説明

位置測定装置

【課題】 位置測定装置を構成する送信系コイルと受信系コイルのうち、送信系コイルを小さくする。
【解決手段】 位置測定装置は、第一の地点に配置された一軸の励磁コイル14と、該励磁コイルに交流信号を供給して励磁するための信号発生回路と、中心軸が互いに直交するようにして第二の地点に配置された第一、第二、第三の検出コイル21−1、21−2、21−3と、前記第一、第二、第三の検出コイルの出力から電圧信号を得る回路とを含む。前記励磁コイルを励磁した時に前記第一、第二、第三の検出コイルに誘起される誘起電圧を用いて予め定められた演算を行うことにより、前記検出コイルの座標系に対し前記励磁コイルの中心軸方向が既知であるとき前記第二の地点から前記第一の地点までの方位と距離を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は位置測定装置に関し、特に地すべり地帯におけるすべり面上下の相対的な変位測定に適した位置測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
交流磁界を用いて二点間の方位や距離を測定する方式としては、特許文献1に開示された方位測定方法及び測定装置、特許文献2に開示された方位測定方式、さらには特許文献3に開示された位置測定方式及び位置測定装置などが知られている。これらの測定方式あるいは測定装置では何れも三軸構成の送信系コイルと、同じく三軸構成の受信コイルを用いている。
【0003】
このような測定方式あるいは測定装置は、例えば地すべりの監視に適用することが考えられている。この場合、地すべり面上下の相対変位を測定するためには、すべり面を挟んだ上下にそれぞれ基準点を設け、その相対変位を求める必要がある。この場合、すべり面下側の地層に送信系の三軸コイルを設置する一方、すべり面上の地層に受信系の三軸コイルを設置し、上記何れかの測定方式によって二点間の相対変位を求める。
【0004】
【特許文献1】特開2002−054928号公報
【特許文献2】特開2002−181547号公報
【特許文献3】特開2003−004409号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の測定方式あるいは測定装置では、送信系に三軸コイルを用いることと、出来れば受信系コイルは地表に設置したいため送受信間の距離を長くする関係から、送信系のコイルにはある程度の大きさが必要となる。一方、形状が大きくなることは送信系のコイルを地中に設置するためのボーリングの直径が大きくなることを意味し、結果的にコストの増大となる。この解決には送信系のコイルを小さくし、細いボーリング孔内へ設置出来るようにすることが必要とされていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、第一の地点に配置された一軸の励磁コイルと、該励磁コイルに交流信号を供給して励磁するための信号発生回路と、中心軸が互いに直交するようにして第二の地点に配置された第一、第二、第三の検出コイルと、前記第一、第二、第三の検出コイルの出力から電圧信号を得る回路とを含み、前記励磁コイルを励磁して前記第一、第二、第三の検出コイルに誘起される誘起電圧を用いて予め定められた演算を行うことにより、前記検出コイルの座標系に対し前記励磁コイルの中心軸方向が既知であるとき前記第二の地点から前記第一の地点までの方位と距離を算出することを特徴とする位置測定装置が得られる。
【0007】
さらに、本発明によれば第一の地点に配置された一軸の励磁コイルと、該励磁コイルに交流信号を供給して励磁するための信号発生回路と、中心軸が互いに直交するようにして第二の地点に配置された第一、第二、第三の検出コイルと、前記第一、第二、第三の検出コイルの出力から電圧信号を得る回路とを含み、前記励磁コイルを励磁して前記第一、第二、第三の検出コイルに誘起される誘起電圧を用いて予め定められた演算を行うことにより、前記励磁コイルの中心軸方向が重力方向であるとき前記第二の地点から前記第一の地点までの方位と距離を算出することを特徴とする位置測定装置が得られる。
【0008】
さらに、本発明によれば上記の位置測定装置において、励磁コイルの中心軸が常に重力方向を保てるようにつり下げられていることを特徴とする位置測定装置が得られる。
【0009】
さらに、本発明によれば上記の位置測定装置において、励磁コイルの中心軸が常に重力方向を保てるように液体中に浮かべたフロート構造で支えられていることを特徴とする位置測定装置が得られる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、斜面の地中内部に設置した励磁コイルから発生された磁気信号の検出コイルにおける検出強度から励磁コイルの位置が検出できるため、地すべり土塊にひずみが発生して斜面表面が崩壊に至る前兆を検出することが可能となり、斜面表面の崩壊だけでなく斜面内部のひずみ発生段階で警報表示を行うことも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。図1は本発明による位置測定装置の構成を示すブロック図である。
【0012】
位置測定装置は、発信器10と受信器20を含む。発信器10は一定周期でトリガを出力するタイマ回路11と、タイマ回路11のトリガを得て一定期間交流信号を出力する発振回路12と、発振回路12の出力を増幅する増幅器13と、増幅器13の出力で励磁されて磁気信号を発生する励磁コイル14と、タイマ回路11と発振回路12と増幅器13に電力を供給するバッテリ15からなる。発振回路12の発振周波数は可聴帯域が望ましいが、これに限定されない。また、電力はバッテリによらず、場合によってはケーブルを介して外部から供給されても良い。
【0013】
受信器20は、互いに軸心が直交するように組み合わせた第一、第二、第三の検出コイル21−1、21−2、21−3と、これらの検出コイルの出力を順に取り出すための切替回路22と、切替回路22の出力の検波を行う検波回路23とを含む。検波回路23の出力は電圧計24により電圧信号として取り出される。ここで、第一〜第三の検出コイル21−1〜21−3は、以降で説明される図2〜図6に示されるように、中心点が一致するようにしていることは言うまでも無い。これは、励磁コイル14と各検出コイルとの間の距離はそれぞれの中心間の距離で規定され、第一〜第三の検出コイル21−1〜21−3すべてについて同じ距離となるようにするためである。
【0014】
つぎに、図2〜図6をも参照して本発明の位置測定装置の原理を説明する。
【0015】
図2に示すように、三次元空間(U−V−W軸座標)に配置した三軸の検出コイル(Uコイル、Vコイル、Wコイル)と一軸の励磁コイル(Tコイル)において、Uコイル、Vコイル、Wコイルはそれぞれ中心が原点Oにあり、コイル軸がそれぞれU、V、W軸と同一であったとする。また、TコイルがP点にあり、その軸心がW軸と平行であったとする。
【0016】
ここで、Tコイルが発生した磁場によって生じる原点Oでの磁界をHoとし、磁界HoのU、V、W軸方向の磁界成分をHu、Hv、Hw、U、V、Wコイルに誘起される電圧をVu、Vv、Vwとすると、以下の数1のように表すことができる。
【0017】
【数1】

