説明

位置推定装置、無線端末、位置推定システム

【課題】少ない演算量でターゲット端末の位置を推定することのできる位置推定装置を得る。
【解決手段】無線端末100の位置を推定するための基準となるアンカー端末200が存在する環境下における無線端末100の位置を推定する装置であって、無線端末100とアンカー端末200の間の端末間距離に応じて変化する状態値を表す情報を受信する受信部と、受信部が受信した情報に基づき無線端末100の位置を推定する位置推定部450と、を備え、位置推定部450は、状態値が特定の値であると仮定した場合における端末間距離の確率密度関数p(r|P)を算出し、確率密度関数p(r|P)の確率値が最大となる端末間距離を特定し、その端末間距離を用いて無線端末100の位置を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線信号を用いて無線端末の位置を推定する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、位置が既知であるアンカー端末を基準として、位置検出を行う対象であるターゲット端末の位置を推定する手法が、無線端末の位置推定に用いられている。
この手法では、アンカー端末とターゲット端末の間で無線信号を送受信した際に得られる情報(例えば信号強度)を用いて、端末間の距離またはこれに類似する端末間の関係を求めることができる。
単一のターゲット端末と、複数のアンカー端末との間の距離を求め、例えば三点測量などの手法を用いることにより、ターゲット端末の位置を推定することができる。
【0003】
上述のような、無線信号を用いた位置検出に関し、『無線送信機の位置検出に用いる係数を、その無線送信機の移動する環境に応じて計算し直すことで、無線送信機の位置を高精度に検出するという構成を採るときにあって、無線送信機の移動する位置検出対象エリアの電波伝播環境が均一でない場合にも、無線送信機の位置を高精度に検出できるようにする技術の提供』を目的とする技術として、『位置検出対象エリアを複数のサブエリアに分割して、無線送信機の位置検出に用いる係数の計算をサブエリアを単位にして実行するという構成を採る。これにより、位置検出対象エリア内の電波伝播環境に差がある場合に、位置検出対象エリアを単一のエリアとして係数を計算して位置推定の計算を行うという構成を採る従来技術に比べて、より小さい誤差で無線送信機の位置を検出できるようになる。』というものが提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、下記非特許文献1では、端末間距離を特定の値に仮定して得られる、信号強度の確率密度関数を、ターゲット端末の位置推定に用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−329688号公報(要約)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】高島雅弘、趙大鵬、柳原健太郎、福井潔、福永茂、原晋介、北山研一、”センサネットワークにおける受信電力と最尤法を用いた位置推定”、電子情報通信学会(B)、pp.742−750、2006年5月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1や非特許文献1に記載の技術では、アンカー端末とターゲット端末の間の距離を固定して環境をモデル化し、ターゲット端末の位置を推定する。例えば非特許文献1では、受信電力の確率密度関数を用いて、位置推定を行っている。
しかし、この手法では、ターゲット端末の位置を仮定して演算を行うことを繰り返す必要があり、演算量が多くなってしまう。
【0008】
そのため、少ない演算量でターゲット端末の位置を推定することのできる位置推定装置が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る位置推定装置は、無線端末の位置を推定するための基準となるアンカー端末が存在する環境下における前記無線端末の位置を推定する装置であって、前記無線端末と前記アンカー端末の間の端末間距離に応じて変化する状態値を表す情報を受信する受信部と、前記受信部が受信した情報に基づき前記無線端末の位置を推定する位置推定部と、を備え、前記位置推定部は、前記状態値が特定の値であると仮定した場合における前記端末間距離の確率密度関数を算出し、前記確率密度関数の確率値が最大となる前記端末間距離を特定し、その端末間距離を用いて前記無線端末の位置を推定する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る位置推定装置によれば、無線端末(ターゲット端末)の位置を仮定して演算を行うのではなく、端末間距離に応じて変化する状態値を仮定して演算を行う。
