説明

二次電池、二次電池の正極または負極の抵抗測定方法、および、二次電池の正極または負極の劣化程度診断方法

【課題】 正極と負極のそれぞれの抵抗を個別に、かつ精度良く測定できて、劣化の程度を容易にかつ精度良く診断可能な二次電池を提供する。
【解決手段】 正極101、負極102および電解質含有相を含み、
正極101と負極102が前記電解質含有相を介して電荷を授受することにより、充放電可能であり、
さらに、参照極103および対極104を含み、
参照極103および対極104は、前記電解質含有相を介して互いに電気的に接続され、かつ、前記電解質含有相を介して正極101および負極102と電気的に接続されていることを特徴とする二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池、二次電池の正極または負極の抵抗測定方法、および、二次電池の正極または負極の劣化程度診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車用二次電池や家庭用二次電池などに代表されるように、二次電池が、長時間使用される傾向がある。二次電池は、長時間の使用により劣化する。このため、二次電池の劣化の程度を容易にかつ精度良く診断できることが求められている。
【0003】
特許文献1では、二次電池に充電電流パルスまたは放電電流パルスを印加し、所定の周波数経過後の入力電流と応答電圧から抵抗(内部抵抗)を算出することで、劣化を診断し、継続して利用が可能か否かを判別する方法が提案されている。
【0004】
特許文献2では、正極(作用極)と負極(対極)のそれぞれの近傍に、参照極を有する4極式の電気化学セルが提案されている。この電気化学セルでは、正極(作用極)単身の電位、および、負極(対極)単身の電位をより正確に把握できるとともに、正極(作用極)と負極(対極)との間に生じる電位勾配を把握することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−156702号公報
【特許文献2】特開2006−179329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の劣化程度診断方法では、正極と負極のそれぞれの抵抗(内部抵抗)を個別に測定することができないため、正極と負極のどちらがどの程度劣化しているのか調べることができず、精度の良い診断をすることができない。
【0007】
一方、特許文献2の電気化学セルによれば、前記のとおり、正極および負極のそれぞれの電位を、個別に、かつ精度良く測定することが可能である。しかし、対極(負極)の抵抗が作用極(正極)に対して大きい場合、作用極の交流インピーダンス(内部インピーダンスまたは単にインピーダンスともいうことがある)を測定するときに、対極で電極反応が律速してしまい、精度良く作用極の抵抗を測定することができない。
【0008】
このように、従来の二次電池、または二次電池の劣化程度診断方法では、正極と負極のそれぞれの抵抗を個別に、かつ精度良く測定することができないために、二次電池の劣化の程度を精度良く診断することができない。
【0009】
そこで、本発明は、正極と負極のそれぞれの抵抗を個別に、かつ精度良く測定できて、劣化の程度を容易にかつ精度良く診断可能な二次電池、二次電池の正極または負極の抵抗測定方法、および、二次電池の正極または負極の劣化程度診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の二次電池は、
正極、負極および電解質含有相を含み、
前記正極と前記負極が前記電解質含有相を介して電荷を授受することにより、充放電可能であり、
さらに、参照極および対極を含み、
前記参照極および前記対極は、前記電解質含有相を介して互いに電気的に接続され、かつ、前記電解質含有相を介して前記正極および前記負極と電気的に接続されていることを特徴とする。
【0011】
本発明による、二次電池の正極または負極の抵抗測定方法は、
前記正極または前記負極を作用極として用い、さらに、前記参照極および前記対極を用いて前記正極または前記負極の交流インピーダンスを測定する交流インピーダンス測定工程と、
前記交流インピーダンスに基づき、前記正極または前記負極の抵抗を算出する抵抗算出工程を含むことを特徴とする、前記本発明の二次電池の前記正極または前記負極の抵抗測定方法である。
【0012】
本発明による、二次電池の正極または負極の劣化程度診断方法は、
前記本発明の二次電池に対し、充電および放電の少なくとも一方を所定の時間および所定の回数行った後の前記正極または前記負極の抵抗を、前記本発明の測定方法により測定する抵抗測定工程と、
