説明

低成分含量の錠剤の製造方法

【課題】投与量が少ない薬物について、簡便な方法で、薬効成分の含量均一性が確保され、かつ、崩壊性、溶出性、成型性の優れた錠剤の製造方法を開発する。
【解決手段】低含量の薬効成分を含有する錠剤の製造において、薬効成分を含有する溶液を撹拌下の賦形剤に滴下または噴霧により添加し、均一に混合せしめた後乾燥して得られた粉末に、さらに造粒乳糖を加えて均一に混合した粉末を打錠することによる第14改正日本薬局方規定の含量均一性試験における判定値が15%未満である含量均一性、成型性、崩壊性、溶出性が改良された錠剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極めて少ない量の薬効成分が均一に配合され、かつ、成型性、崩壊性に優れた錠剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
錠剤は、薬効成分および添加剤を含む混合物を、円盤形、楕円形などに圧縮成型したもので、一錠当たりの薬効成分の含有量が正確であること、薬効成分の発現部位(胃、腸など)を調節することが可能であること、調剤がし易いこと、あるいは大量生産が可能で経済的であること、など多くの利点を有していることから、経口投与用製剤として最も多用されている製剤である。その製法としては、薬効成分や添加剤の物性によって、通常、直接粉末圧縮法、乾式顆粒圧縮法あるいは湿式顆粒圧縮法の3法から適した製法が選ばれて錠剤とされる。これらいずれの製法においても、薬効成分と各種添加剤をそれぞれ篩過したのち、両者を混合する操作を経て調製され、薬効成分の多くは、その混合操作の過程で、1錠剤中の成分含量に応じて所定量となるように倍散作業が行われる。
【0003】
錠剤は、上述のとおり、最も多用されている経口投与用の固形製剤ではあるが、生物活性の高い薬効成分の場合には投与量が少なく、錠剤中に含有せしめる量が極めて少なくなって、倍散作業によっても粉体同士の混合作業であるために、極微量の薬効成分を各種の添加物と共に均一に混合することが難しく、錠剤間の成分含量にバラツキが生じ易いという問題がある。さらに、薬効成分が吸湿性の化合物である場合、あるいは、薬効成分と添加剤との組合せが悪いなどの場合には、錠剤中の薬効成分の含有量を一定に維持することが一層困難となり、歩留まりを悪くする原因になっている。
【0004】
生物活性が高く一回当たりの投与量が少ない薬物としては、メストラノール、エチニルエストラジオールなどの卵胞ホルモン剤、あるいは、骨そしょう症の治療剤として用いられている活性ビタミンD3 などがある。これら薬物の一回当たりの投与量は、0.25〜35μg程度で、錠剤1錠当たりの含有量は極めて微量でなければならない。
一方で、錠剤における薬効成分の含量均一性試験の判定値は15%未満と規定されており(第14改正日本薬局方)、特に、生物活性が高い薬物について上述の倍散法による製造法によって判定値を満たす錠剤を得るためには、厳重な生産管理のもとで行わなければならず、極めて効率の悪いものとなっている。
さらに、錠剤は、判定値15%未満の規定に合致するだけでなく、体内での崩壊性および薬効成分の溶出速度と生体内利用性から、また生産性のうえからも、適切な添加剤を選択し製剤化が容易に行える方法でなければならない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のメストラノールやエチニルエストラジオールのような生物活性が高く、投与量が極めて少ない薬物は、錠剤中の含量が極めて少なくなり、倍散によって、判定値15%未満の規格を確保することが難しい。本発明者は、上記の判定値を満たす錠剤を得るべく、撹拌造粒法、押出造粒法あるいは流動層造粒法など各種の方法によって製剤化を試みたが、一応の規格内にある錠剤を得ることができても、造粒粉末の特性により成型性が悪く、かつ、錠剤の強度(硬度)に問題が生じ、崩壊性と薬効成分の溶出特性などの物性を満足する錠剤を安定して得ることが困難であった。
