説明

二軸延伸多層積層フィルムおよび識別媒体

【課題】無色透明であり、かつ特定の視野角において入射光のP偏光成分のみを視認できる程度に反射し、他方S偏光成分は視認できる程度に反射することがなく無色透明にみえる、視野角および偏光に依存する光の選択反射性を示す多層積層フィルムを提供する。
【解決手段】厚みが0.05〜0.5μmの範囲にある負の固有複屈折性を有する結晶性熱可塑性樹脂からなる第1の層と、厚みが0.05〜0.5μmの範囲にある熱可塑性樹脂からなる第2の層とを100層以上交互に積層した多層積層フィルムであって、フィルム面に対して垂直な面からの入射光に対する反射率ピーク高さが5%以下であり、かつフィルムに対して60°の角度で入射する光のうちS偏光に対しては反射率ピーク高さが5%以下であり、フィルムに対して60°の角度で入射する光のうちP偏光に対しては反射率ピーク高さが20%以上であることを特徴とする二軸延伸多層積層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二軸延伸多層積層フィルムに関し、詳しくは、商品を梱包したパッケージ、パスポート、カード、紙幣、金券、証券、証書、商品券、絵画、切符、公共競技投票券等の平面的な対象物または各種立体的な対象物の真正性を識別するための識別媒体、例えば偽造防止シール、として好適に用いることのできる二軸延伸多層積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
光学干渉による選択波長反射性を示す多層積層フィルムは従来より知られている。まず、光学干渉による選択波長反射性を示す多層積層フィルムの基本的な原理について説明する。図1は、多層積層フィルムに入射した光が各層で選択反射する様子を示す図である。白色光が多層積層フィルムに入射する場合、その波長に応じて光は反射、吸収、透過され、特にその反射光は各層における反射の光路差によって相互に干渉し、特定の波長域の光のみが反射される性質がある。これを選択反射効果という。反射波長と反射率は、次の式によって求めることができる。
【0003】
式1 λ=2×(nA・dA・cosθ+nB・dB・cosθ)
式2 R=(nA/nB−1)/(nA/nB+1)
ここに、λ:反射波長、nA:A層屈折率、nB:B層屈折率、θ:反射角、dA:A層膜厚、dB:B層膜厚、R:反射率である。
この選択反射波長域は、各層をなすポリマーなどの素材の屈折率と膜厚、層数などにより任意に設定可能である。
【0004】
また、多層積層フィルムは上記式から明らかなように、見る角度によって色が変わるという特徴を有する。これは、入射光が斜めの場合には、膜厚dA,dBが見かけ上減少することから、中心波長λが短波長側へ移行するためである。この現象は、以下のようにも説明できる。すなわち、入射光は多層積層フィルムの各界面において屈折率の差に起因して反射され、この反射光は、光路差に応じて互いに干渉する。この光路差は、面に対して平行に近い角度から入射し、反射する程、小さくなる。よって、面に対してより平行に近い方向から多層積層フィルムを見る程、各界面で反射される反射光同士の光路差が小さくなり、干渉し強め合う波長が短波長側にシフトする。この原理により、多層積層フィルムを正面から見る状態から徐々に傾けてゆくと、干渉して強め合う光が短波長側にシフトしてゆく様子が観察される。
【0005】
たとえば、垂直入射光を観察して(つまり正面から見て)赤色に呈色する多層積層フィルムの反射色は、視野角を大きくするに従い(つまり多層薄膜フィルムを傾けるに従い)、オレンジ色、黄色、緑色、青緑色、青色と順次変化するように観察される(カラーシフト)。
【0006】
ところで、従来、たとえばカード、証書類の偽造防止方法としては、その対象物の表面にホログラムを貼付したり特殊なインクを塗布する技術が知られている。(たとえば、特開2001−315243号公報)。ホログラムでは、立体的に見えたり見る角度で絵柄が変わることを目視で確認して識別を行っていた。また、特殊なインクとしては、蛍光インクや磁気インクなどがあり、これらのインクを用いた場合、目視では通常のインクと変わりがないが、紫外線を照射したり磁気センサで検出することにより、隠れた情報によって対象物を識別することができる。また、対象物の識別媒体として、反射特性が視野角に依存して光の選択反射を示すフィルムを用いた、カード、証書類の偽造防止方法としては、コレステリック液晶のインクまたはフィルムを用いた例がよく知られている。(たとえば、特許第3244278号公報)
