説明

乗用型農作業機及び乗用型田植機

【課題】エンジンやミッションケース等の動力・操作系統要素を効率的に配置して走行機体のスペースを有効利用する。
【解決手段】走行機体は、後部が傾斜部12aになったサイドフレーム12を有する。サイドフレーム12の傾斜部12aの下方にエンジン21が傾斜姿勢で配置されており、エンジン21の上方に燃料タンク27が配置され、燃料タンク27の上方に座席5が配置されている。エンジン21は座席5の後ろにはみ出た状態になっている。エンジン21の手前にはミッションケース22が配置されており、操縦機構部8はミッションケース22の手前に位置している。サイドフレーム12の下方の空間が効率良く利用されており、動力系統要素がバランス良く配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、乗用型田植機や乗用型苗移植機のような乗用型農作業機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乗用型田植機は前輪及び後輪で支持された走行機体を有しており、走行機体の後部に苗植装置を高さ調節可能に取り付けている。そして、走行機体には座席と操縦ハンドルとが配置されていると共にエンジンが搭載されており、エンジンからの動力によって走行と作業(例えば苗植)が行われる。そして、エンジンの配置位置について見ると、エンジンが前輪の車軸より前に配置されている態様(フロントマウントタイプ)と、エンジンが前輪と後輪との間に配置されている態様(ミッドマウントタイプ:例えば特許文献1)とに大別される。
【0003】
エンジンを走行機体の前部に配置すると、狭いスペースにエンジンや補機類や操縦用パワーステアリング等の機器・装置類が配置されるため設計面で苦労することがあるが、エンジンを前輪と後輪との間に配置すると、エンジンやミッションケースや操縦機構のレイアウトについて制約が少なくなって、設計の自由性が高くなる利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2600971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、特許文献1では、エンジンは平面視でほぼ全体が座席の下方に隠れる状態に配置されている。そして、座席と操縦ハンドルとの間隔は人の体格に規定されて概ね一定になっているが、走行機体は安定性や苗植装置の取り付けスペース等との関係からある程度の前後長さを有していて座席の後ろに延びており、このため、特許文献1のようにエンジンの全体を座席の下方に配置した構成では、座席の後ろにデッドスペースが生じて走行機体の使用効率が悪くなる虞があった。
【0006】
また、特許文献1のようにエンジンの略全体が座席の下方に配置されていると、a)例えば運転者が立ち上がったり走行機体上を前後方向に移動したりすると運転者と走行機体との全体の重心が前後にずれるが、着座状態の運転者の重心とエンジンの重心とはほぼ同じ前後位置に位置しているため、運転者の前後移動に伴う走行機体全体の重心のずれ移動が大きくなり、その結果、走行機体の全体の安定性が悪くなる虞がある、b)エンジンで発生した熱気は真上に立ち上がる性質を有しているため、運転環境が悪化する虞がある、c)座席の高さは一般的な人の体格に応じて概ね決まっているため、エンジンの高さが座席の高さによって規制されることになり、すると、使用できるエンジンの大きさ(出力)もおのずと限度があり、大型のエンジンを使用しにくくなる、といった問題も懸念される。
【0007】
本願発明は、このような現状を改善することを課題としている。また、本願は、特に乗用型田植機に関してエンジンと他の機器・装置類との配置など多くの改良点を含んでいる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明は多面的な広がりを持っている。第1の発明(或いは第1の構成:請求項1の発明)は乗用型農作業機としての上位概念を成すもので、この乗用型農作業機は、前輪及び後輪で支持されていると共にエンジンを搭載した走行機体と、前記走行機体に取り付けた作業装置とを有しており、前記走行機体のうち前輪と後輪との間に座席を配置し、前記走行機体のうち座席の手前側には操縦ハンドルを設けており、かつ、前記エンジンは、クランク軸が前輪及び後輪の回転軸と略平行になる姿勢で配置されている、という基本構成であって、前記エンジンを、平面視で座席と部分的に重複した状態で座席の後ろに大きくはみ出る状態に配置している。
【0009】
第2の発明(第1の構成:請求項2の発明)は第1の発明の下位概念であり、第1の発明において、前記エンジンは、クランク軸が手前に位置してシリンダボアが走行機体の側面視で後傾する姿勢に配置されている。
【0010】
第3の発明(第3の構成:請求項3の発明)は、第1の発明又は第2の発明において、平面視で前記エンジンの前端は前記座席の前端よりも後ろに位置しており、エンジンの略前半部は平面視で座席と重なっていてエンジンの略後半部は座席の後ろにはみ出ている。
【0011】
第4の発明(第4の構成:請求項4の発明)は、第2の発明又は第3の発明において、前記座とエンジンとの間には燃料タンクが配置されており、前記燃料タンクの下面の全体又は後ろ寄りの一部は前記エンジンの傾斜に合わせて側面視で傾斜している。
【0012】
本願発明は乗用型農作業機に好適に適用できる。この点を第5の発明(第5の構成:請求項5の発明)として特定している。すなわち第5の発明では、第1〜第4の発明のうちのいずれかにおいて、前記走行機体の後部には、作業装置としての苗植装置が高さ調節可能に取り付けられている。
【発明の効果】
【0013】
本願各発明では、エンジンは座席の下方に位置しつつ、座席の後ろに大きくはみ出る状態に配置されているため、走行機体のスペースのうち座席の後ろの部分をエンジンの配置スペースとして有効に使用できる。その結果、走行機体の使用効率を向上できる。特に、第3の発明(請求項3)のように概ねエンジンの半分かそれ以上を座席の後ろにはみ出させると、座席の後ろのスペースをより有効に利用できて特に好適である。
