説明

人工肺ガス交換モニタ

【課題】 人工肺50における酸素、二酸化炭素の移動量を従来よりも正確に、リアルタイムに、かつ連続的に計測するとともに、患者に新たな侵襲を与えるおそれがない人工肺ガス交換モニタを提供する。
【解決手段】 人工肺50における酸素、二酸化炭素の移動量を計測する人工肺ガス交換モニタであって、前記人工肺50に流入する流入ガスの供給源であるガス供給部10と、このガス供給部10からの流入ガスおよび前記人工肺50から流出する流出ガスを採取するガス採取部20と、このガス採取部20で採取された流入ガスおよび流出ガス中の酸素濃度、二酸化炭素濃度を測定するガス分析部30と、このガス分析部30で測定された酸素濃度、二酸化炭素濃度から酸素、二酸化炭素の移動量を演算する演算部40とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓外科手術の際の心肺バイパス法において使用される人工肺における酸素、二酸化炭素の移動量を計測する人工肺ガス交換モニタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、心臓外科手術においては、心臓を停止あるいは停止に近い状態にする必要があるため、心臓と肺の機能を代行する人工心肺装置が用いられている。この人工心肺装置の体外循環回路には、血液に酸素を加えると同時に血液から二酸化炭素を取り除くための人工肺(オキシジェネータ)が組み込まれており、通常、その効果を確認するために血液ガス分析が行われ、pH、酸素分圧、二酸化炭素分圧などが計測されている。そして、これらの測定値を確認しながら、血液流量、血圧、温度、人工肺に流入する医療用ガスの供給流量、およびこの医療用ガス中の酸素濃度などを制御することにより、人工心肺装置と接続された患者の生命が維持されている。
【0003】
特公平04−018620号公報には、人工心肺装置に適用可能な血液ガス分析装置の一例が記載されている(例えば、特許文献1参照。)。この例の血液ガス分析装置は、血液中のpH、酸素分圧、二酸化炭素分圧に加えてヘモグロビン量を正確かつ簡便に測定するものである。
【0004】
また、この血液ガス分析装置を用いて、動脈血、静脈血における酸素分圧を測定し、さらにヘモグロビン量、酸素飽和度を測定し、これらの値を血液流量とともに用いて演算することにより、酸素の移動量を求めることもできる。具体的には、以下の式により求められる。
VO=CO(CaO−CvO)・・・(1)
VO:酸素の移動量(mL/分)
CO:血液流量(L/分)
CaO:動脈血における酸素含量(OmL/血液L)
CvO:静脈血における酸素含量(OmL/血液L)
ここで、例えば動脈血における酸素含量(CaO)は、そのヘモグロビン量(Hb)、酸素飽和度(SaO)、酸素分圧(PaO)から求めることができる。
なお、二酸化炭素は血液中において重炭酸イオン(HCO)、血漿中への溶解量(従って二酸化炭素分圧(PCO)に反映)として存在するので、これらから二酸化炭素の移動量を概算することもできる。しかし、タンパク化合物として相当量の二酸化炭素が存在し、これらは簡単には測定できないなどの理由から、二酸化炭素の移動量の臨床的な測定は通常行われていない。
【0005】
酸素および二酸化炭素の移動量は、人工心肺装置の主目的である血液中のガス交換(呼吸)を表すパラメータであり、医療用ガスの流量とその組成、血液流量とその組成・性状(すなわち、患者の状態)、温度、血圧などに依存して術中変化するものである。従って、この移動量は、患者、外部血液循環回路、人工心肺装置からなる体外循環システム全体の健常性を判断する指標となることができる。
【特許文献1】特公平04−018620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の血液ガス分析装置を利用して酸素の移動量を計測しようとする際、血液の性状の多様性により大きな誤差が発生するという問題があった。具体的には、酸素運搬の担い手であるヘモグロビンの酸素結合能が必ずしも一定ではなく多様性を有すること、また、血漿中の溶解酸素量が酸素分圧に対して必ずしも一定ではなく、多様性を有することなどが原因として挙げられる。
また、動脈・静脈の両方から血液を採取してガス分析するとともに、光学的な手法によりヘモグロビン量、酸素飽和度を測定する必要があるため、移動量の計測には1分以上の時間が必要とされる。従って、秒単位で変動する酸素、二酸化炭素の移動量をリアルタイムかつ連続的に計測することができないという問題があった。
