説明

低膨張性シリカ・チタニアガラスにおける膨張性の改善

【課題】
ガラスの[OH]含有量および仮想温度の変化を通じて、低熱膨張性のシリカ・チタニアガラスの膨張性を調整および改善する。
【解決手段】
ガラスにおける[OH]濃度は600〜2500ppmの範囲でありうる。仮想温度TFは900℃未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガラスの[OH]含有量および仮想温度の変化を通じて、低熱膨張性シリカ・チタニアガラスの膨張性を調整および改善することを対象とする。
【背景技術】
【0002】
シリカ・チタニアガラスは、数十年間にわたり知られている。特許文献1の「TiO2−SIO2ガラスの製造方法(Method for producing TiO2-SiO2 Glasses)」は、1〜20重量%のTiO2からなるガラスが、熱処理に伴う−200℃〜700℃の温度範囲にわたり、本質的に0の熱膨張率(CTE)を有すると教示する。しかしながら、ガラス中のチタニア結晶相の存在に起因して、この材料の研磨には相当な困難が存在する。結果として、ガラスは、画像マスキング用のものなど、一部の用途には容易に使用できない。特許文献2は、1200℃以下の仮想温度(TF)を有するシリカ−チタニア含有ガラスについて教示し、前記ガラスは「最大でも」600pm以下の[OH]レベル(濃度)を有する。しかしながら、このガラスは、低い[OH]レベルにおいてのみ、低いTF値をもたらし;高いOHは、膨張性特性が改善された、より低いTF値を得る手段として特定されていない。特許文献3は、100ppm〜1500ppmの[OH]レベルを有するシリカ・チタニアガラスの製造方法を教示している。
【0003】
例えばULE(登録商標)ガラス(Corning Incorporated社製)などのシリカ−チタニアは、研磨性能および、0±5ppb/℃の20℃におけるゼロ−CTEクロスオーバー範囲の理由から、EUV(極紫外線)産業において、極紫外線リソグラフィ(EUVL)用途に非常に有用な材料として認められている。EUVリソグラフィの領域では、2007年に、国際半導体技術ロードマップは、結像レンズに必要とされるミラーの数が増大する可能性があることを見出した。結果として、リソグラフィプロセスの間の損失(主に素子の散乱および加熱に起因)を相殺するため、より高いエネルギー動力源を使用することが必要とされる。より高いエネルギー動力源の使用に伴い、レンズには、より高い温度勾配が存在することとなり、使用されている現行のシリカ−チタニア材料におけるCTEの改善がなされない限り、問題を生じうる。例えば、フォトマスクの温度は80℃の高さに達しうる。加えて、未来仕様は、現行のシリカ−チタニア材料では満たさないであろうさらに厳しい全般的な要件を有することになると予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第3,690,855号明細書
【特許文献2】欧州特許第1608598号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2006/0179879号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
EUVリソグラフィに利用するためのシリカ・チタニアガラスの現在および来るべき変化の結果として、改善が必要とされている。本開示は、現行のガラスに対して膨張性が改善された新規のシリカ・チタニアガラスに関する。本明細書に示されるように、本開示の教示は、より低いTFおよび改善された膨張性を得るために[OH]含有量を低減する必要があるという先行技術の教示に対し反論するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、低い仮想温度(TF)および増大した[OH]含有量を有するシリカ・チタニアガラス(チタニアをドープしたシリカガラスとしても知られる)を対象とし、前記[OH]含有量は600ppm〜2500ppmの範囲である。1つの実施の形態では、[OH]含有量は800〜2000ppmの範囲である。本開示に従ったシリカ・チタニアガラスは、5重量%〜14重量%のチタニア含有量を有する。1つの実施の形態では、チタニア含有量は6.5重量%〜9重量%の範囲にある。膨張性が改善された、開示されるシリカ・チタニアガラスは、例えば、限定されることなく、半導体光学、マスクおよびステージ、ナノ・インプリント技術、および宇宙用途における光学用ミラーに使用することができる。
【0007】