【0014】
また、着座した運転者の重心とエンジンの重心とが前後にずれるため、運転者が走行機体上を前後方向に移動した場合、運転者を含む走行機体の全体の重心の変動は特許文献1の場合よりも小さくなり、その結果、運転者が走行機体に乗り降りしたり作業を中断して走行機体上で移動したりする場合の安定性を向上することが可能になる。
【0015】
エンジンで発生した熱は主にシリンダヘッドの箇所から立ち上るものであるが、第2の発明(請求項2の発明)によると、クランク軸が手間に位置しているためシリンダヘッドは後ろに位置しており、このため、シリンダヘッドから熱気が立ち上った熱気が運転者に伝わることを防止又は著しく抑制できる。従って、運転環境の悪化を防止できる。
【0016】
また、第2の発明では、側面視でエンジンが後傾していることにより、エンジンを直立姿勢にした場合に比べて上端の高さを低くすることができ、このため、座席は通常の高さのままで出力が大きい大型のエンジンを搭載することが容易に行える。
【0017】
第4の発明(請求項4の発明)では、エンジンと座席との間に燃料タンクを配置してスペースを有効利用できるが、燃料タンクの下面が傾斜していることにより、座席とエンジンとの間の空間を有効利用できる。従って、例えば、座席の高さは変えることなく燃料タンクの容量を増やすことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】田植機の側面図である。
【図2】田植機の平面図である。
【図3】田植機を手前側から見た斜視図である。
【図4】苗植装置と施肥装置とを取り外した状態での斜視図である。
【図5】走行機体のみの側面図である。
【図6】車体カバーを取り付けた状態での走行機体の平面図である。
【図7】車体カバーを取り外した状態での走行機体の平面図である。
【図8】要部の側面図である。
【図9】要部の側面図である。
【図10】走行機体の一部省略背面図である。
【図11】走行機体の底面図である。
【図12】主要部材を後ろ側から見た部分斜視図である。
【図13】操縦ハンドルを中心にした部分の斜視図である。
【図14】ミッションケースとフレームとの関係を示す平面図である。
【図15】ミッションケースとフレームとの関係を示す分離斜視図である。
【図16】ミッションケースとフレームとの関係を示す分離斜視図である。
【図17】エンジンを中心にした部分の平面図である。
【図18】エンジンを中心にした部分の底面図である。
【図19】エンジンを中心にした部分を下方から見た斜視図である。
【図20】要部のレイアウトを示す左側面図である。
【図21】要部の分離側面図である。
【図22】エンジンを中心にした部分の右側面図である。
【図23】エンジンの後部支持機構を示すため下方から見た斜視図である。
【図24】エンジンの支持機構を示す後ろ上方からの斜視図である。
【図25】変速制御を司る部分の斜視図である。
【図26】変速制御を司る部材を側方から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は乗用型田植機(以下、単に「田植機」と略す)に適用している。以下の説明では、方向を特定するために「前後」「左右」の文言を使用するが、これらの文言は、特に断らない限り、前進方向を向いて着座した運転者の向きを基準にしている。
【0020】
(1).田植機の概要
まず、主として図1〜図5に基づいて田植機の概要を説明する。図1〜3から容易に理解できるように、田植機は主要部分として走行機体1と苗植装置2とを有しており、走行機体1は左右の前輪3と後輪4とで支持されている。走行機体1は、運転者が腰掛ける背もたれ付き座席5とその前方に配置された操縦ハンドル6とを有している。座席5と操縦ハンドル6は走行機体1の左右中間位置に配置されている。操縦ハンドル6はボンネット7で覆われた操縦機構部8に設けられている。また、座席5の前方で左右両側には予備苗台9を設けており、座席5の後ろには施肥装置10を設けている。
【0021】
例えば図1や図4から理解できるように、走行機体1は、前後方向に延びる左右のサイドフレーム12と、左右のサイドフレーム12をその前端寄り部位において連結したフロントフレーム13と、左右サイドフレーム12の後端に連結された左右長手のリアフレーム14とを有している。これらサイドフレーム12とフロントフレーム13とリアフレーム14とにより、走行機体1の中核を成す車体フレーム(シャーシ)が構成されている。サイドフレーム12の手前にはバンパー15を配置している。
【0022】
サイドフレーム12は、ほぼ前後中間部を境にして略前半部は略水平姿勢になって後半部は後傾姿勢となるように屈曲している。すなわち、サイドフレーム12の後半部は、後ろに行くほど高さが高くなる傾斜部12aになっている。例えば図5及び図11から理解できるように、フロントフレーム13とバンパー15とで受け板16を吊支し、受け板16にバッテリー17を載せている。図面では省略しているが、受け板16の左右外側にはバランサー(重り)を配置できるように配慮されている。
【0023】
例えば図7に示すように、左右のサイドフレーム12には左右横長で外向きに突出した外向き枝フレーム18が溶接によって固着されており、手前に位置した2本の外向き枝フレーム18に予備苗台9が固定されている。また、サイドフレーム12の左右外側には前後方向に延びる補助フレーム19が平面視で平行に配置されている。補助フレーム19は外向き枝フレーム18に溶接されており、また、リアフレーム14にはエンドステー50を介して固定されている。従って、リアフレーム14はサイドフレーム12の左右外側に突出している。後輪4はサイドフレーム12と補助フレーム19との間に位置している(6条植え田植機の場合は、前輪3及び後輪4はサイドフレーム12の外側に配置される。)。
