説明

乳化組成物

【課題】 べたつきの原因となる界面活性剤を実質上配合することなく水と油とが安定に含有され、かつ油の極性に影響されることなく安定に乳化することができ、しかもさっぱりとしてなじみが良い使用感触と、更にpH領域が弱酸性であることによって肌への負担が軽い化粧料等の皮膚外用剤の提供。
【解決手段】 その弱酸性乳化組成物は、(a)VEEGUM ULTRA GRANULES(R.T. Vanderbilt Company,Inc.(米国)の商品名)等の水分散液が弱酸性を示す水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物と(b)有機変性層状ケイ酸塩粘土鉱物と(c)油分と(d)水とを含有し、かつ(a)の含有量が乳化組成物全量に対して0.5〜25.0質量%、(b)の含有量が乳化組成物全量に対して0.5〜20.0質量%であることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用時にはべたつかずに肌へのなじみが良く、使用後は非常にさっぱりとした感触である優れた使用感触と、さらには肌に負担をかけない弱酸性であるという、皮膚外用剤、特に化粧品においては、先の非常に重要な2つの機能を備えた、水と油とを安定に保持する弱酸性乳化組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から皮膚に適当な潤いを与えるために、水と油とを安定に含有する皮膚外用剤が求められている。
そのため通常皮膚外用剤においては、乳化安定性を保たせるために界面活性剤を用いて乳化粒子を細かくした上、水中油型乳化物ならば外相をポリアクリル酸、増粘多糖類等の水溶性高分子あるいは水膨潤性の粘土鉱物で増粘させる技術が用いられている。
しかしながら、水溶性高分子類は使用性がべたついたり、水膨潤性粘土鉱物は製剤がアルカリ性になってしまうという問題があった。
【0003】
[先行技術文献]
【特許文献1】特表2001−518111
【特許文献2】特開平8−169808号公報
【特許文献3】特開2002−370917
【特許文献4】特開2003−34609
【特許文献5】特開平11−188253号公報
【特許文献6】特開2002−191959
【特許文献7】特開2002−47121
【特許文献8】国際公開(WO96/29975)
【特許文献9】特開2004−2275
【0004】
また、化粧品においては、肌に塗布した際の使用感触が大きく嗜好評価を左右するため、べたつかず、さっぱりした感触を付与させるために様々な工夫がなされている。
特に、界面活性剤は特有のべたつきを有するため、界面活性剤をできるだけ減量、あるいは完全に抜去する試みが多くなされており、これらは界面活性剤による刺激低下の面からも評価される。
例えば、特許文献1、特許文献2等によれば、二酸化チタンや酸化亜鉛、更にシリカやシリコーン重合物などの表面を疎水化した両親媒性の粉末を、界面活性剤の代わりに用いることで界面活性剤を用いなくても安定な乳化組成物が調製できる。
【0005】
しかしながら、これらの例は粉末を疎水化する物質、すなわち粉末の表面の性質により配合できる油分が限定されるため、乳化組成物の処方の幅が非常に狭くなる欠点がある。
そのようなことから、アルキル変性アクリル酸ポリマーを界面活性剤の代わりに用いたり、水で膨潤した親水性高分子の網目構造中に油を撹拌によって分散し保持させる乳化技術も用いられているが、その場合には高分子を多量に配合しているために使用感が悪かったり、また微細な粒子が調製できないために、温度変化や長期保存により水や油が分離しやすいといった問題がある。
【0006】
また、特許文献3あるいは特許文献4のように、外水相に合成水膨潤性層状ケイ酸塩を配合して、水で膨潤した合成膨潤性層状ケイ酸塩で形成されるカードハウス構造中に、油を攪拌によって細粒化し保持させる方法などが報告されている。
その場合にも、従来の水膨潤性粘土鉱物で増粘した水ゲルのみでは、油滴の合一や離水に対する安定性が不充分であるうえに、得られた製剤がアルカリ性を示す。
さらに、特許文献5や特許文献6のように乳化安定性を高める手段として、増粘効果の高い水溶性高分子を併用する方法や、特許文献7のように油膨潤性の粘土鉱物を用いて乳化の安定化を図る試みがなされているが、同様に水溶性高分子独特の使用感の悪さや特許文献6以外ではアルカリ性を示すといった問題がある。
【0007】
それら特許文献1〜7に関し更に説明すると、それら文献においてpHに関する記述があるのは特許文献6のみであり、それには弱酸性域とあるが、水溶性高分子の使用が必須であるために必然的に水溶性高分子のべたつきが問題となり、他方、特許文献3、4、7は水膨潤性粘土鉱物を使用しているので、肌に負担をかけない弱酸性ではなくアルカリ性を示すと容易に推察される。
【0008】
その水溶性高分子を併用した場合、一般的にべたつきを伴うが、界面活性剤を用いた従来の乳化物と比較すればさっぱりした使用感触を付与できるものの、十分満足のいくレベルではなく、また油膨潤性の粘土鉱物も、油水界面膜を強固にする働きが充分でないため、乳化安定性を満足させることはできない。
さらに、特許文献8においては、油相と水相の両方をそれぞれ固形油分、半固形の保湿剤で固化させることで、界面活性剤を用いずに安定な油水混合物を調製する技術が紹介されているものの、製剤が固化されているために硬い軟膏のような感触のクリームに限定される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような問題点を解消するために鋭意研究開発に努め、その結果開発に成功したものである。
