説明

位相差フィルムの製造方法及び位相差フィルム

【課題】 コントラストが良好で視角特性に優れ、表示むらを解消して高品位の液晶画像を表示できる位相差フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】 実質的に無配向の非晶性熱可塑性樹脂フィルムを、テンターにより幅方向に一軸延伸する、二軸性を有する位相差フィルムの製造方法であって、延伸倍率が1.2〜2.5倍の条件で一軸延伸することを特徴とする位相差フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置等に使用される位相差フィルムの製造方法及び位相差フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ブラウン管方式のCRTに代わり、液晶表示装置が多く用いられるようになってきている。液晶表示装置は液晶分子のもつ電気光学特性を利用して表示を実現するものであるが、液晶には本来光学異方性があるため、複屈折性に起因する光学的な歪や、視覚方向による変調のため表示が着色するなどの視野角依存性が生じる。このような欠点を解消するため位相差板が光学補償フィルムとして広く採用されており、一般に550nmの光線の入光の際のレターデーション(位相差)値が50〜800nmの範囲のものが使用されている。
【0003】
一方、液晶表示装置の表示品質は著しく向上しており、特に、液晶テレビやモニターといった大画面用途においては広視野角と高コントラストといった特徴を持つ垂直配向型液晶(一般にVA液晶と呼ばれる)が主流となりつつある。
【0004】
しかし、この液晶はその名の通り液晶が垂直に配向しているため、そこを通過した光を補償するには屈折率楕円体が縦に短いもの、一般的に負アンパンと呼ばれる二軸性を持つ必要がある。ここでの位相差フィルムとは、具体的にはNz係数が1.5以上のものを指す。
【0005】
従来からこのような二軸性位相差フィルムの製造方法は種々提案されてきているが、製造効率を重視する観点から、熱可塑性樹脂フィルムを縦延伸した後に横延伸をする逐次二軸延伸法が主流となっている。(例えば、特許文献1参照。)
【0006】
逐次二軸延伸法は、熱可塑性樹脂フィルムをその長手方向(MD)に延伸する、所謂縦一軸延伸方法と、熱可塑性樹脂フィルムをその長手方向に直交する幅方向(TD)に延伸する、所謂横一軸延伸方法により構成されるが、二軸延伸を完結する上で上記工程の実施順序は必ずしも限定されず、前工程として縦一軸延伸工程を配置し、後工程として横一軸延伸する一般的手法以外にも、横一軸延伸を前工程で実施した後に、縦一軸延伸する方法も検討されている。更には、縦一軸延伸及び横一軸延伸を複数の工程にわたって繰り返すことにより、所定の二軸延伸フィルムを作製する手法も検討されている。
【0007】
このように、二軸性を有する位相差フィルムを製造する際には、長手方向及び幅方向を別工程で延伸するために、必然的に複数の工程が必要となり、縦延伸工程のみで完結する所謂一軸性位相差フィルムと比較して、設備費、ランニングコストは増大することになる。更に、光学補償フィルムとして致命的欠陥である汚れ、傷、打痕等の外観欠点に対しても、工程の増加に伴ってその発生頻度は高くなり、結果として光学補償フィルムとしての商品価値を著しく損なうことになる。
【0008】
【特許文献1】特開2002−148438号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、フィルム幅方向への一軸延伸のみにより、フィルム幅方向及び厚み方向への分子配向が特定範囲に制御された、二軸性を有する位相差フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の位相差フィルムの製造方法は、実質的に無配向の非晶性熱可塑性樹脂フィルムの幅方向両端部をテンタークリップにより把持し、幅方向に拡幅しながら一軸延伸する、二軸性を有する位相差フィルムの製造方法であって、延伸倍率が1.2〜2.5倍を満足する条件で一軸延伸することを特徴とする。
【0011】
本発明で使用される非晶性熱可塑性樹脂とは、透明性、耐熱性及び液晶とのマッチング性に優れ、固有複屈折率が低く、光弾性係数が小さい等、光学部材として適当な特性を具備し、かつ実質的に結晶性を有しない樹脂であれば特に限定されない。例えば、主鎖あるいは側鎖に環状脂肪族炭化水素を有する環状オレフィン系樹脂や、マレイミド構造を有するマレイミド系樹脂が特に好適に用いられる。
【0012】
環状オレフィン系樹脂としては、ノルボルネン系樹脂、環状共役ジエン系樹脂、ビニル脂環式炭化水素樹脂等が例示可能である。特に、ノルボルネン系樹脂は透明性、耐熱性及び液晶とのマッチング性に優れ、固有複屈折率が低く、光弾性係数が小さいので好適に用いられる。
