説明

二軸配向ポリエステルフィルム

【課題】
高温高湿下においても厚み方向のフィルムの永久変形が少ない二軸配向ポリエステルフィルムが得られる。
【解決手段】
本発明の第一の態様は、長手方向に15MPaの荷重をかけ40℃、湿度90%RHで24時間転写処理を行った時の厚み方向のフィルム変形量が、フィルム全厚みに対して6.0%以下である。
本発明の第二の態様は、長手方向の100℃熱収縮率SMDが0.0〜1.8%であり、かつ厚み方向のクリープCZDとの間に0≦5SMD+3CZD≦24である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温高湿下において厚み方向のフィルムの永久変形が少なく、磁気記録材料、電子材料、製版フィルム、昇華型リボン、包装材料として用いた時に有用で、特に磁気記録材料ベースフィルムとして好適なポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デ−タストレージやデジタルビデオテープ用などの磁気記録媒体においては、高密度化、高容量化が進んでいる。一般にこのような磁気記録媒体に用いられる記録方式にはヘリカル記録方式とリニア記録方式がある。ヘリカル記録方式は2つのリールを持つカートリッジからテープを引き出して、高速回転する円筒型のヘッドをスキャンさせ、テープに対して斜めに読み書きを行うのに対し、リニア記録方式は1つのリールを持つカートリッジからテープをヘッドに誘導し、テープに対して長手方向に一直線に読み書きを行う。リニア記録方式はヘリカル記録方式と比較して記録密度は低いが、テープのヘッドに対する巻き込みが緩やかであるためテープへのダメージが少なく、データストレージ用として高い信頼性を持つと言われている。
【0003】
最近、このようなリニア記録方式を採用するLTO(inear ape pen)やSDLT(uper igital inear ape)では、1巻のテープで100GB以上の高容量を有するものが開発されている。高容量化には、一般に、トラック数増加、記録波長の短波長化、テープ長増大の3つの方法がある。まずトラック数を多くすると1トラックの幅が狭くなるためテープ幅方向の寸法安定性の制御が重要となる。また記録波長を短波長化した上で、十分な電磁変換特性を実現するためには表面平滑性が求められる。さらに、磁気記録媒体のカートリッジの大きさは基本的に変わらないので、1巻当たりのテープ長を長くするためにはテープの薄膜化及びそれに伴う高強度化が必須となる。これら3つの視点から、これまでテープ幅方向の温度膨張係数や湿度膨張係数の最適化、添加粒子の小径化、延伸倍率アップによるベースフィルムの高強度化等、数多くの検討がなされてきた。
【0004】
しかし、これらの技術を用いても、1巻で100GB以上の高容量を有するリニア記録方式の磁気記録媒体用としては十分な電磁変換特性が得られなかった。検討の結果、高温高湿状態下で発生するフィルム厚み方向の微小変形が、磁気記録媒体の特性に影響を与えていることが明らかになった。
【0005】
一般にリニア記録方式は、テープの巻き込みが緩やかで、ヘッドがテープを垂直方向に押す力が弱いために、ヘリカル記録方式の場合よりもスペーシングロスが発生しやすい。スペーシングロスは、ヘッドとテープの間にできるナノメートルオーダーの隙間であり、スペーシングロスが大きいと電磁変換特性が悪化する。ヘッド当たりを安定に保ち、かつスペーシングロスを低減するためには、従来から検討されてきた厚みムラのような長い周期での厚み均一性に加えて、ミクロンレベルの微小領域における表面平坦性の制御が重要であることが分かってきた。これまで長手もしくは幅方向の寸法安定性や厚み方向の可逆変形に関する検討(特許文献1)はあるものの、厚み方向の不可逆変形の改善については何ら検討されていない。
【特許文献1】特開2003−132524号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、高温高湿下において厚み方向のフィルムの永久変形が少ない二軸配向ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題を達成する第一の態様は、長手方向に15MPaの荷重をかけ40℃、湿度
90%RHで24時間転写処理を行った時の厚み方向のフィルム変形量が6.0%以下であることを特徴とする二軸配向ポリエステルフイルムである。
【0008】
本発明の課題を達成する第二の態様は、長手方向の100℃熱収縮率SMDが0.0〜1.8%であり、かつ厚み方向のクリープCZDとの関係が0≦5SMD+3CZD≦24であることを特徴とする二軸は配向ポリエステルフイルムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、高温高湿下において転写処理を行った時の厚み方向のフィルムの永久変形が少なく、高密度磁気記録媒体用ベースフイルムとして用いた時に有用な二軸配向ポリエステルフィルムが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明における第一の態様の二軸配向ポリエステルフィルムは、長手方向に15MPaの荷重をかけ40℃、90%RHで24時間転写処理を行った時の厚み方向のフィルム変形量が、フィルム全厚みに対して6.0%以下、好ましくは5.0%以下、更に好ましくは4.0%以下である。厚み方向のフィルム変形量が、6.0%よりも大きくなると、テープを高温高湿下で保管あるいは走行させた時に、例えばハブなどの転写を受けて変形し、データの読みとりが出来なくなる。さらに、例えばリニア記録テープでは、磁気記録層を施した磁気テープの先端に磁性体を施さないリーダーテープを繋ぎ合わせ、リーダーテープを駆動部に連結し走行させている。リーダーテープと磁気テープの繋ぎ合わせは、両者を重ねて接合する方式が一般的であり、接合部分の厚み段差は避けられない。接合部は磁気テープの外側に重ね巻きされるが、巻き荷重を受け、内側に巻かれた磁気テープに対し、厚み方向のストレスを与えることになり、繰り返し巻き戻し走行を繰り返す間に、テープに微小な厚みムラを与えることになる。
【0011】
