説明

交通信号制御システム、信号制御装置

【課題】 緊急車両の接近に伴ってFAST制御を実行する場合に、さらなる緊急車両の走行支援を行う交通信号制御システムを提供する。
【解決手段】 光ビーコン2Aにおいて緊急車両Pが緊急走行中である旨のアップリンク情報を受信したら、交差点Aの交通信号制御機1AにおいてFAST制御を行い、FAST制御実行中に、光ビーコン2Bにおいて緊急車両Pからアップリンク情報を受信したら、交差点AにおけるFAST制御を停止する。この場合、交差点AにおいてFAST制御の実行を開始すると同時に、緊急車両Pの予想進行方向である交差点B乃至Dの交通信号制御機1B乃至1Dにおいて、緊急車両Pの予想進行方向の青信号を所定時間分だけ増加させる。この場合、この所定時間は、交差点間の地理的結び付きや緊急車両の通過確率に応じて決定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緊急車両の走行を支援する交通信号制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の交通信号制御システムでは、緊急車両の走行を支援する目的で、交差点に接続する道路の上流側に光ビーコンを設置して緊急車両との間で路車間通信を行えるようにしておき、当該光ビーコンが緊急車両からアップリンク情報を受信したら、緊急車両が前記交差点に接近してきたと認識して、当該緊急車両の通行する方向の信号灯器を制御する(現在の表示が青信号なら緊急車両が通過し終えるまでその青信号をずっと延長し続け、赤信号ならできるだけ速やかに赤信号を青信号に切り替えて当該青信号を延長し続ける交通信号制御方法であり、以下「FAST制御」という。)という方法が用いられてきた。
【0003】
これにより、緊急車両が交差点で信号待ちをしなくても済むようにすることができる、あるいは、信号待ちする時間を短縮することができるため、緊急車両の走行をスムーズなものにすることができる。
このFAST制御は、緊急車両が通過できるまで青信号を表示し続けるという通常とは異なる動作をするため、緊急車両の通行する方向と交差する側の交通流において渋滞が発生する確率が高くなってしまうが、交差側の交通流をある程度犠牲にしてでも、緊急車両の社会的使命に配慮して、その走行を優先することを狙った交通信号制御方法である(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2008−158837号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この緊急車両の走行を支援する交通信号制御システムでは、緊急車両が幹線道路上を走行している場合、当該幹線上において互いに隣接する複数の交差点では、緊急車両が近づいた交差点から順次FAST制御を実行していく。ある交差点に近づいたらその交差点でFAST制御を行い、その交差点を通過後に、隣接する次の交差点に近づいたら、今度は当該次の交差点でFAST制御を実行する、といった順序で行われる。この場合、接近してきた交差点よりも遠方にある下流側の交差点では、原則として、緊急車両が近くまで来ないとFAST制御を始めることはない。
【0006】
前述のように、FAST制御を実行すると交差点の交差側道路で渋滞が発生しやすくなるというデメリットがあるため、周辺の交通流に対する影響に配慮して、緊急車両が通過するかどうか不確定な交差点(緊急車両が接近した交差点よりも以遠の交差点)では、FAST制御を実行しないのが一般的である。このように、FAST制御の実行対象を緊急車両が接近した交差点のみとすることで、緊急車両走行エリアにおける交通流全体への影響を限定的なものにすることができるのである。
【0007】
しかし、もし緊急車両の走行する幹線道路の進行方向前方において渋滞が発生していた場合には、たとえ緊急車両の接近してきた交差点の信号機を青信号にし続けたとしても、先詰まりの状態になっているため、緊急車両が前に進めないケースがある。
すなわち、単に緊急車両が接近してきた交差点でFAST制御を行うだけでは、緊急車両がスムーズに走行できないケースがありうる、という問題がある。
【0008】
そこで、本出願人は、緊急車両が接近してきた交差点でのFAST制御に加えて、緊急車両の進行先と予想される他の交差点において緊急車両の進行方向の青信号の表示期間(スプリット)を増加させて、緊急車両の進行先での渋滞が発生しにくくなるようにし、緊急車両が先詰まりにより進行を阻まれる、というケースを少なくすることが可能な交通信号制御システムを提案した(特願2008−263328)。