【0024】
例えば図1から理解できるように、側面視でサイドフレーム12における傾斜部12aの下方に位置した部位にはエンジン21が配置されており、エンジン21の手前でかつサイドフレーム12より低い位置にはギア群を内蔵したミッションケース22が配置されている。エンジン21は、クランク軸23が左右方向に延びる姿勢で配置されており、動力はプーリ及びベルト24でミッションケース22の内部に伝達される。ミッションケース22の前部の左右側面にはフロントアクスル装置25が取り付けられており、フロントアクスル装置25で前輪3が回転自在に支持されている。例えば図1に示すように、前輪3が取り付く前車軸を符号26で示している。
【0025】
図2から理解できるように、エンジン21は走行機体1の縦長中心線に沿った位置に配置されている(すなわち、走行機体1の左右中間部に配置されている)。また、例えば図1に明示するようちに、エンジン21はクランク軸が手前に位置すると共にシリンダボアは後傾した姿勢で配置されている。
【0026】
座席5は、走行機体1のほぼ左右中間部の位置でかつ側面視では概ねサイドフレーム12における傾斜部12aの前半部の上方に位置している。そして、図1,2から理解できるように、平面視でエンジン21の前部は座席5と重なり合っており、平面視と側面視でエンジン21は座席5の後ろに大きくはみ出している。正確に述べると、エンジン21は、後ろ半分程度かそれ以上の割合で座席5の後ろにはみ出している。
【0027】
座席5とエンジン21との間には燃料タンク27が配置されている。燃料タンク27の前端は座席5の前端よりもやや後ろに位置している一方、燃料タンク27の後端は座席5の後端よりもやや後ろに位置している。座席5は、前後移動調節可能とすることができるが、この場合は、当然ながら座席5と燃料タンク27との相対的な前後位置は変化し得る。但し、燃料タンク27の前端が座席5の手前にはみ出ることは一般的でない(運転者の足が当たることがある。)。
【0028】
座席5の後ろには施肥装置10が配置されている。施肥装置10は、植付け条数と同じ数のホッパー28を備えており、ホッパー28の肥料は送風機29の送り作用により、ホースで圃場に投下される。例えば図5から理解できるように、施肥装置10はエンドステー50を介してリアフレーム14に取り付けられている。
【0029】
エンジン21の斜め後ろにはリアアクスルケース30が配置されており、リアアクスルケース30から左右に突出した後ろ車軸31に後輪4を相対回転不能に固定している。なお、泥土が深い圃場の場合は後輪4に補助輪を取り付けることがあり、また、田植機が6条植えの場合は後ろ車軸31に補助輪が取り付けられる。
【0030】
リアアクスルケース30とリアフレーム14とは左右2本のリア支柱33で連結されている。リア支柱33は側面視において鉛直線に対してやや前傾した姿勢になっている。例えば図4及び図6から理解できるように、リア支柱33に平面視Y形のトップリンク34がその前端を中心にして上下回動するように連結されている一方、左右のリア支柱33には前後に延びる平行な部材を主材とするロアリンク35がその前端を中心にして回動するように連結されており、トップリンク34とロアリンク35の後端にはヒッチ36が相対回動可能に連結されている。
【0031】
走行機体1のうち人が乗る部分は一体構造又は分離構造の車体カバー(車体カバー)37で覆われている。車体カバー37は、運転者が着座した状態で踏む床部37aと、座席5の後ろに広がる肩部(或いは段部)37bと、両者を繋ぐ鉛直部37cとを備えており、床部37aにはボンネット7(或いは操縦機構部8)との干渉を回避するように前向き凹部37dが形成されている。
【0032】
図7に示すように、左右のサイドフレーム12は操縦ハンドル6の下方の部分において中間フレーム38で連結されており、また、左右のサイドフレーム12には、中間フレーム38の後ろで座席5よりも前の位置において内向きに突出した内向き枝フレーム39が固着されている。そして、車体カバー37の床部37aは、サイドフレーム12や中間フレーム38、内向き枝フレーム39,外向き枝フレーム18などで支持されている。
【0033】
例えば図1ら理解できるように、苗植装置2はヒッチ36に取り付けられている。ロアリンク35は前後長手のメインメンバーと左右長手の連結杆40とを有しており、連結杆40とリアフレーム14とに油圧シリンダ41が相対回動自在に連結されている。従って、油圧シリンダ41を伸縮させると苗植装置2が昇降する。
【0034】
図1及び図2から理解できるように、苗植装置2は、ロータリー式の4個の植付け装置42、4本のベルトを有する苗載台43、フロート44、整地ロータ45などを有している。本実施形態は4個の植付け装置を有する4条植田植機であり、従来のものと同様に2個の植付け装置42が1セットになっている。苗植装置2の構造は本願発明と直接の関係はないので、苗植装置2の詳細な説明は省略する。
【0035】
本願発明のおおよその構成は以上の説明から理解できていると思われるが、更に、上記で触れていない図面も参照して走行機体1の詳細を説明する。
【0036】
(2).走行機体の骨組み(略上部)
まず、走行機体1の骨組みを説明する。既述のとおり、本実施形態では左右のサイドフレーム12とフロントフレーム13とリアフレーム14とで本体フレームが構成されているが、更に、ミッションケース22及びリアアクスルケース30の両者は、走行機体1の骨組みを構成する部材としても機能している。
【0037】
すなわち、既述のように、リアアクスルケース30はリアフレーム14とリア支柱33を介して連結されており、また、例えば図8や図11に示すように、ミッションケース22とリアアクスルケース30とがジョイント部材47を介して連結されており、更に、例えば図14〜図16に示すように、ミッションケース22はフロントブラケット48′,48″,49を介してフロントフレーム13に連結されている。