本発明は、上記のように、ハブなどの転写、さらにリーダーテープとのつなぎ目に起因するテープの厚み方向への局部的なストレスによる磁気テープ、テープ支持体への微小な厚み変動を抑えるためには、フィルムの厚み方向の不可逆変形の改善が必要なことを見出したものである。
【0012】
本発明における第二の態様の二軸配向ポリエステルフィルムは、長手方向の100℃熱収縮率SMDが0.0〜1.8%であり、かつ厚み方向のクリープCZDとの間に0≦5SMD+3CZD≦24、好ましくはSMDが0.0〜1.5%であり、かつ厚み方向のクリープCZDとの間に0≦5SMD+3CZD≦21である。熱収縮率SMDが1.8%よりも大きいと、リール状に巻かれた時の巻締まりが大きくなるため、例えばハブの転写により厚み方向のフィルムの永久変形が生じやすい。熱収縮率が0.0%よりも小さい場合、加工時の熱負荷によりフィルムが伸びやすいため、均一な張力がかかりにくく、塗布むらを引き起こす場合がある。また、5SMD+3CZDが24よりも大きいと、高温保管した時に厚み方向のフィルム変形が発生しやすい。
【0013】
一般にリニア記録方式においてはテープの巻き込みが緩やかで、ヘッドがテープを垂直方向に押す力が弱い。そのため、ヘリカル記録方式の場合よりもスペーシングロスが発生しやすく、フィルム表面の微小平面性の制御は重要な特性となっている。特にフィルム加工工程における熱負荷後も優れた微小平面性を保つためには、フィルムの微小な熱収縮ムラを低減する必要がある。そのためにはフィルム厚み方向における顕微ラマン結晶化指数Icを、ポリエステルフィルムがポリエチレンテレフタレートフィルムの場合、8−1〜20cm−1、好ましくは10−1〜18cm−1、更に好ましくは12−1〜16cm−1である。顕微ラマン結晶化指数は、フィルムの結晶性をミクロン単位で分析することが可能で、値が小さいほど構造が安定していることを示す。ポリエチレンテレフタレートフィルムのIcが20cm−1より大きいと構造が安定せず、熱処理による収縮が発生し微小平面性が悪化する場合がある。一方、Icが8cm−1より小さくなるまで構造を安定化させるためには延伸倍率をかなり大きくする必要があり、破れが発生する場合がある。
【0014】
ポリエステルフィルムがポリエチレンナフタレートフィルムの場合、顕微ラマン結晶化指数を18−1〜28cm−1、好ましくは20−1〜25cm−1とすることが好ましい。ポリエチレンナフタレートのIcが28cm−1より大きいと構造が安定せず、熱処理による収縮が発生し微小平面性が悪化する場合がある。一方、Icが18cm−1より小さくなるまで構造を安定化させるためには延伸倍率をかなり大きくする必要があり、破れが発生する場合がある。
【0015】
また、厚み方向のIcの最大値と最小値の差が、1cm−1以下、好ましくは、0.5cm−1以下、さらに好ましくは0.3cm−1以下である。1cm−1より大きな顕微ラマン結晶化指数のばらつきが存在すると、熱処理時のフィルム厚み方向における微小な熱収縮度合いが揃わず、フィルム表面の微小平面性が悪化しやすい。
【0016】
また、熱処理時の収縮ムラを防ぐ観点から、フィルム平面方向の顕微ラマン結晶化指数の最大値と最小値の差も1cm−1以下、好ましくは0.5cm−1以下、更に好ましくは0.3cm−1以下である。
【0017】
本発明の特徴の一つは、従来技術で用いてきたヤング率や結晶化度のようなマクロな測定法では解析が困難であった、リニア記録方式におけるスペーシングロスや電磁変換特性悪化という課題が、非常にミクロな測定である顕微ラマン結晶化指数により表現できることを見出したことにある。従って、ヤング率や結晶化度が同じでも顕微ラマン結晶化指数が上述の範囲を超えるものでは効果が得られない場合がある。
【0018】
本発明における二軸配向ポリエステルフィルムとは、分子配向により高強度フィルムとなるポリエステルであれば特に限定しないが、主としてポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートからなることが好ましい。特に好ましくはクリープ特性が良好であるポリエチレンテレフタレートである。エチレンテレフタレート以外のポリエステル共重合体成分としては、例えばジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、p−キシリレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどのジオール成分、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などのジカルボン成分、トリメリット酸、ピロメリット酸などの多官能ジカルボン酸成分、p−オキシエトキシ安息香酸などが使用できる。
【0019】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、単層でも2層以上の積層構造であっても良い。2層構造の場合は磁気記録媒体として使用した時に磁性層を塗布する層(A)と反対側の層(B)のそれぞれの表面突起形成を容易に制御できるためより好ましい。
【0020】
2層構造二軸配向ポリエステルフィルムの層(A)の、非接触式3次元粗さ計を用いて測定した表面粗さWRaは、好ましくは0.01〜8nmで、より好ましくは0.1〜4nm、更に好ましくは0.2〜2nmである。WRaを0.01nmより小さくすると、ヘッドとテープの滑りが悪化する場合がある。8nmを超えると表面が粗くなり過ぎ、高密度磁気記録媒体用として十分な電磁気変換特性が得られない場合がある。一方、反対面の層(B)の表面粗さWRaは好ましくは1〜10nm、より好ましくは3〜6nmである。1nmよりも小さいとフィルムの巻き取り中にしわなどが入り、巻き姿が不良となる場合がある。一方、WRaが10nmよりも大きくなると、表面が粗くなり過ぎるためフィルムロールとして巻き取った際、磁性層を塗布する層(A)に転写するなどの悪影響を及ぼしやすくなる場合がある。
【0021】
次に、上記表面粗さを満足するためには層内に不活性粒子を添加することが好ましく、本発明において層(A)に用いられる不活性粒子Iは、平均粒径dIは好ましくは0.04〜0.30μm、好ましくは0.05〜0.15μmで、含有量は好ましくは0.001〜0.30重量%、より好ましくは0.01〜0.25重量%である。磁気記録用媒体においては平均粒径が0.30μmよりも大きな粒子を用いると電磁変換特性が悪化する場合がある。
