説明

乾癬の治療における化合物の長期的効力の予測

本発明は、薬物動態学的/薬動力学的モデルに基づいて乾癬治療用化合物の効力を予測するための方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乾癬の治療における化合物の長期的効力の予測に関する。
【背景技術】
【0002】
乾癬は全世界の人口の1〜3%を冒す慢性免疫媒介性疾患であり(JacobsonおよびKimball,Epidemiology:Psoriasis In:Psoriasis and Psoriatic Arthritis(Gordon KB,Ruderman EM編).Springer−Verlag Berlin Heidelberg,Germany;2005:47−56)、その最大の罹患率は北米および欧州において見出される(KruegerおよびDuvic,J.Invest.Dermatol,102:145−185,1994)。乾癬の最も一般的な形態は、患者の65〜86%に存在し厚い鱗状プラークの存在により特徴づけられるプラーク型乾癬である。中等度ないし重度の乾癬のNational Psoriasis Foundationの定義に基づけば、米国における中等度ないし重度の乾癬の罹患率は18歳以上の者の0.31%であると見積もられている(Sternら,J.Investig.Dermatol.Symp.Proc.9:136−139,2004)。乾癬の患者は、癌、関節炎、高血圧、心疾患、糖尿病およびうつ病の患者と比較しうる身体機能および精神機能の低下を報告している(Rappら,J.Am.Acad.Dermatol.41(3Pt1):401−407,1999)。生活の質に対する乾癬の影響の米国における調査において、回答者は職場における問題、家族および友達との付き合いの難しさ、公共施設からの排除、就職の難しさ、ならびに自殺の企図を報告した(Kruegerら,Arch.Dermatol,137:280−284,2001)。
【0003】
伝統的に、乾癬の治療は、皮膚細胞の成長を抑制する投薬を含む。乾癬に対する治療アプローチは、しばしば、クリーム剤および軟膏剤、経口投薬および光線療法を含む。近年、あるサイトカインを抑制する生体応答調節物質が乾癬患者に対する治療の潜在的新規方法となっている。例えば、腫瘍壊死因子(TNF)は、炎症応答に関与するサイトカインであり、科学的証拠は、それが乾癬の病理発生において基本的な役割を果たしていることを示唆している(Kreugerら,(2004)Arch Dermatol 140:218;Kupper(2003)N Engl J Med 349:1987)。
【0004】
しかし、多数の局所および全身療法が乾癬治療に有用であると報告されているものの、そのような治療の長期的効力を決定または予測することが依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】JacobsonおよびKimball,Epidemiology:Psoriasis In:Psoriasis and Psoriatic Arthritis(Gordon KB,Ruderman EM編).Springer−Verlag Berlin Heidelberg,Germany;2005:47−56
【非特許文献2】KruegerおよびDuvic,J.Invest.Dermatol,102:145−185,1994
【非特許文献3】Sternら,J.Investig.Dermatol.Symp.Proc.9:136−139,2004
【非特許文献4】Rappら,J.Am.Acad.Dermatol.41(3Pt1):401−407,1999
【非特許文献5】Kruegerら,Arch.Dermatol,137:280−284,2001
【非特許文献6】Kreugerら,(2004)Arch Dermatol 140:218;Kupper(2003)N Engl J Med 349:1987
【発明の概要】
【0006】
本発明は、少なくとも部分的には、乾癬を治療するための化合物の長期的効力を正確に予測することが実証された薬物動態学的および薬動力学的モデリングおよびシミュレーションアプローチの発見に基づく。
【0007】
したがって、1つの態様においては、本発明は、薬物動態学的/薬動力学的モデルを使用する、乾癬の治療のための化合物の効力の予測方法に関する。本発明の方法は、1つの実施形態においては、乾癬に関する指標、例えばPASI、PGA、DLQI、状態の計算に基づいて、該化合物の薬物動態学的プロファイルを示す薬物動態学的モデルおよび該化合物の長期的効力を予測するための薬動力学的モデルを作成することを含む。好ましい実施形態においては、該薬動力学的モデルは、PASIスコアを計算するために使用される。もう1つの実施形態においては、本発明の方法は、乾癬療法のプラトーPASI応答率を予測するために使用されうる。好ましい実施形態においては、乾癬療法のプラトーPASI 75応答率が予測される。
【0008】
1つの好ましい実施形態においては、該薬物動態学的モデルは中央コンパートメントを含有し、該中央コンパートメントは、与えられた時点における該化合物の濃度を表す。1つの実施形態においては、本発明の方法において使用される薬動力学的モデルは間接応答である。1つの実施形態においては、該薬動力学的モデルは、Emax濃度−応答関係を伴う2段階間接応答モデルである。好ましい実施形態においては、該薬動力学的モデルは、直線的な濃度−応答関係を伴う2段階間接モデルである。
【0009】
1つの実施形態においては、本発明の方法は、該薬動力学的モデルの第2段階に入る速度および該薬動力学モデルの第2段階から出る速度に関する個体間誤差を計算すること、ならびに/または加重因子としての加法的および比例的誤差が組合された残留誤差モデルを作成することをも含む。もう1つの実施形態においては、本発明の方法において使用される薬動力学的モデルは指数関数的個体間誤差項(例えば、KinおよびK40)を含む。
【0010】
本発明の方法の或る実施形態においては、本発明の方法により評価される乾癬の治療は全身的治療である。1つの実施形態においては、該全身的治療はTNFαインヒビターを含む。もう1つの実施形態においては、該全身的治療はコルチコステロイドを含む。1つの実施形態においては、該治療はメトトレキセートを含む。さらにもう1つの実施形態においては、本発明の方法を使用して、化合物の組合せの長期的効力が予測される。
【0011】
ある実施形態においては、本発明の方法は、2以上の乾癬治療の効力を予測するために使用される。他の実施形態においては、本発明の方法は、乾癬治療の2以上の投与計画の効力を予測するために使用される。
【0012】
ある実施形態においては、本発明の方法は、乾癬と診断された対象を含む患者集団における1以上の乾癬治療および/または投与計画の効力を予測するために使用される。1つの実施形態においては、乾癬は中等度ないし重度(例えば、10%罹患体表面積および10のPASIスコア)である。他の実施形態においては、該患者集団は、一般的な身体的特徴(例えば、年齢、性別、民族性、体重)を有する小集団である。もう1つの実施形態においては、該患者集団は、亜治療応答(治療応答未満の応答)を示した対象、療法に対する応答を示さなかった対象、またはこれまでの乾癬療法に対する応答性を喪失した対象を含む。
【0013】
他の実施形態においては、本発明の方法は、個体における1以上の乾癬治療および/または投与計画の効力を予測するために使用される。例えば、類似患者からの集団データに基づく薬物動態学的/薬動力学的モデルを用いて、個々の乾癬治療または投与計画の効力が予測されうる。
【0014】
本発明はまた、集団または個体に関する乾癬治療の効力を予測するための本明細書に記載されている方法において使用されうるコンピュータープログラム、コンピューター読取り可能媒体およびコンピューターシステムに関する。
【0015】
本発明の追加的な実施形態は、本明細書に記載されている詳細な説明および実施例に記載されている。
【0016】
(発明の詳細な説明)
I.定義
本明細書において互換的に用いる「乾癬治療」または「乾癬療法」なる語は、皮膚細胞の産生の促進をもたらす周期を遮断して炎症およびプラーク形成を軽減するするよう作用する1以上の因子(物質または化合物とも称される)を意味する。乾癬治療は局所的治療、光線療法および全身的投薬ならびにそれらの組合せを含む。例えば、局所的乾癬治療は、限定的なものではないが、コルチコステロイド、ビタミンD類似体、アントラリン、レチノイド、カルシニューリンインヒビター、コールタールおよび保湿剤を含む。光線療法(光療法)乾癬治療は、限定的なものではないが、UVB光線療法、狭帯域UVB療法、ソラレン+紫外線A(PUVA)およびエキシマ(Excimer)レーザーを含む。全身的乾癬治療は、限定的なものではないが、レチノイド、メトトレキセート、アザチオプリン、シクロスポリン、ヒドロキシ尿素および生物学的物質(例えば、TNFαインヒビター)ならびにそれらの組合せを含む。
【0017】
本明細書中で用いる「ヒトTNFα」なる語(本明細書においてはhTNFαまたは単にhTNFと略称される)は、17kDの分泌形態および26kDの膜結合形態として存在するヒトサイトカインを意味すると意図され、それらのうちの生物学的に活性な形態は、非共有結合した17kDの分子の三量体から構成される。hTNFαの構造は、例えば、Pennica,D.ら,(1984)Nature 312:724−729;Davis,J.M.ら,(1987)Biochemistry 26:1322−1326;およびJones,E.Y.ら,(1989)Nature 338:225−228に更に詳細に記載されている。ヒトTNFαなる語は、組換えヒトTNFα(rhTNFα)を含むと意図され、これは標準的な組換え発現法により製造可能であり、あるいは商業的に入手可能である(R & D Systems,Catalog No.210−TA,Minneapolis,MN)。TNFαはTNFとも称される。
【0018】
「TNFαインヒビター」なる語は、TNFα活性を妨げる因子を含む。この用語は、本明細書に記載されている抗TNFαヒト抗体および抗体部分のそれぞれ、ならびに米国特許第6,090,382号、第6,258,562号、第6,509,015号および米国特許出願第09/801185号および第10/302356号をも含む。1つの実施形態においては、本発明で使用されるTNFαインヒビターは抗TNFα抗体またはそのフラグメント、例えばインフリキシマブ(infliximab)(Remicade(登録商標),Johnson and Johnson;参照により本明細書に組み入れる米国特許第5,656,272号に記載されている)、CDP571(ヒト化モノクローナル抗TNFアルファIgG4抗体)、CDP 870(ヒト化モノクローナル抗TNFアルファ抗体フラグメント)、抗TNFdAb(Peptech)、CNTO 148(ゴリムマブ(golimumab);Medarex and Centocor,WO 02/12502を参照されたい)、およびアダリムマブ(adalimumab)(HUMIRA(登録商標) Abbott Laboratories,ヒト抗TNF mAb,US 6,090,382にD2E7として記載されている)である。本発明において使用されうる他のTNF抗体は米国特許第6,593,458号、第6,498,237号、第6,451,983号および第6,448,380号(それらのそれぞれを参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されている。
【0019】
TNFαインヒビターの他の具体例には、TNF融合タンパク質、例えばエタネルセプト(etanercept)(Enbrel(登録商標),Amgen;WO 91/03553およびWO 09/406476に記載されている)、可溶性TNF受容体1型、ペジル化(pegylated)可溶性TNF受容体1型(GEGs TNF−R1)、p55TNFR1gG(Lenercept)および組換えTNF結合タンパク質、例えばr−TBP−I(Serono)が含まれる。
【0020】
本明細書中で用いる「抗体」なる語は、ジスルフィド結合により相互連結された4本のポリペプチド鎖、すなわち、2本の重(H)鎖および2本の軽(L)鎖から構成される免疫グロブリン分子を意味すると意図される。各重鎖は重鎖可変領域(本明細書においてはHCVRまたはVHと略称される)および重鎖定常領域から構成される。重鎖定常領域は、3つのドメイン、すなわち、CH1、CH2およびCH3から構成される。各軽鎖は軽鎖可変領域(本明細書においてはLCVRまたはVL)および軽鎖定常領域から構成される。軽鎖定常領域は1つのドメイン、すなわち、CLから構成される。VHおよびVL領域は更に、より保存された領域(フレームワーク領域(FR)と称される)の間に介在する超可変性の領域(相補性決定領域(CDR)と称される)に細分されうる。各VHおよびVLは、アミノ末端からカルボキシ末端へ以下の順序で配置された3つのCDRおよび4つのFRから構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。
【0021】
本明細書中で用いる、抗体の「抗原結合性部分」または「抗原結合性フラグメント」(または単に「抗体部分」)なる語は、抗原(例えば、hTNFα)に特異的に結合する能力を保有する、抗体の1以上のフラグメントを意味する。抗体の抗原結合機能は完全長抗体のフラグメントによりもたらされうることが示されている。結合性フラグメントには、Fab、Fab’、F(ab’)、Fabc、Fv、一本鎖および一本鎖抗体が含まれる。抗体の「抗原結合性部分」なる語に含まれる結合性フラグメントの具体例には、(i)VL、VH、CLおよびCH1ドメインから構成される一価フラグメントであるFabフラグメント、(ii)ヒンジ領域においてジスルフィド架橋により連結された2つのFabフラグメントを含む二価フラグメントであるF(ab’)フラグメント、(iii)VHおよびCH1ドメインから構成されるFdフラグメント、(iv)抗体の単一アームのVLおよびVHドメインから構成されるFvフラグメント、(v)VHドメインからなるdAbフラグメント(Wardら(1989)Nature 341:544−546)、ならびに(vi)単離された相補性決定領域(CDR)が含まれる。さらに、Fvフラグメントの2つのドメイン、すなわち、VLおよびVHは、別々の遺伝子によりコードされているが、それらは、組換え法を用いて、一価分子(単一鎖Fv(scFv)として公知である;例えば、Birdら,(1988)Science 242:423−426;およびHustonら,(1988)Proc.Natl.Acad.Sci USA 85:5879−5883を参照されたい)を形成するようVL領域とVH領域とが対になった単一タンパク質鎖としてそれらが製造されるのを可能にする合成リンカーにより連結されうる。そのような一本鎖抗体も抗体の「抗原結合性部分」なる語に含まれると意図される。一本鎖抗体の他の形態、例えばジアボディも含まれる。ジアボディは二価二重特異性抗体であり、この場合、VHおよびVLドメインは単一ポリペプチド鎖上で発現されるが、非常に短いリンカーを用いているため、同一鎖上でのそれらの2つのドメインの対形成は不可能であり、したがって、それらのドメインは別の鎖の相補的ドメインと対形成し、2つの抗原結合部位を形成する(例えば、Holligerら,(1993)Proc.Natl.Acad.Sci USA 90:6444−6448;Poljakら,(1994)Structure :1121−1123を参照されたい)。本発明の方法において使用されうる抗体部分の具体例は米国特許第6,090,382号、第6,258,562号、第6,509,015号(それらのそれぞれの全体を参照により本明細書に組み入れることとする)に更に詳細に記載されている。
【0022】
さらに、抗体またはその抗原結合性部分は、抗体または抗体部分と1以上の他のタンパク質またはペプチドとの共有結合または非共有結合により形成される、より大きな免疫接着性分子の一部分でありうる。そのような免疫接着性分子の具体例には、四量体scFv分子を形成させるためのストレプトアビジンコア領域の使用(Kipriyanov,S.M.ら,(1995)Human Antibodies and Hybridomas 6:93−101)、ならびに二価およびビオチン化scFv分子を形成させるためのシステイン残基、マーカーペプチドおよびC末端ポリヒスチジンタグの使用(Kipriyanov,S.M.ら,(1994)Mol.Immunol.31:1047−1058)が含まれる。
【0023】
本明細書中で用いる「保存的アミノ酸置換」は、1つのアミノ酸残基が、類似側鎖を有する別のアミノ酸残基で置換されるアミノ酸置換である。類似側鎖を有するアミノ酸残基の群は当技術分野で定められており、それらには、塩基性側鎖(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、無荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、無極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、ベータ−分枝側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が含まれる。
【0024】
「キメラ抗体」は、重鎖および軽鎖のアミノ酸配列のそれぞれの1つの部分が、特定の種に由来する又は特定のクラスに属する抗体内の対応配列と相同であり、一方、該鎖の残りのセグメントが別の種の対応配列と相同である抗体を意味する。1つの実施形態においては、キメラ抗体または抗原結合性フラグメントは、軽鎖および重鎖の可変領域が、哺乳類の1つの種に由来する抗体の可変領域を模擬しており、一方、定常部分が、別の種に由来する抗体内の配列と相同である抗体を意味する。本発明のもう1つの実施形態においては、キメラ抗体は、マウス抗体からのCDRをヒト抗体のフレームワーク領域上にグラフト化することにより製造される。
【0025】
「ヒト化抗体」は、実質的に非ヒト抗体(例えば、マウス)からの少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)および実質的にヒト抗体鎖(受容免疫グロブリンまたは抗体と称される)からの可変領域フレームワーク残基を含む少なくとも1つの鎖を含む抗体を意味する。CDRのグラフト化に加えて、ヒト化抗体は、典型的には、更に、アフィニティおよび/または免疫原性を改善するための改変を受ける。
【0026】
「多価抗体」なる語は、2以上の抗原認識部位を含む抗体を意味する。例えば、「二価」抗体は2つの抗原認識部位を有し、「四価」抗体は4つの抗原認識部位を有する。「単一特異性」、「二重特異性」、「三重特異性」、「四重特異性」などの語は、多価抗体に存在する(抗原認識部位の数との対比における)異なる抗原認識部位特異性の数を意味する。例えば、「単一特異性」抗体の抗原認識部位は全て、同一エピトープに結合する。「二重特異性」または「二元特異性」抗体は、第1エピトープに結合する少なくとも1つの抗原認識部位、および第1エピトープとは異なる第2エピトープに結合する少なくとも1つの抗原認識部位を有する。「多価単一特異性」抗体は、全て同一エピトープに結合する複数の抗原認識部位を有する。「多価二重特異性」抗体は複数の抗原認識部位を有し、それらのうちの幾つかは第1エピトープに結合し、それらのうちの幾つかは、第1エピトープとは異なる第2エピトープに結合する。
【0027】
本明細書中で用いる「ヒト抗体」なる語は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する抗体を含むと意図される。本発明のヒト抗体は、例えばCDRおよび特定のCDR3における、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によってはコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダムもしくは部位特異的突然変異誘発により又はインビボでの体細胞突然変異により導入された突然変異)を含みうる。しかし、本明細書中で用いる「ヒト抗体」なる語は、別の哺乳類種(例えば、マウス)の生殖系列に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列上にグラフト化された抗体を含まないと意図される。
【0028】