【0009】
前記提案済みの交通信号制御システムにおいて青信号の表示時間を増加させる場合に、緊急車両の進行先と予想される複数の交差点それぞれについて、どの程度青信号時間を増加させると良いかをきめ細やかに決定すれば、さらに高度な交通信号制御システムを実現することが可能となる。
本発明は、上記のような点に鑑みてなされたものであり、緊急車両がより一層スムーズに走行できるように支援する交通信号制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第一の発明にかかる交通信号制御システムは、第一の交差点において交通信号制御を行う第一の交通信号制御機と、当該第一の交通信号制御機に対する指示である第一の指令情報を送信する送信手段を備える信号制御装置と、前記第一の交差点に接続される道路上に設置された第一の路上通信装置とを備え、前記第一の路上通信装置が緊急車両からアップリンク情報を受信したことに応じて送信される前記第一の指令情報には、当該緊急車両の進行方向の青信号をその緊急車両が前記第一の交差点を通過し終えたと認識するまで延長し続ける制御方法であるFAST制御を実行するように指示する情報が含まれるシステムであり、前記送信手段は、さらに前記緊急車両が前記第一の交差点通過後に通過すると予想される第二の交差点に設置された第二の交通信号制御機に対して第二の指令情報を送信可能であり、前記アップリンク情報の受信に応じて送信される前記第二の指令情報には、前記緊急車両が進行すると予想される方向の青信号の表示期間を所定時間分増加させるように指示する情報が含まれており、この所定時間は前記第一の交差点と前記第二の交差点との地理的関係に応じて決定されることを特徴とするものである(請求項1)。
【0011】
この発明によれば、緊急車両が接近してきた交差点でのFAST制御に加えて、緊急車両の進行先と予想される他の交差点において緊急車両の進行方向の青信号の表示期間(スプリット)を増加させるため、緊急車両の進行する先で渋滞が発生しにくくなり、FAST制御を行っているにも関わらず緊急車両が先詰まりにより進行を阻まれる、というケースを少なくすることができるが、第二の交差点において増加させる青信号の表示時間を、FAST制御を実行する第一の交差点との地理的関係に応じて決定するため、青信号の増加時間を適切なものとすることが可能になる。
従って、FAST制御の実行効果をより一層高くするとともに、周囲の交通流への影響を限定的なものとすることができる。
【0012】
なお、ここにいう地理的関係とは、前記第一の交差点と第二の交差点との間の地理的な結びつきの強弱のことを指し、具体的には、両者の距離が近いか遠いか、両者の間に他の交差点がいくつ存在するか、前記緊急車両が前記第一の交差点通過後に進行方向を維持すれば第二の交差点にたどり着くか否か等の事情を勘案して判断されるものである。
前記第一の交差点と第二の交差点との距離が近い場合、両者の地理的な結びつきは強いと考えられる。また、両者間に存在する他の交差点が少ないほど地理的な結びつきは強いと考えられる。また、前記緊急車両が前記第一の交差点通過後に進行方向を維持すれば前記第二の交差点にたどり着くということであれば、両者の地理的な結びつきは強いと考えられる。
【0013】
このように地理的な結びつきが強いほど、前記緊急車両が前記第二の交差点を通過する可能性が高くなるため、当該緊急車両の進行先で先詰まりが発生しにくくなるように、増加させる青信号の表示時間を大きめにすることが望ましい。一方、地理的な結びつきの弱い交差点であれば、緊急車両の進行予想方向と交差する側の交通流に配慮して、増加させる青信号の表示時間を小さめにしておく方が良い。
なお、こういった地理的な結びつきの弱い交差点は、緊急車両が遠方にいる間は青信号の増加を小さめにするが、緊急車両が次第に近づくにつれてFAST制御を実行する交差点(第一の交差点)が順次隣接交差点に移動していき、FAST制御実行交差点が第二の交差点に近づいてくるため、FAST制御実行交差点と第二の交差点との地理的な結びつきが段階的に強くなっていくことになる。
従って、この第一の発明にかかる交通信号制御システムであれば、緊急車両が第二の交差点に近づくにつれて徐々に増加させる青信号の表示時間を大きくすることが可能になる。
【0014】
