説明

低反射性遮光構造

【課題】十分な遮光性および低反射性を備えながらも従来以上に薄膜化することが可能な低反射性遮光構造を提供する。
【解決手段】本発明に係る遮光板1は、遮光性を有する基材10と、基材10の表面に形成される積層膜20と、を備え、積層膜20は、誘電体からなる反基材側誘電体膜41を有する干渉層40と、干渉層40よりも可視光領域における光の消衰能力が高く、かつ干渉層40よりも基材10側に設けられる消衰層30と、から構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメラの絞り等に使用される遮光構造であって、特に光の反射率を低減させた低反射性の遮光構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スチルカメラやビデオカメラといった撮像装置は、一般的に光量を調節するための絞りを備えている。この絞りは、遮光性を有する遮光板(遮光構造)から構成されており、光を遮ることによって光量を調節するものであるが、光を遮る際に遮光板の表面に反射光が生じると、この反射光が光学系の中で迷光となり、撮像した画像中にゴーストやフレアとなって表れることとなる。従って、絞りに使用される遮光板には、完全な遮光性だけではなく、光の反射率が低いこと(低反射性)が要求される。
【0003】
近年では、このような遮光板として、PET(PolyEthylene Terephthalate)等の樹脂フィルムからなる基材の表面に艶消し塗料を塗布したものや、基材の内部にカーボンブラック等の黒色微粒子を含浸させたものが、一般的に使用されている。また、樹脂フィルムの表面に炭化酸化チタンからなる遮光性薄膜を形成したもの等も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−8786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、樹脂フィルムを基材とする遮光板では、樹脂フィルム自体が光を透過しやすい性質を有しているため、基材を薄くした場合に遮光性が低下するという問題があった。このため、例えば近年の携帯電話等における撮像装置の小型化や省スペース化に伴う遮光板の薄膜化に関する要望に応えることができるものは少なかった。
【0006】
また、上記特許文献1に記載されている遮光板では、炭化酸化チタンからなる遮光性薄膜の形成によって基材の薄膜化をある程度可能としているものの、所望の遮光性および低反射性を得るためには、スパッタリングによる成膜の際にC/Ti原子数比およびO/Ti原子数比を所定の範囲内に調整したターゲットを用いると共に、形成した遮光性被膜におけるC/Ti原子数比およびO/Ti原子数比が所定の範囲内である必要があることから、高コスト且つ製造が困難であり、さらには品質が安定せず、歩留りが悪いという問題があった。
【0007】
一方、樹脂よりも遮光性の高いステンレスやアルミ等の金属を基材とする遮光板も存在しているが、金属は表面の反射率が高いことから所望の低反射性を得ることが難しいという問題があった。このため従来では、反射率を下げるために非常に厚手の反射防止用被膜を基材の表面に形成する必要があり、この被膜の厚みによってやはり薄膜化が難しいという問題があった。
【0008】
本発明は、斯かる実情に鑑み、十分な遮光性および低反射性を備えながらも従来以上に薄膜化することが可能な低反射性遮光構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明は、遮光性を有する基材と、前記基材の表面に形成される積層膜と、を備え、前記積層膜は、誘電体からなる反基材側誘電体膜を有する干渉層と、前記干渉層よりも可視光領域における光の消衰能力が高く、かつ前記干渉層よりも基材側に設けられる消衰層と、から構成されることを特徴とする、低反射性遮光構造である。
【0010】
(2)本発明はまた、前記消衰層は、前記干渉層に含まれる材質よりも可視光領域における消衰係数が高い高消衰膜を有することを特徴とする、上記(1)に記載の低反射性遮光構造である。
【0011】
(3)本発明はまた、前記消衰層は、誘電体からなる基材側誘電体膜と、前記基材側誘電体膜よりも可視光領域における消衰係数が高い高消衰膜と、を交互に積層して構成されることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の低反射性遮光構造である。
【0012】
(4)本発明はまた、前記消衰層は、3つの前記高消衰膜と、3つの前記高消衰膜の間に配置される2つの前記基材側誘電体膜と、から構成されることを特徴とする、上記(3)に記載の低反射性遮光構造である。