本明細書中で用いる「組換えヒト抗体」なる語は、組換え手段により製造、発現、作製もしくは単離された全てのヒト抗体、例えば、宿主細胞(後記で更に詳しく説明する)内にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを使用して発現された抗体、組換え組合せ(コンビナトリアル)ヒト抗体ライブラリー(後記で更に詳しく説明する)から単離された抗体、ヒト免疫グロブリン遺伝子に関してトランスジェニックである動物(例えば、マウス)から単離された抗体(例えば、Taylorら,(1992)Nucl.Acids Res.20:6287を参照されたい)、または他のDNA配列へのヒト免疫グロブリン遺伝子配列のスプライシングを含むいずれかの他の手段により製造、発現、作製もしくは単離された抗体を含むと意図される。そのような組換えヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する。しかし、ある実施形態においては、そのような組換えヒト抗体はインビトロ突然変異誘発(あるいは、ヒトIg配列に関してトランスジェニックである動物が使用される場合には、インビボ体細胞突然変異誘発)に付され、したがって、組換え抗体のVHおよびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列VHおよびVL配列に由来しそれらと関連しているがインビボにおいてヒト抗体生殖系列レパートリー内に天然で存在しない可能性のある配列である。
【0029】
本明細書中で用いる「単離された抗体」は、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含有しない抗体を意味すると意図される(例えば、hTNFαに特異的に結合する単離された抗体は、hTNFα以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に含有しない)。しかし、hTNFαに特異的に結合する単離された抗体は、他の抗原、例えば他の種に由来するTNFα分子に対する交差反応性を有しうる。さらに、単離された抗体は、他の細胞性物質および/または化学物質を実質的に含有しないことが可能である。
【0030】
本明細書中で用いる「中和抗体」(または「hTNFα活性を中和した抗体」)は、hTNFαに結合するとhTNFαの生物活性の抑制をもたらす抗体を意味すると意図される。hTNFαの生物活性のこの抑制は、hTNFαの生物活性の1以上の指標、例えば、hTNFα誘導性細胞傷害性(インビトロまたはインビボのいずれか)、hTNFα誘導性細胞活性化、およびhTNFα受容体へのhTNFα結合を測定することにより評価されうる。hTNFαの生物活性のこれらの指標は、当技術分野で公知の幾つかの標準的なインビトロまたはインビボアッセイの1以上により評価されうる(米国特許第6,090,382号を参照されたい)。好ましくは、hTNFα活性を抗体が中和する能力は、L929細胞のhTNFα誘導性細胞傷害性の抑制により評価される。hTNFα活性の追加的または代替的パラメーターとして、HUVEC上でのELAM−1のhTNFα誘導性発現を抗体が抑制する能力がhTNFα誘導性細胞活性化の尺度として評価されうる。
【0031】
本明細書中で用いる「Koff」なる語は、抗体/抗原複合体からの抗体の解離に関するoff(オフ)速度定数を意味すると意図される。
【0032】
本明細書中で用いる「K」なる語は、特定の抗体−抗原相互作用の解離定数を意味すると意図される。
【0033】
本明細書中で用いる「IC50」なる語は、関心のある生物学的エンドポイントの抑制、例えば、炎症、プラーク形成の軽減、細胞障害性活性の中和に要する物質の濃度を意味すると意図される。
【0034】
本明細書中で用いる「用量」なる語は、対象に投与される物質の量を意味する。
【0035】
本明細書中で用いる「投与」なる語は、治療目的(例えば、乾癬の治療)を達成するための、物質(例えば、抗TNFα抗体)の投与を意味する。
【0036】
「投与計画」は、物質に関する治療スケジュール、例えば、長期間にわたる及び/又は治療経過の全体にわたる治療スケジュール、例えば、第0週における物質の第1用量の投与、およびそれに続く、毎日、週2回、週3回、毎週、隔週または毎月の投与計画における物質の第2用量の投与を示す。
【0037】
本明細書中で用いる「隔週投与計画」、「隔週投薬」および「隔週投与」なる語は、治療目的を達成するための、対象への物質(例えば、抗TNFα抗体)の投与の時間経過、例えば、治療経過全体を指す。隔週投与計画は毎週投与計画を含むことを意図するものではない。好ましくは、該物質は、9〜19日ごと、より好ましくは11〜17日ごと、より一層好ましくは13〜15日ごと、最も好ましくは14日ごとに投与される。1つの実施形態においては、隔週投与計画は、対象において、治療の第0週に開始される。もう1つの実施形態においては、隔週投与計画において、維持量が投与される。1つの実施形態においては、隔週投与計画において、負荷(ローディング)量および維持量の両方が投与される。1つの実施形態においては、隔週投与は、第0週から隔週で物質の用量が対象に投与される投与計画を含む。1つの実施形態においては、隔週投与は、与えられた期間、例えば4週間、8週間、16週間、24週間、26週間、32週間、36週間、42週間、48週間、52週間、56週間などにわたり連続的に隔週で、物質の用量が対象に投与される投与計画を含む。隔週投与法はUS 20030235585(これを参照により本明細書に組み入れることとする)にも記載されている。
【0038】
「複数可変用量」なる語は、治療的治療のために対象に投与される物質の、異なる用量を含む。「複数可変用量投与計画」または「複数可変用量療法」は、治療経過全体にわたる種々の時点における物質の種々の量の投与に基づく治療スケジュールを示す。複数可変用量投与計画はPCT出願番号PCT/US05/12007およびUS 20060009385(参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されている。
【0039】
「維持療法」または「維持用量投与計画」なる語は、障害/疾患、例えば乾癬と診断された対象または患者に対する治療スケジュールであって、与えられた状態、例えば寛解状態で彼らの健康をそれらが維持することを可能にする治療スケジュールを意味する。一般に、乾癬の治療の最初の目標は、寛解を、それを要する対象において誘導することである。次の目標は、対象を寛解状態に維持することである。疾患の寛解を達成した対象または有利な疾患状態(例えば、症状の軽減)に到達した対象における寛解を維持するための維持療法においては、維持量が使用されうる。1つの実施形態においては、本発明の維持療法を、障害/疾患、例えば乾癬と診断された対象または患者に対して用いて、該疾患に関連した症状を全く伴わない状態で彼らの健康状態を維持させる。1つの実施形態においては、本発明の維持療法を、障害/疾患、例えば乾癬と診断された対象または患者に対して用いて、該疾患に関連した症状を実質的に伴わない状態で彼らの健康状態を維持させる。1つの実施形態においては、本発明の維持療法を、障害/疾患、例えば乾癬と診断された対象または患者に対して用いて、該疾患に関連した症状の有意な軽減が認められる状態で彼らの健康状態を維持させる。
【0040】
本明細書中で互換的に用いる「誘導量」または「負荷(ローディング)量」なる語は、乾癬の寛解を誘導するために最初に使用される物質の第1用量を意味する。しばしば、負荷量は後続の維持量または治療量より大きい。誘導量は単一用量または1組の用量でありうる。1つの実施形態においては、誘導量の後で、より少量(例えば、治療量または維持量)の該物質が投与される。誘導量は療法の誘導段階または負荷段階において投与される。本発明の1つの実施形態においては、誘導量は治療量の投与量の少なくとも2倍である。
【0041】
本明細書中で用いる「治療段階」または「維持段階」なる語は、所望の治療効果(すなわち、乾癬の寛解の維持)を維持するための対象への物質の投与を含む治療の期間を意味する。
【0042】
「維持量」または「治療量」なる語は、所望の治療効果を維持または継続するために対象により摂取される物質の量である。維持量は単一用量または1組の用量でありうる。維持量は療法の治療段階または維持段階において投与される。1つの実施形態においては、維持量は誘導量より小さく、連続的に投与される場合には互いに等しいことが可能である。
【0043】
「第2因子と組合された第1因子」なる表現における「組合せ(組合された)」なる語は、例えば、医薬上許容される同じ担体中に溶解または相互混合されうる第1因子と第2因子との共投与、または第1因子の投与およびそれに続く第2因子の投与、または第2因子の投与およびそれに続く第1因子の投与を含む。したがって、本発明は、組合せ治療および組合せ医薬組成物を含む乾癬療法の効力の予測方法を含む。
【0044】
「共存的治療」なる表現における「共存」なる語は、第2因子の存在下で因子を投与することを含む。共存的治療方法は、第1、第2、第3または追加的因子が共投与される方法を含む。共存的治療方法は、第1または追加的因子が第2または追加的因子の存在下で投与される方法をも含み、ここで、第2または追加的因子は、例えば、既に投与されているものでありうる。共存的治療方法は、異なる実施者により段階的に行われうる。例えば、1人の実施者が第1因子を対象に投与することが可能であり、第2の実施者が第2因子を対象に投与することが可能であり、該投与工程は、同時に、またはほぼ同時に、または間隔を隔てて実施されることが可能であるが、第1因子(および追加的因子)は第2因子(および追加的因子)の存在下での投与の後である。該実施者および該対象は同一実体(例えば、ヒト)でありうる。
【0045】
本発明の文脈において用いる「治療」なる語は、乾癬の治療のための治療的治療および予防的または抑制的手段を含むと意図される。例えば、治療なる語は、乾癬の発症の前または後に物質を投与して、該疾患または障害の徴候を予防または除去することを含みうる。もう1つの例としては、症状および/または合併症ならびに乾癬に関連した障害を抑制するための、乾癬の臨床的発現後の物質の投与は、該疾患の「治療」を構成する。さらに、投与が該疾患または症状の臨床的パラメーターに影響を及ぼし、そして恐らくは該疾患の改善をもたらす場合、発症後ならびに臨床的症状および/または合併症が生じた後の該因子の投与は、乾癬の「治療」を構成する。1つの実施形態においては、対象における乾癬の治療は、対象における乾癬の寛解を誘導し維持することを含む。もう1つの実施形態においては、対象における乾癬の治療は、対象における乾癬の寛解を維持することを含む。
【0046】
「治療を要する」者は、既に乾癬を有する哺乳動物、例えば、ヒトを含み、該疾患または障害が予防されるべき者、および乾癬を有するが他の乾癬治療に応答しない又は他の乾癬治療に対する応答性を喪失した個体を含む。
【0047】
本明細書中で用いる「効力」なる語は、有益な結果、例えば、該疾患の1以上の症状における改善を治療がもたらす度合を意味する。例えば、乾癬治療の効力は、PASI、DLQI、PGAなどを含む(これらに限定されるものではない)、乾癬に関する標準的な治療係数を用いて予測されうる。「長期的効力」は、ある期間、例えば少なくとも約16週間、26週間、32週間、36週間、40週間、48週間、52週間またはそれ以上にわたって有益な結果を治療が維持しうることを意味する。
【0048】
「薬物動態学」なる語は、身体の種々の流体、組織および排泄物における薬物および代謝産物レベルの時間経過の研究、ならびに関連データを解釈するのに要する数学的関係の研究を意味する。
【0049】
「薬動力学」なる語は、ある期間にわたる体内の薬物の作用、例えば、吸収、分布、組織内の局在化、生体内変換および排泄の過程の研究を意味する。
【0050】
「吸収」なる語は、時間および初期濃度の関数としての、生理的バリヤーを隔てた物質の移動を意味する。該バリヤーの外側および/または内側の該化合物の量または濃度は移動速度および移動度の関数であり、ゼロから全体の範囲となりうる。
【0051】
「バイオアベイラビリティ」なる語は、サンプリング部位および/または作用部位に到達した物質の、投与量に対する割合を意味する。この値はゼロから全体の範囲となることが可能であり、時間の関数として評価されうる。
【0052】
「コンピューター読取り可能媒体」は、コンピューターを使用した、情報の一時的または永久的な保存、検索および/または操作のための媒体、限定的なものではないが例えば、光学、デジタル、磁気媒体など(例えば、コンピューターディスケット、CD−ROM、コンピューターハードドライブ)、ならびに遠隔アクセス媒体、例えばインターネットまたはイントラネットシステムを意味する。
【0053】
「入力/出力システム」は、使用者とコンピューターシステムとの間のインターフェースである。
【0054】
本発明の種々の態様が本明細書中で更に詳細に説明されている。
【0055】
II.乾癬
乾癬は、皮膚上の発赤、掻痒および厚く乾燥した銀色の鱗屑の頻繁なエピソードにより特徴づけられる皮膚炎症(刺激および発赤)として記載されている。特に、表皮増殖、皮膚の炎症応答および調節分子(例えば、リンホカインおよび炎症因子)の発現における一次的および二次的変化を伴う病変が形成される。乾癬皮膚は、基底細胞周期の増加を引き起こす、表皮細胞のターンオーバーの亢進、肥厚表皮、異常な角化、表皮内への炎症細胞浸潤ならびに表皮層内への多形核白血球およびリンパ球浸潤により形態学的に特徴づけられる。乾癬は、しばしば、爪を冒し、それは、しばしば、痘痕、爪の分離、肥厚および変色を示す。乾癬は、しばしば、他の炎症障害、例えば関節炎(慢性関節リウマチを含む)、炎症性腸疾患(IBD)およびクローン病に関連している。
【0056】
乾癬の徴候は、最も一般的には、体幹、肘、膝、頭皮、皮膚ヒダまたは指爪において見られるが、それは皮膚のあらゆる部分を冒しうる。通常、新たな皮膚細胞が下層から表面へ上昇するのに約1ヶ月かかる。乾癬においては、この過程は数日を要するに過ぎず、死んだ皮膚細胞の蓄積および厚い鱗屑の形成が生じる。乾癬の症状には、ひび割れしたり痛くなることがあり、通常、肘、膝、体幹、頭皮および手にロバト化(lovated)する、赤色の境界を伴う、皮膚の盛り上った斑、銀色鱗屑に覆われた乾燥した又は赤い皮膚斑;皮膚病変、例えば、プステル、皮膚のひび割れ、および皮膚の発赤;関節炎、例えば乾癬性関節炎に関連づけられうる関節痛またはうずきが含まれる。
【0057】
乾癬の診断は、通常、皮膚の外観に基づく。さらに、他の皮膚障害を除外するためには、皮膚生検、または皮膚斑の擦り取りおよび培養が必要かもしれない。関節痛が存在し持続的である場合に乾癬性関節炎を調べるためには、X線が使用されうる。
【0058】
本発明の1つの実施形態においては、慢性プラーク乾癬、滴状乾癬、逆型乾癬、膿疱性乾癬、尋常性天疱瘡、紅皮症性乾癬、炎症性腸疾患(IBD)に関連した乾癬および慢性関節リウマチ(RA)に関連した乾癬を含む乾癬を治療するために用いる療法の長期的効力が決定される。本発明の治療方法に含まれる乾癬の具体的な型を以下に詳細に説明する。
【0059】
a.慢性プラーク乾癬
慢性プラーク乾癬(尋常乾癬とも称される)は乾癬の最も一般的な形態である。慢性プラーク乾癬は、硬貨サイズからそれより遥かに大きなサイズまでの範囲の、皮膚の盛り上った赤斑により特徴づけられる。慢性プラーク乾癬においては、該プラークは1個または複数個であり、それらは数ミリメートルから数センチメートルまでの様々なサイズを有しうる。該プラークは、通常、赤色であり、鱗屑状表面を有し、穏やかに擦ると光を反射して、「銀色」効果をもたらす。慢性プラーク乾癬からの病変(これは、しばしば、対称である)は全身に生じるが、主として、膝、肘、腰仙領域、頭皮および爪を含む伸筋表面に生じる。時には、慢性プラーク乾癬はペニス、外陰および湾曲部に生じうるが、通常、鱗屑は存在しない。慢性プラーク乾癬を有する患者の診断は、通常、前記の臨床的特徴に基づく。特に、慢性プラーク乾癬における病変の分布、色および典型的な銀色鱗屑は慢性プラーク乾癬に特徴的なものである。
【0060】
b.滴状乾癬
滴状乾癬は、特徴的な水滴状鱗屑プラークを有する乾癬の形態を意味する。滴状乾癬の発赤は、一般に、感染、最も顕著には連鎖球菌咽喉感染の後で生じる。滴状乾癬の診断は、通常、皮膚の外観、および最近の咽喉潰瘍の病歴がしばしば存在することに基づく。
【0061】
c.逆型乾癬
逆型乾癬は、プラーク乾癬に関連した鱗屑とは異なり、赤色であり炎症状態の滑らかな通常は湿った皮膚領域を患者が有する乾癬の形態である。逆型乾癬は間擦性乾癬または屈側性乾癬とも称される。逆型乾癬は、大抵は、腋窩、鼡径、乳房下ならびに性器および臀部の周辺の他の皮膚ヒダに生じ、発症位置の結果として、摩擦および発汗は罹患部を刺激しうる。
【0062】
d.膿疱性乾癬
膿疱性乾癬は、サイズおよび位置が様々であるが手および足に生じることが多い、膿で満たされた疱疹を引き起こす乾癬の形態である。該疱疹は局在化していることもあれば、身体の大きな領域に広がっていることもある。膿疱性乾癬は敏感であり且つ痛く、発熱を引き起こしうる。
【0063】
e.他の乾癬障害
本発明のTNFα抗体で治療されうる乾癬障害の他の例には、紅皮症性乾癬、尋常性乾癬、IBDに関連した乾癬、および慢性関節リウマチを含む関節炎に関連した乾癬が含まれる。
【0064】
乾癬の臨床的重症度
乾癬の重症度は標準的な臨床的定義に従って決定されうる。例えば、乾癬疾患の重症度を評価するために、Psoriasis Area and Severity Index(乾癬面積および重症度指標)(PASI)が皮膚科医により用いられている。この指標は、4つの主要身体領域(頭部、体幹、上肢および下肢)における罹患皮膚表面積と組合された、乾癬病変の3つの典型的徴候(紅斑、浸潤および落屑)の定量的評価に基づく。その手段は、1978年におけるその開発以来、臨床研究者により世界中で用いられている(Fredriksson T,Petersson U:Severe psoriasis−oral therapy with a new retinoid.Dermatologica 1978;157:238−41)。PASIスコアは0〜72の範囲であり、より高いスコアは、より高い疾患重症度を示す。乾癬の改善は、PASI 50(ベースラインからのPASIにおける50%の改善)、PASI 75(ベースラインからのPASIにおける75%の改善)、PASI 90(ベースラインからのPASIにおける90%の改善)およびPASI 100(ベースラインからのPASIにおける100%の改善)として示される。
【0065】
乾癬活性を評価し治療に対する臨床応答を追跡するために、Physicians Global Assessment(PGA)が使用される。それは、ベースライン評価と比較した場合のプラークの全体的な性質(紅斑、鱗屑および厚さ)および度合を要約した6点制のスコアである。患者の応答は、悪、不良(0〜24%)、並(25〜49%)、良(50〜74%)、優(75〜99%)または消失(100%)として評価される(van der Kerkhof P.The psoriasis area and severity index and alternative approaches for the assessment of severity:persisting areas of confusion.Br J Dermatol 1997;137:661−662)。
【0066】
乾癬を有する対象の病態における改善の他の尺度には、臨床応答、例えばDermatology Life Quality Index(DLQI)が含まれる。DLQIの特徴には以下のものが含まれる。
【0067】
・0〜30の全スコア範囲で10項目;より高いスコアは、より高い、生活の質に対する阻害を表し、より低いスコアは、より低い、生活の質に対する阻害を表す。
【0068】
・皮膚科学的状況におけるDLQI全スコアに関する信頼性および妥当性の十分に確立された特性(Badiaら(1999)Br J Dermatol 141:698;Finlayら(1994)Clin Exp Dermatol 19:210;およびShikierら(2003) Health and Quality of Life Outcomes 1:53;Feldmanら(2004)Br J Dermatol 150:317;Finlayら(2003)Dermatology 206:307;Gordonら(2003)JAMA 290:3073;Gottliebら(2003)Arch Dermatol 139:1627;Leonardiら(2003)N Engl J Med 349:2014;およびMenterら(2004)J Drugs Dermatol 3:27を参照されたい)。
【0069】
・以下の6つの小範疇:症状および感覚;日常的活動;余暇;仕事/学業;個人的関係;ならびに治療。
【0070】
・全てのデータは、観察された値である。決められた時点の前に中断した患者はこの分析から除外された。