このような状況下において、本発明の目的は、投与量が少ない薬物について、直接粉末圧縮法に準じた方法で、手間がかからず、判定値が15%未満という規定を満たし、崩壊性、溶出性に問題がなく、しかも、生産性の高い錠剤の製造方法を開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため、倍散法に拠らない製剤化方法について鋭意検討を行ったところ、薬効成分を含む低濃度の溶液を、撹拌下の賦形剤に滴下もしくは噴霧により均一に添加し、これを乾燥した後、造粒乳糖を加えて、さらによく混合して得られた粉末を錠剤に成型することによって、薬効成分含量が均一で、かつ、成型性も優れていることを見出し、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は、極めて少ない量の薬効成分を含有する錠剤の製造法であって、薬効成分を含有する溶液を撹拌下の賦形剤に滴下または噴霧により全体に均一に添加し、充分混合した後、乾燥した粉末に、賦形剤として造粒乳糖を加えて均一に混合した粉末を成型することを特徴とする第14改正日本薬局方規定の含量均一性試験における判定値が15%未満である、薬効成分含量が均一、かつ、成型性が優れた錠剤の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の薬効成分の溶液を賦形剤に加えて均一に混合した後、追加の賦形剤として造粒乳糖を加えて成型する直接粉末圧縮法に準じた格別の技術を要しない方法によって、極めて少ない量の薬効成分が均一、かつ、一定量配合された錠剤を高い歩留まりで得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の錠剤の製造法が適用される薬物は、特に限定されないが、生物活性が高く、投与量が少ない薬物で、代表的には、プロスタグランジン誘導体、活性型ビタミンD3 、副腎皮質ホルモン剤、男性ホルモン剤、メストラノール、エチニルエストラジオールなどの卵胞ホルモン剤やプロゲステロン、ノルエチステロンなどの黄体ホルモン剤、あるいは、それらの混合ホルモン剤などである。混合ホルモン剤としては、男性ホルモンと卵胞ホルモンとの配合剤、経口避妊薬としてのピルに用いられる卵胞ホルモンや黄体ホルモンとの配合剤などが挙げられる。なお、一方の薬物が投与量(含量)の多い配合剤にも適用することが可能である。
【0009】
本発明の錠剤の製造方法において、投与量が少ない薬効成分は、賦形剤を2回に分けて使用し、その初回の賦形剤に当該薬効成分の溶液を滴下または噴霧により全体にゆきわたるように添加される。この薬効成分が加えられた混合物を均一に攪拌混合したのち、追加の賦形剤として造粒乳糖を加え、さらに攪拌混合されて錠剤に成型される。初回の賦形剤としては、乳糖、無水乳糖などのほか、結晶セルロース、ブドウ糖、ショ糖、マンニトール、ソルビトール、あるいはそれらの混合物など公知の賦形剤が用いられる。初回の賦形剤の使用量は、賦形剤全量に対して40〜80質量%程度が好ましく、より好ましくは、50〜70質量%である。また、後に加える造粒乳糖の量は10質量%以上であり、好ましくは、10〜30質量%である。この造粒乳糖を用いることによって、成型性がよく、また、崩壊性に優れた錠剤を得ることができる。造粒乳糖としては、「日本薬局方第14局」掲載の造粒乳糖が主に用いられる。
【0010】
また、溶剤は、薬効成分を溶解する溶媒であれば特に制限されないが、人に対して安全なエタノール、イソプロパノールが適しており、通常エタノールを用いる。
一方の投与量(錠剤への含有量)が多い薬物との配合剤については、これを最初の賦形剤に、公知の篩過・倍散による方法を適用してそれらの混合物とした後、当該含有量の極めて少ない薬物に対して本発明の製造方法が適用される。
【0011】
なお、本発明の錠剤には、その特性を損なわない範囲で、通常用いられている添加剤の適量を加えることは差し支えない。例えば、トウモロコシデンプンやバレイショデンプン、部分アルファー化デンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースやカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウムなどの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウムやショ糖脂肪酸エステルなどの滑沢剤、部分アルファー化デンプン、クロスポビドン、ポリソルベート、ヒドロキシプロピルセルロースやメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチなどの結合剤、或いは各種の着色剤が所望により添加される。
【実施例】
【0012】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0013】
[実施例1]
表1の処方により、次のようにして錠剤を製造した。賦形剤の無水乳糖と結合剤の部分アルファー化デンプンとの混合物にノルエチステロンを加え篩過・混合して、倍散とする。この混合物に転動造粒機中で撹拌混合下、エタノールに溶解したエチニルエストラジオール溶液を全体に滴下し、充分混合したのち乾燥し、さらに乳糖を加えて、均一に混合後、打錠する。賦形剤全量に対する造粒乳糖の割合は26%である。
【0014】
【表1】