したがって、本発明は、べたつきの原因となる界面活性剤を実質上配合することなく水と油とが安定に含有され、しかも油の極性に影響されることなく安定に乳化することができ、かつさっぱりとしてなじみが良いといった好ましい使用感触と、更に皮膚のpH領域の弱酸性であることによって肌への負担が軽いという特徴を持つ、皮膚外用剤特に化粧料を提供することを発明の解決すべき課題、すなわち目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記目的を達成するために、化粧料等の乳化組成物、特に好ましくはO/W型乳化組成物を提供するものであり、その組成物は、(a)水分散液が弱酸性を示す水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物と(b)有機変性層状ケイ酸塩粘土鉱物と(c)油分と(d)水とを含有し、かつ(a)の含有量が乳化組成物全量に対して0.5〜25.0質量%、(b)の含有量が乳化組成物全量に対して0.5〜20.0質量%であることを特徴とするものであり、その特徴をより端的に表現すれば、油と水とを含有することを前提とする弱酸性乳化組成物において、水分散液が弱酸性を示す水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物及び有機変性した層状ケイ酸塩粘土鉱物を所定量含有することを必要とするものであって、界面活性剤の含有を必要としないことである。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、水分散液が弱酸性を示す水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物及び有機変性層状ケイ酸塩粘土鉱物を所定量で併用することにより、界面活性剤を必要とすることなく水と油とを安定に保持し、塗布した際の使用性に優れ、活性剤を使用しないことと相俟って弱酸性であることによって皮膚刺激性が少なく肌にやさしい、かつ油分の極性に因らずに乳化することができる組成物を提供することができる、優れたものである。
【0012】
これらの点に関し、以下において更に詳細に説明する。
本発明によれば、油相は有機変性した層状ケイ酸塩粘土鉱物によってゲル化され、水相は水分散液が弱酸性を示す水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物によって安定に保持されるので、界面活性剤を用いることなく両方の相が合一やクリーミングに対して安定に保持される。
これは、水分散液が弱酸性を示す水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物及び有機変性層状ケイ酸塩粘土鉱物が、樹脂やデキストリン脂肪酸エステルとは異なり大きなチキソトロピー性を有し、そのため、それぞれ水相及び油相に用いることにより、攪拌時のみかけ粘度をそれぞれ非常に低くすることができ、その結果微細な粒子を調製することが可能であることにも起因する。
【0013】
また、このチキソトロピー性によって、水相、油相ともに静置時にはゲル構造を保ち、肌上には軽い力で伸ばすことができる。
しかも、配合油分量が多くても、層状ケイ酸塩の効果によりべたつきのない、さっぱりした使用感触の化粧料を得ることができる。
なお、特許文献9には、有機変性層状ケイ酸塩粉体を用いることで、実質上界面活性剤を含まず、さらに外相を増粘することなしに、安定な巨大エマルションを調製する方法について記載されているが、この系では、外相を増粘していないために効率良く粒子を微細化することができず、粒径が0.5mm〜10mmのエマルションに限定されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下において、本発明について、発明を実施するための最良の形態を含む発明の実施の態様に関し詳述する。
本発明の乳化組成物は、前記したとおり(a)水分散液が弱酸性を示す水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物と(b)有機変性層状ケイ酸塩粘土鉱物と(c)油分と(d)水とを含有し、かつ(a)と(b)とを所定量で含有することを特徴とするものである。
本発明に配合される(a)水分散液が弱酸性を示す水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物は、膨潤性、すなわち水中で粘土鉱物結晶層間に水が侵入して膨潤する性質を有するものであり、膨潤性層状ケイ酸塩は、水中で薄片状の微結晶となって分散する。
【0015】
本発明において使用する、(a)水分散液が弱酸性を示す水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物としては、VEEGUM ULTRA GRANULES(R.T. Vanderbilt Company,Inc.(米国)の商品名)があり、それはVanderbilt社のレポートによれば、層間イオンとして水素イオンを含有するスメクタイトの一部の水素イオンをカチオン交換することによって、水膨潤性と弱酸性を併せ持つように変換したものである。
【0016】
