亜セレン酸化多糖類およびその製造方法
【課題】新規医薬品となりうる(硫酸化)亜セレン酸化多糖類、およびその製法、並びにその医薬用途を提供すること。
【解決手段】硫酸基置換度が2以上である硫酸化多糖類またはその塩を、バリウム塩または酸の存在下、亜セレン酸またはその塩と反応させることにより、セレン含量が18重量%以上である(硫酸化)亜セレン酸化多糖類を製造する。
【解決手段】硫酸基置換度が2以上である硫酸化多糖類またはその塩を、バリウム塩または酸の存在下、亜セレン酸またはその塩と反応させることにより、セレン含量が18重量%以上である(硫酸化)亜セレン酸化多糖類を製造する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜セレン酸化多糖類およびその製造方法、並びにその医薬用途に関する。
【背景技術】
【0002】
多糖類は、地球上で最初に造られた生体高分子であると提唱されている。多糖類は単糖モノマーで構成される生体高分子の一種である。商用および工業に利用されている多糖類は、陸上および海洋植物から単離され、または主にバクテリアの外因性代謝産物であり、その多くは部分有機合成で修飾され、またわずかのものは全生化学合成の産物である。多糖類は自然界において、強固な機械的構造の構築、即時に利用可能なエネルギーの貯蔵、生物学的認識および交信の特異性発現など、多数の重要な機能を有している。
【0003】
多糖類は、タンパクや核酸と並び、生体に重要な生体高分子の一種であり、抗感染、抗酸化、免疫促進、および免疫障害疾患(肝炎、リウマチ、AIDSなど)の治療に用いることができる。多糖類は、多様な機能や生物活性を有している。主鎖、分岐鎖および高次構造を含む多糖類の構造因子は、生物活性に影響を与える。多糖の活性は、糖単位と主鎖のグリコシド型の組合せによって直接的に決定される。多糖の活性は、分岐鎖のタイプ、重合度、分岐鎖の分布によって影響される。多糖の高次構造の糖鎖柔軟性および空間配置はその活性に関係している。多糖は修飾機能化されて、その活性が増強される。近年、当該分野における多くの研究で大きな進歩があった。多糖は、単糖の側鎖(ヒドロキシ、カルボキシル基、アミノ基など)で修飾機能化されている。修飾機能化には、硫酸化、エチロイル化、セレン化、メチル化、酸化、部分加水分解、リン酸化、二機能化など多くの方法が挙げられる。
【0004】
硫酸化多糖(多糖硫酸エステルまたは硫酸エステル多糖ともいう)は、単糖の水酸基が硫酸基で修飾されている。硫酸化多糖は抗ウィルス性多糖で最も研究されている。硫酸化多糖類としては、天然または半合成硫酸化多糖が挙げられ、その抗ウィルス、抗癌、抗AIDSなどの生物活性は非常に興味深い。
【0005】
セレン(Se)は、人体の必須微量元素であり、通常の酸素代謝で産生されるフリーラジカルの作用から細胞を守る抗酸化酵素の重要なパーツである。生体は、細胞を障害し、幾つかの慢性疾患の進展に寄与するフリーラジカルのレベルを制御するため、抗酸化剤のような防御機構を発達させてきた。セレン生化学の興味深い一面は、その極めて強い効能にある。亜セレン酸またはセレノメチオニンの形態のセレンは、動物食餌中〜0.1ppmレベルの必須微量栄養素として機能するが、しかし8から10ppmのレベルでは毒となる。
このような背景の下、セレンを含む修飾基で修飾された多糖類は様々な生理活性が予想され、医薬品のターゲットとして興味深い。
【0006】
亜セレン酸化多糖は、硫酸化多糖の硫黄がセレンで置換された半有機合成セレン化合物であり、中国で最初に合成された(特許文献1参照)。当該研究において、亜セレン酸によってエステル化された多糖が抗酸化酵素活性の増強、フリーラジカルからの細胞の保護、免疫機能の増強作用を有することが発見された。また、その報告はセレン化合物の抗発癌活性も開示している。
【0007】
特許文献1は、三種の新規海洋医薬およびその製造方法を開示している。当該発明には、明らかに腎不全、血管障害、癌の治療効果を有する亜セレン酸化渇藻多糖、セレン化キチン、セレン化紅藻多糖の三種のセレン化多糖化合物が挙げられている。当該発明の生成物は、低毒性または無毒性であり、抗ウィルス、抗HIV、抗癌、人体免疫増強作用を有しており、特に、セレン化紅藻多糖は、リンパ球分裂促進やヘルペスウィルスの複製抑制作用をも明らかに有している。しかし、この方法によるセレン化多糖のセレン含量はせいぜい約12.5mg/g(1.25%wt)である。
【0008】
特許文献2および3は、セレン化多糖の製造方法を開示している。この方法は、発酵によってセレン富化酵母を調製し、セレン化多糖が酵母溶液から分離、アルカリによって精製されている。セレン化多糖溶液は濃縮され、エタノールで沈殿されている。この方法は、多くの面倒な工程を要し、そのセレン含量は非常に低い。
【特許文献1】中国公開特許公報第1288899号公報
【特許文献2】特開昭54−074098号公報
【特許文献3】特開平4−40888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、新規医薬品となりうる(硫酸化)亜セレン酸化多糖類、およびその製法、並びにその医薬用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、亜セレン酸化多糖類の効能の向上を図るため、セレン含量が高い亜セレン酸化多糖類の製造方法を検討した。その結果、亜セレン酸化の原料である硫酸化多糖の硫酸化度が高いものを用いることにより、従来技術に比べはるかに高いセレン含量を有する亜セレン酸化多糖類が得られることを見出した。
また、硫酸化多糖の硫酸化度や亜セレン酸化反応の条件を調整することにより、さらに硫酸基を含む硫酸化亜セレン酸化多糖類や、様々なセレン含量を有する(硫酸化)亜セレン酸化多糖類を得た。
このように得られた(硫酸化)亜セレン酸化多糖類について、生物活性を検討した結果、優れた抗酸化作用および抗癌活性を有することを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下の[1]〜[12]を提供する;
[1]セレン含量が18重量%以上であることを特徴とする、亜セレン酸化多糖類またはその塩;
[2]硫酸基をさらに含む、上記[1]記載の亜セレン酸化多糖類またはその塩。
[3]硫酸基を含むことを特徴とする、亜セレン酸化多糖類またはその塩。
[4]硫酸置換度が2以上である硫酸化多糖類またはその塩を、バリウム塩または酸の存在下、亜セレン酸またはその塩と反応させる工程を含むことを特徴とする、セレン含量が18重量%以上である亜セレン酸化多糖類またはその塩の製造方法;
[5]硫酸置換度が2以上である硫酸化多糖類またはその塩が、多糖類を硫酸化剤と反応させることにより製造されたものである、上記[4]記載の方法;
[6]硫酸化剤がピリジン・三酸化硫黄錯体またはクロロスルホン酸である、上記[5]記載の方法;
[7]硫酸基を含む亜セレン酸化多糖類またはその塩を製造する、上記[4]〜[6]のいずれかに記載の製造方法;
[8]上記[1]〜[3]のいずれかに記載の亜セレン酸化多糖類またはその塩を含む、医薬組成物;
[9]上記[1]〜[3]のいずれかに記載の亜セレン酸化多糖類またはその塩を含む、抗酸化剤;
[10]亜セレン酸化多糖類またはその塩を含む、抗酸化剤;
[11]亜セレン酸化多糖類がさらに硫酸基を含む、上記[10]記載の抗酸化剤;および
[12]上記[1]〜[3]のいずれかに記載の亜セレン酸化多糖類またはその塩を含む、抗がん剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、従来技術よりもセレン含量が高い(最高45重量%の)亜セレン酸化多糖類が提供される。さらに、硫酸基を有する硫酸化亜セレン酸化多糖類も提供される。かかる(硫酸化)亜セレン酸化多糖類は、医薬、特に抗酸化剤、抗癌剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
1.亜セレン酸化多糖類の説明
本発明において「亜セレン酸化多糖類」とは、多糖を構成する単糖単位においてグリコシド結合に関与していない官能基(例えば、水酸基、アミノ基など)の一部または全部が亜セレン酸とエステル結合、アミド結合などを形成しているものを意味する。
【0013】
亜セレン酸化多糖類において、亜セレン酸化の対象となる「多糖類」は、当該技術分野で公知のものを特に限定なく使用することができ、また、新規なものであってもよく、天然物でも合成品でもよい。
当該多糖類の構成成分である単糖は、当該技術分野で公知のものを特に限定なく採用することができ、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、タロース、イドース、アルトロース、アロース、グロース、キシロース、アラビノース、ラムロース、フコース、フラクトース、リボース、デオキシリボース、グルコサミン、ガラクトサミン、グルクロン酸などが挙げられ、グルコース、ガラクトース、キシロース、フコースなどが好ましい。
多糖類は、これら単糖の一種類のみで構成されるものでもよいし、2種以上が組み合わさって構成されるものでもよく、2種以上の場合の配列も特に限定されない。また、多糖類は枝分かれした態様であってもよい。また、多糖には至らない単糖も本発明の多糖類に包含される。
多糖類を構成するグリコシド結合様式も特に限定なく、α1→2結合、β1→2結合、α1→3結合、β1→3結合、α1→4結合、β1→4結合、α1→5結合、β1→5結合、α1→6結合、β1→6結合など、またはその組合せが挙げられる。
【0014】
多糖類(亜セレン酸化されていないもの)の重量平均分子量は特に限定されないが、多糖類水酸基の活性の理由により、好ましい重量平均分子量は500〜107であり、より好ましくは700〜104程度である。高分子量の多糖を、部分加水分解、酵素処理などにより、分子量を適宜調整してもよい。多糖類の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定することができる。
【0015】
多糖類の具体例としては、グルカン、変性又は未変性のデンプン、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、デキストリン、デキストラン、セルロース及びその誘導体(例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなど)、マンナン、キシラン、リグニン、アラバン、ガラクタン、ガラクツロナン、キチン、キトサン、グルクロノキシラン、アラビノキシラン、キシログルカン、グルコマンナン、ペクチン酸及びペクチン、アルギン酸及びアルギナート、アラビノガラクタン、カラゲナン、寒天、グリコサミノグルカン、アラビアガム、トラガカントガム、ガッチガム、カラヤガム、キャロブガム、ガラクトマンナン、グアーガム、キサンタンガム、κ―カラギーナンなどが挙げられ、κ―カラギーナン、未変性デンプン、デキストラン、デキシトリン、セルロース、マンナン、キシログルカン、キシランなどが好ましい。
