説明

乗客コンベアハンドレールの検査方法

【課題】探傷開始位置の特定が容易であって且つ探傷不能領域が低減された乗客コンベアハンドレールの検査方法を提供すること。
【解決手段】ハンドレール2の内部に設けられたスチールコード20の損傷をX線撮影により検査する検査方法であって、X線撮影において透過不能な材料で構成された帯状のスタートマーカー9を、帯の長手方向がハンドレール2の搬送方向に対して傾いた状態でハンドレール2に取り付け、X線撮影によって生成された画像においてスタートマーカー9によって遮蔽された範囲を検知することにより基準位置を認識し、スチールコード20の損傷を検査する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗客コンベアハンドレールの検査方法に関し、特に、無端状のハンドレールを検査する場合の検査位置の特定に関する。
【背景技術】
【0002】
エスカレータ等の乗客コンベアにおいては、乗客が乗るステップが円環状に連結されて回転駆動される。そして乗客の転倒防止のため、乗客が手をそえるためのハンドレールが設けられ、ステップと連動して回転駆動される。このハンドレールは複数の部品で構成されており、表面はウレタンやゴム等の樹脂材のカバーであり、内部には強度を維持するための抗張体と呼ばれる部品が設けられている。
【0003】
そして、その下には、カバーを固定するための固定部及びハンドレールの回転駆動に際してハンドレールが取り付けられる枠の表面を摺動する摺動部が設けられており、これには帆布などが用いられる。上記抗張体としては、スチールコードが複数並べて使用されているものがある。このスチールコードが破断したり撚れたりするとハンドレールの強度が低下するため、ハンドレールの点検ではスチールコードが正常な状態かを検査する必要がある。
【0004】
ハンドレールに含まれるスチールコードを検査するための装置として、X線を用いた透過探傷装置(例えば、特許文献1参照)や、漏洩磁束法を用いた探傷装置(例えば、特許文献2参照)が開示されている。これらの装置による探傷では、探傷時間の短縮のため、装置をハンドレール周方向へ動かしながら計測を行い、X線探傷では連続で画像を取り込みながら計測を行う。
【0005】
その際、ハンドレールは無端状に連結されており、そのままで損傷位置を特定できないため、測定開始位置にマーキングを取り付けて基準位置とすることにより、損傷位置の特定を容易にすることが行われる。特許文献2においては、開始位置特定のために1cmφ程度の鉄箔粘着シールを用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−10060号公報
【特許文献2】特開平10−218541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2においては、スチールコードの損傷位置特定のため鉄箔粘着シールが用いられているが、この鉄箔粘着シールが貼られた部分において、探傷装置は鉄箔からの信号を受けるため、スチールコードの劣化診断はできない。この鉄箔粘着シールのようなマーキングによる開始位置の特定方法はX線探査装置の場合にも用いることが可能であり、X線を透過しない鉄箔粘着シールを張り付けることにより、X線画像上にシールが写り込み、測定開始の基準位置とすることができる。
【0008】
しかしながら、鉄箔シールの面積が広すぎると、スチールコードの断線や撚れが生じている部分とシールを張り付けた部分とが重なっていた場合、その断線や撚れがX線画像上において鉄箔シールによって隠されてしまい、それらの損傷を検知することができなくなってしまう。他方、シールの面積を狭くすれば、スチールコードが隠されてしまう面積を狭くすることができ探傷不能部分は減るが、面積が狭くなった分、装置によってマーキングを認識し辛くなってしまう。
【0009】
本発明は、上記実情を考慮してなされたものであり、探傷開始位置の特定が容易であって且つ探傷不能領域が低減された乗客コンベアハンドレールの検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の一態様は、乗客が乗る踏板と同期して駆動されるハンドレールを透写することによって生成された画像に基づき、前記ハンドレールの内部に設けられた抗張体の損傷を検査する乗客コンベアハンドレールの検査方法であって、前記透写において透過不能な材料で構成された帯状のマーカーを、前記帯の長手方向が前記ハンドレールの搬送方向に対して傾いた状態で前記ハンドレールに取り付け、前記透写によって生成された画像において前記マーカーによって遮蔽された範囲を検知することにより、前記生成された画像の前記ハンドレールの搬送方向における位置を特定するための基準位置を認識し、前記基準位置に基づき前記生成された画像によって前記抗張体の損傷を検査する。これにより、探傷開始位置の特定が容易であって且つ探傷不能領域が低減された乗客コンベアハンドレールの検査方法を提供することができる。
【0011】
また、前記帯状のマーカーの長手方向の端部が、前記マーカーが前記ハンドレールに取り付けられる際の前記搬送方向に対する傾きに応じた角度で形成されており、前記マーカーの長手方向の端部の角度に従って前記マーカーを前記ハンドレールに取り付けることが好ましい。これにより、ユーザが、スタートマーカー9を取り付ける際、端部に設けられた角度に従って取り付けることにより、何度でも同様の角度で取り付けることができる。
【0012】