別の実施の形態では本開示は、低い仮想温度(TF)および増大する[OH]含有量を有するシリカ・チタニアガラスの製造方法を対象とし、600ppm〜2500ppmの範囲の[OH]含有量は、選択され、制御された2500ppmを使用して、例えば600ppm以下の[OH]などのより低い[OH]を有するガラスと比較して、所定のアニーリング速度またはサイクルで、より低い仮想温度および改善された熱膨張挙動を有するシリカ・チタニアガラスの形成を可能にする。1つの実施の形態では、[OH]は600ppmより大きく、TFは950℃未満である。別の実施の形態では、[OH]は600ppmより大きく、TFは900℃未満である。追加の実施の形態では、シリカ・チタニアガラスは、950℃未満の仮想温度TFおよび≧800ppmのOH含有量を有する。さらなる実施の形態では、ガラスは、900℃未満の仮想温度TFおよび≧800ppmのOH含有量を有する。
【0008】
追加の実施の形態では本開示は、ΔCTEが20℃〜100℃の温度間隔にわたり75ppb/°K未満である、シリカ・チタニアガラスに関する。1つの態様では、ΔCTEは、20℃〜100℃の温度間隔にわたり70ppb/°K未満である。さらなる態様では、ΔCTEは、20℃〜100℃の温度間隔にわたり、65ppb/°K未満である。
【0009】
本開示は、膨張率δCTE/dTが20℃において1.6ppb/°K2未満のシリカ・チタニアガラスも対象とする。1つの実施の形態では、δCTE/dTは1.5ppb/°K2未満である。別の実施の形態では、δCTE/dTは1.4ppb/°K2未満である。
【0010】
本開示は、シリカ・チタニアガラスの製造方法も対象とする。1つの実施の形態では、シリカ−チタニアはスート・トゥ・ガラス法で製造することができ、ここで、シリカ−チタニア・スートは、微粒子として容器に、またはプリフォームとして皿(paten)またはマンドレルに堆積され、スートまたはプリフォームの固化は、3%より大きい水の分圧における固化温度で行われる。別の実施の形態では、水の分圧は4%より大きい。
【0011】
別の実施の形態では、シリカ・チタニアガラスの製造には直接法が用いられる。本開示に従った直接法では、シリカ−チタニア粒子は、バーナーにおけるシリカ前駆体およびチタニア前駆体材料の燃焼によって形成され、粒子は3%より大きい水の分圧を有する雰囲気下でガラスへと固化され、固化は粒子の形成およびそれらの容器内における堆積と実質的に同時に起こる。直接法では、シリカ−チタニア粒子の形成とガラスへの固化との時間間隔は3秒未満であり、典型的には2秒未満である。1つの実施の形態では、固化は、3%より大きい水の分圧を有する雰囲気下で生じる。別の実施の形態では、水の分圧は4%より大きい。
【0012】
アニーリング・スケジュールの目的は、一定のおよび制御された仮想温度をガラスに与えることである。本明細書に記載されるシリカ・チタニアガラスは、1040℃以下の焼きなまし点を有する。本明細書に示す例は、約1010℃の焼きなまし点を有する。1つの実施の形態では、仮想温度はガラスの焼きなまし点未満であろうことから、アニーリングは、ガラスを室温(「RT」,約18〜25℃)からガラスの焼きなまし点以下の選択温度まで加熱することによって行われる。任意の速度で加熱することができ、例えば、選択加熱速度は25℃/時間〜150℃/時間である。ガラスは、次に、ガラスの厚さに応じて、1時間〜500時間、選択温度で保持され、ガラス全体が公称上、均一な仮想温度に達することを確実にする。1つの実施の形態では、ガラスは、75〜125時間、その温度で保持される。1つの実施の形態では、ガラスは、室温から所望の仮想温度に近い温度に至るまで、50℃/時間未満の速度で加熱される。別の実施の形態では、ガラスは、室温から600℃に至るまで50〜100℃/時間の速度で、600℃から800℃に至るまで25〜50℃/時間の速度で、および、800℃から、840℃〜1010℃における所望の仮想温度に近い温度に至るまで10〜25℃/時間の速度で、加熱される。ガラスは、その温度で1〜200時間保持される。ガラスは、例えば≦10℃/時間の速度で冷却することができる。別の実施の形態では、冷却速度は≦5℃/時間である。別の実施の形態では、冷却速度は≦3℃/時間である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】Cervit(登録商標)(Corning Incorporated社製)、「ULE」および米国特許第3,390,855号明細書記載のガラス(918ASと表示)のCTEの比較、および異なる材料についての曲線の平坦性例証をするグラフ。
【図2】15重量%シリカ・チタニアガラスについての「総熱処理時間」に対する「25〜300℃の温度範囲における熱膨張率」のグラフ。