前記抵抗測定工程において測定した前記正極または前記負極の抵抗を、前記充電および放電の少なくとも一方を行う前の抵抗と比較することで、前記正極または前記負極の劣化の程度を診断する劣化程度診断工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の二次電池、二次電池の正極または負極の抵抗測定方法、および、二次電池の正極または負極の劣化程度診断方法によれば、正極と負極のそれぞれの抵抗を個別に、かつ精度良く測定できて、劣化の程度を容易にかつ精度良く診断可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明における二次電池の一例の構造を示す斜視図である。
【図2】図1の二次電池の分解斜視図である。
【図3】実施例1および2の二次電池における交流インピーダンス測定結果を例示するグラフである。図3(a)は、ナイキスト線図である。図3(b)は、ボード線図である。
【図4】実施例1の二次電池における正極および負極の交流インピーダンス測定結果を例示するグラフである。図4(a)は、ナイキスト線図である。図4(b)は、ボード線図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は、以下の説明により限定されない。なお、本発明において、二次電池の各電極(正極、負極、作用極または対極)の「抵抗」は、場合により「内部抵抗」、「電気抵抗」または「電荷移動抵抗」ともいうことがあるが、いずれも同義である。
【0016】
[二次電池]
図1および図2に、本発明の二次電池の一例の構造を模式的に示す。図1は、斜視図であり、図2は、分解斜視図である。
【0017】
図1に示すとおり、本例の二次電池110は、各構成要素(同図においては、図示せず)が、外装体109により封止され、外装体109の端部から、4枚の電極用リード106が突出している。外装体109に封止された前記各構成要素は、正極、負極、参照極、対極、および電解質含有相を含む。前記正極と前記負極は、前記電解質含有相を介して電荷を授受することにより、充放電可能である。前記参照極および前記対極は、前記電解質含有相を介して互いに電気的に接続され、かつ、前記電解質含有相を介して前記正極および負極と電気的に接続されている。
【0018】
図2に示すとおり、本例の二次電池110は、集電体105を3つ有し、正極101、負極102、および対極104は、それぞれ、個別の集電体105上に形成されている。参照極103は、参照極集電体111上に形成されている。前記4枚の電極用リード106のうち3枚は、正極101、負極102、または対極104用の集電体105に、それぞれ接続され、残りの1枚は、参照極集電体111に接続されている。さらに、この二次電池110は、セパレータ107を2枚と、対極用セパレータ108を1枚有する。各セパレータ107および対極用セパレータ108は、多孔質であり、それぞれ、その細孔内に、電解質含有相(図示せず)を含む。
【0019】
電極リード106を有する集電体105の上に形成された正極101と、電極リード106を有する集電体105の上に形成された負極102とは、2枚のセパレータ107のうち1枚を挟んで対向するように重ね合わせられている。電極リード106を有する集電体111の上に形成された参照極103は、負極102を挟んで正極1と反対側に配置され、かつ、負極102との間に、もう1枚のセパレータ107を挟んで、負極102と重ね合わせられている。電極リード106を有する集電体105の上に形成された対極104は、参照極103を挟んで負極102と反対側に配置され、かつ、参照極103との間に、対極用セパレータ108を挟んで、参照極103と重ね合わせられている。これらの積層体が、2枚の外装体109で封止されて、二次電池110が形成されている。
【0020】
二次電池110を構成する各構成要素の形成材料、構成等は、特に限定されないが、例えば以下のとおりである。
【0021】
正極101は、例えば、正極活物質、導電性付与剤、および接着剤を有する。前記正極活物質としては、金属酸化物、有機ラジカル化合物、ジスルフィド化合物等を用いることができる。前記金属酸化物としては、例えば、LiMnO、LiMn(0<x<2)等のマンガン酸リチウムまたはスピネル構造を有するマンガン酸リチウム、MnO、LiCoO、LiNiO、Li(0<y<2)、オリビン系材料LiFePO、スピネル構造中のMnの一部を他の遷移金属で置換した材料LiNi0.5Mn1.5、LiCr0.5Mn1.5、LiCo0.5Mn1.5、LiCoMnO、LiNi0.5Mn0.5、LiNi0.33Mn0.33Co0.33、LiNi0.8Co0.2、LiN0.5Mn1.5−zTi(0<z<1.5)、等が挙げられる。前記有機ラジカル化合物としては、酸化状態において、下記反応式(A)中の式(1)で示されるN−オキソ−アンモニウムカチオン部分構造をとり、還元状態において、下記反応式(A)中の式(2)で示されるニトロキシルラジカル部分構造をとるニトロキシル化合物等が挙げられる。前記ジスルフィド化合物としては、ジチオグリコール、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、S−トリアジン−2,4,6−トリチオール等が挙げられる。これらの正極活物質は、単独で用いても良いし、二種類以上併用しても良い。
