説明

乳化物または分散物の製造方法、並びにこれを含む食品、皮膚外用剤及び医薬品

【課題】動植物から水溶性有機溶媒で抽出された天然成分の微細な乳化物または分散物を、天然成分の品質劣化が極めて少ない状態で提供する。
【解決手段】水溶性有機溶媒を用いて天然の動植物から抽出された天然成分を含む水溶性有機溶媒溶液と、水性溶液とを、最も狭い部分の断面積が1μm〜1mmであるマイクロ流路に各々通過させた後、対向流衝突により混合させる。好ましくは、混合後に、水溶性有機溶媒を除去する。また、これにより得られた乳化物または分散物を含む食品、皮膚外用剤及び医薬も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然の動植物から抽出された水不溶成分を水中に微細に分散した乳化物または分散物を製造する方法、並びにこれを含む食品、皮膚外用剤及び医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、天然の動植物からアルコール等の水溶性有機溶媒を用いて有効成分抽出し、これを食品添加物として食品や飲料に用いられたり、機能性化粧品として化粧品に添加される事が行われてきた。近年、健康ブームに乗って、種々の天然素材からの抽出が盛んに行われている。また、これまでは廃棄物であった物、例えば、バナナ葉、柑橘類残渣、タマネギの鬼皮等から有効成分をアルコールで抽出する事も行われている。
【0003】
このように、アルコール等の水溶性有機溶媒で抽出された天然有効成分は、抽出液から有機溶媒を除去、濃縮乾燥工程を経て、天然有効成分の粉末、油またはワックスとして取り出され、食品や飲料の原料とされるのが普通である。しかし、これらの有効成分は水には容易に溶けないものである事が大半であるため、水性食品、水性飲料、また触感に優れる水性化粧品にこれらの成分を使用するには、有効成分を別な溶剤や油脂で溶解させるか、それ自身を高温で溶融させた後乳化や分散の工程を経る必要があり、工程上の高コストにならざるを得なかった。特に有効成分を効果的に吸収させるためには、有効成分の油滴の大きさを1μm以下に微細化する必要があり、そのために大きな乳化エネルギーが必要であった。また、有効成分を一旦乾燥させ、それを再溶解または溶融させる過程で、有効成分が変質するために、実効成分量の減少や、変質成分の副作用もしばしば問題であった。
【0004】
そこで本発明者は、抽出液をそのまま乳化分散を行う事を試みた。すなわち、有効性分を含む水性有機溶媒を、乳化剤を用い、水相中に通常の乳化法にて乳化分散するものである。ここで言う通常の乳化法とは、機械力を用いた方法、すなわち外部から強い剪断力を与えることで油滴を分裂させる方法である。機械力として最も一般的なものは、高速、高剪断攪拌機である。このような攪拌機としては、ホモミキサー、ディスパーミキサーおよびウルトラミキサーと呼ばれるものが市販されている。また、高剪断力をかけられ、微細化に有用な別な装置として高圧ホモジナイザーがあり、種々の装置が市販されている。また、比較的エネルギー効率の良い分散装置として超音波ホモジナイザーも実験装置レベルでは良く用いられる。
しかし、これらの高剪断攪拌機、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザーのいずれの乳化装置を用いても、水溶性有機溶媒を多量に含む系の乳化を行う事は非常に困難で、平均粒径を1μm以下にすることは出来なかった。また、粒径分布もブロードになり、粗大粒子が短時間に分離してくるために、食品や化粧品の保存性に問題があった。水に不溶な天然有効成分を水性食品や水性化粧品に配合する場合、有効成分の消化吸収、経時による沈降や浮遊分離に対する安定性、外観上のクリアさ等から、微細な乳化分散を要求される事が多い。一般的にこれらをほぼ満たすためには、平均粒径が200nm以下にする必要がある。
【0005】
更に、別な乳化方法として、特許文献1にはマイクロミキサーを用いて天然物質のマイクロ粒子またはナノ粒子を連続的に製造する方法が開示されている。天然有効成分の粒子形成相と、水を主成分とする水相をそれぞれマイクロ流路に導入し、お互いが層状の液となって周期的に混合することで天然有効成分の粒子化を試みている。しかしながら、出来た粒子の平均粒径は1000nmを下回ること無く、目指すところの200nmには遠く及ばない事が明らかであった。
【0006】
【特許文献1】欧州特許第1180062号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、動植物から水溶性有機溶媒で抽出された天然成分の微細な乳化物または分散物を、天然成分の品質劣化が極めて少ない状態で提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記実情に鑑み本発明者らは、鋭意研究を行ったところ、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は下記の手段により達成されるものである。
【0009】
<1> 水溶性有機溶媒を用いて天然の動植物から抽出された天然成分を含む水溶性有機溶媒溶液と、水性溶液とを、最も狭い部分の断面積が1μm〜1mmであるマイクロ流路に各々を通過させた後、対向流衝突により混合させることを特徴とする乳化物または分散物の製造方法。
<2> <1>において、上記乳化物中の油滴粒子の体積平均粒子径が1nm〜100nmの範囲にあることを特徴とする、乳化物または分散物の製造方法。
<3> <1>〜<2>において、混合時における、上記水溶性有機溶媒溶液の流速(Vo)と水性溶液の流速(Vw)との比(Vo/Vw)が、0.05以上5以下であることを特徴とする乳化物または分散物の製造方法。
【0010】
<4> <1>〜<3>において、上記混合後に上記乳化物から水溶性有機溶媒を除去する工程を含むことを特徴とする、乳化物または分散物の製造方法製造する方法。
<5> <1>〜<4>において、上記水溶性有機溶媒溶液が、少なくとも1種のHLB10〜16の非イオン性界面活性剤を含むことを特徴とする乳化物または分散物の製造方法。
<6> <1>〜<5>において、上記水溶性有機溶媒が、エタノールまたは、エタノールと水の混合物であることを特徴とする、乳化物または分散物の製造方法。
【0011】
<7> <1>〜<6>において、上記天然成分が、機能性食品成分であることを特徴とする、微細な乳化物または分散物の製造方法。
<8> <7>において製造された乳化物または分散物を含むことを特徴とする食品。
<9> <1>〜<6>において、上記天然成分が、皮膚外用剤成分であることを特徴とする、乳化物または分散物の製造方法。
<10> <9>において製造された乳化物または分散物を含むことを特徴とする皮膚外用剤。
<11> <1>〜<6>において、上記天然成分が、医薬成分であることを特徴とする、微細な乳化物または分散物の製造方法。
<12><11>において製造された乳化物または分散物を含むことを特徴とする医薬品。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、動植物から水溶性有機溶媒で抽出された天然成分の微細な乳化物または分散物を、天然成分の品質劣化が極めて少ない状態で提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の乳化物または分散物の製造方法は、水溶性有機溶媒を用いて天然の動植物から抽出された天然成分を含む水溶性有機溶媒溶液と、水性溶液とを、最も狭い部分の断面積が1μm〜1mmであるマイクロ流路に各々通過させた後、対向流衝突により混合させることを含むものである。
本製造方法では、水溶性有機溶媒を抽出液として用いて抽出された天然成分を、抽出後の溶液の形態、即ち、水溶性有機溶媒溶液として水性溶液と混合するので、乾燥工程を経た形態又は乾燥後に再溶解された形態で用いる必要がない。このため、乾燥工程による熱劣化などの天然成分の品質劣化を極めて少なくすることができる。また、このような天然成分を含む水溶性有機溶媒溶液を油相として水性溶液とマイクロ流路を用いて対向流衝突により混合するので、微細な乳化物とすることができ、あるいは微細な分散物を得ることができる。