【0018】
また、|Vo|=(Vu、Vv、Vw1/2とすると、
以下の数2のように表すことができ、電圧Vu、Vv、Vwから得られる電圧|Vo|(絶対値)は磁界|Ho|(絶対値)に比例した電圧となる。
【0019】
【数2】

【0020】
ここで、W軸方向成分の磁界Hwによって誘起電圧を生じるWコイルに対して、W軸方向と直交する成分の磁界によって誘起電圧を生じるU、Vコイルの合成をLコイルとすれば、以下の数3のように表すことができ、図3に示すように原点OとP点を含み、かつW軸に平行な2次元の配置(WL平面)に置き換えることができる。
【0021】
【数3】

【0022】
また、点О−P間の距離をr、線分ОPとW軸のなす角度をθとすれば、図4に示すように、原点Oでの磁界は線分ОPに平行な成分をHr、Hrと直交する成分をHθとすると、以下の数4、5のように表すことができ、原点Оにおける磁界Hoは以下の数6として表すことができる。但し、Mは磁気モーメント、μは透磁率、Kh=M/2πμ
【0023】
【数4】

【0024】
【数5】

【0025】
【数6】

【0026】
また、図2において磁界HoとHrのなす角度φは、以下の数7で表すことができる。
【0027】
【数7】

【0028】
式(6)から角度θを一定とした場合、磁界は距離の−3乗に比例して減衰することがわかる。
【0029】
また、角度θを0度としてr=rref(基準距離)での磁界強度をHref(基準磁界)とし、基準磁界Hrefで誘起される電圧(基準電圧)をVrefとすれば、Kh=rref|Href|から以下の数8を導き出すことができる。
【0030】
【数8】

【0031】
そして、以下の条件数9から、式(8)を以下の数10のように表すことができる。
【0032】
【数9】

【0033】
【数10】

【0034】
ここで、図3のように原点Oでの磁界Hoを、図4のように、W軸方向成分Hw、L軸方向成分HLで表せば、以下の数11のようになる。
【0035】
【数11】