【0022】
2層構造のポリエステルフィルムにおいて、層(B)の厚みtBは好ましくは0.1〜2.0μmであり、より好ましくは0.2〜1.5μmである。この厚みが、0.1μmよりも小さくなると粒子が脱落しやすくなり、2.0μmよりも大きくなると添加粒子の突起形成効果が減少する場合がある。
【0023】
2層構造のポリエステルフィルムにおいて、層(B)に含まれる粒子は1種類であっても2種類以上であってもよい。ポリエステル層(B)に添加する最も大きい不活性粒子IIの平均粒径dIIは、好ましくは0.1μm〜1.0μmで、より好ましくは0.4μm〜0.9μm、含有量は好ましくは0.002重量%〜0.10重量%、より好ましくは0.005〜0.05重量%であり、不活性粒子IIIの平均粒径は粒子IIよりも小さく平均粒径は好ましくは0.05μm〜0.5μm、より好ましくは0.2μm〜0.4μmで、含有量は好ましくは0.1重量%〜1.0重量%、より好ましくは0.2〜0.4重量%である。
【0024】
2層構造のポリエステルフィルムにおいて、層(A)および層(B)に含まれる不活性粒子は、球状シリカ、ケイ酸アルミニウム、二酸化チタン、炭酸カルシウムなどの無機粒子、またその他有機系高分子粒子としては、架橋ポリスチレン樹脂粒子、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋アクリル樹脂粒子、架橋スチレン−アクリル樹脂粒子、架橋ポリエステル粒子、ポリイミド粒子、メラミン樹脂粒子等が好ましい。これらの1種もしくは2種以上を選択して用いる。
【0025】
2層構造のポリエステルフィルムにおいて、層(A)および層(B)に含まれる不活性粒子は、粒子形状・粒子分布は均一なものが好ましく、体積形状係数は好ましくはf=0.3〜π/6であり、より好ましくはf=0.4〜π/6である。体積形状係数fは、次式で表される。
【0026】
f=V/Dm
ここでVは粒子体積(μm),Dmは粒子の投影面における最大径(μm)である。
【0027】
なお、体積形状係数fは粒子が球の時、最大のπ/6(=0.52)をとる。必要に応じて粗大粒子や介在物を除去するため、濾過などを行うことが好ましい。中でも、球状シリカは単分散性に優れ、突起形成を容易に制御でき、本発明の効果がより良好となるため好ましい。また必要に応じて、地肌補強の観点から一次粒径が0.005〜0.10μm、好ましくは0.01〜0.05μmのα型アルミナ、γ型アルミナ、δ型アルミナ、θ型アルミナ、ジルコニア、シリカ、チタン粒子などから選ばれる不活性粒子を表面突起形成に影響を及ぼさない範囲で含有してもよい。
【0028】
また、本発明における二軸配向ポリエステルフィルムは、クリープ特性を良化させる観点からフィルム長手方向のヤング率は5000MPa以上、好ましくは5500MPa以上、更に好ましくは6000MPa以上である。一方、幅方向のヤング率も寸法安定性を良化させる観点からは3500MPa以上、好ましくは4000MPa以上、更に好ましくは4500MPa以上である。長手及び幅方向の寸法安定性を両立させるため、好ましくは長手方向のヤング率が6000MPa以上、かつ幅方向のヤング率が4500MPa以上である。
【0029】
また一般にリニア記録方式においてはトラックずれを防止する観点から長手方向に張力がかかったときの幅方向の寸法変化率が小さいことが好ましい。フィルムの長手方向に32MPaの荷重をかけ、温度49℃、湿度90%RHで72時間処理した時、処理前後の幅方向の寸法変化は好ましくは0.40%以下、より好ましくは0.38%以下、更に好ましくは0.35%以下である。0.40%よりも大きいと、磁気テープとして使用した際トラックずれが発生する場合がある。
【0030】
また本発明におけるポリエステルフィルムの幅方向の熱収縮率は、0.0〜2.0%、好ましくは0.0〜1.0%である。熱収縮率が2.0%よりも大きいと高温保管、あるいは熱処理時のフィルム収縮が激しく、微小平面性が悪化する場合がある。幅方向の熱収縮率は弛緩処理等の公知の方法により適宜調整することができる。
【0031】
また本発明における二軸配向ポリエステルフィルムは、フィルムの幅方向の温度膨張係数は、好ましくは−10×10−6〜20×10−6 /℃であり、より好ましくは−5×10−6〜15×10−6 /℃、さらに好ましくは0〜8×10−6 /℃である。更にフィルム幅方向の湿度膨張係数は、好ましくは0〜20×10−6 /%RH、更に好ましくは5×10−6〜15×10−6 /%RH、一層好ましくは6×10−6〜10×10−6 /%RHである。温度膨張係数及び湿度膨張係数がこの範囲を超えるとデータ書き込み時とデータ読み取り時の温度差や湿度差が大きい場合、テープに書き込まれた磁気情報を固定ヘッドが正しく読みとることができない場合がある。温湿度環境の変化があってもデータを正しく読みとるためには各膨張係数を上記範囲におさめることが好ましい。
【0032】
本発明における二軸配向ポリエステルフィルムは、本発明の効果を阻害しない範囲で少なくとも片面に水溶性塗剤、あるいは有機溶剤系の塗剤を塗布することにより易接着層を設けても良い。
【0033】
本発明に用いられるポリエステルフィルムの全厚みは、高容量化に伴い薄膜化が進んでおり、2.0〜8.0μmが好ましく、より好ましくは4.0〜7.0μmである。8.0μmよりも厚いとカセットに入るテープ長が短くなり、十分な記録容量が得られない場合がある。また、2.0μmよりも薄いとテープとした時に十分な強度が得られない場合がある。
【0034】
次に本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの好ましい製造方法について説明する。ポリエステルに不活性粒子を含有させる方法としては、例えばジオール成分であるエチレングリコールに不活性粒子Iを所定割合にてスラリーの形で分散させ、このエチレングリコールスラリーをポリエステル重合完結前の任意段階で添加する。ここで、粒子を添加する際には、例えば、粒子を合成時に得られる水ゾルやアルコールゾルを一旦乾燥させることなく添加すると粒子の分散性が良好であり、滑り性、電磁変換特性を共に良好とすることができる。また粒子の水スラリーを直接所定のポリエステルペレットと混合し、ベント方式の2軸混練押出機に供給しポリエステルに練り込む方法も本発明の効果に有効である。
