。これにより、乗客コンベアの負荷が検出される。
【0013】
5は警報制御装置である。この警報制御装置5は、乗客コンベアの制御盤等に設けられる。この警報制御装置5は、過負荷予測装置6を備える。この過負荷予測装置6は、隣接したトリガ信号のうちの後のトリガ信号に応答して負荷検出装置4が検出したモータ1の負荷から、隣接したトリガ信号のうちの先のトリガ信号に応答して負荷検出装置4が検出したモータ1の負荷を差し引いて、モータ1の負荷の増減量を算出する機能を備える。
【0014】
また、過負荷予測装置6は、モータ1の負荷が増加する場合、モータ1の負荷の増加量を検出間隔に対応する時間で除して、モータ1の負荷の時間増加率を算出する機能を備える。さらに、過負荷予測装置6は、モータ1の負荷とその時間増加率とに基づいて、モータ1の将来の予測負荷を算出する機能を備える。
【0015】
本実施の形態においては、警報制御装置5は、過負荷予測装置6が算出したモータ1の将来の予測負荷に基づいて、警報発生装置2に警報を発生させるか否かを判定する。そして、警報制御装置5は、警報発生装置2に警報を発生させると判定した場合は、警報発生装置2に警報信号を出力する。この警報信号を受けて、警報発生装置2は、警報を発生するようになっている。
【0016】
次に、図2を用いて、過負荷予測装置6が算出するモータ1の負荷の時間増減率について説明する。
図2はこの発明の実施の形態1における乗客コンベアの過負荷防止装置が利用される乗客コンベアの側面図である。
【0017】
図2において、7は乗客コンベアである。具体的には、乗客コンベア7は、傾斜部を有したエスカレータからなる。8は乗客コンベア7の乗り込み口である。9は乗客コンベア7の降り口である。図2の乗客コンベア7は、上昇運転中である。即ち、乗客コンベア7の下部乗降口が、乗り込み口8となる。一方、乗客コンベア7の上部乗降口が、降り口9となる。
【0018】
ここで、現時刻T0において、重力加速度をg、乗客コンベア7のステップ上に乗った全利用者に対応する初期総質量をM、乗客コンベア7の上昇速度をV、乗客コンベア7の傾斜部の傾斜角度をθとする。この場合、機械ロスを除いて簡略化すると、モータ1の負荷F0は、次の(1)式で表される。
F0=g・M・V・sinθ (1)
【0019】
ところで、利用者が乗り込み口8から乗客コンベア7に乗り込むと、ステップ上に乗った全利用者に対応する総質量は、初期総質量Mに、乗り込んだ利用者に対応した質量m1を加えたものとなる。これに対し、利用者が降り口9で降りると、ステップ上に乗った全利用者に対応する総質量は、初期総質量Mから、降りた利用者に対応した質量m2を差し引いたものとなる。このように、ステップ上に乗った全利用者に対応する総質量は、常時変化している。即ち、乗客コンベアの負荷は、エレベータの負荷と異なり、時々刻々と変化する。
【0020】
そして、ステップ上に乗った全利用者に対応する総質量の変化に追従して、モータ1の負荷も変化する。ここで、現時刻T0から検出間隔に対応した時間ΔT前の時刻T1でのモータ1の負荷をF1とする。この場合、時刻T1から現時刻T0までのモータ1の負荷増減量は、(F0−F1)で表される。また、モータ1の負荷の時間増減率は、(F0−F1)/ΔTで表される。
【0021】
一方、乗り込み口8のステップが降り口9に到達するまでの時間をTとする。この時間Tは、乗客コンベア7の行程と速度とから予め求まるものである。また、乗客コンベア7の許容負荷をFmとする。この許容負荷Fmは、モータ1の過負荷耐量を勘案して、予め求まるものである。この場合、現時刻T0から時間T後の時刻までのモータ1の負荷の比較増加量は、(Fm−F0)で表される。また、モータ1の負荷の許容時間増加率は、(Fm−F0)/Tで表される。
【0022】
従って、将来、モータ1の負荷が許容負荷Fmを超えないようにするためには、モータ1の負荷の時間増減率は、次の(2)式を満足する必要がある。
