説明

交通信号制御装置、コンピュータプログラム及び交通信号制御方法

【課題】渋滞が発生している場合であっても、優先車両の遅延を低減させることができる交通信号制御装置、コンピュータプログラム及び交通信号制御方法を提供する。
【解決手段】交通信号制御装置1は、路線バスBの現在位置を取得し、現在位置から停止予定の停留所Sまでの予測所要時間Tを算出する。そして交通信号制御装置1は少なくとも、算出した予測所要時間Tが経過するまで、路線バスBの進行方向に対応する交差点C1,C2夫々の信号灯器5,5における青時間が継続するように信号表示を制御する。これにより、路線バスBは遅滞なく停留所Sへ到着することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優先車両の走行を優先させる交通信号制御に関する。特に、渋滞発生時であっても優先車両の遅延を低減させることができる交通信号制御装置、コンピュータプログラム及び交通信号制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
交通状況に応じて交差点での信号制御を的確にし、交通渋滞を減少させる交通管制システムが運用されている。交通渋滞を減少させることで交通流をスムーズにし、交通事故の減少が期待され、旅行時間の短縮により省エネルギーにもつながる。
【0003】
交通管制システムでは、路線バス、路面電車などの公共輸送機関、物流トラック等の遅滞のない運行が望まれる優先車両については感知器、光ビーコンで検知し、青信号の終了直前に交差点に優先車両が接近する場合には、優先車両を停止させることなく通過させるために青信号の表示時間の延長制御を行なうようにする感応制御が実現されている(非特許文献1、非特許文献2)。
【非特許文献1】「改訂 交通信号の手引き」 編集・発行 社団法人 交通工学研究会(16〜18頁、68〜76頁)
【非特許文献2】社団法人 新交通管理システム協会、“交通管制システムの構成−制御−信号制御の効果的な運用”、[online]、[平成20年1月18日検索]、インターネット〈URL:http://www.utms.or.jp/japanese/cont/seigyo/index4.html〉
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術により、交差点に進入しようとする優先車両を停止させずに通過させることが期待できる。しかしながら、優先車両の進行方向であって当該交差点よりも更に前方で交通流が滞っている場合、青時間が延長されていても優先車両が進行できないときがある。
【0005】
また、優先車両は停止線以外の所定の場所に停止することが必要な場合がある。例えば優先車両が路線バスである場合、交差点よりも手前のバス停留所に停止する必要がある。渋滞の発生時は特に、路線バスがバス停留所に到着する前に進行方向の交差点の信号機が赤表示になった場合、路線バスは信号待ちの車列に巻き込まれてバス停留所の手前で停止することとなる。したがって、次に信号機が青表示になるまで路線バスはバス停留所まで到着できず、停止すべきバス停留所以外での無駄な停止期間が生じる。このため、定期運行がされるべき路線バスの遅延が増大する。またこの場合、次の青時間に路線バスがバス停留所で停止するので、青表示がされていても路線バスの後続車の進行に影響し、渋滞を更に増大させる可能性がある。
【0006】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、優先車両の遅延を低減させることができる交通信号制御装置、コンピュータを前記交通信号制御装置として動作させるコンピュータプログラム及び交通信号制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明に係る交通信号制御装置は、交差点に設置された信号機における信号表示を、前記交差点への進入路を走行する優先車両の位置情報に基づいて制御する交通信号制御装置において、前記交差点よりも手前の所定位置に前記優先車両が到着するまでの所要時間を算出する算出手段と、前記優先車両が走行中の進入路に対する信号機の青時間が、少なくとも前記所要時間が経過するまで継続するように調整する青時間調整手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
第2発明に係る交通信号制御装置は、前記優先車両の進行方向の道路における渋滞情報を取得する手段を備え、前記道路で渋滞が発生している場合に、前記青時間調整手段により青時間を調整するようにしてあることを特徴とする。
【0009】
第3発明に係る交通信号制御装置は、前記青時間調整手段は、前記優先車両の進行方向の道路上に存在する複数の交差点に設置されている信号機の一部又は全部の青時間を調整するようにしてあることを特徴とする。
