説明

位相差フィルム

【課題】本発明は、光学的に負のCプレートとしての性質を有し、面内レターデーション(Re)の正分散性が大きい位相差フィルムを提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明は、透明基板と、上記透明基板上に形成され、屈折率異方性を有する棒状化合物を含有し、かつ面内レターデーション(Re)の波長依存性が正分散型を示す位相差層とを有し、面内方向において互いに直交する任意のx、y方向の屈折率nx、ny、および厚み方向の屈折率nzにnx≧ny>nzの関係が成立する位相差フィルムであって、上記透明基板がセルロース誘導体からなるものであり、かつ、面内方向および厚み方向において光学的等方性を示すことを特徴する位相差フィルムを提供することにより、上記課題を解決するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置の視野角特性の改善等に用いられる位相差フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、その省電力、軽量、薄型等といった特徴を有することから、従来のCRTディスプレイに替わり、近年急速に普及している。一般的な液晶表示装置としては、図5に示すように、入射側の偏光板102Aと、出射側の偏光板102Bと、液晶セル104とを有するものを挙げることができる。偏光板102Aおよび102Bは、所定の振動方向の振動面を有する直線偏光のみを選択的に透過させるように構成されたものであり、それぞれの振動方向が相互に直角の関係になるようにクロスニコル状態で対向して配置されている。また、液晶セル101は画素に対応する多数のセルを含むものであり、偏光板102Aと102Bとの間に配置されている。
【0003】
このような液晶表示装置は、上記液晶セルに用いられる液晶材料の配列形態により種々の駆動方式を用いたものが知られている。今日、普及している液晶表示装置の主たるものは、TN、STN、MVA、IPS、および、OCB等に分類される。なかでも今日においては、上記MVA、および、IPSの駆動方式を有するものが広く普及するに至っている。
【0004】
一方、液晶表示装置はその特有の問題点として、液晶セルや偏光板の屈折率異方性に起因する視野角依存性の問題点がある。この視野角依存性の問題は、液晶表示装置を正面から見た場合と、斜め方向から見た場合とで視認される画像の色味やコントラストが変化してしまう問題である。このような視野角特性の問題は、近年の液晶表示装置の大画面化に伴って、さらにその問題の重大性を増している。
【0005】
このような視野角依存性の問題を改善するため、現在までに様々な技術が開発されている。その代表的な方法として位相差フィルムを用いる方法がある。この位相差フィルムを用いる方法は、例えば、図6に示すように所定の光学特性を有する位相差フィルム103を、液晶セル101と偏光板102Aおよび102Bとの間に配置することにより、視野角依存性の問題を改善する方法である。このような方法は位相差フィルム103を液晶表示装置に組み込むことのみで上記視野角依存性の問題点を改善できることから、簡便に視野角特性に優れた液晶表示装置を得ることが可能な方法として広く用いられるに至っている。
【0006】
位相差フィルムを用いて視野角特性を改善する方法としては、従来、図6に例示したように、位相差フィルムと偏光板とを別個に配置する方式が主流であった。しかしながら、今日では位相差フィルムを上記偏光板を構成する偏光板保護フィルムとして兼用する方式が主流になってきている。すなわち、図7に例示するように、一般的な液晶表示装置は、液晶セル101の両側に偏光板102A、102Bが配置された構成を有するものであり、上記偏光板102A、102Bは、通常、2枚の偏光板保護フィルム112a、112bによって偏光子111が挟持された構成を有するものである(図7(a))。そして、位相差フィルム103を用いて液晶表示装置の視野角特性を改善する場合、図7(b)に例示するように、上記2枚の偏光板保護フィルム112a、112bのうち、内側の偏光板保護フィルム112aとして位相差フィルム103が用いられた偏光板102A’、102B’を用いることが近年の主流となっている。
【0007】
このような位相差フィルムに要求される光学特性は、視野角特性を改善する対象となる液晶表示装置の種類に依存するものである。例えば、上述したVA方式の液晶表示装置には、光学的に負の正のAプレートとして性質を有する位相差フィルム(以下、単に「Aプレート」と称する場合がある。)及び、負のCプレートとしての性質を有する位相差フィルム(以下、単に「Cプレート」と称する場合がある。)、が用いられている。このような位相差フィルムとしては、例えば、特許文献1に開示されているように、透明基板と、上記透明基板上に形成され、液晶材料等を含有する位相差層とを有する構成を有するものが主流になっている。
【0008】
ところで、このような位相差フィルムには、視野角特性を改善するため、面内レターデーション(Re)や、厚み方向のレターデーション(Rth)といった位相差性の値が一定の範囲内にあることが求められているが、さらに望ましくは位相差性の波長依存性(以下、「波長分散」と称する場合がある。)が特定の挙動を示すことが求められている。具体的には、上記波長分散の挙動としては、短波長側の位相差性の方が長波長側のそれよりも高い値を示す正分散型、逆に短波長側の位相差性のほうが長波長側のそれよりも低い値を示す逆分散型、および、位相差性の値が波長によって変化しないフラット型の3種類を挙げることができる。これらのいずれの波長分散が求められるかについては、位相差フィルムの用途に応じて適宜決定されるものであるが、なかでも上記VA方式の液晶表示装置に用いられる負のCプレートには、角度40°におけるレターデーションの波長依存性が正分散型であることが求められている。
【0009】
このような正分散型の波長依存性を示す負のCプレートとしては、例えば、特許文献2に、レターデーションの波長依存性が逆分散型を示す基材上に、当該波長依存性が正分散型を示す液晶材料を含有する位相差層が積層されたものが開示されている。また、特許文献3には、レターデーションの波長依存性がフラット型を示す基材上に、当該波長依存性が正分散型を示す液晶材料を含有する位相差層が積層されたものが知られている。
しかしながら、これらの構成を有する位相差フィルムは、位相差フィルム全体としてレターデーションの波長依存性が正分散型である位相差フィルムを得ることはできるものの、基材が有する位相差性の影響により、位相差性と正分散の程度とを両立させることが困難であり、結果として、正分散の程度が低い位相差フィルムしか得ることができないという欠点があった。
【0010】
【特許文献1】特開2007−156433号公報
【特許文献2】特開2006−221134号公報
【特許文献3】特開2007−94208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、光学的に負のCプレートとしての性質を有し、角度40°におけるレターデーション(R40)の正分散性が大きい位相差フィルムを提供することを主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明は、透明基板と、上記透明基板上に形成され、屈折率異方性を有する棒状化合物を含有し、かつ角度40°におけるレターデーション(R40)の波長依存性が正分散型を示す位相差層とを有し、面内方向において互いに直交する任意のx、y方向の屈折率nx、ny、および厚み方向の屈折率nzにnx≧ny>nzの関係が成立する位相差フィルムであって、上記透明基板がセルロース誘導体からなるものであり、かつ、面内方向および厚み方向において光学的等方性を示すことを特徴する、位相差フィルムを提供する。
【0013】
本発明によれば、上記透明基板が面内方向および厚み方向において光学的等方性を示すものであることにより、上記透明基板の屈折率異方性の作用により、上記位相差層の面内レターデーションの正分散性が減殺されることがないため、位相差フィルム全体として高い正分散性を実現することができる。
また、本発明によれば上記透明基板がセルロース誘導体からなるものであるため、例えば、本発明の位相差フィルムを偏光板保護フィルムとして兼用した場合に、偏光子に含まれる水分をフィルムを通して揮散させることができるため、偏光板の耐久性を向上させることができる。
このため、本発明によれば光学的に負のCプレートとしての性質を有し、角度40°におけるレターデーション(R40)の正分散性が大きい位相差フィルムを得ることができる。
【0014】
本発明においては、上記透明基板の面内レターデーション(Re)が10nm以下であり、かつ、厚み方向のレターデーション(Rth)が10nm以下であることが好ましい。上記透明基板の光学的等方性が、これらの位相差性の範囲を満たす程度にまで優れていることにより、さらに角度40°におけるレターデーション(R40)の正分散性が大きい位相差フィルムを得ることができるからである。
【0015】