【0016】
本発明の亜セレン酸化多糖類は、セレン含量が18重量%以上であることを特徴とする。
本発明の亜セレン酸化多糖類のセレン含量は18重量%以上であれば特に限定されないが、好ましくは37.5重量%以上である。セレン含量の上限は、多糖類の官能基がすべて亜セレン酸化された場合であり、採用する多糖類の種類により異なる。例えば、デンプンの水酸基を全て亜セレン酸化した場合は、約45重量%となる。
【0017】
本発明において「セレン含量」とは、亜セレン酸化多糖類全体の重量に対する元素としてのセレンの重量を百分率で表わしたものであり、重量%で表記される。
「セレン含量」は後掲の参考例1に記載の方法により測定される。
【0018】
本発明において「置換度」とは、多糖類の一単糖当りの修飾された官能基の平均数を意味し、例えば、デンプンの全ての水酸基が修飾された場合は、置換度は3となる。
亜セレン酸化多糖類における亜セレン酸置換度(DS)は、上記セレン含量(Se)から下式により算出することができる。
【0019】
【数1】
【0020】
本発明の亜セレン酸化多糖類において亜セレン酸化されていない官能基は、亜セレン酸以外で修飾されていてもよい。かかる修飾としては、硫酸化、リン酸化、アルキル化(例えば、メチル化、エチル化)、アシル化(例えば、アセチル化)などが挙げられ、硫酸化が好ましい。
【0021】
本発明の亜セレン酸化多糖類において硫酸基をさらに含む「硫酸化亜セレン酸化多糖類」は、そのセレン含量が18重量%未満のものを含めて新規化合物であり、医薬(抗酸化剤、抗癌剤)として有用である。硫酸化亜セレン酸化多糖類における硫酸化の置換度は、後述の製造方法において説明する原料の硫酸化多糖類の硫酸置換度や亜セレン酸化の条件で調整することができる。
【0022】
本発明の(硫酸化)亜セレン酸化多糖類の重量平均分子量は、亜セレン酸化されていない上記多糖類の重量平均分子量から亜セレン酸化、硫酸化の置換度を考慮して算出することができる。
【0023】
本発明の(硫酸化)亜セレン酸化多糖類の好ましい態様は、下記式で表されるピラノース単位および/またはフラノース単位の1種または2種以上を有する。
【0024】
【化1】
【0025】
(上記式中、R1、R1’、R2、R3、R3’、R4、R4’、R6およびR6’は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、硫酸オキシ、亜セレン酸オキシまたはグリコシド結合を示し、R2’は水素原子、メチル、ヒドロキシメチル、亜セレン酸オキシ、亜セレン酸オキシメチルまたはメチレングリコシド結合を示す。但し、一単糖当り、少なくとも平均で0.8個の亜セレン酸オキシを有する。)
【0026】
本発明の(硫酸化)亜セレン酸化多糖類は、塩の形態であってもよい。かかる塩としては、亜セレン酸基、硫酸基などと塩基との塩が挙げられる。具体的には、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩、アンモニウム塩などの無機塩基塩;トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、2,6−ルチジン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N’−ジベンジルエチレンジアミンなどとの有機塩基塩が挙げられ、フリー体から常法により調製することができる。
【0027】
2.亜セレン酸化多糖類の製造方法の説明
本発明の(硫酸化)亜セレン酸化多糖類は、硫酸化多糖類またはその塩を、溶媒中、バリウム塩または酸の存在下、亜セレン酸またはその塩と反応させることにより製造することができる。
硫酸化多糖類とは、多糖を構成する単糖単位においてグリコシド結合に関与していない官能基(例えば、水酸基、アミノ基など)の一部または全部が硫酸とエステル結合、アミド結合などを形成しているものを意味する。硫酸化多糖類の塩としては、(硫酸化)亜セレン酸化多糖類の塩と同様のものが挙げられる。
【0028】
(硫酸化)亜セレン酸化多糖類のセレン含量を18重量%以上とするためには、原料の硫酸化多糖類の硫酸置換度を2以上とするのが好ましい。硫酸置換度が2より少ない場合であってもセレン含量18重量%の(硫酸化)亜セレン酸化多糖類を製造できる場合もあるが、硫酸置換度を2以上とすることにより確実にセレン含量を18重量%以上とすることができる。好ましい硫酸置換度は3である。硫酸置換度の上限は、官能基が全て硫酸化された場合であり、例えばデンプンの場合では3である。
【0029】
硫酸置換度は、後掲の参考例2に記載の方法により測定される。
【0030】
亜セレン酸の塩としては、亜セレン酸ナトリウム、亜セレン酸カリウム、亜セレン酸水素ナトリウム、二酸化セレン、塩化セレニニルなどが挙げられる。
亜セレン酸またはその塩の使用量を調整することにより、目的とする(硫酸化)亜セレン酸化多糖類のセレン含量や硫酸基の有無およびその置換度を調整することができる。亜セレン酸またはその塩の使用量は、目的とするセレン含量、硫酸基の置換度、多糖類の種類などを考慮して、原料の硫酸化多糖類に存在する硫酸基のモル数を基準にして0.1〜10倍モルの範囲から適宜決定すればよい。
なお、セレン含量を18重量%以上とするためには、例えば硫酸置換度2以上の硫酸化多糖類を原料として用いた場合、亜セレン酸またはその塩の使用量は、硫酸基のモル数に対して、等モル以上が必要であり、2.5倍モル以上が好ましい。
【0031】
バリウム塩としては、塩化バリウム、炭酸バリウム、硝酸バリウムなどの水溶性バリウム塩の少なくとも一種が挙げられ、塩化バリウムが好ましい。バリウム塩の使用量は、硫酸基のモル数に対して0.1〜10倍モルの範囲から適宜決定すればよい。
【0032】
酸としては、硝酸および/または塩酸が好ましく、その使用量は、反応液中の濃度が0.1〜5%(w/V)となる範囲から適宜決定すればよい。
【0033】
溶媒としては水が使用され、その使用量は、使用する全試薬の濃度が0.2〜20%(w/V)となる範囲から適宜決定すればよい。
【0034】
反応温度は10℃〜100℃、反応時間は用いられる試薬や反応温度にも依存するが、通常1時間〜100時間の範囲からそれぞれ選択される。
【0035】
反応終了後、反応液を室温に戻し、好ましくは以下の操作により、(硫酸化)亜セレン酸化多糖類を単離することが出来る。
(1)バリウムイオンの除去
反応溶液に硫酸水溶液を室温下徐々に適下して硫酸バリウムを沈殿させ、濾別する。
(2)過剰の亜セレン酸イオンの除去
(1)で得られた溶液をpH3〜12に調整し、塩化鉄水溶液を攪拌しながら加える。終夜反応後、沈殿物を濾別する。
(3)(硫酸化)亜セレン酸化多糖類の単離
(2)で得られた溶液を15%酢酸ナトリウム水溶液でpH3〜9に調整し、エタノールをエタノール濃度が70%以上になるまで滴下する。沈殿物を濾集し、95%および100%エタノールで洗浄、乾燥し、(硫酸化)亜セレン酸化多糖類を得る。
【0036】
3.硫酸化多糖類およびその製造方法の説明
上記(硫酸化)亜セレン酸化多糖類の製造方法の原料である硫酸化多糖類は、当該技術分野で公知のものを特に限定なく使用することができ、また新規なものであってもよく、天然物でも合成品でもよい。
【0037】
但し、置換度2以上の硫酸化多糖類は、好ましくは、多糖類を硫酸化剤と反応させることにより製造される。以下、完全置換と部分置換の場合に分けて説明する。
3−1.完全置換の硫酸化多糖類の製造
全ての官能基が硫酸化されている硫酸化多糖類は、溶媒中、多糖類を三酸化硫黄・ピリジン錯体と反応させることにより得られる。
【0038】
三酸化硫黄・ピリジン錯体の使用量は、多糖類の水酸基に対して1〜15倍モルの範囲から適宜決定すればよく、3〜6倍モルが好ましい。三酸化硫黄・ピリジン錯体の使用量がこの範囲より少ない場合は、硫酸化されない水酸基が残留する場合がある。
【0039】
溶媒としては、反応を阻害しないかぎり制限はなく、N,N−ジメチルホルムアミド、ピリジン、N−メチルモルホリンなどの一種以上が挙げられ、N,N−ジメチルホルムアミドが好ましい。溶媒の使用量は、使用する全試薬の濃度が0.1〜30%(w/V)となる範囲から適宜決定すればよい。
【0040】
反応温度は30℃〜115℃、反応時間は用いられる試薬や反応温度にも依存するが、通常0.5時間〜24時間の範囲からそれぞれ選択される。
【0041】
反応終了後、硫酸化多糖類はピリジン塩として混合物中に存在する。水を加えることにより反応を止め、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウムなどを含むエタノール(3倍量v/v以上)を加えることにより、遊離の硫酸化多糖類を沈殿として単離することができる。単離された硫酸化多糖類は必要により、透析、凍結乾燥などを行うことにより精製することができる。
3−2.部分置換の硫酸化多糖類の製造
官能基の一部が硫酸化されている硫酸化多糖類は、溶媒中、塩基の存在下、多糖類をクロロスルホン酸と反応させることにより得られる。
【0042】
クロロスルホン酸の使用量は、目的とする硫酸化多糖類の硫酸基置換度、多糖類の種類などを考慮して、原料の多糖類の水酸基のモル数を基準にして0.0001〜3倍モルの範囲から適宜決定すればよい。
硫酸置換度を2以上とするためには、クロロスルホン酸の使用量は、多糖類の水酸基のモル数に対して、2倍モル以上が必要であり、5倍モル以上が好ましい。クロロスルホン酸の使用量がこの範囲より少ない場合は、硫酸置換度が2未満となる場合がある。
【0043】
溶媒としては、反応を阻害しないかぎり制限はなく、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、ピリジン、N−メチルモルホリンなどの一種以上が挙げられ、ジメチルスルホキシドが好ましい。多糖の溶解のために溶媒中には塩化リチウム、フッ化テトラブチルアンモニウムなどの塩が好ましく溶解される。当該塩の濃度は、0.01〜5Mの範囲から適宜選択される。溶媒の使用量は、使用する全試薬の濃度が0.1〜1%(w/V)となる範囲から適宜決定すればよい。
【0044】
反応温度は20℃〜105℃、反応時間は用いられる試薬や反応温度にも依存するが、通常0.5時間〜24時間の範囲からそれぞれ選択される。
【0045】
反応終了後、硫酸化多糖類は使用される塩基との塩として混合物中に存在する。水を加えることにより反応を止め、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの塩基を含む水溶液を加え、pH8〜11に調整することにより、遊離の硫酸化多糖類とすることができる。硫酸化多糖類は透析、凍結乾燥などを行うことにより単離、精製することができる。
