説明

二部構造のボールピンのための球要素及び球要素の製造方法

本発明は、殊に玉継ぎ手用の球体を製造するための方法並びに、二部構造のボールピンのための球要素に関する。本発明に基づく球体の製造は、冷間押出し鍛造及びこれに続く研削によって行われ、この場合に球体の製造のために微量添加の炭素-マンガン鋼を用いる。微量添加の炭素-マンガン鋼の使用によって、冷間成形加工に基づく優れた強度及び硬度を有する球体が得られる。これによって、従来技術に基づく球体製造には必要な熱処理工程を省略でき、その結果、安価な材料を利用でき、したがって製造コストを著しく低下できるようになっている。本発明は、殊に二部構造のボールピン用の球体の簡単かつ経済的な製造を可能にし、しかも公知技術のものと同じ表面品質、材料品質、並びに強度及び耐摩耗性を維持し、若しくは高めるものである。結果として球体の製造のための手間と費用を少なくし、かつ熱処理に際して球体表面にしばしば発生する衝突痕の問題を排除している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殊に玉継ぎ手用の球要素若しくは球欠体要素を製造するための方法、並びに二部構造のボールピンのための球要素に関する。
【0002】
二部分から成る、つまり二部構造のボールピンは、一般的にピン要素と該ピン要素の受容のために穴のあけられた別個の球体(ボール)とを含んでいる。二部構造のボールピンのための球体、厳密に表現すると球要素、例えば穴のあけられた球体若しくは球欠体を冷間押出し鍛造によって成形することは公知である。公知技術では二部構造のボールピンの成形のために、通常の熱処理鋼を用いている。この場合には、球体の冷間押出し鍛造の後にまず球体の熱処理を行っている。熱処理過程に関連して球体を急冷するようになっており、このために球体は熱処理炉から高温状態若しくは軟化状態で冷却媒体内に揺すり入れられ、つまり送り込まれる。
【0003】
冷却媒体内への揺すり入れに際して、まだ軟らかい球体は互いにぶつかり、若しくは冷却容器若しくは焼入れ容器の壁にぶつかり、その結果、球体表面に不都合な衝突痕を生ぜしめることになる。このような衝突痕は後の工程で手間を掛けて、例えば球体表面の研削によって取り除かれねばならない。この場合に、衝突痕の深さに相当する多くの材料を、球体表面全体にわたって除去することになる。このような大きな体積の材料の除去は、一面ではきわめて長い研削時間を必要とし、かつ他面では研削工具を早く消耗させてしまうことになる。さらに、研削除去すべき材料体積を考慮して、球体成形用の金型の寸法を予め大きく規定していなければならず、このことは材料コストを増大させることになる。
【0004】
球体の公知の製造方法のさらなる欠点は、熱処理鋼を用いなければならないことにある。つまり熱処理鋼は、所望の材料組織を得るために引抜き加工工場内で引抜き加工されて、球状セメンタイトに焼なましされることに基づき他の鋼よりも高価である。
【0005】
さらに、熱処理鋼から製造される球体は冷間押出し鍛造加工の後に適切な熱処理を施されて、これによって熱処理鋼の所定の硬度及び強度特性を得るようにされねばならない。このことは手間が掛かり、球体の製造コストを増大させることになる。
【0006】
本発明の課題は、特に二部構造のボールピンのための球体並びに、該球体の製造方法を改善して、従来技術の前述の欠点を避けるようにすることである。
【0007】
この場合に球体はきわめて容易にかつ安価に製造されるようにしたい。殊に球体表面の衝突痕の発生の問題を解決して、衝突痕の取り除きに必要な処置を省略するようにすることである。さらに、球体の従来技術で得られている高い材料品質及び表面品質並びに所望の高い強度は、同じく達成され若しくは維持されるようにしたい。
【0008】
前記課題は、請求項1に記載の特徴を有する方法並びに、請求項11に記載の特徴を有する球要素によって解決される。有利な実施態様を従属請求項に記載してある。
【0009】
球要素を製造するための本発明に基づく方法は、次に述べる工程を含んでおり、つまり、まず第1の工程で、素材(長尺材若しくは半製品)から棒材切断片若しくは線材切断片をそれ自体公知の手段で成形し、すなわち作成し若しくは切り出す。この場合に素材は、微量添加の炭素-マンガン鋼(特殊鋼又は合金鋼)から成っている。原理的に各炭素-マンガン鋼は、製鋼の後に熱間圧延されて微粒状のフェライト-パーライト組織を生ぜしめるように微量添加元素を微量添加されている。
