説明

二つの時間計測装置でスポーツ競技の時間計測を行うためのシステム

【課題】 スポーツの競技中に二つの時間基準回路に対して高い精度で維持できる時間計測システムを提供すること。
【解決手段】 スポーツ競技の時間計測システムは、第1の時間基準回路を有する主時間計測装置と、第2の時間基準回路(5)を有する副時間計測装置とを備える。二つの時間計測装置は、時間計測システムが動作可能になると、並行して動作可能である。また、二つの時間計測装置は、第2の時間基準回路(5)が、第1の時間基準回路によって生成された基準タイマー信号(CLKref)を使って同期されるように配設されている。第2の時間基準回路(5)は、第2のタイマー信号(CLK_T2)の周波数を基準タイマー信号(CLKref)の周波数によって適合させるための位相ロックループ(10,11,12,13,14,17)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主時間計測装置と、副時間計測装置を含む、スポーツ競技の時間計測を行うためのシステムに関する。二つの時間計測装置は、スポーツのレースでスタートパルスが与えられるとすぐに並行して動作可能である。よって両装置は、一方の時間計測装置に問題が起きた場合でも、レース時間を提供することができる。
【背景技術】
【0002】
例えば、スキーレースのような重要なスポーツ競技で時間計測する場合には、初期較正された時間基準回路をそれぞれ有する、少なくとも二つの時間計測装置を使用する必要がある。二つの時間計測装置は、互いに独立して動作するが、同じスタートゲートから供給された同じレーススタートパルスを受信する。また、時間計測装置は、競技者がフィニッシュラインを横切るとすぐに、レースの時間計測のため、同じストップパルスを受信する。二つの時間計測装置のレース時間は、競技者ごとに周知の方法で保存することができる。さらに、一つまたは複数のレースの時間、特に主装置の時間を観客が見える表示スクリーンに表示することができる。
【0003】
両時間計測装置において、較正は、初めは、例えば、その時間計測システムがスポーツ競技の本来の状況での使用の前において工場で、等といったそれぞれの時間基準回路について一度しか行われない。同じ時間計測システム装置に配設可能なこれら二つの時間計測装置の操作は、そのいずれかの装置が故障した際にも確実に時間計測を続けることができる。しかしながら、スポーツ競技を通して、二つの装置の時間基準回路はわずかにばらつく。よって、異なる二つの時間測定値を一秒の100または1000分の一の位まで四捨五入することになる。よってこのことは、高いレベルの時間計測の正確性を保証しなければならないこの種の時間計測システムの欠点である。
【0004】
EP 1139299 A1では、無線送信時間計測システムを開示している。このシステムは、いくつかの周辺機器を含み、それぞれは、時間基準回路と無線信号送信手段を有している。周辺機器は、各競技者のスタート時間、中間時間、フィニッシュ時間を計測するように、スポーツ競技のコースまたはトラックの異なる位置に配置されている。前記周辺機器間の時間のずれは、それらが互いに離れて配置されている限りは回避することができない。各機器の時間基準回路は、無線またはGPS信号で互いに同期させる必要がある。これは、スポーツ競技で異なる時間を測定する、各機器を正しく同期させるために立派な構造基板を必要とするという欠点となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】EP特許 1139299 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
よって、本発明の目的は、少なくとも二つの時間計測装置を有する時間計測システムであって、スポーツの競技中に二つの時間基準回路に対して高い精度で維持できる時間計測システムを提供することによって、従来の技術の欠点を克服することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
よって、本発明は、請求項1に記載した特徴を有する、スポーツ競技用の時間計測システムに関する。
【0008】
この時間計測システムの特定の実施形態については、従属請求項2〜7に記載される。
【0009】
