説明

二次電池用電極及びその製造方法、並びに二次電池

【課題】 リチウムイオン二次電池などに好適な二次電池用電極であって、充放電サイクル特性に加えて、とくに、負荷特性に優れた二次電池用電極、及びその製造方法、並びにそれを用いた二次電池を提供すること。
【解決手段】 集電体の表面上において、活物質材料からなる活物質材料層の複数層が積層された活物質層を設ける。この際、まず、集電体9の表面上に活物質材料を均一に堆積させ、活物質材料層主要部を形成し、この活物質材料層主要部上に活物質材料を不均一に堆積させることによって、それぞれ、不均一な表面22bを有する活物質材料層22を形成する。次に、不均一な表面を有する活物質材料層22の上に別の活物質材料層23を積層し、これら両活物質材料層の境界面に沿ってイオン通過性の孔22cを形成する。活物質層10の厚さ方向におけるイオン通過性の孔22cの孔径を3〜300nmとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池などに好適な二次電池用電極及びその製造方法、並びにそれを用いる二次電池に関するものであり、主として負荷特性の改善に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル機器は高性能化および多機能化されてきており、これらに伴い、モバイル機器に電源として用いられる二次電池にも、小型化、軽量化および薄型化が要求され、高容量化が求められている。
【0003】
この要求に応え得る二次電池としてリチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池の電池特性は、用いられる電極活物質などによって大きく変化する。現在実用化されている代表的なリチウムイオン二次電池では、正極活物質としてコバルト酸リチウムが用いられ、負極活物質として黒鉛が用いられているが、このように構成されたリチウムイオン二次電池の電池容量は理論容量に近づいており、今後の改良で大幅に高容量化することは難しい。
【0004】
そこで、充電の際にリチウムと合金化するケイ素やスズなどを負極活物質として用いて、リチウムイオン二次電池の大幅な高容量化を実現することが検討されている。ただし、ケイ素やスズなどを負極活物質として用いた場合、充電および放電に伴う膨張および収縮の度合いが大きいため、充放電に伴う膨張収縮によって活物質が微粉化したり、負極集電体から脱落したりして、サイクル特性が低下するという問題がある。
【0005】
従来、粒子状の活物質とバインダーとを含むスラリーを負極集電体に塗布した塗布型負極が用いられてきた。これに対し、近年、気相法、液相法、あるいは焼結法などにより、ケイ素などの負極活物質層を負極集電体に積層して形成した負極が提案されている(例えば、特開平8−50922号公報、特許第2948205号公報、および特開平11−135115号公報)。このようにすれば、負極活物質層と負極集電体とが一体化され、塗布型負極に比べて、充放電に伴う膨張収縮によって活物質が細分化されることを抑制でき、初回放電容量および充放電サイクル特性が向上するとされている。また、負極における電子伝導性が向上する効果も得られる。
【0006】
しかしながら、上記のように負極活物質層と負極集電体とを一体化し、製造方法を工夫した負極においても、充放電を繰り返すと、負極活物質層の激しい膨張収縮によって界面に応力が加わり、負極活物質層が負極集電体から脱落するなどして、サイクル特性が低下する。
【0007】
そこで、後述の特許文献1には、負極が、負極集電体と、負極集電体に気相法により形成された負極活物質層とからなり、この負極活物質層は、ケイ素を含み、かつ、酸素の含有量が異なる第1層と第2層とが交互に積層され、第1層と第2層とが複数層ずつ含まれる活物質層であることを特徴とする負極が提案されている。第1層は、負極活物質としてケイ素の単体または合金を含んでおり、酸素を含んでいてもいなくてもよいが、少ない方が高い容量が得られるので好ましい。第2層は、ケイ素に加えて酸素を含んでおり、酸素はケイ素と結合し、酸化物として存在している。第2層における含有率は、ケイ素が90原子数%以下、酸素が10原子数%以上であることが好ましい。
【0008】
特許文献1には、このように構成された負極では、充放電に伴う激しい膨張および収縮が抑制され、充放電に伴う負極活物質層の構造破壊が効果的に抑制され、かつ、電解質と負極活物質層との反応性も低減されると述べられている。
【0009】
【特許文献1】特開2004−349162号公報(第4、5及び8頁、図2及び3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に示されている負極によれば、負極活物質層の構造破壊が効果的に抑制され、充放電サイクル特性が向上する。しかし、本発明者は、鋭意研究に努めた結果、酸素含有層は多層構造を有する活物質層の一形態にすぎず、多層構造からなる活物質層をさらに発展させれば、充放電サイクル特性ばかりでなく、負荷特性をも向上させることができることを発見した。
【0011】
本発明はかかる実情に鑑みてなされたもので、その目的は、リチウムイオン二次電池などに好適な二次電池用電極であって、充放電サイクル特性に加えて、とくに、負荷特性に優れた二次電池用電極、及びその製造方法、並びにそれを用いた二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
即ち、本発明は、集電体に、活物質材料からなる活物質材料層の複数層が積層されてなる活物質層が設けられている電池用電極において、
前記活物質材料層間の境界面に沿って、前記活物質層の厚さ方向における孔径が3〜 300nmである孔が形成されており、
前記孔の少なくとも一部は、二次電池を構成した際に電解質、及び/又は、電解質が 還元されて生成した生成物によって満たされる
ことを特徴とする、二次電池用電極に係り、また、その製造方法であって、
前記集電体に、前記活物質材料を少なくとも表面側で不均一に堆積させることによっ て、不均一な表面を有する活物質材料層を形成する工程と、
前記不均一な表面を有する活物質材料層の上に別の活物質材料層を積層し、これら両 活物質材料層の境界面に沿って前記孔を形成する工程と
を有し、
これらの工程を少なくとも1回行うことによって前記活物質層を形成する、
二次電池用電極の製造方法に係るものである。
【0013】
また、前記二次電池用電極を負極として備え、正極と電解質とを備えた、二次電池に係るものである。
【0014】
なお、前記孔径は前記活物質層1層内の孔径であって、複数層間で複数の前記孔が厚さ方向に連結され、300nmをこえる孔径になっている場合も含むものとする。また、前記不均一な表面の「不均一」とは、表面の凹凸などの形状的な不均一であってもよいし、酸素含有率の大きい領域と小さい領域のような表面の物理的及び/又は化学的性質の不均一であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
既述したように、気相成膜法あるいは液相法によって形成した従来の積層型の電池用電極は、バインダー(結着剤)を用いて焼結法や塗布法などの方法によって形成した電池用電極と比べて、充放電による電極の膨張収縮の影響が大きいという問題がある。また、活物質層中にリチウムイオンなどの電解質イオンを通過させる通路が存在しないので、充放電反応がすみやかに起こる領域は、電解質と接している活物質層の表面とその近傍に限られ、活物質層内部での反応は、反応に関与する物質が固体内を拡散する速度によって律速され、活物質層全体としては反応が均一に進まないという問題がある。
【0016】
本発明の二次電池用電極は、集電体に、活物質材料からなる活物質材料層の複数層が積層されてなる活物質層が設けられており、
前記活物質材料層間の境界面に沿って、前記活物質層の厚さ方向における孔径が3〜 300nmである孔が形成されており、
前記孔の少なくとも一部は、二次電池を構成した際に電解質、及び/又は、電解質が 還元されて生成した生成物によって満たされる
ことを特徴とする。このため、この電極を用いて二次電池を組み立てると、前記孔は電解質、及び/又は、電解質が還元されて生成した生成物で満たされ、リチウムイオンなどの電解質イオンを通過させる通路を形成する。このため、充放電反応において、電解質イオンは、電解質と接している活物質層の表面において活物質と反応するばかりでなく、前記孔の中を通って活物質層内部まで深く侵入し、そこで活物質と反応する。このため、従来の積層型の二次電池用電極では反応が起こりにくかった活物質層内部を含めて、活物質層全体が反応領域として利用される。
【0017】
この結果、本発明の二次電池用電極では、電極の負荷特性が著しく向上する。さらに、活物質層の膨張収縮が、表面ばかりでなく内部でも起こり、活物質層全体における差異が小さくなるため、充放電に伴う膨張収縮によって活物質層が電極から脱落したり、電極構造が崩壊したりするのを防止することができ、安定した電極形状を得ることができる。