【0046】
本発明の(硫酸化)亜セレン酸化多糖類は、優れた抗酸化作用およびそれに基づくDNA保護作用を有し、DNA損傷抑制剤として有用である。
また、本発明の(硫酸化)亜セレン酸化多糖類は、優れた抗癌活性を有し、肝臓癌、胃癌、腺癌、黒色腫、リンパ腫、肉腫、肺癌、乳癌、卵巣癌、頭部癌、頸部癌、前立腺癌、子宮頸癌、子宮体癌、直腸結腸癌、卵管癌、食道癌、小腸癌、膵臓癌、腎臓癌、副腎癌、膣癌、外陰癌、脳腫瘍、精巣癌などの治療に有用である。
【0047】
本発明の(硫酸化)亜セレン酸化多糖類またはその塩を医薬として用いる場合、製薬上許容しうる担体(例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤等)と混合して得られる医薬組成物あるいは製剤(例えば、錠剤、液剤等)の形態とすることができる。当該医薬組成物あるいは製剤は、製剤分野における通常の方法に従って製造することができる。
【0048】
本発明の(硫酸化)亜セレン酸化多糖類を含有する医薬組成物あるいは製剤は、哺乳動物(ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル等)に、経口又は非経口で投与することができる。
投与量は、年齢、体重、一般的健康状態、性別、食事、投与時間、投与方法、排泄速度、薬物の組合せ、患者のその時に治療を行っている病状の程度に応じ、それらあるいはその他の要因を考慮して決められる。本発明の(硫酸化)亜セレン酸化多糖類の1日の投与量は、患者の状態や体重、化合物の種類、投与経路等によって異なるが、例えば、経口的には0.01〜1000mg/kg体重/日であり、一日1〜数回に分けて投与され、また非経口的には約0.001〜100mg/kg体重/日を一日1〜数回に分けて投与するのが好ましい。
【実施例】
【0049】
以下、本発明について、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
FT−IRスペクトルは日本分光FTIR−620を用いてKBr法で測定した。UV−可視吸収スペクトルは、日本分光V−550 UV−VISを用いて測定した。
【0050】
参考例1:亜セレン酸化多糖類のセレン含量の測定法
実施例または比較例で合成した亜セレン酸化多糖類のセレン含量は下記の比色法で定量した。
試料0.1gを10mLの硝酸に30分浸漬して分解した。冷却後、0.5mLの過塩素酸を加え、10分加熱した。冷却後、10mLの水と5mLの塩酸を加え、10分間煮沸した(6価のSeが4価に変わる)。10%の水酸化ナトリウムで中和後、全量を100mLとした。この時、5%のEDTA(5mL)も添加した。この溶液の2mLを10mLの標準容器に入れ、2%ヨウ化カリ1mLと2Mの塩酸1mLを加えた。この溶液を撹拌すると、ヨウ素の遊離により黄色になる。ここに、0.05%のバリアミンブルー(Variamine Blue)0.5mLと1Mの酢酸ナトリウム2mLを加えた。水を加え、全量を10mLとした。546nmで吸光度を測定(JASCO V-550 UV/VIS)し、検量線からセレン含量(重量%)を求めた。
【0051】
参考例2:硫酸置換度の測定法
製造例で合成した硫酸化多糖類、および実施例または比較例で合成した硫酸化亜セレン酸化多糖類の硫酸置換度は、下記方法により測定した。
2〜4mgの硫酸化多糖を、最終的な硫酸イオン濃度が40〜90μg/0.2mLになるように、塩酸に溶解した。この溶液の0.5mLをガラス管に入れ、110℃で5時間加熱した。冷却後、この溶液の0.2mLを3.8mLの3%トリクロロ酢酸が入った10mLの容器に入れた。これに塩化バリウム・ゼラチン試薬1mLを加え、撹拌後、室温で15〜20分静置した。JASCO V−550 UV/VISを用い、360nmでの吸光度から硫黄含量(重量%)を測定した。(標準試薬:硫酸バリウム)
硫酸置換度(DS)は、硫黄含量(S)から下式により算出した。
【0052】
【数2】
【0053】
製造例1:完全置換硫酸化キシログルカン(置換度=2.6、XG)の合成
キシログルカン(1g)を150mLのN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に懸濁し、窒素雰囲気下、室温で14時間撹拌した。ピリジン・三酸化イオウ錯体(8g、キシログルカンの有効水酸基の15モル当量)を加え、反応混合物を40℃で10時間窒素雰囲気下に撹拌した。反応混合物に100mLの水を加えることにより反応を止め、反応溶液を飽和の酢酸ナトリウムを含む冷エタノール(3倍量)に投入して沈殿させ、その後遠心分離で沈殿を回収した。得られた沈殿を水に溶解させ、透析した後、凍結乾燥して、置換度2.6の硫酸化キシログルカン(1.9g)を得た。FT−IRスペクトルを図1(Fully Sulfated XGO)に、UV−可視吸収スペクトルを図2(Fully Sulfated XGO)にそれぞれ示す。
【0054】
製造例2または3
製造例1と同様にして、置換度3の硫酸化デキストランおよび置換度3の硫酸化キシランをそれぞれ調製した。
【0055】
製造例4:部分置換硫酸化デキストラン(置換度=2、DX)の合成
デキストラン(1g)を0.25M LiCl/DMSO(70mL)に浸漬させ、懸濁液を攪拌しながら30℃に一昼夜保った。その後、ピリジン(5.98mL、デキストランの有効水酸基の4モル当量)を加え、さらに30分間攪拌した。クロロスルホン酸(2.44mL、デキストランの有効水酸基の2モル当量)を反応混合物に攪拌下滴下し、次いで反応液を80℃で3時間加熱した。室温に冷却後、100mLの蒸留水を攪拌下、反応混合物に加え、1M水酸化ナトリウム水溶液でpHを10に調整した。得られた反応液を弱アルカリ水(pH9)で透析を行い、ピリジンを除去し、さらに蒸留水で5日間透析した後、凍結乾燥し、置換度約2の硫酸化デキストランを得た。FT−IRスペクトルを図3に示す。
【0056】
製造例5および6
製造例4と同様にして、置換度2.2の硫酸化デキストリンおよび置換度2.4の硫酸化マンナンをそれぞれ調製した。
【0057】
実施例1:亜セレン酸化κ―カラギーナンの製造
κ―カラギーナン(1g、天然物、硫酸含量12〜13重量%、硫酸置換度約0.9)の3%水溶液に、塩化バリウム(3.47g)、塩酸(0.5g)および亜セレン酸(4.03g、κ―カラギーナンの硫酸基に対して3モル当量)を加え、30℃で36時間反応させた。硫酸水溶液を徐々に反応混合物に室温で滴下してpH4〜6とし、硫酸バリウムを沈殿させた。硫酸バリウムを濾別し、上清液を酢酸ナトリウムでpH6.8に調整した。FeCl3(6.01g)水溶液を加え、析出した沈殿を濾別した。濾液にエタノールを滴下し、エタノール70%溶液とした。析出した沈殿を95%および100%エタノールで順次洗浄後乾燥して、セレン含量18重量%、硫酸置換度0の亜セレン酸化κ―カラギーナンを得た。
【0058】
実施例2:亜セレン酸化デキストランの製造
硫酸化デキストラン(3.22g、硫酸置換度2)の3%水溶液に、塩化バリウム(12.48g)、塩酸(0.5g)および亜セレン酸(7.74g、硫酸化デキストランの硫酸基に対して3モル当量)を加え、42℃で57時間反応させた。硫酸水溶液を徐々に反応混合物に室温で滴下してpH4〜6とし、硫酸バリウムを沈殿させた。硫酸バリウムを濾別し、上清液を酢酸ナトリウムでpH7に調整した。FeCl3(9.73g)水溶液を加え、析出した沈殿を濾別した。濾液にエタノールを滴下し、エタノール70%溶液とした。析出した沈殿を95%および100%エタノールで順次洗浄後、乾燥して、セレン含量30重量%、硫酸置換度0の亜セレン酸化デキストランを得た。
【0059】
実施例3:亜セレン酸化マンナンの製造
硫酸化マンナン(3.54g、硫酸置換度2.4)の4%水溶液に、塩化バリウム(15.12g)、塩酸(0.45g)および亜セレン酸(9.34g、硫酸化マンナンの硫酸基に対して3モル当量)を加え、52℃で20時間反応させた。硫酸水溶液を徐々に反応混合物に室温で滴下してpH4〜6とし、硫酸バリウムを沈殿させた。硫酸バリウムを濾別し、上清液を酢酸ナトリウムまたは水酸化ナトリウムでpH7に調整した。FeCl3(11.69g)水溶液を加え、析出した沈殿を濾別した。濾液にエタノールを滴下し、エタノール70%溶液とした。析出した沈殿を95%および100%エタノールで順次洗浄後、乾燥して、セレン含量35重量%、硫酸置換度0の亜セレン酸化マンナンを得た。
【0060】
実施例4:亜セレン酸化デキストリンの製造
硫酸化デキストリン(3.38g、硫酸置換度2.2)の5%水溶液に、塩化バリウム(13.72g)、塩酸(0.6g)および亜セレン酸(17.62g、硫酸化デキストリンの硫酸基に対して6モル当量)を加え、32℃で5時間反応させた。硫酸水溶液を徐々に反応混合物に室温で滴下してpH4〜6とし、硫酸バリウムを沈殿させた。硫酸バリウムを濾別し、上清液を酢酸ナトリウムまたは水酸化ナトリウムでpH7に調整した。FeCl3(19.46g)水溶液を加え、析出した沈殿を濾別した。濾液にエタノールを滴下し、エタノール70%溶液とした。析出した沈殿を95%および100%エタノールで順次洗浄後、乾燥して、セレン含量25重量%、硫酸置換度0の亜セレン酸化デキストリンを得た。FT−IRスペクトルを図4に示す。
【0061】
実施例5:亜セレン酸化デキストランの製造
硫酸化デキストラン(4.02g、硫酸置換度3)の3%水溶液に、塩化バリウム(37.44g)、塩酸(0.5g)および亜セレン酸(104.5g、硫酸化デキストランの硫酸基に対して9モル当量)を加え、42℃で98時間反応させた。硫酸水溶液を徐々に反応混合物に室温で滴下してpH4〜6とし、硫酸バリウムを沈殿させた。硫酸バリウムを濾別し、上清液を酢酸ナトリウムまたは水酸化ナトリウムでpH7に調整した。FeCl3(131.36g)水溶液を加え、析出した沈殿を濾別した。濾液にエタノールを滴下し、エタノール70%溶液とした。析出した沈殿を95%および100%エタノールで順次洗浄後、乾燥して、セレン含量45重量%、硫酸置換度0の亜セレン酸化デキストランを得た。FT−IRスペクトルを図5に示す。
【0062】
実施例6:亜セレン酸化キシランの製造
硫酸化キシラン(2.92g、硫酸置換度3)の1.5%水溶液に、塩化バリウム(33.28g)、塩酸(1g)および亜セレン酸(69.67g、硫酸化キシランの硫酸基に対して9モル当量)を加え、42℃で98時間反応させた。硫酸水溶液を徐々に反応混合物に室温で滴下してpH4〜6とし、硫酸バリウムを沈殿させた。硫酸バリウムを濾別し、上清液を酢酸ナトリウムまたは水酸化ナトリウムでpH7に調整した。FeCl3(88g)水溶液を加え、析出した沈殿を濾別した。濾液にエタノールを滴下し、エタノール70%溶液とした。析出した沈殿を95%および100%エタノールで順次洗浄後、乾燥して、セレン含量36重量%、硫酸置換度0の亜セレン酸化キシランを得た。