【0035】
このようにして準備した、粒子含有ペレットおよび粒子などを実質的に含有しないペレットを所定の割合で混合し、乾燥したのち、公知の溶融積層用押出機に供給し、ポリマーをフィルターにより濾過する。
【0036】
また、非常に薄い磁性層を塗布する高密度磁気記録媒体用途においては、ごく小さな異物も磁気記録欠陥であるDO(ドロップアウト)の原因となるため、フィルターには例えば1.5μm以上の異物を95%以上捕集する高精度のものを用いることが有効である。続いてスリット状のスリットダイからシート状に押し出し、キャスティングロール上で冷却固化せしめて未延伸フィルムを作る。すなわち、1から3台の押出機、1から3層のマニホールドまたは合流ブロック(例えば矩形合流部を有する合流ブロック)を用いて必要に応じて積層し、口金からシートを押し出し、キャスティングロールで冷却して未延伸フィルムを作る。この場合、背圧の安定化および厚み変動の抑制の観点からポリマー流路にスタティックミキサー、ギヤポンプを設置する方法は有効である。
【0037】
延伸方法は同時二軸延伸であっても逐次二軸延伸であってもよい。同時二軸延伸においてはロールによる延伸を伴わないため、フィルム表面の局所的な加熱が発生せず、熱負荷時の微小平面性に影響を与える顕微ラマン結晶化指数を制御しやすいため延伸方法としてより好ましい。同時二軸延伸においては未延伸フィルムを、まず長手および幅方向に延伸温度は、例えば80〜160℃、好ましくは85〜130℃、更に好ましくは90〜110℃で同時に延伸する。延伸温度が80℃よりも低くなるとフィルムが破断しやすく、延伸温度が160℃よりも高くなると磁気記録媒体として用いた時に十分な強度が得らにくい場合がある。また、延伸ムラを防止する観点から、長手方向・横方向の合計延伸倍率は、例えば8〜30倍、好ましくは9〜25倍、更に好ましくは10〜20倍であり、数ゾーンに渡って延伸を行う場合、延伸ムラを防止する観点から各ゾーンの温度は同一、もしくは各ゾーンの温度差を10℃以内とすることが好ましい。延伸倍率が8倍よりも小さいと本発明の対象とする高密度磁気記録媒体用として必要十分な強度が得られにくい。一方、倍率が30倍よりも大きくなると、フィルムが破れ、製造が難しい場合がある。高密度磁気記録媒体に必要な強度を得るためには、必要に応じて、好ましくは温度140〜200℃、より好ましくは160〜190℃で、好ましくは、1.05〜1.8、より好ましくは1.2〜1.6倍で再度長手及び/又は幅方向に延伸を行うことが好ましい。1.05よりも小さいと長手もしくは幅方向に十分な強度が得られない場合があり、1.8倍よりも大きいと熱収縮率が大きくなる場合がある。その後、例えば200〜235℃好ましくは205〜220℃で、例えば0.5〜20秒、好ましくは1〜15秒熱固定を行う。熱固定温度が200℃よりも低いとフィルムの結晶化が進まないため構造が安定せず、高温保管や熱負荷時の熱収縮により微小平面性悪化を引き起こす場合がある。一方、235℃よりも大きくすると、ポリエステル非晶鎖部分の緩和が進み、ヤング率が小さくなり厚み方向のクリープが悪くなる場合がある。また顕微ラマン結晶化指数のばらつきを抑えるためには、フィルム上下の温度差が例えば20℃以下、好ましくは10℃以下、更に好ましくは5℃以下である。フィルム上下での温度差が20℃よりも大きいと、厚み方向での顕微ラマン結晶化指数が均一にならず、熱処理時に微小平面性の悪化を引き起こす場合がある。その後、長手及び/又は幅方向に0.5〜7.0%の弛緩処理を施す。
【0038】
同時二軸延伸では後述する逐次二軸延伸とは異なり、高温空気によってフィルムが加熱される。そのため、フィルム表面のみ局所的に加熱されて粘着が発生することはなく、延伸方式として逐次延伸より好ましい。一方で、同時二軸延伸では最初の延伸温度である90℃前後から熱固定温度である220℃前後までのゾーンが全て長手方向につながっているため、随伴気流など高温空気の自由な流れによりフィルム上下に温度差が発生しやすい。温度差を低減する方法としては特に限定されないが、温度の異なるゾーンの間に高温空気の自由な流れを抑制するシャッターなどの設備を設けることが有効である。特に顕微ラマン結晶化指数のばらつきを抑えたフィルムを作成するためには、フィルムとシャッターの隙間は、例えば1〜250mm、好ましくは2〜100mm、更には3〜50mmであることが好ましい。隙間が1mmよりも小さいとフィルムがシャッターに接触し破れる場合がある。一方、250mmよりも大きいと顕微ラマン結晶化指数のばらつきが大きくなり微小平面性が悪化する場合がある。ノズルから吹き出す風速を適宜変更することで、フィルムとシャッターが接触しないよう調整することができる。
【0039】
一方、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、逐次延伸を用いて製造することもできる。顕微ラマン結晶化指数のばらつきを抑えるためには、最初の長手方向の延伸が重要であり延伸温度は、例えば90〜160℃であり、好ましくは95〜150℃、更に好ましくは100〜120℃である。延伸温度が90℃よりも低いとフィルムが破断しやすく、延伸温度が160℃よりも高いとフィルム表面が熱ダメージを受ける場合がある。また、延伸ムラ、及びキズを防止する観点からは延伸は2段階以上に分けて行うことが好ましく、トータル倍率は例えば2.5〜8.0、好ましくは2.8〜4.0倍、更に好ましくは2.8〜3.3倍である。延伸倍率が2.5倍よりも小さいと磁気記録媒体用として必要な強度が得られにくい場合がある。一方、倍率が8.0倍よりも大きくなると、フィルムにキズが発生しやすいため磁気記録媒体用として使用が難しいばかりでなく、再縦延伸時にフィルムが破断する場合がある。さらに、延伸ロールとしては、表面の粗さなどを制御しやすい非粘着性のシリコーンロールが好ましい。延伸ロールの表面粗さ表面粗さRaは、例えば0.005〜1.0μm、好ましくは0.1〜0.6μmである。Raが1.0μmよりも大きいと延伸時にロール表面の凹凸がフィルム表面に転写する場合がある。