また、第二の発明にかかる交通信号制御システムは、第一の交差点において交通信号制御を行う第一の交通信号制御機と、当該第一の交通信号制御機に対する指示である第一の指令情報を送信する送信手段を備える信号制御装置と、前記第一の交差点に接続される道路上に設置された第一の路上通信装置とを備え、前記第一の路上通信装置が緊急車両からアップリンク情報を受信したことに応じて送信される前記第一の指令情報には、当該緊急車両の進行方向の青信号をその緊急車両が前記第一の交差点を通過し終えたと認識するまで延長し続ける制御方法であるFAST制御を実行するように指示する情報が含まれているシステムであり、前記送信手段は、さらに前記緊急車両が前記第一の交差点通過後に通過すると予想される第二の交差点に設置された第二の交通信号制御機に対して第二の指令情報を送信可能であり、前記アップリンク情報の受信に応じて送信される前記第二の指令情報には、前記緊急車両が進行すると予想される方向の青信号の表示期間を所定時間分増加させるように指示する情報が含まれており、前記信号制御装置は、さらに前記緊急車両が前記第二の交差点を通過する確率を算出する算出手段を備え、算出された前記確率に応じて前記所定時間が決定されることを特徴とするものである(請求項2)。
【0015】
この第二の発明は、第一の発明と同様に、緊急車両が接近してきた交差点でのFAST制御に加えて、緊急車両の進行先と予想される他の交差点において緊急車両の進行方向の青信号の表示期間(スプリット)を増加させるため、緊急車両の進行する先で渋滞が発生しにくくなり、FAST制御を行っているにも関わらず緊急車両が先詰まりにより進行を阻まれる、というケースを少なくすることができるが、第二の交差点において増加させる青信号の表示時間を、緊急車両が第二の交差点を通過する確率に応じて決定するため、青信号の増加時間を適切なものとすることが可能になる。
緊急車両が通過する確率の高い交差点では、青信号の増加を大きくすることが望ましく、一方、確率の低い交差点では、青信号の増加を小さめにすることが望ましい。
緊急車両が通過する確率が高い場合には、交差側の交通流に対する影響が大きくても、緊急車両の行く手を阻む先詰まりが発生しにくくなるようにすべきであるから、青信号の増加時間を大きくする必要があるが、確率の低い交差点については、交差側の交通流に対する影響に配慮して青信号の増加時間を小さくしておく方が良い。
【0016】
なお、緊急車両が交差点を通過しながら進行するに連れて各交差点を通過する確率が変動するから、確率が高くなったらその確率に応じてその時点で青信号の増加時間を大きく、逆に確率が低くなったらその確率に応じて青信号の増加時間を小さくすれば良い。
【0017】
なお、これら第一および第二の交通信号制御システムにおいて、前記送信手段は、前記信号制御装置が制御の対象とする複数の交通信号制御機が複数のサブエリアにグループ化されている場合に、一のサブエリアに属する交通信号制御機が複数の場合にこれらの交通信号制御機の所定の方向の青信号の開始時刻に適切なオフセットを与えて系統的に動作するように指示するようにしている場合には、前記アップリンク情報の受信に応じて前記第二の交通信号制御機と同一のサブエリアに属する第三の交通信号制御機に対して送信される第三の指令情報には、前記第二の交通信号制御機において青信号の表示時間が増加する方路に対応した方路の青信号時間を前記所定時間分増加させるように指示する情報が含まれることが望ましい(請求項3)。
【0018】
第二の交通信号制御機において青信号時間を増加させると、その分だけ各サイクルの第二の交通信号制御機の青信号の開始時刻が遅れることになる。第二の交通信号制御機の属するサブエリアにおいて適切なオフセットを与えて系統制御を実施していたのであれば、第二の交通信号制御機の青信号時間の増加に応じて、当該サブエリアに属する他の交通信号制御機の青信号時間も増加させてオフセットの値が適切に保たれるようにした方が良い。そうすることで、サブエリア内の系統制御が維持され、サブエリア内の交通流の円滑が担保される。
【0019】
ここにいう「前記第二の交通信号制御機において青信号の表示時間が増加する方路に対応した方路」とは、緊急車両が通過すると予想される交差点においては緊急車両の進行方向の方路を指し、緊急車両が通過しないと予想される交差点においては、通常は、緊急車両の進行方向と同一の方角の方路を指す。というのも、同一サブエリア内の複数の交通信号制御機に適切なオフセットを与える場合、一の交通信号制御機のある方路の青信号時間を増加させた場合には、他の交通信号制御機についても、その方路と同じ方角の方路の青信号を増加させなければサブエリア内のオフセットが適切に保たれないためである。
