説明

交流電動機の速度制御装置

【課題】磁束軸電流の過補償を抑制する。
【解決手段】交流電動機の速度制御装置は、トルク軸電流を比例積分制御するトルク軸電流制御器から出力されるトルク軸電圧成分を所定の値以下になるように制限するトルク軸電圧リミッタと、前記トルク軸電流制御器から出力されるトルク軸電圧成分と前記トルク軸電圧リミッタから出力されるトルク軸電圧指令とからトルク軸電圧飽和量を求める第1の減算器と、前記求められたトルク軸電圧飽和量を、推定器により推定されたトルク軸過渡電圧飽和量で補正する補正部と、前記補正されたトルク軸電圧飽和量を保持する第1の積分器と、前記保持されたトルク軸電圧飽和量と直交2軸座標の回転角速度とから磁束軸電流指令修正量を求めて出力する磁束軸電流指令修正器と、磁束軸電流指令から前記磁束軸電流指令修正量を減算し磁束軸電流指令修正指令を求めて出力する第2の減算器とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電動機の速度制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、交流電動機の速度制御装置において、q軸電流制御器からq軸電圧成分がq軸電圧リミッタへ出力される場合に、q軸電圧リミッタの入出力の値を減算器に通してその偏差としてq軸電圧飽和量を求め、q軸電圧飽和量からd軸電流指令修正量を求めてd軸電流を修正することが記載されている。これにより、特許文献1によれば、交流電動機において速度が高速回転となった場合でも、回転数に比例して増加する定常的な誘起電圧飽和の発生を抑えることができるので、交流電動機の制御の安定性を向上できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4507493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の速度制御装置では、定常的な誘起電圧飽和を抑制するために、q軸電圧リミッタの入出力の値の偏差として求めたq軸電圧飽和量の全てを用いてd軸電流指令修正量を求めている。すなわち、定常電圧成分と過渡電圧成分とを含むq軸電圧飽和量に対して、過渡電圧成分が十分小さいと仮定した修正(補正)を行っているものと考えられる。
【0005】
しかし、q軸電圧飽和量における過渡電圧成分の割合が無視できないぐらい大きくなった場合、過渡電圧成分が十分小さいと仮定した修正(補正)をd軸電流に対して行うと、この補正は、d軸電流(磁束軸電流)の過補償となりやすい。d軸電流(磁束軸電流)の過補償が起こると、交流電動機のモータトルクが減衰する可能性がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、磁束軸電流の過補償を抑制できる交流電動機の速度制御装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の1つの側面にかかる交流電動機の速度制御装置は、交流電動機の電流を回転する直交2軸座標上の2つの成分である磁束軸電流とトルク軸電流とに分けてそれぞれを比例積分制御する電流制御器を有する交流電動機の速度制御装置であって、トルク軸電流を比例積分制御するトルク軸電流制御器から出力されるトルク軸電圧成分を所定の値以下になるように制限するトルク軸電圧リミッタと、前記トルク軸電流制御器から出力されるトルク軸電圧成分と前記トルク軸電圧リミッタから出力されるトルク軸電圧指令とからトルク軸電圧飽和量を求める第1の減算器と、前記求められたトルク軸電圧飽和量を、推定器により推定されたトルク軸過渡電圧飽和量で補正する補正部と、前記補正されたトルク軸電圧飽和量を保持する第1の積分器と、前記保持されたトルク軸電圧飽和量と直交2軸座標の回転角速度とから磁束軸電流指令修正量を求めて出力する磁束軸電流指令修正器と、磁束軸電流指令から前記磁束軸電流指令修正量を減算し磁束軸電流指令修正指令を求めて出力する第2の減算器とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、磁束軸電流指令修正量を求めるためのトルク軸電圧飽和量に対して過渡電圧飽和量の影響が減少するように補正できるので、磁束軸電流指令修正量が過剰に大きくなることを抑制でき、磁束軸電流の過補償を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、実施の形態1にかかる速度制御装置の構成を示す図である。
【図2】図2は、実施の形態1における補正部の構成を示す図である。
【図3】図3は、実施の形態1における推定器の構成を示す図である。
【図4】図4は、実施の形態1による効果を説明するための図である。
【図5】図5は、実施の形態1の変形例における推定器の構成を示す図である。
【図6】図6は、実施の形態2における補正部の構成を示す図である。
【図7】図7は、実施の形態2の変形例における補正部の構成を示す図である。
【図8】図8は、実施の形態3にかかる速度制御装置の構成を示す図である。
【図9】図9は、実施の形態3における推定器の構成を示す図である。
【図10】図10は、実施の形態3における推定器の構成を示す図である。
【図11】図11は、基本の形態にかかる速度制御装置の構成を示す図である。
【図12】図12は、基本の形態にかかる速度制御装置の動作を示す図である。
【図13】図13は、基本の形態にかかる速度制御装置の動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明にかかる速度制御装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0011】
実施の形態1.
