説明

乳酸系シュリンク包装フィルム

【課題】 乳酸系樹脂を原料とし、低温収縮特性に優れ、伸び特性を有する生分解性包装フィルムを提供する。
【解決手段】 L−乳酸またはD−乳酸を構造単位とするホモポリマーのいずれかの成分(A1)と、L−乳酸及びD−乳酸の両方を構造単位とする共重合体からなる成分(A2)とからなる乳酸系樹脂(A)に可塑剤(B)を添加してなる混合樹脂組成物を用い、縦方向及び横方向にそれぞれ20〜100℃にて2〜5倍延伸した後、40〜120℃で熱処理することにより、ストレッチシュリンク用としてもオーバーラップシュリンク用としても利用できる乳酸系シュリンク包装フィルムを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸系樹脂を原料とする乳酸系シュリンク包装フィルムであって、特に、ストレッチシュリンク用としてもオーバーラップシュリンク用としても好適に利用することができる乳酸系シュリンク包装フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
シュリンク包装は、皺無く綺麗に包装でき、しかも自動包装機を用いて効率良く包装することができる等の利点があるため、弁当や惣菜容器等の蓋付きの容器、精肉や生鮮野菜等の蓋無しトレーの包装など、様々な分野で種々形状の包装に利用されている。
【0003】
シュリンク包装の方法としては、例えば、被包装物を覆ったフィルムの前後左右を被包装物の底部に折り込み、余裕を持たせた状態でシールし、熱風トンネルを通過させることで収縮させてタイト感を持たせる押し上げ方式オーバーラップシュリンク包装、フィルムを筒状にしてフィルムの重なり部を粘着させ、その中に被包装物を挿入した後、筒状のフィルムの開口部を被包装物の底部に折り込み、底面全体をヒートシールして熱風トンネルを通過させるピロー方式オーバーラップシュリンク包装、筒状のフィルムの開口部を折り畳まずに溶断シール或いはシールアンドカットした後、熱風トンネルを通過させる三方シール式ピローシュリンク包装、一枚のフィルムを半分に折り、そのフィルムの間に被包装物を挿入した後、開口した三法をシールして熱風トンネルを通過させる3方シール包装、これを連続的に行うL型シール包装、2枚のフィルムで被包装物を覆い、四方の開口部をシールして熱風トンネルを通過させる四方シール包装など、様々な方法がある。
【0004】
弁当、惣菜、精肉、生鮮野菜等の食品類を包装する場合、従来は可塑化ポリ塩化ビニル系の伸び特性を備えたストレッチシュリンク包装フィルムを用いて、フィルムを引き延ばしながら包装するストレッチシュリンク包装が一般的であったが、最近では、シュリンク包装の特徴と安全衛生の点から、従来のストレッチ包装機に熱風トンネルを付設し、フィルムを引き延ばしながら被包装物に被せてシールした後、熱風トンネルを通して熱収縮させる包装方法が採用されるに至り、このため、この種の用途に用いる包装フィルムには、ストレッチシュリンク包装フィルムに求められる伸び特性及び低温収縮特性と、オーバーラップシュリンク包装フィルムに求められる熱収縮特性の両方が求められるようになって来ている。
【0005】
ところで、従来のシュリンク包装フィルムの大半は塩化ビニル樹脂製であったが、ポリオレフィン系原料を用いたシュリンク包装フィルムの開発が行われるようになり、最近では、例えば特定の物性を持つ架橋されたポリエチレン系重合体樹脂よりなる包装フィルム(特許文献1参照)や、ポリオレフィン系エラストマーを含む混合樹脂である層とポリプロピレン系樹脂からなる層とを有するストレッチシュリンク包装フィルム(特許文献2参照)などが開示されている。
【0006】
また、近年、環境問題の高まりから枯渇性資源の有効活用が重要視されるようになり、自然環境に悪影響を及ぼさない生分解性樹脂、即ち、土壌中や水中で加水分解などにより崩壊・分解が進行し、最終的には微生物の作用によって無害な分解物となる生分解性樹脂が注目されてきており、シュリンク包装フィルムの分野においても、生分解樹脂であるポリ乳酸系樹脂を用いたシュリンク包装フィルムが開示されている(例えば特許文献3参照)。
【0007】
【特許文献1】特開平9−216956号公報
【特許文献2】特開平9−254338号公報
【特許文献3】特開2004−58586号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来提案されている生分解性を備えたシュリンク包装フィルムの中には、ストレッチシュリンクに求められる特性とオーバーラップシュリンクに求められる特性の両方を兼ね備えたものは開示されていなかった。