なお、本発明における「分散物」とは、主として乳化若しくは分散またはその後の処理によって得られた固体が分散媒に分散している「固体分散物」ないしは「固形の分散物」をいう。
【0014】
本発明における、天然成分とは、動植物から有機溶剤を用いて抽出操作によって分離したものを指す。抽出とは化学的分離操作法の一つで、液体または固体原料を溶剤と接触させ、原料中に含まれている溶剤に可溶な成分を、溶剤に不溶または難溶性成分から選択的に分離する操作を指す。本発明における抽出操作は、上記一般的な抽出操作に含まれる。
【0015】
本発明に用いる動植物原料は特に限定されるものではない。主として健康食品や健康飲料を最終用途に想定した場合、臭い、味、健康イメージの観点から動物原料より植物原料の方が好ましい。植物の部位としては、葉、茎、皮、実などあらゆる部分が原料となり得る。また、藻類、菌糸類、酵母類、菌類も本発明用の原料として好ましいものである。
【0016】
陸上植物原料の例としては、アシタバ、アズキ、アマチャヅル、アルファルファ、アロエ、イチョウ、イラクサ、インドセンダン、インディアン・グースベリー、ウイキョウ、ウコン、ウメ、ウンシュウミカン、エキナセア、エゾウコギ、エルダー、オウギ、オオバコ、オオヒレアザミ、オオムギ、オオムギワカバ、オクラ、オタネニンジン、オーツ麦、オリーブ、柿、ガジュツ、カノコソウ、カミツレ、ガラナ、カンゾウ、ガルニシア・カンボジア、キダチアロエ、ギムネマ、キャッツクロー、ギョウジャニンニク、グァバ、クコ、クズ、クマザサ、クミスクチン、クランベリー、グレープフルーツ、クワ、ケイヒ、ゲッケイジュ、ケール、ゲンチアナ、コタラヒムブツ、コーヒー、ゴマ、コメ、コムギ、コンニャクイモ、ザクロ、サフラン、サンザシ、サンシチニンジン、シソ、シタン、ジャスミン、シラカンバ、ショウガ、スギナ、ステビア、スピルリナ、セイヨウオトギリソウ、セイヨウサンザシ、セイヨウスモモ(プルーン)、セイヨウタンポポ、セイヨウトチノキ(マロニエ)、ソバ、ダイズ、ダイダイ、タイム、タマリンド、タマネギ、タラ、チェストツリー、チャ(茶)、チョウセンアザミ、ツバキ、ツボクサ、テンチャ、トウガラシ、ドクダミ、トチュウ(杜仲)、トマト、ニンジン、ナツメヤシ、ニンニク、ノコギリヤシ、パウ・ダルコ、ハス、パセリ、ハトムギ、パプリカ、バラ、ヒバマタ、ビルベリー、ビワ、フキタンポポ、ブドウ、ブラックコホシュ、ブルーベリー、プロポリス、ベニバナ、ホウレンソウ、ボルド、マカ、マカデミアナッツ、マコモ、マツ、マテ、マリーゴールド、ミカン、メグスリノキ、メマツヨイグサ、メリッサ(レモンバーム)、メリロート、モロヘイヤ、ユッカ、ヨモギ、ラフマ、ラベンダー、リンゴ、ライチ、レモン、ローズマリー、ワルテリアインディカ、コケ植物、シダ植物等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0017】
藻類としては、水中の酸素発生型光合成生物の全てがその対象になる。藻類の例としては、藍藻、原核緑色藻、灰色藻、紅藻、プラシノ藻、アオサ藻、緑藻、トレボキシア藻、シャジクモ藻、クリプト藻、クロララクニオン藻、ユーグレナ藻、渦鞭毛藻、黄金色藻、ラフィド藻、真眼点藻、黄緑色藻、褐藻、珪藻、ディクティオカ藻、ペラゴ藻、ハプト藻等が挙げられる。この中でも特に、緑藻綱に分類されるヘマトコッカス藻、褐藻綱に分類されるモズク、コンブ、ワカメ等は重要な原料である。
【0018】
菌糸類、酵母類、菌類は種々のものがある。これらの例としては、アガリクス、イースト、シイタケ、シャンピニオン、トウチュウカソウ、ナットウ、ビフィズス菌、ベニコウジ、シロキクラゲ、マイタケ、マッシュルーム、メシマコブ、ヤマブシタケ、レイシ等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0019】
これらの天然原料から抽出される天然成分としては多種多様なものがある。代表的なものとしては動植物に含まれる脂質成分がある。
脂質成分としては、脂肪酸類、グリセリド類、複合脂質類、テルペノイド類、ステロイド類、プロスタグランジン類などがある。
脂質成分の中で有効成分の例としては、リノール酸、γ−リノレン酸、アラキドン酸、α−リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、γ−アミノ酪酸、チオクト酸等が挙げられる。グリセリド類としては、モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、トリアシルグリセロールがある。複合脂質類としては、ホスファチジン酸、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール等のリン脂質、スフィンゴシン、スフィンゴミエリンなどのスフィンゴ脂質、モノガラクトシルグリセリド、グルコシルセラミド等の糖脂質が挙げられる。
【0020】
テルペノイド類の有効成分としては、リナロール、シトロネラール、ミルセン、リモネン、ピネン、メントール、シネオール、ショウノウ、ロンジホリン、セドロール、カリオフィレン等のモノテルペン、フィトール、アビエチン酸、カウレン、ジベレリン等のジテルペノイド、スクアレン、ダマレンジオール等のトリテルペノイド、カロテノイド色素に代表されるテトラテルペノイド、グッタペルカ、ビタミンK2、ユビキノン、ビタミンK1等のポリテルペノイドがある。これらの中で、カロテノイド色素は抗酸化力で特に注目される素材であり、カロテノイドの代表的なものとしては、アスタキサンチン、リコペン、ゼアキサンチン、ルテイン、カプサンチン、フコキサンチン、α-カロテン、β−カロテン等がある。
【0021】
ステロイド類の有効成分としては、スクアレン、コレステロール、エルゴステロール、スチグマステロール、でヒドロコレステロール、コレカルシフェロール(ビタミンD3)、25-ヒドロキシビタミンD3等のステロール類、テストステロン、アンドロステロン、プロゲステロン、エストロン、エストラジオール等の性ホルモン類、コルチゾン、デキサメタゾン等の副腎皮質ホルモン類、ジキトキシゲニン、ジコキシゲニン、ギトキシゲニン等の強心配糖体類、ジオスゲニン、コルチゾン等のステロイドサポゲニン類、コール酸、デオキシコール酸等の胆汁酸類が挙げられる。
【0022】
脂質成分以外の天然成分として重要なものの一つがポリフェノールである。ポリフェノールとは、同一分子内に複数のフェノール性水酸基を持つ植物成分の総称で、光合成によって出来た植物の色素や苦み成分を構成し、特に抗酸化力に優れたものである。ポリフェノールには、フラボノイド類、クロロゲン酸類、没食子酸類、エラグ酸系、リグナン類、クルクミン類、クマリン類に分類される。フラボノイド類には、ゲニスチン、ダイゼン等を含むイソフラボン、ケルセチン、ケンフェロール、ミリセチン、ルチン等を含むフラボノール、ヘスペリジン、ナリンギン等を含むフラバノン、シアニジン、デルフィニジンを含むアントシアニン、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、テアフラビン等を含むフラバノール、クリシン、アピゲニン、ルテオリン等を含むフラボンがある。ポリフェノールの中には、健康食品、美容成分として注目されている素材も多く、ガランジン、フィセチン、カルコン、プエラリン、レスベラトロール等が挙げられる。
【0023】
その他の天然成分として、特に医薬分野で有用な成分としてアルカロイド類が挙げられる。アルカロイド類としては、アコニチン、アトロピン、エフェドリン、カフェイン、カプサイシン、キニーネ、クラーレ、コカイン、コルヒチン、スコポラミン、ストリキニーネ、ソラニン、タキシン、テオフィリン、ドーパミン、ニコチン、ビンカ、ベルベリン、モルヒネ、リコリン等が挙げられる。
【0024】
また、その他の天然成分として、生姜から抽出されるショウガオール、ジンゲロール、ワサビや芥子の成分であるアリルイソチオシアネート、ニンニク等の成分であるアリシン、アリイン、スコルジン等が挙げられる。
【0025】
