説明

二次電池の劣化管理システム

【課題】二次電池のSOCおよび電池温度の組合せに従った学習領域毎に学習された直流抵抗および拡散係数のパラメータ変化率に基づいて、二次電池の劣化を適切に評価する。
【解決手段】変化率マップ141は、直流抵抗のパラメータ変化率のオンライン学習値grlを学習領域毎に記憶する。変化率マップ142は、拡散係数のパラメータ変化率のオンライン学習値gdlを学習領域毎に記憶する。変化率マップ141,142に記憶されたオンライン学習値が反映された電池モデル125を用いて、二次電池が所定のパターン電流に従って充放電したときの電圧挙動をシミュレーションするための仮想試験が実行される。劣化指標算出部250は、学習領域毎に実行された仮想試験の結果に基づいて、二次電池の劣化指標値Pdgを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、二次電池の劣化管理システムに関し、より特定的には、二次電池の内部状態を推定可能な電池モデル中のパラメータ値の変化に基づく二次電池の劣化管理に関する。
【背景技術】
【0002】
再充電可能な二次電池によって負荷へ電源を供給し、かつ必要に応じて当該負荷の運転中にも当該二次電池を充電可能な構成とした電源システムが用いられている。代表的には、二次電池によって駆動される電動機を駆動力源として備えた、ハイブリッド自動車や電気自動車等の電動車両がこのような電源システムを搭載している。
【0003】
電動車両の電源システムでは、二次電池の蓄積電力が駆動力源としての電動機の駆動電力として用いられるほか、この電動機が回生発電したときの発電電力やエンジンの回転に伴って発電する発電機の発電電力等によってこの二次電池が充電される。したがって、二次電池の充放電管理において、満充電状態に対する充電率(SOC:State of Charge)を正確に推定することが要求される。すなわち、二次電池の充電率を、充放電中や充放電直後にも正確に逐次推定して、二次電池の過剰な充放電を制限する必要がある。また、二次電池の電池パラメータ(内部抵抗等)は、使用に伴い徐々に変化(劣化)していくので、このような経年劣化に対応して、二次電池の状態を精度よく推定することが求められる。
【0004】
たとえば、特許文献1(特開2008−241246号公報)、特許文献2(特開2010−60384号公報)および特許文献3(特開2010−60406号公報)には、二次電池の活物質内部での反応関与物質(代表的には、リチウムイオン二次電池におけるリチウム)の濃度分布を推定するための拡散方程式モデルを含む電池モデルによって、電池内部でのリチウム濃度分布を含む内部状態に基づいて二次電池のSOCを推定することが記載されている。
【0005】
さらに、特許文献1〜3には、この電池モデル式中のパラメータである直流抵抗および拡散係数(拡散抵抗)について、二次電池の使用中にオンラインでパラメータ同定を実行することが記載されている。そして、パラメータ同定によって求められた現在のパラメータ値について、初期状態値からの変化率(パラメータ変化率)を求めることによって、二次電池の劣化を評価することが記載されている。
【0006】
また、特許文献4(特開2011−15520号公報)には、特許文献1〜3に従った電池モデルを用いて車両に搭載された二次電池の現在の状態を推定する際に、パラメータ変化率を学習することが記載されている。特に、特許文献1〜3と同様の直流抵抗のパラメータ変化率および拡散係数のパラメータ変化率について、電池温度およびSOCによって区分されたマップを用いて、オンラインで学習することが記載されている。これにより、内部抵抗の挙動が電池温度およびSOCによって変化することに対応させて、パラメータ変化率を高精度に推定することができる。この結果、電池モデル式におけるパラメータ値の誤差を抑制することにより、SOCを含む二次電池の状態の推定誤差を減少することができる。
【0007】
さらに、特許文献4では、車両外部の電源によって充電可能な車載二次電池について、当該電源による外部充電中に、所定の試験パターンに従った実際の充放電試験(以下、「I−V試験」とも称する)を実行することによって、二次電池の現在の直流抵抗および拡散係数を算出することが記載されている。さらに、この機会に算出された直流抵抗および拡散係数が反映された電池モデル式を用いて、I−V試験をソフトウェア上で模擬的に実行することにより、二次電池の内部抵抗の増加率を算出することが記載されている。
【0008】
特許文献5(特開2007−5304号公報)には、二次電池に関するモデルパラメータを回帰分析によって推定する際に、時間重み係数の最適な値を決定することによる可変忘却係数を導入することが記載されている。これにより、最近得られたデータに早期な影響を与えるようにして、パラメータを推定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−241246号公報
【特許文献2】特開2010−60384号公報
【特許文献3】特開2010−60406号公報
【特許文献4】特開2011−15520号公報
【特許文献5】特開2007−5304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献4では、外部充電の際に実際のI−V試験によって求められた直流抵抗および拡散係数を反映した電池モデルを用いて、ソフトウェア上で仮想的に実行されたI−V試験(以下、「仮想I−V試験」とも称する)によって、内部抵抗を評価することができる。
【0011】
しかしながら、仮想I−V試験の際に電池モデル式に反映される直流抵抗および拡散係数は、外部充電の際に求められたものに止まるので、広いSOC領域および温度領域で使用される二次電池に対しては、必ずしも満足な劣化管理が実行できるとは限らない。
【0012】
また、特許文献4では二次電池の使用時に、SOC領域および電池温度領域の組合せによって規定される所定の学習領域毎に、拡散係数および直流抵抗についてのパラメータ変化率を求めることができる。二次電池の内部抵抗は、リチウムに代表される反応関与物質の電池内部での拡散の度合いを示す拡散係数と、電気化学反応に伴う電流発生の際の直流抵抗とによって決まることが知られている。
【0013】
しかしながら、実際の充放電の際の内部抵抗(以下、「総内部抵抗」とも称する)では、SOCおよび電池温度によって、総内部抵抗に占める拡散抵抗および直流抵抗のそれぞれの影響が異なってくる。このため、学習領域毎に、直流抵抗のパラメータ変化率と、拡散係数のパラメータ変化率とが求められても、これらのパラメータ変化率に直接的に基づいて、適切な二次電池の劣化評価を行なうことは困難である。一方で、種々のSOC範囲および電池温度領域に対応させて、内部抵抗(すなわち、総内部抵抗)を求めるために実機での充放電試験(I−V試験)を実行することは、コスト上負荷となるのみならず、外部充電中に充電を中断して各SOC毎に充放電試験を行うようにした場合には、充電時間が長くなるという問題が生じる。
【0014】
この発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、この発明の目的は、二次電池のSOCおよび電池温度の組合せに従った学習領域毎に学習された直流抵抗および拡散係数のパラメータ変化率に基づいて、二次電池の劣化評価を適切に実行することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明のある局面では、二次電池の劣化管理システムは、検出手段と、電池状態推定手段と、第1の記憶手段と、パラメータ変化率学習手段と、第2の記憶手段と、劣化評価手段とを備える。検出手段は、二次電池の電池電圧、電池電流および電池温度を検出する。電池状態推定手段は、電池電圧および電池電流の少なくとも一方を含むデータを用いて、SOCを少なくとも含む二次電池の状態量を推定するための電池モデルに従って状態量を逐次推定する。第1の記憶手段は、電池モデルで用いられるパラメータ群のうちの所定パラメータについて、SOCおよび電池温度の組み合わせによって規定された所定の学習領域毎に初期状態値を予め記憶する。パラメータ変化率学習手段は、二次電池の使用中に、検出手段によって検出されたデータと電池モデルとに基づくパラメータ同定によって、所定パラメータの初期状態値に対する現在のパラメータ値の比であるパラメータ変化率を逐次学習する。第2の記憶手段は、パラメータ変化率学習手段によって算出されたパラメータ変化率学習値を学習領域毎に記憶する。劣化評価手段は、学習領域毎に実行された、二次電池が所定の試験パターンに従って充電および放電の少なくとも一方を実行した際の二次電池の挙動を電池モデルを用いて求める仮想試験の結果に基づいて、二次電池の劣化度を評価する。
【0016】
好ましくは、劣化評価手段は、第2の記憶手段に記憶されたパラメータ変化率学習値に基づいて算出されたパラメータ値を所定パラメータに代入した電池モデルを用いた仮想試験の結果に基づいて、二次電池の劣化度を評価する
さらに好ましくは、劣化評価手段は、学習領域毎に、第2の記憶手段に記憶されたパラメータ変化率学習値に基づいて算出されたパラメータ値を所定パラメータに代入した電池モデルを用いた仮想試験を実行するための手段と、学習領域毎に、仮想試験の結果に基づいて所定の試験パターンにおける二次電池の内部抵抗値を算出するための手段と、学習領域毎に予め設定された内部抵抗値の基準値と、仮想試験の結果に基づいて算出された学習領域毎の内部抵抗値との、学習領域毎での比較に基づいて、二次電池の劣化度を示す指標値を算出するための手段とを含む。
【0017】
また好ましくは、劣化評価手段は、学習領域毎における仮想試験の結果に基づいて求められた、所定パラメータのパラメータ変化率に関する限界値と、第2の記憶手段に記憶されたパラメータ変化率学習値との学習領域毎での比較に基づいて、二次電池の劣化度を評価する。
【0018】
さらに好ましくは、所定のパラメータは、複数のパラメータを含む。劣化評価手段は、学習領域毎に、複数のパラメータのうちの第1のパラメータを除く他の各パラメータの値を初期状態値に固定する一方で、第1のパラメータをそれぞれ変化させて電池モデルを用いた仮想試験を複数回実行するための手段と、複数回の仮想試験の結果に基づいて、所定の試験パターンにおける二次電池の内部抵抗値が許容最大値であるときに対応する第1のパラメータのパラメータ変化率限界値を限界値として学習領域毎に求めるための手段と、第1のパラメータについての、第2の記憶手段に記憶されたパラメータ変化率学習値と、パラメータ変化率限界値との学習領域毎での比較に基づいて、二次電池の劣化度を示す指標値を算出するための手段とを含む。
【0019】
さらに好ましくは、劣化評価手段は、二次電池の使用前に複数回の仮想試験によって予め求められた学習領域毎のパラメータ変化率限界値を記憶するための第3の記憶手段を含む。指標値の算出において、学習領域毎のパラメータ変化率限界値は第3の記憶手段から読み出される。
【0020】
あるいは好ましくは、劣化評価手段は、学習領域毎での比較の結果を示す比較評価値を算出するための手段と、学習領域毎の比較評価値のうちの、内部抵抗値が最も高いことを示す最大値に従って指標値を算出するための指標値算出手段とを含む。
【0021】
さらに好ましくは、パラメータ変化率学習手段は、所定の学習条件が成立する毎に、その際の学習領域のパラメータ変化率学習値を更新する。劣化管理システムは、パラメータ変化率学習手段がパラメータ変化率学習値を更新した回数を学習領域毎に記憶するための第4の記憶手段をさらに備える。劣化評価手段は、学習領域毎での比較の結果を示す比較評価値を算出するための手段と、第4の記憶手段に記憶された学習領域毎の学習回数に基づいて選択された学習領域での比較評価値に従って指標値を算出するための手段とを含む。
【0022】
