説明

仮想網制御方法および仮想網制御装置

【課題】仮想網制御の間の資源競合の調停を実現し、物理網上の資源の適切な分配を実現することができる仮想網制御方法および仮想網制御装置を提供する。
【解決手段】生物が未知の環境変化に適応するときの振る舞いをモデル化したアトラクター選択によって仮想網を制御する仮想網制御方法であって、前記アトラクター選択を表現するゆらぎ方程式を記憶する記憶ステップと、前記ゆらぎ方程式のパラメータを設計する際、前記仮想網を収容する物理網の資源を共有する各仮想網間で活性度を相互作用させる設計ステップと、前記パラメータを前記ゆらぎ方程式に適用して前記仮想網を制御する制御ステップとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IP (Internet Protocol)、Ethernet(登録商標)、P2P (Peer-to-Peer)などの仮想網を制御する仮想網制御方法および仮想網制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
波長分割多重(WDM)をベースにした物理ネットワークは、波長パスとOXC(optical cross_connect)から構成されており、波長ルーティングを用いることで、上位レイヤのノードを接続する波長パスを提供して仮想的なトポロジ(仮想網)を構築し、種々のサービスを実現可能な柔軟な通信ネットワークインフラを提供することができる。仮想網トポロジはVNT(Virtual Network Topology)とも呼ばれる。ここで、物理網の波長はボトルネック資源であり、波長を有効に使う必要がある。そこで、トラヒックを波長ネットワーク上に効率的に収容するために、トラヒックに応じて適切に仮想網を構築する仮想網制御に関する研究が数多くなされてきた(非特許文献1,2参照)。
【0003】
仮想網とは波長ネットワークに収容される上位レイヤの論理的なネットワークのことで、上位レイヤがIPの場合、仮想網トポロジとはIP網の論理接続構成に相当する。通信インフラ設備自体は物理網が所有し、物理網の資源を論理的に分割し、その一部を仮想網に配分することで仮想網は構築される。一般に、物理網は1つまたは複数の仮想網を収容する能力を持つ。
【0004】
非特許文献1,2では、与えられた単一のトラヒック需要行列に対して、そのトラヒックを収容するために最適な仮想網を設計するための最適化に基づく方法およびヒューリスティックな方法が提案されている。トラヒック需要行列とは網内の任意の2ノード間のトラヒック需要を行列形式で表示したもので、ネットワーク全体のトラヒック交流を表現する。
【0005】
近年、インターネットの発展に伴い、P2Pネットワーク、VoIP、ビデオオンデマンドなどに代表される新たなサービスが出現しており、ネットワーク上で生じる環境の変化は大きくなっている。一つの例として、オーバーレイネットワークとトラヒックエンジニアリングの相互作用により、トラヒック需要などのネットワークの状態が大きくかつ不規則に変化することが明らかにされている。そのため、予期しないトラヒック需要の変化に対して適応性を備えた仮想網制御を実現することが重要である。
【0006】
トラヒック需要の変化に適応し、トラヒックを効率的に仮想網上に収容するために、定期的なネットワークの計測および仮想網上の性能劣化の検出に基づいて仮想網を動的に再構成するアプローチ(オンライン型制御)が考えられている(非特許文献3参照)。このようなオンライン型制御では、オフライン型制御とは異なり、変動したトラヒックに応じて仮想網を再構成するためトラヒック需要の変動に適応することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】B. Mukherjee, D. Banerjee, S. Ramamurthy, and A. Mukherjee, “Some principles for designing a wide-area WDM optical network,” IEEE/ACM Transactions on Networking, vol. 4, no. 5, pp. 684-696, 1996.
【非特許文献2】R. Ramaswami and K. N. Sivarajan, “Design of logical topologies for wavelength-routed optical networks,” IEEE Journal on Selected Areas in Communications, vol. 14, pp. 840-851, June 1996.