なお、ここで第三の交通信号制御機において増加させる青信号時間は、第二の交通信号制御機において増加させる前記所定時間と全く同一の時間でなくてもよい。例えば第二の交通信号制御機において増加させる時間が20秒なら、第三の交通信号制御機において増加させる時間は16秒(あるいは22秒)等という風に多少相違していても良く、動作するサイクル長等に応じて道路R2に与えるオフセット値が適切なものであれば良い。
【0020】
なお、本発明の交通信号制御システムに用いられる信号制御装置も大変有用である(請求項4)。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明の交通信号制御システムや信号制御装置によれば、FAST制御の実行効果をより一層高くし、緊急車両の走行を強力に支援することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明に係る交通信号制御システムにおけるシステム構成の概要を示す模式図である。
【0023】
〔システムの全体構成〕
図1のように、道路R1上には連続して4つの交差点A乃至Dが配置されている。
そして、この4つの交差点には、道路R1上を下り方向(交差点Aから交差点Dに向かう方向を下り方向という。)に進行する車両に対して通行権を表示する信号灯器が設置されており、さらにその信号灯器を制御する交通信号制御機1A乃至1Dが設置されている。
また、下り方向の車線には、下り方向に進行する車両との間で路車間通信を行うために、光ビーコン2A乃至2Dが設置されており、それぞれ交差点A乃至Dに流入する車線の上流側に配置されている。
【0024】
これら交通信号制御機1A乃至1Dや光ビーコン2A乃至2Dは、通信回線等を通じて交通管制センターに設置された信号制御装置5との間で情報をやりとりすることができるようになっており、交通信号制御機1A乃至1Dは、信号制御装置5に対して制御履歴に関する情報等を送信する機能を備えている。また、光ビーコン2A乃至2Dは、路車間通信により車両から受信したアップリンク情報を信号制御装置5宛に送信する機能を備える。このアップリンク情報には車両の車両IDが含まれており、この車両IDによって当該車両の車種等を判別することが可能である。
なお、光ビーコン2A乃至2Dからアップリンク情報を受信するのは、信号制御装置5でなくてもよく、信号制御装置5と同一のネットワークに接続されている情報提供装置等(図示せず)であっても良い。この場合、アップリンク情報を受信した前記情報提供装置等が信号制御装置5に当該アップリンク情報を転送等すれば良い。
【0025】
信号制御装置5は、各交通信号制御機に対して、信号灯器の制御についての信号制御指令情報を送信しており、その信号制御指令情報を受信した交通信号制御機は、当該信号制御指令情報に基づいて青信号の時間配分等を決定し、信号灯器の各信号灯色を点灯等する。
通常、この信号制御指令情報には1サイクル分の信号表示についての指示が含まれており、具体的には、1サイクルのサイクル長、各方路に割り当てる青信号の時間であるスプリット、1サイクルの開始時刻と基準時刻とのズレであるオフセット、右折感応制御やジレンマ感応制御等の地点感応制御実行可否についての指示等が含まれている。この信号制御指令情報を受信した交通信号制御機は、1サイクルの開始直前の時点で到着している最新の信号制御指令情報に基づいて、当該1サイクルにおける信号制御プランを決定し、当該信号制御プランに含まれる各信号灯色の表示時間に従って各信号灯器を制御する。
【0026】
このサイクルやスプリット等は、通常、各交差点付近の交通状況に応じて決定される。交通状況は、道路R1等に設置される複数の車両感知器(図示せず)で計測され、信号制御装置5が収集する感知器情報(交通量や占有時間等を含む情報)に基づいて判断される。
例えば、所定期間における交通量(例えば5分間の交通量)や平均走行速度によって各道路における飽和度等の交通需要を把握し、その交通需要に応じて互いに交差する各道路に割り当てる青時間の長さ等を決定する。
なお、1サイクルとは、信号機の表示が一巡する期間のことを指し、通常は主道路側に対して青信号の表示を開始した時から、再び主道路側に対して青信号の表示を開始する直前までの期間をいう。
【0027】
ここで、信号制御装置5は、各交通信号制御機に対してFAST制御を実行するように命じる実行指示情報(緊急車両の接近を通知する情報)を作成して送信することができる。このFAST制御を実行するように指示された交通信号制御機は、前記実行指示情報を受信したら、直ちにFAST制御モードに移行する。