【0071】
DLQIスコアの範囲は、疾患の影響の範疇に対するそれらの対応に関して評価されうる。
【0072】
Short Form 36 Health Survey(SF−36)は、臨床治験および保健研究においてしばしば用いられる36項目の全身健康状態の手法である。それは以下の8つの領域からなる:身体的機能、役割の制限−身体面、精神的活力、全身健康状態の認識、身体的疼痛、社会的機能、役割の制限−感情面、および精神的健康状態。以下の2つの全体的な総括的スコアが得られうる:Physical Component Summary(身体的成分総括的)(PCS)スコアおよびMental Component Summary(精神的成分総括的)(MCS)スコア。PCSおよびMCSスコアは0〜100の範囲であり、より高いスコアはより良好な健康状態を示す。SF−36は、記述的研究および臨床的研究を含む、乾癬に関連した多種多様な研究において使用されており、良好な信頼性および妥当性を示している。ほとんどのSF−36領域に関する内部一貫性は0.70を超える。SF−36は種々の疾患における既知群間を識別し、再現性を有し、経時的臨床的変化に応答性である。
【0073】
EQ−5Dは、全身的健康状態を測定するために設計された、6項目の、選択に基づく手法である。EQ−5Dは2つの区分を有する。第1の区分は、身体的機能(運動性、セルフケア、通常の活動、疼痛/不快感、および不安/うつ)の度合を評価するための5項目からなる。それらの項目は、「問題無し」から「極めて問題」または「することができない」までの3点制の尺度で評価される。それらの5項目に関するスコアの各パターンは、その者の健康状態の健康上の有益性を示す0〜1の範囲の値を有する指標スコアに関連づけられる。具体的な関連性は国によって異なることがあり、これは項目の回答に対する、文化における相違を反映している。第2の区分はEQ−5Dに関する6項目であり、これは、「100」または「最良に想像可能な健康状態」および「0」または「最悪に想像可能な健康状態」のエンドポイントを有する視覚的アナログ尺度である。それは、「今日」彼らの健康状態がどのくらい良い又は悪いかを示すための簡便な方法を回答者に提供する。
【0074】
II.乾癬治療
乾癬を治療するための物質の長期的効力が本発明の方法により評価されうる。好ましい実施形態においては、乾癬に対する全身的治療の長期的効力が本発明の方法により予測される。1つの実施形態においては、該物質は経口投与薬、例えばメトトレキセートである。もう1つの実施形態においては、該物質は非経口的に投与される(例えば、TNFαインヒビター)。さらにもう1つの実施形態においては、組合せ治療の長期的効力が予測される。もう1つの実施形態においては、乾癬治療のための投与計画の長期的効力が予測される。もう1つの実施形態においては、乾癬の治療のための物質を含有する医薬製剤の長期的効力が予測される。他の実施形態においては、2以上の異なる乾癬治療、異なる投与計画、異なる医薬製剤などの長期的効力が比較される。
【0075】
以下に記載する因子は例示目的で記載されており、限定的なものではないと更に理解されるべきである。
【0076】
a.局所的治療
局所用コルチコステロイドは強力な抗炎症薬であり、軽度ないし中等度の乾癬を治療するために最も頻繁に処方される医薬である。それらは、免疫系を抑制することにより細胞ターンオーバーを遅くし、これは炎症を軽減し、付随的な掻痒を緩和する。局所用コルチコステロイドは、強度において、軽度から非常に強力までの範囲である。通常、顔面のような感受性領域には、そして罹患皮膚の広範な斑を治療するためには、低効力コルチコステロイド軟膏が推奨される。皮膚の小さな領域に対しては、あるいは手または足の頑固なプラークに対しては、あるいは他の治療に失敗した場合には、より強力なコルチコステロイド軟膏が使用されうる(http://www.psoriasis.org/treatment/psoriasis/steroids/potency.php)。
【0077】
ビタミンD類似体はビタミンDの合成形態であり、皮膚炎症を軽減し、皮膚細胞の再生を助ける。例えば、カルシポトリエン(Dovonex)は、軽度ないし中等度の乾癬を治療するために単独で、あるいは他の局所用薬または光線療法と組合せて使用されうる、ビタミンD類似体を含有する処方クリーム、軟膏または溶液である。
【0078】
アントラリンは、皮膚細胞におけるDNA活性を正常にし炎症を軽減すると考えられている医薬である。アントラリン(例えば、Dritho−ScalpまたはPsoriatec)は鱗屑および平滑皮膚を除去するが、それは、それが触れた実質的あらゆるもの(皮膚、衣類、調理台および寝具類)を染色する。アントラリンは紫外線と組合せて使用されることもある。
【0079】
アクネおよび日光損傷皮膚を治療するためには、局所用レチノイドが一般に使用されているが、特に乾癬の治療のためにタザロテン(Tazorac)が開発された。他のビタミンA誘導体とは異なり、それは皮膚細胞におけるDNA活性を正常化する。最も一般的な副作用は皮膚刺激である。
【0080】
カルシニューリンインヒビター(例えば、タクロリムスおよびピメクロリムス)はアトピー性皮膚炎の治療に関して承認されているに過ぎないが、それらは時には乾癬の治療にも有効であることを研究は示している。カルシニューリンインヒビターはT細胞の活性化を妨げ、そしてこれは炎症およびプラーク形成を軽減すると考えられている。
【0081】
コールタールはガスおよびコークスの製造の濃厚黒色副産物である。コールタールは、おそらく、乾癬に対する最も古い治療剤である。それは鱗屑、掻痒および炎症を軽減する。
【0082】
b.光線療法
皮膚における活性化T細胞は、太陽光または人工光におけるUV線にさらされると死亡する。これは皮膚細胞のターンオーバーを遅らせ、鱗屑および炎症を軽減する。
【0083】
人工光源からのUVB光線療法は軽度ないし中等度の乾癬症状を改善しうる。UVB光線療法は広帯域UVBとも称され、単一の斑、広範な乾癬、および局所的治療に抵抗性の乾癬を治療するために用いられうる。
【0084】
狭帯域UVB療法は、通常、皮膚が改善するまで週2〜3回投与され、ついで週ごとのみの維持を要するかもしれない。しかし、狭帯域UVB療法はより重度かつより長期間持続する熱傷を引き起こしうる。
【0085】
光化学療法、すなわち、ソラレン+紫外線A(PUVA)は、UVA光に対する曝露の前の光感受性医薬(ソラレン)の摂取を含む。UVA光はUVB光の場合より深部の皮膚へと透過し、ソラレンはUV曝露の効果に対して皮膚をより感受性にする。この、より侵襲的な治療は、一貫して皮膚を改善し、しばしば、乾癬のより重度な症例に使用される。PUVAは、定められた週数にわたる週2または3回の治療を含む。
【0086】
エキシマレーザーは、軽度ないし中等度の乾癬に使用される光線療法の一形態であり、罹患皮膚のみを治療処理する。鱗屑および炎症を抑制するために、UVB光の制御光が乾癬プラークに当てられる。該斑の周囲の健常皮膚は無損傷のままである。エキシマレーザー療法は、より強力なUVB光が使用されるため、伝統的な光線療法より少ない回数の治療ですむ。
【0087】
パルス色素レーザーは慢性局在化プラーク病変の治療に関して承認されている。パルス色素レーザーは、UVBユニットおよびエキシマレーザーとは異なる形態の光を放射し、乾癬病変の形成に寄与しそれを支持する小さな血管を破壊する。
【0088】
UV光をレチノイドのような他の治療法と組合せることは、しばしば、光線療法の有効性を改善する。組合せ療法は、しばしば、他の光線療法の選択肢が無効であった後で用いられる。コールタールと組合されたUVB治療(ゲッケルマン療法と称される)を行う医師もいる。それらの2つの療法の併用はいずれかの単独療法より有効である。なぜなら、コールタールはUVB光に対して皮膚をより感受性にするからである。もう1つの方法であるイングラム法は、数時間または一晩にわたって皮膚上に配置されるアントラリン−サリチル酸ペーストおよびコールタール浴とUVB療法とを組合せたものである。
【0089】
c.経口投薬
ビタミンAの類縁体であるレチノイドは、他の療法に応答しない重度乾癬を有する者における皮膚細胞の産生を軽減しうる薬物群である。
【0090】
メトトレキセートは、皮膚細胞の産生を低下させて、炎症を抑制し、ヒスタミン(アレルギー反応に関与する物質)の遊離を軽減することにより、乾癬を改善する。それはまた、乾癬性関節炎を有する患者によっては関節炎の進行を遅延させうる。メトトレキセートは、一般に、低用量で良く耐えられるが、長期にわたり使用される場合には、それは、重篤な肝損傷ならびに赤血球、白血球および血小板の産生の低下を含む多数の重篤な副作用を引き起こしうる。1ミリグラムの葉酸の毎日の摂取は、メトトレキセートに関連した一般的な副作用の幾つかの軽減を助けうる。
【0091】
アザチオプリンは、他の治療選択肢が失敗した場合に重篤な乾癬を治療するために使用されうる強力な抗炎症薬である。アザチオプリンの長期摂取は癌性または非癌性増殖(腫瘍)および或る血管障害の発生のリスクを増加させる。他の潜在的副作用には、悪心および嘔吐、正常より容易な創傷、ならびに疲労が含まれる。
【0092】
シクロスポリンは、免疫系を抑制することにより働き、有効性においてメトトレキセートに類似していると考えられている。他の免疫抑制薬と同様に、シクロスポリンは、感染、および癌を含む他の健康問題のリスクを増加させる。
【0093】
他の全身用薬には、アキュタン(Accutane)、ヒドレア(Hydrea)、ミコフェノール酸モフェチル、スルファサラジン、6−チオグアニンが含まれる。ヒドロキシ尿素は光線療法と共に使用されうる。
【0094】
d.TNFαインヒビター
TNFαインヒビターには、TNFα抗体、またはその抗原結合性フラグメント(キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、二重特異性抗体および一本鎖抗体を含む)が含まれる。本発明において使用されうるTNFα抗体の具体例には、インフリキシマブ(infliximab)(Remicade(登録商標),Johnson and Johnson;参照により本明細書に組み入れる米国特許第5,656,272号に記載されている)、CDP571(ヒト化モノクローナル抗TNFアルファIgG4抗体)、CDP 870(ヒト化モノクローナル抗TNFアルファ抗体フラグメント)、抗TNFdAb(Peptech)、CNTO 148(ゴリムマブ(golimumab);Medarex and Centocor,WO 02/12502を参照されたい)、およびアダリムマブ(adalimumab)(HUMIRA(登録商標) Abbott Laboratories,ヒト抗TNF mAb,US 6,090,382にD2E7として記載されている)が含まれるが、これらに限定されるものではない。本発明において使用されうる他のTNF抗体は米国特許第6,593,458号、第6,498,237号、第6,451,983号および第6,448,380号、第6,090,382号、第6,258,562号および第6,509,015号(それらのそれぞれを参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されている。
【0095】
本発明の方法において使用されるキメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体および二重特異性抗体は、当技術分野で公知の組換えDNA技術により、例えば、PCT国際出願第PCT/US86/02269号;欧州特許出願第184,187号;欧州特許出願第171,496号;欧州特許出願第173,494号;PCT国際公開第WO 86/01533号;米国特許第4,816,567号;欧州特許出願第125,023号;Betterら(1988)Science 240:1041−1043;Liuら(1987)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:3439−3443;Liuら(1987)J.Immunol.139:3521−3526;Sunら(1987)Proc.Natl.Acad.Sci USA 84:214−218;Nishimuraら(1987)Cancer Res.47:999−1005;Woodら(1985)Nature 314:446−449;Shawら(1988)J.Natl.Cancer Inst.80:1553−1559;Morrison(1985)Science 229:1202−1207;Oiら(1986)BioTechniques 4:214;米国特許第5,225,539号;Jonesら(1986)Nature 321:552−525;Verhoeyanら(1988)Science 239:1534;およびBeidlerら(1988)J.Immunol.141:4053−4060,Queenら,Proc.Natl.Acad.Sci USA 86:10029−10033(1989),US 5,530,101、US 5,585,089、US 5,693,761、US 5,693,762、Selickら,WO 90/07861、およびWinter,US 5,225,539により製造されうる。scFv遺伝子を作製するためには、VH−およびVL−コード化DNA断片を、柔軟性リンカーをコードする、例えば、アミノ酸配列(Gly−Ser)をコードする別の断片に機能的に連結して、該柔軟性リンカーによりVLおよびVH領域が連結された連続的一本鎖タンパク質として該VHおよびVL配列を発現させることが可能である(例えば、Birdら(1988)Science 242:423−426;Hustonら(1988)Proc.Natl.Acad.Sci USA 85:5879−5883;McCaffertyら,Nature(1990)348:552−554を参照されたい)。
【0096】
本発明の方法において使用される抗体または抗体部分は、免疫接着分子を含む、本明細書に記載されている、ヒト抗hTNFα抗体の誘導体化形態および修飾形態をも含むと意図される。例えば、本発明の抗体または抗体部分は、別の分子(例えば、ストレプトアビジンコア領域またはポリヒスチジンタグ)との該抗体または抗体部分の結合をもたらしうる1以上の他の分子、例えば別の抗体(例えば、二重特異性抗体またはジアボディ)、検出可能な因子、細胞毒性因子、医薬物質および/またはタンパク質もしくはペプチドに(化学結合、遺伝的融合、非共有結合などにより)機能的に連結されうる。もう1つの例においては、該抗体の定常領域は、少なくとも1つの定常領域媒介性生物学的エフェクター機能を未修飾抗体と比べて軽減するよう修飾される(例えば、Canfield,S.M.およびS.L.Morrison(1991)J.Exp.Med.173:1483−1491;ならびにLund,J.ら(1991)J.of Immunol.147:2657−2662を参照されたい)。もう1つの例においては、本発明の抗体および抗体フラグメントのペジル化(pegylation)は、例えば以下の文献に記載されている当技術分野で公知のペジル化反応のいずれかにより行われうる:Focus on Growth Factors 3:4−10(1992);EP 0 154 316;およびEP 0 401 384(それらのそれぞれの全体を参照により本明細書に組み入れることとする)。
【0097】
本発明の方法において使用されうるTNFαインヒビターの他の例には、エタネルセプト(etanercept)(Enbrel,WO 91/03553およびWO 09/406476に記載されている)、可溶性TNF受容体I型、ペジル化可溶性TNF受容体I型(PEGs TNF−R1)、p55TNFR1gG(Lenercept)および組換えTNF結合性タンパク質(r−TBP−I)(Serono)が含まれる。
【0098】
e.組合せ療法
本発明の方法を単独で又は追加的な治療用因子と組合せて用いることにより、乾癬治療の長期的効力が予測されうる。ある実施形態においては、該追加的因子は、乾癬を治療するのに有用であると当技術分野で認識されている治療用因子でありうる。他の実施形態においては、該追加的因子はまた、有益な属性を治療用組成物に付与する因子(例えば、該組成物の粘度に影響を及ぼす因子)でありうる。
【0099】
本発明に含まれるべき組合せは、それらの意図される目的に有用な組合せである、と更に理解されるべきである。以下に記載する因子は例示目的で記載されており、限定的なものではない。本発明の部分である組合せは、乾癬を治療するための物質と、以下に挙げられているものから選ばれる少なくとも1つの追加的因子とでありうる。形成される組成物がその意図される機能を発揮しうるような組合せとなる場合には、該組合せは、2以上の追加的因子、例えば2つまたは3つの追加的因子をも含みうる。
【0100】
例えば、ある実施形態においては、本明細書に記載されている乾癬治療は、追加的な治療因子、例えば、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)または非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)またはステロイドまたはそれらのいずれかの組合せと組合せて用いられうる。DMARDの好ましい具体例としては、ヒドロキシクロロキン(hydroxychloroquine)、レフルノミド(leflunomide)、メトトレキセート(methotrexate)、非経口金、経口金およびスルファサラジン(sulfasalazine)が挙げられる。NSAIDとも称される非ステロイド性抗炎症薬の好ましい具体例には、イブプロフェンのような薬物が含まれる。他の好ましい組合せは、プレドニゾロンを含むコルチコステロイドである。ステロイド使用のよく知られた副作用は、他の乾癬治療と組合せて患者を治療する場合に必要なステロイド用量を漸減させることにより軽減または更には排除されうる。
【0101】
治療用因子と組合せて使用される好ましい因子は自己免疫および後続の炎症カスケードにおける種々の点を妨げうる。好ましい具体例には、TNFアンタゴニスト、例えば可溶性p55またはp75 TNF受容体、それらの誘導体(p75TNFR1gG(Enbrel(商標))またはp55TNFR1gG(Lenercept))、キメラ、ヒト化もしくはヒトTNF抗体またはそれらのフラグメント、例えば、インフリキシマブ(infliximab)(Remicade(登録商標),Johnson and Johnson;参照により本明細書に組み入れる米国特許第5,656,272号に記載されている)、PSORIASIS P571(ヒト化モノクローナル抗TNFアルファIgG4抗体)、PSORIASIS P870(ヒト化モノクローナル抗TNFアルファ抗体フラグメント)、抗TNF−dAb(Peptech)、CNTO 148(ゴリムマブ(golimumab);Medarex and Centocor,WO 02/12502を参照されたい)、およびアダリムマブ(adalimumab)(HUMIRA(登録商標)Abbott Laboratories、ヒト抗TNF mAb、US 6,090,382にD2E7として記載されている)。本発明において使用されうる他のTNF抗体は米国特許第6,593,458号、第6,498,237号、第6,451,983号および第6,448,380号(それらのそれぞれを参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されている。TNFα変換酵素(TACE)インヒビター、IL−1インヒビター(インターロイキン1変換酵素インヒビター、IL−1RAなど)を含む他の組合せが同じ理由で有効でありうる。他の好ましい組合せには、インターロイキン11が含まれる。さらにもう1つの好ましい組合せは、TNFαインヒビター機能と並行して又はそれに依存的に又はそれと協同的に作用しうる免疫応答の他の鍵作用因子である。特に好ましいのは、IL18アンタゴニスト、例えば、IL−18抗体または可溶性IL−18受容体またはIL−18結合性タンパク質である。さらにもう1つの好ましい組合せは非枯渇性抗PSORIASIS4インヒビターである。さらに他の好ましい組合せには、共刺激性経路のアンタゴニストCD80(B7.1)またはCD86(B7.2)(抗体、可溶性受容体またはアンタゴニストリガンドを含む)が含まれる。
【0102】