【0010】
第4発明に係る交通信号制御装置は、前記信号機には青時間の延長上限時間が設定してあり、前記算出手段が算出した所要時間が経過するまでの時間が、前記延長上限時間を超過するか否かを判断する判断手段を備え、前記青時間調整手段は、前記判断手段が超過しないと判断した場合に調整するようにしてあることを特徴とする。
【0011】
第5発明に係る交通信号制御装置は、前記優先車両は路線バスであり、前記所定位置はバス停留所であることを特徴とする。
【0012】
第6発明に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに、交差点に設置された信号機の信号表示を、前記交差点への進入路を走行する優先車両の位置情報に基づいて制御させるコンピュータプログラムにおいて、コンピュータを、前記交差点よりも手前の所定位置に前記優先車両が到着するまでの所要時間を算出する算出手段、及び、前記優先車両が走行中の進入路に対する信号機の青時間が、少なくとも前記所要時間が経過するまで継続するように調整する青時間調整手段として機能させることを特徴とする。
【0013】
第7発明に係る交通信号制御方法は、交差点に設置された信号機の信号表示を、前記交差点への進入路を走行する優先車両の位置情報に基づいて制御させる交通信号制御方法において、前記交差点よりも手前の所定位置に前記優先車両が到着するまでの所要時間を算出し、前記優先車両が走行中の進入路に対する信号機の青時間が、少なくとも前記所要時間が経過するまで継続するように調整することを特徴とする。
【0014】
第1発明、第6発明及び第7発明では、優先車両の進行方向にある交差点に設置された信号機で、優先車両が交差点よりも手前の所定位置に到着するまでに要するであろう所要時間が経過するまでは少なくとも、青時間が継続する。したがって、優先車両は青表示がされている間に停止することなく所定位置に到着し、次に青表示がされる際には発進及び交差点の通過が可能となる。これにより、停止すべき所定位置以外の地点で停止することによる優先車両の遅延の増大を防止することができる。優先車両は、信号機で赤表示がされている間に所定位置で停止する確率が増加するので、青時間に進行可能であるにも拘らず停止することによって後続車両の進行を妨げる確率を低下させることができる。
【0015】
第2発明では、優先車両の進行方向の道路で渋滞が発生しており、優先車両の前方で優先車両の進行を妨げている車列が存在する場合に、青時間の調整が行なわれる。渋滞が発生している場合は特に信号待ちの車列が長くなり、優先車両は所定位置よりも手前で停止せざるを得なくなる確率が大きくなるところ、少なくとも前記所要時間が経過するまでは青時間が継続する。したがって、渋滞が発生して前方が詰まる可能性が高い場合であっても、優先車両が所定位置以外の地点で停止することが低減され、優先車両の遅延の増大を防止することが可能となる。
【0016】
第3発明では、優先車両の進行方向の道路の最初に存在する交差点の信号機のみならず、それ以降に存在する交差点の信号機も含めた複数の交差点に設置されている複数の信号機の内の一部又は全部で、少なくとも前記所要時間が経過するまでは青時間が継続するように調整が行なわれる。これにより、優先車両の前方の車列が、最初に存在する交差点で青信号が表示されており進行可であるにも拘らず、更に前方で渋滞している車列に妨げられて進行できず、結果的に優先車両が所定位置までスムーズに到着できない事態が回避される。
【0017】
第4発明では、青時間の延長に上限が設けられることで交通流の混乱が回避されると共に、上限まで青時間を継続した場合であっても優先車両が所定位置に到着できないときには、青信号時間の調整を行なわない。これにより、優先車両を優先させる信号制御によってかえって渋滞の発生を招く事態が回避される。
【0018】
第5発明では、路線バス等の公共輸送機関は遅滞なく定期運行すべきであるところ、路線バスが停留所へ到着するまでの距離分は前方の車列が進行するように交差点の信号表示が制御される。これにより、バス停留所手前で路線バスが信号待ちの車列に巻き込まれて停止することなくスムーズに停留所に到着することが可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明による場合、優先車両が少なくとも前方の交差点における停止線よりも手前の所定位置に到着するまでは、優先車両の前方の交通流を流すように信号表示を制御する。これにより、優先車両が停止すべき所定位置以外の地点で信号待ちの車列に巻き込まれて停止することなく所定位置に遅滞なく到着することができる。優先車両は、信号機で赤表示がされている間に所定位置で停止する確率が増加するので、青時間の後続車両の進行を妨げる確率を停止させることができ、渋滞の発生を抑止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