【0013】
上記ノルボルネン系樹脂は、従来より光学用材料として検討されている樹脂であって、例えば、ノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体、ノルボルネン系モノマーとオレフィン系モノマーとの付加共重合体、ノルボルネン系モノマー同士の付加共重合体及びこれらの誘導体等が挙げられる。これらノルボルネン系樹脂は単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、ノルボルネン系樹脂のうち、必然的に分子内に炭素−炭素不飽和二重結合が残留する開環(共)重合体或いは使用するモノマー種によっては分子内に炭素−炭素不飽和二重結合が残留する付加(共)重合体を採用する場合は、耐候性の観点から水素添加によって飽和されていることが望ましい。
【0014】
上記ノルボルネン系樹脂を構成するノルボルネン系モノマーは、ノルボルネン環を有するモノマーであれば、特に限定されず、例えば、ノルボルネン、ノルボルナジエン等の2環体;ジシクロペンタジエン、ジヒドロキシペンタジエン等の3環体;テトラシクロドデセン等の4環体;シクロペンタジエン3量体等の5環体、テトラシクロペンタジエン等の7環体;これらのメチル、エチル、プロピル、ブチル等のアルキル、ビニル等のアルケニル、エチリデン等のアルキリデン、フェニル、トリル、ナフチル等のアリール等の置換体;更に、これらのエステル基、エーテル基、シアノ基、ハロゲン基、アルコキシカルボニル基、ピリジル基、水酸基、カルボン酸基、アミノ基、無水酸基、シリル基、エポキシ基、アクリル基、メタクリル基等の炭素及び水素以外の元素を含有する基、所謂極性基を有する置換体等が挙げられる。
【0015】
これらのノルボルネン系モノマーの中で、入手が容易であり、反応性に優れ、得られる位相差フィルムの耐熱性が優れたものとなるので、3環体以上の多環ノルボルネン系モノマーが好ましく、3環体、4環体及び5環体のノルボルネン系モノマーがより好ましい。なお、ノルボルネン系モノマーは単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0016】
上記α−オレフィン系モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン等が挙げられ、共重合性の高い炭素数が2〜10のα−オレフィン系モノマーが好ましく、より好ましくはエチレンである。他のα−オレフィン系モノマーをノルボルネン系モノマーと共重合させる場合もエチレンが存在すると共重合性が高くなるので好ましい。
【0017】
上記ノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体は、公知の開環重合反応に従って得ることができ、例えば、ノルボルネン系モノマーをルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金等の金属のハロゲン化物、硝酸もしくはアセチルアセトン化合物と、還元剤とからなる触媒系、又は、チタン、タングステン、モリブデン等の金属のハロゲン化物もしくはアセチルアセトン化合物と有機アルミニウム化合物とからなる触媒系等を用いて、溶媒中又は無溶媒で、通常、−50℃〜100℃の重合温度、0〜5MPa/cm2 の重合圧力で反応させて得られる。
【0018】
上記ノルボルネン系モノマー同士の付加重合体或いはノルボルネン系モノマーとオレフィン系モノマーとの付加共重合体は公知の付加重合反応に従って得ることができ、例えば、これらのモノマーを溶媒中又は無溶媒で、バナジウム化合物と有機アルミニウム化合物、好ましくは、ハロゲン含有有機アルミニウム化合物とからなる触媒系の存在下で、通常、−50℃〜100℃の重合温度、0〜5MPa/cm2 の重合圧力で反応させることで得られる。
【0019】
上記ノルボルネン系樹脂の数平均分子量は、小さくなると得られた位相差フィルムの機械的強度が低下し、大きくなるとフィルムの成形性に支障を来すことがあるので、テトラヒドロフラン溶媒又はシクロヘキサン溶媒によるゲルパーミエーションクロマトグラフィで測定して、5000〜50000が好ましく、より好ましくは8000〜30000である。
【0020】
上記ノルボルネン系樹脂は、例えば、日本ゼオン社より商品名「ゼオノア」シリーズ、JSR社より商品名「アートン」シリーズ、三井化学社より商品名「アペル」シリーズ、チコナ(TICONA)社より商品名「トパス(TOPAS)」シリーズ等として上市されている。
【0021】
上記マレイミド系樹脂も、従来より光学用途材料に検討されている樹脂であって、例えば、下記構成成分(1)と構成成分(2)からなるマレイミド−オレフィン共重合体が挙げられ、マレイミド類とオレフィン類とのラジカル共重合反応により得ることができる。
