説明

低吸水・低吸油性防音材

【課題】防音特性と共に、低吸水・低吸油性に優れ、且つ溌油・溌水性を効率良く発揮することの出来る実用的なポリウレタンフォーム防音材の提供。
【解決手段】有機ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを、フッ素系界面活性剤の存在下において、反応、発泡させて得られたポリウレタンフォームであって、且つセル同士を連通せしめる通気孔の孔径が10μm以上、60μmを越えず、更に通気性が45mL/分〜1000mL/分のものにて、防音材を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低吸水・低吸油性防音材に係り、特に、低吸水性と低吸油性を併せ備えたポリウレタンフォームからなる、車両用防音材や水上バイク用防音材に適した防音材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車等の車両においては、車外や車室に漏れる騒音を低減するために、各種の防音材が用いられており、例えば、車両のエンジンルーム内では、騒音の発生源たるエンジンの周りに、かかるエンジンからの放射音の低減を図るべく、図1に示される如く、エンジンカバー2やサイドカバー4、更にはオイルパンカバー6、アンダーカバー8等が、金属板等の剛性部材に発泡ゴムや発泡ウレタン等の発泡体を固着せしめてなる構造において設けられており、また、エンジンとその周りに位置する燃料噴射ポンプ等の補機類との間に形成される空間ににおいて発生する定在波を抑制して、エンジンブロックからの放射音を低減せしめるべく、それらエンジンと補機類との間に形成される空間に、発泡ゴムや発泡ウレタン等の発泡体からなるスペーサ10を充填せしめることも行なわれており、更にはフードサイレンサー12として、また、その他、図示はしないが、吸気パイプ用サイレンサーやダッシュボードサイレンサー等としても、各種の発泡体が用いられている。
【0003】
そして、かくの如き各種の車両用防音材においては、車両の雨天走行時や洗車時、車両の定期点検のときの洗浄時等において、水がそのような防音材にかかるようになるところから、用いられる発泡体材料には、溌水・低吸水性能が要求され、仮に水がかかっても、防音材内部に吸水されないようにすることが要請されている一方、特にエンジン周りに配備される上記の防音材2〜12にあっては、エンジンオイル等の油がかかる恐れもあり、そのために、そのような油を吸収しないように、溌油・低吸油性に優れたものであることも、要請されているのである。けだし、オイルが浸透した防音材は燃え易く、そのために、車両の安全性等の点において問題となるからである。
【0004】
一方、水上スポーツの一つとして、近年、その愛好者の数が増えている水上バイクにおいても、エンジンからの放射音の低減を図るべく、図2に示されている如く、その艇体(本体)内部に、一般には、艇体側部の内壁面に、適当な発泡体14を貼付してなる構造を採用することが検討されている。そして、このような用途における防音材14にあっても、水上において用いられることは勿論、エンジン周りに配備されるものであるところから、上記した車両用防音材と同様に、溌水・低吸水性能のみならず、溌油・低吸油性に優れたものであることが望まれているのである。
【0005】
ところで、このような車両用防音材や水上バイク用防音材において、それを与える発泡材料の一つとして、発泡ゴムが用いられてきており、例えば吸音率そのものが余り問題とならず、前記したスペーサ10のように、共鳴音を低減させる部位では、耐熱性を考慮して、CR、EPDM等を材質とした独立気泡性発泡ゴムが用いられてはいるが、EPDMを材質としたものにあっては、耐油性に劣る問題があり、しかも発泡ゴム自体、他の発泡体(ウレタン)に比べて、比較的重く、密度が0.1g/cm3 程度の柔らかい発泡体を得ることは、実用上、極めて困難であったのである。
【0006】
また、そのような防音材を与える発泡材料の他の一つとして、所謂発泡ウレタン(ポリウレタンフォーム)も採用されており、それによって、密度が0.1g/cm3 前後の柔らかな発泡体が実現され、発泡ゴムよりも軽量の発泡体として用いられてはいるが、そのような発泡ウレタンにあっては、その防水性能を確保し、向上させるために、特開平8−40154号公報に明らかにされているように、表面被覆材としてフィルムを用い、それで発泡体表面を覆ったり、特公昭57−22051号公報や特公昭61−50965号公報等に明らかにされている如く、疎水性ポリオールやアスファルト成分を配合して、発泡、硬化せしめて得られる発泡体を用いることが考えられているが、これとても、発泡体の耐油性乃至は溌油性を本質的に改善するものではなく、また軽量化の方向とは逆行するものであり、更には作業性乃至は生産性においても、各種の問題を内在するものであった。