まず、実施の形態1にかかる速度制御装置について説明する前に、実施の形態1にかかる速度制御装置に対する基本の形態について説明する。基本の形態にかかる速度制御装置900の構成について図11を用いて説明する。
【0012】
速度制御装置900は、永久磁石型の同期式の交流電動機(以下、単に交流電動機とする)PMの電流(すなわち、巻線電流)を制御することにより、交流電動機PM内の固定子に対する回転子の回転速度を制御する。速度制御装置900は、交流電動機PMの電流を制御する際に、交流電動機PMの電流を、回転する直交2軸座標(以下、dq軸座標とする)上の成分である磁束軸(以下、d軸とする)成分とトルク軸(以下、q軸とする)成分とに分解して、それぞれ制御するベクトル制御を行う。
【0013】
具体的には、速度制御装置900は以下の構成要素を有する。
【0014】
PWMインバータ22は、電圧指令V,V,Vに基づいて交流電動機PMに電力を供給する。すなわち、PWMインバータ22は、電圧指令V,V,Vに基づき直流電力を交流電力に変換して、U相電流i、V相電流i、W相電流iを含む交流電力を交流電動機PMへ供給する。電流検出器23a、23b、23cは、それぞれ交流電動機PMのU相電流i、V相電流i、W相電流iを検出して3相2相座標変換器29へ供給する。
【0015】
速度検出器24は、交流電動機PM内における回転子の回転速度ωを検出する。座標回転角速度演算器40は、速度検出器24により検出された回転速度ωに係数をかけて、dq軸座標の回転角速度ωを演算して積分器28及びd軸電流指令修正器905へ供給する。積分器28は、回転角速度ωを積分してdq軸座標の位相角θを求めて3相2相座標変換器29及び2相3相座標変換器38へ供給する。
【0016】
3相2相座標変換器29は、dq軸座標の位相角θに基づいて、UVW軸座標系(固定座標系)における電流ベクトル(i,i,i)をdq軸座標系(回転座標系)における電流ベクトル(i,i)へ座標変換する。すなわち、3相2相座標変換器29は、電流検出器23a,23b,23cにより検出されたU相電流i、V相電流i、W相電流iをdq軸座標上のd軸電流(d相電流)iとq軸電流(q相電流)iとに分解して、それぞれ減算器34、36へ出力する。
【0017】
減算器32は、上位コントローラ(図示せず)から速度指令ωを受け、速度検出器24から回転速度ωを受ける。減算器32は、速度指令ωから回転速度ωを減算して、速度指令ωと回転速度ωとの速度偏差eを求めて速度制御器33へ出力する。速度制御器33は、速度偏差eが0になるようにPI制御して、PI制御の結果としてq軸電流成分i’をq軸電圧リミッタ42へ出力する。
【0018】
減算器34は、後述のd軸電流修正指令icmdを減算器907から受け、d軸電流iを3相2相座標変換器29から受ける。減算器34は、d軸電流修正指令icmdからd軸電流iを減算して、d軸電流修正指令icmdとd軸電流iとの電流偏差eidを求めてd軸電流制御器35へ出力する。d軸電流制御器35は、電流偏差eidが0になるようにPI制御して、PI制御の結果としてd軸電圧成分V’をd軸電圧リミッタ43へ出力する。
【0019】
減算器36は、q軸電流指令iをq軸電流リミッタ42から受け、q軸電流iを3相2相座標変換器29から受ける。減算器36は、q軸電流指令iからq軸電流iを減算して、q軸電流指令iとq軸電流iとの電流偏差eiqを求めてq軸電流制御器37へ出力する。q軸電流制御器37は、電流偏差eiqが0になるようにPI制御して、PI制御の結果としてq軸電圧成分V’をq軸電圧リミッタ44へ出力する。
【0020】
2相3相座標変換器38は、dq軸座標の位相角θに基づいて、dq軸座標系(回転座標系)における電圧ベクトル(V,V)をUVW軸座標系(固定座標系)における電圧ベクトル(V,V,V)へ座標変換する。すなわち、2相3相座標変換器38は、d軸電圧指令V及びq軸電圧指令Vを、それぞれd軸電圧リミッタ43及びq軸電圧リミッタ44から受ける。2相3相座標変換器38は、d軸電圧指令Vとq軸電圧指令Vとを3相交流座標上の電圧指令Vu,Vv,Vwに変換してPWMインバータ22へ電圧指令として出力する。
【0021】
q軸電流リミッタ42は、速度制御器33から出力されるq軸電流成分i’を所定の範囲内に制限し、その結果をq軸電流指令iとして出力する。d軸電圧リミッタ43は、d軸電流制御器35から出力されるd軸電圧成分V’を所定の範囲内に制限し、その結果をd軸電圧指令Vとして出力する。q軸電圧リミッタ44は、q軸電流制御器37から出力されるq軸電圧成分V’を所定の範囲内に制限し、その結果をq軸電圧指令Vとして出力する。
【0022】
減算器2は、q軸電圧成分V’をq軸電流制御器37から受け、q軸電圧指令Vをq軸電圧リミッタ44から受ける。すなわち、減算器2は、q軸電圧リミッタ44の入出力の値を受ける。減算器2は、q軸電圧成分V’からq軸電圧指令Vを減算して、q軸電圧成分V’とq軸電圧指令Vとの偏差をq軸電圧飽和量ΔVとして求めて積分器904へ出力する。積分器904は、q軸電圧飽和量ΔVqを保持しながら積分し、積分結果として保持されたq軸電圧飽和量ΔVq’をd軸電流指令修正器905へ出力する。
【0023】
