説明

伝搬損失推定方法、プログラム及び伝搬損失推定装置

【課題】伝搬損失の推定精度の向上を可能とすること。
【解決手段】送信機の道路上の位置と、受信機の道路上の位置とを取得し、道路の形状を表す地図情報に基づいて、受信機の位置が、送信機の位置から分岐点を曲がらずに到達可能な位置であるか否か判定し、受信機の位置が、送信機の位置から分岐点を曲がらずに到達可能な位置である場合に、地図情報に基づいて、受信機の位置が送信機の位置から直線的に見通すことが可能な位置であるか否か判定し、受信機の位置が送信機の位置から直線的に見通すことが可能な位置である場合と、受信機の位置が送信機の位置から直線的に見通すことができない位置である場合とで、それぞれに応じた異なる式を用いて伝搬損失を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分岐点を含む道路上に位置する送信機と受信機との間の伝搬損失を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セルラーシステムや無線LAN(Local Area Network)など、様々な無線通信システムがマイクロ波帯の周波数を利用している。これらのシステムの普及により、周波数資源の逼迫が問題となっている。今後、これらのシステムの設置がさらに増加してくると、限りある周波数資源を有効に利用するために、システム間で互いに生じる干渉を考慮したシステム設計が必要となる。そのためには、基地局や端末局における干渉検討を行うために、多様なアンテナ設置環境においてマイクロ波の伝搬特性を推定することが必要となる。
【0003】
端末局同士のように、周囲の建物よりも送受信機のアンテナ高が低い環境での伝搬損失モデルとして、ITU−R(Radio communication Sector of International Telecommunication Union)勧告P.1411の伝搬損失推定式がある。図10は、ITU−R勧告P.1411の伝搬損失推定式で想定されている地理的環境を示す図である。分岐点91に続く道路の上に送信機BSと受信機MSとが位置している。伝搬損失推定式を用いることにより、送信機BSが送信する電波を受信機MSにおいて受信した場合の伝搬損失を推定することが可能である。
【0004】
従来技術における伝搬損失推定式の特徴としては、受信機の位置が、送信機の位置から分岐点を曲がらずに到達可能であるか否かに応じて、異なる伝搬損失推定式を使用する点がある。伝搬損失推定式に対し、波長(λ)、送信機BSのアンテナ高(hb)、受信機MSのアンテナ高(hm)、送受信機間の距離(d)、送信機BSから分岐点91までの距離(x1)、受信機MSから分岐点91までの距離(x2)、送信機BSのある道路の幅(w1)、受信機MSのある道路の幅(w2)を入力することによって、伝搬損失を算出することができる。
【0005】
(1)受信機が分岐点を曲がらずに到達可能な位置に存在する場合
以下の式1〜式3を用いて算出されるLLoS,mが、伝搬損失の値である。
【0006】
【数1】

【数2】

【数3】

【0007】
(2)受信機が分岐点を曲がらずには到達できない位置に存在する場合
以下の式4〜式6を用いて算出されるLNLoS2が、伝搬損失の値である。
【0008】
【数4】

【数5】

【数6】

【0009】
ここで、dcorner=30[m], β=6、住宅地環境においてLcorner=30[dB]、市街地環境においてLcorner=20[dB]である。
【0010】
図11は、従来技術による伝搬損失推定式に基づいた伝搬損失の推定処理の流れを示す。ステップS901では、波長(λ)、送信機BSのアンテナ高(hb)、受信機MSのアンテナ高(hm)、送受信機間の距離(d)、送信機BSから分岐点91までの距離(x1)、受信機MSから分岐点91までの距離(x2)、送信機BSのある道路の幅(w1)、受信機MSのある道路の幅(w2)が推定装置に入力される。ステップS902では、推定装置が、送受信機間の距離(d)と送信機BSから分岐点91までの距離(x1)とに基づいて、受信機MSが分岐点91を曲がらずに到達可能な位置に存在するか否かを判定する。受信機MSが分岐点91を曲がらずに到達可能な位置に存在する場合、推定装置は、式1〜式3を用いてLLoS,mを算出する(ステップS903)。一方、受信機MSが分岐点91を曲がらずには到達できない位置に存在する場合、推定装置は、式4〜式6を用いてLNLoS2を算出する(ステップS904)。ステップS903又はステップS904の処理の後、推定装置は、演算結果を出力して処理を終了する(ステップS905)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Rec.ITU-R P.1411-5," Propagation data and prediction methods for the planning of short-range outdoor radiocommunication systems and radio local area networks in the frequency range 300MHz to 100GHz," ITU-R Recommendations, vol.4, P Series, ITU, Geneva (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来技術による伝搬損失の推定方法では以下のような問題があった。