また、さらに好ましくは、パラメータ変化率学習手段は、所定の学習条件が成立する毎に、その際の学習領域のパラメータ変化率学習値を更新する。劣化管理システムは、パラメータ変化率学習手段がパラメータ変化率学習値を更新した回数を学習領域毎に記憶するための第4の記憶手段をさらに備える。劣化評価手段は、学習領域毎での比較の結果を示す比較評価値を算出するための手段と、学習領域毎の比較評価値についての、第4の記憶手段に記憶された学習領域毎の学習回数で重み付けした平均値に従って、指標値を算出するための手段とを含む。
【0023】
さらに好ましくは、パラメータ変化率学習手段は、時間経過に伴って第4の記憶手段に記憶された学習領域毎の学習回数を減少させるための手段をさらに含む。
【0024】
好ましくは、電池モデルは、二次電池内部の活物質の表面での反応関与物質濃度の関数である開放電圧、および二次電池内部での充放電電流による電圧変化量から表わされる電圧方程式と、活物質の内部における反応関与物質濃度の分布を規定する拡散方程式とを含む。そして、所定パラメータは、電圧方程式において直流抵抗を示すパラメータを含む。
【0025】
好ましくは、電池モデルは、二次電池内部の活物質の表面での反応関与物質濃度の関数である開放電圧、および二次電池内部での充放電電流による電圧変化量から表わされる電圧方程式と、活物質の内部における反応関与物質濃度の分布を規定する拡散方程式とを含む。そして、所定パラメータは、拡散方程式において反応関与物質の拡散速度を表わす拡散パラメータを含む。
【発明の効果】
【0026】
この発明によれば、二次電池のSOCおよび電池温度の組合せに従った学習領域毎に学習された直流抵抗および拡散係数のパラメータ変化率に基づいて、二次電池の劣化評価を簡易かつ適切に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態による二次電池の劣化管理システムが適用される二次電池を電源とする電源システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示したECUによる制御構成を説明するための機能ブロック図である。
【図3】電池モデルによって表現される二次電池の内部構成の概略を説明する概念図である。
【図4】局所的SOCの変化に対する開放電圧の変化特性を示すマップの構成例を示す概念図である。
【図5】活物質モデル内の平均リチウム濃度と充電率との関係を示すマップを説明する概念図である。
【図6】直流抵抗の初期状態値マップの構成を説明する概念図である。
【図7】拡散係数の初期状態値マップの構成を説明する概念図である。
【図8】本発明の実施の形態による電池モデル式を用いた二次電池の状態推定およびパラメータ変化率学習の制御処理手順を説明するフローチャートである。
【図9】直流抵抗のパラメータ変化率マップの構成を説明する概念図である。
【図10】拡散係数のパラメータ変化率マップの構成を説明する概念図である。
【図11】パラメータ変化率のマップ値(学習値)の更新処理のバリエーションを説明する概念図である。
【図12】実施の形態1による劣化評価部の機能を説明するための概略的な機能ブロック図である。
【図13】二次電池の総内部抵抗を評価するための充放電試験(I−V)試験における電池電流の波形図である。
【図14】I−V試験における電池電圧の波形図である。
【図15】劣化評価部による各学習領域に対する制御処理を説明するためのフローチャートである。
【図16】仮想I−V試験の制御処理手順を説明するフローチャートである。
【図17】実施の形態1の変形例による劣化評価部の機能を説明するための概略的な機能ブロック図である。
【図18】実施の形態1の変形例における二次電池の劣化管理システムにおける各学習領域に対する制御処理を説明するためのフローチャートである。
【図19】実施の形態2による二次電池の劣化管理システムにおける直流抵抗の学習回数マップの構成を説明する概念図である。
【図20】実施の形態2による二次電池の劣化管理システムにおける拡散係数の学習回数マップの構成を説明する概念図である。
【図21】実施の形態2による二次電池の劣化管理システムにおける学習回数の管理に関連する制御処理を説明するフローチャートである。
【図22】実施の形態2による二次電池の劣化管理システムにおける劣化評価指標算出部による制御処理を説明するフローチャートである。
【図23】実施の形態2の変形例による二次電池の劣化管理システムにおける劣化評価指標算出部による制御処理を説明するフローチャートである。
【図24】実施の形態3による二次電池の劣化管理システムにおける学習回数の管理に関連する制御処理を説明するフローチャートである。
【図25】実施の形態4による劣化評価部の機能を説明するための概略的な機能ブロック図である。
【図26】直流抵抗のパラメータ変化率の限界値を仮想I−V試験によって求めるための制御処理を説明するフローチャートである。
【図27】実施の形態4の変形例による劣化評価部の機能を説明するための概略的な機能ブロック図である。
【図28】拡散抵抗のパラメータ変化率の限界値を仮想I−V試験によって求めるための制御処理を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は原則的に繰返さないものとする。
【0029】
(全体構成)
図1は、本発明の実施の形態による二次電池の劣化管理システムが適用される、二次電池を電源とする電源システムの概略構成を示すブロック図である。
【0030】
図1を参照して、二次電池10は、負荷50の駆動電力を供給する。負荷50は、たと
えば、電気自動車やハイブリッド自動車等に搭載される走行用電動機で構成される。さらに、負荷50は、電動機の回生電力により二次電池10を充電する。二次電池10は、代表的にはリチウムイオン電池により構成される。
【0031】
二次電池10には、電池電流を測るための電流センサ20と、電池電圧を測定するための電圧センサ30と、電池温度を測定するための温度センサ40とが設けられている。以下では、電流センサ20による測定値を電池電流Ibと表記し、電圧センサ30による測定値を電池電流Vbと表記し、温度センサ40による測定値を電池温度Tbと表記する。
【0032】
センサ20〜40によって測定された電池電流Ib、電池電圧Vbおよび電池温度Tbは電子制御ユニット(ECU)100へ送出される。なお、電池電流Ibについては、二次電池10の放電時には正値(Ib>0)で示され、充電時には負値(Ib<0)で示されるものと定義する。
【0033】
ECU100は、図示しない、マイクロプロセッサ、メモリ、A/D変換器、D/A変換器等を含み、メモリに予め格納した所定プログラムの実行によって、センサ等からの入力信号・データを用いた所定の演算処理を実行して、演算処理結果に基づく出力信号・データを生成するように構成される。本実施の形態では、ECU100は、電流センサ20、電圧センサ30および温度センサ40によって検出された電池データ(Ib,Vb,Tbを総括的に表記するもの)に基づき、後述する電池モデルに従って二次電池10の内部状態を動的に推定して、充電率(SOC)に代表される電池情報を生成する。
【0034】
特に、ECU100は、二次電池10による負荷50の運転中、すなわち負荷50を二次電池10の供給電力で駆動する際や、負荷50からの回生電力により二次電池10を充電する際の実際の負荷運転中における電池データに基づいて、電池モデル式中のパラメータ推定を行なうことが可能である。
【0035】
ECU100によって求められた電池情報は、負荷制御装置60に送出される。負荷制御装置60は、電池情報に基づいて負荷50の駆動状態を制御するための制御指令を発生する。たとえば、二次電池10のSOCが低下した場合には、負荷50の使用電力を制限するような制御指令が生成される。逆に、二次電池10のSOCが高い場合には、負荷50による回生電力の発生を抑制するような制御指令が発生される。
【0036】
図2は、図1に示したECU100による制御構成を説明するための機能ブロック図である。図2には、特に、二次電池10の内部状態推定および劣化管理に関する構成が示される。
【0037】
図2を参照して、ECU100は、データ収集部110と、電池状態推定部120と、初期値記憶部130と、変化率記憶部140と、パラメータ変化率学習部150と、劣化評価部200とを含む。
【0038】
データ収集部110は、二次電池10の状態を推定するための、電池モデルに用いられるデータを収集する。具体的には、データ収集部110は、二次電池10の電池電圧Vbの検出値、電池電流Ibの検出値および電池温度Tbの検出値を、電圧センサ30、電流センサ20および温度センサ40からそれぞれ取得する。
【0039】
電池状態推定部120は、二次電池10の内部状態を動的に推定するための電池モデル125を含む。電池状態推定部120は、データ収集部110により取得されたデータ(たとえば、電池電圧Vbおよび電池温度Tb)を用いて、電池モデル125を構成する電池モデル式に従って二次電池10の内部状態(挙動)を推定する。さらに、電池状態推定部120は、その推定結果に基づいて、二次電池10の充電率(SOC)を推定する。
【0040】
初期値記憶部130は、電池モデル125に用いられるパラメータの初期状態値を記憶する。
【0041】
パラメータ変化率学習部150は、二次電池10の使用時において、初期値記憶部130に初期状態値が記憶されたパラメータについて、初期状態値に対する現在のパラメータ値の比率で示されるパラメータ変化率を推定する。すなわち、データ収集部110に取得されたデータを用いて、パラメータ変化率はオンラインで推定される。
【0042】
パラメータ変化率学習部150は、オンライン時には、パラメータ変化率の推定結果に基づいて、パラメータ変化率学習値を逐次算出する。変化率記憶部140は、パラメータ変化率学習部150によって算出されたパラメータ変化率学習値を記憶する。すなわち、変化率記憶部140に記憶されるパラメータ変化率学習値は、オンライン中に逐次更新される。なお、パラメータ変化率の推定およびその学習については、後程詳細に説明する。
【0043】
劣化評価部200は、二次電池10が所定の試験パターンに従って充電および/または放電するI−V試験における総内部抵抗(以下、「IV抵抗」とも称する)を評価することによって、二次電池10の劣化指標値Pdgを算出する。後程詳細に説明するように、劣化評価部200は、電池モデル125を用いて上記I−V試験を仮想的に実行することにより、種々の条件下で二次電池10を実際に充放電させることなく、IV抵抗を評価するように構成されている。
【0044】
(電池モデル式の説明)
次に、二次電池10の状態推定に用いられる電池モデルの一例を説明する。以下に説明する電池モデルは、二次電池内部での電気化学反応を考慮して内部挙動を動的に推定可能なように、非線形モデルを含んで構築されたものである。二次電池の種類は限定されるものではないが、以下の電池モデルでは、二次電池10としてリチウムイオン電池が適用されるものとして説明を進める。
【0045】
図3は、電池モデルによって表現される二次電池の内部構成の概略を説明する概念図である。
【0046】
図3を参照して、二次電池10は、負極12と、セパレータ14と、正極15とを含む。セパレータ14は、負極12および正極15の間に設けられた樹脂に電解液を浸透させることで構成される。
【0047】
負極12および正極15の各々は、球状の活物質18の集合体で構成される。二次電池10の放電時において、負極12の活物質18の界面上では、リチウムイオンLi+および電子e-を放出する化学反応が行なわれる。一方、正極15の活物質18の界面上ではリチウムイオンLi+および電子e-を吸収する化学反応が行なわれる。なお、二次電池10の充電時においては、電子e-の放出および吸収に関して、上記の反応とは逆の反応が行なわれる。
【0048】