本発明における水溶性有機溶媒は、天然成分を含む油相として、後述する水性溶液との混合に用いられる。この水性有機溶媒は同時に、天然成分を抽出する抽出液の主成分である。即ち、本発明において天然成分は、水溶性有機溶媒を主成分とする抽出液へ抽出された状態で、水性溶液との混合に使用される。
本発明に用いられる水溶性有機溶媒とは、水に対する25℃での溶解度が10質量%以上の有機溶媒を指す。水に対する溶解度は出来上がった乳化物または分散物の安定性の観点から30質量%以上が好ましく、50質量%以上が更に好ましい。
【0026】
水溶性有機溶媒は、抽出の際には単独で用いてもよく、複数の水溶性有機溶媒の混合溶媒でもよい。また、水との混合物として用いてもよい。水との混合物を用いる場合には、上記水溶性有機溶媒は、少なくとも50容量%以上含まれていることが好ましく、70容量%以上であることがより好ましい。
【0027】
このような水溶性有機溶媒の例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、2−ブタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、メチルエチルケトン、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸メチル、アセト酢酸メチル、N−メチルピロリドン、ジメチルスルフォキシド、エチレングリコール、1,3ブタンジオール、1,4ブタンジオール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等及びそれらの混合物を挙げられる。これらの中でも、食品への用途に限定した場合、エタノール、プロピレングリコール、アセトンが好ましく、エタノール及びエタノールと水との混合液が特に好ましい。
【0028】
上記動植物原料から水溶性有機溶媒を用いて天然成分を抽出する方法は、従来法を用いて行うことができる。乾燥した植物等の原料を微粉砕した固体原料を用いる事が多いため、主には固液抽出装置を用いられる。実験的にはビーカー等で一定温度にて撹拌しながら抽出操作を行う簡便な方法や、ソックスレー抽出装置等が用いられる。工業的に用いられる固液抽出装置としては、浸透貫流型の抽出機として、回分式のバッテリー抽出機、連続式であるボールマン抽出機、ロトセル抽出機、ルルギ抽出機、ケネディ抽出機などがある。また、固体分散型装置としてバチューカタンク抽出機、ボノトー抽出機などを用いることができる。
【0029】
本発明において、抽出に用いる動植物、藻類、酵母、菌類等はよく水洗したのち、そのままあるいは乾燥後、ボールミル、凍結粉砕、圧縮粉砕、超音波処理等の物理的破砕処理か酵素的処理等により前処理することが望ましい。湿った材料から有機溶剤を用いて抽出した場合、夾雑物質の混入が著しく、また、抽出率も一様に低下することから工業的には乾燥菌体から溶剤抽出する方が好ましい。
【0030】
本発明に用いられる抽出は、代表的には、抽出される有効成分の特性に悪影響を及ぼす温度(又は選択した抽出溶剤の合理的な還流温度より高い温度)より低く且つ有意義な抽出が起こるのに十分な高い温度で実施される。一般的に、この温度は0℃から300℃の範囲であるが、それより高い又は低い温度も可能である。一般的に、抽出温度は抽出溶剤又は溶液の沸騰又は凍結特性に依存する。原則的に温度が高くなれば抽出速度も速くなるため、経済的な抽出速度のためには、中程度の温度が好ましい。通常の抽出温度は20〜68℃、好ましくは20〜50℃程度で行われる。
抽出溶剤の選択は、代表的には、抽出を受ける有効成分の化学的性質、溶解性、沸点及び凝固点等の要件に依存するが、上記の水溶性有機溶媒の内から好ましく選択することができ、エタノール、n−プロピルアルコール等のようなアルコールは生でも水で希釈しても抽出溶剤として好適であるが、特にエタノールが好ましい抽出溶剤である。
【0031】
抽出溶媒として例えばエタノールを用いる場合には、抽出原料の3〜100倍量程度(重量比)の抽出溶媒を使用し、30分〜2時間程度抽出を行う。溶媒中に有効成分を溶出させた後、ろ過して抽出残渣を除くことによって抽出液を得る。その後、常法に従って抽出液に希釈、濃縮、精製等の処理を施し、本発明による有効成分のエタノール溶液を得る。
【0032】
天然成分を抽出した後の動植物原料の残渣は、浸漬液の固体成分と液体成分を分離可能な方法で除去することができる。例えば、濾過、遠心分離、静置沈殿、あるいはそれらの組み合せのいずれであってもよい。濾過の場合、濾過方式はその方式は問わない。例えば、自然落下式、減圧濾過等の圧力制御式のいずれであってもよい。また、フィルター部は、ペーパーフィルター、メンブレンフィルター、布フィルター、チャコールフィルター、中空枝糸膜フィルター、ミクロフィルター、セライトフィルター、珪藻土、それらの組み合せ等のいずれであってもよい。フィルター部は単一層、多層を問わない。多層フィルターの場合には同一、若しくは異なる複数の層から構成されていてもよい。さらに、多層フィルターの場合には液体成分が各層を経由可能なように構成されていれば、必ずしも上下、若しくは左右に重層されている必要はない。例えば、フィルター成分を充填した複数のカラムを、配管を介して連結して濾過可能なようにしている場合は、各層が分離していてもよい。
【0033】
遠心分離の場合、固体成分と液体成分の分離方式は問わない。例えば、浸漬液を多孔管内に導入し、遠心機内で遠心させることによって孔から放出する抽出液を回収する方式であってもよいし、無孔管内に導入し、遠心後に上清である抽出液を回収する方式であってもよい。また、遠心の重力加速度(G)についても、液体成分と固体成分をある程度分離できれば、特に限定はしない。
【0034】
本発明における天然成分の抽出液から不溶固形分を濾過等の方法で除去する前に、活性炭、酸性白土又は活性白土から選ばれる1種以上と接触させることにより不溶固形分の除去が極めて容易となる。例えば、濾過で不溶固形分を除去する場合、濾過工程が最小回数、例えば1回で済むようになる。用いる活性炭としては、一般に工業レベルで使用されているものであれば特に制限されず、例えば、ZN−50(北越炭素社製)、クラレコールGLC、クラレコールPK−D、クラレコールPW−D(クラレケミカル社製)、白鷲AW50、白鷲A、白鷲M、白鷲C(武田薬品工業社製)等の市販品を用いることができる。活性炭の細孔容積は0.01〜0.8mL/gが好ましく、比表面積は800〜1300m/gが好ましい。活性炭はエタノール溶液100質量部に対して0.5〜5質量部好ましい。
【0035】
本発明における水溶性有機溶媒溶液における天然成分の含有量は、原料及び天然成分の種類によって異なるが、乳化物および分散物製造の効率の観点、乳化物および分散物の安定性の観点から一般に水溶性有機溶媒溶液の全質量に対して0.01質量%〜30質量%、好ましくは0.1質量%〜10質量%とすることができる。
また、水溶性有機溶媒溶液には、天然成分の他に、必要に応じて他の成分を含有してもよい。このような他の成分としては、水添油脂、シリコーン油等の油性成分、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤、合成リン脂質、合成セラミド等の界面活性化合物を挙げることができる。
【0036】
本発明における水性溶液すなわち水相は水を主成分とする水溶液である。
この水性溶液中には下記に示すような非イオン界面活性剤、イオン性界面活性剤、水溶性の塩類、糖類、多糖類、タンパク質、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、色素、香料等を含むことができる。
【0037】
イオン性界面活性剤の例としては、アルキルスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、モノアルキルリン酸塩、脂肪酸塩、レシチン等が挙げられる。塩類としては、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム等が用いられる。糖類としては、グルコース、フルクトース、スクロース、アラビノース、セロビオース、ラクトース、マルトース、トレハロース等が挙げられる。また、多糖類としては、マルトデキストリン、オリゴ糖、イヌリン、アラビアガム、キトサン等がある。タンパク質としては、各種アミノ酸類、オリゴペプチド、ゼラチン、水溶性コラーゲン、カゼイン、シクロデキストリン等が挙げられる。