従来方法では、見通しのある直線道路での距離減衰と、分岐点による付加損失によって伝搬損失推定を行う。しかし、実際の環境における道路の多くは直線道路のみではなく、カーブによって見通しが遮られてしまう場合もある。従来方法では、このようなカーブの存在によって生じる伝搬損失への影響は考慮されていない。したがって、カーブの存在により、従来方法では伝搬損失の推定精度が低下してしまうおそれがあった。
【0013】
上記事情に鑑み、本発明は、伝搬損失の推定精度の向上を可能とする技術の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様は、分岐点を含む道路上に位置する送信機と受信機との間の無線通信における伝搬損失を推定する伝搬損失推定方法であって、前記送信機の前記道路上の位置と、前記受信機の前記道路上の位置とを取得する取得ステップと、前記道路の形状を表す地図情報に基づいて、前記受信機の位置が、前記送信機の位置から前記分岐点を曲がらずに到達可能な位置であるか否か判定する分岐点判定ステップと、前記受信機の位置が、前記送信機の位置から前記分岐点を曲がらずに到達可能な位置である場合に、前記地図情報に基づいて、前記受信機の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことが可能な位置であるか否か判定する第一見通しステップと、前記受信機の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことが可能な位置である場合と、前記受信機の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことができない位置である場合とで、それぞれに応じた異なる式を用いて前記伝搬損失を算出する第一推定ステップと、を有する。
【0015】
本発明の一態様は、上記の伝搬損失推定方法であって、前記受信機の位置が、前記送信機の位置から前記分岐点を曲がらずには到達できない位置である場合に、前記地図情報に基づいて、前記分岐点の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことが可能な位置であるか否か判定する第二見通しステップと、前記分岐点の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことが可能な位置である場合と、前記受信機の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことができない位置である場合とで、それぞれに応じた異なる式を用いて前記伝搬損失を算出する第二推定ステップと、をさらに有する。
【0016】
本発明の一態様は、上記の伝搬損失推定方法であって、前記第二推定ステップにおいて、前記受信機の位置が、前記送信機の位置から前記分岐点を曲がらずには到達できない位置である場合に、前記送信機の位置から前記分岐点までの道のりの長さに応じた減衰定数を算出し、前記減衰定数に基づいて前記伝搬損失を算出する。
【0017】
本発明の一態様は、分岐点を含む道路上に位置する送信機と受信機との間の無線通信における伝搬損失を推定する伝搬損失推定装置としてコンピュータを動作させるためのプログラムであって、前記送信機の前記道路上の位置と、前記受信機の前記道路上の位置とを取得する取得ステップと、前記道路の形状を表す地図情報に基づいて、前記受信機の位置が、前記送信機の位置から前記分岐点を曲がらずに到達可能な位置であるか否か判定する分岐点判定ステップと、前記受信機の位置が、前記送信機の位置から前記分岐点を曲がらずに到達可能な位置である場合に、前記地図情報に基づいて、前記受信機の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことが可能な位置であるか否か判定する第一見通しステップと、前記受信機の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことが可能な位置である場合と、前記受信機の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことができない位置である場合とで、それぞれに応じた異なる式を用いて前記伝搬損失を算出する第一推定ステップと、前記受信機の位置が、前記送信機の位置から前記分岐点を曲がらずには到達できない位置である場合に、前記地図情報に基づいて、前記分岐点の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことが可能な位置であるか否か判