そのため、位置推定に係る演算量を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施の形態1に係る位置推定システムの構成図である。
【図2】位置推定装置400の機能ブロック図である。
【図3】確率分布関数p(r)が複雑となる環境の1例を示す図である。
【図4】図3に示す環境における確率分布関数p(r)の例である。
【図5】端末間距離r=aで極大となる関数の例である。
【図6】ターゲット端末100とアンカー端末200が設置されている環境の1例を示す図である。
【図7】図6に示す環境における確率分布関数p(r)を用いて算出した、端末間距離rの発生確率の確率密度関数を例示する図である。
【図8】図6に示す環境における端末間距離rの発生確率の確率密度関数の別構成例を示す図である。
【図9】実施の形態4に係る位置推定装置400の機能ブロック図である。
【図10】ターゲット端末100とアンカー端末200が設置されている環境の1例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る位置推定システムの構成図である。本実施の形態1に係る位置推定システムは、ターゲット端末100aおよび100b、アンカー端末200a〜200f、位置推定装置400を有する。
【0013】
ターゲット端末100aと100b、アンカー端末200a〜200fは、位置推定対象領域300内に配置されている。
以下、ターゲット端末100aと100b、アンカー端末200a〜200fを総称するときは、それぞれターゲット端末100、アンカー端末200と呼ぶ。
【0014】
ターゲット端末100aと100bは、位置推定を行う対象となる無線端末であり、ターゲット端末同士、またはアンカー端末との間で無線信号を送受信する。
ターゲット端末100aと100bの移動範囲は、位置推定対象領域300内に限られるものと想定する。また、ここでは2台のターゲット端末を示したが、台数はこれに限られない。
【0015】
アンカー端末200a〜200fは、位置推定対象領域300内に配置されている。各アンカー端末の配置位置は既知であり、ターゲット端末100aと100bの位置推定を行う際の基準となる。ここでは6台のアンカー端末を設置した例を示したが、台数はこれに限られない。
【0016】
ターゲット端末100aと100b、アンカー端末200a〜200fは、少なくともいずれかが受信電力(受信信号強度)を測定し、その測定値を位置推定装置500に出力する。
【0017】
位置推定装置500は、ターゲット端末100aと100bの受信電力値、およびアンカー端末200a〜200fの位置情報を用いて、ターゲット端末の位置を推定する装置である。
【0018】
図2は、位置推定装置400の機能ブロック図である。
位置推定装置400は、アンテナ410、受信回路420、受信データ処理部430、距離情報提供部440、位置推定部450を備える。
【0019】
アンテナ410は、無線信号を送受信することができる。位置推定装置400は、無線信号を受信することができればよいので、ここでは受信についてのみ述べる。アンテナ410は、受信した信号を受信回路420に出力する。
【0020】
受信回路420は、アンテナ410が受信した受信信号を受け取ってデジタルデータに変換するなどの処理を施し、受信データとして受信データ処理部430に出力する。
受信データ処理部430は、受信回路420が出力する受信データを受け取って必要なフォーマット変換などの処理を行い、位置推定部450にその受信データを出力する。
【0021】
距離情報提供部440は、後述する確率分布関数p(r)を位置推定部450に提供する。この確率分布関数p(r)は、距離情報提供部440が計算して求めてもよいし、既知の確率分布関数p(r)をあらかじめ保持させておいて、必要時に位置推定部450に提供するようにしてもよい。
【0022】
位置推定部450は、受信データ処理部430から受け取る受信データと距離情報提供部440から受け取る確率分布関数p(r)に基づき、ターゲット端末100aと100bの位置を推定する。推定手法については、後述の図3〜図4で改めて説明する。
【0023】
受信データ処理部430、距離情報提供部440、位置推定部450は、これらの機能を実現する回路デバイスなどのハードウェアで構成することもできるし、CPU(Central Processing Unit)やマイコンなどの演算装置とその動作を規定するソフトウェアで構成することもできる。
また、これら各部は、必要に応じてメモリやHDD(Hard Disk Drive)などの記憶装置を備えてもよい。
【0024】