【0007】
なお、そのような防音材を与える発泡体として、その独立気泡性を高めたり、或いは発泡体の樹脂骨格そのものに疎水性を持たせることによって、防水性能を付与させたものを用いることも可能ではあるが、後者の場合には、逆に親油性が発現してしまい、吸油・膨潤が生じてしまう問題があったのであり、また、独立気泡性を向上せしめる手法としては、微細気泡(セル)化による密度アップやクローズセル化の手法が採用されることとなるが、何れの手法においても、製品の重量アップやヒケ・収縮等の外観不良による成形性の問題が生じてしまう欠陥を内在するものであった。
【0008】
【特許文献1】特開平8−40154号公報
【特許文献2】特公昭57−22051号公報
【特許文献3】特公昭61−50965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、防音特性と共に、低吸水・低吸油性に優れた実用的なポリウレタンフォーム防音材を提供することにあり、また、溌油・溌水性を効率良く発揮することの出来る車両用防音材や水上バイク用防音材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、本発明は、かかる課題の解決のために、有機ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを、ポリウレタン樹脂と親和性のある有機基を有するフッ素系界面活性剤の存在下において、反応、発泡させて得られたポリウレタンフォームにて構成され、且つセル同士を連通せしめる通気孔の孔径が10μm以上、60μmを越えない大きさとされていると共に、60mmφの通気孔が中心に貫設された平板形状の通気治具にて、測定対象たるポリウレタンフォーム(75mm×75mm×10mmt )の一方の面を押さえる一方、該ポリウレタンフォームの両側の面における差圧が10mmH2O となるように、該ポリウレタンフォームの他方の面を吸気ポンプにて減圧吸引せしめたときに求められる、該吸気ポンプに導かれる空気の流量にて表される通気性が、45mL/分〜1000mL/分とされていることを特徴とする低吸水・低吸油性防音材を、その要旨とするものである。
【0011】
このような、本発明に従う低吸水・低吸油性防音材にあっては、それを与えるポリウレタンフォームの構成樹脂内部にフッ素系界面活性剤が含有されており、そしてその存在によって、溌水・低吸水性能のみでなく、溌油・低吸油性能も有利に付与されることとなることに加えて、セル間を連通する通気孔径が小さくされて、独立気泡性が高くなり、有効なフォーム構造となることにより、それら低吸水・低吸油性能の向上に寄与せしめられていると共に、防音特性も効果的に改善され得ることとなったのである。
【0012】
なお、かかる本発明に従う低吸水・低吸油性防音材にあっては、好ましくは、フッ素系界面活性剤は、ポリウレタン樹脂の100重量部に対して0.1〜5重量部の割合となるように、添加、含有せしめられるものであり、また、そのようなフッ素系界面活性剤が、炭素数が3〜20のフルオロ脂肪族基を有しているようにすることによって、溌油・溌水性を効率よく発現せしめ得ることとなるのであり、更に、ポリウレタン樹脂と親和性のある有機基を有するようにすることによって、ポリウレタン樹脂との相溶性を高め、そのようなフッ素系界面活性剤の内添による効果を更に高めることが、可能となる。
【0013】
また、本発明は、有機ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを、ポリウレタン樹脂と親和性のある有機基を有するフッ素系界面活性剤の存在下において、反応、発泡させて得られたポリウレタンフォームにて構成され、且つセル同士を連通せしめる通気孔の孔径が10μm以上、60μmを越えない大きさとされていると共に、60mmφの通気孔が中心に貫設された平板形状の通気治具にて、測定対象たるポリウレタンフォーム(75mm×75mm×10mmt )の一方の面を押さえる一方、該ポリウレタンフォームの両側の面における差圧が10mmH2O となるように、該ポリウレタンフォームの他方の面を吸気ポンプにて減圧吸引せしめたときに求められる、該吸気ポンプに導かれる空気の流量にて表される通気性が、45mL/分〜1000mL/分とされていることを特徴とする車両用防音材をも、その要旨とするものである。