【0007】
しかしながら、ホログラムだけで高い識別性を得ようとすると、高コストな技術が必要とされ、また対象物の種類によっては使用できない場合がある。また、蛍光インクや磁気インクは類似品が入手し易いため偽造が容易であるとともに、識別のための装置が大がかりで電源を必要とするため、使い勝手が悪いという欠点がある。また、対象物の識別媒体の原料として用いられているコレステリック液晶はコストが高く、識別媒体の製造コストが割高になり、単価の低い商品に使うには適していない。
【0008】
上記のような問題点を解決する方法として、上述の多層積層フィルムを用いた光学干渉による選択波長反射性を利用する方法が提案されている(特開2005−59332号公報、国際公開第04/024439号パンフレット)。しかしながら、上述のフィルムでは、可視光に反射が見られるために、下地の絵柄が着色してしまい、視認性が低下するといった問題点があった。
【0009】
なお、特表2002−509041号公報には、無色透明な多層積層フィルムを使用した例が提案されているが、これは赤外線を反射するフィルムとして、視野角により反射波長が可視光領域にシフトすることによる着色するフィルムであり、可視光の長波長領域にしか設計できないといった問題点があった。
【0010】
【特許文献1】特開2001−315243号公報
【特許文献2】特許第3244278号公報
【特許文献3】特開2005−59332号公報
【特許文献4】国際公開第04/024439号パンフレット
【特許文献5】特表2002−509041号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、無色透明であり、かつ特定の視野角において入射光のP偏光成分のみを視認できる程度に反射し、他方、S偏光成分は視認できる程度に反射することがなく無色透明に見える、視野角および偏光に依存する光の選択反射性を示す多層積層フィルムを提供することを課題とする。
【0012】
さらに、本発明は、容易に偽造することができず、真偽の識別が容易かつ確実であり、しかも、低い製造コストで製造することのできる、対象物の識別媒体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、種々検討を重ねた結果、負の固有複屈折性を有する熱可塑性樹脂とそれとは異なる熱可塑性樹脂を積層し、延伸後の面内の屈折率を合わせる一方で、厚み方向の屈折率差を十分に設けることで、正面入射においては、実質的に透明でありながら、特定の視野角においては、P偏光においてのみ反射光が視認でき、S偏光については、実質的に透明である二軸延伸多層積層フィルムを作成できることを見出し本発明に到達した。
【0014】
すなわち本発明は、厚みが0.05〜0.5μmの範囲にある負の固有複屈折性を有する結晶性熱可塑性樹脂からなる第1の層と、厚みが0.05〜0.5μmの範囲にある熱可塑性樹脂からなる第2の層とを100層以上交互に積層した多層積層フィルムであって、フィルム面に対して垂直な面からの入射光に対する反射率ピーク高さが5%以下であり、かつフィルムに対して60°の角度で入射する光のうちS偏光に対しては反射率ピーク高さが5%以下であり、フィルムに対して60°の角度で入射する光のうちP偏光に対しては反射率ピーク高さが20%以上であることを特徴とする二軸延伸多層積層フィルムである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、無色透明であり、かつ特定の視野角において入射光のP偏光成分のみを視認できる程度に反射し、他方S偏光成分は視認できる程度に反射することがなく無色透明にみえる、視野角および偏光に依存する光の選択反射性を示す多層積層フィルムを提供することができる。
さらに、容易に偽造することができず、真偽の識別が容易かつ確実であり、しかも、低い製造コストで製造することのできる、識別媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
[光学特性]