定する第二見通しステップと、前記分岐点の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことが可能な位置である場合と、前記分岐点の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことができない位置である場合とで、それぞれに応じた異なる式を用いて前記伝搬損失を算出する第二推定ステップと、前記第二推定ステップにおいて、前記受信機の位置が、前記送信機の位置から前記分岐点を曲がらずには到達できない位置である場合に、前記送信機の位置から前記分岐点までの道のりの長さに応じた減衰定数を算出し、前記減衰定数に基づいて前記伝搬損失を算出するステップと、をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【0018】
本発明の一態様は、分岐点を含む道路上に位置する送信機と受信機との間の無線通信における伝搬損失を推定する伝搬損失推定装置であって、前記送信機の前記道路上の位置と、前記受信機の前記道路上の位置とを取得する取得部と、前記道路の形状を表す地図情報に基づいて、前記受信機の位置が、前記送信機の位置から前記分岐点を曲がらずに到達可能な位置であるか否か判定する分岐点判定部と、前記受信機の位置が、前記送信機の位置から前記分岐点を曲がらずに到達可能な位置である場合に、前記地図情報に基づいて、前記受信機の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことが可能な位置であるか否か判定し、前記受信機の位置が前記送信機の位置から前記分岐点を曲がらずに到達できない位置である場合に、前記地図情報に基づいて、前記分岐点の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことが可能な位置であるか否か判定する見通し判定部と、前記受信機の位置が、前記送信機の位置から前記分岐点を曲がらずに到達可能な位置である場合に、前記受信機の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことが可能な位置である場合と、前記受信機の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことができない位置である場合とで、それぞれに応じた異なる式を用い、前記受信機の位置が前記送信機の位置から前記分岐点を曲がらずに到達できない位置である場合に、前記分岐点の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことが可能な位置である場合と、前記分岐点の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことができない位置である場合とで、それぞれに応じた異なる式を用いて前記伝搬損失を算出する推定部と、を備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、伝搬損失の推定精度の向上が可能となる。より具体的には、送信機と受信機との間を繋ぐ道路がカーブし、送信機と受信機との間の見通しが遮られる場合であっても、精度よく伝搬損失の推定をすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態である伝搬損失推定装置が伝搬損失の推定を行う道路の具体例の形状を示す図である。
【図2】伝搬損失推定装置の機能構成を表す概略ブロック図である。
【図3】第一ケースにおいて周波数が2.1975GHzである無線信号を用いて無線通信を実際に行うことによって得られたdとLとの関係を表すグラフである。
【図4】第二ケースにおいて周波数が2.1975GHzである無線信号を用いて無線通信を実際に行うことによって得られたdとLとの関係を表すグラフである。
【図5】第三ケースにおいてd=60mという条件のもと、周波数が2.1975GHzである無線信号を用いて無線通信を実際に行うことによって得られたdとLとの関係を表すグラフである。
【図6】第四ケースにおいてd=340mという条件のもと、周波数が2.1975GHzである無線信号を用いて無線通信を実際に行うことによって得られたdとLとの関係を表すグラフである。
【図7】図5や図6に示される実験結果によって得られた減衰定数αを線形近似で求めた場合のグラフを示す図である。
【図8】伝搬損失推定装置の動作の流れを示すフローチャートである。
【図9】以下の条件における伝搬損失を伝搬損失推定装置によって算出した結果を表すグラフである。
【図10】ITU−R勧告P.1411の伝搬損失推定式で想定されている地理的環境を示す図である。
【図11】従来技術による伝搬損失推定式に基づいた伝搬損失の推定処理の流れを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<概略>