【0018】
前記孔の内部は、充放電を繰り返すと、電解質が還元されて生成した還元生成物でしだいに埋まっていき、最終的にはこの還元生成物で埋めつくされる。このような場合でも、この還元生成物が電解質イオンを通過させる通路を形成するので、本発明の二次電池用電極の負荷特性のよさは維持される。この最終結果からみれば、前記孔は、還元生成物による電解質イオンの通路を形成するための中間手段として機能する。
【0019】
なお、前記活物質層の厚さ方向における前記孔の孔径が3nm未満の場合には、効果は特に見られない。一方、孔径が大きくなりすぎると、前記活物質層中の隙間が多くなり、活物質材料自体の量が減るため、容量が減少する。また、前記活物質層が脆くなるので、充放電サイクルに伴う膨張収縮によって電極から脱落して容量が低下することが起こりやすくなる。また、電解液の還元のよる被膜形成反応も多くなり、負荷特性が低下する。孔径が300nmを超える場合には、例えば、後述する比較例3のように、上記の不都合が効果を上回るので望ましくない。
【0020】
本発明の電池用電極の製造方法によれば、まず、前記集電体に前記活物質材料を少なくとも表面側で不均一に堆積させることによって、不均一な表面を有する活物質材料層を形成する。このため、次に、前記不均一な表面を有する活物質材料層の上に別の活物質材料層を積層すると、前記活物質材料が堆積する速度の不均一によって、これら両活物質材料層の境界面に沿って、下側層の堆積速度の遅い領域の上部に前記孔が形成される。この結果、本製造方法は、前記電池用電極を容易に生産性よく形成することができる。
【0021】
また、本発明の二次電池は、前記二次電池用電極を負極として備え、正極と電解質とを備えるので、前記二次電池用電極がもつ、優れた負荷特性及び充放電サイクル特性を発現させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の二次電池用電極において、前記イオン通過性の孔は、互いに連通し合った細孔を含むのがよい。また、前記イオン通過性の孔の少なくとも一部は、電解質、及び/又は、電解質が還元されて生成した生成物によって満たされているのがよい。このようであれば、前記イオン通過性の孔は、電解質イオンの良好な通路として機能する。
【0023】
本発明の二次電池用電極及びその製造方法において、前記活物質材料が、ケイ素の単体又は化合物、或いはスズの単体又は化合物を含有するのがよい。ケイ素やスズなどを活物質として用いると、リチウムイオン二次電池などを高容量化することができるが、従来の電極構造では、充電に伴う膨張によって電極構造が破壊され、充放電サイクル特性が低下する。また、反応領域が活物質層の表面およびその近傍に限られるので、これによって負荷特性が制限される。本発明の二次電池用電極は、このような活物質に対し、最も効果的に応用することができる。
【0024】
また、前記活物質材料層が気相成膜法によって形成されているのがよい。気相成膜法としては、例えば、真空蒸着法が好ましい。真空蒸着法は成膜速度が速いので、生産性よく前記活物質材料層を形成することができる。
【0025】
また、前記集電体は、前記活物質材料層との界面の少なくとも一部において、前記活物質材料と合金化しているか、又は、前記界面において前記集電体の構成元素が活物質層に拡散しているか、または前記活物質層の構成元素が集電体に拡散しているか、或いは両者が互いに拡散し合って接合しているのがよい。このようであれば、合金化又は拡散によって前記活物質層と前記集電体との密着性が向上し、充放電に伴う膨張収縮によって前記活物質が細分化されることが抑制され、前記集電体から前記活物質層が脱落するのが抑えられる。また、前記二次電池用電極における電子伝導性を向上させる効果も得られる。
【0026】
また、前記集電体の、前記活物質材料層が設けられる面の表面粗度が、十点平均粗さRzで2.0〜4.5μmであるのがよい。Rz値が2.0μm以上であれば、活物質層と集電体との密着性が向上する。しかし、Rz値が4.5μmを超えて、表面粗度が大きすぎると、活物質層の膨張に伴って集電体に亀裂が生じやすくなるおそれがある。なお、表面粗さRzとは、JIS B0601−1994に規定されている十点平均粗さである(以下、同様。)。なお、集電体のうち、活物質層が設けられる領域のRz値が上記範囲内にあればよい。
【0027】
また、前記集電体が銅を含有する材料からなるのがよい。銅は、リチウムと反応せず、ケイ素と合金化するので、リチウムイオン二次電池に好適である。また、電解銅箔を用いれば、所望の表面粗度を有する銅箔を用いることができる。
【0028】
本発明の二次電池用電極の製造方法において、前記集電体に、前記活物質材料を均一に堆積させ、活物質材料層主要部を形成し、この活物質材料層主要部に前記活物質材料を不均一に堆積させることによって、前記不均一な表面を有する活物質材料層を形成するのがよい。この方法によれば、前記活物質材料層主要部を従来と同様に均一に形成しながら、前記活物質材料層の表面近傍にのみ不均一な領域を形成することができる。
【0029】
前記集電体として長尺形状の集電体を用い、前記集電体を長尺方向に送り出し、活物質材料層主要部形成領域を通過させて前記活物質材料層主要部を形成した後に、不均一形成領域を通過させて前記不均一な表面を有する活物質材料層を形成するのがよい。本発明は、前記集電体を固定して成膜する場合に適用してもよいが、前記集電体を走行させ、前記集電体が前記活物質材料層主要部形成領域および前記不均一形成領域を通過するようにした方が、これら2つの領域を空間的に分離できるので製造装置が簡易になり、かつ、制御性及び生産性よく前記二次電池用電極を製造することができる。
【0030】
この際、前記不均一形成領域において、前記活物質材料が堆積しつつある前記活物質材料層主要部の表面にガスを吹きつけ、前記不均一な表面を有する活物質材料層を形成するのがよい。この方法によれば、簡易かつコンパクトな設備で前記不均一形成領域を形成することができる。この際、前記ガスの流量を8〜400sccmとするのがよい。前記ガスの流量が8sccm未満であると、前記イオン通過性の孔の孔径が3nm未満になり、400sccmを超えると前記イオン通過性の孔の孔径が300nmを超え、前述したように不都合である。
【0031】
また、本発明の二次電池用電極の製造方法において、成膜速度を変調することによって、前記不均一な表面を有する活物質材料層を形成するのもよい。例えば、電子ビーム加熱型真空蒸着法によって気相成膜を行い、蒸着源における電子ビームの照射領域を変化させることによって前記成膜速度の変調を行うのがよい。
【0032】
本発明の二次電池は、前記正極を構成する正極活物質中に、リチウム化合物が含まれているのがよい。本発明は、二次電池、例えばリチウムイオン二次電池の電池用電極を製造するのに用いられるのがよい。
【0033】
また、前記電解質を構成する溶媒として、環状炭酸エステル又は/及び鎖状炭酸エステルを用いるのがよいが、とりわけ水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されたフッ素含有化合物が含まれているのがよい。また、前記電解質にスルホン酸、スルフィン酸、及びこれらの誘導体の少なくとも1種、すなわち、S=O結合を有する化合物が含まれると、さらによい。このようにすると、サイクル特性が向上する。
【0034】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0035】
実施の形態1
実施の形態1では、主として、請求項1と2に記載した二次電池用電極、および請求項9〜13に記載した二次電池用電極の製造方法に対応する例について説明する。
【0036】
図1は、実施の形態1に基づく電極形成装置1の構成を示す概略図である。この電極形成装置1は真空蒸着装置であり、真空チャンバー2、蒸着源3aおよび3b、円形キャンロール(成膜ロール)4aおよび4b、遮蔽板5、シャッタ6aおよび6b、そして真空排気装置7を備えている。そして、帯状の集電体9を長尺方向に走行させる手段として、2つの巻き取りローラー11および18、ガイドローラー12〜16、そしてフィードローラー17が設けられている。以下、各部について説明する。
【0037】
真空チャンバー2は、遮蔽板5によって、蒸着源設置室2aおよび2bと、集電体設置室2cとに仕切られている。蒸着源設置室2aには蒸着源3aが設置され、蒸着源設置室2bには蒸着源3bが設置され、両者は隔離板8によって仕切られている。集電体設置室2cには、蒸着源3aおよび3bの上方に、それぞれ円形キャンロール4aおよび4bが設置されている。遮蔽板5の2箇所には、円形キャンロール4aおよび4bに対応して開口部5aおよび5bが設けられ、前記活物質材料層形成領域である蒸着領域Aおよび蒸着領域Bが、それぞれ設定されている。
【0038】