本発明における「受信部」は、アンテナ410、受信回路420、受信データ処理部430がこれに相当する。
【0025】
以上、位置推定システムの構成について説明した。
次に、位置推定を行う際の動作について、下記ステップ(1)〜(7)で説明する。
【0026】
(1)アンカー端末200a〜200fは、位置推定を行うための適当な信号を、周辺の端末に向けて送信する。この信号は、受信電力を測定することができればよいので、必ずしも位置推定専用の信号でなくともよい。
この信号が表す情報には、送信元端末の識別符号と、必要に応じて送信電力値が含まれる。以下ではこの信号を受信電力測定用信号という。
【0027】
(2)ターゲット端末100a〜100bは、受信電力測定用信号を受信すると、その信号の受信電力値を求め、位置推定用信号として位置推定装置400に送信する。この位置推定用信号には、以下の情報が含まれる。
【0028】
(2.1)受信電力測定用信号の送信元端末の識別符号
(2.2)受信電力測定用信号を受信した端末の識別符号
(2.3)受信電力測定用信号を受信したときの受信電力値
(2.4)受信電力測定用信号に、送信電力値が含まれていた場合は、その送信電力値
【0029】
(3)位置推定装置400のアンテナ410は、位置推定用信号を受信する。受信回路420および受信データ処理部430は、位置推定用信号に含まれる上記情報を取り出し、位置推定部450に出力する。
【0030】
(4)距離情報提供部440は、確率分布関数p(r)を位置推定部450に出力する。
(5)位置推定部450は、位置推定用信号に含まれる上記情報と確率分布関数p(r)を用いて、端末間距離の確率密度関数を算出する。
【0031】
(6)位置推定部450は、確率密度関数を用いて、ターゲット端末100a〜100bとアンカー端末200a〜200fとの間のそれぞれの端末間距離を推定する。
(7)位置推定部450は、推定した端末間距離を用いて、例えば3点測量などの手法により、ターゲット端末100a〜100bの位置を推定する。
【0032】
以上、位置推定を行う際の動作について説明した。
次に、確率分布関数p(r)について、従来技術の課題と併せて説明する。
【0033】
受信電力を用いてターゲット端末の位置を推定する手法として、例えば、3箇所以上のアンカー端末と1つのターゲット端末との間の距離を受信電力に基づきそれぞれ推定し、3点測量の手法を用いて位置を推定する、という手法がある。
しかし、受信電力に基づき端末間距離を推定すると、多くの誤差が含まれる可能性があるため、通常の3点測量とは異なる手法が検討されている。1例として、上記非特許文献1では、以下のステップ(1)〜(6)のような手順が用いられている。
【0034】
(1)ターゲット端末の位置を仮定する(適当な位置を仮設定する)。
(2)仮定したターゲット端末の位置と各アンカー端末との端末間距離を求める。
(3)特定のアンカー端末とターゲット端末間の距離、および受信電力の実測値から、仮定した位置において、受信電力の実測値が得られる確率を計算する。
(4)全てのアンカー端末についてステップ(3)を実行する。
(5)ステップ(4)の結果を全て乗算し、受信電力の確率密度関数を求める。
(6)ステップ(5)で得られた確率が最も高い位置にターゲット端末が存在しているものと推定する。
【0035】
以下の説明では、受信電力をP、端末間距離をrで表す。
【0036】
上記ステップ(1)〜(6)で述べた手法は、受信電力に基づき端末間距離を推定する手法と比較して、位置推定精度を高くすることができる。しかし、この手法ではターゲット端末の位置を仮定して上記ステップを実行することを繰り返す必要があり、演算量が多くなるという課題がある。
これは、非特許文献1で用いている確率密度関数が、端末間距離を仮定した際に得られる受信電力の分布p(P|r)であるからである。そこで、受信電力を仮定した際に得られる端末間距離の分布p(r|P)を、これに代えて用いることを考える。
【0037】
p(r|P)=p(P|r)×p(r)である。そのため、p(r)、即ち端末間距離rの確率分布関数が分かれば、端末間距離を仮定した際に得られる受信電力の分布p(P|r)を用いて、端末間距離rを変化させながら演算を繰り返すことなく、位置推定を行うことができる。
【0038】
p(r)とは、特定のアンカー端末からターゲット端末までの距離の確率分布である。
従来の方法では、特定のアンカー端末からターゲット端末までの距離は未知であるためp(r)を用いることはなかった。即ち、全ての端末間距離rが等確率で発生するという暗黙の仮定があった。
しかし、実環境において全ての端末間距離rが等確率で発生することはあり得ない。
【0039】
無限に広がる空間を想定した場合、ターゲット端末が全ての点に等確率で存在することを仮定すると、端末間距離rに比例して発生確率は大きくなる。