d軸電流指令修正器905は、保持されたq軸電圧飽和量ΔVq’を積分器904から受け、dq軸座標の回転角速度ωを回転角速度演算器40から受ける。d軸電流指令修正器905は、q軸電圧飽和量ΔVq’とdq軸座標の回転角速度ωとに基づいて、d軸電流指令修正量Δiを求めて減算器907へ出力する。
【0024】
d軸電流指令生成部46は、任意のd軸電流指令iを生成して減算器907へ出力する。減算器907は、d軸電流指令iをd軸電流指令生成部46から受け、d軸電流指令修正量Δiをd軸電流指令修正器905から受ける。減算器907は、d軸電流指令iからd軸電流指令修正量Δiを減算してd軸電流指令iを修正し、修正結果としてd軸電流修正指令icmdを減算器34へ出力する。
【0025】
次に、基本の形態にかかる速度制御装置900の動作について図12及び図13を用いて説明する。以下の速度制御装置900の動作の説明では、速度検出器24により検出される回転速度ωを、モータの電気的な角速度を表すものとしてωreと表すことにする。
【0026】
交流電動機(永久磁石型同期式電動機)PMのベクトル制御において、d軸(磁束軸)電圧指令V’およびq軸(トルク軸)電圧指令V’は、ベクトル制御の電圧方程式より次の数式1、数式2で表される。
【0027】
’=(R+sL)i−ωre・・・数式1
【0028】
’=(R+sL)i+ωre(φ/P+L)・・・数式2
【0029】
数式1、2において、V’はq軸電圧指令(モータ印加電圧)である。Rはモータ電機子抵抗である。sはラプラス演算子(微分相当≒過渡成分)である。Lはq軸インダクタンス(q軸モータ電機子インダクタンス)である。iはq軸電流(q軸モータ電流)である。ωreは交流電動機PMにおける回転子の電気的な回転速度(モータ電機角速度)である。φは磁束鎖交数である。Lはd軸インダクタンス(d軸モータ電機子インダクタンス)である。iはd軸電流(d軸モータ電流)である。
【0030】
図12に示すように、インバータに供給される電圧には限りがあるのでその最大値をVMAXと設定するとd軸電圧指令V’およびq軸電圧指令V’は、それぞれd軸電圧リミットVLimおよびq軸電圧リミットVLimで制限される。すなわち、最大電圧とdq軸電圧リミットとの関係は、次の数式3で表される。
【0031】
√((VLim+(VLim)≦VMAX・・・数式3
【0032】
このとき、電圧指令V、Vの制限は、次の数式4、数式5で表される。
【0033】
if V’≦VLim
=V
else
=sgn(V’)VLim・・・数式4
【0034】
if V’≦VLim
=V
else
=sgn(V’)VLim・・・数式5
【0035】
高速回転時、回転角速度ωreが大きくなり電圧方程式(数式1、数式2)の右辺第2項が支配的になると、d軸電圧指令Vおよびq軸電圧指令Vは、d軸電圧リミットVLimおよびq軸電圧リミットVLimで制限されやすくなる。
【0036】
この現象を一般に電圧飽和と言う。交流電動機PMのベクトル制御において、電圧飽和が発生すると交流電動機PMが振動的な応答となったり不安定となったりすることが一般に知られている。特に、q軸電圧指令Vはωreφ/Pの誘起電圧項があるため、高速回転になるほど電圧飽和しやすく、トルク不足なども生じるので電圧飽和対策を行う必要がある。
【0037】
例えば、以下のような電圧飽和対策を行うことが考えられる。すなわち、交流電動機PMが高速回転している場合、電圧方程式(数式1、数式2)の右辺第2項の絶対値が第1項の絶対値よりも十分大きいと仮定して、電圧方程式を次のように置き直す。すなわち、下記の数式6及び数式7のように仮定して、電圧方程式を下記の数式8及び数式9のように置き直す。
【0038】
|(R+sL)i|<<|−ωre|・・・数式6
【0039】
|(R+sL)i|<<|ωre(φ/P+L)|・・・数式7
【0040】
’=−ωre・・・数式8
【0041】
’=ωre(φ/P+L)・・・数式9
【0042】
d軸電圧飽和量ΔVは、d軸電圧指令(d軸電圧成分)V’からd軸電圧指令をリミッタで制限した値Vを差引いたものであるから、次の数式10が成り立つ。
【0043】
ΔV=V’−V・・・数式10
【0044】
このd軸電圧飽和量ΔVに高速回転定常状態を想定したd軸電圧指令V’、すなわち数式8で表されるV’を代入すると、下記の数式11となる。
【0045】
ΔV=−ωre−V・・・数式11
【0046】
このとき、電圧飽和対策の為、(ω、Lは操作できないので)q軸電流iをΔiで操作してd軸電圧飽和量ΔVが0になるようにする。すなわち、下記の数式12が成り立つようにd軸電流iをΔiで操作する。
【0047】
0=−ωre(i−Δi)−V・・・数式12
【0048】
d軸電圧飽和量ΔVを0にする補正量Δiを導出するため数式12を展開して変形すると下記の数式13になる。
【0049】
−ωreΔi=−ωre−V・・・数式13
【0050】
高速回転定常状態を想定したd軸電圧指令は上記の数式8で表される通りであるから、数式13に数式8を代入すると、下記の数式14になる。
【0051】
−ωreΔi=V’−V・・・数式14
【0052】
数式14に数式10を代入して整理すると、下記の数式15になる。
【0053】
Δi=−ΔV/(ωre)・・・数式15
【0054】
数式15により、q軸電流指令iを補償する補正量を得られる。