また、本発明において、(a)水分散液が弱酸性を示す水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物と併用することができる水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物としては、一般に、天然もしくは合成のNa型テトラシリシックフッ素雲母、Li型テトラシリシックフッ素雲母、Na型フッ素テニオライト、もしくはLi型フッ素テニオライト等の膨潤性雲母族粘土鉱物、バーミキュライトやヘクトライト、サポナイト、スチブンサイト、バイテライト、モンモリナイト、ノントロナイト、もしくはベントナイト等のスメクタイト族粘土鉱物、又はこれらの置換体、誘導体もしくはこれらの混合物が挙げられる。
なお、前記置換体には、層間イオンのNa+もしくはLi+イオンの一部がK+イオン置換されているもの、又は四面体シートのSi+イオンの一部がMg2+イオンで置換されているものが含まれる。
【0017】
これらの市販品のものとしては、ソマシフME−100(コープケミカル(株)製の合成水膨潤性雲母)、SUBMICA E(仏国、LCW社製の合成水膨潤性雲母)、ルーセンタイトSWN(コープケミカル(株)製の合成スメクタイト)、ダイモナイト(トピー工業(株)製の合成水膨潤性雲母)、ラポナイトXLG(英国、ラポート社製合成ヘクトライト類似物質)、ラポナイトRD(英国、ラポート社製合成ヘクトライト類似物質)、サーマビス(独国、ヘンケル社製合成ヘクトライト類似物質)、スメクトンSA−1(クニミネ工業(株)サポナイト類似物質)、ベンゲル(豊順洋行(株)販売の天然モンモリロナイト)、クニピアF(クニミネ工業(株)販売の天然モンモリロナイト)、ビーガム(米国、バンダービルト社製の天然サポナイト)、ベントンEW(米国、エレメンティス社の天然ヘクトライト)等が挙げられる。
【0018】
ここに、水分散液が弱酸性を示す水膨潤性粘土鉱物であるVEEGUM ULTRA GRANULES及び併用し得る代表的な従来型の水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物のpHを示す。
【表1】

【0019】
次いで、本発明に配合される(b)有機変性層状ケイ酸塩粘土鉱物については、一般に化粧品等において用いられ得るものであれば特に制限されることなく、各種のものを使用することができる。
本発明では、水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物を第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤で処理したカチオン変性粘土鉱物が好適に用いられる。
その水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物を処理する第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤は、下記一般式(1)で表される化合物である。
【0020】
【化1】

(但し、式中R1は炭素原子数10〜22のアルキル基又はベンジル基を表し;R2はメチル基又は炭素原子数10〜22のアルキル基を表し;R3及びR4は、それぞれ独立に炭素原子数1〜3のアルキル基又はヒドロキシアルキル基を表し;Xはハロゲン原子又はメチルサルフェート残基を表す)
【0021】
その化合物としては、具体的には、例えばドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ミリスチルトリメチルアンモニウムクロリド、セチルトリメチルアンモニウムクロリド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド、アラキルトリメチルアンモニウムクロリド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロリド、ミリスチルジメチルエチルアンモニウムクロリド、セチルジメチルエチルアンモニウムクロリド、ステアリルジメチルエチルアンモニウムクロリド、アラキルジメチルエチルアンモニウムクロリド、ベヘニルジメチルエチルアンモニウムクロリド、ミリスチルジエチルメチルアンモニウムクロリド、セチルジエチルメチルアンモニウムクロリド、ステアリルジエチルメチルアンモニウムクロリド、アラキルジエチルメチルアンモニウムクロリドが挙げられる。
【0022】
また、ベヘニルジエチルメチルアンモニウムクロリド、ベンジルジメチルミリスチルアンモニウムクロリド、ベンジルジメチルセチルアンモニウムクロリド、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムクロリド、ベンジルジメチルベヘニルアンモニウムクロリド、ベンジルメチルエチルセチルアンモニウムクロリド、ベンジルメチルエチルステアリルアンモニウムクロリド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジベヘニルジヒドロキシエチルアンモニウムクロリド、及び上記各化合物のクロリドに代えてブロミド化合物としたもの等、更にジパルミチルプロピルエチルアンモニウムメチルサルフェート等も、前記化合物として挙げられる。
これら第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤は1種又は2種以上を任意に選択して用いることができる。
【0023】