【図3】非特許文献 Shelby, “Density of TiO2 Doped Vitreous Silica,” Phys. Chem. of Glasses, Vol. 46 [5] (1995), pages 494-499に基づいて仮想温度を計算するために用いた方法。
【図4】公称上800ppmのOHおよび7.4重量%のTiO2を有する所定のTiO2−SIO2ガラスのアニーリング速度の対数の関数としての仮想温度の変化を示すグラフ。
【図5】公称上800ppmのOHであり、CTEが公称上−15ppb/°Kおよび5ppb/°Kであるチタニア含有ガラスの粘性挙動を例証する2つのチャート。
【図6】気相における水の分圧と、TiO2−SIO2ガラスにおける得られた[OH]との半経験的関係を示すグラフ。
【図7】熱膨張におけるアニーリングの影響を例証するグラフ。
【図8】公称上800ppmの[OH]および7.4重量%のTiO2のシリカ・チタニアガラスの温度の関数としての膨張率を示すグラフ。
【図9】直接法でシリカ・チタニアガラスを製造するための装置。
【図10】VAD法を使用して、多孔質のシリカ−チタニア・スート・マトリクスをベイト上に形成し、少なくとも3%の水蒸気分圧を有する雰囲気下で、多孔質のプリフォームをガラスへと固化する工程。
【図11】異なるOH含有量および、〜7.4重量%のTiO2の公称上同一のチタニア含有量を有する一連のガラスについてのアニーリング冷却速度に対する仮想温度(Tf)を例証するグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
これから、添付の図面に例証される幾つかの好ましい実施の形態に関連して、本発明を詳細に説明する。好ましい実施の形態の説明において、多くの具体的詳細は、本発明の完全な理解を提供する目的で記載される。しかしながら、本発明が、これらの具体的詳細の一部またはすべてを用いずに実施できる場合があることは、当業者には明らかであろう。他の事例では、周知の特性および/または工程段階は、本発明を不必要に不明瞭にしないために、詳細に説明していない。加えて、共通または類似の要素を識別するために、同様または同一の参照番号が用いられる。
【0015】
本明細書では「シリカ・チタニアガラス」、「チタニアをドープしたシリカ」および類似の用語は、SIO2およびTiO2からなるガラスを意味する。ガラスは微量金属および他の元素を汚染物質として含みうるが、微量金属の合計は、20ppm未満であるべきであり、好ましくは10ppm未満であり;ハロゲンの合計は50ppm未満であり、好ましくは25ppm未満である。
【0016】
高OHのチタニア含有ガラスを製造できるさまざまな方法が存在する。1つの実施の形態では、ガラスは、シリカおよびチタニアの有機前駆体をバーナーに供給し、そこで燃焼を行う直接法によって作製される。典型的な有機前駆体は、シリカではOMCTS(オクタメチルシクロテトラシロキサン)、チタニアではTTP(チタンテトライソプロポキシド、Ti(OPri)4)である。これらの前駆体は、単一の工程で、実質的に同時に堆積および固化されてシリカ・チタニアガラスを形成するように、それらが反応し、シリカおよびチタニア・スート粒子を形成する高温の加熱炉の空洞内に注入され、ここで、スート粒子が堆積する。高OHのガラスを製造するために、重要なことは、堆積の間に、堆積チャンバにおける気相の水の分圧を高く維持することである。水蒸気は、発生させて、チャンバ内に直接注入することができる。水蒸気は、メタンの燃焼: CH4+O2→ HO+CO (および/または、酸素の存在する度合いに応じてCO2)などによって、これらの反応から発生させることができよう。水蒸気は、水素含有有機前駆体と酸素の反応:例えば、PMCTSおよびTTPの有機部分から発生させることもできる。加えて、水蒸気は、意図的に加えることができ、あるいは、ある程度の湿度レベルを有する同伴空気として、チャンバに入ることもある。水の分圧が高くなると、ガラス中に、より高いOHレベルを生じる。1つの実施の形態では、水の分圧は、≧3%より大きい。別の実施の形態では、水の分圧は≧4%である。
【0017】
別の実施の形態では、本開示に従った高OHシリカ・チタニアガラス組成物は、例えば、限定されることなく、VAD(気相軸付法)、OVD(外部蒸着法)、PSDまたはIVD(内部蒸着法)などのスート・トゥ・ガラス法によって製造され、ここで、有機前駆体は、第1の工程において、燃焼し、多孔質のスートとして堆積する。その後の工程では、スートは固化温度で固化される。固化の間、これらの工程における雰囲気は、通常、低いOH雰囲気である、ヘリウム単独である。本開示に従って、ヘリウムは、約3%を超える水蒸気分圧を含む。一部の事例では、スートは、600ppm〜2500ppmのOHレベルを得るために、3気圧に加圧された純水蒸気または水蒸気下で固化されうる。