【0055】
また,q軸電圧飽和量ΔVについても同様にして補正量を求める。すなわち,q軸電圧飽和量ΔVは、下記の数式16で示すように、q軸電圧指令(q軸電圧成分)V’とq軸電圧指令をリミッタで制限した後の値Vの差で得られる。
【0056】
ΔV=V’−V・・・数式16
【0057】
このq軸電圧飽和量ΔVに高速回転定常状態を想定したq軸電圧指令V’、すなわち数式9で表されるq軸電圧指令V’を与えると、下記の数式17となる。
【0058】
ΔV=ωre(φ/P+L)−V・・・数式17
【0059】
このとき、電圧飽和対策の為、(ω、Lは操作できないので)d軸電流iをΔiで操作してq軸電圧飽和量ΔVが0になるようにする。すなわち、下記の数式18が成り立つようにd軸電流iをΔiで操作する。
【0060】
0=ωre(φ/P+L(i−Δi))−V・・・数式18
【0061】
q軸電圧飽和量ΔVを0にする補正量Δiを導出するため数式18を展開して変形すると下記の数式19になる。
【0062】
ωreΔi=ωre(φ/P+L)−V・・・数式19
【0063】
高速回転定常状態を想定したq軸電圧指令は上記の数式9で表される通りであるから、数式19に数式9を代入すると、下記の数式20になる。
【0064】
ωreΔi=V’−V・・・数式20
【0065】
数式20に数式16を代入して整理すると、下記の数式21になる。
【0066】
Δi=ΔV/(ωre)・・・数式21
【0067】
数式21により、d軸電流指令iを補償する補正量を得られる。
【0068】
図11に示すような基本の形態にかかる速度制御装置900では、例えば数式21で表されるd軸電流指令修正量Δiを用いてd軸電流指令iを補正(修正)する事で、電圧飽和による不安定やトルク不足を回避しようとしている。
【0069】
基本の形態にかかる速度制御装置900では、上記したように、高速回転時の定常運転を想定しているので、d軸電流指令iを補正するために取得するq軸電圧飽和量ΔVには、数式9に示されるように、高速回転数に起因した定常的な電圧飽和量のみが含まれるものとされている。すなわち、q軸電流制御器37から出力されるq軸電圧指令V’とq軸電圧リミッタから出力されるリミット後のq軸電圧指令Vとの差からq軸電圧飽和量ΔVを求めている。
【0070】
ここで、q軸電流制御器37から出力されるq軸電圧指令V’は、一般的なPI制御の場合、下記の数式22で表される。
【0071】
’=(Kcp+Kci/s)(i−i)・・・数式22
【0072】
数式22におけるq軸電流iは、電圧方程式(数式2)から求めることができるが、電圧方程式(数式2)は、変形すると、下記の数式23のように過渡電圧項と定常電圧項とに分けられる。
【0073】
’={sL}+{Ri+ωre(φ/P+L)}・・・数式23
【0074】
数式23における1つ目のカッコ{}内が過渡電圧項であり、2つ目のカッコ{}内が定常電圧項である。そのため、数式23を変形して得るq軸電流iも数式24に示すように過渡成分を含む形になる。
【0075】
’−ωre(φ/P+L
=──────────────────・・・数式24
(R+sL
【0076】
数式24における分母のうちsLの部分が過渡成分になっている。すなわち、基本の形態にかかる速度制御装置900では、数式2、9、16、21に示されるように、定常電圧成分と過渡電圧成分とを含むq軸電圧飽和量ΔVに対して、過渡電圧成分が十分小さいと仮定した修正(補正)を行っているものと考えられる。
【0077】
しかし、q軸電圧飽和量ΔVにおける過渡電圧成分の割合が無視できないぐらい大きくなった場合、過渡電圧成分が十分小さいと仮定した修正(補正)をd軸電流に対して行うと、この補正は、d軸電流(磁束軸電流)の過補償となりやすい。すなわち、過渡電圧成分をΔVqt、定常電圧成分ΔVqsとすると、q軸電圧飽和量ΔVは下記の数式25で表される。
【0078】
ΔV=ΔVqt+ΔVqs・・・数式25
【0079】
数式25においてq軸電圧飽和量ΔVにおける過渡電圧成分ΔVqtの割合が無視できないぐらい大きくなった場合、数式21に示すように、q軸電圧飽和量ΔVを用いてd軸電流指令修正量Δiを求めると、d軸電流指令修正量Δiが過剰に大きくなるので、d軸電流(磁束軸電流)の過補償となりやすい。d軸電流(磁束軸電流)の過補償が起こると、交流電動機のモータトルクが減衰する可能性がある。
【0080】
例えば、図13に示すように、モータ速度が変化する際(例えば、一点鎖線で囲った領域)において、q軸電流iが減衰する傾向にある。このことは、モータ速度が変化する際に、交流電動機のモータトルクが減衰する傾向にあることを示している。
【0081】
次に、実施の形態1にかかる速度制御装置1について図1を用いて説明する。以下では、基本の形態にかかる速度制御装置900と異なる部分を中心に説明する。
【0082】
速度制御装置1は、推定器6、補正部3、積分器4、d軸電流指令修正器5、及び減算器7を備える。
【0083】
推定器6は、d軸電流iを3相2相座標変換器29から受け、回転速度(モータ角速度)ωを速度検出器24から受け、q軸電圧成分V’をq軸電流制御器37から受ける。推定器6は、d軸電流i、回転速度ω、及びq軸電圧成分V’に基づいて、q軸過渡電圧飽和量ΔVqtを推定して補正部3へ出力する。