本発明の二軸延伸多層積層フィルムは、フィルム面に対して垂直な面からの入射光に対する反射率ピーク高さが5%以下である。反射率ピーク高さが5%を超えるとフィルムから反射する光の着色が視認されるため、下地に印刷などを施した場合にはその色相が変化してしまう。
【0017】
本発明の二軸延伸多層積層フィルムは、フィルム面に対して60°の角度で入射する光のうちS偏光については反射率ピーク高さが5%以下であり、フィルム面に対して60°の角度で入射する光のうちP偏光については反射率ピークの高さは20%以上である。この特性を備えることが本発明では肝要であり、その性質を備えることによって識別媒体として利用することができる。具体的には、偏光板を通して識別媒体を観察することで識別媒体の付された対象物の真贋を見分けることができる。フィルム面に対して60°の角度で入射する光のうちS偏光での反射率ピーク高さが5%を超えると色相が視認されてしまい、フィルム面に対して60°の角度で入射する光のうちP偏光成分での反射率ピーク高さが20%未満であると十分な色相が視認されない。
【0018】
ここでP偏光とは、入射角と反射角を含む面内に平行な振動成分を含む偏光成分を表わし、S偏光とは入射角と反射角を含む面内に垂直な振動成分を含む偏光成分を表わす。また、反射率ピークの高さは、波長ごとの反射率を測定したときのベースラインとピークとの差である。
【0019】
本発明の二軸延伸多層積層フィルムは、透明性を確保する観点から透過率が85%以上である。透過率が85%未満であるとフィルムの透明性が損なわれるために、下地に印刷した絵柄などの視認性が低下する。
【0020】
[層構成]
本発明の二軸延伸多層積層フィルムは、厚みが0.05〜0.5μmの範囲にある負の固有複屈折性を有する結晶性熱可塑性樹脂からなる第1の層と、厚みが0.05〜0.5μmの範囲にある熱可塑性樹脂からなる第2の層とを100層以上交互に積層した構成をとる。
【0021】
[第1の層]
本発明における第1の層を構成する負の固有複屈折性を有する結晶性熱可塑性樹脂とは、高分子の分子鎖方向を軸として、誘電率分布から計算される固有複屈折の値が負となる結晶性熱可塑性樹脂である。上記を満たすポリマーの例としては、シンジオタクティックポリスチレンや、アイソタクティックポリスチレン、ポリエチレン−1,4−ナフタレンジカルボキシレートやその共重合体を例示することができる。
【0022】
[第2の層]
本発明における第2の層を構成する熱可塑性樹脂としては、第1の層を構成する結晶性熱可塑性樹脂の延伸後の面内の屈折率に合わせることができるものを用いる。
【0023】
第2の層の熱可塑性樹脂の屈折率を第1の層の面内屈折率に合わせる方法としては、
1)第2の層の熱可塑性樹脂として、正の固有複屈折性を有する結晶性熱可塑性樹脂を用いて、延伸後の面内屈折率を第1の層の結晶性熱可塑性樹脂の延伸後の面内屈折率に合わせる方法、
2)第2の層の熱可塑性樹脂として、非晶性樹脂を用いて、第1の層の結晶性熱可塑性樹脂の延伸後の面内屈折率に合わせる方法、
3)第2の層の熱可塑性樹脂として結晶性熱可塑性樹脂を用いて、これを延伸工程後に等方化する方法
を用いることができる。
【0024】
上述の第1の方法を用いる場合、第1の層としてシンジオタクティックポリスチレンと、第2の層として芳香族環を有しないポリアミドとの組合せを挙げることができる。このポリアミドとして例えばナイロン6を挙げることができる。
【0025】
上述の第2の方法を用いる場合、延伸工程において、配向による異方性が発現しないように、第2の層を構成する熱可塑性樹脂として、第1の層を構成する結晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも20℃以上低いガラス転移温度を有する非晶性熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。ガラス転移温度差が20℃未満であると延伸時に第2の層を構成する熱可塑性樹脂が配向してしまったり、第1の層の複屈折性が発現しなかったりする。好ましい組合せの例としては、第1の層としてシンジオタクティックポリスチレンと第2の層として共重合ポリエチレンテレフタレートとの組み合わせ、また、第1の層としてシンジオタクティックポリスチレンと第2の層として共重合ポリブチレンテレフタレートとの組み合わせ、を挙げることができる。