そこで本発明は、ポリ乳酸系樹脂を原料として用いた乳酸系シュリンク包装フィルムであって、低温収縮特性、熱収縮特性及び伸び特性を兼ね備えた乳酸系シュリンク包装フィルムを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、乳酸系樹脂(A)、及び分子量2,000以下である可塑剤(B)からなる混合樹脂組成物で、当該成分(A)100質量部に対し当該成分(B)を5〜30質量部含有してなる乳酸系樹脂組成物を用いてなるものであって、
当該乳酸系樹脂(A)は、少なくともL−乳酸またはD−乳酸を構造単位とするホモポリマーのいずれかの成分(A1)と、L−乳酸及びD−乳酸の両方を構造単位とする共重合体からなる成分(A2)とを含むポリマーブレンド体であり、
縦方向及び横方向のそれぞれにおいて、乳酸系樹脂組成物のガラス転移点よりも10℃以上高い20〜100℃にて2〜5倍延伸した後、該延伸温度よりも20℃以上高い40〜120℃にて熱処理して得られるフィルムであり、
下記(α)、(β)、(γ)及び(λ)の特性を備えた乳酸系シュリンク包装フィルムを提案する。
【0010】
(α):ASTM D1204で測定した40℃での熱収縮率が縦方向及び横方向共に5 %以下であり、且つ90℃での熱風収縮率が縦方向及び横方向共に20%以上である。
(β):JIS K 6732で測定した23℃での引張破壊伸びが30%〜300%で あり、且つ引張り伸びが10%以上の領域での引張破壊伸びに対する引張強度の傾きが 4〜15である。
(γ):JIS K7198 A法の動的粘弾性測定により、周波数10Hz、ひずみ0 .1%にて測定した20℃における損失正接(tanδ)のピーク値が0.1〜0.8 の範囲である。
(λ):JIS K−7121に従って示差熱走査型熱量計を用いて昇温速度10℃/m inでフィルムを昇温したときの全結晶を融解するのに必要な融解熱量ΔHmと、昇温 中の結晶化に伴い発生する結晶化熱量ΔHcとの差(ΔHm−ΔHc)が5〜25J/ g以上である。
【0011】
なお、本発明において、フィルムの「縦方向」とは、被包装物を包装機械に流す場合の流れ方向のことであり、フィルムの「横方向」とは上記縦方向と垂直方向のことである。
また、本発明における数値範囲の上限値及び下限値は、本発明が特定する数値範囲から僅かに外れる場合であっても、当該数値範囲内と同様の作用効果を備えている限り本発明の範囲に含まる意を包含するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の乳酸系シュリンク包装フィルムは、生分解性、低温収縮特性、熱収縮特性及び伸び特性に優れているから、各種シュリンク包装、中でもストレッチシュリンクとオーバーラップシュリンクの両方の特性が求められるシュリンク包装用フィルムとして好適に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳しく説明するが、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本実施形態の乳酸系シュリンク包装フィルムは、下記成分(A)と上記成分(B)とからなる混合樹脂組成物を主成分として製造されるものである。
(A)乳酸系樹脂
(B)分子量2,000以下の可塑剤
【0015】
なお、本明細書において「主成分」と記載した場合には、当該主成分の機能を妨げない範囲で他の成分を含有することを許容する意を包含する趣旨である。特に当該主成分の含有割合を特定するものではないが、一般的には、その成分が組成物中で50質量%以上、特に70質量%以上を占める成分を意味する。
【0016】
〔成分(A)〕
成分(A)の乳酸系樹脂としては、少なくともL−乳酸またはD−乳酸を構造単位とするホモポリマーのいずれかの成分(A1)と、L−乳酸及びD−乳酸の両方を構造単位とする共重合体からなる成分(A2)とを含むポリマーブレンド体を用いることが重要である。すなわち、低温収縮特性及び熱収縮特性を得るためには、L−乳酸の構造単位とD−乳酸の構造単位の両方を含んでいることが重要である。
【0017】
成分(A1)は、少なくともL−乳酸またはD−乳酸を構造単位とするホモポリマーのいずれかであるから、構造単位がL−乳酸であるポリ(L−乳酸)、構造単位がD−乳酸であるポリ(D−乳酸)、或いは、これらの混合体を用いることができる。
