説明

伸縮性皮革様シートの製造方法

【課題】 縦、横の両方向への伸縮性を有する皮革様シートを提供する。
【解決手段】90℃での熱水収縮率が5%以下の繊維からなるウェブと、少なくともポリウレタンからなり、90℃での熱水収縮率が縦、横方向とも10%以上であってかつ空隙率が30%以上である織編物を積層する工程、絡合一体化し繊維絡合体とする工程、熱水中で繊維絡合体を縦、横方向ともに7%以上収縮させる工程、繊維絡合体に高分子弾性体を含浸する工程を順次行うことを特徴とする伸縮性皮革様シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮性に優れた皮革様シートに関するものである。さらに詳しくは、本発明は、繰り返し伸長変形を行っても実質的に構造変形を生じない伸縮性と、充実感のある風合を有している皮革様シートであって、繊維密度が高いために特にスエード調皮革様シートに応用した場合に高級な外観を得ることができる皮革様シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、皮革様シートは、衣料、インテリア、靴、鞄および手袋等様々な用途に利用されてきた。特に、衣料および手袋等着用する用途においては、着用感、フィット感や保型性が求められ、そのため皮革様シート素材に対しては、伸縮性に対する要求が根強くあった。一方で、皮革様シートの品質にも高級感が求められ、特にスエードに関しては緻密な外観はもとより、きめの細かいライティング効果も必須である。このような背景の中、外観については天然皮革に迫る高級感を達成してきているが、従来の皮革様シートは極細繊維を絡合させたそのままの状態の不織布に、高分子弾性体を含浸した構造をとるため、素材の伸びは不織布の絡合状態に規制され、絡合状態がほどけるほどの変形が加わると、元の形状に回復しなくなるという現象を引き起こす。すなわちストレッチバック性が充分でなく、例えば衣料用素材に応用した場合には肘や膝部分に弛みを残す状態となる。このように、実用上、素材にかかる応力によっては変形を起こし、製品当初のシルエットを失うという問題があり、これら性能を満たす皮革様シートの開発は、大きな課題であった。
【0003】
このような状況を踏まえ、皮革様シートに伸縮性を付与する検討が過去に行われてきた。例えば、メルトブロー法により作成したポリウレタンフィラメントからなる不織布を用いた合成皮革が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、伸縮性は得られるものの、フィラメント自体の繊度を小さくするには限界があり、さらにポリウレタン自体が本来有する膠着性、すなわちフィラメント同士の融着を前提としているため、スエードのように繊維の細さが外観の品質に大きく影響するような用途に用いることは難しい。他には、繊維絡合体と高分子弾性体からなる皮革様シートにポリウレタンシートを貼り付けた後にウレタンシートを収縮させる方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、ウレタンシートの収縮によって皮革様シート自体がウレタンシート方向にカールする傾向があり、さらにウレタンシートの硬さが皮革様シート自体の風合いを悪化させる場合があった。さらには、繊維と織編物を絡合一体化し、高分子弾性体を付与した後に熱水処理等によって織編物を収縮させ、さらに織編物を除去するという製造方法も提案されている(例えば、特許文献3および4参照。)。しかしながら、これらの場合、高分子弾性体を付与した後に収縮させるため、繊維絡合体が収縮する力を含有された高分子弾性体が阻害する方向に働くため充分な収縮が起き難く、結果として伸び巾が少なくなる傾向があること、さらに伸ばした後に縮めようとする力が働かないことからストレッチバックが余り期待できないものであった。
【0004】
【特許文献1】特許第3255615号公報(第2頁)
【特許文献2】特開2003−89983号公報(第4頁)
【特許文献3】特開2003−89984号公報(第4頁)
【特許文献4】特開2003−13368号公報(第2−4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高級な外観と充実感、さらには縦、横の両方向への伸縮性を有する皮革様シートに関するものである