すなわち、道路R1の車両に対して青信号を表示しているのであれば、その青信号を表示することが許される最大延長秒数(通常は100秒程度)一杯まで延長可能なように制御する。また、道路R1の車両に対して赤信号を表示しているのであれば、その赤信号を最低でも表示しなければいけない最低保証秒数(通常は10秒程度)で早急に打ち切って(既に最低保証秒数以上赤信号を表示していたのであれば直ちに打ち切って)、青信号に切り替えると共に、当該青信号を最大延長秒数一杯まで延長可能なように制御する。
【0028】
なお、信号制御装置5は、緊急車両Pが交差点を通過し終えたと判断した場合には、FAST制御を実行するように命じた交通信号制御機に対して、FAST制御を停止するように指示する停止指示情報(緊急車両の通過を通知する情報)を送信する。この停止指示情報を受信した交通信号制御機は、FAST制御モードを終了し、通常の制御状態に移行する。
例えば、前記実行指示情報を受信する前に予定していた青信号の表示予定時間が30秒であったのに対し、FAST制御モードに移行したために30秒を超えて青信号を表示し続けていたのであれば、直ちに青信号の表示を打ち切る。また、青信号を表示し始めてから30秒未満の状態で前記停止指示情報を受信したのであれば、FAST制御を実行する前の予定に従って、青信号を表示し始めてから30秒間は青信号を継続するように制御する。
【0029】
〔FAST制御の実行手順〕
図1の交通信号制御機1Aでは、その交差点の上流側に位置する光ビーコン2Aからのアップリンク情報に基づいて、FAST制御が実行される。そして、交差点Aを通過した後、光ビーコン2Bからのアップリンク情報に基づいてFAST制御を停止する。これらの手順を以下に説明する。
まず、光ビーコン2Aは、路車間通信によってアップリンク情報を受信するとただちに信号制御装置5に送信する。
信号制御装置5は図4に示すような構成であり、通信インタフェース521を通じて常時これらのアップリンク情報を受信できるようになっており、受信したアップリンク情報は受信時刻と共に、メモリ511やハードディスク512等の記憶部に蓄積していく。
この場合、信号制御装置5のCPU501等の演算部は、受信したアップリンク情報の車両ID情報を参照し、当該車両ID情報の車種に関する情報を取得する。なお、車両IDは数値や文字列によって構成されており、その車両IDに含まれる数値等に基づいてその車両の車種を識別することが可能となっている。
【0030】
前記取得した車両の車種が緊急車両を示すものである場合には、前記アップリンク情報に含まれている、緊急走行中かどうかを示すデータ、を参照し、当該緊急車両Pが緊急走行中であるか否かを取得する。
もし、緊急走行中であれば、信号制御装置5は交差点AにおいてFAST制御を実行すべき状況であると判断する。なお、ここで述べた以外の条件(例えば時間帯や交通状況等)を考慮するとFAST制御を実行すべきではないと判断される場合には、FAST制御を実行しない場合があっても良い。例えば、信号制御装置5の記憶部に予めFAST制御を実行すべき時間帯が設定されている場合には、当該時間帯以外の時間帯であればFAST制御を実行しないことがあっても良い。
【0031】
このようにして、光ビーコン2Aにおいて、緊急走行中の緊急車両Pからアップリンク情報を受信し、交通信号制御機1Aに対してFAST制御の実行を命じるべきと判断した場合、信号制御装置5は、FAST制御の実行を命じる実行指示情報を作成して、交通信号制御機1Aに対して送信する。
この情報を受信した交通信号制御機1Aは、前述の通り、実行指示情報受信時に道路R1の車両に対して青信号を表示していたのであれば、当該青信号を最大延長秒数一杯まで延長可能なように制御し、一方、赤信号を表示しているのであれば、その赤信号を最低保証秒数で打ち切って青信号に切り替えた後、当該青信号を最大延長秒数一杯まで延長可能なように制御する。そして、FAST制御の実行を開始した旨の通知情報を信号制御装置5に対して送信する。
【0032】
緊急走行中の緊急車両Pは、交差点Aを通過すると、今度は光ビーコン2Bとの間で光ビーコン2Aと同様に路車間通信を行い、アップリンク情報を送信する。そして、光ビーコン2Bは、緊急車両Pから得たアップリンク情報を直ちに信号制御装置5に送信する。
交通信号制御機1AがFAST制御を実行している間に、光ビーコン2Bから緊急車両Pのアップリンク情報を受信したら、信号制御装置5は、緊急車両Pが交差点Aを通過し終えたと判断し、交通信号制御機1Aに対してFAST制御を停止するよう指示する停止指示情報を送信する。
交通信号制御機1Aは、前述の通り、停止指示情報を受信するとFAST制御を中止し、通常通りの制御を再開する。
【0033】