【0013】
(5)本発明はまた、前記消衰層は、窒化金属、炭化金属、酸化金属、窒化酸化金属、炭化酸化金属、または炭化窒化金属を含む金属化合物膜を有することを特徴とする、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の低反射性遮光構造である。
【0014】
(6)本発明はまた、前記消衰層は、窒化金属または窒化酸化金属を含む第1の金属化合物膜と、前記第1の金属化合物膜とは異なる金属の窒化物または窒化酸化物を含む第2の金属化合物膜と、を有することを特徴とする、上記(5)に記載の低反射性遮光構造である。
【0015】
(7)本発明はまた、前記消衰層は、前記第1の金属化合物膜と、前記第2の金属化合物膜と、を交互に積層して構成されることを特徴とする、上記(6)に記載の低反射性遮光構造である。
【0016】
(8)本発明はまた、前記第1の金属化合物膜は、窒化チタンから構成され、前記第2の金属化合物膜は、窒化ケイ素から構成されることを特徴とする、上記(7)に記載の低反射性遮光構造である。
【0017】
(9)本発明はまた、前記反基材側誘電体膜は、二酸化ケイ素から構成されることを特徴とする、上記(8)に記載の低反射性遮光構造である。
【0018】
(10)本発明はまた、前記積層膜の最表層の膜の膜厚、または前記積層膜の最表の2層の膜の膜厚の合計は、波長550nmの略1/4の光学膜厚に形成されることを特徴とする、上記(1)乃至(9)のいずれかに記載の低反射性遮光構造である。
【0019】
(11)本発明はまた、前記積層膜の最表の2層の膜の膜厚の合計は、波長550nmの略1/4の光学膜厚に形成され、前記積層膜の最表から3層目の膜の膜厚は、波長550nmの略1/10の光学膜厚に形成されることを特徴とする、上記(1)乃至(9)のいずれかに記載の低反射性遮光構造である。
【0020】
(12)本発明はまた、前記積層膜の最表の2層の膜以外の膜の膜厚の合計は、前記積層膜の最表の2層の膜の膜厚の合計の略4倍の光学膜厚に設定されることを特徴とする、上記(1)乃至(11)のいずれかに記載の低反射性遮光構造である。
【0021】
(13)本発明はまた、前記消衰層は、消衰係数が0.24以上であることを特徴とする、上記(1)乃至(12)のいずれかに記載の低反射性遮光構造である。
【0022】
(14)本発明はまた、前記干渉層は、消衰係数が0.55以下であることを特徴とする、上記(1)乃至(13)のいずれかに記載の低反射性遮光構造である。
【0023】
(15)本発明はまた、前記基材の前記積層膜が形成される表面における算術平均粗さは、0.1乃至1.0μmであることを特徴とする、上記(1)乃至(14)のいずれかに記載の低反射性遮光構造である。
【0024】
(16)本発明はまた、前記基材は、厚さが1mm以下の金属箔であることを特徴とする、上記(1)乃至(15)のいずれかに記載の低反射性遮光構造である。
【0025】
(17)本発明はまた、前記基材は、表面に金属薄膜を形成した樹脂フィルムであることを特徴とする、上記(1)乃至(15)のいずれかに記載の低反射性遮光構造である。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る低反射性遮光構造によれば、十分な遮光性および低反射性を備えながらも従来以上に薄膜化することが可能という優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態に係る低反射性遮光構造である遮光板の構成を示した概略図である。
【図2】(a)TiNの可視光領域における消衰係数kおよび屈折率nを示したグラフである。(b)SiNの可視光領域における消衰係数kおよび屈折率nを示したグラフである。(c)SiOの可視光領域における消衰係数kおよび屈折率nを示したグラフである。
【図3】本発明の実施例の遮光板の構成を示した表である。
【図4】(a)本発明の実施例の遮光板における積層膜単体の透過率Tおよび反射率Rのシミュレーション結果を示したグラフである。(b)本発明の実施例の遮光板の透過率Tおよび反射率Rの実測結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の例について詳細に説明する。
【0029】
図1は、本実施形態に係る低反射性遮光構造である遮光板1の構成を示した概略図である。同図に示されるように、遮光板1は、遮光性を有する基材(Substratum)10と、基材10の表面に形成された積層膜20とを備えて構成されている。