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手法について、伸長させるための不織布構造や収縮させるための高分子弾性体含有状態について鋭意検討した結果、絡合不織布が縦/横方向に縮められた状態を保持する形で高分子弾性体が含有してなる構造を採ることによって伸長と収縮が同時に可能すなわち伸縮性を有する皮革様シートが得られることを見出し、そのためには、絡合不織布を強制的に収縮させた後、高分子弾性体を含浸するという工程順で目的の皮革様シートが得られることを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明は、90℃での熱水収縮率が5%以下の繊維からなるウェブと、少なくともポリウレタンからなり、90℃での熱水収縮率が縦、横方向とも10%以上であってかつ空隙率が30%以上である織編物を積層する工程、絡合一体化し繊維絡合体とする工程、熱水中で繊維絡合体を縦、横方向ともに7%以上収縮させる工程、繊維絡合体に高分子弾性体を含浸する工程を順次行うことを特徴とする伸縮性皮革様シートの製造方法である。そして、ウェブを構成する繊維が極細繊維発生型繊維からなり、繊維絡合体を収縮させる工程以降で極細化する工程を行うことが好ましく、織編物を構成する繊維が極細繊維発生型繊維からなり、繊維絡合体を収縮させる工程以降で極細化する工程を行うことが好ましく、また、繊維絡合体に高分子弾性体を含浸する工程を行った後にウェブを構成する極細繊維発生型繊維および織編物を構成する極細繊維発生型繊維を極細化する工程を行うことが好ましい。
さらに、上記の伸縮性皮革様シートの製造方法で得られる伸縮性皮革様シートの少なくとも片面を起毛してなる伸縮性スエード調皮革様シートである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の伸縮性を有する皮革様シートの製造方法によって得られた皮革様シートは、高級な外観を持ちながら縦、横の両方向への伸縮性を有し、フィット感や保型性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳述する。
本発明の伸縮性に優れた皮革様シートの製造方法は、以下の4工程を順次行うことを特徴としている。
(1)90℃での熱水収縮率が5%以下の繊維からなるウェブと、ポリウレタンを主成分とし、90℃での熱水収縮率が縦、横方向とも10%以上であってかつ空隙率が30%以上である織編物を積層する工程、(2)絡合一体化し繊維絡合体とする工程、(3)熱水中で繊維絡合体を縦、横方向ともに7%以上収縮させる工程、(4)繊維絡合体に高分子弾性体を含浸する工程、
以下、それぞれの工程について詳述する。
【0010】
本発明においては、少なくともポリウレタンからなり、空隙率が30%以上であって、90℃での熱水収縮率が縦、横とも10%以上である織編物と、90℃での熱水収縮率が5%以下の繊維を用いる必要がある。使用するポリウレタンは、特に限定することはなく、紡糸延伸後の繊維が90℃での熱水収縮率で10%以上を達成できるものであれば公知のポリウレタン樹脂を用いることができる。
該織編物は、少なくともポリウレタンを紡糸後延伸した繊維を用いて作製する。ポリウレタンの延伸後繊維の90℃での熱水収縮率と、得られる織編物の90℃での熱水収縮率は、撚り数、打ち込み本数等により多少の差が生じるが、延伸後でほぼ10%以上の熱水収縮率を持っていれば、得られる織編物の熱水収縮も縦、横とも10%以上を達成できる。ポリウレタン繊維は、ポリウレタンを主成分とするレギュラー繊維でも良いが、繊維間の膠着性により取扱が難しいため、極細繊維発生型繊維の形態として用いることが好ましく、ポリウレタンを海島型繊維の島成分として用いることがより好ましい。この場合、海成分としては、特に限定することはないが、ウェブを構成する繊維が海島型の極細繊維発生型繊維の場合、ウェブを構成する海成分と同質成分とすることが、後の極細化工程を1度にすることが可能である点で好ましい。そして、ポリエチレンやポリスチレン等のオレフィン系成分を用いることができる。紡糸方法は、ポリウレタンとポリエチレン等のチップ同士をブレンドして紡糸するいわゆる混合紡糸や、紡糸ノズルが海成分の中に島成分をニードルパイプによって配列する構造である複合紡糸などがあり、どちらを選択しても良い。
【0011】