【0026】
上述の第3の方法を用いる場合、延伸後の結晶化工程の温度を第2の層を構成する熱可塑性樹脂の融点付近の温度にすることにより第2の層を等方化する方法を用いることができる。第2の層を構成する熱可塑性樹脂として、第1の層を構成する結晶性熱可塑性樹脂の融点より20℃〜50℃低い融点を有する結晶性熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。融点差が20℃未満であると配向の等方化が実現できず、50℃以上低いと結晶化工程で流動化してしまい均質なフィルムが得られない。第2の層の熱可塑性樹脂として、例えば、共重合ポリエステルを用いることができ、具体的には、例えば、共重合ポリエチレンテレフタレート、共重合ポリテトラメチレンテレフタレート、共重合ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを用いることができる。共重合成分としては、例えばイソフタル酸を用いることができる。
【0027】
[製膜方法]
本発明の二軸延伸多層積層フィルムは、上述の第1の層の樹脂と第2の層の樹脂とを交互に100層以上積層し、延伸することによって製造することができる。以下、製造方法の一例を詳細に説明する。第1の押出し機より供給された第1のポリエステルと、第2の押出し機より供給された第2のポリエステルと、を溶融状態で交互に少なくとも100層以上重ね合わせて多層未延伸シートとする。これを回転するドラム上にキャストすることにより、未延伸多層積層フィルムとする。このようにして得られた未延伸多層積層フィルムを、製膜方向とそれに直交する幅方向の二軸方向(フィルム面に沿った方向)に延伸する。延伸温度は、第1のポリエステルのガラス転移点の温度(Tg)〜Tg+50℃の範囲とする。延伸の面積倍率は5〜50倍とすることが好ましい。延伸倍率が大きい程、第1の層および第2の層の個々の層における面方向のバラツキが延伸による薄層化により小さくなり、二軸延伸多層積層フィルムの光干渉が面方向に均一になるので、延伸倍率はこの範囲で大きいことが好ましい。延伸方法は、逐次二軸延伸、同時二軸延伸のいずれの方法であってもよい。必要があればさらに熱固定を行ってもよい。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに説明する。
なお、実施例中の物性や特性は、下記の方法にて測定または評価した。
【0029】
(1)ガラス転移温度(Tg)および融点
試料10mgについて、DSC(TAインスツルメンツ社製、商品名:DSC2920)を用い、20℃/min.の昇温速度でガラス転移温度および融点を測定した。
【0030】
(2)層厚み
サンプルを三角形に切り出し、包埋カプセルに固定後、エポキシ樹脂にて包埋した。そして、包埋されたサンプルをミクロトーム(ULTRACUT−S、製造元:ライヘルト社)で製膜方向と厚み方向に沿って切断し、厚さ50nmの薄膜切片にした。得られた薄膜切片を、透過型電子顕微鏡(製造元:日本電子(株)、商品名:JEM2010)を用いて、加速電圧100kVにて観察・撮影し、写真から各層の厚みを測定した。
【0031】
(3)正面入射および60°におけるP偏光およびS偏光に対する反射率
分光光度計(島津製作所製、MPC−3100)を用い、フィルムと光源の間に、可視光用偏光フィルタ設置し、波長400nmから800nmの範囲にわたり、分光透過率を測定した。また、同様にして、フィルムと光源の間に近赤外線用偏光フィルタを、波長800nmから1600nmの範囲にわたり、分光透過率を測定した。
60°入射における測定は、サンプルを光路に対して、60°傾けて測定した。このとき、偏光フィルタにおける透過軸と入射角と反射角を含む面内に平行な成分をP偏光成分と定義した。
なお、分光反射率は、フィルムの吸収は無視できるほど十分に小さいことから、下記の式より算出した。波長ごとに測定された反射率の中で最大のものを最大反射率としその波長を最大反射率波長とした。最大反射率とベースラインと差を最大反射率ピーク高さとした。
分光反射率(%)=100(%)−分光透過率(%)
【0032】
(4)全光線透過率
日本電色工業社製のへーズ測定器(NDH−20)を使用して、全光線透過率を測定した。