【0038】
pH調整剤としては、水酸化ナトリウム等の塩基、塩酸等の酸、リン酸塩緩衝液、クエン酸塩緩衝液等の緩衝液を用いることが出来る。酸化防止剤としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体、クエン酸モノグリセリド等がある。
【0039】
水に対するこれらの添加剤の添加量は、乳化分散の微細化の観点から20質量%以下、好ましくは10質量%以下とすることができる。また、必要に応じて水相中にあらかじめ少量の水溶性有機溶媒を添加しておくこともできる。この場合の水溶性有機溶媒の添加量は乳化物および分散物の安定性の観点から20質量%以下、好ましくは10質量%以下である。
【0040】
[非イオン性界面活性剤]
本発明における非イオン性界面活性剤は、分散性向上のためHLB10以上でHLB16以下の非イオン性界面活性剤であることが好ましく、エマルションの安定性の観点からは12以上16以下であることがより好ましい。
また、前記非イオン性界面活性剤は、有機溶媒相及び水相のいずれか一方に含有しても、双方に含有してもよいが、少なくとも1つは有機溶媒相に添加することが好ましい。この場合、本発明の製造方法は、水性溶液と混合する前に、水溶性有機溶媒溶液に非イオン性界面活性剤を添加して、均一化させる工程を更に含むことができる。
【0041】
本発明で使用できる非イオン性界面活性剤の少なくとも一つは分散粒径の微細化の観点から、有機溶媒に溶解可能な非イオン性界面活性剤であることが好ましい。有機溶媒可溶な非イオン性界面活性剤としては、有機溶媒に溶解する非イオン性界面活性剤であれば特に限定は無い。
【0042】
ここで、HLBとは、通常界面活性剤の分野で使用される親水性−疎水性のバランスであり、通常用いる計算式として、例えば川上式等が使用できる。
本発明においては、下記川上式を採用する。
【0043】
HLB=7+11.7log(Mw/M0)
ここで、Mwは親水基の分子量、M0は疎水基の分子量である。
【0044】
また、メーカーが公表しているカタログ等に記載されているHLBの数値を使用してもよい。また、上記の式からも分かるように、HLBの加成性を利用して、任意のHLB値の非イオン性界面活性剤を得ることが出来る。
【0045】
本発明で好適に使用できる非イオン性界面活性剤の例としては、(モノ、ジ、トリ)グリセリン脂肪酸エステル、モノグリセリン有機酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、などが挙げられる。上記の中でも、分散物の安定性向上の観点から、より好ましくは、ポリグリセリン脂肪酸エステル、およびショ糖脂肪酸エステルである。
これらの非イオン性界面活性剤をそれぞれ単独または、それらの2種以上を任意の割合で併用する事も出来る。
また、上記の非イオン性界面活性剤は蒸留などで高度に精製されたものであることは必ずしも必要ではなく、反応混合物であってもよい。
【0046】
本発明に用いられる、ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、平均重合度が4以上、好ましくは6〜10のポリグリセリンと、炭素数8〜18の脂肪酸、例えばカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、およびリノール酸とのエステルである。
ポリグリセリン脂肪酸エステルの好ましい例としては、ヘキサグリセリンモノパルミチン酸エステル、ヘキサグリセリンモノミリスチン酸エステル、ヘキサグリセリンモノラウリン酸エステル、デカグリセリンモノオレイン酸エステル、デカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンモノパルミチン酸エステル、デカグリセリンモノミリスチン酸エステル、デカグリセリンモノラウリン酸エステル等が挙げられる。
これらのポリグリセリン脂肪酸エステルを、単独又は混合して用いることができる。
市販品としては、例えば、日光ケミカルズ(株)社製、NIKKOL Hexaglyn 1−L,NIKKOL Hexaglyn 1−M,NIKKOL Decaglyn 1−L,NIKKOL Decaglyn 1−M,NIKKOL Decaglyn 1−SV,NIKKOL Decaglyn 1−50SV,NIKKOL Decaglyn 1−ISV,NIKKOL Decaglyn 1−O,NIKKOL Decaglyn 1−OV,NIKKOL Decaglyn 1−LN,三菱化学フーズ(株)社製リョートーポリグリエステル L−10D、L−7D、M−10D、M−7D、P−8D、S−28D、S−24D、SWA−20D、SWA−15D、SWA−10D、O−15D、理研ビタミン(株)社製ポエムJ−0381V、ポエムJ−0021Vなどが挙げられる。
【0047】
本発明に用いられる、ショ糖脂肪酸エステルは、脂肪酸の炭素数が12以上のものが好ましく、12〜20のものがより好ましい。
ショ糖脂肪酸エステルの好ましい例としては、ショ糖モノオレイン酸エステル、ショ糖モノステアリン酸エステル、ショ糖モノパルミチン酸エステル、ショ糖モノミリスチン酸エステル、ショ糖モノラウリン酸エステル等が挙げられる。
本発明においては、これらのショ糖脂肪酸エステルを、単独又は混合して用いることができる。
市販品としては、例えば、三菱化学フーズ(株)社製リョートーシュガーエステルS−1170、S−1170S、S−1570、S−1670、P−1570、P−1670、M−1695、O−1570、OWA−1570、L−1695、LWA−1570、第一工業製薬(株)社製の、DKエステルF140、DKエステルF160、DKエステルSS等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
本発明には上記の水溶性非イオン性界面活性剤と併用してレシチンを用いることができる。本発明に用いられるレシチンは、グリセリン骨格と脂肪酸残基及びリン酸残基を必須構成成分とし、これに、塩基や多価アルコール等が結合したもので、リン脂質とも称されるものである。
レシチンは、分子内に親水基と疎水基を有しているため、従来から、食品、医薬品、化粧品分野で、広く乳化剤として使用されている。
【0049】
産業的にはレシチン純度60%以上のものがレシチンとして利用されており、本発明でも利用できるが、微細な油滴粒径の形成及び機能性油性成分の安定性の観点から、好ましくは一般に高純度レシチンと称されるものであり、これはレシチン純度が80%以上、より好ましくは90%以上のものである。
【0050】
レシチンとしては、植物、動物及び微生物の生体から抽出分離された従来公知の各種のものを挙げることができる。
このようなレシチンの具体例としては、例えば、大豆、トウモロコシ、落花生、ナタネ、麦等の植物や、卵黄、牛等の動物及び大腸菌等の微生物等から由来する各種レシチンを挙げることができる。
このようなレシチンを化合物名で例示すると、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルメチルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ビスホスアチジン酸、ジホスファチジルグリセリン(カルジオリピン)等のグリセロレシチン;スフィンゴミエリン等のスフィンゴレシチン等を挙げることができる。
また、本発明においては、上記の高純度レシチン以外にも、水素添加レシチン、酵素分解レシチン、酵素分解水素添加レシチン、ヒドロキシレシチン等を使用することが出来る。本発明で用いることができるこれらのレシチンは、単独又は複数種の混合物の形態で用いることが出来る。
【0051】
これら非イオン性界面活性剤の添加量は、乳化物または分散物全質量に対して、好ましくは0.1〜50質量%、より好ましくは0.5〜20質量%、更に好ましくは1〜15質量%である。