【0015】
[実施例2]
表2の処方により、実施例1に記載した方法に準じて錠剤を製造した。賦形剤全量に対する造粒乳糖の割合は14%である。
【0016】
【表2】

【0017】
[比較例1]
表3の処方により、次のようにして錠剤を製造した。賦形剤の無水乳糖と結合剤の部分アルファー化デンプンとの混合物の一部を取り、ノルエチステロンと篩過・混合して、倍散とする。この混合物に転動造粒機中で撹拌混合下、エタノールに溶解したエチニルエストラジオール溶液を滴下し、充分混合した後乾燥し、さらに残りの無水乳糖と部分アルファー化デンプンとの混合物を添加して、充分混合の後、打錠した。このものは約10万錠あまり打錠した時点でスティッキングを起こした。
【0018】
【表3】

【0019】
1)含量均一性試験
薬効成分として、エチニルエストラジオールを含有する錠剤について、本発明の方法と公知の直接粉末圧縮法により製造した錠剤の含量均一性試験を行った。その結果を表4に示す。表4の結果から明らかなように、本発明の方法により得た錠剤は、公知方法による錠剤に比べて、判定値が54.667 → 3.864 と大幅な改善が認められた。
【0020】
【表4】

【0021】
2)硬度・キャッピング試験
本発明の方法による錠剤と賦形剤として造粒乳糖を用いないで成型した錠剤について、硬度・キャッピング試験を行った。その結果を表5に示す。表5から明らかなように、硬度が、2.32 (kg) → 5.11 (kg) と有意な改善効果が認められた。
【0022】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0023】
以上説明したように、本発明により、薬効成分の含有量の極めて少ない錠剤を、直接粉末圧縮法に準じた簡便な方法により効率よく生産することが可能となった。したがって、本発明の錠剤の製造方法は、生物活性が高く、投与量が少ない医薬品に向けた錠剤の製法として極めて利用価値が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極めて少ない量の薬効成分を含有する錠剤の製造法であって、薬効成分を含有する溶液を撹拌下の賦形剤に滴下または噴霧により全体に均一に添加し、充分混合した後、乾燥した粉末に、造粒乳糖を加えて均一に混合した粉末を成型することを特徴とする第14改正日本薬局方規定の含量均一性試験における判定値が15%未満である錠剤の製造方法。
【請求項2】
薬効成分が、ホルモン剤である請求項1に記載の錠剤の製造方法。
【請求項3】
薬効成分が、卵胞ホルモン剤である請求項1に記載の錠剤の製造方法。
【請求項4】
薬効成分が、エチニルエストラジオールである請求項1に記載の錠剤の製造方法。
【請求項5】
造粒乳糖の使用量が、その全量に対して10質量%以上である請求項1〜請求項4のいずれかに記載の錠剤の製造方法。

【公開番号】特開2006−63030(P2006−63030A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−248485(P2004−248485)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(591166400)富士製薬工業株式会社 (2)
【出願人】(504237832)ノーベルファーマ株式会社 (2)
【Fターム(参考)】