【0033】
(5)識別媒体としての特性評価
得られた多層延伸フィルムの上にアクリル系の粘着層を塗布して識別媒体を作成した。こうして製造した識別媒体を、表面が白色の対象物に貼り付け、 識別媒体を簡易判定器で観察して評価した。簡易判定器は、透過軸を縦方向に合わせた可視光用偏光フィルタと、透過軸を横方向に合わせた可視光用偏光フィルタを備え、ボール紙の台紙でできたカード状の手軽に持ち運びできる真正性の識別手段である。この簡易判定器を用いて、上方45°より30W蛍光灯で照らし、フィルムに対して垂直方向およびフィルム面に対して60°方向から簡易判定器を通して観察し、その色相を観察した。ここで、偏光フィルタの透過軸が入射角と反射角を含む平面に平行になるようにした場合をP偏光とし、垂直になる場合をS偏光とした。
図2に、識別媒体を簡易判定器で観察している断面の模式図を示す。図3に、簡易判定器における透過軸を縦方向に合わせた可視光用偏光フィルタと、透過軸を横方向に合わせた可視光用偏光フィルタの配置の様子を示す。
【0034】
(6)外観
A4サイズのサンプルフィルムを10枚用意し、それぞれのサンプルフィルムを白色の普通紙に重ね、30ルクスの照明の下、目視にてサンプルフィルム内の透過色の色相の斑を評価した。また、A4サイズのサンプルフィルムを10枚用意し、それぞれのサンプルフィルムの裏面を黒色のスプレーにて着色した後、30ルクスの照明の下、目視にてサンプルフィルム内の反射色の色相の斑を下記基準で評価した。
○:視認される色相の斑がない
△:わずかに色相の斑が確認される
×:明らかに色相の斑が確認される
【0035】
[実施例1]
第1の層の結晶性熱可塑性樹脂として、メルトインデックス30のシンジオタクティックポリスチレン(出光石油化学製:XAREC300ZC:「300ZC」という)を用意し、第2の層の熱可塑性樹脂として、0.65のポリエチレンテレフタレート−2,6−ナフタレンジカルボン酸共重合体(2,6−ナフタレンジカルボン酸含有量10モル%、「NDC10PET」という)を用意した。
【0036】
そして、第1の層の結晶性熱可塑性樹脂および第2の層の熱可塑性樹脂を、それぞれ170℃で3時間乾燥後、第1、2の押出し機に供給し、290℃まで加熱して溶融状態とし、第1の層の結晶性熱可塑性樹脂を251層、第2の層の熱可塑性樹脂を250層に分岐させた後、第1の層と第2の層が交互に積層するような多層フィードブロック装置を使用して、積層状態の溶融体とし、その積層状態を保持したまま、キャスティングドラム上にキャストして、押出量の比を第1の層の結晶性熱可塑性樹脂を50%、第2の層の熱可塑性樹脂を50%に調整し、第1の層と第2の層が交互に積層された総数501層の未延伸多層積層フィルムを作成した。この多層未延伸フィルムを110℃の温度で製膜方向に4.0倍延伸し、続いて、110℃の温度で幅方向に4.0倍延伸し、230℃で3秒間熱固定処理を行い、二軸延伸多層積層フィルムを得た。こうして得られたフィルムの特性を前述の方法で評価し、その結果を表1および表2に示す。この二軸延伸多層積層フィルムを用いた識別媒体は垂直方向からの観察では着色が確認されず、60度方向からの観察では、P偏光成分用の窓より着色が確認され、S偏光成分用の窓からは着色が観察されなかった。この識別媒体はこのような簡便な方法で対象物の真贋判定が可能であった。
【0037】
[実施例2]
第1の層の結晶性熱可塑性樹脂を、メルトインデックス14の共重合シンジオタクティックポリスチレン(出光石油化学製:XAREC142AE:「142AE」という)とし、第2の層の熱可塑性樹脂として、固有粘度(オルソクロロフェノール、35℃)1.0のポリブチレンテレフタレート−イソフタレート共重合体(イソフタル酸含有量32モル%、「IA32PBT」という)し、製造条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして二軸延伸多層積層フィルムを得た。こうして得られたフィルムの特性を前述の方法で評価し、その結果を表2に示す。この二軸延伸多層積層フィルムを用いた識別媒体は垂直方向からの観察では着色が確認されず、60度方向からの観察では、P偏光成分用の窓より着色が確認され、S偏光成分用の窓からは着色が観察されなかった。この識別媒体はこのような簡便な方法で対象物の真贋判定が可能であった。