但し、ここでいうポリ(L−乳酸)又はポリ(D−乳酸)は、理想的にはL−乳酸又はD−乳酸100%からなるポリマーであるが、重合に際し不可避的に異なる乳酸が含まれる可能性があるため、L−乳酸又はD−乳酸を98%以上含むものを包含する。
また、上記のポリ(L−乳酸)とポリ(D−乳酸)との混合体としては、D乳酸(D体)とL乳酸(L体)との構成比が、L体:D体=94:6〜80:20、もしくは、L体:D体=6:94〜20:80であることが好ましく、L体:D体=90:10〜85:15、もしくは、L体:D体=10:90〜15:85であることがより好ましい。D体とL体との構成比がこの範囲内であれば、得られる包装フィルムの熱収縮特性がより発現し易い。
【0018】
成分(A2)としての共重合体は、構造単位がL−乳酸及びD−乳酸からなるポリ(DL−乳酸)のほか、構造単位としてL−乳酸、D−乳酸及び他のヒドロキシカルボン酸からなる共重合体、或いは、L−乳酸、D−乳酸及び脂肪族ジオールや脂肪族ジカルボン酸からなる共重合体であってもよい。
また、L体とD体との共重合比が異なるポリ乳酸系樹脂を成分(A2)としてブレンドしてもよい。
【0019】
上記ポリ乳酸系樹脂の重合法としては、縮合重合法、開環重合法等の公知の方法を採用することができる。例えば縮合重合法では、L−乳酸またはD−乳酸、あるいはこれらの混合物等を直接脱水縮合重合して任意の組成を有するポリ乳酸系樹脂を得ることができる。また、開環重合法(ラクチド法)では、乳酸の環状二量体であるラクチドを、必要に応じて重合調節剤等を用いながら、適当な触媒を使用して任意の組成、結晶性を有するポリ乳酸系樹脂を得ることができる。ラクチドには、L−乳酸の二量体であるL−ラクチド、D−乳酸の二量体であるD−ラクチド、さらにL−乳酸とD−乳酸からなるDL−ラクチドを用いることができ、これらを必要に応じて混合し重合することにより、任意の組成、任意の結晶性を有する乳酸系樹脂を得ることができる。
【0020】
本発明に用いられるポリ乳酸系樹脂はいずれも、重量平均分子量が5万〜40万の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは10万〜25万の範囲のものである。5万以上であれば機械物性や耐熱性等の実用物性を確保することができ、40万以下であれば溶融粘度が高過ぎて成形加工性が劣るようになることがない。
【0021】
成分(A1)と成分(A2)の比率は、質量割合で10:90〜40:60、特に10:90〜30:70、中でも15:85〜25:75であるのが好ましい。
また、共重合体からなる成分(A2)のL−乳酸とD−乳酸のモル比率は、L体:D体=98:2〜50:50又は50:50〜2:98であるのが好ましく、特に97:3〜70:30又は30:70〜3:97、中でも95:5〜85:15又は15:85〜5:95であるのが好ましい。
【0022】
成分(A)は、上記成分(A1)及び成分(A2)のほかに、ガラス転移温度(Tg)が0℃以下の脂肪族ポリエステル樹脂及び/又は脂肪族芳香族ポリエステル樹脂を混合成分として含有してもよい。
これらの樹脂をさらに混合することにより、本発明の主旨であるポリ乳酸系樹脂の成形加工性の向上に加えて、耐衝撃性や耐寒性も向上させることが期待できる。
【0023】
ここで、上記の脂肪族ポリエステル樹脂としては、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸を縮合して得られる脂肪族ポリエステル、環状ラクトン類を開環重合した脂肪族ポリエステル、環状ラクトン類を開環重合した脂肪族ポリエステル、合成系脂肪族ポリエステル等を例示することができる。
上記の脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸を縮合して得られる脂肪族ポリエステルは、脂肪族ジオールであるエチレングリコール、1,4−ブタンジオール及び1,4−シクロヘキサンジメタノール等と、脂肪族ジカルボン酸であるコハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸及びドデカンニ酸等の中から、それぞれ1種類以上選んで縮合重合して得られる。また、必要に応じてイソシアネート化合物等で鎖延長反応などにより所望の樹脂を得ることができる。
具体的には、昭和高分子(株)製の商品名「ビオノーレ」等が市販されている。
