説明

低サイクル疲労強度に優れた歯車

【課題】低サイクル疲労強度に優れた歯車を提供する。
【解決手段】低サイクル疲労強度に優れた歯車は、成分組成が、C:0.05〜0.20%(質量%の意味。以下、同じ)、Si:0.7%以下(0%を含まない)、Mn:1.41〜2.0%、Cr:1.0〜2.0%を含有し、残部はFe及び不可避不純物であり、歯面表層のC濃度が0.4〜0.75%であり、表層硬さと芯部硬さの差が200〜400HVである。前記不可避不純物にはP、S、Al、Nが含まれ、それぞれの量は、例えば、P:0.015%以下(0%を含まない)、S:0.01%以下(0%を含まない)、Al:0.01%以下(0%を含まない)、N:0.008%以下(0%を含まない)程度である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車に関するものであり、好ましくは自動車の変速機や差動機などで用いられる歯車などのように高い応力が作用する箇所に使用される歯車に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の変速機や差動機などの機械類に用いられる歯車は、浸炭処理や浸炭窒化処理など(以下、これらをまとめて「浸炭・浸炭窒化処理」という場合がある)の表面硬化処理が施されており、疲労強度を向上させている。特に従来は、応力の繰り返し数が105回以上のような高サイクル領域での曲げ疲労強度(高サイクル疲労強度)が重視されている。高サイクル疲労強度を高めるには、ショットピーニングを適用して浸炭表層部に圧縮残留応力を付与したり、合金元素を調整して浸炭焼入れ時に発生する粒界酸化層と不完全焼入れ層の生成を抑制することが提案されている。例えば、特許文献1では、Mo含有量を増大させ、表面硬化層の不完全焼入れ層を低減することによって繰り返し数107回での疲労強度の向上を図っている。
【0003】
近年、エンジンの高出力化や部品の軽量化が進むにつれ、歯車が歯元部から比較的短時間に疲労破壊し易くなってきている。このような破壊は、繰り返し数が104回以下程度での疲労強度(低サイクル疲労強度)や衝撃疲労強度を高めることで改善される。低サイクル疲労破壊を防止するため、例えば、JIS G 4103鋼材(ニッケルクロムモリブデン鋼鋼材)、JIS G 4104鋼材(クロム鋼鋼材)、JIS G 4105鋼材(クロムモリブデン鋼鋼材)などを用いて成形加工した後、浸炭・浸炭窒化処理した歯車が用いられている。また特許文献2では、衝撃疲労強度を高めるため、オーステナイト結晶粒を粗大にすることを提案している。
【特許文献1】特開昭61−253346号公報
【特許文献2】特開2005−36257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしエンジンの高出力化や部品の軽量化は益々進んできており、低サイクル疲労強度をより向上させる技術の確立が求められている。本発明はこの様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、低サイクル疲労強度に優れた歯車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、CrやMnを多くして歯面表層の硬さを確保した上で、この歯面表層のC濃度を低く抑えて靭性を向上させ、さらに芯部硬さと表層硬さの差を適切な範囲に制御すれば、低サイクル疲労強度を高められることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明に係る低サイクル疲労強度に優れた歯車は、成分組成が、C:0.05〜0.20%(質量%の意味。以下、同じ)、Si:0.7%以下(0%を含まない)、Mn:1.41〜2.0%、Cr:1.0〜2.0%を含有し、残部はFe及び不可避不純物であり、
歯面表層のC濃度が0.4〜0.75%であり、
表層硬さと芯部硬さの差が200〜400HVである点に要旨を有するものである。
【0007】