図1は、本発明の実施形態である伝搬損失推定装置100が伝搬損失の推定を行う道路の具体例(道路200)の形状を示す図である。まず、図1を用いて伝搬損失推定装置100の処理の概略について説明する。道路200は、曲線上の道路11と、道路11に繋がる分岐路12及び分岐路13とを有する。そのため、道路11と分岐路12とが繋がる地点には分岐点41が存在する。同様に、道路11と分岐路13とが繋がる地点には分岐点42が存在する。
【0022】
道路11には、送信機21が設置されている。道路11はカーブしている。地点14までは送信機21の設置位置(以下、「送信位置」という。)から直線的に見通す事が可能である。しかし、送信位置から離れる方向へ地点14を越えた場所は、送信位置から直線的に見通す事ができない。すなわち、送信機21から送出された無線信号は、地点14までは道路11に沿って直線的に到達可能である。しかし、送信機21から送出された無線信号は、地点14を越えた先には道路11に沿って直線的に到達することができない。
【0023】
伝搬損失推定装置100は、道路200のいずれかの場所に受信機が設置された場合を想定し、送信機21から受信機までの無線通信の伝搬損失を推定する。例えば、第一設置位置31、第二設置位置32、第三設置位置33、第四設置位置34それぞれの位置に受信機が設置された場合の伝搬損失を伝搬損失推定装置100は推定する。
【0024】
第一設置位置31は、送信位置から分岐点を曲がらずに到達可能な位置であり、送信位置から直線的に見通すことが可能な位置である。第二設置位置32は、送信位置から分岐点を曲がらずに到達可能な位置であり、送信位置から直線的に見通すことができない位置である。第三設置位置33は、送信位置から分岐点を曲がらずには到達できない位置であり、その分岐点41の位置は送信位置から直線的に見通すことが可能な位置である。第四設置位置34は、送信位置から分岐点を曲がらずには到達できない位置であり、その分岐点42の位置は送信位置から直線的に見通すことができない位置である。
【0025】
伝搬損失推定装置100は、上述した特徴を有する第一設置位置31〜第四設置位置34のそれぞれについて、異なる算出式に基づいて伝搬損失を推定する。
【0026】
<詳細>
次に、伝搬損失推定装置100の詳細について説明する。
図2は、伝搬損失推定装置100の機能構成を表す概略ブロック図である。伝搬損失推定装置100は、バスで接続されたCPU(Central Processing Unit)やメモリや補助記憶装置などを備え、推定プログラムを実行する。伝搬損失推定装置100は、推定プログラムの実行によって、入力部101、地図情報記憶部102、分岐点判定部103、見通し判定部104、推定部105、出力部106を備える装置として機能する。なお、伝搬損失推定装置100の各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されても良い。推定プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されても良い。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。推定プログラムは、電気通信回線を介して送信されても良い。
【0027】
入力部101は、キーボード、ポインティングデバイス(マウス、タブレット等)、ボタン、タッチパネル等の既存の入力装置を用いて構成される。入力部101は、種々のデータや指示を伝搬損失推定装置100に入力する際に操作者によって操作される。例えば、送信機21の道路上の位置、受信機の道路上の位置が入力部101を介して伝搬損失推定装置100に入力される。この入力により、伝搬損失推定装置100は送信機及び受信機それぞれの道路上の位置を取得する。
【0028】
地図情報記憶部102は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置などの記憶装置を用いて構成される。地図情報記憶部102は、伝搬損失の推定を行う対象となる道路の形状に関する情報を記憶する。
分岐点判定部103は、地図情報記憶部102に記憶される地図情報に基づいて、受信機の設置位置が送信位置から分岐点を曲がらずに到達可能な位置であるか否か判定する。
【0029】
見通し判定部104は、地図情報記憶部102に記憶される地図情報に基づいて、受信機の設置位置が送信位置から直線的に見通すことが可能な位置であるか否か判定する。また、見通し判定部104は、地図情報記憶部102に記憶される地図情報に基づいて、受信機が設置された分岐路に繋がる分岐点の位置が送信位置から直線的に見通すことが可能な位置であるか否か判定する。
【0030】
推定部105は、分岐点判定部103及び見通し判定部104による判定結果に従って伝搬損失の推定式を選択する。そして、推定部105は、選択した推定式に基づいて、道路方向の伝搬損失(以下、単に「伝搬損失」という。)を算出する。推定部105の処理の詳細については後述する。
出力部106は、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の画像表示装置を用いて構成される。出力部106は、推定部105による推定結果を表す画像や文字を表示する。