【0022】
【化1】

【0023】
前記導電性付与剤の材料としては、例えば、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック等の炭素質微粒子、カーボンナノチューブ等の炭素繊維、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアセン等の導電性高分子が挙げられる。
【0024】
前記接着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフロライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフロライド−テトラフルオロエチレン共重合体、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、部分カルボキシ化セルロース、各種ポリウレタン等の樹脂バインダーが挙げられる。
【0025】
負極102は、例えば、負極活物質、導電性付与剤、および接着剤を有する。前記負極活物質としては、リチウム金属やリチウム合金、グラファイト等を用いることができる。これらの形状は特に限定されず、例えば、薄膜状、粉末を固めたもの、繊維状のもの、フレーク状のもの等であっても良い。また、これらの負極活物質は、単独で用いても良いし、二種類以上併用しても良い。
【0026】
参照極103としては、リチウム金属等を用いることができる。リチウム金属による参照極103の作製方法は、特に限定されないが、例えば、参照極集電体111表面の一部に対する、リチウム金属の圧着、張り付け、電析、またはコーティング等が挙げられる。
【0027】
対極104の形成材料は、特に限定されないが、炭素材料、リチウム金属、白金等が挙げられ、炭素材料が好ましい。炭素材料は、比表面積が大きいため、比抵抗が小さく、対極の投影面積を小さくすることができる。前記炭素材料としては、グラファイト、活性炭等が挙げられ、活性炭が特に好ましい。活性炭は、炭素材料の中でも特に比表面積が大きいため、さらに比抵抗が小さく、対極の投影面積をさらに小さくすることができる。なお、対極104の比抵抗は、好ましくは200Ω・cm以下、より好ましくは100Ω・cm以下、特に好ましくは50Ω・cm以下である。対極104の比抵抗の下限は特に限定されないが、例えば、0Ω・cmを超える値である。
【0028】
集電体105としては、ニッケル、アルミニウム、銅、金、銀、アルミニウム合金、ステンレス、炭素等からなるメッシュ等を用いることができる。
【0029】
電極リード106としては、アルミ金属、ニッケル金属等を用いることができる。
【0030】
セパレータ107としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等から形成された多孔質フィルム、セルロース膜、不織布等を用いることができる。セパレータ107により、正極101、負極102、参照極103を互いに非接触状態とすることができる。
【0031】
前記電解質含有相は、水系の相でも非水系の相でも良いが、非水系の相であることが好ましい。また、前記電解質含有相は、固体でも液体でも良く、固体の場合は、例えば、ゲル(ゲル電解質)等であっても良い。前記電解質含有相は、電解質自体により形成されていても良いし、電解質を含む溶液(電解液)または電解質を含む固体であっても良い。また、前記電解質含有相が、固体(いわゆる固体電解質、ゲル電解質等)である場合は、セパレータ107または対極用セパレータ108の一部または全部を省略することも可能である。すなわち、この場合、セパレータ107または対極用セパレータ108に代えて前記電解質含有相自体を電極間に介在させ、セパレータとしても良い。
【0032】
セパレータ107または対極用セパレータ108中に前記電解質含有相を含ませて用いる場合は、前記電解質含有相は、固体でも液体でも良いが、電解質を含む溶液(電解液)であることが好ましい。正極101、負極102、参照極103、および対極104の各電極に前記電解液が含浸し、前記各電極に前記電解液が接触することで、前記電解液による前記各電極間の荷電担体輸送を行うことができる。前記荷電担体は、例えば、イオンまたは電子である。
【0033】