ある実施形態においては、本発明の方法により評価されうる乾癬の治療のために組合せて使用されうる因子には、例えば以下に記載されているようなTNFαインヒビターの1以上が含まれる:メトトレキセート(methotrexate)、6−MP、アザチオプリンスルファサラジン(azathioprine sulphasalazine)、メサラジン(mesalazine)、オルサラジンクロロキニン(olsalazine chloroquinine)/ヒドロキシクロロキン(hydroxychloroquine)、ペニシラミン(pencillamine)、オーロチオマレート(aurothiomalate)(筋肉内および経口)、アザチオプリン(azathioprine)、コキシン(cochicine)、コルチコステロイド(経口、吸入および局所注射)、ベータ−2アドレノ受容体アゴニスト(サルブタモール(salbutamol)、テルブタリン(terbutaline)、サルメテラール(salmeteral))、キサンチン(テオフィリン(theophylline)、アミノフィリン(aminophylline))、クロモグリケート(cromoglycate)、ネドクロミル(nedocromil)、ケトチフェン(ketotifen)、イプラトロピウム(ipratropium)およびオキシトロピウム(oxitropium)、シクロスポリン(cyclosporin)、FK506、ラパマイシン(rapamycin)、ミコフェノール酸モフェチル(mycophenolate mofetil)、レフルノミド(leflunomide)、NSAID、例えばイブプロフェン(ibuprofen)、コルチコステロイド、例えばプレドニゾロン(prednisolone)、ホスホジエステラーゼインヒビター、アデンソシンアゴニスト、抗血栓症物質、補体インヒビター、アドレナリン作動性物質、TNFαまたはIL−1のような炎症性サイトカインによるシグナリングを妨げる因子(例えば、IRAK、NIK、IKK、p38またはMAPキナーゼインヒビター)、IL−1β変換酵素インヒビター、TNFα変換酵素(TACE)インヒビター、T細胞シグナリングインヒビター、例えばキナーゼインヒビター、メタロプロテイナーゼインヒビター、スルファサラジン(sulfasalazine)、6−メルカプトプリン、アンジオテンシン変換酵素インヒビター、可溶性サイトカイン受容体およびそれらの誘導体(例えば、可溶性p55またはp75 TNF受容体および誘導体p75TNFRIgG(Enbrel(商標)およびp55TNFRIgG(Lenercept))、sIL−1RI、sIL−1RII、sIL−6R)、抗炎症性サイトカイン(例えば、IL−4、IL−10、IL−11、IL−13およびTGFβ)、セレコキシブ(celecoxib)、葉酸、硫酸ヒドロキシクロロキン、ロフェコキシブ(rofecoxib)、エタネルセプト(etanercept)、インフリキシマブ(infliximab)、ナプロキセン(naproxen)、バルデコキシブ(valdecoxib)、スルファサラジン(sulfasalazine)、メチルプレドニゾロン(methylprednisolone)、メロキシカム(meloxicam)、酢酸メチルプレドニゾロン、金チオリンゴ酸ナトリウム、アスピリン、トリアムシノロンアセトニド(triamcinolone acetonide)、ナプシル酸プロポキシフェンナ(propoxyphene napsylate)/apap、ホラート(folate)、ナブメトン(nabumetone)、ジクロフェナック(diclofenac)、ピロキシカム(piroxicam)、エトドラック(etodolac)、ジクロフェナックナトリウム(diclofenac sodium)、オキサプロジン(oxaprozin)、オキシコドン(oxycodone)hcl、重酒石酸ヒドロコドン/apap、ジクロフェナックナトリウム(diclofenac sodium)/ミソプロストール(misoprostol)、フェンタニル(fentanyl)、アナキンラ(anakinra)、ヒト組換え体、トラマドール(tramadol)hcl、サルサラート(salsalate)、スリンダック(sulindac)、シアノコバラミン(cyanocobalamin)/fa/ピリドキシン(pyridoxine)、アセトアミノフェン(acetaminophen)、アレンドロン酸ナトリウム(alendronate sodium)、プレドニゾロン(prednisolone)、硫酸モルヒネ(morphine sulfate)、塩酸リドカイン(lidocaine hydrochloride)、インドメタシン(indomethacin)、グルコサミン(glucosamine)sulf/コンドロイチン(chondroitin)、アミトリプチリン(amitriptyline)hcl、スルファジアジン(sulfadiazine)、オキシコドン(oxycodone)hcl/アセトアミノフェン(acetaminophen)、オロパタジン(olopatadine)chl、ミソプロストール(misoprostol)、ナプロキセンナトリウム(naproxen sodium)、オメプラゾール(omeprazole)、シクロホスファミド(cyclophosphamide)、リツキシマブ(rituximab)、IL−1 TRAP、MRA、CTLA4−IG、IL−18BP、抗IL−18、抗−IL15、BIRB−796、SCIO−469、VX−702、AMG−548、VX−740、ロフルミラスト(Roflumilast)、IC−485、CDC−801およびメソプラム(Mesopram)。
【0103】
他の実施形態においては、単独で又は1以上の治療用因子と組合せて本発明の方法により評価されうる乾癬に対する治療用因子の具体例には以下のものが含まれる:KDRの小分子インヒビター(ABT−123)、Tie−2の小分子インヒビター、カルシポトリエン(calcipotriene)、プロピオン酸クロベタゾール(clobetasol propionate)、トリアムシノロンアセトニド(triamcinolone acetonide)、プロピオン酸ハロベタゾール(halobetasol propionate)、タザロテン(tazarotene)、メトトレキセート(methotrexate)、フルオシノニド(fluocinonide)、強化dipropベタメタゾン(betamethasone)、フルオシノロンアセトニド(fluocinolone acetonide)、アシトレチン(acitretin)、タールシャンプー、吉草酸ベタメタゾン(betamethasone valerate)、フロ酸モメタゾン(mometasone furoate)、ケトコナゾール(ketoconazole)、プラモキシン(pramoxine)/フルオシノロン(fluocinolone)、吉草酸ヒドロコルチゾン、フルランドレノリド(flurandrenolide)、尿素、ベタメタゾン(betamethasone)、プロピオン酸クロベタゾール(clobetasol propionate)/emoll、プロピオン酸フルチカゾン(fluticasone propionate)、アジトロマイシン(azithromycin)、ヒドロコルチゾン、保湿剤、葉酸、デソニド(desonide)、ピメクロリムス(pimecrolimus)、コールタール、二酢酸ジフロラゾン(diflorasone diacetate)、葉酸エタネルセプト(etanercept folate)、乳酸、メトクサレン(methoxsalen)、hc/ビスマス(bismuth)subgal/znox/resor、酢酸メチルプレドニゾロン(methylprednisolone acetate)、プレドニゾン(prednisone)、日焼け止め、ハルシノニド(halcinonide)、サリチル酸、アントラリン(anthralin)、ピバル酸クロコルトロン(clocortolone pivalate)、石炭抽出物、コールタール/サリチル酸、コールタール/サリチル酸/硫黄、デキサメタゾン(desoximetasone)、ジアゼパム(diazepam)、柔軟剤、フルオシノニド(fluocinonide)/柔軟剤、鉱油/ひまし油/na lact、鉱油/ラッカセイ油、石油/ミリスチン酸イソプロピル、ソラレン、サリチル酸、石鹸/トリブロムサラン(tribromsalan)、チメロサール/ホウ酸、セレコキシブ(celecoxib)、インフリキシマブ(infliximab)、シクロスポリン、アレファセプト(alefacept)、エファリズマブ(efalizumab)、タクロリムス(tacrolimus)、ピメクロリムス(pimecrolimus)、PUVA、UVBおよびスルファサラジン(sulfasalazine)。
【0104】
さらにもう1つの実施形態においては、本発明の方法は、抗生物質または抗感染物質と組合された乾癬治療の長期的効力を決定または予測するために使用されうる。抗感染物質には、ウイルス感染、真菌感染、寄生生物感染または細菌感染を治療するための当技術分野で公知の物質が含まれる。本明細書中で用いる「抗生物質」なる語は、微生物の増殖を抑制する又は微生物を殺す化学物質を意味する。この用語には、当技術分野で公知の合成抗生物質(例えば、類似体)および微生物により産生された抗生物質が含まれる。抗生物質には、限定的なものではないが、クラリスロマイシン(Biaxin(登録商標))、シプロフロキサシン(Cipro(登録商標))およびメトロニダゾール(Flagyl(登録商標))が含まれる。
【0105】
本発明の方法は、乾癬の治療に対して相加的または相乗的な治療効果を有する因子の組合せの長期的効力を予測するためにも使用されうる。本明細書に記載されている方法または医薬組成物において使用される物質の組合せはまた、単独で投与された場合または個々の医薬組成物のそのような他の因子を伴わずに投与された場合の該因子の少なくとも1つに関連した有害な効果を軽減しうる。例えば、1つの因子の副作用の毒性は該組成物の別の因子により弱められて、より大量の投与が可能となり、患者のコンプライアンスが改善され、治療結果が改善される。該組成物の相加的または相乗的な効果、利益および利点は治療用因子のクラス(構造的または機能的クラス)または個々の化合物自体に当てはまる。
【0106】
医薬組成物
乾癬を治療するための1以上の物質と医薬上許容される担体とを含む医薬組成物の長期的効力が本発明の方法により予測されうる。本明細書中で用いる「医薬上許容される担体」には、生理的に許容されるあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗細菌および抗真菌剤、等張性および吸収遅延因子などが含まれる。医薬上許容される担体の具体例には、水、食塩水(塩類液)、リン酸緩衝食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、およびそれらの組合せが含まれる。多くの場合、等張剤、例えば糖、多価アルコール、例えばマンニトール、ソルビトールまたは塩化ナトリウムを該組成物中に配合することが好ましい。医薬上許容される担体は更に、乾癬を治療するための物質の貯蔵寿命または有効性を増強する少量の補助物質、例えば湿潤または乳化剤、保存剤またはバッファーを含みうる。
【0107】
本発明の方法により予測される組成物の効力は種々の形態でありうる。これらには、例えば液体、半固体および固体剤形、例えば液体溶液(例えば、注射可能溶液および注入可能溶液)、分散液または懸濁液、錠剤、丸剤、散剤、リポソームおよび坐剤が含まれる。好ましい形態は、意図される投与方法および治療用途に左右される。
【0108】
治療用組成物は、典型的には、製造および貯蔵の条件下で無菌かつ安定でなければならない。該組成物は、溶液、マイクロエマルション、分散液、リポソーム、または高い薬物濃度に適した他の一定の構造として製剤化されうる。無菌注射溶液は、前記の成分の1つ又は組合せと共に必要量の該活性化合物を適切な溶媒中に含有させ、ついで必要に応じて滅菌濾過することにより製造されうる。一般に、分散液は、基礎分散媒と前記の他の必要成分とを含有する無菌ビヒクル中に活性化合物を含有させることにより製造される。無菌注射溶液の製造のための無菌散剤の場合、好ましい製造方法は、予め滅菌濾過されたその溶液から有効成分+いずれかの追加的な所望の成分の粉末を与える真空乾燥および凍結乾燥である。溶液の適切な流動性は、例えば、レシチンのようなコーティングの使用により、分散液の場合には必要粒径の維持により、および界面活性剤の使用により維持されうる。注射可能な組成物の持続的吸収は、吸収を遅延させる物質、例えばモノステアリン酸塩およびゼラチンを該組成物中に配合することによりもたらされうる。
【0109】
当業者により理解されるとおり、投与の経路および/または方法は所望の結果に応じて様々なものとなる。ある実施形態においては、該活性化合物は、該化合物を急速な放出に対して保護する担体を使用して製剤化されうる(例えばコントロールリリース製剤、例えばインプラント、経皮パッチおよびマイクロカプセル化運搬系)。生分解性生体適合性重合体、例えば、エチレンビニルアセタート、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステルおよびポリ乳酸が使用されうる。そのような製剤の多数の製造方法が特許されており、または当業者に一般的に公知である。例えば、Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems,Robinson編,Dekker,Inc.,New York,1978を参照されたい。
【0110】
ある実施形態においては、乾癬を治療するための物質は、例えば、不活性希釈剤または同化可能な可食性担体と共に経口投与されうる。また、該化合物(および所望により他の成分)は硬または軟殻ゼラチンカプセル内に封入され、錠剤へと圧縮され、または対象の食事に直接加えられうる。経口治療投与には、該化合物は賦形剤と共に配合され、摂取可能な錠剤、頬側錠剤、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、ウエファーなどの形態で使用されうる。非経口投与以外で化合物を投与するためには、該化合物を、その不活性化を妨げる物質でコーティングし、または該物質と共に共投与することが必要かもしれない。
【0111】
ある実施形態においては、投与方法は非経口的(例えば、静脈内、皮下、腹腔内、筋肉内)である。1つの実施形態においては、乾癬治療用因子は、静脈内注入または注射により投与される抗体または他のTNFαインヒビターである。もう1つの実施形態においては、該抗体または他のTNFαインヒビターは筋肉内または皮下注射により投与される。1つの実施形態においては、本発明において使用されるTNFα抗体およびインヒビターは対象に皮下運搬される。1つの実施形態においては、該対象がTNFαインヒビター、例えばTNFα抗体またはその抗原結合性部分(これらに限定されるものではない)を彼/彼女自身に投与する。もう1つの実施形態においては、該組成物は、注射可能または注入可能な溶液の形態、例えば、他の乾癬治療因子でのヒトの受動免疫に使用される組成物の形態である。
【0112】
本発明の方法を用いて評価されうる乾癬を治療するための製剤には、コート化粒子を形成するよう重合性担体内に封入されたタンパク質結晶の組合せを含むタンパク質結晶製剤が含まれる。該タンパク質結晶製剤のコート化粒子は球状形態を有し、直径500マイクロメートルまでのミクロスフェアであることが可能であり、あるいはそれらは何らかの他の形態的特徴を有し、微粒子であることが可能である。タンパク質結晶の濃度の増加は、本発明の抗体が皮下運搬されることを可能にする。1つの実施形態においては、該物質はタンパク質運搬系により運搬され、この場合、タンパク質結晶製剤または組成物の1以上が乾癬患者に投与される。全抗体結晶または抗体フラグメント結晶の安定化製剤の製造のための組成物および方法はWO 02/072636(これを参照により本明細書に組み入れることとする)にも記載されている。1つの実施形態においては、PCT/IB03/04502および米国出願番号20040033228(これらを参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されている結晶化抗体フラグメントを含む製剤が、本発明の治療方法を用いて慢性関節リウマチを治療するために使用される。
【0113】
補助的活性化合物も該組成物中に配合されうる。ある実施形態においては、本発明の方法において使用される乾癬治療用物質は1以上の追加的な治療用因子と共に共配合および/または共投与される。そのような組合せ療法は、有利には、投与される治療用因子の、より低い投与量を用いることが可能であり、したがって、考えられうる副作用、合併症、または種々の単独療法に関連した患者による低レベルの応答が回避されうる。
【0114】
本発明の医薬組成物は、乾癬を治療するための物質の「治療的有効量」または「予防的有効量」を含みうる。「治療的有効量」は、所望の治療結果を達成するための、必要な投与における及び期間にわたる有効な量を意味する。該物質の治療的有効量は、個体の病態、年齢、性別および体重ならびに個体において所望の応答を惹起する物質のような要因によって変動しうる。また、治療的有効量は、治療上の有益な効果が該物質のいずれかの毒性または有害効果を凌ぐような量である。「予防的有効量」は、所望の予防結果を達成するための、必要な投与における及び期間にわたる有効な量である。典型的には、予防用量は疾患の前または疾患の早期段階において対象において使用されるため、予防的有効量は治療的有効量より少量であろう。
【0115】
投与計画
本発明の方法により投与計画の長期的効力も予測されうる。1つの実施形態においては、投与計画の長期的効力は、中等度ないし重度の乾癬を有する対象の集団において予測される。1つの実施形態においては、本発明は、療法に対して亜治療(subtherapeutic)応答を示す患者、療法に応答しない患者または療法に対する応答性を喪失した患者の集団における投与計画の長期的効力の予測方法を提供する。
【0116】
例えば、本発明の方法は、乾癬治療の長期的効力を予測するために使用されることが可能であり、ここで、1以上の有効成分を含有する医薬組成物が毎日、隔日、週3回、毎週、隔週または毎月投与される。1つの実施形態においては、隔週投与は、第1週から隔週で、乾癬治療用因子の用量が対象に投与される投与計画を含む。1つの実施形態においては、隔週投与は、与えられた期間、例えば4週間、8週間、16週間、24週間、26週間、32週間、36週間、42週間、48週間、52週間、56週間などにわたり連続的に隔週で、乾癬治療用因子の用量が対象に投与される投与計画を含む。
【0117】
1つの実施形態においては、乾癬の治療は、複数可変用量治療方法を用いて達成される。1つの実施形態においては、複数可変用量投与計画は、乾癬治療因子の用量を経時的に次第に増加させ又は段階的に増大させることを含む。1つの実施形態においては、複数用量投与計画は、乾癬治療因子の初期負荷用量を第0週に対象に投与することを含む。1つの実施形態においては、初期用量の全体が第1日に投与され、あるいは2日間にわたって分割投与される。該初期負荷用量の投与の後、乾癬治療因子の第2用量、すなわち、維持または治療用量が対象に投与されうる。1つの実施形態においては、第1用量の投与の約1週間後に第2用量が対象に投与される。対象の治療を達成するために、第2用量の投与の後で後続用量が投与されうる。そのような複数可変用量投与計画は本明細書中の実施例およびPCT出願番号PCT/US05/12007(参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されている。
【0118】
本明細書中で用いる単位投与形は、治療すべき哺乳類対象に対する単位投与として適した物理的に分離した単位を意味し、各単位は、必要な医薬担体と共に、所望の治療効果をもたらすよう計算された活性化合物の所定量を含有する。本発明の単位投与形の仕様は、(a)活性化合物の特有の特性および達成すべき個々の治療または予防効果、ならびに(b)個体における敏感性の治療のためのそのような活性化合物の調剤技術に固有の制限によって決まり、直接的に左右される。
【0119】
本発明の方法は更に、本明細書中の教示を考慮して、本明細書に記載されている投与計画の効力を予測して、最適な所望の応答(例えば、乾癬の寛解の維持)が得られるよう該計画を調節するために使用されうる。投与量値は乾癬の型および重症度によって変動しうることに注目されるべきである。さらに、いずれかの特定の対象に関して、本明細書の教示および個々の必要性、および該組成物の投与を実施または監督する者の専門的判断に従い、具体的な投与計画は経時的に調節可能であり、本明細書に記載されている投与の量および範囲は専ら典型的なものであり、特許請求されている本発明の範囲または実施を限定するものではないと理解されるべきである。
【0120】
IV.長期的効力の予測