【0031】
次に、推定部105の処理の詳細について説明する。推定部105は、四種類の推定式(第一〜第四の推定式)を記憶している。
式10は、第一の推定式の具体例である。推定部105は、受信機の設置位置が、送信位置から分岐点を曲がらずに到達可能な位置であり、送信位置から直線的に見通すことが可能な位置である場合(以下、「第一ケース」という。:図1の第一設置位置31に相当。)に、第一の推定式に基づいて伝搬損失Lを推定する。
【0032】
L=L1LoS=A1+B1*log(d)・・・式10
【0033】
式10において、dは送信機から受信機までの道のりの長さを表す値である。道のりの長さとは、二つの地点間の直線距離の長さではなく、二つの地点間の道路に沿った距離の長さを示す。式10において、A1及びB1は定数であり、送信機から送信される無線信号の周波数に応じて決まる値である。例えば、周波数が2.1975GHzである場合には、A1=38.72、B1=21.43である。図3は、第一ケースにおいて周波数が2.1975GHzである無線信号を用いて無線通信を実際に行うことによって得られたdとLとの関係を表すグラフである。図3に示される実験結果に対して統計手法(例えば最小自乗法など)を適用することにより、A1及びB1の値を得ることができる。なお、図3に示される実験結果は、指向性アンテナを用いて行われたものである。
【0034】
式20は、第二の推定式の具体例である。推定部105は、受信機の設置位置が、送信位置から分岐点を曲がらずに到達可能な位置であり、送信位置から直線的に見通すことができない位置である場合(以下、「第二ケース」という。:図1の第二設置位置32に相当。)に、第二の推定式に基づいて伝搬損失Lを推定する。
【0035】
L=L1NLoS=A2+B2*log(d)・・・式20
【0036】
式20において、dは送信機から受信機までの道のりの長さを表す値である。式20において、A2及びB2は定数であり、送信機から送信される無線信号の周波数に応じて決まる値である。例えば、周波数が2.1975GHzである場合には、A2=−49.64、B2=68.65である。図4は、第二ケースにおいて周波数が2.1975GHzである無線信号を用いて無線通信を実際に行うことによって得られたdとLとの関係を表すグラフである。図4に示される実験結果に対して統計手法(例えば最小自乗法など)を適用することにより、A2及びB2の値を得ることができる。なお、図4に示される実験結果は、指向性アンテナを用いて行われたものである。
【0037】
式30は、第三の推定式の具体例である。推定部105は、受信機の設置位置が、送信位置から分岐点を曲がらずには到達できない位置であり、その分岐点の位置は送信位置から直線的に見通すことが可能な位置である場合(以下、「第三ケース」という。:図1の第三設置位置33に相当。)に、第三の推定式に基づいて伝搬損失Lを推定する。
【0038】
L=α(log(d)−log(d))+L1LoS(d)・・・式30
【0039】
式30において、dは送信機から受信機までの道のりの長さを表す値である。式30において、dは送信機から、受信機が設置された分岐路へ繋がる分岐点までの道のりの長さを表す値である。式30において、L1LoS(d)は、第一の推定式(式10)においてdに代えてdを代入した場合に得られるLの値を示す。式30において、αは減衰定数を表し、以下に示す式31のように表される。
【0040】
α=g(d)=C+D*log(d)・・・式31
【0041】
式31において、C及びDは定数であり、送信機から送信される無線信号の周波数に応じて決まる値である。例えば、周波数が2.1975GHzである場合には、C=48.17、D=21.43である。
【0042】
式40は、第四の推定式の具体例である。推定部105は、受信機の設置位置が、送信位置から分岐点を曲がらずには到達できない位置であり、その分岐点の位置は送信位置から直線的に見通すことができない位置である場合(以下、「第四ケース」という。:図1の第四設置位置34に相当。)に、第四の推定式に基づいて伝搬損失Lを推定する。
【0043】
L=α(log(d)−log(d))+L1NLoS(d)・・・式40
【0044】
式40において、dは送信機から受信機までの道のりの長さを表す値である。式40において、dは送信機から、受信機が設置された分岐路へ繋がる分岐点までの道のりの長さを表す値である。式40において、L1NLoS(d)は、第二の推定式(式20)においてdに代えてdを代入した場合に得られるLの値を示す。式40において、αは減衰定数を表し、上記の式31のように表される。
【0045】
第四の推定式を用いる場合も、周波数が2.1975GHzである場合には、式31における定数の値はC=48.17、D=21.43である。
【0046】
次に、式31における定数(C及びD)の値の求め方について説明する。