また、前記透写は、X線による撮影であり、前記マーカーは、X線を遮蔽するための金属粉を含んだシート状の部材であることが好ましい。これにより、使用時においてハンドレール表面から外れた場合にもハンドレールと装置に損傷を与えない。
【0013】
また、前記マーカーは、前記金属粉を含む層が他の材料の層によって被覆され、前記他の材料の層の表面に、前記ハンドレールに取り付けるための粘着剤の層が設けられていることがこのましい。これにより、脱着可能であり、繰り返し使用することが可能である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、探傷開始位置の特定が容易であって且つ探傷不能領域が低減された乗客コンベアハンドレールの検査方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係るハンドレールとハンドレール検査装置の配置関係を示す図である。
【図2】本実施形態に係るハンドレールに含まれるスチールコードの状態を模式的に示す図である。
【図3】本実施形態に係るハンドレールに含まれるスチールコードの損傷例を示す図である。
【図4】本実施形態に係るX線撮影された画像の例を示す図である。
【図5】本実施形態に係るハンドレールへのスタートマーカーの取り付け例を示す図である。
【図6】本実施形態に係るX線撮影された画像の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図を用いて詳細に説明する。図1は、本実施形態に係るハンドレール検査装置の構造図である。X線照射装置1が移動手摺であるハンドレール2の片面に設置されている。ハンドレール2を挟んでX線照射装置1の反対側には、受光器3が設置されている。受光器3はX線を受けて発光するので、受光器3の発光状態を画像取得器であるカメラ4で撮像することにより、X線画像が生成される。これらX線照射装置1、受光器3及びカメラ4は、図中において筐体5a及び筐体5bとして示されている筐体5に取り付けられている。
【0017】
次に、ハンドレール2に埋設された抗張体であるスチールコードについて説明する。図2は、ハンドレール2内部のスチールコードの構造を模式的に示す図である。ハンドレール2には18本のスチールコード20が埋め込まれており、このスチールコード20がハンドレール2の抗張体として機能する。
【0018】
このようなスチールコード20には、図3に示すような断線21、22、23や撚れ24が発生することがある。上記X線画像によりこのような断線21〜23及び撚れ24を見つけることが、ハンドレール検査装置の目的である。図4(a)〜(c)に、ハンドレール検査装置によって生成されたX線画像の例を示す。
【0019】
図4(a)は、正常な状態のスチールコード20の状態が写し出されたX線画像の例である。図4(b)は、撚れが発生したスチールコード20の状態が写し出されたX線画像の例である。図4(c)は、断線が発生したスチールコード20の状態が写し出されたX線画像の例である。
【0020】
本実施形態に係るハンドレール検査装置は、図4(a)〜(c)に示すような画像をハンドレールの周方向にわたって連続して収集し、収集した画像をつなぎ合わせて1本のハンドレールの画像を生成する。この際、ハンドレール検査装置は、隣接する位置を撮像した画像が重ならず、且つ抜けがないタイミングで撮像を行って画像を生成する。
【0021】
このようなハンドレール検査装置においては、無端状に連結されているハンドレールにおいて検査開始位置の基準点を明示し、損傷が検知された場合に損傷位置の特定を容易にするため、スタートマーカーが取り付けられる。図5(a)〜(c)に、本実施形態及び従来技術に係るスタートマーカーの構造の例を示す。
【0022】
図5(a)及び図5(b)は、従来技術に係るスタートマーカー7、8の構造の例を示す図である。従来技術に係るスタートマーカー7、8の構造では、夫々長方形のマーカーが、長方形の長辺がハンドレールの周方向とは垂直な方向になるように取り付けられている。また、図5(a)、図5(b)の例では、マーカーとなる長方形の短辺の長さが異なる。
【0023】
図5(c)は、本実施形態に係るスタートマーカー9の構造を示す図である。図5(c)に示すように、本実施形態に係るスタートマーカー9の構造では、図5(b)の例と同じように短辺の長さが短い長方形のマーカーが、ハンドレールの周方向に対して傾いて配置されるように取り付けられている。換言すると、本実施形態に係るスタートマーカー9の構造では、帯状のマーカーがハンドレールの周方向に対して斜めに取り付けられた構造となっている。
【0024】
図6(a)〜(c)は、図5(a)〜(c)夫々のスタートマーカーの構造について、X線写真の生成例を示す図である。図6(a)〜(c)においては、夫々“正常”、“撚れ”、“断線”の状態が示されている。また、図6(a)、(b)においては、スタートマーカーが画像の端に配置されている状態、即ち、ハンドレールに取り付けられたスタートマーカーがカメラ4による撮像範囲の端に配置された状態で撮像された画像を示している。
【0025】
尚、図6(a)〜(c)においては、図示の容易化のため、スタートマーカーの部分を斜線で示しているが、実際に撮影された画像においては、画像の枠と同様に黒のべた塗りとなり、枠との判別が困難となる。
【0026】
図5(a)のように、長方形の短辺の長さが長い場合、スタートマーカー7が画像の端に配置されている状態であっても、スタートマーカーによって画像が隠されることにより、図6(a)に示すように画像の範囲が非常に狭くなるため、ハンドレール検査装置が、スタートマーカーを検知することができる。しかしながら、図6(a)に示すように、スタートマーカーによって隠されてしまう範囲が広いため、断線の部分も隠されてしまい、スチールコードの損傷を検知することが難しくなってしまう。