これは、端末間距離がrとなる確率は、ターゲット端末100がアンカー端末200から距離rの円周上に存在する確率を円周に沿って積分して得られるからである。即ち、rが大きくなると円周の長さもrの1乗に比例して大きくなるので、積分値もrの1乗に比例して大きくなるからである。
【0040】
一方、位置推定を行う実環境においては、建築物の壁や什器などによってターゲット端末が存在し得ない領域が存在する。したがって、実環境における確率分布関数は、rに比例して単調増加するのではなく、複雑な関数となる。以下、確率分布関数p(r)が複雑となる1例を説明する。
【0041】
図3は、確率分布関数p(r)が複雑となる環境の1例を示す図である。
図3において、位置推定対象領域300は1辺の長さXの正方形であり、ターゲット端末100とアンカー端末200がそれぞれ1つずつ存在する。
【0042】
アンカー端末200は、位置推定対象領域300の境界部の右辺から距離a、上辺から距離aの位置に存在しているものとする。
アンカー端末200から位置推定対象領域300の境界部の右上頂点までの距離をb、左辺までの距離をc、右下頂点までの距離をd、左下頂点までの距離をeとする。
【0043】
説明の簡易のため、位置推定対象領域300内には建築物や什器など、ターゲット端末100が存在し得ない領域を作り出す障害物等は存在しないものとする。
また、ターゲット端末100が存在する確率は、位置推定対象領域300内の各点で均一であるものとする。
【0044】
端末間距離rが0〜aの間の領域は、図3中の実線円内の領域に相当する。この領域は全て位置推定対象領域300内に含まれるので、端末間距離rが増加するにともなって、発生確率は線形に増加する。
端末間距離rがaを超えると、図3中の点線円に示すように、1部の領域は位置推定対象領域300から外れてしまう。位置推定対象領域300から外れた領域ではターゲット端末は存在しないことを前提としているので、端末間距離rがaを超えた時点で、発生確率は領域によっては減少することになる。同様に、端末間距離rがb、c、d、eそれぞれの値となる箇所は、発生確率が変化する境界点となる。
なお、端末間距離rがaを超えている全ての領域が位置推定対象領域300から外れるわけではないので、端末間距離rがaを超えても、発生確率がただちに0となるわけではない。
【0045】
図4は、図3に示す環境における確率分布関数p(r)の例である。
【0046】
上述のように、端末間距離rが0〜aの間の領域は、発生確率が線形増加する。以後、端末間距離rがb、c、d、eそれぞれの値となる箇所は、確率密度関数が変化する境界点となる。
【0047】
図3〜図4では、説明の簡易のため、ターゲット端末100が存在し得ない領域として位置推定対象領域300から外れた領域を例示した。
その他にも、例えば位置推定対象領域300内に建築物や什器等が存在する場合等、ターゲット端末100が存在し得ない領域が位置推定対象領域300内に存在する場合は、これを確率分布関数p(r)や確率密度関数p(r|P)に反映してもよい。
例えば、建築物や什器等の位置をあらかじめ把握しておき、その位置で確率分布関数p(r)や確率密度関数が極小値を取るように、各関数を構成することが考えられる。その他の手法を用いて、建築物や什器等の位置を反映してもよい。
【0048】
以上のように、本実施の形態1によれば、位置推定部450は、受信電力値を仮定した場合における端末間距離の確率密度関数p(r|P)を算出し、これを用いて端末間距離を推定する。また、その端末間距離を用いて、ターゲット端末100の位置を推定する。
これにより、位置推定部450は、ターゲット端末の位置を仮定して推定演算を繰り返し実行する必要がなくなるので、演算量を削減することができる。
【0049】
また、本実施の形態1によれば、位置推定部450は、演算式「p(r|P)=p(P|r)×p(r)」を用いて、受信電力値を仮定した場合における端末間距離rの確率密度関数p(r|P)を算出する。
そのため、端末間距離の確率分布関数p(r)が分かれば、容易に確率密度関数p(r|P)を算出することができる。
【0050】
また、本実施の形態1によれば、距離情報提供部440は、ターゲット端末100とアンカー端末200の間の空間に該当し得ない領域では確率値が減少するように構成された、確率分布関数p(r)を出力する。
具体的には、確率分布関数p(r)は、位置推定対象領域300から外れた領域や、位置推定対象領域300内で建築物等の障害物が存在する領域については、確率値が減少するように構成される。
これにより、位置推定部450は、実環境の状況を反映して、精度よくターゲット端末100の位置を推定することができる。
【0051】
実施の形態2.