【0022】
【化1】

【0023】
【化2】

【0024】
構成成分(1)を与える化合物としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−n−プロピルマレイミド、N−i−プロピルマレイミド、N−n−ブチルマレイミド、N−i−ブチルマレイミド、N−s−ブチルマレイミド、N−t−ブチルマレイミド、N−n−ペンチルマレイミド、N−n−ヘキシルマレイミド等のマレイミド類が例示され、耐熱性、機械特性及び透明性の点から特にN−メチルマレイミドが好ましい。更に、これら化合物は1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0025】
構成成分(2)を与える化合物としては、イソブテン、2−メチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、2−メチル−1−ヘキセン等のオレフィン類が例示でき、このうち耐熱性、機械特性及び透明性の点から特にイソブテンが好ましい。また、これら化合物は1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。構成成分(1)の含有量は共重合体全体の40〜60モル%が好ましく、45〜55モル%がより好ましい。
【0026】
これらモノマーの重合には公知の重合方法、例えば塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、又は乳化重合法のいずれもが採用可能である。得られるフィルムの透明性、色調の点から特に沈殿重合法が好ましい。
【0027】
上述のマレイミド−オレフィン共重合体は、無水マレイン酸とオレフィン類との共重合により得られる樹脂をアンモニア又はアルキルアミンを用いて、後アミド化することによっても得ることができる。
【0028】
上記マレイミド系樹脂の重量平均分子量は特に制限されないが、シート成形性や延伸性及び得られたフィルムの位相差補償フィルムとしての品位を勘案すると、より好ましくは1000〜500000程度である。
【0029】
上記非晶性熱可塑性樹脂には、位相差フィルムの機能を低下させない範囲で、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸エステル系、シアノアクリレート系、アクリロニトリル系等の紫外線吸収剤;フェノール系、リン系などの酸化防止剤;ラクトン系、フェノール系などの熱劣化防止剤;脂肪族アルコールのエステル系、多価アルコールの部分エステル系、部分エーテル系などの滑剤;アミン系などの帯電防止剤等が添加されてもよい。
【0030】
上記非晶性熱可塑性樹脂フィルムの平均厚みは、薄いと位相差を発現しにくくなり、厚くなると液晶表示装置に使用する場合、液晶パネルの厚みが厚くなるので、一般に30〜200μmが好ましく、より好ましくは40〜150μmである。
【0031】
上記非晶性熱可塑性樹脂フィルムの製造方法は、例えば、非晶性熱可塑性樹脂を押出機に供給して溶融、混練し、押出機の先端に取り付けられた金型から薄膜状に押出して成膜する溶融押出法、非晶性熱可塑性樹脂を有機溶媒に溶解した溶液をドラム、無端ベルト等の上に流延した後、有機溶媒を蒸発させて成膜する溶液流延法等従来公知の任意の成形法が採用されればよい。
【0032】
なお、非晶性熱可塑性樹脂フィルムの厚みが80μm以上の場合には、溶液流延法では有機溶媒を充分に蒸発、除去することが困難になるので、溶融押出法で製造するのが好ましい。
【0033】
本発明の位相差フィルムの製造方法においては、上記実質的に無配向の非晶性熱可塑性樹脂フィルムを、テンターにより幅方向に一軸延伸(以下、単に横一軸延伸という。)する。
【0034】
上記テンターによる横一軸延伸は、従来公知の任意の横一軸テンター延伸法が採用されればよく、例えば、非晶性熱可塑性樹脂フィルムの幅方向の両端部をテンタークリップで把持し、テンタークリップの幅方向の間隔を次第に離間させることにより、非晶性熱可塑性樹脂フィルムを幅方向に拡幅、延伸する方法が挙げられる。
【0035】
そして、この横一軸テンター延伸法は、非晶性熱可塑性樹脂フィルムを延伸可能なフィルム温度まで加熱する予熱工程、非晶性熱可塑性樹脂フィルムを幅方向に拡幅、延伸する延伸工程、延伸された非晶性熱可塑性樹脂フィルムのボウイングを低減し、配向を揃える熱緩和工程及び非晶性熱可塑性樹脂の配向を固定する冷却工程からなるのが好ましい。
【0036】
予熱工程においては、非晶性熱可塑性樹脂フィルムを延伸可能な温度付近まで加熱するのであり、延伸工程で設定された延伸温度付近まで加熱すればよい。
【0037】
