予熱装置
【課題】モータを効率的に予熱できるようにする。
【解決手段】キャリア信号に同期して直流をスイッチングし、モータ(7)を駆動する所定周波数及び所定電圧の交流に変換するインバータ回路(4)を設ける。キャリア信号の周波数(fc)をモータ(7)の駆動時の周波数(fc1)よりも高い周波数(fc3)にして、インバータ回路(4)からモータ(7)に交流を供給させ、モータ(7)の予熱を行う制御部(5)を設ける。
【解決手段】キャリア信号に同期して直流をスイッチングし、モータ(7)を駆動する所定周波数及び所定電圧の交流に変換するインバータ回路(4)を設ける。キャリア信号の周波数(fc)をモータ(7)の駆動時の周波数(fc1)よりも高い周波数(fc3)にして、インバータ回路(4)からモータ(7)に交流を供給させ、モータ(7)の予熱を行う制御部(5)を設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータを予熱する予熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冷媒を圧縮する電動圧縮機では、冷媒とともに潤滑油(冷凍機油)を循環させて、モータの軸受などの摺動部分の摩擦を軽減させている。しかしながら、冷媒は低温時には冷凍機油に溶けやすいという性質があるので、低温時にモータの駆動を開始すると、冷凍機油の濃度が低下した状態でモータが回転することになる。これでは、摺動部分の摩擦が大きくなり、好ましくない。これに対しては、モータの周囲にヒータを設けたり、モータが回転しない条件でインバータ回路からモータに電流を流したりして予熱運転を行うようにした例がある(例えば、特許文献1,2を参照)。また、冷媒が寝込んだ状態(後述)で予熱を行う場合に、漏れ電流の対策を行う目的で、通常運転時のキャリア周波数よりも低いキャリア周波数で、インバータ回路からモータに電流を供給して予熱を行うものがある(例えば特許文献3,4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-286183号公報
【特許文献2】特開2002-106909号公報
【特許文献3】国際公開WO2007/052493
【特許文献4】特許第4124205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、モータの巻線の抵抗は一般的には数Ω以下であるので、従来の予熱運転では低電圧・大電流での予熱動作となり、その条件ではインバータ回路の変換効率が低く、該インバータ回路において不要なデバイス損失が多く発生する。
【0005】
本発明は前記の問題に着目してなされたものであり、モータを効率的に予熱できるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するため、第1の発明は、
モータ(7)を予熱する予熱装置であって、
キャリア信号に同期して直流をスイッチングし、前記モータ(7)を駆動する所定周波数及び所定電圧の交流に変換するインバータ回路(4)と、
前記キャリア信号の周波数(fc)を前記モータ(7)の駆動時の周波数(fc1)よりも高い周波数(fc3)にして、前記インバータ回路(4)から前記モータ(7)に交流を供給させ、前記モータ(7)の予熱を行う制御部(5)と
を備えたことを特徴とする。
【0007】
この構成では、インバータ回路(4)の出力電流の周波数が、モータ(7)の駆動時よりも高くなる。例えば銅線では、表皮深さは、電流の周波数が高くなるほど小さくなる。そのため、銅線のコイルでは、電流の周波数が高いほど電気抵抗が大きくなる。したがって、モータ(7)のコイルで予熱を行う場合、一定の予熱電力を得るための電流値は、電流の周波数が高いほど小さくなる傾向がある。つまり、モータ(7)に流す電流の周波数が高いほど電流値は小さくなる。一般的に、インバータ回路(4)では、電流が小さくなるにつれてスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の損失が小さくなるので、本発明では、モータ電流の周波数が高くなると電流が低減して、インバータ回路(4)の損失は低減することになる。
【0008】
また、第2の発明は、
第1の発明の予熱装置において、
前記モータ(7)は、冷媒を圧縮する電動圧縮機(8)を駆動するモータであり、
前記制御部(5)は、前記予熱を行う前に、前記キャリア信号の周波数(fc)が前記モータ(7)の駆動時の周波数(fc1)よりも低い期間(A)を設けて前記インバータ回路(4)から前記モータ(7)に交流を供給させることを特徴とする。
【0009】
この構成では、キャリア周波数(fc)を低下させて所定の期間予熱を行うので、電動圧縮機(8)において冷媒が寝込んでいても漏れ電流を防止できる。そして、その後は前記発明と同様に、インバータ回路(4)の損失が小さな状態で予熱運転が行われる。
【0010】
また、第3の発明は、
第1又は第2の発明の予熱装置において、
前記インバータ回路(4)は、ワイドバンドギャップ半導体を主材料としたスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)によって前記変換を行うことを特徴とする。
【0011】
この構成では、各スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)がワイドバンドギャップ半導体を主材料とした半導体で構成されているので、スイッチングを高周波化した場合の各スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)におけるスイッチング損失の増加を低く抑えられ、高周波化による予熱電力の低減効果がより大きくなる。
【発明の効果】
【0012】
第1の発明によれば、インバータ回路(4)の損失が低減するので、モータ(7)を効率的に予熱することが可能になる。
【0013】
また、第2の発明によれば、電動圧縮機(8)において、漏れ電流を防止と、モータ(7)(電動圧縮機(8))の予熱の効率化を両立させることが可能になる。
【0014】