【0030】
基材10を構成する材質は、光、特に可視光領域(波長が凡そ400〜700nmの範囲)の光を吸収(消衰)または反射して遮るものであれば特に限定されるものではなく、各種鋼やステンレス、アルミ合金、チタン合金等の金属からなる金属箔(薄板)を使用することができる。また、PET(PolyEthylene Terephthalate)やPEN(PolyEthylene Naphthalate)等の各種樹脂フィルムの表面に、例えばチタンやアルミ等からなる各種金属膜を形成したものであってもよい。なお、樹脂フィルム表面における金属膜の形成は、真空蒸着やスパッタリング等の既知の各種手法によって行うことができる。
【0031】
このように、基材10を金属箔、または表面に金属薄膜を形成した樹脂フィルムから構成することにより、金属による十分な遮光性を備えながらも基材10厚みを薄くすることができる。基材10の厚みは、特に限定されるものではないが、1mm以下であることが好ましい。さらに、遮光板1の薄膜化によって撮像装置等の小型化やレンズ設計の自由度を高めるためには、基材10の厚みは、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であればより好ましく、30μm以下であることが最も好ましい。
【0032】
なお、本実施形態の遮光板1では、積層膜20による光の消衰能力が高いため、基材10の厚みを1枚の薄膜として成立可能な最小値にすることも可能となっている。これにより、例えば積層膜20の膜厚を含めた遮光板1の全体の厚みを数μm程度にすることも可能となっている。
【0033】
また、本実施形態では、積層膜20による光の消衰能力が高いことから、基材10の有する光学濃度OD(Optical Density)の値が低いものであっても、十分な遮光性が得られるようになっている。なお、基材10の光学濃度OD(Optical Density)の値は、特に限定されるものではないが、十分な遮光性を得るためには、ODの値が2.0以上であることが好ましい。
【0034】
また、本実施形態では、基材10における積層膜20が形成される表面の表面粗さを、算術平均粗さ(Ra)で0.1〜1.0μmとなるようにしている。このように、表面を平滑にするのではなく適度な粗さを持たせることにより、基材10表面において光を乱反射させることが可能となり、反射率を低減することができる。基材10表面の表面粗さの調整は、ショットブラストやエッチング等の既知の手法で行うことができる。
【0035】
なお、基材10の両面の表面粗さを上記の範囲に調整するようにしてもよい。また、金属膜を形成した樹脂フィルムを基材10とする場合は、ショットブラスト等の加工を施した樹脂フィルムに金属膜を成膜するようにしてもよいし、金属膜を成膜した樹脂フィルムにショットブラスト等の加工を施すようにしてもよい。
【0036】
積層膜20は、遮光板1に進入する光を消衰させると共に、遮光板1表面における反射を低減させるための薄膜であり、複数の金属化合物および誘電体からなる膜を積層して構成されている。具体的には、積層膜20は、可視光領域における光の消衰能力の高い消衰層30と、可視光領域における光の消衰能力の低い干渉層40と、を基材10側から順に積層して構成されている。すなわち、積層膜20において、消衰層30は基材10側に設けられており、干渉層40は反基材10側、すなわち消衰層30の上に設けられている。
【0037】
積層膜20は、図1に示されるように、基材10の一方の面にのみ形成するようにしてもよいし、両方の面に形成するようにしてもよい。また、金属膜を形成した樹脂フィルムを基材10とする場合、金属膜の上に積層膜20を形成するようにしてもよいし、金属膜とは反対側の面に積層膜20を形成するようにしてもよい。すなわち、積層膜20を形成する面は、遮光板1の用途や要求される特性等に応じて適宜に選択することができる。
【0038】
なお、積層膜20は、真空蒸着、イオンビームアシスト、イオンプレーティング、およびスパッタリング等のドライプロセスによって基材10の表面に形成されるが、これらの成膜手法は既知の手法であるため、ここでは説明を省略する。
【0039】
本実施形態では、基材10側に配置される消衰層30の可視光領域における光の消衰能力が、反基材10側に配置される干渉層40の可視光領域における光の消衰能力よりも高くなるようにしている。このようにすることで、干渉層40による光の干渉機能と、消衰層30による光の消衰機能とを相乗的に発揮させることができ、積層膜20を薄く構成しながらも、従来以上に反射率を低減させることが可能となる。この結果、基材10に遮光性の高い金属が含まれる場合であっても、金属表面における反射を積層膜20によって効果的に解消することができるため、遮光性と低反射性を従来以上に高次元で両立させることが可能となっている。