【0063】
実施例7:硫酸化亜セレン酸化キシログルカン(XG)の製造
硫酸化キシログルカン(3.7g、硫酸置換度2.6)の3%水溶液に、塩化バリウム(8.16g)、塩酸(0.7g)および亜セレン酸(91g、硫酸化キシログルカンの硫酸基に対して9モル当量)を加え、22℃で8時間反応させた。硫酸水溶液を徐々に反応混合物に室温で滴下してpH4〜6とし、硫酸バリウムを沈殿させた。硫酸バリウムを濾別し、上清液を酢酸ナトリウムまたは水酸化ナトリウムでpH7に調整した。FeCl3(114g)水溶液を加え、析出した沈殿を濾別した。濾液にエタノールを滴下し、エタノール70%溶液とした。析出した沈殿を95%および100%エタノールで順次洗浄後、乾燥して、セレン含量29重量%、硫黄含量16重量%(硫酸置換度1.35)の硫酸化亜セレン酸化キシログルカンを得た。FT−IRスペクトルを図6に示す。
【0064】
実施例1〜7と同様にして、下表に示される実施例8〜12、比較例1および2の(硫酸化)亜セレン酸化多糖を得た。表1に実施例および比較例の硫酸化亜セレン酸化多糖類のサマリーを示す。
【0065】
【表1】
【0066】
実施例8のFTIRスペクトルを図1(XGO Selenite)に、UV−可視吸収スペクトルを図2(XGO Selenite)に、キシログルカン(XGO)および製造例1の硫酸化キシログルカン(Fully Sulfated XGO)とともにそれぞれ示す。
【0067】
試験例1:抗酸化活性評価試験(OHラジカル消去活性評価試験)
子牛胸腺DNA(0.5mg/mL)、異なる濃度の硫酸化亜セレン酸化多糖、塩化マグネシウム(5 mM)およびFeCl3(50 mM)を含む反応混合物(0.5ml)を37〜8℃で1時間インキュベートした。陽性対照として安息香酸を使用した。0.05mlのEDTAの添加で反応を終了させた。0.5mlのバルビツール酸(TBA,1%,wyv)および0.5mlの塩酸(25%,w/w)を添加し、37〜8℃で15分間加熱し、発色させた。532nm波長の吸光度(A)を測定し、式(2)により、OHラジカル消去活性(SA)を算出し、DNA損傷を評価した。
【0068】
【数3】
【0069】
Apはサンプル有りのA、Asはサンプル無しのA、A0は非加熱時のA(ブランク時)を示す。A0がほぼ0であり、Apが限りなく0に近く、Asが1に近ければ、SAは100に近づく。Apが0.5で、Asが1であれば、SAは50%となる。したがって、SA値が大きいほどラジカル消去能力が高い。
各実施例の結果を表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
セレン含量10重量%の亜セレン酸化キシログルカンはラジカル消去活性を示さなかった。セレン含量40重量%の亜セレン酸化キシログルカンはラジカル消去活性を示した。また,セレン含量5重量%であっても、硫酸基を含む硫酸化亜セレン酸化キシログルカンはラジカル消去活性を示した。
【0072】
試験例2:抗酸化活性評価試験(DPPHラジカル消去活性評価試験)
0.1mMのDPPHエタノール・水(1:1)溶液を作った。各濃度の試料をエタノール・水(1:1)溶液3mLに溶解し、前記DPPH溶液1mLを加えた。よく撹拌後、30分間室温で静置した。524nmで吸光度を測定し、ラジカル消去活性(K%)を次式から求めた。
【0073】
【数4】
【0074】
As:DPPHと反応した試料の吸光度; Ai: DPPHと反応しないときの試料の吸光度;Ac: コントロールの吸光度
結果を図7に示す。実施例8の亜セレン酸化キシログルカン(XGO-Se)は製造例1の硫酸化キシログルカン(XGO-S)より優れたDPPHラジカル消去活性を示した。
【0075】
試験例3:抗酸化活性評価試験(フェントン反応で生成したOHラジカル消去活性評価試験)
o−フェナントロリン(0.75mM)、過酸化水素(2mM)および硫酸鉄(0.75mM)を溶解した20mMのリン酸緩衝液(pH7.4)に各濃度の試料を溶解し、37℃で1時間反応させた。反応後、536nmで吸光度を測定し、ヒドロキシラジカル消去活性(S%)を次式から求めた。
【0076】
【数5】
【0077】
As: 過酸化水素と反応した試料の吸光度;Ac:過酸化水素と反応しない試料の吸光度;Ao: 試料なしでの吸光度
結果を図8に示す。実施例8の亜セレン酸化キシログルカン(XGO-Se)は製造例1の硫酸化キシログルカン(XGO-S)より優れたOHラジカル消去活性を示した。
【0078】
試験例4:抗酸化活性評価試験(スーパーオキサイドアニオン消去活性評価試験)
16mMのトリス塩酸緩衝液(pH8.0)に各試料を25℃で20分浸した後、0.1mMのピロガロールを加え、直ちに510nmで吸光度を測定した。5分間、1分毎に吸光度測定を行った。スーパーオキシドアニオン消去活性(OD%)は、次式から計算した。
【0079】
【数6】
【0080】
As: ピロガロールと反応した試料の吸光度の変化;Ao: 試料なしでの吸光度の変化
結果を図9に示す。実施例8の亜セレン酸化キシログルカン(XGO-Se)は製造例1の硫酸化キシログルカン(XGO-S)より優れたスーパーオキサイドアニオンラジカル消去活性を示した。
【0081】
試験例5:抗酸化活性評価試験(過酸化脂質生成抑制活性評価試験)
たまご由来のビテロース(vitellose)を氷冷した20mMのリン酸緩衝液中でホモジナイズした。この1mLに試料を加え、5mMの硫酸鉄の存在下、37℃で1時間反応させた。酸を加えて反応を停止後、100℃で15分加熱した。沈殿したタンパク質を除去した後、532nmで吸光度を測定した。過酸化脂質生成抑制活性(K%)は次式から計算した。
【0082】
【数7】
【0083】
As: 試料の吸光度;Ac: コントロールの吸光度
結果を図10に示す。実施例8の亜セレン酸化キシログルカン(XGO-Se)は製造例1の硫酸化キシログルカン(XGO-S)より優れた過酸化脂質生成抑制活性を示した。
【0084】
試験例6:抗癌活性評価試験(MTTアッセイ)
HepG2細胞の懸濁液(15μL,1.85×105 cells/ml)を24ウェルプレートの各ウェルに播種し、24時間後実験を行った。細胞と試料を加え、24又は48時間培養した後、生存細胞をMTT(3-[4,5-dimethylthiazol-2-yl]-2,5-diphenytetrazolium)アッセイにより評価した。すなわち、10μlのMTTをウェルに加え、細胞を5%CO2雰囲気下、37℃のインキュベーターで4時間培養した。10%SDS(100μl)をウェルに加え、細胞を終夜培養した。ホルマザンの生成をマイクロプレート分光光度計(Spectra Max 190, 米国製)を用いて、570nmで測定した。
実施例10(6.21Y)、実施例11(6.28Y)および実施例12(Starch)の結果を図11に、キシログルカン(#1)、製造例1(#2)および比較例2(#3)の結果を図12に示した。
実施例11および12の硫酸化亜セレン酸化キシログルカンは0.01g/L以上で、実施例13の硫酸化亜セレン酸化デンプンは0.1g/L以上で抗癌作用を示した(図11)。
セレン含量17重量%で硫酸基を有さない硫酸化亜セレン酸化キシログルカンは抗癌活性を示さなかった(図12)。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】キシログルカン、硫酸化キシログルカン(製造例1)および亜セレン酸化キシログルカン(実施例8)のFT−IRスペクトルである。
【図2】キシログルカン、硫酸化キシログルカン(製造例1)および硫酸化亜セレン酸化キシログルカン(実施例10)のUV−可視吸収スペクトルである。
【図3】硫酸化デキストラン(製造例4)のFT−IRスペクトルである。
【図4】硫酸化亜セレン酸化デキストリン(実施例4)のFT−IRスペクトルである。
【図5】硫酸化亜セレン酸化デキストラン(実施例5)のFT−IRスペクトルである。
【図6】硫酸化亜セレン酸化キシログルカン(実施例7)のFT−IRスペクトルである。
【図7】DPPHラジカル消去活性評価試験の結果を示すグラフである(試験例2)。
【図8】フェントン反応で生成したOHラジカル消去活性評価試験の結果を示すグラフである(試験例3)。
【図9】スーパーオキサイドアニオン消去活性評価試験の結果を示すグラフである(試験例4)。
【図10】過酸化脂質生成抑制活性評価試験の結果を示すグラフである(試験例5)。
【図11】抗癌活性評価試験(MTTアッセイ)の結果を示すグラフである(試験例6)。
【図12】抗癌活性評価試験(MTTアッセイ)の結果を示すグラフである(試験例6)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜セレン酸化多糖類およびその製造方法、並びにその医薬用途に関する。
【背景技術】
【0002】
多糖類は、地球上で最初に造られた生体高分子であると提唱されている。多糖類は単糖モノマーで構成される生体高分子の一種である。商用および工業に利用されている多糖類は、陸上および海洋植物から単離され、または主にバクテリアの外因性代謝産物であり、その多くは部分有機合成で修飾され、またわずかのものは全生化学合成の産物である。多糖類は自然界において、強固な機械的構造の構築、即時に利用可能なエネルギーの貯蔵、生物学的認識および交信の特異性発現など、多数の重要な機能を有している。
【0003】
多糖類は、タンパクや核酸と並び、生体に重要な生体高分子の一種であり、抗感染、抗酸化、免疫促進、および免疫障害疾患(肝炎、リウマチ、AIDSなど)の治療に用いることができる。多糖類は、多様な機能や生物活性を有している。主鎖、分岐鎖および高次構造を含む多糖類の構造因子は、生物活性に影響を与える。多糖の活性は、糖単位と主鎖のグリコシド型の組合せによって直接的に決定される。多糖の活性は、分岐鎖のタイプ、重合度、分岐鎖の分布によって影響される。多糖の高次構造の糖鎖柔軟性および空間配置はその活性に関係している。多糖は修飾機能化されて、その活性が増強される。近年、当該分野における多くの研究で大きな進歩があった。多糖は、単糖の側鎖(ヒドロキシ、カルボキシル基、アミノ基など)で修飾機能化されている。修飾機能化には、硫酸化、エチロイル化、セレン化、メチル化、酸化、部分加水分解、リン酸化、二機能化など多くの方法が挙げられる。
【0004】