【非特許文献3】B. Ramamurthy and A. Ramakrishnan, “Virtual topology reconfigurationof wavelength-routed optical WDM networks,” in Proceedings of GLOBECOM, vol. 2, pp. 1269-1275, Nov. 2000.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、上述の既存のオンライン型制御の多くは、ある2つの時刻におけるトラヒック需要行列が取得可能であること、および、トラヒック需要が周期的かつ緩やかに変動し、最適化前後のトラヒック需要行列に大きな変化がないことを仮定している。しかしながら、大規模な通信ネットワークにおいて正確なトラヒック需要行列を取得することは困難である(N. Benameur and J. W. Roberts, “Traffic Matrix Inference in IP Networks ,“ NETWORKS AND SPATIAL ECONOMICS , VOL 4; NUMBER 1, pages 103-114, 2004.参照)。また、多数のアプリケーション、サービスが収容されている通信ネットワークでは、仮想網上のトラヒック需要の変動はより大きくかつ予測困難な変化をするため、様々なトラヒックの変動に適応できる仮想網制御が必要である。さらに、ネットワーク上に生じる環境変化はトラヒックの変動によるもののみではなくリンク障害などの変化も生じる。そのため、トラヒック変動に対してだけではなくリンク障害なども含めた様々な環境の変化に対する適応性を備えた仮想網制御を実現することが重要である。
【0009】
そこで、本発明者らは、ゆらぎ方程式に基づき仮想網制御を実現することで、オンライン型制御方式を用いた場合でも交流トラヒック情報などのネットワーク状態情報を必要とせず、予期しないトラヒック需要変動やネットワーク構成要素の故障などの環境変動に追従可能な仮想網制御方法および仮想網制御装置を提案している(本出願と同日に出願予定)。本発明は、この同日出願に係る発明(以下「基本発明」という。)を前提とした応用発明であり、複数の仮想網を単一物理網上に構築し、環境変動に対しても安定性を担保可能な仮想網制御手法を実現する。すなわち、ゆらぎ方程式に基づくアトラクター選択モデルを仮想網毎に適用し、各アトラクター選択によってそれぞれの仮想網のトポロジを構築し、環境変化が生じた場合には動的に再構成する。このとき、1つの物理網上の資源を複数の仮想網によって共有するため、何らかの手段で物理網の資源を各仮想網に公平に配分する必要がある。この配分が適切になされないと、一部の仮想網が物理網の資源を占有する一方で、他の仮想網には資源が十分に配分されず性能が低下するとういう問題が生じる。
【0010】
本発明は、上記した事情に鑑み、仮想網制御の間の資源競合の調停を実現し、物理網上の資源の適切な分配を実現することができる仮想網制御方法および仮想網制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、第1の態様に係る発明は、生物が未知の環境変化に適応するときの振る舞いをモデル化したアトラクター選択によって仮想網を制御する仮想網制御方法であって、前記アトラクター選択を表現するゆらぎ方程式を記憶する記憶ステップと、前記ゆらぎ方程式のパラメータを設計する際、前記仮想網を収容する物理網の資源を共有する各仮想網間で活性度を相互作用させる設計ステップと、前記パラメータを前記ゆらぎ方程式に適用して前記仮想網を制御する制御ステップとを備えたことを要旨とする。
【0012】
第2の態様に係る発明は、第1の態様に係る発明において、前記設計ステップで、前記アトラクター選択の単独での活性度の全ての積を前記仮想網全体を考慮したアトラクター選択の活性度とすることを要旨とする。
【0013】
第3の態様に係る発明は、第1の態様に係る発明において、前記設計ステップで、前記アトラクター選択の単独での活性度のそれぞれの重み付き平均を前記仮想網全体を考慮したアトラクター選択の活性度とすることを要旨とする。
【0014】
また、上記目的を達成するため、第4の態様に係る発明は、仮想網制御装置において、第1から3の態様に係るステップを実行する処理部を備えたことを要旨とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、仮想網制御の間の資源競合の調停を実現し、物理網上の資源の適切な分配を実現することができる仮想網制御方法および仮想網制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】基本発明のネットワーク構成図である。