また本発明においては、波長450nmにおける角度40°におけるレターデーションR40(450)と、波長550nmにおける角度40°におけるレターデーションR40(450)との比R40(450)/R40(550)が、R40(450)/R40(550)>1.03であることが好ましい。また、波長650nmにおける角度40°におけるレターデーションR40(650)と、波長550nmにおける角度40°におけるレターデーションR40(550)との比R40(650)/R40(550)が、R40(650)/R40(550)<1であることが好ましい。これらの比は、角度40°におけるレターデーション(R40)の波長依存性の程度を示すものであるが、これらの比率が上記範囲内であることにより、本発明の位相差フィルムをVA方式の液晶表示装置の視野角補償フィルムとして好適に用いられるものにできるからである。
ここで、R40は測定光の入射角を位相差フィルムの表面に対する方線方向から40°として測定した面内レターデーションを表すものである。
【0016】
また本発明においては、前記位相差層に、複数の重合性官能基がスペーサー部を介して結合された構造を有する多官能重合性材料の重合物が含有されることが好ましい。さらに本発明においては、前記棒状化合物がアクリレート基を有する化合物であり、かつ、前記多官能重合性材料がアクリレート基を有する多官能重合性材料であることが好ましい。また本発明においては、上記位相差層に、複数の重合性官能基がスペーサー部を介して結合された構造を有する多官能重合性材料の重合物、が含有されることが好ましい。これにより、上記位相差層における棒状化合物の配列状態を安定化させることができるからである。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、光学的に負のCプレートとしての性質を有し、角度40°におけるレターデーション(R40)の正分散性が大きい位相差フィルムを提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の位相差フィルムについて説明する。
【0019】
上述したように本発明の位相差フィルムは、透明基板と、上記透明基板上に形成され、屈折率異方性を有する棒状化合物を含有し、かつ角度40°におけるレターデーション(R40)の波長依存性が正分散型を示す位相差層とを有し、面内方向において互いに直交する任意のx、y方向の屈折率nx、ny、および厚み方向の屈折率nzにnx≧ny>nzの関係が成立するものであって、上記透明基板がセルロース誘導体からなるものであり、かつ、面内方向および厚み方向において光学的等方性を示すことを特徴するものである。
【0020】
このような本発明の位相差フィルムについて図を参照しながら説明する。図1は本発明の位相差フィルムの一例を示す概略図である。図1に例示するように本発明の位相差フィルム10は、透明基板1と、上記透明基板1上に形成され、屈折率異方性を有する棒状化合物を含有し、角度40°におけるレターデーション(R40)の波長依存性が正分散型を示す位相差層2とを有するものである。また、本発明の位相差フィルム10は、面内方向において互いに直交する任意のx、y方向の屈折率nx、ny、および、厚み方向の屈折率nzにnx≧ny>nzの関係が成立するものである。
このような例において、本発明の位相差フィルム10は、上記透明基板1がセルロース誘導体からなるものであり、かつ面内方向および厚み方向において光学的等方性を示すことを特徴するものである。
【0021】
ここで、上記角度40°におけるレターデーション(R40)は、厚み方向のレターデーション(Rth)の指標として評価することができるものである。角度40°におけるレターデーション(R40)は、厚み方向に平行な方向に対して、40°傾斜した方向から測定を入射させて測定したレターデーション値であり、位相差フィルムの厚み方向に平行な方向に対して、40°傾斜した方向において互いに直交する任意のx、y方向の屈折率をnx40、ny40、厚み方向の屈折率をnz40、さらに厚みをd・cos40°とした場合にRe40=(nx40−ny40)×d/cos40°で表されるものである。ここで、(nx40−ny40)は、[nx−{nynx/(nysinψ+nz/cosψ)}]1/2で表される。
なお、本発明における上記角度40°におけるレターデーション(R40)は、特筆されていない限り23℃、55%RHの環境下で、測定光を入射することによって測定された値を意味するものである。このようなRe40は、例えば、大塚電子株式会社製 RETS−100を用い、測定することができる。また、R40(450)は角度40°より波長450.6nmを入射することによって測定された値を意味し、Re40(550)は角度40°より波長554.1nmを入射することによって測定された値を意味し、R40(650)は角度40°より波長647.6nmを入射することによって測定された値を意味する。
【0022】
本発明によれば、上記透明基板が面内方向および厚み方向において光学的等方性を示すものであることにより、上記透明基板の屈折率異方性の作用により、上記位相差層の角度40°におけるレターデーションの正分散性が減殺されることがないため、高い正分散性を実現することができる。
ここで、本発明に用いられる透明基板が面内方向および厚み方向において光学的等方性を示すことにより、角度40°におけるレターデーション(R40)の高い正分散性を実現することができる理由について、図を参照しながら具体例を用いて説明する。図2は、当該理由について説明する概略図である。なお、ここでは、本発明の位相差フィルムと同様に、透明基板と、透明基板上に形成された位相差層とを有する位相差フィルムを例に挙げて説明する。
まず、最初に従来の位相差フィルムにおいて高い正分散性を実現することができなかった理由について説明する。図2(a)は、従来の位相差フィルムの透明基板および位相差層について角度40°におけるレターデーション(R40)の波長分散を示す概略図である。図2(a)に例示するように従来の位相差フィルムは、透明基板として角度40°におけるレターデーション(R40)が逆分散性を示すものが用いられ、かつ、位相差層として角度40°におけるレターデーション(R40)が正分散性を示すものが用いられるのが一般的であった。しかしながら、このような波長分散を示す透明基板および位相差層が用いられた位相差フィルムにおいては、上記位相差層が示す正分散性が、上記透明基板が示す逆分散性によって減殺されてしまうため、位相差フィルム全体として高い正分散性を実現することは困難であった。
また、従来の位相差フィルムとしては、例えば図2(b)に示すように、透明基板として角度40°におけるレターデーション(R40)の波長依存性がフラット型のものが用いられ、かつ、位相差層として角度40°におけるレターデーション(R40)が正分散性を示すものが用いられたものも知られていた。しかしながら、このような波長分散を示す透明基板および位相差層が用いられた位相差フィルムにおいては、上記位相差層が有する正分散性が、上記透明基板の位相差性によって減殺されてしまい、やはり位相差フィルム全体として高い正分散性を実現することは困難であった。
一方、図3は本発明の位相差フィルムに用いられる透明基板および位相差層について角度40°におけるレターデーション(R40)の波長分散を示す概略図である。図3に例示するように、本発明においては光学的等方性を示す、すなわち位相差性を有さない透明基板と、角度40°におけるレターデーション(R40)が正分散性を示す位相差層が用いられていることから、これらによって位相差フィルムを構成した場合であっても、上記位相差層の正分散性が上記透明基板の存在によって減殺されることがない。このため、本発明の位相差フィルムにおいては上記位相差フィルムが備える正分散性を損なうことがないため、高い正分散性を実現することができるのである。
このようなことから、本発明によれば光学的に負のCプレートとしての性質を有し、角度40°におけるレターデーション(R40)の正分散性が大きい位相差フィルムを得ることができる。
【0023】
また、本発明によれば上記透明基板がセルロース誘導体からなるものであるため、例えば、本発明の位相差フィルムを偏光板保護フィルムとして兼用した場合に、偏光子に含まれる水分をフィルムを通して揮散させることができるため、偏光板の耐久性を向上させることができる。
【0024】
本発明の位相差フィルムは、少なくとも透明基板と、位相差層とを有するものであり、必要に応じて他の構成を有してもよいものである。
以下、本発明の位相差フィルムに用いられる各構成について順に説明する。
【0025】
1.透明基板
まず、本発明に用いられる透明基板について説明する。本発明に用いられる透明基板は、後述する位相差層を支持する機能を有するものであって、セルロース誘導体からなり、かつ上記透明基板が面内方向および厚み方向において光学的等方性を示すことを特徴するものである。
【0026】
本発明に用いられる透明基板は面内方向および厚み方向において光学的等方性を示すことを特徴とするものであり、これにより本発明の位相フィルムは角度40°におけるレターデーション(R40)の高い正分散性を実現することができるものである。ここで、本発明において「面内方向および厚み方向において光学的等方性を示す」とは、透明基板の面内方向のレターデーション(Re)および厚み方向のレターデーション(Rth)の値が、本発明の位相差フィルムにおいて、後述する位相差層の正分散性を実質的に減殺させない程度であることを意味するものである。なかでも本発明に用いられる透明基板の面内レターデーション(Re)の絶対値は、10nm以下であることが好ましく、0nm〜7nmの範囲内であることがより好ましく、0nm〜5nmの範囲内であることがさらに好ましい。また、厚み方向のレターデーション(Rth)の絶対値については、10nm以下であることが好ましく、0nm〜7nmの範囲内であることがより好ましく、0nm〜5nmの範囲内であることがさらに好ましい。上記透明基板の光学的等方性が、これらの位相差性の範囲を満たす程度にまで優れていることにより、角度40°におけるレターデーション(R40)の正分散性が大きい位相差フィルムを得ることができるからである。