【0040】
消衰層30は、本実施形態では、誘電体からなる基材側誘電体膜31と、基材側誘電体膜31よりも可視光領域における消衰係数の高い材質からなる高消衰膜32の2種類の膜から構成されている。より具体的には、消衰層30は、2つの基材側誘電体膜31および3つの高消衰膜32を有しており、基材10側から、高消衰膜32、基材側誘電体膜31、高消衰膜32、基材側誘電体膜31、高消衰膜32の順に積層して構成されている。換言すれば、消衰層30は、3つの高消衰膜32の間に2つの誘電体膜31を配置して構成されている。
【0041】
このように、基材側誘電体膜31と高消衰膜32を交互に積層することにより、各高消衰膜31によって適宜に光を消衰させると共に、各層(各膜)の界面において透過する光を適宜に干渉させることができるため、広い波長領域にわたって反射率を低減させることが可能となる。
【0042】
なお、消衰層30を構成する膜の数は、特に限定されるものではないが、遮光板1全体の厚みを考慮すると、本実施形態のように5層以下の構成であることが好ましい。従って、消衰層30は、例えば基材10側から、高消衰膜32、基材側誘電体膜31、高消衰膜32の順に積層した3層構成としてもよい。また、基材側誘電体膜31を省略し、1つの高消衰膜32のみから消衰層30を構成するようにしてもよい。この場合、干渉層40に含まれる材質よりも可視光領域における消衰係数の高い材質からなる1つの高消衰膜32のみから消衰層30を構成すればよい。
【0043】
基材側誘電体膜31を構成する材質は、特に限定されるものではなく、SiO(二酸化ケイ素、シリカ)、SiN(窒化ケイ素)、AL(酸化アルミニウム、アルミナ)、MgF(フッ化マグネシウム)、およびTiO(二酸化チタン)等、誘電体膜として従来使用されている金属化合物を使用することができる。
【0044】
高消衰膜32を構成する材質は、特に限定されるものではなく、Ti、Cr、およびNi等の金属や、これらの金属の窒化物または炭化物等の金属化合物を使用することができる。但し、消衰層30において光の干渉を効果的に活用し、従来以上に反射率を低減させるためには、高消衰膜32を窒化物または炭化物等の金属化合物から構成することが好ましい。
【0045】
すなわち、消衰層30は、可視光領域における消衰係数の異なる2種類の金属化合物からなる膜(2種類の金属化合物膜)を交互に積層して構成されることが、反射率の低減の点から好ましい。従って、本実施形態では、可視光領域における消衰係数および屈折率のバランスから、基材側誘電体膜31をSiN(窒化ケイ素)から構成し、高消衰膜32をTiN(窒化チタン)から構成している。
【0046】
本実施形態の遮光板1では、基材10に光の消衰能力の高い金属を備えることによって遮光性を担保するようにしているため、金属と比較して光の消衰能力の低い金属化合物を、高消衰膜32を構成する材質として使用することが可能となっている。
【0047】
また、本実施形態では、基材側誘電体膜31および高消衰膜32を互いに異なる金属の窒化物から構成することにより、成膜を効率化するようにしている。具体的には、スパッタリング等により基材側誘電体膜31および高消衰膜32を成膜する際に、雰囲気ガスを変更することなくターゲットの交換だけで、消衰層30を構成する2種類の膜を成膜することが可能となっている。
【0048】
なお、消衰層30を構成する基材側誘電体膜31および高消衰膜32を窒化金属や炭化金属から構成する場合、これらの膜中に成膜時に生成される他の金属化合物が含まれていてもよい。すなわち、基材側誘電体膜31および高消衰膜32は、純粋な窒化金属や炭化金属等である必要はなく、窒化酸化金属や炭化酸化金属、炭化窒化金属等を含むものであってもよい。但し、このような他の金属化合物が多く含まれると消衰係数の値が変化するため、消衰層30において要求される消衰係数の値の範囲を超えない量であることが好ましい。
【0049】
干渉層40は、本実施形態では、誘電体からなる1層の反基材側誘電体膜41から構成している。反基材側誘電体膜41を構成する材質は、特に限定されるものではなく、基材側誘電体膜31と同様に、SiO、SiN、AL、MgF、およびTiO等、誘電体膜として従来使用されている材質を使用することができる。但し、成膜を効率化するためには、反基材側誘電体膜41は、基材側誘電体膜31と同一の金属の金属化合物であることが好ましい。