Raが、0.005μmよりも小さいとロールとフィルム地肌が粘着し、フィルム表面が熱ダメージを受けやすくなる場合がある。従来技術のようにセラミックスやテフロン(登録商標)更には金属のロールを用いた場合、フィルム表面のみが局所的に加熱されて粘着が発生し、フィルム表面と内部との顕微ラマン結晶化指数にばらつきが発生しやすい。さらに、延伸部におけるロールとフィルムのトータルの接触時間は、例えば、0.1秒以下、好ましくは0.03秒以下にすることがフィルムを製造する上で特に有効である。ロールとフィルムの接触時間が0.1秒より大きくなると、延伸ロールの熱によりフィルム表面のみが局所的に加熱され、フィルム内部との間の顕微ラマン結晶化指数にばらつきが発生、引いては熱負荷時の微小平面性悪化を引き起こす場合がある。ここで接触時間とは、フィルムと延伸ロールの接触距離をロール入りのフィルム速度で除した時間であり、延伸が複数本のロールわたって行われる場合、それらの総和した時間である。接触時間を短くする方法としては、ロールに抱きつかせて延伸する方法もあるが、例えばフィルムを延伸ロールに巻き付けず、ニップロール間でのみ平行に延伸することが特に有効である。
【0040】
逐次延伸では、その後、例えば80〜160℃、好ましくは85〜130℃、更に好ましくは90〜110℃で幅方向に好ましくは2.5〜6.0倍、好ましくは2.8〜4.0倍、更に好ましくは3.0〜3.5倍延伸する。かかる温度、倍率範囲をはずれると延伸ムラあるいはフィルム破断などの問題を引き起こし、本発明の特徴とするフィルムが得られにくい場合がある。本発明の目的とする顕微ラマン結晶化指数を得るためには、必要に応じて好ましくは130〜160℃さらに好ましくは135〜145℃で、好ましくは1.05〜1.8倍、さらに好ましくは1.2〜1.6倍で再縦延伸することが好ましい。特に延伸温度が130℃よりも低いとフィルムが破断しやすく製造が難しい場合がある。一方、延伸温度が160℃よりも高いとフィルム表面が熱によるダメージを受けやすい。
また、1.05倍よりも小さいと十分な強度が得られない場合があり、1.8倍よりも大きいと熱収縮率が大きくなる場合がある。その後、例えば、好ましくは1.0〜1.5倍更に好ましくは1.1〜1.3倍再横延伸した後、好ましくは200〜235℃、好ましくは205〜220℃で、好ましくは、0.5〜20秒、より好ましくは1〜15秒熱固定を行う。特に熱固定温度が200℃よりも低くなるとフィルムの結晶化が進まないために構造が安定せず、熱処理時に微小平面性が悪化する場合がある。一方、235℃よりも大きくすると、ポリエステル非晶鎖部分の緩和が進み、ヤング率が小さくなったり、厚み方向のクリープが悪くなる場合がある。また、顕微ラマン結晶化指数のばらつきを抑えるため、フィルム上下の温度差が、好ましくは20℃以下、より好ましくは10℃以下、更に好ましくは5℃以下である。フィルム上下での温度差が20℃よりも大きいと、厚み方向での顕微ラマン結晶化指数が均一にならず、熱処理時に微小平面性の悪化を引き起こす場合がある。
【0041】
本発明における巻取コアは、その表面粗さ(Ra)が0.5μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.2μm以下である。かかる範囲を越えるものでは巻取コアの表面の凹凸が巻き取るフィルム の表面に転写されるので、フィルム の平坦性が厳しく要求される磁気記録媒体用ベースフィルム としては、電磁変換特性を著しく悪化させてしまうことがある。巻取コアの表面粗さ(Ra)をかかる範囲とするための方法は、特に限定されないが、コア表面にエポキシ樹脂などの固い樹脂を用い、表面を精度よく研削することにより所望の表面粗さが得られる。特に研削後にバフ研磨工程を経るとより精度よく仕上げることができる。
【0042】
また、巻取コアの軸方向弾性率(Ya)が10GPa 以上であることが好ましく、さらに好ましくは14GPa 以上である。かかる範囲に満たない巻取コアを使用するとフィルム を巻取り時にかかる張力と接圧により巻取コアが変形してしまうことがある。また、巻取コアの円周方向弾性率(Yr)も10GPa 以上であることが好ましく、さらに好ましくは14GPa以上である。かかる範囲に満たない巻取コアを使用すると前記同様に巻取コアが変形してしまうことがある。巻取コアの強度をかかる範囲とするための方法は、特に限定されないが、例えば繊維強化プラスチックコアの場合には、基材中の炭素繊維の量を適宜選ぶことにより調節でき、また基材の厚みを調節することによっても所望の強度が得られる。
【0043】
本発明における巻取コアの基材としては特に限定されないが繊維強化プラスチック、アルミ、鉄など高強度のものを用いることが望ましい。特に、繊維強化プラスチックを基材とするコアは軽量であるので、ハンドリングの面で有効である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例で本発明を詳細に説明する。
【0045】
本発明の特性値の測定方法、並びに効果の評価方法は次の通りである。
A.粒子の平均粒径
フィルムからポリマーをプラズマ低温灰化処理法で除去し、粒子を露出させた。処理条件は、ポリマーは灰化されるが粒子は極力ダメージを受けない条件を選択した。その粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、粒子画像をイメージアナライザで処理した。SEMの倍率はおよそ5000〜20000倍から適宜選択した。観察箇所をかえて粒子数5000個以上で粒径とその体積分率から、次式で体積平均径dを得た。粒径の異なる2種類以上の粒子を含有している場合には、それぞれの粒子について同様の測定を行い、粒径を求めた。
d=Σ(di・Nvi)
ここで、diは粒径、Nviはその体積分率である。粒子がプラズマ低温灰化処理法で大幅にダメージを受ける場合には、フィルム断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で、3000〜100000倍で観察した。TEMの切片厚さは約100nmとし、場所をかえて500視野以上測定し、上記式から体積平均径dを求めた。
B.粒子の体積形状係数