上記の環状ラクトン類を開環重合した脂肪族ポリエステルとしては、環状モノマーであるε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン等が代表的に挙げられ、これらから1種類以上選ばれて重合される。また、上記の合成系脂肪族ポリエステルとしては、環状酸無水物とオキシラン類、例えば無水コハク酸とエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等との共重合体等が挙げられる。
脂肪族ポリエステルの質量平均分子量の好ましい範囲は、5万から40万、より好ましくは10万から25万である。
【0024】
また、上記の脂肪族芳香族ポリエステルとしては、耐熱性や機械強度を高めるために、ジカルボン酸成分として、50モル%以下のテレフタル酸等の芳香族モノマー成分が共重合されたものを好ましく例示することができる。
脂肪族芳香族ポリエステルの重量平均分子量の好ましい範囲は、5万から40万、より好ましくは10万から25万である。
具体的には、イーストマンケミカル社製の商品名「イースターバイオ」や、BASF社製の商品名「エコフレックス」等が市販されている。
【0025】
〔成分(B)〕
次に、成分(B)としての可塑剤について説明する。
【0026】
可塑剤は、一般的には乳酸系樹脂のガラス転移温度(Tg)を低下させ軟質化させる機能を備えたものであるが、本実施形態で用いる可塑剤は、相溶性や生分解性の観点から、下記(1)〜(9)に示す化合物の中から選ばれる分子量2,000以下の1種或いは2種類以上の組合わせからなるものが好ましく、なかでも特に下記(6)、(7)が好ましい。
【0027】
(1)H53(OH)3−n(OOCCH3m (但し、0<n≦3)
これは、グリセリンのモノー、又はジー、又はトリアセテートであり、これらの混合物でも構わないが、nは3に近い方が好ましい。
(2)グリセリンアルキレート(アルキル基は炭素数2〜20、水酸基の残基があってもよい)。例えば、グリセリントリプロピオネート、グリセリントリブチレート等が挙げられる。
(3)エチレングリコールアルキレート(アルキル基炭素数1〜20、水酸基の残基があっても良い)。例えば、エチレングリコールアセテート等が挙げられる。
(4)エチレン繰り返し単位が5以下のポリエチレングリコールアルキレート(アルキル基は炭素数1〜12、水酸基の残基があってもよい)。例えば、ジエチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールジアセテート等が挙げられる。
(5)脂肪族モノカルボン酸アルキルエステル(アルキル基は炭素数1〜20)。例えばステアリン酸ブチル等が挙げられる。中でも数平均分子量100〜2000のものが好ましい。
(6)脂肪族ジカルボン酸アルキルエステル(アルキル基は炭素数1〜20、カルボシシル基の残基であってもよい)。例えば、ジ(2−エチルヘキシル)アジペート、ジ(2−エチルヘキシル)アゼレート等が挙げられる。中でも数平均分子量100〜2000のものが好ましい。
(7)脂肪族トリカルボン酸アルキルエステル(アルキル基は炭素数1〜20、カルボキシル基の残基があってもよい)。例えば、クエン酸トリメチルエステル等が挙げられる。
(8)天然油脂及びそれらの誘導体。例えば、大豆油、エポキシ化大豆油、ひまし油、桐油、菜種油等が挙げられる。中でも数平均分子量100〜2000のものが好ましい。
【0028】
成分(A)及び成分(B)の配合割合は、成分(A)100質量部に対し成分(B)が5〜30質量部となるように配合するのが重要であり、特に10〜20質量部とするのがさらに好ましい。可塑剤の量が5〜30質量部の範囲内であれば、ストレッチシュリンク包装体として好適な特性を付与することができる。その一方、過少の場合は軟質化そのものが進まない場合があり、過多の場合には、溶融押出時に粘度が下がる過ぎるといった問題が生じる場合があったり、ブリード等の経時的な問題を生じることがある。
【0029】
本発明の効果を損なわない範囲で、滑り性の向上やブロッキング防止を目的とした滑剤や、熱安定剤、抗酸化剤、UV吸収剤、防曇剤、粘着剤、アンチブロッキング剤、光安定剤、核剤、加水分解防止剤、消匂剤などの添加剤を処方することができる。
【0030】
(用途)
本発明の乳酸系シュリンク包装フィルムは、シュリンク包装フィルム、中でもストレッチシュリンク包装フィルム、その中でも特に、下記(α)、(β)、(γ)及び(λ)の特性が要求されるストレッチシュリンク包装フィルムとして好適に用いることができる。