【0010】
次いで切断片は、特に酸化被膜を除去して、後続の加工過程のために切断片の純然たる金属表面を生ぜしめるために酸洗いされる。
【0011】
次いで棒材切断片若しくは線材切断片は、次の工程で所望の球形状を得るために冷間押出し鍛造によって変形加工若しくは成形加工される。
【0012】
次いで別の工程で、所定の寸法及び形状への球体表面の研削を行うようになっている。
【0013】
本発明に基づく前記方法はあらゆる点で極めて有利である。まず、従来技術で用いられる熱処理鋼の代わりに、微量添加の炭素-マンガン鋼(炭素-マンガン微量合金鋼)を球体の成形のために用いるようになっている。該炭素-マンガン微量合金鋼は、熱処理されなくてよく、棒材切断片若しくは線材切断片からの球体の冷間押出し鍛造若しくは冷間圧印加工に際してすでに所定の強度及び硬度を有している。
【0014】
したがって、公知技術による球体製造のためには必須の熱処理工程を省略することができるので、該熱処理のための手間並びに費用も削減されている。さらに、公知技術においては熱い、つまり柔らかな球体を熱処理炉から冷却媒体内へ揺すり入れる際に球体の表面に生じる不都合な衝突痕の問題も、本発明に基づく方法では完全に排除されている。
【0015】
換言すれば、球体は冷間押出し鍛造された状態ですでに球体の最終寸法(完成寸法)に極めて近い寸法に設定でき、それというのは公知技術におけるように球体の研削に際して衝突痕の取り除きのための著しい材料除去を考慮しなくてよいからである。これによって、一面では素材をほぼ完全に利用でき、その結果、材料コストを節減している。他面では、後で行われる研削のために必要な時間を短縮でき、それというのは極めてわずかな量の材料を除去する、つまり研削するだけであるからである。研削工具の摩滅並びに発生する研削くず若しくは研削スラリーの量も著しく減少され、このことはさらなるコスト節減並びに、製造過程による環境負荷の軽減につながる。
【0016】
すでに述べてあるように、炭素-マンガン鋼から冷間押出し鍛造される球体は、鍛造加工若しくは圧印加工による冷間変形に基づき、かつ微量合金鋼の特殊な特性に基づき、公知技術の熱処理された球体よりもきわめて高い硬度を有している。このように高い硬度によって球体の研削性は改善されかつ必要な研削時間は短くなっている。さらに、製造過程中の球体の処理に際し、特に研削の後にも球体表面における衝突痕はほとんど生じなくなっている。表面に衝突痕が生じておらず理想的な球面に著しく合致する形状の球体は、例えば玉継ぎ手の摩耗の少ない容易な運動を可能にし、かつ支承ソケット内での球体の付着すべり(スティックスリップ[stick-slip])をほとんど生ぜしめず、つまり滑らかな運動を保証している。
【0017】
本発明の有利な実施態様では、酸洗いの後に別の工程で切断片に引抜き加工を施し、若しくは酸洗いの後に別の工程で切断片に球状セメンタイトまでの焼なまし及び引抜き加工(GKZ-処置)を施すようになっている。これによって、後続の冷間押出し鍛造加工の前に材料の加工硬化を達成し、その結果、最終的に得られる球体の強度をさらに高めている。
【0018】
本発明の有利な別の実施態様では、棒材切断片若しくは線材切断片は引抜き加工の前に若しくは焼なまし(GKZ-処置)の前にリン酸塩処理され及び/又は固体潤滑剤で被覆(コーティング)される。冷間押出し鍛造に際してワーク(切断片)と工具(金型)との間に高い圧縮応力が発生するので、ワークと工具との間の冷間固着を避けるための処置が施されるとよい。このような処置は、支持層若しくはリン酸塩処理被膜を棒材切断片若しくは線材切断片上に生成することによって行われる。支持層上には十分な耐圧性の固体潤滑剤層若しくは乾燥潤滑剤層を配置してあり、固体潤滑剤若しくは乾燥潤滑剤層はワークと工具との間の金属同士の接触を防止するようになっている。耐圧性の固体減摩剤としては例えば黒鉛、二硫化モリブデン、特殊な石鹸若しくはワックスを用いる。
【0019】