前記水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物を第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤で処理してカチオン変性粘土鉱物を得る方法としては、例えば、水、アセトンあるいは低級アルコール等の低沸点溶媒中で、上述の水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物と第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤を分散攪拌処理し、低沸点溶媒を除去することによって得ることができる。
なお、その際における第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤の使用量は、水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物100gに対して60〜140ミリ当量(meq)であることが望ましい。
【0024】
その水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物を第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤で処理したカチオン変性粘土鉱物の代表的なものとしては、ジメチルアンモニウムヘクトライト、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムヘクトライト、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム処理ケイ酸アルミニウムマグネシウム等が挙げられる。
それらの市販品としては、ベントン38(ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド処理ヘクトライト:ナショナルレッド社製)、ベントン27(ベンジルジメチルステアリルアンモニウム処理ヘクトライト:ナショナルレッド社製)、チクソゲルVPV(ジステアリルジメチルアンモニウム処理モンモリロナイト:ズードケミー社製)、ルーセンタイトSAN(ジアルキル(C14〜18)ジメチルアンモニウム処理ヘクトライト:コープケミカル社製)等がある。
【0025】
その他、水膨潤性合成フッ素雲母を第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤で処理したカチオン変性粘土鉱物を用いることもできる。
それらの市販品としては、ソマシフMAE(ジメチルジアルキルアンモニウムイオン変成合成フッ素雲母:コープケミカル(株)製)、ソマシフMTE(トリオクチルメチルアンモニウムイオン変成合成フッ素雲母:コープケミカル(株)製)等が挙げられる。
なお、(b)有機変性層状ケイ酸塩粘土鉱物の調製には、前記したとおりカチオン界面活性剤が使用されるが、そのために使用したカチオン界面活性剤は、一旦層状ケイ酸塩の層間に結合すると、通常の化粧品で用いられるような溶剤、条件の中では遊離することはなく、その結果乳化組成物中で本来の界面活性剤としての機能を果たすことはない。
そのため、有機変性のために用いられたカチオン界面活性剤は、本発明の乳化組成物においては、界面活性剤に該当するものではない。
【0026】
本発明において配合される(a)水分散液が弱酸性を示す水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物は水相の安定化、(b)有機変性層状ケイ酸塩粘土鉱物は油相の安定化にそれぞれ寄与するものであり、それらのことは前記したとおりである。
それら性能を有する前記した(a)水分散液が弱酸性を示す水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物の配合量及び(b)有機変性層状ケイ酸塩粘土鉱物の配合量については、(a)水分散液が弱酸性を示す水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物は乳化組成物全量に対して0.5〜25.0質量%であり、(b)有機変性層状ケイ酸塩粘土鉱物は乳化組成物全量に対して0.5〜20.0質量%である。
【0027】
それらの配合量を前記の通りとしたのは、乳化組成物全量に対して0.5質量%未満では系の中で水と油とを安定に保つ効果が得られず、また水分散液が弱酸性を示す水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物の配合量に関しては25.0質量%、有機変性層状ケイ酸塩粘土鉱物に関しては20.0質量%を越えて配合しても、配合量の増加に見合った効果が期待できないばかりか、粘度や硬度が高くなりすぎて均一な乳化組成物を得ることができないからである。
なお、水分散液が弱酸性を示す水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物と有機変性層状ケイ酸塩粘土鉱物との配合比は、前記した配合量の範囲内であれば、本発明による皮膚外用剤及び化粧料の剤型に応じて適宜選択し得るものである。
【0028】
このように、前記(a)水分散液が弱酸性を示す水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物と前記(b)有機変性層状ケイ酸塩粘土鉱物とを併用して配合することにより、本発明では、油分の極性に因らず、また実質的に界面活性剤を配合しなくても安定な弱酸性乳化組成物を調製することができる顕著な効果を奏する。