また、光ビーコン2Bからのアップリンク情報の受信により、緊急走行中の緊急車両Pが交差点Bに接近したと判断できるため、信号制御装置5は、今度は、交通信号制御機1Bに対してFAST制御を実行するように指示する実行指示情報を送信する。
このようにして、緊急車両Pが道路R1を下り方向に進行する間に、交差点A乃至Dにおいて順次FAST制御が実行される。
【0034】
〔FAST制御実行交差点以遠の交差点における交通信号制御方法〕
前述の通り、緊急走行中の緊急車両Pが交差点Aに接近した場合、信号制御装置5は交通信号制御機1Aに対して実行指示情報を送信してFAST制御を実行させるが、本発明の交通信号制御システムでは、交差点B乃至交差点Dに設置された交通信号制御機1B乃至1Dに対しても別途交通信号制御に関する指示を与える。
【0035】
具体的には、緊急車両Pの進行方向である道路R1の下り方向の青信号を通常時よりも予め設定されている所定時間(例えば10秒)分だけ長くするように指示する信号制御指令情報を作成し、交通信号制御機1B乃至1Dに対して送信する。
例えば、交差点B等付近に設置される車両感知器(図示せず)から収集される感知器情報から把握される交通需要に応じて、一旦、交差点B乃至Dにおいて道路R1方向の青時間が40秒、道路R1と交差する方向の青時間が30秒と決定された場合、信号制御装置5は、交差点AでFAST制御を実行しているのであれば、道路R1方向の青時間を50秒、道路R1と交差する方向の青時間を20秒と変更して、信号制御指令情報を作成し、交通信号制御機1B乃至1Dに対して送信する。なお、この場合、道路R1方向の青時間のみを50秒に増加させ、道路R1と交差する方向の青時間を30秒のままとしても良い。この場合のサイクル長は、通常の場合に比べて10秒分長く設定される。
【0036】
このように、FAST制御を実行する交差点Aよりも以遠の交差点であって、緊急車両Pが通過する可能性の高い交差点B乃至Dにおける道路R1の下り方向(緊急車両Pが進行すると予想される方向)の青信号を通常よりも所定時間増加させるように指示することで、緊急車両Pが通過すると予想される方向の道路上での渋滞が発生しにくくなる。あるいは、既に渋滞が発生している場合には、その渋滞を解消するように制御することができる。
【0037】
この場合、交差点Aと同時に交差点B等でもFAST制御を実行する方法が考えられるが、交差点B乃至Dでは緊急車両Pが通過し終えるまでに時間がかかるため、交差点B乃至Dにおいて道路R1と交差する道路に対して長時間赤信号を表示し続けることになり、当該交差側道路が渋滞する可能性が高くなってしまう。
しかし、本発明の交通信号制御システムであれば、道路R1方向の青時間を通常よりも長めに設定するだけであるので、緊急車両Pの進行方向の交通流を円滑なものにして緊急車両Pが先詰まりによって進行を阻まれる確率を低減しつつ、緊急車両Pの予定進路と交差する側の道路の交通流に対する影響を必要限度にとどめることが可能となる。
【0038】
〔青信号の増加時間の決定方法〕
ここで、もし、緊急車両Pが交差点Aで左折等してしまった場合には、交差点B等の信号制御方法を、緊急車両Pを優先的に通過させるために変更することは無益となってしまうという問題がある。本発明の場合には、交差点Aと同時に交差点B等においてFAST制御を実行した場合に比べて交差点B等における交差側道路の交通流に対する影響を必要限度にとどめてはいるが、さらにきめの細かい制御をする方が好ましい。
【0039】
そこで、各交差点における青信号の増加時間を、交差点Aとの地理的関係に応じて決定する。
例えば、交差点Bは、緊急車両Pの進行方向における交差点Aの直近の交差点に該当するため、交差点Aにおいて右折もしくは左折しなければ必ず通過するという関係に立ち、緊急車両Pが通過する確率は非常に高いと考えられる。従って、交差点Bは交差点Aとの地理的な結び付きが強いと考えられる。
それに比べて、例えば交差点Cの場合、FAST制御を行う交差点である交差点Aとは、間に交差点を1つ(交差点B)挟んだ関係を有するから、交差点A又は交差点Bのどちらか一方で右折もしくは左折した場合には通過しないことになり、交差点Bに比べて確率が低くなる。すなわち、その分だけ交差点Bの場合に比べて交差点Aとの地理的な結び付きが弱い関係を有すると言える。
同様に、交差点Dは、間に交差点を2つ(交差点Bおよび交差点C)挟んだ地理的関係を有することになるから、交差点Cの場合に比べてさらに低い確率となり、交差点Cに比べて交差点Aとの地理的な結び付きがさらに弱い関係を有する。
【0040】