走査型電子顕微鏡で、粒子の写真を例えば5000倍で10視野撮影した。さらに画像解析処理装置を用いて、投影面最大径および粒子の平均体積を算出し、下記式により体積形状係数を得た。
【0046】
f = V / Dm
ここで、Vは粒子の平均体積(μm)、Dmは投影面の最大径(μm)である。
C.フィルム積層厚み
表面からエッチングしながらXPS(X線光電子光法)、IR(赤外分光法)あるいはコンフォーカル顕微鏡などで、その粒子濃度のデプスプロファイルを測定した。片面に積層したフィルムにおける表層では、表面という空気−樹脂の界面のために粒子濃度は低く、表面から遠ざかるにつれて粒子濃度は高くなる。本発明の片面に積層したフィルムの場合は、深さ[I]で一旦極大値となった粒子濃度がまた減少し始める。この濃度分布曲線をもとに極大値の粒子濃度の1/2になる深さ[II](ここで、II>I)を積層厚さとした。さらに、無機粒子などが含有されている場合には、二次イオン質量分析装置(SIMS)を用いて、フィルム中の粒子のうち最も高濃度の粒子の起因する元素とポリエステルの炭素元素の濃度比(M+/C+)を粒子濃度とし、層(A)の表面からの深さ(厚さ)方向の分析を行った。そして上記同様の手法から積層厚さを得た。
D.厚み方向のフィルム変形量
23℃、湿度65%RHで24時間放置したフィルムを幅10mm、長さ700mmにサンプリングした。幅10mm厚み100μmのステンレステープを貼り付けることで転写用の段差を取り付けた直径25mmのステンレス製の筒を準備した。筒にサンプリングしたフィルムを層(A)を内側にして、5周巻き付け、張力が15MPaとなるよう荷重をかけ、40℃、湿度90%RHのオーブンに24時間放置した。
【0047】
最も巻芯側の層(A)のフィルム変形量を小坂研究所の三次元微細形状測定器(型式ET−30HK)及び三次元表面粗さ解析システム(型式TDA−21)を用いて測定した。条件は下記の通りであり、10回の測定を場所を変えて2回行い、計20回の平均値をもってフィルム変形量とした。
【0048】
・触針の先端半径 :2μm
・触針の荷重 :10mg
・縦倍率 :50000倍
・横倍率 :500倍
・カットオフ :0.25mm
・送りピッチ :2μm
・測定長 :2000μm
・測定速度 :20μm/秒
E.顕微ラマン結晶化指数
試料をエポキシ樹脂に包埋し、研磨を行って断面を出した。平面方向に異なる5ヶ所において、厚み方向に1μm毎(6μmのフィルムであれば6点、4.5μmのフィルムであれば4点)に顕微ラマン結晶化指数を測定し、同じ厚み方向位置の平均値を計算し、その値から最大値、最小値及び最大値と最小値の差(ΔIc)を計算した。平面方向は断面を切り出した後フィルム表面から深さ1μmまでの領域を長手及び幅方向に2mmおきに各6点(1/2インチ テープ幅相当)計12点をレーザーラマンマイクロプローブ法(空中分解能1μm)により下記条件で測定し、ばらつきを計算した。1730cm−1(カルボニル基の伸縮振動)の半値幅を顕微ラマン結晶化指数 Ic、最大値と最小値の差をΔIcとした。
【0049】
装置 ; Jobin Yvon社製 Ramanor U-64000
測定モード ;顕微ラマン
対物レンズ ;×100
ビーム径 ;1μm
クロススリット ;100μm
光源 ;Ar+レーザー/5145Å
レーザーパワー ;50mW
回折格子 ;Spectrograph 1800gr/mm
分散 ;single 21A/mm
スリット ;100μm
検出器 ;CCD/Jobin Yvon 1024×256
F.フィルムのヤング率
JIS−K7127の方法に従い、インストロンタイプの引張試験機を用いて23℃、湿度65%RHにてヤング率を測定した。フィルムの縦方向(MD)および幅方向(TD)に切り出した幅10mm、長さ100mmの試料フィルムを引っ張り測定した。
G.温度膨張係数
フィルムを幅4mmにサンプリングし、試長15mmになるように真空理工(株)製TMA TM−3000および加熱制御部TA−1500にセットした。0.5gの荷重をフィルムにかけて、温度を室温(23℃)から50℃まで上昇させた後、一旦室温まで温度を戻した。その後、再度温度を室温から50℃まで上昇させた。その時の30℃から40℃までのフィルムの変位量(ΔLmm)を測定し、次式から温度膨張係数を算出した。
【0050】
温度膨張係数(/℃)=(ΔL/15)/(40−30)
H.湿度膨張係数
フィルムを幅10mmにサンプリングし、試長200mmになるように大倉インダストリー製のテープ伸び試験器にセットし、温度30℃、湿度40%RHから80%RHまで変化させ30分保持した後、変位量(ΔLmm)を測定し、次式から湿度膨張係数を算出した。
【0051】
湿度膨張係数(/%RH)=(ΔL/200)/(80−40)
I.熱収縮率
フィルムを長手及び幅方向に幅10mm、長さ250mmに切り出し、約200mmの間隔で2本の標線を入れ、その間隔を23℃で測定する(これをXmmとする)。この試料の先端に0.15gの荷重をかけた状態で100℃雰囲気中30分間放置した後の標線間の間隔を再度23℃で測定し(これをYmmとする)、100×(X−Y)/Xをもって熱収縮率とした。
J.寸法変化率
フィルムを長手方向100mm、幅方向30mmに切り出し、23℃、湿度65%RH、無荷重の条件下にて、24時間調湿調温した後、大日本印刷(株)製クロムマスク上に、サンプルを静電気により貼り付け、光学顕微鏡を用いて幅方向の長さ(L0)を測定する。その後、49℃、湿度90%RHの条件下、長手方向に32MPaの荷重をかけた状態で、72時間放置した。72時間後、荷重を解放し、23℃、湿度65%RH、無荷重の条件下にて24時間調湿調温後、幅方向の長さ(L1)を測定した。幅方向の寸法変化率は下記式により求めた。
幅方向の寸法変化率(%)=[(L0−L1)/L0]×100
K.延伸ロールの表面粗さ
Mitutoyo(株)製の表面粗さ計サーフテスト301を使用して、カットオフ0.25mmにてロール幅方向3点において中心面平均粗さを測定し、その平均値を採用した。
L.表面粗さ WRa
