説明

伸縮性を有するアルミナ長繊維編物およびその製造方法

【課題】 優れた伸縮性を有するアルミナ長繊維編物を得ること。
【解決手段】 アルミナ長繊維の前駆体繊維と焼成時焼却霧散するような有機繊維を補強糸とし、合糸または撚糸し、編成して編地とし、その後焼成してアルミナ長繊維編地を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性と伸縮性を有するアルミナ長繊維編物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナ繊維は耐熱性を有し、強度が強く、また電気絶縁性に優れるなど多くの優れた特性を持った繊維であり高温耐熱材料として広い分野で使用されている。ガラス繊維やシリカ繊維などのセラミック繊維、ステンレス繊維などの金属繊維も耐熱性を有している。しかし、ガラス繊維はせいぜい400℃以下での使用限度があり、シリカ繊維は800℃以上の高温で長時間使用すると強度低下が起こりやすいなどの欠点があるし、ステンレス繊維は1,000℃以上にも耐えることができるが、高価であるという欠点がある。
【0003】
アルミナ繊維やシリカ繊維は織物に加工することができる。アルミナ繊維やシリカ繊維を織成した織物は柔軟性と耐熱性を併せ持った優れた材料であり、長繊維形態のものとは異なった新たな分野へ用途が広がっている。しかし、長繊維形態のものも同じであるが、織物形態のものは伸縮性に乏しいものであった。すなわち、アルミナ繊維やセラミック繊維は強度は大きいものの伸度がほとんどないためである。
【0004】
伸縮性を得るためには組織上伸縮性を得られる組織、例えば、編物状にすることにより織物状物では得られない伸縮性編物を得ることができ、本発明者らは既にその方法を提案している。
【特許文献1】特開昭62−170522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、伸縮性を有する耐熱性に優れたアルミナ長繊維編物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述したように、アルミナ長繊維は強度は大きいが伸度は小さい。そのため繊維の屈曲強度が小さく、曲げに対しては極端に弱くなる。曲げ強度を大きくする手段としては単繊維の直径を小さくすれば曲げに対する耐性を大きくできることが分かっているが、繊維径を小さくすると製造コストがかさみ、非常に高価な繊維となってしまい、汎用には不適切となる。
【0007】
アルミナ長繊維をそのまま直接編機にかけて編成することは非常に困難である。そのため、伸縮性に富むアルミナ長繊維成形体を得る方法を検討し、本発明者らは既に特開昭62−170522号公報にその結果を提案している。しかしながら、アルミナ長繊維の前駆体繊維は柔軟ではあるが高速度での生産に耐えることができる十分な強度を有しておらず、慎重な工程管理をしてはじめて実施できるのであり、また、広巾の成形体を得るには織キズや編キズが発生しやすく、焼成後のアルミナ長繊維成形体の欠陥として残るという欠点があった。
【0008】
そこで本発明者らはこれらの欠点を克服し、伸縮性を有するアルミナ長繊維編物を得るべく鋭意研究した結果、単繊維径50μm以下のアルミナ長繊維前駆体と補強糸とを合糸あるいは撚糸した糸条を編成し、焼成することによって伸縮性を有するアルミナ長繊維編物が得られることを見出し本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨とするところは、単繊維の繊維直径が50μm以下のアルミナ長繊維前駆体と400℃以下の温度で熱分解する補強糸とを2,000T/M以下の撚数で合糸または撚糸し、編成して編物とした後、焼成して得られる優れた伸縮性を有するアルミナ長繊維編物およびその製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
上述のように構成された本発明によれば、編巾が自由な巾の編物を提供することができ、伸縮性を併せ持つことから、高温雰囲気において種々の物体のクッション材として用いられる材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明で云うアルミナ長繊維とは、Al2O3とSiO2から構成されており、Al2O3成分が重量比で50%以上のものを云い、好ましくは60%以上のものを云う。従って、アルミナ長繊維前駆体も、焼成した後、Al2O3とSiO2の構成比が上記のようになるよう調整されている。前駆体繊維の製造方法はいろいろあるが、その一例を示すと、オキシ塩化アルミニウム溶液とポリビニルアルコ−ル水溶液とコロイド状シリカを焼成後のAl2O3とSiO2の成分比が上記の範囲になるよう混合し、粘度を調整して紡糸用原液とする。この紡糸原液を乾式紡糸して前駆体繊維を得る。
【0012】
前駆体繊維の単繊維径は50μm以下のものが使用できるが、40μm以下のものを使用するのが好ましく、より好ましくは30μm以下である。繊維径が50μm以上だと、前駆体繊維の柔軟性が悪くなり、編成工程で折れ易くなり、毛羽が発生したり、糸切れの原因となるので好ましくない。
【0013】