【0021】
図1は、本実施の形態における交通信号制御装置による信号制御の概要を示す模式図である。図1の模式図は、路線バスBの走行道路の略示上面図を表わしている。図1中の1は、交通信号制御装置であり、交差点C1,C2から遠隔地にある交通管制センター内に設置されている。なお、交通信号制御装置1は、交差点C1,C2の信号灯器5,5近傍であって路側に設置される交通信号制御機4によって実現されてもよい。図1中の2,2,…は、路側に設置されて路線バスBを含む各車両に搭載されている車載装置3,3,…から送信される情報を受信し、交通管制センターの交通制御装置1及び交通信号制御機4へ送信する通信装置である。通信装置2,2,…は、ネットワークNを介して交通信号制御装置1へ通信可能に接続されている。通信装置2,2,…は交通信号制御機4へ直接接続されている構成としてもよい。また、通信装置2,2,…及び交通信号制御装置1間は、無線通信により通信が実現される構成としてもよい。交通信号制御機4,4,…は、信号灯器5,5,…における青色灯、黄色灯、赤色灯、青矢印等の信号表示を制御する。交通信号制御機4,4,…は夫々、交通管制センターの交通信号制御装置1に接続されている。
【0022】
交通信号制御機4,4,…は基本的に、交通信号制御装置1で集中制御が実行されることで送信される制御信号を受け付け、制御信号に応じて信号灯器5,5,…における信号表示を制御するように構成されている。そして、図1中のBで示されている路線バス等の優先車両が交差点に進入してきた場合、図示しない感知器又は通信装置2,2,…からの通知により優先車両の進入を検知し、優先的に交差点を通過させるために青信号の時間を延長させるように制御を行なうようにしてある。例えば、図1の模式図に示される例では、交差点C1における路線バスBの進行方向に対応する信号灯器5の信号表示を制御する交通信号制御機4は、路線バスBの進入を検知した時点で青信号を表示させている場合、青時間を延長する。これにより、路線バスBにスムーズに交差点C1を通過させて路線バスBの遅滞なき定期運行の実現が期待される。
【0023】
しかしながら、図1の模式図における路線バスBは交差点C1を通過する以前に、交差点C1よりも手前、即ち交差点C1における路線バスBの進行方向の信号灯器5に対応する停止線よりも手前の停留所Sへ停止しようとしている場合がある。この場合、交差点C1を路線バスBが通過することは必ずしも優先されるべきことでなく、路線バスBが停留所Sよりも手前で無駄に信号待ちによって停止しないように、信号灯器5における信号表示が制御されることが求められる。図1の模式図に示す例では、路線バスBから停留所Sへの距離は自動車4台分に相当する程度であり、図1の模式図の例のまま進行方向の交差点C1で対応する信号灯器5が黄信号、赤信号の表示に移行した場合、路線バスBは停留所Sの直前で無駄に停止する。この場合、次に青信号の表示が開始されたときに路線バスBは停留所Sで停止し、更に次の青信号の表示が開始されるまで交差点C1を通過できない可能性があり、路線バスBの運行に遅延が発生する要因となり得る。更に、次に青信号の表示が開始されたときに路線バスBが停留所Sで停止するので、交差点C1の進行方向の信号灯器5で青信号が表示されているにも拘わらず路線バスBの後続車両は進行することができず、渋滞を増大させることにもなる。
【0024】
そこで、本実施の形態における交通信号制御装置1は、少なくとも路線バスBが停留所Sへ到着するまでは、交差点C1の進行方向に対応する信号灯器5における青信号表示が継続するように青時間を調整し、路線バスBの前方の車列に交差点C1を通過させるようにする。
【0025】
また、図1の模式図に示す例では、路線バスBの進行方向の最初に存在する交差点C1よりも更に先にある交差点C2を先頭に、路線バスBの現在位置に至るまで渋滞が発生している。この場合、交差点C1における路線バスBの進行方向に対応する信号灯器5の交通信号制御機4で青時間が延長されたとしても、交差点C2における信号灯器5で赤信号が表示されている間は路線バスBの前方の車列が進行できない。したがって路線バスBは進行できず、停留所Sへスムーズに到着できない。
【0026】
そこで、本実施の形態における交通信号制御装置1は、路線バスBの進行方向の最初に存在する交差点C1の信号灯器5のみならず、交差点C1以降に存在する交差点C2の路線バスBの進行方向に対応する信号灯器5における青時間についても、少なくとも路線バスBが停留所Sへ到着するまでは青時間が継続するように調整する。これにより、路線バスBの前方の車列が進行し、路線バスBは青信号が表示されている間に停止することなく停留所Sへ到着することが期待される。