WYKO社製 非接触3次元粗さ計TOPO−3Dを用いて、測定面積倍率41.6倍、測定面積 239×239μm(0.057mm)で測定した。該粗さ計に内蔵された表面解析ソフト(ver.4.90)により、WRaを測定した。測定は10回行い、平均値を採用した。測定機器はWYKOに特定するもではなく、同様の測定が可能な非接触3次元粗さ計ZYGOや、原子間力顕微鏡AFMを用いても良い。
M.巻取コアの表面粗度
JIS B0601に準じ、東京精密(株)の表面粗さ計サーフコム111Aを使用して、カットオフ0.25mmにて中心線平均粗さを幅方向に3等分した各領域の中央部において、表面粗度を測定し、その平均値を採用した。
N.巻取コアの軸方向弾性率
外径167mm、内径152.5mm、長さ1023mmのコアを支点間距離が900mmとなるようにコアを支え、コアの中央に荷重を負荷し、荷重−たわみ比より軸方向弾性率を求めた。
O.巻取コアの円周方向弾性率
外径167mm、内径152.5mm、長さ50mmに切断したコアを平板2枚の間に置き、中央に荷重を負荷し、荷重−たわみ比より円周方向弾性率を求めた。
P.厚み方向のクリープ量
超微小硬度計を用いて、室温クリープ試験を行い、クリープ変形量−時間線図を取得し、クリープ特性を評価した。試験は、最大荷重0.1mNまで15秒で負荷した後、約0.1mNで10分間保持し、その後約0.01mNまで15秒間で除荷した。10分間保持中のクリープ変形量−時間線図の傾きを厚み方向のクリープ量とした。
【0052】
測定装置 ;MTSシステムズ社製 超微小硬度計 Nano Indenter XP
使用圧子 ;ダイヤモンド製正三角錐圧子
保持条件 ;約0.1mN−10min
測定雰囲気;21℃、湿度60%RH
Q.温熱処理による微小平面性の評価
フィルムを無張力下で100℃のオーブンに24時間放置することにより熱処理を行った。熱処理前後の層(A)の微小平面性をWYKO社製 非接触3次元粗さ計TOPO−3Dを用いて、測定面積倍率41.6倍、測定面積 239×239μm(0.057mm)で測定した。該粗さ計に内蔵された表面解析ソフト(ver.4.90)により、空間周波数10cm−1と200cm−1におけるRelative Powerを求めた。測定は10回行い、平均値をもってRelative Powerの値とした。WRaは熱処理前フィルムのみ測定した。
【0053】
なお、Relative Powerは、各空間周波数におけるパワースペクトラムP(fx,fy)を対数スケール(dB)で表した値であり、P(fx、fy)1nmの表面うねりを0dBと表記するように解析ソフト中で基準化されている。xをフィルム幅方向、yをフィルム長手方向として測定した。P(fx,fy)は、それぞれ下記式により計算される。
【0054】
【数1】

【0055】
式中、P(fx,fy)はパワースペクトラムであり、Aは測定面積、FTは∬h(x,y)exp[i2π(x・fx+y・fy)]で表されるフーリエ変換の演算、h(x,y)は表面形状データ、fx,fyは空間上の周波数座標である。
【0056】
【数2】

【0057】
また、Zjkは、測定方向とそれと直交する方向をそれぞれM,N分割したときの各方向のj番目、k番目の位置における3次元粗さチャート上の高さである。
【0058】
空間周波数10(1/mm)と200(1/mm)の強度差を読み取り、I10−200TDと表す。この値は、フィルム表面の微小平面性の度合いを示しており、値がプラス側に大きいほど微小平面性が悪い。測定機器はWYKOに特定するものではなく、同様の測定が可能な非接触3次元粗さ計ZYGOや、原子間力顕微鏡AFMを用いても良い。
【0059】
熱処理前後においてI10−200TDを測定し、(熱処理後のI10−200TD)−(熱処理前のI10−200TD)を算出することで、温熱処理による微小平面性を評価した。高密度磁気記録媒体として用いるためには、熱処理前後のI10−200TDの差は、6dB以下、好ましくは4dB以下、更に好ましくは2dB以下である。
【0060】
実施例1
平均粒径0.06μm、体積形状係数f=0.51の球状シリカ粒子を含有するポリエチレンテレフタレートと実質上粒子を含有しないポリエチレンテレフタレートのペレットを作り、球状シリカ粒子の含有量が0.2重量%となるよう2種のペレットを混合することにより熱可塑性樹脂Aを調製した。また、平均粒径0.3μm、体積形状係数f=0.52のジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子を含有するポリエチレンテレフタレートと、平均粒径0.8μm、体積形状係数f=0.52のジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子を含有するポリエチレンテレフタレート、および実質上粒子を含有しないポリエチレンテレフタレートのペレットを、0.3μmの粒子含有量が0.26重量%、0.8μmの粒子含有量が0.01重量%となるよう混合した熱可塑性樹脂Bを調製した。これらの熱可塑性樹脂をそれぞれ160℃で8時間減圧乾燥した後、別々の押出機に供給し、275℃で溶融押出して高精度濾過した後、矩形の2層用合流ブロックで合流積層し、2層積層とした。その後、285℃に保ったスリットダイを介し冷却ロール上に静電印可キャスト法を用いて表面温度25℃のキャスティングドラムに巻き付け冷却固化し、未延伸積層フィルムを得た。この未延伸積層フィルムをリニアモーター式の同時二軸延伸機により95℃で長手及び幅方向にそれぞれ3.5倍、トータルで12.3倍延伸しその後、再度190℃で長手方向に1.4倍、幅方向に1.2倍延伸し、定長下、220℃で3秒間熱処理した。フィルムとシャッターの距離を20mm、フィルム上下の温度差を1℃とした。その後幅方向に2%の弛緩処理を施し、全厚み6.5μm、層(B)の厚み0.5μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0061】
実施例2
層(A)に添加する粒子の粒径(f=0.52)、添加量、長手及び幅方向の延伸倍率、熱固定温度を210℃に変更する以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0062】
実施例3
2段目の長手方向の延伸倍率を1.6倍、幅方向の延伸倍率を1.0倍として、層(A)及び層(B)に添加する粒子の粒径、添加量、各層の厚み、及び熱固定温度を210℃に変更する以外は、実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0063】