また、天然成分に対しては、好ましくは10〜1000質量%、より好ましくは50〜500質量%である。
非イオン性界面活性剤の添加量を0.1質量%以上とすることにより、微細な粒径の分散物が得られ易くなり、得られた分散物の安定性が向上する点で好ましい。また、50質量%以下とすることにより、分散物の泡立ちが激しくなる等の問題点を生じ難くなる点で好ましい。
【0052】
また水溶性有機溶媒溶液には、抽出液としても用いた水溶性有機溶媒に加えて他の水溶性有機溶媒を混合してもよい。また、抽出液に用いた水溶性有機溶媒に加えて水も添加することが出来る。後から添加する水溶性有機溶媒や水の混合割合は、乳化粒子の微細化の観点から50容量%以下であることが好ましく、30容量%以下であることがより好ましい。
【0053】
(マイクロミキサー)
本発明において、水溶性有機溶媒溶液と、水性溶液とを、最も狭い部分の断面積が1μm〜1mmであるマイクロ流路を通過させた後、対向流衝突により混合させる最も適切な装置は、対抗衝突型マイクロミキサーである。マイクロミキサーは、主に2つの異なる液を微小空間中で混合するもので、一方の液が機能性油性成分を含有する有機溶媒相であり、もう一方が水性溶液とする水相である。
本発明者はマイクロ化学プロセスの一つである粒径が小さなエマルション調製にマイクロミキサーを適用した場合、比較的低エネルギーで発熱が少なく、通常の攪拌乳化分散方式や高圧ホモジナイザー乳化分散に比べて、粒径が揃っていて、保存安定性にも優れる良好なエマルションまたはディスパージョンが得られることを見出した。熱劣化し易い天然成分を含む乳化に最適な方法であることも明らかにした。
【0054】
マイクロミキサーを用いて乳化または分散する方法の概要は、水相と有機溶媒相をそれぞれ微小空間に分け、それぞれの微小空間同士を接触、あるいは衝突させることにある。片方だけを微小空間に分け、もう一方がバルクであるような方法である、膜乳化法やマイクロチャネル乳化法とは明らかに異なるものであり、実際に片方だけを微小空間に分けても本発明のような効果は得られない。公知となっているマイクロミキサーとしては、種々の構造のものがある。マイクロ流路中の流れと混合に着目すると、層流を維持してミキシングする方法と、流れを乱して、すなわち乱流でミキシングする方法の2種を挙げることができる。層流を維持してミキシングする方法では、流路幅より流路深さの寸法を大きくとることで、2液の境界面積をなるべく大きくし、両層の厚さを薄くすることで混合の効率化を図っている。また、2液の入り口を多数に分割して交互に流す多層流にする方法も考案されている。
【0055】
一方、乱流でミキシングする方法では、それぞれの液を狭い流路に分けて比較的高速で流す方法が一般的である。アレイ化したマイクロノズルを用いて片方の液を、微小空間に導入されたもう一方の液中に噴出させる方法も考案されている。また、高速で流れる液同士を種々の手段を用いて強制的に接触させる方法は特に混合効果が良好である。前者の層流を用いた方法は一般に、出来る粒子は大きいが比較的分布が揃ったものになるが、後者の乱流を用いた方法は、非常に微細なエマルションが得る可能性があり、安定性及び透明性の点では乱流を用いた方法が好ましい場合が多い。乱流を用いた方法としては、櫛歯型と衝突型が代表的なものである。前記櫛歯型マイクロミキサーとしては、IMM社製に代表されるように、2つの櫛歯状の流路が対面して交互に入り組むように配置された構造となっている。これは櫛歯の幅を十分小さくとれば流れは乱流にはなるが、有機溶媒相と水相は衝突することなく、出会った後は並行流で同一方向に流れるため、強制的な接触効果は衝突型と比べて十分なものでなかった。
【0056】
これに対し、KMミキサーに代表される衝突型マイクロミキサーでは、運動エネルギーを利用して強制接触をはかる構造となっている。具体的には、長澤ら(「H.Nagasawa et al, Chem.Eng.Technol,28,No.3,324−330(2005)」、特開2005−288254号公報)によって開示された、中心衝突型マイクロミキサーが挙げられる。水相と有機溶媒相とを対向衝突させる方法は、混合時間が極めて短く、瞬時に油相滴が形成されるため、極めて微細なエマルションまたはディスパージョンを形成可能であることが明らかになった。
【0057】
本発明における衝突型マイクロミキサーでミクロ混合して乳化する場合、乳化時の温度(乳化温度)は、得られるエマルションの粒径均一性の観点からマイクロミキサーの前記別な微小空間の温度(マイクロミキサーのミクロ混合部の温度)を80℃以下としてミクロ混合する必要があるが、0〜80℃が好ましく、5〜75℃が特に好ましい。前記乳化温度0℃以上とすることにより、分散媒の主体が水であるため、乳化温度管理でき好ましい。マイクロミキサーの前記微小空間の保温温度は100℃以下であることが好ましい。前記保温温度を100℃以下とすることにより、保温温度の管理が容易に制御でき、また、乳化性能に悪影響があるミクロな突沸現象を無くすことができる。前記保温温度は80℃以下の温度で制御することがさらに好ましい。
【0058】
マイクロミキサーの前記微小空間に分けられた油相(有機溶媒相)、水相、及びマイクロミキサーの前記微小空間の保温温度は、水相及び有機溶媒相に含まれる成分によっても異なるが、それぞれ独立に0〜80℃が好ましく、5〜75℃が特に好ましい。油相に水溶性有機溶媒を含む場合、マイクロミキサーの前記微小空間に分けられた油相、水相、及びマイクロミキサーの前記微小空間の保温温度は、それぞれ独立に、0〜50℃が好ましく、5〜25℃が特に好ましい。マイクロミキサーの前記微小空間の保温温度と、マイクロミキサーの前記微小空間に分けられた油相および水相の保温温度と、マイクロミキサーの前記微小空間に分けられる前の油相および水相の保温温度(即ち、油相および水相供給タンクの保温温度)がそれぞれ異なっていても良いが、同じ温度にする事が混合の安定性の点で好ましい。
【0059】
本発明において、マイクロミキサーの微小空間に分けられる前後の水相、有機溶媒相、及びマイクロミキサーの前記微小空間及び前記別な微小空間の保温温度を室温より高くして、ミクロ混合して乳化した後は、マイクロミキサーにより得られた水中油滴型エマルションは採取後、冷却して常温にすることは特に好ましい。
【0060】
本発明におけるマイクロミキサーの微小空間(流路)の最も狭い部分の断面積は、1μm〜1mmであり、エマルション粒径の微細化および粒径分布のシャープネス化の観点から、500μm〜50000μmが好ましい。
本発明における水相に用いるマイクロミキサーの微小空間(流路)の最も狭い部分の断面積は、混合安定性の観点から1000μm〜50000μmが特に好ましい。
油相に用いるマイクロミキサーの微小空間(流路)の最も狭い部分の断面積は、エマルション粒径の微細化および粒径分布のシャープネス化の観点から、500μm〜20000μmが特に好ましい。
また本発明におけるマイクロミキサーで乳化分散する場合、乳化分散時の油相と水相の流量としては、用いるマイクロミキサーによっても異なるが、エマルション粒径の微細化および粒径分布のシャープ化の観点から、水相の流量としては、10〜500ml/minが好ましく、20〜400ml/minがより好ましく、50〜300ml/minが特に好ましい。
油相の流量としては、エマルション粒径の微細化および混合安定性の観点から、1〜70ml/minが好ましく、3〜60ml/minがより好ましく、7〜40ml/minが特に好ましい。
【0061】
両相の流量をマイクロチャンネルの断面積で割った値、すなわち両相の流速比(Vo/Vw)は、粒子の微細化とマイクロミキサーの設計上、0.05以上5以下の範囲であることが好ましい。但し、Voは水不溶性天然成分を含む有機溶媒相の流速であり、Vwは水相の流速である。また、流速比(Vo/Vw)が0.1以上3以下であることが、さらなる粒子の微細化の観点から最も好ましい範囲である。
【0062】