【0014】
そして、そのような本発明に従う車両用防音材は、有利には、車両のエンジンルーム内において、エンジンの周りに配備され、かかるエンジンからの放射音の低減を図るために用いられるものであり、また、エンジンとその周りに位置する補機類との間に形成される空間に充填され、その間に発生する定在波を抑制するスペーサとして、有利に用いられ得るものである。
【0015】
さらに、本発明にあっては、水上バイクの艇体内部に配備され、エンジンからの放射音の低減を図る防音材にして、有機ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを、ポリウレタン樹脂と親和性のある有機基を有するフッ素系界面活性剤の存在下において、反応、発泡させて得られたポリウレタンフォームにて構成され、且つセル同士を連通せしめる通気孔の孔径が10μm以上、60μmを越えない大きさとされていると共に、60mmφの通気孔が中心に貫設された平板形状の通気治具にて、測定対象たるポリウレタンフォーム(75mm×75mm×10mmt )の一方の面を押さえる一方、該ポリウレタンフォームの両側の面における差圧が10mmH2O となるように、該ポリウレタンフォームの他方の面を吸気ポンプにて減圧吸引せしめたときに求められる、該吸気ポンプに導かれる空気の流量にて表される通気性が、45mL/分〜1000mL/分とされていることを特徴とする水上バイク用防音材をも、その要旨とするものである。
【発明の効果】
【0016】
このような本発明に従う低吸水・低吸油性防音材によれば、有効な防音特性に加えて、優れた溌水・低吸水性能のみならず、溌油・低吸油性能においても、優れた特徴を発揮し得る低吸水・低吸油性防音材が提供され得たのであり、特に車両用防音材、中でも、エンジン周りに配備され、車外や車室への騒音の低減を図る防音材や、水上バイク用防音材として、有利に用いられ得るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
ところで、本発明において、低吸水・低吸油性防音材を構成するポリウレタンフォームを与える原料たる有機ポリイソシアネート成分やポリオール成分は、何れも、従来と同様なものであって、公知の各種のものが適宜に選択されて用いられ得るものであり、例えば、有機ポリイソシアネート成分としては、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートや、それらの誘導体(例えばポリオール類との反応により得られるプレポリマー類、変成ポリイソシアネート類等)等の中から適宜に、選択使用される。
【0018】
また、かかる有機ポリイソシアネート成分と反応して、ポリウレタンを形成するポリオール成分としては、従来と同様な、多価ヒドロキシ化合物やポリエーテルポリオール類、ポリエステルポリオール類、ポリマーポリオール類、ポリエーテルポリアミン類、ポリエステルポリアミン類、アルキレンポリオール類、ウレア分散ポリオール類、メラミン変性ポリオール類、ポリカーボネートポリオール類、アクリルポリオール類、ポリブタジエンポリオール類、フェノール変性ポリオール類等の、公知の各種のポリオール類が、単独で或いは組み合わせて用いられることとなる。
【0019】
そして、本発明にあっては、かくの如きポリイソシアネート成分とポリオール成分との反応・発泡(発泡硬化)操作を、フッ素系界面活性剤の存在下において行なって、得られるポリウレタンフォームにて、目的とする防音材を構成するようにしたところに、大きな特徴を有するものであって、そのようなフッ素系界面活性剤の存在下における反応・発泡操作にて、生成するポリウレタン樹脂(フォーム)中に該フッ素系界面活性剤を導入する一方、有効な発泡体構造、即ちポリウレタンフォームを構成するセル同士を連通せしめる通気孔の孔径を10μm以上、60μmを越えない大きさと為すと共に、通気性が45mL/分〜1000mL/分となる構造特性を実現せしめ、以て溌水・低吸水性能のみでなく、溌油・低吸油性能も、優れた防音特性に加えて、有効に具備せしめ得たのである。
【0020】
なお、かくの如き特徴的な作用・効果をもたらすフッ素系界面活性剤は、炭化水素系界面活性剤の疎水基の水素原子をフッ素原子で全部或いは一部置換したフルオロ脂肪族基、好ましくは炭素数が3〜20、特に6〜12のフルオロ脂肪族基を有しているものが望ましく、中でも、パーフルオロアルキル基を有しているものが、有利に用いられることとなる。