負極12には、電子e-を吸収する電流コレクタ13が設けられ、正極15には、電子e-を放出する電流コレクタ16が設けられる。負極の電流コレクタ13は、代表的には銅で構成され、正極の電流コレクタ16は代表的にはアルミで構成される。電流コレクタ13には負極端子が設けられ、電流コレクタ16には正極端子が設けられる。セパレータ14を介したリチウムイオンLi+の授受によって、二次電池10では充放電が行なわれ、充電電流または放電電流が生じる。
【0049】
すなわち、二次電池内部の充放電状態は、電極(負極12および正極15)の活物質18におけるリチウム濃度分布によって異なる。このリチウムは、リチウムイオン電池における反応関与物質に相当する。
【0050】
負極12および正極15で電子e-の移動に対する純電気的な抵抗(純抵抗)Rdおよび、活物質界面での反応電流発生時に等価的に電気抵抗として作用する電荷移動抵抗(反応抵抗)Rrとを併せたものが、二次電池10をマクロに見た場合の直流抵抗に相当する。このマクロな直流抵抗を、以下では直流抵抗Raとも示す。また、活物質18内におけるリチウムLiの拡散は、拡散係数Dsに支配される。すなわち、拡散係数Dsは、拡散抵抗の大きさを示すパラメータである。
【0051】
引続き、電池モデル125の一例を説明する。なお、ここで説明する電池モデルでは、常温時における電気二重層キャパシタの影響が小さいことを考慮して、この影響を無視したモデルを構築している。さらに、電池モデルは、電極の単位極板面積あたりのモデルとして定義されるものとする。電極の単位極板面積あたりのモデルを用いることで、そのモデルを設計容量に対して一般化させることができる。
【0052】
まず、二次電池10の出力電圧である電池電圧Vについては、電池温度T、電池電流I、開放電圧(OCV)Uおよび、上述の二次電池10全体のマクロな直流抵抗Raを用いた下記の(1)式(電圧方程式)が成立する。ここで、電池電流Iは、単位極板面積あたりの電流値を示すものとする。すなわち、正負極端子に流れる電池電流(電流計により計測可能な電流値)をIbとし、電池の両面極板面積をSとすると、電池電流Iは、I=Ib/Sで定義される。以下、電池モデル中で述べる「電流」および「電流推定値」については、特に説明のない限り、上記の単位極板面積あたりの電流を指すものとする。
【0053】
【数1】

【0054】
θ1およびθ2は、それぞれ正極活物質表面における局所的SOC、および負極活物質表面における局所的SOCを表す。開放電圧OCVは、正極開放電位U1および負極開放電位U2の電位差として表わされる。
【0055】
図4に示すように、正極開放電位U1および負極開放電位U2は、それぞれ局所的SOCθ1および局所的SOCθ2に依存して変化する特性を有する。したがって、二次電池10の初期状態において、局所的SOCθ1と正極開放電位U1との関係、および局所的SOCθ2と負極開放電位U2との関係を測定することにより、局所的SOCθ1の変化に対する正極開放電位U1(θ1)の変化特性および局所的SOCθ2の変化に対する負極開放電位U2(θ2)の変化特性を予め記憶する特性マップを作成することができる。
【0056】
また、直流抵抗Rは、局所的SOC(θ1)、局所的SOC(θ2)および電池温度の変化に応じて変化する特性を有する。すなわち、直流抵抗Rは、SOC(より詳細には、局所的SOC(θ1,θ2))および電池温度Tの関数として示される。したがって、二次電池10の初期状態における実測実験結果に基づき、図6に示されるような直流抵抗Rの初期状態値マップ131を予め作成することができる。
【0057】
図6を参照して、初期状態値マップ131では、0(%)〜100(%)を複数に分割したSOC範囲と、−Ty(℃)〜Tx(℃)を複数に分割した温度範囲との組み合わせによって定義される領域毎に、直流抵抗Rの初期状態値が格納される。これらの複数の領域は、後述するパラメータ変化率の学習区分と一致するので、「学習領域」とも称する。以下、一例として、本実施の形態では各マップのSOC範囲としては、局所的SOC(θ1またはθ2)の範囲を用いるものとする。
【0058】
再び図3を参照して、上述のように、負極12および正極15それぞれの球状活物質モデルにおいて、活物質表面(電解液との界面)における局所的SOCθi(i=1,2)は、下記の(2)式で定義される。なお、局所的SOCθiと同じく、以下の説明では、iで表わされた添字は、1の場合は正極を示し、2の場合は負極を示すものと定義する。
【0059】
【数2】

【0060】
(2)式中において、cse,iは活物質界面におけるリチウム平均濃度であり、cs,i,maxは活物質における限界リチウム濃度である。
【0061】
球状モデルで取扱われる活物質内では、リチウム濃度cs,iは、半径方向に分布を有する。すなわち、球状と仮定された活物質内でのリチウム濃度分布は下記の(3)式に示す極座標系の拡散方程式により規定される。
【0062】
【数3】

【0063】
(3)式において、Ds,iは活物質におけるリチウムの拡散係数である。拡散係数Ds,iはSOCおよび電池温度に依存して変化する特性を有する。以下では、Ds,i(i=1,2)を総称する場合には、単に拡散係数Dsとも称する。
【0064】
拡散係数Dsについても、上述の直流抵抗Raと同様に、二次電池10の初期状態における実測実験結果に基づき、図7に示されるような初期状態値マップ132を予め作成することができる。
【0065】
図7を参照して、初期状態値マップ132では、初期状態値マップ131と共通に区分された学習領域毎に、拡散係数Dsの初期状態値が格納される。
【0066】
図6に示された初期状態値マップ131および図7に示された初期状態値マップ132によって、図2の初期値記憶部130が構成される。初期値記憶部130は、「第1の記憶手段」に対応する。
【0067】
(3)式の拡散方程式の境界条件は下記(4),(5)式のように設定される。
【0068】
【数4】

【0069】
(4)式は、活物質中心での濃度勾配が0であることを示している。(5)式では、活物質の電解液界面におけるリチウム濃度変化は、活物質表面からのリチウムが出入りすることに伴って変化することを意味している。
【0070】
(5)式においてrs,iは活物質半径を示し、εs,iは活物質の体積分率を示し、as,iは電極単位体積当りの活物質表面積を示す。これらの値は、電極の仕様、すなわち設計値より決定される。また、Fはファラデー定数である。
【0071】
さらに、(5)式中のjLiは単位体積・時間当りのリチウム生成量であり、簡単化のために電極厚さ方向で反応が均一であると仮定すると、電極厚さLiおよび単位極板面積あたりの電池電流Iを用いて下記(6)式で示される。
【0072】
【数5】

【0073】
電池電流Iまたは電池電圧Vを入力として、これら(1)〜(6)式を連立させて解くことによって、電圧推定値または電流推定値を算出しながら、二次電池10の内部状態を推定して、充電率を推定することが可能となる。
【0074】
この電池モデルを用いることにより、たとえば、電池電圧Vを入力として二次電池の充電率を推定することが可能となる。電池電圧Vを入力とする場合、充電率は、図5に示されるような、活物質モデル内の平均リチウム濃度と充電率との関係を示すマップを用いて算出される。すなわち、電池モデル式によって算出された活物質モデル内の平均リチウム濃度から、図5のマップに従って現在のSOCを推定することができる。
【0075】
ここで、図8を用いて、上述の電池モデルを用いた二次電池の状態推定の制御処理手順を説明する。図8に示される処理は、ECU100によって所定の演算周期ごとに実行される。
【0076】
図8には、二次電池の状態推定およびパラメータ変化率学習の両方の制御処理手順が示されるが、前半のステップS100〜S190による制御処理によって、図2に示した電池状態推定部120による二次電池10の状態推定が実現される。
【0077】
図8を参照して、ECU100は、ステップS100では、電圧センサ30により電池電圧Vbを測定する。ECU100は、ステップS110では、温度センサ40により電池温度Tbを測定する。今回の演算周期における電池電圧Vbおよび電池温度Tbは、電池モデル式中の電池電圧Vおよび電池温度Tとしてそれぞれ用いられる。なお、ECU100(データ収集部110)は、測定により得られる電池電流Ibについても収集している。
【0078】
ECU100は、ステップS120では、(2)式に従って、前回の演算周期におけるリチウム濃度分布cse,iに基づき、活物質表面の局所的SOCθi(θ1およびθ2)を算出する。
【0079】
さらに、ECU100は、ステップS130により、図4に示したような、局所的SOCθiに対する開放電位Ui(θi)の特性マップから、開放電位Ui(U1およびU2)を算出し、その算出した開放電位U1およびU2の電位差として、開放電圧推定値U♯を算出する。
【0080】
さらに、ECU100は、ステップS140により、ステップS130で算出された局所的SOCθおよび、測定された電池温度Tに基づいて、直流抵抗Raを求める。たとえば、初期状態値マップ131に従って、直流抵抗Raが決定される。
【0081】
ECU100は、さらに、ステップS150により、電池電圧V(V=Vb)と、算出した開放電圧推定値U♯および直流抵抗Raとを用いて、下記(7)式に基づいて電池電流の推定値Iteを算出する。
【0082】
【数6】

【0083】
次に、ECU100は、ステップS160により、電池電流推定値Iteを(6)式の電池電流Iに代入することにより、単位体積・時間当りのリチウム生成量jLiを算出する。この単位体積・時間当りのリチウム生成量jLiを(5)式の境界条件に用いて(3)式の拡散方程式を解くことにより、正負極それぞれの活物質内におけるリチウム濃度分布が決定される。なお(3)式における拡散係数Ds,iについても、SOC(局所的SOC)および電池温度に基づいて求められる。たとえば、初期状態値マップ132に従って、拡散係数Ds,iが決定される。
【0084】
ECU100は、(3)式の拡散方程式を解く際には、位置および時間により離散化した拡散方程式を用いて、活物質内部のリチウム濃度分布cs,i,k(t+Δt)(但しΔtは離散時間ステップ(演算実行周期に相当)を示し、kは半径方向に離散化した離散位置番号を表わす)を更新する(ステップS170)。拡散方程式を位置および時間により離散化する方法は公知であるので詳細な説明はここでは繰返さない。
【0085】
次にECU100は、ステップS180により、下記の(8)式に従って活物質内部の平均リチウム濃度csaveを算出する。但し、(8)式においてNは球状の活物質を半径方向に離散化した場合の分割数である。
【0086】
【数7】

【0087】
そして、ECU100は、ステップS190では、図5に示すような、活物質内の平均リチウム濃度csaveと二次電池10の充電率(SOC)との関係を示した、予め記憶されたマップを用いてSOCを算出する。
【0088】
このようにして、ECU100(電池状態推定部120)は、センサによって測定された電池電圧Vbおよび電池温度Tbから,二次電池10の充電率(SOC)、開放電圧推定値U♯、および単位極板面積当たりの電池電流の推定値を算出することができる。また、電池全体に流れる電流の推定値は、上述の電池電流Iの定義式より、単位極板面積あたりの電流推定値に電池の両面極板面積を乗じることにより算出できる。
【0089】
なお、以上の電池モデル式では、負極12および正極15のそれぞれについて、対応する別個の球状活物質モデルを設定した。ただし、ECUの演算負荷を軽減するために、負極12および正極15での平均した特性を有する単一の球状モデルを、正極負極間共通の活物質モデルとして使用してもよい。単一の球状モデルを使用する場合には、局所的SOCθ1およびθ2は共通の値となる。
【0090】
(パラメータ値の更新)
次に、電池モデル中のパラメータについて説明する。