【0050】
従って、本実施形態では、反基材側誘電体膜41をSiO(二酸化ケイ素)から構成している。これにより、スパッタリング等による成膜の際のターゲットを、基材側誘電体膜31と反基材側誘電体膜41について共通化することが可能となり、成膜を効率化することができる。
【0051】
なお、本実施形態では、1つの反基材側誘電体膜41のみから干渉層40を構成しているが、これに限定されるものではなく、例えば、SiOとSiNのように異なる材質からなる複数の反基材側誘電体膜41を積層して干渉層40を構成するようにしてもよい。
【0052】
図2(a)は、TiNの可視光領域における消衰係数kおよび屈折率nを示したグラフであり、同図(b)は、SiNの可視光領域における消衰係数kおよび屈折率nを示したグラフであり、同図(c)は、SiOの可視光領域における消衰係数kおよび屈折率nを示したグラフである。
【0053】
これらの図に示されるように、TiNは可視光領域における消衰係数kが凡そ0.8〜1.5程度であり、SiNは可視光領域における消衰係数kが略0となっている。そして、TiNおよびSiNは、可視光領域において互いに異なる屈折率nの特性を有している。また、SiOは可視光領域における消衰係数kが略0であると共に、TiNおよびSiNとは異なる屈折率nの特性を有している。
【0054】
本実施形態では、このように光特性の異なるTiNおよびSiNを消衰層30において交互に積層すると共に、さらに光特性の異なるSiOを最表層である干渉層40に配置することにより、積層膜20における光の消衰(吸収)と反射率の低減を高次元で両立させるようにしている。
【0055】
なお、基材10を薄くした場合であっても遮光板1に十分な遮光性を持たせるためには、消衰層30において光を十分に消衰させる必要がある。この点を考慮すると、高消衰膜32の可視光領域における消衰係数kの値(可視光領域における最低値)は、0.24以上であることが好ましく、0.55より大きければより好ましく、0.8以上であることが最も好ましい。
【0056】
また、干渉層40を構成する膜の材質は、可視光領域における消衰係数が略0である材質に限定されるものではなく、干渉層40は、可視光領域における消衰係数が0より大きい値となる材質からなる膜を含むものであってもよい。但し、干渉層40において光を効果的に干渉させて、反射率を低減するためには、干渉層40の可視光領域における消衰係数kの値(可視光領域における最大値)は、0.55以下であることが好ましく、0.46以下であればより好ましく、0.1以下であることが最も好ましい。
【0057】
また、干渉層40の膜厚は、特に限定されるものではなく、遮光板1に要求される特性等に応じて適宜に設定することができるが、干渉層40に入射した後に消衰層30と干渉層40の界面で反射した光を干渉層40の表面で干渉させて反射率を低減させるためには、略1/4λ(λ=550nm)の光学膜厚であること、すなわち波長550nmの略1/4の光学膜厚であることが好ましい。
【0058】
さらに、消衰層30の膜厚は、特に限定されるものではなく、遮光板1に要求される特性等に応じて適宜に設定することができるが、消衰層30に入射した後にいずれかの界面で反射した光を干渉層40の表面で干渉させて反射率を低減させるためには、消衰層30の膜厚は、干渉層40と略等しい光学膜厚、または干渉層40の略偶数倍の光学膜厚であることが好ましい。
【0059】
また、消衰層30を構成する基材側誘電体膜31および高消衰膜32の膜厚は、遮光板1に要求される特性等に応じて適宜に設定することが可能であり、この点については干渉層40を複数の膜から構成した場合も同様である。
【0060】
また、消衰層30の最表の(最も反基材10側の)膜は、干渉層40との境界の層であることから、高消衰膜32であることが好ましい。また、消衰層30の最表層を高消衰膜32とした場合、その膜厚は少なくとも100Å以上であることが好ましい。
【0061】
なお、本実施形態では、干渉層40の反基材側誘電体膜41の膜厚と消衰層30の最も反基材10側の高消衰膜32の膜厚の合計を略1/4λ(λ=550nm)の光学膜厚とし、消衰層30の残りの4つの膜(基材10側の2つの高消衰膜32と2つの基材側誘電体膜41)の膜厚の合計を略1λ(λ=550nm)の光学膜厚としている。すなわち、本実施形態では、積層膜20における最表の(最も反基材10側の)2層の膜の膜厚の合計を1/4λの光学膜厚とし、その下の(基材10側の)残りの4層の膜の膜厚の合計をその4倍の光学膜厚としている。このような構成にしても、効果的に反射率を低減させることができる。