本発明は、集団(母集団)薬物動態学的(PK)および薬動力学的(PD)モデリングを用いて乾癬治療の長期的効力を決定または予測するための方法を提供する。該方法は、因子または因子の組合せの最も適切な用量および/または投与間隔、ならびに特定の集団(高齢者、小児、他の因子に対して亜治療応答を示す患者)に対する用量を調節するかどうか及びどのようにして調節するのかを予測するために使用されうる。また、本発明の方法は、臨床治験設計(臨床治験シミュレーション)または臨床実施を評価するために、種々の臨床用途(例えば、異なる集団の治療、用量を調節し患者の応答を評価するための異なるアルゴリズム)をシミュレーションするために使用されうる。
【0121】
乾癬の治療の長期的効力を予測するために、本発明の方法は、1つの実施形態においては、乾癬を治療するために使用される因子または因子の組合せの薬物動態学的プロファイルを示す薬物動態学的モデルを含む。1つの実施形態においては、本発明の方法は1−コンパートメント薬物動態学的モデルの使用を含む。もう1つの実施形態においては、本発明の方法は、用量貯蔵コンパートメントからの一次吸収を伴う1−コンパートメントモデルの使用を含む。もう1つの実施形態においては、本発明の方法は、用量貯蔵コンパートメントからの一次吸収および中央コンパートメントからの一次消失を伴う1−コンパートメントモデルを使用することを含む。もう1つの実施形態においては、本発明の方法は、分布の見掛け容積(V/F)により中央コンパートメント内の薬物の量を評価することを含む。
【0122】
もう1つの実施形態においては、乾癬治療の長期的効力を予測するための本発明の方法は、薬動力学モデルの使用、および乾癬の1以上の指標(例えば、PASI、PGA、DLQI、状態)の計算を含む。好ましい実施形態においては、該薬動力学的モデルは、PASIスコアを計算するために使用される。1つの実施形態においては、本発明の方法において使用される薬動力学的モデルは間接的応答である。1つの実施形態においては、該薬動力学的モデルは、Emax濃度−応答関係を伴う2段階間接応答モデルである。好ましい実施形態においては、該薬動力学的モデルは、直線的な濃度−応答関係を伴う2段階間接モデルである。もう1つの実施形態においては、本発明の方法において使用される薬動力学的モデルは残留誤差モデルを含む。1つの実施形態においては、加重因子としての加法的および比例的誤差が用いられる。もう1つの実施形態においては、本発明の方法において使用される薬動力学的モデルは指数関数的個体間誤差項(例えば、KinおよびK40)を含む。
【0123】
因子または因子の組合せに関する薬物動態学的モデルは、1以上の「コンパートメント」からの及びそれらへの薬物の物質移動を示す一連の線形微分方程式よりなる薬物動態学的データ解析の標準的なモデルに従い作成されうる。薬物動態学的モデルにおけるコンパートメントは、薬物を含有する仮想容積であり、時間の関数としての該コンパートメント内の薬物の微分方程式は量(質量)を示す。これらの方程式において使用される因子または因子の組合せに関する薬物動態学的パラメーター(例えば、吸収速度定数、見掛けクリアランス、見掛け分布容積)は多数の標準的な技術に従い新たに決定されることが可能であり、あるいは利用可能な公的な又は既存の入手元から得られうる。例えば、代表的組織(通常は血液または血漿)のサンプルを集め、そのサンプルを該薬物に関してアッセイすることにより、特定の時点における濃度が実験的に決定されうる。
【0124】
ついで、モデルを用いて、薬物の量を該コンパートメントの分布容積で割り算することによりコンパートメント内の濃度を予測する。該コンパートメントの分布容積は、非線形回帰を用いて、モデルを実測データに当てはめることにより推定されるパラメーターである。これらのモデルにおいて使用されるコンパートメントはいずれかの生理的組織に対応すること又は対応しないことが可能である。「中央コンパートメント」は、サンプルが集められる容積を示す。この中央コンパートメントは血液容積に対応することが可能であり、あるいはより大きくて、迅速に血液で平衡化する(すなわち、物質移動速度定数が大きい)血液および組織に対応することが可能である。該中央コンパートメントおよびいずれかの末梢コンパートメントは、いずれかの生理的特性によってではなく、薬物の濃度の時間経過を示す式により定められる。
【0125】
薬動力学は、後続の一連の事象を経て薬理学的応答を与える、薬物と身体構成成分との間の基本的または分子的相互作用の研究を意味する。ほとんどの薬物では、薬理学的効果の大きさは作用部位における薬物の時間依存的濃度に左右される。薬動力学的モデリングは、薬物動態学的モデリングに類似した様態でアプローチされる。与えられた1組の実測データを示すモデルが作成される。これらの実測データは、PASI、PGA、DLQI、または薬物の投与により影響される他の量のような測定値を含むであろう。1つの実施形態においては、該薬物の生理学の現在の理解に合致したモデルが求められる。
【0126】
薬物動態学的および薬動力学的モデルの決定方法は現在のソフトウェア(例えば、NONMEM、WinNonMix)において挙げられている。NONMEMは、例えば、薬物動態学的モデルの12個のライブラリーを有する。これらは1コンパートメント、一次吸収を伴う1コンパートメント、2コンパートメント、一次吸収を伴う2コンパートメント、3コンパートメント、一次吸収を伴う3コンパートメント、一般的線形モデル(1〜10コンパートメント)および一般的非線形(1〜10コンパートメント)、ならびにミカエリス−メンテン動力学を含む。ソフトウェアの他の具体例には、WinNonMix(Pharsight Corporation)、Kinetica 2000 Population(Innaphase Corporation)、およびNLMIXEDと称されるSAS(SAS Institute)における手法が含まれる。薬物に関する薬物動態学的モデルを作成するための種々の方法が米国特許第7,085,690号、第6,542,858号および第7,043,415号が含まれる。
【0127】
本発明の方法において使用されうる患者集団は、一般に、共通の特性に基づいて選ばれる。1つの実施形態においては、患者集団は、少なくとも或る期間(例えば、1ヶ月、2ヶ月またはそれ以上)にわたってこれまでに治療を受けていない、中等度ないし重度の乾癬を有する対象を含有する。1つの実施形態においては、患者集団は、治療を受けている、中等度ないし重度の乾癬と診断された対象を含有する。もう1つの実施形態においては、患者集団は、治療を受けたことにより寛解状態にある、乾癬と診断された対象を含有する。そのような患者集団は、与えられた患者集団における乾癬の寛解を維持するための乾癬治療の長期的効力を予測するのに適しているであろう。もう1つの実施形態においては、患者集団は共通の身体的特徴(例えば、年齢、性別、民族性、体重)を有する。関連実施形態においては、患者集団は成人集団、例えば、17歳を超える、または18歳を超える成人集団である。もう1つの実施形態においては、患者集団は、療法に対して亜治療応答を示した対象、療法に応答しなかった対象、または療法に対する応答性を喪失した対象を含む。
【0128】
本発明の他の態様は、本発明の方法を行うのに有用なコンピュータープログラム製品およびデータベースの構築方法に関する。該データベースの構築方法は、コンピューターシステムにおいて、乾癬を有する複数の対象からの1以上の乾癬治療に関する薬物動態学的および薬動力学データを受け取り、各対象からのデータを記憶することを含み、該データは該対象の識別子(例えば、該対象の氏名、身体的特徴、または該対象が誰であるかに関してコード化された数的識別子)に関連づけられている。
【0129】
本発明の他の態様は、該方法を行うのに有用なデータベースおよびコンピュータープログラム製品を使用して、対象に対する乾癬治療および/または投与計画を選択する方法に関する。乾癬治療および/または投与計画を選択する方法は、類似した身体的特徴または病歴を有する複数の乾癬対象を含むデータベースにおいて、類似した身体的特徴および/または病歴を有する対象の治療において有効であると予測または確認された治療計画を特定することを含みうる。
【0130】
したがって、当業者に理解されるとおり、本発明は、方法、コンピューターシステムおよび/またはコンピュータープログラム製品として具体化されうる。したがって、本発明は、ハードウェア実施形態、ハードウェア上で実行されるソフトウェア実施形態、またはそれらの組合せの形態をとりうる。また、本発明は、コンピューターで使用可能な記憶媒体(これは、該媒体において具現化される、コンピューターで使用可能なコード化プログラムを有する)上のコンピュータープログラム製品として具体化されうる。ディスク、CD−ROM、光学式記憶装置、磁気記憶装置などを含む任意の適切なコンピューター読取り可能媒体が使用されうる。
【0131】
例えば、本明細書に開示されている実施形態に関して記載されている方法またはアルゴリズムは、直接的にハードウェアにおいて、またはプロセッサにより実行可能なソフトウェアモジュールにおいて、またはそれらの両方において、制御論理、プログラミング命令または他の命令の形態で具現化され、単一の装置内に含有され、または複数の装置にわたって分散される。ソフトウェアモジュールはRAMメモリー、フラッシュメモリー、ROMメモリー、EPROMメモリー、EEPROMメモリー、レジスター、ハードディスク、リムーバブルディスク、CD−ROM、ダイレクトアクセス記憶装置(DASD)、または当技術分野で公知のいずれかの他の形態の記憶媒体内に存在しうる。記憶媒体はプロセッサに結合されていて、該プロセッサが該記憶媒体から情報を読取り、該記憶媒体に情報を書き込みうるようになっている。あるいは、該記憶媒体は該プロセッサに不可失でありうる。
【0132】
本発明の操作を実施するためのコンピュータープログラムコードはVisual Basic(Microsoft Corporation,Redmond Wash.)などにより記述されうる。しかし、本発明の実施形態は特定のプログラミング言語の使用に依存しない。該プログラムコードは1以上のサーバーまたはコンピューター上で実行されうる。
【0133】
本発明のコンピューターシステムは、適切には、プロセッサ、メインメモリー、メモリーコントローラー、補助記憶インターフェースおよびターミナルインターフェースを含み、これらは全て、システムバスを介して相互接続される。本発明の範囲内で、該コンピューターシステムには種々の変更、追加または削除(例えば、キャッシュメモリーまたは他の周辺装置の追加)が施されることに注目されたい。
【0134】
該プロセッサは該コンピューターシステムの計算および制御機能を実行し、適切な中央演算装置(CPU)を含む。該プロセッサは、単一の集積回路、例えばマイクロプロセッサを含むことが可能であり、あるいはプロセッサの機能を達成するために協同的に働くいずれかの適切な数の集積回路装置および/または回路基盤を含むことが可能である。該プロセッサは、適切には、そのメインメモリー内で、本発明のPK/PDモデリングコンピュータープログラムを実行する。
【0135】
該補助記憶インターフェースは、該コンピューターシステムが補助記憶装置、例えば磁気ディスク(例えば、ハードディスクまたはフロッピー(登録商標)ディスケット)または光学式記憶装置(例えば、CD−ROM)から情報を記憶し引き出すことを可能にする。1つの適切な記憶装置はダイレクトアクセス記憶装置(DASD)である。DASDは、フロッピーディスクからプログラムおよびデータを読み取るフロッピーディスクドライブでありうる。本発明は、完全に機能的なコンピューターシステムに関して記載されている(記載され続ける)が、本発明のメカニズムは種々の形態のプログラム製品として頒布されうること、および本発明はシグナル保持媒体の個々のタイプに無関係に同等に適用されることを、当業者は認識していることに注目することが重要である。シグナル保持媒体の具体例には、記録可能なタイプの媒体、例えばフロッピーディスクおよびCD ROMS、ならびに伝送タイプの媒体、例えばデジタルおよびアナログ通信リンク、例えば無線通信リンクが含まれる。
【0136】
本発明のコンピューターシステムは、別々のプロセッサの使用により、要求された情報をメインメモリーから及び/又は補助記憶インターフェースを経由してメインプロセッサへ移動させるメモリーコントローラーをも含みうる。説明の目的のために、該メモリーコントローラーは別々の実体として記載されているが、実際には、該メモリーコントローラーによりもたらされる機能の一部は、該メインプロセッサ、メインメモリーおよび/または補助記憶インターフェースに関連した回路内に実際に存在しうる、と当業者は理解する。
【0137】
さらに、本発明のコンピューターシステムは、通常はプログラム可能ワークステーションを介して、システム管理者およびコンピュータープログラマーが該コンピューターシステムと通信することを可能にするターミナルインターフェースを含みうる。本発明は、複数のプロセッサおよび複数のシステムバスを有するコンピューターシステムに同等に適用されると理解されるべきである。同様に、好ましい実施形態のシステムバスは典型的なハードウェア組込み分岐バスであるが、コンピューター関連環境における二方向通信を補助する任意の接続手段が使用されうるであろう。
【0138】
本発明のコンピューターシステムのメインメモリーは、適切には、乾癬治療投与のPK/PDモデリングに関連した1以上のコンピュータープログラムおよびオペレーティングシステムを含有する。メモリー内のコンピュータープログラムは、その最も広い意味で用いられ、ソースコード、中間コード、機械コード、およびコンピュータープログラムのいずれかの他の表現を含むあらゆる形態のコンピュータープログラムを含む。本明細書中で用いる「メモリー」なる語は、該システムのバーチャルメモリ空間内のいずれかの記憶場所を意味する。他のファイルも磁気式または光学式ディスク記憶装置上に記憶されうるが、コンピュータープログラムおよびオペレーティングシステムの部分は、メインプロセッサが実行されるためには命令キャッシュ内にローディングされうると理解されるべきである。また、該メインメモリーは、異なるメモリー位置を含みうると理解されるべきである。
【0139】
本発明は、方法の流れ図、およびコンピュータープログラム命令により実行されうる数式を参照して説明される。そのような命令はコンピューターのプロセッサに供与されることが可能であり、コンピューター読取り可能なメモリー内に記憶された命令が製造品となるよう、特定の様態でコンピューターが機能するよう指令しうるコンピューター読取り可能なメモリー内に記憶されることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】アダリムマブ(adalimumab)対メトトレキセート対プラセボの評価のための16週間の多施設二重盲検二重ダミー研究の設計図を例示する。
【図2A】実測PASIスコアに対する個々の予測PASIスコア(IPRED)を示すグラフである。
【図2B】時間に対する加重残差(WRES)を示すグラフである。
【図3】メトトレキセート用量と共に、個々のPASIスコア対時間プロファイル(実測値および予測値)のグラフを示す。実測データは黒色の点で表されており、予測PASIスコアは黒色の線で表されており、メトトレキセート用量は垂直の線(針状線)で表されている。
【図4】16週間にわたる実測および予測PASI75応答率を示すグラフである。実際のPASI応答率は、二項分布に対する正規近似に基づく実際のPASI75応答率に関する90%CIを示す誤差線を伴う黒色の点で表されている。予測平均は黒実線で示されており、予測された5および95パーセント点は黒色の点線で示されている(5パーセント点と95パーセント点との間の面積は90%CIを表す)。図4Bは、52週間にわたる実測および予測PASI75応答率を示すグラフである。実際のPASI応答率は、二項分布に対する正規近似に基づく実際のPASI75応答率に関する90%CIを示す誤差線を伴う黒色の点で表されている。予測平均は黒実線で示されており、予測された5および95パーセント点は黒色の点線で示されている(5パーセント点と95パーセント点との間の面積は90%CIを表す)。
【図5】メトトレキセートの予測長期的効力を実測アダリムマブ効力データと比較するための研究の設計図を例示する。
【図6】2段階間接曝露−効力応答モデルを例示する。
【図7】経時的なメトトレキセート投与量分布を示す棒グラフである。
【図8】経時的な、PASI75応答率を達成した患者の百分率を示すグラフである。
【0141】
以下の実施例により本発明を更に詳しく説明するが、該実施例は何ら限定的ではないと解釈されるべきである。
【実施例1】
【0142】
中等度ないし重度の乾癬の治療におけるメトトレキセート(MTX)の長期的効力を予測するために、および該予測結果を研究M04−716からの実測アダリムマブ効力データと比較するために、以下の解析はモデリングおよびシミュレーションアプローチを用いた。
【0143】
研究M04−716は北米およびEUにおける16週間の第III相活性体およびプラセボ対照治験であった。この場合、中等度ないし重度の慢性プラーク乾癬を有する患者が、プラセボ、MTXまたはアダリムマブの投与を受けるようランダム化された。第16週に、アダリムマブ治療患者およびMTX治療患者に関するPASI 75応答率は、それぞれ、79.6%および35.5%であった。アダリムマブは第16週までにプラトー効果に達していたが、MTXの効力は尚も増加していた。研究M04−716からのMTX投与量およびPASI応答データを用いて、非線形混合−効果母集団モデリング(NONMEM)アプローチを用いて、母集団曝露−効力応答モデルを開発した。ついで、長期治療後のMTXのプラトー効果を予測するために、臨床治験シミュレーションを行った。
【0144】
研究M04−716においてはMTX濃度の測定のための血液サンプルが採集されなかったため、文献において公開されているものから得られた薬物動態力学的パラメーター値と共に1−コンパートメントモデルを使用して、MTX曝露を表した。2段階間接的応答モデルを使用して、MTX治療によるPASI応答の時間経過、およびMTX濃度の時間経過とPASIの減少との間の遅れを表した。
【0145】
このモデルを使用して、最初の16週間にわたる研究M04−716の結果が正確に再現された。ついで、研究M04−716におけるMTX治療患者が、彼らが受けた最終用量(平均±SD:18.4±5.6mg/週)での毎週の治療を更に36週間(研究M04−716の開始時から合計52週間)継続した場合の、PASIスコアに対するMTXのプラトー効果を予測するために、臨床治験シミュレーションを行った。該シミュレーションは、1年間にわたる、より長い治療持続期間では、MTX単独療法からのPASI 75応答率が47.8%となるであろうことを予測した。
【0146】
モデリングおよびシミュレーションアプローチにより、MTX単独療法からのプラトーPASI 75応答率は47.8%と予測された。これは、アダリムマブ治療で実測されたもの(79.6%)より低い。
【0147】
目的
研究M04−716において、中等度ないし重度の慢性プラーク乾癬の治療におけるアダリムマブ対メトトレキセート(MTX)および対プラセボの安全性、許容性および臨床的効力を16週間にわたって評価した。一次効力エンドポイントは、ベースライン(第0週)と比べて第16週において乾癬面積および重症度指標(Psoriasis Area and Severity Index)(PASI)スコアにおける少なくとも75%の減少(すなわち、PASI 75応答)を達成した対象の比率であった。
【0148】
この解析の目的は、研究M04−716において評価されたものより長い期間にわたるPASIスコアに対するMTXの効果を予測するために、母集団薬物動態学的(PK)および薬動力学的(PD)モデリングおよびシミュレーションアプローチを使用することであった。
【0149】
研究M04−716の背景的情報
研究M04−716は16週間の多施設二重盲検および二重ダミー研究であった。合計271人の対象(被験者)がこの研究に参加した。3つの治療計画のうちの1つに約2:2:1(プラセボはN=53、MTXはN=110およびアダリムマブはN=108)で対象をランダム化した。該対象の90%以上が該研究を完了し、MTX群では、94.5%(104/110)の対象が該研究を完了した。
【0150】
研究薬の第1用量の投与の前(ベースライン)ならびに第1、2、4、8、12および16週にPASIスコアを評価した。この研究においては、MTX濃度の測定のための血液サンプルは集めなかった。該研究設計図を図1に示す。
【0151】
経口MTXを7.5〜25mgの漸増用量で毎週投与した。該プロトコールにおいて定められている効力および安全性基準に従って、用量増加/力価測定を行った。経時的に投与された実際のMTX投与対象の要約統計を表1に示す。
【0152】
【表1】