【0027】
図5(b)のように、長方形の短辺の長さが短い場合、図6(b)に示すように、図6(a)の場合よりもスタートマーカー8によって隠されてしまう範囲は狭くなり、スチールコードの損傷の検知性能は向上する。しかしながら、長方形の短辺の長さが短い場合、スタートマーカー8が画像の端に配置されていると、図6(b)に示すように、画像が狭くなる幅が少なく、ハンドレール検査装置がスタートマーカー8を検知できない可能性がある。
【0028】
これに対して、図5(c)のように、帯状のスタートマーカー9がハンドレールの周方向に対して斜めに取り付けられている場合、スタートマーカー9の幅は図5(b)の場合と同程度であるため、図6(c)に示すように、スタートマーカー9によって隠されてしまう範囲は、図5(b)の場合と同程度に抑えることができる。
【0029】
更に、帯状のスタートマーカー9がハンドレールの周方向に対して斜めに取り付けられていることにより、ハンドレールの周方向においてスタートマーカー9が配置される範囲が広くなるため、図6(b)のように、スタートマーカー9が画像の端に配置されて枠と同化してしまい、ハンドレール検査装置によって検知困難となってしまうようなことがない。
【0030】
以上説明したように、本実施形態に係る乗客コンベアハンドレールの検査方法によれば、X線撮影において透写不能な材料で構成された帯状のスタートマーカー9を、帯の長手方向がハンドレール2の搬送方向に対して傾いた状態で、ハンドレール2に取り付け、X線撮影によって生成された画像においてスタートマーカー9によって遮蔽された範囲を検知することにより、生成された画像のハンドレールの搬送方向における位置を特定するための基準位置を判断する。これにより、探傷開始位置の特定が容易であって且つ探傷不能領域が低減された乗客コンベアハンドレールの検査方法を提供すること
【0031】
尚、本実施形態に係るスタートマーカー9の形状のうち、ハンドレールの周方向と垂直な方向の端部の形状は、図5(c)に示すように、帯状のスタートマーカー9の長手方向に対して角度が設けられている。そのため、ユーザが、スタートマーカー9を取り付ける際、端部に設けられた角度に従って取り付けることにより、何度でも同様の角度で取り付けることができる。
【0032】
また、スタートマーカー9は、X線を遮断するための金属粉を含んだ薄い材料のシートで構成されているため、使用時においてハンドレール表面から外れた場合にもハンドレールと装置に損傷を与えない。さらに、スタートマーカー9には、ラミネート加工、即ち、上記金属粉を含んだ薄い材料の層を被覆する他の材料の層である被覆層が設けられた上で、ハンドレールに取り付けられるために、上記被覆層の表面に粘着物が塗布されているため、脱着可能であり、繰り返し使用することが可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 X線照射器
2 ハンドレール
3 受光器
4 カメラ
5 筐体
9 スタートマーカー
20 スチールコード
21、22、23 断線
24 撚れ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客コンベアにおいて、乗客が乗る踏板と同期して駆動されるハンドレールを透写することによって生成された画像に基づき、前記ハンドレールの内部に設けられた抗張体の損傷を検査する乗客コンベアハンドレールの検査方法であって、
前記透写において透過不能な材料で構成された帯状のマーカーを、前記帯の長手方向が前記ハンドレールの搬送方向に対して傾いた状態で前記ハンドレールに取り付け、
前記透写によって生成された画像において前記マーカーによって遮蔽された範囲を検知することにより、前記生成された画像の前記ハンドレールの搬送方向における位置を特定するための基準位置を認識し、
前記基準位置に基づき前記生成された画像によって前記抗張体の損傷を検査する乗客コンベアハンドレールの検査方法。
【請求項2】
前記帯状のマーカーの長手方向の端部が、前記マーカーが前記ハンドレールに取り付けられる際の前記搬送方向に対する傾きに応じた角度で形成されており、前記マーカーの長手方向の端部の角度に従って前記マーカーを前記ハンドレールに取り付けることを特徴とする乗客コンベアハンドレールの検査方法。
【請求項3】
前記透写は、X線による撮影であり、
前記マーカーは、X線を遮蔽するための金属粉を含んだシート状の部材であることを特徴とする請求項1または2に記載の乗客コンベアハンドレールの検査方法。
【請求項4】
前記マーカーは、前記金属粉を含む層が他の材料の層によって被覆され、前記他の材料の層の表面に、前記ハンドレールに取り付けるための粘着剤の層が設けられている事を特徴とする請求項3に記載の乗客コンベアハンドレールの検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−218868(P2012−218868A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85454(P2011−85454)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000232955)株式会社日立ビルシステム (895)
【Fターム(参考)】