【0062】
さらに、本実施形態では、消衰層30の反基材10側から2層目の基材側誘電体膜31の膜厚を略1/10λ(λ=550nm)の光学膜厚としている。すなわち、本実施形態では、積層膜20における最表の(最も反基材10側の)2層の膜の膜厚の合計を1/4λの光学膜厚とし、その下の(基材10側の)1層の膜(最表から3層目の膜)の膜厚を1/10λの光学膜厚としている。本願の発明者らは、種々の実験を重ねた結果、このような構成とした場合に、効果的に反射率を低減可能であることを見出した。
【0063】
以上説明したように、本実施形態に係る遮光板1は、遮光性を有する基材10と、基材10の表面に形成される積層膜20と、を備え、積層膜20は、誘電体からなる反基材側誘電体膜41を有する干渉層40と、干渉層40よりも可視光領域における光の消衰能力が高く、かつ干渉層40よりも基材10側に設けられる消衰層30と、から構成されることを特徴とする、低反射性遮光構造である。
【0064】
このような構成とすることで、十分な遮光性および低反射性を備えながらも、遮光板1を従来以上に薄膜化することができる。特に、干渉層40による光の干渉機能と、消衰層30による光の消衰機能とを相乗的に発揮させることが可能となり、基材10の金属表面における反射を積層膜20によって効果的に解消することができるため、遮光性と低反射性を従来以上に高次元で両立させることが可能となっている。
【0065】
また、遮光板1を薄膜化することにより、遮光板1の設置スペースを削減することができるため、撮像装置等の小型化やレンズ設計の自由度を高めることが可能となる。さらに、例えば遮光板1に孔部を設けて光学系の絞りを構成した場合に、遮光板1が薄膜であれば、孔部の端面(内側面)の面積を小さくすることが可能となる。これにより、孔部の端面における光の反射を低減することができるため、光学系における迷光の発生を著しく減少させることが可能となる。
【0066】
また、消衰層30は、干渉層40に含まれる材質よりも可視光領域における消衰係数が高い高消衰膜32を有している。このようにすることで、反射率の低減と共に消衰層30において光を効果的に消衰させることができるため、基材10を薄く構成した場合にも遮光性を確保することができる。この結果、遮光板1を従来以上に薄く構成することが可能となる。
【0067】
また、消衰層30は、誘電体からなる基材側誘電体膜31と、基材側誘電体膜31よりも可視光領域における消衰係数が高い高消衰膜32と、を交互に積層して構成されている。このようにすることで、消衰層30において光を消衰させつつ、適宜に干渉させることができるため、広い波長領域にわたって反射率を低減させることが可能となる。
【0068】
また、消衰層30は、3つの高消衰膜32と、3つの高消衰膜32の間に配置される2つの基材側誘電体膜31と、から構成されている。このようにすることで、消衰層において光を適宜に干渉させながらも、確実に光を消衰させることができる。
【0069】
また、消衰層30は、窒化金属、炭化金属、酸化金属、窒化酸化金属、炭化酸化金属、または炭化窒化金属を含む金属化合物膜を有している。このように、基材側誘電体膜31または高消衰膜32を金属化合物膜とすることで、消衰層30における光の消衰と反射率の低減を高次元でバランスさせることができる。
【0070】
また、消衰層30は、窒化金属または窒化酸化金属を含む第1の金属化合物膜(高消衰膜32)と、第1の金属化合物膜とは異なる金属の窒化物または窒化酸化物を含む第2の金属化合物膜(基材側誘電体膜31)と、を有している。このようにすることで、消衰層30における光の消衰と反射率の低減を確保しながらも、消衰層30の成膜を効率化することができる。
【0071】
また、消衰層30は、第1の金属化合物膜(高消衰膜32)と、第2の金属化合物膜(基材側誘電体膜31)と、を交互に積層して構成されている。このようにすることで、成膜を効率化しながらも、消衰層30における光の消衰と干渉を両立させることができるため、広い波長領域にわたって反射率を低減させることが可能となる。
【0072】
また、第1の金属化合物膜(高消衰膜32)は、窒化チタンから構成され、第2の金属化合物膜(基材側誘電体膜31)は、窒化ケイ素から構成されている。このようにすることで、高消衰膜32および基材側誘電体膜31の可視光領域における消衰係数および屈折率を適宜にバランスさせた消衰層30を得ることができる。
【0073】
また、反基材側誘電体膜41は、二酸化ケイ素から構成されている。このようにすることで、成膜を効率化することができる。
【0074】