延伸工程における非晶性熱可塑性樹脂フィルムの温度は、低いと、延伸時にフィルムが切断したり、テンタークリップが外れたりすることがあり、逆に高くなりすぎると、配向緩和が優先して所望のレターデーション値が得られなくなることがあるので、非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTgとすると、Tg〜Tg+20℃が好ましく、Tg+2℃〜Tg+10℃がより好ましい。なお、Tgは示差走査熱量計(TA Instruments社製、商品名「DSC2920 Modulated DSC」)を用い、下記の温度プログラム条件において、最終昇温時のガラス転移温度を本発明のガラス転移温度とした。
(温度プログラム条件)
室温から50℃までを10℃/分で昇温して5分間等温保持、50℃から200℃までを10℃/分で昇温して200℃で5分間保持、200℃から−50℃までを10℃/分で降温して−50℃で5分間保持、−50℃から200℃までを10℃/分で昇温して200℃で5分間保持。
【0038】
上記延伸工程において、幅方向の延伸倍率が1.2〜2.5倍を満足する条件で一軸延伸する。延伸倍率をこの範囲に設定することにより、幅方向への一軸延伸工程のみによって、一定の二軸性を具備した位相差フィルムを得ることができる。延伸倍率がこの範囲を下回ると、高いレターデーションが得られず位相差補償性能を損なうことになるとともに、幅方向中央部分が優先的に延伸され、幅方向に顕著な不均一延伸となることから、幅方向のレターデーションむらが極めて顕著となる。逆に高過ぎると、幅方向への一軸配向性が高くなり、本発明の目的である二軸性を損なうことになるとともに、非晶性熱可塑性樹脂フィルムの中央部が弛み、レターデーション値が幅方向でばらついたり、主配向軸や厚みの不均一性が助長されることになるので、延伸倍率のより好ましい範囲は1.4〜2.2倍である。
【0039】
また、拡幅開始から拡幅終了までの延伸時間は、10〜150秒であることが好ましい。延伸時間を上記範囲内に設定することにより、短い炉長で高い延伸歪みを確保することが可能になり、その結果高いレターデーションが発現し、且つ、供給口側に向かって発生するバックテンションにより、主配向軸を幅方向に平坦に修正することが可能になる。しかし、延伸時間を短くし過ぎると、非晶性熱可塑性樹脂フィルムが切断したり、テンタークリップが外れたりすることがあるので、20〜100秒であることがより好ましい。
【0040】
更に、上記延伸工程における延伸歪み速度は、小さくすると熱緩和によりレターデーション値が低下し、逆に大きくすると非晶性熱可塑性樹脂フィルムが切断したり、テンタークリップが外れたりするので、20〜200%/分程度が好ましい。
【0041】
上記熱緩和工程は、延伸された非晶性熱可塑性樹脂フィルムのボウイングを低減し、配向をフィルム幅方向に平行に揃えるための工程であり、この工程の温度が高過ぎると、レターデーション値が低下するので、この工程の温度はTg〜Tg+10℃であって、上記延伸温度より低い温度であることが好ましい。
【0042】
上記冷却工程は、延伸された非晶性熱可塑性樹脂フィルムを急冷することにより、延伸フィルムに形成されたポリマー分子の配向を固定するための工程であり、この工程の温度はTg−5℃〜Tg−50℃が好ましい。
【0043】
本発明の位相差フィルムの製造方法で得られた位相差フィルムは、Nz係数が1.3〜2.0であることが好ましい。Nz係数が上記範囲内にあることで、該位相差フィルムを液晶パネルに積層した液晶表示装置では、上下左右方向におけるコントラストが良好なものとなる。即ち、上下左右方向の視野角が広く、視角特性に優れた液晶表示装置が得られる。
【0044】
本発明の位相差フィルムは、非晶性熱可塑性樹脂分子主鎖のフィルム面内における配向方向である遅相軸のフィルム幅方向に対するずれ角度θ(°)が±1°以内であることが好ましい。ずれ角度θが上記範囲内となることによりフィルム全面で光軸が均一化するので、他部材との貼り合わせ角度が安定し、特に、画面サイズの大きな液晶パネルに積層した場合に顕著な効果を奏し、画面全体にむらのない高品位の画像を得ることができる。
【0045】
また、本発明の位相差フィルムは、フィルム面内のレターデーション値Reが、50nm以上であることが好ましい。レターデーションRe の値が小さくなると、液晶パネルに積層した際に、液晶を通過する際の複屈折を補償しきれず、位相差フィルムとしての商品価値が低下する。更に好ましくは、Nz係数が1.5未満の場合にRe値を100〜300nm、1.5以上の場合には同じく80〜270nmの範囲に設定することにより、広い視野角と高いコントラストを兼備した位相差補償性能を発揮することが可能となる。
【発明の効果】
【0046】