本発明の乳酸系シュリンク包装フィルムは、下記(α)、(β)、(γ)及び(λ)の特性を備えるものであるが、下記(α)、(β)、(γ)及び(λ)における各数値範囲は本発明の乳酸系シュリンク包装フィルムの用途を特定するものである。
【0031】
特性(α)は、ASTM D1204で測定した40℃での熱収縮率が縦方向及び横方向共に5%以下、好ましくは0〜3%であり、且つ90℃での熱風収縮率が縦方向及び横方向共に20%以上、好ましくは25〜60%であるという特性である。
被包装物をフィルムで覆う際、被包装物の縦及び横方向の周長に対して各々0〜20%の余裕率を持たせシールし、熱風トンネルを通過させることでタイト感のある包装体となる。この際、ASTM D1204で測定した90℃での熱風収縮率が縦方向及び横方向ともに20%以上であれば、包装フィルムに簡単にタイト感を付与することができる。
また、同条件における40℃での熱収縮率が縦方向及び横方向ともに5%以下であると、例えば、夏場に倉庫などの保管された場合であっても、包装フィルムが自然に収縮してフィルムの寸法が変化するなどの問題が生じ難い。
【0032】
特性(β)は、JIS K 6732で測定した23℃での引張破壊伸びが30%〜300%、好ましくは50〜200%であり、且つ、引張り伸びが10%以上の領域での引張破壊伸びに対する引張強度の傾きが4〜15、好ましくは7〜12%であるという特性である。
ストレッチシュリンク包装は様々な方法でなされている。例えば、押し上げ方式オーバーラップシュリンク方式では、フィルムが引き伸ばされながら包装される。よって、包装フィルムの室温近傍での引張破壊伸びが30%以上であれば、フィルムが引き伸ばされたときに切れてしまうことが少ない。また、引張破壊伸びに対する引張破壊強度の傾きが4以上であれば、フィルムが局所的に引き伸ばされる形となることが少なく好ましい。また、上記傾きが15以下であれば、引き伸ばされるときの応力が大きくなり過ぎることがなく、柔らかい容器などを包装する場合にも、容器が応力によって変形してしまうことがない。
【0033】
特性(γ)は、JIS K 7198 A法の動的粘弾性測定により、周波数10Hz、ひずみ0.1%にて測定した20℃における損失正接(tanδ)のピーク値が0.1〜0.8、好ましくは0.2〜0.7の範囲にあるという特性である。
損失正接(tanδ)のピーク値は、力が加わった場合の変形の遅れを示す物性であり、応力緩和挙動を示すパラメーターの一つである。すなわち、損失正接(tanδ)の値が小さいと応力緩和が速く、フィルムの変形に対する復元挙動が瞬間的に起こり、逆に損失正接の値が大きいと応力緩和が遅く、フィルムの変形に対する復元挙動が遅くなる。
損失正接(tanδ)のピーク値が0.1以上であれば、フィルムの変形に対する復元挙動が瞬間的に起こることがないから、例えば包装フィルムを伸ばしながら包装する場合に伸ばす力を取り除いた瞬間に元に戻ってしまうことがなく、皺なく綺麗に包装することができる。他方0.8以下であれば復元挙動が遅すぎることがないため、普通に使っている分には塑性的な変形を示すことがない。
このような観点から、この値は0.2以上であることがさらに好ましく、0.6以下であることがさらに好ましい。
【0034】
特性(λ)は、フィルム中の乳酸系樹脂成分の結晶化度の指標、すなわちJIS K−7121に従って示差熱走査型熱量計を用いて昇温速度10℃/minでフィルムを昇温したときの全結晶を融解するのに必要な融解熱量ΔHmと、昇温中の結晶化に伴い発生する結晶化熱量ΔHcとの差(ΔHm−ΔHc)が5〜25J/g、好ましくは10〜20J/gあるという特性である。
ΔHm−ΔHcが10J/g以上であれば、包装フィルムはは好ましい耐熱性を有することになり、20J/g以下であれば、包装フィルムは好ましい熱収縮特性を有することになる。
ΔHmは、所定の昇温速度でフィルムを昇温したときの全結晶を融解させるのに必要な結晶融解熱量であり、ΔHcは、所定の昇温速度でフィルムを一時昇温したときの昇温過程で生じる結晶化の際に発生する熱量である。ΔHm―ΔHcは、フィルム中の乳酸系樹脂の結晶化度を示し、ΔHm−ΔHcが大きいほど中の乳酸系樹脂の結晶化度が高いことを示す。
【0035】