時間計測システムの一つの利点は、二つの時間基準回路が互いに同期するという点にある。好ましくは、第2の時間基準回路は、第1の時間基準回路を使って同期させる。つまり、二つの時間基準回路のタイマーまたはクロック信号の周波数は、両時間計測装置が適切に動作していれば、操作期間の初めから終わりまで正確に一致させることができる。よって、時間基準回路相互のコヒーレンスは、自動的に制御される。
【0010】
スポーツ競技用の時間計測システムの目的、利点、特徴については、添付の図面に示した限定されることのない少なくとも一つの実施形態に基づく下記の説明により、さらに明確となるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明による時間計測システムの二つの時間計測装置の略図である。
【図2】本発明による時間計測システムの副時間計測装置の第2の時間基準回路のさまざまな要素を簡略化した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
下記の説明では、本技術分野における当業者には周知であるスポーツ競技用の時間計測システムの要素についてはすべて簡単に述べるだけにする。他のいくつかの時間計測装置も並行して関連するが、ここでは、時間計測システムの二つの時間計測装置について主に説明する。
【0013】
図1は、スキーレースのようなスポーツ競技用に使用することを意図した時間計測システム1を示す略図である。他の周知の構成要素に加え、時間計測システム1は、主時間計測装置2と副時間計測装置3を含む。主時間計測装置2は、第1の時間基準回路4を含み、一方、副時間計測装置3は、第2の時間基準回路5を含む。各時間基準回路4および5は、水晶発振器を備え、例えば、10MHz程度の周波数に較正されている。本発明によると、第2の時間基準回路5は、第1の時間基準回路4によって提供される基準タイマー信号CLKrefによって第1の時間基準回路4と同期されている。この基準タイマー信号CLKrefは、10MHz程度の周波数に定めてもよく、通常は、主時間計測装置2が提供する第1のタイマーまたはクロック信号CLK_T1と同等である。副時間計測装置3は、第1のタイマーまたはクロック信号と一致しなければならない第2のタイマーまたはクロック信号CLK_T2を供給している。
【0014】
単に例示として、一度較正した後の、二つの時間基準回路4と5の間の周波数の偏差すなわちずれは0.2ppm未満がよく、好ましくは0.1ppm未満がよい。二つの時間基準回路4および5の二つの時間計測装置2および3は、各種電子構成要素を確実に安定化させるため、スポーツ競技の開始前に電源を入れる。
【0015】
注目すべきは、二つの時間計測装置2および3は、二つの別の装置ではなく、時間計測システム1の同じ電子装置(図示せず)に取り付けることができる点である。この装置は、周知のごとく、他の電子装置または他の時間計測装置と接続するための各種接続口と、装置のある特定の機能を起動するための一組のボタンを備えている。時間計測装置2および3のうちの一方を、特にその装置の一方が故障したときに、その装置に対応する少なくとも一つのボタンを押すことによって選択することができる。例えば、どの時間計測装置で表示スクリーンにレース時間を提供しなければならないかによって選択すればよい。
【0016】
動作する二つの時間計測装置2および3を有する装置は、スタートゲートと有線または無線で接続することができる。スタートゲートが開くと、レーススタートパルスImpが二つの時間計測装置に送信され、レース時間測定が開始する。レース時間測定のためのストップパルス(図示せず)も、競技者がフィニッシュラインを横切ったときに二つの時間計測装置2および3に供給される。数回分のレース時間を、二つの装置に接続した装置の各時間計測装置またはメモリユニットに保存しておくことができる。
【0017】
図2は、時間計測装置の第2の時間基準回路5の各種要素を簡略化した図である。第2の時間基準回路5は、第2の時間基準回路によって供給される第2のタイマー信号CLK_T2が主時間計測装置の第1のタイマー信号と同じ周波数となるように、第1の時間基準回路によって供給される基準タイマー信号CLKrefによって同期される。
【0018】