蒸着領域Aおよび蒸着領域Bでは、それぞれ、蒸着源3aおよび3bから放出された活物質材料が集電体9の上に堆積する。蒸着領域AおよびBにおける活物質材料の流れは、シャッタ6aおよび6bによって制御される。遮蔽板5は、集電体9のうち、蒸着領域AおよびB以外の領域に位置する集電体や走行手段に、蒸着源3aおよび3bから発生する熱が伝わったり、活物質材料が付着したりするのを抑制するためのものである。真空排気装置7は、チャンバー2内の圧力を所定の圧力以下に排気できるように構成されている。
【0039】
蒸着源3aおよび3bは、偏向式電子ビーム加熱蒸着源が好ましく、それぞれ、電子銃、るつぼ、ハース、および活物質材料によって構成されている。電子銃は、活物質材料に電子ビームを照射して加熱することにより、活物質材料を蒸発させる機能をもつ。また、るつぼ内には、カーボンを母材とするハースを介して活物質材料が配置されている。
【0040】
電解銅箔などからなる帯状の集電体9は、円形キャンロール4aおよび4b、ガイドローラー12〜16、そしてフィードローラー17のそれぞれの外周面に渡して配置され、両端側は2つの巻き取りローラー11および18に巻き取られる。円形キャンロール4aおよび4bと、ガイドローラー12〜16と、フィードローラー17の一部または全部は、内部に冷却水を通すことにより、集電体9を水冷できるように構成されている。
【0041】
電極形成装置1の特徴は、上記の真空蒸着装置としての設備に加えて、ガス噴射ノズルなどのガス導入口20c〜20fを集電体9の近傍に備えていることである。各ガス導入口からは、集電体9に向けて、前記ガスとして、アルゴン、二酸化炭素または酸素などのガス、あるいはこれらの混合ガスを噴射することができる。
【0042】
ガス導入口20cおよび20dは、図1(a)に示すように、集電体9を往路方向に走行させた場合、ガス導入口20cおよび20dから噴射されるガスが、それぞれ、蒸着領域AおよびBの出口近傍の領域にかかり、この領域における活物質材料の流れを攪乱できる位置に配置されている。この結果、往路走行において、ガス導入口20cは、蒸着領域Aの出口近傍の領域に、活物質材料を不均一に堆積させる不均一形成領域Cを形成し、ガス導入口20dは、蒸着領域Bの出口近傍の領域に、活物質材料を不均一に堆積させる不均一形成領域Dを形成する。
【0043】
同様に、ガス導入口20eおよび20fは、図1(b)に示すように、集電体9を復路方向に走行させた場合、ガス導入口20cおよび20dから噴射されるガスが、それぞれ、蒸着領域BおよびAの出口近傍の領域にかかり、この領域における活物質材料の流れを攪乱できる位置に配置されている。この結果、復路走行において、ガス導入口20eは、蒸着領域Bの出口近傍の領域に、活物質材料を不均一に堆積させる不均一形成領域Eを形成し、ガス導入口20fは、蒸着領域Bの出口近傍の領域に、活物質材料を不均一に堆積させる不均一形成領域Fを形成する。
【0044】
以上に記載したガス導入例はあくまで一例であり、ガス導入手段の形状や個数や配置などは特に限定されるものではなく、前記活物質材料層主要部の表面付近での活物質材料の流れを乱すことが重要であり、有効な不均一形成領域C〜Fを形成できるものであれば何でもよい。例えば、集電体9を往路方向に走行させる場合に、ガス導入口20eおよび20fからガスを噴射することも可能である。ただし、蒸着領域AおよびBの出口近くの集電体9の近傍にガスを導入すると、前記細孔が形成されやすい。
【0045】
図2および図3は、電極形成工程のフローを示す集電体9および活物質層10の断面図である。以下、図1〜3を参照しながら、電極形成工程について説明する。
【0046】
電極形成装置1を用いて、電池用電極を形成するには、まず、集電体9を円形キャンロール4aおよび4b、ガイドローラー12〜16、そしてフィードローラー17のそれぞれの外周面に渡して配置する。集電体9の両端側は2つの巻き取りローラー11および18に巻き取るが、この際、一方の端部を残して、他はすべて、例えば巻き取りローラー11に巻き取っておく。
【0047】
次に、真空チャンバー2内を真空排気装置7によって排気する。所定の圧力以下になったら、シャッタ6aおよび6bを閉じた状態で、電子銃から活物質材料に電子ビームを照射し、活物質からなる活物質材料を加熱する。要する時間を短縮するために、真空度の上昇に合わせて、活物質材料の電子ビーム加熱を徐々に進めてもよい。
【0048】
活物質材料が所定の溶融状態に達したら、シャッタ6aおよび6bを開き、集電体9を走行させながら集電体9上に活物質層10を形成する。以下、この工程を詳述する。
【0049】
まず、巻き取りローラー11から集電体9を引き出し、円形キャンロール4a上を走行させ、蒸着領域Aにおいてその一方の面(例えば、表側面)に蒸着源3aから蒸発してきた活物質材料を堆積させる。蒸着領域Aの大部分では活物質材料は均一に堆積するが、出口近傍の不均一形成領域Cでは活物質材料は不均一に堆積する。この結果、図2(a)〜図2(c)に示すように、巻き取りローラー11から引き出された集電体9の表面には何も形成されていないが、不均一形成領域Cの入口では、均一な厚さの活物質材料層主要部21aが形成され、不均一形成領域Cの出口では、凹凸などの不均一がある表面21bを有する活物質材料層21が形成される。
【0050】
蒸着領域Aを通過した集電体9は、フィードローラー17およびガイドローラー14および15を介して蒸着領域Bへ搬送する.フィードローラー17は、電解銅箔などの集電体9との十分な摩擦を得るため、ゴムなどの弾性体で形成されているのが好ましい。ガイドローラー14および15は、集電体9が、蒸着領域Aにおいて活物質材料層21が形成された面(表側面)で円形キャンロール4bに接し、蒸着領域Bにおいて反対側の面(裏側面)で蒸着源3bに対向するように、蒸着源に対向する集電体9の面を表側面から裏側面に「反転」させる働きをする。
【0051】
この後、集電体9を円形キャンロール4b上を走行させ、蒸着領域Bにおいてその裏側面に蒸着源3bから蒸発してきた活物質材料を堆積させる。蒸着領域Bの大部分では活物質材料は均一に堆積するが、出口近傍の不均一形成領域Dでは活物質材料は不均一に堆積する。この結果、図2(d)に示すように、集電体9の裏面には、不均一形成領域Dの入口までに均一な厚さの活物質材料層主要部が形成され、不均一形成領域Dの出口までに凹凸などの不均一がある表面22bを有する活物質材料層22が形成される。
【0052】
不均一形成領域Dを通過し終わった集電体9は、巻き取りローラー18に巻き取る。以上のようにして、集電体9の一領域は、巻き取りローラー11から巻き取りローラー18まで往路走行する間に活物質材料層21および22が表側面および裏側面にそれぞれ形成される。すべての集電体9を巻き取りローラー11から引き出し、巻き取りローラー18に巻き取り終われば、集電体9の全領域に活物質材料層21および22が形成される。
【0053】
この後、集電体9の走行方向を反転する。図1(b)に示すように、復路走行では、まず、巻き取りローラー18から集電体9を引き出し、円形キャンロール4b上を走行させ、蒸着領域Bにおいてその裏側面の活物質材料層22の上に、蒸着源3bから蒸発してきた活物質材料を堆積させ、活物質材料層23を形成する。この際、活物質材料層22の表面には凹凸などの不均一がある表面22bが形成されているため、活物質材料層22と活物質材料層23との境界面における活物質材料の堆積は不均一になる。
【0054】
例えば、表面に凹凸がある場合、凸部では活物質材料の供給が速く起こるため成膜速度が速いが、凹部では活物質材料の供給が遅いため成膜速度が遅い。この結果、表面の凹凸がさらに著しくなり、凸部から成長した活物質材料層が凹部側にせり出すと、凸部の影になる凹部では活物質材料の供給が妨げられる(シャドウ効果)。このように、真空蒸着法では回り込んだ成膜ができないため、最終的には凸部からせり出した活物質材料層が凹部の上方でアーチ状にかぶさると、凹部が細孔22cとして取り残される。図3(e)に示すように、活物質材料層22と活物質材料層23との境界面に沿って多数の細孔22cが形成され、これらの細孔22cの一部は互いに連通して、前記イオン通過性の孔を形成する。活物質材料層22の厚さ方向における細孔22cの孔径は、ガスの流量および集電体9の走行速度によって制御できる。ここでは、不均一のある表面22bの不均一が表面の凹凸である場合について説明したが、不均一が酸素含有率が大きい領域と小さい領域のような物理的及び/又は化学的な表面状態の不均一であっても同様のことが起こる。
【0055】
その後、蒸着領域Bの大部分では活物質材料は均一に堆積し、図3(e)に示すように、活物質材料層主要部23aが形成されるが、出口近傍の不均一形成領域Eでは活物質材料は不均一に堆積し、図3(f)に示すように、不均一のある表面23bを有する活物質材料層23が形成される。
【0056】