【0084】
補正部3は、q軸電圧飽和量ΔVを減算器2から受け、q軸過渡電圧飽和量ΔVqtを推定器6から受ける。補正部3は、過渡電圧飽和量の影響が減少するように、q軸電圧飽和量ΔVをq軸過渡電圧飽和量ΔVqtで補正する。例えば、補正部3は、q軸電圧飽和量ΔVからq軸過渡電圧飽和量ΔVqtを減算する。そして、補正部3は、補正されたq軸電圧飽和量ΔVqsを積分器4へ出力する。
【0085】
積分器4は、q軸電圧飽和量ΔVqsを保持しながら積分し、積分されたq軸電圧飽和量ΔVqs’をd軸電流指令修正器5へ出力する。
【0086】
d軸電流指令修正器5は、積分されたq軸電圧飽和量ΔVqs’を積分器4から受け、dq軸座標の回転角速度ωを回転角速度演算器40から受ける。d軸電流指令修正器5は、q軸電圧飽和量ΔVqs’とdq軸座標の回転角速度ωとに基づいて、d軸電流指令修正量Δiを求めて減算器7へ出力する。
【0087】
減算器7は、d軸電流指令iをd軸電流指令生成部46から受け、d軸電流指令修正量Δiをd軸電流指令修正器5から受ける。減算器7は、d軸電流指令iからd軸電流指令修正量Δiを減算してd軸電流指令iを修正し、修正結果としてd軸電流修正指令icmdを減算器34へ出力する。
【0088】
次に、補正部3の構成について図2を用いて説明する。図2は、補正部3の構成を示す図である。
【0089】
補正部3は、例えば、減算器3aを有する。減算器3aは、q軸電圧飽和量ΔVを減算器2(図1参照)から受け、q軸過渡電圧飽和量ΔVqtを推定器6(図1参照)から受ける。減算器3aは、q軸電圧飽和量ΔVからq軸過渡電圧飽和量ΔVqtを減算し、減算結果をq軸電圧飽和量ΔVqsとして積分器4(図1参照)へ出力する。
【0090】
次に、推定器6の構成について図3を用いて説明する。図3は、推定器6の構成を示す図である。
【0091】
推定器6は、乗除算器6a、乗算器6g、加算器6b、乗算器6c、減算器6d、リミット6e、及び減算器6fを有する。乗除算器6aは、磁束鎖交数φを極対数Pで割った値「φ/P」を求めて加算器6bへ出力する。乗算器6gは、d軸電流iにd軸インダクタンスLを乗算した値「i」を求めて加算器6bへ出力する。加算器6bは、値「φ/P」と値「i」とを加算した値「φ/P+i」を乗算器6cへ出力する。乗算器6cは、値「φ/P+i」に回転速度(モータ電気角速度)ωreを乗算した値「ωre(φ/P+i)」を減算器6dへ出力する。減算器6dは、q軸電圧成分(トルク軸電圧指令)V’から値「ωre(φ/P+i)」を減算した値「(R+sL)i」をq軸過渡電圧Vqs’として求めてリミット6e及び減算器6fへ出力する。リミット6eは、減算器6dから出力されるq軸過渡電圧Vqs’を所定の範囲内に制限し、その結果をq軸過渡電圧指令Vqsとして出力する。減算器6fは、q軸過渡電圧Vqs’からq軸過渡電圧指令Vqsを減算してq軸過渡電圧飽和量ΔVqtを求めて出力する。
【0092】
以上のように、実施の形態1では、補正部3が、q軸電圧飽和量ΔVをq軸過渡電圧飽和量ΔVqtで補正する。これにより、d軸電流指令修正量Δiを求めるためのq軸電圧飽和量に対して過渡電圧飽和量の影響が減少するように補正できるので、d軸電流指令修正量Δiが過剰に大きくなることを抑制でき、d軸電流(磁束軸電流)の過補償を抑制できる。この結果、交流電動機のモータトルクの減衰を低減できる。
【0093】
例えば、図4に示すように、モータ速度が変化する際(例えば、一点鎖線で囲った領域)におけるq軸電流iの減衰は、過渡電圧飽和量で補正しない場合(図13参照)に比べて、低減できる。これにより、モータ速度が変化する際に、交流電動機のモータトルクの減衰を低減できる。
【0094】
また、実施の形態1では、補正部3が、q軸電圧飽和量ΔVからq軸過渡電圧飽和量ΔVqtを減算することにより、q軸電圧飽和量ΔVをq軸過渡電圧飽和量ΔVqtで補正する。これにより、補正部3を図2に示すように簡易な構成で実現できる。
【0095】
なお、速度制御装置100は、推定器6(図3参照)に代えて、図5に示すような推定器106を有していても良い。図5に示す推定器106は、q軸電流指令iをq軸電流リミッタ42から受け、q軸電流指令iに基づいてq軸過渡電圧飽和量ΔVqtを推定して補正部3へ出力する。
【0096】
具体的には、推定器106は、減算器106a、制御ゲイン106b、リミット106c、積分器106e、及び減算器106dを有する。減算器106aは、q軸電流指令iからq軸電流変化推定値Δiを減算した値i’を制御ゲイン106bへ出力する。制御ゲイン106bは、値i’をゲイン(ωcc)により増幅してその結果sLをq軸過渡電圧Vqs’としてリミット106c及び減算器106dへ出力する。リミット106cは、制御ゲイン106bから出力されるq軸過渡電圧Vqs’を所定の範囲内に制限し、その結果をq軸過渡電圧指令Vqsとして減算器106d及び積分器106eへ出力する。積分器106eは、q軸過渡電圧指令Vqsを積分するとともに所定の係数(1/L)をかけてq軸電流変化推定値Δiを求めて減算器106aへ出力する。減算器106dは、q軸過渡電圧Vqs’からq軸過渡電圧指令Vqsを減算してq軸過渡電圧飽和量ΔVqtを求めて出力する。
【0097】
実施の形態2.