さらに、本発明の弱酸性乳化組成物は、塗布時、塗布後の使用性に優れ、さらに温度による粘度や硬度の変化が少なく安定性良好で、しかも弱酸性であり界面活性剤を配合しなくてもよいので皮膚への刺激性が低い。
本発明において配合する必要がない界面活性剤とは、油相又は水相に溶解する両親媒性物質であり、水相と油相の界面張力を顕著に低下させることにより乳化機能を発現する物質を意味する。
【0029】
本発明に配合される(c)油分は、通常化粧料中に配合される油分であれば、特に限定されない。
その油分としては、室温における状態で固形油分と半固形油分及び液状油分が挙げられる。
このうち固形油分としては、セチルアルコール、ステアリルアルコール、セトステアリルアルコール等の高級アルコール、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等の高級脂肪酸、ビースワックス、カルナウバロウ、キャンデリラロウ等のロウ類及びマイクロクリスタリンワックス、水添ホホバ油等が、半固形油分としては、ワセリン、ラノリン、中鎖脂肪酸トリグリセリド等が代表的な例として挙げられる。
【0030】
その液状油分としては、液状極性油分及び液状非極性油分がある。
本発明においては、通常安定に乳化することが難しい極性油を含有する場合でも、安定に配合することができる。
また、本発明に配合される前記(c)油分の配合量は、乳化組成物全量に対して1〜60質量%がよい。
【0031】
前記した極性油としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、イソオクタン酸セチル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、ラウリン酸エチル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸2−ヘキシルデシル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソオクチル、パルミチン酸2−ヘキシルデシル、パルミチン酸2−ヘプチルウンデシル、ヒマシ油脂肪酸メチルエステル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸イソセチル、イソステアリン酸イソセチル、モノイソステアリン酸N−アルキルグリコール、オレイン酸デシル、オレイン酸オイル、乳酸セチル、乳酸ミリスチル、コハク酸2−エチルヘキシル、酢酸ラノリン、12−ヒドロキシステアリル酸コレステリル等の脂肪酸モノエステルを挙げることができる。
【0032】
さらに、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジ−2−エチルヘキシル、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸2−ヘキシルデシル、アジピン酸ジ−2−ヘプチルウンデシル、ジ−2−エチルヘキサン酸エチレングリコール、リンゴ酸ジイソ
ステアリル、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、ジ−2−ヘプチルウンデカン酸グリセリン等の脂肪酸ジエステル、アセトグリセライド、クエン酸トリエチル、トリ−2−エチルヘキサン酸グリセリン、トリ−2−エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリイソパルミチン酸グリセリン、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、トリミリスチン酸グリセリン、トリ−2−ヘプチルウンデカン酸グリセライド等の脂肪酸トリエステル、ペンタエリスリトールエチレンオキサイドプロピレンオキサイドエーテル、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル、テトラ−2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリトール、N−ラウロイル−L−グルタミン酸−2−オクチルドデシルエステル、オクチルメトキシシンナメート等の合成油も挙げることができる。
【0033】
また、天然油として、アボガド油、ツバキ油、タートル油、マカデミアナッツ油、トウモロコシ油、ミンク油、オリーブ油、ナタネ油、卵黄油、ゴマ油、パーシック油、小麦胚芽油、サザンカ油、ヒマシ油、アマニ油、サフラワー油、綿実油、エノ油、大豆油、落花生油、茶実油、カヤ油、コメヌカ油、シナギリ油、日本キリ油、ホホバ油などが挙げられる。
さらに、液状非極性油分としては、流動パラフィン、合成炭化水素油、スクワラン、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、環状シリコーン、高重合ジメチルポリシロキサン、メチル(ポリオキシエチレン)シロキサン共重合体等のポリエーテル変性シリコーン、高重合ジメチルシロキサンメチル(アミノプロピル)シロキサン共重合体等のアミノ変性シリコーン等の各種誘導体を含むシリコーン類等が挙げられる。
【0034】
本発明に配合される(d)水は、精製水であれば特に限定されるものではなく、さらに水溶性保湿剤を含むものであってよい。