【0027】
ここで、上記面内レターデーション(Re)および厚み方向のレターデーション(Rth)は、透明基板の面内において互いに直交する任意の2方向x、yの屈折率nx、ny、厚み方向の屈折率ny、および、透明基板の厚みd(nm)により、それぞれ、以下の式によって表されるものである。
Re=(nx−ny)×d
Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
なお、上記ReおよびRthの値は、測定波長に依存するものであるが、本願においては特筆しない限り波長589nmにおける値を意味するものとする。
また、上記ReおよびRthは、例えば、王子計測機器株式会社製 KOBRA−WRを用い、平行ニコル回転法により測定することができる。
なお、本願明細書において単に「Re」と標記した場合は、測定光を位相差フィルムの表面に対する方線方向から入射させて測定した面内レターデーションを表すものとする。
【0028】
本発明の位相差フィルムは、透明基板が面内方向および厚み方向において光学的等方性を示すことにより、高い正分散性を実現することができるものであることから、本発明に用いられる透明基板は、屈折率異方性を発現しにくいものであることが好ましい。具体的には、本発明に用いられる透明基板は、光弾性係数が小さい方が好ましい。光弾性係数が小さいことにより、例えば、本発明の位相差フィルムを製造する過程や、本発明の位相差フィルムを用いて液晶表示装置を作製する過程において、上記透明基板に応力が加わったとしても、透明基板に屈折率異方性が発現してしまうことを防止し、高い面内レターデーション(Re)の正分散性を維持できるからである。
【0029】
また、本発明に用いられる透明基板はセルロース誘導体からなるものであるが、本発明に用いられるセルロース誘導体としては、所望の光学的等方性を備える透明基板を得ることができるものであれば特に限定されるものではない。なかでも本発明においてはセルロースエステルが用いられることが好ましく、さらに、セルロースエステル類のなかでも、セルロースアシレート類が用いられることが好ましい。セルロースアシレート類は工業的に広く用いられていることから、入手容易性の点において有利だからである。
【0030】
上記セルロースアシレート類としては、炭素数2〜4の低級脂肪酸エステルが好ましい。低級脂肪酸エステルとしては、例えばセルロースアセテートのように、単一の低級脂肪酸エステルのみを含むものでもよく、また、例えばセルロースアセテートブチレートやセルロースアセテートプロピオネートのような複数の脂肪酸エステルを含むものであっても良い。
【0031】
本工程においては、上記低級脂肪酸エステルの中でもセルロースアセテートを特に好適に用いることができる。セルロースアセテートとしては、平均酢化度が57.5〜62.5%(置換度:2.6〜3.0)のトリアセチルセルロースを用いることが最も好ましい。ここで、酢化度とは、セルロース単位質量当りの結合酢酸量を意味する。酢化度は、ASTM:D−817−91(セルロースアセテート等の試験方法)におけるアセチル化度の測定および計算により求めることができる。なお、トリアセチルセルロースフィルムを構成するトリアセチルセルロースの酢化度は、フィルム中に含まれる可塑剤等の不純物を除去した後、上記の方法により求めることができる。
【0032】
本発明に用いられる透明基板の透明度は、本発明の位相差フィルムに求める透明性等に応じて任意に決定すればよいが、通常、可視光領域における透過率が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。
ここで、上記透明基板の透過率は、JIS K7361−1(プラスチックー透明材料の全光透過率の試験方法)により測定することができる。
【0033】
また本発明に用いられる透明基板は、ガラス転移温度(Tg)が100℃〜300℃の範囲内であることが好ましく、100℃〜250℃の範囲内であることがより好ましく、100℃〜200℃の範囲内であることがさらに好ましい。ガラス転移温度(Tg)が上記範囲内であることにより、透明基板を高温高湿下における耐久性に優れたものにできるため、本発明の位相差フィルムの信頼性を向上させることができるからである。
【0034】
また本発明に用いられる透明基板は、表面の水に対する接触角が90°以下であることが好ましく、80°以下であることがより好ましく、70°以下であることがさらに好ましい。表面の水に対する接触角が上記範囲内であることにより、本発明の位相差フィルムを偏光板保護フィルムとして兼用し、偏光子と貼り合わせて偏光板を作製する際に、偏光子との密着性を向上させることができるからである。
【0035】
なお、本発明に用いられる透明基板の厚みは、本発明の位相差フィルムの用途等に応じて、必要な自己支持性が得られる範囲内であれば特に限定されるものではない。なかでも本発明に用いられる透明基板の厚みは、10μm〜1000μmの範囲内であることが好ましく、特に20μm〜125μmの範囲内であることが好ましく、さらには30μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
透明基板の厚みが上記の範囲よりも薄いと、本発明の位相差フィルムに必要な自己支持性を付与できない場合があるからである。また、厚みが上記の範囲よりも厚いと、例えば、本発明の位相差フィルムを裁断加工する際に、加工屑が増加したり、裁断刃の磨耗が早くなってしまう場合があるからである。
【0036】
本発明における透明基板の構成は、単一の層からなる構成に限られるものではなく、複数の層が積層された構成を有してもよい。
また、複数の層が積層された構成を有する場合は、同一組成の層が積層されてもよく、また、異なった組成を有する複数の層が積層されてもよい。
【0037】
2.位相差層
次に、本発明に用いられる位相差層に用いられる位相差層について説明する。本発明に用いられる位相差層は、上述した透明基板上に形成されるものであり、屈折率異方性を有する棒状化合物を含有し、角度40°におけるレターデーション(R40)の波長依存性が正分散型を示すものである。このような位相差層が用いられていることにより、本発明の位相差フィルムは、角度40°におけるレターデーション(R40)の波長依存性が正分散型を示すものにできる。
【0038】
(1)棒状化合物
本発明における位相差層中に含有される棒状化合物としては、角度40°におけるレターデーション(R40)の波長依存性が正分散性を示す位相差層を形成することができ、かつ、位相差層において、光学的に負のCプレートとしての性質を付与できるように配列可能なものであれば特に限定されるものではない。
ここで、光学的に負のCプレートとしての性質とは、位相差層の面内方向において互いに直交する任意のx、y方向の屈折率nx、ny、および厚み方向の屈折率nzにnx≧ny>nzの関係成立することを意味するものである。
なかでも本発明に用いられる棒状化合物は、液晶性を示す液晶性材料であることが好ましい。液晶性材料は屈折率異方性が大きいため、本発明の位相差フィルムに所望の位相差性を付与することが容易になるからである。
【0039】
本発明に用いられる上記液晶性材料としては、本発明の位相差フィルムに所望の位相差性を付与できるものであれば特に限定されるものではない。このような液晶性材料としては、例えば、ネマチック相、コレステリック相、および、スメクチック相等の液晶相を示す材料を挙げることができる。
本発明においては、これらのいずれの液晶相を示す材料であっても好適に用いることができるが、なかでもネマチック相を示す液晶性材料を用いることが好ましい。ネマチック相を示す液晶性材料は、他の液晶相を示す液晶性材料と比較して規則的に配列させることが容易であるからである。
【0040】
また、本発明においては、上記ネマチック相を示す液晶性材料として、メソゲン両端にスペーサを有する材料を用いることが好ましい。メソゲン両端にスペーサを有する液晶性材料は柔軟性に優れるため、このような液晶性材料を用いることにより、本発明の位相差フィルムを透明性に優れたものにできるからである。
【0041】
さらに、本発明に用いられる棒状化合物は、分子内に重合性官能基を有するものが好適に用いられ、なかでも3次元架橋可能な重合性官能基を有するものがより好適に用いられる。上記棒状化合物が重合性官能基を有することにより、上記棒状化合物を重合して固定することが可能になるため、配列安定性に優れ、位相差性の経時変化が生じにくい上記を得ることができるからである。
また、本発明においては上記重合性官能基を有する棒状化合物と、上記重合性官能基を有さない棒状化合物とを混合して用いてもよい。
なお、上記「3次元架橋」とは、液晶性分子を互いに3次元に重合して、網目(ネットワーク)構造の状態にすることを意味する。
【0042】