次に、実施の形態2にかかる速度制御装置200について説明する。以下では、実施の形態1と異なる部分を中心に説明する。
【0098】
実施の形態1では、q軸電圧飽和量ΔVにおける過渡電圧成分の割合が無視できないぐらい大きくなった場合を想定して、補正部3が、q軸電圧飽和量ΔVからq軸過渡電圧飽和量ΔVqtを減算することにより、q軸電圧飽和量ΔVをq軸過渡電圧飽和量ΔVqtで補正している。
【0099】
一方、q軸電圧飽和量ΔVにおける過渡電圧成分の割合が無視できない度合は、数式7に示されるように、q軸インダクタンスLに依存するものと考えられる。そこで、実施の形態2では、q軸インダクタンスLがどの程度大きいかに応じて、q軸過渡電圧飽和量ΔVqtによる補正量を可変にする。
【0100】
具体的には、速度制御装置200における補正部203は、図6に示すように、係数器203c、乗算器203b、及び減算器203aを有する。
【0101】
係数器203cは、q軸インダクタンスLの値に応じて係数Kの値を決定する。
【0102】
例えば、係数器203cは、q軸インダクタンスLの複数の値と係数Kの複数の値とが対応付けられた係数テーブルを有している。例えば、係数器203cは、係数テーブルを参照することにより、q軸インダクタンスLがインダクタンス値Lq1である場合、係数Kを値K(例えば、=1)に決定し、q軸インダクタンスLがインダクタンス値Lq2(<Lq1)である場合、係数Kを値K(<K,>0)に決定し、q軸インダクタンスLがインダクタンス値Lq3(<Lq3)である場合、係数Kを値K(<K,>0)に決定する。
【0103】
あるいは、例えば、係数器203cは、q軸インダクタンスLの閾値Lqthを有している。例えば、係数器203cは、q軸インダクタンスLの値と閾値Lqthとを比較し、q軸インダクタンスLの値が閾値Lqthより大きい場合、係数Kを値K(例えば、=1)に決定し、q軸インダクタンスLの値が閾値Lqth以下である場合、係数Kを値K(<K,>0)に決定する。
【0104】
乗算器203bは、q軸過渡電圧飽和量ΔVqtを推定器6から受け、係数Kを係数器203cから受ける。乗算器203bは、q軸過渡電圧飽和量ΔVqtに係数Kを乗算し、その結果を補正量KΔVqtとして減算器203aへ出力する。
【0105】
減算器203aは、q軸電圧飽和量ΔVを減算器2(図1参照)から受け、補正量KΔVqtを乗算器203bから受ける。減算器203aは、q軸電圧飽和量ΔVから補正量KΔVqtを減算する。
【0106】
以上のように、実施の形態2では、補正部203が、q軸インダクタンスが第1のインダクタンス値である場合、q軸過渡電圧飽和量に第1の係数をかけた第1の補正量をトルク軸電圧飽和量から減算し、q軸インダクタンスが第1のインダクタンス値より小さい第2のインダクタンス値である場合、q軸過渡電圧飽和量に第1の係数より小さい第2の係数をかけた第2の補正量をトルク軸電圧飽和量から減算する。これにより、q軸電圧飽和量ΔVにおける過渡電圧成分の割合が無視できない度合に応じて、補正量を可変にするので、補正に伴う誤差の影響を低減できる。この結果、d軸電流(磁束軸電流)の過補償をさらに抑制できる。
【0107】
なお、速度制御装置200iは、q軸電流iの時間的変化率がどの程度大きいかに応じて、q軸過渡電圧飽和量ΔVqtによる補正量を可変にしてもよい。具体的には、速度制御装置200iにおける補正部203iは、図7に示すように、演算部203di、係数器203ci、乗算器203b、及び減算器203aを有する。
【0108】
演算部203diは、q軸電流iを3相2相座標変換器29から受ける。演算部203diは、q軸電流iの時間的変化率を演算してその演算結果siを係数器203ciへ出力する。
【0109】
係数器203ciは、q軸電流iの時間的変化率siの値に応じて係数Kの値を決定する。
【0110】
例えば、係数器203ciは、q軸電流iの時間的変化率siの複数の値と係数Kの複数の値とが対応付けられた係数テーブルを有している。例えば、係数器203ciは、係数テーブルを参照することにより、q軸電流iの時間的変化率siが変化率siq1である場合、係数Kを値K(例えば、=1)に決定し、q軸電流iの時間的変化率siが変化率siq2(<siq1)である場合、係数Kを値K(<K,>0)に決定し、q軸電流iの時間的変化率siが変化率siq3(<siq2)である場合、係数Kを値K(<K,>0)に決定する。
【0111】
あるいは、例えば、係数器203ciは、q軸電流iの時間的変化率siの閾値siqthを有している。例えば、係数器203ciは、q軸電流iの時間的変化率siの値と閾値siqthとを比較し、q軸電流iの時間的変化率siの値が閾値siqthより大きい場合、係数Kを値K(例えば、=1)に決定し、q軸電流iの時間的変化率siの値が閾値siqth以下である場合、係数Kを値K(<K,>0)に決定する。
【0112】
このように、補正部203iが、q軸電流の時間的変化率が第1の変化率である場合、q軸過渡電圧飽和量に第1の係数をかけた第1の補正量をトルク軸電圧飽和量から減算し、q軸電流の時間的変化率が第1の変化率より小さい第2の変化率である場合、q軸過渡電圧飽和量に第1の係数より小さい第2の係数をかけた第2の補正量をq軸電圧飽和量から減算する。これによっても、q軸電圧飽和量ΔVにおける過渡電圧成分の割合が無視できない度合に応じて、補正量を可変にするので、補正に伴う誤差の影響を低減できる。この結果、d軸電流(磁束軸電流)の過補償をさらに抑制できる。