図5は、第三ケースにおいてd=60mという条件のもと、周波数が2.1975GHzである無線信号を用いて無線通信を実際に行うことによって得られたdとLとの関係を表すグラフである。図5に示される実験結果に対して統計手法(例えば最小自乗法など)を適用することにより、α=76.42の値を得ることができる。
【0047】
図6は、第四ケースにおいてd=340mという条件のもと、周波数が2.1975GHzである無線信号を用いて無線通信を実際に行うことによって得られたdとLとの関係を表すグラフである。図6に示される実験結果に対して統計手法(例えば最小自乗法など)を適用することにより、α=95.84の値を得ることができる。
【0048】
図7は、図5や図6に示される実験結果によって得られた減衰定数αを線形近似で求めた場合のグラフを示す図である。図7のグラフから、上述したように式31における定数の値がそれぞれC=48.17、D=21.43と求められる。
【0049】
次に、伝搬損失推定装置100の動作の流れについて説明する。図8は、伝搬損失推定装置100の動作の流れを示すフローチャートである。まず、入力部101は操作者による操作にしたがって、送信機21の設置位置及び受信機の設置位置の入力を受ける(ステップS101)。
【0050】
分岐点判定部103は、地図情報記憶部102に記憶される地図情報と、ステップS101において入力された送信機の設置位置及び受信機の設置位置とに基づいて、受信機の設置位置が送信位置から分岐点を曲がらずに到達可能な位置であるか否か判定する(ステップS102)。
【0051】
受信機の設置位置が送信位置から分岐点を曲がらずに到達可能な位置である場合には(ステップS102−YES)、見通し判定部104は、受信機の設置位置が送信位置から直線的に見通すことが可能な位置であるか否か判定する(ステップS103)。受信機の設置位置が送信位置から直線的に見通すことが可能な位置である場合には(ステップS103−YES)、推定部105は、第一の推定式に基づいて伝搬損失を算出する(ステップS104)。一方、受信機の設置位置が送信位置から直線的に見通すことができない位置である場合には(ステップS103−NO)、推定部105は、第二の推定式に基づいて伝搬損失を算出する(ステップS105)。
【0052】
ステップS102において、受信機の設置位置が送信位置から分岐点を曲がらずには到達できない位置である場合には(ステップS102−NO)、見通し判定部104は、その分岐点の位置が送信位置から直線的に見通すことが可能な位置であるか否か判定する(ステップS106)。分岐点の位置が送信位置から直線的に見通すことが可能な位置である場合には(ステップS106−YES)、推定部105は、第三の推定式に基づいて伝搬損失を算出する(ステップS107)。一方、分岐点の位置が送信位置から直線的に見通すことができない位置である場合には(ステップS106−NO)、推定部105は、第四の推定式に基づいて伝搬損失を算出する(ステップS108)。
第一の推定式〜第四の推定式のいずれか一つに基づいて推定部105が伝搬損失の推定値を算出すると、出力部106は算出結果を出力する(ステップS109)。
【0053】
以上のように構成された伝搬損失推定装置100では伝搬損失の推定精度を向上させる事が可能となる。以下、このような効果について詳細に説明する。
伝搬損失推定装置100は、図1に示すような湾曲した道路(200)に複数の分岐点(41,42)が存在するような地形において、受信機の設置位置を第一設置位置31〜第四設置位置34の四種類に分類する。そして、伝搬損失推定装置100は、それぞれの分類に応じた推定式(第一の推定式〜第四の推定式)に基づいて伝搬損失を推定する。そのため、それぞれの分類に応じて、高精度に伝搬損失を推定することが可能となる。
【0054】
例えば、受信機の設置位置が、送信位置から分岐点を曲がらずに到達可能な位置であったとしても、送信位置から直線的に見通すことが可能な位置であるか否かによって異なる推定式が用いられる。具体的には、受信機の設置位置が、送信位置から直線的に見通すことが可能な位置である場合(第一ケース)と、見通す事ができない位置である場合(第二ケース)とでは、それぞれ異なる条件の事前実験によって得られる定数(A1,A2,B1,B2)が用いられる。そのため、それぞれの場合に応じて適切な定数を用いた推定式による推定が行われる。
【0055】
例えば、受信機の設置位置が、送信位置から分岐点を曲がらなければ到達できない位置であったとしても、その分岐点の位置が送信位置から直線的に見通すことが可能な位置であるか否かによって異なる推定式が用いられる。具体的には、分岐点の位置が、送信位置から直線的に見通すことが可能な位置である場合(第三ケース)と、見通す事ができない位置である場合(第四ケース)とでは、それぞれ異なる条件の事前実験によって得られる定数(A1,A2,B1,B2)が用いられる。そのため、それぞれの場合に応じて適切な定数を用いた推定式による推定が行われる。
【0056】
また、分岐点を曲がった先における減衰定数は分岐点毎に異なる。すなわち、このような減衰定数は全ての分岐点において一様でない。そこで、伝搬損失推定装置100は、送信機から分岐点までの道のりの長さに応じた減衰係数を算出し、伝搬損失を算出する。そのため、より正確に伝搬損失を算出することが可能となる。