さらに、体外循環中の血液を直接採取するため、患者の血液を一時的に外部に開放することになり、院内感染および患者への新たな侵襲を発生させる可能性があるという問題、試薬の存在やその廃棄に伴うコスト発生などの問題もある。
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、
人工肺における酸素、二酸化炭素の移動量をリアルタイムかつ連続的に計測することができる人工肺ガス交換モニタを提供することを目的とする。また、人工肺における酸素、二酸化炭素の移動量を従来よりも正確に計測することができる人工肺ガス交換モニタを提供することを目的とする。また、患者に新たな侵襲を与えるおそれがない人工肺ガス交換モニタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、人工肺における酸素、二酸化炭素の移動量を計測する人工肺ガス交換モニタであって、前記人工肺に流入する流入ガスの供給源であるガス供給部と、このガス供給部からの流入ガスおよび前記人工肺から流出する流出ガスを採取するガス採取部と、このガス採取部で採取された流入ガスおよび流出ガス中の酸素濃度、二酸化炭素濃度を測定するガス分析部と、このガス分析部で測定された酸素濃度、二酸化炭素濃度から酸素、二酸化炭素の移動量を演算する演算部とを備えることを特徴とする人工肺ガス交換モニタである。
【0009】
請求項2にかかる発明は、ガス採取部に、流入ガスと流出ガスとを交互に採取する切換弁が設けられていることを特徴とする請求項1記載の人工肺ガス交換モニタである。
【0010】
請求項3にかかる発明は、表示部が設けられ、この表示部が、流入ガスおよび流出ガス中の酸素濃度、二酸化炭素濃度を、切換弁による採取の順番に従って表示することを特徴とする請求項2記載の人工肺ガス交換モニタである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の人工肺ガス交換モニタによれば、人工肺における流入ガス、流出ガスのみを扱い、血液の性状の多様性に由来する誤差を回避することができるため、人工肺における酸素、二酸化炭素の移動量を従来よりも正確に計測することができる。また、本発明の人工肺ガス交換モニタによれば、ガス採取、測定、演算、表示を含めた総作業が数秒で済むため、人工肺における酸素、二酸化炭素の移動量をリアルタイムかつ連続的に計測することができる。また、本発明の人工肺ガス交換モニタによれば、血液を外部に開放することがないため、患者に新たな侵襲を与えることや、医療従事者に対する感染等の新たなリスクの発生を防止することができる。
【0012】
なお、本発明の人工肺ガス交換モニタのガス採取部に切換弁を設けた場合には、流入ガス、流出ガスが交互に採取されるため、1つのガス分析部によって、酸素、二酸化炭素の移動量を計測することができる。また、同一のガス分析部を用いて、流入ガスと流出ガスの間における酸素、二酸化炭素濃度を測定し、それぞれの濃度差を計測するため、ガス分析部などのセンサ類が有する測定値の経時的な変動をキャンセルすることができる。また、流入ガス、流出ガスを交互に採取することにより、患者の呼吸中における二酸化炭素濃度の経時変化(カプノグラム)と類似のグラフを得ることができる。このグラフは、全身麻酔中の必須モニターとして、患者の呼吸状態、肺機能などの診断に一般的に用いられているため、操作者に人工肺の動作状況を容易に把握させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明にかかる人工肺ガス交換モニタの一実施形態を、図1に基づいて説明する。この例の人工肺ガス交換モニタは、ガス供給部10と、ガス採取部20と、ガス分析部30と、演算部40とから概略構成されている。
【0014】
ガス供給部10は、人工肺50に医療用ガスを供給するものである。この医療用ガスは、酸素、空気からなる混合ガスであり、必要に応じて二酸化炭素も加えられる。そして、酸素の一部は人工肺50において血液中の二酸化炭素と交換される。また、医療用ガスは医療用ガス供給源11に保存されており、この医療用ガス供給源11には、供給チューブ14cを介してガスレギュレータ12、マスフローコントローラ13がそれぞれ直列状に連結されている。ガスレギュレータ12は、医療用ガスの圧力を安定させる機能を有するものであり、マスフローコントローラ13は、各医療用ガスの流量の測定と同時に流量の調節を行うものである。なお、ガスレギュレータ12およびマスフローコントローラ13は、使用する医療用ガスの種類の数に合わせて用意されており、この例の人工肺ガス交換モニタにおいては、3つ用意されている。
【0015】