【0153】
一次効力エンドポイント、すなわち、第16週におけるPASI 75応答率は、アダリムマブ治療群においては、プラセボ(79.6%対18.9%;p<0.001)およびMTX治療群(79.6%対35.5%;p<0.001)における応答率より統計的に有意に高かった。
【0154】
母集団薬物動態学的−薬動力学的モデリングのための方法
1.方法
非線形混合−効果母集団モデリング(NONMEM)アプローチをNONMEMソフトウェア(倍精度、Version VI)およびNMTRANプレ−プロセッサと共に用いて、PK/PDモデルを構築した。デュアル・プロセッサ・ワークステーション(DELL Precision 530)上、Windows(登録商標) 2000(サービスパック4)オペレーティングシステム下、Intel Visual Fortranコンパイラ(Version 9)を使用して、モデルをコンパイルした。
【0155】
2.データの記述
研究M04−716における合計110人のMTX治療対象が該母集団PK/PD解析に含まれた。
【0156】
PKモデリングのためのデータ
研究M04−716における実際のMTX用量および実際の投与回数を該モデリングに用いた。研究M04−716においてはMTXの測定のための血液サンプルが採集されなかったため、文献からのPKパラメーター(一次吸収速度定数[K]、見掛けクリアランス[CL/F]および見掛け分布容積[V/F])の値を用いた。
【0157】
PDモデリングのためのデータ
研究M04−716におけるMTX治療対象における16週間にわたる全ての実測PASIスコアを用いた。
【0158】
3.母集団薬物動態学的−薬動力学的モデリングの構築
母集団薬物動態学的モデルの構築
用量貯留コンパートメントからの一次吸収および中央コンパートメントからの一次消失を伴う1−コンパートメントモデル(以下に示す)を用いて、MTXのPKプロファイルを記述した。
【0159】
【化1】