(F0―F1)/ΔT<(Fm−F0)/T (2)
【0023】
なお、検出間隔に対応した時間ΔTは、設計上の工夫によって任意に設定される。例えば、乗客コンベア7の速度を勘案し、検出間隔に対応した時間ΔTは、乗降口のステップが2、3枚通過する程度の時間に設定されることもある。また、検出間隔に対応した時間ΔTは、乗り込み口8のステップが降り口9に到達するまでの時間Tの1/10程度に設定されることもある。このように設定された時間ΔTであれば、モータ1の将来の予測負荷の算出に不都合はない。
【0024】
次に、図3を用いて、警報制御装置5による警報発生装置2の制御を説明する。
図3はこの発明の実施の形態1における乗客コンベアの過負荷防止装置の過負荷予測方法を説明するための図である。
【0025】
図3は図2で説明したモータ1の負荷の関係をグラフで示したものである。ここで、図3の横軸は時間を表し、縦軸はモータ1の負荷を表す。図3において、T0、T1、T F0、F1、Fmは、図2と同様のものである。また、10は許容負荷線である。11は臨界負荷線である。12は予測負荷線である。
【0026】
図2で説明したように、現時刻T0での負荷は、F0である。そして、時刻T以前に、モータ1の負荷が許容負荷Fmに到達しなければ、モータ1の過負荷は発生しない。即ち、臨界負荷線11は、座標軸上で、(T0、F0)点と(T、Fm)点とを結ぶ直線で表される。
【0027】
これに対し、過負荷予測装置6は、座標軸上で、(T0、F0)点と(T1、F1)点とを結ぶ直線を延長させた線を、予測負荷線12として求める。この予測負荷線12に基づいて、過負荷予測装置6は、モータ1の将来の予測負荷が過負荷になるか否かを判定する。
【0028】
図3においては、時刻T以前に、予測負荷線12が許容負荷線10と交わることが分かる。これにより、過負荷予測装置6は、時刻T以前に、モータ1が過負荷状態になると判定する。この場合、警報制御装置5は、警報発生装置2に警報信号を出力し、警報を発生させる。この警報の発生により、乗客コンベア7近傍にいる者は、乗客コンベア7の利用を差し控える。
【0029】
これに対し、予測負荷線(図示せず)が、時刻Tよりも後に許容負荷線10と交わる場合や、時間経過とともに減少する場合は、過負荷予測装置6は、時刻T以前には、モータ1が過負荷状態にならないと判定する。この場合、警報制御装置5は、警報発生装置2に警報信号を出力せず、警報を発生させない。これにより、これにより、乗客コンベア7の利用は、徒に抑制されない。
【0030】
以上で説明した実施の形態1によれば、警報制御装置5は、負荷検出装置4が検出したモータ1の負荷とその時間増加率とに基づいて、モータ1の将来の予測負荷を算出し、将来の予測負荷に基づいて、警報発生装置2に警報を発生させるか否かを判定する。具体的には、警報制御装置5は、モータ1の負荷の増加量を検出間隔に対応する時間で除して、モータ1の負荷の時間増加率を算出する。
【0031】
このため、将来、乗客コンベア7の過負荷が予測される場合に限って、実際に乗客コンベア7が過負荷になる前に、余裕を持って、警報発生装2を用いて、警報を発することができる。即ち、徒に乗客コンベア7の利用を抑制することなく、乗客コンベア7に過負荷がかかることを防止することができる。
【0032】
また、警報制御装置5は、許容負荷Fmから、隣接するトリガ信号のうちの後のトリガ信号に応答したときに負荷検出装置4が検出したモータ1の負荷を差し引いて、許容時間増加率を算出する。そして、警報制御装置5は、モータ1の負荷の時間増加率が許容時間増加率よりも大きい場合に、警報発生装置2に警報を発生させる。このため、簡単な構成で、乗客コンベア7の過負荷を予測することができる。
【0033】