【0018】
上記方法は、高OHレベルのシリカ・チタニアガラスを製造できる方法である。ガラス気体が生じ、完全に固化された後、次の工程は、ガラスを100℃/時間未満の速度でアニールし、所望する低いTFを得ることである。低いTFガラスは望ましいことから、3℃/時間未満の冷却速度が好ましい。TiO2濃度およびアニーリング速度は、所望のクロスオーバー温度および膨張性挙動を獲得するために、調整することができる。一例として、さらに多くのチタニアを加えてクロスオーバー温度を上昇させることができ、幾つかの例では、クロスオーバー温度を低下させるために減らすこともできる。
【0019】
図9は、容器内でシリカ−チタニア・スートを製造し、堆積し、固化するための装置を例証しており、ここで、破線の矢印110は、本開示に従った水蒸気を含む気体雰囲気の導入を示している。この装置を使用して、スートを、(a)1つの工程で収集および固化する(直接法)か、または(b)第1の工程で収集し、第2の工程で固化することができる。図10に例証される装置は、一般に、0.2メートル〜2メートル、またはそれ以上の範囲の直径および厚さを有するブールを形成するために用いられる。直接法の一例として、シリカ前駆体48の起源46およびチタニア前駆体60の起源58が提供される。シリカ前駆体48およびチタニア前駆体60は、典型的には、シロキサン、アルコキシド、および四塩化物である。特に一般的に用いられるシリカ前駆体の1つは、OMCTSである。特に一般的に用いられるチタニア前駆体の1つは、Ti(OPri)4である。前駆体起源46、58は、噴霧器、蒸発槽、または前駆体48、60を蒸気の状態に変換するのに適切な他の装置であって差し支えない。窒素などのキャリアガス50は、起源46の基部またはその近くに導入される。キャリアガス50は、シリカ前駆体48の蒸気を同伴し、分配システム54を通過して混合マニホルド56に至る。キャリアガスのバイパス流は、蒸気質のシリカ前駆体の流れの飽和を防ぐために、52において導入される。例えば窒素などの不活性ガス62の流れは、蒸気の飽和を防ぐために、蒸気質のチタニア前駆体と接触させることができる。例えば窒素などの不活性のキャリアガス64は、チタニア前駆体60の蒸気を同伴し、分配システム66を通じて、混合マニホルド56まで蒸気を運び、ここで、シリカ前駆体48の蒸気と混合される。あるいは、チタニア前駆体60とシリカ前駆体48は、混合マニホルド56に液体の状態で送達されてもよい。混合マニホルド56内の混合物は、加熱されたヒュームライン68を通過して、炉クラウン72上に取り付けられたバーナー70に至る。この図では、2つのバーナー70が示されている。しかしながら、3つ以上のバーナーを用いて、堆積空洞74全体にわたるより良好な熱制御および材料の分配を可能にすることができる。加熱炉76は、回転および振動能力を有していて差し支えなく、クラウン72を支持する静止壁78を備えていてもよい。格納容器80は、静止壁78内に配置される。格納容器80は、回転のために支持され、振動台84に取り付けられることによっても振動する、基部82を備える。格納容器80は、振動台84の上に取り付けられた気流壁86に取り囲まれている。動作制御用シール88が静止壁78と格納容器80の間に形成される。堆積空洞74は、静止壁78の上部に形成された複数のドラフトポート94によって通気される。ドラフトポート94は、周囲圧力に関して堆積空洞74に陰圧を生じさせるダクトによって、適切な排気システム(図示せず)に接続される。燃料93および酸素95を予混合チャンバ97内で予混合し、その後、ヒュームライン99を通じてバーナー70に移す。バーナー70が燃料/酸素混合物に着火し、堆積空洞74を加熱する炎を生じる。バーナー70に注入される蒸気質の反応物質は、それらが反応し、火炎加水分解または熱分解を介してチタニアがドープされたシリカ粒子を形成する、バーナー70から出る。スートは下方に向かい、102に示されるように、平面100に堆積する。平面100は、清潔なカレット106を有する格納容器80のライナー104を満たすことによって提供されて差し支えないが、ガラス板などの平面を提供する他の手段も用いられうる。スートは格納容器80に堆積されることから、平面100は基部82を通じて回転および振動し、シリカの均質性を改善する。スートの堆積の間、加熱炉76は、周囲空気でドラフトされ、堆積空洞74の温度は、モニタされ、かつ、格納容器80の垂直位置を調整することによって、所望の処理温度で維持される。直接法では、温度は、シリカ−チタニア粒子が形成され、かつ実質的に同時にガラスへと固化されるように、固化温度に維持される。このような時間は、一般に3秒未満であり、典型的には2秒未満である。本開示によれば、ガラスにおいて高い[OH]濃度を得るため、本開示に記載される水蒸気の分圧は、破線矢印110に例証されるように、図9の加熱炉の一部の上部に選択量の水蒸気を含む気体を注入することによって、装置内で維持される。