また、第3の発明によれば、より効果的にモータ(7)を予熱することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、実施形態1に係る電力変換装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、実施形態1におけるキャリア周波数の制御を説明する図である。
【図3】図3は、従来の予熱装置におけるキャリア周波数の制御を説明する図である。
【図4】図4は、(a)は従来の予熱装置におけるインバータ回路の出力波形を例示する図であり、(b)は実施形態1のインバータ回路の出力波形を例示する図である。
【図5】図5は、銅線の表皮深さと電流の周波数の関係を示す図である。
【図6】図6は、一定の予熱電力を得る際の電流値と電流の周波数との関係を示す図である。
【図7】図7は、実施形態1における、電流の周波数とインバータ回路の損失の関係を示す図である。
【図8】図8は、実施形態1の予熱装置における消費電力を示す図である。
【図9】図9は、実施形態2におけるキャリア周波数の制御を説明する図である。
【図10】図10は、実施形態2における、インバータ回路の損失と電流の周波数の関係を示す図である。
【図11】図11は、実施形態2の予熱装置における消費電力を示す図である。
【図12】図12は、通常運転終了後にキャリア周波数低下期間を設けない場合のキャリア周波数の制御を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の予熱装置の実施形態として、該予熱装置を備えた電力変換装置の例を説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0017】
《発明の実施形態1》
〈全体構成〉
図1は、本発明の実施形態1に係る電力変換装置(1)の構成を示すブロック図である。同図に示すように電力変換装置(1)は、コンバータ回路(2)、直流リンク部(3)、インバータ回路(4)、及び制御部(5)を備え、三相交流電源(6)から供給された交流を所定の周波数の交流に変換して、電動圧縮機(8)のモータ(7)に供給するようになっている。なお、本実施形態のモータ(7)には、いわゆるIPMモータ(Interior Permanent Magnet Motor)など、コイルを有した種々のモータを採用できる。電動圧縮機(8)は、例えば空気調和機の冷媒回路(図示は省略)に設けられ、冷媒を圧縮する。
【0018】
〈コンバータ回路(2)〉
コンバータ回路(2)は、三相交流電源(6)に接続され、三相交流電源(6)が出力した三相交流を全波整流する。この例では、コンバータ回路(2)は、複数(本実施形態では6つ)のダイオード(D1〜D6)がブリッジ状に結線されたダイオードブリッジ回路である。
【0019】
〈直流リンク部(3)〉
直流リンク部(3)は、コンデンサ(3a)を備えている。コンデンサ(3a)は、コンバータ回路(2)の出力ノードにリアクトル(L1)を介して並列接続されている。このコンデンサ(3a)は、インバータ回路(4)の入力ノード間に接続され、該コンデンサ(3a)の両端に生じた直流電圧(直流リンク電圧(Ed))が、インバータ回路(4)に入力されている。コンデンサ(3a)は、例えば電解コンデンサやフィルムコンデンサによって構成する。
【0020】
〈インバータ回路(4)〉
インバータ回路(4)は、直流リンク部(3)の出力をスイッチングして三相交流に変換し、モータ(7)に供給するようになっている。インバータ回路(4)は、複数のスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)がブリッジ結線されて構成されている。この例では、それぞれのスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)は、シリコン(Si)を主材料としたFET(Field effect transistor)である。
【0021】
このインバータ回路(4)は、三相交流をモータ(7)に出力するので、6個のスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)を備えている。詳しくは、インバータ回路(4)は、2つのスイッチング素子を互いに直列接続した3つのスイッチングレグを備えている。各スイッチングレグにおいて上アームのスイッチング素子(Su,Sv,Sw)と下アームのスイッチング素子(Sx,Sy,Sz)との中点は、それぞれモータ(7)の各相のコイル(図示は省略)に接続されている。
【0022】
また、各スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)には、還流ダイオード(DD)が逆並列に接続されている。インバータ回路(4)は、これらのスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のオンオフ動作によって、直流リンク部(3)から入力された直流をスイッチングして三相交流電圧に変換する。なお、このオンオフ動作の制御は、制御部(5)が行う。
【0023】
〈制御部(5)〉
制御部(5)は、マイクロコンピュータとそれを動作させるプログラムを含み、キャリア信号に同期して、PWM制御方式により前記スイッチングを制御している。そして、制御部(5)は、電動圧縮機(8)の予熱運転の制御も行うようになっている。制御部(5)及びインバータ回路(4)によって、予熱装置(10)を構成している。予熱装置(10)による予熱運転は、例えば外気温が所定値以下になった場合に実施される。
【0024】
予熱運転では、制御部(5)は、インバータ回路(4)からモータ(7)のコイル(銅線)に、該モータ(7)が回転しない大きさの電流を流し、該コイルの発熱によってモータ(7)を加熱、すなわち電動圧縮機(8)を加熱する。より詳しくは、制御部(5)は、予熱運転時には、キャリア信号の周波数(キャリア周波数(fc))を、モータ(7)の駆動時(以下では説明の便宜上、通常運転時とよぶ)のキャリア周波数(fc1)よりも高いキャリア周波数(fc3)に制御する。この例では、通常運転時のキャリア周波数(fc1)は、5kHzであり、予熱運転時のキャリア周波数(fc3)は100kHzである。