上記重合性官能基としては、例えば、紫外線、電子線等の電離放射線、或いは熱の作用によって重合する重合性官能基を挙げることができる。これら重合性官能基の代表例としては、ラジカル重合性官能基、或いはカチオン重合性官能基等が挙げられる。さらにラジカル重合性官能基の代表例としては、少なくとも一つの付加重合可能なエチレン性不飽和二重結合を持つ官能基が挙げられ、具体例としては、置換基を有するもしくは有さないビニル基、アクリレート基(アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基を包含する総称)等が挙げられる。また、上記カチオン重合性官能基の具体例としては、エポキシ基等が挙げられる。その他、重合性官能基としては、例えば、イソシアネート基、不飽和3重結合等が挙げられる。これらの中でもプロセス上の点から、エチレン性不飽和二重結合を持つ官能基が好適に用いられる。
【0043】
さらにまた、本発明における棒状化合物は液晶性を示す液晶性材料であって、末端に上記重合性官能基を有するものが特に好ましい。このような液晶材料を用いることにより、例えば、互いに3次元に重合して、網目(ネットワーク)構造の状態にすることができるため、列安定性を備え、かつ、光学特性の発現性に優れた上記を形成することができるからである。
なお、本発明においては片末端に重合性官能基を有する液晶性材料を用いた場合であっても、他の分子と架橋して配列安定化することができる。
【0044】
本発明に用いられる棒状化合物の具体例としては、下記式(1)〜(6)で表される化合物を例示することができる。
【0045】
【化1】

【0046】
ここで、化学式(1)、(2)、(5)および(6)で示される液晶性材料は、D.J.Broerら、Makromol.Chem.190,3201−3215(1989)、またはD.J.Broerら、Makromol.Chem.190,2250(1989)に開示された方法に従い、あるいはそれに類似して調製することができる。また、化学式(3)および(4)で示される液晶性材料の調製は、DE195,04,224に開示されている。
【0047】
また、末端にアクリレート基を有するネマチック液晶性材料の具体例としては、下記化
学式(7)〜(17)に示すものも挙げられる。
【0048】
【化2】

【0049】
なお、本発明において上記棒状化合物は、1種類のみを用いてもよく、または、2種以上を混合して用いてもよい。例えば、上記棒状化合物として、両末端に重合性官能基を1つ以上有する液晶性材料と、片末端に重合性官能基を1つ以上有する液晶性材料とを混合して用いると、両者の配合比の調整により重合密度(架橋密度)及び光学特性を任意に調整できる点から好ましい。
【0050】
(2)棒状化合物の配列形態
次に、本発明における位相差層中において棒状化合物が配列している形態について説明する。上記棒状化合物が配列している形態としては、本発明の位相差フィルムに光学的に負のCプレートとしての性質を付与できる形態であれば特に限定されるものではない。このような形態としては、例えばコレステリック配向や、以下に説明するランダムホモジニアス配向などを挙げることができる。
【0051】
上記ランダムホモジニアス配向について説明する。本発明における棒状化合物のランダムホモジニアス配向は、少なくとも、次の3つの特徴を有するものである。すなわち、本発明における上記ランダムホモジニアス配向は、
第1に、位相差層における棒状化合物の配列方向がランダムであること(以下、単に「不規則性」と称する場合がある。)、
第2に、位相差層において棒状化合物が形成するドメインの大きさが可視光領域の波長よりも小さいこと(以下、単に「分散性」と称する場合がある。)、
第3に、位相差層において棒状化合物が面内配向していること(以下、単に「面内配向性」と称する場合がある。)、
を少なくとも備えるものである。
【0052】
次に、本発明におけるランダムホモジニアス配向について図4を参照しながら説明する。図4(a)は上述した図1中のZで表す位相差層の法線方向から本発明の位相差フィルムを正視した場合の概略図である。また、図4(b)、(c)は、図4(a)におけるB−B’線矢視断面図である。
【0053】
まず、本発明におけるランダムホモジニアス配向が具備する「不規則性」について図4(a)を参照しながら説明する。上記「不規則性」は、図4(a)に示すように、位相差層2において棒状化合物3がランダムに配列していることを示すものである。
ここで、本発明においては上記棒状化合物3の配列方向を説明するのに、図4(a)中のaで表す分子長軸方向(以下、分子軸と称する。)を基準として考えるものとする。したがって、上記棒状化合物の配列方向がランダムであることは、上記位相差層に含まれる棒状化合物3の分子軸aがランダムに向いていることを意味する。
【0054】
図4(a)に例示するような配列状態の他に、棒状化合物がコレステリック構造を有する場合であっても、上記分子軸aの方向が全体としてランダムになるため、形式的には上記「不規則性」に該当するが、本発明における上記「不規則性」には、コレステリック構造に起因する形態は含まないものとする。
【0055】
次に、本発明におけるランダムホモジニアス配向が具備する「分散性」について図4(a)を参照しながら説明する。上記「分散性」は、図4(a)に示すように、位相差層2において棒状化合物3がドメインbを形成している場合に、ドメインbの大きさが可視光領域の波長よりも小さいことを示すものである。本発明においては、上記ドメインbの大きさが小さい程好ましいものであり、棒状化合物がドメインを形成せずに単分子で分散している状態が最も好ましいものである。
【0056】
次に、本発明におけるランダムホモジニアス配向が具備する「面内配向性」について図4(b)を参照しながら説明する。上記「面内配向性」は、図4(b)に示すように、位相差層2において棒状化合物3が、分子軸aを位相差層3の法線方向Aに対して略垂直になるように配向していることを意味する。本発明における上記「面内配向性」としては、図4(b)に示すように、上記位相差層2におけるすべての棒状化合物3の分子軸aが上記法線方向Aに対して略垂直になっている場合のみを意味するものではなく、例えば図4(c)に示すように、上記位相差層2に分子軸a’が上記法線方向Aと垂直でない棒状化合物3が存在していたとしても、位相差層3中に存在する棒状化合物3の分子軸aの平均的な方向が上記法線方向Aに対して略垂直である場合を含むものである。
【0057】
本発明の位相差フィルムは、上記棒状化合物がランダムホモジニアス配向を形成していることにより、図1に示すx方向の屈折率nxと、y方向の屈折率nyと、z方向の屈折率nzに、nx=≧ny>nzの関係が成立することから、本発明の位相差フィルムを負のCプレートとして作用する光学特性の発現性に優れたものにできる。
【0058】
以上説明したように、本発明におけるランダムホモジニアス配向は、少なくとも「不規則性」、「分散性」および「面内配向性」を示すことを特徴とするが、本発明の位相差フィルムが、これらの特徴を有することについては、以下の方法により確認することができる。
【0059】
まず、本発明におけるランダムホモジニアス配向が具備する「不規則性」の確認方法について説明する。上記「不規則性」は、本発明の位相差フィルムを構成する位相差層の面内レターデーション(Re)評価、および、コレステリック構造に起因する選択反射波長の有無を評価することにより確認することができる。
すなわち、本発明の位相差フィルムを構成する位相差層の面内レターデーション(Re)評価により棒状化合物がランダムに配向をしていることを確認でき、選択反射波長の有無により棒状化合物がコレステリック構造を形成していないことを確認することができる。
【0060】
上記棒状化合物がランダムに配向していることは、面内レターデーション(Re)の値が、上記棒状化合物の配向状態がランダムであることを示す範囲内であることにより、確認することができる。なかでも、本発明においては位相差層の面内レターデーション(Re)の絶対値が0nm〜5nmであることが好ましい。
【0061】
上記位相差層のReは、例えば、位相差フィルムのReから位相差層以外の層が示すReを差し引くことにより求めることができる。すなわち、位相差フィルム全体、および、位相差フィルムから位相差層を切除したものについてRe測定し、前者のReから後者のReを差し引くことにより位相差層のReを求めることができる。Reは、例えば、王子計測機器株式会社製 KOBRA−WRを用い、平行ニコル回転法により測定することができる。
【0062】
上記棒状化合物がコレステリック構造を有しないことは、例えば、株式会社島津製作所製紫外可視金赤外分光光度計(UV−3100等)を用い、本発明における位相差層が、選択反射波長を有していないことを確認することにより評価できる。コレステリック構造を有する場合は、その特徴としてコレステリック構造の螺旋ピッチに依存する選択反射波長を有するからである。
【0063】
次に、本発明におけるランダムホモジニアス配向が具備する「分散性」の確認方法について説明する。上記「分散性」は、本発明の位相差フィルムを構成する位相差層のヘイズ値が、上記棒状化合物のドメインの大きさが可視光領域の波長以下であることを示す範囲内であることにより確認することができる。なかでも本発明においては、位相差層のヘイズ値が0.1%〜1%の範囲内であることが好ましい。ここで、上記ヘイズ値は、JIS K7105に準拠して測定した値を用いるものとする。
【0064】
ここで、位相差層のヘイズ値は、例えば、位相差フィルムのヘイズ値から位相差層以外の層のヘイズ値を差し引くことにより求めることができる。すなわち、位相差フィルム全体、および、位相差フィルムから位相差層を切除したものについてヘイズ値を測定し、前者のヘイズ値から後者のヘイズ値を差し引くことにより位相差層のヘイズ値を求めることができる。上記ヘイズ値は、JIS K7105に準拠して測定した値を用いるものとする。