実施の形態1で説明した手法は、確率分布関数p(r)やこれに基づく確率密度関数p(r|P)を正確に表すことができる。
その一方で、図4に示すように、確率分布関数p(r)や確率密度関数p(r|P)は、端末間距離rが0〜aの区間では線形増加関数、a〜cの区間では極小値を有する高次関数、というように、区間によって異なる関数を組み合わせることにより構成されていることが分かる。
【0052】
そこで、本発明の実施の形態2では、確率分布関数p(r)や確率密度関数p(r|P)を簡易化し、区間によらず同一の関数を用いるため、近似関数を求めて、確率分布関数p(r)や確率密度関数p(r|P)の代わりに用いる。その他の構成や動作は、実施の形態1と同様である。
以下、確率密度関数p(r|P)の近似関数を求める手順を、下記ステップ(1)〜(2)で説明する。確率分布関数p(r)の近似関数についても、同様の手順で求めることができることを付言しておく。
【0053】
(1)確率密度が最大値となる端末間距離rを求める。位置推定対象領域300が矩形であり、内部に建築物や什器等が存在しない場合には、アンカー端末200から見て最も近くの境界部までの距離が、これに相当する。図3〜図4で説明した例では、距離aがこれに相当する。
【0054】
(2)端末間距離がaの地点で値が最大となるような関数を求め、これを確率密度関数p(r|P)の代わりに用いる。
確率値の総和は1となるため、厳密には、端末間距離rの全区間について積分すると1となるような関数を、近似関数として採用しなければならない。しかし、位置推定のための近似関数として用いるのであれば、そこまでの厳密性は必要ない。
【0055】
(2.1)近似関数の例としては、レイリー分布関数や正規分布関数などが考えられる。これらの分布関数を用いるためには、端末間距離r=aの地点で値が極大となる、という条件以外にも、分散条件が必要となる。1例としては、端末間距離r=0の地点で値が0または非常に小さい値となるようにするとよい。
【0056】
図5は、端末間距離r=aで極大となる関数の例である。比較のため、図4で示した関数を、点線で併記した。
【0057】
以上のように、本実施の形態2によれば、複雑な関数で構成された確率分布関数p(r)や確率密度関数p(r|P)を近似関数で代用しているので、位置推定部450の演算処理を簡易化することができる。
【0058】
実施の形態3.