【図2】基本発明における仮想網制御装置の構成図である。
【図3】基本発明における仮想網制御装置の主要な動作を示すフローチャートである。
【図4】本発明のネットワーク構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0018】
(基本発明の概要)
基本発明では、以下に説明するゆらぎ方程式に基づき仮想網制御を実現する。
【0019】
すなわち、生物の様々な振る舞いが環境変化に対してロバストであることが、多くの研究によって明らかにされている。例えば、生物が未知の環境変化に適応するときの振る舞いをモデル化したアトラクター選択が知られている(C. Furusawa and K. Kaneko, “A generic mechanism for adaptive growth rate regulation,” PLoS Computational Biology, vol. 4, p. e3, Jan. 2008.参照)。アトラクター選択は以下のゆらぎ方程式によって表現される。
【数1】

【0020】
アトラクター選択によって駆動するシステムは、ゆらぎηとアトラクターを持つ制御構造f (x)の2つの挙動を持ち、それらの挙動がシステムの状態を示す値である活性度αによって制御されている。システムのコンディションが劣化した場合は活性度αが低下する。そのため、ゆらぎηの影響が相対的に大きくなり、システムの状態x = (x1,・・・, xn) はランダムに変化する。xが変化してシステムの状態が改善すると、活性度αが増加する。その結果、xはf(x)によって支配的に制御される。このように、アトラクター選択では活性度αに応じてf(x)とゆらぎηが制御される。
【0021】
一般的に、ヒューリスティックなアプローチでは、ある環境の変化に対する対応策をアルゴリズムとして用意することで環境の変化に対して適応する。そのため、想定した環境変化に対しては高い適応性を実現できるものの、想定外の環境変化に適応できない。それに対して、アトラクター選択はゆらぎによって駆動するため、達成可能な性能は準最適であるものの、未知の環境変化に対して適応しうる。
【0022】
アトラクター選択は遺伝子ネットワークと代謝ネットワークの2つの層から構成される細胞の振る舞いをモデル化している。遺伝子ネットワークは、ゆらぎとアトラクターを持つ制御構造を持ち、式(1)に従って動作している。遺伝子ネットワークでは、遺伝子間の活性と抑制によってアトラクターを持つ制御構造f(x)が定義され、タンパク質の発現レベルxを制御している。代謝ネットワークでは、代謝反応によって細胞の成長に必要な基質を生成している。これらの代謝反応は、対応する遺伝子の発現レベルxiによって制御される。この必須基質量が細胞の成長速度を決めるため、その濃度をもとに活性度αを決める。αは遺伝子ネットワークにフィードバックされる。環境変化によって代謝ネットワークの状態が劣化した場合は、αの低下として反映される。αが低い場合は、ゆらぎηが支配的に遺伝子ネットワークを制御し、その環境に適した状態を探索する。ηによって環境に適したアトラクターが発見され、代謝ネットワークの状態が回復すると、それに伴いαが増加する。αが増加すると、遺伝子ネットワークはf(x)によって安定状態になる。このように、遺伝子ネットワークは代謝ネットワークの状態をαによって判定し、αをもとにηとf(x)を適切に制御することで環境変化に対する適応性を実現している。
【0023】
(基本発明のネットワーク構成)
基本発明では、IP/MPLSなどの上位のネットワークが波長ルーティングに代表される物理網が提供するパスによって構築された仮想網をインフラストラクチャーとして利用するネットワークを想定している。以下、具体的な説明として物理網としてWDMネットワークを採用した例を説明するが、ファイバネットワーク、TDM(Time Division Multiplexing)ネットワーク、Ethernet(登録商標)などのレイヤ2ネットワークが物理網の場合も同様に基本発明を適用可能である。
【0024】