【0065】
次に、本発明におけるランダムホモジニアス配向が具備する「面内配向性」の確認方法について説明する。上記「面内配向性」は、本発明の位相差フィルムを構成する位相差層の面内レターデーション(Re)の値が上述した範囲にあること、および、本発明における位相差層が負のCプレートとしての性質を示す厚み方向のレターデーション(Rth)値を有することにより確認することができる。なかでも本発明における位相差層の厚み方向レターデーション(Rth)は、絶対値で50nm〜300nmの範囲内であることが好ましい。
【0066】
上記位相差層のRthは、例えば、位相差フィルムのRthから位相差層以外の層が示すRthを差し引くことにより求めることができる。すなわち、位相差フィルム全体、および、位相差フィルムから位相差層を切除したものについてRth測定し、前者のRthから後者のRthを差し引くことにより位相差層のRthを求めることができる。Rthは、例えば、王子計測機器株式会社製 KOBRA−WRを用い、平行ニコル回転法により測定することができる。
【0067】
(3)他の化合物
本発明における位相差層には、上記棒状化合物以外に他の化合物を含んでもよい。このような他の化合物としては、本発明に用いられる棒状化合物の種類や、上記棒状化合物の配向形態等に応じて適宜選択することができるものであり、特に限定されるものではない。なかでも本発明においては、上記他の化合物として複数の重合性官能基がスペーサー部を介して結合された構造を有する多官能重合性材料の重合物が含まれることが好ましい。
すなわち、本発明の位相差フィルムは、位相差層中において上記棒状化合物が所定の配列形態を構成することによって、光学的に負のCプレートとしての性質を備えるものであるが、上記棒状化合物単独では、所望の配列形態を構成することができなかったり、あるいは、位相差層中において棒状化合物が凝縮し、位相差層が白濁してしまうというような現象が生じる場合がある。しかしながら、上記位相差層中にそれ自身では光学特性の発現性に寄与しない多官能重合性材料の重合物が含まれることにより、上記棒状化合物が所望の配列形態を構成することを促したり、あるいは、上記棒状化合物が凝集することを防止し、透明性と光学特性の発現性に優れた位相差層を得ることが容易になる場合があるからである。特に、位相差層内において上記棒状化合物をランダムホモジニアス配向させる場合においては、このような多官能重合性材料の重合物を含有させることが望ましいものである。
【0068】
本発明に用いられる多官能重合性材料としては、複数の重合性官能基がスペーサー部を介して結合された構造を有するものであり、棒状化合物を配列させることに寄与できるものであれば特に限定されるものではない。このような多官能重合性材料としては、上記スペーサー部の両端に重合性官能基が結合された2官能重合性材料であってもよく、あるいは、上記スペーサー部に2以上の複数の重合性官能基が結合された多官能重合性材料であってもよい。
【0069】
上記重合性官能基としては、位相差層において上記多官能重合性材料を重合させることができるものであれば特に限定されるものではなく、本発明の位相差フィルムの用途等に応じて任意の重合性官能基を用いることができる。このような多官能重合性材料が有する重合性官能基としては、上述した棒状化合物が備え得る重合性官能基と同様であるが、なかでも本発明においては上記棒状化合物が備える重合性官能基と、上記多官能重合性材料が備える重合性官能基とが同一であることが好ましい。これにより、上記棒状化合物と多官能重合性材料とを互いに重合させることが容易になるため、上記棒状化合物の配列をさらに安定化させることができるからである。また、上述した透明基板として重合性官能基を有する樹脂材料からなるものが用いられている場合は、上記多官能重合性材料が備える重合性官能基が、当該樹脂材料が備える重合性官能基とも同一であることが好ましい。例えば、上記透明基板としてアクリル樹脂を含有するものが用いられる場合、上記棒状化合物および上記多官能重合性材料はいずれも重合性官能基としたアクリレート基を有するものであることが好ましい。これにより、本発明の位相差フィルムにおいて上記透明基板と、上記位相差層との密着性を向上させることができるからである。
【0070】
このような重合性官能基としては、紫外線、可視光線または、電子線等の電離放射線が照射されることによって重合反応を生じる電離放射線重合性官能基(特に、電離放射線が可視光線、又は紫外線である場合を、特に、光重合性官能基と称する。)と、加熱されることによって重合反応を生じる熱重合性官能基とを挙げることができる。本発明においては、これらのいずれの重合性官能基であっても好適に用いることができるが、なかでも上記電離放射線重合性官能基を用いることが好ましく、特に光重合性官能基を用いることが好ましい。重合性官能基として光重合性官能基を用いることにより、本発明に用いられる位相差層を形成する際に後述する棒状化合物の配列性を損なう恐れが少ないからである。
【0071】
上記光重合性官能基としては、ラジカル重合性官能基およびカチオン重合性官能基等を挙げることができる。上記ラジカル重合性官能基の例としては、少なくとも一つの付加重合可能なエチレン性不飽和二重結合を持つ官能基等を挙げることができる。より具体的には、置換基を有するもしくは有さないビニル基、アクリレート基(アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基を包含する総称)等を挙げることができる。一方、上記カチオン重合性官能基の具体例としては、エポキシ基等を挙げることができる。
【0072】
なお、本発明に用いられる重合性官能基は、1種類のみであってもよく、あるいは、2種類以上であってもよい。
【0073】
次に、上記重合性官能基が複数結合されたスペーサー部について説明する。本発明に用いられるスペーサー部としては、上記重合性官能基を所定の距離で結合することができ、かつ、位相差層に光学的に負のCプレートとしての性質を付与するように後述する棒状化合物を配列させることに寄与できるものであれば特に限定されるものではない。なかでも本発明においては、上記スペーサー部として炭化水素鎖を用いることが好ましい。炭化水素鎖は、炭素数を変化させることにより複数の重合性官能基が結合される距離を任意に調整することが可能だからである。
【0074】
本発明に用いられる炭化水素鎖は、アルキル基のような不飽和結合を含まない飽和炭化水素鎖であってもよく、あるいは、二重結合または三重結合等の不飽和結合を含む不飽和炭化水素鎖であってもよい。また、分岐鎖を有さない直鎖状炭化水素鎖であってもよく、あるいは、分岐鎖を有する分岐鎖状炭化水素鎖であってもよい。さらには、任意の官能基や原子団が結合されたものであってもよい。
【0075】
本発明に用いられる炭化水素鎖を構成する炭素原子の数としては、上記重合性官能基を所定の距離で結合することができ、位相差層に光学的に負のCプレートとしての性質を付与するように後述する棒状化合物を配列させることに寄与できる範囲内であれば特に限定されるものではない。このような炭素数は後述する棒状化合物の種類等に応じて任意に調整することができるものであるが、なかでも本発明においては、炭素数が3〜15の範囲内であることが好ましく、特に8〜10の範囲内であることが好ましい。
【0076】
なお、本発明に用いられる多官能重合性材料は、1種類のみであってもよく、あるいは、2種類以上であってもよい。
【0077】
本発明に用いられる多官能重合性材料の具体例としては、例えば、1.4−ノナンジオールアクリレート、1.6−ノナンジオールアクリレート、1.9−ノナンジオールアクリレート、ヘキサンジオールアクリレート、ウレタンアクリレート等を挙げることができる。
【0078】
また、本発明に多官能重合性材料が用いられる場合、位相差層中における棒状化合物と、多官能重合性材料との比率としては、上述した多官能重合性材料を用いることによる効果が得られる範囲内であれば特に限定されるものではなく、棒状化合物の種類や多官能重合性材料の種類等の応じて適宜決定することができるものである。
なかでも本発明においては、位相差層中における棒状化合物と、多官能重合性材料との比率が、上記棒状化合物100重量部に対して、05重量部〜50重量部の範囲内であることが好ましく、10重量部〜40重量部の範囲内であることがより好ましく、20重量部〜40重量部の範囲内であることがさらに好ましい。
【0079】
また、本発明における位相差層には、上記多官能重合性材料以外にも、例えば、一般的にハードコート剤に用いられる重合可能な材料を含有させることができる。
【0080】
このような重合可能な材料としては、例えば、多価アルコールと1塩基酸または多塩基酸とを縮合して得られるポリエステルプレポリマーに、(メタ)アクリル酸を反応させて得られるポリエステル(メタ)アクリレート;ポリオール基と2個のイソシアネート基を持つ化合物を互いに反応させた後、その反応生成物に(メタ)アクリル酸を反応させて得られるポリウレタン(メタ)アクリレート;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ポリカルボン酸ポリグリシジルエステル、ポリオールポリグリシジルエーテル、脂肪族または脂環式エポキシ樹脂、アミノ基エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシベンゼン型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂と、(メタ)アクリル酸とを反応させて得られるエポキシ(メタ)アクリレート等の光重合性化合物;アクリル基やメタクリル基を有する光重合性の液晶性化合物等を挙げることができる。