本発明の有利な実施態様では、研削の後に別の工程で球体に炭窒化処理を行うようになっている。炭窒化処理は特に球体と支承ソケットとの間の表面付着に対する耐食性及び耐摩耗性を改善している。さらに、炭窒化処理された表面は低い摩擦係数を有している。それというのは、炭窒化処理に際して球体表面に耐久性のあるいわゆる化合層を生成するからであり、該化合層は百分の数ミリ程度の厚さを有するものである。さらに炭窒化処理は環境負荷が比較的小さく、電気めっき被覆層に比べて有利な手段である。炭窒化処理は有利には塩浴内で行われる。
【0020】
本発明の有利な別の実施態様では、球体は研削若しくは炭窒化処理の後に別の工程で研磨(磨き仕上げ)され、若しくは新たに研削されて、次いで研磨される。これによって、球体表面の耐食性及び耐摩耗性はさらに高められ、摩擦係数はさらに減少される。
【0021】
本発明の別の有利な実施態様では、炭素-マンガン鋼は、窒化処理若しくは炭窒化処理の際の炭素浸透促進のための微量添加元素を含んでいる。この場合に特に有利には、微量添加元素はバナジウムである。
【0022】
微量添加元素として特別にバナジウムを用いることによって、窒化処理の際の炭素浸透は促進される。これによって、一定の窒化処理時間で化合層の大きな厚さ及び高い硬化値を達成でき、耐食性をさらに改善している。換言すれば、短い処理時間若しくは窒化時間で化合層の、熱処理鋼と同じ程度の特性値を達成できる。実験結果から明らかなように、塩浴内処理時間は90分から60分に33%減少される。本発明の方法は、最適な窒化過程若しくは窒化時間の短縮によって、熱処理鋼を用いた公知の球体製造法に比べてコスト上の利点を有している。
【0023】
本発明は球要素、殊に二部構造のボールピンのための球要素にも関するものである。この場合に二部構造のボールピンは、公知の形式でピン要素及び穴のあけられた球要素から構成されている。球要素は、本発明に基づき微量添加元素を含む未熱処理の炭素-マンガン鋼から成っている。
【0024】
微量添加元素を含む、つまり微量添加された炭素-マンガン鋼は、熱処理過程を必要とせず、冷間押出し鍛造加工による加工硬化に基づき優れた強度及び硬度を有している。すでに前に述べてあるように、球体の従来技術の製造法には必須の熱処理、例えば焼入れ若しくは調質を省略することができ、したがって従来技術の熱処理に必要な手間並びにコストを削減することができる。さらに、球体表面において発生する不都合な衝突痕の問題も解決され、それというのは、従来技術において衝突痕発生の原因となる、熱処理炉から冷却媒体内への熱い若しくは柔らかな球体の揺すり入れを省略してあるからである。炭素-マンガン鋼は本発明の有利な実施態様では引抜き加工され、GKZ-処置され、若しくは被覆され、殊にリン酸塩処理されている。
【0025】
本発明の有利な別の実施態様では、球要素は、炭窒化処理されている。これによって、特に玉継ぎ手において球体のわずかな旋回運動速度若しくは傾倒運動速度に基づき球体と支承ソケットとの間に生じる付着に関連して、球要素の耐食性、耐摩耗性並びに摩擦特性を改善している。
【0026】
本発明の有利な別の実施態様では、球要素は研削及び/又は研磨されており、これによって球要素は、耐用年数が高く摩擦の小さい高品質の玉継ぎ手の構成部材として用いられる。
【0027】
本発明の別の同じく有利な実施態様では、微量添加元素はバナジウムである。これによって、窒化処理若しくは炭窒化処理された球体は、特に硬い若しくは厚い化合層を有していて、耐食性を改善されている。
【0028】
次に本発明を図示の実施例に基づき詳細に説明する。図面において、
図1は、球体のための公知技術に基づく熱処理鋼の研磨面の組織構造を示す図であり、
図2は、球体のための本発明に基づく微量添加の炭素-マンガン鋼の研磨面の組織構造を示す図であり、
図3は、MPaで表す引張強度σに対する累積破壊確率Pを示すワイブル分布図であり、
図4は、本発明に基づき成形された球体の強度と公知技術に基づき成形された球体の強度とを比較する棒線図であり、
図5は、本発明に基づく球体の炭窒化により形成された被覆層の特性と公知技術に基づく球体の特性との比較を示す特性線図であり、
図6は、二部構造の玉継ぎ手用の本発明に基づき成形された球体の異なる2つの側から見た斜視図である。
【0029】
図1は、球体(ボール)のための従来技術に基づく熱処理鋼のフェライト・パーライト組織構造の研磨面拡大図(顕微鏡写真)である。該組織構造(組織成分)は、具体的には熱間圧延された標準熱処理鋼41Cr4の組織構造である。