【0091】
電池モデル式の複数のパラメータのいくつかは、二次電池の使用に伴う電池の劣化によって変化する。たとえば、上記直流抵抗Raは、電池の劣化によって次第に変化する。初期状態(代表的には新品時)における直流抵抗Ra(初期状態値)と、実際の直流抵抗Ra(現在のパラメータ値)との間の差が大きい場合には、SOCの推定誤差が生じやすくなる。
【0092】
同様に、電池の劣化によって、活物質内の反応関与物質の拡散速度が低下(すなわち拡散係数が低下)し、その結果、いわゆる拡散抵抗が増加する。拡散抵抗の増加は、特に大電流での充放電を継続するケースにおいて電池性能および電流−電圧特性に大きな影響を及ぼす。したがって、大電流で電池を充電あるいは放電する電動車両(ハイブリッド自動車、電気自動車等)においては拡散抵抗の変化、すなわち活物質における拡散係数の変化を推定することが好ましい。
【0093】
したがって、本実施の形態では、式(1)中の直流抵抗Raと式(3)中の拡散係数Dsについて、特許文献1〜4と同様にパラメータ変化率を逐次推定することによって、パラメータ値を更新する。
【0094】
まず、直流抵抗Raのパラメータ変化率について説明する。直流抵抗Raについて、初期状態値Ranからのパラメータ変化率grは、下記の(9)式により定義される。
【0095】
gr=Ra/Ran …(9)
パラメータ変化率学習部150は、直流抵抗Raのパラメータ変化率grを、以下に説明する忘却要素付きの逐次最小自乗法を用いて推定する。まず、忘却係数付きの逐次最小自乗法について説明する。
【0096】
逐次最小自乗法によれば、下記の(10)式で示す線形回帰モデルで表わされるシステムにおいて、(8)式中のパラメータΘは、(11)〜(13)式で示される時間更新式を、(14),(15)式の初期条件により逐次演算することによって推定される。各式においてパラメータΘの推定値は、Θ♯で示されている。
【0097】
【数8】

【0098】
【数9】

【0099】
【数10】

【0100】
(11),(13)式においてλは忘却係数であり、通常λ<1.0である。また、Pは共分散行列であり、(15)式の初期値P(0)は単位行列Iの対角要素に定数γを乗じた行列とし、γには通常102〜103程度の大きな値を用いる。パラメータΘ♯の初期値Θ♯0は通常ゼロベクトルとされる。
【0101】
このような、忘却要素付きの逐次最小自乗法を用いて、直流抵抗の変化率grを以下のようにして推定する。
【0102】
新品状態から経年変化(劣化)した二次電池の直流抵抗Raは、(9)式の定義により、Ra=gr・Ranと表わせるので、これを(1)式に代入し、さらに(10)式の形に書き直すと、電池モデル式に基づく線形回帰モデル式として(16)式が得られる。なお、(16)式中では、局所的SOCθ1,θ2を包括的に「θ」と表記している。
【0103】
【数11】

【0104】
二次電池10の使用中(オンライン時)には、(16)式の左辺の開放電圧U(θ)に、充電率推定処理の過程で推定した値を用い、Vには測定された電池電圧Vbを用いることにより、Yを計算することができる。(16)式の右辺については、電池温度Tbおよび局所的SOCθおよびθを引数として初期状態値マップ131を参照することにより、直流抵抗の初期状態値Ranが求められる。また、電池電流Iとしては、現在の電池電流(測定値)Ibから算出した単位極板面積あたりの電流値を代入することにより、Zを計算することができる。
【0105】
このように演算したYおよびZを用いて(11)〜(15)式の忘却要素付き逐次最小自乗法により、推定パラメータΘとして、直流抵抗Raのパラメータ変化率grを逐次推定することが可能となる。なお一括最小自乗法等の他方式の最小自乗法の適用も可能である。
【0106】
次に、拡散係数Dsのパラメータ変化率の推定について説明する。
拡散係数Dsについても、下記(17)式に従って、初期状態パラメータ値(Dsn)に対する変化率として、拡散係数のパラメータ変化率gdが定義される。
【0107】
gd=Ds/Dsn …(17)
ECU100(データ収集部110)は、拡散抵抗の影響が電池電圧に大きく表われる時間的範囲において、所定の周期で電池電圧Vb,電池電流Ibおよび電池温度Tbのデータを繰返して取得する。
【0108】
さらに、ECU100は、その範囲の電池データを用いて、パラメータ変化率をある候補値としたときの電池モデルによって電池電流の推定値Iteを求めるとともに、実際の電池電流Ibとの誤差を評価する評価関数を算出する。さらに、たとえば公知のGSM法(黄金分割法)を用いて、パラメータ変化率を切換えながら上記処理を所定の繰返し回数実行することにより、評価関数が最小となるようなパラメータ変化率を探索することができる。
【0109】
GSM法は二分法の一種であり、探索範囲および許容誤差を決めることにより、既知の探索関数で許容誤差を満たす最適値を求められるという特徴がある。ある使用条件および使用期間後におけるリチウムイオン電池の活物質内リチウム拡散係数は、予め劣化試験等により把握することが可能であり、最大でどの程度まで初期状態と比較して拡散係数が変化するかについては事前に予測することができる。
【0110】
したがって、最大限変化し得る変化率の範囲を探索範囲として設定することにより、拡散係数変化率推定に必要な演算時間を予め予測できるという利点が生じる。このことは、ハイブリッド自動車や電気自動車などに搭載された二次電池への適用に適している。なお、GSM法の詳細については公知であるため、詳細な説明についてはここでは繰返さない。なお、これらのパラメータ変化率の推定については、特許文献1〜3に、詳細に記載されている。
【0111】
本実施の形態では、パラメータ変化率について、特許文献4と同様に、二次電池10のSOC(局所的SOC)および電池温度Tbの組合せによって規定される所定の学習領域毎に学習するものとする。
【0112】
図9は、直流抵抗Raのパラメータ変化率を格納するための、変化率マップ141の概略的な構成を説明する概念図である。
【0113】
図9を参照して、変化率マップ141では、初期状態値マップ131,132と共通に設定された学習領域毎に、式(9)で定義されるパラメータ変化率grの学習値grlが格納される。パラメータ変化率学習値grlの初期値は、各学習領域とも1.0である。そして、パラメータ変化率学習部150は、所定の学習条件が成立すると、そのときのSOC(局所的SOC)および電池温度に対応する学習領域において、パラメータ変化率grの推定値に基づいて、マップ値(パラメータ変化率学習値grl)を更新する。
【0114】
たとえば、更新前のマップ値gl0および、学習条件の成立時におけるパラメータ変化率の推定値gに基づいて、下記(18)式に従って、新たな学習値gl1が算出される。なお、(18)式中の係数α(0<α<1)によって、学習値の変化が平滑化される。
【0115】
gl1=α・g+(1−α)・gl0 …(18)
図10には、拡散係数Dsのパラメータ変化率学習値gdlを格納するための、変化率マップ142の概略的な構成を説明する概念図である。
【0116】
図10を参照して、変化率マップ142では、初期状態値マップ131,132および変化率マップ141と共通に設定された学習領域毎に、式(17)で定義されるパラメータ変化率gdの学習値gdlが格納される。パラメータ変化率学習値gdlの初期値は、各学習領域とも1.0である。パラメータ変化率学習部150は、所定の学習条件が成立すると、そのときのSOC(局所的SOC)および電池温度に対応する学習領域において、パラメータ変化率gdの推定値に基づいて、マップ値(パラメータ変化率学習値gdl)を更新する。学習値の更新は、上記(18)式に従って実行することができる。
【0117】
図8に示された変化率マップ141および図9に示された変化率マップ142によって、図2の変化率記憶部140が構成される。変化率マップ141,142は、「第2の記憶手段」に対応する。
【0118】
図11は、変化率マップにおける学習値の更新についてのバリエーションを説明する概念図である。
【0119】
図11を参照して、学習領域AR1において、パラメータ変化率の学習条件が成立したものとする。このとき、少なくとも学習領域AR1のマップ値が、上記式(18)に従って更新される。
【0120】
さらに、学習領域AR1に隣接する学習領域AR2〜AR8のうちの少なくとも一部についても、マップ値を更新してもよい。このときには、式(18)中の係数αを、学習領域AR1におけるマップ値更新時と比較して、小さい値に設定することが好ましい。
【0121】
このようにすると、学習条件が成立した場合に、類似のSOC領域および/または電池温度領域においても、学習結果を反映することができる。
【0122】
次に、本発明の実施の形態による二次電池の評価システムにおけるパラメータ変化率学習の制御処理手順を説明する。
【0123】
再び図8を参照して、ECU100は、ステップS100〜S190と並列に、上述したパラメータ変化率gr,gdの推定処理を実行している。そして、ECU100は、ステップS200により、パラメータ変化率の学習条件が成立しているかどうかを判定する。
【0124】
直流抵抗Raは、電池電流に対し電池電圧が線形的に変化する領域において推定することが好ましい。したがって、このような二次電池10の充放電条件が成立しているときに、パラメータ変化率grの学習について、ステップS200をYES判定とするように学習条件を設定することができる。
【0125】
拡散係数Dsは、一旦発生した電池電流が0になった後における、活物質内のリチウムの拡散の度合いを示すものである。したがって、二次電池10が充放電した後に、電池電流が0になった後における電池電圧の変化に基づいて、拡散係数が算出される。したがって、電池電流=0の期間がある程度継続したときに、パラメータ変化率gdの学習について、ステップS200をYES判定とするように学習条件を設定することができる。
【0126】
このように、直流抵抗Raのパラメータ変化率grと、拡散係数Dsのパラメータ変化率gdとは、独立に学習することが好ましい。すなわち、ステップS200,S210の処理についても、直流抵抗Raおよび拡散係数Dsのそれぞれについて別個に実行される。
【0127】
ECU100は、学習条件が成立すると(S200のYES判定時)、ステップS210により、学習条件が成立したパラメータ変化率について、変化率マップ141または142に格納されたマップ値を更新する。これにより、少なくとも、学習条件成立時のSOC(局所SOC)および電池温度に対応した学習領域におけるパラメータ変化率学習値が更新される。
【0128】
ECU100は、一方、学習条件が不成立のとき(S200のNO判定時)には、ステップS210の処理をスキップする。したがって、変化率マップ141または142に格納された当該パラメータ変化率のマップ値は、維持される。
【0129】
このように、本実施の形態による二次電池の劣化評価システムでは、二次電池10の使用時に、電池モデル中の所定パラメータ(代表的には、直流抵抗Raおよび拡散係数Ds)について、初期状態値に対する変化(パラメータ変化率)がオンライン推定されていることを前提としている。そして、推定されたパラメータ変化率に基づいて、図9,図10に示した変化率マップ141,142を用いて、SOC(局所的SOC)および電池温度の組合せによって規定される所定の学習区分毎にパラメータ変化率が学習されている。
【0130】
(実施の形態1)
次に、本実施の形態1による二次電池の劣化評価システムにおける、劣化評価指標について詳細に説明する。
【0131】
図12は、実施の形態1による劣化評価部200(図2)の機能を説明するための概略的な機能ブロック図である。
【0132】