本発明における位相差フィルムの製造方法の構成は上述の通りであり、本来縦延伸及び横延伸の組合せによって構成される二軸性位相差フィルムの製造工程を、横一軸延伸のみの工程によって達成することが可能であり、設備及びランニングコストの削減効果は大きい。また、複数の工程を単一工程に集約して製造を実施することで、製造環境に起因するフィルムの汚染、異物の混入、フィルムロールの保管・搬送に起因する傷や打痕に由来する外観欠点の発生を低減することが可能となる。
【0047】
また、得られた位相差フィルムを液晶表示装置に使用すると、液晶物質の複屈折を効果的に補償して表示むらを解消するとともに、コントラストが良好で視角特性に優れた高品位な液晶表示画像を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下、本発明の実施例について説明するが、下記の例に限定されるものではない。
【実施例】
【0049】
(実施例1〜7、比較例1〜3)
非晶性熱可塑性樹脂であるノルボルネン系樹脂(日本ゼオン社製、商品名「ゼオノア1420」、ガラス転移温度Tg=142℃)をTダイつき押出機に供給し、溶融温度230℃、引取速度20m/分で冷却ロール上に溶融押出し、シート状に連続成膜して塩化ビニル樹脂製コアにロール状に巻取り、実質的に無配向のノルボルネン系樹脂フィルムを得た。得られたノルボルネン系樹脂フィルムの幅は300mm、平均厚みは100μmであった。
【0050】
得られたノルボルネン系樹脂フィルムを連続的に巻き出し、予熱ゾーン、延伸ゾーン、熱緩和ゾーン及び冷却ゾーンを有する横一軸テンター延伸機に10m/分の速度で供給しながらその幅方向両端部をテンタークリップで把持し、表1に示した延伸倍率及び延伸時間でフィルム幅方向に拡幅、延伸して位相差フィルムを得た。
【0051】
なお、予熱ゾーンの温度は150℃に設定し、150℃に予熱した後、145℃に設定された延伸ゾーンで横一軸延伸し、140℃に設定された熱緩和ゾーンで熱緩和した後、冷却ゾーンで100℃に冷却した。
【0052】
得られた位相差フィルムの幅はテンタークリップ掴み部分を除いて540mmであった。また、得られた位相差フィルムのNz係数及びレターデーション値Reを測定し、結果を表1に示した。
【0053】
なお、非晶性熱可塑性樹脂フィルムの延伸倍率、位相差フィルムのNz係数及びレターデーション値Reの計算方法及び測定方法は以下の通りである。
【0054】
<フィルムの延伸倍率>
延伸工程において、拡幅開始点におけるクリップレール間距離をLsとし、拡幅終了点におけるクリップレール間距離をLfとすると、延伸倍率(倍)は下記式で計算できる。
延伸倍率(倍)=Lf/Ls

【0055】
<フィルムの延伸時間>
延伸工程において、拡幅開始点から拡幅終了点までの長手方向の距離をDs(m)とし、フィルム走行速度をV(m/分)とすると、延伸時間(秒)は下記式で計算できる。
延伸時間(秒)=(Ds/V)×60
【0056】
<位相差フィルムのNz係数の測定方法>
自動複屈折測定装置(王子計測機器社製、商品名「KOBRA−WR」を用いて、位相差フィルムの中央400mm幅部分を、幅方向に10mm間隔に測定し、その平均値をNz係数 とした。
【0057】
<位相差フィルムのレターデーション値Re の測定方法>
自動複屈折測定装置(王子計測機器社製、商品名「KOBRA−WR」を用いて、位相差フィルムの中央400mm幅部分を、幅方向に10mm間隔に測定し、その平均値をレターデーション値Re(nm) とした。
【0058】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に無配向の非晶性熱可塑性樹脂フィルムの幅方向両端部をテンタークリップにより把持し、幅方向に拡幅しながら一軸延伸する、二軸性を有する位相差フィルムの製造方法であって、延伸倍率が1.2〜2.5倍を満足する条件で一軸延伸することを特徴とする位相差フィルムの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法により製せられ、正面レターデーション値Reが50〜400nm、Nz係数が1.3〜2.0であることを特徴とする位相差フィルム。
【請求項3】
非晶性熱可塑性樹脂がノルボルネン系樹脂又はマレイミド系樹脂であることを特徴とする請求項2に記載の位相差フィルム。

【公開番号】特開2006−194997(P2006−194997A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−4300(P2005−4300)
【出願日】平成17年1月11日(2005.1.11)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】