【0081】
(3)位相差層
本発明における位相差層は、上述した透明基板上に形成されているものである。ここで、本発明における位相差層が、上記透明基板上に形成されている態様としては、特に限定されるものではなく、たとえば、上記透明基板上に位相差層が直接形成されている態様であってもよく、あるいは、上記透明基板上に形成された他の層を介して形成されている態様であってもよい。なかでも本発明においては、前者の態様によって位相差層が形成されていることが好ましい。位相差層が透明基板上に直接形成されていることにより、本発明の位相差フィルムを、位相差層と透明基板との密着性に、より優れたものにできる場合があるからである。
【0082】
本発明における位相差層の厚みは、上記棒状化合物の種類に応じて、位相差層に所望の光学的特性を付与できる範囲内であれば特に限定されない。なかでも本発明においては位相差層の厚みが0.5μm〜20μmの範囲内であることが好ましく、なかでも3.0μm〜15μmの範囲内であることが好ましく、特に5.0μm〜10μmの範囲内であることが好ましい。
【0083】
3.位相差フィルム
本発明の位相差フィルムには、上記透明基板および位相差層以外に他の層を有していてもよい。このような他の層としては、例えば、紫外線吸収層、赤外線吸収層、および、帯電防止層等を挙げることができる。
【0084】
また、本発明に用いられる紫外線吸収層としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂等のフィルム中に、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、サリシレート系化合物等から成る紫外線吸収剤を添加して成膜したものが挙げられる。
【0085】
また、本発明に用いられる赤外線吸収層としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル樹脂等のフィルム基材上に赤外線吸収層を塗工等により形成したものが挙げられる。赤外線吸収層としては、例えば、ジインモニウム系化合物、フタロシアニン系化合物等から成る赤外線吸収剤を、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂等から成るバインダー樹脂中に添加して成膜したものが用いられる。
【0086】
また、本発明に用いられる帯電防止層としては、例えば、第4級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、第1〜3級アミノ基等のカチオン性基を有する各種のカチオン性帯電防止剤;スルホン酸塩基、硫酸エステル塩基、リン酸エステル塩基、ホスホン酸塩基等のアニオン性基を有するアニオン系帯電防止剤;アミノ酸系、アミノ硫酸エステル系等の両性帯電防止剤;アミノアルコール系、グリセリン系、ポリエチレングリコール系等のノニオン性の帯電防止剤;、上記帯電防止剤を高分子量化した高分子型帯電防止剤;第3級アミノ基や第4級アンモニウム基を有し、電離放射線により重合可能なモノマーやオリゴノマー、例えば、N,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートモノマー、それらの第4級化合物等の重合性帯電防止剤等の帯電防止剤を添加して成膜したものが挙げられる。
【0087】
本発明の位相差フィルムは、波長450nmにおける角度40°におけるレターデーションR40(450)と、波長550nmにおける角度40°におけるレターデーションR40(550)との比R40(450)/R40(550)が、R40(450)/R40(550)>1.03であることが好ましく、1.03<R40(450)/R40(550)<1.12であることがより好ましく、1.04<R40(450)/R40(550)<1.11であることがさらに好ましい。
さらに、波長650nmにおける角度40°におけるレターデーションR40(650)と、波長550nmにおける角度40°におけるレターデーションR40(550)との比R40(650)/R40(550)が、R40(650)/R40(550)<1であることが好ましく、0.80<R40(650)/R40(550)<0.99であることがより好ましく、0.85<R40(650)/R40(550)<0.95であることがさらに好ましい。これらの面内レターデーション(Re40)比は、面内レターデーション(Re40)の波長依存性の程度を示すものであるが、これらの比率が上記範囲内であることにより、本発明の位相差フィルムをVA方式の液晶表示装置の視野角補償フィルムとして好適に用いられるものにできるからである。
【0088】
本発明の位相差フィルムの厚みは、所望の光学的特性を発現できる範囲内であれば特に限定されるものではないが、通常、10μm〜200μmの範囲内であることが好ましく、特に20μm〜135μmの範囲内であることが好ましく、さらには30μm〜90μmの範囲内であることが好ましい。
【0089】
また本発明の位相差フィルムは、JIS K7105に準拠して測定したヘイズ値が0%〜5%の範囲内であることが好ましく、特に0%〜1%の範囲内であることが好ましく、なかでも0%〜0.5%の範囲内であることが好ましい。
【0090】
また、本発明の位相差フィルムの厚み方向のレターデーション(Rth)は、50nm〜400nmの範囲内であることが好ましく、なかでも75nm〜300nmの範囲内であることが好ましく、特に100nm〜250nmの範囲内であることが好ましい。さらに、面内レターデーション(Re)は、0nm〜20nmの範囲内であることが好ましく、なかでも0nm〜10nmの範囲内であることが好ましく、特に0〜5nmの範囲内であることが好ましい。
ReおよびRthが上記範囲内であることにより、本発明の位相差フィルムを、液晶表示装置の視野角特性を改善するのに好適な位相差フィルムとして用いることが可能になるからである。
ここで、Re値、Rth値の定義および測定方法については上述した通りであるため、ここでの説明は省略する。
【0091】
上記面内レターデーション(Re)値、および厚み方向のレターデーション値(Rth)は、波長依存性を有していてもよい。波長依存性は、長波長側の方が短波長側よりも値が大きい逆分散でもよく、また、短波長側の方が、長波長側よりも値が大きい正分散でもよい。なかでも本発明の位相差フィルムは、角度40°におけるレターデーション(R40)の波長依存性が、正分散型であることが好ましい。これにより、本発明の位相差フィルムの光学的性質を液晶表示装置用の光学補償フィルムとして好適なものにすることができるからである
【0092】
また、本発明の位相差フィルムは、厚み方向のレターデーション値(Rth(nm))を厚み(d(μm))で除した値(Rth/d)が、0.25〜40の範囲内であることが好ましく、なかでも0.6〜15の範囲内であることが好ましく、特に1.1〜8.3の範囲内であることが好ましい。
【0093】
また、本発明の位相差フィルムは、レターデーション値(Re(nm))を厚み(d(μm))で除した値(Re/d)が、0.025〜30の範囲内であることが好ましく、なかでも0.05〜10の範囲内であることが好ましく、特に0.44〜5の範囲内であることが好ましい。
【0094】
4.位相差フィルムの用途
本発明の位相差フィルムの用途としては、特に限定されるものではなく、光学的機能フィルムとして種々の用途に用いることができる。本発明の位相差フィルムの具体的な用途としては、例えば、液晶表示装置に用いられる光学補償板(例えば、視角補償板)、楕円偏光板、輝度向上板等を挙げることができるが、なかでも光学的に正のAプレートとしての性質を有する位相差フィルム、光学的に負のBプレートとしての性質を有する位相差フィルム、あるいは光学的に負のAプレートとしての性質を有する位相差フィルムと組み合わせて、VA方式の液晶表示装置の視野角特性を改善する光学補償フィルムとして好適に用いられる。
【0095】
また本発明の位相差フィルムは、偏光子と貼り合わせることにより、偏光フィルムとしての用途にも用いることができる。偏光フィルムは、通常偏光層とその両表面に保護層が形成されてなるものであるが、本発明においては、例えばその一方側の保護層を上述した位相差フィルムとすることにより、例えば液晶表示装置の視野角特性を改善する光学補償機能を有する偏光フィルムとすることができる。
なお、本発明の位相差フィルムは透明基板としてセルロース誘導体からなるものが用いられているため、上述した偏光フィルムとして用いた場合に、偏光子に含まれる水分をフィルムを通して揮散させることができる結果、耐久性に優れた偏光フィルムを得ることができるという利点を有する。
【0096】
上記偏光層としては、特に限定されないが、例えばヨウ素系偏光層、二色性染料を用いる染料系偏光層やポリエン系偏光層などを用いることができる。ヨウ素系偏光層や染料系偏光層は、一般にポリビニルアルコールを用いて製造される。
【0097】
5.位相差フィルムの製造方法