【0027】
図1の模式図に示す例では、路線バスBから停留所Sへの距離は自動車4台分に相当する程度である。本実施の形態における交通信号制御装置1により、交差点C1における路線バスBの進行方向に対応する信号灯器5における青時間のみならず、交差点C2における路線バスBの進行方向に対応する信号灯器5における青時間についても、路線バスBが停留所Sへ到着するであろう時間まで継続するように調整される。これにより、路線バスBの前方4台の自動車は交差点C1を通過することが可能である。したがって、路線バスBは停留所Sの直前で信号待ちの車列に巻き込まれることなく停留所Sに停止し、次の青信号の表示が開始されたタイミングで発進して交差点C1を通過し、遅滞なき定期運行を実現することが可能となる。また、少なくとも路線バスBが停留所Sに到着するまでの間、青時間が継続するように調整されるので、黄表示、赤表示の間に路線バスBが停留所Sに停止する確率が大きくなり、青表示の間に路線バスBの後続車両の進行を妨げる確率を低下させることができ、渋滞の増大を防止することも期待できる。
【0028】
以下に、上述のような信号制御を実現するための交通信号制御装置1の構成について詳細を説明する。図2は、本実施の形態における交通信号制御装置1、通信装置2、車載装置3及び交通信号制御機4の内部構成を示すブロック図である。
【0029】
車載装置3は、車両に搭載され、制御部30、記憶部31、GPS受信部32及び送信部33を備えている。制御部30は各構成部を制御する。記憶部31には路線バスBを識別する識別情報(ID)が記憶されている。GPS受信部32は、GPS(Global Positioning System)衛星から時刻情報を受信する機能を有している。
【0030】
車載装置3の制御部30は、GPS受信部32により受信した時刻情報に基づき車両の位置情報を算出する。また制御部30は、車両に搭載されている速度検出装置から速度情報を取得するように構成してある。そして制御部30は、GPS受信部32により受信した時刻情報に基づいて算出した位置情報及び取得した速度情報を、記憶部31から読み出した車両の識別情報と共に送信部33により通信装置2へ送信する。この際の位置情報の算出タイミング及び送信タイミングは、例えば100ミリ秒毎の一定周期とする。なお、車載装置3から送信される時刻情報はGPS受信部32により受信した時刻情報でなくともよい。車載装置3は所定の周波数により時間を計測する計時部を備える構成とし、所定の基準時刻からの経過時間を計測し、制御部30は算出した位置情報に対応する時間情報を計時部から取得して送信してもよい。
【0031】
通信装置2は、制御部20、受信部21、及び送信部22を備えている。通信装置2の制御部20は各構成部を制御する。受信部21は車載装置3から送信される車両の識別情報、位置情報、及び速度情報を受信する機能を有する。送信部22は、交通信号制御装置1との通信を実現する機能を有する。制御部20は受信部21により受信した車両の識別情報、位置情報及び速度情報を送信部22により交通信号制御装置1へ送信する。
【0032】
交通信号制御機4は、制御部40、計時部41、通信部42及び出力部43を備えている。制御部40は各構成部を制御する。計時部41は所定の周波数により時間を計測し、制御部40は計時部41から計測された時間を取得することが可能である。なお、計時部41により取得される時間は絶対時刻でもよいし所定の基準時刻からの経過時間でもよい。計時部41はGPS受信機能を有していてもよい。通信部42は交通信号制御装置1との通信を実現する機能を有し、交通信号制御装置1から信号の切り替え指示の制御信号が送信された場合、これを受け付けるようにしてある。出力部43は、通信部42により制御信号を受け付けた場合、制御部40はこれに応じて対象の色の信号表示を開始させる制御信号を信号灯器5へ出力するようにしてある。制御部40は、計時部41から取得した時間に基づいて、信号灯器5における信号表示を切り替えるようにしてもよく、交通信号制御装置1からの制御信号に基づく信号制御と、計時部41から取得する時間に基づく信号制御とが切り替え可能に構成されていてもよい。また、制御部40は、通信部42を介して通信装置2,2,…又は図示しない感知器から優先車両の交差点C1,C2への進入を検知したことを示す優先車両検知信号を受け付ける。制御部40は、通信部42により優先車両検知信号を受け付けた場合、基本的には青時間を所定時間延長するように構成してある。
【0033】