【0038】
このように、本実施形態は、ミッションケース22とリアアクスルケース30とを走行機体1の骨組み部材として利用している点を一つの特徴としている。更に述べると、ミッションケース22やリアアクスルケース30は多数のギア類を回転自在に支持する機能からして頑丈な構造になっており、このような頑丈な構造のミッションケース22とリアアクスルケース30とを骨組み部材に兼用しているのであり、このため、簡素でありながら高い支持強度を確保することができる。
【0039】
更に、走行機体1の骨組みを詳述する。まずサイドフレーム12について述べる。サイドフレーム12は断面角形の鋼管から成っており、既述のとおり後半部は傾斜部12aになっている。傾斜部12aの傾斜角度はエンジン21の傾斜角度と略同じになっている。このようにサイドフレーム12が傾斜部12aを有することにより、側面視でエンジン21は概ねサイドフレーム12の下方に位置しており、その結果、エンジン21のメンテナンスにおいてサイドフレーム12が邪魔になることを防止できる。
【0040】
さて、サイドフレーム12が全体に亙って水平姿勢であると、リア支柱33は特許文献1のようにサイドフレーム12の後端から立ち上がることになり、すると、リア支柱33の上端は自由端になるため支持強度が低くなる。これに対して本実施形態では、サイドフレーム12の後半部が傾斜部12aであることにより、サイドフレーム12とリア支柱33とがリアフレーム14を介して補強し合うため、全体として高い剛性が確保される。リア支柱33には苗植装置2の荷重が曲げ力として作用するが、本実施形態のように前傾姿勢であると、苗植装置2の荷重がリア支柱33に対して軸方向(上下方向)の圧縮荷重として作用するため、鉛直姿勢や後傾姿勢である場合に比べて支持強度が高い利点がある。
【0041】
なお、サイドフレーム12の断面形状は上下方向に長い角形になっているが、これは下向き荷重に対する剛性を高くするためである。リアフレーム14は丸パイプを採用しているが、これは、苗植装置2の昇降によって荷重の作用方向が変わっても影響を受けないようにすることを主目的としているが、サイドフレーム12とリア支柱33との取り付けが容易になる(突き合わせの方向性が無くなる)利点もある。他の断面形状を採用することも可能である。
【0042】
例えば図9から理解できるように、補助フレーム19の後端はリアフレーム14に固着された前後長手のエンドステー50に固着されている。また、補助フレーム19は、その前部と後部とは水平姿勢で両者の間には下向きに凹んだ上向き開口コの字形の段落ち部19aを有する形態であり、図3に示すように、段落ち部19aの下端部に昇降用踏み板51を設けている。
【0043】
図7,8に示すように、左右サイドフレーム12における傾斜部12aの先端寄り部位は、上水平部と左右足部とを有する門形のセンターフレーム52で連結されている。センターフレーム52の上端には後ろ向きに延びる左右2本の中間ステー52が固着されており、中間ステー53で座席5が支持されている。座席5は前向きに倒すことができ、座席5を前に倒すと燃料タンク27の注入口54(図12に明示している)が表れる。
【0044】
センターフレーム52とリアフレーム14との間には、左右長手で上向き開口溝形の後部支持バー55が配置されており、後部支持バー55に中間ステー53が上から重なって両者は溶接されている。後部支持バー55の左右両端は補助フレーム19にステー部材を介して固定されている。更に、後部支持バー55は、図9に示す中間足材56を介してサイドフレーム12の傾斜部12aで支持されている。車体カバー37の肩部37bは、後部支持バー55,補助フレーム19等で支持されている。例えば図6に示すように、車体カバー37には多数のスリットが形成されている。
【0045】
(3).走行機体の骨組み(略下部)
例えば図14に明示するように、ミッションケース22はおおよそ前後に長い形態になっており、大雑把には、左右2つのメインメンバーを重ねてボルト群で共締めした構造になっている。ミッションケース22の前部の側面部には左右の凸部22aを設けており、この凸部22aにフロントアクスル25が取り付けられている。
【0046】
ミッションケース22における後部の左側面にはHST(静油圧式無断変速機)58が取り付けられており、エンジン21からの動力がHST58の入力軸に既述のベルト24で伝達される。HST58のトラニオン(制御部材)は、例えば図6に示す変速ペダル60の動きに連動して動く。
【0047】
例えば図19,23,24から容易に理解できるように、ジョイント部材47は丸パイプを使用しており、その前端には平面視略コの字形の第1ブラケット61が溶接されており、この第1ブラケット61がミッションケース22の後端にボルトで固定されている。従って、ミッションケース22の後端には、第1ブラケット61が嵌合する受け部を形成している。
【0048】
他方、例えば図18,図19,図23,図24に示すように、ジョイント部材47の後端には平板状の第2ブラケット62が溶接されている一方、リアアクスルケース30には第2ブラケット62が重なる角形ボス部30cが形成されており、第2ブラケット62を角形ボス部30cにボルトで固定している。図18に明示するように、リアアクスルケース30の左右両端部は後ろ向きに突出した張り出し部30aになっており、左右の張り出し部30aから後ろ車軸31が左右外向きに突出している。
【0049】
例えば図18から理解できるように、ミッションケース22における前部第1出力ケース22aから走行ドライブ軸64が後ろ向きに延びており、後輪4の駆動動力は走行ドライブ軸64を介してリアアクスルケース30の内部に伝達されている。
【0050】