このように、FAST制御を実行する交差点Aとの間の地理的関係と緊急車両Pが通過する確率との相関に着目し、この地理的結び付きの強弱に応じて各交差点における青信号の増加時間を決定する。この例であれば、例えば、最も地理的結び付きの強い交差点Bの増加時間を30秒とし、交差点Cを25秒、交差点Dを20秒、などと決定することができる。
そして、交差点Aの通過後、光ビーコン2Bとの路車間通信によって緊急車両Pが交差点Bに接近したと確認できたら、今度は、交差点Bの交通信号制御機1Bに対してFAST制御の実行を指示する指示情報を送信するとともに、交差点Bとの地理的結び付きの強い交差点Cに青信号を30秒増加するように指示する。同様に、交差点Dに対しては青信号を25秒増加するように指示する。
このように、各交差点と緊急車両P(緊急車両Pの接近に伴ってFAST制御を実行する交差点)との距離が近づくに連れて、段階的に青信号の増加時間を大きくしていく。
【0041】
このようにすれば、例えば、交差点B乃至交差点Dの青信号を一斉に30秒増加させる場合に比べて、緊急車両Pがいずれかの交差点で右折又は左折して道路R1から外れた場合の影響を限定的なものにとどめることができるようになる。
【0042】
なお、緊急車両Pが交差点を通過する確率に応じて青信号の増加時間を決定するようにしても良い。例えば、最近通過した複数の緊急車両(例えば100台など)の進路を基に、緊急車両Pが各交差点を通過する確率を算出し、その確率に応じた時間だけ青信号を増加させても良い。
例えば、道路R1上を交差点Aに接近する緊急車両の進路を統計処理すると、交差点Bを通過する確率は90%、交差点Cは75%、交差点Dは30%だったとする。この場合、交差点Bの青信号時間を30秒増加させたのであれば、緊急車両の通過する確率に応じて、交差点Cは25秒、交差点Dは10秒増加させるといった方法を用いることができる。
【0043】
〔サブエリアを考慮した交通信号制御方法〕
交通信号制御システムでは、信号制御装置5が制御の対象とする複数の交通信号制御機をいくつかのグループ(当該グループのことをサブエリアという。)に分けて、各サブエリアに属する交通信号制御機に対しては、同一のサイクル長で動作するように指示する信号制御指令情報を送信するという交通信号制御方法が用いられることがある。
同一のサイクル長で動作させることで、当該サブエリア内の交通信号制御機が青信号を表示している時間帯にこれらの交通信号制御機の設置された全ての交差点を、できるだけ多くの車両が通過できるように、交通信号制御機間の信号表示開始時刻に適切なオフセットを持たせる系統制御を行うことが可能になる。
【0044】
図1をもう少し広域に図示した図2において、例えば緊急車両Pが交差点Aに接近したことに応じて交通信号制御機1Aに対してFAST制御を指示すると共に、交差点B乃至Hの交通信号制御機1B乃至1Hに対して道路R1方向の青信号時間の増加を指示した場合を考える。
図2中の楕円又は円は、サブエリアの構成を示したものである。例えば、図3は交差点D乃至交差点Fの交通信号制御機1D乃至1Fの道路R1方向の青信号の表示開始時間に適切なオフセットを与えて、系統制御する概念を示す図である。この図3では、交差点Dから交差点Fに向かう方向のスルーバンドを確保するように、系統制御が行われている。
【0045】
本発明においては、このサブエリアの構成に配慮して制御することが好ましい。
例えば、同一のサブエリアに属する交通信号制御機に対して、異なる時間だけ青信号を増加させるように指示した場合(交差点Dには20秒、交差点Eには15秒)、赤信号時間の長さ(交差側に表示する青信号時間の長さ)を変えなければ、交差点Dと交差点Eのサイクル長が異なってしまう。そうすると、交差点Dと交差点Eは1サイクル毎にオフセットがずれていき、意図した通りの系統制御ができなくなってしまう。
そこで、同一のサブエリアに属する交差点については、増加させる青信号時間の長さを同一にしておくことが望ましい。
図2のような構成であれば、例えば、交差点Bで30秒、交差点Cで25秒、交差点D乃至交差点Fで20秒、交差点Gと交差点Hで10秒、などというように青信号時間を増加させると良い。
そうすることで、系統制御によって交通流の円滑を維持しつつ、緊急車両Pの走行を支援することが可能となる。
【0046】
なお、本発明における信号制御装置5や交通信号制御機1等は、1の筐体によって実現されていても良いし、複数の筐体の組み合わせによって実現されても良い。また、これらは、それぞれ1つのコンピュータによって実現されていても良いし、複数のコンピュータを組み合わせて実現されていても良い。
