説明

人工水晶体の製造方法

【課題】水熱合成法においては、水晶結晶内への物質を取り込みたい場合、複数種の物質が取り込まれてしまい、特性強化に必要とする物質以外は、そのほとんどが人工水晶結晶の特性悪化の原因物質となってしまうため、人工水晶体から形成した水晶板を使用した電子部品や電子機器の特性や品質の低下を招く恐れがある。
【解決手段】人工水晶体の表面にアルカリ金属を含有した第1の電極膜と第2の電極膜を蒸着する工程と、第1の電極膜と第2の電極間に電界を印加して、第1の電極膜のアルカリ金属をイオン化し、このイオン化したアルカリ金属を人工水晶体内にドープする工程と、人工水晶体表面より第1の電極膜及び第2の電極膜を除去する工程とを具備する人工水晶体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工水晶体の製造方法に関し、特に、特定の特性を強化向上した人工水晶体の製造方法に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
現在、時間、周波数等の基準信号とするクロック信号発生源電子部品として圧電振動子が用いられており、特に圧電材料として水晶を用いた水晶振動子が多く用いられている。このような水晶振動子に用いられる水晶には、特殊鋼製の細長いオートクレーブ中で高温高圧環境における水熱合成法により育成される人工水晶体から任意の切断角で切り出された矩形状の水晶片や水晶板が用いられることが多い。
【0003】
このような人工水晶体は、種水晶板表面に水熱合成法により水晶結晶を育成して得られる。近年では所謂Z板という形態の人工水晶体を育成するのが主流である。これは矩形状の水晶片加工に適していること及び結晶品質が良いZ成長領域を広く利用できるためであり、このZ板人工水晶体を育成するために使用する種水晶板は、長さ方向の辺の結晶軸がY軸、幅方向の辺の結晶軸がX軸、厚み方向の辺の結晶軸がZ軸で人工水晶より切り出されたものが使用されている。
【0004】
又、人工水晶体を水熱合成法により育成した場合、育成された人工水晶体内にはAlやFe等の金属イオンやLi,KやNa等のアルカリ金属イオン等の不純物がコンペンセート(補完)する形で人工水晶体内に取り込まれる。これら不純物は水晶結晶本来の特性を悪化させるために、不純物を極力取り込まないような人工水晶体の育成方法を用いている。
【0005】
前記のような人工水晶体の育成方法については、以下のような文献が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−104795号公報
【特許文献2】特開2002−114599号公報
【非特許文献1】岡野庄太郎著 「水晶周波数制御デバイス」 株式会社テクノ 1995年
【0007】
尚、出願人は前記した先行技術文献情報で特定される先行技術文献以外には、本発明に関連する先行技術文献を、本件出願時までに発見するに至らなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
通常、電子部品や電子機器内に搭載される水晶板が形成される人工水晶体では、人工水晶体の内部には各種不純物がないものが好ましが、人工水晶体の特定の特性を強化するためには、人工水晶体内にその特性を強化するための物質のみをドープする必要がある。
【0009】
しかし、従来の水熱合成法による育成段階では、人工水晶結晶中に特定の物質のみを入れることはほぼ不可能である。水熱合成法においては、水晶結晶内に複数種の物質を不純物として取り込んでしまうか、又は物質をほとんど取り込まない高純度な結晶を育成するしかなく、水晶結晶内への物質を取り込みたい場合では、どうしても複数種の物質が取り込まれてしまい、特性強化に必要とする物質以外は、そのほとんどが人工水晶結晶の特性悪化の原因物質となってしまい、最終的な人工水晶体から形成した水晶板を使用した電子部品や電子機器の特性や品質の低下を招く恐れがある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は前述した問題点を解決するために成されたものであり、人工水晶体の製造方法において、水熱合成法により育成した高純度の人工水晶体にランバード加工を施し、この人工水晶体の表面のうち、結晶軸方向がZ方向の一方の主面上にアルカリ金属を含有した第1の電極膜を蒸着し、この第1の電極膜に対し人工水晶体を介して対向する該人工水晶体の表面に第2の電極膜を蒸着する工程と、第1の電極膜にプラス電位、第2の電極膜にマイナス電位の電界を印加して、第1の電極膜に含有してあるアルカリ金属をイオン化し、このイオン化したアルカリ金属を人工水晶体内にドープする工程と、人工水晶体表面より第1の電極膜及び第2の電極膜を除去する工程とを具備することを特徴とする人工水晶体の製造方法である。
【0011】
上記アルカリ金属としてLiを用いたことを特徴とする上記記載の人工水晶体の製造方法でもある。
【0012】
上記第1の金属膜及び第2の金属膜が、金又は白金により形成されていることを特徴とする上記記載の人工水晶体の製造方法でもある。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る人工水晶体の製造方法において、水熱合成法で育成した高純度の人工水晶体の結晶中に、人工水晶体における各種特性のうち、熱伝導性等の特定の特性を強化するための物質のみをドープすることができるので、特性強化に必要とする物質以外の人工水晶結晶の特性悪化の原因となる物質が水晶結晶中にない人工水晶体を形成できる。
【0014】