第2の時間基準回路5は、よって、第2の時間基準回路5を第1の時間基準回路と同期させるため、通常PLLと呼ばれる位相ロックループを含んでいる。通常、それぞれの時間基準回路は、主に基準電圧Vrefを電圧制御発振器VCO12の入力に供給する基準電圧源Vref10を含む。この基準電圧Vrefに基づいて、電圧制御発振器12は、10MHzに近い周波数でタイマー信号を生成することができる。基準電圧は、非常によく制御されるので、それぞれのタイマー信号ごとに正確な周波数が保証される。
【0019】
第2の時間基準回路5の位相ロックループは、基準タイマー信号CLKrefを、電圧制御発振器12によって生成された第2のタイマー信号CLK_T2と比較するための位相および周波数検出器13を備える。この検出器における比較の結果は、好ましくは従来の低域通過フィルター14である濾波要素へ提供される。しかし、濾波要素は、単純な積分器であってもよい。基準タイマー信号CLKrefと第2のタイマー信号CLK_T2の間に初期に見られるずれは、低域通過フィルター出力14で供給された適応電圧によって修正される。二つのタイマー信号が、スタート時、同じ周波数であれば、通常、この適応電圧は、理論的に0Vとなる。
【0020】
低域通過フィルター14の出力での適応電圧は、電圧制御発振器12に供給して第2のタイマー信号CLK_T2の周波数を希望通りに適合させなければならない。そのためには、適応電圧を従来の加算器11によって基準電圧Vrefに加算する。この適応電圧は、スイッチ17を介して加算器11に供給される。このスイッチ17は、この制御位相で低域通過フィルター14を加算器11に接続するように切り替えられる。適応電圧が所定の閾値未満である限り、ロックループは、スイッチ17が低域通過フィルター14の出力を加算器11に接続するように切り替えられた状態では、閉状態である。
【0021】
第2の時間基準回路5は、適応電圧を許容可能な電圧閾値と比較するように低域通過フィルター14の出力に接続された電圧コンパレータ15も含む。この適応電圧が許容所定電圧閾値を超えている場合、制御信号がRSフリップフロップ16に供給されるので、フリップフロップは、スイッチ17を開く。制御信号は、RSフリップフロップ16のリセット入力Rに印加されるのが好ましい。制御信号が「0」の状態から「1」の状態に変更するので、適応電圧が許容閾値より高い場合には、制御信号は、スイッチ17を制御するために使用するフリップフロップの出力Qを0に設定する。出力Qを0に設定すると、スイッチ17は開く。RSフリップフロップ16の入力Sが1に設定されると、「0」状態から「1」状態への変更によってスイッチ17が閉とされる。時間計測装置の電源がONになると、まず、コマンドLoがフリップフロップ16の入力Sに入力され、これにより、位相ロックループを要望どおり閉とすることができる。
【0022】
上記のように、フリップフロップ16が「0」の状態で、スイッチ17が信号によって出力Qから開となると、位相ロックループが開となる。この状態で、電圧xが基準電圧Vrefに追加され、電圧制御発振器12によって生成された第2のタイマー信号の周波数を適合させる。一般的に、この電圧xの値は0Vであり、これは、電圧制御発振器12の初期の較正状態に相当する。しかし、位相ロックループが閉位置にあるときには、電圧xは許容可能な適応電圧値に定められると予想することができる。許容可能な適応電圧値とは、基準タイマー信号CLKrefの周波数と、第2のタイマー信号の初期周波数との間の許容可能な周波数のずれに相当する。この周波数のずれは、0.2ppm未満、好ましくは0.1ppm未満に定めてもよい。
【0023】
スポーツ競技の間、主時間計測装置の第1の時間基準回路に問題が起き、レース時間測定値が不正確となってしまう場合もある。そのような場合、基準タイマー信号CLKrefの周波数は、電圧制御発振器12が生成した第2のタイマー信号CLK_T2の初期周波数に相当する初期の基準周波数から離れる。よって、低域通過フィルター14の出力の適応電圧は、コンパレータ15の電圧閾値より上を通過する。第2のタイマー信号のこの初期周波数は、純粋に電圧制御発振器12の入力に印加される基準電圧Vrefに基づく。主時間計測装置に問題が生じた場合、副時間計測装置自体が主装置から離れ、それ以降すべてのレース時間の測定を行う。
【0024】