また、積層膜20の最表層の膜(干渉層40を構成する反基材側誘電体膜41)の膜厚、または積層膜20の最表の2層の膜(干渉層40を構成する反基材側誘電体膜41、および消衰層30の最も外側の高消衰膜32)の膜厚の合計は、波長550nmの略1/4の光学膜厚に形成されることが好ましい。このようにすることで、積層膜20の最表面で確実に光を干渉させて反射率を効果的に低減することができる。
【0075】
また、前記積層膜の最表の2層の膜の膜厚の合計は、波長550nmの略1/4の光学膜厚に形成され、前記積層膜の最表から3層目の膜の膜厚は、波長550nmの略1/10の光学膜厚に形成されることも好ましい。このようにすることで、積層膜20の最表面近傍で適宜に光を干渉および消衰させて反射率を効果的に低減することができる。
【0076】
また、前記積層膜の最表の2層の膜以外の膜の膜厚の合計は、前記積層膜の最表の2層の膜の膜厚の合計の略4倍の光学膜厚に設定されることが好ましい。このようにすることで、消衰層30に入射して反射した光を積層膜20の最表面で干渉させることが可能となり、反射率を効果的に低減することができる。
【0077】
また、消衰層30は、消衰係数が0.24以上であることが好ましい。このようにすることで、基材10を薄く構成した場合にも、遮光板1の遮光性を確保することができる。
【0078】
また、干渉層40は、消衰係数が0.55以下であることが好ましい。このようにすることで、反射率を低い値に維持することができる。
【0079】
また、基材10の積層膜20が形成される表面における算術平均粗さは、0.1乃至1.0μmであることが好ましい。このようにすることで、基材10の表面で光を乱反射させて、反射率をより一層低減させることができる。
【0080】
また、基材10は、厚さが1mm以下の金属箔であることが好ましい。このように遮光板1を薄く構成することで、遮光板1を使用する撮像装置の小型化に貢献すると共に、レンズ設計の自由度を高めることができる。
【0081】
また、基材10は、表面に金属薄膜を形成した樹脂フィルムであってもよい。この場合、遮光板1をより軽量化することが可能となる場合がある。
【0082】
なお、本発明の低反射性遮光構造は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【実施例1】
【0083】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0084】
図3は、本発明の実施例の遮光板1の構成を示した表である。本実施例では、同図に示されるように、基材10として、厚みが15μmのりん青銅箔を使用した。また、SiNからなる基材側誘電体膜31およびTiNからなる高消衰膜32を、基材10側から高消衰膜32、基材側誘電体膜31、高消衰膜32、基材側誘電体膜31、高消衰膜32の順に積層して消衰層30とし、SiOからなる反基材側誘電体膜41を干渉層40とした積層膜20を基材10表面に形成した。
【0085】
積層膜20の厚み(膜厚)は、最下層の高消衰膜32を0.6608、その上の基材側誘電体膜31を0.0721、その上の高消衰膜32を0.1941、その上の基材側誘電体膜31を0.1009、その上の高消衰膜32を、0.0644、最表層の反基材側誘電体膜を0.1887とした(全てλ=550nmの光学膜厚)。
【0086】
成膜には、カルーセルタイプのDC−PULSEマグネトロンスパッタを使用した。ターゲットは、30インチ×4インチのSiターゲットおよびTiターゲットを使用し、TiN膜およびSiN膜の形成にはAr+N(窒素)ガスを導入し、SiO膜の形成にはAr+O(酸素)ガスを導入した。各ガスの導入量は、Arガスを150SCCM、NガスおよびOガスを120SCCMとし、成膜圧力は、SiN膜およびTiN膜の形成では6E−2Pa、SiO膜の形成では5E−2Paとした。
【0087】
上記条件に基づき、全体の厚みが約16μmと、従来にない薄さの遮光板1を製作することができた。図4(a)は、本実施例の遮光板1における積層膜20単体の透過率Tおよび反射率Rのシミュレーション結果を示したグラフであり、同図(b)は、本実施例の遮光板1の透過率Tおよび反射率Rの実測結果を示したグラフである。これらの図に示されるように、本実施例の構成によれば、遮光板1を非常に薄く構成しながらも、透過率Tが略0となる完全な遮光性を得ると共に、反射率Rを可視光の略全域にわたって凡そ0.5%以下に低減可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の低反射性遮光構造は、アナログカメラやデジタルカメラ、ビデオカメラ等の各種撮像装置の分野以外にも、各種光学装置の分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0089】