【0030】
図2は、球体のための本発明に基づく微量添加の炭素-マンガン鋼のフェライト・パーライト組織構造の研磨面拡大図(顕微鏡写真)である。この場合に微量添加の鋼は、製造に際して同じく熱間圧延された微量合金鋼35V1又はC-Mn-Vである。
【0031】
前記鋼は、次の合金元素(表示は質量パーセント)を含んでおり、つまり、
0.35%C、
0.20%Si、
0.75%Mn、
0.02%P、
0.02%S、
0.20%Cr、
0.15%Ni、
0.20%Cu、
0.10%V、
0.02%Al、
0.01%N
【0032】
図1と図2とを見比べることによって明らかであるように、図2に示す微量添加の鋼は、図1に示す通常の熱処理鋼に比べてきわめて多くの微細な組織を有している。図2に示す微量添加の鋼(微量合金鋼)の微細な組織は、該微量添加の鋼のきわめて良好な冷間加工性を生ぜしめており、このことは本発明に基づく球体の冷間押出し鍛造による成形に有利である。
【0033】
図3には、冷間押出し鍛造された球体の硬さ測定値から算出された強度を示してある。図3は、累積破壊確率Pを対数式に縦軸にプロットしてあるのに対して横軸に引張強度σをMPaでプロットしてあるワイブル分布図である。引張強度は、測定された硬度値からDIN 50150に基づき算出されており(DIN=ドイツ工業規格)、この場合に硬度値は球体の種々の箇所で測定されている。
【0034】
図3には、異なる3つのタイプの球体の測定値を示してある。図3の記号説明部分に符号Aで表してある菱形の測定点は、本発明に基づき微量添加の炭素-マンガン鋼から冷間押出し鍛造によって成形された球体に関するものである。図3の記号説明部分に符号Bで表してある正方形の測定点は、公知技術に基づき熱処理鋼から成形された球体に関するものである。この場合に具体的には一般的な熱処理鋼38MnB3を用いてある。図3の記号説明部分に符号Cで表してある三角形の測定点は、微量添加の炭素-マンガン鋼から成る本発明に基づく球体に関し、この場合に三角形の測定点は本発明に基づく炭窒化後の球体に関するものである。
【0035】
図3から明らかなように、炭素-マンガン鋼から成る本発明に基づく球体の強度(菱形)は、公知技術に基づく熱処理鋼の強度(正方形)よりも著しく高くなっている。このように高い硬度は球体の研削による加工処理にとって有利であり、それというのは研削時間は著しく短縮されて、コストは節減されるからである。
【0036】
高い硬度に基づき球体の取り扱い若しくは処理に際して、製造過程中及び製造過程の後に球体表面には衝突痕はほとんど生じていない。玉継ぎ手(ボールジョイント)のための衝突痕のない球体はきわめて有利であり、それというのは衝突痕のない球体によって運動しやすく長寿命で摩耗の少ない玉継ぎ手の形成を可能にしており、このような玉継ぎ手は、支承ソケット(ボールソケット)内での球体の運動に際してほとんど付着すべりを生ぜしめないからである。微量添加の炭素-マンガン鋼から成る本発明に基づく球体の高い硬度は、球体を玉継ぎ手に使用する場合に耐食性及び摩擦特性を改善するので有利である。
【0037】
図3には、微量添加の炭素-マンガン鋼から成る本発明に基づく球体の三角形の測定点の形でプロットされた強度も示してあり、該球体は炭窒化処理を施されている。仮想のワイブル分布特性線(各グループの測定点によって規定された仮想の直線)と零位置のy軸との交点から明らかなように、炭素-マンガン鋼から成る本発明に基づく球体は炭窒化の後にも、熱処理鋼から成る球体の強度(正方形の測定点)よりも高い強度(三角形の測定点)を有している。
【0038】
炭窒化処理に用いられる約600℃までの温度に基づき、球体の押出し鍛造時に球体表面の加工硬化した組織は回復して、ひいては押出し鍛造によって得られた高い強度は著しく低下すると思われていたものの、本発明に基づく球体の高い強度は炭窒化処理の後にもほぼ完全に維持されていて有利である。高い強度をほぼ完全に維持していることの理由は、加工硬化した組織の炭窒化時の完全な回復を、本発明に基づく球体の材料内に含まれる微量合金元素によって阻止しているからであると考えられる。
【0039】