【0025】
〈予熱運転〉
電動圧縮機(8)が用いられた空気調和機(図示は省略)では、設置されて初めて電源が投入された場合や、通常運転の終了時に外気温が低い場合などに、予熱運転が行われる。図2は、実施形態1におけるキャリア周波数(fc)の制御を説明する図である。また、図3は、従来の予熱装置におけるキャリア周波数の制御を説明する図である。この従来の予熱装置では、予熱運転時にキャリア周波数(fc)を通常運転時よりも低いキャリア周波数(fc0)、もしくは同じキャリア周波数に制御している。
【0026】
空気調和機では、例えば、初めて電力が供給された際に予熱運転が実施される。この予熱運転では、制御部(5)は、図2に示すように、キャリア周波数(fc)を通常運転時のキャリア周波数(fc1)よりも高いキャリア周波数(fc3)にして、インバータ回路(4)からモータ(7)に交流を供給させる。
【0027】
図4は、(a)は従来の予熱装置におけるインバータ回路の出力波形を例示する図であり、(b)は実施形態1のインバータ回路(4)の出力波形を例示する図である。図4の(a)では、上段から、スイッチング素子(Su)のオンオフ状態、スイッチング素子(Sy)のオンオフ状態、U相とV相の線間電圧(Vuv)、U相の電流(Iu)をそれぞれ示している。また、図4の(b)では、上段から、U相とV相の線間電圧(Vuv)、U相の電流(Iu)をそれぞれ示している。図4に示すように、本実施形態の予熱装置(10)の方が電流の周波数が高くなっている。
【0028】
予熱装置(10)によってモータ(7)のコイルに電力が供給されると、該コイルが発熱する。電動圧縮機(8)では、運転が一度も行われていない場合(例えば設置直後)や、低温状態で停止していた場合などには、冷凍機油に冷媒が溶け込んだ状態になる。このときは、モータ(7)等の摺動部における冷凍機油の濃度が低下しているので、これらの摺動部の潤滑を十分に行えない可能性がある。ここで、予熱運転によってモータ(7)のコイルが発熱すると、冷凍機油の温度が上昇して冷媒の溶解度が低下する。そうすると、冷凍機油の濃度が実質的に上昇する。これにより、前記摺動部における冷凍機油の濃度が上昇し、十分な潤滑が可能な状態になる。なお、予熱時間(t3)は、冷凍機油の濃度が十分に上昇するのに必要な時間を予め実験などで求めておいて、制御部(5)に設定しておくとよい。制御部(5)では、例えばタイマーを用いて、設定された時間の予熱が行われるようにインバータ回路(4)を制御する。
【0029】
制御部(5)は、リモートコントローラーなどを介してユーザーから空気調和機の運転開始が指示されると、十分な予熱が行われていた場合には、通常運転状態にインバータ回路(4)等を制御する。制御部(5)は、通常運転状態では、キャリア周波数(fc)をfc1に制御する。
【0030】
−予熱電力−
図5は、銅線の表皮深さ(表面に電流が集中する表皮効果を生ずる深さ)と電流の周波数の関係を示す図である。図5に示すように、銅線の表皮深さ(d)は、電流の周波数(f)が高くなるほど小さくなる。また、図6は、モータ(7)のコイルで一定の予熱電力を得る際の電流値(I)と電流の周波数(f)との関係を示す図である。銅線では、電流の周波数が高いほど電気抵抗が大きくなるので、図6に示すように、一定の予熱電力を得るための電流値は、電流の周波数が高いほど小さくなる。したがって、モータ(7)のコイルでも、電流の周波数が高いほど電流値は小さくなる。
【0031】
一般的にインバータ回路では、電流が小さくなるにつれてスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の損失が小さくなる。そして、モータ(7)のコイルでは、表皮効果によって、モータ電流の周波数が高くなると電流が低減する。それゆえ、インバータ回路(4)では、モータ電流の周波数増加に伴って損失が低減することになる。図7は、実施形態1における、電流の周波数(f)とインバータ回路(4)の損失(loss)の関係を示す図である。図7に示すように、電流の周波数(f)がある程度以上高くなると、損失(loss)は低減し、この例では、100kHzのときの損失は、5kHzのときの損失よりも45%改善している。
【0032】
図8は、実施形態1の予熱装置(10)における消費電力を示す図である。図8では、実線が本実施形態の予熱装置(10)を用いた場合の消費電力(w3)を示し、破線が従来の予熱装置を用いた場合の消費電力(w0)を示している。なお、通常運転時は、運転状態によって消費電力が異なるため、図8では、通常運転中の消費電力の図示を省略してある。
【0033】
本実施形態では、前記のように、インバータ回路(4)の損失(loss)は、通常運転時のキャリア周波数(fc1)(この例では5kHz)よりも高いキャリア周波数(fc3)(100kHz)とすることで低減する。そのため、予熱運転中の消費電力(w3)は、図8に示すように、本実施形態の予熱装置(10)の方が、通常運転時のキャリア周波数(fc1)よりも低いキャリア周波数、もしくは同じキャリア周波数で予熱運転を行う従来の予熱装置よりも小さくなる。
【0034】
〈本実施形態における効果〉
以上のように、本実施形態によれば、キャリア周波数(fc)を通常運転時よりも高めることでインバータ回路(4)の損失が低減し、冷媒を圧縮する電動圧縮機(8)のモータ(7)を効率的に予熱することが可能になる。例えば、本実施形態の予熱装置(10)によって従来の予熱装置と同じ予熱量を発生させるとすれば、キャリア周波数(fc)の高周波化により予熱時の消費電力を低減することが可能になる。また、予熱時の消費電力を従来と同じにすれば、キャリア周波数(fc)の高周波化により、予熱量を増やして予熱時間を短縮することが可能になる。
【0035】
《発明の実施形態2》