交通信号制御装置1は、制御部10、記憶部11、一時記憶領域12、計時部13及び通信部14を備えている。記憶部11には、コンピュータを本発明に係る交通信号制御装置1として機能させる制御プログラム1Pが記憶されている。一時記憶領域12は、制御部10の処理によって発生する情報を一時的に記憶するために利用される。計時部13は、所定の周波数により時間を計測し、制御部10は計時部13から計測された時間を取得することが可能である。なお、計時部13により取得される時間は絶対時刻とするが、所定の基準時刻からの経過時間でもよい。計時部13はGPS受信機能を有して自身により計測される時刻を補正する機能を有していてもよい。通信部14は、通信装置2及び交通信号制御機4との通信を実現する機能を有し、通信装置2から送信される各種情報を受信し、信号表示を切り替える制御信号を交通信号制御機4へ送信する。制御部10は、記憶部11から制御プログラム1Pを一時記憶領域12に読み出して実行することにより、計時部13から取得した時間に基づいて各交差点C1,C2,…の信号灯器5,5,…における信号表示の切り替えを制御すると共に、制御対象区間で路線バスBの走行を検知した場合、通信部14によって受信した各種情報を用いて信号灯器5,5,…における青時間を調整する処理を行なう。
【0034】
次に、制御部10が制御プログラム1Pを読み出して実行することによって実行する青時間の調整処理の詳細についてフローチャートを参照して説明する。図3及び図4は、本実施の形態における交通信号制御装置1の制御部10が青時間を調整する処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0035】
制御部10は、交差点C1,C2への進入路の路側に設置されている通信装置2,2,…から路線バスBの識別情報、位置情報及び速度情報を、通信部14により受信することで取得したか否かを判断する(ステップS101)。制御部10は、路線バスBの識別情報、位置情報及び速度情報を取得していないと判断した場合(S101:NO)、処理をステップS101へ戻す。
【0036】
制御部10は、路線バスBの識別情報、位置情報及び速度情報を取得したと判断した場合(S101:YES)、取得した各情報を記憶部11又は一時記憶領域12に記憶する(ステップS102)。制御部10は、受信した路線バスBの識別情報及び位置情報とに基づき、路線バスBが停留所Sへ停止する予定のバスであるか否かを判断し、停止する予定のバスであると判断した場合に以下の処理を継続するようにしてもよい。
【0037】
制御部10は、受信した位置情報に基づいて路線バスBの現在位置又は進行方向の道路は渋滞中であるか否かを判断する(ステップS103)。なお、渋滞中であるか否かの判断は、路上に設置されている車両感知器により道路の占有率を計測し、計測された占有率に基づいて渋滞が発生しているか否かを判断してもよいし、制御部10がネットワークNを介して他の装置から取得した道路交通情報に基づいて判断してもよい。また、路線バスBの過去の複数時点における位置情報又は速度情報に基づき渋滞中であるか否かを判断してもよい。例えば制御部10は、過去1分以内における路線バスBの平均速度が基準速度(例えば10キロメートル/時間)以下である場合、渋滞中であると判断する。
【0038】
制御部10は、路線バスBの現在位置又は進行方向の道路は渋滞中でないと判断した場合(S103:NO)、処理をステップS101へ戻す。なお制御部10は、渋滞中でないと判断した場合、路線バスBが交差点C1,C2へ進入していることを検知したときに当該交差点C1,C2における路線バスBの進行方向に対応する交通信号制御機4,4夫々の制御により、信号灯器5の青時間を延長する基本的な制御を行なうようにしてある。
【0039】
制御部10は、路線バスBの現在位置又は進行方向の道路は渋滞中であると判断した場合(S103:YES)、路線バスBの現在位置から渋滞区間の先頭までに存在する交差点C1,C2,…,CNを選択する(ステップS104)。このとき制御部10は、路線バスBの識別情報に基づいて路線バスBの路線を特定し、特定された路線中の渋滞区間に存在する複数の交差点を選択するようにしてもよい。このとき、特定された路線の周辺も含めた渋滞区間に存在する複数の交差点を選択することが望ましい。そして制御部10は、路線バスBの現在位置及び速度から、路線バスBが停止予定である停留所Sまでの予測所要時間Tを算出する(ステップS105)。
【0040】
次に制御部10は、ステップS104で選択した各交差点C1,C2,…,CNにおけるバスの進行方向に対応する各信号灯器5,5,…夫々の青信号の延長時間ΔG1,ΔG2,…,ΔGNを算出する。そのために制御部10は、交差点の番号iに「1」を代入し(ステップS106)、交差点C1における延長時間から算出を開始する。
【0041】