前記不可避不純物にはP、S、Al、Nが含まれ、それぞれの許容量は、例えば、P:0.015%以下(0%を含まない)、S:0.01%以下(0%を含まない)、Al:0.01%以下(0%を含まない)、N:0.008%以下(0%を含まない)程度である。また前記歯車は、不純物としてCuを含有する場合があり、その量は、通常、0.3%以下(0%を含む)に抑制されている。本発明の歯車は、積極添加元素として、Mo:0.4%以下(0%を含まない)、Ni:2.0%以下(0%を含まない)、B:0.005%以下(0%を含まない)などを含有していてもよく、またAl:0.05%以下(0%を含まない)、Nb:0.05%以下(0%を含まない)、Ti:0.1%以下(0%を含まない)などを含有していてもよい。なおAl、Nb、Tiなどを積極添加する場合、Nは0.03%以下まで許容される。さらに本発明の歯車は、積極添加元素として、S:0.04%以下(0%を含まない)、Ca:0.01%以下(0%を含まない)、Mg:0.01%以下(0%を含まない)、Pb:0.3%以下(0%を含まない)、Bi:0.15%以下(0%を含まない)などを含有していていてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の歯車によれば、合金成分、歯面表層のC濃度、並びに芯部硬さと表層硬さが適切に制御されているため、低サイクル疲労強度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
まず本発明の歯車の成分組成について説明する。本発明の歯車は、C:0.05〜0.20%(質量%の意味。以下、同じ)、Si:0.7%以下(0%を含まない)、Mn:1.41〜2.0%、Cr:1.0〜2.0%、Mo:0.4%以下(0%を含まない)を含有し、残部は鉄及び不可避不純物である。成分限定理由は、次の通りである。
【0010】
Cは歯車としての芯部硬さを確保するのに必要な元素であるため、その含有量を0.05%以上とした。好ましくは0.07%以上、さらに好ましくは0.10%以上である。一方、Cが多すぎると芯部の靭性が劣化する。また焼入れ性が高くなり過ぎ、芯部硬さと表層硬さの差が小さくなり過ぎる。従ってCの含有量は、0.20%以下、好ましくは0.18%以下、さらに好ましくは0.16%以下である。
【0011】
Siは、浸炭・浸炭窒化処理時に粒界酸化層を生成し、低サイクル疲労強度に悪影響を及ぼすため、0.7%以下とした。好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下(特に0.1%以下)である。一方、Siを0%にすることは実操業上難しく、また鋼の溶製時に脱酸元素として有効に作用し、さらには耐摩耗性、耐ピッチング性にも有効であるため積極的に添加してもよい。Si量は、好ましくは0.01%以上、さらに好ましくは0.05%以上である。
【0012】
本発明では、後述するように、浸炭・浸炭窒化処理後の歯面表層のC量を低減している。表層のC量を低減しても、Mnの焼入れ性向上効果を利用して表層の硬さを確保するため、本発明ではMn量を通常よりも多くした。Mn量は、1.41%以上、好ましくは1.45%以上である。なおMnは脱酸、脱硫剤としても有用である。一方、Mnが多すぎると、浸炭・浸炭窒化処理後の残留オーステナイト量が増大して硬さが低下する。従ってMnは、2.0%以下、好ましくは1.8%以下、さらに好ましくは1.6%以下とする。
【0013】
Mnと同様、Crも焼入れ性向上元素であり、歯面表層のC量を低減する本発明にとってはその添加量を高め、表層硬さを確保することは重要である。従ってCr量は、1.0%以上、好ましくは1.1%以上、さらに好ましくは1.2%以上である。しかしCrを過剰に添加すると、芯部硬さが増大し、低サイクル疲労強度が低下する。従ってCrは、2.0%以下、好ましくは1.8%以下、さらに好ましくは1.6%以下とする。
【0014】
不可避不純物としては、例えば、P、S、Al、Nなどが挙げられ、それぞれの許容量は、例えば、以下の通りである。
P:0.015%以下(0%を含まない)、好ましくは0.013%以下、さらに好ましくは0.010%以下
S:0.01%以下(0%を含まない)、好ましくは0.007%以下、さらに好ましくは0.005%以下
Al:0.01%以下(0%を含まない)、好ましくは0.007%以下、さらに好ましくは0.005%以下
N:0.008%以下(0%を含まない)、好ましくは0.006%以下
【0015】
なお製鋼時の原料としてスクラップを用いる場合、その種類によっては、上記以外の不純物(例えば、Cu)も不可避的に混入してくる。Cuは、表層部の靭性を劣化させ、低サイクル疲労強度を低下させる。従ってCuを含有するスクラップを製鋼原料として用いる場合、その混入量は、0.3%以下、好ましくは0.2%以下、さらに好ましくは0.1%以下に抑制することが推奨される。スクラップを用いない場合やスクラップを厳選した場合には、Cuの含有量を0%にすることもできる。