例えば図6から容易に理解できるように、左右サイドフレーム12の間隔はリアアクスルケース30の左右長さと概ね同じ程度の寸法に設定されている。他方、例えば図10に明示するように、リア支柱33の左右間隔は左右サイドフレーム12の間隔よりも小さくなっている。そして、図12に明示すように、リアアクスルケース30のうち後ろ向きの張り出し部30aの付け根箇所に段部30bを形成し、この段部30bにボルトで締結したリアブラケット65にリア支柱33が固定されている。図12に示すように、リアフレーム14には油圧シリンダ41(図1参照)を連結するシリンダ用ブラケット66が溶接されている。
【0051】
次に、ミッションケース22とフロントフレーム13との連結構造を説明する。図14や図16に示すように、フロントフレーム13の後面には後ろ向きに延びる上フロントブラケット48′が溶接されており、上フロントブラケット48の下方には中間フロントブラケット48″と下フロントブラケット49が配置されている。そして、中間フロントブラケット48″と下フロントブラケット49とにパワーステアリンング67を構成する油圧モータ68等がボルトで固定されていると共に、両フロントブラケット48″,49の後端はミッションケース22の前端部にボルトで締結されている。両フロントブラケット48″,49はミッションケース22の前端部を左右両側から挟む構造になっている。
【0052】
例えば図13(A)から理解できるように、操縦ハンドル6のハンドル軸は円筒状のハンドルポスト71に内蔵されており、操縦ハンドル6を回転操作すると、パワーステアリング67を介して前輪3が水平回動して走行機体1の操向方向が変えられる。
【0053】
例えば図15に示すように、パワーステアリング67は、上部を構成する既述の油圧モータ68と、油圧モータ68の下端に固着されたステアリングギアボックス72とを有しており、油圧モータ68の上端にハンドルポスト71が固定されており、ハンドル軸は油圧モータの軸に連結されている。ステアリングギアボックス72は油圧モータ70から後ろに延びる状態に配置されており、中間フロントブラケット48″と下フロントブラケット49とにボルトで固定されている。
【0054】
そして、両フロントブラケット48″,49がミッションケース22の前部にボルトで固定されている。具体的には、中間フロントブラケット48″に形成した張り出し部48aと下フロントブラケット49の後部側板49aとでミッションケース22の前部を左右両側から挟み、張り出し部48aと後部側板49aとをミッションケース22の側面にボルトで締結している。図15及び図16では、ボルトがねじ込まれる雌ねじ部を符号22bで示している。
【0055】
ステアリングギアボックス72の下端から回動自在な操舵アーム73が露出しており、操舵アーム73には図11に示すように左右2本の操舵ロッド74が連結されている。一方、例えば図18から理解できるように、フロントアクスル装置25には前車軸26を有する前輪ギアケース75が水平回動自在に取り付けられており、前輪ギアケース75の前車軸26に前輪3が固定されている。そして、前輪ギアケース75に設けたアーム部に操縦ロッド74が連結されている。
【0056】
(3).エンジン周辺と動力系統
既述のとおり、エンジン21はクランク軸23を横向きにすると共に側面視傾斜姿勢で配置されており、例えば図8,9に示すように、エンジン21のクランク軸23はHST58の入力軸77よりもやや高い高さに位置している。
【0057】
例えば図19や図20に示すように、リアアクスルケース30のうち角形ボス部30cの左右両側に後部受け部79を設けており、左右の後部受け部79で防振ゴム80を介して後ろ支持板81が支持されている。後ろ支持板81にエンジン21におけるクランクケース(エンジン本体)82の後部がボルトで締結されている。
【0058】
また、例えば図12や図19に示すように、ジョイント部材47の第1ブラケット61には左右長手で板材製の前部受け部83が溶接されており、そして図19や図23に示すように、前部受け部83に左右2個の防振ゴム80を介して左右長手の前支持板84が支持されており、前支持板84にクランクケース82の前部がボルトで締結されている。
【0059】
前部受け部83は側面視で水平に対してやや後傾しており、後部受け部79は側面視で水平に対してやや前傾している。従って、前後の受け部83,79は側面視で逆ハの字の形態をなしている。このため、ベルト24の回転に伴ってエンジン21に作用する反力(エンジン21をベルト24で前向きに引っ張ろうとする力)は、前部受け部83を下向きに押す力としても作用しており、このためエンジン21の支持強度が高い。
【0060】
本実施形態のエンジン21はガソリンエンジであり、図22に示すように、右側面にはエアクリーナ85が配置されている。図10や図19に示すように、リアアクスルケース30の下端部には、図1に表示した整地ロータ45を駆動するための整地駆動軸88が突出している。敢えて説明するまでもないが、整地駆動軸88と整地ロータ45とは自在継手で連結されている。
【0061】
図12及び図22に示すように、ミッションケース22のうちHST58と反対側の右側面には、昇降用油圧シリンダ41やパワーステアリング67を駆動するための油圧ポンプ89が配置されている。また、図10及び図22に示すように、リアアクスルケース30の前部でかつ右寄り部位には株間調節装置90が配置されており、株間調節装置90から植付軸(PTO軸)91が後ろ向きに突出していると共に施肥駆動軸92が上向きに突出している。
【0062】
敢えて述べるまでもないが、株間調節装置90は走行速度と植付け装置42の駆動速度(回転速度)との比率を変えるもので、株間調節装置90を外部から操作して入力軸93の回転数と出力軸(植付軸91及び施肥駆動軸92)の回転数との関係を変えることにより、前後に隣り合った苗株の間隔を変えることができる。また、これも説明は要しないと言えるが、植付軸91と施肥駆動軸92には自在継手を介してドライブシャフトが連結されている。
【0063】