マスフローコントローラ13からは、人工肺50に向かって流入チューブ14aが延びており、これら流入チューブ14aは互いに連結されて1本に収束され、さらに人工肺50に接続している。従って、上記医療用ガスは、ガスレギュレータ12により医療用ガス供給源11から取り出され、ついで、マスフローコントローラ13により流量を適宜調節されるとともに混合された後、人工肺50に流入する。以下、人工肺50に流入するガスを流入ガスと略記する。
【0016】
人工肺50は、体外循環している血液中の二酸化炭素を酸素に交換するためのものである。この人工肺50の一端には上記流入チューブ14aが取り付けられており、上記流入ガスが人工肺50に流入するようになっている。流入ガスは人工肺50内の多数の中空糸51において血液とガス交換された後、人工肺50の他端から流出するようになっており、そこにはミキシングチャンバ52が設けられている。さらにこのミキシングチャンバ52には流出チューブ14bが取り付けられている。以下、人工肺50から流出するガスを流出ガスと略記する。
【0017】
ミキシングチャンバ52は、多数の中空糸51から流出する流出ガスを混合し、均質化する機能を有している。なお、ミキシングチャンバ52には、流出ガスが流出するための大気に開放された流出口が備わっていてもよく、その場合には、流出チューブ14bはなくてもよい。また、ミキシングチャンバ52には、温度プローブ53が設けられており、人工肺50における温度が測定され、この温度のデータが後述する演算部40に送出されるようになっている。
【0018】
ガス採取部20は、流入ガスおよび流出ガスを採取して、後述するガス分析部30に送出するものである。人工肺50の両端に取り付けられている流入チューブ14a、流出チューブ14bには、サンプリングチューブ24a,24bがそれぞれ接続されており、これらサンプリングチューブ24a,24bに流入ガスおよび流出ガスの一部が流通するようになっている。また、サンプリングチューブ24a,24bは切換弁21に延びて接続されている。この切換弁21は、流入ガスと流出ガスとを交互に採取するためのものであり、連結チューブ24cを介してガス分析器30と連結されている。また、ガス分析器30は連結チューブ24cを介して採取用ポンプ22と連結されている。この採取用ポンプ22は、ガス採取部20におけるサンプリングチューブ24a,24bおよび連結チューブ24c内の圧力を流入チューブ14aおよび流出チューブ14bの圧力よりも低くし、流入ガスおよび流出ガスを採取するためのものである。また、サンプリングチューブ24bには、脱水装置23が設けられている。この脱水装置23は、血液由来の水蒸気や結露した水分を含む流出ガスを脱水し、乾燥するためのものである。なお、サンプリングチューブ24bは、流出チューブ14bがない場合は大気に開口されたミキシングチャンバ52に直接接続されていてもよい。
【0019】
ガス分析部30は、流入ガスおよび流出ガスにおける酸素濃度、二酸化炭素濃度を測定するものである。このガス分析部30は酸素分析器31と二酸化炭素分析器32とから構成されており、各分析器がそれぞれの濃度を測定するようになっている。また、各分析器は連結チューブ24cを介して互いに連結されるとともに、切換部21および採取用ポンプ22とも連結チューブ24cを介して連結されて、これらの間に位置している。従って、ガス採取部20によって採取された流入ガスおよび流出ガスは、ガス分析部30内を流通するようになっている。
【0020】
演算部40は、 ガス分析器30によって測定された流入ガス、流出ガスにおける酸素、二酸化炭素の各濃度差から、人工肺50における酸素、二酸化炭素の移動量を演算するものである。具体的には、以下の式(2),(3) により演算が行われる。
VO=VI(FIO−FEO)・・・(2)
VCO=VI(FECO−FICO)・・・(3)
VO:酸素の移動量(mL/分)
VCO:二酸化炭素の移動量(mL/分)
VI:流入ガスの流入量(L/分)
FIO:流入ガスにおける酸素の濃度(Vol%)
FICO:流入ガスにおける二酸化炭素の濃度(Vol%)
FEO:流出ガスにおける酸素の濃度(Vol%)
FECO:流出ガスにおける二酸化炭素の濃度(Vol%)
式(2),(3)は、流入ガスおよび流出ガスの組成と移動量との関係式である。従って、上記式(1)のように、ヘモグロビン量Hbなどの血液の性状に依存する多様性のあるパラメータはないので、移動量を誤差少なく、高精度に測定することができる。
なお、式(2),(3)においては、流入ガスの流入量と流出ガスの流出量が同じであるとした。これは、酸素の移動量と二酸化炭素の移動量との差が、流入ガスの流入量に比べて十分に小さいため、無視できると考えられるからである。