硫酸化多糖(多糖硫酸エステルまたは硫酸エステル多糖ともいう)は、単糖の水酸基が硫酸基で修飾されている。硫酸化多糖は抗ウィルス性多糖で最も研究されている。硫酸化多糖類としては、天然または半合成硫酸化多糖が挙げられ、その抗ウィルス、抗癌、抗AIDSなどの生物活性は非常に興味深い。
【0005】
セレン(Se)は、人体の必須微量元素であり、通常の酸素代謝で産生されるフリーラジカルの作用から細胞を守る抗酸化酵素の重要なパーツである。生体は、細胞を障害し、幾つかの慢性疾患の進展に寄与するフリーラジカルのレベルを制御するため、抗酸化剤のような防御機構を発達させてきた。セレン生化学の興味深い一面は、その極めて強い効能にある。亜セレン酸またはセレノメチオニンの形態のセレンは、動物食餌中〜0.1ppmレベルの必須微量栄養素として機能するが、しかし8から10ppmのレベルでは毒となる。
このような背景の下、セレンを含む修飾基で修飾された多糖類は様々な生理活性が予想され、医薬品のターゲットとして興味深い。
【0006】
亜セレン酸化多糖は、硫酸化多糖の硫黄がセレンで置換された半有機合成セレン化合物であり、中国で最初に合成された(特許文献1参照)。当該研究において、亜セレン酸によってエステル化された多糖が抗酸化酵素活性の増強、フリーラジカルからの細胞の保護、免疫機能の増強作用を有することが発見された。また、その報告はセレン化合物の抗発癌活性も開示している。
【0007】
特許文献1は、三種の新規海洋医薬およびその製造方法を開示している。当該発明には、明らかに腎不全、血管障害、癌の治療効果を有する亜セレン酸化渇藻多糖、セレン化キチン、セレン化紅藻多糖の三種のセレン化多糖化合物が挙げられている。当該発明の生成物は、低毒性または無毒性であり、抗ウィルス、抗HIV、抗癌、人体免疫増強作用を有しており、特に、セレン化紅藻多糖は、リンパ球分裂促進やヘルペスウィルスの複製抑制作用をも明らかに有している。しかし、この方法によるセレン化多糖のセレン含量はせいぜい約12.5mg/g(1.25%wt)である。
【0008】
特許文献2および3は、セレン化多糖の製造方法を開示している。この方法は、発酵によってセレン富化酵母を調製し、セレン化多糖が酵母溶液から分離、アルカリによって精製されている。セレン化多糖溶液は濃縮され、エタノールで沈殿されている。この方法は、多くの面倒な工程を要し、そのセレン含量は非常に低い。
【特許文献1】中国公開特許公報第1288899号公報
【特許文献2】特開昭54−074098号公報
【特許文献3】特開平4−40888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、新規医薬品となりうる(硫酸化)亜セレン酸化多糖類、およびその製法、並びにその医薬用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、亜セレン酸化多糖類の効能の向上を図るため、セレン含量が高い亜セレン酸化多糖類の製造方法を検討した。その結果、亜セレン酸化の原料である硫酸化多糖の硫酸化度が高いものを用いることにより、従来技術に比べはるかに高いセレン含量を有する亜セレン酸化多糖類が得られることを見出した。
また、硫酸化多糖の硫酸化度や亜セレン酸化反応の条件を調整することにより、さらに硫酸基を含む硫酸化亜セレン酸化多糖類や、様々なセレン含量を有する(硫酸化)亜セレン酸化多糖類を得た。
このように得られた(硫酸化)亜セレン酸化多糖類について、生物活性を検討した結果、優れた抗酸化作用および抗癌活性を有することを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下の[1]〜[12]を提供する;
[1]セレン含量が18重量%以上であることを特徴とする、亜セレン酸化多糖類またはその塩;
[2]硫酸基をさらに含む、上記[1]記載の亜セレン酸化多糖類またはその塩。
[3]硫酸基を含むことを特徴とする、亜セレン酸化多糖類またはその塩。
[4]硫酸置換度が2以上である硫酸化多糖類またはその塩を、バリウム塩または酸の存在下、亜セレン酸またはその塩と反応させる工程を含むことを特徴とする、セレン含量が18重量%以上である亜セレン酸化多糖類またはその塩の製造方法;
[5]硫酸置換度が2以上である硫酸化多糖類またはその塩が、多糖類を硫酸化剤と反応させることにより製造されたものである、上記[4]記載の方法;
[6]硫酸化剤がピリジン・三酸化硫黄錯体またはクロロスルホン酸である、上記[5]記載の方法;
[7]硫酸基を含む亜セレン酸化多糖類またはその塩を製造する、上記[4]〜[6]のいずれかに記載の製造方法;
[8]上記[1]〜[3]のいずれかに記載の亜セレン酸化多糖類またはその塩を含む、医薬組成物;
[9]上記[1]〜[3]のいずれかに記載の亜セレン酸化多糖類またはその塩を含む、抗酸化剤;
[10]亜セレン酸化多糖類またはその塩を含む、抗酸化剤;
[11]亜セレン酸化多糖類がさらに硫酸基を含む、上記[10]記載の抗酸化剤;および
[12]上記[1]〜[3]のいずれかに記載の亜セレン酸化多糖類またはその塩を含む、抗がん剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、従来技術よりもセレン含量が高い(最高45重量%の)亜セレン酸化多糖類が提供される。さらに、硫酸基を有する硫酸化亜セレン酸化多糖類も提供される。かかる(硫酸化)亜セレン酸化多糖類は、医薬、特に抗酸化剤、抗癌剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
1.亜セレン酸化多糖類の説明
本発明において「亜セレン酸化多糖類」とは、多糖を構成する単糖単位においてグリコシド結合に関与していない官能基(例えば、水酸基、アミノ基など)の一部または全部が亜セレン酸とエステル結合、アミド結合などを形成しているものを意味する。
【0013】
亜セレン酸化多糖類において、亜セレン酸化の対象となる「多糖類」は、当該技術分野で公知のものを特に限定なく使用することができ、また、新規なものであってもよく、天然物でも合成品でもよい。
当該多糖類の構成成分である単糖は、当該技術分野で公知のものを特に限定なく採用することができ、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、タロース、イドース、アルトロース、アロース、グロース、キシロース、アラビノース、ラムロース、フコース、フラクトース、リボース、デオキシリボース、グルコサミン、ガラクトサミン、グルクロン酸などが挙げられ、グルコース、ガラクトース、キシロース、フコースなどが好ましい。
多糖類は、これら単糖の一種類のみで構成されるものでもよいし、2種以上が組み合わさって構成されるものでもよく、2種以上の場合の配列も特に限定されない。また、多糖類は枝分かれした態様であってもよい。また、多糖には至らない単糖も本発明の多糖類に包含される。
多糖類を構成するグリコシド結合様式も特に限定なく、α1→2結合、β1→2結合、α1→3結合、β1→3結合、α1→4結合、β1→4結合、α1→5結合、β1→5結合、α1→6結合、β1→6結合など、またはその組合せが挙げられる。
【0014】
多糖類(亜セレン酸化されていないもの)の重量平均分子量は特に限定されないが、多糖類水酸基の活性の理由により、好ましい重量平均分子量は500〜107であり、より好ましくは700〜104程度である。高分子量の多糖を、部分加水分解、酵素処理などにより、分子量を適宜調整してもよい。多糖類の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定することができる。
【0015】
多糖類の具体例としては、グルカン、変性又は未変性のデンプン、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、デキストリン、デキストラン、セルロース及びその誘導体(例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなど)、マンナン、キシラン、リグニン、アラバン、ガラクタン、ガラクツロナン、キチン、キトサン、グルクロノキシラン、アラビノキシラン、キシログルカン、グルコマンナン、ペクチン酸及びペクチン、アルギン酸及びアルギナート、アラビノガラクタン、カラゲナン、寒天、グリコサミノグルカン、アラビアガム、トラガカントガム、ガッチガム、カラヤガム、キャロブガム、ガラクトマンナン、グアーガム、キサンタンガム、κ―カラギーナンなどが挙げられ、κ―カラギーナン、未変性デンプン、デキストラン、デキシトリン、セルロース、マンナン、キシログルカン、キシランなどが好ましい。
【0016】
本発明の亜セレン酸化多糖類は、セレン含量が18重量%以上であることを特徴とする。
本発明の亜セレン酸化多糖類のセレン含量は18重量%以上であれば特に限定されないが、好ましくは37.5重量%以上である。セレン含量の上限は、多糖類の官能基がすべて亜セレン酸化された場合であり、採用する多糖類の種類により異なる。例えば、デンプンの水酸基を全て亜セレン酸化した場合は、約45重量%となる。
【0017】
本発明において「セレン含量」とは、亜セレン酸化多糖類全体の重量に対する元素としてのセレンの重量を百分率で表わしたものであり、重量%で表記される。
「セレン含量」は後掲の参考例1に記載の方法により測定される。
【0018】
本発明において「置換度」とは、多糖類の一単糖当りの修飾された官能基の平均数を意味し、例えば、デンプンの全ての水酸基が修飾された場合は、置換度は3となる。
亜セレン酸化多糖類における亜セレン酸置換度(DS)は、上記セレン含量(Se)から下式により算出することができる。
【0019】
【数1】
【0020】
本発明の亜セレン酸化多糖類において亜セレン酸化されていない官能基は、亜セレン酸以外で修飾されていてもよい。かかる修飾としては、硫酸化、リン酸化、アルキル化(例えば、メチル化、エチル化)、アシル化(例えば、アセチル化)などが挙げられ、硫酸化が好ましい。
【0021】
本発明の亜セレン酸化多糖類において硫酸基をさらに含む「硫酸化亜セレン酸化多糖類」は、そのセレン含量が18重量%未満のものを含めて新規化合物であり、医薬(抗酸化剤、抗癌剤)として有用である。硫酸化亜セレン酸化多糖類における硫酸化の置換度は、後述の製造方法において説明する原料の硫酸化多糖類の硫酸置換度や亜セレン酸化の条件で調整することができる。
【0022】
本発明の(硫酸化)亜セレン酸化多糖類の重量平均分子量は、亜セレン酸化されていない上記多糖類の重量平均分子量から亜セレン酸化、硫酸化の置換度を考慮して算出することができる。
【0023】
本発明の(硫酸化)亜セレン酸化多糖類の好ましい態様は、下記式で表されるピラノース単位および/またはフラノース単位の1種または2種以上を有する。
【0024】
【化1】
【0025】