実施形態2の予熱装置(10)は、予熱運転時におけるキャリア周波数(fc)の制御方法が実施形態1とは異なっている。図9は、実施形態2におけるキャリア周波数(fc)の制御を説明する図である。図9に示すように、本実施形態では、制御部(5)は、予熱運転時は、キャリア信号の周波数を通常運転時よりも高く制御する期間(B)の前に、キャリア周波数(fc)を、通常運転時のキャリア周波数(fc1)よりも低いキャリア周波数(fc2)にする期間(以下、キャリア周波数低下期間(A)と呼ぶ)を設けてインバータ回路(4)からモータ(7)に交流を供給させる。キャリア周波数(fc2)は、例えば、従来の予熱装置で採用されていたfc0とすることが考えられる。
【0036】
また、本実施形態では、インバータ回路(4)のスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)に、ワイドバンドギャップ半導体を主材料としたスイッチング素子を採用している。具体的には、各スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)は、SiC(Silicon Carbide:炭化ケイ素)を主材料としたスイッチング素子である。なお、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)には、SiCの他に、例えばGaN(Gallium Nitride:窒化ガリウム)等のワイドバンドギャップ半導体を採用してもよい。図10は、実施形態2における、インバータ回路(4)の損失(loss)と電流の周波数(f)の関係を示す図である。図10に示すように、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)にワイドバンドギャップ半導体を主材料としたスイッチング素子を採用したことにより、本実施形態のインバータ回路(4)では100kHzのときの損失が、5kHzのときの損失よりも81%改善している。すなわち、本実施形態のインバータ回路(4)は、実施形態1のインバータ回路(4)よりも高効率である。
【0037】
〈本実施形態における効果〉
図11は、実施形態2の予熱装置(10)における消費電力を示す図である。図11に示すように、キャリア周波数低下期間(A)の消費電力(w2)は、キャリア周波数(fc)の周波数が通常運転時よりも高い期間(B)の消費電力(w3)よりも大きくなっている。これは、キャリア周波数低下期間(A)は、インバータ回路(4)の損失が大きくなるからである。
【0038】
しかしながら、冷媒が寝込んだ状態(液状の冷媒と潤滑油(冷凍機油)とが分離した状態)では、電動圧縮機の構造によってはモータの端子等で絶縁性が低下し、その状態で高周波のスイッチングを行うと、漏れ電流の発生に繋がる可能性がある。電動圧縮機で漏れ電流が発生すると、ブレーカが作動して空気調和装置への通電が遮断されるという不具合が発生する。そこで、本実施形態では、予熱開始直後の冷媒が寝込んでいると考えられる期間は、キャリア周波数(fc)を低下させて、漏れ電流を防止しつつ予熱を行い、電動圧縮機(8)の温度がある程度以上になって絶縁性が向上してから、キャリア周波数(fc)を通常運転時よりも高めるように、制御部(5)によって制御する。本実施形態では各スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)がワイドバンドギャップ半導体を主材料とした半導体で構成されているので、スイッチングを高周波化した場合の各スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)におけるスイッチング損失の増加を低く抑えられ、高周波化による予熱電力の低減効果がより大きくなる。
【0039】
以上のように、本実施形態では、キャリア周波数低下期間(A)の消費電力は従来の予熱装置と同程度になるものの、予熱期間全体でみると消費電力の低減が可能になる。すなわち、本実施形態では、漏れ電流の防止と、モータ(7)(電動圧縮機(8))の予熱の効率化を両立させることが可能になる。
【0040】
なお、通常運転終了後の予熱運転では、キャリア周波数低下期間(A)を設けずに、通常運転時よりも高いキャリア周波数(fc3)で予熱を行うようにしてもよい。図12は、通常運転終了後にキャリア周波数低下期間(A)を設けない場合のキャリア周波数(fc)の制御を示す図である。キャリア周波数低下期間(A)を設けるか否かは、例えば冷凍機油の温度や外気温などに応じて適宜選択すればよい。
【0041】
《その他の実施形態》
なお、必ずしも、通常運転終了後に予熱運転に移行する必要はない。例えば、冷凍機油の温度が所定値よりも低下した場合のみ予熱運転に移行するようにすることが考えられる。
【0042】
また、インバータ回路(4)の形式は例示である。
【0043】
また、通常運転時や予熱運転時に採用したキャリア周波数(fc)の値も例示である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、冷媒用の電動圧縮機のモータを予熱する予熱装置として有用である。
【符号の説明】
【0045】
4 インバータ回路
5 制御部
7 モータ
8 電動圧縮機
10 予熱装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータを予熱する予熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冷媒を圧縮する電動圧縮機では、冷媒とともに潤滑油(冷凍機油)を循環させて、モータの軸受などの摺動部分の摩擦を軽減させている。しかしながら、冷媒は低温時には冷凍機油に溶けやすいという性質があるので、低温時にモータの駆動を開始すると、冷凍機油の濃度が低下した状態でモータが回転することになる。これでは、摺動部分の摩擦が大きくなり、好ましくない。これに対しては、モータの周囲にヒータを設けたり、モータが回転しない条件でインバータ回路からモータに電流を流したりして予熱運転を行うようにした例がある(例えば、特許文献1,2を参照)。また、冷媒が寝込んだ状態(後述)で予熱を行う場合に、漏れ電流の対策を行う目的で、通常運転時のキャリア周波数よりも低いキャリア周波数で、インバータ回路からモータに電流を供給して予熱を行うものがある(例えば特許文献3,4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-286183号公報