【0021】
また、演算部40は、ガス分析器30と通信ケーブルを介して連結されており、ガス分析器30において測定された酸素濃度、二酸化炭素濃度のデータが演算部40に送出されるようになっている。そして、演算部40において人工肺50における酸素、二酸化炭素の移動量が演算されるとともに、その演算結果が表示部41に表示されるようになっている。なお、表示部41には、測定された酸素濃度、二酸化炭素濃度も表示される。さらに、演算部40は、人工肺50における温度プローブ53とも、通信ケーブルを介して連結されており、人工肺50における温度が、演算部40に送出されて表示部41に表示されようになっている。
【0022】
一方、演算部40は、ガス供給部10におけるマスフローコントローラ13と、通信ケーブルを介して連結されている。そして、この演算部40において設定された流量は、データとしてマスフローコントローラ13に送出され、これにより、医療用ガスの流量および酸素濃度が調節される。なお、図1においては、ガス供給部10と、人工肺ガス交換モニタのその他の構成要素とが分離されているように図示されているが、本発明はこれについて特に限定せず、一体となっていても分離されていてもよい。
【0023】
以下、本発明の人工肺ガス交換モニタを用いて酸素、二酸化炭素の移動量を計測する一連の流れについて説明する。
先ず、マスフローコントローラ13を設定して、医療用ガス供給源11から医療用ガスを取り出し、流入ガスとして人工肺50に流入させる。この流入ガスは、中空糸を介して血液と触れ合いガス交換された後、人工肺50から流出して流出ガスとなる。次に、採取用ポンプ22によって、上記流入ガス、流出ガスの一部が採取され、ガス分析部30に送られる。この時、流入ガス、流出ガスは切換部22により交互に採取される。
なお、ガス採取部20におけるガスの流速は分析器によって異なるが、通常50〜100mL/分程度である。
【0024】
ガス分析部30に送られた流入ガス、流出ガスは分析され、それぞれの酸素濃度、二酸化炭素濃度が測定される。また、それらのデータがガス分析部30から演算部40に送出される。演算部40においては、送出されたデータを基に人工肺50における酸素、二酸化炭素の移動量が上記式(2),(3)に従って演算される。演算された移動量および酸素濃度、二酸化炭素濃度のデータは、表示部41に送出されて表示される。
なお、演算された移動量および酸素濃度、二酸化炭素濃度には、必要に応じて、体温・飽和蒸気圧(BTPS)の補正を行ってもよい。
【0025】
図2に、酸素、二酸化炭素の移動量の経時変化を表すグラフの一例を示す。このグラフから、酸素、二酸化炭素の移動量は、体外循環開始直後に上昇し、その後減少しつつ、ある値で一定となることがわかる。体外循環開始直後においては、血液中のガスと流入ガスとの分圧差が大きいため、移動量が大きい。また、その後は、血液中のガスの分圧が上昇するため、流入ガスとの分圧差が小さくなり、移動量も減少する。さらに時間が経過すると、移動量は患者の代謝によって変動した血液中のガス分圧を主に表すようになる。従って、操作者は、患者の代謝に由来する移動量を監視することにより、体外循環の状態を容易に把握することができる。
【0026】
図3に、酸素濃度、二酸化炭素濃度の経時変化を表すグラフの一例を示す。このグラフは、流入ガスおよび流出ガスを交互に採取し、各ガス中の酸素濃度、二酸化炭素濃度を採取の順番に従って測定したものである。このグラフから、酸素濃度は流入ガスにおいて高い値を示し、流出ガスにおいて低い値を示すことがわかる。また、二酸化炭素濃度は流出ガスにおいて高い値を示し、流入ガスにおいて低い値を示すことがわかる。通常、流入ガスには酸素が豊富に含まれ、一方、流出ガスには血液から除去された二酸化炭素が豊富に含まれているため、上述したような波形が得られる。
なお、酸素濃度の経時変化に関しては、流入ガスとして高濃度の酸素を長時間用い、その後、流入ガスの酸素濃度を大きく下げた場合、グラフの波形が一時的に逆転することもある。
【0027】
患者の呼吸中、口元から連続採取される二酸化炭素濃度の経時変化は、一般に、カプノグラムと呼ばれている。このカプノグラムは、通常患者に人工呼吸を施す際に主に測定されるものであり、その波形から患者の呼吸状態および肺機能を診断することができる。従って、人工心肺装置を用いた体外循環時において、流入ガスおよび流出ガスを交互に採取して測定し、カプノグラムと類似のグラフを得ることにより、操作者に人工肺50の動作状況を容易に把握させることができる。
【0028】