【0057】
図9は、以下の条件における伝搬損失を伝搬損失推定装置100によって算出した結果を表すグラフである。
(条件1)第四ケースの状況である。
(条件2)送信位置から分岐点までの道のりの長さは1194mである
【0058】
図9には、同条件において無指向性アンテナを使用して実際に取得した伝搬損失測定値との比較を示す。図9Aは、伝搬損失の値を表すグラフである。図9Bは、推定誤差を表すグラフである。ITU−R勧告P.1411の伝搬損失推定式を用いた場合(破線のグラフ)に比べ、伝搬損失推定装置100による推定結果(実線のグラフ)は、全体的に推定誤差が小さくなっていることがわかる。例として累積確率50%値においては推定誤差を約25dB改善していることがわかる。
【0059】
<変形例>
地図情報記憶部102は、予め地図情報を記憶していなくとも良い。その場合、入力部101を介して地図情報のデータが伝搬損失推定装置100に入力され、入力された地図情報を地図情報記憶部102が記憶しても良い。この場合の入力部101は、地図情報のデータを入力可能となるように構成される。例えば、入力部101は、有線通信や無線通信によるデータの受信を行うように構成されても良いし、CD−ROM等の記録媒体からデータを読み出すように構成されても良い。
送信機と受信機とが道路に設置されている場合について説明したが、送信機と受信機とはいずれも固定的に設置されている必要は無く、その位置が移動可能に構成されていても良い。
【0060】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0061】
100…伝搬損失推定装置, 11…道路, 12,13…分岐路, 14…地点, MS…受信機, BS,21…送信機, 31…第一設置位置, 32…第二設置位置, 33…第三設置位置, 34…第四設置位置, 41,42,91…分岐点, 101…入力部(取得部), 102…地図情報記憶部, 103…分岐点判定部, 104…見通し判定部, 105…推定部, 106…出力部, 200…道路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分岐点を含む道路上に位置する送信機と受信機との間の無線通信における伝搬損失を推定する伝搬損失推定方法であって、
前記送信機の前記道路上の位置と、前記受信機の前記道路上の位置とを取得する取得ステップと、
前記道路の形状を表す地図情報に基づいて、前記受信機の位置が、前記送信機の位置から前記分岐点を曲がらずに到達可能な位置であるか否か判定する分岐点判定ステップと、
前記受信機の位置が、前記送信機の位置から前記分岐点を曲がらずに到達可能な位置である場合に、前記地図情報に基づいて、前記受信機の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことが可能な位置であるか否か判定する第一見通しステップと、
前記受信機の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことが可能な位置である場合と、前記受信機の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことができない位置である場合とで、それぞれに応じた異なる式を用いて前記伝搬損失を算出する第一推定ステップと、
を有する伝搬損失推定方法。
【請求項2】
前記受信機の位置が、前記送信機の位置から前記分岐点を曲がらずには到達できない位置である場合に、前記地図情報に基づいて、前記分岐点の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことが可能な位置であるか否か判定する第二見通しステップと、
前記分岐点の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことが可能な位置である場合と、前記分岐点の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことができない位置である場合とで、それぞれに応じた異なる式を用いて前記伝搬損失を算出する第二推定ステップと、
をさらに有する請求項1に記載の伝搬損失推定方法。
【請求項3】
前記第二推定ステップにおいて、前記受信機の位置が、前記送信機の位置から前記分岐点を曲がらずには到達できない位置である場合に、前記送信機の位置から前記分岐点までの道のりの長さに応じた減衰定数を算出し、前記減衰定数に基づいて前記伝搬損失を算出する、請求項2に記載の伝搬損失推定方法。
【請求項4】
分岐点を含む道路上に位置する送信機と受信機との間の無線通信における伝搬損失を推定する伝搬損失推定装置としてコンピュータを動作させるためのプログラムであって、
前記送信機の前記道路上の位置と、前記受信機の前記道路上の位置とを取得する取得ステップと、