図3に示してあるように微量添加の炭素-マンガン鋼から成る本発明に基づく球体のワイブル分布特性線の、熱処理鋼に比べて緩やかな勾配はもっぱら次のことを示しているだけであり、つまり、球体の種々の箇所の異なる変形量に基づき材料の加工硬化が著しく異なっており、図示の測定値は球断面全体にわたって測定されたものであるからである。明らかなように、測定結果は本発明に基づく球体を玉継ぎ手へ使用する場合の適合に関して不都合な影響がないことを示している。
【0040】
図4には、微量添加の別の炭素-マンガン鋼10MnSi7から成る本発明に基づく種々の球体における、DIN 50150に基づき硬度から規定された引張強度(垂直な各右側の点模様の棒)、並びに各球体の製造に使用される線材の引張強度(垂直な各左側のハッチングされた棒)を示してある。さらに図4には比較のために、公知技術に基づく熱処理鋼の強度値(水平の棒)も示してある。横軸には、球体の成形のためにプレス加工される線材がプレス加工の前にどの程度に引抜き加工されたかのパーセントをプロットしてある。線材の引抜き加工は熱間圧延の後でかつ球体のプレス加工の前に行われる。
【0041】
図4から明らかなように、微量添加の炭素-マンガン鋼から熱処理なしに成形された球体(垂直な各右側の点模様の棒)は、熱処理鋼(水平な棒)の球体よりも高い強度、それも線材引抜き加工の割合、ひいては線材若しくは素材の強度(垂直な各左側のハッチングされた棒)におおよそ依存することのない強度を有している。
【0042】
図5には、本発明に基づき微量添加の炭素-マンガン鋼(35V1)から熱処理なしに成形された球体の炭窒化処理の後の硬度特性を示しており、この場合に硬度測定値は球体表面の深さにわたってプロットしてある。図5に記載の符号Cは炭素-マンガン鋼の測定値(三角形の測定点)を表している。図5には比較のために従来技術の通常の熱処理鋼から成る球体の対応する測定値もプロットしてあり、該測定値(正方形の測定点)は図5の説明箇所に符号Bで表してある。
【0043】
図5から明らかなように、微量添加の炭素-マンガン鋼から成る本発明に基づく球体(三角形の測定点)は、炭窒化処理の後にも、従来技術の熱処理鋼から成る球体(正方形の測定点)の硬度よりも高い硬度を有している。本発明に基づくこのように高い硬度は、球体の良好な耐摩耗性並びに球体の研削の際の時間及び費用が節減される改善された加工性をもたらし有利である。
【0044】
図5には比較のために、玉継ぎ手のための球体の表面並びに0.2mmの深さでの硬度の所望の目標値を、水平な2つの棒線によって示してある。図5から明らかなように、本発明に基づく球体(三角形の測定点)の特性線は所望の硬度目標値を達成し若しくは越えている。
【0045】
図6には、二部構造のボールピンのための微量添加元素を含む熱処理されていない炭素-マンガン鋼から本発明に基づき形成された球体を、異なる2つの側から示してあり、該球体はピン要素の受容のために穴をあけられている。図6に示してあるように、該球体は本発明に基づく方法により問題なく、殊に割れなしに、かつ十分な表面品質で成形される。つまり本発明に基づき、特に二部構造のボールピンのための球体を従来技術よりも簡単かつ安価に製造し、かつ球体の表面及び材料品質、並びに球体の所望の強度及び耐摩耗性を維持し若しくは高めることができるようになっている。とりわけ従来必要な熱処理の省略によって、一面においてコストを著しく削減し、かつ他面において熱処理の際の球体表面に生じる衝突痕の問題を避けることができるようになっている。
【0046】
本発明は前述のように、殊に玉継ぎ手、車輪懸架装置、スタビライザーのため、並びに類似若しくは等価の使用目的のための高品質な球体の経済的な生産に著しく寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】公知技術に基づく熱処理鋼の研磨面の組織構造図
【図2】本発明に基づく微量添加された炭素-マンガン鋼の研磨面の組織構造図
【図3】MPaで表す引張強度σに対する累積破壊確率Pを示すワイブル分布図
【図4】本発明に基づく球体の強度と公知技術に基づく球体の強度とを比較する棒線図
【図5】本発明に基づく球体の炭窒化により形成された被覆層の特性と公知技術に基づく球体の特性との比較を示す特性線図
【図6】二部構造の玉継ぎ手用の本発明に基づき成形された球体の異なる2つの側から見た斜視図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