なお、40℃及び90℃での熱収縮率、23℃での引張破壊伸び率、引張強度、20℃における損失正接(tanδ)のピーク値、融解熱量ΔHmと結晶化熱量ΔHcとの差(ΔHm−ΔHc)を調整する手段は特に限定されるものではないが、例えば、乳酸系樹脂組成物の組成(例えばLD比)、可塑剤の種類、成分(A)、(B)の配合割合、成形加工条件(特にフィルム成形後の加熱条件)などを適宜調整することにより調整することができる。
【0036】
(製造方法)
次に、本発明の乳酸系シュリンク包装フィルムの製造方法の一例について説明するが、下記製造法に限定されるものではない。
【0037】
先ず、乳酸系樹脂と可塑剤、さらに必要に応じて他の添加剤などを混合して混合組成物を得る方法としては、例えば、予め同方向2軸押出機、ニーダー、ヘイシェルミキサー等を用いてプレコンパウンドするようにしても構わないし、又、各原料をドライブレンドして直接フィルム押出機に投入するようにしても構わない。いずれの混合方法においても、原料の分解による分子量の低下を考慮する必要があるが、均一に混合させるためにはプレコンパウンドすることが好ましい。可塑剤等の液状成分は、固体成分とは別に、ポンプ等を用いベント口から注入することもできる。
具体的には、例えば、乳酸系樹脂と必要に応じて他の添加剤とをそれぞれ十分に乾燥して水分を除去した後、二軸押出機を用いて溶融混合し、ベント口から可塑剤を所定量添加しながら、ストランド形状に押出してペレットを作製する。この際、乳酸系樹脂は、L−乳酸構造とD−乳酸構造の組成比や乳酸系樹脂と可塑剤との混合の割合などによって混合樹脂の融点が変化すること等を考慮して、溶融押出温度を適宜選択することが好ましく、実際には160〜230℃の融点温度範囲のものが通常選択される。溶融押出温度が230℃以下であれば原料の分解による分子量の低下が生じる可能性がほとんどないため好ましい。
【0038】
上記方法にて作成したペレットを十分に乾燥して水分を除去した後、以下の方法でフィルム成形を行う。
フィルム成形法の具体例としては、テンターを用いてクリップ列の列間隔を拡大させて延伸するテンター延伸法、インフレーション法、チューブラー法などを採用することができる。
【0039】
本発明の乳酸系シュリンク包装フィルムを得るためには、上記の如くフィルム化した後、縦方向及び横方向のそれぞれにおいて、乳酸系樹脂組成物のガラス転移点よりも10℃以上高い20〜100℃にて2〜5倍延伸した後、該延伸温度よりも20℃以上高い40〜120℃にて熱処理することが必要である。
【0040】
この際、延伸温度、すなわち延伸時のシート状物の温度は、乳酸系樹脂組成物のガラス転移点よりも10℃以上高い20〜100℃、好ましくは40℃〜60℃とするのが重要である。延伸時のシート状物の温度が100℃以下であれば、シート状物の弾性率が低くなり過ぎることがなく、自重によりシート状物が垂れ下がるドローダウンが生じる等のトラブルが発生することがない。また、熱処理は緊張熱固定であっても弛緩状態での熱処理であっても良く、前述の収縮特性の調整に応じて選択すればよい。
【0041】
また、熱処理は、シート状物を延伸した後に幅固定状態で処理するのが好ましく、熱処理温度としては、延伸温度よりも20℃以上高い40〜120℃、好ましくは60℃〜100℃とするのが重要である。熱処理温度を40℃以上とすれば熱処理効果を得られ易く、120℃以下であるとドローダウンが起こり難い。また、熱処理時間が5秒以上であれば熱処理効果が得られ易く、5分以下であれば熱処理設備が長大にならないから経済性を維持することができる。
【0042】
本発明の乳酸系シュリンク包装フィルムを用いるのに好適なストレッチシュリンク包装の方式として、押し上げ方式オーバーラップシュリンク包装、ピロー方式オーバーラップシュリンク包装、ピロー方式オーバーラップシュリンク包装、三方シール式ピローシュリンク包装、L型シール包装、四方シール包装などを挙げることができる。
中でも、上記の(α)、(β)、(γ)及び(λ)の特性が要求されるストレッチシュリンク包装、例えば、フィルムを引き延ばしながら被包装物に被せてシールした後、熱風トンネル等を通して熱収縮させるシュリンク包装用として好適である。
【0043】
実際のシュリンク包装作業においては、被包装物をフィルムで覆う際、被包装物の縦及び横方向の周長に対して各々20%以下の余裕率を持たせるのが好ましい。ここで言う縦方向とは、被包装物を包装機械に流す場合の流れ方向のことであり、横方向とは上記縦方向と垂直方向のことである。