本発明で用いる補強糸とは、400℃以下の温度で熱分解し、焼成工程で残さも霧散してしまう有機繊維なら何でも使用できる。例えば、セルロース系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、アクリル系繊維などである。使用する補強糸の太さは撚糸した際、前駆体繊維の太さとバランスがとれるような太さのものを使用するのが好ましいが、焼成時発生する補強糸からの灰分がアルミナ長繊維の表面に残存することもあり、アルミナ長繊維の表面がざらついたり、強度が低下することもあるため、できるだけ灰分の発生が少ない細繊度の糸を用いるのが好ましい。
【0014】
アルミナ長繊維前駆体は含有する水分率が高いと焼成後のアルミナ長繊維の物性が低下することが知られているので、編物の水分率は15%以下で取扱い、好ましくは水分率10%以下で取扱う。必要に応じ編物に含まれる水分を除去して焼成すべく編物を80℃から120℃で熱処理し、一部の水分を蒸発させた後に昇温して焼成する手法を採用してもよい。
【0015】
アルミナ長繊維前駆体を上記水分率以下にするためには、前駆体繊維と補強糸を撚糸、編成する際および焼成する前の編物を保管する雰囲気を相対湿度が50%以下、好ましくは40%以下で行なう。相対湿度が50%を越える雰囲気では、前駆体繊維が水分を吸着し、その水分率が15%を越え、焼成後得られるアルミナ長繊維の強度が低下したり、剛直化して繊維が折れ易くなったりするような悪影響を与えるので好ましくない。
【0016】
本発明で云う合糸または撚糸とは次のような概念を云う。合糸とは前駆体繊維と補強糸とを引揃えた状態のことであり、実作業では二つのボビンから引出した状態で編機に供給して編地を作製する。撚糸とは前駆体繊維と補強糸を引揃えて撚りをかけて作製する合撚糸と、前駆体繊維の回りを補強糸でカバーリングするカバーリング糸を含んでいる。合撚糸の場合の撚数は400T/M以下が好ましく、カバーリング糸の場合は2,000T/M以下の撚数が好ましい。
【0017】
カバーリング糸の良い点は前駆体繊維を芯にして補強糸で表面全体を覆うことができることである。前駆体繊維の表面は酸性度が強いため、撚糸機や編機のガイド、編針に直接触れて腐食させる危険性があるが、前駆体繊維は表面を補強糸で覆われているため、この危険性を少なくすることができる。
【0018】
前駆体繊維と補強糸は引揃えることにより編成することができる。しかし、撚糸した方が好ましい。前駆体繊維と補強糸を合撚する場合の撚数は、両糸がバラケない程度に撚りがかかっていればよく、特別に限定されるものではないが、編成時通糸ガイドなどでしごかれて、どちらかの糸にタルミが生じないようにしなければならない。このため撚数は400T/M以下が好ましく、50T/M〜200T/Mの範囲がより好ましい。
【0019】
カバーリング糸の場合の撚数は、2,000T/M以下が好ましい。撚糸は前駆体繊維と補強糸の繊度及び補強糸の種類によって撚糸方法と撚数を選択する。
【0020】
次いで、得られた引揃え糸または撚糸を編成する。得られた引揃え糸または撚糸は補強糸により補強されているため、通常の編機により高速で編みたてることができるが、緯編機や丸編機で編成するのが好ましい。経編の場合は糸を整経しなければならないため、糸に毛羽が発生し易くなるためである。それに緯編機や丸編機で編成した編地は伸縮し易い編組織が得られ易い。編巾は用途に応じて調整すればよい。
【0021】
引揃え糸または撚糸を編成する場合注意しなければならないことは、その後の焼成工程で生じる収縮を考慮した組織、密度にしなければならないということである。糸の収縮は焼成温度やその他の条件により異なってくるが、糸自体としては30〜40%程度の収縮が見られるのが普通である。そのため編み密度が高いと編組織により糸が拘束され、糸が収縮できず、伸縮性が得られなくなるばかりでなく、アルミナ長繊維が折れ、毛羽が発生することもある。
【0022】
得られた編物を焼成するのであるが、焼成時張力をかけすぎないことである。張力がかかりすぎると、編組織が伸ばされた状態で焼成されるため、所望の伸縮性が得られないことがあるので注意しなければならない。
【0023】
焼成はまず第一工程として編物を250℃〜550℃に加熱した焼成炉で行うことで補強糸を熱分解させる。次いで、第二工程として800℃以上の温度に加熱して焼成を進める。第一工程と第二工程は別々の工程で行うこともできるが、第一工程と第二工程を連続して焼成することもできる。焼成は空気雰囲気で行うことができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
(実施例1)
オキシ塩化アルミニウム溶液、コロイド状シリカおよびポリビニルアルコール水溶液を混合し、原液粘度を調整した紡糸原液を乾式紡糸して2600dtex/960Fのアルミナ長繊維前駆体を得た。この前駆体繊維の単繊維の直径は15μmであった。この前駆体繊維と100dtexのレーヨン糸とを撚糸機にて200T/Mの撚数に合撚し、丸編機にてメリヤス編みにした。(針数:100本、編径:3.5inch)。
【0025】