【0020】
代わりの実施の形態では、蒸気、加圧容器(図示せず)からの高温蒸気は、破線矢印110で表されうる供給ラインを通じて、図9の加熱炉の上部に注入することができる。
【0021】
スート粒子102は、加熱炉76内部でチタニアがドープされたシリカガラスへと固化される。必要に応じて、ガラスのCTEに大きなばらつきを生じさせる結果となりうる不均一な反応は、スート粒子102が完全に固化するのに必要とされる未満の処理温度を保持することによって、最小限に抑えることができよう。堆積後、スート粒子102は、本明細書に記載されるように、加熱炉内の水蒸気の分圧を、高[OH]ガラスが形成される分圧に維持しながら、ガラスへと固化されうる。
【0022】
前述の通り、シリカ・チタニアガラスは、第1の工程において有機前駆体が燃焼し、多孔質のスートとして堆積する、VAD、OVD、PSD、またはIVDなどのスート・トゥ・ガラス法によって製造することもできる。その後の工程で、スートは、固化工程において固化される。一例として、VAD法は、5〜14重量%のTiO2含有量を有する固化されたシリカ・チタニアガラスの製造に用いられる。VAD法は、S. Hayashi et al, “Development of Synthetic Silica Glass by the VAD Method”, Sumitomo, Vol.42-3 (1990), pages 1-27に記載されている[Phoenix Translationsによる翻訳]。図10(a)および10(b)は、図10(a)に例証するように、シリカおよびチタニア前駆体をバーナー52内で燃焼し、スートを回転ベイト50上に堆積することによって、多孔質のシリカ−チタニア・スート・マトリクスを形成する工程を例証している。ベイト50は、円筒形のスートプリフォーム58を形成するための工程の間に徐々に上昇する。プリフォーム58は、ひとたび形成されると、図10(b)に示すように、加熱器54で加熱することによって固化される。[OH]を調整するため、少なくとも3%の水蒸気分圧を含む気体が、固化工程の間にプリフォーム58によって、およびそこを通じて流れる。図10(b)に例証するように、プリフォームは、プリフォーム内の気体を排出し、それによって固化工程の間のガラス内の内包物(空隙)の形成を回避できるようにするため、図10(a)とは逆になっている。焼結は、図10(b)に例証するように、マトリクスの下端から上端まで行われる。本開示に従った高い[OH]レベルは、上記のように、水蒸気または蒸気の注入によって達成することができる。
【0023】
図1は、「Cervit」(30)、「ULE」(36)および米国特許第3,390,855号明細書の材料(918AS(参照番号3)および900℃で加熱処理後の918AS(参照番号34))についてのCTEの比較を示している。ガラス918ASの膨張性は、他の材料よりも広い温度範囲にわたって一定であるが、この材料の不利な点は、単相のガラスではなく、チタニア晶子を含むガラスであることである。チタニア晶子は、研磨を、特に、<1.5A rmsの粗さレベルまで、さらに困難にする可能性を有する。これは、EUV用途のため、材料は、晶子を含まないか、または実質的に晶子を含まず、低い熱膨張および1.5nm rmsの高研磨性能など、他の望ましい特性を有するガラスであることが好ましい。
【0024】
図2は、米国特許第3,690,855号明細書から得た材料の熱処理の影響を示している。これらの高チタニア含有ガラスにおける熱処理は、チタニア晶子の沈殿を生じる結果となる。このことからも、材料は、多相の材料よりも容易に研磨できる単相ガラスであることが好ましい。
【0025】
図3Aおよび3Bは、Shelby, “Density of TiO2 doped vitreous silica,” Phys. Chem. of Glasses, Vol. 46 [5] (1995), pages 494-499に基づいた仮想温度の計算に用いられる方法を例証している。図3Aは、図3Bに示すAgarwal, Davis, Tomozawaの方程式(Tomozawa方程式、式1)について、切片におけるTiO2濃度の影響を例証している。図3Bは、仮想温度についてのTomozawa方程式における切片(a)を計算するための式1の使用を例証している:
V=A+B/Tf → Tf(℃)={41000÷(最大ピーク−A)}−273 (式1)