【特許文献2】特開2002-106909号公報
【特許文献3】国際公開WO2007/052493
【特許文献4】特許第4124205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、モータの巻線の抵抗は一般的には数Ω以下であるので、従来の予熱運転では低電圧・大電流での予熱動作となり、その条件ではインバータ回路の変換効率が低く、該インバータ回路において不要なデバイス損失が多く発生する。
【0005】
本発明は前記の問題に着目してなされたものであり、モータを効率的に予熱できるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するため、第1の発明は、
モータ(7)を予熱する予熱装置であって、
キャリア信号に同期して直流をスイッチングし、前記モータ(7)を駆動する所定周波数及び所定電圧の交流に変換するインバータ回路(4)と、
前記キャリア信号の周波数(fc)を前記モータ(7)の駆動時の周波数(fc1)よりも高い周波数(fc3)にして、前記インバータ回路(4)から前記モータ(7)に交流を供給させ、前記モータ(7)の予熱を行う制御部(5)と
を備えたことを特徴とする。
【0007】
この構成では、インバータ回路(4)の出力電流の周波数が、モータ(7)の駆動時よりも高くなる。例えば銅線では、表皮深さは、電流の周波数が高くなるほど小さくなる。そのため、銅線のコイルでは、電流の周波数が高いほど電気抵抗が大きくなる。したがって、モータ(7)のコイルで予熱を行う場合、一定の予熱電力を得るための電流値は、電流の周波数が高いほど小さくなる傾向がある。つまり、モータ(7)に流す電流の周波数が高いほど電流値は小さくなる。一般的に、インバータ回路(4)では、電流が小さくなるにつれてスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の損失が小さくなるので、本発明では、モータ電流の周波数が高くなると電流が低減して、インバータ回路(4)の損失は低減することになる。
【0008】
また、第2の発明は、
第1の発明の予熱装置において、
前記モータ(7)は、冷媒を圧縮する電動圧縮機(8)を駆動するモータであり、
前記制御部(5)は、前記予熱を行う前に、前記キャリア信号の周波数(fc)が前記モータ(7)の駆動時の周波数(fc1)よりも低い期間(A)を設けて前記インバータ回路(4)から前記モータ(7)に交流を供給させることを特徴とする。
【0009】
この構成では、キャリア周波数(fc)を低下させて所定の期間予熱を行うので、電動圧縮機(8)において冷媒が寝込んでいても漏れ電流を防止できる。そして、その後は前記発明と同様に、インバータ回路(4)の損失が小さな状態で予熱運転が行われる。
【0010】
また、第3の発明は、
第1又は第2の発明の予熱装置において、
前記インバータ回路(4)は、ワイドバンドギャップ半導体を主材料としたスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)によって前記変換を行うことを特徴とする。
【0011】
この構成では、各スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)がワイドバンドギャップ半導体を主材料とした半導体で構成されているので、スイッチングを高周波化した場合の各スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)におけるスイッチング損失の増加を低く抑えられ、高周波化による予熱電力の低減効果がより大きくなる。
【発明の効果】
【0012】
第1の発明によれば、インバータ回路(4)の損失が低減するので、モータ(7)を効率的に予熱することが可能になる。
【0013】
また、第2の発明によれば、電動圧縮機(8)において、漏れ電流を防止と、モータ(7)(電動圧縮機(8))の予熱の効率化を両立させることが可能になる。
【0014】
また、第3の発明によれば、より効果的にモータ(7)を予熱することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、実施形態1に係る電力変換装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、実施形態1におけるキャリア周波数の制御を説明する図である。
【図3】図3は、従来の予熱装置におけるキャリア周波数の制御を説明する図である。
【図4】図4は、(a)は従来の予熱装置におけるインバータ回路の出力波形を例示する図であり、(b)は実施形態1のインバータ回路の出力波形を例示する図である。
【図5】図5は、銅線の表皮深さと電流の周波数の関係を示す図である。
【図6】図6は、一定の予熱電力を得る際の電流値と電流の周波数との関係を示す図である。
【図7】図7は、実施形態1における、電流の周波数とインバータ回路の損失の関係を示す図である。
【図8】図8は、実施形態1の予熱装置における消費電力を示す図である。
【図9】図9は、実施形態2におけるキャリア周波数の制御を説明する図である。
【図10】図10は、実施形態2における、インバータ回路の損失と電流の周波数の関係を示す図である。
【図11】図11は、実施形態2の予熱装置における消費電力を示す図である。
【図12】図12は、通常運転終了後にキャリア周波数低下期間を設けない場合のキャリア周波数の制御を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の予熱装置の実施形態として、該予熱装置を備えた電力変換装置の例を説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0017】
《発明の実施形態1》
〈全体構成〉