水溶性保湿剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、ムコ多糖、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、キトサン等が、更にエタノール等の低級アルコールも挙げられる。
本発明に配合される前記(d)水の配合量は、乳化組成物全量に対し25〜98質量%でがよい。
【0035】
以上の必須成分に加え、本発明の弱酸性乳化組成物には、必要に応じて通常皮膚外用剤及び化粧料等に配合される各種他の成分を、本発明の所期の効果を損なわない限りにおいて配合することができる。
それについて列挙すると、ブチルヒドロキシトルエン、トコフェロール、フィチン等の酸化防止剤、安息香酸、サリチル酸、ソルビン酸、パラオキシ安息香酸アルキルエステル、ヘキサクロロフェン等の抗菌剤等が挙げられる。
【0036】
さらに、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン、タウリン、アルギニン、ヒスチヂン等のアミノ酸及びこれらのアルカリ金属塩と塩酸塩、アシルサルコシン酸(例えばラウロイルサルコシンナトリウム)、グルタチオン、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸等の有機酸、ビタミンA及びその誘導体、ビタミンB6塩酸塩、ビタミンB6トリパルミテート、ビタミンB6ジオクタノエート、ビタミンB2及びその誘導体、ビタミンB12、ビタミンB15及びその誘導体のビタミンB類、アスコルビン酸、アスコルビン酸硫酸エステル(塩)、アスコルビン酸リン酸エステル(塩)、アスコルビン酸ジパルミテート等のビタミンC類も挙げられる。
【0037】
また、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール、ビタミンE類、ビタミンD類、ビタミンH、パントテン酸、パンテチン等のビタミン類、ニコチン酸アミド、ニコチン酸ベンジル、γ−オリザノール、アラントイン、グリチルリチン酸(塩)、グリチルレチン酸及びその誘導体、ヒノキチオール、ビサボロール、ユーカリプトール、チモール、イノシトール、サイコサポニン、ニンジンサポニン、ヘチマサポニン、ムクロジサポニン等のサポニン類、パントテニルエチルエーテル、エチニルエストラジオール、トラネキサム酸、アルブチン、セフォラチン、プラセンタエキ等の各種薬剤等が挙げられる。
【0038】
さらに、ギシギシ、クララ、コウホネ、オレンジ、セージ、ノコギリソウ、ゼニアオイ、センブリ、タイム、トウキ、トウヒ、バーチ、スギナ、ヘチマ、マロニエ、ユキノシタ、アルニカ、ユリ、ヨモギ、シャクヤク、アロエ、クチナシ、サワラ等を有機溶媒、アルコール、多価アルコール、水、水性アルコール等で抽出した天然エキス、色素、染料、着色顔料、体質顔料、疎水化処理顔料、無機及び有機粉末、中和剤、酸化防止剤、香料等が挙げられる。
そして、以上の他にも、水溶性高分子、油溶性高分子の配合も可能ではあるが、本発明の特長であるさっぱり感が失われるため多量の配合は望ましくない。
また、使用性、乳化安定性を向上させる意味で、各種界面活性剤を少量配合することも可能であるが、食塩等の塩類を多量に配合することは水相の増粘ゲル化を著しく阻害するため好ましくない。
【0039】
本発明弱酸性乳化組成物がとり得る外観上の剤型については、特に限定されるものではなく、その用途も乳液、クリーム等の多くの各種皮膚外用剤及び化粧品にわたるものである。
【0040】
次に、本発明の乳化組成物に関し、各種組成のクリーム等の実施例及び比較例を示し、またその一部に関し物性、安定性及び使用性に関する評価試験を行い、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例及び評価試験によってなんら限定されるものでなく、特許請求の範囲によって特定されるものであることはいうまでもない。
なお、各実施例及び比較例における配合量はすべて質量%である。
【実施例1】
【0041】
[保湿クリーム]
この実施例1では、表2に示す組成の1A〜1Dの4種の保湿クリームを調製し、それらの酸・塩基の性質を示すpHを調査したところ、それらクリームはすべて弱酸性を示した。
【表2】

【0042】
実施例1Aは単純処方の保湿クリームを水分散液が弱酸性を示す水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物で調製した例を、実施例1B〜1Dではより実際的な処方の保湿クリームで、有機変性層状ケイ酸塩粘土鉱物を3種類用いて、水分散液が弱酸性を示す水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物と乳化組成物が弱酸性を示す範囲内で併用できる他の水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物で調製した例を示した。
得られた保湿クリームの温度安定性は、表2に示すとおり実施例1A〜1Dの全てにおいて安定であり、使用性は特に種々の油分を組み合わせた実施例1Bは、塗布時はしっとりしながらも、使用後はべたつきを感じないさっぱりとした良好なものであった。
【実施例2】
【0043】
[保湿クリーム]
この実施例2では、表3に組成を示す保湿クリームを調製すると共に合わせて比較例1〜7の保湿クリームを調製した。
【表3】

【0044】