不均一形成領域Eを通過した集電体9は、フィードローラー17およびガイドローラー15および14を介して蒸着領域Aへ搬送する。ここで、集電体9は、蒸着領域Aにおいて活物質材料層23が形成された面(裏側面)で円形キャンロール4aに接し、蒸着領域Aにおいて表側面で蒸着源3aに対向するように、蒸着源に対向する集電体9の面が裏側面から表側面に再び「反転」される。
【0057】
この後、集電体9を円形キャンロール4a上を走行させ、蒸着領域Aにおいて活物質材料層21の表面に蒸着源3aから蒸発してきた活物質材料を堆積させ、活物質材料層24を形成する。この場合も、活物質材料層21の表面には不均一のある表面21bが形成されているため、活物質材料層21と活物質材料層24との境界面における活物質材料の堆積は不均一になり、活物質材料層21と活物質材料層24との境界面に沿って多数の細孔22cが形成される。
【0058】
その後、蒸着領域Aの大部分では活物質材料は均一に堆積し、活物質材料層主要部が形成されるが、出口近傍の不均一形成領域Fでは活物質材料は不均一に堆積し、図3(g)に示すように、不均一のある表面24bを有する活物質材料層24が形成される。
【0059】
不均一形成領域Fを通過し終わった集電体9は、巻き取りローラー11に巻き取る。以上のようにして、すべての集電体9を巻き取りローラー18から引き出し、巻き取りローラー11に巻き取り終われば、集電体9の全領域に活物質材料層23および24が形成される。
【0060】
この後、集電体9を往復走行させながら、必要な回数だけ積層成膜を繰り返すことにより、所定の数の活物質材料層が積層され、その境界面に沿って互いに連通し合った多数の細孔を有する活物質層10を能率よく簡易に形成することができる。
【0061】
実施の形態2
図4は、本実施の形態に基づくリチウムイオン二次電池の構成の一例を示す斜視図(A)および断面図(B)である。図4に示すように、二次電池40は角型の電池であり、電極巻回体46が電池缶47の内部に収容され、電解液が電池缶47に注入されている。電池缶47の開口部は、電池蓋48により封口されている。電極巻回体46は、帯状の負極41と帯状の正極42とをセパレータ(および電解質層)43を間に挟んで対向させ、長手方向に巻回したものである。負極41から引き出された負極リード端子44は電池缶47に接続され、電池缶47が負極端子を兼ねている。正極42から引き出された正極リード端子45は正極端子49に接続されている。
【0062】
電池缶47および電池蓋48の材料としては、鉄、アルミニウム、ニッケルおよびステンレスなどを用いることができる。
【0063】
以下、リチウムイオン二次電池40について詳述する。
【0064】
負極41は、負極集電体と、負極集電体に設けられた負極活物質層とによって構成されている。
【0065】
負極集電体は、リチウム(Li)と金属間化合物を形成しない金属材料によって形成されているのがよい。負極集電体がリチウムと金属間化合物を形成する材料であると、充放電に伴うリチウムとの反応によって負極集電体が膨張収縮する。この結果、負極集電体の構造破壊が起こって集電性が低下する。また、負極活物質層を保持する能力が低下して、負極活物質層が負極集電体から脱落しやすくなる。
【0066】
リチウムと金属間化合物を形成しない金属元素としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、あるいはクロム(Cr)などが挙げられる。なお、本明細書において、金属材料とは、金属元素の単体だけではなく、2種以上の金属元素、あるいは1種以上の金属元素と1種以上の類金属元素(半金属元素)とからなる合金も含むものとする。
【0067】
また、負極集電体は、負極活物質層と合金化または拡散による接合を形成する金属元素を含む金属材料によって構成されているのがよい。このようであれば、負極活物質層と負極集電体との密着性が向上し、充放電に伴う膨張収縮によって負極活物質が細分化されることが抑制され、負極集電体から負極活物質層が脱落するのが抑えられるからである。また、負極41における電子伝導性を向上させる効果も得られる。
【0068】
負極集電体は、単層であってもよいが、複数層によって構成されていてもよい。複数層からなる場合、負極活物質層と接する層がケイ素またはスズと、合金化または拡散による接合を形成する金属材料からなり、他の層がリチウムと金属間化合物を形成しない金属材料からなるのがよい。
【0069】
負極活物質層中に、負極活物質としてケイ素の単体及びその化合物、並びにスズの単体及びその化合物のうちの1種以上が含まれているのがよい。このうち、とくにケイ素が含まれているのがよい。ケイ素はリチウムイオンを合金化して取り込む能力、および合金化したリチウムをリチウムイオンとして再放出する能力に優れ、リチウムイオン二次電池を構成した場合、大きなエネルギー密度を実現することができる。ケイ素は、単体で含まれていても、合金で含まれていても、化合物で含まれていてもよく、それらの2種以上が混在した状態で含まれていてもよい。
【0070】
負極活物質層は、厚さが4〜7μm程度の薄膜型であるのがよい。この際、ケイ素の単体の一部又は全部が負極を構成する集電体と、合金化または拡散による接合を形成しているのがよい。既述したように、負極活物質層と負極集電体との密着性を向上させることができるからである。具体的には、界面において負極集電体の構成元素が負極活物質層に、または負極活物質層の構成元素が負極集電体に、またはそれらが互いに拡散していることが好ましい。充放電により負極活物質層が膨張収縮しても、負極集電体からの脱落が抑制されるからである。なお、本願では、元素の拡散による固溶体化も、合金化の一形態に含めるものとする。
【0071】
活物質層がスズの単体を含む場合、スズ層の上にコバルト層が積層され、積層後の加熱処理によって両者が合金化されているのがよい。このようにすると、充放電効率が高くなり、サイクル特性が向上する。この原因の詳細は不明であるが、リチウムと反応しないコバルトを含有することで、充放電反応を繰り返した場合のスズ層の構造安定性が向上するためと考えられる。
【0072】
リチウムと金属間化合物を形成せず、負極活物質層中のケイ素と合金化または拡散による接合を形成する金属元素として、銅、ニッケル、および鉄が挙げられる。中でも、銅を材料とすれば、十分な強度と導電性とを有する負極集電体が得られるので、特に好ましい。
【0073】
また、負極活物質層を構成する元素として、酸素が含まれているのがよい。酸素は負極活物質層の膨張および収縮を抑制し、放電容量の低下および膨れを抑制することができるからである。負極活物質層に含まれる酸素の少なくとも一部は、ケイ素と結合していることが好ましく、結合の状態は一酸化ケイ素でも二酸化ケイ素でも、あるいはそれら以外の準安定状態でもよい。
【0074】
負極活物質層における酸素の含有量は、3原子数%以上、40原子数%以下の範囲内であることが好ましい。酸素含有率が3原子数%よりも少ないと十分な酸素含有効果を得ることができない。また、酸素含有率が40原子数%よりも多いと電池のエネルギー容量が低下してしまうほか、負極活物質層の抵抗値が増大し、局所的なリチウムの挿入により膨れたり、サイクル特性が低下してしまうと考えられるからである。なお、充放電により電解液などが分解して負極活物質層の表面に形成される被膜は、負極活物質層には含めない。よって、負極活物質層における酸素含有率とは、この被膜を含めないで算出した数値である。
【0075】
また、負極活物質層は、酸素の含有量が少ない第1層と、酸素の含有量が第1層よりも多い第2層とが形成されている。特に、第1層と第2層とが交互に形成されており、第2層は少なくとも第1層の間に1層以上存在することが好ましい。この場合、充放電に伴う膨張および収縮を、より効果的に抑制することができるからである。例えば、第1層におけるケイ素の含有量は90原子数%以上であることが好ましく、酸素は含まれていても含まれていなくてもよいが、酸素含有率は少ない方が好ましく、全く酸素が含まれないか、または、酸素含有率が微量であるのがより好ましい。この場合、より高い放電容量を得ることができるからである。一方、第2層におけるケイ素の含有量は90原子数%以下、酸素の含有量は10原子数%以上であることが好ましい。この場合、膨張および収縮による構造破壊をより効果的に抑制することができるからである。第1層と第2層とは、負極集電体の側から、第1層、第2層の順で積層されていてもよいが、第2層、第1層の順で積層されていてもよく、表面は第1層でも第2層でもよい。また、酸素の含有量は、第1層と第2層との間において段階的あるいは連続的に変化していることが好ましい。酸素の含有量が急激に変化すると、リチウムイオンの拡散性が低下し、抵抗が上昇してしまう場合があるからである。
【0076】