図1は、本発明の実施形態1に係る電力変換装置(1)の構成を示すブロック図である。同図に示すように電力変換装置(1)は、コンバータ回路(2)、直流リンク部(3)、インバータ回路(4)、及び制御部(5)を備え、三相交流電源(6)から供給された交流を所定の周波数の交流に変換して、電動圧縮機(8)のモータ(7)に供給するようになっている。なお、本実施形態のモータ(7)には、いわゆるIPMモータ(Interior Permanent Magnet Motor)など、コイルを有した種々のモータを採用できる。電動圧縮機(8)は、例えば空気調和機の冷媒回路(図示は省略)に設けられ、冷媒を圧縮する。
【0018】
〈コンバータ回路(2)〉
コンバータ回路(2)は、三相交流電源(6)に接続され、三相交流電源(6)が出力した三相交流を全波整流する。この例では、コンバータ回路(2)は、複数(本実施形態では6つ)のダイオード(D1〜D6)がブリッジ状に結線されたダイオードブリッジ回路である。
【0019】
〈直流リンク部(3)〉
直流リンク部(3)は、コンデンサ(3a)を備えている。コンデンサ(3a)は、コンバータ回路(2)の出力ノードにリアクトル(L1)を介して並列接続されている。このコンデンサ(3a)は、インバータ回路(4)の入力ノード間に接続され、該コンデンサ(3a)の両端に生じた直流電圧(直流リンク電圧(Ed))が、インバータ回路(4)に入力されている。コンデンサ(3a)は、例えば電解コンデンサやフィルムコンデンサによって構成する。
【0020】
〈インバータ回路(4)〉
インバータ回路(4)は、直流リンク部(3)の出力をスイッチングして三相交流に変換し、モータ(7)に供給するようになっている。インバータ回路(4)は、複数のスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)がブリッジ結線されて構成されている。この例では、それぞれのスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)は、シリコン(Si)を主材料としたFET(Field effect transistor)である。
【0021】
このインバータ回路(4)は、三相交流をモータ(7)に出力するので、6個のスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)を備えている。詳しくは、インバータ回路(4)は、2つのスイッチング素子を互いに直列接続した3つのスイッチングレグを備えている。各スイッチングレグにおいて上アームのスイッチング素子(Su,Sv,Sw)と下アームのスイッチング素子(Sx,Sy,Sz)との中点は、それぞれモータ(7)の各相のコイル(図示は省略)に接続されている。
【0022】
また、各スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)には、還流ダイオード(DD)が逆並列に接続されている。インバータ回路(4)は、これらのスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のオンオフ動作によって、直流リンク部(3)から入力された直流をスイッチングして三相交流電圧に変換する。なお、このオンオフ動作の制御は、制御部(5)が行う。
【0023】
〈制御部(5)〉
制御部(5)は、マイクロコンピュータとそれを動作させるプログラムを含み、キャリア信号に同期して、PWM制御方式により前記スイッチングを制御している。そして、制御部(5)は、電動圧縮機(8)の予熱運転の制御も行うようになっている。制御部(5)及びインバータ回路(4)によって、予熱装置(10)を構成している。予熱装置(10)による予熱運転は、例えば外気温が所定値以下になった場合に実施される。
【0024】
予熱運転では、制御部(5)は、インバータ回路(4)からモータ(7)のコイル(銅線)に、該モータ(7)が回転しない大きさの電流を流し、該コイルの発熱によってモータ(7)を加熱、すなわち電動圧縮機(8)を加熱する。より詳しくは、制御部(5)は、予熱運転時には、キャリア信号の周波数(キャリア周波数(fc))を、モータ(7)の駆動時(以下では説明の便宜上、通常運転時とよぶ)のキャリア周波数(fc1)よりも高いキャリア周波数(fc3)に制御する。この例では、通常運転時のキャリア周波数(fc1)は、5kHzであり、予熱運転時のキャリア周波数(fc3)は100kHzである。
【0025】
〈予熱運転〉
電動圧縮機(8)が用いられた空気調和機(図示は省略)では、設置されて初めて電源が投入された場合や、通常運転の終了時に外気温が低い場合などに、予熱運転が行われる。図2は、実施形態1におけるキャリア周波数(fc)の制御を説明する図である。また、図3は、従来の予熱装置におけるキャリア周波数の制御を説明する図である。この従来の予熱装置では、予熱運転時にキャリア周波数(fc)を通常運転時よりも低いキャリア周波数(fc0)、もしくは同じキャリア周波数に制御している。
【0026】
空気調和機では、例えば、初めて電力が供給された際に予熱運転が実施される。この予熱運転では、制御部(5)は、図2に示すように、キャリア周波数(fc)を通常運転時のキャリア周波数(fc1)よりも高いキャリア周波数(fc3)にして、インバータ回路(4)からモータ(7)に交流を供給させる。
【0027】
図4は、(a)は従来の予熱装置におけるインバータ回路の出力波形を例示する図であり、(b)は実施形態1のインバータ回路(4)の出力波形を例示する図である。図4の(a)では、上段から、スイッチング素子(Su)のオンオフ状態、スイッチング素子(Sy)のオンオフ状態、U相とV相の線間電圧(Vuv)、U相の電流(Iu)をそれぞれ示している。また、図4の(b)では、上段から、U相とV相の線間電圧(Vuv)、U相の電流(Iu)をそれぞれ示している。図4に示すように、本実施形態の予熱装置(10)の方が電流の周波数が高くなっている。
【0028】