1 遮光板(低反射性遮光構造)
10 基材
20 積層膜
30 消衰膜
31 基材側誘電体膜
32 高消衰膜
40 干渉層
41 反基材側誘電体膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遮光性を有する基材と、前記基材の表面に形成される積層膜と、を備え、
前記積層膜は、誘電体からなる反基材側誘電体膜を有する干渉層と、前記干渉層よりも可視光領域における光の消衰能力が高く、かつ前記干渉層よりも基材側に設けられる消衰層と、から構成されることを特徴とする、
低反射性遮光構造。
【請求項2】
前記消衰層は、前記干渉層に含まれる材質よりも可視光領域における消衰係数が高い高消衰膜を有することを特徴とする、
請求項1に記載の低反射性遮光構造。
【請求項3】
前記消衰層は、誘電体からなる基材側誘電体膜と、前記基材側誘電体膜よりも可視光領域における消衰係数が高い高消衰膜と、を交互に積層して構成されることを特徴とする、
請求項1または2に記載の低反射性遮光構造。
【請求項4】
前記消衰層は、3つの前記高消衰膜と、3つの前記高消衰膜の間に配置される2つの前記基材側誘電体膜と、から構成されることを特徴とする、
請求項3に記載の低反射性遮光構造。
【請求項5】
前記消衰層は、窒化金属、炭化金属、酸化金属、窒化酸化金属、炭化酸化金属、または炭化窒化金属を含む金属化合物膜を有することを特徴とする、
請求項1乃至4のいずれかに記載の低反射性遮光構造。
【請求項6】
前記消衰層は、窒化金属または窒化酸化金属を含む第1の金属化合物膜と、前記第1の金属化合物膜とは異なる金属の窒化物または窒化酸化物を含む第2の金属化合物膜と、を有することを特徴とする、
請求項5に記載の低反射性遮光構造。
【請求項7】
前記消衰層は、前記第1の金属化合物膜と、前記第2の金属化合物膜と、を交互に積層して構成されることを特徴とする、
請求項6に記載の低反射性遮光構造。
【請求項8】
前記第1の金属化合物膜は、窒化チタンから構成され、
前記第2の金属化合物膜は、窒化ケイ素から構成されることを特徴とする、
請求項7に記載の低反射性遮光構造。
【請求項9】
前記反基材側誘電体膜は、二酸化ケイ素から構成されることを特徴とする、
請求項8に記載の低反射性遮光構造。
【請求項10】
前記積層膜の最表層の膜の膜厚、または前記積層膜の最表の2層の膜の膜厚の合計は、波長550nmの略1/4の光学膜厚に形成されることを特徴とする、
請求項1乃至9のいずれかに記載の低反射性遮光構造。
【請求項11】
前記積層膜の最表の2層の膜の膜厚の合計は、波長550nmの略1/4の光学膜厚に形成され、
前記積層膜の最表から3層目の膜の膜厚は、波長550nmの略1/10の光学膜厚に形成されることを特徴とする、
請求項1乃至9のいずれかに記載の低反射性遮光構造。
【請求項12】
前記積層膜の最表の2層の膜以外の膜の膜厚の合計は、前記積層膜の最表の2層の膜の膜厚の合計の略4倍の光学膜厚に設定されることを特徴とする、
請求項1乃至11のいずれかに記載の低反射性遮光構造。
【請求項13】
前記消衰層は、消衰係数が0.24以上であることを特徴とする、
請求項1乃至12のいずれかに記載の低反射性遮光構造。
【請求項14】
前記干渉層は、消衰係数が0.55以下であることを特徴とする、
請求項1乃至13のいずれかに記載の低反射性遮光構造。
【請求項15】
前記基材の前記積層膜が形成される表面における算術平均粗さは、0.1乃至1.0μmであることを特徴とする、
請求項1乃至14のいずれかに記載の低反射性遮光構造。
【請求項16】
前記基材は、厚さが1mm以下の金属箔であることを特徴とする、
請求項1乃至15のいずれかに記載の低反射性遮光構造。
【請求項17】
前記基材は、表面に金属薄膜を形成した樹脂フィルムであることを特徴とする、
請求項1乃至15のいずれかに記載の低反射性遮光構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−163756(P2012−163756A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23835(P2011−23835)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(507200938)株式会社タナカ技研 (8)
【Fターム(参考)】