【0113】
あるいは、速度制御装置200iは、q軸インダクタンスLとq軸電流iの時間的変化率との積がどの程度大きいかに応じて、q軸過渡電圧飽和量ΔVqtによる補正量を可変にしてもよい。具体的には、速度制御装置200iにおける補正部203iは、図7に示すように、演算部203di、係数器203ci、乗算器203b、及び減算器203aを有する。
【0114】
演算部203diは、q軸電流iを3相2相座標変換器29から受ける。演算部203diは、q軸電流iの時間的変化率を演算し、さらにq軸インダクタンスLとq軸電流iの時間的変化率との積を演算し、その演算結果sLを係数器203ciへ出力する。
【0115】
係数器203ciは、q軸インダクタンスLとq軸電流iの時間的変化率との積sLの値に応じて係数Kの値を決定する。
【0116】
例えば、係数器203ciは、積sLの複数の値と係数Kの複数の値とが対応付けられた係数テーブルを有している。例えば、係数器203ciは、係数テーブルを参照することにより、積sLが値sLq1q1である場合、係数Kを値K(例えば、=1)に決定し、積sLが値sLq2q2(<sLq1q1)である場合、係数Kを値K(<K,>0)に決定し、積sLが値sLq3q3(<sLq2q2)である場合、係数Kを値K(<K,>0)に決定する。
【0117】
あるいは、例えば、係数器203ciは、積sLの閾値sLqthqthを有している。例えば、係数器203ciは、積sLの値と閾値sLqthqthとを比較し、積sLの値が閾値sLqthqthより大きい場合、係数Kを値K(例えば、=1)に決定し、積sLの値が閾値sLqthqth以下である場合、係数Kを値K(<K,>0)に決定する。
【0118】
このように、補正部203iが、q軸インダクタンスとq軸電流の時間的変化率との積が第1の値である場合、q軸過渡電圧飽和量に第1の係数をかけた第1の補正量をトルク軸電圧飽和量から減算し、q軸インダクタンスとq軸電流の時間的変化率との積が第1の値より小さい第2の値である場合、q軸過渡電圧飽和量に第1の係数より小さい第2の係数をかけた第2の補正量をq軸電圧飽和量から減算する。これによっても、q軸電圧飽和量ΔVにおける過渡電圧成分の割合が無視できない度合に応じて、補正量を可変にするので、補正に伴う誤差の影響を低減できる。この結果、d軸電流(磁束軸電流)の過補償をさらに抑制できる。
【0119】
実施の形態3.
次に、実施の形態3にかかる速度制御装置300について説明する。以下では、実施の形態1と異なる部分を中心に説明する。
【0120】
実施の形態1では、q軸電圧の変動量が大きいことから、q軸電圧の飽和量に基づいてd軸電流を修正(補正)する場合について着目し、補正部3が、q軸電圧飽和量ΔVをq軸過渡電圧飽和量ΔVqtで補正している。
【0121】
一方、q軸電圧ほどではないにしてもd軸電圧も変動している。そこで、実施の形態3では、d軸電圧の飽和量に基づいてq軸電流を修正(補正)する場合についても、補正部313が、d軸電圧飽和量ΔVをd軸過渡電圧飽和量ΔVdtで補正するようにする。
【0122】
具体的には、速度制御装置300は、推定器316、補正部313、積分器314、q軸電流指令修正器315、及び減算器317を備える。
【0123】
推定器316は、q軸電流iを3相2相座標変換器29から受け、回転速度(モータ電気角速度)ωを速度検出器24から受け、d軸電圧成分V’をd軸電流制御器35から受ける。推定器316は、q軸電流i、回転速度ω、及びd軸電圧成分V’に基づいて、d軸過渡電圧飽和量ΔVdtを推定して補正部313へ出力する。
【0124】
補正部313は、d軸電圧飽和量ΔVを減算器312から受け、d軸過渡電圧飽和量ΔVdtを推定器316から受ける。補正部313は、過渡電圧飽和量の影響が減少するように、d軸電圧飽和量ΔVをd軸過渡電圧飽和量ΔVdtで補正する。例えば、補正部313は、d軸電圧飽和量ΔVからd軸過渡電圧飽和量ΔVdtを減算する。そして、補正部313は、補正されたd軸電圧飽和量ΔVdsを積分器314へ出力する。
【0125】
積分器314は、d軸電圧飽和量ΔVdsを保持しながら積分し、積分されたd軸電圧飽和量ΔVds’をq軸電流指令修正器315へ出力する。
【0126】
q軸電流指令修正器315は、積分されたd軸電圧飽和量ΔVds’を積分器314から受け、dq軸座標の回転角速度ωを回転角速度演算器40から受ける。q軸電流指令修正器315は、d軸電圧飽和量ΔVds’とdq軸座標の回転角速度ωとに基づいて、q軸電流指令修正量Δiを求めて減算器317へ出力する。
【0127】
減算器317は、q軸電流指令iをq軸電流リミッタ42から受け、q軸電流指令修正量Δiをq軸電流指令修正器315から受ける。減算器317は、q軸電流指令iからq軸電流指令修正量Δiを減算してq軸電流指令iを修正し、修正結果としてq軸電流修正指令icmdを減算器36へ出力する。
【0128】
以上のように、実施の形態3では、補正部313が、d軸電圧飽和量ΔVをd軸過渡電圧飽和量ΔVdtで補正する。これにより、q軸電流指令修正量Δiを求めるためのd軸電圧飽和量に対して過渡電圧飽和量の影響が減少するように補正できるので、q軸電流指令修正量Δiが過剰に大きくなることを抑制でき、q軸電流(トルク軸電流)の過補償を抑制できる。この結果、交流電動機のモータトルクの減衰をさらに低減できる。