前記道路の形状を表す地図情報に基づいて、前記受信機の位置が、前記送信機の位置から前記分岐点を曲がらずに到達可能な位置であるか否か判定する分岐点判定ステップと、
前記受信機の位置が、前記送信機の位置から前記分岐点を曲がらずに到達可能な位置である場合に、前記地図情報に基づいて、前記受信機の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことが可能な位置であるか否か判定する第一見通しステップと、
前記受信機の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことが可能な位置である場合と、前記受信機の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことができない位置である場合とで、それぞれに応じた異なる式を用いて前記伝搬損失を算出する第一推定ステップと、
前記受信機の位置が、前記送信機の位置から前記分岐点を曲がらずには到達できない位置である場合に、前記地図情報に基づいて、前記分岐点の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことが可能な位置であるか否か判定する第二見通しステップと、
前記分岐点の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことが可能な位置である場合と、前記分岐点の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことができない位置である場合とで、それぞれに応じた異なる式を用いて前記伝搬損失を算出する第二推定ステップと、
前記第二推定ステップにおいて、前記受信機の位置が、前記送信機の位置から前記分岐点を曲がらずには到達できない位置である場合に、前記送信機の位置から前記分岐点までの道のりの長さに応じた減衰定数を算出し、前記減衰定数に基づいて前記伝搬損失を算出するステップと、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項5】
分岐点を含む道路上に位置する送信機と受信機との間の無線通信における伝搬損失を推定する伝搬損失推定装置であって、
前記送信機の前記道路上の位置と、前記受信機の前記道路上の位置とを取得する取得部と、
前記道路の形状を表す地図情報に基づいて、前記受信機の位置が、前記送信機の位置から前記分岐点を曲がらずに到達可能な位置であるか否か判定する分岐点判定部と、
前記受信機の位置が、前記送信機の位置から前記分岐点を曲がらずに到達可能な位置である場合に、前記地図情報に基づいて、前記受信機の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことが可能な位置であるか否か判定し、前記受信機の位置が前記送信機の位置から前記分岐点を曲がらずに到達できない位置である場合に、前記地図情報に基づいて、前記分岐点の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことが可能な位置であるか否か判定する見通し判定部と、
前記受信機の位置が、前記送信機の位置から前記分岐点を曲がらずに到達可能な位置である場合に、前記受信機の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことが可能な位置である場合と、前記受信機の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことができない位置である場合とで、それぞれに応じた異なる式を用い、前記受信機の位置が前記送信機の位置から前記分岐点を曲がらずに到達できない位置である場合に、前記分岐点の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことが可能な位置である場合と、前記分岐点の位置が前記送信機の位置から直線的に見通すことができない位置である場合とで、それぞれに応じた異なる式を用いて前記伝搬損失を算出する推定部と、
を備える伝搬損失推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−9175(P2013−9175A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140812(P2011−140812)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年1月13日 社団法人電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会技術研究報告 信学技報 Vol.110 No.371」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年3月14日〜17日 「電子情報通信学会 2011年総合大会 講演論文集」において文書をもって発表
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】