まず、基本発明のネットワーク構成を図1に示す。物理網Gは物理ノードVと物理リンクLで構成されており、物理リンクLはWDM技術により複数の波長を収容している。物理ノードV間は波長ルーティングにより波長パスで接続されている。物理網Gは複数の仮想網G(ここでは#1〜#3)を収容している。物理網Gは仮想網Gに対して波長パスで構成される仮想網トポロジを提供する。ここで、仮想網トポロジの設計・制御を行なう機能は仮想網制御装置10が担う。仮想網制御装置10は物理網Gと仮想網Gを接続し、物理網トポロジなどの状態情報、各仮想網Gのトポロジ情報および仮想網G上のリンク利用率・スループットなどの性能情報等を取得する手段を有する。
【0025】
また、仮想網制御装置10は、仮想網Gの環境変化が生じた際に後述のゆらぎ方程式に基づき環境変化に適応可能なトポロジを設計し、現状の仮想網トポロジを再構成する機能を保持している。ここで、仮想網制御装置10は論理的には仮想網#1〜#3毎に配備され、自仮想網トポロジの制御と他の仮想網に属する仮想網制御装置間との各種制御情報の交換を行なう。仮想網制御装置10は論理的には仮想網#1〜#3と同じ数だけ存在するものの、物理的には単一のハードウエア上に実現する集中制御方式で実現することも可能である。
【0026】
(基本発明における仮想網制御装置10の構成)
図2は、基本発明における仮想網制御装置10の構成図であり、図3は、その主要な動作を示すフローチャートである。基本発明における仮想網制御装置10は、図2に示すように、情報収集部11と、仮想網情報DB12と、物理網情報DB13と、ゆらぎ方程式記憶部14と、設計部15と、最適トポロジ制御部16とを備えている。
【0027】
情報収集部11は、仮想網のトポロジ、トラヒックの経路情報、リンク利用率などのトラヒック情報、スループットや最大リンク利用率などの性能情報(以下「仮想網情報」という。)を測定するとともに、物理網のトポロジ、波長パスの経路情報、伝送能力などの性能情報(以下「物理網情報」という。)を測定する。仮想網情報DB12は、情報収集部11によって測定された仮想網情報を格納し、物理網情報DB13は、情報収集部11によって測定された物理網情報を格納する(図3、ステップS1)。物理網の状態が変化しない場合は物理網情報DB13に予め物理網情報を格納しておけばよいので、情報収集部11が物理網情報を収集することは必ずしも必要でない。ゆらぎ方程式記憶部14は、アトラクター選択を表現するゆらぎ方程式を記憶する(図3、ステップS2)。設計部15は、ゆらぎ方程式のパラメータを設計する(図3、ステップS3)。最適トポロジ制御部16は、設計部15によって設計されたパラメータをゆらぎ方程式に適用し、このゆらぎ方程式に基づき仮想網トポロジを算出して仮想網を制御する(図3、ステップS4)。図2では、ゆらぎ方程式記憶部14と最適トポロジ制御部16とを別々に描いているが、最適トポロジ制御部16の内部にゆらぎ方程式記憶部14を備えた構成を採用することも可能である。
【0028】
(実施の形態)
既に説明した通り、本発明は基本発明を前提とし、基本的な考え方は前記した通りである。本発明の特徴的な点は、単一仮想網に対するアトラクター選択モデルを拡張し、他の仮想網上のアトラクター選択に対しても影響を与えるようにすることで、仮想網制御の間の資源競合の調停を実現し、物理網上の資源の適切な分配を実現する点である。これにより、各仮想網上では単一のアトラクター選択により環境変化に対しても適応的な制御を実現すると同時に、ネットワーク全体で見た場合でもアトラクター選択間の情報交換により資源競合を回避し、安定性の高い制御を実現する。
【0029】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0030】
各仮想網のアトラクター選択間に相互作用が全く存在しない場合は、リソース競合が適切に調停されない。具体的には、ある1 つの仮想網(アトラクター選択)Aの活性度が低く、もう一方の仮想網Bの活性度が高く、かつ、仮想網Aの状態を回復させるアトラクターに対応するVNTを構築するための資源を仮想網Bが既に利用している場合を考える。この場合、仮想網Bは変化しないため、仮想網Aは、状態を回復させるアトラクターに対応するVNTを構築することができない。そのため、活性度が回復せず、アトラクター選択内のノイズ成分(η)の影響によりトポロジが振動し、安定なトポロジに到達しない状態になる。それぞれの仮想網上で動作しているアトラクター選択の活性度が独立しているために、このような現象が生じる。そこで、活性度に相互作用を導入し、互いのアトラクター選択の状態を考慮することで、ネットワーク全体の仮想網制御を適応的に動作させることを考える。
【0031】