【0038】
[実施例3]
第2の層の熱可塑性樹脂を、ナイロン6(帝人デュポンナイロン製の商品名「ナイロン6 Brite」:「Ny−6」という)とし、製造条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして二軸延伸多層積層フィルムを得た。こうして得られたフィルムの特性を前述の方法で評価し、その結果を表2に示す。この二軸延伸多層積層フィルムを用いた識別媒体は垂直方向からの観察では着色が確認されず、60度方向からの観察では、P偏光成分用の窓より着色が確認され、S偏光成分用の窓からは着色が観察されなかった。この識別媒体はこのような簡便な方法で対象物の真贋判定が可能であった。
【0039】
[比較例1]
第1の層の結晶性熱可塑性樹脂を固有粘度(オルソクロロフェノール、35℃)0.64のポリエチレンテレフタレート(「PET」という)とし、第2の層の熱可塑性樹脂を固有粘度(オルソクロロフェノール、35℃)0.68のポリエチレンテレフタレート−イソフタレート共重合体(イソフタル酸含有量12モル%、「IA12PET」という)とし、製造条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして二軸延伸多層積層フィルムを得た。こうして得られたフィルムの特性を前述の方法で評価し、その結果を表2に示す。
【0040】
[比較例2]
製造条件を表1に示すように変更した以外は、比較例1と同様にして二軸延伸多層積層フィルムを得た。こうして得られたフィルムの特性を前述の方法で評価し、その結果を表2に示す。
【0041】
[比較例3]
第1の層の結晶性熱可塑性樹脂をメルトインデックス30のシンジオタクティックポリスチレン(出光石油化学製:XAREC300ZC:「300ZC」という)とし、第2の層の熱可塑性樹脂を固有粘度(オルソクロロフェノール、35℃)0.62のポリエチレン2,6ナフタレンジカルボキシレート(「PEN」という)とし、製造条件を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして二軸延伸多層積層フィルムを得た。こうして得られたフィルムの特性を前述の方法で評価し、その結果を表2に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、商品を梱包したパッケージ、パスポート、カード、紙幣、金券、証券、証書、商品券、絵画、切符、公共競技投票券等の平面的な対象物または各種立体的な対象物の真正性を識別するための識別媒体として好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】多層薄膜フィルムに入射した光が各層で選択反射する様子を示す図である。
【図2】識別媒体を簡易判定器で観察している断面の模式図である。
【図3】簡易判定器における透過軸を縦方向に合わせた可視光用偏光フィルタと、透過軸を横方向に合わせた可視光用偏光フィルタの配置の様子を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みが0.05〜0.5μmの範囲にある負の固有複屈折性を有する結晶性熱可塑性樹脂からなる第1の層と、厚みが0.05〜0.5μmの範囲にある熱可塑性樹脂からなる第2の層とを100層以上交互に積層した多層積層フィルムであって、フィルム面に対して垂直な面からの入射光に対する反射率ピーク高さが5%以下であり、かつフィルムに対して60°の角度で入射する光のうちS偏光に対しては反射率ピーク高さが5%以下であり、フィルムに対して60°の角度で入射する光のうちP偏光に対しては反射率ピーク高さが20%以上であることを特徴とする二軸延伸多層積層フィルム。
【請求項2】
請求項1記載の二軸延伸積層フィルムを用いた識別媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−132611(P2008−132611A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−318398(P2006−318398)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】