図6は、ターゲット端末100とアンカー端末200が設置されている環境の1例を示す図である。図6において、アンカー端末200は、位置推定対象領域300(平面)とは異なる平面600に設置されている。
位置推定対象領域300と平面600の間の距離はHである。また、アンカー端末200と各平面の境界部までの距離を、図6のように定義した。
【0059】
図6に示すように、ターゲット端末100とアンカー端末200は、必ずしも同一平面状に存在しているとは限らない。特に、アンカー端末200が天井や床に設置される環境を想定すると、各端末の配置関係は図6のようになる可能性がある。
【0060】
図7は、図6に示す環境における確率分布関数p(r)を用いて算出した、端末間距離rの発生確率の確率密度関数を例示する図である。比較のため、図4で示した関数を、点線で併記した。
【0061】
端末間距離はH未満にはなり得ない。アンカー端末200がターゲット端末100の直下に存在しているときのみ、端末間距離が最小値Hとなる。そのため、端末間距離が0〜Hの間の区間については、端末間距離rの発生確率が存在しないことが望ましい。
図7に示す確率密度関数では、端末間距離rが0〜Hの間の区間で発生確率を0とし、端末間距離rがH以上の区間については、図5と同様の関数で確率密度関数を構成した。
図5と同様に、発生確率が極大となる端末間距離rの値は、アンカー端末200から位置推定対象領域300の境界部までの最短距離Aとなる。
【0062】
図8は、図6に示す環境における端末間距離rの発生確率の確率密度関数の別構成例を示す図である。
図8に示す確率密度関数では、発生確率の値が端末間距離r=Hの地点から立ち上がって端末間距離r=Aの地点で極大となるような関数を用いた。この場合も、端末間距離rが0〜Hの区間で発生確率が0となるので、図7と同様の効果を発揮することができる。
【0063】
以上のように、本実施の形態3では、確率分布関数p(r)や確率密度関数p(r|P)として、端末間距離rが0〜Hの区間では発生確率が0となる関数を用いる。
これにより、ターゲット端末100とアンカー端末200が異なる平面上に存在している場合でも、ターゲット端末100の位置を適切に推定することができる。
【0064】
実施の形態4.
実施の形態1〜3では、位置推定対象領域300上の各点におけるターゲット端末100の存在確率は、各点について均一であるものと仮定した。しかし、実環境下では、ターゲット端末100の存在確率は、位置推定対象領域300上の各点で均一ではない場合もある。
そこで、本発明の実施の形態4では、位置推定対象領域300上の各点におけるターゲット端末100の存在確率が均一でない環境下における位置推定手法を説明する。
【0065】
図9は、本実施の形態4に係る位置推定装置400の機能ブロック図である。
本実施の形態4に係る位置推定装置400は、実施の形態1〜3で説明した構成に加えて、新たに存在確率情報提供部460を備える。その他の構成は、実施の形態1〜3で説明したものと同様である。
【0066】
存在確率情報提供部460は、位置推定対象領域300上の各点におけるターゲット端末100の存在確率を、位置推定部450に提供する。存在確率の値は、あらかじめデータとして記憶しておいてもよいし、任意の手法で計算により求めてもよい。
【0067】
存在確率情報提供部460は、これらの機能を実現する回路デバイスなどのハードウェアで構成することもできるし、CPUやマイコンなどの演算装置とその動作を規定するソフトウェアで構成することもできる。
また、存在確率情報提供部460は、必要に応じてメモリやHDDなどの記憶装置を備えてもよい。
【0068】
位置推定部450は、実施の形態1〜3で説明した確率密度関数p(r|P)の値に、存在確率情報提供部460が出力する該当地点におけるターゲット端末100の存在確率を乗算し、これを用いてターゲット端末100の位置を推定する。
例えば、図4で説明した確率密度関数p(r|P)は端末間距離r=aの地点で極大値を取るが、この位置に相当するターゲット端末100の存在確率が0.5である場合は、この極大値に0.5を乗算した値をに基づき、位置推定を行う。
【0069】
なお、存在確率情報提供部460は、ターゲット端末100の存在確率そのものに代えて、これと同等の情報を位置推定部450に提供するように構成してもよい。
例えば、「位置推定対象領域300の中心から半径a以内の領域は、他の領域と比較してターゲット端末100の存在確率が2倍高い」といった、各点間の存在確率を比較するための係数などの情報を提供することが例として考えられる。
【0070】
以上のように、本実施の形態4によれば、存在確率情報提供部460は、位置推定対象領域300上の各点におけるターゲット端末100の存在確率を、位置推定部450に提供する。
そのため、実環境を反映した位置推定を行うことができるので、位置推定の精度を向上させる効果を期待することができる。
【0071】
実施の形態5.