このように、本発明の人工肺ガス交換モニタによれば、流入ガス、流出ガスのみを扱い、血液の性状の多様性に由来する誤差を回避することができるため、人工肺における酸素、二酸化炭素の移動量を従来よりも正確に計測することができる。また、ガス採取、測定、演算、表示を含めた総作業が数秒で済むため、人工肺における酸素、二酸化炭素の移動量をリアルタイムかつ連続的に計測することができる。また、血液を外部に開放することがないため、患者に侵襲を与えることや、医療従事者に対する感染等の新たなリスクの発生を防止することができる。
【0029】
なお、演算部40は、移動量の演算結果と目的とする移動量の入力値に基づいて、 マスフローコントローラ13に制御信号を自動的に送出し、流入ガスの流量および酸素濃度を調節してもよい。また、演算部40は、人工心肺装置における血液ポンプに制御信号を自動的に送出し、体外循環における血液流量を調節してもよい。さらに、演算部40は、人工心肺装置における熱交換器にも制御信号を自動的に送出し、体外循環中の血液の温度を調節することにより、患者の体温、ひいては酸素消費量と二酸化炭素産生量、つまり代謝を調節してもよい。
このように、移動量の演算結果を基に制御信号を自動的に送出し、流入ガスの流量および酸素濃度、血液流量、温度を調節することにより、人工肺50における酸素、二酸化炭素の移動量を演算部40において入力した値に維持することができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明する。本発明は、下記実施例に何ら制限されるものではない。
【0031】
[実施例1]
実施例1では、本発明の人工肺ガス交換モニタの有用性を確認するため、牛の血液を用いて、人工肺50における酸素、二酸化炭素の移動量を計測した。
移動量の計測にあたっては、血液中の酸素を二酸化炭素に交換する擬似代謝装置と人工肺とからなる体外循環回路を作製し、この体外循環回路に図1に示す人工肺ガス交換モニタを接続した。そして、上記体外循環回路において牛の血液を循環させることにより、人工肺50における酸素、二酸化炭素の移動量を計測した。なお、牛の血液の循環流量は4L/分であった。また、医療用ガスとしては、酸素のみを用い、その流量は4L/分であった。また、採取流量は50mL/分であり、切換時間は10秒であった。
【0032】
図4に、得られたグラフを示す。このグラフから、人工肺における酸素、二酸化炭素の移動量がリアルタイムかつ連続的に計測可能であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態にかかる人工肺ガス交換モニタの一例を示す図である。
【図2】本発明の実施形態にかかる酸素、二酸化炭素の移動量の経時変化の一例を示すグラフである。
【図3】本発明の実施形態にかかる酸素濃度、二酸化炭素濃度の経時変化の一例を示すグラフである。
【図4】実施例1における酸素、二酸化炭素の移動量の経時変化を示す実データのグラフである。
【符号の説明】
【0034】
10・・・ガス供給部、20・・・ガス採取部、22・・・切換部、30・・・ガス分析部、40・・・演算部、41・・・表示部、50・・・人工肺


【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工肺における酸素、二酸化炭素の移動量を計測する人工肺ガス交換モニタであって、
前記人工肺に流入する流入ガスの供給源であるガス供給部と、
このガス供給部からの流入ガスおよび前記人工肺から流出する流出ガスを採取するガス採取部と、
このガス採取部で採取された流入ガスおよび流出ガス中の酸素濃度、二酸化炭素濃度を測定するガス分析部と、
このガス分析部で測定された酸素濃度、二酸化炭素濃度から酸素、二酸化炭素の移動量を演算する演算部とを備えることを特徴とする人工肺ガス交換モニタ。
【請求項2】
ガス採取部に、流入ガスと流出ガスとを交互に採取する切換弁が設けられていることを特徴とする請求項1記載の人工肺ガス交換モニタ。
【請求項3】
表示部が設けられ、この表示部が、流入ガスおよび流出ガス中の酸素濃度、二酸化炭素濃度を、切換弁による採取の順番に従って表示することを特徴とする請求項2記載の人工肺ガス交換モニタ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−122111(P2006−122111A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−310997(P2004−310997)
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(000200677)泉工医科工業株式会社 (56)
【Fターム(参考)】