劣化評価部200は、変化率マップ141,142に格納されたパラメータ変化率(学習値)を直接用いるのではなく、電池モデル125を用いた仮想的なI−V試験に基づいて、学習領域を区分として独立に(すなわち、学習領域毎に)IV抵抗を算出する。
【0133】
図13および図14には、I−V試験を説明するための波形図が示される。
図13は、I−V試験における代表的な電流波形図である。図13を参照して、時刻ta以前では、電池電流は0であり、二次電池は緩和状態である。時刻taから時刻tbまでの期間、一定の電池電流が電池から出力される。このときの電池電流はたとえば1Cであり、時刻taから時刻tbまでの期間は、たとえば10秒である。1Cは、電池の全容量を1時間で充電もしくは放電する場合の電流値である。
【0134】
時刻tbから時刻tcまでの期間は、電池電流が0となる。この期間は、たとえば電池を緩和するための時間として予め定められた時間である。
【0135】
時刻tcから時刻tdまでの期間、一定の電池電流により二次電池が充電される。このときの電池電流はたとえば1Cであり、時刻tcから時刻tdまでの期間は、たとえば10秒である。時刻tdから時刻teまでの期間には、電池電流が0となる。この期間は、たとえば二次電池を緩和するための時間として予め定められた時間である。
【0136】
I−V試験では、所定パターンに基づいて放電および充電の少なくとも一方が実行される。たとえば、二次電池10を図13の充放電パターンに従って充放電させる際の電池電圧の挙動を測定することによって、実機でのI−V試験を実行できる。
【0137】
図14は、I−V試験の際の電池電圧の波形図である。図14には、図13に示した充放電のうちの放電に対応する期間の波形図が示される。
【0138】
図14を参照して、時刻ta〜tbにおいて、二次電池から電流が出力される(電池電流=I0)。二次電池から電池が出力される間、電池電圧が低下する。時刻tbにおいて電流の出力が停止される。これにより、電池電圧が回復する。
【0139】
このときの電圧挙動(電圧波形)から、I−V試験時の電圧変化ΔVが求められる。したがって、ΔVをI0で除算することによって、I−V試験時の総内部抵抗(IV抵抗)を求めることができる。同様に、I−V試験による充電時(時刻tc〜td)にも、電圧挙動からIV抵抗を求めることができる。
【0140】
I−V試験は、充電および放電の一方のみとしてもよく、充放電の両方を行ってもよい。充放電の両方を行ったときには、充電時のIV抵抗および充電時のIV抵抗のうちの最大値、あるいは両者の平均値によって、I−V試験によるIV抵抗値が求められる。
【0141】
再び図12を参照して、変化率マップ141には、二次電池10の使用時に逐次更新された、直流抵抗Raのパラメータ変化率grのオンライン学習値(grl)が、学習領域毎に格納されている。同様に、変化率マップ142には、拡散係数Dsのパラメータ変化率gdのオンライン学習値(gdl)が、学習領域毎に格納されている。
【0142】
本実施の形態による二次電池の劣化評価システムでは、実機のI−V試験ではなく、電池モデルを用いてI−V試験が模擬的に実行される。以下では、実際の充放電を伴わないソフトウェア上での上述のI−V試験について、「仮想I−V試験」とも称する。
【0143】
ECU100(劣化評価部200)は、上述のように学習領域毎に電池モデルを用いた仮想I−V試験を実行して、IV抵抗を算出する。このとき、電池モデルの式(1)中の直流抵抗Raおよび式(3)中の拡散係数Dsの値は、パラメータ変化率のオンライン学習値grl,gdlに基づいて算出される。すなわち、直流抵抗Raは、各学習領域において、初期状態値マップ131のマップ値(Ran)と変化率マップ141のマップ値との積に従って決定される(Ra=Ran・grl)。同様に、拡散係数Dsは、各学習領域において、初期状態値マップ132のマップ値(Dsn)と変化率マップ142のマップ値との積に従って決定される(Ds=Dsn・gdl)。
【0144】
このようにして、二次電池10の使用時に学習領域毎にオンライン学習されたパラメータ変化率に基づいて、仮想I−V試験によるIV抵抗値RIVを求めることができる。
【0145】
仮想I−V試験によって求められたIV抵抗値RIVは、格納マップ201に学習領域毎に格納される。すなわち、格納マップ201は、変化率マップ141,142と共通の学習領域毎にマップ値(仮想I−V試験での試験値)を記憶するように構成されている。
【0146】
ECU100(劣化評価部200)は、さらに、IV抵抗の基準値を記憶するための基準値マップ205を有する。基準値マップ205は、変化率マップ141,142と共通の学習領域毎に、IV抵抗の初期値RIVnをマップ値として記憶している。各学習領域における初期値RIVnは、たとえば、パラメータ変化率をgr=gd=1.0としたときの仮想的なI−V試験に基づいて予め求めておくことができる。あるいは、種々のSOC領域および温度領域において、実機によるI−V試験を予め実行することによって、初期値RIVnを求めることも可能である。
【0147】
演算部202は、学習領域毎に、格納マップに記憶されたIV抵抗値RIV(仮想試験値)と、基準値マップ205に記憶された基準値(初期値RIVn)との比較結果を示すIV抵抗変化率Krを算出する。IV抵抗変化率Krは「比較評価値」に対応する。
【0148】
図12の例では、Kr=RIV/RIVnで示される。すなわち、劣化が進行して内部抵抗が上昇する程、IV抵抗変化率Krが大きくなる。
【0149】
IV抵抗変化率Krは、学習領域毎に算出されて格納マップ210に記憶される。すなわち、格納マップ210は、変化率マップ141,142と共通の学習領域毎に、IV抵抗変化率Krをマップ値として記憶するように構成されている。
【0150】
図15には、劣化評価部200による上述した各学習領域に対する制御処理を説明するためのフローチャートが示される。
【0151】
図15を参照して、ECU100は、ステップS300により、仮想I−V試験を実行する学習領域を決定する。ステップS200では、全学習領域のうちの1つずつが順次選択される。これにより、対象学習領域が決定される。
【0152】
ECU100は、ステップS310により、ステップS300で決定された対象学習領域について、パラメータ変化率gr,gdのオンライン学習値grl,gdlを、変化率マップ141,142から読出す。
【0153】
さらに、ECU100は、ステップS320により、ステップS310で読出されたパラメータ変化率学習値grl,gdlおよび初期状態値Ran,Dsnから、仮想I−V試験での電池モデル中の直流抵抗Raおよび拡散係数Dsを決定する。
【0154】
ECU100は、ステップS330により、電池モデルを用いた仮想I−V試験を実行する。以下では、仮想I−V試験において、図14の電流波形に従った電池電流を電池モデルへの入力として、図14の電圧波形(電池電圧)を電池モデルの出力として求めることとする。
【0155】
図16には、ステップS330(仮想I−V試験)での制御処理手順をさらに詳細に説明するためのフローチャートが示される。
【0156】
図16を参照して、ECU100は、仮想I−V試験が開始されると、ステップS510により、電池モデルの式(1)の直流抵抗Raおよび式(3)の拡散係数Dsについて、ステップS320で決定された値を読込む。さらに、ECU100は、ステップS520により、仮想I−V試験における、時刻データtを管理する。具体的には、仮想I−V試験の開始時には、t=0に設定される。一方、仮想I−V試験の実行時には、以下のステップS530〜S560の処理が実行される毎に、時刻データtはΔtずつ増加される。
【0157】
ECU100は、ステップS530により、ステップS520で決定された時刻データtにおける、電池電流Iを入力する。この電池電流Iは、図14に示された、予め定められたI−V試験での電流波形に基づいて決定される。
【0158】
ECU100は、ステップS540では、ステップS530で決定された電池電流Iを式(6)に代入し、かつ式(5)に反映することによって、拡散方程式の境界条件を決定する。さらに、ECU100は、ステップS542により、ステップS540で決定された境界条件に従って、式(3)に従ってリチウム濃度分布を算出する。
【0159】
そして、ECU100は、ステップS546では、ステップS542で算出されたリチウム濃度分布に従って、式(2)に従って局所的SOCを算出する。ECU100は、ステップS548では、図8のステップS130と同様の処理により、ステップS546で算出された局所的SOCに基づいて、式(1)における開放電圧OCVの項を算出する。
【0160】
さらに、ECU100は、ステップS550では、ステップS548により算出されたOCV、ステップS530で決定された電池電流Iおよび、ステップS510で決定された直流抵抗Raを用いて、式(1)に従って電池電圧V(シミュレーション値)を算出する。そして、ECU100は、現在の時刻データtにおける電池電流Iおよび電池電圧Vを記憶する。
【0161】
さらに、ECU100は、ステップS570により、現在の時刻データtが仮想I−V試験の終了時に対応する所定値tfinに達しているか否かを判定する。所定値tfinは、たとえば、図14の時刻tbに対応する。
【0162】
時刻データtがtfinに達するまで(ステップS570のNO判定時)、ECU100は、時刻データtをステップS520によってΔtずつ増加させながら、ステップS530〜S570の処理を繰返し実行する。そして、時刻データtがtfinに達すると(S570のYES判定時)、ECU100は、ステップS580に処理を進めて、対象学習領域のI−V仮想試験を終了する。
【0163】
図16に示された一連の処理により、対象学習領域について、図14の電流波形に従う電池電流Iを電池モデルへの入力として、電池電圧Vの挙動をシミュレーションできることが理解される。
【0164】
再び図15を参照して、ECU100は、ステップS340により、仮想I−V試験における電池モデルの演算結果に基づいて、当該学習領域でのIV抵抗値RIVを算出する。たとえば、仮想I−V試験によって得られた電池電圧Vの挙動(電圧波形)から、図14での電圧変化量ΔVを求めることにより、ΔV/I0に従ってIV抵抗値RIVを算出することができる。
【0165】
ECU100は、ステップS350により、当該学習領域のIV抵抗の初期値RIVnを、基準値マップ205から取得する。さらに、ECU100は、ステップS360により、当該学習領域でのIV抵抗変化率Kr(Kr=RIV/RIVn)を算出するとともに、格納マップ210に記憶する。
【0166】
図15に示された一連の処理によって、各学習領域において仮想I−V試験の結果に基づいてIV抵抗を求めるとともに、IV抵抗の基準値(図15では初期値RIVn)との比較結果を算出することができる。
【0167】
再び図12を参照して、劣化指標算出部250は、全学習領域において、仮想I−V試験および、試験結果に基づくIV抵抗変化率Krの算出が完了すると、格納マップ210に記憶された全学習領域のIV抵抗変化率Krのうちの最大値を、劣化指標値Pdgとして出力する。なお、学習領域毎の仮想I−V試験については、一部の学習領域での実行を予め省略するように処理を変形することも可能である。
【0168】
このような構成とすることにより、本実施の形態1による二次電池の劣化評価システムでは、二次電池の使用中にパラメータ変化率をオンライン学習する際の学習領域毎での仮想I−V試験の結果に基づく総内部抵抗(IV抵抗)を評価することによって、二次電池の劣化を管理することができる。
【0169】
したがって、学習領域毎に直流抵抗Raおよび拡散係数Dsの変化率を高精度に推定するとともに、SOCおよび電池温度によって、総内部抵抗に占める直流抵抗Raおよび拡散係数Dsのそれぞれの影響が異なってくることを考慮して、二次電池の内部抵抗の上昇を適切に管理・評価することが可能となる。