なお、警報制御装置5が、検出間隔の各々に対応したモータ1の負荷の時間増加率の合算値を連続した複数の検出間隔の数で除して、平均時間増加率を算出し、平均時間増加率が許容時間増加率よりも大きい場合に、警報発生装置2に警報を発生させる構成としてもよい。この場合、モータ1の将来の予測負荷をより正確に算出することができる。
【0034】
また、警報制御装置5が、モータ1の負荷の時間増加率と許容時間増加率との比較を、後のトリガ信号に応答したときに負荷検出装置4が検出したモータ1の負荷が予め設定された閾値を超えた場合に行う構成としてもよい。この場合、モータ1の将来の予測負荷が過負荷になり得ない状況で、警報制御装置5が無駄な計算動作を行うことを防止することができる。
【0035】
さらに、実施の形態1では、エスカレータに過負荷防止装置を利用する場合で説明した。しかし、傾斜のない動く歩道に上記過負荷防止装置を利用しても、上記同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0036】
1 モータ、 2 警報発生装置、 3 計時装置、 4 負荷検出装置、
5 警報制御装置、 6 過負荷予測装置、 7 乗客コンベア、 8 乗り込み口、
9 降り口、 10 許容負荷線、 11 臨界負荷線、 12 予測負荷線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客コンベア又は前記乗客コンベア近傍に設けられた警報発生装置と、
前記乗客コンベアを駆動するモータに流れる電流を検出し、前記モータに流れる電流に基づいて、前記モータの負荷を検出する検出装置と、
前記検出装置が検出した前記モータの負荷と前記モータの負荷の増加率とに基づいて、前記モータの将来の予測負荷を算出し、前記将来の予測負荷に基づいて、前記警報発生装置に警報を発生させるか否かを判定する警報制御装置と、
を備えたことを特徴とする乗客コンベアの過負荷防止装置。
【請求項2】
予め設定された検出間隔をあけて、トリガ信号を出力する計時装置
を備え、
前記警報制御装置は、隣接したトリガ信号のうちの後のトリガ信号に応答したときに前記検出装置が検出した前記モータの負荷から、前記隣接したトリガ信号のうちの先のトリガ信号に応答したときに前記検出装置が検出した前記モータの負荷を差し引いて、前記モータの負荷の増加量を算出し、
前記モータの負荷の増加量を前記検出間隔に対応する時間で除して、前記モータの負荷の増加率を算出することを特徴とする請求項1記載の乗客コンベアの過負荷防止装置。
【請求項3】
前記警報制御装置は、予め設定された許容負荷から、前記後のトリガ信号に応答して前記検出装置が検出した前記モータの負荷を差し引いて、前記モータの負荷の比較増加量を算出し、
前記比較増加量を、前記乗客コンベアの乗り込み口にあるステップが前記乗客コンベアの降り口に到達するまでの時間として設定された時間で除して、許容増加率を算出し、
前記モータの負荷の増加率が前記許容増加率よりも大きい場合に、前記警報発生装置に警報を発生させることを特徴とする請求項2記載の乗客コンベアの過負荷防止装置。
【請求項4】
前記警報制御装置は、連続した複数の前記検出間隔毎に、前記モータの負荷の増加率を算出し、
前記検出間隔の各々に対応した前記モータの負荷の増加率の合算値を前記連続した複数の検出間隔の数で除して、平均増加率を算出し、
前記平均増加率が前記許容増加率よりも大きい場合に、前記警報発生装置に警報を発生させることを特徴とする請求項3記載の乗客コンベアの過負荷防止装置。
【請求項5】
前記警報制御装置は、前記モータの負荷の増加率と前記許容増加率との比較を、前記後のトリガ信号に応答したときに前記検出装置に検出された前記モータの負荷が予め設定された閾値を超えた場合に行うことを特徴とする請求項2〜請求項4のいずれかに記載の乗客コンベアの過負荷防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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