この問題を解決するためには、ある仮想網のアトラクター選択の活性度が上昇しないときに仮想網制御装置が他の仮想網のアトラクター選択の活性度を低下させ、現在の仮想網トポロジから別の仮想網トポロジへの変化させることが必要である。このためには、低い活性度に応じて全体のアトラクター選択の活性度を適切に低下させることで資源を占有している他の仮想網の再構成を促す必要がある。
【0032】
ここで、本発明のネットワーク構成を図4に示す。本発明のネットワーク構成は、基本的には前述した基本発明のネットワーク構成(図1)と同様である。すなわち、物理網は物理ノードと物理リンクで構成されており、物理リンクはWDM技術により複数の波長を収容している。物理ノード間は波長ルーティングにより波長パスで接続されている。物理網は1つまたは複数の仮想網(ここでは#11および#12)を収容している。物理網は仮想網に対して波長パスで構成される仮想網トポロジを提供する。ここで、仮想網トポロジの設計・制御を行なう機能は仮想網制御装置10Aおよび10Bが担う。仮想網制御装置10Aおよび10Bは物理網と仮想網を接続し、物理網トポロジなどの状態情報、各仮想網のトポロジ情報および仮想網上のリンク利用率・スループットなどの性能情報等を取得する手段を有する。また、仮想網制御装置10Aおよび10Bは、仮想網の環境変化が生じた際に後述のゆらぎ方程式に基づき環境変化に適応可能なトポロジを設計し、現状の仮想網トポロジを再構成する機能を保持している。仮想網制御装置10Aおよび10Bが備える処理部は、図2に示される仮想網制御装置10と同様である。ただし、本発明における設計部15は、ゆらぎ方程式のパラメータを設計する際、物理網の資源を共有する各仮想網間で活性度を相互作用させる機能を備えている。
【0033】
次に、ゆらぎ方程式による仮想網制御の機構について説明する。細胞におけるアトラクター選択では、遺伝子ネットワークが代謝ネットワークを制御する。仮想網制御では、上位のネットワークの性能が劣化した場合に仮想網を適切に再構築することで性能を回復させる。そこで、遺伝子ネットワークを仮想網制御に対応づけるとともに、代謝ネットワークを上位のネットワークに対応づける。これにより、仮想網制御では、上位ネットワークからのフィードバックを用い、上位ネットワークの状態が改善するように制御する。
【0034】
アトラクター選択に基づく仮想網制御手法を述べる。ここでは、遺伝子ネットワークの遺伝子をWDMネットワークの各ノードペアiに設置する。仮想網nの各遺伝子は発現レベルxinを持ち、xinによってそのノードペアに設置する波長パス数を制御する。各遺伝子は、他の遺伝子と活性・抑制の相互作用を及ぼし合いながら、以下の式(2)によりxinを決定する。式(2)においてtは時刻である。αnは活性度であり、ネットワークを測定することで決定される。活性度αnとしては例えば最大リンク利用率等を用いる。つまり、アトラクター選択とは活性度情報(αn)を入力として、各時刻でのパス本数(xin)を決定するメカニズムである。
【0035】
この遺伝子xin間の相互作用は、制御行列Wnijによって表現される。制御行列Wnijは、活性関係の場合は正の値、抑制関係は負の値となる行列である。ここで、各遺伝子は特定の波長パスに対応しているので、制御行列Wnijにより異なる対地間の波長パスの設定されやすさが決定される。また、遺伝子間に関係が存在しない場合、すなわち、ある波長パスを設定しても他の波長パスの設定を促進も抑制もする必要がない場合は制御行列Wnijに0を設定する。
【0036】
仮想網制御では、ゆらぎ方程式(1)は以下のように表現される。
【数2】

【0037】
関数sig()はシグモイド関数である。第一項のsig(ΣjWij・xj-θ-βΣkxik)-xinはアトラクターを持つ制御構造であり、式(1)におけるf(x)に相当する。αnは活性度であり、上位ネットワークのコンディションを表す指標である。第二項のηはゆらぎであり、正規分布に従う乱数である。
【0038】
仮想網全体を考慮したアトラクター選択nの活性度をαnとし、さらにアトラクター選択nの単独での活性度(性能)をvとして、このvを以下の式(3)のように新たに定義する。
【数3】

【0039】
maxは仮想網nの最大リンク利用率等の性能指標で、γは正の定数である。vは、仮想網nを観測することで得られるパラメータを元に計算することができる。ここで、vからαnを算出する方法は複数考えられる。まず、式(4)に示すように、全ての活性度(vn) の積をαnとする場合を考える。
【数4】