本発明の位相差フィルムの製造方法としては、上述した構成を有する位相差フィルムを製造できる方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、上記透明基板上に、上記棒状化合物等を溶媒に溶解して調製した位相差層形成用組成物を塗工する方法を挙げることができる。以下、本発明の位相差フィルムの製造方法の一例として、このような位相差フィルムの製造方法について説明する。
【0098】
上記位相差層形成用組成物は、通常、棒状化合物と、溶媒とからなり、必要に応じて上記多官能重合性材料等の他の化合物を含んでもよい。上記位相差層形成用組成物に用いられる溶媒としては、上記棒状化合物を所望の濃度に溶解できるものであり、かつ、透明基板を侵蝕しないものであれば特に限定されない。このような溶媒としては、例えば、ベンゼン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化アルキル系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒、およびジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒、シクロヘキサン等のアノン系溶媒、メタノール、エタノール、およびプロパノール等のアルコール系溶媒を例示することができるが、これらに限られるものではない。また、本発明に用いられる溶媒は、1種類でもよく、2種類以上の溶媒の混合溶媒でもよい。
【0099】
上記位相差層形成用組成物中における上記棒状化合物の含有量は、上記位相差層形成用組成物を透明基板上に塗布する塗工方式等に応じて、上記位相差層形成用組成物の粘度を所望の値にできる範囲内であれば得に限定されない。なかでも本発明においては、上記棒状化合物の含有量が、上記位相差層形成用組成物中、10質量%〜50質量%の範囲内が好ましく、特に20質量%〜40質量%の範囲内が好ましい。
【0100】
上記位相差層形成用組成物中には、必要に応じて光重合開始剤を含んでも良い。特に紫外線照射により位相差層を硬化させる処理を実施する場合には、光重合開始剤を含むことが好ましい。本発明に用いられる光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4,4−ビス(ジメチルアミン)ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジエチルアミン)ベンゾフェノン、α−アミノ・アセトフェノン、4,4−ジクロロベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4−メチルジフェニルケトン、ジベンジルケトン、フルオレノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、p−tert−ブチルジクロロアセトフェノン、チオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、ベンジルメトキシエチルアセタール、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、アントラキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、2−アミルアントラキノン、β−クロルアントラキノン、アントロン、ベンズアントロン、ジベンズスベロン、メチレンアントロン、4−アジドベンジルアセトフェノン、2,6−ビス(p−アジドベンジリデン)シクロヘキサン、2,6−ビス(p−アジドベンジリデン)−4−メチルシクロヘキサノン、2−フェニル−1,2−ブタジオン−2−(o−メトキシカルボニル)オキシム、1−フェニル−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、1,3−ジフェニル−プロパントリオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、1−フェニル−3−エトキシ−プロパントリオン−2−(o−ベンゾイル)オキシム、ミヒラーケトン、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン、ナフタレンスルホニルクロライド、キノリンスルホニルクロライド、n−フェニルチオアクリドン、4,4−アゾビスイソブチロニトリル、ジフェニルジスルフィド、ベンズチアゾールジスルフィド、トリフェニルホスフィン、カンファーキノン、アデカ社製N1717、四臭化炭素、トリブロモフェニルスルホン、過酸化ベンゾイン、エオシン、メチレンブルー等の光還元性色素とアスコルビン酸やトリエタノールアミンのような還元剤との組み合わせ等を例示できる。本発明では、これらの光重合開始剤を1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0101】
さらに、上記光重合開始剤を用いる場合には、光重合開始助剤を併用することができる。このような光重合開始助剤としては、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン等の3級アミン類や、2−ジメチルアミノエチル安息香酸、4−ジメチルアミド安息香酸エチル等の安息香酸誘導体を例示することができるが、これらに限られるものではない。
【0102】
上記位相差層形成用組成物には、本発明の目的を損なわない範囲内で、下記に示すような化合物を添加することができる。添加できる化合物としては、例えば、多価アルコールと1塩基酸または多塩基酸を縮合して得られるポリエステルプレポリマーに、(メタ)アクリル酸を反応させて得られるポリエステル(メタ)アクリレート;ポリオール基と2個のイソシアネート基を持つ化合物を互いに反応させた後、その反応生成物に(メタ)アクリル酸を反応させて得られるポリウレタン(メタ)アクリレート;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ポリカルボン酸ポリグリシジルエステル、ポリオールポリグリシジルエーテル、脂肪族または脂環式エポキシ樹脂、アミノ基エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシベンゼン型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂と、(メタ)アクリル酸を反応させて得られるエポキシ(メタ)アクリレート等の光重合性化合物;アクリル基やメタクリル基を有する光重合性の液晶性化合物等が挙げられる。上記位相差層形成用組成物に対するこれら化合物の添加量は、本発明の目的が損なわれない範囲で決定することができる。上記のような化合物を添加することにより位相差層の機械強度が向上し、安定性が改善される場合がある。
【0103】
上記位相差層形成用組成物を上記透明基板上に塗工する塗布方式としては、所望の平面性を達成できる方法であれば、特に限定されるものではない。具体的には、グラビアコート法、リバースコート法、ナイフコート法、ディップコート法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、スピンコート法、ロールコート法、プリント法、浸漬引き上げ法、カーテンコート法、ダイコート法、キャスティング法、バーコート法、エクストルージョンコート法、E型塗布方法などを例示することができるが、これに限られるものではない。
【0104】
上記位相差層形成用組成物の塗膜の厚みについても、所望の平面性を達成できる範囲内であれば特に限定されるものではないが、通常、0.1μm〜50μmの範囲内が好ましく、特に3.0μm〜40μmの範囲内が好ましく、中でも10μm〜30μmの範囲内が好ましい。位相差層形成用組成物の塗膜の厚みが上記範囲より薄いと位相差層の平面性を損なってしまう場合があり、また厚みが上記範囲より厚いと、溶媒の乾燥負荷が増大し、生産性が低下してしまう可能性があるからである。
【0105】
上記位相差層形成用組成物の塗膜の乾燥方法は、加熱乾燥方法、減圧乾燥方法、ギャップ乾燥方法等、一般的に用いられる乾燥方法を用いることができる。また、本発明における乾燥方法は、単一の方法に限られず、例えば残留する溶媒量に応じて順次乾燥方式を変化させる等の態様により、複数の乾燥方式を採用してもよい。
【0106】
上記棒状化合物として重合性材料を用いる場合、上記重合性材料を重合する方法は、特に限定されるものではなく、上記重合性材料が有する重合性官能基の種類に応じて任意に決定すればよい。なかでも本発明においては、活性放射線の照射により硬化させる方法が好ましい。活性放射線としては、重合性材料を重合することが可能な放射線であれば特に限定されるものではないが、通常は装置の容易性等の観点から紫外光または可視光を使用することが好ましく、中でも、波長が150〜500nm、好ましくは250〜450nm、さらに好ましくは300〜400nmの照射光を用いることが好ましい。
【0107】
この照射光の光源としては、低圧水銀ランプ(殺菌ランプ、蛍光ケミカルランプ、ブラックライト)、高圧放電ランプ(高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ)、ショートアーク放電ランプ(超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀キセノンランプ)などが例示できる。中でも、メタルハライドランプ、キセノンランプ、高圧水銀ランプ灯等の使用が推奨される。また、照射強度は、光重合開始剤の含有量等によって適宜調整して照射することができる。