さらに該織編物は、空隙率が30%以上であることが必須である。ここで言う空隙率とは、織編物の組織を真上から50倍の電子顕微鏡で2次元的に観察し、繊維が存在する部分と存在しない部分に分け、存在しない面積比率が織編物全体の何%であるかを表現するものである。空隙率が30%未満の場合、ウェブと織編物を絡合処理したとき、織編物の経糸および緯糸によって囲まれている空隙部分を貫通する繊維が十分でなく、さらに、織編物の収縮しろが少なくなり、充分な収縮が得られない。上限は特に限定しないが、80%以下であることが織編物の収縮効果が低下し難い点で好ましい。
本発明においては、ウェブと織編物が絡合一体化した後に縦、横方向とも7%以上収縮させることが重要であるが、収縮力は織編物を構成する繊維の収縮能力が主として影響する。また、収縮を阻害する因子として織編物の空隙率、ニードルパンチによるウェブの絡合状態と絡合時の織編物のダメージが挙げられる。空隙率に影響を与える因子として、織編物を構成する繊維径と撚り数、撚糸の打ち込み本数が挙げられ、繊維径が小さく、撚り数が高いほど、更に撚糸の打ち込み本数が少ないほど織編物の空隙率は高くなる傾向にあるが、それぞれの因子を調整し織編物としての空隙率が30%以上を達成できれば、充分な収縮率を得ることができる。通常、空隙率を30%以上に調整するために用いられる各因子の好適条件は、織編物を構成する繊維径は、1〜10dtex、糸を構成する本数は20〜150本、撚り数は300〜2000T/m、織物の場合には打ち込み本数が縦、横とも50〜200本/inchである。
【0012】
次に、本発明を構成するウェブを構成する繊維について説明する。
本発明の繊維は、90℃での熱水収縮率が5%以下であることが必須である以外は、特に限定されるものではない。5%よりも熱水収縮率が大きい場合は、得られる皮革様シートを伸長したときの回復率が低下する傾向にあるので好ましくない。繊維を構成する成分としては、6−ナイロン等のポリアミドが好ましく用いられるが、繊維としては直接紡糸で得られる1〜10dtex程度の繊度のもの、さらには海島型繊維や分割型繊維等で代表される極細繊維発生型繊維をウェブとして用いてもよく、その場合には、極細化することによって0.0001〜1dtex程度の繊度まで得ることができ、特にスエード調皮革様シートにした場合に外観や表面タッチに優れる点で好ましく用いることができる。
極細繊維発生型繊維を用いた場合、本発明の繊維絡合体を収縮させる工程以降で極細化する工程を行うことが好ましく、また、繊維絡合体に高分子弾性体を含浸する工程を行った後に極細化することが、高分子弾性体と皮革様シートを構成する繊維とが直接接着し難い点で、特に優れた伸縮性効果を得ることができる。さらに、構成する繊維の繊維長は、50mm程度にカットした短繊維を用いてもよく、ノズルから直接捕集ネット等に吹き付けて得られる長繊維ウェブでも良い。なお、ウェブを構成する繊維に極細繊維発生型繊維を用いる場合、上記必須要件を満たせば特に限定することはなく公知の方法により極細繊維発生型繊維を製造することができる。例えば島成分が上記ポリアミド成分で海成分はポリエチレンやポリスチレン等のオレフィン系成分を用いることができる。
【0013】
ウェブの作製に関しては、長繊維の場合は上記した通りであるが、短繊維を用いる場合には、紡糸の後、延伸、捲縮、カットして得られたステープルを、カーディングしたのちクロスラップ等の方法によって所望の目付けに重ね合わせて製造する。その後は、長繊維ウェブ、短繊維ウェブに関わらず、上記織編物と積層し、さらにニードルパンチによって、ウェブと織編物と絡合一体化させ、繊維絡合体を得る。織編物とウェブの重ね方については、ウェブ(以下、繊維ウェブという場合もある。)の片面に織編物を重ねる2層構造でも良いし、2枚取りしたい場合には、2枚の織編物で繊維ウェブを挟み込むか、あるいは1枚の織編物を2枚のウェブで挟み込む、すなわちサンドイッチ構造にしても良い。この場合、前者においては、得られた皮革様シートを厚み方向真ん中付近でスライスすることによって、得られる2枚の皮革様シートいずれにも織編物が存在する構造となり、一方後者においては、スライスするとちょうど織編物層が分割されることになるが、織編物は根本的に絡合不織布を熱処理によって縦、横方向に収縮させるのが主の役割であり、含浸された高分子弾性体が主として伸縮性に寄与するため、いずれの場合にも充分な伸縮性は得られ、問題とはならない。
【0014】
次に、ウェブと織編物と絡合一体化させ、繊維絡合体とする工程について、特に先に収縮率を阻害する因子として挙げたニードルパンチ等で代表される絡合処理によるウェブの絡合状態と絡合時の織編物のダメージについて説明する。