【0170】
(実施の形態1の変形例)
図17は、実施の形態1の変形例による劣化評価部200の機能を説明するブロック図である。
【0171】
図17を図12と比較して、実施の形態1による変形例では、基準値マップ205が、IV抵抗の初期値RIVnではなく、許容最大値RIVmaxを学習領域毎に記憶する点が、実施の形態1と異なる。各学習領域のIV抵抗の許容最大値RIVmaxは、SOCおよび電池温度の領域に対応した負荷50の要求出力等に基づいて、予め決定することができる。
【0172】
一方、各学習領域における総内部抵抗(IV抵抗)の算出については、実施の形態1と同様であるので詳細な説明は繰返さない。
【0173】
演算部202は、学習領域毎に、仮想I−V試験で求められたIV抵抗値RIV(格納マップ)と、基準値マップ205に記憶された基準値(許容最大値RIVmax)との比較結果を示すIV抵抗劣化率Kr♯を算出する。図17の例では、Kr♯=RIV/RIVmaxで示される。すなわち、劣化が進行して内部抵抗が上昇する程、IV抵抗劣化率Kr♯が大きくなる。図17では、IV抵抗劣化率Kr♯が「比較評価値」に対応する。
【0174】
図18は、実施の形態1の変形例に従う、各学習領域に対する制御処理を説明するためのフローチャートである。
【0175】
図18を図15と比較して、実施の形態1の変形例では、図15に示したステップS350およびステップS360に代えて、ステップS350♯およびS360♯が実行される点で異なる。IV抵抗値を算出するためのステップS300〜S340による処理は、実施の形態1(図15)と同一であるので詳細な説明は繰返さない。
【0176】
ECU100は、ステップS350♯では、当該学習領域のIV抵抗の許容最大値RIVmaxを、基準値マップ205から取得する。さらに、ECU100は、ステップS360♯により、当該学習領域でのIV抵抗劣化率Kr♯(Kr♯=RIV/RIVmax)を算出するとともに、格納マップ210に記憶する。
【0177】
再び、図17を参照して、劣化指標算出部250は、全学習領域において、仮想I−V試験および、試験結果に基づくIV抵抗劣化率Kr♯の算出が完了すると、格納マップ210に記憶された全学習領域のIV抵抗劣化率Kr♯のうちの最大値を、劣化指標値Pdgとして出力する。
【0178】
このように、実施の形態1の変形例によっても、実施の形態1と同様に、二次電池の使用中にパラメータ変化率をオンライン学習する際の学習領域毎での仮想I−V試験の結果に基づく総内部抵抗(IV抵抗)を評価することによって、二次電池の劣化を管理することができる。
【0179】
(実施の形態2)
実施の形態1で説明したように、本実施の形態による二次電池の劣化評価システムは、二次電池の使用時に電池モデルのパラメータ変化率を学習することを前提としている。したがって、実施の形態2では、オンライン学習における各学習領域での学習回数を反映して、二次電池の劣化を評価をする。
【0180】
実施の形態2による二次電池の劣化管理システムでは、二次電池10の使用時において、各学習領域における学習回数をカウントするために、図19および図20に示される学習回数マップがさらに設けられる。
【0181】
図19を参照して、図2に示した変化率記憶部140は、図9に示した変化率マップ141と対を成す、直流抵抗Raに関する学習回数マップ143をさらに含む。学習回数マップ143は、変化率マップ141と共通に区分された学習領域毎に、パラメータ変化率grの学習回数Ngrを記憶する。学習回数Ngrは、当該学習領域のマップ値が更新される毎にカウントアップされる。
【0182】
図20を参照して、図2に示した変化率記憶部140は、図10に示した変化率マップ142と対を成す、拡散係数Dsに関する学習回数マップ144をさらに含む。学習回数マップ144は、変化率マップ142と共通に区分された学習領域毎に、パラメータ変化率gdの学習回数Ngdを記憶する。学習回数Ngdは、当該学習領域のマップ値が更新される毎にカウントアップされる。学習回数マップ143,144は、「第4の記憶手段」に対応する。
【0183】
図21は、実施の形態2による二次電池の劣化管理システムにおける学習回数の管理に関連する制御処理を説明するフローチャートである。
【0184】
図21を参照して、実施の形態2では、学習条件成立時に実行されるステップS210は、ステップS212およびS214を含む。
【0185】
ECU100は、ステップS212では、ステップS200により学習条件が成立したパラメータについて、変化率マップ141および/または142のマップ値を更新する。これにより、パラメータ変化率grおよび/またはgdのオンライン学習値(grlおよび/またはgdl)が更新される。
【0186】
さらに、ECU100は、ステップS214により、変化率マップ141,142のマップ値を更新した学習領域について、学習回数マップ143,144に記憶された学習回数をカウントアップする。
【0187】
直流抵抗Raのパラメータ変化率grの学習条件が成立するたびに、学習回数マップ143において対応する学習領域の学習回数Ngrが増加する。同様に、拡散係数Dsのパラメータ変化率gdの学習条件が成立するたびに、学習回数マップ144において対応する学習領域の学習回数Ngdが増加する。このようにして、二次電池10の使用時におけるオンライン学習での学習回数を管理することが可能となる。
【0188】
なお、図11に示したように、隣接の学習領域AR2〜AR8においてもパラメータ変化率を学習する場合には、学習領域AR2〜AR8における学習回数の増加量を、学習領域AR1における増加量よりも小さくしてもよい。
【0189】
図22は、実施の形態2による二次電池の劣化管理システムにおける劣化指標算出部250(図12)による処理を説明するためのフローチャートである。
【0190】
図22を参照して、実施の形態2では、ECU100は、ステップS410〜S430の処理を実行することによって、劣化指標算出部250による機能を実現する。
【0191】
ECU100は、ステップS410により、学習回数マップ143,144から、全学習領域について学習回数Ngr,Ngdを読出す。そして、ECU100は、ステップS420では、学習領域毎の学習回数Ngr,Ngdに基づいて、少なくとも1つの代表領域を決定する。
【0192】
たとえば、学習回数Ngr,Ngdの合計回数が最大のものを代表領域に決定することができる。また、学習回数NgrおよびNgdの所定の一方について、学習回数が最大の学習領域を代表領域に決定することも可能である。あるいは、学習回数に基づいて、複数個の代表領域を決定してもよい。ステップS420では、予め定められた任意の規則に基づいて代表領域を決定することができる。基本的には、学習回数が少ない学習領域を排除するように代表領域が決定される。
【0193】
ECU100は、ステップS430において、ステップS420で決定された少なくとも1つの代表領域のIV抵抗データ(IV抵抗変化率KrおよびIV抵抗劣化率Kr♯を総称するもの)を、格納マップ210から読出す。そして、読出されたIV抵抗データに基づいて、劣化指標値Pdgを設定する。たとえば、少なくとも1つの代表領域のIV抵抗データのうちの最大値に従って、劣化指標値Pdgを設定することができる。
【0194】
実施の形態2による二次電池の劣化評価システムによれば、二次電池10の使用中に学習回数が少なかった学習領域のデータを排除して、二次電池のIV抵抗を評価することができる。これによって、学習回数が少ない学習領域での学習結果に基づいて、二次電池の内部抵抗の劣化状態を誤って評価することを防止できる。また、IV抵抗を評価しないこととする、学習回数が少ない学習領域では、仮想I−V試験の実行を省略することも可能である。
【0195】
(実施の形態2の変形例)
実施の形態2の変形例では、各学習領域での学習回数を反映した劣化指標値の算出の他の例を説明する。すなわち、実施の形態2の変形例では、実施の形態2と比較して、劣化指標算出部250の機能が異なる。その他の部分については、実施の形態2と同様であるので、詳細な説明は繰り返さない。
【0196】
図23は、実施の形態2の変形例に従う二次電池の劣化評価システムにおける、劣化指標算出部250(図12)による制御処理を説明するためのフローチャートである。
【0197】
図23を参照して、ECU100は、図22と同様のステップS410によって、学習回数マップ143,144から、学習領域毎の学習回数Ngr,Ngdを読出す。さらに、ECU100は、ステップS440により、各学習領域での学習回数を重み付けした、全学習領域でのIV抵抗データの加重平均値を演算する。
【0198】
たとえば、IV抵抗データの加重平均値IVaveは、学習領域毎のIV抵抗データK(格納マップ210のマップ値)および学習回数Ngr(学習回数マップ143のマップ値)を用いて、下記(19)式に従って求めることができる。式(19)において、“Σ”は、全学習領域に亘る総和を示すものとする。
【0199】
IVave=Σ(K・Ngr)/Σ(Ngr) …(19)
ECU100は、ステップS450により、ステップS440で求められIV抵抗データの加重平均値IVaveに従って、劣化指標値Pdgを決定する。
【0200】
実施の形態2の変形例による二次電池の劣化評価システムによれば、学習領域毎の学習回数を考慮して、全学習領域を通じたIV抵抗を評価することができる。したがって、学習回数を適切に考慮して、二次電池の内部抵抗の劣化を評価することができる。
【0201】
(実施の形態3)
実施の形態3では、実施の形態2およびその変形例で使用される学習回数の管理についての変形例が示される。すなわち、実施の形態3では、実施の形態2およびその変形例と比較して、学習回数の管理(図21)が異なる。その他の部分については、実施の形態2またはその変形例と同様であるので、詳細な説明は繰り返さない。
【0202】
図24を参照して、実施の形態3では、ECU110は、ステップS216をさらに実行する。
ECU100は、図21と同様のステップS212により、ステップS200により学習条件が成立したパラメータについて、パラメータ変化率grおよび/またはgdのオンライン学習値grl,gdlを更新する。さらに、図21と同様のステップS214により、変化率マップ141,142のマップ値を更新した学習領域について、学習回数マップ143,144に記憶された学習回数(Ngdおよび/またはNgd)がカウントアップされる。
【0203】
ECU100は、ステップS216により、時間経過に伴って学習回数のマップ値を減少させる処理を実行する。たとえば、所定時間の経過毎に、学習回数マップ143,144の各学習領域のマップ値が所定値だけ減算される。あるいは、学習領域毎に前回の学習条件成立時からの経過時間を管理することにより、所定時間が経過するたびに当該学習領域における学習回数のマップ値を所定値ずつ減算してもよい。
【0204】
すなわち、ステップS216では、学習回数マップ143,144のマップ値に対して、過去における学習回数が時間経過とともに影響しなくなるように、時間経過に伴う減少処理が加えられる。この結果、通算の学習回数が同等であっても、最近の学習回数が多い学習領域におけるマップ値を相対的に大きくすることができる。
【0205】
そして、実施の形態3では、実施の形態2またはその変形例において、図24に従って管理された学習回数Ngr,Ngdを用いて、劣化指標値Pdgdが算出される。
【0206】
このようにすると、二次電池10を搭載した車両が使用される地域が低温地域から高温地域へ変化した等、二次電池10の使用条件(代表的には、電池温度)が大きく変化したときに、最近の二次電池10の使用条件を適切に反映して、二次電池の内部抵抗の劣化を評価することが可能となる。
【0207】
(実施の形態4)