よって、第2の時間基準回路5により、主時間計測装置の操作を適切に制御することができる。第1の時間基準回路により、第2の時間基準回路5との良好な同期も期待通り実行される。しかし、副時間計測装置においても問題が起きる可能性があり、その場合は、主時間計測装置を離れて時間計測を行う。
【0025】
上記の説明から、当業者によれば、特許請求の範囲に定義した本発明の範囲にもとることなく、スポーツ競技用の時間計測システムの他の種々の態様を考案可能である。
【符号の説明】
【0026】
1…時間計測システム、2…主時間計測装置、3…副時間計測装置、4…第1の時間基準回路、5…第2の時間基準回路、12…電圧制御発振器、13…周波数検出器、14…低域通過フィルター、15…コンパレータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の時間基準回路(4)を有する主の時間計測装置(2)と、第2の時間基準回路(5)を有する副の時間計測装置(3)とを備えたスポーツ競技の時間計測システムであって、
両時間計測装置は、時間計測システムが動作可能になると、並行して動作可能であり、両時間計測装置(2,3)は、通常動作モードで前記二つの時間基準回路(4,5)が互いに同期されるように配設されており、
前記第2の時間基準回路(5)が前記第1の時間基準回路(4)を使って同期されることを特徴とする時間計測システム。
【請求項2】
前記第2の時間基準回路(5)が位相ロックループを含み、前記第1の時間基準回路(4)に供給された基準タイマー信号(CLKref)が水晶発振器(12)によって生成された第2のタイマー信号(CLK_T2)と比較され、前記第2のタイマー信号(CLK_T2)の周波数を適合させることを特徴とする請求項1に記載の時間計測システム。
【請求項3】
前記水晶発振器(12)が、初期は、基準電圧源(10)から供給される基準電圧(Vref)によって制御される電圧制御発振器であることを特徴とする請求項2に記載の時間計測システム。
【請求項4】
前記位相ロックループが、前記基準タイマー信号(CLKref)の周波数を前記第2のタイマー信号(CLK_T2)の周波数と比較するための位相および周波数検出器(13)と、出力に適応電圧を供給するために前記位相および周波数検出器(13)の前記出力に接続された低域通過フィルター(14)のような濾波要素と、閉位置でスイッチ(17)を介して基準電圧(Vref)に加算した前記適応電圧を受信し、前記第2のタイマー信号(CLK_T2)を適応周波数で生成する前記電圧制御発振器に制御電圧を供給するための加算器(11)とを備える、ことを特徴とする請求項2または3に記載の時間計測システム。
【請求項5】
前記第2の時間基準回路(5)が、前記低域通過フィルター(14)の前記出力に接続されて前記適応電圧を許容可能な電圧閾値と比較する電圧コンパレータ(15)と、前記電圧コンパレータによって生成された制御信号によって制御されるRSフリップフロップ(16)と、前記適応電圧が前記コンパレータ(15)の前記電圧閾値を越える場合に前記スイッチ(17)を開にするために設けられた前記スリップフロップ(16)の出力(Q)とを備える、ことを特徴とする請求項4に記載の時間計測システム。
【請求項6】
前記スイッチ(17)は、二つの入力と一つの出力を備え、第1の入力が前記低域通過フィルターからの前記適応電圧を受信し、一方、前記第2の入力が、規定された連続電圧(x)を受信し、前記スイッチ(17)が閉位置にあるときには、位相ロックループが閉じた状態で、前記適応電圧が前記基準電圧(Vref)に加算され、一方、前記スイッチ(17)が開位置にあるときには、前記位相ロックループが前記開位置にある状態で、前記規定された連続電圧(x)が前記基準電圧(Vref)に加算される、ことを特徴とする請求項4または5に記載の時間計測システム。
【請求項7】
前記RSフリップフロップ(16)のリセット入力が、前記コンパレータ(15)によって生成された前記制御信号によって制御されることと、前記RSフリップフロップ(16)の「1に設定」入力が、前記位相ロックループを閉とするための別の制御信号(Lo)によって制御されている、ことを特徴とする請求項5に記載の時間計測システム。

【図1】
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【図2】
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