なお、負極活物質層は、ケイ素および酸素以外の他の1種以上の構成元素を含んでいてもよい。他の元素としては、例えば、チタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、銀(Ag)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、ビスマス(Bi)、あるいはアンチモン(Sb)が挙げられる。
【0077】
正極42は、正極集電体と、正極集電体に設けられた正極活物質層とによって構成されている。
【0078】
正極集電体は、例えば、アルミニウム、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料によって構成されているのがよい。
【0079】
正極活物質層は、例えば、正極活物質として、充電時にリチウムイオンを放出することができ、かつ放電時にリチウムイオンを再吸蔵することができる材料を1種以上含んでおり、必要に応じて、炭素材料などの導電材およびポリフッ化ビニリデンなどの結着材(バインダー)を含んでいるのがよい。
【0080】
リチウムイオンを放出および再吸蔵することが可能な材料としては、例えば、一般式LixMO2で表される、リチウムと遷移金属元素Mからなるリチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。これは、リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウムイオン二次電池を構成した場合、高い起電力を発生可能であると共に、高密度であるため、二次電池の更なる高容量化を実現することができるからである。なお、Mは1種類以上の遷移金属元素であり、例えば、コバルト、ニッケルおよびマンガンのうちの少なくとも一方であるのが好ましい。xは電池の充電状態(放電状態)によって異なり、通常、0.05≦x≦1.10の範囲内の値である。このようなリチウム遷移金属複合酸化物の具体例としては、スピネル型構造を有するLiCoO2、LiNiO2、あるいはLiMn24などが挙げられる。
【0081】
なお、正極活物質として、粒子状のリチウム遷移金属複合酸化物を用いる場合には、その粉末をそのまま用いてもよいが、粒子状のリチウム遷移金属複合酸化物の少なくとも一部に、このリチウム遷移金属複合酸化物とは組成が異なる酸化物、ハロゲン化物、リン酸塩、硫酸塩からなる群のうちの少なくとも1種を含む表面層を設けるようにしてもよい。安定性を向上させることができ、放電容量の低下をより抑制することができるからである。この場合、表面層の構成元素と、リチウム遷移金属複合酸化物の構成元素とは、互いに拡散していてもよい。
【0082】
また、正極活物質層は、長周期型周期表における2族元素、3族元素または4族元素の単体および化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有することが好ましい。安定性を向上させることができ、放電容量の低下をより抑制することができるからである。2族元素としてはマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)あるいはストロンチウム(Sr)などが挙げられ、中でもマグネシウムが好ましい。3族元素としてはスカンジウム(Sc)あるいはイットリウム(Y)などが挙げられ、中でもイットリウムが好ましい。4族元素としてはチタンあるいはジルコニウム(Zr)が挙げられ、中でもジルコニウムが好ましい。これらの元素は、正極活物質中に固溶していてもよく、また、正極活物質の粒界に単体あるいは化合物として存在していてもよい。
【0083】
セパレータ43は、負極41と正極42とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、かつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータ43の材料としては、例えば、微小な空孔が多数形成された微多孔性のポリエチレンやポリプロピレンなどの薄膜がよい。
【0084】
電解液は、例えば、溶媒と、この溶媒に溶解した電解質塩とで構成され、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。
【0085】
電解液の溶媒としては、例えば、1,3−ジオキソラン−2−オン(炭酸エチレン;EC)や4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン(炭酸プロピレン;PC)などの環状炭酸エステルや、炭酸ジメチル(DMC)や炭酸ジエチル(DEC)や炭酸エチルメチル(EMC)などの鎖状炭酸エステルや、γ−ブチロラクトンなどの非水溶媒が挙げられる。溶媒はいずれか1種を単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いるのがよい。例えば、炭酸エチレンや炭酸プロピレンなどの高誘電率溶媒と、炭酸ジメチルや炭酸ジエチルや炭酸エチルメチルなどの低粘度溶媒とを混合して用いることにより、電解質塩に対する高い溶解性と、高いイオン伝導度とを実現することができる。
【0086】
また、溶媒はスルトンを含有していてもよい。電解液の安定性が向上し、分解反応などによる電池の膨れを抑制することができるからである。スルトンとしては、環内に不飽和結合を有するものが好ましく、特に、下記に構造式を示す1,3−プロペンスルトン(PRS)が好ましい。より高い効果を得ることができるからである。
【0087】
【化1】

【0088】
また、溶媒には、1,3−ジオキソール−2−オン(炭酸ビニレン;VC)あるいは4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン(VEC)などの不飽和結合を有する環状炭酸エステルを混合して用いることが好ましい。放電容量の低下をより抑制することができるからである。特に、VCとVECとを共に用いるようにすれば、より高い効果を得ることができるので好ましい。
【0089】
更に、溶媒には、ハロゲン原子を有する炭酸エステル誘導体を混合して用いるようにしてもよい。放電容量の低下を抑制することができるからである。この場合、不飽和結合を有する環状炭酸エステルと共に混合して用いるようにすればより好ましい。より高い効果を得ることができるからである。ハロゲン原子を有する炭酸エステル誘導体は、環状化合物でも鎖状化合物でもよいが、環状化合物の方がより高い効果を得ることができるので好ましい。このような環状化合物としては、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)、4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−ブロモ−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(DFEC)などが挙げられ、中でもフッ素原子を有するDFECやFEC、特にDFECが好ましい。より高い効果を得ることができるからである。
【0090】
電解液の電解質塩としては、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)やテトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF4)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(CF3SO3Li)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホン)アミド(LiN(SO2CF3)2)などのリチウム塩が挙げられる。電解質塩は、いずれか1種を単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いてもよい。
【0091】
なお、電解液はそのまま用いてもよいが、高分子化合物に保持させていわゆるゲル状の電解質としてもよい。その場合、電解質はセパレータ43に含浸されていてもよく、また、セパレータ43と負極41または正極42との間に層状に存在していてもよい。高分子材料としては、例えば、フッ化ビニリデンを含む重合体が好ましい。酸化還元安定性が高いからである。また、高分子化合物としては、重合性化合物が重合されることにより形成されたものも好ましい。重合性化合物としては、例えば、アクリル酸エステルなどの単官能アクリレート、メタクリル酸エステルなどの単官能メタクリレート、ジアクリル酸エステル、あるいはトリアクリル酸エステルなどの多官能アクリレート、ジメタクリル酸エステルあるいはトリメタクリル酸エステルなどの多官能メタクリレート、アクリロニトリル、またはメタクリロニトリルなどがあり、中でも、アクリレート基あるいはメタクリレート基を有するエステルが好ましい。重合が進行しやすく、重合性化合物の反応率が高いからである。
【0092】
リチウムイオン二次電池40は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0093】