また、水相及び油相の送液圧力としては、水相と油相は50〜5000KPaと10〜1000KPaが好ましく、100〜2000KPaと20〜500KPaがより好ましく、200〜1000KPaと40〜200KPaが特に好ましい。前記水相の送液圧力を50〜5000KPaとすることにより、安定な送液流量を維持できる傾向となり、油相の送液圧力が10〜1000KPaとすることにより、均一な混合性が得られる傾向となり好ましい。
本発明において、前記流量、送液圧力及び保温温度はそれぞれ好ましい例の組み合せがより好ましい。
【0063】
次に、前記水相、油相がマイクロミキサーに導入され、水中油滴型エマルションとして排出されるまでの経路について、本発明におけるマイクロミキサーの一例としてマイクロデバイスの例(図1)を用いて説明する。
図1に示されるようにマイクロデバイス100は、それぞれが円柱状の形態の供給要素102、合流要素104および排出要素106により構成されている。
供給要素102の合流要素104に対向する面には、本発明における油相又は水相の流路としての断面が矩形の環状チャネル108および110が同心状に形成されている。供給要素102にはその厚さ(または高さ)方向に貫通してそれぞれの環状チャンネルに至るボア112および114が形成されている。
合流要素104には、その厚さ方向に貫通するボア116が形成されている。このボア116は、マイクロデバイス100を構成するために要素を締結した場合、供給要素102に対向する合流要素104の面に位置するボア116の端部120が環状チャンネル108に開口するようになっている。図示した態様では、ボア116は4つ形成され、これらが環状チャンネル108の周方向で等間隔に配置されている。
【0064】
合流要素104には、ボア116と同様にボア118が貫通して形成されている。ボア118も、ボア116と同様に、環状チャンネル110に開口するように形成されている。ボア118も環状チャンネル110の周方向で等間隔に配置され、かつ、ボア116とボア118が交互に位置するように配置されている。
合流要素104の排出要素106に対向する面122には、マイクロチャンネル124および126が形成されている。このマイクロチャンネル124または126の一端はボア116または118の開口部であり、他方の端部は、面122の中心128であり、全てのマイクロチャンネルはこの中心128に向かってボアから延在し、中心で合流している。マイクロチャンネルの断面は、例えば矩形であってよい。
【0065】
排出要素106は、その中心を通過して厚さ方向に貫通するボア130が形成されている。従って、このボアは、一端にて合流要素104の中心128に開口し、他端にてマイクロデバイスの外部に開口している。
本マイクロデバイス100では、ボア112および114の端部にてマイクロデバイス100の外部から供給される流体AおよびBは、それぞれボア112および114を経由して環状チャンネル108および110に流入する。
【0066】
環状チャンネル108とボア116が連通し、環状チャンネル108に流入した流体Aは、ボア116を経由してマイクロチャンネル124に入る。また、環状チャンネル110とボア118が連通し、環状チャンネル110に流入した流体Bは、ボア118を経由してマイクロチャンネル126に入る。流体AおよびBは、それぞれマイクロチャンネル124および126に流入した後、中心128に向かって流れて合流する。
前記合流した流体は、ボア130を経由してマイクロデバイスの外部にストリームCとして排出される。
【0067】
このようなマイクロデバイス100は、下記のような仕様とすることができる。
環状チャンネル108の断面形状、幅/深さ/直径:矩形、1.5/1.5/25mm
環状チャンネル110の断面形状、幅、深さ、直径:矩形、1.5/1.5/20mm
ボア112の直径、長さ:1.5/10mm(円形断面)
ボア114の直径、長さ:1.5/10mm(円形断面)
ボア116の直径、長さ:0.5/4mm(円形断面)
ボア118の直径、長さ:0.5/4mm(円形断面)
マイクロチャンネル124の断面形状、幅、深さ、長さ:矩形、断面積、
350μm/100μm/12.5mm/35000μm
マイクロチャンネル126の断面形状、幅、深さ、長さ:矩形、断面積、
50μm/100μm/10mm/5000μm
ボア130の直径、長さ:500μm、10mm(円形断面)
【0068】
水相と有機溶剤相が衝突するマイクロチャンネル(図1中、124及び126)の寸法は、水相および有機溶剤相の流量との関係において好ましい範囲が規定される。
【0069】
本発明の製造方法では、用いられた水溶性有機溶媒は、マイクロ流路を通して乳化または分散後、除去することが好ましい。溶媒を除去する方法としては、ロータリーエバポレーター、フラッシュエバポレーター、超音波アトマイザー等を用いた蒸発法、限外濾過膜、逆浸透膜等の膜分離法が知られているが、特に限外濾過膜法が好ましい。
【0070】
限外濾過(Ultra Filter:略してUF)とは、原液(水、高分子物質、低分子物質、コロイド物質等の混合水溶液)を加圧し、UF装置に注水することにより、原液を透過液(低分子物質)と濃縮液(高分子物質、コロイド物質)2系統の溶液に分離し、取り出すことができる装置である。
【0071】
限外濾過膜はロブ−スリーラーヤン法により作成される典型的な非対称膜である。使用される高分子素材は、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル−ポリアクリロニトリル共重合体、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、フッ化ビニリデン、芳香族ポリアミド、酢酸セルロースなどである。最近ではセラミックス膜も使われるようになってきた。限外濾過法では逆浸透法等と異なり、前処理をおこなわないので、膜面に高分子などが堆積するファウリングがおこる。そのため膜を薬品や温水で定期的に洗浄するのが普通である。このため膜素材は薬品に対する耐性や耐熱性が求められる。限外濾過膜の膜モジュールは平膜型、管状型、中空糸型、スパイラル型と各種ある。限外濾過膜の性能指標は分画分子量であり、これが1,000〜300,000まで各種の膜が市販されている。市販の膜モジュールとしては、マイクローザーUF(旭化成ケミカルズ(株))、キャピラリー型エレメントNTU−3306(日東電工(株))等があるがこれに限定されるものではない。
【0072】
本発明にかかる乳化物からの溶媒除去には、膜の材質は溶媒耐性の観点から、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、芳香族ポリアミドが特に好ましい。膜モジュールの形態としては、実験室スケールでは平膜が主に用いられるが工業的には中空糸型、スパイラル型が用いられるが、中空糸型が特に好ましい。また、分画分子量は有効成分の種類によって異なるが、通常、5,000〜100,000の範囲のものが用いられる。
操作温度は0℃〜80℃まで可能であるが、有効成分の劣化を考慮すると10〜40℃の範囲が特に好ましい。
【0073】
ラボスケールの限外濾過装置としては、平膜型モジュールを用いる、ADVANTEC−UHP(アドバンテック(株))、フロータイプラボテストユニットRUM−2(日東電工(株))等がある。工業的にはそれぞれの膜モジュールを必要能力に応じた大きさと本数を任意に組み合わせてプラントを構成することができる。ベンチスケールのユニットとしては、RUW−5A(日東電工(株))等が市販されている。
【0074】
本発明の製造方法では、溶媒除去に引き続き、得られた乳化物を濃縮化することが好ましい。濃縮方法としては、蒸発法、濾過膜法等溶媒除去と同じ方法、装置を用いることが出来る。濃縮の場合も限外濾過膜法が好ましい方法である。溶媒除去と同一膜を使うことができれば好ましいが、必要に応じて、分画分子量の異なる限外濾過膜を使用することもできる。また、溶媒除去とは異なる温度で運転し、濃縮効率を高めることも可能である。
【0075】
本発明の製造方法によって得られた乳化物は、水中油滴型エマルションであり、乳化物中の油滴粒子の体積平均粒径(メジアン径)は、得られた乳化物の透明性の観点から、200nm以下であることが好ましく、より好ましくは1〜100nm、更に好ましくは1〜50nmである。