ニードルパンチによるウェブの絡合状態は、ニードルパンチによってウェブを構成する繊維がどの程度織編物を貫通するか、すなわち織編物の空隙をウェブの繊維がどの程度埋めているかを意味しており、織編物の空隙が貫通した繊維に満たされると収縮しろがなくなりそれに伴い伸縮性が劣る傾向のみならず風合いも硬くなる傾向があることを意味している。本発明においては、絡合後の繊維絡合体が7%以上熱水収縮することを満たすことが必須であるが、通常、このような条件を満たすニードルパンチ数は、ニードルの太さ、バーブの深さにも影響されるが一般に4000パンチ/cm以下であることが好ましい。そして本発明の皮革様シートが、実用上問題のない強度物性を得るためには、300パンチ/cm以上であることが好ましく、より好ましくは500〜2500パンチ/cmである。
【0015】
また、織編物のダメージについては、特に織物を用いる場合、構成する経糸・緯糸はニードルのバーブによって部分的に切断される場合がある。このようなダメージを軽減する手法としては、構成する経糸、緯糸の直径とバーブ深さ(スロートデプス)の関係を調整してバーブ深さを浅くする方法や、バーブの向きを織物の進行方向に対して30〜60度傾ける方法が好ましく用いられる。
パンチ数は、既述した通りであり、得られる繊維絡合体の密度は、0.08〜0.30g/cmであることが熱水収縮工程にて7%以上の収縮率が得られやすく、また得られる皮革様シートの風合および機械物性を両立させる点で好ましい。
【0016】
次に、本発明においては、繊維絡合体を熱水中、特に90℃以上の熱水中で、縦、横方向とも7%以上収縮させることが必須である。7%未満の場合、充分な伸縮性が得られない。なお、上限は特に設定しないが、60%以下の収縮であれば風合が柔軟となることから好ましい。
【0017】
繊維絡合体は、得られる皮革様シートの平滑性を向上する目的で、熱水収縮後に熱プレス等によって表面の平滑化を行うことがこのましい。熱プレスの条件は、繊維絡合体を構成する繊維によって異なるため、温度、プレス圧力を調整して行う。熱プレスを行う場合、熱プレス後の繊維絡合体の密度目安は、工程通過性や風合等を考慮し、0.2〜0.6g/cmとする場合が多いが、これについても特に限定はされない。
【0018】
次に、本発明の繊維絡合体に含浸する高分子弾性体について説明する。
含浸する高分子弾性体は、弾性ポリマーであれば、とくに限定されるものではない。好ましくは、ポリウレタンや、スチレン−α-オレフィン−スチレンのトリブロック共重合体やその水添物に代表されるエラストマーが用いられ、特に好ましくはポリウレタンが用いられる。
ポリウレタンが用いられる場合、ポリウレタンのN,N’−ジメチルホルムアミド(以下、DMF)溶液を含浸し、その後水または、DMF/水の混合溶媒中で湿式凝固する方法や、水系エマルジョンにして含浸し、その後乾熱処理し乾式凝固する方法等いずれの方法を用いても良い。本発明においては、織編物を構成するポリウレタン繊維が収縮力を担うが、実用上の伸縮性を明確にするには、皮革様シートを伸ばした後の回復力を発現する役割を弾性ポリマーに持たせることがより好ましく、弾性ポリマーが繊維絡合体中で連続体であることがより好ましい。このような連続体とするためには、弾性ポリマーの溶液を含浸する場合、得られる皮革様シートに対し15質量%以上を高分子弾性体が占めることが好ましい。また水系エマルジョンを含浸する場合、25質量%以上を高分子弾性体が占めることが好ましい。これらの割合であれば、皮革様シートを伸ばした後の回復力が安定的に得られる。
【0019】
なお、本発明の織編物と積層するウェブを構成する繊維が極細繊維発生型繊維の場合、極細化する必要があるが、極細化の方法は、公知の方法により行うことが可能である。そして、極細化工程に関しては、前述の通り、繊維絡合体を収縮させる工程以降で極細化する工程を行うことが好ましく、繊維絡合体に高分子弾性体を含浸する工程を行った後に極細化する工程を行うことが特に好ましい。