【0021】
また、そのような本発明で用いられるフッ素系界面活性剤は、ポリウレタン樹脂と親和性を有するものであることが望ましく、そのために、通常、ポリウレタン樹脂と親和性がある有機基を有している。そのような有機基としては、低級若しくは高級アルキル基、アルキリデン基、アリール基、アシル基、ビニル基、ビニリデン基、エチレン性二重結合、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、ハロゲン、ポリジメチルシロキサン基、メルカプト基、ポリオキシアルキレン基等が好ましく、またポリウレタンフォームを作製する際には、ポリオール成分との相溶性にも優れることが好ましいところから、それら有機基の中でも、ポリオキシアルキレン基が、特に好ましい。
【0022】
そして、本発明にあっては、上記したフルオロ脂肪族基と共に、かかるポリウレタン樹脂と親和性のある有機基を有するフッ素系界面活性剤が、特に有利に用いられるのであるが、そのようなフッ素系界面活性剤の例としては、フルオロ脂肪族基とポリウレタン樹脂に親和性のある有機基とを同一分子内に有する化合物や、フルオロ脂肪族基を含有する不飽和単量体とポリウレタン樹脂と親和性のある有機基を有する不飽和単量体とのランダム、ブロック若しくはグラフト共重合体等を挙げることが出来る。
【0023】
さらに、このような本発明で使用されるフッ素系界面活性剤は、一般に500〜100万程度、好ましくは900〜50万程度の平均分子量を有するものである。その平均分子量が500よりも小さくなると、目的とする充分な改質効果を期待することが困難となるのであり、また大き過ぎると、ポリウレタン樹脂との相溶性が低下する等の問題を惹起するようになる。
【0024】
加えて、本発明にあっては、かくの如きフッ素系界面活性剤は、一般に、ポリウレタン樹脂(有機ポリイソシアネート成分とポリオール成分との反応にて生じるもの)の100重量部に対して、0.1〜5重量部の割合となるように、反応系に添加、含有せしめられることとなる。けだし、そのようなフッ素系界面活性剤の使用量が少な過ぎる場合には、生成するポリウレタン樹脂(フォーム)における充分な改質効果を期待し得ないからであり、また多過ぎる場合にあっては、セル崩壊等の問題を惹起して、有効なポリウレタンフォームを得ることが困難となるからである。
【0025】
そして、本発明においては、上述の如き特定の改質成分たるフッ素系界面活性剤の存在下において、有機ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを反応せしめて形成されるポリウレタン(樹脂)を発泡させるために、水が主たる発泡剤として用いられることとなるのである。なお、この発泡剤としての水は、有機イソシアネート成分との反応にて炭酸ガスを生成することによって、発泡作用を発揮するものであって、その使用量としては、ポリオール成分の100重量部に対して1.0〜6.0重量部とされるが、好ましくは2.0〜5.0重量部の範囲内とされる。また、かかる水の使用量が1.0重量部よりも少なくなると、充分な発泡を行ない難く、密度が大きくなる問題があり、一方6.0重量部よりも多くても、それに見合う発泡倍率の向上を望み得ないのみならず、発泡体品質(ボイド、セル荒れ)が悪化する問題を生じる。
【0026】
また、本発明に従って、有機ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを所定のフッ素系界面活性剤の存在下に反応・発泡せしめることにより、目的とする防音材を構成するポリウレタンフォーム(発泡体)を製造するに際しては、従来と同様に、公知の触媒、架橋剤、発泡剤、整泡剤、難燃剤、減粘剤、安定剤、充填剤、着色剤等が、添加物として適宜に配合せしめられることとなる。なお、触媒としては、一般に、トリエチレンジアミン、ジメチルエタノールアミン等のアミン系ウレタン化触媒、ラウリン酸錫、オクタン酸錫等の有機金属系ウレタン化触媒を挙げることが出来、また、発泡剤としては、水以外のものであって、例えばフロン、メチレンクロライド、CO2 ガス等があり、更に整泡剤としては、例えば、東レ・ダウコーニング株式会社製のSRX−274C、日本ユニカー株式会社製のL−5390、ゴールドシュミット社製のB−4113等が用いられ、更にまた、架橋剤としては、通常、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン等が用いられることとなる。