前記電解液のイオン伝導性は、例えば、20℃で10−5〜10−1S/cmである。電解液としては、例えば、電解質塩を溶剤に溶解した有機溶媒を利用することができる。前記電解質塩は特に限定されず、公知の電解質塩等を適宜用いることができる。前記電解質は、例えば、リチウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。前記リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiClO、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、Li(CFSOC、Li(CSOC等が挙げられる。なお、LiN(CFSOを、以下において、「LiTFSI」ということがある。また、LiN(CSOを、以下において、「LiBETI」ということがある。
【0034】
非水系の前記電解液に用いる有機溶媒としては、例えば、カーボネート、エステル、エーテル、スルホン、アミド等を用いることができる。前記カーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等が挙げられる。前記エステルとしては、例えば、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。前記エーテルとしては、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキソラン等が挙げられる。前記スルホンとしては、例えば、スルホラン等が挙げられる。前記アミドとしては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。これらの有機溶媒は、単独で用いても良いし、二種類以上併用しても良い。
【0035】
前記電解液は、例えば、高分子化合物のゲルに含浸させて、ゲル電解質として用いることもできる。前記高分子化合物としては、例えば、フッ化ビニリデン系重合体、アクリロニトリル系重合体等が挙げられる。前記フッ化ビニリデン系重合体としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン共重合体、フッ化ビニリデン−モノフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン三元共重合体等が挙げられる。前記アクリロニトリル系重合体としては、例えば、アクリロニトリル−メチルメタクリレート共重合体、アクリロニトリル−メチルアクリレート共重合体、アクリロニトリル−エチルメタクリレート共重合体、アクリロニトリル−エチルアクリレート共重合体、アクリロニトリル−メタクリル酸共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸共重合体、アクリロニトリル−ビニルアセテート共重合体等が挙げられる。さらに、前記高分子化合物としては、ポリエチレンオキサイド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体、これらのアクリレート体やメタクリレート体の重合体等も挙げられる。これらの高分子化合物は、単独で用いても良いし、二種類以上併用しても良い。
【0036】
対極用セパレータ108としては、特に限定されないが、セルロース、ガラス繊維(ガラスフィルター)、ろ紙等を用いることができ、ろ紙が特に好ましい。対極用セパレータ108として、ろ紙を用いる場合は、前記ろ紙は、1枚でも、2枚以上の任意の枚数を重ねて用いても良い。前記ろ紙の枚数により、対極104と作用極103との間の距離を調節することができる。また、ろ紙は、電解液がしみ込みやすいため、セパレータ108の厚みが大きくても、電解液中のイオンの移動が阻害されにくい。
【0037】
外装体109は、アルミニウム箔等の金属箔と合成樹脂フィルムとから形成されたラミネートフィルム等を用いることができる。コスト面、使い勝手等から、アルミニウム箔と合成樹脂フィルムとから形成されたアルミラミネート外装体が特に好ましい。
【0038】
参照極集電体111は、特に限定されないが、例えば、白金、ニッケル、銅、鉄、ステンレス等の金属箔、または金属線等を用いることができる。
【0039】
[抵抗測定方法および劣化程度診断方法]
本発明の二次電池は、前述のとおり、正極および負極とは別に、参照極および対極を有する。これにより、正極および負極の抵抗を個別に、かつ精度良く測定できて、劣化の程度を容易にかつ精度良く診断可能である。
【0040】
本発明による、二次電池の正極または負極の抵抗測定方法は、前記のとおり、本発明の二次電池の、正極または負極を作用極とし、さらに参照極と対極を加えた3電極を用いて、各周波数における交流インピーダンスを測定し(交流インピーダンス測定工程)、前記交流インピーダンスに基づき、前記正極または前記負極の抵抗を算出する(抵抗算出工程)。前記交流インピーダンス測定工程は、前記3電極を用いる以外は特に限定されず、例えば、通常の交流インピーダンス測定法と同様にして行うことができる。前記抵抗算出工程も特に限定されないが、例えば、各周波数における前記交流インピーダンス測定結果に基づいてナイキスト線図をプロットし、同図中に描かれた半円の直径の値を電荷移動抵抗とすることができる。