実施例4
層(A)に添加する粒子の粒径(f=0.51)、添加量、2段目の長手方向の延伸倍率を1.0倍、幅方向の延伸倍率を1.4倍とし、5μmの単層フィルムとする以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0064】
実施例5
実施例1と同様にして未延伸積層フィルムを作成し、逐次二軸延伸法により延伸した。まず延伸温度110℃で2段階に分けて長手方向に3.1倍延伸した。このとき接触する延伸ロールには表面粗さRaが0.40μmの非粘着性のシリコーンロールを用い、更にニップロール間で平行に延伸した。この時、ニップ部分におけるフィルムとロールの接触距離は4mm、フィルムとロールの接触時間は、1段目0.011秒、2段目0.009秒、トータル0.02秒とした。その後、この一軸延伸フィルムをテンタにより温度95℃で幅方向に3.2倍延伸した後、140℃で1.4倍再縦延伸し、その後220℃で幅方向に1.2倍延伸し、その後、定長下、210℃で3秒間熱処理した。フイルムとシャッターの距離を20mmフィルム上下の温度差は1℃とした。その後幅方向に2%の弛緩処理を施し、全厚み6.0μm、層(B)の厚み0.5μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0065】
実施例6
延伸温度を125℃、延伸ロールに表面粗さが0.6μmのセラミックスロールを用い、さらにフィルムをロールに巻き付けて延伸することでフィルムとロールの接触時間を1段目0.40秒、2段目0.29秒、トータル0.69秒とする以外は実施例5と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0066】
実施例7
長手及び幅方向の延伸倍率を変更し、熱固定温度を200℃、フィルムとシャッターの距離を250mm、フィルム上下の温度差を30℃とし、各層の厚みを変更する以外は、実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0067】
実施例8
実施例1において、ポリエチレンテレフタレートをポリエチレン−2,6−ナフタレートとし、1段目延伸温度を130℃、層(B)に添加する粒子の粒径、添加量、各層の厚み、及びヤング率が長手方向/幅方向=8000/8000MPaになるよう延伸倍率を調整する以外は、実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0068】
比較例1
熱固定温度を240℃とし、長手及び幅方向の延伸倍率、及び層(A)に添加する粒子の添加量を変更する以外は、実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0069】
比較例2
長手及び幅方向の延伸倍率、及び熱固定温度を210℃とする以外は、実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0070】
比較例3
ヤング率が長手方向/幅方向=10000/6000MPaになるよう延伸倍率を調整し、各層の厚み及び熱固定温度を230℃と変更する以外は、実施例8と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0071】
以上、得られたフィルムの評価結果は、表1、表2の通りであった。なお、各実施例および比較例の厚み方向のクリープ量と長手方向の熱収縮率の関係を表でしめした。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に15MPaの荷重をかけ40℃、湿度90%RHで24時間転写処理を行った時の厚み方向のフィルム変形量が、フィルム全厚みに対して6.0%以下であることを特徴とする二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項2】
長手方向の100℃での熱収縮率SMDが0.0〜1.8%であり、かつ厚み方向のクリープ量CZDとの間に0≦5SMD+3CZD≦24の関係が成り立つことを特徴とする二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項3】
ポリエステルフィルムがポリエチレンテレフタレートフィルムであって、フィルム厚み方向の顕微ラマン結晶化指数Icが8cm−1〜20cm−1であり、かつ厚み方向のIcの最大値と最小値の差が1cm−1以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項4】
ポリエステルフィルムがポリエチレンナフタレートフィルムであって、フィルム厚み方向の顕微ラマン結晶化指数Icが18cm−1〜28cm−1であり、かつ厚み方向のIcの最大値と最小値の差が1cm−1以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項5】
フィルム平面方向のIcの最大値と最小値の差が1cm−1以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項6】
長手方向のヤング率が6000MPa以上であり、かつ幅方向のヤング率が4500MPa以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項7】
高密度デジタル磁気記録媒体用ベースフィルムとして用いられることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項8】
リニア記録方式の磁気記録媒体用ベースフィルムとして用いられることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2006−274113(P2006−274113A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−97280(P2005−97280)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】