まず、実施の形態1で説明したようにして、集電体に活物質層を形成し、所定の形状に裁断して負極41を作製する。
【0094】
次に、正極集電体に正極活物質層を形成する。例えば、正極活物質と、必要に応じて導電材および結着剤(バインダー)とを混合して合剤を調製し、これをN-メチルピロリドン(NMP)などの分散媒に分散させてスラリー状にして、この合剤スラリーを正極集電体に塗布した後、圧縮成型することにより正極42を形成する。
【0095】
次に、負極41と正極42とをセパレータ43を間に挟んで対向させ、短辺方向を巻軸方向として巻回することにより、電極巻回体46を形成する。この際、負極41と正極42とは、負極活物質層と正極活物質層とが対向するように配置する。次に、この電極巻回体46を角型形状の電池缶47に挿入し、電池缶47の開口部に電池蓋48を溶接する。次に、電池蓋48に形成されている電解液注入口から電解液を注入した後、注入口を封止する。以上のようにして、角型形状のリチウムイオン二次電池40を組み立てる。
【0096】
また、ラミネートフィルムなどの外装材からなる容器を用いることもできる。電解液とともに重合性化合物を注入し、容器内において重合性化合物を重合させてもよいし、負極41と正極42とを巻回する前に、負極41または正極42に塗布法などによってゲル状電解質を被着させ、その後、セパレータ43を間に挟んで負極41と正極42とを巻回するようにしてもよい。
【0097】
組み立て後、リチウムイオン二次電池40を充電すると、正極42からリチウムイオンが放出され、電解液を介して負極41側へ移動し、負極41に取り込まれる。放電を行うと、負極41に取り込まれていたリチウムがリチウムイオンとして再放出され、電解液を介して正極42側へ移動し、正極42に再び吸蔵される。
【0098】
この際、リチウムイオン二次電池40では、負極活物質層中に負極活物質としてケイ素の単体及びその化合物、並びにスズの単体及びその化合物のうちの1種以上が含まれているため、二次電池の高容量化が可能になる。
【実施例】
【0099】
以下、本発明の具体的な実施例について詳細に説明する。なお、以下の実施例の説明では、実施の形態において用いた符号および記号をそのまま対応させて用いる。
【0100】
本実施例では、実施の形態1で説明した方法によって電池用電極を形成し、これを負極41として用いて、実施の形態2で図4に示した角型のリチウムイオン二次電池40を作製し、その負荷特性を測定した。
【0101】
<負極41の形成>
真空蒸着装置として、偏向式電子ビーム加熱蒸着源を備えた電極形成装置1(図1参照。)を用いた。集電体9として厚さ24μmの両面が粗化された帯状電解銅箔を用い、特に記載した場合以外は、集電体9の表面粗度Rz値は2.5μmであった。また、特に記載した場合以外は、活物質材料としてケイ素の単結晶を用いた。成膜は、図1に示したように、往路方向および復路方向に往復走行させながら、活物質材料層が8層積層された活物質層10を形成した.この時の成膜速度は100nm/sであり、活物質層10の厚さは5〜6μm程度であった。
【0102】
ガスとしてはアルゴン(Ar)、二酸化炭素(CO2)または酸素(O2)ガスを用い、既述したように、図1に示したガス噴射ノズル20c〜20fから、所定の流量(5〜500sccm(cc/min))で吹きつけ、活物質材料層間の境界面に細孔を形成した。活物質層10の厚さ方向における細孔径は、ガスの流量および電解銅箔の走行速度によって制御した。なお、蒸着される活物質材料の蒸気の、集電体9近傍における流れが撹乱されることが重要であり、ガスの種類は上記のものに限定されるものではなく、また、ガスの導入位置も図1に図示する位置に限定されるものではないが、集電体9に近い位置にガスを導入する方が、細孔が形成されやすくて、好ましい。
【0103】
実施例1〜16および21の要点は下記の通りである。
【0104】
実施例1〜6、および比較例1〜3
実施例1〜6では、ガスとしてアルゴンガスを、それぞれ、8、10、30、150、230、および400sccmのガス流量で噴射し、活物質層10の厚さ方向における孔径が、それぞれ、3、5、10、70、150、および300nmの細孔群を形成した。比較例1では、アルゴンガスを導入したが、図1に示すように、蒸着領域AおよびBから離れ、蒸着源3aおよび3bに比較的近い位置に設けたガス導入口50aおよび50から、活物質材料の蒸気の流れの中にアルゴンガスを低流量で導入し、細孔を形成しなかった。比較例2および3では、ガスとしてアルゴンガスを、それぞれ、500および620sccmのガス流量で噴射し、活物質層10の厚さ方向における孔径が、それぞれ、350および400nmの細孔群を形成した。
【0105】
実施例7〜9
実施例7では、ガスとして二酸化炭素ガスを100sccmのガス流量で噴射し、活物質層10の厚さ方向における孔径が70nmの細孔群を形成した。実施例8では、ガスとして酸素ガスを200sccmのガス流量で噴射し、活物質層10の厚さ方向における孔径が70nmの細孔群を形成した。実施例9では、ガスを噴射する代わりに、蒸着源における電子ビームの照射領域を変化させることにより、成膜速度を50〜150nm/sの範囲で変化させることによって蒸着を不均一化し、活物質層10の厚さ方向における孔径が70nmの細孔群を形成した。なお、同じガス流量のガスを噴射して細孔を形成した場合、活物質層10の厚さ方向における細孔の孔径はガスの種類によって変化し、O2<Ar<CO2の関係がある。
【0106】
実施例10〜16、比較例4〜10
実施例10〜16では、負極集電体として表面粗度Rzが、それぞれ、1.8、2.0、2.9、3.5、4.1、4.5、および4.8μmの電解銅箔を用いた。活物質層10の厚さ方向における細孔の孔径は実施例4と同じ70nmとしたが、そのためにガスとしてアルゴンガスを、それぞれ、150、150、150、140、130、120、および120sccmのガス流量で噴射した。なお、集電体9の表面粗度が変化すると、多少、細孔を形成するために必要なガス流量も変化する。比較例4〜10では、負極集電体として表面粗度が、それぞれ、1.8、2.0、2.9、3.5、4.1、4.5、および4.8μmの電解銅箔を用いた。比較例4〜10では、比較例1と同様、4アルゴンガスを導入したが、細孔は形成しなかった。
【0107】
実施例21、比較例15
実施例21および比較例15では、活物質材料としてスズを用い、往復成膜によって8層の活物質材料層が積層された活物質層を形成した。この際、実施例21では、アルゴンガスを250sccmのガス流量で吹きつけることにより、活物質層10の厚さ方向における孔径が70nmの細孔群を活物質材料層間の境界面に沿って形成した。比較例15では、アルゴンガスを導入したが、細孔は形成しなかった。
【0108】
<リチウムイオン二次電池40の作製>
まず、上記の電池用電極を用いて負極41を作製した。次に、正極活物質である平均粒径5μmのコバルト酸リチウム(LiCoO2)の粉末と、導電材であるカーボンブラックと、結着材であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、コバルト酸リチウム:カーボンブラック:ポリフッ化ビニリデン=92:3:5の質量比で混合し、合剤を調製した。この合剤を分散媒であるN-メチルピロリドン(NMP)に分散させてスラリー状とした。この合剤スラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔からなる正極集電体に塗布し、分散媒を蒸発させ乾燥させた後、加圧して圧縮成型することにより、正極活物質層を形成し、正極42を作製した。
【0109】
次に、負極41と正極42とをセパレータ43を間に挟んで対向させ、巻き回し、電極回巻体46を作製した。セパレータ43として、微多孔性ポリエチレンを主成分とするフィルムを中心材とし、その両面を微多孔性ポリプロピレンを主成分とするフィルムで挟み込んだ構造の、厚さ23μmの多層ポリマーセパレータを用いた。
【0110】
次に、この電極巻回体46を角型形状の電池缶47に挿入し、電池缶47の開口部に電池蓋48を溶接する。次に、電池蓋48に形成されている電解液注入口から電解液を注入した後、注入口を封止して、リチウムイオン二次電池40を組み立てた。
【0111】
また、電解液としては、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(フルオロエチレンカーボネート;FEC)とジエチルカーボネート(DEC)とを、FEC:DEC=30:70の質量比で混合した混合溶媒(表1〜3および表5中、FEC/DECと略記)に、電解質塩としてLiPF6を1mol/dm3の濃度で溶解させた溶液を標準溶液として用いた。
【0112】
実施例17〜19、比較例11〜13