【0041】
本発明における、前記正極または前記負極の劣化程度診断方法は、前記本発明の二次電池の正極または負極の抵抗測定方法を用いて、例えば、以下のようにして行うことができる。すなわち、まず、前記本発明の二次電池に対し、充電および放電の少なくとも一方を所定の時間および所定の回数行った後の前記正極または前記負極の抵抗を、前記本発明の測定方法により測定する(抵抗測定工程)。さらに、前記抵抗測定工程において測定した前記正極または前記負極の抵抗を、前記充電および放電の少なくとも一方を行う前の抵抗と比較することで、前記正極または前記負極の劣化の程度を診断する(劣化程度診断工程)。前記充放電(充電および放電の少なくとも一方)における、前記「所定の時間」および「所定の回数」は、特に限定されない。前記充放電を行う前の抵抗は、例えば、あらかじめ、前記本発明の測定方法により測定しておいても良い。また、例えば、前記充放電を行う前の抵抗の値が既知である場合、その値を用いても良い。
【実施例】
【0042】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により、なんら限定されない。
【0043】
[実施例1]
以下のようにして、本発明の二次電池を製造した。
【0044】
まず、正極活物質としてのポリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノキシルメタクリレート)(PTMA)2.1g、導電付与剤としての炭素材料0.63g、接着剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)0.24gとポリテトラフルオロエチレン(PTFE)0.03g、および水15mlを、ホモジェナイザーに撹拌し、均一なスラリーを調整した。なお、前記PTMAは、ニトロキシル化合物であり、有機ラジカル化合物である。つぎに、このスラリーを、正極集電体であるアルミメッシュ上に塗布し、さらに80℃で5分間乾燥し、さらに、ロールプレス機により200μmの厚さに加工した。このようにして得られた電極を正極として用いた。
【0045】
なお、本実施例で用いた前記ニトロキシル高分子(ポリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノキシルメタクリレート)(PTMA))は、特開2009−238612号公報に記載の方法に従って合成した。すなわち、まず、還流管を付けた100mlナスフラスコ中に、2,2,6,6−テトラメチルピペリジンメタクリレートモノマー20g(0.089mol)を入れ、乾燥テトラヒドロフラン80mlに溶解させた。そこへ、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.29g(0.00187mol)(モノマー/AIBN=50/l)を加え、アルゴン雰囲気下、75〜80℃で攪拌しながら反応させた。6時間反応後、室温まで放冷した。その後、へキサン中でポリマーを析出させて濾別し、減圧乾燥してポリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジンメタクリレート)18g(収率90%)を得た。つぎに、得られたポリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジンメタクリレート)10gを乾操ジクロロメタン100mlに溶解させた。ここへm−クロロ過安息香酸15.2g(0.088mol)のジクロロメタン溶液100mlを室温で攪拌しながら1時間かけて滴下した。さらに6時間攪拌後、沈殿したm−クロロ安息香酸を濾別して除き、ろ液を炭酸ナトリウム水溶液および水で洗浄後、ジクロロメタンを留去した。残った固形分を粉砕し、得られた粉末をジエチルカーボネート(DEC)で洗浄し、減圧下乾燥させて、ポリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノキシルメタクリレート)(PTMA)7.2gを得た(収率68.2%、茶褐色粉末)。得られた高分子化合物の構造はIRで確認した。また、GPCにより測定した結果、重量平均分子量Mw=89000、分散度Mw/Mn=3.30という値が得られた。
【0046】
前記のようにして得られた正極を、縦横22×20mmの長方形に打ち抜き、アルミメッシュ面に長さ25mm、幅0.4mmのアルミ製の電極リードを溶接した。
【0047】