実施の形態1では、電池モデル式に用いられるパラメータである直流抵抗Raおよび拡散係数Dsの両方が経年的に変化するものとして、両方のパラメータをオンライン学習する構成を説明した。しかしながら、二次電池のタイプによっては、主には、直流抵抗Raおよび拡散係数Dsの一方のみが経年的に変化するものもある。
【0208】
このような二次電池では、直流抵抗Raおよび拡散係数Dsの他方は、劣化が進行しても初期状態値から大きく変化しない。したがって、ECU100の演算負荷を考慮すると、直流抵抗Raおよび拡散係数Dsの一方のみについて、パラメータ変化率をオンライン学習することが好ましい。実施の形態4ではこのようなタイプの二次電池を対象する劣化管理システムについて説明する。まず、直流抵抗Raの経年変化に対して、拡散係数Dsの経年変化が無視できる程に小さいタイプの二次電池の劣化評価について説明する。
【0209】
図25は、実施の形態4による劣化評価部の機能を説明するための概略的な機能ブロック図である。
【0210】
図25を参照して、実施の形態4による二次電池の劣化評価システムでは、直流抵抗Raのパラメータ変化率grのみがオンライン学習される。パラメータ変化率grのオンライン学習値grlは、実施の形態1と同様に、変化率マップ141において学習領域毎に記憶される。一方で、拡散係数Dsのパラメータ変化率gdについては、推定およびオンライン学習が実行されない。すなわち、全学習領域において、gd=1.0に固定される。これにより、ECU100の演算負荷が軽減される。
【0211】
さらに、パラメータ変化率grの限界値grmaxを記憶するための限界値マップ206が予め設けられている。限界値マップ206は、変化率マップ141と共通の学習領域毎に、限界値grmaxを記憶する。限界値grmaxは、電池モデルを用いた仮想I−V試験によって、各学習領域毎に予め求めることができる。限界値マップ206は、「第3の記憶手段」に対応する。
【0212】
図26は、直流抵抗のパラメータ変化率の限界値を仮想I−V試験によって求めるための制御処理を説明するフローチャートである。なお、以下に説明する限界値の演算処理は、二次電池10の使用に先立って予め実行することができる。あるいは、二次電池10が電源システムに搭載された後でも、負荷50が運転されていない空き時間を利用して、ECU100によって当該演算処理を実行することも可能である。
【0213】
ECU100は、ステップS610では、パラメータ変化率限界値を算出する学習領域のSOC(局所的SOC)および電池温度Tbおよび、電池モデルの式(3)で用いられる拡散係数Dsの値を読込む。パラメータ変化率gd=1.0に固定されるため、初期状態値マップ132のマップ値を、そのまま拡散係数Dsとして用いることができる。
【0214】
ECU100は、ステップS620では、パラメータ変化率grの候補値を設定する。そして、ECU100は、ステップS630により、電池モデルにおける直流抵抗Raを、ステップS620で設定されたgrの候補値と、初期状態パラメータ値Ranとの積に従って決定する。
【0215】
ECU100は、ステップS640により、このように直流抵抗Raおよび拡散係数Dsが決められた電池モデルを用いて仮想I−V試験を実行する。仮想I−V試験は、図16のステップS520〜S580と同様の処理によって実行することができる。
【0216】
ECU100は、ステップS650により、ステップS640での仮想I−V試験によって得られた電池電圧の挙動に基づくIV抵抗値を、図17の基準値マップ205に記憶されるのと同様の、当該学習領域における許容最大値RIVmaxと比較する。
【0217】
さらに、ECU100は、ステップS660に処理を進めて、パラメータ変化率grの探索が終了したかどうかを判定する。パラメータ変化率grの探索については、予め所定パターンを設けることができる。
【0218】
ECU100は、パラメータ変化率grの探索が終了するまでは(S660のNO判定時)、ステップS620によってパラメータ変化率grの候補値を切換えながら、ステップS630,S640による処理を繰返し実行する。この結果、パラメータ変化率grの探索終了時(S660のYES判定時)には、複数の候補値に対して、仮想I−V試験に基づくIV抵抗値が求められていることになる。
【0219】
ECU100は、パラメータ変化率grの探索が終了すると(S660のYES判定時)、ステップS670に処理を進めて、IV抵抗の許容最大値RIVmaxに対応するパラメータ変化率grの限界値grmaxを算出する。
【0220】
たとえば、パラメータ変化率grの複数の候補値のうちの、仮想I−V試験に基づくIV抵抗値が許容最大値RIVmaxに最も近い2つの候補値間を補完することによって、パラメータ変化率grの限界値grmaxが求められる。求められたパラメータ変化率grの限界値grmaxは、図25の限界値マップ206において、該当する学習領域のマップ値として記憶される。
【0221】
図26に示した制御処理を各学習領域について実行することにより、図25に示した限界値マップ206を作成することができる。
【0222】
再び図25を参照して、実施の形態4による二次電池の劣化管理システムでは、劣化評価部200は、演算部202により、学習領域毎に、変化率マップ142に記憶されたパラメータ変化率grのオンライン学習値grlと、限界値マップ206に記憶された限界値grmaxとの比較結果を示す、直流抵抗劣化率Kgrを算出する。すなわち、Kgr=gr/grmaxで示される。劣化が進行して内部抵抗が上昇する程、直流抵抗劣化率Kgdが大きくなる。図25では、直流抵抗劣化率Kgrが「比較評価値」に対応する。
【0223】
演算部202によって算出された直流抵抗劣化率Kgrは、学習領域毎に格納マップ212に記憶される。すなわち、格納マップ212は、変化率マップ141と共通の学習領域毎に、直流抵抗劣化率Kgrをマップ値として記憶するように構成されている。
【0224】
劣化指標算出部250は、全学習領域において直流抵抗劣化率Kgrの算出が完了すると、格納マップ212に記憶された直流抵抗劣化率Kgrに基づいて、二次電池10の劣化指標値Pdgを算出する。たとえば、実施の形態1と同様に、格納マップ212に記憶された全学習領域の直流抵抗劣化率Kgrのうちの最大値を、劣化指標値Pdgとして出力することができる。
【0225】
あるいは、実施の形態2あるいはその変形例、または、実施の形態3に従って、パラメータ変化率grの学習回数Ngr(学習回数マップ143)を反映して、格納マップ212に記憶された直流抵抗劣化率Kgrに基づいて、劣化指標値Pdgを算出することも可能である。
【0226】
このように、実施の形態4による二次電池の劣化管理システムによれば、電池モデル中の特定パラメータ(直流抵抗Ra)のみが主に経年的に変化するような種類の二次電池において、パラメータ変化率のオンライン学習後に仮想I−V試験を行う必要がない。なぜなら、IV抵抗の許容最大値RIVmaxに対応するパラメータ変化率の限界値は、二次電池10の使用前においても、仮想I−V試験によって求めることができるからである。
【0227】
したがって、実施の形態4による二次電池の劣化管理システムでは、ECU100の演算負荷を軽減した上で、実施の形態1〜3およびこれらの変形例と同様の二次電池の劣化管理を実現することができる。
【0228】
(実施の形態4の変形例)
実施の形態4の変形例では、実施の形態4とは反対に、拡散係数Dsの経年変化に対して、直流抵抗Raの経年変化が無視できる程に小さいタイプの二次電池の劣化評価について説明する。
【0229】
図27は、実施の形態4の変形例による劣化評価部の機能を説明するための概略的な機能ブロック図である。
【0230】
図27を図26と参照して、実施の形態4の変形例による二次電池の劣化評価システムでは、拡散係数Dsのパラメータ変化率gdのみがオンライン学習される。パラメータ変化率gdのオンライン学習値は、実施の形態1と同様に、変化率マップ142において学習領域毎に記憶される。一方で、直流抵抗Raのパラメータ変化率grについては、推定およびオンライン学習が実行されない。すなわち、全学習領域において、gr=1.0に固定される。これにより、ECU100の演算負荷が軽減される。
【0231】
拡散係数Dsが小さくなると内部抵抗(IV抵抗)が上昇する。したがって、限界値マップ206は、学習領域毎にパラメータ変化率gdの限界値gdminを記憶する。実施の形態4と同様に、各学習領域における限界値gdminは、電池モデルを用いた仮想I−V試験によって、予め求めることができる。
【0232】
図28は、拡散係数のパラメータ変化率の限界値を仮想I−V試験によって求めるための制御処理を説明するフローチャートである。図28に示す処理についても、図26に示したフローチャートによる制御処理と同様の機会に実行できる。
【0233】
ECU100は、ステップS610♯では、パラメータ変化率限界値を算出する学習領域のSOC(局所SOC)および電池温度Tbおよび、電池モデルの式(1)で用いられる直流抵抗Raの値を読込む。パラメータ変化率gr=1.0に固定されるため、初期状態値マップ131のマップ値を、そのまま直流抵抗Raとして用いることができる。
【0234】
ECU100は、ステップS620♯では、パラメータ変化率gdの候補値を設定する。そして、ECU100は、ステップS630♯により、電池モデルにおける拡散係数Dsを、ステップS620♯で設定されたgdの候補値と、初期状態パラメータ値Danとの積に従って決定する。
【0235】
ECU100は、ステップS640♯により、このように直流抵抗Raおよび拡散係数Dsが決められた電池モデルを用いて仮想I−V試験を実行する。仮想I−V試験は、図16のステップS520〜S580と同様の処理によって実行することができる。
【0236】
ECU100は、ステップS650♯により、ステップS640♯での仮想I−V試験によって得られた電池電圧の挙動に基づくIV抵抗値を、図17の基準値マップ205に記憶されるのと同様の、当該学習領域における許容最大値RIVmaxと比較する。
【0237】
さらに、ECU100は、ステップS660♯に処理を進めて、パラメータ変化率gdの探索が終了したかどうかを判定する。パラメータ変化率gdの探索については、予め所定パターンを設けることができる。
【0238】
ECU100は、パラメータ変化率gdの探索が終了するまでは(S660♯のNO判定時)、ステップS620♯によってパラメータ変化率gdの候補値を切換えながら、ステップS630♯,S640♯による処理を繰返し実行する。この結果、パラメータ変化率gdの探索終了時(S660♯のYES判定時)には、複数の候補値に対して、仮想I−V試験に基づくIV抵抗値が求められていることになる。
【0239】
そして、ECU100は、パラメータ変化率gdの探索が終了すると(S660♯のYES判定時)、ステップS670♯に処理を進めて、IV抵抗の許容最大値RIVmaxに対応するパラメータ変化率gdの限界値gdminを算出する。
【0240】
たとえば、パラメータ変化率gdの複数の候補値のうちの、仮想I−V試験に基づくIV抵抗値が許容最大値RIVmaxに最も近い2つの候補値間を補完することによって、パラメータ変化率gdの限界値gdminが求められる。求められたパラメータ変化率grの限界値grmaxは、図27の限界値マップ206において、該当する学習領域のマップ値として記憶される。
【0241】
図28に示した制御処理を各学習領域について実行することにより、図27に示した限界値マップ206を作成することができる。
【0242】