実施の形態4において、存在確率情報提供部460は、位置推定対象領域300上の各点におけるターゲット端末100の存在確率を提供するものとした。
この存在確率の値へ、位置推定装置450が過去に行った推定結果を反映することもできる。過去に行った位置推定の結果として、例えば以下のような例が考えられる。
【0072】
(1)過去に位置推定を行った結果の統計をとると、位置推定対象領域300の中心から半径a以内の領域にターゲット端末100が存在していたケースは、全体の7割である。
(2)その他の領域にターゲット端末が存在していたケースは、全体の2割である。
(3)位置推定を行うことができなかったケースは、全体の1割である。
【0073】
存在確率情報提供部460は、過去の推定結果を位置推定部450より受け取り、上記のような統計情報として保持しておく。
位置推定部450または存在確率情報提供部460は、上記の統計情報を端末間距離rの値に置き換える。
位置推定部450は、確率密度関数p(r|P)に上記存在確率を乗算して、ターゲット端末100の位置を推定する。
【0074】
以上のように、本実施の形態5において、存在確率情報提供部460は、過去の位置推定結果を、位置推定対象領域300上の各点におけるターゲット端末100の存在確率の統計情報として保持しておく。
位置推定部450は、確率密度関数p(r|P)にその存在確率を乗算した上で、位置推定を行う。
これにより、位置推定部450は、過去の推定結果を学習情報のように利用してターゲット端末100の位置を推定することができるので、位置推定を繰り返す毎に推定精度が向上する効果を期待することができる。
【0075】
実施の形態6.
以上の実施の形態1〜5では、位置推定対象領域300は平面であるものとしたが、立体空間であっても同様の位置推定手法を用いることができる。本発明の実施の形態6ではその1例を説明する。
【0076】
図10は、ターゲット端末100とアンカー端末200が設置されている環境の1例を示す図である。図10において、アンカー端末200は、位置推定対象領域300(立体空間)とは異なる平面600に設置されている。
【0077】
位置推定対象領域300が立体空間である場合、図3の実線円や点線円に相当する領域は、球面として取り扱う必要がある。したがって、端末間距離rがH〜Aまでの区間における発生確率は、線形増加ではなく、端末間距離rの2乗に比例して増加する。
これは、端末間距離がrとなる確率は、ターゲット端末100がアンカー端末200から距離rの球面上に存在する確率を球面に沿って積分して得られるからである。即ち、rが大きくなると球面の面積もrの2乗に比例して大きくなるので、積分値もrの2乗に比例して大きくなるからである。
【0078】
なおここでは、説明の簡易のため、H’−H>aであると仮定した。H’−H<aである場合には、上記に代えて、端末間距離rがH〜H’の区間における発生確率が、端末間距離rの2乗に比例して増加することになる。
【0079】
端末間距離の確率密度関数p(r|P)は、図4で説明したものと比較してより複雑な関数となるが、同様の手法により求めることができる。
本実施の形態6における確率密度関数p(r|P)は、端末間距離rがA〜Eとなる点において変化するのみならず、端末間距離rがA’〜E’およびH’となる点においても変化する。
【0080】
また、実施の形態2〜3で説明したような近似関数も、同様の手法により求めることができる。
さらには、ターゲット端末100とアンカー端末200が同一の平面や空間上に存在する場合であっても、HやH’の値を0とすることにより、同様に取り扱うことができる。
【0081】
実施の形態7.
以上の実施の形態1〜6では、位置推定装置400は、ターゲット端末100やアンカー端末200の受信電力値を、無線信号を介して受信することを説明した。しかし、必ずしも受信電力値を無線で受信する必要はなく、任意のインターフェースを介して受信できればよい。
例えば、有線回線を介して受信する、取り外し可能な記憶メディアを介して受け取る、といった手法が考えられる。
即ち、位置推定装置400は、ターゲット端末100やアンカー端末200と必ずしも近接して配置されている必要はなく、受信電力値を受け取ることができればよい。
【0082】
また、以上の実施の形態1〜6では、位置推定装置400は、ターゲット端末100やアンカー端末200の受信電力値を受信して端末間距離rを推定することを説明したが、必ずしも受信電力値に限る必要はない。端末間距離rを何らかの手法により推定することのできる情報であれば、受信電力値以外の情報を用いることもできる。
【0083】
実施の形態8.