【0027】
さらに、目的とするポリウレタンフォームを製造するに際しては、通常、所定のポリオール成分に対して、前記したフッ素系界面活性剤の所定量を添加し、更に発泡剤としての水や触媒、架橋剤、整泡剤、その他の助剤を、それぞれ、所定量、予め混合して、調製したレジンプレミックス(プレミックスポリオール)を用い、これに、所定の有機ポリイソシアネート成分を配合して反応せしめ、更に発泡させる手法が採用されることとなる。具体的には、そのようなレジンプレミックスと有機ポリイソシアネート成分とを、公知のウレタン発泡機を用いて、それらの混合比がイソシアネート・インデックス:60〜120、好ましくは70〜100となる割合において、混合せしめ、所定の成形型内に注入して、反応・発泡させることにより、目的とする形状のポリウレタンフォームが成形されるのである。
【0028】
かくして得られるポリウレタンフォームは、それを構成するセル同士を連通せしめる通気孔の孔径が60μmを越えない、好ましくは20μm以下の大きさとなっていると共に、通気性が1000mL/分以下、好ましくは500mL/分以下となっているものであって、これにより、優れた防音特性と共に、格別の低吸水・低吸油性能が発揮され得て、防音材として有効に用いられ得ることとなるのである。
【0029】
要するに、本発明に従って、ポリウレタン化の反応系に、所定のフッ素系界面活性剤を存在せしめて、目的とするポリウレタンフォームを形成することで、同じような発泡倍率を採用しながら、セルとセルをつなぐ通気孔径が特に小さなフォームが得られるのであり、そしてそのような通気孔径が小さいことによって、空気及び発泡時のガスは通過するが、水や油の如き液滴は、表面張力により通過させず、以て吸油性や吸水性の低減に大きく寄与し得たのであり、また、そのような孔径が小さいことで、セル内に入射した音波の反射回数も多くなることとなり、これにより音の減衰も大きくなって、防音材としての性能の向上も効果的に達成され得たのである。
【0030】
なお、ここで言う通気性は、所定の条件下で測定された、サンプル(ポリウレタンフォーム)内を流通せしめられる空気の流量(mL/分)にて示されるものであって、具体的には、平板形状を呈し、その中心に60mmφの通気孔が貫設された通気治具を用いて、それにて、測定対象のサンプルたるポリウレタンフォーム(75mm×75mm×10mmt )の一方の面を押さえる一方、ポリウレタンフォームの両側の面における差圧が10mmH2 Oとなるように、ポリウレタンフォームの他方の面を吸気ポンプにて減圧吸引せしめて、その時に該吸気ポンプに導かれる空気の流量、換言すればポリウレタンフォーム内を流通する空気の流量を流量計にて測定することにより、求められるものである。
【0031】
そして、かくの如くして得られるポリウレタンフォームは、本発明に従う低吸水・低吸油性防音材として、有利に用いられ、特に車両用防音材としては、車両のエンジンルーム内において、エンジンの周りに配備され、かかるエンジンからの放射音の低減を図るために、エンジンカバー、サイドカバー、オイルパンカバー、アンダーカバー、フードサイレンサー、ダッシュボードサイレンサー等として用いられ、中でもエンジンとその周りに位置する補機類との間に形成される空間に充填され、その間に発生する定在波を抑制するスペーサとして有利に用いられることとなるのであり、更には、水上バイク用防音材として、水上バイクの艇体内部に配備され、エンジンからの放射音の低減を図るためにも、有利に用いられることとなる。
【実施例】
【0032】
以下に、本発明の実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した発明の実施の形態における記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0033】
先ず、ポリオール成分として、スミフェン3063(住友バイエルウレタン株式会社製ポリエーテルポリオール、OH価=28、反応基数=3)を用い、その100重量部に対して、表1及び2に示される配合剤A〜Dを指定された割合において配合し、更に、発泡剤としての水:2.5重量部、触媒としてのカオライザーNo.31(花王株式会社製3級アミン触媒):0.5重量部及びトヨキャット−ET(東ソー株式会社製3級アミン触媒):0.2重量部、整泡剤としてのL−3601(日本ユニカー株式会社製):0.5重量部を配合せしめて、各種のプレミックスポリオールを調製した。
【0034】