実施例17および18では、実施例4と同じく、活物質層10の厚さ方向における孔径が70nmの細孔を有する活物質層10からなる二次電池用電極を用い、標準電解質の代わりに、電解質の溶媒として、それぞれ、DFEC:DEC=30:70の質量比で混合した混合溶媒(表4中、DFEC/DECと略記)、および、EC:DEC:VC=30:60:10の質量比で混合した混合溶媒(表4中、EC/DEC/VCと略記)を用いた電解質を用いた。実施例19では、実施例5と同じく、活物質層10の厚さ方向における孔径が150nmの細孔を有する活物質層10からなる二次電池用電極を用い、標準電解質の代わりに、電解質の溶媒としてEC:DEC:VC:PRS=30:60:9:1の質量比で混合した混合溶媒(表4中、PRS入りと略記)を用いた電解質を用いた。なお、既述したように、DFECは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(ジフルオロエチレンカーボネート)を表し、ECはエチレンカーボネートを表し、VCはビニレンカーボネートを表し、PRSは1,3−プロペンスルトンを表す。
【0113】
比較例11〜13では、比較例1と同様にアルゴンガスを50sccmのガス流量で導入したが、細孔は形成しなかった。比較例11〜13では、それぞれ、実施例17〜19と同じ混合溶媒を用いた電解質を用いた。
【0114】
<リチウムイオン二次電池の評価>
作製した実施例および比較例の二次電池40について、25℃の下で充放電試験を行い、負荷特性を測定した。この充放電試験では、実施例20および比較例14以外では、初めの1サイクルだけは、まず、0.2mA/cm2の定電流密度で電池電圧が4.2Vに達するまで充電を行い、引き続き4.2Vの定電圧で電流密度が0.05mA/cm2に達するまで充電を行う。次に、0.2mA/cm2の定電流で電池電圧が2.5Vになるまで放電を行う。
【0115】
2サイクル目以降の1サイクルは、まず、電池容量に対して0.2Cの電流密度で電池電圧が4.2Vに達するまで充電を行い、引き続き4.2Vの定電圧で電流密度が0.1mA/cm2になるまで充電を行う。次に、電池容量に対して0.2Cの電流密度で電池電圧が2.5Vになるまで放電を行うものである。
【0116】
負荷特性を測定する際には、まず、電池容量に対して0.2Cの電流密度で電池電圧が4.2Vに達するまで充電を行い、引き続き4.2Vの定電圧で電流密度が0.1mA/cm2になるまで充電を行う。次に、放電は電池容量に対して2Cの電流密度で電池電圧が2.5Vになるまで放電を行うものである。
【0117】
負荷特性を次式
負荷特性(%)
=(2Cでの放電容量/0.2Cでの放電容量)×100(%)
で定義し、負荷特性(0.2Cでの放電容量に対する2Cでの放電容量の比率)を調べた。
【0118】
実施例20、比較例14
実施例20では、実施例4と同じく、活物質層10の厚さ方向における孔径が70nmの細孔を有する活物質層10からなる二次電池用電極を用い、標準電解質を用いて二次電池を作製した。ただし、初回充電は、0.07mA/cm2の定電流密度で電池電圧が4.2Vに達するまで行った後、4.2Vの定電圧で電流密度が0.05mA/cm2に達するまで行った。比較例14では、アルゴンガスを導入したが、細孔は形成しなかった。それ以外は実施例20と同様にして二次電池を作製し、初回充電を行った。
【0119】
以上の結果を表1〜表5に示す。
【0120】
【表1】

【0121】
【表2】

【0122】
【表3】

【0123】
【表4】

【0124】
【表5】

【0125】
表中、細孔径は、活物質層の厚さ方向における細孔の孔径である。本実施例では、集束イオンビーム(FIB;Forcused Ion Beam)法によって活物質層10の断面を切り出し、活物質層10を構成する活物質粒子のうち、特に中心を切断した活物質粒子を走査電子顕微鏡(SEM)によって40000倍以上の倍率に拡大して測長を行い、断面において隣接する10個の細孔の平均として細孔の孔径を求めた。
【0126】
図5は、実施例4による二次電池用電極の活物質層10の断面を走査電子顕微鏡(SEM)によって観察した観察像である。本実施例による二次電池用電極では、活物質層は、多数の塊状または柱状の活物質粒子が集電体に接合して形成され、わずかな隙間を挟んで集電体表面を埋め尽くすように並んでいる活物質粒子集合体として形成されている。図5(a)は、その活物質粒子の断面を示す観察像であり、活物質粒子を形成している活物質層10が積層された活物質材料層からなり、それらの境界面に沿って細孔が形成されていることがわかる。図5(b)は、細孔の平均孔径を算出した、隣接する10個の細孔を含む細孔の拡大図である。図5(b)では、各細孔はそれぞれ孤立しているように見えるかもしれないが、実際には多くの細孔は互いに連通し合っており、二次電池を組み立てた時点で、その内部は、電解質、及び/又は、電解質が還元されて生成した生成物で満たされ、電解質イオンを通過させる導電路を形成する。
【0127】
全ての電極は、二次電池を組み立てる前に活物質層10の断面を走査電子顕微鏡(SEM)によって観察し、目的とする孔径の細孔があることを確認した。細孔の孔径が同じで、初回充電電流密度が異なる実施例4および実施例20に関して、初回充放電後の負極断面の細孔の状態をSEM観察像を用いて比較したところ、初回充電電流密度が大きい実施例4では、細孔が電解質還元生成物で完全に埋まっていたのに対し、初回充電電流密度が小さい実施例20では、細孔が電解質還元生成物で完全には埋め込まれていなかった。
【0128】
この例のように、細孔には電解液が入り込み、充電時に電解質が還元されて還元生成物ができるので、細孔内部は徐々に還元生成物である有機物で埋まっていく。細孔の大きさにもよるが、1〜数サイクルで細孔としては見えなくなる。しかしながら、この還元生成物は、リチウムイオンを通過させる導電路を形成し、負荷特性を向上させる有効な働きをするので、電池の負荷特性のよさは維持される。なお、上記の還元生成物は、通常、負極上に生成する、「被膜」と呼ばれているものと同じものと考えられる。結果的には、細孔は、還元生成物からなる有機物層を作るための手段の一つであり、リチウムイオンを通過させる導電路として機能する有機物層が形成されることが最も重要である。
【0129】
図6は、別の実施例による二次電池用電極の活物質層10の断面を走査電子顕微鏡(SEM)によって観察した観察像である。細孔は活物質を断絶する必要はなく、一部に細孔を有していればよい.例えば、図6(a)は、走行方向とガス吹き付けの方向を調整することで活物質に互い違いに細孔を有した負極を作製した例を示す。同様に、図6(b)は、片方のみ細孔を有する活物質を作製した例を示す。図5に示した実施例4のように、活物質層10を「層状」に細孔により分離している例ばかりではなく、図6に示すように交互または片方のみに細孔が形成されていてもよい。
【0130】
図7(a)は、実施例1〜6および比較例2と3における細孔径と負荷特性との関係を示すグラフである。図中、実施例のデータポイントに付した1〜6の数字は実施例の番号であり、比較例のデータポイントに付した比2、比3の数字は比較例の番号である。これらの例から、活物質層中に孔径が3〜300nmである細孔群を形成することにより、負荷特性が向上することがわかった。孔径が3nm未満の場合は特に効果が見られず、孔径が300nmを超える場合は、電極の脱落により高負荷時の容量が低下することがわかった。例えば比較例3のように、細孔径が大きくなりすぎると、電解液還元成分由来の皮膜形成が非常に大きくなり、負荷特性が低下する。
【0131】
また、実施例7〜9と比較例1との比較から、活物質層中に細孔群を形成する効果は、細孔の生成方法によらないことがわかった。
【0132】
図7(b)は、実施例10〜16における電解銅箔の表面粗度と負荷特性との関係を示すグラフであり、図中、実施例のデータポイントに付した10〜16の数字は実施例の番号である。実施例10〜16と、比較例4〜10との比較から、活物質層中に細孔群を形成する効果は、細孔を形成する集電体の表面粗度によらないが、特にRzが2.0〜4.5μmである場合に有効であることがわかった。これは、活物質膨張収縮時に、この粗度範囲においての電極の割れ具合に対して、層間の細孔層が特に有効に働くためと考えられる。
【0133】
また、実施例4、17および18と、比較例1、11および12との比較から、活物質層中に細孔群を形成する効果は、電解質として環状炭酸エステルまたは鎖状炭酸エステルの水素の一部または全部がフッ素化された化合物を含む場合に、より顕著であることがわかった。
【0134】
また、実施例5および19と、比較例1および13との比較から、活物質層中に細孔群を形成する効果は、電解質中に、スルトンなどのS=Oを有する化合物を含む場合により顕著であることがわかった。
【0135】
また、実施例20と比較例14より、細孔群は、充電条件によっては初回放電後は見られなくなることがわかったが、そのような場合も負荷特性向上には効果があることがわかった。