20%の余裕率とは、被包装物の縦及び横方向の周長に対して各々20%長くすることである。余裕率を持たせることにより、被包装物の形状が直方体や立方体のものの他に円錐形や円錐台形状、突起物を持った不定形形状のもの等にも対応することができる。余裕率を小さくすると、被包装物の一部(部分的に余裕率の小さい部分やフィルムとの滑りが劣る部分等)にしわが残りやすくなる。また、余裕率を20%より大きくすると被包装物に密着した緊張されたシュリンク包装体を得にくくなる傾向があり、綺麗なシュリンク包装体とならない。
余裕率0%の場合は、周長よりも短いフィルムを5〜20%程度延ばすことで周長と同じ長さにして被包装物を覆うようにするのが良い。
なお、余裕率が大きい時や、嵩高かつ異形の被包装物で製袋内の空気が多いような時は、シールした製袋内に密閉された空気を収縮時に逃がすことができず、被包装物に密着して緊張されたシュリンク包装体が得られ難くなるため、針の付いたローラーやレーザー等を用いて空気抜きの小孔を開けたり、シール前の製袋品に抑えローラー等で外圧をかけるなどして、あらかじめ密封された空気を少なくするようにするのがよい。その際の小孔の大きさや数は被包装物の種類や余裕率によって適宜選択すればよい。
シール方法としては、ヒートシール、溶断シール、インパルスシール等の通常のシール方法を使用する包装形態に合わせて選択すればよく、これらのシール方法を組み合わせても良い。
また、熱収縮は、熱風、蒸気等を使用できるが、後処理のいらない熱風による方法が好しい。
【0044】
なお、シュリンク包装フィルムに似たものとして家庭で使用されるラップフィルム(米国ではハウスホールドラップなどと呼ばれる。)があるが、シュリンク包装フィルムは、伸び特性と自己粘着性を備えたものであるのに対し、ラップフィルムは、シュリンク包装フィルムのような伸び特性を備えていない。ラップフィルムは、ストレッチフィルムのように伸びると鋸歯でカットできないことになる。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を示すが、本発明は以下の実施例に制限を受けるものではない。
フィルムのMDとは引き取り方向(流れ方向)、TDとは当該MDの垂直方向(幅方向)を示す。
尚、実施例中に示す測定値は、次に示すような条件で測定を行い算出した値である。
【0046】
<熱風収縮率測定>
ASTM D1204に準拠して測定した。
【0047】
<引張破壊強伸度測定>
JIS K 6732に準拠して23℃にて測定を行った。また、引張破壊伸びに対する引張強度の傾きは応力−ひずみ曲線の降伏応力後の傾きを最小二乗法により算出した。
【0048】
<動的粘弾性測定>
JIS K−7198 A法に記載の動的粘弾性測定法により、岩本製作所(株)製スペクトロレオメーター「VES−F3」を用い、振動周波数10Hz、ひずみ0.1%、温度20℃にて包装フィルムの損失正接を測定した。
【0049】
<包装適性>
(株)フジキカイ製のストレッチフィルム包装機〔FP−40〕を用い、縦×横×高さ=200×100×20mmの大きさの発泡スチロール製トレーを5個/分のスピードで包装した時の包装後の仕上がりを目視にて観察し、以下の基準で評価した。
○:包装体に密着しており、皺等が見られない
△:包装体に密着しているが、皺が見られる
×:包装体に密着していない
【0050】
<収縮仕上がり確認試験>
ハナカタ製のL型自動包装機〔HP−10Z〕にて包装した、包装体を同じくハナカタ製のシュリンクトンネル〔HT−03310〕にて100℃の熱風トンネルに5〜7秒間潜らせて収縮包装した。収縮後の仕上りを目視にて観察し、下記の基準で判断した。
(タイト感)
○:包装体に密着している
×:包装体に密着していない部分がある
(角の状態)
○:柔らかい
×:硬かったり、ゴワゴワしたりする。
【0051】
<生分解性試験:簡易コンポスト試験>
市販されている家庭用コンポスターに、園芸用の腐葉土10kgに対し、市販されているドッグ・フード5kgを混合して入れ、さらに水500mlを加え、厚み200mmの埋土とした。サンプルは、フィルムから40mm×100mmに切り出し、60mm×150mmの金網(3mm目)2枚で構成されるサンプルホルダーに挟み込んだうえ、細い針金を網目に通してサンプルを綴じ込んだ。コンポスターの埋土中に垂直になるようにサンプルホルダーとともに埋設し、各ホルダーの下底辺が、埋土の底面から25mmの高さに、また上底辺が、埋土の表面から25mmの深さになるように配置した。埋設後2ヶ月後に1つのホルダー毎に取り出し、サンプルの表面の状態を観察して、崩壊の有無を目視にて下記の基準で判断した。