(上記式中、R1、R1’、R2、R3、R3’、R4、R4’、R6およびR6’は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、硫酸オキシ、亜セレン酸オキシまたはグリコシド結合を示し、R2’は水素原子、メチル、ヒドロキシメチル、亜セレン酸オキシ、亜セレン酸オキシメチルまたはメチレングリコシド結合を示す。但し、一単糖当り、少なくとも平均で0.8個の亜セレン酸オキシを有する。)
【0026】
本発明の(硫酸化)亜セレン酸化多糖類は、塩の形態であってもよい。かかる塩としては、亜セレン酸基、硫酸基などと塩基との塩が挙げられる。具体的には、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩、アンモニウム塩などの無機塩基塩;トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、2,6−ルチジン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N’−ジベンジルエチレンジアミンなどとの有機塩基塩が挙げられ、フリー体から常法により調製することができる。
【0027】
2.亜セレン酸化多糖類の製造方法の説明
本発明の(硫酸化)亜セレン酸化多糖類は、硫酸化多糖類またはその塩を、溶媒中、バリウム塩または酸の存在下、亜セレン酸またはその塩と反応させることにより製造することができる。
硫酸化多糖類とは、多糖を構成する単糖単位においてグリコシド結合に関与していない官能基(例えば、水酸基、アミノ基など)の一部または全部が硫酸とエステル結合、アミド結合などを形成しているものを意味する。硫酸化多糖類の塩としては、(硫酸化)亜セレン酸化多糖類の塩と同様のものが挙げられる。
【0028】
(硫酸化)亜セレン酸化多糖類のセレン含量を18重量%以上とするためには、原料の硫酸化多糖類の硫酸置換度を2以上とするのが好ましい。硫酸置換度が2より少ない場合であってもセレン含量18重量%の(硫酸化)亜セレン酸化多糖類を製造できる場合もあるが、硫酸置換度を2以上とすることにより確実にセレン含量を18重量%以上とすることができる。好ましい硫酸置換度は3である。硫酸置換度の上限は、官能基が全て硫酸化された場合であり、例えばデンプンの場合では3である。
【0029】
硫酸置換度は、後掲の参考例2に記載の方法により測定される。
【0030】
亜セレン酸の塩としては、亜セレン酸ナトリウム、亜セレン酸カリウム、亜セレン酸水素ナトリウム、二酸化セレン、塩化セレニニルなどが挙げられる。
亜セレン酸またはその塩の使用量を調整することにより、目的とする(硫酸化)亜セレン酸化多糖類のセレン含量や硫酸基の有無およびその置換度を調整することができる。亜セレン酸またはその塩の使用量は、目的とするセレン含量、硫酸基の置換度、多糖類の種類などを考慮して、原料の硫酸化多糖類に存在する硫酸基のモル数を基準にして0.1〜10倍モルの範囲から適宜決定すればよい。
なお、セレン含量を18重量%以上とするためには、例えば硫酸置換度2以上の硫酸化多糖類を原料として用いた場合、亜セレン酸またはその塩の使用量は、硫酸基のモル数に対して、等モル以上が必要であり、2.5倍モル以上が好ましい。
【0031】
バリウム塩としては、塩化バリウム、炭酸バリウム、硝酸バリウムなどの水溶性バリウム塩の少なくとも一種が挙げられ、塩化バリウムが好ましい。バリウム塩の使用量は、硫酸基のモル数に対して0.1〜10倍モルの範囲から適宜決定すればよい。
【0032】
酸としては、硝酸および/または塩酸が好ましく、その使用量は、反応液中の濃度が0.1〜5%(w/V)となる範囲から適宜決定すればよい。
【0033】
溶媒としては水が使用され、その使用量は、使用する全試薬の濃度が0.2〜20%(w/V)となる範囲から適宜決定すればよい。
【0034】
反応温度は10℃〜100℃、反応時間は用いられる試薬や反応温度にも依存するが、通常1時間〜100時間の範囲からそれぞれ選択される。
【0035】
反応終了後、反応液を室温に戻し、好ましくは以下の操作により、(硫酸化)亜セレン酸化多糖類を単離することが出来る。
(1)バリウムイオンの除去
反応溶液に硫酸水溶液を室温下徐々に適下して硫酸バリウムを沈殿させ、濾別する。
(2)過剰の亜セレン酸イオンの除去
(1)で得られた溶液をpH3〜12に調整し、塩化鉄水溶液を攪拌しながら加える。終夜反応後、沈殿物を濾別する。
(3)(硫酸化)亜セレン酸化多糖類の単離
(2)で得られた溶液を15%酢酸ナトリウム水溶液でpH3〜9に調整し、エタノールをエタノール濃度が70%以上になるまで滴下する。沈殿物を濾集し、95%および100%エタノールで洗浄、乾燥し、(硫酸化)亜セレン酸化多糖類を得る。
【0036】
3.硫酸化多糖類およびその製造方法の説明
上記(硫酸化)亜セレン酸化多糖類の製造方法の原料である硫酸化多糖類は、当該技術分野で公知のものを特に限定なく使用することができ、また新規なものであってもよく、天然物でも合成品でもよい。
【0037】
但し、置換度2以上の硫酸化多糖類は、好ましくは、多糖類を硫酸化剤と反応させることにより製造される。以下、完全置換と部分置換の場合に分けて説明する。
3−1.完全置換の硫酸化多糖類の製造
全ての官能基が硫酸化されている硫酸化多糖類は、溶媒中、多糖類を三酸化硫黄・ピリジン錯体と反応させることにより得られる。
【0038】
三酸化硫黄・ピリジン錯体の使用量は、多糖類の水酸基に対して1〜15倍モルの範囲から適宜決定すればよく、3〜6倍モルが好ましい。三酸化硫黄・ピリジン錯体の使用量がこの範囲より少ない場合は、硫酸化されない水酸基が残留する場合がある。
【0039】
溶媒としては、反応を阻害しないかぎり制限はなく、N,N−ジメチルホルムアミド、ピリジン、N−メチルモルホリンなどの一種以上が挙げられ、N,N−ジメチルホルムアミドが好ましい。溶媒の使用量は、使用する全試薬の濃度が0.1〜30%(w/V)となる範囲から適宜決定すればよい。
【0040】
反応温度は30℃〜115℃、反応時間は用いられる試薬や反応温度にも依存するが、通常0.5時間〜24時間の範囲からそれぞれ選択される。
【0041】
反応終了後、硫酸化多糖類はピリジン塩として混合物中に存在する。水を加えることにより反応を止め、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウムなどを含むエタノール(3倍量v/v以上)を加えることにより、遊離の硫酸化多糖類を沈殿として単離することができる。単離された硫酸化多糖類は必要により、透析、凍結乾燥などを行うことにより精製することができる。
3−2.部分置換の硫酸化多糖類の製造
官能基の一部が硫酸化されている硫酸化多糖類は、溶媒中、塩基の存在下、多糖類をクロロスルホン酸と反応させることにより得られる。
【0042】
クロロスルホン酸の使用量は、目的とする硫酸化多糖類の硫酸基置換度、多糖類の種類などを考慮して、原料の多糖類の水酸基のモル数を基準にして0.0001〜3倍モルの範囲から適宜決定すればよい。
硫酸置換度を2以上とするためには、クロロスルホン酸の使用量は、多糖類の水酸基のモル数に対して、2倍モル以上が必要であり、5倍モル以上が好ましい。クロロスルホン酸の使用量がこの範囲より少ない場合は、硫酸置換度が2未満となる場合がある。
【0043】
溶媒としては、反応を阻害しないかぎり制限はなく、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、ピリジン、N−メチルモルホリンなどの一種以上が挙げられ、ジメチルスルホキシドが好ましい。多糖の溶解のために溶媒中には塩化リチウム、フッ化テトラブチルアンモニウムなどの塩が好ましく溶解される。当該塩の濃度は、0.01〜5Mの範囲から適宜選択される。溶媒の使用量は、使用する全試薬の濃度が0.1〜1%(w/V)となる範囲から適宜決定すればよい。
【0044】
反応温度は20℃〜105℃、反応時間は用いられる試薬や反応温度にも依存するが、通常0.5時間〜24時間の範囲からそれぞれ選択される。
【0045】
反応終了後、硫酸化多糖類は使用される塩基との塩として混合物中に存在する。水を加えることにより反応を止め、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの塩基を含む水溶液を加え、pH8〜11に調整することにより、遊離の硫酸化多糖類とすることができる。硫酸化多糖類は透析、凍結乾燥などを行うことにより単離、精製することができる。
【0046】
本発明の(硫酸化)亜セレン酸化多糖類は、優れた抗酸化作用およびそれに基づくDNA保護作用を有し、DNA損傷抑制剤として有用である。
また、本発明の(硫酸化)亜セレン酸化多糖類は、優れた抗癌活性を有し、肝臓癌、胃癌、腺癌、黒色腫、リンパ腫、肉腫、肺癌、乳癌、卵巣癌、頭部癌、頸部癌、前立腺癌、子宮頸癌、子宮体癌、直腸結腸癌、卵管癌、食道癌、小腸癌、膵臓癌、腎臓癌、副腎癌、膣癌、外陰癌、脳腫瘍、精巣癌などの治療に有用である。
【0047】
本発明の(硫酸化)亜セレン酸化多糖類またはその塩を医薬として用いる場合、製薬上許容しうる担体(例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤等)と混合して得られる医薬組成物あるいは製剤(例えば、錠剤、液剤等)の形態とすることができる。当該医薬組成物あるいは製剤は、製剤分野における通常の方法に従って製造することができる。
【0048】
本発明の(硫酸化)亜セレン酸化多糖類を含有する医薬組成物あるいは製剤は、哺乳動物(ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル等)に、経口又は非経口で投与することができる。
投与量は、年齢、体重、一般的健康状態、性別、食事、投与時間、投与方法、排泄速度、薬物の組合せ、患者のその時に治療を行っている病状の程度に応じ、それらあるいはその他の要因を考慮して決められる。本発明の(硫酸化)亜セレン酸化多糖類の1日の投与量は、患者の状態や体重、化合物の種類、投与経路等によって異なるが、例えば、経口的には0.01〜1000mg/kg体重/日であり、一日1〜数回に分けて投与され、また非経口的には約0.001〜100mg/kg体重/日を一日1〜数回に分けて投与するのが好ましい。
【実施例】
【0049】
以下、本発明について、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
FT−IRスペクトルは日本分光FTIR−620を用いてKBr法で測定した。UV−可視吸収スペクトルは、日本分光V−550 UV−VISを用いて測定した。
【0050】
参考例1:亜セレン酸化多糖類のセレン含量の測定法
実施例または比較例で合成した亜セレン酸化多糖類のセレン含量は下記の比色法で定量した。