【0136】
また、実施例21と比較例15より、活物質層中に細孔群を形成する効果は、スズ系負極においても有効であることがわかった。
【0137】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々に変形可能である。
【0138】
例えば、負極活物質層の形成方法は特に限定されるものではなく、負極集電体表面に活物質層を形成できる方法であれば何でもよい。例えば、気相法、焼成法あるいは液相法を挙げることができる。気相法としては、真空蒸着法の他に、スパッタリング法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、CVD法(Chemical Vapor Deposition ;化学気相成長法)、あるいは溶射法などのいずれを用いてもよい。液相法としては、例えば鍍金が挙げられる。また、それらの2つ以上の方法、更には他の方法を組み合わせて活物質層を成膜するようにしてもよい。
【0139】
また、実施の形態および実施例では、外装部材として角型の缶を用いる場合について説明したが、本発明は、外装部材としてフィルム状の外装材などを用いる場合についても適用することができる。その形状も、角型の他に、コイン型、円筒型、ボタン型、薄型、あるいは大型など、どのようなものでもよい。また、負極と正極とを複数層積層した積層型のものについても同様に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明に係る二次電池は、ケイ素の単体などを負極活物質として用いて、大きなエネルギー容量と良好なサイクル特性を実現し、モバイル型電子機器の小型化、軽量化、および薄型化に寄与し、その利便性を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】本発明の実施の形態1に基づく電極形成装置の構成を示す概略図である。
【図2】同、電極形成工程のフローを示す集電体などの断面図である。
【図3】同、電極形成工程のフローを示す集電体などの断面図である。
【図4】本発明の実施の形態2に基づくリチウムイオン二次電池の構成(角型)を示す断面図である。
【図5】本発明の実施例による二次電池用電極の活物質層の断面を走査電子顕微鏡(SEM)によって観察した観察像である。
【図6】本発明の別の実施例による二次電池用電極の活物質層の断面を走査電子顕微鏡(SEM)によって観察した観察像である。
【図7】本発明の実施例による、細孔径および銅箔表面粗度と、負荷特性との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0142】
1…電極形成装置、2…真空チャンバー、2a、2b…蒸着源設置室、
2c…集電体設置室、3a、3b…蒸着源、4a、4b…円形キャンロール、
5…遮蔽板、5a、5b…開口部、6a、6b…シャッタ、
7…真空排気装置、8…隔離板、9…集電体、10…活物質層、
11、18…巻き取りローラー、12〜16…ガイドローラー、
17…フィードローラー、20c〜20f…ガス導入口(ガス噴射ノズルなど)、
21〜24…活物質材料層、21a、23a…活物質材料層主要部、
21b〜24b…不均一がある表面、21c、22c…細孔、
40…リチウムイオン二次電池、41…負極、42…正極、43…セパレータ、
44…負極リード、45…正極リード、46…電極巻回体、47…電池缶、
48…電池蓋、49…正極端子、50a、50b…ガス導入口、
A、B…蒸着領域、C〜F…不均一形成領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体に、活物質材料からなる活物質材料層の複数層が積層されてなる活物質層が設けられている電池用電極において、
前記活物質材料層間の境界面に沿って、前記活物質層の厚さ方向における孔径が3〜 300nmである孔が形成されており、
前記孔の少なくとも一部は、二次電池を構成した際に電解質、及び/又は、電解質が 還元されて生成した生成物によって満たされる
ことを特徴とする、二次電池用電極。
【請求項2】
前記孔は、互いに連通し合った細孔を含む、請求項1に記載した二次電池用電極。
【請求項3】
前記活物質材料層が気相成膜法によって形成されている、請求項1に記載した二次電池用電極。
【請求項4】
前記活物質材料が、ケイ素及びスズの単体及び化合物のうちの少なくとも1種を含有する、請求項1に記載した二次電池用電極。
【請求項5】
前記集電体は、前記活物質材料層との界面の少なくとも一部において、前記活物質材料と合金化しているか、又は、前記活物質材料層中に拡散している、請求項1に記載した二次電池用電極。
【請求項6】
前記集電体の、前記活物質層が設けられる面の表面粗度が、十点平均粗さRzで2.0〜4.5μmである、請求項1に記載した二次電池用電極。
【請求項7】
前記集電体が銅を含有する材料からなる、請求項1に記載した二次電池用電極。
【請求項8】
請求項1に記載した二次電池用電極の製造方法であって、
前記集電体に、前記活物質材料を少なくとも表面側で不均一に堆積させることによっ て、不均一な表面を有する活物質材料層を形成する工程と、
前記不均一な表面を有する活物質材料層の上に別の活物質材料層を積層し、これら両 活物質材料層の境界面に沿って前記孔を形成する工程と
を有し、
これらの工程を少なくとも1回行うことによって前記活物質層を形成する、
二次電池用電極の製造方法。
【請求項9】
前記活物質材料層を気相成膜法によって形成する、請求項8に記載した二次電池用電極の製造方法。
【請求項10】
前記集電体に、前記活物質材料を均一に堆積させ、活物質材料層主要部を形成し、この活物質材料層主要部に前記活物質材料を不均一に堆積させることによって、前記不均一な表面を有する活物質材料層を形成する、請求項9に記載した二次電池用電極の製造方法。
【請求項11】
前記集電体として長尺形状の集電体を用い、前記集電体を長尺方向に送り出し、活物質材料層主要部形成領域を通過させて前記活物質材料層主要部を形成した後に、不均一形成領域を通過させて前記不均一な表面を有する活物質材料層を形成する、請求項10に記載した二次電池用電極の製造方法。
【請求項12】
前記不均一形成領域において、前記活物質材料が堆積しつつある前記活物質材料層主要部の表面にガスを吹きつけ、前記不均一な表面を有する活物質材料層を形成する、請求項11に記載した二次電池用電極の製造方法。
【請求項13】
前記ガスの流量を8〜400sccmとする、請求項12に記載した二次電池用電極の製造方法。
【請求項14】
成膜速度を変調することによって、前記不均一な表面を有する活物質材料層を形成する、請求項9に記載した二次電池用電極の製造方法。
【請求項15】
電子ビーム加熱型真空蒸着法によって気相成膜を行い、蒸着源における電子ビームの照射領域を変化させることによって前記成膜速度の変調を行う、請求項14に記載した二次電池用電極の製造方法。
【請求項16】
ケイ素及び/又はスズを含有する活物質材料を用いて、ケイ素及び/又はスズを含有する前記活物質材料層を形成する、請求項8に記載した二次電池用電極の製造方法。
【請求項17】
前記集電体を、前記活物質材料層との界面の少なくとも一部において、前記活物質材料と合金化させるか、又は、前記活物質材料層中に拡散させる、請求項8に記載した二次電池用電極の製造方法。
【請求項18】
前記集電体として、前記活物質材料層が設けられる面の表面粗度が、十点平均粗さRzで2.0〜4.5μmである集電体を用いる、請求項8に記載した二次電池用電極の製造方法。
【請求項19】
前記集電体として銅を含有する材料を用いる、請求項8に記載した二次電池用電極の製造方法。
【請求項20】
請求項1〜7のいずれか1項に記載した二次電池用電極を負極として備え、正極と電解質とを備えた、二次電池。
【請求項21】
前記正極を構成する正極活物質中に、リチウム化合物が含まれている、請求項20に記載した二次電池。
【請求項22】
前記電解質を構成する溶媒として、環状炭酸エステル又は/及び鎖状炭酸エステルの水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されたフッ素含有化合物が含まれている、請求項20に記載した二次電池。
【請求項23】
前記電解質にスルホン酸、スルフィン酸、及びこれらの誘導体の少なくとも1種が含まれている、請求項20に記載した二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−165999(P2008−165999A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−351041(P2006−351041)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】