【0016】
また本発明の歯車は、必要に応じてさらに他の元素(Mo、Ni、Bなど、窒化物形成元素、被削性向上元素など)を適宜組み合わせて含有していてもよい。例えば、Mo、Ni、Bなどは、それぞれMo:0.4%以下(0%を含まない)、Ni:2.0%以下(0%を含まない)、又はB:0.005%以下(0%を含まない)を含有していてもよい。これらMo、Ni、Bなどは単独で又は適宜組み合わせて添加できる。これらの元素の添加理由は、以下の通りである。
【0017】
Moは、焼入れ性向上元素であり、歯車表層部の靭性を向上させる効果が認められるため、添加してもよい。Moの添加量は、好ましくは0.01%以上、さらに好ましくは0.05%以上、特に0.10%以上である。しかし過剰に添加すると、芯部硬さが増大し、低サイクル疲労強度が低下する。従ってMoは、0.4%以下、好ましくは0.35%以下、さらに好ましくは0.30%以下にする。
【0018】
Niは芯部の靭性を確保するのに有効な元素であるため、添加してもよい。Niの添加量は、好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.3%以上、特に0.5%以上である。しかし過剰に添加すると、芯部硬さが増大し、低サイクル疲労強度が低下する。従ってNiは、2.0%以下、好ましくは1.8%以下、さらに好ましくは1.5%以下にする。
【0019】
Bは焼入れ性向上元素であり、表層部の粒界を強化し、低サイクル疲労強度を高めるのに有用であるため、添加してもよい。Bの添加量は、好ましくは0.0001%以上、さらに好ましくは0.0005%以上、特に0.0007%以上である。しかし過剰に添加すると、かえって粒界を脆化させる。よってBは、0.005%以下、好ましくは0.003%以下、さらに好ましくは0.0025%以下にする。なお前記Bの効果は、Bが窒化物を形成して析出すると、失われる。よってBを添加する場合には、後述する量の窒化物形成元素(Al、Nb、Tiなど。特にTi)を併用し、かつN量は0.008%以下(好ましくは、0.006%以下)に抑制しておくことが推奨される。
【0020】
窒化物形成元素としては、それぞれ、Al:0.05%以下(0%を含まない)、Nb:0.05%以下(0%を含まない)、又はTi:0.1%以下(0%を含まない)程度を含有していてもよい。これらAl、Nb、Tiは、微細な窒化物を形成して結晶粒を微細化する効果があり、低サイクル疲労強度を向上させる。ただし過剰に添加すると、窒化物が粗大になって効果が低下する。好ましい添加量は、以下の通りである。
Al:0.01%超(特に0.015%以上)、0.05%以下(特に0.03%以下)
Nb:0.01%以上(特に0.015%以上)、0.05%以下(特に0.03%以下)
Ti:0.01%以上(特に0.02%以上)、0.1%以下(特に0.06%以下)
【0021】
これらAl、Nb、Tiなどは単独で又は適宜組み合わせて添加できる。なおAl、Nb、Tiなどを添加する場合、Nは結晶粒の微細化に役立つようになることから、Nの許容量を高くしてもよく、例えば、0.03%以下(好ましくは0.008%超、0.025%以下)程度まで許容してもよい。ただしNが過剰になると、添加効果が飽和するだけでなく、靭性が低下する。
【0022】
被削性向上元素としては、S:0.04%以下(0%を含まない)、Ca:0.01%以下(0%を含まない)、Mg:0.01%以下(0%を含まない)、Pb:0.3%以下(0%を含まない)、又はBi:0.15%以下(0%を含まない)程度を含有させることができる。添加量に上限を設けたのは、過剰に添加すると介在物を生成して靭性が低下するためである。より好ましい添加量は、以下の通りである。
S :0.01%超(特に0.015%以上)、0.025%以下(特に0.020%以下)
Ca:0.0001%以上(特に0.001%以上)、0.005%以下(特に0.003%以下)
Mg:0.0001%以上(特に0.001%以上)、0.005%以下(特に0.003%以下)
Pb:0.005%以上(特に0.010%以上)、0.2%以下(特に0.1%以下)
Bi:0.005%以上(特に0.01%以上)、0.10%以下(特に0.05%以下)
これらS、Ca、Mg、Pb、Biなどは単独で又は適宜組み合わせて添加できる。
【0023】
本発明の歯車は、前記範囲に合金成分を調節した上で、浸炭・浸炭窒化処理後の歯面表層のC濃度、表層硬さ、芯部硬さを適切に制御している点に最大の特徴がある。これらを適切に制御することによって、低サイクル疲労強度を高めることができる。