そして制御部10は、交差点Ciにおける路線バスBの進行方向に対応する信号灯器5が、現在青信号表示であるか否かを判断する(ステップS107)。制御部10は、交差点Ciにおける路線バスBの進行方向に対応する信号灯器5が、既に青信号表示でないと判断した場合(S107:NO)、処理を終了する。ステップS104で選択した各交差点C1,C2,…,CNにおける信号灯器5,5,…の内、一つでも既に青信号表示でない場合、当該信号灯器5を突然青信号表示にしたときには交通流に混乱を招きかねず、また、他の信号灯器5,5,…で青時間を延長しても効果が少ないためである。
【0042】
制御部10は、交差点Ciにおける路線バスBの進行方向に対応する信号灯器5が、現在青信号表示であると判断した場合(S107:YES)、当該信号灯器5における青時間の残り時間RGiはステップS105で算出した予測所要時間T以上であるか否かにより延長の要否を判断する(ステップS108)。
【0043】
制御部10は、交差点Ciにおける信号灯器5の青時間の残り時間RGiが予測所要時間T以上であると判断した場合(S108:YES)、延長する必要がないので延長時間ΔGiをゼロ(ΔGi=0)とし(ステップS109)、次の交差点における青時間について延長時間を算出するために交差点の番号iに1を加算(i=i+1)する(ステップS110)。
【0044】
そして制御部10は、交差点の番号iが選択した交差点C1,C2,…CNの数Nよりも大きいか否かを判断する(ステップS111)。制御部10は、交差点の番号iが交差点C1,C2,…CNの数N以下である場合(S111:NO)、処理ステップS107へ戻し、次の交差点Ciの信号灯器5における青時間について延長時間を算出する処理を行なう。
【0045】
制御部10は、ステップS108において、交差点Ciにおける信号灯器5の青時間の残り時間RGiが予測所要時間T未満であると判断した場合(S108:NO)、延長する必要があるが、予測所要時間T経過後は交差点Ciの信号灯器5における青時間の延長限度Gmaxi内であるか否か、即ち、予測所要時間Tが交差点Ciの信号灯器5における青時間の残り時間RGiに延長限度Gmaxiを加えた時間よりも小さいか否かを判断する(ステップS112)。制御部10は、予測所要時間T経過後は交差点Ciの信号灯器5における青時間の延長限度Gmaxi外であると判断した場合(S112:NO)、処理を終了する。交差点Ciの信号灯器5において無用に青時間を延長した場合、交通流の混乱を招きかねず、更に、他の信号灯器5,5,…で青時間を延長しても効果が少ないためである。
【0046】
制御部10は、予測所要時間T経過後が、交差点Ciの信号灯器5における青時間の延長限度Gmaxi内であると判断した場合(S112:YES)、延長時間ΔGiを予測所要時間Tと青時間の残り時間RGiとの差分(ΔGi=T−RGi)により算出し(ステップS113)、処理をステップS110及びステップS111へ進め、次の交差点における青時間について延長時間を算出する処理を行なう。
【0047】
そして制御部10は、ステップS111において交差点の番号iが交差点C1,C2,…CNの数Nよりも大きいと判断した場合(S111:YES)、交差点C1,C2,…CNの信号灯器5,5,…における青時間を夫々、算出した各延長時間ΔG1,ΔG2,…,ΔGN分延長させ(ステップS114)、処理を終了する。
【0048】
これにより、各交差点C1,C2,…CNの信号灯器5,5,…における青時間は少なくとも、路線バスBが停留所Sへ到着する予測所要時間T経過後までは継続するように調整される。したがって、少なくとも路線バスBが停留所Sへ到着するまでは青時間が継続し、路線バスBの前方の車列が進行し、路線バスBが停留所Sへスムーズに到着することが期待される。路線バスBが走行中の道路で次に最初に存在する交差点C1のみならず、渋滞区間の先頭から直後の交差点C1までの信号灯器5,5,…における青時間が一連に調整される。したがって、路線バスBの前方に車列が停滞している渋滞が発生している場合、路線バスBの前方の車列が長くなり前方が詰まる可能性が高いときでも、路線バスBは少なくとも停留所Sには到着できる。このように、渋滞が発生していても路線バスBの遅延が低減されて遅滞なき定期運行の実現が可能となる。
【0049】
交通信号制御装置1の制御部10が、図3及び図4のフローチャートに示した処理手順を実行することによって有効に青時間が調整される制御が行なわれる例を具体例を挙げて説明する。図5は、本実施の形態における交通信号制御装置1による信号制御の内容例を示す説明図である。
【0050】
図5の説明図の左側には、路線バスBの走行道路の略示上面図を表わしており、斜線により渋滞区間を区別して表わしている。図5の説明図に示すように、路線バスBの進行方向の下流には交差点C1,C2及びC3が存在するが、交差点C3までの区間で渋滞が発生している。そして、路線バスBは、交差点C1における路線バスBの進行方向の信号灯器5に対応する停止線よりも上流に存在する停留所Sに停止する。