従って、本発明の実施により、人工水晶結晶としての諸特性が良好でありながら特定の特性が強化された人工水晶体を育成することができ、この人工水晶体を使用する電子部品の特性向上や歩留まりの向上に効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明における人工水晶体の製造方法の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は本発明に係わる人工水晶体の製造方法の工程の示した製造工程図である。図2は、人工水晶体の一形態であるZ板人工水晶体(ランバード加工済み)を例に、後述する各電極膜を形成した形態を図示した外観図であり、(a)は結晶軸Z方向から、(b)は結晶軸−X方向からの外観図である。尚、図2にあって、説明を明りょうにするため構造体の一部を図示せず、また寸法も一部誇張して図示している。
【実施例】
【0016】
即ち、図1(a)において、種水晶板を特殊鋼製のオートクレーブ内の所定の位置に設置し、水熱合成法により種水晶板表面に水晶結晶を育成する。この際には水晶結晶中にAlやFe等の金属イオンやLi、K、Na等のアルカリ金属イオンが結晶内に取り込まれないように、公知技術を含めた様々な手段(例えばオートクレーブ内溶液の選定や育成環境条件の設定等)が講じられている。これらの手段を講じて所定の大きさまで水晶結晶の育成が進んだ、非常に高純度の人工水晶体11が形成できたところで、オートクレーブ内より取り出し、その表面にランバード加工を施す。
【0017】
次に、図1(b)において、この人工水晶体の表面のうち、結晶軸方向がZ方向の一方の主面上にアルカリ金属の一つであるLiを含有した金により形成した第1の電極膜を蒸着法により形成し、この第1の電極膜に対し人工水晶体を介して対向する人工水晶体表面に、金により形成した第2の電極膜を蒸着する。図2には、人工水晶体の一形態であるZ板人工水晶体を用いた場合の形態を図示する。即ち、前工程でランバード加工を施されたZ板人工水晶体11の表面のうち、結晶軸方向がZ方向となる一方の主面上にアルカリ金属の一つであるLiを含有した金により形成した第1の電極膜12を蒸着法により形成し、第1の電極膜12に対し人工水晶体11を介して対向する結晶軸方向がZ方向となる他方の主面に、金により形成した第2の電極膜13を蒸着している。
【0018】
次に、図1(c)において、各電極膜を形成した人工水晶体(図2では符号11)を真空中、又はAir或いはN2雰囲気中に配置し、人工水晶体を500〜550℃に加熱する。その後、第1の電極膜(図2では符号12)にプラス電位、第2の電極膜(図2では符号13)にマイナス電位の1000V/cmの電界を印加して、第1の電極膜に含有してあるLiをイオン化し、このイオン化したLiを人工水晶体内にドープする。尚、ドープするLiイオンの量は、所望の特性の向上にあわせて電界印加時間、加熱温度及び第1の電極膜に含有されたLi量により適宜決定する。
【0019】
次に、図1(d)において、所定の量のLiイオンをドープされた人工水晶体をドープ環境より取り出し、冷却後に人工水晶体表面より第1の電極膜及び第2の電極膜を除去する。その後、このLiイオンがドープされた人工水晶体は切断工程に回され、所望の水晶製品へ加工される。
【0020】
このようなLiイオンのみがドープされた人工水晶体より形成された水晶製品(水晶板等)は、水晶結晶内にLiイオンが存在するので、例えば水晶結晶自体に外部より熱が加わったときに、熱エネルギーはLiイオンで水晶結晶内を運ばれ、非常に速く水晶結晶内を伝達するようになる。因って、水晶結晶の特性の一つである熱伝導性を強化向上されることができ、放熱性が良好な水晶結晶となる。このような水晶結晶を用いた水晶製品は、高エネルギーレーザ装置などの内部で使用する場合、熱による損傷に対しても耐性を有する。
【0021】
尚、本実施例では、ドープするためにイオン化するアルカリ金属としてLiを用いた場合を例示したが、他にもK、Na等のアルカリ金属でも良い。又、本実施例では、これらのアルカリ金属を含有し且つ人工水晶体へイオン化したアルカリ金属をドープするために用いる第1の金属膜の形成材料として金を用いた場合を例示したが、金のみに限定するものではなく他に白金等、本発明と同様の作用効果を奏するものであればよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明に係わる人工水晶体の製造方法の工程の示した製造工程図である。
【図2】図2は、人工水晶体の一形態であるZ板人工水晶体(ランバード加工済み)を例に、各電極膜を形成した形態を図示した外観図であり、(a)は結晶軸Z方向から、(b)は結晶軸−X方向からの外観図である。
【符号の説明】
【0023】
11・・・人工水晶体(Z板人工水晶体)
12・・・第1の電極膜
13・・・第2の電極膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工水晶体の製造方法において、
水熱合成法により育成した高純度の人工水晶体をランバード加工し、該人工水晶体の表面のうち、結晶軸方向がZ方向の一方の主面上にアルカリ金属を含有した第1の電極膜を蒸着し、該第1の電極膜に対し該人工水晶体を介して対向する該人工水晶体の表面に第2の電極膜を蒸着する工程と、
該第1の電極膜にプラス電位、該第2の電極膜にマイナス電位の電界を印加して、第1の電極膜に含有してある該アルカリ金属をイオン化し、このイオン化した該アルカリ金属を該人工水晶体内にドープする工程と、
該人工水晶体表面より第1の電極膜及び第2の電極膜を除去する工程と
を具備することを特徴とする人工水晶体の製造方法。
【請求項2】
該アルカリ金属としてLiを用いたことを特徴とする請求項1記載の人工水晶体の製造方法。
【請求項3】
該第1の金属膜及び該第2の金属膜が、金又は白金により形成されていることを特徴とする請求項1記載の人工水晶体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−31246(P2007−31246A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−220648(P2005−220648)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(000104722)京セラキンセキ株式会社 (870)
【Fターム(参考)】