Vは2260cm-1(最大ピーク値)におけるバンド位置であり、Aは切片であり、Bは傾き(43809.21)である(A. Agarwal, K.M. Davis, M. Tomozawa, J. Non-Crystalline Solids, Vol. 185 (1995), pages 191-198参照)。図3Bにおいて、記号「○」(参照番号10)は、本開示のデータを表している。
【0026】
図4は、公称上800ppmのOHおよび7.4重量%のチタニアを有する、所定のチタニアをドープしたシリカガラスについてのアニーリング速度のログ関数としての仮想温度の変化を例証している。冷却またはアニーリング速度は、約1000℃から約800℃まで一定である。
【0027】
図5は、公称上800ppmのOHを有するチタニア含有シリカガラスの粘性挙動を例証している。そのCTEは、20℃において、公称上、−15ppb/Kおよび5ppb/Kである。
【0028】
図6は、気相における水の分圧と、ガラス中の得られた[OH]との半経験的関係を例証している。それは、ガラス中の所望の[OH]を達成するための、標的に対する水の公称分圧を実証する。約3000ppmよりもはるかに高い[OH]レベルでは、システムを加圧する必要があろう。
【0029】
欧州特許第1608598号明細書は、最大で600ppmのOHおよび異なる仮想温度を有するガラスの、温度に対するCTEのグラフを含んでいる。しかしながら、この特許は、改善された膨張特性とともに、より低いTF値を得るための手段として、高OHを特定していない。よって、この特許は、より低い[OH]レベルにおいてのみ、低いTF値を有するガラスを得ることについて記載しており;改善された膨張特性とともに、より低いTF値を得るための手段として、高OHを特定しておらず、実際、本開示の段落[0025]および[0026]からは、かけ離れた教示であると見なすことができよう。
【0030】
図7は、7.4重量%のチタニアガラスを含むシリカガラスの熱膨張におけるアニーリングの影響を例証するグラフである。参照番号40は、製造後に加熱炉内で単純に冷却した、アニールしていないガラスを表している。参照番号42は、約1010℃のアニーリング温度まで加熱し、3℃/時間の速度で冷却したガラスを表している。
【0031】
図8は、公称上800ppmのOHおよび7.4重量%のTiO2を有するチタニアシリカガラスの温度の関数としての膨張率を例証している。
【0032】
図11のグラフは、異なるOH含有量および、〜7.4重量%のTiO2の公称上同一のチタニア含有量を有する一連のシリカ・チタニアガラスのアニーリング冷却速度に対する仮想温度(Tf)を例証している。例えば、880〜940ppmのOHを含むガラスが10℃/時間の速度で冷却される場合、冷却されたガラスの最終的な仮想温度(Tf)は、およそ920℃であろう。同一のガラスが1℃/時間の速度で冷却される場合には、最終的な仮想温度は、およそ880℃であろう。図11で用いられたガラスは、公称上7.4重量%のチタニアを含んでいた。図12は、本明細書に記載される熱処理に供される前に決定される、所定のOH含有量を有するガラスについての特定の仮想温度を得るために用いるべき冷却速度を決定するための指針として使用することができる。
【0033】
よって、本開示は、本質的に、5〜14重量%のチタニアおよび86〜95重量%のシリカからなるシリカ・チタニアガラスを対象とし、前記ガラスは、600〜2500ppmの範囲のヒドロキシル含有量[OH]を有し、ΔCTEは、20℃〜100℃の温度範囲にわたって75ppb/°K未満であり、膨張率δCTE/dTは1.6ppb/°K2未満である。シリカ・チタニアガラスは、800〜2000ppmの範囲のヒドロキシル含有量[OH]を有しうる。1つの実施の形態では、シリカ・チタニアガラスは、6.5〜9重量%のチタニアおよび91〜93.5重量%のシリカを含む。1つの実施の形態では、シリカ・チタニアガラスのΔCTEは、20℃〜100℃の温度範囲にわたって65ppb/°K未満である。本明細書のシリカ・チタニアガラスは1010℃以下の焼きなまし点を有し、ガラスは950℃未満の仮想温度TFを有する。1つの実施の形態では、仮想温度TFは900℃未満である。さらには、シリカ・チタニアガラスは、1.5ppb/°K2未満の膨張率δCTE/dTを有する。1つの実施の形態では、膨張率δCTE/dTは、1.4ppb/°K2未満である。
【0034】