予熱装置(10)によってモータ(7)のコイルに電力が供給されると、該コイルが発熱する。電動圧縮機(8)では、運転が一度も行われていない場合(例えば設置直後)や、低温状態で停止していた場合などには、冷凍機油に冷媒が溶け込んだ状態になる。このときは、モータ(7)等の摺動部における冷凍機油の濃度が低下しているので、これらの摺動部の潤滑を十分に行えない可能性がある。ここで、予熱運転によってモータ(7)のコイルが発熱すると、冷凍機油の温度が上昇して冷媒の溶解度が低下する。そうすると、冷凍機油の濃度が実質的に上昇する。これにより、前記摺動部における冷凍機油の濃度が上昇し、十分な潤滑が可能な状態になる。なお、予熱時間(t3)は、冷凍機油の濃度が十分に上昇するのに必要な時間を予め実験などで求めておいて、制御部(5)に設定しておくとよい。制御部(5)では、例えばタイマーを用いて、設定された時間の予熱が行われるようにインバータ回路(4)を制御する。
【0029】
制御部(5)は、リモートコントローラーなどを介してユーザーから空気調和機の運転開始が指示されると、十分な予熱が行われていた場合には、通常運転状態にインバータ回路(4)等を制御する。制御部(5)は、通常運転状態では、キャリア周波数(fc)をfc1に制御する。
【0030】
−予熱電力−
図5は、銅線の表皮深さ(表面に電流が集中する表皮効果を生ずる深さ)と電流の周波数の関係を示す図である。図5に示すように、銅線の表皮深さ(d)は、電流の周波数(f)が高くなるほど小さくなる。また、図6は、モータ(7)のコイルで一定の予熱電力を得る際の電流値(I)と電流の周波数(f)との関係を示す図である。銅線では、電流の周波数が高いほど電気抵抗が大きくなるので、図6に示すように、一定の予熱電力を得るための電流値は、電流の周波数が高いほど小さくなる。したがって、モータ(7)のコイルでも、電流の周波数が高いほど電流値は小さくなる。
【0031】
一般的にインバータ回路では、電流が小さくなるにつれてスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の損失が小さくなる。そして、モータ(7)のコイルでは、表皮効果によって、モータ電流の周波数が高くなると電流が低減する。それゆえ、インバータ回路(4)では、モータ電流の周波数増加に伴って損失が低減することになる。図7は、実施形態1における、電流の周波数(f)とインバータ回路(4)の損失(loss)の関係を示す図である。図7に示すように、電流の周波数(f)がある程度以上高くなると、損失(loss)は低減し、この例では、100kHzのときの損失は、5kHzのときの損失よりも45%改善している。
【0032】
図8は、実施形態1の予熱装置(10)における消費電力を示す図である。図8では、実線が本実施形態の予熱装置(10)を用いた場合の消費電力(w3)を示し、破線が従来の予熱装置を用いた場合の消費電力(w0)を示している。なお、通常運転時は、運転状態によって消費電力が異なるため、図8では、通常運転中の消費電力の図示を省略してある。
【0033】
本実施形態では、前記のように、インバータ回路(4)の損失(loss)は、通常運転時のキャリア周波数(fc1)(この例では5kHz)よりも高いキャリア周波数(fc3)(100kHz)とすることで低減する。そのため、予熱運転中の消費電力(w3)は、図8に示すように、本実施形態の予熱装置(10)の方が、通常運転時のキャリア周波数(fc1)よりも低いキャリア周波数、もしくは同じキャリア周波数で予熱運転を行う従来の予熱装置よりも小さくなる。
【0034】
〈本実施形態における効果〉
以上のように、本実施形態によれば、キャリア周波数(fc)を通常運転時よりも高めることでインバータ回路(4)の損失が低減し、冷媒を圧縮する電動圧縮機(8)のモータ(7)を効率的に予熱することが可能になる。例えば、本実施形態の予熱装置(10)によって従来の予熱装置と同じ予熱量を発生させるとすれば、キャリア周波数(fc)の高周波化により予熱時の消費電力を低減することが可能になる。また、予熱時の消費電力を従来と同じにすれば、キャリア周波数(fc)の高周波化により、予熱量を増やして予熱時間を短縮することが可能になる。
【0035】
《発明の実施形態2》
実施形態2の予熱装置(10)は、予熱運転時におけるキャリア周波数(fc)の制御方法が実施形態1とは異なっている。図9は、実施形態2におけるキャリア周波数(fc)の制御を説明する図である。図9に示すように、本実施形態では、制御部(5)は、予熱運転時は、キャリア信号の周波数を通常運転時よりも高く制御する期間(B)の前に、キャリア周波数(fc)を、通常運転時のキャリア周波数(fc1)よりも低いキャリア周波数(fc2)にする期間(以下、キャリア周波数低下期間(A)と呼ぶ)を設けてインバータ回路(4)からモータ(7)に交流を供給させる。キャリア周波数(fc2)は、例えば、従来の予熱装置で採用されていたfc0とすることが考えられる。
【0036】
また、本実施形態では、インバータ回路(4)のスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)に、ワイドバンドギャップ半導体を主材料としたスイッチング素子を採用している。具体的には、各スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)は、SiC(Silicon Carbide:炭化ケイ素)を主材料としたスイッチング素子である。なお、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)には、SiCの他に、例えばGaN(Gallium Nitride:窒化ガリウム)等のワイドバンドギャップ半導体を採用してもよい。図10は、実施形態2における、インバータ回路(4)の損失(loss)と電流の周波数(f)の関係を示す図である。図10に示すように、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)にワイドバンドギャップ半導体を主材料としたスイッチング素子を採用したことにより、本実施形態のインバータ回路(4)では100kHzのときの損失が、5kHzのときの損失よりも81%改善している。すなわち、本実施形態のインバータ回路(4)は、実施形態1のインバータ回路(4)よりも高効率である。
【0037】
〈本実施形態における効果〉
図11は、実施形態2の予熱装置(10)における消費電力を示す図である。図11に示すように、キャリア周波数低下期間(A)の消費電力(w2)は、キャリア周波数(fc)の周波数が通常運転時よりも高い期間(B)の消費電力(w3)よりも大きくなっている。これは、キャリア周波数低下期間(A)は、インバータ回路(4)の損失が大きくなるからである。