そして、本発明においては、繊維絡合体の熱水収縮、高分子弾性体の含浸をこの順序で行うことが必須であるが、その理由について説明する。本発明の伸縮性皮革様シートは、従来、皮革様シートを伸ばしたときに元の状態に回復しづらかった課題を解決することによって得られた。すなわち、回復しづらかったのは、皮革様シートを伸長したときに、ウェブを構成する繊維の絡合状態にズレが生じ、そのズレが含浸された高分子弾性体の復元力に対して抵抗力として働いたことによるものと推定している。本発明では、ウェブを構成する繊維自体が収縮し難い繊維からなることから、織編物を熱水収縮させることによって、繊維絡合体を構成する繊維自体、特にウェブを構成する繊維自体の伸長に必要な弛み(ここで、弛みとは、織編物が収縮することによって強制的に、繊維絡合体を構成する繊維自体を捲縮させることや繊維自体が繊維絡合体の内部を移動することによって繊維絡合体自体あるいはウェブ自体が縮むことを言う。)を付与し、その状態で高分子弾性体を含浸することによって皮革様シートの形態、より詳しくは繊維絡合体の形態を決定することが伸縮性を発現するための重要な機構となる。織編物を用いる理由は、熱水収縮させて不織布の弛みを発現させるのみならず、織編物によって製造工程中での形態変化を最小限に抑え、熱水収縮によって得た繊維絡合体の弛みが失われないようにすることにもある。
【0020】
以上のようにして得られる本発明の皮革様シートは、表面をサンドペーパーでバフィングして、スエード調皮革様シートに加工することによって、本発明の効果および、緻密な表面立毛を得ることが可能である。また、表面に例えば乾式造面など、公知の造面方法によって銀付き調皮革様シートに加工することも可能である。
【0021】
次に本発明を具体的に実施例で説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部及び%はことわりのない限り質量に関するものである。
【0022】
[強伸度物性]
JIS L−1079の5.12法により定められた方法にて測定した。
【0023】
[30%伸長弾性率]
シートから、2.5cm巾×15cm長の短冊状に測定用サンプルを切り出す。サンプリングは縦方向、横方向それぞれに行う。測定用サンプルは、チャック間を10cmとして引っ張り試験機に取り付け、元長さから30%伸長した後1分間静置し、その後応力を取り除き、3分後に伸ばした長さに対して、どれだけ回復したかを測定する。結果は縦方向、横方向の平均をとって、評価した。
【0024】
[90℃での熱水収縮率]
シートを20cm角に切り取り、90℃の熱水に2分間浸漬する。その後サンプルを取り出し、縦/横の収縮率を測定する。
【0025】
紡糸例1
ナイロン−6とポリエチレンを原料チップ同士、質量比で50/50となるようにドライブレンドしたものを用いて混合紡糸を行い、ポリエチレンが海成分の極細繊維発生型繊維を得た。繊維断面から、ナイロンの島数は約600であった。これを70℃の温水中で2.5倍に延伸し、繊維油剤を付与し、機械捲縮をかけて乾燥後、51mmにカットして4.0デシテックスのステープルを得た。この繊維の90℃での熱水収縮率は3%であった。
【0026】
製造例1
ポリウレタン(クラミロン3195:株式会社クラレ製)とポリエチレン(FL60:三井石油化学株式会社製)のチップ同士を重量比50/50でブレンドし、ヘッド温度245℃で混合紡糸して、14dtexの繊維を得、これを2.5倍に延伸した繊維を用いて、56dtex/36フィラメント、1200T/mの撚糸を得た。これを用いて、経/緯方向とも45本/inchの打ち込み本数で織編物を得た。得られた織編物の空隙率は50%であり、90℃での熱水収縮率は縦21%、横20%であった。
【0027】
製造例2
製造例1に用いた繊維から、56dtex/36フィラメント、300T/mの撚糸を得、これを用いて経/緯方向とも52本/inchの打ち込み本数で織編物を得た。得られた織編物の空隙率はは、18%であり、90℃での熱水収縮率は縦、横とも10%であった。
【実施例1】
【0028】
紡糸例1で得られたステープルをカーディングし、クロスラップ法で150g/mのウェブを形成し、該ウェブ2枚の間に製造例1で得られた織編物を挟み込み、サンドイッチ構造になるよう積層した。ついで両面から交互に合わせて約1500P/cmのニードルパンチングを行った。この時、ニードルパンチのバーブの向きは、ウェブの流れ方向に対し30度傾けた。得られた繊維絡合体の密度は0.14g/cmであった。その後、90℃の熱水中で、繊維絡合体を収縮率が縦方向に15%、横方向に16%となるよう収縮させた。さらに130℃での加熱乾燥直後にカレンダーロールでプレスすることで表面の平滑な繊維絡合体を得た。この繊維絡合体の目付は520g/m、見かけ密度は、0.49g/cmであった。この繊維絡合体に、ポリウレタンのDMF溶液(固形分濃度13%)を含浸し、水中で湿式凝固させた後に熱トルエン中でポリエチレン成分を抽出除去した結果、含浸したポリウレタン樹脂/ナイロン繊維の質量比が35/65、目付388g/m、見かけ密度0.43g/cm、厚さ0.9mmの皮革様シートが得られた。