次いで、かかる調製された各種プレミックスポリオールと、有機ポリイソシアネート成分としてのイソシアネート変性MDI(NCO=30〜31%)とを、イソシアネート・インデックスが95となる混合比において、低圧若しくは高圧注型機にて混合せしめた後、所定のモールド(金型)に吐出し、金型温度:40〜70℃、硬化時間:10〜30分において、発泡硬化させることにより、下記表1、2に示される如き特性を有する各種のポリウレタンフォームを得た。
【0035】
なお、ここで用いられた配合剤のうち、配合剤Aは、FX−3(大日本インキ化学工業株式会社製フッ素系ウレタンオリゴマーからなるフッ素系界面活性剤:両末端にパーフルオロアルキル基結合。固形分60%のメチルエチルケトン溶液)であり、配合剤Bは、MCF−310(大日本インキ化学工業株式会社製フッ素系アクリルオリゴマーからなるフッ素系界面活性剤:水酸基含有。固形分30%のメチルエチルケトン/メチルイソブチルケトン溶液)であり、配合剤Cは、セレスタール20R(一方社油脂株式会社製石油系ワックス。固形分40%の乳白色エマルジョン)であり、配合剤Dは、エレスタン540(一方社油脂株式会社製脂肪酸エステル/シリコーン化合物。淡黄色液体)であり、これらの配合剤が、下記の表1及び2に示される割合(phr:生成するポリウレタン樹脂の100重量部に対する割合)において、ポリウレタン化の反応系に存在せしめられた。
【0036】
また、下記表1及び2におけるセル構造特性を示す連泡率は、空気比較式比重計1000型(東京サイエンス株式会社製)を用いて測定されたものであり、また通気孔径は、セルとセルとの間でつながっている孔(通気孔)の孔径を示しており、また通気性は、先述した方法によって測定して得られたものである。
【0037】
さらに、接触角については、それぞれのポリウレタンフォームのモールド成形時に、下型面にPP(ポリプロピレン)板を敷き、離型剤の影響の出ない鏡面(スキン面)を形成せしめ、そのスキン面を用いて、空気界面との水接触角を測定することにより、それぞれのポリウレタンフォームについての接触角(水)を求めた。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
また、上記で得られた各種の本発明例及び比較例に係るポリウレタンフォームについて、目的とする防音材に要請される特性、具体的には吸水率、吸油性及び音の透過損失について調べ、その結果を、下記表3に示した。
【0041】
なお、下記表3における評価特性について、吸水率は、サンプル形状が100mm×100mm×50mmt のモールド成形品を用いて、室温下、24時間、水中に浸漬した後の重量変化率として、求められたものであり、また、吸油性に関しては、A及びBの2つの評価法に従って、評価した。なお、吸油性に関する評価法Aは、それぞれのポリウレタンフォームのスキン層表面に、エンジンオイルを3mL滴下し、4時間後まで、1時間毎に油球状態やしみ込み性を評価し、○:4時間後においても、オイルが油球状態を維持している状態、△:滴下1時間後において、オイルが半円油状で残留している状態、×:滴下1時間後にはしみ込んでいる状態、として判定した。また、評価法Bにおいては、サンプル形状が100mm×100mm×50mmt のモールド品を用い、室温×24時間、エンジンオイル中に浸漬した後の重量変化率として、求めた。
【0042】
さらに、透過損失は、JIS−A−1416に準拠して、1000Hz及び2000Hzの周波数において、評価した。
【0043】
【表3】

【0044】
かかる表1〜3の結果から明らかなように、本発明に従って、ポリウレタン化の反応系に、所定のフッ素系界面活性剤を存在せしめて得られたポリウレタンフォームにあっては、そのフォーム構造を与えるセル同士を連通せしめる通気孔の孔径が60μm以下となり、また通気性も1000cc(mL)/分以下となると共に、ポリウレタンフォームの樹脂骨格中にフッ素系界面活性剤が含有せしめられていることによって、吸水率が著しく低下せしめられ、また吸油性においても著しく低減され、これにより、低吸水・低吸油性材料となっていることに加えて、透過損失も改善され、以て防音特性においても優れていることが認められるのである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】車両のエンジンルーム内において、エンジンの周りに配備される防音材を示す説明図である。
【図2】水上バイクの艇体内部に配備される防音材を示す説明図である。
【符号の説明】
【0046】
2 エンジンカバー
4 サイドカバー