【0108】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と、実質的に同一の構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなる場合であっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0109】
以下、本発明について実施例を示して具体的に説明する。
【0110】
1.実施例1
株式会社日立製作所製液晶テレビ23LCD−H50に採用されている偏光板を剥離し、温度80℃のお湯にて偏光板保護フィルムを剥離し、粘着剤をエタノールを用いて取り除いた。この液晶セル側の偏光板保護フィルムを基材として用いた。基材の厚みは80μmであった。また、当該基材の光学特性は、面内レターデーションが0.4nmであり、厚み方向のレターデーション(Rth)が6.4nmであった。当該基材上に以下の組成を有する位相差層形成用塗工液を塗布することにより、基材上に厚み8μmの位相差層が形成された位相差フィルムを作製した。
【0111】
<位相差層形成用塗工液の組成>
屈折率異方性材料として下記式(I)で表される光重合性液晶化合物、多官能重合性材料としてA−NOD−N(日本合成化学工業株式会社製)を上記光重合性液晶化合物に対して33wt%、重合開始剤としてイルガキュア907(日本チバガイギー株式会社製)を光重合性液晶化合物に対して5wt%とし、シクロヘキサノンに35wt%溶解させ、位相差層形成用塗工液とした。
次に、この位相差層形成用塗工液を上記基材上に、バーコート法により塗工し、40℃オーブンで1分間乾燥させた後、窒素雰囲気下にて、100mJ/mの紫外線を照射して硬化させ、上記光重合性液晶化合物及び多官能性材料を固定化した。さらに、40℃で10分間加熱することにより溶媒を除去し、位相差フィルムを作製した。
【0112】
作製された位相差フィルムの光学特性は、23℃、55%RHの環境下で、波長450.6nmおける角度40°におけるレターデーション、波長554.1nmにおける角度40°におけるレターデーション、波長647.6nmにおける角度40°におけるレターデーションがそれぞれ40.1nm、37.5nm、36.8nmであった。
これより算出される波長分散値は、R40(450)/R40(550)=1.07、R40(650)/R40(550)=0.98であった。
また、JIS K5600−5−6(クロスカット法)にてセロテープ(登録商標)剥離検査を行ったところ、100/100と良好であった。
【0113】
【化3】

【0114】
2.実施例2
多官能重合性材料として、UV7640B(日本合成化学工業株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により位相差フィルムを作製した。作製された位相差フィルムの光学特性は、23℃、55%RHの環境下で、波長450.6nmおける角度40°におけるレターデーション、波長554.1nmにおける角度40°におけるレターデーション、波長647.6nmにおける角度40°におけるレターデーションがそれぞれ41.3nm、39.1nm、38.3nmであった。
これより算出される波長分散値は、R40(450)/R40(550)=1.06、R40(650)/R40(550)=0.98であった。
また、JIS K5600−5−6(クロスカット法)にてセロテープ(登録商標)剥離検査を行ったところ、100/100と良好であった。
【0115】
3.比較例1
基材として、厚み80μmのトリアセチルセルロースフィルム(富士フイルム社製 TF80UL)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により位相差フィルムを作製した。用いた基材の光学特性は、面内レターデーションが2.4nmであり、厚み方向のレターデーション(Rth)が52.2nmであった。
作製された位相差フィルムの光学特性は、23℃、55%RHの環境下で、波長450.6nmおける角度40°におけるレターデーション、波長554.1nmにおける角度40°におけるレターデーション、波長647.6nmにおける角度40°におけるレターデーションがそれぞれ34.2nm、34.2nm、34.6nmであった。
これより算出される波長分散値は、R40(450)/R40(550)=1.00、R40(650)/R40(550)=1.01であった。
また、JIS K5600−5−6(クロスカット法)にてセロテープ(登録商標)剥離検査を行ったところ、100/100と良好であった。
【0116】
4.比較例2
基材として、厚み80μmのシクロオレフィンフィルム(JSR社製 Rタイプ)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により位相差フィルムを作製した。用いた基材の光学特性は、面内レターデーションが1.5nmであり、厚み方向のレターデーション(Rth)が50.5nmであった。
作製された位相差フィルムの光学特性は、23℃、55%RHの環境下で、波長450.6nmおける角度40°におけるレターデーション、波長554.1nmにおける角度40°におけるレターデーション、波長647.6nmにおける角度40°におけるレターデーションがそれぞれ23.9nm、23.1nm、23.0nmであった。
これより算出される波長分散値は、R40(450)/R40(550)=1.03、R40(650)/R40(550)=1.00であった。
また、JIS K5600−5−6(クロスカット法)にてセロテープ(登録商標)剥離検査を行ったところ、0/100と良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明の位相差フィルムの一例を示す概略図である。
【図2】従来の位相差フィルムの波長分散特性を説明する概略図である。
【図3】本発明の位相差フィルムの波長分散特性を説明する概略図である。
【図4】本発明の位相差フィルムの他の例を示す概略図である。
【図5】一般的な液晶表示装置の一例を示す概略図である。
【図6】位相差フィルムが用いられた液晶表示装置の一例を示す概略図である。
【図7】位相差フィルムが用いられた液晶表示装置の他の例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0118】
1 … 透明基板
2 … 位相差層
10 … 位相差フィルム
102A、102A’、102B、102B’ … 偏光板
103 … 位相差フィルム
111 … 偏光子
112a、112b … 偏光板保護フィルム
A… 棒状化合物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と、前記透明基板上に形成され、屈折率異方性を有する棒状化合物を含有し、かつ角度40°におけるレターデーション(R40)の波長依存性が正分散型を示す位相差層とを有し、面内方向において互いに直交する任意のx、y方向の屈折率nx、ny、および厚み方向の屈折率nzにnx≧ny>nzの関係が成立する位相差フィルムであって、
前記透明基板がセルロース誘導体からなるものであり、かつ、面内方向および厚み方向において光学的等方性を示すことを特徴する、位相差フィルム。
(ここで、R40は測定光の入射角を位相差フィルムの表面に対する方線方向から40°として測定した面内レターデーションを表す。)
【請求項2】
前記透明基板の面内レターデーション(Re)の絶対値が10nm以下であり、かつ、厚み方向のレターデーション(Rth)の絶対値が10nm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の位相差フィルム。
【請求項3】
波長450nmにおける角度40°におけるレターデーションR40(450)と、波長550nmにおける角度40°におけるレターデーションR40(550)との比R40(450)/R40(550)が、R40(450)/R40(550)>1.03であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の位相差フィルム。
【請求項4】
波長650nmにおける角度40°におけるレターデーションR40(650)と、波長550nmにおおける角度40°におけるレターデーションR40(550)との比R40(650)/R40(550)が、R40(650)/R40(550)<1であることを特徴とする、請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の位相差フィルム。
【請求項5】
前記位相差層に、複数の重合性官能基がスペーサー部を介して結合された構造を有する多官能重合性材料の重合物が含有されることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の位相差フィルム。
【請求項6】
前記棒状化合物がアクリレート基を有する化合物であり、かつ、前記多官能重合性材料がアクリレート基を有する多官能重合性材料であることを特徴とする、請求項5に記載の位相差フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−162874(P2009−162874A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−340330(P2007−340330)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】