得られた皮革様シートの30%伸長回復率は94%であり、繰り返し伸長変形を行っても実質的に構造変形を生じない伸縮性と、充実感のある風合を有している皮革様シートであった。得られた皮革様シートの表面をバフィングし起毛処理を行い、スエード調皮革様シートとした。得られたスエード調皮革様シートは、立毛繊維密度が高く高級な外観を有していた。
【0029】
比較例1
織編物を製造例2で得たものに変更した以外は、実施例1と同様にして繊維絡合体を得た。得られた繊維絡合体の密度は約0.16g/cmであった。その後、90℃の熱水中で収縮させた結果、収縮率は縦方向に4%、横方向に5%であった。さらに130℃での加熱乾燥直後にカレンダーロールでプレスすることで表面の平滑な繊維絡合体を作製した。この絡合不織布の見かけ密度は、0.48g/cmであった。この絡合不織布に、ポリウレタンのDMF溶液(固形分濃度13%)を含浸し、水中で湿式凝固させたのち、熱トルエン中でポリエチレン成分を抽出除去した結果、含浸したポリウレタン樹脂/ナイロン繊維の質量比が35/65、見かけ密度0.42g/cm、厚さ0.7mmの皮革様シートが得られた。
得られた皮革様シートの30%伸長回復率は74%であり、十分な伸縮性は得られなかった。
【0030】
比較例2
実施例1で得られた繊維絡合体を熱水による収縮無しに熱プレスにより表面を平滑化し、目付370g/m、見かけ密度が0.32g/cmの絡合不織布を作製した。そこに、実施例1と同様ポリウレタン樹脂/ナイロン繊維質量比が35/65となる様に、ポリウレタンのDMF溶液の濃度を調整し、含浸・凝固させた。その後、熱トルエン中でポリエチレン成分を抽出除去して皮革様シートを得たが、熱トルエンを除去する工程中、熱水との共沸でトルエンを除去する段階で熱水による収縮が起こった。収縮率は、ポリウレタンの含浸・凝固後を基準にして、縦2%、横5%であった。得られた皮革様シートは、目付け310g/m、比重0.31g/cm、厚さ1.0mmであった。
得られた皮革様シートの30%伸長回復率は、71%であり、十分な伸縮性は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
得られたフィット感や保型性の良好な皮革様シートをスエード調や銀付き調皮革様シートに仕上げた場合、繰返し変形が加わるような用途、特に手袋や衣料用途に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
90℃での熱水収縮率が5%以下の繊維からなるウェブと、少なくともポリウレタンからなり、90℃での熱水収縮率が縦、横方向とも10%以上であってかつ空隙率が30%以上である織編物を積層する工程、絡合一体化し繊維絡合体とする工程、熱水中で繊維絡合体を縦、横方向ともに7%以上収縮させる工程、繊維絡合体に高分子弾性体を含浸する工程を順次行うことを特徴とする伸縮性皮革様シートの製造方法。
【請求項2】
ウェブを構成する繊維が極細繊維発生型繊維からなり、繊維絡合体を収縮させる工程以降で極細化する工程を行う請求項1に記載の伸縮性皮革様シートの製造方法。
【請求項3】
織編物を構成する繊維が極細繊維発生型繊維からなり、繊維絡合体を収縮させる工程以降で極細化する工程を行う請求項1または2に記載の伸縮性皮革様シートの製造方法。
【請求項4】
繊維絡合体に高分子弾性体を含浸する工程を行った後にウェブを構成する極細繊維発生型繊維および織編物を構成する極細繊維発生型繊維を極細化する工程を行う請求項2または3に記載の伸縮性皮革様シートの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項に記載の伸縮性皮革様シートの製造方法で得られる伸縮性皮革様シートの少なくとも片面を起毛してなる伸縮性スエード調皮革様シート。

【公開番号】特開2007−154340(P2007−154340A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−349013(P2005−349013)
【出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】