前記の式においては、A(1)およびA(2)は、それぞれ、用量貯蔵コンパートメントおよび中央コンパートメント内のMTXの量を表す。中央コンパートメント内の量は見掛け分布容積(V/F)により評価される。したがって、C2(t)=A(2)(t)/(V/F)は時間tにおける中央コンパートメント内のMTXの濃度である。
【0160】
前記のとおり、研究M04/716においてはMTXの測定のための血液サンプルが採集されなかったため、PK/PDモデリングにおいては、文献からのPKパラメーター(K、CL/FおよびV/F)の値を用いた(表2)。全ての対象は、典型的なPKパラメーター値(すなわち、対象内および対象間変動をゼロに設定した)を有すると推定された。
【0161】
【表2】

【0162】
母集団薬動力学的モデルの構築
PASIスコアを使用して、母集団PDモデリングにおける臨床応答を定量した。PASIは連続的変数(0〜72の範囲)であり、より高いスコアはより重度な疾患を表す。
【0163】
MTXの抗炎症効果はMTXの薬理学的に妥当な濃度で生じる。MTX投与後、MTXは還元型ホラート(folate)担体を介して細胞により取り込まれ、ついで細胞内でポリグルタマートへと変換される。MTXポリグルタマートは、親化合物の抗ホラート活性の幾つかを保有する長寿命代謝産物(数週間持続する)である。これは、該研究においてMTXが週1回しか投与されず、MTXの半減期が僅か約2〜3週間であったとしても、少なくとも部分的には、研究M04−716の16週間にわたって次第に増強するMTXの効力を説明しうる。また、長寿命活性代謝産物を有するMTXは、MTX投与の中断後であっても数週間にわたる臨床効果の持続性を説明しうる
【0164】
いくつかのPDモデルを検討した。第1のモデルは、Kinに対するC(効果コンパートメントにおける濃度)の阻害効果(ImaxおよびIC50)を伴う間接応答モデルである。Kinは、PASIスコアが存在するコンパートメント内への「合成速度」である。検討した第2のモデルは、第3コンパートメント内への速度がKin・CではなくKin・(Emax/(1+EC50/C))である点以外は最終的なPDモデルに類似したものであった(以下を参照されたい)。
【0165】
最終的なPDモデルは2段階間接モデルである(以下を参照されたい)。このモデルは、MTX濃度の時間経過とPASI減少の臨床効果との間の遅延ヒステレシスおよびMTX臨床効果の持続性を示すのに最も適していることが判明した。このモデルにおいては、実測PASI応答を誘発するための遅延/モジュレーターコンパートメントとしてコンパートメント3および4を加えた。
【0166】
【化2】

【0167】
【数1】

式中、KinおよびKoutは、コンパートメント3への及びコンパートメント3からの速度定数である。コンパートメント3への速度は中央コンパートメントにおけるMTX濃度(すなわち、C)により調節される。KoutはKinと等しく設定された。K40はコンパートメント4からの速度定数であり、それはPASI応答の持続性を制御する。PASIは予測PASIスコアであり、これは、1より大きなファクターで割り算されたベースラインPASIスコアに等しく、パラメーター「GAM」は機能的関係の勾配に影響を及ぼす。
【0168】
PDモデリングの場合には、PDパラメーターKinおよびK40に関する個体間誤差を示すために、指数関数的誤差モデルを用いた。
【0169】
【数2】

式中、Pは個体iに関する真のパラメーター値である。Pは対数正規分布に従う。
【0170】
【数3】

は該パラメーターの典型的な値(母集団平均)である。
【0171】
【数4】

は個体iに関する真の値と該母集団に関する典型的な値との差(この場合、比例差)を示す。
【0172】
【数5】

は、独立して、0の平均およびωの分散で同一に分布している。
【0173】
残留誤差の場合、加法的および比例的(すなわち、一定の変動係数)誤差モデルならびに加法的および比例的誤差モデルの組合せを試験した。
【0174】
【数6】

式中、Yijは個体iにおけるjth実測PASIスコアである。PASIijは個体iにおけるjthモデル予測PASIスコアである。ε1ijは、0の平均および
【0175】
【数7】

の分散を伴う、個体iにおけるjth測定に関する残留個体内誤差の加法的成分である。ε2ijは、0の平均および
【0176】
【数8】

の分散を伴う、個体iにおけるjth測定に関する残留個体内誤差の比例的成分である。
【0177】
また、残留誤差モデルへ加重因子として加法的および比例的誤差を組合せる異なる方法を検討した。
【0178】
【数9】

式中、シータ(3)は加法的誤差標準偏差(SD)であり、シータ(4)は比例的誤差変動係数(CV)であり、シータ(5)は、該加法的誤差SDに対する該比例的誤差CVに対する比である。
【0179】
式8および9を残留誤差モデルとして使用する場合、ε2ijの分散
【0180】
【数10】

は1に固定される。したがって、ε2ijは、0の平均および1の分散(すなわち、N(0,1))で、正規分布に従うと推定される。ε2ijにwを掛け算すると、該残留誤差項(w・ε2ij)はN(0,w)分布に従うと推定される。
【0181】
適切なPK/PDモデルを選択するために用いる評価基準を以下に記載する。
【0182】
1.階層的モデルを比較したところ、好ましいモデルの目的関数値(OFV)は、尤度比検定に基づけば、代替的モデルの場合より有意に小さかった。OFVは該データの尤度の最大対数の−2倍と等しい(−2LL)。AKAIKE基準に基づいて、非階層的モデルを比較する。
【0183】
2.好ましいモデルからの実測および予測PASIスコアは、単位線(0切片および1の勾配を有する直線)を越えて、代替的モデルからのものよりランダムに分布した。
【0184】
3.適合度プロット、パラメーター推定およびそれらの標準誤差ならびに対象間およびランダム残留誤差における変化の目視検査は、その好ましいモデルが代替的モデルを凌ぐことを示した。
【0185】
母集団PK/PD解析の目的は、有意共変量を特定することではなかったため、PDパラメーターに関する共変量解析は行わなかった。
【0186】
INTERACTION法での一次条件推定(FOCE)をNONMEMにおいて用い、Ωマトリックスのダイアゴナル構造を推定した。
【0187】
ブートストラップ法(復元ランダムリサンプリング)を用いて、最終母集団PK/PDモデルの妥当性を確認した。最終的なモデルから得られた母集団推定値を1000ブートストラップ反復の中央値、2.5%および97.5%パーセント点と比較した(2.5%および97.5%パーセント点は95%信頼区間[CI]と等価である)。
【0188】
結果
1.母集団PDモデリング
PASIスコアが存在するコンパートメントへの「合成速度」に対するCe(効果コンパートメントにおける濃度)の阻害効果(ImaxおよびIC50)を伴う間接応答モデル(実施1〜実施2)、直線濃度−応答関係を伴う2段階間接応答モデル(実施3〜実施20)、またはEmax濃度−応答関係を伴う2段階間接応答モデル(実施30)として、PASIスコアに対するMTXの効果をモデル化した。直線濃度−応答関係を伴う2段階間接応答モデルが最も適していることが判明した。加重因子として加法的および比例的誤差を残留誤差モデル内に組合せること(実施18、OFV=2388.380)が、加法的(実施3、OFV=2539.570)もしくは比例的(実施4、OFV=2539.413)誤差モデルの単独体、または加法的および比例的誤差モデルの単純組合せ(実施5、OFV=2419.583)より適していることが判明した。
【0189】
したがって、2段階間接応答モデル(直線濃度−応答関係を伴う)、KinおよびK40上の指数関数的個体間誤差項、ならびに残留誤差モデルへの加重因子としての加法的および比例的誤差の組合せ(実施18)が、最終構造PDモデルとして特定された。共変量は解析されなかった。
【0190】
該最終PDモデルに関する適合度プロットを図2に示す。一般に、該最終PDモデルは、MTXで治療された乾癬対象における実測PASIスコアを適切に示した。個々の予測PASIスコア対実測PASIスコアは単位線の周囲に散らばっており、加重残差は、時間に対してプロットされた場合の大きな傾向を示さなかった。これらの結果は、該モデルが不偏性であることを示した。
【0191】
また、ブートストラップ法(復元ランダムリサンプリング)を用いて、該最終PDモデルの妥当性を確認した。1000ブートストラップ反復のうち、881反復が最小化の成功を示した。該最終PDモデルから得られた母集団推定値は、最小化の成功を伴う該881ブートストラップ反復からの対応推定値の中央値および95%信頼区間に比肩されるものであった。これらの結果は、該最終モデルが不偏性かつ安定であったことを示しており、シミュレーション目的の該曝露/臨床応答モデルの有用性を証明している。
【0192】
表3は該最終モデル(実施18)からのPDパラメーター推定値を示す。
【0193】
【表3】

【0194】
図3は、MTX用量と共に個々のPASIスコア対時間プロファイル(実測および予測値)の具体例を示す。
【0195】
2.乾癬を有する対象における長期MTX治療のシミュレーション
研究M04−716からの対象が研究M04−716において彼らが受けた最終MTX用量を用いて毎週のMTX投与を更に36週間(すなわち、研究M04−716の開始から合計52週間)継続した場合、PASIスコアに対するMTXのプラトー効果を予測するために、該最終母集団PK/PDモデルを用いて、シミュレーションを行った。
【0196】
NONMEMソフトウェアを使用して、シミュレーションを行った。該モデル構造および母集団PK/PDパラメーター推定値(表3)(対象間および対象内変動を含む)を該シミュレーションに使用した。合計200の反復(すなわち、臨床治験)を、各反復において110人の対象で行った。
【0197】
研究M04−716における各対象に対する最終MTX用量の投与を更に36週間にわたり毎週反復した以外は、該モデリングのためのものと同じデータベースを使用した。第16週から第52週までの対象のコンプライアンスは100%であると推定された。
【0198】
図4および表4は、研究M04−716において実測され並びにモデリングおよびシミュレーションにより予測された経時的なPASI75応答率を示す。図4の上および下パネルは、それぞれ16週間および52週間にわたるプロファイルを示す。
【0199】
【表4】

【0200】
図4に示すとおり、予測PASI75応答率は、研究M04−716において実測されたものに非常に類似しており、このことは、該モデルが適切であることを示している。該シミュレーションにより示されるとおり、研究M04−716からの対象において、彼らが受けた最終MTX用量を用いてMTXの毎週の投与が継続された場合、PASI 75応答率は第52週で47.8%となるであろう。したがって、より長い治療持続期間の場合であっても、MTX応答率は、アダリムマブ治療で得られるものより低いと予測される。
【0201】
考察および結論
16週間の研究M04−716からのMTX用量およびPASI応答データを用いて、乾癬を有する対象においてPASI応答を示す母集団PK/PDモデルを開発した。
【0202】
該最終モデルはPK成分およびPD成分を含んでいた。該研究においてはMTX濃度の測定のための血液サンプルが採集されなかったため、文献において公開されているものに固定されたK、CL/FおよびV/Fに関する値と共に1−コンパートメントモデルを使用して、MTX PKが示された。
【0203】
2段階間接応答モデル(直線濃度−応答関係を伴う)、KinおよびK40上の指数関数的個体間誤差項、ならびに残留誤差モデルへの加重因子としての加法的および比例的誤差の組合せを用いて、PD成分が示された。
【0204】
該最終PK/PDモデルは適切かつ不偏性であることが判明した。該モデルは最初の16週間にわたる研究M04−716の結果を正確に再現した。
【0205】
このPK/PDモデルを用いて、研究M04−716からの対象が研究M04−716において彼らが受けた最終MTX用量を用いて毎週のMTX投与を更に36週間(すなわち、研究M04−716の開始から合計52週間)継続した場合のPASIスコアに対するMTXのプラトー効果を予測するために、臨床治験シミュレーションを行った。
【0206】
該シミュレーション結果は、研究M04−716における対象において、彼らが受けた最終MTX用量を用いて毎週の投与が継続された場合、PASI 75応答率は第52週で47.8%となるであろう。したがって、より長い治療持続期間の場合であっても、MTX応答率は、アダリムマブ治療により得られるものには決して到達しなかった。
【0207】
略語および定義の一覧
CL/F 見掛けクリアランス
CV 変動係数
df 自由度
ETA 個体間ランダム効果
吸収速度定数
NONMEM 非線形混合−効果モデリング
OFV 目的関数値
PD 薬動力学
PK 薬物動態学
P5 5パーセント点
P95 95パーセント点
PASI 乾癬面積および重症度指標
SDまたはStd 標準偏差
V/F 見掛け分布容積
WT 体重
【0208】
【表5】