【0051】
また、図5の説明図の右側には、現時点における現在位置を座標のゼロ点とし、横軸に時間の経過、縦軸に位置を示し、路線バスBの走行予測を破線で表わすと共に、各交差点C1,C2及びC3における各色の信号表示のタイミングを時系列に示している。なお、各交差点C1,C2及びC3における各色の信号表示のタイミングは、上段で通常制御の場合を示し、下段で交通制御装置1の制御部10によって青時間が調整された場合を示している。
【0052】
図5の説明図に示すように、路線バスBが交差点C3における停止線を先頭とする渋滞区間を走行中である場合、交通信号制御装置1の制御部10により、路線バスBから送信される位置情報及び速度情報に基づいて路線バスBの現在位置が特定され、路線バスBの現在位置又は進行方向の道路区間が渋滞中であると判断される。そして、制御部10により、路線バスBの現在位置から渋滞区間の先頭に対応する交差点C3までに存在する交差点C1,C2及びC3が選択される。更に制御部10により、路線バスBの現在位置及び速度から、路線バスBが停留所Sに到着するまでの予測所要時間Tが算出される。
【0053】
この場合、各交差点C1,C2,C3での信号表示が夫々の上段で示されるように通常制御されるときには、交差点C3での黄信号の開始に伴ない、予測所要時間T経過後よりも前の時点で路線バスBの前方の車列が停止し、交差点C1での信号表示が青信号を示しているにも拘わらず、路線バスBが停留所S手前で停止することとなる可能性が高いと考えられる。
【0054】
これに対し、交通信号制御装置1の制御部10により、交差点C1の信号灯器5における青時間に対する延長時間ΔG1は、予測所要時間T経過後が青時間の残り時間RG1に上限時間Gmax1を加えた時間よりも小さいので、予測所要時間Tと青時間の残り時間RG1との差分から算出される。同様に、交差点C2,C3における信号灯器5,5における青時間に対する延長時間ΔG1及びΔG2は夫々、予測所要時間Tと青時間の残り時間RG2との差分、及び、予測所要時間Tと青時間の残り時間RG2との差分から算出される。これにより、各交差点C1,C2,C3における信号灯器5,5,5の青時間は夫々延長時間ΔG1,ΔG2,ΔG3分延長され、現時点から予測所要時間T経過後まで継続するように調整される。
【0055】
これにより、交差点C3を先頭とする渋滞に含まれる各車列が予測所要時間T経過後まで青信号で進行可能となる。したがって、路線バスBの進行方向の渋滞区間の先頭の交差点C3の信号機に対応する停止線までに存在する車列が、路線バスBの現在位置と停留所Sの位置との間の距離分だけ前方に進むことが期待される。路線バスBは、前方の車両が停止しなければ予測所要時間T経過後に停留所Sへ到着することが予測されるところ、上述のように各車列が青信号で進行可能となるので、渋滞が発生している場合であっても路線バスBは前方の車列が停止することで進行を妨げられることなくスムーズに停留所Sに到着することができ、路線バスBの遅延を低減させることができる。少なくとも路線バスBが停留所Sに到着するまでの間、青時間が継続するように調整されるので、黄表示、赤表示の間には路線バスBが停留所Sに停止し、次の青表示で路線バスBは発進可能となる可能性が高くなる。これにより、無駄な停止を低減させて路線バスBの遅延の増大を防止することができる。また、黄表示、赤表示の間に路線バスBが各停留所に停止する確率が大きくなり、青表示の間に路線バスBの後続車両の進行を妨げる確率を低下させることができるので、渋滞の増大を防止することも可能である。
【0056】
なお、交通信号制御装置1の制御部10により青時間を継続させるのは予測所要時間T経過までと限らず、上限時間の限度内で予測所要時間Tに加えて所定時間α継続するように調整してもよい。
【0057】
本実施の形態における図3及び図4のフローチャートに示した処理手順の内のステップS103に示した渋滞中か否かの判断処理及び渋滞区間の先頭までに存在する交差点の選択処理については必須ではない。渋滞であるか否かによらず、走行中の路線バスBから所定の距離以内に含まれる交差点における信号の青表示を調整するように構成してもよい。ただし、渋滞が発生していない場合には各交差点の信号灯器5,5,…を制御する交通信号制御機4,4,…夫々の制御により、少なくとも路線バスBが停留所Sに到着するまで青時間が継続するように調整されればよい。しかしながら、渋滞が発生している場合には、渋滞区間中の信号灯器5,5,…における青信号を連動させて制御することが必要になる。本発明では、複数の信号灯器5,5,…における青信号が同様に予測所要時間T経過後まで継続するように調整されるので、渋滞発生時に特に効果を発揮することが期待される。
【0058】