試料0.1gを10mLの硝酸に30分浸漬して分解した。冷却後、0.5mLの過塩素酸を加え、10分加熱した。冷却後、10mLの水と5mLの塩酸を加え、10分間煮沸した(6価のSeが4価に変わる)。10%の水酸化ナトリウムで中和後、全量を100mLとした。この時、5%のEDTA(5mL)も添加した。この溶液の2mLを10mLの標準容器に入れ、2%ヨウ化カリ1mLと2Mの塩酸1mLを加えた。この溶液を撹拌すると、ヨウ素の遊離により黄色になる。ここに、0.05%のバリアミンブルー(Variamine Blue)0.5mLと1Mの酢酸ナトリウム2mLを加えた。水を加え、全量を10mLとした。546nmで吸光度を測定(JASCO V-550 UV/VIS)し、検量線からセレン含量(重量%)を求めた。
【0051】
参考例2:硫酸置換度の測定法
製造例で合成した硫酸化多糖類、および実施例または比較例で合成した硫酸化亜セレン酸化多糖類の硫酸置換度は、下記方法により測定した。
2〜4mgの硫酸化多糖を、最終的な硫酸イオン濃度が40〜90μg/0.2mLになるように、塩酸に溶解した。この溶液の0.5mLをガラス管に入れ、110℃で5時間加熱した。冷却後、この溶液の0.2mLを3.8mLの3%トリクロロ酢酸が入った10mLの容器に入れた。これに塩化バリウム・ゼラチン試薬1mLを加え、撹拌後、室温で15〜20分静置した。JASCO V−550 UV/VISを用い、360nmでの吸光度から硫黄含量(重量%)を測定した。(標準試薬:硫酸バリウム)
硫酸置換度(DS)は、硫黄含量(S)から下式により算出した。
【0052】
【数2】
【0053】
製造例1:完全置換硫酸化キシログルカン(置換度=2.6、XG)の合成
キシログルカン(1g)を150mLのN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に懸濁し、窒素雰囲気下、室温で14時間撹拌した。ピリジン・三酸化イオウ錯体(8g、キシログルカンの有効水酸基の15モル当量)を加え、反応混合物を40℃で10時間窒素雰囲気下に撹拌した。反応混合物に100mLの水を加えることにより反応を止め、反応溶液を飽和の酢酸ナトリウムを含む冷エタノール(3倍量)に投入して沈殿させ、その後遠心分離で沈殿を回収した。得られた沈殿を水に溶解させ、透析した後、凍結乾燥して、置換度2.6の硫酸化キシログルカン(1.9g)を得た。FT−IRスペクトルを図1(Fully Sulfated XGO)に、UV−可視吸収スペクトルを図2(Fully Sulfated XGO)にそれぞれ示す。
【0054】
製造例2または3
製造例1と同様にして、置換度3の硫酸化デキストランおよび置換度3の硫酸化キシランをそれぞれ調製した。
【0055】
製造例4:部分置換硫酸化デキストラン(置換度=2、DX)の合成
デキストラン(1g)を0.25M LiCl/DMSO(70mL)に浸漬させ、懸濁液を攪拌しながら30℃に一昼夜保った。その後、ピリジン(5.98mL、デキストランの有効水酸基の4モル当量)を加え、さらに30分間攪拌した。クロロスルホン酸(2.44mL、デキストランの有効水酸基の2モル当量)を反応混合物に攪拌下滴下し、次いで反応液を80℃で3時間加熱した。室温に冷却後、100mLの蒸留水を攪拌下、反応混合物に加え、1M水酸化ナトリウム水溶液でpHを10に調整した。得られた反応液を弱アルカリ水(pH9)で透析を行い、ピリジンを除去し、さらに蒸留水で5日間透析した後、凍結乾燥し、置換度約2の硫酸化デキストランを得た。FT−IRスペクトルを図3に示す。
【0056】
製造例5および6
製造例4と同様にして、置換度2.2の硫酸化デキストリンおよび置換度2.4の硫酸化マンナンをそれぞれ調製した。
【0057】
実施例1:亜セレン酸化κ―カラギーナンの製造
κ―カラギーナン(1g、天然物、硫酸含量12〜13重量%、硫酸置換度約0.9)の3%水溶液に、塩化バリウム(3.47g)、塩酸(0.5g)および亜セレン酸(4.03g、κ―カラギーナンの硫酸基に対して3モル当量)を加え、30℃で36時間反応させた。硫酸水溶液を徐々に反応混合物に室温で滴下してpH4〜6とし、硫酸バリウムを沈殿させた。硫酸バリウムを濾別し、上清液を酢酸ナトリウムでpH6.8に調整した。FeCl3(6.01g)水溶液を加え、析出した沈殿を濾別した。濾液にエタノールを滴下し、エタノール70%溶液とした。析出した沈殿を95%および100%エタノールで順次洗浄後乾燥して、セレン含量18重量%、硫酸置換度0の亜セレン酸化κ―カラギーナンを得た。
【0058】
実施例2:亜セレン酸化デキストランの製造
硫酸化デキストラン(3.22g、硫酸置換度2)の3%水溶液に、塩化バリウム(12.48g)、塩酸(0.5g)および亜セレン酸(7.74g、硫酸化デキストランの硫酸基に対して3モル当量)を加え、42℃で57時間反応させた。硫酸水溶液を徐々に反応混合物に室温で滴下してpH4〜6とし、硫酸バリウムを沈殿させた。硫酸バリウムを濾別し、上清液を酢酸ナトリウムでpH7に調整した。FeCl3(9.73g)水溶液を加え、析出した沈殿を濾別した。濾液にエタノールを滴下し、エタノール70%溶液とした。析出した沈殿を95%および100%エタノールで順次洗浄後、乾燥して、セレン含量30重量%、硫酸置換度0の亜セレン酸化デキストランを得た。
【0059】
実施例3:亜セレン酸化マンナンの製造
硫酸化マンナン(3.54g、硫酸置換度2.4)の4%水溶液に、塩化バリウム(15.12g)、塩酸(0.45g)および亜セレン酸(9.34g、硫酸化マンナンの硫酸基に対して3モル当量)を加え、52℃で20時間反応させた。硫酸水溶液を徐々に反応混合物に室温で滴下してpH4〜6とし、硫酸バリウムを沈殿させた。硫酸バリウムを濾別し、上清液を酢酸ナトリウムまたは水酸化ナトリウムでpH7に調整した。FeCl3(11.69g)水溶液を加え、析出した沈殿を濾別した。濾液にエタノールを滴下し、エタノール70%溶液とした。析出した沈殿を95%および100%エタノールで順次洗浄後、乾燥して、セレン含量35重量%、硫酸置換度0の亜セレン酸化マンナンを得た。
【0060】
実施例4:亜セレン酸化デキストリンの製造
硫酸化デキストリン(3.38g、硫酸置換度2.2)の5%水溶液に、塩化バリウム(13.72g)、塩酸(0.6g)および亜セレン酸(17.62g、硫酸化デキストリンの硫酸基に対して6モル当量)を加え、32℃で5時間反応させた。硫酸水溶液を徐々に反応混合物に室温で滴下してpH4〜6とし、硫酸バリウムを沈殿させた。硫酸バリウムを濾別し、上清液を酢酸ナトリウムまたは水酸化ナトリウムでpH7に調整した。FeCl3(19.46g)水溶液を加え、析出した沈殿を濾別した。濾液にエタノールを滴下し、エタノール70%溶液とした。析出した沈殿を95%および100%エタノールで順次洗浄後、乾燥して、セレン含量25重量%、硫酸置換度0の亜セレン酸化デキストリンを得た。FT−IRスペクトルを図4に示す。
【0061】
実施例5:亜セレン酸化デキストランの製造
硫酸化デキストラン(4.02g、硫酸置換度3)の3%水溶液に、塩化バリウム(37.44g)、塩酸(0.5g)および亜セレン酸(104.5g、硫酸化デキストランの硫酸基に対して9モル当量)を加え、42℃で98時間反応させた。硫酸水溶液を徐々に反応混合物に室温で滴下してpH4〜6とし、硫酸バリウムを沈殿させた。硫酸バリウムを濾別し、上清液を酢酸ナトリウムまたは水酸化ナトリウムでpH7に調整した。FeCl3(131.36g)水溶液を加え、析出した沈殿を濾別した。濾液にエタノールを滴下し、エタノール70%溶液とした。析出した沈殿を95%および100%エタノールで順次洗浄後、乾燥して、セレン含量45重量%、硫酸置換度0の亜セレン酸化デキストランを得た。FT−IRスペクトルを図5に示す。
【0062】
実施例6:亜セレン酸化キシランの製造
硫酸化キシラン(2.92g、硫酸置換度3)の1.5%水溶液に、塩化バリウム(33.28g)、塩酸(1g)および亜セレン酸(69.67g、硫酸化キシランの硫酸基に対して9モル当量)を加え、42℃で98時間反応させた。硫酸水溶液を徐々に反応混合物に室温で滴下してpH4〜6とし、硫酸バリウムを沈殿させた。硫酸バリウムを濾別し、上清液を酢酸ナトリウムまたは水酸化ナトリウムでpH7に調整した。FeCl3(88g)水溶液を加え、析出した沈殿を濾別した。濾液にエタノールを滴下し、エタノール70%溶液とした。析出した沈殿を95%および100%エタノールで順次洗浄後、乾燥して、セレン含量36重量%、硫酸置換度0の亜セレン酸化キシランを得た。
【0063】
実施例7:硫酸化亜セレン酸化キシログルカン(XG)の製造
硫酸化キシログルカン(3.7g、硫酸置換度2.6)の3%水溶液に、塩化バリウム(8.16g)、塩酸(0.7g)および亜セレン酸(91g、硫酸化キシログルカンの硫酸基に対して9モル当量)を加え、22℃で8時間反応させた。硫酸水溶液を徐々に反応混合物に室温で滴下してpH4〜6とし、硫酸バリウムを沈殿させた。硫酸バリウムを濾別し、上清液を酢酸ナトリウムまたは水酸化ナトリウムでpH7に調整した。FeCl3(114g)水溶液を加え、析出した沈殿を濾別した。濾液にエタノールを滴下し、エタノール70%溶液とした。析出した沈殿を95%および100%エタノールで順次洗浄後、乾燥して、セレン含量29重量%、硫黄含量16重量%(硫酸置換度1.35)の硫酸化亜セレン酸化キシログルカンを得た。FT−IRスペクトルを図6に示す。
【0064】
実施例1〜7と同様にして、下表に示される実施例8〜12、比較例1および2の(硫酸化)亜セレン酸化多糖を得た。表1に実施例および比較例の硫酸化亜セレン酸化多糖類のサマリーを示す。
【0065】
【表1】
【0066】
実施例8のFTIRスペクトルを図1(XGO Selenite)に、UV−可視吸収スペクトルを図2(XGO Selenite)に、キシログルカン(XGO)および製造例1の硫酸化キシログルカン(Fully Sulfated XGO)とともにそれぞれ示す。
【0067】
試験例1:抗酸化活性評価試験(OHラジカル消去活性評価試験)
子牛胸腺DNA(0.5mg/mL)、異なる濃度の硫酸化亜セレン酸化多糖、塩化マグネシウム(5 mM)およびFeCl3(50 mM)を含む反応混合物(0.5ml)を37〜8℃で1時間インキュベートした。陽性対照として安息香酸を使用した。0.05mlのEDTAの添加で反応を終了させた。0.5mlのバルビツール酸(TBA,1%,wyv)および0.5mlの塩酸(25%,w/w)を添加し、37〜8℃で15分間加熱し、発色させた。532nm波長の吸光度(A)を測定し、式(2)により、OHラジカル消去活性(SA)を算出し、DNA損傷を評価した。
【0068】
【数3】
【0069】