この編物を昇温速度100℃/hrで300℃に昇温、熱処理してレーヨン糸を熱分解させた後、さらに200℃/hrで1100℃まで昇温、焼成して、アルミナ長繊維編物を得た。得られた編物は良好な伸縮性を有し、500g荷重時の伸長率はタテ方向に30%、ヨコ方向に35%を示した。ここで、500g荷重時の伸長率は、つかみ間隔100mm、試料巾25mmの試料を定長引張試験機にて引張速度40mm/minで引張試験を行い、得られた荷重−伸長曲線より500g荷重時の伸長率を算出した。
【0026】
(実施例2)
実施例1と同様にして2600dtex/960Fのアルミナ長繊維前駆体(繊維直径15μm)を作製し、これと300dtexのアセテート糸とを引き揃えて合糸しながら丸編機にてメリヤス編みにした。この編物を昇温速度100℃/hrで350℃に昇温、熱処理してアセテート糸を熱分解させた後、さらに300℃/hrで1150℃まで昇温して焼成し、アルミナ長繊維編物を得た。得られた編物は良好な伸縮性を有し、500g荷重時の伸長率はタテ方向に25%、ヨコ方向に30%を示した。
【0027】
(実施例3)
実施例1と同様にして2000dtex/240Fのアルミナ長繊維前駆体(繊維直径45μm)を作製し、これと40番手の綿糸とを800T/Mにカバーリング撚糸し、緯編機にてメリヤス編みにした。(ゲージ数:7ゲージ、編巾:65inch)。この編物を昇温速度100℃/hrで300℃に昇温、熱処理して綿糸を熱分解させた後、さらに200℃/hrで1100℃まで昇温して焼成し、アルミナ長繊維編物を得た。得られた編物は良好な伸縮性を有し、500g荷重時の伸長率はタテ方向に22%、ヨコ方向に31%を示した。
【0028】
(実施例4)
実施例1と同様にして2600dtex/960Fのアルミナ長繊維前駆体(繊維直径15μm)を作製し、これと200dtexのポリエステル糸とを撚糸機にて50T/Mの撚数に合撚し、丸編機にてメリヤス編みにした。この編物を昇温速度100℃/hrで400℃に昇温、熱処理してポリエステル糸を熱分解させた後、さらに300℃/hrで1100℃まで昇温して焼成し、アルミナ長繊維編物を得た。得られた編物は良好な伸縮性を有し、500g荷重時の伸長率はタテ方向に24%、ヨコ方向に33%を示した。
【0029】
(比較例1)
オキシ塩化アルミニウム溶液、コロイド状シリカおよびポリビニルアルコール水溶液を混合し、原液粘度を調整した紡糸原液を乾式紡糸して2600dtex/960Fのアルミナ長繊維前駆体を得た。この前駆体繊維の単繊維の直径は15μmであった。この前駆体繊維を撚糸機にて200T/Mの撚数に加撚した。この前駆体を実施例1と同条件で丸編機にてメリヤス編みにしたところ、糸切れや毛羽立ちが発生した。この編物を昇温速度100℃/hrで300℃に昇温、さらに200℃/hrで1100℃まで昇温、焼成して、アルミナ長繊維編物を得た。得られた編物の伸縮性は実施例1と比較すると低いレベルにとどまり、500g荷重時の伸長率はタテ方向に15%、ヨコ方向に10%を示し、実施例1の数値より低いものであった。
【0030】
(比較例2)
実施例1と同様にして2500dtex/240Fのアルミナ長繊維前駆体(繊維直径55μm)を作製し、これと200dtexのレーヨン糸とを撚糸機にて100T/Mの撚数に合撚し、丸編機にてメリヤス編みにしたところ、アルミナ長繊維前駆体の直径が太いため、柔軟性に欠け、編針に掛けた際、前駆体繊維の糸切れが発生し、編物が毛羽立ち、目落ちが発生した。この編物を昇温速度100℃/hrで300℃に昇温、熱処理してレーヨン糸を熱分解させた後、さらに200℃/hrで1100℃まで昇温して焼成し、アルミナ長繊維編物を得た。得られた編物は毛羽立ちが多く、目落ちも発生しており、伸縮性を有する編物としての品質を満足するものではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の耐熱性と伸縮性を併せ持つアルミナ長繊維編物は表面保護材として複雑な形状の物体への貼り付けが可能となり、例えば曲面ガラスを製造する際に用いられるガラス成形用保護材料として使用できる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維の繊維直径が50μm以下のアルミナ長繊維前駆体と400℃以下の温度で熱分解する補強糸とを2,000T/M以下の撚数で合糸または撚糸し、編成して編物とした後、焼成して得られる優れた伸縮性を有するアルミナ長繊維編物。
【請求項2】
単繊維の繊維直径が50μm以下のアルミナ長繊維前駆体と400℃以下の温度で熱分解する補強糸とを2,000T/M以下の撚数で合糸または撚糸し、編成して編物とした後、得られた編物を250℃以上550℃以下の温度で補強糸を熱分解する第一工程と、800℃以上の温度で焼成する第二工程からなることを特徴とする優れた伸縮性を有するアルミナ長繊維編物の製造方法。

【公開番号】特開2006−22430(P2006−22430A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−201307(P2004−201307)
【出願日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(000134936)株式会社ニチビ (13)
【Fターム(参考)】