【0129】
なお、補正部313の内部構成は、実施の形態1と同様でもよいし、実施の形態2と同様でも良い。また、推定器316の内部構成は、図9に示す構成でもよいし、図10に示す構成でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0130】
以上のように、本発明にかかる速度制御装置は、交流電動機の速度の制御に有用である。
【符号の説明】
【0131】
1、100、200、200i、300、900 速度制御装置
2 減算器
3、203、203i 補正部
4、904 積分器
5、905 d軸電流指令修正器
6、106 推定器
7、907 減算器
312 減算器
313 補正部
314 積分器
315 q軸電流指令修正器
316 推定器
317 減算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電動機の電流を回転する直交2軸座標上の2つの成分である磁束軸電流とトルク軸電流とに分けてそれぞれを比例積分制御する電流制御器を有する交流電動機の速度制御装置であって、
トルク軸電流を比例積分制御するトルク軸電流制御器から出力されるトルク軸電圧成分を所定の値以下になるように制限するトルク軸電圧リミッタと、
前記トルク軸電流制御器から出力されるトルク軸電圧成分と前記トルク軸電圧リミッタから出力されるトルク軸電圧指令とからトルク軸電圧飽和量を求める第1の減算器と、
前記求められたトルク軸電圧飽和量を、推定器により推定されたトルク軸過渡電圧飽和量で補正する補正部と、
前記補正されたトルク軸電圧飽和量を保持する第1の積分器と、
前記保持されたトルク軸電圧飽和量と直交2軸座標の回転角速度とから磁束軸電流指令修正量を求めて出力する磁束軸電流指令修正器と、
磁束軸電流指令から前記磁束軸電流指令修正量を減算し磁束軸電流指令修正指令を求めて出力する第2の減算器と、
を備えたことを特徴とする交流電動機の速度制御装置。
【請求項2】
前記補正部は、前記求められたトルク軸電圧飽和量から前記トルク軸過渡電圧飽和量を減算する
ことを特徴とする請求項1に記載の交流電動機の速度制御装置。
【請求項3】
前記補正部は、トルク軸インダクタンスが第1のインダクタンス値である場合、前記トルク軸過渡電圧飽和量に第1の係数をかけた第1の補正量を前記求められたトルク軸電圧飽和量から減算し、トルク軸インダクタンスが前記第1のインダクタンス値より小さい第2のインダクタンス値である場合、前記トルク軸過渡電圧飽和量に前記第1の係数より小さい第2の係数をかけた第2の補正量を前記求められたトルク軸電圧飽和量から減算する
ことを特徴とする請求項1に記載の交流電動機の速度制御装置。
【請求項4】
前記補正部は、トルク軸電流の時間的変化率が第1の変化率である場合、前記トルク軸過渡電圧飽和量に第1の係数をかけた第1の補正量を前記求められたトルク軸電圧飽和量から減算し、トルク軸電流の時間的変化率が前記第1の変化率より小さい第2の変化率である場合、前記トルク軸過渡電圧飽和量に前記第1の係数より小さい第2の係数をかけた第2の補正量を前記求められたトルク軸電圧飽和量から減算する
ことを特徴とする請求項1に記載の交流電動機の速度制御装置。
【請求項5】
前記補正部は、トルク軸インダクタンスとトルク軸電流の時間的変化率との積が第1の値である場合、前記トルク軸過渡電圧飽和量に第1の係数をかけた第1の補正量を前記求められたトルク軸電圧飽和量から減算し、トルク軸インダクタンスとトルク軸電流の時間的変化率との積が前記第1の値より小さい第2の値である場合、前記トルク軸過渡電圧飽和量に前記第1の係数より小さい第2の係数をかけた第2の補正量を前記求められたトルク軸電圧飽和量から減算する
ことを特徴とする請求項1に記載の交流電動機の速度制御装置。
【請求項6】
磁束軸電流を比例積分制御する磁束軸電流制御器から出力される磁束軸電圧成分を所定の値以下になるように制限する磁束軸電圧リミッタと、
前記磁束軸電流制御器から出力される磁束軸電圧成分と前記磁束軸電圧リミッタから出力される磁束軸電圧指令とから磁束軸電圧飽和量を求める第3の減算器と、
前記求められた磁束軸電圧飽和量を、第2の推定器により推定された磁束軸過渡電圧飽和量で補正する第2の補正部と、
前記補正された磁束軸電圧飽和量を保持する第2の積分器と、
前記保持された磁束軸電圧飽和量と直交2軸座標の回転角速度とからトルク軸電流指令修正量を求めて出力するトルク軸電流指令修正器と、
トルク軸電流指令から前記トルク軸電流指令修正量を減算しトルク軸電流指令修正指令を求めて出力する第4の減算器と、
をさらに備えた
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の交流電動機の速度制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−55788(P2013−55788A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191978(P2011−191978)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】