一方、負極は、以下のようにして作製した。すなわち、まず、難黒鉛化炭素スラリー(日立化成工業社製、GA1100)を、集電体である銅メッシュ上に塗布し、さらに80℃で5分間乾燥した。これをロールプレス機により50μmの厚さに加工し、負極を作製した。得られた負極を縦横23×21mmの長方形に打ち抜き、銅メッシュ面に長さ25mm、幅0.4mmのニッケル製の電極リードを溶接した。
【0048】
参照極としては、リチウム張り合わせ銅箔(リチウム厚30μm)を8×5mmの長方形に打ち抜いたものに、長さ25mm、幅0.4mmのニッケル製の電極リードを銅箔面に溶接したものを用いた。
【0049】
対極は、以下のようにして作製した。すなわち、まず、活性炭スラリー(日立化成工業社製、GA1200)を集電体であるアルミメッシュ上に塗布し、さらに80℃で5分間乾燥した。これをロールプレス機により100μmの厚さに加工し、対極を作製した。このようにして得られた対極(負対極)を、縦横23×21mmの長方形に打ち抜き、アルミメッシュ面に長さ25mm、幅0.4mmのアルミ製の電極リードを溶接した。
【0050】
前記正極、多孔質ポリプロピレンセパレータ(27×25mmの長方形)、前記負極、多孔質ポリプロピレンセパレータ(27×25mmの長方形)、前記参照極、ガラス繊維ろ紙(27×25mmの長方形)、前記対極の順に重ね合わせ、蓄電体を作製した。そして、2枚の熱融着可能なアルミラミネートフィルム(縦35mm×横40mm×厚さ0.12mm)の三方を熱融着することにより袋状のアルミラミネートケースとし、その中に前記蓄電体を入れた。さらに、前記アルミラミネートケースの中に、電解液[1.0mol/LのLiPF電解質塩を含むエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート混合溶液(混合体積比3:7)]を500mL加えた。このとき、前記アルミ製電極リードおよびニッケル製電極リードの端を2.7cm、前記アルミラミネートケースの端部から突出させて(外に出して)おいた。その状態で、前記アルミラミネートケースの未溶着の一辺を、1.6mmHg(2.1×10Pa)の低圧化で熱融着した。これにより、前記各電極を含む前記蓄電体と前記電解液とを、前記アルミラミネートケース中に完全に密閉した。このようにして、本実施例(実施例1)の二次電池を製造した。
【0051】
[実施例2]
実施例1の対極に代えて、リチウム張り合わせ銅箔(リチウム厚30μm)を23×21mmの長方形に打ち抜いたものに、長さ25mm、幅0.4mmのニッケル製の電極リードを銅箔面に溶接したものを対極として用いる以外は、実施例1と同様にして、本実施例(実施例2)の二次電池を製造した。
【0052】
[実施例3(抵抗測定)]
実施例1および実施例2の二次電池中の前記正極を作用極とし、これに前記参照極および前記対極を加えた3極を用いて、交流インピーダンス法により、10mHz〜100kHzの範囲におけるインピーダンスを測定し、ナイキスト線図およびボード線図を描いた。各周波数のインピーダンスは、インピーダンス測定装置(ソーラトロン社製1260型)を使用し、印加電圧は−10〜10mVの範囲で行った。図3に、前記ナイキスト線図および前記ボード線図を示す。図3(a)は、ナイキスト線図であり、図3(b)は、ボード線図である。図3(a)のナイキスト線図のx軸は、インピーダンスの実部(Ω)を表し、y軸は、インピーダンスの虚部(Ω)を表す。図3(b)のボード線図(上図)のx軸は、周波数(Hz)を表し、y軸は、インピーダンスの絶対値(Ω)を表す。図3(b)のボード線図(下図)のx軸は、周波数(Hz)を表し、y軸は、位相差(°)を表す。図3(a)のナイキスト線図に描かれた半円の直径の長さが、電荷移動抵抗の大きさを示す。
【0053】
図3に示す通り、実施例1および実施例2のいずれも、正極のインピーダンス測定に基づいて、正極の抵抗(電荷移動抵抗)の大きさを測定することができた。また、ボード線図(下図)より、実施例2では、10〜10Hzにおいて2つのピークが現れたが、実施例1では前記ピークは観測されなかった。また、図3(a)に示すとおり、実施例1における抵抗の測定値は、実施例2よりも小さかった。すなわち、実施例1のほうが、実施例2よりも、さらに精度の良い測定が可能であった。これは、実施例1の対極(活性炭)が、実施例2のリチウム対極よりも抵抗が小さく、作用極である正極と比較しても抵抗が小さいために、対極の抵抗の影響が小さかったためと考えられる。
【0054】
[実施例4(正極および負極の個別の抵抗測定)]