【0040】
この定義によれば、1つでも活性度の低い(0に近い)アトラクター選択がある場合は、全てのアトラクター選択で活性度を同じように低下させることで、全てのアトラクター選択を新たなアトラクターに収束させることが可能である。
【0041】
他に、式(5)に示すように、それぞれのアトラクター選択の活性度vの重みqn 付き平均をとり、この重みqn 付き平均をαnと定義してもよい。
【数5】

【0042】
式(5)を用いる場合は、それぞれのアトラクター選択が一定の割合で他のアトラクター選択の活性度の状況を考慮し、自身の活性度を定義する。αnの決定方法については単純な固定の重みを用いる方式がある。この方式では、全qnに同じ値(例. qn =1)を設定することになるが、実質的には式(4)と等価となる。
【0043】
この場合は、最大リンク利用率が高くても活性度が高くなってしまうことがあり、ゆらぎによる新たなVNT(アトラクター)の探索が行われない現象が生じる可能性がある。この問題を回避するため、自身活性度のvに応じて重みqnを決めることができる。自身の最大リンク利用率umaxが高くvが低い場合は、他のアトラクター選択のvにかかわらず自身の活性度αnを低くし、ゆらぎによるアトラクターの探索を促進する必要がある。この要件を満たす重みqnはvに関して減少関数となればよい。そこで、ある減少関数hを決め、qn = h(v) とする。vの値域を[0,1] とすると、関数hとしてはh(v) = 1−vなどが考えられる。
【0044】
式(4)または式(5)に従って活性度αnを定義することで、特定の仮想網の性能(v)が向上しても他の仮想網の性能が低下している場合にはαnは上昇せず、全ての仮想網の性能が一様に増加した場合にのみ活性度αnが上昇する。そのため、特定の仮想網が資源枯渇により性能低下することなく、複数の仮想網を収容している場合にも環境変化に対して適応的なトポロジ制御を実現することができる。
【0045】
以上説明したように、本発明によれば、単一仮想網に対するアトラクター選択モデルを拡張し、他の仮想網上のアトラクター選択に対しても影響を与えるようにすることで、仮想網制御の間の資源競合の調停を実現し、物理網上の資源の適切な分配を実現することができる。これにより、各仮想網上では単一のアトラクター選択により環境変化に対しても適応的な制御を実現すると同時に、ネットワーク全体で見た場合でもアトラクター選択間の情報交換により資源競合を回避し、安定性の高い制御を実現することが可能である。しかも、本発明によれば、仮想網間で頻繁に交換する情報は活性度のみであるため、仮想網数が増加しても情報交換負荷は低く、高いスケール性を実現することができる。
【符号の説明】
【0046】
10、10A、10B…仮想網制御装置
11…情報収集部
12…仮想網情報DB
13…物理網情報DB
14…ゆらぎ方程式記憶部
15…設計部
16…最適トポロジ制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物が未知の環境変化に適応するときの振る舞いをモデル化したアトラクター選択によって仮想網を制御する仮想網制御方法であって、
前記アトラクター選択を表現するゆらぎ方程式を記憶する記憶ステップと、
前記ゆらぎ方程式のパラメータを設計する際、前記仮想網を収容する物理網の資源を共有する各仮想網間で活性度を相互作用させる設計ステップと、
前記パラメータを前記ゆらぎ方程式に適用して前記仮想網を制御する制御ステップと、
を備えたことを特徴とする仮想網制御方法。
【請求項2】
前記設計ステップでは、前記アトラクター選択の単独での活性度の全ての積を前記仮想網全体を考慮したアトラクター選択の活性度とすることを特徴とする請求項1記載の仮想網制御方法。
【請求項3】
前記設計ステップでは、前記アトラクター選択の単独での活性度のそれぞれの重み付き平均を前記仮想網全体を考慮したアトラクター選択の活性度とすることを特徴とする請求項1記載の仮想網制御方法。
【請求項4】
請求項1から3記載のステップを実行する処理部を備えたことを特徴とする仮想網制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−155507(P2011−155507A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15934(P2010−15934)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】