【0036】
磁界の強さとコイルの誘起電圧は比例することから、WコイルとLコイルに誘起する電圧をそれぞれVw、VLとすれば、以下の数12のように表すことができる。
【0037】
【数12】

【0038】
ここで、α=(θ+φ)とすると、式(6)から、
(1/2)tanθ=tanφ=tan(α−θ)
=(tanα−tanθ)/(1+tanα・tanθ)
ここで、tanα=βとすると、
(1/2)tanθ=(β−tanθ)/(1+β・tanθ)であり、本式からtanθを以下の数13で表すことができ、この式(13)から角度θを以下の数14で表すことができる。
【0039】
【数13】

【0040】
【数14】

【0041】
ここで、β=tanαで、以下の数15で表すことができることから、角度θをU、V、Wコイルの誘起電圧から式(14)で得ることができる。
【0042】
【数15】

【0043】
また、式(10)から距離rを以下の数16で表すことにより、О−P間の距離rが得られる。
【0044】
【数16】

【0045】
図3においてWL平面で示した、W軸と直交する磁界成分HLをUV平面で示すと図5のようになる。ここで、U軸と磁界HLのなす角ωは、
tanω=|Hv|/|Hu|
として表すことができ、UコイルならびにVコイルでの誘起電圧Vu、Vvの大きさから以下の数17を用いて角度ωを求めることができる。
【0046】
【数17】