【0024】
前記歯面表層のC濃度は、厳密には、歯幅中央での断面を観察したときの、歯底コーナー部における表面から深さ50μmの位置におけるC濃度として定義でき、その値は、0.4%以上(好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは0.6%以上)、0.75%以下(好ましくは0.73%以下)である。一般に歯車は、浸炭・浸炭窒化処理時の焼入れで表層がマルテンサイト変態し、このマルテンサイトは表層のC量が0.75%超、0.85%以下程度のときに硬さが最大になり、この量よりも多くても少なくても硬さは低下する。本発明では、表層のC量を少なくして表層の靭性を向上させることによって、低サイクル疲労強度を高めた。しかも上述したように、本発明では、CrやMnなどの他の合金成分を有効利用することにより、表層のC量を少なくしたことによる表層硬さの低下を防いでいる。
【0025】
また表層硬さと芯部硬さは、これらの差異(表層硬さから芯部硬さを差し引いた値;ΔHVと表記する)が重要である。図1は、後述の実施例のデータをプロットしたものであり、ΔHVと104回疲労強度との関係を示すグラフである。この図1のグラフより明らかなように、ΔHVが大きすぎても小さすぎても疲労強度が低下する。ΔHVが小さすぎて疲労強度が低下するのは、表層の強度を確保できていないか、又は芯部の靭性が確保できていないことが原因である。ΔHVが大きすぎて疲労強度が低下するのは、表層の靭性を確保できていないか、芯部の強度が低下していることが原因である。ΔHVを適切な範囲に制御することで、低サイクル疲労強度を向上できる。ΔHVの値は、200HV以上(好ましくは230HV以上、さらに好ましくは250HV以上)であり、400HV以下(好ましくは380HV以下、さらに好ましくは350HV以下)である。
【0026】
本発明の歯車は、前記範囲に合金成分を調節した歯車を、浸炭・浸炭窒化処理することによって製造できる。この浸炭・浸炭窒化処理によって表層のC量、ΔHVが決定される。より詳細に説明すると、表層のC量の調節は、浸炭・浸炭窒化処理時のCの導入条件を適宜設定することによって調節でき、例えば浸炭する場合には、カーボンポテンシャルを約0.7以下の適切な範囲に設定すればよい。カーボンポテンシャルが0.7付近では、表層のC濃度はカーボンポテンシャルよりも高くなり易いため、表層のC濃度を0.75%以下にするためにはこの値よりもある程度低いカーボンポテンシャルを設定する必要がある。
【0027】
またΔHVは、例えば、焼入れ条件(冷却速度、焼入れ油温度など)を適宜設定することによって調節できる。焼入れ元素が多い、冷却速度が速い、焼入れ油温度が低いなど、焼きが入りやすい条件で焼入れすると、ΔHVが小さくなる。逆に相対的に焼きが入りにくい条件で焼入れすると、ΔHVが大きくなる。焼入れ元素の量と目的のΔHVに合わせて、冷却速度や焼入れ油温度を調節することで、ΔHVを調節できる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0029】
実験No.1〜16
表1に示す成分組成の鋼材を真空溶製炉で溶製し、鍛造、焼きならしを行い、部品に近い形状にブランク加工した後、歯切りなどの機械加工を行ってはすば歯車を作成した。歯車の諸元は以下の通りである。
モジュール:1.56mm
圧力角:14.5°
歯数:36
歯幅:12mm
ねじれ角:33°
歯先円直径:69.9mm
【0030】
得られた歯車を図2に示すヒートパターンで浸炭焼入れし、焼戻しした。なお実験No.ごとにカーボンポテンシャル及び焼入れ油温度が異なっているため、これらの値は表2に示した。
浸炭焼入れ・焼戻しした後の歯車の諸特性を以下のようにして調べた。
【0031】
[歯面表層のC濃度]
歯幅中央での断面を観察したときの、歯底コーナー部における表面から深さ50μmの位置におけるC濃度をEPMAライン分析によって測定した。EPMAライン分析は、以下のようにして行った。
EPMA測定装置:日本電子製X線マイクロアナライザー「JXA−8900 R」
供試材:歯幅中央で切断した歯車を樹脂に埋め込み、測定面を研磨剤で鏡面仕上げした後、電導性を保持するため、金を蒸着した。
加速電圧:15kV
照射電流:0.3μA
定量ライン分析:分布の間隔5μm、合計500点を測定
【0032】
[表層硬さと芯部硬さの差(ΔHV)]