殊に玉継ぎ手用の球要素若しくは球欠体要素を製造するための方法において、次の工程を有しており、つまり、
a)微量添加の炭素-マンガン鋼製の熱間圧延された素材から棒材切断片若しくは線材切断片を成形し、
b)酸洗いを行い、
c)前記棒材切断片若しくは線材切断片を、球要素若しくは球欠体要素に冷間押出し鍛造し、次いで
d)球表面を研削することを特徴とする、二部構造のボールピンの球要素若しくは球欠体要素を製造するための方法。
【請求項2】
前記工程b(酸洗い)の後に、別の工程b′で少なくとも1つの引抜き加工を施す請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程b(酸洗い)の後に、別の工程b″で前記棒材切断片若しくは線材切断片に球状セメンタイトまでの焼なまし及び引抜き加工を施す請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記棒材切断片若しくは線材切断片を前記工程b′(引抜き加工)の前に、若しくは前記工程b″(焼なまし)中にリン酸塩処理し及び/又は固体潤滑剤で被覆する請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記工程d(研削)の後に別の工程eで球要素若しくは球欠体要素の炭窒化処理を行う請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記工程eでの炭窒化処理を塩浴内で行う請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記球要素若しくは球欠体要素を、前記工程d(研削)若しくは前記工程e(炭窒化処理)の後に別の工程fで研削及び/又は研磨する請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記炭素-マンガン鋼は、窒化処理若しくは炭窒化処理の際の炭素浸透促進のための微量添加元素を含んでいる請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記微量添加元素はバナジウムである請求項8に記載の方法。
【請求項10】
殊に二部構造のボールピンのための球要素であって、ボールピンは球要素及びピン要素を有している形式のものにおいて、球要素は、微量添加元素を含む未熱処理の炭素-マンガン鋼から成っていることを特徴とする球要素。
【請求項11】
前記球要素は、引抜き加工された線材から成形されている請求項10に記載の球要素。
【請求項12】
前記球要素は、球状セメンタイトまで焼なましされた線材から成形されている請求項10又は11に記載の球要素。
【請求項13】
前記球要素は、被覆若しくはリン酸塩処理された線材から成形されている請求項10から12のいずれか1項に記載の球要素。
【請求項14】
前記球要素は、炭窒化処理されている請求項10から13のいずれか1項に記載の球要素。
【請求項15】
前記球要素は、研削されている請求項10から14のいずれか1項に記載の球要素。
【請求項16】
前記球要素は、研磨されている請求項10から15のいずれか1項に記載の球要素。
【請求項17】
前記微量添加元素はバナジウムである請求項10から16のいずれか1項に記載の球要素。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−538203(P2007−538203A)
【公表日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−511851(P2007−511851)
【出願日】平成17年5月2日(2005.5.2)
【国際出願番号】PCT/DE2005/000823
【国際公開番号】WO2005/106263
【国際公開日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(506054589)ツェットエフ フリードリヒスハーフェン アクチエンゲゼルシャフト (151)
【氏名又は名称原語表記】ZF Friedrichshafen AG
【住所又は居所原語表記】D−88038 Friedrichshafen,Germany
【Fターム(参考)】