また、本実施の形態において優先車両の例としてバスと、バスが停止すべき停留所とを例に信号制御が行なわれることを説明した。しかしながら、本発明はこれに限らず、普通の車両と共に道路を走行する他の公共輸送機関、例えば路面電車等であってもよく、公共輸送機関の遅滞なき定期運行の実現に効果を奏する。
【0059】
なお、開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上述の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本実施の形態における交通信号制御装置による信号制御の概要を示す模式図である。
【図2】本実施の形態における交通信号制御装置、通信装置、車載装置及び交通信号制御機の内部構成を示すブロック図である。
【図3】本実施の形態における交通信号制御装置の制御部が青時間を調整する処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図4】本実施の形態における交通信号制御装置の制御部が青時間を調整する処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図5】本実施の形態における交通信号制御装置による信号制御の内容例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0061】
1 交通信号制御装置
10 制御部
11 記憶部
1P 制御プログラム
4 交通信号制御機
5 信号灯器
B 路線バス(優先車両)
S 停留所(所定位置)
C1,C2,… 交差点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交差点に設置された信号機における信号表示を、前記交差点への進入路を走行する優先車両の位置情報に基づいて制御する交通信号制御装置において、
前記交差点よりも手前の所定位置に前記優先車両が到着するまでの所要時間を算出する算出手段と、
前記優先車両が走行中の進入路に対する信号機の青時間が、少なくとも前記所要時間が経過するまで継続するように調整する青時間調整手段と
を備えることを特徴とする交通信号制御装置。
【請求項2】
前記優先車両の進行方向の道路における渋滞情報を取得する手段を備え、
前記道路で渋滞が発生している場合に、前記青時間調整手段により青時間を調整するようにしてあること
を特徴とする請求項1に記載の交通信号制御装置。
【請求項3】
前記青時間調整手段は、前記優先車両の進行方向の道路上に存在する複数の交差点に設置されている信号機の一部又は全部の青時間を調整するようにしてあること
を特徴とする請求項1又は2に記載の交通信号制御装置。
【請求項4】
前記信号機には青時間の延長上限時間が設定してあり、
前記算出手段が算出した所要時間が経過するまでの時間が、前記延長上限時間を超過するか否かを判断する判断手段を備え、
前記青時間調整手段は、前記判断手段が超過しないと判断した場合に調整するようにしてあること
を特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の交通信号制御装置。
【請求項5】
前記優先車両は路線バスであり、前記所定位置はバス停留所であること
を特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載の交通信号制御装置。
【請求項6】
コンピュータに、交差点に設置された信号機の信号表示を、前記交差点への進入路を走行する優先車両の位置情報に基づいて制御させるコンピュータプログラムにおいて、
コンピュータを、
前記交差点よりも手前の所定位置に前記優先車両が到着するまでの所要時間を算出する算出手段、及び、
前記優先車両が走行中の進入路に対する信号機の青時間が、少なくとも前記所要時間が経過するまで継続するように調整する青時間調整手段
として機能させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項7】
交差点に設置された信号機の信号表示を、前記交差点への進入路を走行する優先車両の位置情報に基づいて制御させる交通信号制御方法において、
前記交差点よりも手前の所定位置に前記優先車両が到着するまでの所要時間を算出し、
前記優先車両が走行中の進入路に対する信号機の青時間が、少なくとも前記所要時間が経過するまで継続するように調整する
ことを特徴とする交通信号制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−176235(P2009−176235A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−16544(P2008−16544)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】