例えば図12に示すように、燃料タンク27の左右側面にはフランジ27aが形成されており、このフランジ27aをサイドブラケット94にボルトで固定している。サイドブラケット94は燃料タンク支持ステーに固定されている。燃料タンク27の下面は、前端寄りの一部は略水平状になっていてそれより後ろの大部分は側面視で後傾している。燃料タンク12の下面の傾斜角度は、サイドフレーム12における傾斜部12aの角度及びエンジン21の傾斜角度と略同じになっている。燃料タンク27の上面は基本的には水平状になっており、上面と前面とが連なる上前角部は側面視で面取り状にカットされている。
【0064】
走行機体1には各種のレバー類(前後進切り換えレバーや苗植装置の昇降レバー等)を設けている。また、例えば図3や図13(A)に示すように、操縦機構部8のハンドルポスト71には板状のフロントプレート95が固定されており、このフロントプレート95に装着したフロントパネル(図示せず)に計器やディスプレイ等を設けている。
【0065】
(4).エンジン及び変速の制御
本願発明からは少し外れるが、エンジン21及び変速装置の制御の一例を次に説明しておく。図13から把握できるように、走行機体1の床(換言すると運転席の床)のうちハンドルポスト71の右側の箇所にはプレーキペダル97と変速ペダル60とが左右に配置されている。図13では表示していないが既述のとおり床は車体カバー37で構成されており、両ペダルペダル60,97は車体カバー37における床部37aの上に露出している。
【0066】
図25に示すように、変速ペダル60は、その後端部を中心にして回動するようにペダルブラケット98を介して右サイドフレーム12と外向き枝フレーム18とに取り付けられている。また、右サイドフレーム12のうち変速ペダル60の回動中心よりも手前の箇所には左右長手の筒体99が貫通しており、この筒体99に第1回転軸100を挿通している。第1回転軸100の右端部は筒体99の外側に露出していて第1軸受け101で回転自在に支持されている。第1軸受け101は筒体99に固定されている。
【0067】
更に、第1回転軸100の右端部には、斜め上向きと斜め下向きとの2つの後ろ向きアーム部を有するベルクランクレバー102が固定されており、ベルクランクレバー102における斜め下向きのアーム部とペダルブラケット98とは引っ張りばね103で連結されている一方、ベルクランクレバー102における斜め上向きのアーム部はスイング部材104を介して変速ペダル60に連結されている。従って、変速ペダル60は運転者の踏み込みによって前端が下に向かうように回動し、運転者が足を離すと変速ペダル60は引っ張りばね103の弾性力によって前端が上昇するように戻り回動する。
【0068】
第1回転軸100の左端部には略前向きに延びる駆動アーム105が固定されている。他方、筒体99の左側でかつ筒体99よりも手前側の部位には左右長手で筒状の第2回転軸106が配置されており、この第2回転軸106のうち右側寄り部位はフロントフレーム13に固定された第2軸受け107で回転自在に支持されている。
【0069】
第2回転軸106のうち右寄りの部位にはブラケット107を介してセンサケース108が固定されており、センサケース108の内部には第2回転軸106に対して回転するロータ(図示せず)が配置されており、ロータに、センサケース108の右側に位置した従動アーム109が固定されている。従動アーム109には長穴110が形成されており、この長穴110に、駆動アーム105に横向き突設したピン111がスライド自在に嵌まっている。従って、変速ペダル60の回動によって第1回転軸100が回転すると、駆動アーム105に連動して従動アーム109が回動する。
【0070】
図では表示していないが、センサケース108の内部には、従動アーム109の正転と逆転とを検知する2つのリミットスイッチ(センサ)と、従動アーム109と一体に動いてリミットスイッチに当たるドグとが内蔵されている。そして、2つのリミットスイッチとドグとは、両リミットスイッチがドグに当接しない中立位置に戻り勝手となるようにばねで保持されている。
【0071】
ハンドルポスト71を挟んで第2軸受け107の左側には、フロントフレーム13に固定された制御ケース112が配置されており、第2回転軸106の左端部は制御ケース112の内部に入り込んでいる。他方、図示による表示は省略するが、制御ケース112の内部には、第2回転軸106に固定された扇形等の制御ギアと、制御ギアを駆動するモータと、制御ギアに連動して回動するリンク機構とが配置されている。図26に示すように、リンク機構の回転軸は制御軸114として制御ケース112の左側面に突出している。
【0072】
図25のとおり、第2回転軸106の左端寄り部位には第1駆動リンク115が固定されていて、この第1駆動リンク115に変速ロッド116の一端部(前端部)が相対回転可能に連結されており、変速ロッド116の他端部(後端部)はHST58のトラニオンに連結されている。他方、図26に示すとおり、第2駆動軸114には第2駆動リンク117が固定されており、第2駆動リンク117にワイヤー118の一端が連結されており、ワイヤー118の他端はエンジン21のスロットルレバー(図示せず)に連結されている。
【0073】
変速ペダル60を踏み込むと、センサケース108に内蔵された一方のリミットスイッチがONになって制御ケース112に内蔵したモータが正転し、すると第2回転軸106が回転して変速ロッド116が引っ張られてHST58が増速に制御される。センサケース108も第2回転軸106と一緒に回転し、変速ペダル60の踏み込みを停止するとリミットスイッチは中立位置に戻ってモータは停止し、その結果、HST58の増速制御が停止して走行速度は一定になる。変速ペダル60が戻り回動すると、前記と逆の作用によって走行速度は減速される。エンジン21のスロットルレバーの制御もモータで行われ。
【0074】