本開示はまた、600〜2500ppmの範囲のヒドロキシル含有量[OH]を有するシリカ・チタニアガラスの製造方法も対象とし、前記方法は、装置、すなわちシリカ前駆体およびチタニア前駆体をシリカ−チタニア・スートに変換するための少なくとも1つのバーナーを提供し;前記少なくとも1つのバーナーにおいてシリカ−チタニア・スートを形成し、(a)単一の工程において実質的に同時に、前記スートを堆積し、≧3%の水蒸気分圧を有する雰囲気下でガラスへと固化する工程、および(b)前記スートを堆積して多孔質のプリフォームを形成し、≧3%の水蒸気分圧を有する雰囲気下で前記スートをガラスへと固化する工程からなる群より選択される1つの工程を行い、前記固化されたガラスを、1010℃以下の焼きなまし点でアニーリングして950℃未満の仮想温度TFを有するガラスを形成する、各工程を有してなる。1つの態様では、水の分圧は少なくとも4%である。別の態様では、シリカ−チタニア・スートは、多孔質のプリフォームとして堆積し、前記多孔質のプリフォームは、純水蒸気の雰囲気下で固化され、600〜2500ppmのOHレベルを得る。別の態様では、シリカ−チタニア・スートは、多孔質のプリフォームとして堆積し、前記多孔質のプリフォームは、3気圧に加圧された水蒸気(例えば、加熱された圧力チャンバを使用するなど)下で固化され、600〜2500ppmのOHレベルを得る。図10に例証される装置は、(i)シリカ−チタニア・スートを製造し、それを容器中の粉末として堆積するため、あるいは(ii)スートを製造し、それを実質的に同時に堆積および固化するために使用することができる。両方の場合において、スートは、≧3%の水蒸気分圧を含む雰囲気下で堆積することができる。図10a/10bに例証される装置、および類似の装置は、一般に、その後にガラスへと固化される多孔質のプリフォームを作るために、使用されうる。この事例では、スートは、(i)任意の水の分圧蒸気を含む雰囲気下で堆積することができるが、>3%の水蒸気中で固化すべきではない、または(ii)3気圧に加圧された水蒸気中で固化することができる(例えば、加熱された圧力チャンバを用いて)。
【0035】
仮想温度が焼きなまし点未満であろうことから、室温(「RT」約18〜25℃)から焼きなまし点未満の選択温度までガラスを加熱することによって、一定のおよび制御された仮想温度をガラスに与えることを目的として、アニーリングを行った。加熱は任意の速度で行うことができ、例えば、加熱速度は25℃/時間〜150℃/時間である。1つの実施の形態では、加熱速度は25℃/時間未満でありうる。ガラスは、ガラスの厚さに応じて1〜500時間、選択温度で保持し、ガラス全体に公称上、均一な仮想温度に達することを確実にすることができる。1つの実施の形態では、ガラスを、75〜150時間、選択温度で保持した。次に、ガラスを、100℃/時間未満の速度で冷却した。1つの実施の形態では、ガラスを、≦10℃/時間の速度で冷却した。別の実施の形態では、ガラスを≦5℃/時間の速度で冷却した。さらなる実施の形態では、冷却速度は、≦3℃/時間であった。1つの実施の形態では、ガラスを、室温から焼きなまし点に至るまで、50℃/時間未満の速度で加熱した。別の実施の形態では、ガラスを、室温から焼きなまし点に至るまで、25℃/時間未満の速度で加熱した。ガラスを焼きなまし点の温度で1〜200時間の範囲で保持したが、正確な時間は、ガラスが全体的に実質的に均一な温度に達するように、アニーリングされるガラスの厚さに依存する。
【0036】
一例を挙げれば、ガラスは、室温から600℃まで、50〜100℃/時間の速度(例えば60〜75℃/時間)で加熱され、600℃から800℃に至るまで、25〜50℃/時間の速度(例えば30〜40℃/時間)で加熱され、800℃から1010℃に至るまで、10〜25℃/時間の速度(例えば10〜15℃/時間)で加熱される。ガラスを、焼きなまし点の温度で、75〜150時間、保持した。次に、ガラスを焼きなまし点の温度から室温まで、≦5℃/時間の速度で冷却した。
【0037】
別の例では、ガラスを、室温から1010℃の焼きなまし点まで、5〜10℃/時間の速度(例えば10℃/時間)で加熱し、焼きなまし点の温度で75〜150時間、保持した。次いで、ガラスを≦3℃/時間の速度で室温まで冷却した。
【0038】
本発明を、限られた数の実施の形態について説明してきたが、本開示の利益を有する当業者は、本明細書に記載される本発明の範囲から逸脱しない他の実施の形態も考案できることを理解するであろう。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ、制限されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5〜14重量%のチタニアおよび86〜95重量%のシリカから本質的になるシリカ・チタニアガラスであって、
前記ガラスが600〜2500ppmの範囲のヒドロキシル含有量[OH]を有し、