Apはサンプル有りのA、Asはサンプル無しのA、A0は非加熱時のA(ブランク時)を示す。A0がほぼ0であり、Apが限りなく0に近く、Asが1に近ければ、SAは100に近づく。Apが0.5で、Asが1であれば、SAは50%となる。したがって、SA値が大きいほどラジカル消去能力が高い。
各実施例の結果を表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
セレン含量10重量%の亜セレン酸化キシログルカンはラジカル消去活性を示さなかった。セレン含量40重量%の亜セレン酸化キシログルカンはラジカル消去活性を示した。また,セレン含量5重量%であっても、硫酸基を含む硫酸化亜セレン酸化キシログルカンはラジカル消去活性を示した。
【0072】
試験例2:抗酸化活性評価試験(DPPHラジカル消去活性評価試験)
0.1mMのDPPHエタノール・水(1:1)溶液を作った。各濃度の試料をエタノール・水(1:1)溶液3mLに溶解し、前記DPPH溶液1mLを加えた。よく撹拌後、30分間室温で静置した。524nmで吸光度を測定し、ラジカル消去活性(K%)を次式から求めた。
【0073】
【数4】
【0074】
As:DPPHと反応した試料の吸光度; Ai: DPPHと反応しないときの試料の吸光度;Ac: コントロールの吸光度
結果を図7に示す。実施例8の亜セレン酸化キシログルカン(XGO-Se)は製造例1の硫酸化キシログルカン(XGO-S)より優れたDPPHラジカル消去活性を示した。
【0075】
試験例3:抗酸化活性評価試験(フェントン反応で生成したOHラジカル消去活性評価試験)
o−フェナントロリン(0.75mM)、過酸化水素(2mM)および硫酸鉄(0.75mM)を溶解した20mMのリン酸緩衝液(pH7.4)に各濃度の試料を溶解し、37℃で1時間反応させた。反応後、536nmで吸光度を測定し、ヒドロキシラジカル消去活性(S%)を次式から求めた。
【0076】
【数5】
【0077】
As: 過酸化水素と反応した試料の吸光度;Ac:過酸化水素と反応しない試料の吸光度;Ao: 試料なしでの吸光度
結果を図8に示す。実施例8の亜セレン酸化キシログルカン(XGO-Se)は製造例1の硫酸化キシログルカン(XGO-S)より優れたOHラジカル消去活性を示した。
【0078】
試験例4:抗酸化活性評価試験(スーパーオキサイドアニオン消去活性評価試験)
16mMのトリス塩酸緩衝液(pH8.0)に各試料を25℃で20分浸した後、0.1mMのピロガロールを加え、直ちに510nmで吸光度を測定した。5分間、1分毎に吸光度測定を行った。スーパーオキシドアニオン消去活性(OD%)は、次式から計算した。
【0079】
【数6】
【0080】
As: ピロガロールと反応した試料の吸光度の変化;Ao: 試料なしでの吸光度の変化
結果を図9に示す。実施例8の亜セレン酸化キシログルカン(XGO-Se)は製造例1の硫酸化キシログルカン(XGO-S)より優れたスーパーオキサイドアニオンラジカル消去活性を示した。
【0081】
試験例5:抗酸化活性評価試験(過酸化脂質生成抑制活性評価試験)
たまご由来のビテロース(vitellose)を氷冷した20mMのリン酸緩衝液中でホモジナイズした。この1mLに試料を加え、5mMの硫酸鉄の存在下、37℃で1時間反応させた。酸を加えて反応を停止後、100℃で15分加熱した。沈殿したタンパク質を除去した後、532nmで吸光度を測定した。過酸化脂質生成抑制活性(K%)は次式から計算した。
【0082】
【数7】
【0083】
As: 試料の吸光度;Ac: コントロールの吸光度
結果を図10に示す。実施例8の亜セレン酸化キシログルカン(XGO-Se)は製造例1の硫酸化キシログルカン(XGO-S)より優れた過酸化脂質生成抑制活性を示した。
【0084】
試験例6:抗癌活性評価試験(MTTアッセイ)
HepG2細胞の懸濁液(15μL,1.85×105 cells/ml)を24ウェルプレートの各ウェルに播種し、24時間後実験を行った。細胞と試料を加え、24又は48時間培養した後、生存細胞をMTT(3-[4,5-dimethylthiazol-2-yl]-2,5-diphenytetrazolium)アッセイにより評価した。すなわち、10μlのMTTをウェルに加え、細胞を5%CO2雰囲気下、37℃のインキュベーターで4時間培養した。10%SDS(100μl)をウェルに加え、細胞を終夜培養した。ホルマザンの生成をマイクロプレート分光光度計(Spectra Max 190, 米国製)を用いて、570nmで測定した。
実施例10(6.21Y)、実施例11(6.28Y)および実施例12(Starch)の結果を図11に、キシログルカン(#1)、製造例1(#2)および比較例2(#3)の結果を図12に示した。
実施例11および12の硫酸化亜セレン酸化キシログルカンは0.01g/L以上で、実施例13の硫酸化亜セレン酸化デンプンは0.1g/L以上で抗癌作用を示した(図11)。
セレン含量17重量%で硫酸基を有さない硫酸化亜セレン酸化キシログルカンは抗癌活性を示さなかった(図12)。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】キシログルカン、硫酸化キシログルカン(製造例1)および亜セレン酸化キシログルカン(実施例8)のFT−IRスペクトルである。
【図2】キシログルカン、硫酸化キシログルカン(製造例1)および硫酸化亜セレン酸化キシログルカン(実施例10)のUV−可視吸収スペクトルである。
【図3】硫酸化デキストラン(製造例4)のFT−IRスペクトルである。
【図4】硫酸化亜セレン酸化デキストリン(実施例4)のFT−IRスペクトルである。
【図5】硫酸化亜セレン酸化デキストラン(実施例5)のFT−IRスペクトルである。
【図6】硫酸化亜セレン酸化キシログルカン(実施例7)のFT−IRスペクトルである。
【図7】DPPHラジカル消去活性評価試験の結果を示すグラフである(試験例2)。
【図8】フェントン反応で生成したOHラジカル消去活性評価試験の結果を示すグラフである(試験例3)。
【図9】スーパーオキサイドアニオン消去活性評価試験の結果を示すグラフである(試験例4)。
【図10】過酸化脂質生成抑制活性評価試験の結果を示すグラフである(試験例5)。
【図11】抗癌活性評価試験(MTTアッセイ)の結果を示すグラフである(試験例6)。
【図12】抗癌活性評価試験(MTTアッセイ)の結果を示すグラフである(試験例6)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セレン含量が18重量%以上であることを特徴とする、亜セレン酸化多糖類またはその塩。
【請求項2】
硫酸基をさらに含む、請求項1記載の亜セレン酸化多糖類またはその塩。
【請求項3】
硫酸基を含むことを特徴とする、亜セレン酸化多糖類またはその塩。
【請求項4】
硫酸置換度が2以上である硫酸化多糖類またはその塩を、バリウム塩または酸の存在下、亜セレン酸またはその塩と反応させる工程を含むことを特徴とする、セレン含量が18重量%以上である亜セレン酸化多糖類またはその塩の製造方法。
【請求項5】
硫酸置換度が2以上である硫酸化多糖類またはその塩が、多糖類を硫酸化剤と反応させることにより製造されたものである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
硫酸化剤がピリジン・三酸化硫黄錯体またはクロロスルホン酸である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
硫酸基を含む亜セレン酸化多糖類またはその塩を製造する、請求項4〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載の亜セレン酸化多糖類またはその塩を含む、医薬組成物。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれかに記載の亜セレン酸化多糖類またはその塩を含む、抗酸化剤。
【請求項10】
亜セレン酸化多糖類またはその塩を含む、抗酸化剤。
【請求項11】
亜セレン酸化多糖類がさらに硫酸基を含む、請求項10記載の抗酸化剤。
【請求項12】
請求項1〜3のいずれかに記載の亜セレン酸化多糖類またはその塩を含む、抗がん剤。
【請求項1】
セレン含量が18重量%以上であることを特徴とする、亜セレン酸化多糖類またはその塩。
【請求項2】
硫酸基をさらに含む、請求項1記載の亜セレン酸化多糖類またはその塩。
【請求項3】
硫酸基を含むことを特徴とする、亜セレン酸化多糖類またはその塩。
【請求項4】
硫酸置換度が2以上である硫酸化多糖類またはその塩を、バリウム塩または酸の存在下、亜セレン酸またはその塩と反応させる工程を含むことを特徴とする、セレン含量が18重量%以上である亜セレン酸化多糖類またはその塩の製造方法。
【請求項5】
硫酸置換度が2以上である硫酸化多糖類またはその塩が、多糖類を硫酸化剤と反応させることにより製造されたものである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
硫酸化剤がピリジン・三酸化硫黄錯体またはクロロスルホン酸である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
硫酸基を含む亜セレン酸化多糖類またはその塩を製造する、請求項4〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載の亜セレン酸化多糖類またはその塩を含む、医薬組成物。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれかに記載の亜セレン酸化多糖類またはその塩を含む、抗酸化剤。
【請求項10】
亜セレン酸化多糖類またはその塩を含む、抗酸化剤。
【請求項11】
亜セレン酸化多糖類がさらに硫酸基を含む、請求項10記載の抗酸化剤。
【請求項12】
請求項1〜3のいずれかに記載の亜セレン酸化多糖類またはその塩を含む、抗がん剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−260823(P2008−260823A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−103728(P2007−103728)
【出願日】平成19年4月11日(2007.4.11)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月11日(2007.4.11)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【Fターム(参考)】
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