つまり、トラニオン59やスロットルレバーの操作を変速ペダル60で直接に行うのではなくて、間接的かつ動力的に行っているのである。そして、トラニオン59を回動したりスロットルレバーを引いたりするには抵抗が伴い、このトラニオン59やスロットルレバーの操作力を運転者の踏み込み力で直接に行うと、運転者の足に大きな踏み込み抵抗が作用して運転者の負担が増える場合があるが、本実施形態のようにトラニオン59やスロットルレバーをモータで駆動すると、運転者の負担を軽減することができる。変速ペダル60の回動を検知する検出手段としては、ポテンショメータやロータリーエンコーダなどを使用することも可能である。
【0075】
ところで、変速ペダル60の回動に対するHST58の応答性が高過ぎると急加速や急減速によって走行フィーリングが良くない場合がある。この点について本実施形態では、制御ケース112に内蔵したモータの単位時間当たり回転数の設定で対処できる。すなわち、加速開始及び減速開始に際しての適切な加速度となるようにモータの回転数を設定しておくのであり、これにより、急発進や急停止を防止して良好な走行フィーリングを確保できるのである。
【0076】
(5).まとめ
以上のように、本実施形態の田植機は、エンジン21が傾斜姿勢で配置されている点やサイドフレーム12の後部が傾斜部12aになっているなど、本願発明の構成が具体化されている。その結果、発明の効果の欄に記載した諸効果が発揮される。また、上述の説明でも触れているが、本実施形態は従来にない多くの改良点を有している。この点を更に説明しておく。
【0077】
(5)-1.ミッションケースの配置
例えば図8から理解できるように、ミッションケース22はサイドフレーム12の下方に配置されており、かつ、既述のとおりミッションケース22とリアアクスルケース30とは走行機体1の骨組みを構成しており、エンジン21の荷重は、実質的にはミッションケース22とリアアクスルケース30とで支持されている。
【0078】
さて、特許文献1ではフレームでエンジン21を支持しているのでエンジン21の高さは高くなり、すると、座席の高さは決まっているのでエンジン21を大型化することが困難である点や燃料タンク27の上下寸法を小さくせねばならないといった問題が生じる虞がある。
【0079】
これに対して本実施形態では、サイドフレーム12より低い位置に配置されたミッションケース22とジョイント部材47とリアアクスルケース30とでエンジン21が支持されるため、エンジン21の支持高さを低くすることができ、このため、エンジン21が傾斜していることと相まってエンジン21の高さを低くすることができ、その結果、走行機体1の安定性を向上できると共に、燃料タンク27の上下寸法を大きくして容量を確保しつつ座席5を所定の高さに保持できる。
【0080】
(5)-2.座席と燃料タンクとエンジンとの位置関係
次に、座席5の前端と燃料タンク27の前端とエンジン21の前後位置関係にも特徴がある。すなわち、燃料タンク27の前端は座席5の前端よりも後ろにずれて、エンジン21の前端は燃料タンク27の前端よりも後ろにずれている。換言すると、燃料タンク27の前後中心位置が座席5の前後中心位置よりも後ろにずれて、エンジン21の前後中心位置が燃料タンク27の前後中心位置よりも後ろにずれている。
【0081】
そして、特許文献1では座席5と燃料タンク27とエンジン21とはその中心位置がほぼ一致しているため、座席の高さに制約されて燃料タンク27の上下寸法やエンジン21の高さを大きくできないが、本実施形態では、エンジン21を傾斜させると共に燃料タンク27の下面を傾斜させた状態で上記のように三者が前後にずれているため、座席5は所定の高さに保持しつつ燃料タンク27の上下寸法とエンジン21の上下高さとを大きくできる。その結果、高出力エンジン21を有する田植機にも容易に適応できる。また、着座した運転者の足が燃料タンク27に当たることもないため、運転環境も良くすることができる。
【0082】
(5)-3.補助フレームの利点
例えば図6に示すように、補助フレーム19が外向き枝フレーム18と後部支持バー55とリアフレーム14とに固着されているため、補助フレーム19と外向き枝フレーム18と後部支持バー55とリアフレーム14とが互いに補強しあって走行機体1の骨組みが頑丈な構造になっている。また、既述のとおり、図3に示すように補強機能と車体カバー37の支持機能とを有する補助フレーム19に形成した段落ち部19aに昇降用踏み板51を設けているため、昇降用踏み板51を設けるために特別の部材を設ける必要がなく、このため走行機体1の構造の簡単化に貢献できる。
【0083】
また、サイドフレーム12の後半部は傾斜部12aとしつつ、補助フレーム19の後部は水平姿勢としてこれに後部支持バー55が固着されているため、車体カバー37の肩部37bをしっかりと支持することができる。この場合、後部支持バー55は中間足材56を介してサイドフレーム12の傾斜部12aで支持されているが、傾斜部12aは後ろに行くほど高さが高くなっていると共に中間獅子材56は傾斜部12aのうち後ろ寄りの部位に固定されているため、中間足材56の上下長さはさほど大きくなく、このため、後部支持バー55はしっかりと支持されており、結果として、補助フレーム19もしっかりと支持されている(高い剛性が確保されている。)。
【0084】
(5)-4.異機種での部材の共有化
さて、本実施形態の田植機は4条植えのタイプである。田植機は4条植えのみでなく3条植タイプ、5条植タイプ、6条植タイプ、8条植タイプなどがあり、苗植装置は植え付け条数によって左右間隔が相違し、また、必要な動力も植え付け条数によって相違する。更に、走行機体1に要求される剛性や安定性能(主として左右前輪の間隔及び左右後輪の間隔)も苗植装置の植え付け条数によって相違する。他方、エンジン21の出力にはある程度の巾があり、また、走行機体1の強度や安定性にも許容できる範囲がある。
【0085】