また、本発明の製造方法によって得られた水性固体分散物中の、疎水性固体微粒子の体積平均粒径(メジアン径)は、得られた分散物の透明性の観点から、200nm以下であることが好ましく、より好ましくは1〜100nm、更に好ましくは1〜50nmである。
【0076】
本発明の乳化物粒子または分散物粒子の粒径は市販の粒度分布計等で計測することができる。エマルションの粒度分布測定法としては、光学顕微鏡法、共焦点レーザー顕微鏡法、電子顕微鏡法、原子間力顕微鏡法、静的光散乱法、レーザー回折法、動的光散乱法、遠心沈降法、電気パルス計測法、クロマトグラフィー法、超音波減衰法等が知られており、それぞれの原理に対応した装置が市販されている。
【0077】
本発明における粒径範囲および測定の容易さから、本発明の乳化物または分散物の粒径測定では動的光散乱法が好ましい。動的光散乱を用いた市販の測定装置としては、ナノトラックUPA(日機装(株))、動的光散乱式粒径分布測定装置LB−550((株)堀場製作所)、濃厚系粒径アナライザーFPAR−1000(大塚電子(株))等が挙げられる。
本発明における粒径は、前記動的光散乱式粒径分布測定装置を用いて25℃で測定した値を採用する。
【0078】
本発明により得られた乳化物または分散物は、天然成分の品質劣化が著しく低い微細な乳化物または分散物である。このため、天然成分の種類に応じた種々の用途に好ましく用いられる。
このような用途としては、例えば食品、皮膚外用剤及び医薬品を挙げることができる。
即ち、本発明にかかる食品は、上述した天然成分が機能性食品成分のものである。ここで機能性食品成分としては、上述した天然成分のうち食品用途で使用可能なものであればよく、特に、テルペノイド類、ポリフェノール類等を挙げることができるが、これらに限定されない。
また本発明にかかる皮膚外用剤は、上述した天然成分が皮膚外用剤成分であるものである。ここで皮膚外用剤成分としては、上述した天然成分のうち皮膚外用用途で使用可能なものであればよく、特に脂肪酸類、複合脂質類、テルペノイド類等を挙げることができるが、これらに限定されない。
本発明にかかる医薬品は、上述した天然成分が医薬成分であるものである。ここで医薬成分としては、上述した天然成分のうち医薬用途で使用可能なものであればよく、特に、アルカロイド類、ステロイド類等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0079】
以下に実施例で本発明を更に具体的に説明する。なお、以下の記載で「部」と「%」表示してあるものは、特に断らない限り質量基準である。
【0080】
<実施例1>
(エマルションAの調製)
水相Aとして、純水280gを用意した。
また、下記成分を、65℃にて1時間溶解した後25℃まで冷却し、油相Aを得た。
・ヘマトコッカス藻抽出物(アスタキサンチン類含有率10質量%) 0.6g
・ミックストコフェロール 0.1g
・ショ糖ステアリン酸エステル(HLB=15) 0.3g
・モノオレイン酸デカグリセリル(HLB=12) 0.3g
・エタノール 38.4g
【0081】
ここで、ショ糖オレイン酸エステルは三菱化学フーズ(株)製リョートーシュガーエステルS−1670(HLB=15)、モノオレイン酸デカグリセリルは日光ケミカルズ(株)製NIKKOL Decaglyn 1−O(HLB=12)を使用した。ヘマトコッカス藻抽出物は、武田紙器(株)製ASTOTS−10Oを使用した。ミックストコフェロールは理研ビタミン(株)製の理研Eオイル800を使用した。エタノールは和光純薬試薬特級を使用した。
【0082】
乳化に用いるマイクロミキサーとして、流路にそれぞれ5μmの燒結金属フィルターを設置された、櫛歯型SSIMM−SS−Ni25(IMM社製)を準備し、マイクロミキサー、水相A、油相Aをいずれも25℃環境下に置いた。
水相の流量が21.0ml/min.油相の流量が3.0ml/min.となるように精密定量ポンプを設定し、水相と油相をそれぞれマイクロミキサーに導入し、ミクロ混合した。
続いて、前記流量および送液圧力が安定した段階で、エマルションを採取し、アスタキサンチン含有エマルションAとした。エマルションAの油滴粒径は、大塚電子製FPAR1000粒径測定機で測定したところ、メジアン径で135nmであった。
【0083】
(エマルションBの調製)
水相および油相の組成、調製方法はエマルションAと全く同じであるが、乳化に用いるマイクロミキサーとして衝突型であるKM型マイクロミキサ100/100を用いた。これは衝突前のマイクロ流路すなわち図1における、マイクロチャンネル124とマイクロチャンネル126の大きさが矩形で、
マイクロチャンネル124:幅/深さ/長さ:100μm/100μm/12.5mm
マイクロチャンネル126:幅/深さ/長さ:100μm/100μm/10mm
である。このマイクロミキサーを用い、外環に水相を21.0ml/min.の流量で導入し、内環に油相を3.0ml/min.の流量で導入して乳化した以外は、エマルションAと同様の方法で乳化を行い、エマルションBとした。エマルションBの油滴のメジアン径は45nmであった。
【0084】
(エマルションCの調製)
水相および油相の組成、調製方法はエマルションAと全く同じであるが、乳化に用いるマイクロミキサーとして、KM型マイクロミキサ350/50を用いた。これは衝突前のマイクロ流路すなわち図1における、マイクロチャンネル124とマイクロチャンネル126の大きさが矩形で、
マイクロチャンネル124:幅/深さ/長さ:350μm/100μm/12.5mm
マイクロチャンネル126:幅/深さ/長さ:50μm/100μm/10mm
である。このマイクロミキサーを用い、外環(マイクロチャネル124)に水相を42.0ml/min.の流量で導入し、内環(マイクロチャネル126)に油相を6.0ml/min.の流量で導入して乳化した以外は、エマルションAと同様の方法で乳化を行い、エマルションCとした。エマルションCの油滴のメジアン径は19nmであった。
【0085】
(エマルションDの調製)
水相および油相の組成、調製方法はエマルションCと全く同じであり、乳化に用いるマイクロミキサーとしても、KM型マイクロミキサ350/50を用いた。但し、エマルションCとは異なり、内環(マイクロチャネル126)に水相を42.0ml/min.の流量で導入し、外環(マイクロチャネル124)に油相を6.0ml/min.の流量で導入して乳化した以外は、エマルションCと同様の方法で乳化を行い、エマルションDとした。エマルションDの油滴のメジアン径は95nmであった。
【0086】
(エマルションEの調製)
水相および油相の組成、調製方法はエマルションAと全く同じであるが、乳化に用いるマイクロミキサーとして、KM型マイクロミキサ200/100を用いた。これは衝突前のマイクロ流路すなわち図1における、マイクロチャンネル124とマイクロチャンネル126の大きさが矩形で、
マイクロチャンネル124:幅/深さ/長さ:200μm/100μm/12.5mm
マイクロチャンネル126:幅/深さ/長さ:100μm/100μm/10mm
である。このマイクロミキサーを用い、外環(マイクロチャネル124)に水相を31.5ml/min.の流量で導入し、内環(マイクロチャネル126)に油相を4.5ml/min.の流量で導入して乳化した以外は、エマルションAと同様の方法で乳化を行い、エマルションEとした。エマルションEの油滴のメジアン径は28nmであった。
【0087】
(エマルションFの調製)
水相および油相の組成、調製方法はエマルションEと全く同じであり、乳化に用いるマイクロミキサーとしても、KM型マイクロミキサ200/100を用いた。但し、エマルションEとは異なり、内環(マイクロチャネル126)に水相を31.5ml/min.の流量で導入し、外環(マイクロチャネル124)に油相を4.5ml/min.の流量で導入して乳化した以外は、エマルションEと同様の方法で乳化を行い、エマルションFとした。エマルションFの油滴のメジアン径は55nmであった。
【0088】
(エマルションGの調製)