ΔCTEが20℃〜100℃の範囲の温度にわたって75ppb/°K未満であり、
膨張性δCTE/dTが1.6ppb/°K2未満である、
シリカ・チタニアガラス。
【請求項2】
前記ヒドロキシル含有量[OH]が800〜2000ppmの範囲であることを特徴とする請求項1記載のシリカ・チタニアガラス。
【請求項3】
前記ガラスが、6.5〜9重量%のチタニアおよび91〜93.5重量%のシリカからなることを特徴とする請求項1記載のシリカ・チタニアガラス。
【請求項4】
前記ΔCTEが、20℃〜100℃の温度範囲にわたり65ppb/°Kより低いことを特徴とする請求項1記載のシリカ・チタニアガラス。
【請求項5】
前記ガラスが、1010℃以下の焼きなまし点を有することを特徴とする請求項1記載のシリカ・チタニアガラス。
【請求項6】
前記ガラスが、1000℃以下の焼きなまし点を有することを特徴とする請求項1記載のシリカ・チタニアガラス。
【請求項7】
前記ガラスが、950℃未満の仮想温度TFおよび≧800ppmのOH含有量を有することを特徴とする請求項1記載のシリカ・チタニアガラス。
【請求項8】
前記ガラスが、900℃未満の仮想温度TFおよび≧800ppmのOH含有量を有することを特徴とする請求項1記載のシリカ・チタニアガラス。
【請求項9】
膨張性δCTE/dTが、20℃において1.5ppb/°K2未満であることを特徴とする請求項1記載のシリカ・チタニアガラス。
【請求項10】
膨張性δCTE/dTが1.4ppb/°K2未満であることを特徴とする請求項1記載のシリカ・チタニアガラス。
【請求項11】
600〜2500ppmの範囲のヒドロキシル含有量[OH]を有するシリカ・チタニアガラスの製造方法であって、
シリカ前駆体およびチタニア前駆体をシリカ−チタニア・スートに変換するための、少なくとも1つのバーナーを提供し、
前記少なくとも1つのバーナーにおいて、シリカ−チタニア・スートを形成し、
(a)前記スートを堆積し、単一の工程において実質的に同時に、≧3%の水蒸気分圧を有する雰囲気下でガラスへと固化する工程、および
(b)前記スートを堆積して多孔質のプリフォームを形成し、前記多孔質のプリフォームを、≧3気圧の圧力における純水蒸気の雰囲気下でガラスへと固化する工程
からなる群より選択される1つの工程を行い、
前記固化されたガラスを、1010℃以下の焼きなまし点未満でアニールして、950℃未満の仮想温度TFを有するガラスを形成し、前記ガラスが100℃/時間以下の速度で焼きなまし点まで加熱され、1〜8時間、前記焼きなまし点で保持され、前記焼きなまし点から≧10℃/時間の冷却速度で冷却される、
各工程を有してなる方法。
【請求項12】
前記ガラスが、前記焼きなまし点から、≧5℃/時間の冷却速度で冷却されることを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記ガラスが、前記焼きなまし点から、≧3℃/時間の冷却速度で冷却されることを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項14】
水の分圧が少なくとも4%であることを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項15】
前記シリカ−チタニア・スートが、多孔質のプリフォームとして沈着し、
前記多孔質のプリフォームが、純水蒸気中で固化されて、600〜2500ppmの範囲のOHレベルをもたらすことを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項16】
前記シリカ−チタニア・スートが多孔質のプリフォームとして堆積し、
前記多孔質のプリフォームが3気圧に加圧された水蒸気中で固化されて、600〜2500ppmの範囲のOHレベルをもたらすことを特徴とする請求項10記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−46406(P2012−46406A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−39763(P2011−39763)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【復代理人】
【識別番号】100116540
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 香
【復代理人】
【識別番号】100139723
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 洋
【Fターム(参考)】