そして、本実施形態の走行機体1は、5条植及び6条植にも対応できるようになっている。すなわち、4〜6条植の田植機について走行機体1の骨組みやエンジン21は全体又は大部分を共通化している。植え付け条数が増えると苗植装置2の左右長さは長くなって走行機体1による苗植装置2の支持安定性は高くなるため、前輪3の左右間隔と後輪4の左右間隔とはいずれも大きくする必要がある。そこで、例えば6条植とする場合は、ミッションケース22とフロントアクスル装置25との間にはスペーサを介在せしめる一方、後輪4は左右に長い後ろ車軸31を使用することでリアアクスルケース30の左右両端との間隔を広げている。
【0086】
既述のように、6条植の場合は、前後輪3,4は補助フレーム19の左右外側に配置される。また、車体カバー37の肩部37bは苗植装置2の左右巾寸法に応じて寸法を変えねばならないため、6条植用田植機の車体カバー37は肩部37bの左右巾寸法が4条植タイプよりも大きくなっている。5条植の場合は、独自の車体カバー37を用意することも可能であるし、4条植と共通化するか6条植と共通化するかしても良い。
【0087】
(5)-5.パワーステアリンングの工夫
本実施形態では、既述のとおり、ミッションケース22を走行機体1の骨組みに兼用しているが、その場合、ミッションケース22をフロントフレーム13に直接に固着するのではなく、フロントフレーム13とミッションケース22とは、上下に離反した上フロントブラケット48と下フロントブラケット49とを介してミッションケース22に固定されており、また、上下フロントブラケット48,49はパワーステアリンング69のギアボックス72で連結されているため、パワーステアリンング69のギアボックス72もミッションケース22とフロントフレーム13とを連結する部材(強度メンバー)として機能している。
【0088】
そして、ミッションケース22は上下のフロントブラケット48,49に固定されているため、ミッションケース22はしっかりと保持されており、かつ、パワーステアリンング69のギアボックス72はギア群をしっかりと保持する必要性から頑丈な構造になっているため、上下フロントブラケット48,49とギアボックス72とで全体として頑丈な構造の連結部材が構成されており、その結果、ミッションケース22とフロントフレーム13とはしっかりと固定されている。
【0089】
(5)-6.走行制御の利点
既述のとおり、本実施形態ではHST58のトラニオン59とエンジン21のスロットルレバーとはモータで動力的に駆動されるが、制御用のモータやギアが内蔵された制御ケース112はハンドルポスト71(或いはパワーステアリンング69)を挟んで変速ペダル60及びプレーキペダル97と反対側(左側)に配置しており、このため、制御ケース112が変速ペダル60やプレーキペダル97の操作の邪魔にならない利点がある。
【0090】
また、ミッションケース22の上面箇所には前進と後進との切り換えや主変速と副変速との切り換えなどのためのロッドが配置されているが、HST58がミッションケース22の左側面に配置していると共に制御ケース112がハンドルポスト71の左側に配置されているため、変速ロッド116もミッションケース22の左側に寄せて配置することができる。このため、ロッド同士が接触することを防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
以上の説明のとおり、本願発明は田植機等の乗用型農作業機に具体化することができて高い有用性を有している。従って、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0092】
1 走行機体
2 苗植装置
3 前輪
4 後輪
5 座席
6 操縦ハンドル
8 操縦機構部
10 施肥装置
12 サイドフレーム
13 フロントフレーム
14 リアフレーム
19 補助フレーム
21 エンジン(ガソリンエンジン)
22 変速装置が内蔵されたミッションケース
23 クランク軸
24 ベルト
25 フロントアクスル装置
26 前車軸
27 燃料タンク
31 後ろ車軸
33 リア支柱
37 車体カバー
47 ジョイント部材
48,49 フロントブラケット
58 HST

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪及び後輪で支持されていると共にエンジンを搭載した走行機体と、前記走行機体に取り付けた作業装置とを有しており、前記走行機体のうち前輪と後輪との間に座席を配置し、前記走行機体のうち座席の手前側には操縦ハンドルを設けており、かつ、前記エンジンは、クランク軸が前輪及び後輪の回転軸と略平行になる姿勢で配置されている、という構成であって、
前記エンジンを、平面視で座席と部分的に重複した状態で座席の後ろに大きくはみ出る状態に配置している、
乗用型農作業機。
【請求項2】
前記エンジンは、クランク軸が手前に位置してシリンダボアが走行機体の側面視で後傾する姿勢に配置されている、
請求項に1記載した乗用型農作業機。
【請求項3】
平面視で前記エンジンの前端は前記座席の前端よりも後ろに位置しており、エンジンの略前半部は平面視で座席と重なっていてエンジンの略後半部は座席の後ろにはみ出ている、
請求項1又は2に記載した乗用型農作業機。
【請求項4】
前記座とエンジンとの間には燃料タンクが配置されており、前記燃料タンクの下面の全体又は後ろ寄りの一部は前記エンジンの傾斜に合わせて側面視で傾斜している、
請求項2又は3に記載した乗用型農作業機。
【請求項5】
前記走行機体の後部には、作業装置としての苗植装置が高さ調節可能に取り付けられている、
請求項1〜4のうちのいずれかに記載した乗用型田植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2010−213648(P2010−213648A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65962(P2009−65962)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】