【0038】
しかしながら、冷媒が寝込んだ状態(液状の冷媒と潤滑油(冷凍機油)とが分離した状態)では、電動圧縮機の構造によってはモータの端子等で絶縁性が低下し、その状態で高周波のスイッチングを行うと、漏れ電流の発生に繋がる可能性がある。電動圧縮機で漏れ電流が発生すると、ブレーカが作動して空気調和装置への通電が遮断されるという不具合が発生する。そこで、本実施形態では、予熱開始直後の冷媒が寝込んでいると考えられる期間は、キャリア周波数(fc)を低下させて、漏れ電流を防止しつつ予熱を行い、電動圧縮機(8)の温度がある程度以上になって絶縁性が向上してから、キャリア周波数(fc)を通常運転時よりも高めるように、制御部(5)によって制御する。本実施形態では各スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)がワイドバンドギャップ半導体を主材料とした半導体で構成されているので、スイッチングを高周波化した場合の各スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)におけるスイッチング損失の増加を低く抑えられ、高周波化による予熱電力の低減効果がより大きくなる。
【0039】
以上のように、本実施形態では、キャリア周波数低下期間(A)の消費電力は従来の予熱装置と同程度になるものの、予熱期間全体でみると消費電力の低減が可能になる。すなわち、本実施形態では、漏れ電流の防止と、モータ(7)(電動圧縮機(8))の予熱の効率化を両立させることが可能になる。
【0040】
なお、通常運転終了後の予熱運転では、キャリア周波数低下期間(A)を設けずに、通常運転時よりも高いキャリア周波数(fc3)で予熱を行うようにしてもよい。図12は、通常運転終了後にキャリア周波数低下期間(A)を設けない場合のキャリア周波数(fc)の制御を示す図である。キャリア周波数低下期間(A)を設けるか否かは、例えば冷凍機油の温度や外気温などに応じて適宜選択すればよい。
【0041】
《その他の実施形態》
なお、必ずしも、通常運転終了後に予熱運転に移行する必要はない。例えば、冷凍機油の温度が所定値よりも低下した場合のみ予熱運転に移行するようにすることが考えられる。
【0042】
また、インバータ回路(4)の形式は例示である。
【0043】
また、通常運転時や予熱運転時に採用したキャリア周波数(fc)の値も例示である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、冷媒用の電動圧縮機のモータを予熱する予熱装置として有用である。
【符号の説明】
【0045】
4 インバータ回路
5 制御部
7 モータ
8 電動圧縮機
10 予熱装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ(7)を予熱する予熱装置であって、
キャリア信号に同期して直流をスイッチングし、前記モータ(7)を駆動する所定周波数及び所定電圧の交流に変換するインバータ回路(4)と、
前記キャリア信号の周波数(fc)を前記モータ(7)の駆動時の周波数(fc1)よりも高い周波数(fc3)にして、前記インバータ回路(4)から前記モータ(7)に交流を供給させ、前記モータ(7)の予熱を行う制御部(5)と
を備えたことを特徴とする予熱装置。
【請求項2】
請求項1の予熱装置において、
前記モータ(7)は、冷媒を圧縮する電動圧縮機(8)を駆動するモータであり、
前記制御部(5)は、前記予熱を行う前に、前記キャリア信号の周波数(fc)が前記モータ(7)の駆動時の周波数(fc1)よりも低い期間(A)を設けて前記インバータ回路(4)から前記モータ(7)に交流を供給させることを特徴とする予熱装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2の予熱装置において、
前記インバータ回路(4)は、ワイドバンドギャップ半導体を主材料としたスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)によって前記変換を行うことを特徴とする予熱装置。
【請求項1】
モータ(7)を予熱する予熱装置であって、
キャリア信号に同期して直流をスイッチングし、前記モータ(7)を駆動する所定周波数及び所定電圧の交流に変換するインバータ回路(4)と、
前記キャリア信号の周波数(fc)を前記モータ(7)の駆動時の周波数(fc1)よりも高い周波数(fc3)にして、前記インバータ回路(4)から前記モータ(7)に交流を供給させ、前記モータ(7)の予熱を行う制御部(5)と
を備えたことを特徴とする予熱装置。
【請求項2】
請求項1の予熱装置において、
前記モータ(7)は、冷媒を圧縮する電動圧縮機(8)を駆動するモータであり、
前記制御部(5)は、前記予熱を行う前に、前記キャリア信号の周波数(fc)が前記モータ(7)の駆動時の周波数(fc1)よりも低い期間(A)を設けて前記インバータ回路(4)から前記モータ(7)に交流を供給させることを特徴とする予熱装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2の予熱装置において、
前記インバータ回路(4)は、ワイドバンドギャップ半導体を主材料としたスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)によって前記変換を行うことを特徴とする予熱装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−99220(P2013−99220A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243074(P2011−243074)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】
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