実施例1の二次電池中の正極と負極とを、個別に10mHz〜100kHzの範囲において交流インピーダンスを測定し、ナイキスト線図およびボード線図を描いた。各周波数の交流インピーダンスは、インピーダンス測定装置(ソーラトロン社製1260型)を使用し、印加電圧は−10〜10mVの範囲で行った。また、前記正極または前記負極を作用極とし、さらに参照極と対極を加えた3電極を用いて測定した。図4に、ナイキスト線図とボード線図を示す。図4(a)は、ナイキスト線図であり、図4(b)は、ボード線図である。図4(a)のナイキスト線図のx軸は、インピーダンスの実部(Ω)を表し、y軸は、インピーダンスの虚部(Ω)を表す。図4(b)のボード線図(上図)のx軸は、周波数(Hz)を表し、y軸は、インピーダンスの絶対値(Ω)を表す。図4(b)のボード線図(下図)のx軸は、周波数(Hz)を表し、y軸は、位相差(°)を表す。
【0055】
図4に示すとおり、実施例1の正極の電荷移動抵抗は46.0Ω、負極の電荷移動抵抗は53.0Ωであった。このように、本実施例によれば、正極および負極のそれぞれの抵抗を、個別に、かつ精度良く測定可能であった。
【0056】
さらに、同様の方法で、実施例の二次電池の前記正極および前記負極の、使用前(充放電前)および使用後(所定の時間および所定の回数の充放電後)の交流インピーダンス測定に基づき、抵抗を、個別に算出した。前記正極および前記負極について、前記使用前後の抵抗の測定値(算出値)をそれぞれ比較することにより、前記正極および前記負極の個別の劣化の程度を、容易にかつ精度良く診断可能であった。
【符号の説明】
【0057】
101 正極
102 負極
103 参照極
104 対極
105 集電体
106 電極リード
107 セパレータ
108 対極用セパレータ
109 外装体
110 二次電池
111 参照極集電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極および電解質含有相を含み、
前記正極と前記負極が前記電解質含有相を介して電荷を授受することにより、充放電可能であり、
さらに、参照極および対極を含み、
前記参照極および前記対極は、前記電解質含有相を介して互いに電気的に接続され、かつ、前記電解質含有相を介して前記正極および前記負極と電気的に接続されていることを特徴とする二次電池。
【請求項2】
前記電解質含有相が、非水系の相であることを特徴とする請求項1記載の二次電池。
【請求項3】
前記対極が、炭素材料により形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の二次電池。
【請求項4】
前記炭素材料が、活性炭であることを特徴とする請求項3記載の二次電池。
【請求項5】
前記対極の比抵抗が、200Ω・cm以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項6】
前記参照極が、リチウム金属により形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項7】
さらに、対極用セパレータを含み、
前記対極用セパレータは、多孔質であり、かつ、その孔内に前記電解質含有相を含み、
前記対極は、前記対極用セパレータを介して、前記正極、前記負極および前記参照極と非接触状態で配置されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項8】
前記対極用セパレータが、ろ紙であることを特徴とする請求項7記載の二次電池。
【請求項9】
前記正極または前記負極を作用極として用い、さらに、前記参照極および前記対極を用いて前記正極または前記負極の交流インピーダンスを測定する交流インピーダンス測定工程と、
前記交流インピーダンスに基づき、前記正極または前記負極の抵抗を算出する抵抗算出工程を含むことを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の二次電池の前記正極または前記負極の抵抗測定方法。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか一項に記載の二次電池に対し、充電および放電の少なくとも一方を所定の時間および所定の回数行った後の前記正極または前記負極の抵抗を、請求項9記載の測定方法により測定する抵抗測定工程と、
前記抵抗測定工程において測定した前記正極または前記負極の抵抗を、前記充電および放電の少なくとも一方を行う前の抵抗と比較することで、前記正極または前記負極の劣化の程度を診断する劣化程度診断工程を含むことを特徴とする、前記二次電池の前記正極または前記負極の劣化程度診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−79582(P2012−79582A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224834(P2010−224834)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】