6 オイルパンカバー
8 アンダーカバー
10 スペーサ
12 フードサイレンサー
14 防音材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを、ポリウレタン樹脂と親和性のある有機基を有するフッ素系界面活性剤の存在下において、反応、発泡させて得られたポリウレタンフォームにて構成され、且つセル同士を連通せしめる通気孔の孔径が10μm以上、60μmを越えない大きさとされていると共に、60mmφの通気孔が中心に貫設された平板形状の通気治具にて、測定対象たるポリウレタンフォーム(75mm×75mm×10mmt )の一方の面を押さえる一方、該ポリウレタンフォームの両側の面における差圧が10mmH2O となるように、該ポリウレタンフォームの他方の面を吸気ポンプにて減圧吸引せしめたときに求められる、該吸気ポンプに導かれる空気の流量にて表される通気性が、45mL/分〜1000mL/分とされていることを特徴とする低吸水・低吸油性防音材。
【請求項2】
前記フッ素系界面活性剤が、ポリウレタン樹脂の100重量部に対して0.1〜5重量部の割合となるように、添加、含有せしめられている請求項1記載の低吸水・低吸油性防音剤。
【請求項3】
前記フッ素系界面活性剤が、炭素数が3〜20のフルオロ脂肪族基を有している請求項1又は請求項2記載の低吸水・低吸油性防音材。
【請求項4】
前記フッ素系界面活性剤が、前記ポリウレタン樹脂と親和性のある有機基として、ポリオキシアルキレン基を有している請求項1乃至請求項3の何れかに記載の低吸水・低吸油性防音材。
【請求項5】
有機ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを、ポリウレタン樹脂と親和性のある有機基を有するフッ素系界面活性剤の存在下において、反応、発泡させて得られたポリウレタンフォームにて構成され、且つセル同士を連通せしめる通気孔の孔径が10μm以上、60μmを越えない大きさとされていると共に、60mmφの通気孔が中心に貫設された平板形状の通気治具にて、測定対象たるポリウレタンフォーム(75mm×75mm×10mmt )の一方の面を押さえる一方、該ポリウレタンフォームの両側の面における差圧が10mmH2O となるように、該ポリウレタンフォームの他方の面を吸気ポンプにて減圧吸引せしめたときに求められる、該吸気ポンプに導かれる空気の流量にて表される通気性が、45mL/分〜1000mL/分とされていることを特徴とする車両用防音材。
【請求項6】
車両のエンジンルーム内において、エンジンの周りに配備され、かかるエンジンからの放射音の低減を図るために用いられる請求項5記載の車両用防音材。
【請求項7】
エンジンとその周りに位置する補機類との間に形成される空間に充填され、その間に発生する定在波を抑制するスペーサとして用いられる請求項5又は請求項6記載の車両用防音材。
【請求項8】
水上バイクの艇体内部に配備され、エンジンからの放射音の低減を図る防音材にして、有機ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを、ポリウレタン樹脂と親和性のある有機基を有するフッ素系界面活性剤の存在下において、反応、発泡させて得られたポリウレタンフォームにて構成され、且つセル同士を連通せしめる通気孔の孔径が10μm以上、60μmを越えない大きさとされていると共に、60mmφの通気孔が中心に貫設された平板形状の通気治具にて、測定対象たるポリウレタンフォーム(75mm×75mm×10mmt )の一方の面を押さえる一方、該ポリウレタンフォームの両側の面における差圧が10mmH2O となるように、該ポリウレタンフォームの他方の面を吸気ポンプにて減圧吸引せしめたときに求められる、該吸気ポンプに導かれる空気の流量にて表される通気性が、45mL/分〜1000mL/分とされていることを特徴とする水上バイク用防音材。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−316788(P2006−316788A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−127303(P2006−127303)
【出願日】平成18年5月1日(2006.5.1)
【分割の表示】特願平11−20248の分割
【原出願日】平成11年1月28日(1999.1.28)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】