エマルションAと同じ組成になるように、水相Aと油相Aをスターラーで混合した後、直ちに攪拌式ホモジナイザー(日本精機(株)製)にて、10000rpmで5分間乳化を行う事で、アスタキサンチン含有エマルションGを得た。エマルションGの油滴メジアン径は347nmであった。
【0089】
(エマルションHの調製)
アスタキサンチンを含むヘマトコッカス・ブラビアリス藻を−50℃に冷却し、これを凍結乾燥により、水分除去した後、塩化ナトリウムを添加して粉砕操作を行い、ヘマトコッカス藻の微粉末を得た。このヘマトコッカス藻微粉末をエタノール中に冷蔵庫中で24時間浸せきして、ヘマトコッカス藻からアスタキサンチンを抽出した。
上記抽出液の478nmの吸光度を油相Aの吸光度に合うように、上記抽出液にエタノールを加えた。こうして得られたヘマトコッカス藻エタノール抽出液に、ミックストコフェロール、ショ糖ステアリン酸エステルおよびモノオレイン酸デカグリセリルを、油相Aと同じ組成になるように添加溶解し、これを油相Hとした。
油相Hと水相AをエマルションAと全く同様の方法で、マイクロミキサー乳化を行い、これをエマルションHとした。エマルションHの油滴メジアン径は120nmであった。
【0090】
(エマルションIの調製)
エマルションBにおいて、油相Aの代わりに油相Hを用いた以外は、エマルションBと同様に調製した。エマルションIの油滴メジアン径は37nmであった。
(エマルジョンJの調製)
エマルションCにおいて、油相Aの代わりに油相Hを用いた以外は、エマルションCと同様に調製した。エマルションJの油滴メジアン径は12nmであった。
(エマルジョンKの調製)
エマルションDにおいて、油相Aの代わりに油相Hを用いた以外は、エマルションDと同様に調製した。エマルションKの油滴メジアン径は89nmであった。
【0091】
(エマルジョンLの調製)
エマルションEにおいて、油相Aの代わりに油相Hを用いた以外は、エマルションEと同様に調製した。エマルションLの油滴メジアン径は26nmであった。
(エマルジョンMの調製)
エマルションFにおいて、油相Aの代わりに油相Hを用いた以外は、エマルションFと同様に調製した。エマルションMの油滴メジアン径は54nmであった。
(エマルジョンNの調製)
エマルションGにおいて、油相Aの代わりに油相Hを用いた以外は、エマルションGと同様に調製した。エマルションNの油滴メジアン径は330nmであった。
【0092】
上記エマルションA〜Nについて、ラボスケール限外濾過装置、ADVANTEC−UHP−43K型を用い、限外濾過膜としては、ポリスルホン製Q0500043E(50000Da)を用いて、エタノールを0.1%含有量まで除去し、更に同装置で濃縮操作を行い、アスタキサンチン濃度1.0%になるまで濃縮化し、濃縮エマルションA〜Nを作製した。
【0093】
濃縮エマルションA〜Nについて、男女10名に異臭の有無を評価してもらい、許容レベル;○、やや気になるレベル;△、要対策レベル;×として判定を行った。
また、これらのエマルションについて、50℃で21日間保存し、色素残存率を測定した。色素残存率は保存後のエマルションと保存前のエマルションについてそれぞれ、純水で3000倍に希釈した液を分光光度計にて吸光度を測定し、保存後の478nm吸光度と保存前の478nm吸光度の比より求めた。
【0094】
上記、油滴粒径、異臭判定、50℃21日保存での色素残存率の結果を表1にまとめた。
対向衝突型マイクロミキサーを用いた場合、撹拌乳化機、櫛形マイクロミキサーに比べ、圧倒的に微細化が可能であり、エマルションの透明性も高い結果となった。
【0095】
また、同じヘマトコッカス藻から抽出されたアスタキサンチンにもかかわらず、一旦、乾燥された油状物として取り出し、これを再びエタノールに溶解して油相を構成した、エマルションA〜Gにおいては、異臭が気になり、且つ保存経時によるアスタキサンチン色素の保存安定も劣ることが分かった。これに対し、ヘマトコッカス藻からアスタキサンチンをエタノール抽出した液を乾固することない連続プロセスにて、油相を構成させたH〜Nにおいては、異臭は改良され、アスタキサンチンの保存安定性も向上することは明らかである。
【0096】
また、一旦乾燥された油状アスタキサンチンを原料として乳化した場合、乳化油滴径が小さくなると、経時安定性がやや悪化する傾向が見られたが、抽出液を乾固させない連続プロセスで作った原料から乳化した場合、更に微細化が可能になったにもかかわらず、アスタキサンチンの経時安定性は良好なレベルを保持することが明らかになった。
【0097】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】マイクロミキサーの一例としてのマイクロデバイスの分解斜視図である。
【符号の説明】
【0099】
100 マイクロデバイス
102 供給要素
104 合流要素
106 排出要素
124 マイクロチャンネル
126 マイクロチャンネル
128 中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性有機溶媒を用いて天然の動植物から抽出された天然成分を含む水溶性有機溶媒溶液と、水性溶液とを、最も狭い部分の断面積が1μm〜1mmであるマイクロ流路に各々通過させた後、対向流衝突により混合させることを特徴とする乳化物または分散物の製造方法。
【請求項2】
上記乳化物中の油滴粒子の体積平均粒子径が1nm〜100nmの範囲にあることを特徴とする請求項1記載の乳化物または分散物の製造方法。
【請求項3】
混合時における、上記水溶性有機溶媒溶液の流速(Vo)と上記水性溶液の流速(Vw)との比(Vo/Vw)が、0.05以上5以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の乳化物または分散物の製造方法。
【請求項4】
上記混合後に上記乳化物から水溶性有機溶媒を除去する工程を含むことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の乳化物または分散物の製造方法。
【請求項5】
上記水溶性有機溶媒溶液が少なくとも1種のHLB10〜16の非イオン性界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項記載の乳化物または分散物の製造方法。
【請求項6】
前記水溶性有機溶媒が、エタノールまたは、エタノールと水の混合物であることを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれか1項記載の乳化物または分散物の製造方法。
【請求項7】
上記天然成分が、機能性食品成分であることを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれか1項記載の乳化物または分散物の製造方法。
【請求項8】
請求項7において製造された乳化物または分散物を含むことを特徴とする食品。
【請求項9】
上記天然成分が、皮膚外用剤成分であることを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれか1項記載乳化物または分散物の製造方法。
【請求項10】
請求項9において製造された乳化物または分散物を含むことを特徴とする皮膚外用剤。
【請求項11】
上記天然成分が、医薬成分であることを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれか1項記載乳化物または分散物の製造方法。
【請求項12】
請求項11において製造された乳化物または分散物を含むことを特徴とする医薬品。

【図1】
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【公開番号】特開2009−90160(P2009−90160A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−260335(P2007−260335)
【出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】