【0047】
ここではТコイル(励磁コイル)の軸心とWコイル(検出コイル)の軸心が平行である条件について示したが、励磁コイルとUコイルまたはVコイルの場合においても同様の手法で演算可能なことは言うまでもない。
【0048】
また、ここでは励磁コイルの軸心といずれかの検出コイルの軸心が平行である条件について示したが、検出コイルの座標系に対し励磁コイルの中心軸方向が既知である場合では角度補正の演算を行うことで同様な効果が得られることは言うまでもない。
【0049】
さらに、本実施形態では、励磁コイルが一つの場合について説明したが、同軸上に配置した複数の励磁コイルであっても、それらを一つの等価的な合成コイルと置き換えることで、同様の原理が利用できることは言うまでもない。
【0050】
したがって、三軸の検出コイル軸を基準とした3次元座標に配置した励磁コイル(Tコイル)のコイル軸心が検出コイルの軸心のいずれかと平行である場合、検出コイルU、V、Wに誘起される電圧(Vu、Vv、Vw)ならびに基準距離rref、基準電圧Vrefから、図6に示すように励磁コイルと検出コイルの相対距離rと検出コイルから見た励磁コイルの方位(θ、ω)を得ることができる。
【0051】
ここで原点Оの位置とU、V、W軸方向が既知であったとすれば、励磁コイルの位置を求めることができる。
【0052】
以上、本発明における励磁コイルの方位、位置の測定原理を説明したが、土中に励磁コイルを埋没させた場合や地すべりによって励磁コイルに変位が生じた場合には励磁コイルの軸心と三つの検出コイルのうちの一つの軸心を平行に保つことが困難な場合がある。
【0053】
そこで、本発明では既知の位置に配置する三つの検出コイルのうちの一つの軸心を重力方向として配置し、励磁コイルに、その軸心が常に重力方向を保てるような構造を組み合わせることで、本発明における位置測定装置の原理の条件を満たすようにすることができる。
【0054】
図7は請求項3記載の位置測定装置における励磁コイル構造を示すものである。励磁コイル14は外筐体16の内部に配置し、外筐体16の上方から吊り下げ線17によって吊り下げられている。吊り下げ線17は励磁コイル14のコイル軸上の上方に固定されていることが望ましく、吊り下げ線17は非金属であることが望ましいが、これに限定されない。励磁コイル14を励磁するための発振回路やバッテリは励磁コイル14の内側に配置していることが望ましいが、これに限定しない。また、励磁コイル14は内部に錘等を配置し、コイル軸上に重心を設定している。この構造により外筐体16に傾斜が与えられた場合においても励磁コイル14の軸心を重力方向に維持することができる。
【0055】
図7の構造において励磁コイル14の軸心が重力方向に維持されるのは外筐体16の傾斜により励磁コイル14と外筐体16が接しない範囲である。したがって、外筐体16の寸法は想定される外筐体16の傾斜に応じて設定することは言うまでもない。
【0056】
図8は請求項4記載の位置測定装置における励磁コイル構造を示すものである。励磁コイル14は防水構造の内筐体16−2内に配置し、錘等で励磁コイル軸上の下方に重心を設定している。励磁コイル14を励磁するための発振回路やバッテリは励磁コイル14の内側に配置していることが望ましいが、これに限定しない。図1で説明した励磁コイル、発振回路、バッテリ等を含む内筐体16−2は外筐体16−1内に配置し、外筐体16−1と内筐体16−2の間には液体18を封入し、内筐体16−2は外筐体16−1内の液体18に浮いている状態としている。
【0057】
このようなフローティング構造により外筐体16−1に回転が生じた場合においても励磁コイル14の軸心を重力方向に維持することか可能となる。ここで、図8で示すように内筐体16−2の外側と外筐体16−1の内側は接した際の接触面積を小さくするために球形とすることが望ましいが、これに限定しない。液体は、水、不凍液、オイル等、様々なものが考えられるが、内筐体の重量に応じて選択される。内筐体の重量や液体の比重、量を設定し、内筐体が外筐体の底や上部に接しないように調整していることは言うまでもない。
【0058】
また、請求項4記載の位置測定装置では、液体中に浮かべたフロート構造で励磁コイルの軸心を重力方向に維持しているが、ジンバル構造により励磁コイルの軸心を重力方向に維持することができるのは言うまでもない。
【0059】
以上の説明の通り、本発明による位置測定装置によれば、一軸の励磁コイルを用いて励磁コイルの方位、位置を測定できることから、励磁コイルを地中に設置するためのボーリング孔の直径が細くなり、設置費用の低減を図れることから得られる効果は大である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1は、本発明による位置測定装置の構成を示した図である。
【図2】図2は、本発明の位置測定装置による位置測定の原理を説明するための図である。
【図3】図3は、本発明の位置測定装置による位置測定の原理を説明するための図である。
【図4】図4は、本発明の位置測定装置による位置測定の原理を説明するための図である。
【図5】図5は、本発明の位置測定装置による位置測定の原理を説明するための図である。
【図6】図6は、本発明の位置測定装置による位置測定の原理を説明するための図である。
【図7】図7は、本発明の位置測定装置における励磁コイル構造の一例を示した断面図である。
【図8】図8は、本発明の位置測定装置における励磁コイル構造の他の例を示した断面図である。
【符号の説明】
【0061】
10 発信器
14 励磁コイル
20 受信器
16、16−1 外筐体
16−2 内筐体
17 吊り下げ線
18 液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の地点に配置された一軸の励磁コイルと、
該励磁コイルに交流信号を供給して励磁するための信号発生回路と、
中心軸が互いに直交するようにして第二の地点に配置された第一、第二、第三の検出コイルと、
前記第一、第二、第三の検出コイルの出力から電圧信号を得る回路とを含み、
前記励磁コイルを励磁して前記第一、第二、第三の検出コイルに誘起される誘起電圧を用いて予め定められた演算を行うことにより、前記検出コイルの座標系に対し前記励磁コイルの中心軸方向が既知であるとき前記第二の地点から前記第一の地点までの方位と距離を算出することを特徴とする位置測定装置。
【請求項2】
第一の地点に配置された一軸の励磁コイルと、
該励磁コイルに交流信号を供給して励磁するための信号発生回路と、
中心軸が互いに直交するようにして第二の地点に配置された第一、第二、第三の検出コイルと、
前記第一、第二、第三の検出コイルの出力から電圧信号を得る回路とを含み、
前記励磁コイルを励磁して前記第一、第二、第三の検出コイルに誘起される誘起電圧を用いて予め定められた演算を行うことにより、前記励磁コイルの中心軸方向が重力方向であるとき前記第二の地点から前記第一の地点までの方位と距離を算出することを特徴とする位置測定装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の位置測定装置において、前記励磁コイルは中心軸が常に重力方向を保てるようにつり下げられていることを特徴とする位置測定装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2記載の位置測定装置において、前記励磁コイルは中心軸が常に重力方向を保てるように液体中に浮かべたフロート構造で支えられていることを特徴とする位置測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−128253(P2009−128253A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305087(P2007−305087)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(390027177)坂田電機株式会社 (16)
【Fターム(参考)】