○:包装フィルムの形状を留めておらず、ほとんど分解している状態
×:包装フィルムの形状を留めており、フィルムに変形を与えても破壊することがない 状態
【0052】
(実施例1)
(A)成分として、十分に乾燥されたホモポリ乳酸(商品名:NatureWorks 4032D(カーギル・ダウ社製)、L−乳酸:D−乳酸=98.6:1.4、分子量20万)(以下「PLA1」と略する)20質量%と、共重合体ポリ乳酸(商品名:NatureWorks4060(カーギル・ダウ社製)、L−乳酸:D−乳酸=87:13、分子量19万)(以下「PLA2」と略する)80質量%とのブレンド(以下A1と略する)を用い、(A)成分をホッパーに投入しφ25mm二軸押出機(L/D=40)を用い、230℃、200rpmで溶融混練し、ベント口より(B)成分としてアジピン酸エステル(旭電化製 PX−884、分子量650)(以下B1と略する)を17質量部となるように添加しながら30℃に温度調節したキャストにて冷却することで90μmのシートを成形した。次いで、このフィルムを二軸延伸装置(TMロング社製)を用いて、延伸倍率が縦4倍、横4倍となるように温度60℃で同時2軸延伸し、膜厚10μmの乳酸系軟質フィルムを作成し、その後、縦方向及び横方向を拘束した状態で温度90℃にて2分間の熱処理を行った。
【0053】
(実施例2)
実施例1での(A)成分をのPLA1/PLA2=10/90質量%のブレンド(以下A2と略する)とした以外は実施例1と同様の方法で10μmのフィルムを得た。この結果を表1に示す。
【0054】
(比較例1)
実施例1での(A)成分をPLA1(以下A3と略する)のみとし、更に(A)成分と、(B)成分の割合を(A):(B)=100:0とし、延伸温度を65℃とした以外は実施例1と同様の方法で10μmのフィルムを得た。この結果を表1に示す。
【0055】
【表1】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸系樹脂(A)、及び分子量2,000以下である可塑剤(B)からなる混合樹脂組成物で、当該成分(A)100質量部に対し当該成分(B)を5〜30質量部含有してなる乳酸系樹脂組成物を用いてなるものであって、
当該乳酸系樹脂(A)は、少なくともL−乳酸またはD−乳酸を構造単位とするホモポリマーのいずれかの成分(A1)と、L−乳酸及びD−乳酸の両方を構造単位とする共重合体からなる成分(A2)とを含むポリマーブレンド体であり、
縦方向及び横方向のそれぞれにおいて、乳酸系樹脂組成物のガラス転移点よりも10℃以上高い20〜100℃にて2〜5倍延伸した後、該延伸温度よりも20℃以上高い40〜120℃にて熱処理して得られるフィルムであり、
下記(α)、(β)、(γ)及び(λ)の特性を備えた乳酸系シュリンク包装フィルム。
(α):ASTM D1204で測定した40℃での熱収縮率が縦方向及び横方向共に5 %以下であり、且つ90℃での熱風収縮率が縦方向及び横方向共に20%以上である。
(β):JIS K 6732で測定した23℃での引張破壊伸びが30%〜300%で あり、且つ引張り伸びが10%以上の領域での引張破壊伸びに対する引張強度の傾きが 4〜15である。
(γ):JIS K7198 A法の動的粘弾性測定により、周波数10Hz、ひずみ0 .1%にて測定した20℃における損失正接(tanδ)のピーク値が0.1〜0.8 の範囲である。
(λ):JIS K−7121に従って示差熱走査型熱量計を用いて昇温速度10℃/m inでフィルムを昇温したときの全結晶を融解するのに必要な融解熱量ΔHmと、昇温 中の結晶化に伴い発生する結晶化熱量ΔHcとの差(ΔHm−ΔHc)が5〜25J/ g以上である。
【請求項2】
乳酸系樹脂(A)における前記成分(A1)と成分(A2)との質量比率がA1/A2=10/90〜40/60であり、かつ成分(A2)におけるL−乳酸とD−乳酸のモル比率が、L体:D体=98:2〜50:50又は50:50〜2:98であることを特徴とする請求項1記載の乳酸系シュリンク包装フィルム。



【公開番号】特開2006−27113(P2006−27113A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−210152(P2004−210152)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】