歯幅中央での断面を切り出し、この断面で硬さ(ビッカース硬さ、試験力:2.94N)を測定した。歯底コーナー部における表面から深さ50μmの位置における硬さを調べ、これを表層硬さとした。また歯底円周上における歯厚中央部の硬さを調べ、これを芯部硬さとした。
【0033】
[疲労強度]
実験No.1〜16の歯車(インプット)と、下記諸元のはすば歯車(メイン)とを組み合わせ、トルク(歯元応力)を種々変更しながら、各トルク(歯元応力)でインプット歯車が歯元から折損するまでのサイクル数を調べた。歯元応力とサイクル数との関係を整理し、最小自乗法によって、低サイクル疲労強度を示す繰り返し数104回での歯元応力(104回疲労強度)を求めた。なおより低サイクル側の疲労強度(103回疲労強度)、及び高サイクル疲労強度(106回疲労強度)も合わせて求めた。
【0034】
メイン歯車の諸元は以下の通りである。
モジュール:1.56mm
圧力角:14.5°
歯数:38
歯幅:25mm
ねじれ角:33°
歯先円直径:73.6mm
【0035】
結果を表1〜2に示す。また表層のC濃度が不適切な為に疲労強度が低下したNo.7、8及び粒界酸化の為に疲労強度が低下したNo.12を除いた残りの実験例のデータを用い、ΔHVと低サイクル疲労強度との関係を整理した。その結果を図1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
図1及び表1〜2より明らかなように、表層のC濃度を適切にすると共に、ΔHVを適切にすることによって低サイクル疲労強度を高めることができる。No.9〜10の例は焼入れ条件が不適切でΔHVが不適切になったため、No11及び13〜16は焼入れ成分の量が不適切でΔHVが不適切になったため、いずれも低サイクル疲労強度が低下した。No.7〜8は、表面のC濃度が不適切であるため、低サイクル疲労強度が低下した。No.12は、Siが多く、粒界酸化の影響が強くなって低サイクル疲労強度が低下した。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は表層硬さと芯部硬さの差(ΔHV)と104回疲労強度との関係を示すグラフである。
【図2】図2は実施例の欄の歯車の浸炭焼入れ・焼戻しのヒートパターンを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分組成が、C:0.05〜0.20%(質量%の意味。以下、同じ)、Si:0.7%以下(0%を含まない)、Mn:1.41〜2.0%、Cr:1.0〜2.0%を含有し、残部はFe及び不可避不純物であり、
歯面表層のC濃度が0.4〜0.75%であり、
表層硬さと芯部硬さの差が200〜400HVであることを特徴とする低サイクル疲労強度に優れた歯車。
【請求項2】
前記不可避不純物にはP、S、Al、Nが含まれ、それぞれP:0.015%以下(0%を含まない)、S:0.01%以下(0%を含まない)、Al:0.01%以下(0%を含まない)、N:0.008%以下(0%を含まない)である請求項1に記載の歯車。
【請求項3】
Cuが0.3%以下(0%を含む)に抑制されている請求項1又は2に記載の歯車。
【請求項4】
さらにMo:0.4%以下(0%を含まない)、Ni:2.0%以下(0%を含まない)、及びB:0.005%以下(0%を含まない)から選択される少なくとも1種を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の歯車。
【請求項5】
さらにAl:0.05%以下(0%を含まない)、Nb:0.05%以下(0%を含まない)、及びTi:0.1%以下(0%を含まない)から選択される少なくとも1種を含有し、かつN:0.03%以下(0%を含まない)である請求項1〜4のいずれかに記載の歯車。
【請求項6】
さらに、S:0.04%以下(0%を含まない)、Ca:0.01%以下(0%を含まない)、Mg:0.01%以下(0%を含まない)、Pb:0.3%以下(0%を含まない)、及びBi:0.15%以下(0%を含まない)から選択される少なくとも1種を含有する請求項1〜5のいずれかに記載の歯車。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−248284(P2008−248284A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−88914(P2007−88914)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】