これらは、実施例1と同様に単純処方の保湿クリームを、実施例2は水分散液が弱酸性を示す水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物で、比較例1〜5は従来の水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物単独で調製した。
それらは、ほぼ同じ硬度になるよう配合量を調整したが、実施例2は弱酸性を、比較例1〜5はアルカリ性を示した。
また比較例6、7では、水分散液が弱酸性を示す水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物と他の水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物を併用したが、調製物のpHがアルカリ性である例を示した。
調製後の外観状態は比較的硬度が高いものは艶がないが、安定性は良好であった。
それらのことは、組成と共に表3に示すとおりである。
【実施例3】
【0045】
[保湿クリーム]
この実施例3は、本系の乳化性能を調べるために油分量を増減させて調製した例を示すすものである。
その組成は表4に示すとおりであり、3A〜3Dの4組成で乳化性能を調査した。
その結果も表4に示すとおりであり、油分量が5%の少ない量から調製時の硬さにも影響されるが55%までの量までの広い範囲で乳化することができた。
【0046】
【表4】

【実施例4】
【0047】
[保湿クリーム]
この実施例4は、水分散液が弱酸性を示す水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物を通常通り水相に分散する場合(実施例4A)と、何らかの要因で油相に分散した方が有利な場合には油相に配合して(実施例4B)も、全く同一性能のクリームが得られる例を示すものであり、それらの組成及び性能試験結果は、表5に示すとおりである。
【0048】
【表5】

【実施例5】
【0049】
[サンスクリーン]
この実施例5のサンスクリーンの組成及び性能試験結果は表6に示すとおりであり、それによれば、全油分の75%が高極性油(テトラ−2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリトール、オクチルメトキシシンナメートー)である場合でも、均一で良好な乳化性を示した。
但し、pHは処方成分の酸化亜鉛の影響により、弱酸性内ではあるが他の実施例に比較して高めであった。
【表6】

【実施例6】
【0050】
[ファンデーション]
この実施例6は、ファンデーションを調製するもので、その組成及び性能試験結果は表7に示すとおりであり、それによれば、pHは弱酸性内ではあるが他の実施例に比較して高めであったが、硬度は低く、乳化状態は良好であった。
【表7】

【実施例7】
【0051】
[ハンドクリーム]
この実施例7は、ハンドクリームを調製するもので、その組成及び性能試験結果は表8に示すとおりであり、乳化状態は良好であった。
【表8】

【実施例8】
【0052】
[ヘアクリーム]
この実施例8は、ヘアクリームを調製するもので、その組成及び性能試験結果は表9に示すとおりであり、乳化状態は良好であった。
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)水分散液が弱酸性を示す水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物と(b)有機変性層状ケイ酸塩粘土鉱物と(c)油分と(d)水とを含有し、かつ(a)の含有量が乳化組成物全量に対して0.5〜25.0質量%、(b)の含有量が乳化組成物全量に対して0.5〜20.0質量%であることを特徴とする弱酸性乳化組成物。
【請求項2】
(a)水分散液が弱酸性を示す水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物は、VEEGUM ULTRA GRANULES(R.T. Vanderbilt Company,Inc.(米国)の商品名)である請求項1記載の弱酸性乳化組成物。
【請求項3】
(b)有機変性層状ケイ酸塩粘土鉱物が、水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物を第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤で処理した、カチオン変性粘土鉱物である請求項1又は2記載の弱酸性乳化組成物。
【請求項4】
乳化組成物が弱酸性を示す範囲内で、他の水膨潤性層状ケイ酸塩粘土鉱物を併用する、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の弱酸性乳化組成物。
【請求項5】
(c)油分として、極性油を含有する請求項1ないし4のいずれか1項に記載の弱酸性乳化組成物。
【請求項6】
乳化型が水中油型である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の弱
酸性乳化組成物。
【請求項7】
実質上界面活性剤を含有しない請求項1ないし6のいずれか1項に記載の弱酸性乳化組成物。

【公開番号】特開2006−151851(P2006−151851A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−343033(P2004−343033)
【出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】