再び図27を参照して、実施の形態4の変形例による二次電池の劣化管理システムでは、劣化評価部200は、演算部202により、学習領域毎に、変化率マップ141に記憶されたパラメータ変化率gdのオンライン学習値gdlと、限界値マップ206に記憶された限界値gdminとの比較結果を示す、拡散係数劣化率Kgdを算出する。すなわち、Kgd=gdmin/gdで示される。劣化の進行に伴い拡散係数Dsは低下するので、劣化が進行して内部抵抗が上昇する程、拡散係数劣化率Kgdは大きくなる。図25では、拡散係数劣化率Kgdが「比較評価値」に対応する。
【0243】
演算部202によって算出された拡散係数劣化率Kgdは、学習領域毎に格納マップ212に記憶される。すなわち、格納マップ212は、変化率マップ142と共通の学習領域毎に、拡散係数劣化率Kgdをマップ値として記憶するように構成されている。
【0244】
劣化指標算出部250は、全学習領域において拡散係数劣化率Kgdの算出が完了すると、格納マップ212に記憶された拡散係数劣化率Kgdに基づいて、二次電池10の劣化指標値Pdgを算出する。たとえば、実施の形態1と同様に、格納マップ212に記憶された全学習領域の拡散係数劣化率Kgdのうちの最大値を、劣化指標値Pdgとして出力することができる。
【0245】
あるいは、実施の形態2あるいはその変形例、または、実施の形態3に従って、パラメータ変化率gdの学習回数Ngd(学習回数マップ144)を反映して、格納マップ212に記憶された拡散係数劣化率Kgdに基づいて、劣化指標値Pdgを算出することも可能である。
【0246】
このように、実施の形態4の変形例による二次電池の劣化管理システムによれば、電池モデル中の拡散係数Dsのみが主に経年的に変化するような種類の二次電池に対して、実施の形態4と同様の劣化管理を実現することができる。
【0247】
このように、実施の形態4およびその変形例によれば、電池モデル中の特定パラメータのみが主に経年的に変化するような種類の二次電池において、ECU100の演算負荷を軽減した上で、学習領域毎における仮想I−V試験の結果に基づいて二次電池の劣化を管理することができる。
【0248】
なお、以上説明した実施の形態では、二次電池をリチウムイオン電池として説明したが、本発明による二次電池の劣化管理システムは、リチウムイオン電池以外の他の二次電池にも、負荷の種類を特に限定することなく適用することが可能である。たとえばニッケル水素電池では、活物質内部での反応関与物質としてプロトンの濃度分布を拡散方程式により算出し、開放電圧を活物質表面のプロトンの関数として定義することによって、本発明の手法を同様に適用することが可能となる。また、その他の種類の二次電池についても、同様の電池モデル式の所定パラメータについて、初期状態のパラメータ値からの変化率を推定する構成とすれば、同様の劣化管理を行なうことが可能である。
【0249】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。 今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0250】
この発明は、二次電池の劣化管理に適用することができる。
【符号の説明】
【0251】
10 二次電池、12 負極、13,16 電流コレクタ、14 セパレータ、15 正極、18 活物質、20 電流センサ、30 電圧センサ、40 温度センサ、50 負荷、60 負荷制御装置、110 データ収集部、120 電池状態推定部、125 電池モデル、130 初期値記憶部、131,132 初期状態値マップ、140 変化率記憶部、141,142 変化率マップ、143,144 学習回数マップ、150 パラメータ変化率学習部、200 劣化評価部、201,210 格納マップ、202 演算部、205 基準値マップ、206 限界値マップ、250 劣化指標算出部、AR1〜AR8 学習領域、Dsn 初期状態値(拡散係数)、D 拡散係数、I,Ib 電池電流、Kgr 直流抵抗劣化率、Kgd 拡散係数劣化率、Kr IV抵抗抵抗劣化率、Kr♯ IV抵抗変化率、Ngd,Ngr 学習回数、Pdg 劣化指標値、Ra 直流抵抗、Ran 初期状態値(直流抵抗)、RIV IV抵抗値(仮想I−V試験結果)、RIVmax 許容最大値(IV抵抗)、RIVn 初期値(IV抵抗)、T,Tb 電池温度、U1 正極開放電位、U2 負極開放電位、V,Vb 電池電圧、gd パラメータ変化率(拡散係数)、gdl パラメータ変化率学習値(拡散係数)、gdmin,grmax パラメータ変化率限界値、gr パラメータ変化率(直流抵抗)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の電池電圧、電池電流および電池温度を検出するための検出手段と、
前記電池電圧および前記電池電流の少なくとも一方を含むデータを用いて、SOCを少なくとも含む前記二次電池の状態量を推定するための電池モデルに従って前記状態量を逐次推定するための電池状態推定手段と、
前記電池モデルで用いられるパラメータ群のうちの所定パラメータについて、前記SOCおよび前記電池温度の組み合わせによって規定された所定の学習領域毎に、初期状態値を予め記憶するための第1の記憶手段と、
前記二次電池の使用中に、前記検出手段によって検出されたデータと前記電池モデルとに基づくパラメータ同定によって、前記所定パラメータの前記初期状態値に対する現在のパラメータ値の比であるパラメータ変化率を逐次学習するためのパラメータ変化率学習手段と、
前記パラメータ変化率学習手段によって算出されたパラメータ変化率学習値を前記学習領域毎に記憶するための第2の記憶手段と、
前記学習領域毎に実行された、前記二次電池が所定の試験パターンに従って充電および放電の少なくとも一方を実行した際の前記二次電池の挙動を前記電池モデルを用いて求める仮想試験の結果に基づいて、前記二次電池の劣化度を評価するための劣化評価手段とを備える、二次電池の劣化管理システム。
【請求項2】
前記劣化評価手段は、
前記第2の記憶手段に記憶された前記パラメータ変化率学習値に基づいて算出されたパラメータ値を前記所定パラメータに代入した前記電池モデルを用いた前記仮想試験の結果に基づいて、前記二次電池の劣化度を評価する、請求項1記載の二次電池の劣化管理システム。
【請求項3】
前記劣化評価手段は、
前記学習領域毎に、前記第2の記憶手段に記憶された前記パラメータ変化率学習値に基づいて算出されたパラメータ値を前記所定パラメータに代入した前記電池モデルを用いた前記仮想試験を実行するための手段と、
前記学習領域毎に、前記仮想試験の結果に基づいて前記所定の試験パターンにおける前記二次電池の内部抵抗値を算出するための手段と、
前記学習領域毎に予め設定された前記内部抵抗値の基準値と、前記仮想試験の結果に基づいて算出された前記学習領域毎の前記内部抵抗値との、前記学習領域毎での比較に基づいて、前記二次電池の劣化度を示す指標値を算出するための手段とを含む、請求項1または2記載の二次電池の劣化管理システム。
【請求項4】
前記劣化評価手段は、
前記学習領域毎における前記仮想試験の結果に基づいて求められた、前記所定パラメータの前記パラメータ変化率に関する限界値と、前記第2の記憶手段に記憶された前記パラメータ変化率学習値との前記学習領域毎での比較に基づいて、前記二次電池の劣化度を評価する、請求項1記載の二次電池の劣化管理システム。
【請求項5】
所定のパラメータは、複数のパラメータを含み、
前記劣化評価手段は、
前記学習領域毎に、前記複数のパラメータのうちの第1のパラメータを除く他の各パラメータの値を前記初期状態値に固定する一方で、前記第1のパラメータをそれぞれ変化させて前記電池モデルを用いた前記仮想試験を複数回実行するための手段と、
前記複数回の前記仮想試験の結果に基づいて、前記所定の試験パターンにおける前記二次電池の内部抵抗値が許容最大値であるときに対応する前記第1のパラメータのパラメータ変化率限界値を前記限界値として前記学習領域毎に求めるための手段と、
前記第1のパラメータについての、前記第2の記憶手段に記憶された前記パラメータ変化率学習値と、前記パラメータ変化率限界値との前記学習領域毎での比較に基づいて、前記二次電池の劣化度を示す指標値を算出するための手段とを含む、請求項1または4記載の二次電池の劣化管理システム。
【請求項6】
前記劣化評価手段は、
前記二次電池の使用前に前記複数回の仮想試験によって予め求められた前記学習領域毎の前記パラメータ変化率限界値を記憶するための第3の記憶手段を含み、
前記指標値の算出において、前記学習領域毎の前記パラメータ変化率限界値は前記第3の記憶手段から読み出される、請求項5記載の二次電池の劣化管理システム。
【請求項7】
前記劣化評価手段は、
前記学習領域毎での比較の結果を示す比較評価値を算出するための手段と、
前記学習領域毎の前記比較評価値のうちの、前記内部抵抗値が最も高いことを示す最大値に従って前記指標値を算出するための指標値算出手段とを含む、請求項3または5に記載の二次電池の劣化管理システム。
【請求項8】
前記パラメータ変化率学習手段は、所定の学習条件が成立する毎に、その際の前記学習領域の前記パラメータ変化率学習値を更新し、
前記劣化管理システムは、
前記パラメータ変化率学習手段が前記パラメータ変化率学習値を更新した回数を前記学習領域毎に記憶するための第4の記憶手段をさらに備え、
前記劣化評価手段は、
前記学習領域毎での比較の結果を示す比較評価値を算出するための手段と、
前記第4の記憶手段に記憶された前記学習領域毎の学習回数に基づいて選択された前記学習領域での前記比較評価値に従って前記指標値を算出するための手段とを含む、請求項3または5に記載の二次電池の劣化管理システム。
【請求項9】
前記パラメータ変化率学習手段は、所定の学習条件が成立する毎に、その際の前記学習領域の前記パラメータ変化率学習値を更新し、
前記劣化管理システムは、
前記パラメータ変化率学習手段が前記パラメータ変化率学習値を更新した回数を前記学習領域毎に記憶するための第4の記憶手段をさらに備え、
前記劣化評価手段は、
前記学習領域毎での比較の結果を示す比較評価値を算出するための手段と、
前記学習領域毎の前記比較評価値についての、前記第4の記憶手段に記憶された前記学習領域毎の学習回数で重み付けした平均値に従って、前記指標値を算出するための手段とを含む、請求項3または5に記載の二次電池の劣化管理システム。
【請求項10】
前記パラメータ変化率学習手段は、時間経過に伴って前記第4の記憶手段に記憶された前記学習領域毎の学習回数を減少させるための手段をさらに含む、請求項8または9に記載の二次電池の劣化管理システム。
【請求項11】
前記電池モデルは、
前記二次電池内部の活物質の表面での反応関与物質濃度の関数である開放電圧、および前記二次電池内部での充放電電流による電圧変化量から表わされる電圧方程式と、
前記活物質の内部における前記反応関与物質濃度の分布を規定する拡散方程式とを含み、
前記所定パラメータは、前記電圧方程式において直流抵抗を示すパラメータを含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の二次電池の劣化管理システム。
【請求項12】
前記電池モデルは、
前記二次電池内部の活物質の表面での反応関与物質濃度の関数である開放電圧、および前記二次電池内部での充放電電流による電圧変化量から表わされる電圧方程式と、
前記活物質の内部における前記反応関与物質濃度の分布を規定する拡散方程式とを含み、
前記所定パラメータは、前記拡散方程式において前記反応関与物質の拡散速度を表わす拡散パラメータを含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の二次電池の劣化管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2013−44598(P2013−44598A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181600(P2011−181600)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】