【0047】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る交通信号制御システムの機器配置の概要を示す模式図である。
【図2】本発明に係る交通信号制御システムが制御対象とする複数の交差点の配置とサブエリア構成例を示す図である。
【図3】本発明に係る交通信号制御システムの道路R1における系統制御の様子を示す図である。
【図4】信号制御装置5の構成の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
1A乃至1D 交通信号制御機
2A乃至2D 光ビーコン
5 信号制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の交差点において交通信号制御を行う第一の交通信号制御機と、
当該第一の交通信号制御機に対する指示である第一の指令情報を送信する送信手段を備える信号制御装置と、
前記第一の交差点に接続される道路上に設置された第一の路上通信装置とを備え、
前記第一の路上通信装置が緊急車両からアップリンク情報を受信したことに応じて送信される前記第一の指令情報には、当該緊急車両の進行方向の青信号をその緊急車両が前記第一の交差点を通過し終えたと認識するまで延長し続ける制御方法であるFAST制御を実行するように指示する情報が含まれている交通信号制御システムにおいて、
前記送信手段は、さらに、
前記緊急車両が前記第一の交差点通過後に通過すると予想される第二の交差点に設置された第二の交通信号制御機に対して第二の指令情報を送信可能であり、
前記アップリンク情報の受信に応じて送信される前記第二の指令情報には、前記緊急車両が進行すると予想される方向の青信号の表示期間を所定時間分増加させるように指示する情報が含まれており、
前記所定時間は、前記第一の交差点と前記第二の交差点との地理的関係に応じて決定されること
を特徴とする交通信号制御システム。
【請求項2】
第一の交差点において交通信号制御を行う第一の交通信号制御機と、
当該第一の交通信号制御機に対する指示である第一の指令情報を送信する送信手段を備える信号制御装置と、
前記第一の交差点に接続される道路上に設置された第一の路上通信装置とを備え、
前記第一の路上通信装置が緊急車両からアップリンク情報を受信したことに応じて送信される前記第一の指令情報には、当該緊急車両の進行方向の青信号をその緊急車両が前記第一の交差点を通過し終えたと認識するまで延長し続ける制御方法であるFAST制御を実行するように指示する情報が含まれている交通信号制御システムにおいて、
前記送信手段は、さらに、
前記緊急車両が前記第一の交差点通過後に通過すると予想される第二の交差点に設置された第二の交通信号制御機に対して第二の指令情報を送信可能であり、
前記アップリンク情報の受信に応じて送信される前記第二の指令情報には、前記緊急車両が進行すると予想される方向の青信号の表示期間を所定時間分増加させるように指示する情報が含まれており、
前記信号制御装置は、さらに、
前記緊急車両が前記第二の交差点を通過する確率を算出する算出手段を備え、
算出された前記確率に応じて前記所定時間が決定されること
を特徴とする交通信号制御システム。
【請求項3】
前記送信手段は、
前記信号制御装置が制御の対象とする複数の交通信号制御機が複数のサブエリアにグループ化されている場合に、一のサブエリアに属する交通信号制御機が複数の場合にこれらの交通信号制御機の所定の方向の青信号の開始時刻に適切なオフセットを与えて系統的に動作するように指示するものであり、
前記アップリンク情報の受信に応じて前記第二の交通信号制御機と同一のサブエリアに属する第三の交通信号制御機に対して送信される第三の指令情報には、前記第二の交通信号制御機において青信号の表示時間が増加する方路に対応した方路の青信号時間を前記所定時間分増加させるように指示する情報が含まれること
を特徴とする請求項1又は2に記載の交通信号制御システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1つに記載の交通信号制御システムに用いられる信号制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−102476(P2010−102476A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272800(P2008−272800)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】