ターゲット端末100やアンカー端末200その他の無線端末は、以上の実施の形態1〜7で説明した位置推定装置400を備えることもできる。これにより、各無線端末は自己の位置を自ら推定することができる。
また、位置推定装置400を備えた無線端末を用いて、位置推定システムを構成することもできる。
【符号の説明】
【0084】
100a〜100b ターゲット端末、200a〜200f アンカー端末、300 位置推定対象領域、400 位置推定装置、410 アンテナ、420 受信回路、430 受信データ処理部、440 距離情報提供部、450 位置推定部、460 存在確率情報提供部、600 平面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線端末の位置を推定するための基準となるアンカー端末が存在する環境下における前記無線端末の位置を推定する装置であって、
前記無線端末と前記アンカー端末の間の端末間距離に応じて変化する状態値を表す情報を受信する受信部と、
前記受信部が受信した情報に基づき前記無線端末の位置を推定する位置推定部と、
を備え、
前記位置推定部は、
前記状態値が特定の値であると仮定した場合における前記端末間距離の確率密度関数を算出し、
前記確率密度関数の確率値が最大となる前記端末間距離を特定し、
その端末間距離を用いて前記無線端末の位置を推定する
ことを特徴とする位置推定装置。
【請求項2】
前記位置推定部は、
前記端末間距離が特定の値であると仮定した場合における前記状態値の確率密度関数と、前記端末間距離の確率分布関数とを乗算することにより、
前記状態値が特定の値であると仮定した場合における前記端末間距離の確率密度関数を算出する
ことを特徴とする請求項1記載の位置推定装置。
【請求項3】
前記確率分布関数を提供する距離情報提供部を備え、
前記距離情報提供部は、
前記無線端末と前記アンカー端末の間の空間に該当し得ない領域では確率値が減少するように前記確率分布関数を構成する
ことを特徴とする請求項2記載の位置推定装置。
【請求項4】
前記距離情報提供部は、
前記無線端末の位置を推定する対象となる推定対象領域の外の領域では確率値が減少するように前記確率分布関数を構成する
ことを特徴とする請求項3記載の位置推定装置。
【請求項5】
前記距離情報提供部は、
前記無線端末の位置を推定する対象となる推定対象領域のうち前記無線端末が存在し得ない領域については確率値が減少するように前記確率分布関数を構成する
ことを特徴とする請求項3または請求項4記載の位置推定装置。
【請求項6】
前記位置推定部は、
前記確率密度関数として、
前記推定対象領域の境界部のうち前記アンカー端末に最も近い部分とそのアンカー端末との間の端末間距離に対応する確率値が極大となる近似関数を用いる
ことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の位置推定装置。
【請求項7】
前記位置推定部は、前記近似関数として、
前記端末間距離が0のとき確率値が0となる関数を用いる
ことを特徴とする請求項6記載の位置推定装置。
【請求項8】
前記位置推定部は、前記近似関数として、
前記無線端末と前記アンカー端末が最も接近している際の端末間距離から端末間距離が0となる地点までの区間で確率値が0となる関数を用いる
ことを特徴とする請求項6記載の位置推定装置。
【請求項9】
前記無線端末の位置を推定する対象となる推定対象領域内の各位置について前記無線端末がその位置に存在する存在確率を保持する存在確率情報保持部を備え、
前記位置推定部は、
前記存在確率を前記確率密度関数に乗算した上で前記無線端末の位置を推定する
ことを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の位置推定装置。
【請求項10】
前記存在確率情報保持部は、
前記位置推定部の過去の推定結果を統計処理して前記存在確率に反映する
ことを特徴とする請求項9記載の位置推定装置。
【請求項11】
前記受信部は、前記状態値として、
前記無線端末と前記アンカー端末の間で送受信される無線信号の受信信号強度を用いる
ことを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれかに記載の位置推定装置。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のいずれかに記載の位置推定装置を備えた
ことを特徴とする無線端末。
【請求項13】
請求項1ないし請求項11のいずれかに記載の位置推定装置と、
前記アンカー端末と、
を有することを特徴とする位置推定システム。
【請求項14】
請求項12記載の無線端末を有する
ことを特徴とする請求項13記載の位置推定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−190629(P2010−190629A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33329(P2009−33329)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】