【実施例2】
【0209】
この研究の目的は以下のとおりであった。中等度ないし重度の乾癬の治療におけるメトトレキセート(MTX)の長期的効力を予測するために、および該予測結果を乾癬患者におけるHUMIRA対メトトレキセート対プラセボの第III相比較研究(CHAMPION)からの実測アダリムマブ効力データと比較するために、モデリングおよびシミュレーションアプローチを用いた。
【0210】
この研究において用いた方法は以下のものを含む。CHAMPIONは、北米および欧州連合(EU)における16週間の第III相活性体およびプラセボ対照治験であった。この場合、中等度ないし重度の慢性プラーク乾癬を有する患者が、プラセボ(N=53)、MTX(N=110)またはアダリムマブ(N=108)の投与を受けるようランダム化された。第16週に、アダリムマブ治療患者およびMTX治療患者に関するPASI(乾癬面積および重症度指標)75応答率は、それぞれ、79.6%および35.5%であった。アダリムマブは第16週までにプラトー効果に達していたが、MTXに関するPASI 75応答率は増加し続けていた。CHAMPIONからのMTX投与量およびPASI応答データを用いて、非線形混合−効果母集団モデリング(NONMEM)アプローチを用いて、母集団曝露−効力応答モデルを開発した。ついで、長期治療後のMTXのプラトー効果を予測するために、コンピューター支援臨床治験シミュレーションを行った。
【0211】
1−コンパートメントモデルを使用して、MTX曝露を表した。CHAMPION治験においてはMTX濃度の測定のための血液サンプルが採集されなかったため、文献からの薬物動態力学的パラメーター値を該モデルにおいて使用した。2段階間接的応答モデルを使用して、MTX治療中のPASI応答の時間経過、およびMTX濃度の時間経過とPASIスコアの減少(改善)との間の遅れを表した。
【0212】
この研究の結果は以下のとおりに要約される。このモデルを使用して、最初の16週間にわたるCHAMPIONの結果が正確に再現された。ついで、CHAMPIONにおけるMTX治療患者が、投与された最終投与量(平均±SD:18.4±5.6mg/週)での毎週の治療を更に36週間(CHAMPIONの開始時から合計52週間)継続した場合の、PASIスコアに対するMTXのプラトー効果を予測するために、臨床治験シミュレーションを行った。該シミュレーションは、1年間にわたる、より長い治療持続期間では、MTX単独療法に関するPASI 75応答率が47.8%に到達したであろうと予測した。
【0213】
結論としては、コンピューターモデリングおよびシミュレーションアプローチにより、MTX単独療法に関するPASI 75応答率のプラトーは47.8%と予測された。これは、アダリムマブ治療で実測された率(79.6%)より遥かに低かった。
【0214】
序論
乾癬は、皮膚上の厚い鱗屑プラークを引き起こす、表皮の顕著な炎症および肥厚により特徴づけられる慢性炎症性増殖性疾患である。中等度ないし重度の乾癬の患者は長期的な全身治療を要しうる。
【0215】
サイトカイン腫瘍壊死因子(TNF)は乾癬の病理発生に関与している。TNFは、完全ヒトモノクローナル抗体アダリムマブ(ADA)により特異的に標的化される。2007年12月に、アダリムマブはプラーク乾癬の治療に関してEMEA承認を受けた。ADAは、慢性関節リウマチ、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、若年性特発性関節炎(米国において)およびクローン病を有する患者の治療に関しても承認されている。
【0216】
メトトレキセート(MTX)は、現在、欧州連合において乾癬に対して最も頻繁に処方されている全身療法である。その使用は骨髄抑制、胃腸および肝毒性、肝不全および更には死亡により複雑化されうる。
【0217】
CHAMPION(乾癬患者における16週間の第III相活性体およびプラセボ対照治験)において、アダリムマブ治療は第16週に79.6%のPASI(乾癬面積および重症度指標)75応答率をもたらしたが、これは35.5%のMTX応答率より統計的に有意に大きかった(p<0.001)。アダリムマブは第16週までに効力のプラトーに到達していたが、MTXに関するPASI75応答率は増加し続けていた。
【0218】
目的
本発明の目的は、コンピューターモデリングおよびシミュレーションアプローチを用いて中等度ないし重度の乾癬の治療におけるMTXの長期的効力を予測すること、ならびに該予測結果を、第III相CHAMPION研究からの実測アダリムマブ効力データと比較することであった。
【0219】
方法
以下の基準に基づいて対象(被験者)を選択した:乾癬患者はベースライン来院時に中等度ないし重度のプラーク乾癬(10%体表面積罹患および10のPASIスコア)を有していた;患者は、スクリーニング前に少なくとも2ヶ月間、安定なプラーク乾癬を示した;そして、患者はTNFアンタゴニストにもMTXにも予め曝露されていなかった。また、該対象は全身療法または光線療法に対する候補者であった。
【0220】
選択した患者をアダリムマブ、MTXまたはプラセボに2:2:1の比でランダム化した。ADA治療群には、80mgの初期用量の投与の後、第1週から40mgの隔週(eow)の注射を行った。MTX治療群には、MTXを7.5から25mgまでの漸増用量で毎週経口投与した。該研究プロトコールにおいて定められている効力および安全性の基準に従い、用量漸増を行った。全ての研究患者は、治療群の割り当てには無関係に(二重ダミー計画)、注射および経口錠剤の投与を受けた(図5)。PASI 75応答(ベースラインスコアと比較した場合の第16週でのPASIスコアにおける75%の減少(改善))を用いて、患者の結果を測定した。
【0221】
国ごとに層化されたCochran−Mantel−Haenszel(CMH)検定を用いて統計解析を行って、治療の差を評価した。また、非線形混合−効果母集団モデリング(NONMEM)ソフトウェアを使用して薬物動態力学的モデルを設計し、MTXでの長期的治療で達成されるPASI 75応答率の最大プラトー効果を予測するために、コンピューター支援臨床治験シミュレーションを行った。
【0222】
MTX治療患者における16週間のデータ(MTX用量およびPASIスコア)を使用してモデルを構築することにより、母集団曝露−効力応答モデリングを行った(図6)。MTX濃度測定のための血液サンプルは採集されなかった。したがって、文献[1〜3]からの薬物動態学的パラメーター値を使用した。
・見掛けクリアランス(CL/F)=3L/日/kg
・見掛け分布容積(V/F)=0.6L/kg
・一次吸収速度定数(Ka)=10日−1
【0223】
MTXの濃度−時間プロファイルを示すために、1−コンパートメントモデルを使用した。PASIスコアの減少に対するMTXの効果を示すために、2段階間接応答モデルを使用した。
【0224】
結果
本研究においては、合計271人の患者がランダム化され、256人(94%)が16週間の研究を完了した。ベースラインにおいては、疾患の重症度(PASIスコア)および人口統計的特徴は全治療群にわたって類似していた(表5)。MTX治療群の場合、経口MTXを7.5〜25mgの漸増用量で毎週投与した。研究の時間経過にわたるMTX投与量分布を図7に示す。
【0225】
アダリムマブ治療は、第16週において、プラセボ(18.9%;p<0.001)およびMTX治療群(35.5%;p<0.001)と比較して統計的に有意に大きなPASI 75応答率をもたらした(79.6%)。アダリムマブは第16週までにプラトー効果に到達していたが、MTXに関するPASI 75応答率は増加し続けていた(図8)。MTX療法が1年間行われていたら達成されていたであろう効力を予測するために、数学的モデルを開発した。該モデルの妥当性を検定するために、第0週〜第16週に関して予測された結果を、実際に実測されたものと比較した。
【0226】
適合度プロットは該データへの該モデルのフィッティング(当てはめ)の妥当性を示している(図2)。個々の予測対実測PASIスコアは単位線の周囲に散らばっており、加重残差は時経的な大きな傾向を示さなかった。図3は、該モデルが個々の患者の応答を予測しうることを示している。青線は予測応答を表し、赤点は実際のデータを表す。
【0227】
CHAMPIONにおけるMTX治療患者が、投与された最終投与量で毎週の治療を更に36週間(すなわち、合計52週間)継続していたとした場合の、PASIスコアに対するMTXのプラトー効果を予測するために、シミュレーションを行った。合計200の反復(すなわち、シミュレーション臨床治験)を、各反復において110人の患者で実施したところ、該モデルは最初の16週間にわたるCHAMPIONの結果を正確に再現した(図4、上パネル)。MTXの毎週の投与が、投与された最終MTX投与量を用いて患者において継続されていたとしたら、予測PASI 75応答率は第52週で47.8%に到達していたであろうことを、該シミュレーション結果は示した(図4、下パネル)。第52週におけるMTXに関するシミュレーションされたPASI 75応答率は第16週におけるものより約12%大きかった。
【0228】
【表6】

【0229】
結論
16週間のCHAMPION研究からのMTX投与量およびPASI応答データを用いて、母集団曝露−効力応答モデルを開発した。該モデルは、最初の16週間にわたるCHAMPIONの結果を正確に再現することに成功した。このモデルを使用して、MTX単独療法に関するPASI 75応答率は第52週に47.8%に到達すると予測された。これはアダリムマブ治療での第16週における実際の率(79.6%)より実質的に低い。
【0230】
【表7】

【0231】
均等物
開示されている実施形態のこれまでの説明は、いずれかの当業者が本発明を製造し又は使用することを可能にするために記載されている。本明細書に記載されている本発明の特定の実施形態に対する多数の均等物を当業者は認識する又は単なる通常の実験により確認しうるであろう。そのような均等物は以下の特許請求の範囲に含まれると意図される。これらの実施形態に対する種々の修飾は当業者に容易に理解され、本明細書において定められている一般的原理は、本発明の精神または範囲から逸脱することなく他の実施形態に適用されうる。さらに、本明細書に開示されているいずれのものも、そのような開示が特許請求の範囲において明示的に挙げられているかどうかに無関係に公に献呈されると意図されるものではない。本出願の全体において引用されている全ての参考文献、特許および公開特許出願を参照により本明細書に組み入れることとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾癬治療の効力を予測するための方法であって、
該治療の薬物動態学的プロファイルを示す薬物動態学的モデルを準備し、
該化合物の薬動力学的モデルを準備し、
該薬動力学的モデルからの乾癬指標に関する値を計算し、それにより該乾癬治療の効力を予測することを含んでなる方法。
【請求項2】
該薬物動態学的モデルが中央成分を含有し、該中央成分が、与えられた時間における該化合物の濃度を示す、請求項1記載の方法。
【請求項3】
該薬物動態学的モデルが1−コンパートメントモデルである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
該薬物動態学的モデルが、用量貯留コンパートメントからの一次吸収を伴う1−コンパートメントモデルである、請求項2記載の方法。
【請求項5】
該薬物動態学的モデルが、用量貯留コンパートメントからの一次吸収および中央コンパートメントからの一次消失を伴う1−コンパートメントモデルである、請求項2記載の方法。
【請求項6】
該中央コンパートメントにおける乾癬治療用化合物の量が見掛け分布容積により評価される、請求項2記載の方法。
【請求項7】
該乾癬指標が乾癬面積および重症度指標(psoriasis area and severity index)(PASI)である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
該薬動力学的モデルが、直線濃度−応答関係を伴う2段階間接モデルである、請求項1記載の方法。
【請求項9】
該薬動力学的モデルにおける加重因子として加法的および比例的誤差を用いる、請求項1記載の方法。
【請求項10】
指数関数的個体間誤差を更に含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
該乾癬治療が全身的治療である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
該全身的治療がコルチコステロイドを含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
該全身的治療がTNFαインヒビターを含む、請求項11記載の方法。
【請求項14】
該乾癬治療がメトトレキセートである、請求項11記載の方法。
【請求項15】
該乾癬治療が、乾癬を治療するための2つの因子を含む、請求項1記載の方法。
【請求項16】
該乾癬治療が毎週の投与計画を含む、請求項1記載の方法。
【請求項17】
該乾癬治療が隔週の投与計画を含む、請求項1記載の方法。
【請求項18】
該乾癬治療が複数可変用量投与計画を含む、請求項1記載の方法。
【請求項19】
少なくとも6ヶ月間にわたる乾癬治療の効力を予測することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項20】
少なくとも12ヶ月間にわたる乾癬治療の効力を予測することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項21】
集団における乾癬治療の効力を予測することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項22】
年齢、性別、人種およびこれまでの乾癬治療に対する不応答性よりなる群から選ばれる共通の特徴を有する個体の小集団における乾癬治療の効力を予測することを含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
個体に対する乾癬治療の効力を予測することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項24】
薬物動態学的および薬動力学的モデルを使用して第1乾癬治療の効力を予測して、第1乾癬治療の薬動力学的プロファイルを作成し、
薬物動態学的および薬動力学的モデルを使用して第2乾癬治療の効力を予測して、第2乾癬治療の薬動力学的プロファイルを作成し、
第1乾癬治療の薬動力学的プロファイルを第2乾癬治療の薬動力学的プロファイルと比較し、
より高い予測効力を有する乾癬治療を選択することを含んでなる、乾癬治療を選択する方法。
【請求項25】
第1乾癬治療および第2乾癬治療が、乾癬を治療するための異なる活性化合物を含む、請求項24記載の方法。
【請求項26】
第1乾癬治療および第2乾癬治療が同一物質を含むが、異なる投与計画を含む、請求項24記載の方法。
【請求項27】
第1乾癬治療および第2乾癬治療が、同一活性化合物の、異なる医薬製剤を含む、請求項24記載の方法。
【請求項28】
乾癬の治療のための化合物の効力を予測するための方法であって、
該化合物の薬物動態学的プロファイルを示す薬物動態学的モデル(該薬物動態学的モデルは、中央コンパートメントを含有し、該中央コンパートメントは或る与えられた時間における該化合物の濃度を示す)を作成し、
2段階薬動力学的モデルを作成し(ここで、濃度は該モデルの第2段階への該化合物の速度を調節する)、
該薬動力学的モデルから乾癬面積および重症度指標を計算し、それにより、乾癬の治療のための化合物の効力を予測することを含んでなる方法。
【請求項29】
該薬動力学的モデルの第2段階への速度および該薬動力学的モデルの第2段階からの速度に関する個体間誤差を計算し、ならびに/または、加重因子としての加法的および比例的誤差が組合された残留誤差モデルを作成することを更に含む、請求項28記載の方法。
【請求項30】
乾癬治療の効力を予測するためのコンピュータープログラム製品であって、
コンピューター読取り可能な媒体(該媒体上には、該乾癬治療の薬物動態学的および薬動力学的プロファイルを決定するための薬物動態学的モデルおよび薬動力学的モデルを示すプログラムが記憶されている)、
実行されると、コンピューターシステムにおいて、該乾癬治療を受けた1以上の個体からのデータを受け取り、該薬物動態学的および薬動力学的モデルをそれに適応して該乾癬治療の効力を予測することを含む処理をプロセッサに行わせる実行可能な命令
を含んでなるコンピュータープログラム製品。
【請求項31】
個体に対する乾癬治療の効力の予測において使用されるデータベースの構築方法であって、
コンピューター読取り可能な媒体(該媒体上には、該乾癬治療の薬物動態学的および薬動力学的プロファイルを決定するための薬物動態学的モデルおよび薬動力学的モデルを示すプログラムが記憶されている)、ならびに
コンピューターシステムにおいて、乾癬に対する治療を受けた複数の対象からのデータを受け取り、各対象に関する身体的特徴、受けた乾癬治療、投与計画および応答性が識別子に関連づけられるよう該データを記憶するコンピューター
を含んでなる方法。
【請求項32】
対象に対する乾癬治療の選択方法であって、
治療すべき対象に共通の1以上の特徴を有する対象から得られたデータから計算された薬物動態学的および薬動力学的プロファイルから決定された1以上の乾癬治療の予測効力を、複数の乾癬対象からのデータを含むデータベースにおいて特定し、
該治療の予測効力に基づいて該対象に対する乾癬治療を選択することを含んでなる方法。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公表番号】特表2011−510267(P2011−510267A)
【公表日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−541532(P2010−541532)
【出願日】平成20年12月31日(2008.12.31)
【国際出願番号】PCT/US2008/088603
【国際公開番号】WO2009/086550
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(503448572)アボツト・バイオテクノロジー・リミテツド (30)
【Fターム(参考)】